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 1<HTML>⏎1 
 2<HEAD>⏎2 
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 6<TITLE>空蝉(大島本)</TITLE>⏎6 
 7</HEAD>⏎7 
cd4:38-11<body background="wallppr063.gif">First updated 09/20/1996(ver.1-1)<BR>⏎
Last updated 
11/23/2010(ver.2-3)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)<BR>⏎
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8-10<BODY>⏎
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ADDRESS>Last updated 11/23/2010(ver.2-3)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)</ADDRESS>⏎
 12  <H3>空 蝉</H3>⏎11 
 13<BR>⏎12 
i013
 14 [主要登場人物]<BR>⏎13 
 15<DL>⏎14 
 16<DT> 光る源氏<ひかるげんじ>⏎15 
 17<DD>呼称---君、十七歳 近衛中将<BR>⏎16 
 18<DT> 空蝉<うつせみ>⏎17 
 19<DD>呼称---いもうとの君・女・姉君、故中納言兼衛門督の娘、伊予介の後妻<BR>⏎18 
 20<DT> 軒端荻<のきばのおぎ>⏎19 
 21<DD>呼称---西の御方・紀伊守の妹・碁打ちつる君・西の君、伊予介の娘、紀伊守と兄妹<BR>⏎20 
 22<DT> 小君<こぎみ>⏎21 
 23<DD>呼称---若君・小さき上人、故中納言兼衛門督の子、空蝉の弟<BR>⏎22 
 24</DL>⏎23 
 25 光る源氏十七歳夏の物語<BR>⏎24 
d126
 27<OL>⏎25 
 28 <LI>空蝉の物語---<A HREF="#in11">寝られたまはぬままに、</A><BR>⏎26 
 29<LI>源氏、再度、紀伊守邸へ---<A HREF="#in12">幼き心地に、いかならむをりと待ちわたるに、</A>⏎27 
 30<LI>空蝉と軒端荻、碁を打つ---<A HREF="#in13">灯近うともしたり。</A>⏎28 
 31<LI>空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る---<A HREF="#in14">女は、さこそ忘れたまふを</A>⏎29 
 32<LI>源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る---<A HREF="#in15">小君、御車の後にて、二条院に</A>⏎30 
 33</OL>⏎31 
 34<A HREF="#in21">【出典】</A><BR>⏎32 
 35<A HREF="#in22">【校訂】</A><BR>⏎33 
d136<P>⏎
text0337 <H4>光る源氏十七歳夏の物語</H4>34 
text0338 <A NAME="in11">[第一段 空蝉の物語]</A><BR>35 
d139<P>⏎
 40 寝られたまはぬままには、「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ、初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。あながちにかかづらひたどり寄らむも、人悪ろかるべく、まめやかにめざましと思し明かしつつ、例のやうにものたまひまつはさず。夜深う出でたまへば、この子は、いといとほしく、さうざうしと思ふ。<BR>⏎36 
d141<P>⏎
 42 女も、並々ならずかたはらいたしと思ふに、<A HREF="#k01">御消息も</A><A NAME="t01">絶</A>えてなし。思し懲りにけると思ふにも、「やがてつれなくて止みたまひなましかば憂からまし。しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし。よきほどに、かくて閉ぢめてむ」と思ふものから、ただならず、ながめがちなり。<BR>⏎37 
d143<P>⏎
 44 君は、心づきなしと思しながら、かくてはえ止むまじう御心にかかり、人悪ろく思ほしわびて、小君に、「いとつらうも、うれたうもおぼゆるに、しひて思ひ返せど、心にしも従はず苦しきを。さりぬべきをり見て、<A HREF="#k02">対面</A><A NAME="t02">す</A>べくたばかれ」とのたまひわたれば、わづらはしけれど、かかる方にても、のたまひまつはすは、うれしうおぼえけり。<BR>⏎38 
d145<P>⏎
text0346 <A NAME="in12">[第二段 源氏、再度、紀伊守邸へ]</A><BR>39 
 47 幼き心地に、いかならむ折と待ちわたるに、紀伊守国に下りなどして、女どちのどやかなる<A HREF="#no1">夕闇の道たどたどしげなる</A><A NAME="te1">紛</A>れに、わが車にて率てたてまつる。<BR>⏎40 
d148<P>⏎
 49 この子も幼きを、いかならむと思せど、さのみもえ思しのどむまじければ、さりげなき姿にて、門など鎖さぬ先にと、急ぎおはす。<BR>⏎41 
d150<P>⏎
 51 人見ぬ方より引き入れて、降ろしたてまつる。童なれば、宿直人などもことに見入れ追従せず、心やすし。<BR>⏎42 
d152<P>⏎
 53 東の妻戸に、立てたてまつりて、我は南の隅の間より、格子叩きののしりて入りぬ。御達、<BR>⏎43 
d154<P>⏎
 55 「あらはなり」と言ふなり。<BR>⏎44 
d156<P>⏎
 57 「なぞ、かう暑きに、この格子は下ろされたる」と問へば、<BR>⏎45 
d158<P>⏎
 59 「昼より、西の御方の渡らせたまひて、碁打たせたまふ」と言ふ。<BR>⏎46 
d160<P>⏎
 61 さて向かひゐたらむを見ばや、と思ひて、やをら歩み出でて、簾のはさまに入りたまひぬ。<BR>⏎47 
d162<P>⏎
 63 この入りつる格子はまだ鎖さねば、隙見ゆるに、寄りて西ざまに見通したまへば、この際に立てたる屏風、端の方おし畳まれたるに、紛るべき几帳なども、暑ければにや、うち掛けて、いとよく見入れらる。<BR>⏎48 
d164<P>⏎
text0365 <A NAME="in13">[第三段 空蝉と軒端荻、碁を打つ]</A><BR>49 
d166<P>⏎
 67 火近う灯したり。母屋の中柱に側める人やわが心かくると、まづ目とどめたまへば、濃き綾の単衣襲なめり。何にかあらむ表に着て、頭つき細やかに小さき人の、ものげなき姿ぞしたる。顔などは、差し向かひたらむ人などにも、わざと見ゆまじうもてなしたり。手つき痩せ痩せにて、いたうひき隠しためり。<BR>⏎50 
d168<P>⏎
 69 いま一人は、東向きにて、残るところなく見ゆ。白き羅の単衣襲、二藍の小袿だつもの、ないがしろに着なして、紅の腰ひき結へる際まで胸あらはに、ばうぞくなるもてなしなり。いと白うをかしげに、つぶつぶと肥えて、そぞろかなる人の、頭つき額つきものあざやかに、まみ口つき、いと愛敬づき、はなやかなる容貌なり。髪はいとふさやかにて、長くはあらねど、下り端、肩のほどきよげに、すべていとねぢけたるところなく、をかしげなる人と見えたり。<BR>⏎51 
 70<P> むべこそ親の世になくは思ふらめと、をかしく見たまふ。心地ぞ、なほ静かなる気を添へばやと、ふと見ゆる。かどなきにはあるまじ。碁打ち果てて、結さすわたり、心とげに見えて、きはぎはとさうどけば、奥の人はいと静かにのどめて、<BR>⏎52 
d171<P>⏎
 72 「待ちたまへや。そこは持にこそあらめ。このわたりの劫をこそ」など言へど、<BR>⏎53 
d173<P>⏎
 74 「いで、このたびは負けにけり。隅のところ、いでいで」と指をかがめて、「十、<A HREF="#k03">二十</A><A NAME="t03">、</A>三十、四十」など<A HREF="#k04">かぞふる</A><A NAME="t04">さ</A>ま、<A HREF="#no2">伊予の湯桁もたどたどしかるまじう</A><A NAME="te2">見</A>ゆ。すこし品おくれたり。<BR>⏎54 
d175<P>⏎
 76 たとしへなく口おほひて、さやかにも見せねど、目をしつけたまへれば、おのづから<A HREF="#k05">側目も</A><A NAME="t05">見</A>ゆ。目すこし腫れたる心地して、鼻などもあざやかなるところなうねびれて、にほはしきところも見えず。言ひ立つれば、悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて、このまされる人よりは心あらむと、目とどめつべきさましたり。<BR>⏎55 
d177<P>⏎
 78 にぎははしう愛敬づきをかしげなるを、いよいよほこりかにうちとけて、笑ひなどそぼるれば、にほひ多く見えて、さる方にいとをかしき人ざまなり。あはつけしとは思しながら、まめならぬ御心は、これもえ思し放つまじかりけり。<BR>⏎56 
d179<P>⏎
 80 見たまふかぎりの人は、うちとけたる世なく、ひきつくろひ側めたるうはべをのみこそ見たまへ、かくうちとけたる人のありさまかいま見などは、まだしたまはざりつることなれば、何心もなうさやかなるはいとほしながら、久しう<A HREF="#k06">見たまは</A><A NAME="t06">ま</A>ほしきに、小君出で来る心地すれば、やをら出でたまひぬ。<BR>⏎57 
d181<P>⏎
 82 渡殿の戸口に寄りゐたまへり。いとかたじけなしと思ひて、<BR>⏎58 
d183<P>⏎
 84 「例ならぬ人はべりて、え近うも寄りはべらず」<BR>⏎59 
d185<P>⏎
 86 「さて、今宵もや帰してむとする。いとあさましう、からうこそあべけれ」とのたまへば、<BR>⏎60 
d187<P>⏎
 88 「などてか。あなたに帰りはべりなば、たばかりはべりなむ」と聞こゆ。<BR>⏎61 
d189<P>⏎
 90 「さもなびかしつべき気色にこそはあらめ。童なれど、ものの心ばへ、人の気色見つべくしづまれるを」と、思すなりけり。<BR>⏎62 
d191<P>⏎
 92 碁打ち果てつるにやあらむ、うちそよめく心地して、人びとあかるるけはひなどすなり。<BR>⏎63 
d193<P>⏎
 94 「若君はいづくにおはしますならむ。この御格子は鎖してむ」とて、鳴らすなり。<BR>⏎64 
d195<P>⏎
 96 「静まりぬなり。入りて、さらば、たばかれ」とのたまふ。<BR>⏎65 
d197<P>⏎
 98 この子も、いもうとの御心はたわむところなくまめだちたれば、言ひあはせむ方なくて、人少なならむ折に入れたてまつらむと思ふなりけり。<BR>⏎66 
d199<P>⏎
 100 「紀伊守の妹もこなたにあるか。我にかいま見せさせよ」とのたまへど、<BR>⏎67 
d1101<P>⏎
 102 「いかでか、さははべらむ。格子には几帳添へてはべり」と聞こゆ。<BR>⏎68 
d1103<P>⏎
 104 さかし、されどもをかしく思せど、「見つとは知らせじ、いとほし」と思して、夜更くることの心もとなさをのたまふ。<BR>⏎69 
d1105<P>⏎
 106 こたみは妻戸を叩きて入る。皆人びと静まり寝にけり。<BR>⏎70 
d1107<P>⏎
 108 「この障子口に、まろは寝たらむ。風吹きとほせ」とて、畳広げて臥す。御達、東の廂にいとあまた寝たるべし。戸放ちつる<A HREF="#k07">童</A><A NAME="t07">も</A>そなたに入りて臥しぬれば、とばかり空寝して、灯明かき方に屏風を広げて、影ほのかなるに、やをら入れたてまつる。<BR>⏎71 
d1109<P>⏎
 110 「いかにぞ、をこがましきこともこそ」と思すに、いとつつましけれど、導くままに、母屋の几帳の帷子引き上げて、いとやをら入りたまふとすれど、皆静まれる夜の、御衣のけはひやはらかなるしも、いとしるかりけり。<BR>⏎72 
d1111<P>⏎
text03112 <A NAME="in14">[第四段 空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る]</A><BR>73 
d1113<P>⏎
 114 女は、さこそ忘れたまふをうれしきに思ひなせど、あやしく夢のやうなることを、心に離るる折なきころにて、心とけたる寝だに寝られずなむ、昼はながめ、夜は寝覚めがちなれば、春ならぬ木の芽も、いとなく嘆かしきに、碁打ちつる君、「今宵は、こなたに」と、今めかしくうち語らひて、寝にけり。<BR>⏎74 
d1115<P>⏎
 116 若き人は、何心なくいとようまどろみたるべし。かかるけはひの、いと香ばしくうち匂ふに、顔をもたげたるに、単衣うち掛けたる几帳の隙間に、暗けれど、うち身じろき寄るけはひ、いとしるし。あさましくおぼえて、ともかくも思ひ分かれず、やをら起き出でて、生絹なる単衣を一つ着て、すべり出でにけり。<BR>⏎75 
d1117<P>⏎
 118 君は入りたまひて、ただひとり臥したるを心やすく思す。床の下に二人ばかりぞ臥したる。衣を押しやりて寄りたまへるに、ありしけはひよりは、ものものしくおぼゆれど、思ほしうも寄らずかし。いぎたなきさまなどぞ、あやしく変はりて、やうやう見あらはしたまひて、あさましく心やましけれど、「人違へとたどりて見えむも、をこがましく、あやしと思ふべし、本意の人を尋ね寄らむも、かばかり逃るる心あめれば、かひなう、をこにこそ思はめ」と思す。かのをかしかりつる灯影ならば、いかがはせむに思しなるも、悪ろき御心浅さなめりかし。<BR>⏎76 
 119<P> やうやう目覚めて、いとおぼえずあさましきに、あきれたる気色にて、何の心深くいとほしき用意もなし。世の中をまだ思ひ知らぬほどよりは、さればみたる方にて、あえかにも思ひまどはず。我とも知らせじと思ほせど、いかにしてかかることぞと、後に思ひめぐらさむも、わがためには事にもあらねど、あのつらき人の、あながちに名をつつむも、さすがにいとほしければ、たびたびの御方違へにことつけたまひしさまを、いとよう言ひなしたまふ。たどらむ人は心得つべけれど、まだいと若き心地に、さこそさし過ぎたるやうなれど、えしも思ひ分かず。<BR>⏎77 
d1120<P>⏎
 121 憎しとはなけれど、御心とまるべきゆゑもなき心地して、なほかのうれたき人の心をいみじく思す。「いづくにはひ紛れて、かたくなしと思ひゐたらむ。かく執念き人はありがたきものを」と思すしも、あやにくに、紛れがたう思ひ出でられたまふ。この人の、なま心なく、若やかなるけはひもあはれなれば、さすがに情け情けしく契りおかせたまふ。<BR>⏎78 
d1122<P>⏎
 123 「人知りたることよりも、かやうなるは、あはれも添ふこととなむ、昔人も言ひける。あひ思ひたまへよ。つつむことなきにしもあらねば、身ながら心にもえまかすまじくなむありける。また、さるべき人びとも許されじかしと、かねて胸いたくなむ。忘れで待ちたまへよ」など、なほなほしく語らひたまふ。<BR>⏎79 
d1124<P>⏎
 125 「人の思ひはべらむことの恥づかしきになむ、え聞こえさすまじき」とうらもなく言ふ。<BR>⏎80 
d1126<P>⏎
 127 「なべて、人に知らせばこそあらめ、この小さき上人に伝へて聞こえむ。気色なくもてなしたまへ」<BR>⏎81 
d1128<P>⏎
 129 など言ひおきて、かの脱ぎすべしたると見ゆる薄衣を取りて出でたまひぬ。<BR>⏎82 
d1130<P>⏎
 131 小君近う臥したるを起こしたまへば、うしろめたう思ひつつ寝ければ、ふとおどろきぬ。戸をやをら押し開くるに、老いたる御達の声にて、<BR>⏎83 
d1132<P>⏎
 133 「あれは誰そ」<BR>⏎84 
d1134<P>⏎
 135 とおどろおどろしく問ふ。わづらはしくて、<BR>⏎85 
d1136<P>⏎
 137 「まろぞ」と答ふ。<BR>⏎86 
d1138<P>⏎
 139 「夜中に、こは、なぞ外歩かせたまふ」<BR>⏎87 
d1140<P>⏎
 141 とさかしがりて、外ざまへ来。いと憎くて、<BR>⏎88 
d1142<P>⏎
 143 「あらず。ここもとへ出づるぞ」<BR>⏎89 
d1144<P>⏎
 145 とて、君を押し出でたてまつるに、暁近き月、隈なくさし出でて、ふと人の影見えければ、<BR>⏎90 
d1146<P>⏎
 147 「またおはするは、誰そ」と問ふ。<BR>⏎91 
d1148<P>⏎
 149 「民部のおもとなめり。けしうはあらぬおもとの丈だちかな」<BR>⏎92 
d1150<P>⏎
 151 と言ふ。丈高き人の常に笑はるるを言ふなりけり。老人、これを連ねて歩きけると思ひて、<BR>⏎93 
d1152<P>⏎
 153 「今、ただ今立ちならびたまひなむ」<BR>⏎94 
d1154<P>⏎
 155 と言ふ言ふ、我もこの戸より出でて来。わびしければ、えはた押し返さで、渡殿の口にかい添ひて隠れ立ちたまへれば、このおもとさし寄りて、<BR>⏎95 
d1156<P>⏎
 157 「おもとは、今宵は、上にやさぶらひたまひつる。一昨日より腹を病みて、いとわりなければ、下にはべりつるを、人少ななりとて召ししかば、昨夜参う上りしかど、なほ<A HREF="#k08">え堪ふ</A><A NAME="t08">ま</A>じくなむ」<BR>⏎96 
d1158<P>⏎
 159 と、憂ふ。答へも聞かで、<BR>⏎97 
d1160<P>⏎
 161 「あな、腹々。今聞こえむ」とて過ぎぬるに、からうして出でたまふ。なほかかる歩きは軽々しくあやしかりけりと、いよいよ思し懲りぬべし。<BR>⏎98 
d1162<P>⏎
text03163 <A NAME="in15">[第五段 源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る]</A><BR>99 
d1164<P>⏎
 165 小君、御車の後にて、二条院におはしましぬ。ありさまのたまひて、「幼かりけり」とあはめたまひて、かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ。いとほしうて、ものもえ聞こえず。<BR>⏎100 
d1166<P>⏎
 167 「いと深う憎みたまふべかめれば、身も憂く思ひ果てぬ。などか、よそにても、なつかしき答へばかりはしたまふまじき。伊予介に劣りける身こそ」<BR>⏎101 
d1168<P>⏎
 169 など、心づきなしと思ひてのたまふ。ありつる小袿を、さすがに、御衣の下に引き入れて、大殿籠もれり。小君を御前に臥せて、よろづに恨み、かつは、語らひたまふ。<BR>⏎102 
d1170<P>⏎
 171 「あこは、らうたけれど、つらきゆかりにこそ、え思ひ果つまじけれ」<BR>⏎103 
d1172<P>⏎
 173 とまめやかにのたまふを、いとわびしと思ひたり。<BR>⏎104 
d1174<P>⏎
 175 しばしうち休みたまへど、寝られたまはず。御硯急ぎ召して、さしはへたる御文にはあらで、畳紙に手習のやうに書きすさびたまふ。<BR>⏎105 
d1176<P>⏎
cd3:1177-179 「空蝉の身をかへてける木のもとに<BR>⏎
  なほ人がらのなつかしきかな」<BR>⏎
<P>⏎
106 「空蝉の身をかへてける木のもとに<BR>  なほ人がらのなつかしきかな」<BR>⏎
 180 と書きたまへるを、懐に引き入れて持たり。かの人もいかに思ふらむと、いとほしけれど、かたがた思ほしかへして、御ことつけもなし。かの薄衣は、小袿のいとなつかしき人香に染めるを、身近くならして見ゐたまへり。<BR>⏎107 
d1181<P>⏎
 182 小君、かしこに行きたれば、姉君待ちつけて、いみじくのたまふ。<BR>⏎108 
d1183<P>⏎
 184 「あさましかりしに、とかう紛らはしても、人の思ひけむことさりどころなきに、いとなむわりなき。いとかう心幼きを、かつはいかに思ほすらむ」<BR>⏎109 
d1185<P>⏎
 186 とて、恥づかしめたまふ。左右に苦しう思へど、かの御手習取り出でたり。さすがに、取りて見たまふ。かのもぬけを、いかに、<A HREF="#no3">伊勢をの海人のしほなれてや</A><A NAME="te3">、</A>など思ふもただならず、いとよろづに乱れて。<BR>⏎110 
d1187<P>⏎
 188 西の君も、もの恥づかしき心地してわたりたまひにけり。また知る人もなきことなれば、人知れずうちながめてゐたり。小君の渡り歩くにつけても、胸のみ塞がれど、御消息もなし。あさましと思ひ得る方もなくて、されたる心に、ものあはれなるべし。<BR>⏎111 
d1189<P>⏎
 190 つれなき人も、さこそしづむれ、いとあさはかにもあらぬ御気色を、ありしながらのわが身ならばと、<A HREF="#no4">取り返すものならねど</A><A NAME="te4">、</A>忍びがたければ、この御畳紙の片つ方に、<BR>⏎112 
d1191<P>⏎
cd4:1192-195 「空蝉の羽に置く露の木隠れて<BR>⏎
  忍び忍びに濡るる袖かな」<BR>⏎

<P>⏎
113 「空蝉の羽に置く露の木隠れて<BR>  忍び忍びに濡るる袖かな」<BR>⏎
text03196 <a name="in21">【出典】<BR>114 
c1197</a><A NAME="no1">出典1</A> 夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子そのまにも見む(古今六帖一-三七一 大宅娘女)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
115<A NAME="no1">出典1</A> 夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子そのまにも見む(古今六帖一-三七一 大宅娘女)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
 198<A NAME="no2">出典2</A> 伊予の湯の 湯桁はいくつ いさ知らず や 算へず よまず やれ そよや なよや 君ぞ知るらうや(風俗歌-伊予湯)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR>⏎116 
 199<A NAME="no3">出典3</A> 鈴鹿山伊勢をの海人の捨て衣しほなれたりと人や見るらむ(後撰集恋三-七一八 藤原伊尹)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR>⏎117 
 200<A NAME="no4">出典4</A> 取り返すものにもがなや世の中をありしながらのわが身と思はむ(出典未詳)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR>⏎118 
d1201
text03202<p> <a name="in22">【校訂】<BR>119 
 203備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文--* 朱筆--<朱><BR>⏎120 
c1204</a><A NAME="k01">校訂1</A> 御消息も--御消息(息/+も)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
121<A NAME="k01">校訂1</A> 御消息も--御消息(息/+も)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
 205<A NAME="k02">校訂2</A> 対面--た(た/+い)めむ<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎122 
 206<A NAME="k03">校訂3</A> 二十--はたち(ち/$<朱>)<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎123 
 207<A NAME="k04">校訂4</A> かぞふる--*かさふる<A HREF="#t04">(戻)</A><BR>⏎124 
 208<A NAME="k05">校訂5</A> 側目も--そはめも(も/=にイ<朱>)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR>⏎125 
 209<A NAME="k06">校訂6</A> 見たまは--みたまふ(ふ/$は)<A HREF="#t06">(戻)</A><BR>⏎126 
 210<A NAME="k07">校訂7</A> 童--わら(ら/+は)へ<A HREF="#t07">(戻)</A><BR>⏎127 
 211<A NAME="k08">校訂8</A> え堪ふ--え(え/+た)ふ<A HREF="#t08">(戻)</A><BR>⏎128 
d1212</p>⏎
 213<p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR>⏎129 
 214<a href="roman03.html">ローマ字版 </a><BR>⏎130 
 215<a href="version03.html">現代語訳 </a><BR>⏎131 
 216<a href="note03.html">注釈</a><BR>⏎132 
 217<a href="data03.html">大島本</a><BR>⏎133 
 218<a href="okuiri03.html">自筆本奥入</a><BR>⏎134 
d1219</p>⏎
 220<hr size="4">⏎135 
 221</body>⏎136 
 222</HTML>⏎137 
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