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|---|---|---|---|---|
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version01 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-4-1)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version01 | 40 | <H4>第一章 光る源氏前史の物語</H4> | 37 | |
| version01 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 父帝と母桐壺更衣の物語]</A><BR> | 38 | |
| d1 | 42 | <P>⏎ | ||
| d1 | 44 | <P>⏎ | ||
| c4 | 45-48 | 最初から自分こそはと気位い高くいらっしゃった女御方は、不愉快な者だと見くだしたり嫉んだりなさる。同じ程度の更衣や、その方より下の更衣たちは、いっそう心穏やかでない。朝晩のお側仕えにつけても、他の妃方の気持ちを不愉快ばかりにさせ、嫉妬を受けることが積もり積もったせいであろうか、とても病気がちになってゆき、何となく心細げに里に下がっていることが多いのを、ますますこの上なく不憫な方とおぼし召されて、誰の非難に対してもおさし控えあそばすことがおできになれず、後世の語り草にもなってしまいそうなお扱いぶりである。<BR>⏎ <P>⏎ 上達部や殿上人なども、人ごとながら目をそらしそらしして、「とても眩しいほどの御寵愛である。唐国でも、このようなことが原因となって、国も乱れ、悪くなったのだ」と、しだいに国中でも困ったことの、人々のもてあましの種となって、楊貴妃の例までも引き合いに出されそうになってゆくので、たいそういたたまれないことが数多くなっていくが、もったいない御愛情の類のないのを頼みとして、宮仕え生活をしていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 40-43 | 最初から自分こそはと気位い高くいらっしゃった女御方は、不愉快な者だと見くだしたり嫉んだりなさる。同じ程度の更衣や、その方より下の更衣たちは、いっそう心穏やかでない。<BR>⏎ 朝晩のお側仕えにつけても、他の妃方の気持ちを不愉快ばかりにさせ、嫉妬を受けることが積もり積もったせいであろうか、とても病気がちになってゆき、何となく心細げに里に下がっていることが多いのを、ますますこの上なく不憫な方とおぼし召されて、誰の非難に対してもおさし控えあそばすことがおできになれず、後世の語り草にもなってしまいそうなお扱いぶりである。<BR>⏎ 上達部や 殿上人なども、人ごとながら目をそらしそらしして、「とても眩しいほどの御寵愛である。<BR>⏎ 唐国でも、このようなことが原因となって、国も乱れ、悪くなったのだ」と、しだいに国中でも困ったことの、人々のもてあましの種となって、楊貴妃の例までも引き合いに出されそうになってゆくので、たいそういたたまれないことが数多くなっていくが、もったいない御愛情の類のないのを頼みとして宮仕え生活をしていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 50 | <P>⏎ | ||
| version01 | 51 | <A NAME="in12">[第二段 御子誕生(一歳)]</A><BR> | 45 | |
| d1 | 52 | <P>⏎ | ||
| d1 | 54 | <P>⏎ | ||
| d1 | 56 | <P>⏎ | ||
| c4 | 57-60 | 最初から女房並みの帝のお側用をお勤めなさらねばならない身分ではなかった。評判もとても高く、上流人の風格があったが、むやみにお側近くにお召しあそばされ過ぎて、しかるべき管弦の御遊の折々や、どのような催事でも雅趣ある催しがあるたびごとに、まっさきに参上させなさる。ある時にはお寝過ごしなされて、そのまま伺候させておきなさるなど、むやみに御前から離さずに御待遇あそばされたうちに、自然と身分の低い女房のようにも見えたが、この御子がお生まれになって後は、たいそう格別にお考えおきあそばされるようになっていたので、「東宮坊にも、ひょっとすると、この御子がおなりになるかもしれない」と、第一皇子の母女御はお疑いになっていた。誰よりも先に御入内なされて、大切にお考えあそばされることは一通りでなく、皇女たちなども生まれていらっしゃるので、この御方の御諌めだけは、さすがにやはりうるさいことだが無視できないことだと、お思い申し上げあそばされるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ もったいない御庇護をお頼り申してはいるものの、軽蔑したり落度を探したりなさる方々は多く、ご自身はか弱く何となく頼りない状態で、なまじ御寵愛を得たばっかりにしなくてもよい物思いをなさる。お局は桐壺である。おおぜいのお妃方の前をお素通りあそばされて、そのひっきりなしのお素通りあそばしに、お妃方がお気をもめ尽くしになるのも、なるほどごもっともであると見えた。参上なさるにつけても、あまり度重なる時々には、打橋や、渡殿のあちこちの通路に、けしからぬことをたびたびして、送り迎えの女房の着物の裾が、がまんできないような、とんでもないことがある。またある時には、どうしても通らなければならない馬道の戸を鎖して閉じ籠め、こちら側とあちら側とで示し合わせて、進むも退くもならないように困らせなさることも多かった。何かにつけて数知れないほど辛いことばかりが増えていくので、たいそうひどく思い悩んでいるのを、ますますお気の毒におぼし召されて、後凉殿に以前から伺候していらっしゃった更衣の部屋を他に移させなさって、上局として御下賜あそばす。その方の恨みはなおいっそうに晴らしようがない。<BR>⏎ <P>⏎ | 48-51 | 最初から女房並みの帝のお側用をお勤めなさらねばならない身分ではなかった。評判もとても高く、上流人の風格があったが、むやみにお側近くにお召しあそばされ過ぎて、しかるべき管弦の御遊の折々や、どのような催事でも雅趣ある催しがあるたびごとに、まっさきに参上させなさる。ある時にはお寝過ごしなされて、そのまま伺候させておきなさるなど、むやみに御前から離さずに御待遇あそばされたうちに、自然と身分の低い女房のようにも見えたが、この御子がお生まれになって後は、たいそう格別にお考えおきあそばされるようになっていたので、「東宮坊にも、ひょっとすると、この御子がおなりになるかもしれない」と、第一皇子の母女御はお疑いになっていた。誰よりも先に御入内なされて、大切にお考えあそばされることは一通りでなく、皇女たちなども生まれていらっしゃるので、この御方の御諌めだけは、さすがにやはりうるさいことだが無視できないことだとお思い申し上げあそばされるのであった。<BR>⏎ もったいない御庇護をお頼り申してはいるものの、軽蔑したり落度を探したりなさる方々は多く、ご自身はか弱く何となく頼りない状態で、なまじ御寵愛を得たばっかりにしなくてもよい物思いをなさる。<BR>⏎ お局は桐壺である。おおぜいのお妃方の前をお素通りあそばされて、そのひっきりなしのお素通りあそばしに、お妃方がお気をもめ尽くしになるのも、なるほどごもっともであると見えた。参上なさるにつけても、あまり度重なる時々には、打橋や、渡殿のあちこちの通路に、けしからぬことをたびたびして、送り迎えの女房の着物の裾が、がまんできないような、とんでもないことがある。またある時には、どうしても通らなければならない馬道の戸を鎖して閉じ籠め、こちら側とあちら側とで示し合わせて、進むも退くもならないように困らせなさることも多かった。<BR>⏎ 何かにつけて数知れないほど辛いことばかりが増えていくので、たいそうひどく思い悩んでいるのを、ますますお気の毒におぼし召されて、後凉殿に以前から伺候していらっしゃった更衣の部屋を他に移させなさって、上局として御下賜あそばす。その方の恨みはなおいっそうに晴らしようがない。<BR>⏎ |
| version01 | 61 | <A NAME="in13">[第三段 若宮の御袴着(三歳)]</A><BR> | 52 | |
| d1 | 62 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 63-64 | この御子が三歳におなりの年に、御袴着の儀式を一宮がお召しになったのに劣らず、内蔵寮や納殿の御物をふんだんに使って、大変に盛大におさせあそばす。そのことにつけても、世人の非難ばかりが多かったが、この御子が成長なさって行かれるお顔だちやご性質が世間に類なく素晴らしいまでにお見えになるので、お憎みきれになれない。ものごとの情理がお分かりになる方は、「このような方もこの末世にお生まれになるものであったよ」と、驚きあきれる思いで目を見張っていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 53 | この御子が三歳におなりの年に、御袴着の儀式を一宮がお召しになったのに劣らず、内蔵寮や 納殿の御物をふんだんに使って、大変に盛大におさせあそばす。そのことにつけても、世人の非難ばかりが多かったが、この御子が成長なさって行かれるお顔だちやご性質が世間に類なく素晴らしいまでにお見えになるので、お憎みきれになれない。ものごとの情理がお分かりになる方は、「このような方もこの末世にお生まれになるものであったよ」と、驚きあきれる思いで目を見張っていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version01 | 65 | <A NAME="in14">[第四段 母御息所の死去]</A><BR> | 54 | |
| d1 | 66 | <P>⏎ | ||
| ci2:3 | 67-68 | その年の夏、御息所が、頼りない感じに落ち入って、退出しようとなさるのを、お暇を少しもお許しあそばさない。ここ数年来、いつもの病状になっていらっしゃるので、お見慣れになって、「このまましばらく様子を見よ」とばかり仰せられるているうちに、日々に重くおなりになって、わずか五、六日のうちにひどく衰弱したので、母君が涙ながらに奏上して、退出させ申し上げなさる。このような時にも、あってはならない失態を演じてはならないと配慮して、御子はお残し申して、人目につかないようにして退出なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 55-57 | その年の夏、御息所が、頼りない感じに落ち入って、退出しようとなさるのを、お暇を少しもお許しあそばさない。<BR>⏎ ここ数年来、いつもの病状になっていらっしゃるので、お見慣れになって、「このまましばらく様子を見よ」とばかり仰せられるているうちに、日々に重くおなりになって、わずか五,六日のうちにひどく衰弱したので、母君が涙ながらに奏上して、退出させ申し上げなさる。<BR>⏎ このような時にも、あってはならない失態を演じてはならないと配慮して、御子はお残し申して、人目につかないようにして退出なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 70 | <P>⏎ | ||
| d1 | 72 | <P>⏎ | ||
| d1 | 74 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 75-76 | 「人の命には限りがあるものと、今、別れ路に立ち、悲しい気持ちでいますが、<BR>⏎ わたしが行きたいと思う路は、生きている世界への路でございます。<BR>⏎ | 61 | 「人の命には限りがあるものと、今、別れ路に立ち、悲しい気持ちでいますが、<BR> わたしが行きたいと思う路は、生きている世界への路でございます。<BR>⏎ |
| d1 | 78 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 79-80 | と、息も絶えだえに、申し上げたそうなことはありそうな様子であるが、たいそう苦しげに気力もなさそうなので、このままの状態で、最期となってしまうようなこともお見届けしたいと、お考えあそばされるが、「今日始める予定の祈祷などを、しかるべき僧たちの承っておりますのが、今宵から始めます」と言って、おせき立て申し上げるので、やむを得なくお思いあそばしながら退出させなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 63 | と,息も絶えだえに、申し上げたそうなことはありそうな様子であるが、たいそう苦しげに気力もなさそうなので、このままの状態で、最期となってしまうようなこともお見届けしたいと,お考えあそばされるが、「今日始める予定の祈祷などを、しかるべき僧たちの承っておりますのが、今宵から始めます」と言って、おせき立て申し上げるので、やむを得なくお思いあそばしながら退出させなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 82 | <P>⏎ | ||
| d1 | 84 | <P>⏎ | ||
| version01 | 85 | <A NAME="in15">[第五段 故御息所の葬送]</A><BR> | 66 | |
| d1 | 86 | <P>⏎ | ||
| d1 | 88 | <P>⏎ | ||
| d1 | 90 | <P>⏎ | ||
| version01 | 91 | <H4>第二章 父帝悲秋の物語</H4> | 69 | |
| version01 | 92 | <A NAME="in21">[第一段 父帝悲しみの日々]</A><BR> | 70 | |
| d1 | 93 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 94-95 | いつのまにか日数は過ぎて、後の法要などの折にも情愛こまやかにお見舞いをお遣わしあそばす。時が過ぎて行くにしたがって、どうしようもなく悲しく思われなさるので、女御更衣がたの夜の御伺候などもすっかりお命じにならず、ただ涙に濡れて日をお送りあそばされているので、拝し上げる人までが露っぽくなる秋である。「亡くなった後まで、人の心を晴ればれさせなかった御寵愛の方だこと」と、弘徽殿女御などにおかれては今もなお容赦なくおっしゃるのであった。一の宮を拝し上げあそばされるにつけても、若宮の恋しさだけがお思い出されお思い出されして、親しく仕える女房や御乳母などをたびたびお遣わしになっては、ご様子をお尋ねあそばされる。<BR>⏎ <P>⏎ | 71 | いつのまにか日数は過ぎて、後の法要などの折にも情愛こまやかにお見舞いをお遣わしあそばす。時が過ぎて行くにしたがって、どうしようもなく悲しく思われなさるので、女御更衣がたの夜の御伺候などもすっかりお命じにならず、ただ涙に濡れて日をお送りあそばされているので、拝し上げる人までが露っぽくなる秋である。「亡くなった後まで、人の心を晴ればれさせなかった御寵愛の方だこと」と、弘徽殿女御などにおかれては今もなお容赦なくおっしゃるのであった。一の宮を拝し上げあそばされるにつけても、若宮の恋しさだけがお思い出されお思い出されして、親しく仕える女房や 御乳母などをたびたびお遣わしになっては、ご様子をお尋ねあそばされる。<BR>⏎ |
| version01 | 96 | <A NAME="in22">[第二段 靫負命婦の弔問]</A><BR> | 72 | |
| d1 | 97 | <P>⏎ | ||
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| d1 | 101 | <P>⏎ | ||
| d1 | 103 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 104-105 | と言って、ほんとうに身を持ちこらえられないくらいにお泣きになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 76 | と言って,ほんとうに身を持ちこらえられないくらいにお泣きになる。<BR>⏎ |
| d1 | 107 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 108-109 | と言って、少し気持ちを落ち着かせてから、仰せ言をお伝え申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 78 | と言って,少し気持ちを落ち着かせてから、仰せ言をお伝え申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 111 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 112-113 | と言って、お手紙を差し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 80 | と言って,お手紙を差し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 115 | <P>⏎ | ||
| d1 | 117 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 118-122 | などと、心こまやかにお書きあそばされていた。<BR>⏎ <P>⏎ 「宮中の萩に野分が吹いて露を結ばせたり散らそうとする風の音を聞くにつけ、<BR>⏎ 幼子の身が思いやられる」<BR>⏎ <P>⏎ | 83-84 | などと,心こまやかにお書きあそばされていた。<BR>⏎ 「宮中の萩に野分が吹いて露を結ばせたり散らそうとする風の音を聞くにつけ、<BR> 幼子の身が思いやられる」<BR>⏎ |
| d1 | 124 | <P>⏎ | ||
| c2 | 125-126 | 「長生きが、とても辛いことだと存じられますうえに、高砂の松がどう思うかさえも、恥ずかしう存じられますので、内裏にお出入りいたしますことは、さらにとても遠慮いたしたい気持ちでいっぱいです。畏れ多い仰せ言をたびたび承りながらも、わたし自身はとても思い立つことができません。若宮は、どのようにお考えなさっているのか、参内なさることばかりお急ぎになるようなので、ごもっともだと悲しく拝見しておりますなどと、ひそかに存じております由をご奏上なさってください。不吉な身でございますので、こうして若宮がおいでになるのも、忌まわしくもあり畏れ多いことでございます」<BR>⏎ <P>⏎ | 86-87 | 「長生きが、とても辛いことだと存じられますうえに、高砂の松がどう思うかさえも、恥ずかしう存じられますので、内裏にお出入りいたしますことは、さらにとても遠慮いたしたい気持ちでいっぱいです。畏れ多い仰せ言をたびたび承りながらも、わたし自身はとても思い立つことができません。<BR>⏎ 若宮は、どのようにお考えなさっているのか、参内なさることばかりお急ぎになるようなので、ごもっともだと悲しく拝見しておりますなどと、ひそかに存じております由をご奏上なさってください。不吉な身でございますので、こうして若宮がおいでになるのも、忌まわしくもあり畏れ多いことでございます」<BR>⏎ |
| d1 | 128 | <P>⏎ | ||
| d1 | 130 | <P>⏎ | ||
| d1 | 132 | <P>⏎ | ||
| d1 | 134 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 135-136 | と、最後まで言えないで涙に咽んでいらっしゃるうちに、夜も更けてしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 92 | と,最後まで言えないで涙に咽んでいらっしゃるうちに、夜も更けてしまった。<BR>⏎ |
| d1 | 138 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 139-143 | 月は入り方で、空が清く澄みわたっているうえに、風がとても涼しくなって、草むらの虫の声ごえが、涙を誘わせるようなのも、まことに立ち去りがたい庭の風情である。<BR>⏎ <P>⏎ 「鈴虫が声をせいいっぱい鳴き振るわせても<BR>⏎ 長い秋の夜を尽きることなく流れる涙でございますこと」<BR>⏎ <P>⏎ | 94-95 | 月は入り方で、空が清く澄みわたっているうえに、風がとても涼しくなって、草むらの虫の声ごえが涙を誘わせるようなのも、まことに立ち去りがたい庭の風情である。<BR>⏎ 「鈴虫が声をせいいっぱい鳴き振るわせても<BR> 長い秋の夜を尽きることなく流れる涙でございますこと」<BR>⏎ |
| d1 | 145 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 146-147 | 「ただでさえ虫の音のように泣き暮らしておりました荒れ宿に<BR>⏎ さらに涙をもたらします内裏からのお使い人よ<BR>⏎ | 97 | 「ただでさえ虫の音のように泣き暮らしておりました荒れ宿に<BR> さらに涙をもたらします内裏からのお使い人よ<BR>⏎ |
| d1 | 149 | <P>⏎ | ||
| d1 | 151 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 152-153 | 若い女房たちは、悲しいことは言うまでもない、内裏の生活を朝な夕なと馴れ親しんでいるので、たいそう物足りなく、主上のご様子などをお思い出し申し上げると、早く参内なさるようにとお勧め申し上げるが、「このように忌まわしい身が付き随って参内申すようなのも、まことに世間の聞こえが悪いであろうし、また、しばしも拝さずにいることも気がかりに」お思い申し上げなさって、気分よくさっぱりとは参内させなさることがおできになれないのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 100 | 若い女房たちは、悲しいことは言うまでもない、内裏の生活を朝な夕なと馴れ親しんでいるので、たいそう物足りなく、主上のご様子などをお思い出し申し上げると、早く参内なさるようにとお勧め申し上げるが、「このように忌まわしい身が付き随って参内申すようなのも、まことに世間の聞こえが悪いであろうし、また,しばしも拝さずにいることも、気がかりに」お思い申し上げなさって、気分よくさっぱりとは参内させなさることがおできになれないのであった。<BR>⏎ |
| version01 | 154 | <A NAME="in23">[第三段 命婦帰参]</A><BR> | 101 | |
| d1 | 155 | <P>⏎ | ||
| c2 | 156-157 | 命婦は、「まだお寝みあそばされなかったのだわ」と、しみじみと拝し上げる。御前にある壺前栽がたいそう美しい盛りに咲いているのを御覧あそばされるようにして、しめやかにおくゆかしい女房ばかり四、五人を伺候させなさって、お話をさせておいであそばすのであった。最近、毎日御覧なさる「長恨歌」の御絵、それは亭子院がお描きあそばされて、伊勢や貫之に和歌を詠ませなさったものだが、わが国の和歌や唐土の漢詩などをも、ひたすらその方面の事柄を、日常の話題にあそばされている。たいそう詳しく里の様子をお尋ねあそばす。しみじみとした趣きをひそかに奏上する。お返事を御覧になると、<BR>⏎ <P>⏎ | 102-103 | 命婦は、「まだお寝みあそばされなかったのだわ」と、しみじみと拝し上げる。御前にある壺前栽がたいそう美しい盛りに咲いているのを御覧あそばされるようにして、しめやかにおくゆかしい女房ばかり四,五人を伺候させなさって、お話をさせておいであそばすのであった。<BR>⏎ 最近、毎日御覧なさる「長恨歌」の御絵、それは亭子院がお描きあそばされて、伊勢や 貫之に和歌を詠ませなさったものだが、わが国の和歌や 唐土の漢詩などをも、ひたすらその方面の事柄を、日常の話題にあそばされている。たいそう詳しく里の様子をお尋ねあそばす。しみじみとした趣きをひそかに奏上する。お返事を御覧になると、<BR>⏎ |
| d1 | 159 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 160-162 | 荒い風を防いでいた木が枯れてからは<BR>⏎ 小萩の身の上が気がかりでなりません」<BR>⏎ <P>⏎ | 105 | 荒い風を防いでいた木が枯れてからは<BR> 小萩の身の上が気がかりでなりません」<BR>⏎ |
| d1 | 164 | <P>⏎ | ||
| d1 | 166 | <P>⏎ | ||
| cd16:9 | 167-182 | などと仰せになる。あの贈物を帝のお目に入れる。「亡くなった人の住処を探し当てたという証拠の釵であったならば」とお思いあそばしても、まったく甲斐がない。<BR>⏎ <P>⏎ 「亡き更衣を探し行ける幻術士がいてくれればよいのだがな、人づてにでも<BR>⏎ 魂のありかをどこそこと知ることができるように」<BR>⏎ <P>⏎ 絵に描いてある楊貴妃の容貌は、上手な絵師と言っても、筆力には限界があったのでまったく生気が少ない。「大液の芙蓉、未央の柳」の句にも、なるほど似ていた容貌だが、唐風の装いをした姿は端麗ではあったろうが、慕わしさがあって愛らしかったのをお思い出しになると、花や鳥の色や音にも喩えようがない。朝夕の口癖に「比翼の鳥となり、連理の枝となろう」とお約束あそばしていたのに、思うようにならなかった人の運命が、永遠に尽きることなく恨めしかった。<BR>⏎ <P>⏎ 風の音や、虫の音を聞くにつけて、何とはなく一途に悲しく思われなさるが、弘徽殿女御におかれては、久しく上の御局にもお上がりにならず、月が美しいので、夜が更けるまで管弦の遊びをなさっているようである。実に興ざめで、不愉快だ、とお聞きあそばす。最近のご様子を拝する殿上人や女房などは、はらはらする思いで聞いていた。たいへんに気が強くてとげとげしい性質をお持ちの方なので、何ともお思いなさらず無視して振る舞っていらっしゃるのであろう。月も沈んでしまった。<BR>⏎ <P>⏎ 「雲の上の宮中までも涙に曇って見える秋の月だ<BR>⏎ ましてやどうして澄んで見えようか、草深い里で」<BR>⏎ <P>⏎ お思いやりになりながら、灯芯をかき立てて油の尽きるまで起きておいであそばす。右近衛府の官人の宿直申しの声が聞こえるのは、丑の刻になったのであろう。人目をお考えになって、夜の御殿にお入りあそばしても、うとうととまどろみあそばすことも難しい。朝になってお起きあそばそうとしても、「夜の明けるのも分からないで」とお思い出しになられるにつけても、やはり政治をお執りになることは怠りがちになってしまいそうである。<BR>⏎ <P>⏎ お食物などもお召し上がりにならず、朝餉には形だけお箸をおつけになって、大床子の御膳などは、まったくお心に入らぬかのように手をおつけあそばさないので、お給仕の人たちは皆、おいたわしいご様子を拝して嘆く。総じて、お側近くお仕えする人たちは、男も女も、「たいそう困ったことですね」とお互いに言い合っては溜息をつく。「こうなるはずの前世からの宿縁がおありあそばしたのでしょう。大勢の人びとの非難や嫉妬をもお憚りあそばさず、あの方の事に関しては、御分別をお失いあそばされ、今は今で、このように政治をお執りになることも、お捨てになったようになって行くのは、たいへんに困ったことである」と、唐土の朝廷の例まで引き合いに出して、ひそひそと嘆息するのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 108-116 | などと仰せになる。あの贈物を帝のお目に入れる。「亡くなった人の住処を探し当てたという証拠の釵であったならば」とお思いあそばしても まったく甲斐がない。<BR>⏎ 「亡き更衣を探し行ける幻術士がいてくれればよいのだがな、人づてにでも<BR> 魂のありかをどこそこと知ることができるように」<BR>⏎ 絵に描いてある楊貴妃の容貌は、上手な絵師と言っても、筆力には限界があったのでまったく生気が少ない。「大液の芙蓉,未央の柳」の句にも、なるほど似ていた容貌だが、唐風の装いをした姿は端麗ではあったろうが、慕わしさがあって愛らしかったのをお思い出しになると、花や鳥の色や音にも喩えようがない。<BR>⏎ 朝夕の口癖に、「比翼の鳥となり、連理の枝となろう」とお約束あそばしていたのに、思うようにならなかった人の運命が、永遠に尽きることなく恨めしかった。<BR>⏎ 風の音や、虫の音を聞くにつけて、何とはなく一途に悲しく思われなさるが、弘徽殿女御におかれては、久しく上の御局にもお上がりにならず、月が美しいので、夜が更けるまで管弦の遊びをなさっているようである。実に興ざめで、不愉快だとお聞きあそばす。最近のご様子を拝する殿上人や 女房などは、はらはらする思いで聞いていた。たいへんに気が強くてとげとげしい性質をお持ちの方なので、何ともお思いなさらず無視して振る舞っていらっしゃるのであろう。月も沈んでしまった。<BR>⏎ 「雲の上の宮中までも涙に曇って見える秋の月だ<BR> ましてやどうして澄んで見えようか、草深い里で」<BR>⏎ お思いやりになりながら、灯芯をかき立てて油の尽きるまで起きておいであそばす。右近衛府の官人の宿直申しの声が聞こえるのは、丑の刻になったのであろう。人目をお考えになって、夜の御殿にお入りあそばしても、うとうととまどろみあそばすことも難しい。<BR>⏎ 朝になってお起きあそばそうとしても、「夜の明けるのも分からないで」とお思い出しになられるにつけても、やはり政治をお執りになることは怠りがちになってしまいそうである。<BR>⏎ お食物などもお召し上がりにならず、朝餉には形だけお箸をおつけになって、大床子の御膳などは、まったくお心に入らぬかのように手をおつけあそばさないので、お給仕の人たちは皆、おいたわしいご様子を拝して嘆く。総じて,お側近くお仕えする人たちは、男も女も、「たいそう困ったことですね」とお互いに言い合っては溜息をつく。「こうなるはずの前世からの宿縁がおありあそばしたのでしょう。大勢の人びとの非難や 嫉妬をもお憚りあそばさず、あの方の事に関しては、御分別をお失いあそばされ、今は今で、このように政治をお執りになることも、お捨てになったようになって行くのは、たいへんに困ったことである」と、唐土の朝廷の例まで引き合いに出して、ひそひそと嘆息するのであった。<BR>⏎ |
| version01 | 183 | <H4>第三章 光る源氏の物語</H4> | 117 | |
| version01 | 184 | <A NAME="in31">[第一段 若宮参内(四歳)]</A><BR> | 118 | |
| d1 | 185 | <P>⏎ | ||
| d1 | 187 | <P>⏎ | ||
| d1 | 189 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 190-191 | あの祖母北の方は、悲しみを晴らすすべもなく沈んでいらっしゃって、せめて死んだ娘のいらっしゃる所にでも尋ねて行きたいと願っていらっしゃった現れか、とうとうお亡くなりになってしまったので、またこのことを悲しく思し召されること、この上もない。御子は六歳におなりのお年なので、今度はお分かりになって、恋い慕ってお泣きになる。長年お親しみ申し上げなさってきたのに、後に残して先立つ悲しみを、繰り返し繰り返しおっしゃっていたのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 121 | あの祖母北の方は、悲しみを晴らすすべもなく沈んでいらっしゃって、せめて死んだ娘のいらっしゃる所にでも尋ねて行きたいと願っていらっしゃった現れか、とうとうお亡くなりになってしまったので、またこのことを悲しく思し召されることこの上もない。御子は六歳におなりのお年なので、今度はお分かりになって恋い慕ってお泣きになる。長年お親しみ申し上げなさってきたのに、後に残して先立つ悲しみを、繰り返し繰り返しおっしゃっていたのであった。<BR>⏎ |
| version01 | 192 | <A NAME="in32">[第二段 読書始め(七歳)]</A><BR> | 122 | |
| d1 | 193 | <P>⏎ | ||
| d1 | 195 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 196-197 | 「今はどなたもどなたもお憎みなされまい。母君がいないということだけでもおかわいがりください」と仰せになって、弘徽殿などにもお渡りあそばすお供としては、そのまま御簾の内側にお入れ申し上げなさる。恐ろしい武士や仇敵であっても、見るとつい微笑まずにはいられない様子でいらっしゃるので、放っておくこともおできになれない。姫皇女たちがお二方、この御方にはいらっしゃったが、お並びになりようもないのであった。他の女御がたもお隠れにならずに、今から優美で立派でいらっしゃるので、たいそう趣きがある一方で気のおける遊び相手だと、どなたもどなたもお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 124 | 「今はどなたもどなたもお憎みなされまい。母君がいないということだけでもおかわいがりください」と仰せになって、弘徽殿などにもお渡りあそばすお供としては、そのまま御簾の内側にお入れ申し上げなさる。恐ろしい武士や 仇敵であっても、見るとつい微笑まずにはいられない様子でいらっしゃるので、放っておくこともおできになれない。姫皇女たちがお二方、この御方にはいらっしゃったが、お並びになりようもないのであった。他の女御がたもお隠れにならずに、今から優美で立派でいらっしゃるので、たいそう趣きがある一方で気のおける遊び相手だと、どなたもどなたもお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 199 | <P>⏎ | ||
| version01 | 200 | <A NAME="in33">[第三段 高麗人の観相、源姓賜わる]</A><BR> | 126 | |
| d1 | 201 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 202-203 | その当時、高麗人が来朝していた中に、優れた人相見がいたのをお聞きあそばして、内裏の内に召し入れることは宇多帝の御遺誡があるので、たいそう人目を忍んで、この御子を鴻臚館にお遣わしになった。後見役のようにしてお仕えする右大弁の子供のように思わせてお連れ申し上げると、人相見は目を見張って、何度も首を傾け不思議がる。<BR>⏎ <P>⏎ | 127 | その当時、高麗人が来朝していた中に、優れた人相見がいたのをお聞きあそばして、内裏の内に召し入れることは 宇多帝の御遺誡があるので、たいそう人目を忍んで、この御子を鴻臚館にお遣わしになった。後見役のようにしてお仕えする右大弁の子供のように思わせてお連れ申し上げると、人相見は目を見張って、何度も首を傾け不思議がる。<BR>⏎ |
| d1 | 205 | <P>⏎ | ||
| d1 | 207 | <P>⏎ | ||
| d1 | 209 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 210-211 | 帝は、畏れ多い考えから、倭相をお命じになって、既にお考えになっていたところなので、今までこの若君を親王にもなさらなかったが、「相人はほんとうに優れていた」とお思いになって、「無品の親王で外戚の後見のない状態で彷徨わすまい。わが御代もいつまで続くか分からないものだから、臣下として朝廷のご補佐役をするのが、将来も頼もしそうに思われることだ」とお決めになって、ますます諸道の学問を習わせなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 131 | 帝は,畏れ多い考えから、倭相をお命じになって、既にお考えになっていたところなので、今までこの若君を親王にもなさらなかったが、「相人はほんとうに優れていた」とお思いになって、「無品の親王で外戚の後見のない状態で彷徨わすまい。わが御代もいつまで続くか分からないものだから、臣下として朝廷のご補佐役をするのが、将来も頼もしそうに思われることだ」とお決めになって、ますます諸道の学問を習わせなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 213 | <P>⏎ | ||
| version01 | 214 | <A NAME="in34">[第四段 先帝の四宮(藤壺)入内]</A><BR> | 133 | |
| d1 | 215 | <P>⏎ | ||
| c2 | 216-217 | 年月がたつにつれて、御息所のことをお忘れになる折がない。「心慰めることができようか」と、しかるべき婦人方をお召しになるが、「せめて準ずる程に思われなさる人さえめったにいない世の中だ」と、厭わしいばかりに万事が思し召されていたところ、先帝の四の宮で、ご容貌が優れておいでであるという評判が高くいらっしゃる方で、母后がまたとなく大切にお世話申されていられる方を、主上にお仕えする典侍は、先帝の御代からの人で、あちらの宮にも親しく参って馴染んでいたので、ご幼少でいらっしゃった時から拝見し、今でもちらっと拝見して、「お亡くなりになった御息所のご容貌に似ていらっしゃる方を、三代の帝にわたって宮仕えいたしてまいりまして、一人も拝見できませんでしたが、后の宮の姫宮さまは、たいそうよく似てご成長あそばしていますわ。世にもまれなご器量よしのお方でございます」と奏上したところ、「ほんとうにか」と、お心が止まって、丁重に礼を尽くしてお申し込みあそばしたのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 134-135 | 年月がたつにつれて、御息所のことをお忘れになる折がない。「心慰めることができようか」と、しかるべき婦人方をお召しになるが、「せめて準ずる程に思われなさる人さえめったにいない世の中だ」と、厭わしいばかりに万事が思し召されていたところ、先帝の四の宮で、ご容貌が優れておいでであるという評判が高くいらっしゃる方で、母后がまたとなく大切にお世話申されていられる方を、主上にお仕えする典侍は、先帝の御代からの人で、あちらの宮にも親しく参って馴染んでいたので、ご幼少でいらっしゃった時から拝見し、今でもちらっと拝見して、<BR>⏎ 「お亡くなりになった御息所のご容貌に似ていらっしゃる方を、三代の帝にわたって宮仕えいたしてまいりまして、一人も拝見できませんでしたが、后の宮の姫宮さまは、たいそうよく似てご成長あそばしていますわ。世にもまれなご器量よしのお方でございます」と奏上したところ、「ほんとうにか」と、お心が止まって、丁重に礼を尽くしてお申し込みあそばしたのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 219 | <P>⏎ | ||
| cd4:3 | 220-223 | 心細い有様でいらっしゃるので、「ただ、わが姫皇女たちと同列にお思い申そう」と、たいそう丁重に礼を尽くしてお申し上げあそばす。お仕えする女房たちや、御後見人たち、ご兄弟の兵部卿の親王などは、「こうして心細くおいでになるよりは、内裏でお暮らしあそばして、きっとお心が慰むように」などとお考えになって、参内させ申し上げなさった。<BR>⏎ <P>⏎ 藤壺と申し上げる。なるほど、ご容貌や姿は不思議なまでによく似ていらっしゃった。この方は、ご身分も一段と高いので、そう思って見るせいか素晴らしくて、お妃方もお貶み申すこともおできになれないので、誰に憚ることなく何も不足ない。あの方は、周囲の人がお許し申さなかったところに、御寵愛が憎らしいと思われるほど深かったのである。ご愛情が紛れるというのではないが、自然とお心が移って行かれて、格段にお慰みになるようなのも、人情の性というものであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 137-139 | 心細い有様でいらっしゃるので、「ただ,わが姫皇女たちと同列にお思い申そう」と、たいそう丁重に礼を尽くしてお申し上げあそばす。お仕えする女房たちや、御後見人たち、ご兄弟の兵部卿の親王などは、「こうして心細くおいでになるよりは、内裏でお暮らしあそばして、きっとお心が慰むように」などとお考えになって、参内させ申し上げなさった。<BR>⏎ 藤壺と申し上げる。なるほど,ご容貌や姿は 不思議なまでによく似ていらっしゃった。この方は,ご身分も一段と高いので、そう思って見るせいか素晴らしくて、お妃方もお貶み申すこともおできになれないので、誰に憚ることなく何も不足ない。<BR>⏎ あの方は,周囲の人がお許し申さなかったところに、御寵愛が憎らしいと思われるほど深かったのである。ご愛情が紛れるというのではないが、自然とお心が移って行かれて、格段にお慰みになるようなのも、人情の性というものであった。<BR>⏎ |
| version01 | 224 | <A NAME="in35">[第五段 源氏、藤壺を思慕]</A><BR> | 140 | |
| d1 | 225 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 226-227 | 源氏の君は、お側をお離れにならないので、誰より頻繁にお渡りあそばす御方は、恥ずかしがってばかりいらっしゃれない。どのお妃方も自分が人より劣っていると思っていらっしゃる人があろうか、それぞれにとても素晴らしいが、お年を召しておいでになるのに対して、とても若くかわいらしい様子で、頻りにお姿をお隠しなさるが、自然と漏れ拝見する。<BR>⏎ <P>⏎ | 141 | 源氏の君は、お側をお離れにならないので、誰より頻繁にお渡りあそばす御方は、恥ずかしがってばかりいらっしゃれない。どのお妃方も 自分が人より劣っていると思っていらっしゃる人があろうか、それぞれにとても素晴らしいが、お年を召しておいでになるのに対して、とても若くかわいらしい様子で、頻りにお姿をお隠しなさるが、自然と漏れ拝見する。<BR>⏎ |
| d1 | 229 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 230-233 | 主上もこの上なくおかわいがりのお二方なので、「お疎みなさいますな。不思議と若君の母君となぞらえ申してもよいような気持ちがする。失礼だとお思いなさらず、いとおしみなさい。顔だちや、目もとなど、大変によく似ているため、母君のようにお見えになるのも、母子として似つかわしくなくはない」などと、お頼み申し上げなさっているので、幼心にも、ちょっとした花や紅葉にことつけても、お気持ちを表し申す。この上なく好意をお寄せ申していらっしゃるので、弘徽殿の女御は、またこの宮ともお仲が好ろしくないので、それに加えて、もとからの憎しみももり返して、不愉快だとお思いになっていた。<BR>⏎ <P>⏎ 世の中にまたとないお方だと拝見なさり、評判高くおいでになる宮のご容貌に対しても、やはり照り映える美しさにおいては比較できないほど美しそうなので、世の中の人は、「光る君」とお呼び申し上げる。藤壺もお並びになって、御寵愛がそれぞれに厚いので、「輝く日の宮」とお呼び申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 143-144 | 主上もこの上なくおかわいがりのお二方なので、「お疎みなさいますな。不思議と若君の母君となぞらえ申してもよいような気持ちがする。失礼だとお思いなさらず、いとおしみなさい。顔だちや、目もとなど、大変によく似ているため、母君のようにお見えになるのも、母子として似つかわしくなくはない」などとお頼み申し上げなさっているので、幼心にも、ちょっとした花や紅葉にことつけても,お気持ちを表し申す。この上なく好意をお寄せ申していらっしゃるので、弘徽殿の女御は、またこの宮ともお仲が好ろしくないので、それに加えて、もとからの憎しみももり返して、不愉快だとお思いになっていた。<BR>⏎ 世の中にまたとないお方だと拝見なさり、評判高くおいでになる宮のご容貌に対しても、やはり照り映える美しさにおいては比較できないほど 美しそうなので、世の中の人は、「光る君」とお呼び申し上げる。藤壺もお並びになって、御寵愛がそれぞれに厚いので、「輝く日の宮」とお呼び申し上げる。<BR>⏎ |
| version01 | 234 | <A NAME="in36">[第六段 源氏元服(十二歳)]</A><BR> | 145 | |
| d1 | 235 | <P>⏎ | ||
| d1 | 237 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 238-241 | 先年の東宮の御元服が、紫宸殿で執り行われた儀式が、いかめしく立派であった世の評判にひけをおとらせにならない。各所での饗宴などにも、内蔵寮や穀倉院など、規定どおり奉仕するのでは、行き届かないことがあってはいけないと、特別に勅命があって、善美を尽くしてお勤め申した。<BR>⏎ <P>⏎ おいでになる清涼殿の東廂の間に、東向きに椅子を立てて、元服なさる君のお席と加冠役の大臣のお席とが、御前に設けられている。儀式は申の時で、その時刻に源氏が参上なさる。角髪に結っていらっしゃる顔つきや、童顔の色つやは、髪形をお変えになるのは惜しい感じである。大蔵卿が理髪役を奉仕する。たいへん美しい御髪を削ぐ時、いたいたしそうなのを、主上は、「亡き母の御息所が見たならば」と、お思い出しになると、涙が抑えがたいのを、思い返してじっとお堪えあそばす。<BR>⏎ <P>⏎ | 147-148 | 先年の東宮の御元服が、紫宸殿で執り行われた儀式が、いかめしく立派であった世の評判にひけをおとらせにならない。各所での饗宴などにも、内蔵寮や 穀倉院など、規定どおり奉仕するのでは、行き届かないことがあってはいけないと、特別に勅命があって、善美を尽くしてお勤め申した。<BR>⏎ おいでになる清涼殿の東廂の間に、東向きに椅子を立てて、元服なさる君のお席と 加冠役の大臣のお席とが、御前に設けられている。儀式は申の時で、その時刻に源氏が参上なさる。角髪に結っていらっしゃる顔つきや、童顔の色つやは、髪形をお変えになるのは惜しい感じである。大蔵卿が 理髪役を奉仕する。たいへん美しい御髪を削ぐ時、いたいたしそうなのを、主上は、「亡き母の御息所が見たならば」と、お思い出しになると、涙が抑えがたいのを、思い返してじっとお堪えあそばす。<BR>⏎ |
| d1 | 243 | <P>⏎ | ||
| c2 | 244-245 | 加冠役の大臣が皇女でいらっしゃる方との間に儲けた一人娘で大切に育てていらっしゃる姫君を、東宮からも御所望があったのを、ご躊躇なさることがあったのは、この君に差し上げようとのお考えからなのであった。帝からの御内意を頂戴させていただいたところ、「それでは、元服の後の後見する人がいないようなので、その添い臥しにでも」とお促しあそばされたので、そのようにお考えになっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 150-151 | 加冠役の大臣が皇女でいらっしゃる方との間に儲けた一人娘で大切に育てていらっしゃる姫君を、東宮からも御所望があったのを、ご躊躇なさることがあったのは、この君に差し上げようとのお考えからなのであった。<BR>⏎ 帝からの 御内意を頂戴させていただいたところ、「それでは,元服の後の後見する人がいないようなので、その添い臥しにでも」とお促しあそばされたので、そのようにお考えになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 247 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 248-249 | 御前から掌侍が宣旨を承り伝えて、大臣に御前に参られるようにとのお召しがあるので、参上なさる。御禄の品物を、主上づきの命婦が取りついで賜わる。白い大袿に御衣装一領、例のとおりである。<BR>⏎ <P>⏎ | 153 | 御前から 掌侍が 宣旨を承り伝えて、大臣に御前に参られるようにとのお召しがあるので、参上なさる。御禄の品物を、主上づきの命婦が取りついで賜わる。白い大袿に御衣装一領、例のとおりである。<BR>⏎ |
| d1 | 251 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 252-254 | 「幼子の元服の折、末永い仲を<BR>⏎ そなたの姫との間に結ぶ約束はなさったか」<BR>⏎ <P>⏎ | 155 | 「幼子の元服の折、末永い仲を<BR> そなたの姫との間に結ぶ約束はなさったか」<BR>⏎ |
| d1 | 256 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 257-259 | 「元服の折、約束した心も深いものとなりましょう<BR>⏎ その濃い紫の色さえ変わらなければ」<BR>⏎ <P>⏎ | 157 | 「元服の折、約束した心も深いものとなりましょう<BR> その濃い紫の色さえ変わらなければ」<BR>⏎ |
| d1 | 261 | <P>⏎ | ||
| d1 | 263 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 264-265 | その日の御前の折櫃物や、籠物などは、右大弁が仰せを承って調えさせたのであった。屯食や禄用の唐櫃類など、置き場もないくらいで、東宮の御元服の時よりも数多く勝っていた。かえっていろいろな制限がなくて盛大であった。<BR>⏎ <P>⏎ | 160 | その日の御前の折櫃物や、籠物などは、右大弁が仰せを承って調えさせたのであった。屯食や 禄用の唐櫃類など、置き場もないくらいで、東宮の御元服の時よりも数多く勝っていた。かえっていろいろな制限がなくて盛大であった。<BR>⏎ |
| version01 | 266 | <A NAME="in37">[第七段 源氏、左大臣家の娘(葵上)と結婚]</A><BR> | 161 | |
| d1 | 267 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 268-271 | その夜、大臣のお邸に源氏の君を退出させなさる。婿取りの儀式は世に例がないほど立派におもてなし申し上げなさった。とても若くおいでなのを、不吉なまでにかわいいとお思い申し上げなさった。女君は少し年長でおいでなのに対して、婿君がたいそうお若くいらっしゃるので、似つかわしくなく恥ずかしいとお思いでいらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ この大臣は帝のご信任が厚い上に、姫君の母宮が帝と同じ母后のお生まれでいらっしゃったので、どちらから言っても立派な上に、この君までがこのように婿君としてお加わりになったので、東宮の御祖父で、最後には天下を支配なさるはずの右大臣のご威勢も、敵ともなく圧倒されてしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 162-163 | その夜、大臣のお邸に源氏の君を退出させなさる。婿取りの儀式は世に例がないほど 立派におもてなし申し上げなさった。とても若くおいでなのを、不吉なまでにかわいいとお思い申し上げなさった。女君は少し年長でおいでなのに対して、婿君がたいそうお若くいらっしゃるので、似つかわしくなく恥ずかしいとお思いでいらっしゃった。<BR>⏎ この大臣は帝のご信任が厚い上に、姫君の母宮が 帝と同じ母后のお生まれでいらっしゃったので、どちらから言っても立派な上に、この君までがこのように婿君としてお加わりになったので、東宮の御祖父で、最後には天下を支配なさるはずの右大臣のご威勢も、敵ともなく圧倒されてしまった。<BR>⏎ |
| d1 | 273 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 274-275 | 源氏の君は、主上がいつもお召しになって放さないので、気楽に私邸で過すこともおできになれない。心中では、ひたすら藤壺のご様子を、またといない方とお慕い申し上げて、「そのような女性こそ妻にしたいものだ、似た方もいらっしゃらないな。大殿の姫君は、たいそう興趣ありそうに大切に育てられている方だと思われるが、少しも心惹かれない」というように感じられて、幼心一つに思いつめて、とても苦しいまでに悩んでいらっしゃるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 165 | 源氏の君は、主上がいつもお召しになって放さないので、気楽に私邸で過すこともおできになれない。心中では、ひたすら藤壺のご様子を、またといない方とお慕い申し上げて、「そのような女性こそ妻にしたいものだ。似た方もいらっしゃらないな。大殿の姫君は、たいそう興趣ありそうに大切に育てられている方だと思われるが、少しも心惹かれない」というように感じられて、幼心一つに思いつめて、とても苦しいまでに悩んでいらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| version01 | 276 | <A NAME="in38">[第八段 源氏、成人の後]</A><BR> | 166 | |
| d1 | 277 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 278-279 | 元服なさってから後は、かつてのように御簾の内側にもお入れにならない。管弦の御遊の時々、琴と笛の音に心通わし合い、かすかに漏れてくるお声を慰めとして、内裏の生活ばかりを好ましく思っていらっしゃる。五、六日は内裏に伺候なさって、大殿邸には二、三日程度、途切れ途切れに退出なさるが、まだ今はお若い年頃であるので、つとめて咎めだてすることなくお許しになって、婿君として大切にお世話申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 167 | 元服なさってから後は、かつてのように御簾の内側にもお入れにならない。管弦の御遊の時々、琴と笛の音に心通わし合い、かすかに漏れてくるお声を慰めとして、内裏の生活ばかりを好ましく思っていらっしゃる。五,六日は内裏に伺候なさって、大殿邸には二,三日程度、途切れ途切れに退出なさるが、まだ今はお若い年頃であるので、つとめて咎めだてすることなくお許しになって、婿君として大切にお世話申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 281 | <P>⏎ | ||
| d1 | 283 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 284-287 | 実家のお邸は、修理職や内匠寮に宣旨が下って、またとなく立派にご改造させなさる。もとからの木立や、築山の様子、趣きのある所であったが、池をことさら広く造って、大騷ぎして立派に造営する。<BR>⏎ <P>⏎ 「このような所に、理想とするような女性を迎えて一緒に暮らしたい」とばかり、胸を痛めてお思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 170-171 | 実家のお邸は、修理職や 内匠寮に宣旨が下って、またとなく立派にご改造させなさる。もとからの木立や、築山の様子、趣きのある所であったが、池をことさら広く造って、大騷ぎして立派に造営する。<BR>⏎ 「このような所に理想とするような女性を迎えて一緒に暮らしたい」とばかり、胸を痛めてお思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d2 | 289-290 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 298 | ⏎ | ||
| i0 | 184 | |||
| diff | src/original/version02.html | src/modified/version02.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version02 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-4-1)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| i0 | 13 | |||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 37 | <P>⏎ | ||
| version02 | 38 | <H4>第一章 雨夜の品定めの物語</H4> | 35 | |
| version02 | 39 | <A NAME="in11">[第一段 長雨の時節]</A><BR> | 36 | |
| d1 | 40 | <P>⏎ | ||
| c2 | 41-42 | 光る源氏と、名前だけはご大層だが、非難されなさる取り沙汰が多いというのに、ますます、このような好色沙汰を、後世にも聞き伝わって、軽薄である浮き名を流すことになろうかと、隠していらっしゃった秘密事までを、語り伝えたという人のおしゃべりの意地の悪いことよ。とは言うものの、大変にひどく世間を気にし、まじめになさっていたところは、艶っぽくおもしろい話はなくて、交野少将からは笑われなさったことであろうよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 37-38 | 光る源氏と、名前だけはご大層だが、非難されなさる取り沙汰が多いというのに、ますます,このような好色沙汰を、後世にも聞き伝わって、軽薄である浮き名を流すことになろうかと、隠していらっしゃった秘密事までを、語り伝えたという人のおしゃべりの意地の悪いことよ。<BR>⏎ とは言うものの,大変にひどく世間を気にし、まじめになさっていたところは、艶っぽくおもしろい話はなくて、交野少将からは笑われなさったことであろうよ。<BR>⏎ |
| d1 | 44 | <P>⏎ | ||
| version02 | 45 | <A NAME="in12">[第二段 宮中の宿直所、光る源氏と頭中将]</A><BR> | 40 | |
| d1 | 46 | <P>⏎ | ||
| d1 | 48 | <P>⏎ | ||
| d1 | 50 | <P>⏎ | ||
| d1 | 52 | <P>⏎ | ||
| d1 | 54 | <P>⏎ | ||
| d1 | 56 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 57-58 | と、お許しにならないので、<BR>⏎ <P>⏎ | 46 | と,お許しにならないので、<BR>⏎ |
| d1 | 60 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 61-62 | と怨み言をいうので、高貴な方からの絶対にお隠しにならねばならない文などは、このようになおざりな御厨子などにちょっと置いて散らかしていらっしゃるはずはなく、奥深く別にしまって置かれるにちがいないようだから、これらは二流の気安いものであろう。少しずつ見て行くと、「こんなにも、いろいろな手紙類がございますなあ」と言って、当て推量に「これはあの人か、あれはこの人か」などと尋ねる中で、言い当てるものもあり、外れているのをかってに推量して疑ぐるのも、おもしろいとお思いになるが、言葉少なに答えて何かと言い紛らわしては、取ってお隠しになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 48 | と怨み言をいうので、高貴な方からの絶対にお隠しにならねばならない文などは、このようになおざりな御厨子などにちょっと置いて散らかしていらっしゃるはずはなく、奥深く別にしまって置かれるにちがいないようだから、これらは二流の気安いものであろう。少しずつ見て行くと、「こんなにも,いろいろな手紙類がございますなあ」と言って、当て推量に「これはあの人か、あれはこの人か」などと尋ねる中で、言い当てるものもあり、外れているのをかってに推量して疑ぐるのも、おもしろいとお思いになるが、言葉少なに答えて何かと言い紛らわしては、取ってお隠しになった。<BR>⏎ |
| d1 | 64 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 65-66 | 「御覧になる値打のものは、ほとんどないしょう」などと申し上げなさる、そのついでに、「女性で、これならば良しと難点を指摘しようのない人は、めったにいないものだなあと、だんだんと分かってまいりました。ただ表面だけの風情で、手紙をさらさらと走り書きしたり、時節に相応しい返答を心得て、ちょっとするぐらいのは、身分相応にまあまあ良いと思う者は多くいると拝見しますが、それも本当にその方面の優れた人を選び出そうとすると、絶対に選に外れないという者は、本当にめったにないものですね。自分の得意なことばかりを、それぞれ得意になって、他人を貶めたりなどして、見ていられないことが多いです。<BR>⏎ <P>⏎ | 50 | 「御覧になる値打のものは、ほとんどないしょう」などと申し上げなさる,そのついでに、「女性で、これならば良しと難点を指摘しようのない人は、めったにいないものだなあと、だんだんと分かってまいりました。ただ表面だけの風情で、手紙をさらさらと走り書きしたり、時節に相応しい返答を心得て、ちょっとするぐらいのは、身分相応にまあまあ良いと思う者は多くいると拝見しますが、それも本当にその方面の優れた人を選び出そうとすると,絶対に選に外れないという者は、本当にめったにないものですね。自分の得意なことばかりを、それぞれ得意になって、他人を貶めたりなどして、見ていられないことが多いです。<BR>⏎ |
| d1 | 68 | <P>⏎ | ||
| d1 | 70 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 71-78 | と言って、嘆息している様子も気遅れするようなので、全部が全部というのではないが、ご自身でもなるほどとお思いになることがあるのであろうか、ちょっと笑みを浮かべて、<BR>⏎ <P>⏎ 「その、一つの才能もない人というのは、いるものだろうか」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ 「さあ、それほどのような所には、誰が騙されて寄りつきましょうか。何の取柄もなくつまらない身分の者と、素晴らしいと思われるほどに優れた者とは、同じくらいございましょう。家柄が高く生まれると、家人に大切に育てられて、人目に付かないことも多く、自然とその様子が格別でしょう。中流の女性にこそ、それぞれの気質や、めいめいの考え方や趣向も見えて、区別されることがそれぞれに多いでしょう。下層の女という身分になると、格別関心もありませんね」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、何でも知っている様子であるのも、興味が惹かれて、<BR>⏎ <P>⏎ | 53-56 | と言って,嘆息している様子も気遅れするようなので、全部が全部というのではないが、ご自身でもなるほどとお思いになることがあるのであろうか、ちょっと笑みを浮かべて、<BR>⏎ 「その,一つの才能もない人というのは、いるものだろうか」とおっしゃると、<BR>⏎ 「さあ,それほどのような所には、誰が騙されて寄りつきましょうか。何の取柄もなくつまらない身分の者と、素晴らしいと思われるほどに優れた者とは、同じくらいございましょう。家柄が高く生まれると、家人に大切に育てられて、人目に付かないことも多く、自然とその様子が格別でしょう。中流の女性にこそ、それぞれの気質や、めいめいの考え方や趣向も見えて、区別されることがそれぞれに多いでしょう。下層の女という身分になると、格別関心もありませんね」<BR>⏎ と言って,何でも知っている様子であるのも、興味が惹かれて、<BR>⏎ |
| d1 | 80 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 81-82 | とお尋ねになっているところに、左馬頭や藤式部丞が御物忌に籠もろうとして参上した。当代の好色者で弁舌が達者なので、中将は待ち構えて、これらの品々の区別の議論を戦わす。まことに聞きにくい話が多かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 58 | とお尋ねになっているところに、左馬頭や 藤式部丞が 御物忌に籠もろうとして参上した。当代の好色者で弁舌が達者なので、中将は待ち構えて、これらの品々の区別の議論を戦わす。まことに聞きにくい話が多かった。<BR>⏎ |
| version02 | 83 | <A NAME="in13">[第三段 左馬頭、藤式部丞ら女性談義に加わる]</A><BR> | 59 | |
| d1 | 84 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 85-86 | 「成り上がっても、元々の相応しいはずの家柄でない者は、世間の人の心証も、そうは言っても、やはり格別です。また、元は高貴な家筋であるが、世間を渡る手づるが少なく、時勢におし流されて、声望も地に落ちてしまうと、気位だけは高くても思うようにならず、不体裁なことなどが生じてくるもののようですから、それぞれに分別して、中の品に置くのが適当でしょう。<BR>⏎ <P>⏎ | 60 | 「成り上がっても、元々の相応しいはずの家柄でない者は、世間の人の心証も、そうは言っても、やはり格別です。また,元は高貴な家筋であるが、世間を渡る手づるが少なく、時勢におし流されて、声望も地に落ちてしまうと、気位だけは高くても思うようにならず、不体裁なことなどが生じてくるもののようですから、それぞれに分別して、中の品に置くのが適当でしょう。<BR>⏎ |
| d1 | 88 | <P>⏎ | ||
| d1 | 90 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 91-92 | 「およそ、金持ちによるべきだということだね」と言って、お笑いになるのを、<BR>⏎ <P>⏎ | 63 | 「およそ,金持ちによるべきだということだね」と言って、お笑いになるのを、<BR>⏎ |
| d1 | 94 | <P>⏎ | ||
| d1 | 96 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 97-98 | ところで、世間で人に知られず、寂しく荒れたような草深い家に、思いも寄らないいじらしいような女性がひっそり閉じ籠められているようなのは、この上なく珍しく思われましょう。どうしてまあ、こんな人がいたのだろうと、想像していたことと違って、不思議に気持ちが引き付けられるものです。<BR>⏎ <P>⏎ | 66 | ところで,世間で人に知られず、寂しく荒れたような草深い家に、思いも寄らないいじらしいような女性がひっそり閉じ籠められているようなのは、この上なく珍しく思われましょう。どうしてまあ,こんな人がいたのだろうと、想像していたことと違って、不思議に気持ちが引き付けられるものです。<BR>⏎ |
| d1 | 100 | <P>⏎ | ||
| d1 | 102 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 103-106 | と言って、式部を見やると、自分の妹たちがまあまあの評判であることを思っておっしゃるのか、と受け取ったのであろうか、何とも言わない。<BR>⏎ <P>⏎ 「さてどんなものか、上の品と思う中でさえ難しい世の中なのに」と、源氏の君はお思いのようである。白いお召物で柔らかな物の上に、直衣だけを気楽な感じにお召しになって、紐なども結ばずに、物に寄り掛かっていらっしゃる灯影は、とても素晴らしく、女性として拝したいくらいだ。この源氏の君のおんためには、上の上の女性を選び出しても、猶も満足ではなさそうにお見受けされる。<BR>⏎ <P>⏎ | 69-70 | と言って,式部を見やると、自分の妹たちがまあまあの評判であることを思っておっしゃるのか、と受け取ったのであろうか、何とも言わない。<BR>⏎ 「さてどんなものか,上の品と思う中でさえ難しい世の中なのに」と、源氏の君はお思いのようである。白いお召物で柔らかな物の上に、直衣だけを気楽な感じにお召しになって、紐なども結ばずに、物に寄り掛かっていらっしゃる灯影は、とても素晴らしく、女性として拝したいくらいだ。この源氏の君のおんためには,上の上の女性を選び出しても、猶も満足ではなさそうにお見受けされる。<BR>⏎ |
| d1 | 108 | <P>⏎ | ||
| c2 | 109-110 | 「通り一遍の仲として付き合っているには欠点がなくい女でも、わが伴侶として信頼できる女性を選ぼうとするには、たくさんいる中でも、なかなか決め難いものですなあ。男性が朝廷にお仕えし、しっかりとした世の重鎮となるような方々の中でも、真の優れた政治家と言えるような人物を数え上げるとなると、難しいことでしょうよ。しかし、賢者と言っても、一人や二人で世の中の政治を執り行えるものではありませんから、上の人は下の者に助けられ、下の者は上の人に従って、政治の事は広いものですから互いに委ね合っていくのでしょう。<BR>⏎ <P>⏎ | 72-73 | 「通り一遍の仲として付き合っているには欠点がなくい女でも、わが伴侶として信頼できる女性を選ぼうとするには、たくさんいる中でも、なかなか決め難いものですなあ。男性が朝廷にお仕えし、しっかりとした世の重鎮となるような方々の中でも、真の優れた政治家と言えるような人物を数え上げるとなると、難しいことでしょうよ。<BR>⏎ しかし,賢者と言っても、一人や二人で世の中の政治を執り行えるものではありませんから、上の人は下の者に助けられ、下の者は上の人に従って、政治の事は広いものですから互いに委ね合っていくのでしょう。<BR>⏎ |
| d1 | 112 | <P>⏎ | ||
| cd12:6 | 113-124 | 必ずしも自分の理想通りではないが、いったん見初めた前世の約束だけを破りがたく思い止まっている人は、誠実であると見え、そうして、一緒にいる女性のためにも、奥ゆかしいものがあるのだろうと自然と推量されるものです。しかし、なあに、世の中の夫婦の有様をたくさん拝見していくと、想像以上にたいして羨ましいと思われることもありませんよ。公達の最上流の奥方選びには、なおさらのこと、どれほどの女性がお似合いになりましょうか。<BR>⏎ <P>⏎ 容貌がこぎれいで、若々しい年頃で、自分自身では塵もつけまいと身を振る舞い、手紙を書いても、おっとりと言葉選びをし、墨付きも淡く関心を持たせ持たせし、もう一度はっきりと見たいものだとじれったく待たせ、わずかばかりの声を聞く程度に言い寄っても、息を殺して声小さく言葉少ななのが、とてもよく欠点を隠すものですなあ。艶っぽくて女性的だと見えると、度を越して情趣にこだわって、調子を合わせると、浮わつきます。これを、第一の難点と言うべきでしょう。<BR>⏎ <P>⏎ 家事の中で、疎かにできない夫の世話という点では、物の情趣が度を過ごし、ちょっとした折の風情があり、趣味性に過度になるのはなくてもよいことだろうと思われますが、また一方で、家事一点張りで、額髪を耳挟みがちに飾り気のない主婦で、ひたすら世帯じみた世話だけをして。<BR>⏎ <P>⏎ 朝夕の出勤や帰宅につけても、公事や私事での他人の振る舞いや、善いこと悪いことで、目にも耳にも止まった有様を、親しくもない他人にわざわざそっくり話して聞かせたりしましょうか。親しい妻で理解してくれそうな者とこそ語り合いたいものだと思われ、つい微笑まれたり、涙ぐんだり、あるいはまた、無性に公憤をおぼえたり、胸の内に収めておけないことが多くあるのを、理解のない妻に、何で聞かせようか、聞かせてもしかたがない、と思いますと、ついそっぽを向きたくなって、人知れない思い出し笑いがこみ上げ、『ああ』とも、つい独り言を洩らすと、『何事ですか』などと、間抜けた顔で見上げるようなのは、どうして残念に思われないでしょうか。<BR>⏎ <P>⏎ ただひたすら子供っぽくて柔軟な女を、いろいろと教え諭してはどうして妻としないでいられようか。心配なようでも、きっと直し甲斐のある気持ちがするでしょう。なるほど、一緒に生活するぶんには、そんなふうでもかわいらしさに欠点も許され世話をしてやれようが、離れていては必要な用事などを言いやり、時節に行なうような事柄の風流事にも実用事などにも、自分では判断ができず深い思慮がないのは、まことに残念で頼りにならない欠点が、やはり困ったものでしょう。普段はちょっと無愛想で親しみの持てない女性が、何かの事に思わぬでき映えを発揮するようなこともありますからね」<BR>⏎ <P>⏎ などと、至らない所のない論客も、結論を出しかねて大きく溜息をつく。<BR>⏎ <P>⏎ | 75-80 | 必ずしも自分の理想通りではないが、いったん見初めた前世の約束だけを破りがたく思い止まっている人は、誠実であると見え、そうして,一緒にいる女性のためにも、奥ゆかしいものがあるのだろうと自然と推量されるものです。しかし,なあに、世の中の夫婦の有様をたくさん拝見していくと、想像以上にたいして羨ましいと思われることもありませんよ。公達の最上流の奥方選びには、なおさらのこと,どれほどの女性がお似合いになりましょうか。<BR>⏎ 容貌がこぎれいで、若々しい年頃で、自分自身では塵もつけまいと身を振る舞い、手紙を書いても、おっとりと言葉選びをし、墨付きも淡く関心を持たせ持たせし、もう一度はっきりと見たいものだとじれったく待たせ、わずかばかりの声を聞く程度に言い寄っても、息を殺して声小さく言葉少ななのが、とてもよく欠点を隠すものですなあ。艶っぽくて女性的だと見えると、度を越して情趣にこだわって、調子を合わせると、浮わつきます。これを,第一の難点と言うべきでしょう。<BR>⏎ 家事の中で、疎かにできない夫の世話という点では、物の情趣が度を過ごし、ちょっとした折の風情があり、趣味性に過度になるのはなくてもよいことだろうと思われますが、また一方で,家事一点張りで,額髪を耳挟みがちに飾り気のない主婦で、ひたすら世帯じみた世話だけをして。<BR>⏎ 朝夕の出勤や帰宅につけても、公事や私事での他人の振る舞いや、善いこと悪いことで、目にも耳にも止まった有様を、親しくもない他人に わざわざそっくり話して聞かせたりしましょうか。親しい妻で理解してくれそうな者とこそ語り合いたいものだと思われ、つい微笑まれたり、涙ぐんだり、あるいはまた,無性に公憤をおぼえたり、胸の内に収めておけないことが多くあるのを、理解のない妻に,何で聞かせようか,聞かせてもしかたがない,と思いますと、ついそっぽを向きたくなって、人知れない思い出し笑いがこみ上げ、『ああ』とも、つい独り言を洩らすと、『何事ですか』などと、間抜けた顔で見上げるようなのは、どうして残念に思われないでしょうか。<BR>⏎ ただひたすら子供っぽくて柔軟な女を、いろいろと教え諭してはどうして妻としないでいられようか。心配なようでも、きっと直し甲斐のある気持ちがするでしょう。なるほど,一緒に生活するぶんには、そんなふうでもかわいらしさに欠点も許され世話をしてやれようが、離れていては必要な用事などを言いやり、時節に行なうような事柄の風流事にも実用事などにも、自分では判断ができず深い思慮がないのは、まことに残念で頼りにならない欠点が、やはり困ったものでしょう。普段はちょっと無愛想で親しみの持てない女性が、何かの事に思わぬでき映えを発揮するようなこともありますからね」<BR>⏎ などと,至らない所のない論客も、結論を出しかねて大きく溜息をつく。<BR>⏎ |
| version02 | 125 | <A NAME="in14">[第四段 女性論、左馬頭の結論]</A><BR> | 81 | |
| d1 | 126 | <P>⏎ | ||
| c2 | 127-128 | 「今は、ただもう、家柄にもよりません。容貌はまったく問題ではありません。ひどく意に満たないひねくれた性格でさえなければ、ただひたすら実直で、落ち着いた心の様子がありそうな女性を、生涯の伴侶としては考え置くのがよいですね。余分な情趣を解する心や気立てのよさが加わっているようなのを、それを幸いと思い、少し足りないところがあるようなのも、無理に期待し要求するまい。安心できてのんびりとした性格さえはっきりしていれば、表面的な情趣は、自然と身に付けることができるものですからね。<BR>⏎ <P>⏎ | 82-83 | 「今は、ただもう,家柄にもよりません。容貌はまったく問題ではありません。ひどく意に満たないひねくれた性格でさえなければ、ただひたすら実直で、落ち着いた心の様子がありそうな女性を、生涯の伴侶としては考え置くのがよいですね。<BR>⏎ 余分な情趣を解する心や気立てのよさが加わっているようなのを、それを幸いと思い、少し足りないところがあるようなのも、無理に期待し要求するまい。安心できてのんびりとした性格さえはっきりしていれば、表面的な情趣は、自然と身に付けることができるものですからね。<BR>⏎ |
| d1 | 130 | <P>⏎ | ||
| c6 | 131-136 | 子供でございましたころ、女房などが物語を読んでいたのを聞いて、とても気の毒に悲しく、何と深く思いつめたことかと、涙までを落としました。今から思うと、とても軽薄で、わざとらしいことです。愛情の深い夫を残して、たとえ目の前に薄情なことがあっても、夫の気持ちを分からないかのように姿をくらまして、夫を慌てさせ、本心を見ようとするうちに、一生の後悔となるのは、大変につまらないことです。『深い考えだ』などと、褒め立てられて、気持ちが昂じてしまうと、そのまま尼になってしまいますよ。思い立った当座は、まことに気持ちも悟ったようで、世俗の生活を振り返ってみようなどとは思わない。『まあ、何とおいたわしい。こうもご決心されたとは』などと言ったように、知り合いの人が見舞いに来たり、すっかり嫌だとも諦めてない夫が、聞きつけて涙を落とすと、召使いや、老女たちなどが、『殿のお気持ちは、愛情深かったのに。惜しいおん身を』などと言う。自分でも額髪を触って、手応えなく心細いので、泣顔になってしまう。堪えても涙がこぼれ出してしまうと、何かの時々には我慢もできず、後悔も多いようなので、仏もかえって未練がましいと、きっと御覧になるでしょう。濁世に染まっている間よりも、生悟りは、かえって悪道に堕ちさ迷うことになるに違いなく思われます。切っても切れない前世からの宿縁も浅くなく、尼にもさせず捜し出したような仲も、そのまま連れ添うことになって、あのような時にもこのような時にも、知らないふうにしているような夫婦仲こそ、宿縁も深く愛情も厚いと言えましょうに、自分も相手も、不安で自然と気をつかわずにいられましょうか。<BR>⏎ <P>⏎ また、いいかげんに愛情も冷めてきたような夫を恨んで、態度に表わして離縁するようなのは、これまたばかげたことでしょう。愛情が他の女に移ることがあったとしても、結婚した当初の愛情をいとしく思うならば、そうした縁の伴侶と思っていることもきっとあるでしょうに、そのようなごたごたから、夫婦の仲まで切れてしまうのです。<BR>⏎ <P>⏎ 総じて、どのようなことでも心穏やかに、嫉妬することは知っている様子にほのめかし、恨み言をいうべき場合にもかわいらしくそれとなく言えば、それによって、愛情も一段と増すことでしょう。一般に、自分の浮気心も妻の態度から収まりもするのです。あまりやたらに勝手にさせ放任しておくのも、気が楽でかわいらしいようだが、いつのまにか軽く見られるものです。繋がない舟の譬えもあり、なるほど思慮がない。そうではございませんか」<BR>⏎ <P>⏎ | 85-90 | 子供でございましたころ、女房などが物語を読んでいたのを聞いて、とても気の毒に悲しく、何と深く思いつめたことかと、涙までを落としました。今から思うと、とても軽薄で、わざとらしいことです。<BR>⏎ 愛情の深い夫を残して、たとえ目の前に薄情なことがあっても、夫の気持ちを分からないかのように姿をくらまして、夫を慌てさせ、本心を見ようとするうちに、一生の後悔となるのは、大変につまらないことです。<BR>⏎ 『深い考えだ』などと、褒め立てられて、気持ちが昂じてしまうと、そのまま尼になってしまいますよ。思い立った当座は、まことに気持ちも悟ったようで、世俗の生活を振り返ってみようなどとは思わない。『まあ、何とおいたわしい。こうもご決心されたとは』などと言ったように、知り合いの人が見舞いに来たり、すっかり嫌だとも諦めてない夫が、聞きつけて涙を落とすと、召使いや、老女たちなどが、『殿のお気持ちは、愛情深かったのに。惜しいおん身を』などと言う。自分でも額髪を触って、手応えなく心細いので、泣顔になってしまう。堪えても涙がこぼれ出してしまうと、何かの時々には我慢もできず、後悔も多いようなので、仏もかえって未練がましいと、きっと御覧になるでしょう。濁世に染まっている間よりも、生悟りは、かえって悪道に堕ちさ迷うことになるに違いなく思われます。<BR>⏎ 切っても切れない前世からの宿縁も浅くなく、尼にもさせず捜し出したような仲も、そのまま連れ添うことになって、あのような時にもこのような時にも、知らないふうにしているような夫婦仲こそ、宿縁も深く愛情も厚いと言えましょうに、自分も相手も、不安で自然と気をつかわずにいられましょうか。<BR>⏎ また,いいかげんに愛情も冷めてきたような夫を恨んで、態度に表わして離縁するようなのは、これまたばかげたことでしょう。愛情が他の女に移ることがあったとしても、結婚した当初の愛情をいとしく思うならば、そうした縁の伴侶と思っていることもきっとあるでしょうに、そのようなごたごたから、夫婦の仲まで切れてしまうのです。<BR>⏎ 総じて,どのようなことでも心穏やかに、嫉妬することは知っている様子にほのめかし、恨み言をいうべき場合にもかわいらしくそれとなく言えば、それによって、愛情も一段と増すことでしょう。一般に、自分の浮気心も妻の態度から収まりもするのです。あまりやたらに勝手にさせ放任しておくのも、気が楽でかわいらしいようだが、いつのまにか軽く見られるものです。繋がない舟の譬えもあり、なるほど思慮がない。そうではございませんか」<BR>⏎ |
| d1 | 138 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 139-142 | 「今さし当たって、美しいとも気立てがよいとも思って気に入っているような男が、不安な疑いがあるのは重大でしょう。自分が乱心せずに大目に見てやっていたら、気持ちを変えて添い遂げないこともないだろうと思われますが、そうとばかりも言えまい。いずれにしても、夫婦仲がうまくいかないようことがあってもそれを、気長にじっと堪えているより以外に、良い手段はないようですな」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、自分の妹の姫君は、この結論に当てはまっていらっしゃると思うと、源氏の君が居眠りをして意見をさし挟みなさらないのを、物足りなく不満に思う。左馬頭がこの評定の博士になって、さらに弁じ立てていた。頭中将は、この弁論を最後まで聴こうと、熱心になって、受け答えしていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 92-93 | 「今さし当たって、美しいとも気立てがよいとも思って気に入っているような男が、不安な疑いがあるのは 重大でしょう。自分が乱心せずに大目に見てやっていたら、気持ちを変えて添い遂げないこともないだろうと思われますが、そうとばかりも言えまい。いずれにしても、夫婦仲がうまくいかないようことがあってもそれを、気長にじっと堪えているより以外に、良い手段はないようですな」<BR>⏎ と言って、自分の妹の姫君は、この結論に当てはまっていらっしゃると思うと、源氏の君が居眠りをして意見をさし挟みなさらないのを、物足りなく不満に思う。左馬頭が この評定の博士になって、さらに弁じ立てていた。頭中将は、この弁論を最後まで聴こうと、熱心になって、受け答えしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 144 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 145-146 | また、画工司に名人が多くいますが、墨描きに選ばれて、順々に見るとまったく優劣の判断は、ちょっと見ただけではつきません。けれども、人の見ることもできない蓬莱山や、荒海の恐ろしい魚の形や、唐国の猛々しい獣の形や、目に見えない鬼の顔などで、仰々しく描いた物は、想像のままに格別に目を驚かして、実物には似ていないでしょうが、それはそれでよいでしょう。<BR>⏎ <P>⏎ | 95 | また,画工司に名人が多くいますが、墨描きに選ばれて、順々に見るとまったく優劣の判断は、ちょっと見ただけではつきません。けれども、人の見ることもできない蓬莱山や、荒海の恐ろしい魚の形や、唐国の猛々しい獣の形や、目に見えない鬼の顔などで、仰々しく描いた物は、想像のままに格別に目を驚かして、実物には似ていないでしょうが、それはそれでよいでしょう。<BR>⏎ |
| d1 | 148 | <P>⏎ | ||
| d1 | 150 | <P>⏎ | ||
| d1 | 152 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 153-154 | と言って、にじり寄るので、源氏の君も目をお覚ましになる。中将はひどく本気になって、頬杖をついて向かい合いに座っていらっしゃる。法師が世の中の道理を説いて聞かせているような所の感じがするのも、もう一方ではおもしろいが、このような折には、それぞれがうちとけたお話などを隠しておくことができないのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 99 | と言って,にじり寄るので、源氏の君も目をお覚ましになる。中将はひどく本気になって、頬杖をついて向かい合いに座っていらっしゃる。法師が世の中の道理を説いて聞かせているような所の感じがするのも、もう一方ではおもしろいが、このような折には、それぞれがうちとけたお話などを隠しておくことができないのであった。<BR>⏎ |
| version02 | 155 | <H4>第二章 女性体験談</H4> | 100 | |
| version02 | 156 | <A NAME="in21">[第一段 女性体験談(左馬頭、嫉妬深い女の物語)]</A><BR> | 101 | |
| d1 | 157 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 158-159 | 「若いころ、まだ下級役人でございました時、愛しいと思う女性がおりました。申し上げましたように、容貌などもたいして優れておりませんでしたので、若いうちの浮気心から、この女性を生涯の伴侶とも思い決めませんで、通い所とは思いながら、物足りなくて、何かと他の女性にかかずらっておりましたところ、大変に嫉妬をいたしましたので、おもしろくなく、本当にこうではなくて、おっとりとしていたらば良いものをと思い思い、あまりにひどく厳しく疑いましたのも煩わしくて、このようなつまらない男に愛想もつかさず、どうしてこう愛しているのだろうと、気の毒に思う時々もございまして、自然と浮気心も収められるというふうでもございました。<BR>⏎ <P>⏎ | 102 | 「若いころ,まだ下級役人でございました時、愛しいと思う女性がおりました。申し上げましたように、容貌などもたいして優れておりませんでしたので、若いうちの浮気心から、この女性を生涯の伴侶とも思い決めませんで、通い所とは思いながら、物足りなくて、何かと他の女性にかかずらっておりましたところ、大変に嫉妬をいたしましたので、おもしろくなく、本当にこうではなくて、おっとりとしていたらば良いものをと思い思い、あまりにひどく厳しく疑いましたのも煩わしくて、このようなつまらない男に愛想もつかさず、どうしてこう愛しているのだろうと、気の毒に思う時々もございまして、自然と浮気心も収められるというふうでもございました。<BR>⏎ |
| d1 | 161 | <P>⏎ | ||
| d1 | 163 | <P>⏎ | ||
| d1 | 165 | <P>⏎ | ||
| d1 | 167 | <P>⏎ | ||
| d1 | 169 | <P>⏎ | ||
| d1 | 171 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 172-173 | 『あなたとの結婚生活を指折り数えてみますと<BR>⏎ この一つだけがあなたの嫌な点なものか<BR>⏎ | 109 | 『あなたとの結婚生活を指折り数えてみますと<BR> この一つだけがあなたの嫌な点なものか<BR>⏎ |
| d1 | 175 | <P>⏎ | ||
| d1 | 177 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 178-182 | 『あなたの辛い仕打ちを胸の内に堪えてきましたが<BR>⏎ 今は別れる時なのでしょうか』<BR>⏎ <P>⏎ などと、言い争いましたが、本当は別れようとは存じませんままに、何日も過ぎるまで便りもやらず、浮かれ歩いていたところ、臨時の祭の調楽で、夜が更けてひどく霙が降る夜、めいめい退出して分かれる所で、思いめぐらすと、やはり自分の家と思える家は他にはなかったのでしたなあ。<BR>⏎ <P>⏎ | 112-113 | 『あなたの辛い仕打ちを胸の内に堪えてきましたが<BR> 今は別れる時なのでしょうか』<BR>⏎ などと,言い争いましたが、本当は別れようとは存じませんままに、何日も過ぎるまで便りもやらず、浮かれ歩いていたところ、臨時の祭の調楽で、夜が更けてひどく霙が降る夜、めいめい退出して分かれる所で、思いめぐらすと、やはり自分の家と思える家は他にはなかったのでしたなあ。<BR>⏎ |
| d1 | 184 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 185-188 | 艶やかな和歌も詠まず、思わせぶりな手紙も書き残さず、もっぱらそっけなく無愛想であったので、拍子抜けした気がして、口やかましく容赦なかったのも、自分を嫌になってくれ、と思う気持ちがあったからだろうかと、そのようには存じられなかったのですが、おもしろくないままそう思ったのですが、着るべき物が、いつもより念を入れた色合いや、仕立て方がとても素晴らしくて、やはり離別した後までも、気を配って世話してくれていたのでした。<BR>⏎ <P>⏎ そうは言っても、すっかり愛想をつかすようなことはあるまいと存じまして、いろいろと言ってみましたが、別れるでもなくと、探し出させようと行方を晦ますのでもなく、きまり悪くないように返事をしいし、ただ、『以前のような心のままでは、とても我慢できません。改心して落ち着くならば、また一緒に暮らしましょう』などと言いましたが、そうは言っても思い切れまいと存じましたので、少し懲らしめようという気持ちから、『そのように改めよう』とも言わず、ひどく強情を張って見せていたところ、とてもひどく思い嘆いて、亡くなってしまいましたので、冗談もほどほどにと存じられました。<BR>⏎ <P>⏎ | 115-116 | 艶やかな和歌も詠まず、思わせぶりな手紙も書き残さず、もっぱらそっけなく無愛想であったので、拍子抜けした気がして、口やかましく容赦なかったのも、自分を嫌になってくれ,と思う気持ちがあったからだろうかと、そのようには存じられなかったのですが、おもしろくないままそう思ったのですが、着るべき物が、いつもより念を入れた色合いや、仕立て方がとても素晴らしくて、やはり離別した後までも、気を配って世話してくれていたのでした。<BR>⏎ そうは言っても、すっかり愛想をつかすようなことはあるまいと存じまして、いろいろと言ってみましたが、別れるでもなくと、探し出させようと行方を晦ますのでもなく、きまり悪くないように返事をしいし、ただ,『以前のような心のままでは、とても我慢できません。改心して落ち着くならば、また一緒に暮らしましょう』などと言いましたが、そうは言っても思い切れまいと存じましたので、少し懲らしめようという気持ちから、『そのように改めよう』とも言わず、ひどく強情を張って見せていたところ、とてもひどく思い嘆いて、亡くなってしまいましたので、冗談もほどほどにと存じられました。<BR>⏎ |
| d1 | 190 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 191-196 | と言って、とてもしみじみと思い出していた。中将が、<BR>⏎ <P>⏎ 「その織姫の技量はひとまずおいても、永い夫婦の契りだけにはあやかりたいものだったね。なるほど、その龍田姫の錦の染色の腕前には、誰も及ぶ者はいないだろうね。ちょっとした花や紅葉といっても、季節の色合いが相応しくなく、はっきりとしていないのは、何の見映えもなく、台なしになってしまうものだ。そうだからこそ、難しいものだと決定しかねるのですな」<BR>⏎ <P>⏎ と、話をはずまされる。<BR>⏎ <P>⏎ | 118-120 | と言って,とてもしみじみと思い出していた。中将が、<BR>⏎ 「その織姫の技量はひとまずおいても、永い夫婦の契りだけにはあやかりたいものだったね。なるほど,その龍田姫の錦の染色の腕前には、誰も及ぶ者はいないだろうね。ちょっとした花や紅葉といっても、季節の色合いが相応しくなく、はっきりとしていないのは、何の見映えもなく,台なしになってしまうものだ。そうだからこそ、難しいものだと決定しかねるのですな」<BR>⏎ と,話をはずまされる。<BR>⏎ |
| version02 | 197 | <A NAME="in22">[第二段 左馬頭の体験談(浮気な女の物語)]</A><BR> | 121 | |
| d1 | 198 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 199-202 | 「ところで、また同じころに、通っていました女は、人品も優れ気の働かせ方もまことに嗜みがあると思われるように、素早く歌を詠み、すらすらと書き、掻いつま弾く琴の音色、その腕前や詠みぶりが、みな確かであると、見聞きしておりました。見た目にも無難でございましたので、先程の嫉妬深い女を気の置けない通い所にして、時々隠れて逢っていました間は、格段に気に入っておりました。今の女が亡くなって後は、どうしましょう、かわいそうだとは思いながらも死んでしまったものは仕方がないので、頻繁に通うようになってみますと、少し派手で婀娜っぽく風流めかしていることは、気に入らないところがあったので、頼りにできる女とは思わずに、途絶えがちにばかり通っておりましたら、こっそり心を通じている男がいたらしいのです。<BR>⏎ <P>⏎ 神無月の時節ごろ、月の美しかった夜に、内裏から退出いたしますに、ある殿上人が来合わせて、わたしの車に同乗していましたので、大納言殿の家へ行って泊まろうとすると、この人が言うことには、『今宵は、わたしを待っているだろう女が、妙に気にかかるよ』と言って、先程の女の家は、なんとしても通らなけれならない道に当たっていたので、荒れた築地塀の崩れから池の水に月の光が映っていて、月でさえ泊まるこの宿をこのまま通り過ぎてしまうのも惜しいというので、降りたのでございました。<BR>⏎ <P>⏎ | 122-123 | 「ところで,また同じころに、通っていました女は、人品も優れ気の働かせ方もまことに嗜みがあると思われるように、素早く歌を詠み、すらすらと書き、掻いつま弾く琴の音色、その腕前や詠みぶりが、みな確かであると、見聞きしておりました。見た目にも無難でございましたので、先程の嫉妬深い女を 気の置けない通い所にして、時々隠れて逢っていました間は、格段に気に入っておりました。今の女が亡くなって後は、どうしましょう、かわいそうだとは思いながらも死んでしまったものは仕方がないので、頻繁に通うようになってみますと、少し派手で婀娜っぽく風流めかしていることは、気に入らないところがあったので、頼りにできる女とは思わずに、途絶えがちにばかり通っておりましたら、こっそり心を通じている男がいたらしいのです。<BR>⏎ 神無月の時節ごろ、月の美しかった夜に、内裏から退出いたしますに、ある殿上人が来合わせて、わたしの車に同乗していましたので、大納言殿の家へ行って泊まろうとすると、この人が言うことには、『今宵は,わたしを待っているだろう女が、妙に気にかかるよ』と言って、先程の女の家は、なんとしても通らなけれならない道に当たっていたので、荒れた築地塀の崩れから池の水に月の光が映っていて、月でさえ泊まるこの宿をこのまま通り過ぎてしまうのも惜しいというので、降りたのでございました。<BR>⏎ |
| d1 | 204 | <P>⏎ | ||
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| d1 | 208 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 209-211 | 『琴の音色も月も素晴らしいお宅ですが<BR>⏎ 薄情な方を引き止めることができなかったようですね<BR>⏎ <P>⏎ | 127 | 『琴の音色も月も素晴らしいお宅ですが<BR> 薄情な方を引き止めることができなかったようですね<BR>⏎ |
| d1 | 213 | <P>⏎ | ||
| cd12:5 | 214-225 | 『冷たい木枯らしに合うようなあなたの笛の音を<BR>⏎ 引きとどめる術をわたしは持ち合わせていません』<BR>⏎ <P>⏎ と色っぽく振る舞い合います。憎らしくなってきたのも知らずに、今度は、筝の琴を盤渉調に調えて、今風に掻き鳴らす爪音は、才能が無いではないが、目を覆いたい気持ちが致しました。ただ時々に言葉を交わす宮仕え人などで、どこまでも色っぽく風流なのは、そうであっても付き合うには興味もありましょう。時々であっても、通い妻として生涯の伴侶と致しますには、頼りなく風流すぎると嫌気がさして、その夜のことに口実をつくって、通うのをやめてしまいました。<BR>⏎ <P>⏎ この二つの例を考え合わせますと、若い時の考えでさえも、やはりそのように派手な女の例は、とても不安で頼りなく思われました。今から以後は、いっそうそのようにばかり思わざるを得ません。お気持ちのままに、手折るとこぼれ落ちてしまいそうな萩の露や、拾ったと思うと消えてしまう玉笹の上の霰などのような、しゃれていてか弱く風流なのばかりが、興味深くお思いでしょうが、今はそうであっても、七年余りのうちにお分かりになるでしょう。わたくしめごとき、わたくしごとき卑賤の者の忠告として、色っぽくなよなよとした女性にはお気をつけなさいませ。間違いを起こして、相手の男の愚かな評判までも立ててしまうものです」<BR>⏎ <P>⏎ と、忠告する。頭中将は例によってうなずく。源氏の君は少し微笑んで、そういうものだろうとお思いのようである。<BR>⏎ <P>⏎ 「どちらの話にしても、体裁の悪くみっともない体験談だね」<BR>⏎ と言って、皆でどっと笑い興じられる。<BR>⏎ <P>⏎ | 129-133 | 『冷たい木枯らしに合うようなあなたの笛の音を<BR> 引きとどめる術をわたしは持ち合わせていません』<BR>⏎ と色っぽく振る舞い合います. 憎らしくなってきたのも知らずに、今度は,筝の琴を盤渉調に調えて、今風に掻き鳴らす爪音は、才能が無いではないが、目を覆いたい気持ちが致しました。ただ時々に言葉を交わす宮仕え人などで、どこまでも色っぽく風流なのは、そうであっても付き合うには興味もありましょう。時々であっても、通い妻として生涯の伴侶と致しますには、頼りなく風流すぎると嫌気がさして、その夜のことに口実をつくって、通うのをやめてしまいました。<BR>⏎ この二つの例を考え合わせますと、若い時の考えでさえも、やはりそのように派手な女の例は、とても不安で頼りなく思われました。今から以後は、いっそうそのようにばかり思わざるを得ません。お気持ちのままに、手折るとこぼれ落ちてしまいそうな萩の露や、拾ったと思うと消えてしまう玉笹の上の霰などのような、しゃれていてか弱く風流なのばかりが、興味深くお思いでしょうが、今はそうであっても、七年余りのうちにお分かりになるでしょう。わたくしめごとき,わたくしごとき卑賤の者の忠告として、色っぽくなよなよとした女性にはお気をつけなさいませ。間違いを起こして、相手の男の愚かな評判までも立ててしまうものです」<BR>⏎ と,忠告する。頭中将は 例によってうなずく。源氏の君は少し微笑んで、そういうものだろうとお思いのようである。<BR>⏎ 「どちらの話にしても、体裁の悪くみっともない体験談だね」と言って、皆でどっと笑い興じられる。<BR>⏎ |
| version02 | 226 | <A NAME="in23">[第三段 頭中将の体験談(常夏の女の物語)]</A><BR> | 134 | |
| d1 | 227 | <P>⏎ | ||
| d1 | 230 | <P>⏎ | ||
| d1 | 232 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 233-240 | そのような辛いことがあったのかとも知らず、心中では忘れていないとはいうものの、便りなども出さずに長い間おりましたところ、すっかり悲観して不安だったので、幼い子供もいたので思い悩んで、撫子の花を折って、送って寄こしました」と言って涙ぐんでいる。<BR>⏎ <P>⏎ 「それで、その手紙には」とお尋ねになると、<BR>⏎ 「いや、格別なことはありませんでしたよ。<BR>⏎ <P>⏎ 『山家の垣根は荒れていても時々は<BR>⏎ かわいがってやってください撫子の花を』<BR>⏎ <P>⏎ | 138-141 | そのような辛いことがあったのかとも知らず、心中では忘れていないとはいうものの、便りなども出さずに長い間おりましたところ、すっかり悲観して不安だったので、幼い子供もいたので思い悩んで、撫子の花を折って,送って寄こしました」と言って涙ぐんでいる。<BR>⏎ 「それで,その手紙には」とお尋ねになると、<BR>⏎ 「いや,格別なことはありませんでしたよ。<BR>⏎ 『山家の垣根は荒れていても時々は<BR> かわいがってやってください撫子の花を』<BR>⏎ |
| d1 | 242 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 243-245 | 『庭にいろいろ咲いている花はいずれも皆美しいが<BR>⏎ やはり常夏の花が一番美しく思われます』<BR>⏎ <P>⏎ | 143 | 『庭にいろいろ咲いている花はいずれも皆美しいが<BR> やはり常夏の花が一番美しく思われます』<BR>⏎ |
| d1 | 247 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 248-250 | 『床に積もる塵を払う袖を涙に濡れている常夏に<BR>⏎ さらに激しい風の吹きつける秋までが来ました』<BR>⏎ <P>⏎ | 145 | 『床に積もる塵を払う袖を涙に濡れている常夏に<BR> さらに激しい風の吹きつける秋までが来ました』<BR>⏎ |
| d1 | 252 | <P>⏎ | ||
| d1 | 254 | <P>⏎ | ||
| d1 | 256 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 257-258 | それだから、あの嫉妬深い女も、思い出される女としては忘れ難いけれども、実際に結婚生活を続けて行くのにはうるさいしね、悪くすると、嫌になることもありましょうよ。琴が素晴らしい才能だったという女も、浮気な欠点は重大でしょう。この頼りない女も、疑いが出て来ましょうから、どちらが良いとも結局は決定しがたいのだ。男女の仲は、ただこのようなものだ。それぞれに優劣をつけるのは難しいことで。このそれぞれの良いところばかりを身に備えて、非難される点を持たない女は、どこにいましょうか。吉祥天女に思いをかけようとすれば、抹香臭くなり、人間離れしているのも、また、おもしろくないでしょう」と言って、皆笑った。<BR>⏎ <P>⏎ | 149 | それだから,あの嫉妬深い女も、思い出される女としては忘れ難いけれども、実際に結婚生活を続けて行くのにはうるさいしね、悪くすると、嫌になることもありましょうよ。琴が素晴らしい才能だったという女も、浮気な欠点は重大でしょう。この頼りない女も、疑いが出て来ましょうから、どちらが良いとも結局は決定しがたいのだ。男女の仲は、ただこのようなものだ。それぞれに優劣をつけるのは難しいことで。このそれぞれの良いところばかりを身に備えて、非難される点を持たない女は、どこにいましょうか。吉祥天女に思いをかけようとすれば、抹香臭くなり、人間離れしているのも、また,おもしろくないでしょう」と言って、皆笑った。<BR>⏎ |
| version02 | 259 | <A NAME="in24">[第四段 式部丞の体験談(畏れ多い女の物語)]</A><BR> | 150 | |
| d1 | 260 | <P>⏎ | ||
| d1 | 262 | <P>⏎ | ||
| d1 | 264 | <P>⏎ | ||
| d1 | 266 | <P>⏎ | ||
| cd8:5 | 267-274 | 「まだ文章生でございました時、畏れ多い女性の例を拝見しました。先程、左馬頭が申されましたように、公事をも相談し、私生活の面での心がけも考え廻らすこと深く、漢学の才能はなまじっかの博士が恥ずかしくなる程で、万事口出すことは何もございませんでした。<BR>⏎ <P>⏎ それは、ある博士のもとで学問などを致そうと思って、通っておりましたころに、主人の博士には娘が多くいるとお聞き致しまして、ちょっとした折に言い寄りましたところ、父親が聞きつけて、盃を持って出て来て、『わたしが両つの途を歌うのを聴け』と謡いかけてきましたが、少しも結婚してもよいと思って通っていませんで、あの父親の気持ちに気兼ねして、そうは言うもののかかずらっておりましたところ、とても情け深く世話をし、閨房の語らいにも、身に学問がつき、朝廷に仕えるのに役立つ学問的なことを教えてくれて、とても見事に手紙文にも仮名文字というものを書き交ぜず、本格的に漢文で表現しますので、ついつい別れることができずに、その女を先生として、下手な漢詩文を作ることなどを習いましたので、今でもその恩は忘れませんが、慕わしい妻として頼りにするには、無学のわたしは、どことなく劣った振る舞いなど見られましょうから、恥ずかしく思われました。ましてあなた様方の御ためには、しっかりして手ぬかりのない奥方様は、何の必要がおありあそばしましょうか。つまらない、残念だ、と一方では思いながらも、ただ自分の気に入り、宿縁もあるようでございますので、男という者は、他愛のないもののようでございます」<BR>⏎ <P>⏎ と申し上げるので、続きを言わせようとして、「それにしてもまあ、何と興味ある女だろうか」と、おだてなさるのを、そうとは知りながらも、鼻のあたりをおかしなかっこうさせて語り続ける。<BR>⏎ <P>⏎ 「そうして、ずいぶん長く行きませんでしたが、何かのついでに立ち寄ってみましたところ、いつものくつろいだ部屋にはおりませんで、不愉快な物を隔てて逢のでございます。嫉妬しているのかと、ばかばかしくもあり、また、別れるのにちょうど良い機会だと存じましたが、この畏れ多い女という者は、軽々しい嫉妬をするはずもなく、男女の仲を心得ていて恨み言を言いませんでした。<BR>⏎ <P>⏎ | 154-158 | 「まだ文章生でございました時、畏れ多い女性の例を拝見しました。先程,左馬頭が申されましたように、公事をも相談し、私生活の面での心がけも考え廻らすこと深く、漢学の才能はなまじっかの博士が恥ずかしくなる程で、万事口出すことは何もございませんでした。<BR>⏎ それは,ある博士のもとで学問などを致そうと思って、通っておりましたころに、主人の博士には娘が多くいるとお聞き致しまして、ちょっとした折に言い寄りましたところ、父親が聞きつけて、盃を持って出て来て、『わたしが両つの途を歌うのを聴け』と 謡いかけてきましたが、少しも結婚してもよいと思って通っていませんで、あの父親の気持ちに気兼ねして、そうは言うもののかかずらっておりましたところ、とても情け深く世話をし、閨房の語らいにも、身に学問がつき、朝廷に仕えるのに役立つ学問的なことを教えてくれて、とても見事に手紙文にも仮名文字というものを書き交ぜず、本格的に漢文で表現しますので、ついつい別れることができずに、その女を先生として、下手な漢詩文を作ることなどを習いましたので、今でもその恩は忘れませんが、慕わしい妻として頼りにするには、無学のわたしは、どことなく劣った振る舞いなど見られましょうから、恥ずかしく思われました。<BR>⏎ ましてあなた様方の御ためには、しっかりして手ぬかりのない奥方様は、何の必要がおありあそばしましょうか。つまらない、残念だ、と一方では思いながらも、ただ自分の気に入り、宿縁もあるようでございますので、男という者は、他愛のないもののようでございます」<BR>⏎ と申し上げるので、続きを言わせようとして、「それにしてもまあ,何と興味ある女だろうか」と,おだてなさるのを、そうとは知りながらも、鼻のあたりをおかしなかっこうさせて語り続ける。<BR>⏎ 「そうして,ずいぶん長く行きませんでしたが、何かのついでに立ち寄ってみましたところ、いつものくつろいだ部屋にはおりませんで、不愉快な物を隔てて逢のでございます。嫉妬しているのかと、ばかばかしくもあり、また,別れるのにちょうど良い機会だと存じましたが、この畏れ多い女という者は、軽々しい嫉妬をするはずもなく、男女の仲を心得ていて恨み言を言いませんでした。<BR>⏎ |
| d1 | 276 | <P>⏎ | ||
| d1 | 278 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 279-280 | と、いかにも殊勝にもっともらしく言います。返事には何と言えようか。ただ、『承知しました』とだけ言って、立ち去ります時に、物足りなく思ったのでしょうか、<BR>⏎ <P>⏎ | 161 | と,いかにも殊勝にもっともらしく言います。返事には何と言えようか。ただ,『承知しました』とだけ言って、立ち去ります時に、物足りなく思ったのでしょうか、<BR>⏎ |
| d1 | 282 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 283-284 | 『蜘蛛の動きでわたしの来ることがわかっているはずの夕暮に<BR>⏎ 蒜が臭っている昼間が過ぎるまでまで待てと言うのは訳がわかりません<BR>⏎ | 163 | 『蜘蛛の動きでわたしの来ることがわかっているはずの夕暮に<BR> 蒜が臭っている昼間が過ぎるまでまで待てと言うのは訳がわかりません<BR>⏎ |
| d1 | 286 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 287-291 | と、言い終わらず逃げ出しましたところ、追いかけて、<BR>⏎ <P>⏎ 『逢うことが一夜も置かずに逢っている夫婦仲ならば<BR>⏎ 蒜の臭っている昼間逢ったからとてどうして恥ずかしいことがありましょうか』<BR>⏎ <P>⏎ | 165-166 | と,言い終わらず逃げ出しましたところ、追いかけて、<BR>⏎ 『逢うことが一夜も置かずに逢っている夫婦仲ならば<BR> 蒜の臭っている昼間逢ったからとてどうして恥ずかしいことがありましょうか』<BR>⏎ |
| d1 | 293 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 294-295 | と、落ち着いて申し上げるので、公達は興醒めに思って、「嘘だ」と言ってお笑いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 168 | と,落ち着いて申し上げるので、公達は興醒めに思って、「嘘だ」と言ってお笑いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 297 | <P>⏎ | ||
| d1 | 299 | <P>⏎ | ||
| d1 | 301 | <P>⏎ | ||
| d1 | 303 | <P>⏎ | ||
| d1 | 305 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 306-309 | 三史五経といった学問的な方面を、本格的に理解するというのは、好感の持てないことですが、どうして女だからといって、世の中の公私の事々につけて、まったく知りませんできませんと言っていられましょうか。本格的に勉強しなくても、少しでも才能のあるような人は、耳から目から入って来ることが、自然に多いはずです。<BR>⏎ <P>⏎ そのようなことから、漢字をさらさらと走り書きして、お互いに書かないはずの女どうしの手紙文にも、半分以上書き交ぜているのは、ああ何と厭味な、この人が女らしかったらいいのになあと思われます。気持ちの上ではそんなにも思わないでしょうが、自然とごつごつした声に読まれ読まれして、わざとらしく感じられます。上流の中にも多く見られることです。<BR>⏎ <P>⏎ | 174-175 | 三史五経といった 学問的な方面を、本格的に理解するというのは、好感の持てないこと ですが,どうして 女だからといって、世の中の公私の事々につけて、まったく知りませんできませんと言っていられましょうか。本格的に勉強しなくても、少しでも才能のあるような人は、耳から目から入って来ることが、自然に多いはずです。<BR>⏎ そのようなことから、漢字をさらさらと走り書きして、お互いに書かないはずの女どうしの手紙文にも、半分以上書き交ぜているのは、ああ何と厭味な、この人が女らしかったらいいのになあと思われます。気持ちの上ではそんなにも思わないでしょうが、自然とごつごつした声に読まれ読まれして、わざとらしく感じられます。上流の中にも 多く見られることです。<BR>⏎ |
| d1 | 311 | <P>⏎ | ||
| d1 | 313 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 314-317 | 万事につけて、どうしてそうするのか、そうしなくとも、と思われる折々に、時々、分別できない程度の思慮では、気取ったり風流めかしたりしないほうが無難でしょう。<BR>⏎ <P>⏎ 総じて、心の中では知っているようなことでも、知らない顔をして、言いたいことも、一つ二つは言わないでおくのが良いというものでしょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 178-179 | 万事につけて、どうしてそうするのか、そうしなくとも,と思われる折々に、時々、分別できない程度の思慮では、気取ったり風流めかしたりしないほうが無難でしょう。<BR>⏎ 総じて,心の中では知っているようなことでも、知らない顔をして、言いたいことも、一つ二つは言わないでおくのが良いというものでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 320 | <P>⏎ | ||
| version02 | 321 | <H4>第三章 空蝉の物語</H4> | 182 | |
| version02 | 322 | <A NAME="in31">[第一段 天気晴れる]</A><BR> | 183 | |
| d1 | 323 | <P>⏎ | ||
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 326-327 | 邸内の有様や、姫君の様子も、端麗で気高く、くずれたところがなく、やはり、この女君こそは、あの、人びとが捨て置き難く取り上げた実直な妻としては信頼できるだろう、とお思いになる一方では、度を過ぎて端麗なご様子で、打ち解けにくく気づまりな感じにとり澄ましていらっしゃるのが物足りなくて、中納言の君や中務などといった、人並み優れている若い女房たちに、冗談などをおっしゃりおっしゃりして、暑さにお召し物もくつろげていらっしゃるお姿を、素晴らしく美しい、と思い申し上げている。<BR>⏎ <P>⏎ | 185 | 邸内の有様や、姫君の様子も、端麗で気高く、くずれたところがなく、やはり,この女君こそは、あの,人びとが捨て置き難く取り上げた実直な妻としては信頼できるだろう、とお思いになる一方では、度を過ぎて端麗なご様子で、打ち解けにくく気づまりな感じにとり澄ましていらっしゃるのが物足りなくて、中納言の君や中務などといった、人並み優れている若い女房たちに、冗談などをおっしゃりおっしゃりして、暑さにお召し物もくつろげていらっしゃるお姿を、素晴らしく美しい、と思い申し上げている。<BR>⏎ |
| d1 | 329 | <P>⏎ | ||
| d1 | 332 | <P>⏎ | ||
| c1 | 333 | 「そうですわ。普通は、お避けになる方角でありますよ」<BR>⏎ | 189 | 「そうですわ. 普通は,お避けになる方角でありますよ」<BR>⏎ |
| d1 | 335 | <P>⏎ | ||
| d1 | 337 | <P>⏎ | ||
| d1 | 339 | <P>⏎ | ||
| d1 | 341 | <P>⏎ | ||
| d1 | 343 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 344-347 | 「伊予守の朝臣の家に、慎み事がございまして、女房たちが来ている時なので、狭い家でございますので、失礼に当たる事がありはしないか」<BR>⏎ <P>⏎ と、陰で嘆息しているのをお聞きになって、<BR>⏎ <P>⏎ | 195-196 | 「伊予守の朝臣の家に,慎み事がございまして、女房たちが来ている時なので、狭い家でございますので、失礼に当たる事がありはしないか」<BR>⏎ と,陰で嘆息しているのをお聞きになって、<BR>⏎ |
| d1 | 349 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 350-351 | 「なるほど、適当なご座所で」と言って、使いの者を走らせる。とてもこっそりと、格別に大げさでない所をと、急いでお出になるので、左大臣殿にもご挨拶なさらず、お供にも親しい者ばかり連れておいでになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 198 | 「なるほど,適当なご座所で」と言って、使いの者を走らせる。とてもこっそりと、格別に大げさでない所をと、急いでお出になるので、左大臣殿にもご挨拶なさらず、お供にも親しい者ばかり連れておいでになった。<BR>⏎ |
| version02 | 352 | <A NAME="in32">[第二段 紀伊守邸への方違へ]</A><BR> | 199 | |
| d1 | 353 | <P>⏎ | ||
| d1 | 355 | <P>⏎ | ||
| cd4:3 | 356-359 | 供人たちは、渡殿の下から湧き出ている泉に臨んで座って、酒を飲む。主人の紀伊守もご馳走の準備に走り回っている間、源氏の君はゆったりとお眺めになって、あの人たちが、中の品の例に挙げていたのは、きっとこういう程度の家の女性なのだろう、とお思い出しになる。<BR>⏎ <P>⏎ 高い望みをもっていたようにお耳になさっていた女性なので、どのような女性かと知りたくて耳を澄ましていらっしゃると、この寝殿の西面に人のいる様子がする。衣ずれの音がさらさらとして、若い女性の声々が愛らしい。そうは言っても小声で、笑ったりなどする様子は、わざとらしい。格子を上げてあったが、紀伊守が、「不用意な」と小言を言って下ろしてしまったので、火を灯している明りが、襖障子の上から漏れているので、そっとお近寄りになって、「見えるだろうか」とお思いになるが、隙間もないので、少しの間お聞きになっていると、自分に近い方の母屋に集っているのであろう、ひそひそ話している内容をお聞きになると、ご自分の噂話のようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 201-203 | 供人たちは、渡殿の下から湧き出ている泉に臨んで座って、酒を飲む。主人の紀伊守もご馳走の準備に走り回っている間、源氏の君はゆったりとお眺めになって、あの人たちが,中の品の例に挙げていたのは、きっとこういう程度の家の女性なのだろう、とお思い出しになる。<BR>⏎ 高い望みをもっていたようにお耳になさっていた女性なので、どのような女性かと知りたくて耳を澄ましていらっしゃると、この寝殿の西面に人のいる様子がする。衣ずれの音がさらさらとして、若い女性の声々が愛らしい。そうは言っても小声で、笑ったりなどする様子は、わざとらしい。<BR>⏎ 格子を上げてあったが、紀伊守が、「不用意な」と小言を言って下ろしてしまったので、火を灯している明りが、襖障子の上から漏れているので、そっとお近寄りになって、「見えるだろうか」とお思いになるが、隙間もないので、少しの間お聞きになっていると、自分に近い方の母屋に集っているのであろう、ひそひそ話している内容をお聞きになると、ご自分の噂話のようである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 361-362 | 「でも、人の知らない所では、うまくもまあ、隠れて通っていらっしゃるということですよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 205 | 「でも,人の知らない所では、うまくもまあ、隠れて通っていらっしゃるということですよ」<BR>⏎ |
| d1 | 364 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 365-366 | 別段のこともないので、途中まで聞いてお止めになった。式部卿宮の姫君に、朝顔の花を差し上げなさった時の和歌などを、少し文句を違えて語るのが聞こえる。「ゆったりと和歌を口にすることよ、やはり見劣りすることだろう」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 207 | 別段のこともないので、途中まで聞いてお止めになった。式部卿宮の姫君に,朝顔の花を差し上げなさった時の和歌などを、少し文句を違えて語るのが聞こえる。「ゆったりと 和歌を口にすることよ、やはり見劣りすることだろう」とお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 368 | <P>⏎ | ||
| d1 | 370 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 371-378 | 「はて、何がお気に召しますやら、わかりませんので」と、恐縮して控えている。端の方のご座所に、うたた寝といったふうに横におなりになると、供人たちも静かになった。<BR>⏎ <P>⏎ 主人の子供たちが、かわいらしい様子をしている。その子供で、童殿上している間に見慣れていらっしゃっるのもいる。伊予介の子もいる。大勢いる中で、とても感じが上品で、十二、三歳くらいになるのもいる。<BR>⏎ <P>⏎ 「どの子が誰の子か」などと、お尋ねになると、<BR>⏎ <P>⏎ 「この子は、故衛門督の末っ子で、大変にかわいがっておりましたが、まだ幼いうちに親に先立たれまして、姉につながる縁で、こうしてここにいるわけでございます。学問などもできそうで、悪くはございませんが、童殿上なども考えておりますが、すらすらとはできませんようで」と申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 210-213 | 「はて,何がお気に召しますやら、わかりませんので」と、恐縮して控えている。端の方のご座所に、うたた寝といったふうに横におなりになると、供人たちも静かになった。<BR>⏎ 主人の子供たちが、かわいらしい様子をしている。その子供で、童殿上している間に見慣れていらっしゃっるのもいる。伊予介の子もいる。大勢いる中で、とても感じが上品で、十二,三歳くらいになるのもいる。<BR>⏎ 「どの子が誰の子か」などと,お尋ねになると、<BR>⏎ 「この子は,故衛門督の末っ子で、大変にかわいがっておりましたが、まだ幼いうちに親に先立たれまして、姉につながる縁で、こうしてここにいるわけでございます。学問などもできそうで、悪くはございませんが、童殿上なども考えておりますが、すらすらとはできませんようで」と申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 380 | <P>⏎ | ||
| d1 | 382 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 383-386 | 「年に似合わない継母を、持ったことだなあ。主上におかれてもお耳にお忘れにならず、『宮仕えに差し上げたいと、ちらと奏上したことは、その後どうなったのか』と、いつであったか仰せられた。人の世とは無常なものだ」と、とても大人びておっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ 「思いがけず、こうしているのでございます。男女の仲と言うものは、所詮、そのようなものばかりで、今も昔も、どうなるか分からないものでございます。中でも、女の運命は定めないのが、哀れでございます」などと申し上げて途中で止める。<BR>⏎ <P>⏎ | 216-217 | 「年に似合わない継母を、持ったことだなあ。主上におかれてもお耳にお忘れにならず、『宮仕えに差し上げたいと,ちらと奏上したことは、その後どうなったのか』と、いつであったか仰せられた。人の世とは無常なものだ」と、とても大人びておっしゃる。<BR>⏎ 「思いがけず、こうしているのでございます。男女の仲と言うものは、所詮,そのようなものばかりで、今も昔も、どうなるか分からないものでございます。中でも、女の運命は定めないのが、哀れでございます」などと申し上げて途中で止める。<BR>⏎ |
| d1 | 388 | <P>⏎ | ||
| d1 | 390 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 391-396 | 「そうは言っても、そなたたちのような年に相応しく当世風の人に、譲るであろうか。あの伊予介は、なかなか風流心があって、気取っているからな」などと、お話なさって、<BR>⏎ <P>⏎ 「で、どこに」<BR>⏎ <P>⏎ 「皆、下屋に下がらせましたが、まだ下がりきらないで残っているかも知れません」と申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 220-222 | 「そうは言っても、そなたたちのような年に相応しく当世風の人に、譲るであろうか。あの伊予介は、なかなか風流心があって,気取っているからな」などと、お話なさって、<BR>⏎ 「で,どこに」<BR>⏎ 「皆,下屋に下がらせましたが、まだ下がりきらないで残っているかも知れません」と申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 398 | <P>⏎ | ||
| version02 | 399 | <A NAME="in33">[第三段 空蝉の寝所に忍び込む]</A><BR> | 224 | |
| d1 | 400 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 401-402 | 源氏の君は、気を落ち着けてお寝みにもなれず、空しい一人寝だと思われるとお目も冴えて、この北の襖障子の向こう側に人のいる様子がするので、「ここが、話に出た女が隠れている所であろうか、かわいそうな」とご関心をもって、静かに起き上がって立ち聞きなさると、先程の子供の声で、<BR>⏎ <P>⏎ | 225 | 源氏の君は、気を落ち着けてお寝みにもなれず、空しい一人寝だと思われるとお目も冴えて、この北の襖障子の向こう側に人のいる様子がするので、「ここが,話に出た女が隠れている所であろうか、かわいそうな」とご関心をもって、静かに起き上がって立ち聞きなさると、先程の子供の声で、<BR>⏎ |
| d1 | 404 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 405-408 | と、かすれた声で、かわいらしく言うと、<BR>⏎ <P>⏎ 「ここに臥せっています。お客様はお寝みになりましたか。どんなにお近かろうかと心配していましたが、でも、遠そうだわね」<BR>⏎ <P>⏎ | 227-228 | と,かすれた声で,かわいらしく言うと、<BR>⏎ 「ここに臥せっています。お客様はお寝みになりましたか。どんなにお近かろうかと心配していましたが、でも,遠そうだわね」<BR>⏎ |
| d1 | 410 | <P>⏎ | ||
| d1 | 412 | <P>⏎ | ||
| d1 | 414 | <P>⏎ | ||
| d1 | 416 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 417-420 | 「わたしは、端に寝ましょう。ああ、疲れた」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、灯心を引き出したりしているのであろう。女君は、ちょうどこの襖障子口の斜め向こう側に臥しているのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 233-234 | 「わたしは、端に寝ましょう。ああ,疲れた」<BR>⏎ と言って,灯心を引き出したりしているのであろう。女君は、ちょうどこの襖障子口の斜め向こう側に臥しているのであろう。<BR>⏎ |
| d1 | 422 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 423-426 | と言うらしい、すると、長押の下の方で、女房たちは臥したまま答えているらしい。<BR>⏎ <P>⏎ 「下屋に、お湯を使いに下りていますが。『すぐに参ります』とのことでございます」と言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 236-237 | と言うらしい,すると、長押の下の方で、女房たちは臥したまま答えているらしい。<BR>⏎ 「下屋に,お湯を使いに下りていますが。『すぐに参ります』とのことでございます」と言う。<BR>⏎ |
| d1 | 428 | <P>⏎ | ||
| d1 | 430 | <P>⏎ | ||
| d1 | 432 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 433-436 | 「突然のことで、一時の戯れ心とお思いになるのも、ごもっともですが、長年、恋い慕っていましたわたしの気持ちを、聞いていただきたいと思いまして。このような機会を待ち受けていたのも、決していい加減な気持ちからではない深い前世からの縁と、お思いになって下さい」<BR>⏎ <P>⏎ と、とても優しくおっしゃって、鬼神さえも手荒なことはできないような態度なので、ぶしつけに「ここに、変な人が」とも、大声が出せない。気分は辛く、あってはならない事だと思うと、情けなくなって、<BR>⏎ <P>⏎ | 241-242 | 「突然のことで、一時の戯れ心とお思いになるのも、ごもっともですが、長年,恋い慕っていましたわたしの気持ちを、聞いていただきたいと思いまして。このような機会を待ち受けていたのも、決していい加減な気持ちからではない深い前世からの縁と、お思いになって下さい」<BR>⏎ と,とても優しくおっしゃって、鬼神さえも手荒なことはできないような態度なので、ぶしつけに 「ここに,変な人が」とも、大声が出せない。気分は 辛く、あってはならない事だと思うと、情けなくなって、<BR>⏎ |
| d1 | 439 | <P>⏎ | ||
| d1 | 441 | <P>⏎ | ||
| cd14:7 | 442-455 | と言って、とても小柄なので、抱き上げて襖障子までお出になるところへ、呼んでいた中将らしい女房が来合わせた。<BR>⏎ <P>⏎ 「これ、これ」とおっしゃると、不審に思って手探りで近づいたところ、大変に薫物の香があたり一面に匂っていて、顔にまで匂いかかって来るような感じがするので、理解がついた。意外なことで、これはどうしたことかと、おろおろしないではいられないが、何とも申し上げようもない。普通の男ならば、手荒に引き放すこともしようが、それでさえ大勢の人が知ったらどうであろうか。胸がどきどきして、後からついて来たが、平然として、奥のご座所にお入りになった。<BR>⏎ <P>⏎ 襖障子を引き閉てて、「明朝、お迎えに参られよ」とおっしゃるので、女は、この女房がどう思うかまでが、死ぬほど耐えられないので、流れ出るほどの汗びっしょりになって、とても悩ましい様子でいる、それは、気の毒であるが、例によって、どこから出てくる言葉であろうか、愛情がわかるほどに、優しく優しく、言葉を尽くしておっしゃるようだが、やはりまことに情けないので、<BR>⏎ <P>⏎ 「真実のこととは思われません。しがない身の上ですが、お貶みなさったお気持ちのほどを、どうして浅いお気持ちと存ぜずにいられましょうか。まことに、このような身分の女には、それなりの生き方がございます」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、このように無体なことをなさっているのを、深く思いやりがなく嫌なことだと思い込んでいる様子も、なるほど気の毒で、気後れがするほど立派な態度なので、<BR>⏎ <P>⏎ 「おっしゃる身分身分の違いを、まだ知りません、初めての事ですよ。かえって、わたしを普通の人と同じように思っていらっしゃるのが残念です。自然とお聞きになっているようなこともありましょう。むやみな好色心は、まったく持ち合わせておりませんものを。前世からの因縁でしょうか、おっしゃるように、このように軽蔑されいただくのも、当然なわが惑乱を、自分でも不思議なほどで」<BR>⏎ <P>⏎ などと、真面目になっていろいろとおっしゃるが、まことに類ないご立派さで、ますます打ち解け申し上げることが辛く思われるので、無愛想な気にくわない女だとお見受け申されようとも、そうしたつまらない女として押し通そうと思って、ただそっけなく身を処していた。人柄がおとなしい性質なところに、無理に気強く張りつめているので、しなやかな竹のような感じがして、さすがにたやすく手折れそうにもない。<BR>⏎ <P>⏎ | 246-252 | と言って,とても小柄なので、抱き上げて襖障子までお出になるところへ、呼んでいた中将らしい女房が来合わせた。<BR>⏎ 「これ,これ」とおっしゃると、不審に思って手探りで近づいたところ、大変に薫物の香があたり一面に匂っていて、顔にまで匂いかかって来るような感じがするので、理解がついた。意外なことで、これはどうしたことかと,おろおろしないではいられないが、何とも申し上げようもない。普通の男ならば、手荒に引き放すこともしようが、それでさえ大勢の人が知ったら どうであろうか。胸がどきどきして、後からついて来たが、平然として、奥のご座所にお入りになった。<BR>⏎ 襖障子を引き閉てて、「明朝,お迎えに参られよ」とおっしゃるので、女は、この女房がどう思うかまでが、死ぬほど耐えられないので、流れ出るほどの汗びっしょりになって、とても悩ましい様子でいる、それは,気の毒であるが、例によって、どこから出てくる言葉であろうか、愛情がわかるほどに、優しく優しく,言葉を尽くしておっしゃるようだが、やはりまことに情けないので、<BR>⏎ 「真実のこととは思われません。しがない身の上ですが、お貶みなさったお気持ちのほどを、どうして浅いお気持ちと存ぜずにいられましょうか。まことに,このような身分の女には、それなりの生き方がございます」<BR>⏎ と言って,このように無体なことをなさっているのを、深く思いやりがなく嫌なことだと思い込んでいる様子も、なるほど気の毒で、気後れがするほど立派な態度なので、<BR>⏎ 「おっしゃる身分身分の違いを、まだ知りません、初めての事ですよ。かえって、わたしを普通の人と同じように思っていらっしゃるのが残念です。自然とお聞きになっているようなこともありましょう。むやみな好色心は、まったく持ち合わせておりませんものを。前世からの因縁でしょうか、おっしゃるように,このように軽蔑されいただくのも、当然なわが惑乱を、自分でも不思議なほどで」<BR>⏎ などと,真面目になっていろいろとおっしゃるが、まことに類ないご立派さで、ますます打ち解け申し上げることが辛く思われるので、無愛想な気にくわない女だとお見受け申されようとも、そうしたつまらない女として押し通そうと思って、ただそっけなく身を処していた。人柄がおとなしい性質なところに、無理に気強く張りつめているので、しなやかな竹のような感じがして、さすがにたやすく手折れそうにもない。<BR>⏎ |
| d1 | 457 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 458-463 | 「どうして、こうお嫌いになるのですか。思いがけない逢瀬こそ、前世からの因縁だとお考えなさい。むやみに男女の仲を知らない者のように、泣いていらっしゃるのが、とても辛い」と、恨み言をいわれて、<BR>⏎ <P>⏎ 「とてもこのような情けない身の運命が定まらない、昔のままのわが身で、このようなお気持ちを頂戴したのならば、とんでもない身勝手な希望ですが、愛していただける時もあろううかと存じて慰めましょうに、とてもこのような、一時の仮寝のことを思いますと、どうしようもなく心惑いされてならないのです。たとえ、こうとなりましても、逢ったと言わないで下さいまし」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、悲しんでいる様子は、いかにも道理である。並々ならず行く末を約束し慰めなさる言葉は、きっと多いことであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 254-256 | 「どうして,こうお嫌いになるのですか。思いがけない逢瀬こそ、前世からの因縁だとお考えなさい。むやみに男女の仲を知らない者のように、泣いていらっしゃるのが、とても辛い」と,恨み言をいわれて、<BR>⏎ 「とてもこのような情けない身の運命が定まらない、昔のままのわが身で、このようなお気持ちを頂戴したのならば、とんでもない身勝手な希望ですが、愛していただける時もあろううかと存じて慰めましょうに、とてもこのような,一時の仮寝のことを思いますと、どうしようもなく心惑いされてならないのです。たとえ,こうとなりましても、逢ったと言わないで下さいまし」<BR>⏎ と言って,悲しんでいる様子は、いかにも道理である。並々ならず行く末を約束し慰めなさる言葉は、きっと多いことであろう。<BR>⏎ |
| d1 | 465 | <P>⏎ | ||
| d1 | 468 | <P>⏎ | ||
| d1 | 470 | <P>⏎ | ||
| d1 | 472 | <P>⏎ | ||
| d1 | 474 | <P>⏎ | ||
| cd3:2 | 475-477 | 「どのようにして、お便りを差し上げたらよかろうか。ほんとうに何とも言いようのない、あなたのお気持ちの冷たさといい、慕わしさといい、深く刻みこまれた思い出は、いろいろとめったにないことであったね」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、お泣きになる様子は、とても優美である。<BR>⏎ | 263-264 | 「どのようにして、お便りを差し上げたらよかろうか。ほんとうに何とも言いようのない,あなたのお気持ちの冷たさといい、慕わしさといい、深く刻みこまれた思い出は、いろいろとめったにないことであったね」<BR>⏎ と言って,お泣きになる様子は、とても優美である。<BR>⏎ |
| d1 | 479 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 480-482 | 「あなたの冷たい態度に恨み言を十分に言わないうちに夜もしらみかけ<BR>⏎ 鶏までが取るものも取りあえぬまであわただしく鳴いてわたしを起こそうとするのでしょうか」<BR>⏎ <P>⏎ | 266 | 「あなたの冷たい態度に恨み言を十分に言わないうちに夜もしらみかけ<BR> 鶏までが取るものも取りあえぬまであわただしく鳴いてわたしを起こそうとするのでしょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 484 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 485-487 | 「わが身の辛さを嘆いても嘆き足りないうちに明ける夜は<BR>⏎ 鶏の鳴く音に取り重ねて、わたしも泣かれてなりません」<BR>⏎ <P>⏎ | 268 | 「わが身の辛さを嘆いても嘆き足りないうちに明ける夜は<BR> 鶏の鳴く音に取り重ねて、わたしも泣かれてなりません」<BR>⏎ |
| d1 | 489 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 490-491 | 御直衣などをお召しになって、南面の高欄の側で少しの間眺めていらっしゃる。西面の格子を忙しく上げて、女房たちが覗き見しているようである。簀子の中央に立ててある小障子の上から、わずかにお見えになるお姿を、身に感じ入っている好色な女もいるようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 270 | 御直衣などをお召しになって、南面の高欄の側で少しの間眺めていらっしゃる。西面の格子を忙しく上げて、女房たちが覗き見しているようである。簀子の中央に立ててある小障子の上から,わずかにお見えになるお姿を、身に感じ入っている好色な女もいるようである。<BR>⏎ |
| d1 | 493 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 494-499 | お邸にお帰りになっても、すぐにもお寝みになれない。再び逢える手立てのないのが、自分以上に、あの女が悩んでいるであろう心の中は、どんなであろうかと、気の毒にご想像なさる。「特に優れた所はないが、見苦しくなく身嗜みもとりつくろっていた中の品の女であったな。何でもよく知っている人の言ったことは、なるほど」とうなずかれるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ 最近は左大臣邸にばかりいらっしゃる。やはり、すっかりあれきり途絶えているので、思い悩んでいるであろうことが、気の毒にお心にかかって、心苦しく思い悩みなさって、紀伊守をお召しになった。<BR>⏎ <P>⏎ 「あの、先日の故中納言の子は、わたしに下さらないか。かわいらしげに見えたが。身近に使う者としたい。主上にも、わたしが差し上げたい」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ | 272-274 | お邸にお帰りになっても、すぐにもお寝みになれない。再び逢える手立てのないのが、自分以上に,あの女が悩んでいるであろう心の中は、どんなであろうかと、気の毒にご想像なさる。「特に優れた所はないが、見苦しくなく身嗜みもとりつくろっていた中の品の女であったな。何でもよく知っている人の言ったことは、なるほど」とうなずかれるのであった。<BR>⏎ 最近は左大臣邸にばかりいらっしゃる。やはり,すっかりあれきり途絶えているので、思い悩んでいるであろうことが,気の毒にお心にかかって、心苦しく思い悩みなさって、紀伊守をお召しになった。<BR>⏎ 「あの,先日の故中納言の子は、わたしに下さらないか。かわいらしげに見えたが。身近に使う者としたい。主上にも、わたしが差し上げたい」とおっしゃると、<BR>⏎ |
| d1 | 501 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 502-503 | と、申し上げるにつけても、どきりとなさるが、<BR>⏎ <P>⏎ | 276 | と,申し上げるにつけても、どきりとなさるが、<BR>⏎ |
| d1 | 505 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 506-507 | 「いえ、ございません。この二年ほどは、こうして暮らしておりますが、父親の意向と違ったと嘆いて、気も進まないでいるように、聞いております」<BR>⏎ <P>⏎ | 278 | 「いえ,ございません。この二年ほどは、こうして暮らしておりますが、父親の意向と違ったと嘆いて、気も進まないでいるように、聞いております」<BR>⏎ |
| d1 | 509 | <P>⏎ | ||
| d1 | 511 | <P>⏎ | ||
| version02 | 512 | <A NAME="in34">[第四段 それから数日後]</A><BR> | 281 | |
| d1 | 513 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 514-515 | そうして、五、六日が過ぎて、この子を連れて参上した。きめこまやかに美しいというのではないが、優美な姿をしていて、良家の子弟と見えた。招き入れて、とても親しくお話をなさる。子供心に、とても素晴らしく嬉しく思う。姉君のことも詳しくお尋ねになる。答えられることはお答え申し上げなどして、こちらが恥ずかしくなるほどきちんとかしこまっているので、ちょっと言い出しにくい。けれど、とても上手にお話なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 282 | そうして,五,六日が過ぎて、この子を連れて参上した。きめこまやかに美しいというのではないが、優美な姿をしていて、良家の子弟と見えた。招き入れて、とても親しくお話をなさる。子供心に、とても素晴らしく嬉しく思う。姉君のことも詳しくお尋ねになる。答えられることはお答え申し上げなどして、こちらが恥ずかしくなるほどきちんとかしこまっているので、ちょっと言い出しにくい。けれど,とても上手にお話なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 517 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 518-519 | 「夢が現実となったあの夜以来、再び逢える夜があろうかと嘆いているうちに<BR>⏎ 目までが合わさらないで眠れない夜を幾日も送ってしまいました<BR>⏎ | 284 | 「夢が現実となったあの夜以来、再び逢える夜があろうかと嘆いているうちに<BR> 目までが合わさらないで眠れない夜を幾日も送ってしまいました<BR>⏎ |
| d1 | 521 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 522-525 | などと、見たこともないほどの、素晴らしいご筆跡も、目も涙に曇って、不本意な運命がさらにつきまとう身の上を思い続けて臥せってしまわれた。<BR>⏎ <P>⏎ 翌日、小君をお召しになっていたので、参上しますと言って、お返事を催促する。<BR>⏎ <P>⏎ | 286-287 | などと,見たこともないほどの,素晴らしいご筆跡も、目も涙に曇って、不本意な運命がさらにつきまとう身の上を思い続けて臥せってしまわれた。<BR>⏎ 翌日、小君をお召しになっていたので、参上しますと言って,お返事を催促する。<BR>⏎ |
| d1 | 527 | <P>⏎ | ||
| d1 | 529 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 530-535 | 「人違いのようにはおっしゃらなかったのに。どうして、そのように申し上げられましょうか」<BR>⏎ <P>⏎ と言うので、不愉快に思い、すっかりおっしゃられ、知らせてしまったのだ、と思うと、辛く思われること、この上ない。<BR>⏎ <P>⏎ 「いいえ、ませた口をきくものではありませんよ。それなら、もう参上してはいけません」と不機嫌になられたが、<BR>⏎ <P>⏎ | 290-292 | 「人違いのようにはおっしゃらなかったのに。どうして,そのように申し上げられましょうか」<BR>⏎ と言うので、不愉快に思い、すっかりおっしゃられ、知らせてしまったのだ,と思うと、辛く思われること,この上ない。<BR>⏎ 「いいえ,ませた口をきくものではありませんよ。それなら、もう参上してはいけません」と不機嫌になられたが、<BR>⏎ |
| d1 | 537 | <P>⏎ | ||
| d1 | 539 | <P>⏎ | ||
| d1 | 541 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 542-543 | 「昨日一日中待っていたのに。やはり、わたしほどには思ってくれないようだね」<BR>⏎ <P>⏎ | 296 | 「昨日一日中待っていたのに。やはり,わたしほどには思ってくれないようだね」<BR>⏎ |
| d1 | 545 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 546-547 | 「どこに」とおっしゃると、これこれしかじかです、と申し上げるので、<BR>⏎ <P>⏎ | 298 | 「どこに」とおっしゃると、これこれしかじかです,と申し上げるので、<BR>⏎ |
| d1 | 549 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 550-551 | 「おまえは知らないのだね。わたしはあの伊予の老人よりは、先に関係していた人だよ。けれど、頼りなく弱々しいといって、不恰好な夫をもって、このように馬鹿になさるらしい。そうであっても、おまえはわたしの子でいてくれよ。あの頼りにしている人は、どうせ老い先短いでしょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 300 | 「おまえは知らないのだね。わたしはあの伊予の老人よりは、先に関係していた人だよ。けれど,頼りなく弱々しいといって、不恰好な夫をもって、このように馬鹿になさるらしい。そうであっても、おまえはわたしの子でいてくれよ。あの頼りにしている人は、どうせ老い先短いでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 553 | <P>⏎ | ||
| d1 | 555 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 556-559 | お手紙はいつもある。けれど、この子もとても幼い、うっかり落としでもしたら、軽々しい浮名まで背負い込む、我が身の風評も相応しくなく思うと、幸せも自分の身分に合ってこそはと思って、心を許したお返事も差し上げない。ほのかに拝見した感じやご様子は、「本当に、並々の人ではなく素晴らしかった」と、思い出し申さずにはいられないが、「お気持ちにお応え申しても、今さら何になることだろうか」などと、考え直すのであった。<BR>⏎ <P>⏎ 源氏の君は、お忘れになる時の間もなく、心苦しくも恋しくもお思い出しになる。悩んでいた様子などのいじらしさも、払い除けようもなく思い続けていらっしゃる。軽々しくひそかに隠れてお立ち寄りなさるのも、人目の多い所で、不都合な振る舞いを見せはしまいかと、相手にも気の毒である、と思案にくれていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 303-304 | お手紙はいつもある。けれど,この子もとても幼い、うっかり落としでもしたら、軽々しい浮名まで背負い込む、我が身の風評も相応しくなく思うと、幸せも自分の身分に合ってこそはと思って、心を許したお返事も差し上げない。ほのかに拝見した感じやご様子は、「本当に,並々の人ではなく素晴らしかった」と、思い出し申さずにはいられないが、「お気持ちにお応え申しても、今さら何になることだろうか」などと、考え直すのであった。<BR>⏎ 源氏の君は,お忘れになる時の間もなく、心苦しくも恋しくもお思い出しになる。悩んでいた様子などのいじらしさも、払い除けようもなく思い続けていらっしゃる。軽々しくひそかに隠れてお立ち寄りなさるのも、人目の多い所で、不都合な振る舞いを見せはしまいかと、相手にも気の毒である、と思案にくれていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 561 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 562-563 | 紀伊守は驚いて、先日の遣水を光栄に思い、恐縮し喜ぶ。小君には、昼から、「こうしようと思っている」とお約束なさっていた。朝に夕に連れ従えていらっしゃったので、今宵も、まっさきにお召しになっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 306 | 紀伊守は驚いて、先日の遣水を光栄に思い,恐縮し喜ぶ。小君には、昼から、「こうしようと思っている」とお約束なさっていた。朝に夕に連れ従えていらっしゃったので、今宵も,まっさきにお召しになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 565 | <P>⏎ | ||
| d1 | 567 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 568-569 | と言って、渡殿に、中将の君といった者が部屋を持っていた奥まった処に、移ってしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 309 | と言って,渡殿に、中将の君といった者が部屋を持っていた奥まった処に、移ってしまった。<BR>⏎ |
| d1 | 571 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 572-577 | 「どんなにか、役立たずな者と、お思いになるでしょう」と、泣き出してしまいそうに言うと、<BR>⏎ <P>⏎ 「このような、不埒な考えは、持っていいものですか。子供がこのような事を取り次ぐのは、ひどく悪いことと言うのに」ときつく言って、「『気分がすぐれないので、女房たちを側に置いて揉ませております』とお伝え申し上げなさい。変だと皆が見るでしょう」<BR>⏎ <P>⏎ とつっぱねたが、心中では、「ほんとうに、このように身分の定まってしまった身の上でなく、亡くなった親の御面影の残っている邸にいたままで、たまさかにでもお待ち申し上げるならば、喜んでそうしたいところであるが。無理にお気持ちを分からないふうを装って無視したのも、どんなにか身の程知らぬ者のようにお思いになるだろう」と、心に決めたものの、胸が痛くて、そうはいってもやはり心が乱れる。「どっちみち、今はどうにもならない運命なのだから、非常識な気にくわない女で、押しとおそう」と思い諦めた。<BR>⏎ <P>⏎ | 311-313 | 「どんなにか,役立たずな者と,お思いになるでしょう」と、泣き出してしまいそうに言うと、<BR>⏎ 「このような,不埒な考えは、持っていいものですか。子供がこのような事を取り次ぐのは、ひどく悪いことと言うのに」ときつく言って、「『気分がすぐれないので、女房たちを側に置いて揉ませております』とお伝え申し上げなさい。変だと皆が見るでしょう」<BR>⏎ とつっぱねたが、心中では、「ほんとうに,このように身分の定まってしまった身の上でなく、亡くなった親の御面影の残っている邸にいたままで、たまさかにでもお待ち申し上げるならば、喜んでそうしたいところであるが。無理にお気持ちを分からないふうを装って無視したのも、どんなにか身の程知らぬ者のようにお思いになるだろう」と、心に決めたものの、胸が痛くて、そうはいってもやはり心が乱れる。「どっちみち、今はどうにもならない運命なのだから、非常識な気にくわない女で,押しとおそう」と思い諦めた。<BR>⏎ |
| d1 | 579 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 580-581 | 「近づけば消えるという帚木のような、あなたの心も知らないで<BR>⏎ 園原への道に、空しく迷ってしまったことです<BR>⏎ | 315 | 「近づけば消えるという帚木のような、あなたの心も知らないで<BR> 園原への道に、空しく迷ってしまったことです<BR>⏎ |
| d1 | 583 | <P>⏎ | ||
| d1 | 585 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 586-587 | 「しがない境遇に生きるわたしは情けのうございますから<BR>⏎ 見えても触れられない帚木のようにあなたの前から姿を消すのです」<BR>⏎ | 318 | 「しがない境遇に生きるわたしは情けのうございますから<BR> 見えても触れられない帚木のようにあなたの前から姿を消すのです」<BR>⏎ |
| d1 | 589 | <P>⏎ | ||
| d1 | 591 | <P>⏎ | ||
| d1 | 593 | <P>⏎ | ||
| d1 | 595 | <P>⏎ | ||
| d1 | 597 | <P>⏎ | ||
| d1 | 599 | <P>⏎ | ||
| c1 | 600 | 「それでは、おまえだけは、わたしを裏切るでないぞ」<BR>⏎ | 325 | 「それでは,おまえだけは、わたしを裏切るでないぞ」<BR>⏎ |
| d2 | 602-603 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 611 | ⏎ | ||
| i0 | 338 | |||
| diff | src/original/version03.html | src/modified/version03.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version03 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-4-1)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d2 | 15-16 | ⏎ ⏎ | ||
| d1 | 24 | <P>⏎ | ||
| version03 | 25 | <H4>光る源氏十七歳夏の物語</H4> | 20 | |
| version03 | 26 | <A NAME="in11">[第一段 空蝉の物語]</A><BR> | 21 | |
| d1 | 27 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 28-29 | お寝みになれないままには、「わたしは、このように人に憎まれたことはないのに、今晩、初めて辛いと男女の仲を知ったので、恥ずかしくて、生きて行けないような気持ちになってしまった」などとおっしゃると、涙まで流して臥している。とてもかわいいとお思いになる。手触りから、ほっそりした小柄な体つきや、髪のたいして長くはなかった感じが似通っているのも、気のせいか愛しい。むやみにしつこく探し求めるのも、体裁悪いだろうし、本当に癪に障るとお思いになりながら夜を明かしては、いつものように側につきまとわせおっしゃることもない。夜の深いうちにお帰りになるので、この子は、たいそうお気の毒で、つまらないと思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 22 | お寝みになれないままには、「わたしは、このように人に憎まれたことはないのに、今晩、初めて辛いと男女の仲を知ったので、恥ずかしくて、生きて行けないような 気持ちになってしまった」などとおっしゃると、涙まで流して臥している。とてもかわいいとお思いになる。手触りから、ほっそりした小柄な体つきや、髪のたいして長くはなかった感じが似通っているのも、気のせいか愛しい。むやみにしつこく探し求めるのも、体裁悪いだろうし、本当に癪に障るとお思いになりながら夜を明かしては、いつものように側につきまとわせおっしゃることもない。夜の深いうちにお帰りになるので、この子は,たいそうお気の毒で、つまらないと思う。<BR>⏎ |
| d1 | 31 | <P>⏎ | ||
| d1 | 33 | <P>⏎ | ||
| version03 | 34 | <A NAME="in12">[第二段 源氏、再度、紀伊守邸へ]</A><BR> | 25 | |
| d1 | 35 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 36-37 | 子供心に、どのような機会にと待ち続けていると、紀伊守が任国へ下ったりなどして、女たちがくつろいでいる夕闇頃の道がはっきりしないのに紛れて、自分の車で、お連れ申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 26 | 子供心に、どのような機会にと待ち続けていると、紀伊守が任国へ下ったりなどして、女たちがくつろいでいる夕闇頃の道がはっきりしないのに紛れて、自分の車で,お連れ申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| d1 | 41 | <P>⏎ | ||
| d1 | 43 | <P>⏎ | ||
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 46-47 | 「どうして、こう暑いのに、この格子を下ろしておられるの」と尋ねると、<BR>⏎ <P>⏎ | 31 | 「どうして,こう暑いのに、この格子を下ろしておられるの」と尋ねると、<BR>⏎ |
| d1 | 49 | <P>⏎ | ||
| d1 | 51 | <P>⏎ | ||
| d1 | 53 | <P>⏎ | ||
| version03 | 54 | <A NAME="in13">[第三段 空蝉と軒端荻、碁を打つ]</A><BR> | 35 | |
| d1 | 55 | <P>⏎ | ||
| cd10:5 | 56-65 | 灯火が近くに灯してある。母屋の中柱に横向きになっている人が自分の思いを寄せている人かと、まっさきに目をお留めになると、濃い紫の綾の単重襲のようである。何であろうか、その上に着て、頭の恰好は小さく小柄な人で、見栄えのしない姿をしているのだ。顔などは、向かい合っている人などにも、特に見えないように気をつけている。手つきも痩せ痩せした感じで、ひどく袖の中に引き込めているようだ。<BR>⏎ <P>⏎ もう一人は、東向きなので、すっかり見える。白い羅の単衣に、二藍の小袿のようなものを、しどけなく引っ掛けて、紅の袴の腰紐を結んでいる際まで胸を露わにして、嗜みのない恰好である。とても色白で美しく、まるまると太って、大柄の背の高い人で、頭の恰好や額の具合は、くっきりとしていて、目もと口もとが、とても愛嬌があり、はなやかな容貌である。髪はとてもふさふさとして、長くはないが、垂れ具合や、肩のところがすっきりとして、どこをとっても悪いところなく、美しい女だ、と見えた。<BR>⏎ <P>⏎ 道理で親がこの上なくかわいがることだろうと、興味をもって御覧になる。心づかいに、もう少し落ち着いた感じを加えたいものだと、ふと思われる。才覚がないわけではないらしい。碁を打ち終えて、だめを押すあたりは、機敏に見えて、陽気に騷ぎ立てると、奥の人は、とても静かに落ち着いて、<BR>⏎ <P>⏎ 「お待ちなさいよ。そこは、持でありましょう。このあたりの、劫を先に数えましょう」などと言うが、<BR>⏎ <P>⏎ 「いやはや、今度は負けてしまいましたわ。隅の所は、どれどれ」と指を折って、「十、二十、三十、四十」などと数える様子は、伊予の湯桁もすらすらと数えられそうに見える。少し下品な感じがする。<BR>⏎ <P>⏎ | 36-40 | 灯火が近くに灯してある。母屋の中柱に横向きになっている人が自分の思いを寄せている人かと、まっさきに目をお留めになると、濃い紫の綾の単重襲のようである。何であろうか,その上に着て、頭の恰好は小さく小柄な人で、見栄えのしない姿をしているのだ。顔などは、向かい合っている人などにも、特に見えないように気をつけている。手つきも痩せ痩せした感じで、ひどく袖の中に引き込めているようだ。<BR>⏎ もう一人は、東向きなので、すっかり見える。白い羅の単衣に、二藍の小袿のようなものを、しどけなく引っ掛けて、紅の袴の腰紐を結んでいる際まで胸を露わにして、嗜みのない恰好である。とても色白で美しく、まるまると太って、大柄の背の高い人で、頭の恰好や額の具合は,くっきりとしていて、目もと口もとが、とても愛嬌があり、はなやかな容貌である。髪はとてもふさふさとして、長くはないが、垂れ具合や、肩のところがすっきりとして、どこをとっても悪いところなく、美しい女だ,と見えた。<BR>⏎ 道理で親がこの上なくかわいがることだろうと、興味をもって御覧になる。心づかいに、もう少し落ち着いた感じを加えたいものだと、ふと思われる。才覚がないわけではないらしい。碁を打ち終えて、だめを押すあたりは、機敏に見えて、陽気に騷ぎ立てると、奥の人は,とても静かに落ち着いて、<BR>⏎ 「お待ちなさいよ。そこは,持でありましょう。このあたりの、劫を先に数えましょう」などと言うが、<BR>⏎ 「いやはや,今度は負けてしまいましたわ。隅の所は、どれどれ」と指を折って、「十、二十、三十、四十」などと数える様子は、伊予の湯桁もすらすらと数えられそうに見える。少し下品な感じがする。<BR>⏎ |
| d1 | 67 | <P>⏎ | ||
| d1 | 69 | <P>⏎ | ||
| d1 | 71 | <P>⏎ | ||
| d1 | 73 | <P>⏎ | ||
| d1 | 75 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 76-77 | 「それでは、今夜も帰そうとするのか。まったくあきれて、ひどいではないか」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ | 46 | 「それでは,今夜も帰そうとするのか。まったくあきれて、ひどいではないか」とおっしゃると、<BR>⏎ |
| d1 | 79 | <P>⏎ | ||
| d1 | 81 | <P>⏎ | ||
| d1 | 83 | <P>⏎ | ||
| d1 | 85 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 86-87 | 「静かになったようだ。入って、それでは、うまく工夫せよ」とおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 51 | 「静かになったようだ。入って、それでは,うまく工夫せよ」とおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 89 | <P>⏎ | ||
| d1 | 91 | <P>⏎ | ||
| d1 | 93 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 94-95 | もっともだ、しかしそれでも興味深くお思いになるが、「見てしまったとは言うまい、気の毒だ」とお思いになって、夜の更けて行くことの遅いことをおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 55 | もっともだ,しかしそれでも興味深くお思いになるが、「見てしまったとは言うまい、気の毒だ」とお思いになって、夜の更けて行くことの遅いことをおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 97 | <P>⏎ | ||
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 100-101 | 「どうなることか、愚かしいことがあってはならない」とご心配になると、とても気後れするが、手引するのに従って、母屋の几帳の帷子を引き上げて、たいそう静かにお入りになろうとするが、皆寝静まっている夜の、お召物の衣ずれの様子は、柔らかであるのが、かえってはっきりとわかるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 58 | 「どうなることか、愚かしいことがあってはならない」とご心配になると、とても気後れするが、手引するのに従って、母屋の几帳の帷子を引き上げて、たいそう静かにお入りになろうとするが、皆寝静まっている夜の、お召物の衣ずれの様子は,柔らかであるのが、かえってはっきりとわかるのであった。<BR>⏎ |
| version03 | 102 | <A NAME="in14">[第四段 空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る]</A><BR> | 59 | |
| d1 | 103 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 104-105 | 女は、あれきりお忘れなのを嬉しいと努めて思おうとはするが、不思議な夢のような出来事を、心から忘れられないころなので、ぐっすりと眠ることさえできず、昼間は物思いに耽り、夜は寝覚めがちなので、春ではないが、「木の芽」ならぬ「この目」も、休まる時なく物思いがちなのに、碁を打っていた君は、「今夜は、こちらに」と言って、今の子らしくおしゃべりして、寝てしまったのだった。<BR>⏎ <P>⏎ | 60 | 女は、あれきりお忘れなのを嬉しいと努めて思おうとはするが、不思議な夢のような出来事を、心から忘れられないころなので、ぐっすりと眠ることさえできず、昼間は物思いに耽り、夜は寝覚めがちなので、春ではないが,「木の芽」ならぬ「この目」も、休まる時なく物思いがちなのに、碁を打っていた君は、「今夜は、こちらに」と言って、今の子らしくおしゃべりして、寝てしまったのだった。<BR>⏎ |
| d1 | 107 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 108-109 | 源氏の君はお入りになって、ただ一人で寝ているのを安心にお思いになる。床の下の方に二人ほど寝ている。衣を押しやってお寄り添いになると、先夜の様子よりは、大柄な感じに思われるが、お気づきなさらない。目を覚まさない様子などが、妙に違って、だんだんとおわかりになって、意外なことに癪に思うが、「人違いをしてまごまごしていると見られるのも愚かしく、変だと思うだろう、目当ての女を探し求めるのも、これほど避ける気持ちがあるようなので、甲斐なく、間抜けなと思うだろう」とお思いになる。あの美しかった灯影の女ならば、何ということはないとお思いになるのも、けしからぬご思慮の浅薄さと言えようよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 62 | 源氏の君はお入りになって、ただ一人で寝ているのを安心にお思いになる。床の下の方に二人ほど寝ている。衣を押しやってお寄り添いになると、先夜の様子よりは、大柄な感じに思われるが、お気づきなさらない。目を覚まさない様子などが、妙に違って、だんだんとおわかりになって、意外なことに癪に思うが、「人違いをしてまごまごしていると見られるのも 愚かしく、変だと思うだろう、目当ての女を探し求めるのも、これほど避ける気持ちがあるようなので、甲斐なく、間抜けなと思うだろう」とお思いになる。あの美しかった灯影の女ならば、何ということはないとお思いになるのも、けしからぬご思慮の浅薄さと言えようよ。<BR>⏎ |
| d1 | 111 | <P>⏎ | ||
| d1 | 113 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 114-115 | 「世間に認められた仲よりも、このような仲こそ、愛情も勝るものと、昔の人も言っていました。あなたもわたし同様に愛してくださいよ。世間を憚る事情がないわけでもないので、わが身ながらも思うにまかすことができなかったのです。また、あなたのご両親も許されないだろうと、今から胸が痛みます。忘れないで待っていて下さいよ」などと、いかにもありきたりにお話しなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 65 | 「世間に認められた仲よりも、このような仲こそ、愛情も勝るものと、昔の人も言っていました。あなたもわたし同様に愛してくださいよ。世間を憚る事情がないわけでもないので、わが身ながらも思うにまかすことができなかったのです。また,あなたのご両親も許されないだろうと、今から胸が痛みます。忘れないで待っていて下さいよ」などと、いかにもありきたりにお話しなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 117 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 118-119 | 「誰彼となく、他人に知られては困りますが、この小さい殿上童に託して差し上げましょう。何げなく振る舞っていて下さい」<BR>⏎ <P>⏎ | 67 | 「誰彼となく,他人に知られては困りますが、この小さい殿上童に託して差し上げましょう。何げなく振る舞っていて下さい」<BR>⏎ |
| d1 | 121 | <P>⏎ | ||
| d1 | 123 | <P>⏎ | ||
| d1 | 125 | <P>⏎ | ||
| d1 | 127 | <P>⏎ | ||
| d1 | 129 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 130-131 | 「夜中に、これはまた、どうして外をお歩きなさいますか」<BR>⏎ <P>⏎ | 73 | 「夜中に、これはまた,どうして外をお歩きなさいますか」<BR>⏎ |
| d1 | 133 | <P>⏎ | ||
| d1 | 135 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 136-137 | と言って、源氏の君をお出し申し上げると、暁方に近い月の光が明るく照っているので、ふと人影が見えたので、<BR>⏎ <P>⏎ | 76 | と言って,源氏の君をお出し申し上げると、暁方に近い月の光が 明るく照っているので、ふと人影が見えたので、<BR>⏎ |
| d1 | 139 | <P>⏎ | ||
| d1 | 141 | <P>⏎ | ||
| d1 | 143 | <P>⏎ | ||
| d1 | 145 | <P>⏎ | ||
| d1 | 147 | <P>⏎ | ||
| d1 | 149 | <P>⏎ | ||
| d1 | 151 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 152-153 | 「ああ、お腹が、お腹が。また後で」と言って通り過ぎて行ったので、ようやくのことでお出になる。やはりこうした忍び歩きは軽率で良くないものだと、ますますお懲りになられたことであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 84 | 「ああ,お腹が,お腹が。また後で」と言って通り過ぎて行ったので、ようやくのことでお出になる。やはりこうした忍び歩きは軽率で良くないものだと、ますますお懲りになられたことであろう。<BR>⏎ |
| version03 | 154 | <A NAME="in15">[第五段 源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る]</A><BR> | 85 | |
| d1 | 155 | <P>⏎ | ||
| d1 | 157 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 158-163 | 「とてもひどく嫌っておいでのようなので、わが身もすっかり嫌になってしまった。どうして、逢って下さらないまでも、親しい返事ぐらいはして下さらないのだろうか。伊予介にも及ばないわが身だ」<BR>⏎ <P>⏎ などと、気にくわないと思っておっしゃる。先程の小袿を、そうは言うものの、お召物の下に引き入れて、お寝みになった。小君をお側に寝かせて、いろいろと恨み言をいい、かつまた、優しくお話しなさる。<BR>⏎ <P>⏎ 「おまえは、かわいいけれど、つれない女の弟だと思うと、いつまでもかわいがってやれるともわからない」<BR>⏎ <P>⏎ | 87-89 | 「とてもひどく嫌っておいでのようなので、わが身もすっかり嫌になってしまった。どうして,逢って下さらないまでも、親しい返事ぐらいはして下さらないのだろうか。伊予介にも及ばないわが身だ」<BR>⏎ などと,気にくわないと思っておっしゃる。先程の小袿を、そうは言うものの、お召物の下に引き入れて、お寝みになった。小君をお側に寝かせて、いろいろと恨み言をいい、かつまた,優しくお話しなさる。<BR>⏎ 「おまえは,かわいいけれど、つれない女の弟だと思うと、いつまでもかわいがってやれるともわからない」<BR>⏎ |
| d1 | 165 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 166-170 | しばらくの間、横になっていられたが、お眠りになれない。御硯を急に用意させて、わざわざのお手紙ではなく、畳紙に手習いのように思うままに書き流しなさる。<BR>⏎ <P>⏎ 「蝉が殻を脱ぐように、衣を脱ぎ捨てて逃げ去っていったあなたですが<BR>⏎ やはり人柄が懐かしく思われます」<BR>⏎ <P>⏎ | 91-92 | しばらくの間,横になっていられたが、お眠りになれない。御硯を急に用意させて、わざわざのお手紙ではなく、畳紙に手習いのように思うままに書き流しなさる。<BR>⏎ 「蝉が殻を脱ぐように、衣を脱ぎ捨てて逃げ去っていったあなたですが<BR> やはり人柄が懐かしく思われます」<BR>⏎ |
| d1 | 172 | <P>⏎ | ||
| d1 | 174 | <P>⏎ | ||
| d1 | 176 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 177-178 | と言って、お叱りになる。どちらからも叱られて辛く思うが、あの源氏の君の手すさび書きを取り出した。お叱りはしたものの、手に取って御覧になる。あの脱ぎ捨てた小袿を、どのように、「伊勢をの海人」のように汗臭くはなかったろうか、と思うのも気が気でなく、いろいろと思い乱れて。<BR>⏎ <P>⏎ | 96 | と言って,お叱りになる。どちらからも叱られて辛く思うが、あの源氏の君の手すさび書きを取り出した。お叱りはしたものの、手に取って御覧になる。あの脱ぎ捨てた小袿を、どのように,「伊勢をの海人」のように汗臭くはなかったろうか、と思うのも気が気でなく、いろいろと思い乱れて。<BR>⏎ |
| d1 | 180 | <P>⏎ | ||
| d1 | 182 | <P>⏎ | ||
| cd4:1 | 183-186 | 「空蝉の羽に置く露が木に隠れて見えないように<BR>⏎ わたしもひそかに、涙で袖を濡らしております」<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 99 | 「空蝉の羽に置く露が木に隠れて見えないように<BR> わたしもひそかに、涙で袖を濡らしております」<BR>⏎ |
| d1 | 193 | ⏎ | ||
| i0 | 110 | |||
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| c2 | 8-9 | <body background="wallppr064.gif">⏎ <ADDRESS>Last updated 6/25/2203<BR>⏎ | 8-9 | <BODY>⏎ <ADDRESS>Last updated 6/25/2003<BR>⏎ |
| version04 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-3-1)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
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| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 25 | <P>⏎ | ||
| d1 | 42 | <P>⏎ | ||
| version04 | 43 | <H4>第一章 夕顔の物語 夏の物語</H4> | 38 | |
| version04 | 44 | <A NAME="in11">[第一段 源氏、五条の大弐乳母を見舞う]</A><BR> | 39 | |
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| cd4:3 | 48-51 | お車が入るべき正門は施錠してあったので、供人に惟光を呼ばせて、お待ちあそばす間、むさ苦しげな大路の様子を見渡していらっしゃると、この家の隣に、桧垣という板垣を新しく作って、上方は半蔀を四、五間ほどずらりと吊り上げて、簾などもとても白く涼しそうなところに、美しい額つきをした簾の透き影が、たくさん見えてこちらを覗いている。立ち動き回っているらしい下半身を想像すると、やたらに背丈の高い感じがする。どのような者が集まっているのだろうと、一風変わった様子にお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ お車もひどく地味になさり、先払いもおさせにならず、誰と分かろうかと気をお許しなさって、少し顔を出して御覧になっていると、門は蔀のようなのを押し上げてあって、その奥行きもなく、ささやかな住まいを、しみじみと、「どの家を終生の宿とできようか」とお考えになってみると、立派な御殿も同じことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 41-43 | お車が入るべき正門は施錠してあったので、供人に惟光を呼ばせて、お待ちあそばす間、むさ苦しげな大路の様子を見渡していらっしゃると、この家の隣に、桧垣という板垣を新しく作って、上方は半蔀を四,五間ほどずらりと吊り上げて、簾などもとても白く涼しそうなところに、美しい額つきをした簾の透き影が、たくさん見えてこちらを覗いている。<BR>⏎ 立ち動き回っているらしい下半身を想像すると、やたらに背丈の高い感じがする。どのような者が集まっているのだろうと、一風変わった様子にお思いになる。<BR>⏎ お車もひどく地味になさり、先払いもおさせにならず、誰と分かろうかと気をお許しなさって、少し顔を出して御覧になっていると、門は蔀のようなのを 押し上げてあって、その奥行きもなく、ささやかな住まいを、しみじみと、「どの家を終生の宿とできようか」とお考えになってみると、立派な御殿も同じことである。<BR>⏎ |
| d1 | 53 | <P>⏎ | ||
| d1 | 55 | <P>⏎ | ||
| d1 | 57 | <P>⏎ | ||
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| d1 | 61 | <P>⏎ | ||
| d1 | 63 | <P>⏎ | ||
| d1 | 66 | <P>⏎ | ||
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| d1 | 70 | <P>⏎ | ||
| d1 | 72 | <P>⏎ | ||
| d1 | 74 | <P>⏎ | ||
| d1 | 76 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 77-78 | 「惜しくもない身の上ですが、出家しがたく存じておりましたことは、ただ、このようにお目にかかり、御覧に入れる姿が変わってしまいますことを残念に存じて、ためらっておりましたが、受戒の効果があって生き返って、このようにお越しあそばされましたのを、お目にかかれましたので、今は、阿弥陀様のご来迎も、心残りなく待つことができましょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 57 | 「惜しくもない身の上ですが、出家しがたく存じておりましたことは、ただ,このようにお目にかかり、御覧に入れる姿が変わってしまいますことを残念に存じて、ためらっておりましたが、受戒の効果があって生き返って、このようにお越しあそばされましたのを、お目にかかれましたので、今は,阿弥陀様のご来迎も、心残りなく待つことができましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 80 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 81-84 | 「いく日も、思わしくなくおられるのを、案じて心痛めていましたが、このように、世を捨てた尼姿でいらっしゃると、まことに悲しく残念です。長生きをして、さらにわたしの位が高くなるのなども御覧下さい。そうしてから、九品浄土の最上位にも、差し障りなくお生まれ変わりなさいさい。この世に少しでも執着が残るのは、悪いことと聞いております」などと、涙ぐんでおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ 不出来な子でさえも、乳母のようなかわいがるはずの人には、あきれるくらいに完全無欠に思い込むものを、まして、まことに光栄にも、親しくお世話申し上げたわが身も、大切にもったいなく思われるようなので、わけもなく涙に濡れるのである。<BR>⏎ <P>⏎ | 59-60 | 「いく日も、思わしくなくおられるのを、案じて心痛めていましたが、このように,世を捨てた尼姿でいらっしゃると、まことに悲しく残念です。長生きをして、さらにわたしの位が高くなるのなども御覧下さい。そうしてから、九品浄土の最上位にも、差し障りなくお生まれ変わりなさいさい。この世に少しでも執着が残るのは、悪いことと聞いております」などと、涙ぐんでおっしゃる。<BR>⏎ 不出来な子でさえも、乳母のようなかわいがるはずの人には、あきれるくらいに完全無欠に思い込むものを、まして,まことに光栄にも、親しくお世話申し上げたわが身も、大切にもったいなく思われるようなので、わけもなく涙に濡れるのである。<BR>⏎ |
| d1 | 86 | <P>⏎ | ||
| d1 | 88 | <P>⏎ | ||
| d1 | 90 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 91-92 | と、懇ろにお話なさって、お拭いになった袖の匂いも、とても辺り狭しと薫り満ちているので、なるほど、ほんとうに考えてみれば、並々の人でないご運命であったと、尼君を非難がましく見ていた子供たちも、皆涙ぐんだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 64 | と,懇ろにお話なさって、お拭いになった袖の匂いも、とても辺り狭しと薫り満ちているので、なるほど,ほんとうに考えてみれば、並々の人でないご運命であったと、尼君を非難がましく見ていた子供たちも、皆涙ぐんだ。<BR>⏎ |
| d1 | 94 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 95-97 | 「当て推量に貴方さまでしょうかと思います<BR>⏎ 白露の光を加えて美しい夕顔の花は」<BR>⏎ <P>⏎ | 66 | 「当て推量に貴方さまでしょうかと思います<BR> 白露の光を加えて美しい夕顔の花は」<BR>⏎ |
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| d1 | 101 | <P>⏎ | ||
| d1 | 103 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 104-109 | 「この五、六日この家におりますが、病人のことを心配して看護しております時なので、隣のことは聞けません」<BR>⏎ <P>⏎ などと、無愛想に申し上げるので、<BR>⏎ <P>⏎ 「気に入らないと思っているな。けれど、この扇について、尋ねなければならない理由がありそうに思われるのですよ。やはり、この界隈の事情を知っていそうな者を呼んで尋ねよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 70-72 | 「この五,六日この家におりますが、病人のことを心配して看護しております時なので、隣のことは聞けません」<BR>⏎ などと,無愛想に申し上げるので、<BR>⏎ 「気に入らないと思っているな。けれど,この扇について、尋ねなければならない理由がありそうに思われるのですよ。やはり,この界隈の事情を知っていそうな者を呼んで尋ねよ」<BR>⏎ |
| d1 | 111 | <P>⏎ | ||
| d1 | 113 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 114-118 | 「それでは、その宮仕人のようだ。得意顔になれなれしく詠みかけてきたものよ」と、「きっと興覚めしそうな身分ではなかろうか」とお思いになるが、名指して詠みかけてきた気持ちが、憎からず見過ごしがたいのが、例によって、こういった方面には、重々しくないご性分なのであろう。御畳紙にすっかり別筆にお書きになって、<BR>⏎ <P>⏎ 「もっと近寄って誰ともはっきり見たらどうでしょう<BR>⏎ 黄昏時にぼんやりと見えた花の夕顔を」<BR>⏎ <P>⏎ | 75-76 | 「それでは,その宮仕人のようだ。得意顔になれなれしく詠みかけてきたものよ」と、「きっと興覚めしそうな身分ではなかろうか」とお思いになるが、名指して詠みかけてきた気持ちが、憎からず見過ごしがたいのが、例によって、こういった方面には,重々しくないご性分なのであろう。御畳紙にすっかり別筆にお書きになって、<BR>⏎ 「もっと近寄って誰ともはっきり見たらどうでしょう<BR> 黄昏時にぼんやりと見えた花の夕顔を」<BR>⏎ |
| d1 | 120 | <P>⏎ | ||
| d1 | 122 | <P>⏎ | ||
| d1 | 124 | <P>⏎ | ||
| d1 | 126 | <P>⏎ | ||
| d1 | 128 | <P>⏎ | ||
| d1 | 130 | <P>⏎ | ||
| version04 | 131 | <A NAME="in12">[第二段 数日後、夕顔の宿の報告]</A><BR> | 83 | |
| d1 | 132 | <P>⏎ | ||
| d1 | 134 | <P>⏎ | ||
| d1 | 136 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 137-138 | などと、ご挨拶申し上げて、近くに上って申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 86 | などと,ご挨拶申し上げて、近くに上って申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 140 | 時々、中垣から覗き見いたしますと、なるほど、若い女たちの透き影が見えます。褶めいた物を、申しわけ程度にひっかけているので、仕えている主人がいるようでございます。<BR>⏎ | 88 | 時々、中垣から覗き見いたしますと、なるほど,若い女たちの透き影が見えます。褶めいた物を、申しわけ程度にひっかけているので、仕えている主人がいるようでございます。<BR>⏎ |
| d1 | 142 | <P>⏎ | ||
| d1 | 144 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 145-148 | ご声望こそ重々しいはずのご身分であるが、ご年齢のほど、女性たちがお慕いしお褒め申し上げている様子などを考えると、興味をお感じにならないのも、風情がなくきっと物足りない気がするだろうが、世間の人が承知しない身分でさえ、やはり、しかるべき身分の人には、興味をそそられるものだから、と思っている。<BR>⏎ <P>⏎ 「もしや、何か発見いたすこともありましょうかと、ちょっとした機会を作って、恋文などを出してみました。書きなれている筆跡で、素早く返事など寄こしました。たいして悪くはない若い女房たちがいるようでございます」<BR>⏎ <P>⏎ | 91-92 | ご声望こそ重々しいはずのご身分であるが、ご年齢のほど、女性たちがお慕いしお褒め申し上げている様子などを考えると、興味をお感じにならないのも、風情がなくきっと物足りない気がするだろうが、世間の人が承知しない身分でさえ、やはり,しかるべき身分の人には、興味をそそられるものだから、と思っている。<BR>⏎ 「もしや,何か発見いたすこともありましょうかと、ちょっとした機会を作って、恋文などを出してみました。書きなれている筆跡で、素早く返事など寄こしました。たいして悪くはない若い女房たちがいるようでございます」<BR>⏎ |
| d1 | 150 | <P>⏎ | ||
| d1 | 152 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 153-154 | あの、下層の最下層だと、人が見下した住まいであるが、その中にも、意外に結構なのを見つけたらばと、心惹かれてお思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 95 | あの,下層の最下層だと、人が見下した住まいであるが、その中にも、意外に結構なのを見つけたらばと、心惹かれてお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| version04 | 155 | <H4>第二章 空蝉の物語</H4> | 96 | |
| version04 | 156 | <A NAME="in21">[第一段 空蝉の夫、伊予国から上京す]</A><BR> | 97 | |
| d1 | 157 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 158-163 | ところで、あの空蝉のあきれるほど冷淡だったのを、今の世間一般の女性とは違っているとお思いになると、素直であったならば、気の毒な過ちをしたと思ってやめられようが、まことに悔しく、振られて終わってしまいそうなのが、気にならない時がない。このような並々の女性までは、お思いにならなかったのだが、先日の「雨夜の品定め」の後は、興味をお持ちになった階層階層があることによって、ますます残る隈なくご関心をお持ちになったようであるよ。<BR>⏎ <P>⏎ 疑いもせずにお待ち申しているもう一人の女を、いじらしいとお思いにならないわけではないが、何くわぬ顔で聞いていたろうことが恥ずかしいので、「まずは、この女の気持ちを見定めてから」とお思いになっているうちに、伊予介が上京してきた。<BR>⏎ <P>⏎ まっさきに急いで参上した。船路のせいで、少し黒く日焼けしている旅姿は、とてもぶこつで気に入らない。けれど、人品も相当な血筋で、容貌などは年はとっているが、小綺麗で、普通の人とは違って、風雅のたしなみなどがそなわっているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 98-100 | ところで,あの空蝉のあきれるほど冷淡だったのを、今の世間一般の女性とは違っているとお思いになると、素直であったならば、気の毒な過ちをしたと思ってやめられようが、まことに悔しく、振られて終わってしまいそうなのが、気にならない時がない。このような並々の女性までは,お思いにならなかったのだが、先日の「雨夜の品定め」の後は、興味をお持ちになった階層階層があることによって、ますます残る隈なくご関心をお持ちになったようであるよ。<BR>⏎ 疑いもせずにお待ち申しているもう一人の女を、いじらしいとお思いにならないわけではないが、何くわぬ顔で聞いていたろうことが恥ずかしいので、「まずは,この女の気持ちを見定めてから」とお思いになっているうちに、伊予介が上京してきた。<BR>⏎ まっさきに急いで参上した。船路のせいで、少し黒く日焼けしている旅姿は、とてもぶこつで気に入らない。けれど,人品も相当な血筋で、容貌などは年はとっているが、小綺麗で、普通の人とは違って、風雅のたしなみなどがそなわっているのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 165 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 166-169 | 「実直な年配者を、このように思うのも、いかにも馬鹿らしく後ろ暗いことであるよ。いかにも、これが、尋常ならざる不埒なことだった」と、左馬頭の忠告をお思い出しになって、気の毒なので、「冷淡な気持ちは憎いが、夫のためには、立派だ」とお考え直しになる。<BR>⏎ <P>⏎ 「娘を適当な人に縁づけて、北の方を連れて下るつもりだ」と、お聞きになると、あれやこれやと気持ちが落ち着かなくて、「もう一度逢うことができないものだろうか」と、小君に相談なさるが、相手が同意したようなことでさえ、軽々とお忍びになるのは難しいのに、まして、相応しくない関係と思って、今さら見苦しかろうと、思い絶っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 102-103 | 「実直な年配者を、このように思うのも、いかにも馬鹿らしく 後ろ暗いことであるよ。いかにも,これが、尋常ならざる不埒なことだった」と、左馬頭の忠告をお思い出しになって、気の毒なので、「冷淡な気持ちは憎いが、夫のためには、立派だ」とお考え直しになる。<BR>⏎ 「娘を適当な人に縁づけて、北の方を連れて下るつもりだ」と、お聞きになると、あれやこれやと気持ちが落ち着かなくて、「もう一度逢うことができないものだろうか」と、小君に相談なさるが、相手が同意したようなことでさえ、軽々とお忍びになるのは難しいのに、まして,相応しくない関係と思って、今さら見苦しかろうと、思い絶っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 171 | <P>⏎ | ||
| d1 | 173 | <P>⏎ | ||
| version04 | 174 | <H4>第三章 六条の貴婦人の物語 初秋の物語</H4> | 106 | |
| version04 | 175 | <A NAME="in31">[第一段 霧深き朝帰りの物語]</A><BR> | 107 | |
| d1 | 176 | <P>⏎ | ||
| d1 | 178 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 179-180 | 六条辺りの御方にも、気の置けたころのご様子をお靡かせ申し上げてから後は、うって変わって、通り一遍なお扱いのようなのは気の毒である。けれど、他人でいたころのご執心のように、無理無体なことがないのも、どうしたことかと思われた。<BR>⏎ <P>⏎ | 109 | 六条辺りの御方にも、気の置けたころのご様子をお靡かせ申し上げてから後は、うって変わって、通り一遍なお扱いのようなのは気の毒である。けれど,他人でいたころのご執心のように、無理無体なことがないのも、どうしたことかと思われた。<BR>⏎ |
| d1 | 182 | <P>⏎ | ||
| d1 | 184 | <P>⏎ | ||
| d1 | 186 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 187-190 | 振り返りなさって、隅の間の高欄に、少しの間、お座らせになった。きちんとした態度、黒髪のかかり具合、見事なものよ、と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ 「咲いている花に心を移したという風評は憚られますが<BR>⏎ やはり手折らずには素通りしがたい今朝の朝顔の花です<BR>⏎ | 113-114 | 振り返りなさって、隅の間の高欄に、少しの間,お座らせになった。きちんとした態度、黒髪のかかり具合、見事なものよ、と御覧になる。<BR>⏎ 「咲いている花に心を移したという風評は憚られますが<BR> やはり手折らずには素通りしがたい今朝の朝顔の花です<BR>⏎ |
| d1 | 192 | <P>⏎ | ||
| cd7:3 | 193-199 | と言って、手を捉えなさると、まことに馴れたふうに素早く、<BR>⏎ <P>⏎ 「朝霧の晴れる間も待たないでお帰りになるご様子なので<BR>⏎ 朝顔の花に心を止めていないものと思われます」<BR>⏎ <P>⏎ と、主人のことにしてお返事申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 116-118 | と言って,手を捉えなさると、まことに馴れたふうに素早く、<BR>⏎ 「朝霧の晴れる間も待たないでお帰りになるご様子なので<BR> 朝顔の花に心を止めていないものと思われます」<BR>⏎ と,主人のことにしてお返事申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 201 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 202-205 | 通り一遍に、ちょっと拝見する人でさえ、心を止め申さない者はない。物の情趣を解さない山人も、花の下では、やはり休息したいものではないか、このお美しさを拝する人々は、身分身分に応じて、自分のかわいいと思う娘を、ご奉公に差し上げたいと願い、あるいは、恥ずかしくないと思う姉妹などを持っている人は、下仕えであっても、やはり、このお方の側にご奉公させたいと、思わない者はいなかった。<BR>⏎ <P>⏎ まして、何かの折のお言葉でも、優しいお姿を拝する人で、少し物の情趣を解せる人は、どうしていい加減にお思い申し上げよう。一日中くつろいだご様子でおいでにならないのを、物足りなく不満なことと思うようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 120-121 | 通り一遍に、ちょっと拝見する人でさえ、心を止め申さない者はない。物の情趣を解さない山人も、花の下では、やはり休息したいものではないか、このお美しさを拝する人々は、身分身分に応じて、自分のかわいいと思う娘を、ご奉公に差し上げたいと願い、あるいは,恥ずかしくないと思う姉妹などを持っている人は、下仕えであっても、やはり,このお方の側にご奉公させたいと、思わない者はいなかった。<BR>⏎ まして,何かの折のお言葉でも、優しいお姿を拝する人で、少し物の情趣を解せる人は、どうしていい加減にお思い申し上げよう。一日中くつろいだご様子でおいでにならないのを、物足りなく不満なことと思うようである。<BR>⏎ |
| version04 | 206 | <H4>第四章 夕顔の物語(2) 仲秋の物語</H4> | 122 | |
| version04 | 207 | <A NAME="in41">[第一段 源氏、夕顔の宿に忍び通う]</A><BR> | 123 | |
| d1 | 208 | <P>⏎ | ||
| d1 | 210 | <P>⏎ | ||
| d1 | 212 | <P>⏎ | ||
| ci2:3 | 213-214 | 先日、先払いをして通る牛車がございましたのを、覗き見て、女童が急いで、『右近の君さん、早く御覧なさい。中将殿が、ここをお通り過ぎになってしまいます』と言うと、もう一人、見苦しくない女房が出て来て、『お静かに』と、手で制しながらも、『どうしてそうと分かりますか、どれ、見てみよう』と言って、渡って来ます。打橋のようなものを通路にして、行き来するのでございます。急いで来ると、なんとまあ大変、衣の裾を何かに引っ掛けて、よろよろと倒れて、橋から落ちてしまいそうになったので、『まあ、この葛城の神は、危なっかしく拵えたこと』と、文句を言って、覗き見の興味も冷めてしまったようでした。『頭の君は、直衣姿で、御随身たちもいましたが。あの人は誰、この人は誰』と数えたのは、頭中将の随身や、その小舎人童を、証拠に言っていたのです」などと申し上げると、<BR>⏎ <P>⏎ | 126-128 | 先日、先払いをして通る牛車がございましたのを、覗き見て、女童が急いで、『右近の君さん、早く御覧なさい。中将殿が、ここをお通り過ぎになってしまいます』と言うと、もう一人,見苦しくない女房が出て来て、『お静かに』と、手で制しながらも、『どうしてそうと分かりますか、どれ,見てみよう』と言って、渡って来ます。<BR>⏎ 打橋のようなものを通路にして、行き来するのでございます。急いで来ると,なんとまあ大変、衣の裾を何かに引っ掛けて、よろよろと倒れて、橋から落ちてしまいそうになったので、『まあ、この葛城の神は、危なっかしく拵えたこと』と、文句を言って、覗き見の興味も冷めてしまったようでした。<BR>⏎ 『頭の君は、直衣姿で、御随身たちもいましたが。あの人は誰、この人は誰』と数えたのは、頭中将の随身や、その小舎人童を、証拠に言っていたのです」などと申し上げると、<BR>⏎ |
| d1 | 216 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 217-220 | とおっしゃって、「もしや、あの頭中将が愛しく忘れ難かった女であろうか」と、思いつかれるにつけても、とても知りたげなご様子を見て、<BR>⏎ <P>⏎ 「わたくし自身の懸想も首尾よく致して、家の内情もすっかり存じておりますが、相手の女は、ただ、同じ同輩どうしの女がいるだけだと思わせて、話しかけてくる若い近習がございますので、わたしも空とぼけたふりして、隠れて通っています。とてもうまく隠していると思って、小さい子供などのございますのが言い間違いそうになるのも、ごまかして、別に主人のいない様子を無理に装っております」などと、話して笑う。<BR>⏎ <P>⏎ | 130-131 | とおっしゃって、「もしや,あの頭中将が愛しく忘れ難かった女であろうか」と、思いつかれるにつけても、とても知りたげなご様子を見て、<BR>⏎ 「わたくし自身の懸想も首尾よく致して、家の内情もすっかり存じておりますが、相手の女は,ただ,同じ同輩どうしの女がいるだけだと思わせて、話しかけてくる若い近習がございますので、わたしも空とぼけたふりして、隠れて通っています。とてもうまく隠していると思って、小さい子供などのございますのが言い間違いそうになるのも、ごまかして、別に主人のいない様子を無理に装っております」などと、話して笑う。<BR>⏎ |
| d1 | 222 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 223-224 | 一時的にせよ、住んでいる家の程度を思うと、「これこそ、あの左馬頭が判定して、貶んだ下の品であろう。その中に予想外におもしろい事があったら」などと、お思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 133 | 一時的にせよ、住んでいる家の程度を思うと、「これこそ、あの左馬頭が判定して、貶んだ下の品であろう。その中に 予想外におもしろい事があったら」などと、お思いになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 226 | <P>⏎ | ||
| d1 | 228 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 229-230 | 「懸想人のひどく人げない徒ち歩き姿を、見つけられましては、辛いものですね」とこぼすが、誰にもお知らせなさらないことにして、あの夕顔の案内をした随身だけ、その他には、顔をまったく知られてないはずの童一人だけを、連れていらっしゃるのであった。「万一思い当たる気配もあろうか」と慮って、隣に中休みをさえなさらない。<BR>⏎ <P>⏎ | 136 | 「懸想人のひどく人げない徒ち歩き姿を、見つけられましては、辛いものですね」とこぼすが、誰にもお知らせなさらないことにして、あの夕顔の案内をした随身だけ、その他には,顔をまったく知られてないはずの童一人だけを、連れていらっしゃるのであった。「万一思い当たる気配もあろうか」と慮って、隣に中休みをさえなさらない。<BR>⏎ |
| d1 | 232 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 233-236 | このような方面では、実直な人も乱れる時があるものだが、とても見苦しくなく自重なさって、人が非難申し上げるような振る舞いはなさらなかったが、不思議なまでに、今朝の間、昼間の逢わないでいる間も、逢いたく気が気でないなどと、お思い悩みになるので、他方では、ひどく気違いじみており、それほど熱中するに相応しいことではないと、つとめて熱をお冷ましになるが、女の感じは、とても驚くほど従順でおっとりとしていて、物事に思慮深く慎重な方面は少なくて、一途に子供っぽいようでいながら、男女の仲を知らないでもない。たいして高い身分ではあるまい、どこにひどくこうまで心惹かれるのだろうか、と繰り返しお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ とてもわざとらしくして、ご装束も粗末な狩衣をお召しになり、姿を変え、顔も少しもお見せにならず、深夜ごろに、人の寝静まるのを待ってお出入りなどなさるので、昔あったという変化の者じみて、気味悪く嘆息されるが、男性のご様子は、そうは言うものの、手触りでも分かることができたので、「いったい、どなたであろうか。やはりこの好色人が手引きして始まったことらしい」と、大夫を疑ってみるが、つとめて何くわぬ顔を装って、まったく知らない様子に、せっせと色恋に励んでいるので、どのようなことかとわけが分からず、女の方も不思議な一風変わった物思いをするのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 138-139 | このような方面では、実直な人も乱れる時があるものだが、とても見苦しくなく自重なさって、人が非難申し上げるような振る舞いはなさらなかったが、不思議なまでに、今朝の間、昼間の逢わないでいる間も、逢いたく気が気でないなどと、お思い悩みになるので、他方では,ひどく気違いじみており、それほど熱中するに相応しいことではないと、つとめて熱をお冷ましになるが、女の感じは、とても驚くほど従順でおっとりとしていて、物事に思慮深く慎重な方面は少なくて、一途に子供っぽいようでいながら、男女の仲を知らないでもない。たいして高い身分ではあるまい、どこにひどくこうまで心惹かれるのだろうか、と繰り返しお思いになる。<BR>⏎ とてもわざとらしくして、ご装束も粗末な狩衣をお召しになり、姿を変え、顔も少しもお見せにならず、深夜ごろに、人の寝静まるのを待ってお出入りなどなさるので、昔あったという変化の者じみて、気味悪く嘆息されるが、男性のご様子は、そうは言うものの、手触りでも分かることができたので、「いったい,どなたであろうか。やはりこの好色人が手引きして始まったことらしい」と、大夫を疑ってみるが、つとめて何くわぬ顔を装って、まったく知らない様子に、せっせと色恋に励んでいるので、どのようなことかとわけが分からず、女の方も不思議な一風変わった物思いをするのであった。<BR>⏎ |
| version04 | 237 | <A NAME="in42">[第二段 八月十五夜の逢瀬]</A><BR> | 140 | |
| d1 | 238 | <P>⏎ | ||
| d1 | 240 | <P>⏎ | ||
| d1 | 242 | <P>⏎ | ||
| cd14:7 | 243-256 | 「さあ、とても気楽な所で、のんびりとお話し申そう」<BR>⏎ <P>⏎ などと、お誘いになると、<BR>⏎ <P>⏎ 「やはり、変でございすわ。そうおっしゃいますが、普通とは違ったお持てなしなので、何となく空恐ろしい気がしますわ」<BR>⏎ <P>⏎ と、とても子供っぽく言うので、「なるほど」と、思わずにっこりなさって、<BR>⏎ <P>⏎ 「なるほど、どちらが狐でしょうかね。ただ、化かされなさいな」<BR>⏎ <P>⏎ と、優しそうにおっしゃると、女もすっかりその気になって、そうであってもいいと思っている。「世間に例のない、不都合なことであっても、一途に従順な心は、実にかわいい女だ」と、ご覧になると、やはり、あの頭中将の常夏の女かと疑われて、話された性質、それをまっさきにお思い出さずにはいらっしゃれないが、「きっと隠すような事情があるのだろう」と、むやみにお聞き出しなさらない。<BR>⏎ <P>⏎ 表情に現して、不意に逃げ隠れするような性質などはないので、「離れ離れに、絶え間を置いたような折には、そのように気を変えることもあろうが、女のほうから、少し浮気することがあったほうが愛情も増さるであろう」とまで、お思いになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 143-149 | 「さあ,とても気楽な所で、のんびりとお話し申そう」<BR>⏎ などと,お誘いになると、<BR>⏎ 「やはり,変でございすわ。そうおっしゃいますが、普通とは違ったお持てなしなので、何となく空恐ろしい気がしますわ」<BR>⏎ と,とても子供っぽく言うので、「なるほど」と、思わずにっこりなさって、<BR>⏎ 「なるほど,どちらが狐でしょうかね。ただ,化かされなさいな」<BR>⏎ と,優しそうにおっしゃると、女もすっかりその気になって、そうであってもいいと思っている。「世間に例のない、不都合なことであっても、一途に従順な心は、実にかわいい女だ」と,ご覧になると、やはり,あの頭中将の常夏の女かと疑われて、話された性質、それをまっさきにお思い出さずにはいらっしゃれないが、「きっと隠すような事情があるのだろう」と、むやみにお聞き出しなさらない。<BR>⏎ 表情に現して、不意に逃げ隠れするような性質などはないので、「離れ離れに,絶え間を置いたような折には、そのように気を変えることもあろうが、女のほうから、少し浮気することがあったほうが愛情も増さるであろう」とまで、お思いになった。<BR>⏎ |
| d1 | 258 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 259-260 | 「ああ、ひどく貧しいことよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 151 | 「ああ,ひどく貧しいことよ」<BR>⏎ |
| d1 | 262 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 263-264 | などと、言い交わしているのも聞こえる。<BR>⏎ <P>⏎ | 153 | などと,言い交わしているのも聞こえる。<BR>⏎ |
| d1 | 266 | <P>⏎ | ||
| cd10:5 | 267-276 | 風流ぶって気取りたがるような人は、消え入りたいほどの住居の様子のようである。けれでも、のんびりと、辛いことも嫌なことも気恥ずかしいことも、苦にしている様子でなく、自身の態度や様子は、とても上品でおっとりして、またとないくらい下品な隣家のぶしつけさを、どのようなこととも知っている様子でないので、かえって恥ずかしがり赤くなるよりは、罪がないように思われるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ ごろごろと鳴る雷よりも騒がしく、踏み轟かす唐臼の音も枕元のように聞こえる。「ああ、やかましい」と、これには閉口されなさる。何の響きともお分りにならず、とても不思議で耳障りな音だとばかりお聞きになる。ごたごたしたことばかり多かった。<BR>⏎ <P>⏎ 衣を打つ砧の音も、かすかにあちらこちらからと聞こえて来て、空を飛ぶ雁の声も、一緒になって、堪えきれない情趣が多い。端近いご座所だったので、遣戸を引き開けて、一緒に外を御覧になる。広くもない庭に、しゃれた呉竹や、前栽の露は、やはりこのような所も同じように光っていた。虫の声々が入り乱れ、壁の内側のこおろぎでさえ、時たまお聞きになっているお耳に、じかに押し付けたように鳴き乱れているのを、かえって違った感じにお思いなさるのも、お気持ちの深さゆえに、すべての欠点が許されるのであろうよ。<BR>⏎ <P>⏎ 白い袷、薄紫色の柔らかい衣を重ね着て、地味な姿態は、とてもかわいらしげに華奢な感じがして、どこそこと取り立てて優れた所はないが、か細くしなやかな感じがして、何かちょっと言った感じは、「ああ、いじらしい」と、ただもうかわいく思われる。気取ったところをもう少し加えたらと、御覧になりながら、なおもくつろいで逢いたく思われなさるので、<BR>⏎ <P>⏎ 「さあ、ちょっとこの辺の近い所で、気楽に夜を明かそう。こうしてばかりいては、とても辛いなあ」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ | 155-159 | 風流ぶって気取りたがるような人は、消え入りたいほどの住居の様子のようである。けれども,のんびりと、辛いことも嫌なことも気恥ずかしいことも、苦にしている様子でなく、自身の態度や様子は、とても上品でおっとりして、またとないくらい下品な隣家のぶしつけさを、どのようなこととも知っている様子でないので、かえって 恥ずかしがり赤くなるよりは、罪がないように思われるのであった。<BR>⏎ ごろごろと鳴る雷よりも騒がしく、踏み轟かす唐臼の音も枕元のように聞こえる。「ああ,やかましい」と、これには閉口されなさる。何の響きともお分りにならず、とても不思議で耳障りな音だとばかりお聞きになる。ごたごたしたことばかり多かった。<BR>⏎ 衣を打つ砧の音も、かすかにあちらこちらからと聞こえて来て、空を飛ぶ雁の声も、一緒になって、堪えきれない情趣が多い。端近いご座所だったので、遣戸を引き開けて、一緒に外を御覧になる。広くもない庭に、しゃれた呉竹や、前栽の露は、やはりこのような所も同じように光っていた。虫の声々が入り乱れ、壁の内側のこおろぎでさえ,時たまお聞きになっているお耳に、じかに押し付けたように鳴き乱れているのを、かえって違った感じにお思いなさるのも、お気持ちの深さゆえに、すべての欠点が許されるのであろうよ。<BR>⏎ 白い袷、薄紫色の柔らかい衣を重ね着て、地味な姿態は、とてもかわいらしげに華奢な感じがして、どこそこと取り立てて優れた所はないが、か細くしなやかな感じがして、何かちょっと言った感じは、「ああ,いじらしい」と、ただもうかわいく思われる。気取ったところをもう少し加えたらと、御覧になりながら、なおもくつろいで逢いたく思われなさるので、<BR>⏎ 「さあ,ちょっとこの辺の近い所で、気楽に夜を明かそう。こうしてばかりいては、とても辛いなあ」とおっしゃると、<BR>⏎ |
| d1 | 278 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 279-280 | と、とてもおっとりと言ってじっとしている。この世だけでない来世の約束などまで相手に期待させていらっしゃるので、気を許す心根などが、不思議に普通と違って、世慣れた女とも思われないので、他人がどう思うかを慮ることもおできになれず、右近を召し出して、随身を呼ばせなさって、お車を引き入れさせなさる。この家の女房たちも、このようなお気持ちが並大抵でないのが分かるので、不安に思いながらも、期待をかけ申していた。<BR>⏎ <P>⏎ | 161 | と,とてもおっとりと言ってじっとしている。この世だけでない来世の約束などまで相手に期待させていらっしゃるので、気を許す心根などが、不思議に普通と違って、世慣れた女とも思われないので、他人がどう思うかを慮ることもおできになれず、右近を召し出して、随身を呼ばせなさって、お車を引き入れさせなさる。この家の女房たちも、このようなお気持ちが並大抵でないのが分かるので、不安に思いながらも、期待をかけ申していた。<BR>⏎ |
| d1 | 282 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 283-287 | 「あれを、お聞きなさい。この世だけとは思っていないのだね」と、しみじみと感じられて、<BR>⏎ <P>⏎ 「優婆塞が勤行しているのを道しるべにして<BR>⏎ 来世にも深い約束に背かないで下さい」<BR>⏎ <P>⏎ | 163-164 | 「あれを,お聞きなさい。この世だけとは思っていないのだね」と、しみじみと感じられて、<BR>⏎ 「優婆塞が勤行しているのを道しるべにして<BR> 来世にも深い約束に背かないで下さい」<BR>⏎ |
| d1 | 289 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 290-294 | 「前世の宿縁の拙さが身につまされるので<BR>⏎ 来世まではとても頼りかねます」<BR>⏎ <P>⏎ このような返歌のし方なども、実のところ、心細いようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 166-167 | 「前世の宿縁の拙さが身につまされるので<BR> 来世まではとても頼りかねます」<BR>⏎ このような返歌のし方なども、実のところ,心細いようである。<BR>⏎ |
| version04 | 295 | <A NAME="in43">[第三段 なにがしの院に移る]</A><BR> | 168 | |
| d1 | 296 | <P>⏎ | ||
| d1 | 298 | <P>⏎ | ||
| d1 | 300 | <P>⏎ | ||
| d1 | 302 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 303-305 | 昔の人もこのように恋の道に迷ったのだろうか<BR>⏎ わたしには経験したことのない明け方の道だ<BR>⏎ <P>⏎ | 172 | 昔の人もこのように恋の道に迷ったのだろうか<BR> わたしには経験したことのない明け方の道だ<BR>⏎ |
| d1 | 307 | <P>⏎ | ||
| d1 | 309 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 310-311 | 「山の端をどこと知らないで随って行く月は<BR>⏎ 途中で光が消えてしまうのではないでしょうか<BR>⏎ | 175 | 「山の端をどこと知らないで随って行く月は<BR> 途中で光が消えてしまうのではないでしょうか<BR>⏎ |
| d1 | 313 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 314-315 | と言って、何となく怖がって気味悪そうに思っているので、「あの建て込んでいる小家に住み慣れているからだろう」と、おもしろくお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 177 | と言って,何となく怖がって気味悪そうに思っているので、「あの建て込んでいる小家に住み慣れているからだろう」と、おもしろくお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 317 | <P>⏎ | ||
| d1 | 319 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 320-321 | 「お供にどなたもお仕えいたしておりませんな。不都合なことですな」と言って、親しい下家司で、大殿にも仕えている者だったので、参り寄って、「適当な人を、お呼びなさるべきではありませんか」などと、申し上げさせるが、<BR>⏎ <P>⏎ | 180 | 「お供にどなたもお仕えいたしておりませんな。不都合なことですな」と言って、親しい下家司で、大殿にも仕えている者だったので、参り寄って、「適当な人を,お呼びなさるべきではありませんか」などと、申し上げさせるが、<BR>⏎ |
| d1 | 323 | <P>⏎ | ||
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| d1 | 327 | <P>⏎ | ||
| d1 | 329 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 330-333 | お顔は依然として隠していらっしゃるが、女がとても辛いと思っているので、「なるほど、これ程深い仲になって隠しているようなのも、男女のあるべきさまと違っている」とお思いになって、<BR>⏎ <P>⏎ 「夕べの露を待って花開いて顔をお見せするのは<BR>⏎ 道で出逢った縁からなのですよ<BR>⏎ | 185-186 | お顔は依然として隠していらっしゃるが、女がとても辛いと思っているので、「なるほど,これ程深い仲になって隠しているようなのも、男女のあるべきさまと違っている」とお思いになって、<BR>⏎ 「夕べの露を待って花開いて顔をお見せするのは<BR> 道で出逢った縁からなのですよ<BR>⏎ |
| d1 | 335 | <P>⏎ | ||
| d1 | 337 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 338-342 | 「光輝いていると見ました夕顔の上露は<BR>⏎ たそがれ時の見間違いでした」<BR>⏎ <P>⏎ とかすかに言う。おもしろいとお思いになる。なるほど、うちとけていらっしゃるご様子は、またとなく、場所が場所ゆえ、いっそう不吉なまでにお美しくお見えになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 189-190 | 「光輝いていると見ました夕顔の上露は<BR> たそがれ時の見間違いでした」<BR>⏎ とかすかに言う。おもしろいとお思いになる。なるほど,うちとけていらっしゃるご様子は、またとなく、場所が場所ゆえ、いっそう不吉なまでにお美しくお見えになる。<BR>⏎ |
| d1 | 344 | <P>⏎ | ||
| d1 | 346 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 347-348 | 「それでは、これも『われから』のようだ」と、怨みまた一方では睦まじく語り合いながら、一日お過ごしになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 193 | 「それでは,これも『われから』のようだ」と、怨みまた一方では睦まじく語り合いながら、一日お過ごしになる。<BR>⏎ |
| d1 | 350 | <P>⏎ | ||
| d1 | 352 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 353-354 | 「主上には、どんなにかお探しあそばしているだろうから、人々はどこを探しているだろうか」と、思いをおはせになって、また一方では、「不思議な気持ちだ。六条辺りでも、どんなにお思い悩んでいらっしゃることだろう。怨まれることも、辛いことだし、もっともなことだ」と、おいたわしい方としては、まっさきにお思い出し申し上げなさる。無心に向かい合って座っているのを、かわいいとお思いになるにつれて、「あまり思慮深く、対座する者までが息が詰るようなご様子を、少し取り除きたいものだ」と、ついご比較されるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 196 | 「主上には、どんなにかお探しあそばしているだろうから、人々はどこを探しているだろうか」と、思いをおはせになって、また一方では,「不思議な気持ちだ。六条辺りでも、どんなにお思い悩んでいらっしゃることだろう。怨まれることも、辛いことだし、もっともなことだ」と、おいたわしい方としては、まっさきにお思い出し申し上げなさる。無心に向かい合って座っているのを、かわいいとお思いになるにつれて、「あまり思慮深く、対座する者までが息が詰るようなご様子を、少し取り除きたいものだ」と、ついご比較されるのであった。<BR>⏎ |
| version04 | 355 | <A NAME="in44">[第四段 夜半、もののけ現われる]</A><BR> | 197 | |
| d1 | 357 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 358-361 | 「わたしがあなたをとても素晴らしいとお慕い申し上げているそのわたしには、お訪ねもなさらず、このような、特に優れたところもない女を連れていらっしゃって、おかわいがりになさるのは、まことに癪にさわり辛い」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、自分のお側の人を引き起こそうとしているる、と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 199-200 | 「わたしがあなたをとても素晴らしいとお慕い申し上げているそのわたしには、お訪ねもなさらず、このような,特に優れたところもない女を連れていらっしゃって、おかわいがりになさるのは、まことに癪にさわり辛い」<BR>⏎ と言って,自分のお側の人を引き起こそうとしているる、と御覧になる。<BR>⏎ |
| d1 | 363 | <P>⏎ | ||
| d1 | 365 | <P>⏎ | ||
| d1 | 367 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 368-369 | 「ああ、子供みたいな」と、ちょっとお笑いになって、手をお叩きになると、こだまが応える音、まことに気味が悪い。誰も聞きつけないで参上しないので、この女君は、ひどくふるえ脅えて、どうしてよいか分からなく思っている。汗もびっしょりになって、正気を失った様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 204 | 「ああ,子供みたいな」と、ちょっとお笑いになって、手をお叩きになると、こだまが応える音、まことに気味が悪い。誰も聞きつけないで参上しないので、この女君は、ひどくふるえ脅えて、どうしてよいか分からなく思っている。汗もびっしょりになって、正気を失った様子である。<BR>⏎ |
| d1 | 371 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 372-375 | 「わたしが、誰かを起こそう。手を叩くと、こだまが応える、まことにうるさい。こちらに、しばらくは、近くへ」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、右近を引き寄せなさって、西の妻戸に出て、戸を押し開けなさると、渡殿の火も既に消えていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 206-207 | 「わたしが,誰かを起こそう。手を叩くと、こだまが応える、まことにうるさい。こちらに、しばらくは,近くへ」<BR>⏎ と言って,右近を引き寄せなさって、西の妻戸に出て、戸を押し開けなさると、渡殿の火も既に消えていた。<BR>⏎ |
| d1 | 377 | <P>⏎ | ||
| d1 | 379 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 380-381 | 「控えていましたが、ご命令もない。早暁にお迎えに参上すべき旨申して、帰ってしまいました」と申し上げる。この、こう申す者は滝口の武士であったので、弓の弦をまことに手馴れた様子に打ち鳴らして、「火の用心」と言いながら、管理人の部屋の方角へ行ったようだ。内裏をお思いやりになって、「名対面は過ぎたろう、滝口の宿直奏しは、ちょうど今ごろか」と、ご推量になるのは、まだ、さほど夜も更けていないのでは。<BR>⏎ <P>⏎ | 210 | 「控えていましたが、ご命令もない。早暁にお迎えに参上すべき旨申して、帰ってしまいました」と申し上げる。この,こう申す者は 滝口の武士であったので、弓の弦をまことに手馴れた様子に打ち鳴らして、「火の用心」と言いながら、管理人の部屋の方角へ行ったようだ。内裏をお思いやりになって、「名対面は過ぎたろう、滝口の宿直奏しは、ちょうど今ごろか」と、ご推量になるのは、まだ,さほど夜も更けていないのでは。<BR>⏎ |
| d1 | 383 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 384-385 | 「これはどうしたことか。何と、気違いじみた怖がりようだ。荒れた所には、狐などのようなものが、人を脅かそうとして、怖がらせるのだろう。わたしがいるからには、そのようなものからは脅されない」と言って引き起こしなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 212 | 「これはどうしたことか。何と、気違いじみた怖がりようだ。荒れた所には、狐などのようなものが、人を脅かそうとして、怖がらせるのだろう。わたしがいるからには、そのようなものからは脅されない」と言って 引き起こしなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 387 | <P>⏎ | ||
| d1 | 389 | <P>⏎ | ||
| d1 | 391 | <P>⏎ | ||
| d1 | 393 | <P>⏎ | ||
| d1 | 395 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 396-401 | 「もっと近くに持って来なさい。場所によるぞ」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、召し寄せて御覧になると、ちょうどこの枕上に、夢に現れた姿をしている女が、幻影のように現れて、ふっと消え失せた。<BR>⏎ <P>⏎ 「昔の物語などに、このようなことは聞くけれど」と、まことに珍しく気味悪いが、まず、「この女はどのようになったのか」とお思いになる不安に、わが身の上の危険もお顧みにならず、添い臥して、「もし、もし」と、お起こしになるが、すっかりもう冷たくなっていて、息はとっくにこと切れてしまっていたのであった。どうすることもできない。頼りになる、どうしたらよいかとご相談できるような方もいない。法師などは、このような時の頼みになる人とはお思いになるが。それほどお強がりになるが、お若い考えで、空しく死んでしまったのを御覧になると、どうしようもなくて、ひしと抱いて、<BR>⏎ <P>⏎ | 218-220 | 「もっと近くに持って来なさい. 場所によるぞ」<BR>⏎ と言って,召し寄せて御覧になると、ちょうどこの枕上に、夢に現れた姿をしている女が、幻影のように現れて、ふっと消え失せた。<BR>⏎ 「昔の物語などに、このようなことは聞くけれど」と、まことに珍しく気味悪いが、まず,「この女はどのようになったのか」とお思いになる不安に、わが身の上の危険もお顧みにならず、添い臥して、「もし,もし」と、お起こしになるが、すっかりもう冷たくなっていて、息はとっくにこと切れてしまっていたのであった。どうすることもできない。頼りになる、どうしたらよいかとご相談できるような方もいない。法師などは、このような時の頼みになる人とはお思いになるが。それほどお強がりになるが、お若い考えで、空しく死んでしまったのを御覧になると、どうしようもなくて、ひしと抱いて、<BR>⏎ |
| d1 | 403 | <P>⏎ | ||
| d1 | 405 | <P>⏎ | ||
| d1 | 407 | <P>⏎ | ||
| d1 | 409 | <P>⏎ | ||
| d1 | 411 | <P>⏎ | ||
| d1 | 413 | <P>⏎ | ||
| d1 | 415 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 416-423 | 「ここに、まことに不思議に、魔性のものに魅入られた人が苦しそうなので、今すぐに、惟光朝臣の泊まっている家に行って、急いで参上するように言え、と命じなさい。某阿闍梨が、そこに居合わせていたら、ここに来るよう、こっそりと言いなさい。あの尼君などが聞こうから、大げさに言うな。このような忍び歩きは許さない人だ」<BR>⏎ <P>⏎ などと、用件をおっしゃるようだが、胸が一杯で、この人を死なせてしまったらどうまるのかがたまらなくお思いになるのに加えて、辺りの不気味さは、譬えようもない。<BR>⏎ <P>⏎ 夜中も過ぎたのだろうよ、風がやや荒々しく吹いているのは。その上に、松風の響きが、木深く聞こえて、異様な鳥がしわがれ声で鳴いているのも、「梟」と言う鳥はこのことかと思われる。あれこれと考え廻らすと、あちらこちらと、何となく遠く気味悪いうえに、人声はせず、「どうして、このような心細い外泊をしてしまったのだろう」と、後悔してもしようがない。<BR>⏎ <P>⏎ 右近は、何も考えられず、源氏の君にぴったりと寄り添い申して、震え死にそうである。「また、この人もどうなるのだろうか」と、気も上の空で掴まえていらっしゃる。自分一人がしっかりした人で、途方に暮れていらっしゃるのであったよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 228-231 | 「ここに,まことに不思議に、魔性のものに魅入られた人が苦しそうなので、今すぐに、惟光朝臣の泊まっている家に行って、急いで参上するように言え、と命じなさい。某阿闍梨が、そこに居合わせていたら、ここに来るよう、こっそりと言いなさい。あの尼君などが聞こうから、大げさに言うな。このような忍び歩きは許さない人だ」<BR>⏎ などと,用件をおっしゃるようだが、胸が一杯で、この人を死なせてしまったらどうまるのかがたまらなくお思いになるのに加えて、辺りの不気味さは、譬えようもない。<BR>⏎ 夜中も過ぎたのだろうよ、風がやや荒々しく吹いているのは。その上に,松風の響きが、木深く聞こえて、異様な鳥がしわがれ声で鳴いているのも、「梟」と言う鳥はこのことかと思われる。あれこれと考え廻らすと、あちらこちらと、何となく遠く気味悪いうえに、人声はせず、「どうして,このような心細い外泊をしてしまったのだろう」と、後悔してもしようがない。<BR>⏎ 右近は、何も考えられず、源氏の君にぴったりと寄り添い申して、震え死にそうである。「また,この人もどうなるのだろうか」と、気も上の空で掴まえていらっしゃる。自分一人がしっかりした人で、途方に暮れていらっしゃるのであったよ。<BR>⏎ |
| d1 | 425 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 426-427 | ようやくのことで、鶏の声が遠くで聞こえるにつけ、「危険を冒して、何の因縁で、このような辛い目に遭うのだあろう。我ながら、このようなことで、大それたあってはならない恋心の報復として、このような、後にも先にも語り草となってしまいそうなことが起こったのだろう。隠していても、実際に起こった事は隠しきれず、主上のお耳に入るだろうことを始めとして、世人が推量し噂するだろうことは、良くない京童べの噂になりそうだ。あげくのはて、馬鹿者の評判を立てられるにちがいないなあ」と、ご思案される。<BR>⏎ <P>⏎ | 233 | ようやくのことで、鶏の声が遠くで聞こえるにつけ、「危険を冒して、何の因縁で、このような辛い目に遭うのだあろう。我ながら、このようなことで、大それたあってはならない恋心の報復として、このような,後にも先にも語り草となってしまいそうなことが起こったのだろう。隠していても、実際に起こった事は隠しきれず、主上のお耳に入るだろうことを始めとして、世人が推量し噂するだろうことは、良くない京童べの噂になりそうだ。あげくのはて、馬鹿者の評判を立てられるにちがいないなあ」と、ご思案される。<BR>⏎ |
| version04 | 428 | <A NAME="in45">[第五段 源氏、二条院に帰る]</A><BR> | 234 | |
| d1 | 429 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 430-433 | ようやくのことで、惟光朝臣が参上した。夜中、早朝の区別なく、御意のままに従う者が、今夜に限って控えていなくて、お呼び出しにまで遅れて参ったのを、憎らしいとお思いになるものの、呼び入れて、おっしゃろうとする内容があっけないので、すぐには何もおっしゃれない。右近は、大夫の様子を聞くと、初めからのことが、つい思い出されて泣くと、源氏の君も我慢がおできになれず、自分一人気丈夫に抱いていらっしゃったところ、この人を見てほっとなさって、悲しい気持ちにおなりになるのであったが、しばらくは、まことに大変にとめどもなくお泣きになる。<BR>⏎ <P>⏎ やっと気持ちを落ち着けて、「ここで、まことに奇妙な事件が起こったが、驚くと言っても言いようのないほどだ。このような危急のことには、誦経などをすると言うので、その手配をさせよう。願文なども立てさせようと思って、阿闍梨に来るようにと、言ってやったのは」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ | 235-236 | ようやくのことで、惟光朝臣が参上した。夜中、早朝の区別なく、御意のままに従う者が、今夜に限って控えていなくて、お呼び出しにまで遅れて参ったのを、憎らしいとお思いになるものの、呼び入れて、おっしゃろうとする内容があっけないので、すぐには何もおっしゃれない。右近は、大夫の様子を聞くと、初めからのことが、つい思い出されて泣くと、源氏の君も我慢がおできになれず、自分一人気丈夫に抱いていらっしゃったところ、この人を見てほっとなさって、悲しい気持ちにおなりになるのであったが,しばらくは、まことに大変に とめどもなくお泣きになる。<BR>⏎ やっと気持ちを落ち着けて、「ここで,まことに奇妙な事件が起こったが、驚くと言っても言いようのないほどだ。このような危急のことには、誦経などをすると言うので、その手配をさせよう。願文なども立てさせようと思って、阿闍梨に来るようにと、言ってやったのは」とおっしゃると、<BR>⏎ |
| d1 | 435 | <P>⏎ | ||
| d1 | 437 | <P>⏎ | ||
| d1 | 439 | <P>⏎ | ||
| cd6:4 | 440-445 | 「この院の管理人などに聞かせるようなことは、まことに不都合なことでしょう。この管理人一人は親密であっても、自然と口をすべらしてしまう身内も中にはいることでしょう。まずは、この院をお出なさいましね」と言う。<BR>⏎ <P>⏎ 「ところで、ここより人少なな所がどうしてあろうか」とおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ 「なるほど、そうでございましょう。あの元の家は、女房などが、悲しみに耐えられず、泣き取り乱すでしょうし、隣家が多く、見咎める住人も多くございましょうから、自然と噂が立ちましょうが、山寺は、何と言ってもこのようなことも、自然ありがちで、目立たないことでございましょう」と言って、思案して、「昔、親しくしておりました女房で、尼になって住んでおります東山の辺に、お移し申し上げましょう。惟光めの父朝臣の乳母でございました者が、年老いて住んでいるのです。周囲は、人が多いようでございますが、とても閑静でございます」<BR>⏎ <P>⏎ | 240-243 | 「この院の管理人などに聞かせるようなことは、まことに不都合なことでしょう。この管理人一人は親密であっても、自然と口をすべらしてしまう身内も中にはいることでしょう。まずは,この院をお出なさいましね」と言う。<BR>⏎ 「ところで,ここより人少なな所がどうしてあろうか」とおっしゃる。<BR>⏎ 「なるほど,そうでございましょう。あの元の家は、女房などが、悲しみに耐えられず、泣き取り乱すでしょうし、隣家が多く、見咎める住人も多くございましょうから、自然と噂が立ちましょうが、山寺は、何と言ってもこのようなことも、自然ありがちで、目立たないことでございましょう」と言って、思案して、<BR>⏎ 「昔,親しくしておりました女房で、尼になって住んでおります東山の辺に、お移し申し上げましょう。惟光めの父朝臣の乳母でございました者が、年老いて住んでいるのです。周囲は、人が多いようでございますが、とても閑静でございます」<BR>⏎ |
| d1 | 447 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 448-455 | この女をお抱きになれそうもないので、上筵に包んで、惟光がお乗せ申す。とても小柄で、気味悪くもなく、かわいらしげである。しっかりとしたさまにもくるめないので、髪の毛がこぼれ出ているのを見るにつけ、目の前が真っ暗になって、何とも悲しい、とお思いになると、最後の様子を見届けたい、とお思いになるが、<BR>⏎ <P>⏎ 「早く、お馬で、二条院へお帰りあそばすのがよいでしょう。人騒がしくなりませぬうちに」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、右近を添えて乗せると、徒歩で、源氏の君に馬はお譲り申して、裾を括り上げなどをして、かつ一方では、とても変で、奇妙な野辺送りだが、君のお悲しみの深いことを拝見すると、自分のことは考えずに行くが、源氏の君は何もお考えになれず、茫然自失の態で、お帰りになった。<BR>⏎ <P>⏎ 女房たちは、「どこから、お帰りあそばしましたのか。ご気分が悪そうにお見えあそばします」などと言うが、御帳台の内側にお入りになって、胸を押さえて思うと、まことに悲しいので、「どうして、一緒に乗って行かなかったのだろうか。もし生き返った場合、どのような気がするだろう。見捨てて行ってしまったと、辛く思うであろうか」と、気が動転しているうちにも、お思いやると、お胸のせき上げてくる気がなさる。お頭も痛く、身体も熱っぽい感じがして、とても苦しく、どうしてよいやら分からない気がなさるので、「こう元気がなくて、自分も死んでしまうのかも知れない」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 245-248 | この女をお抱きになれそうもないので、上筵に包んで、惟光がお乗せ申す。とても小柄で、気味悪くもなく、かわいらしげである。しっかりとしたさまにもくるめないので、髪の毛がこぼれ出ているのを見るにつけ、目の前が真っ暗になって、何とも悲しい、とお思いになると、最後の様子を見届けたい,とお思いになるが、<BR>⏎ 「早く,お馬で、二条院へお帰りあそばすのがよいでしょう。人騒がしくなりませぬうちに」<BR>⏎ と言って,右近を添えて乗せると、徒歩で、源氏の君に馬はお譲り申して、裾を括り上げなどをして、かつ一方では,とても変で、奇妙な野辺送りだが、君のお悲しみの深いことを拝見すると、自分のことは考えずに行くが、源氏の君は何もお考えになれず、茫然自失の態で、お帰りになった。<BR>⏎ 女房たちは、「どこから、お帰りあそばしましたのか。ご気分が悪そうにお見えあそばします」などと言うが、御帳台の内側にお入りになって、胸を押さえて思うと、まことに悲しいので、「どうして,一緒に乗って行かなかったのだろうか。もし生き返った場合、どのような気がするだろう。見捨てて行ってしまったと、辛く思うであろうか」と、気が動転しているうちにも、お思いやると、お胸のせき上げてくる気がなさる。お頭も痛く、身体も熱っぽい感じがして、とても苦しく、どうしてよいやら分からない気がなさるので、「こう元気がなくて、自分も死んでしまうのかも知れない」とお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 457 | <P>⏎ | ||
| c2 | 458-459 | 「乳母でございます者で、この五月のころから、重く患っておりました者が、髪を切り受戒などをして、その甲斐があってか、生き返っていましたが、最近、再発して、弱くなっていますのが、『今一度、見舞ってくれ』と申していたので、幼いころから馴染んだ人が、今はの際に、薄情なと思うだろうと、存じて参っていたところ、その家にいた下人で、病気していた者が、急に暇をとる間もなく亡くなってしまったのを、恐れ遠慮して、日が暮れてから運び出したのを、聞きつけましたので、神事のあるころで、まことに不都合なこと、と存じ謹慎して、参内できないのです。この早朝から、風邪でしょうか、頭がとても痛くて苦しうございますので、大変失礼したまま申し上げます次第」<BR>⏎ <P>⏎ | 250-251 | 「乳母でございます者で、この五月のころから、重く患っておりました者が、髪を切り受戒などをして、その甲斐があってか、生き返っていましたが、最近、再発して、弱くなっていますのが、『今一度、見舞ってくれ』と申していたので、幼いころから馴染んだ人が、今はの際に、薄情なと思うだろうと、存じて参っていたところ、<BR>⏎ その家にいた下人で、病気していた者が、急に暇をとる間もなく亡くなってしまったのを、恐れ遠慮して、日が暮れてから運び出したのを、聞きつけましたので、神事のあるころで、まことに不都合なこと、と存じ謹慎して、参内できないのです。この早朝から、風邪でしょうか、頭がとても痛くて苦しうございますので、大変失礼したまま申し上げます次第」<BR>⏎ |
| d1 | 461 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 462-463 | 「それでは、そのような旨を奏上しましょう。昨夜も、管弦の御遊の折に、畏れ多くもお探し申しあそばされて、御機嫌お悪うございました」と申し上げなさって、また引き返して、「どのような穢れにご遭遇あそばしたのですか。ご説明なされたことは、本当とは存じられません」<BR>⏎ <P>⏎ | 253 | 「それでは,そのような旨を奏上しましょう。昨夜も、管弦の御遊の折に、畏れ多くもお探し申しあそばされて、御機嫌お悪うございました」と申し上げなさって、また引き返して、「どのような穢れにご遭遇あそばしたのですか。ご説明なされたことは、本当とは存じられません」<BR>⏎ |
| d1 | 465 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 466-469 | 「このように、詳しくではなく、ただ、思いがけない穢れに触れた由を、奏上なさって下さい。まったく不都合なことでございます」<BR>⏎ <P>⏎ と、さりげなくおっしゃるが、心中は、どうしようもなく悲しい事とお思いになるにつけ、ご気分もすぐれないので、誰ともお顔を合わせなさらない。蔵人の弁を呼び寄せて、きまじめにその旨を奏上させなさる。大殿などにも、これこれの事情があって、参上できないお手紙などを差し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 255-256 | 「このように,詳しくではなく、ただ,思いがけない穢れに触れた由を、奏上なさって下さい。まったく不都合なことでございます」<BR>⏎ と,さりげなくおっしゃるが、心中は、どうしようもなく悲しい事とお思いになるにつけ、ご気分もすぐれないので、誰ともお顔を合わせなさらない。蔵人の弁を呼び寄せて、きまじめにその旨を奏上させなさる。大殿などにも、これこれの事情があって、参上できないお手紙などを差し上げなさる。<BR>⏎ |
| version04 | 470 | <A NAME="in46">[第六段 十七日夜、夕顔の葬送]</A><BR> | 257 | |
| d1 | 471 | <P>⏎ | ||
| d1 | 473 | <P>⏎ | ||
| d1 | 475 | <P>⏎ | ||
| d1 | 477 | <P>⏎ | ||
| d1 | 479 | <P>⏎ | ||
| d1 | 481 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 482-485 | 「その者も、同様に、生きられそうにございませんようです。自分も死にたいと取り乱しまして、今朝は谷に飛び込みそうになったのを拝見しました。『あの前に住んでいた家の人に知らせよう』と申しますが、『今しばらく、落ち着きなさい、と。事情をよく考えてからに』と、宥めておきました」<BR>⏎ <P>⏎ と、ご報告申すにつれて、とても悲しくお思いになって、<BR>⏎ <P>⏎ | 263-264 | 「その者も、同様に,生きられそうにございませんようです。自分も死にたいと取り乱しまして、今朝は谷に飛び込みそうになったのを拝見しました。『あの前に住んでいた家の人に知らせよう』と申しますが、『今しばらく、落ち着きなさい、と。事情をよく考えてからに』と、宥めておきました」<BR>⏎ と,ご報告申すにつれて、とても悲しくお思いになって、<BR>⏎ |
| d1 | 487 | <P>⏎ | ||
| d1 | 489 | <P>⏎ | ||
| d1 | 491 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 492-493 | 「その他の法師たちなどにも、すべて、説明は別々にしてございます」<BR>⏎ <P>⏎ | 268 | 「その他の法師たちなどにも、すべて,説明は別々にしてございます」<BR>⏎ |
| d1 | 495 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 496-497 | わずかに会話を聞く女房などは、「変だわ、何事だろうか、穢れに触れた旨をおっしゃって、宮中へも参内なさらず、また、このようにひそひそと話して嘆いていらっしゃる」と、ぼんやり不思議がる。<BR>⏎ <P>⏎ | 270 | わずかに会話を聞く女房などは、「変だわ、何事だろうか、穢れに触れた旨をおっしゃって、宮中へも参内なさらず、また,このようにひそひそと話して嘆いていらっしゃる」と、ぼんやり不思議がる。<BR>⏎ |
| d1 | 499 | <P>⏎ | ||
| d1 | 501 | <P>⏎ | ||
| d1 | 503 | <P>⏎ | ||
| d1 | 505 | <P>⏎ | ||
| d1 | 507 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 508-509 | 「そのようにお思いになるならば、仕方ございません。早く、お出かけあそばして、夜が更けない前にお帰りあそばしませ」<BR>⏎ <P>⏎ | 276 | 「そのようにお思いになるならば、仕方ございません。早く,お出かけあそばして、夜が更けない前にお帰りあそばしませ」<BR>⏎ |
| d1 | 511 | <P>⏎ | ||
| d1 | 513 | <P>⏎ | ||
| d1 | 515 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 516-517 | 周囲一帯までがぞっとする所だが、板屋の隣に堂を建ててお勤めしている尼の家は、まことにもの寂しい感じである。御燈明の光が、微かに隙間から見える。その家には、女一人の泣く声ばかりして、外の方に、法師たち二、三人が話をしいしい、特に声を立てない念仏を唱えている。寺々の初夜も、皆、お勤めが終わって、とても静かである。清水寺の方角は、光が多く見え、人の気配がたくさんあるのであった。この尼君の子である大徳が尊い声で、経を読んでいるので、涙も涸れんばかりに思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 280 | 周囲一帯までがぞっとする所だが、板屋の隣に堂を建ててお勤めしている尼の家は、まことにもの寂しい感じである。御燈明の光が、微かに隙間から見える。その家には、女一人の泣く声ばかりして、外の方に、法師たち二,三人が話をしいしい、特に声を立てない念仏を唱えている。寺々の初夜も、皆,お勤めが終わって、とても静かである。清水寺の方角は、光が多く見え、人の気配がたくさんあるのであった。この尼君の子である大徳が尊い声で、経を読んでいるので、涙も涸れんばかりに思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| d1 | 519 | <P>⏎ | ||
| d1 | 521 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 522-527 | と、声も惜しまず、お泣きになること、際限がない。<BR>⏎ <P>⏎ 大徳たちも、この方たちを誰とは知らないが、子細があると思って、皆、涙を落としたのだった。<BR>⏎ <P>⏎ 右近に、「さあ、二条へ」とおっしゃるが、<BR>⏎ <P>⏎ | 283-285 | と,声も惜しまず、お泣きになること、際限がない。<BR>⏎ 大徳たちも、この方たちを誰とは知らないが、子細があると思って、皆,涙を落としたのだった。<BR>⏎ 右近に、「さあ,二条へ」とおっしゃるが、<BR>⏎ |
| d1 | 529 | <P>⏎ | ||
| d1 | 531 | <P>⏎ | ||
| d1 | 533 | <P>⏎ | ||
| d1 | 535 | <P>⏎ | ||
| d1 | 537 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 538-541 | 道中とても露っぽいところに、更に大変な朝霧で、どこだか分からないような気がなさる。生前の姿のままで横たわっていた様子、互いにお掛け合いになって寝たのや、その自分の紅のご衣装がそのまま着せ掛けてあったことなどが、どのような前世の因縁であったのかと、道すがらお思いにならずにはいらっしゃれない。お馬にも、しっかりとお乗りになることができそうにないご様子なので、再び、惟光が介添えしてお連れしていくと、堤の辺りで、馬からすべり下りて、ひどくご惑乱なさったので、<BR>⏎ <P>⏎ 「こんな道端で、野垂れ死んでしまうのだろうか。まったく、帰り着けそうにない気がする」<BR>⏎ <P>⏎ | 291-292 | 道中とても露っぽいところに、更に大変な朝霧で、どこだか分からないような気がなさる。生前の姿のままで横たわっていた様子、互いにお掛け合いになって寝たのや、その自分の紅のご衣装がそのまま着せ掛けてあったことなどが、どのような前世の因縁であったのかと,道すがらお思いにならずにはいらっしゃれない。お馬にも、しっかりとお乗りになることができそうにないご様子なので、再び,惟光が介添えしてお連れしていくと、堤の辺りで、馬からすべり下りて、ひどくご惑乱なさったので、<BR>⏎ 「こんな道端で、野垂れ死んでしまうのだろうか。まったく,帰り着けそうにない気がする」<BR>⏎ |
| d1 | 543 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 544-545 | 源氏の君も、無理に気を取り直して、心中に仏を拝みなさって、再び、あれこれ助けられなさって、二条院へお帰りになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 294 | 源氏の君も、無理に気を取り直して、心中に仏を拝みなさって、再び,あれこれ助けられなさって、二条院へお帰りになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 547 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 548-549 | ほんとうに、お臥せりになったままで、とてもひどくお苦しみになって、二、三日にもなったので、すっかり衰弱のようでいらっしゃる。帝におかせられても、お耳にあそばされ、嘆かれることはこの上ない。御祈祷を、方々の寺々にひっきりなしに大騒ぎする。祭り、祓い、修法など、数え上げたらきりがない。この世にまたとなく美しいご様子なので、長生きあそばされないのではないかと、国中の人々の騷ぎである。<BR>⏎ <P>⏎ | 296 | ほんとうに、お臥せりになったままで、とてもひどくお苦しみになって、二,三日にもなったので、すっかり衰弱のようでいらっしゃる。帝におかせられても、お耳にあそばされ、嘆かれることはこの上ない。御祈祷を、方々の寺々にひっきりなしに大騒ぎする。祭り、祓い、修法など、数え上げたらきりがない。この世にまたとなく美しいご様子なので、長生きあそばされないのではないかと、国中の人々の騷ぎである。<BR>⏎ |
| d1 | 551 | <P>⏎ | ||
| d1 | 553 | <P>⏎ | ||
| d1 | 555 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 556-557 | と、ひっそりとおっしゃって、弱々しくお泣きになるので、今さら言ってもしかたないことはさて措いても、「はなはだもったいないことだ」とお思い申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 300 | と,ひっそりとおっしゃって、弱々しくお泣きになるので、今さら言ってもしかたないことはさて措いても、「はなはだもったいないことだ」とお思い申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 559 | <P>⏎ | ||
| d1 | 561 | <P>⏎ | ||
| version04 | 562 | <A NAME="in47">[第七段 忌み明ける]</A><BR> | 303 | |
| d1 | 563 | <P>⏎ | ||
| d1 | 565 | <P>⏎ | ||
| d1 | 567 | <P>⏎ | ||
| cd12:9 | 568-579 | 「やはり、とても不思議だ。どうして誰とも知られまいと、お隠しになっていたのか。本当に賤しい身分であったとしても、あれほど愛しているのを知らず、隠していらっしゃったので、辛かった」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ 「どうして、深くお隠し申し上げなさる必要がございましょう。いつの折にか、たいした名でもないお名前を申し上げなさることができましょう。初めから、不思議な思いもかけなかったご関係なので、『現実の事とは思えない』とおっしゃって、『お名前を隠していらしたのも、あなた様でいらっしゃるからでしょう』と存じ上げておられながら、『いい加減な遊び事として、お名前を隠していらっしゃるのだろう』と辛いことに、お思いになっていました」と申し上げるので、<BR>⏎ <P>⏎ 「つまらない意地の張り合いであったな。自分は、そのように隠しておく気はなかった。ただ、このように人から許されない忍び歩きを、まだ経験ないことなのだ。主上が御注意あそばすことを始め、憚ることの多い身分で、ちょっと人に冗談を言っても、窮屈で、取り沙汰が大げさな身の上の有様なので、ふとした夕方の事から、妙に心に掛かって、無理算段してお通い申したのも、このような運命がおありだったのだろうと思うにつけても、お気の毒で。また反対に、恨めしく思われてならない。こう長くはない宿縁であったれば、どうして、あれほど心底から愛しく思われなさったのだろう。もう少し詳しく話せ。今はもう、何を隠す必要があろう。七日毎に仏画を描かせても、誰のためと、心中にも祈ろうか」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ 「どうして、お隠し申し上げましょう。ご自身が、お隠し続けていらしたことを、お亡くなりになった後に、口軽く言い洩らしてはいかがなものか、と存じおりますばかりです。<BR>⏎ <P>⏎ ご両親は、早くお亡くなりになりました。三位中将と申しました。とてもかわいい娘とお思い申し上げられていましたが、ご自分の出世が思うにまかせぬのをお嘆きのようでしたが、お命までままならず亡くなってしまわれた後、ふとした縁で、頭中将殿が、まだ少将でいらした時に、お通い申し上げあそばすようになって、三年ほどの間は、ご誠意をもってお通いになりましたが、去年の秋ごろ、あの右大臣家から、とても恐ろしい事を言って寄こしたので、ものをむやみに怖がるご性質ゆえに、どうしてよいか分からなくお怖がりになって、西の京に、御乳母が住んでおります所に、こっそりとお隠れなさいました。そこもとてもむさ苦しい所ゆえ、お住まいになりにくくて、山里に移ってしまおうと、お思いになっていたところ、今年からは方塞がりの方角でございましたので、方違えしようと思って、賤しい家においでになっていたところを、お見つけ申されてしまった事と、お嘆きのようでした。世間の人と違って、引っ込み思案をなさって、他人から物思いしている様子を見られるのを、恥ずかしいこととお思いなさって、さりげないふうを装って、お目にかかっていらっしゃるようでございました」<BR>⏎ <P>⏎ と、話し出すと、「そうであったのか」と、お思い合わせになって、ますます不憫さが増した。<BR>⏎ <P>⏎ | 306-314 | 「やはり,とても不思議だ。どうして誰とも知られまいと、お隠しになっていたのか。本当に賤しい身分であったとしても、あれほど愛しているのを知らず、隠していらっしゃったので、辛かった」とおっしゃると、<BR>⏎ 「どうして、深くお隠し申し上げなさる必要がございましょう。いつの折にか、たいした名でもないお名前を申し上げなさることができましょう。初めから、不思議な思いもかけなかったご関係なので、『現実の事とは思えない』とおっしゃって、『お名前を隠していらしたのも、あなた様でいらっしゃるからでしょう』と存じ上げておられながら、『いい加減な遊び事として,お名前を隠していらっしゃるのだろう』と 辛いことに,お思いになっていました」と申し上げるので、<BR>⏎ 「つまらない意地の張り合いであったな。自分は、そのように隠しておく気はなかった。ただ,このように人から許されない忍び歩きを、まだ経験ないことなのだ。主上が御注意あそばすことを始め、憚ることの多い身分で、ちょっと人に冗談を言っても、窮屈で、取り沙汰が大げさな身の上の有様なので、ふとした夕方の事から、妙に心に掛かって、無理算段してお通い申したのも、このような運命がおありだったのだろうと思うにつけても、お気の毒で。また反対に、恨めしく思われてならない。<BR>⏎ こう長くはない宿縁であったれば、どうして,あれほど心底から 愛しく思われなさったのだろう。もう少し詳しく話せ。今はもう、何を隠す必要があろう。七日毎に仏画を描かせても、誰のためと、心中にも祈ろうか」とおっしゃると、<BR>⏎ 「どうして,お隠し申し上げましょう。ご自身が、お隠し続けていらしたことを、お亡くなりになった後に、口軽く言い洩らしてはいかがなものか、と存じおりますばかりです。<BR>⏎ ご両親は、早くお亡くなりになりました。三位中将と申しました。とてもかわいい娘とお思い申し上げられていましたが、ご自分の出世が思うにまかせぬのをお嘆きのようでしたが、お命までままならず亡くなってしまわれた後、ふとした縁で、頭中将殿が、まだ少将でいらした時に、お通い申し上げあそばすようになって、三年ほどの間は、ご誠意をもってお通いになりましたが、<BR>⏎ 去年の秋ごろ、あの右大臣家から、とても恐ろしい事を言って寄こしたので、ものをむやみに怖がるご性質ゆえに、どうしてよいか分からなくお怖がりになって、西の京に、御乳母が住んでおります所に、こっそりとお隠れなさいました。そこもとてもむさ苦しい所ゆえ、お住まいになりにくくて、山里に移ってしまおうと,お思いになっていたところ、今年からは方塞がりの方角でございましたので、方違えしようと思って、賤しい家においでになっていたところを、お見つけ申されてしまった事と、お嘆きのようでした。<BR>⏎ 世間の人と違って、引っ込み思案をなさって,他人から物思いしている様子を見られるのを、恥ずかしいこととお思いなさって、さりげないふうを装って、お目にかかっていらっしゃるようでございました」<BR>⏎ と,話し出すと、「そうであったのか」と、お思い合わせになって、ますます不憫さが増した。<BR>⏎ |
| d1 | 581 | <P>⏎ | ||
| d1 | 583 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 584-585 | 「それで、どこに。誰にもそうとは知らせないで、わたしに下さい。あっけなくて、悲しいと思っている人のお形見として、どんなにか嬉しいことだろう」とおっしゃる。「あの中将にも伝えるべきだが、言っても始まらない恨み言を言われるだろう。あれこれにつけて、お育てするに不都合はあるまいからね。その一緒にいる乳母などにも違ったふうに言い繕って、連れて来てくれ」などと相談をもちかけなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 317 | 「それで,どこに。誰にもそうとは知らせないで、わたしに下さい。あっけなくて、悲しいと思っている人のお形見として、どんなにか嬉しいことだろう」とおっしゃる。「あの中将にも伝えるべきだが、言っても始まらない恨み言を言われるだろう。あれこれにつけて、お育てするに不都合はあるまいからね。その一緒にいる乳母などにも 違ったふうに言い繕って、連れて来てくれ」などと相談をもちかけなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 587 | <P>⏎ | ||
| d1 | 589 | <P>⏎ | ||
| d1 | 591 | <P>⏎ | ||
| cd4:3 | 592-595 | 「十九歳におなりだったでしょうか。右近めは、亡くなった乳母があとに残して逝きましたので、三位の君様がわたしをかわいがって下さって、お側離れず一緒に、お育て下さいましたのを思い出しますと、どうして生きておられましょう。どうしてこう深く親しんだのだろうと、悔やまれて。気弱そうでいらっしゃいました女君のお気持ちを、頼むお方として、長年仕えてまいりましたことでございます」と申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ 「頼りなげな人こそ、女はかわいらしいのだ。利口で我の強い人は、とても好きになれないものだ。自分自身がてきぱきとしっかりしていない性情だから、女はただ素直で、うっかりすると男に欺かれてしまいそうなのが、そのくせ引っ込み思案で、男の心にはついていくのが、愛しくて、自分の思いのままに育てて一緒に暮らしたら、慕わしく思われることだろう」などと、おっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ | 321-323 | 「十九歳におなりだったでしょうか。右近めは、亡くなった乳母があとに残して逝きましたので、三位の君様がわたしをかわいがって下さって、お側離れず一緒に、お育て下さいましたのを思い出しますと、どうして生きておられましょう。<BR>⏎ どうしてこう深く親しんだのだろうと、悔やまれて。気弱そうでいらっしゃいました女君のお気持ちを、頼むお方として、長年仕えてまいりましたことでございます」と申し上げる。<BR>⏎ 「頼りなげな人こそ、女はかわいらしいのだ。利口で我の強い人は、とても好きになれないものだ。自分自身がてきぱきとしっかりしていない性情だから、女はただ素直で、うっかりすると男に欺かれてしまいそうなのが、そのくせ引っ込み思案で、男の心にはついていくのが、愛しくて、自分の思いのままに育てて一緒に暮らしたら、慕わしく思われることだろう」などと,おっしゃると、<BR>⏎ |
| d1 | 597 | <P>⏎ | ||
| d1 | 599 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 600-604 | 「契った人の火葬の煙をあの雲かと思って見ると<BR>⏎ この夕方の空も親しく思われるよ」<BR>⏎ <P>⏎ と独り詠じられたが、ご返歌も申し上げられない。このように、生きていらしたならば、と思うにつけても、胸が一杯になる。耳障りであった砧の音を、お思い出しになるのまでが、恋しくて、「八月九月正に長き夜」と口ずさんで、お臥せりになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 326-327 | 「契った人の火葬の煙をあの雲かと思って見ると<BR> この夕方の空も親しく思われるよ」<BR>⏎ と独り詠じられたが、ご返歌も申し上げられない。このように,生きていらしたならば、と思うにつけても、胸が一杯になる。耳障りであった砧の音を、お思い出しになるのまでが,恋しくて、「八月九月正に長き夜」と口ずさんで、お臥せりになった。<BR>⏎ |
| version04 | 605 | <H4>第五章 空蝉の物語(2)</H4> | 328 | |
| version04 | 606 | <A NAME="in51">[第一段 紀伊守邸の女たちと和歌の贈答]</A><BR> | 329 | |
| d1 | 607 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 608-613 | あの、伊予介の家の小君は、参上する折はあるが、特別に以前のような伝言もなさらないので、嫌なとお見限りになられたのを、つらいと思っていた折柄、このようにご病気でいらっしゃるのを聞いて、やはり悲しい気がするのであった。遠くへ下るのなどが、何といっても心細い気がするので、お忘れになってしまったかと、試しに、<BR>⏎ <P>⏎ 「承りまして、案じておりますが、口に出しては、とても、<BR>⏎ <P>⏎ お見舞いできませんことをなぜかとお尋ね下さらずに月日が経ましたが<BR>⏎ わたしもどんなにか思い悩んでいます<BR>⏎ | 330-332 | あの,伊予介の家の小君は、参上する折はあるが、特別に以前のような伝言もなさらないので、嫌なとお見限りになられたのを、つらいと思っていた折柄、このようにご病気でいらっしゃるのを聞いて、やはり悲しい気がするのであった。遠くへ下るのなどが、何といっても心細い気がするので、お忘れになってしまったかと、試しに、<BR>⏎ 「承りまして、案じておりますが、口に出しては、とても,<BR>⏎ お見舞いできませんことをなぜかとお尋ね下さらずに月日が経ましたが<BR> わたしもどんなにか思い悩んでいます<BR>⏎ |
| d1 | 615 | <P>⏎ | ||
| d1 | 617 | <P>⏎ | ||
| d1 | 619 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 620-621 | あなたとのはかない仲は嫌なものと知ってしまったのに<BR>⏎ またもあなたの言の葉に期待を掛けて生きていこうと思います<BR>⏎ | 336 | あなたとのはかない仲は嫌なものと知ってしまったのに<BR> またもあなたの言の葉に期待を掛けて生きていこうと思います<BR>⏎ |
| d1 | 623 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 624-625 | と、お手も震えなさるので、乱れ書きなさっているのが、ますます美しそうである。今だに、あの脱ぎ衣をお忘れにならないのを、気の毒にもおもしろくも思うのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 338 | と,お手も震えなさるので、乱れ書きなさっているのが、ますます美しそうである。今だに,あの脱ぎ衣をお忘れにならないのを、気の毒にもおもしろくも思うのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 627 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 628-632 | あのもう一方は、蔵人少将を通わせていると、お聞きになる。「おかしなことだ。どう思っているだろう」と、少将の気持ちも同情し、また、あの女の様子も興味があるので、小君を使いにして、「死ぬほど思っている気持ちは、お分かりでしょうか」と言っておやりになる。<BR>⏎ <P>⏎ 「一夜の逢瀬なりとも軒端の荻を結ぶ契りをしなかったら<BR>⏎ わずかばかりの恨み言も何を理由に言えましょうか」<BR>⏎ <P>⏎ | 340-341 | あのもう一方は、蔵人少将を通わせていると、お聞きになる。「おかしなことだ。どう思っているだろう」と、少将の気持ちも同情し、また,あの女の様子も興味があるので、小君を使いにして、「死ぬほど思っている気持ちは、お分かりでしょうか」と言っておやりになる。<BR>⏎ 「一夜の逢瀬なりとも軒端の荻を結ぶ契りをしなかったら<BR> わずかばかりの恨み言も何を理由に言えましょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 634 | <P>⏎ | ||
| d1 | 636 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 637-641 | 「ほのめかされるお手紙を見るにつけても下荻のような<BR>⏎ 身分の賤しいわたしは、嬉しいながらも半ばは思い萎れています」<BR>⏎ <P>⏎ 筆跡は下手なのを、分からないようにしゃれて書いている様子は、品がない。灯火で見た顔を、自然と思い出されなさる。「気を許さず対座していたあの人は、今でも思い捨てることのできない様子をしていたな。何の嗜みもありそうでなく、はしゃいで得意でいたことよ」とお思い出しになると、憎めなくなる。相変わらず、「性懲りも無く、また浮き名が立ってしまいそうな」好色心のようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 344-345 | 「ほのめかされるお手紙を見るにつけても下荻のような<BR> 身分の賤しいわたしは、嬉しいながらも半ばは思い萎れています」<BR>⏎ 筆跡は下手なのを、分からないようにしゃれて書いている様子は、品がない。灯火で見た顔を、自然と思い出されなさる。「気を許さず対座していたあの人は、今でも思い捨てることのできない様子をしていたな。何の嗜みもありそうでなく、はしゃいで得意でいたことよ」とお思い出しになると、憎めなくなる。相変わらず,「性懲りも無く、また浮き名が立ってしまいそうな」好色心のようである。<BR>⏎ |
| version04 | 642 | <H4>第六章 夕顔の物語(3)</H4> | 346 | |
| version04 | 643 | <A NAME="in61">[第一段 四十九日忌の法要]</A><BR> | 347 | |
| d1 | 644 | <P>⏎ | ||
| d1 | 646 | <P>⏎ | ||
| d1 | 648 | <P>⏎ | ||
| d1 | 650 | <P>⏎ | ||
| d1 | 652 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 653-654 | 「どのような方なのでしょう。誰それと噂にも上らないで、これほどにお嘆かせになるほどだった、宿運の高いこと」<BR>⏎ <P>⏎ | 352 | 「どのような方なのでしょう。誰それと噂にも上らないで、これほどにお嘆かせになるほどだった,宿運の高いこと」<BR>⏎ |
| d1 | 656 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 657-659 | 「泣きながら今日はわたしが結ぶ袴の下紐を<BR>⏎ いつの世にかまた再会して心打ち解けて下紐を解いて逢うことができようか」<BR>⏎ <P>⏎ | 354 | 「泣きながら今日はわたしが結ぶ袴の下紐を<BR> いつの世にかまた再会して心打ち解けて下紐を解いて逢うことができようか」<BR>⏎ |
| d1 | 661 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 662-667 | あの夕顔の宿では、どこに行ってしまったのかと心配するが、そのままで尋ね当て申すことができない。右近までもが音信ないので、不思議だと思い嘆き合っていた。はっきりしないが、様子からそうではあるまいかと、ささめき合っていたので、惟光のせいにしたが、まるで問題にもせず、関係なく言い張って、相変わらず同じように通って来たので、ますます夢のような気がして、「もしや、受領の子息で好色な者が、頭の君に恐れ申して、そのまま、連れて下ってしまったのだろうか」と、想像するのだった。<BR>⏎ <P>⏎ この家の主人は、西の京の乳母の娘なのであった。三人乳母子がいたが、右近は他人だったので、「分け隔てして、ご様子を知らせないのだわ」と、泣き慕うのであった。右近は右近で、口やかましく非難するだろうことを思って、源氏の君も今になって洩らすまいと、お隠しになっているので、若君の噂さえ聞けず、まるきり消息不明のまま過ぎて行く。<BR>⏎ <P>⏎ 源氏の君は、「せめて夢にでも逢いたい」と、お思い続けていると、この法事をなさって、次の夜に、ぼんやりと、あの某院そのままに、枕上に現れた女の様子も同じようにして見えたので、「荒れ果てた邸に住んでいた魔物が、わたしに取りついたことで、こんなことになってしまったのだ」と、お思い出しになるにつけても、気味の悪いことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 356-358 | あの夕顔の宿では、どこに行ってしまったのかと心配するが、そのままで尋ね当て申すことができない。右近までもが音信ないので、不思議だと思い嘆き合っていた。はっきりしないが、様子からそうではあるまいかと、ささめき合っていたので、惟光のせいにしたが、まるで問題にもせず、関係なく言い張って、相変わらず同じように通って来たので、ますます夢のような気がして、「もしや,受領の子息で好色な者が、頭の君に恐れ申して、そのまま,連れて下ってしまったのだろうか」と、想像するのだった。<BR>⏎ この家の主人は、西の京の乳母の娘なのであった。三人乳母子がいたが、右近は他人だったので、「分け隔てして、ご様子を知らせないのだわ」と、泣き慕うのであった。右近は右近で、口やかましく非難するだろうことを思って、源氏の君も今になって洩らすまいと,お隠しになっているので、若君の噂さえ聞けず、まるきり消息不明のまま過ぎて行く。<BR>⏎ 源氏の君は、「せめて夢にでも逢いたい」と、お思い続けていると、この法事をなさって、次の夜に、ぼんやりと、あの某院そのままに、枕上に現れた女の様子も同じようにして見えたので、「荒れ果てた邸に住んでいた魔物が、わたしに取りついたことで、こんなことになってしまったのだ」と、お思い出しになるにつけても,気味の悪いことである。<BR>⏎ |
| version04 | 668 | <H4>第七章 空蝉の物語(3)</H4> | 359 | |
| version04 | 669 | <A NAME="in71">[第一段 空蝉、伊予国に下る]</A><BR> | 360 | |
| d1 | 670 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 671-675 | 伊予介は、神無月の朔日ころに下る。女方が下って行くのでということで、餞別を格別に気を配っておさせになる。別に、内々にも特別になさって、きめ細かな美しい格好の櫛や、扇を、たくさん用意して、幣帛などを特別に大げさにして、あの小袿もお返しになる。<BR>⏎ <P>⏎ 「再び逢う時までの形見の品ぐらいに思って持っていましたが<BR>⏎ すっかり涙で朽ちるまでになってしまいました」<BR>⏎ <P>⏎ | 361-362 | 伊予介は、神無月の朔日ころに下る。女方が下って行くのでということで、餞別を格別に気を配っておさせになる。別に,内々にも特別になさって、きめ細かな美しい格好の櫛や、扇を,たくさん用意して、幣帛などを特別に大げさにして、あの小袿もお返しになる。<BR>⏎ 「再び逢う時までの形見の品ぐらいに思って持っていましたが<BR> すっかり涙で朽ちるまでになってしまいました」<BR>⏎ |
| d1 | 677 | <P>⏎ | ||
| d1 | 679 | <P>⏎ | ||
| cd11:4 | 680-690 | 「蝉の羽の衣替えの終わった後の夏衣は<BR>⏎ 返してもらっても自然と泣かれるばかりです」<BR>⏎ <P>⏎ 「考えても、不思議に人並みはずれた意志の強さで、振り切って行ってしまったなあ」と思い続けていらっしゃる。今日はちょうど立冬の日であったが、いかにもそれと、さっと時雨れて、空の様子もまことに物寂しい。一日中物思いに過されて、<BR>⏎ <P>⏎ 「亡くなった人も今日別れて行く人もそれぞれの道に<BR>⏎ どこへ行くのか知れない秋の暮れだなあ」<BR>⏎ <P>⏎ やはり、このような秘密の恋は辛いものだと、お知りになったであろう。このような煩わしいことは、努めてお隠しになっていらしたのもお気の毒なので、みな書かないでおいたのに、「どうして、帝の御子であるからといって、それを知っている人までが、欠点がなく何かと褒めてばかりいる」と、作り話のように受け取る方がいらっしゃったので。あまりにも慎みのないおしゃべりの罪は、免れがたいことで。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 365-368 | 「蝉の羽の衣替えの終わった後の夏衣は<BR> 返してもらっても自然と泣かれるばかりです」<BR>⏎ 「考えても、不思議に人並みはずれた意志の強さで、振り切って行ってしまったなあ」と思い続けていらっしゃる。今日はちょうど立冬の日であったが、いかにもそれと,さっと時雨れて、空の様子もまことに物寂しい。一日中物思いに過されて、<BR>⏎ 「亡くなった人も今日別れて行く人もそれぞれの道に<BR> どこへ行くのか知れない秋の暮れだなあ」<BR>⏎ やはり,このような秘密の恋は辛いものだと、お知りになったであろう。このような煩わしいことは、努めてお隠しになっていらしたのもお気の毒なので、みな書かないでおいたのに、「どうして,帝の御子であるからといって、それを知っている人までが、欠点がなく何かと褒めてばかりいる」と、作り話のように受け取る方がいらっしゃったので。あまりにも慎みのないおしゃべりの罪は、免れがたいことで。<BR>⏎ |
| d1 | 697 | ⏎ | ||
| i0 | 379 | |||
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| d1 | 5 | <meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.6.0 for Windows">⏎ | ||
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| version05 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-3-2)</ADDRESS> | 9 | |
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| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 38 | <P>⏎ | ||
| version05 | 39 | <H4>第一章 紫上の物語 若紫の君登場、三月晦日から初夏四月までの物語</H4> | 34 | |
| version05 | 40 | <A NAME="in11">[第一段 三月晦日、加持祈祷のため、北山に出向く]</A><BR> | 35 | |
| d1 | 41 | <P>⏎ | ||
| ci2:3 | 42-43 | 瘧病みに罹りなさって、いろいろと呪術や加持などして差し上げさせなさるが、効果がなくて、何度も発作がお起こりになったので、ある人が、「北山に、某寺という所に、すぐれた行者がございます。去年の夏も世間に流行して、人々がまじないあぐねたのを、たちどころに治した例が、多数ございました。こじらせてしまうと厄介でございますから、早くお試しあそばすとよいでしょう」などと申し上げるので、呼びにおやりになったところ、「老い曲がって、室の外にも外出いたしません」と申したので、「しかたない。ごく内密に行こう」とおっしゃって、お供に親しい者四、五人ほど連れて、まだ夜明け前にお出かけになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 36-38 | 瘧病みに罹りなさって、いろいろと呪術や加持などして差し上げさせなさるが、効果がなくて、何度も発作がお起こりになったので、ある人が、<BR>⏎ 「北山に、某寺という所に、すぐれた行者がございます。去年の夏も世間に流行して、人々がまじないあぐねたのを、たちどころに治した例が、多数ございました。こじらせてしまうと厄介でございますから、早くお試しあそばすとよいでしょう」<BR>⏎ などと申し上げるので、呼びにおやりになったところ、「老い曲がって、室の外にも外出いたしません」と申したので、「しかたない。ごく内密に行こう」とおっしゃって、お供に親しい者四,五人ほど連れて、まだ夜明け前にお出かけになる。<BR>⏎ |
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 48-51 | 「ああ、恐れ多いことよ。先日、お召しになった方でいらっしゃいましょうか。今は、現世のことを考えておりませんので、修験の方法も忘れておりますのに、どうして、このようにわざわざお越しあそばしたのでしょうか」<BR>⏎ <P>⏎ と、驚き慌てて、にっこりしながら拝する。まことに立派な大徳なのであった。しかるべき薬を作って、お呑ませ申し、加持などして差し上げるうちに、日が高くなった。<BR>⏎ <P>⏎ | 41-42 | 「ああ,恐れ多いことよ。先日、お召しになった方でいらっしゃいましょうか。今は、現世のことを考えておりませんので、修験の方法も忘れておりますのに、どうして,このようにわざわざお越しあそばしたのでしょうか」<BR>⏎ と,驚き慌てて、にっこりしながら拝する。まことに立派な大徳なのであった。しかるべき薬を作って、お呑ませ申し、加持などして差し上げるうちに、日が高くなった。<BR>⏎ |
| version05 | 52 | <A NAME="in12">[第二段 山の景色や地方の話に気を紛らす]</A><BR> | 43 | |
| d1 | 53 | <P>⏎ | ||
| d1 | 55 | <P>⏎ | ||
| d1 | 57 | <P>⏎ | ||
| d1 | 59 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 60-61 | 「これが、某僧都が、二年間籠もっております所だそうでございます」<BR>⏎ <P>⏎ | 47 | 「これが,某僧都が、二年間籠もっております所だそうでございます」<BR>⏎ |
| d1 | 63 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 64-65 | 美しそうな童女などが、大勢出て来て、閼伽棚に水をお供えしたり、花を折ったりなどするのも、はっきりと見える。<BR>⏎ <P>⏎ | 49 | 美しそうな童女などが,大勢出て来て、閼伽棚に水をお供えしたり、花を折ったりなどするのも,はっきりと見える。<BR>⏎ |
| c1 | 67 | 「僧都は、まさか、そのようには、囲って置かれまいに」<BR>⏎ | 51 | 「僧都は、まさか,そのようには、囲って置かれまいに」<BR>⏎ |
| d1 | 69 | <P>⏎ | ||
| d1 | 71 | <P>⏎ | ||
| d1 | 73 | <P>⏎ | ||
| d1 | 75 | <P>⏎ | ||
| d1 | 77 | <P>⏎ | ||
| d1 | 79 | <P>⏎ | ||
| d1 | 81 | <P>⏎ | ||
| cd8:5 | 82-89 | 「これは、まことに平凡でございます。地方などにございます海、山の景色などを御覧に入れましたならば、どんなにか、お絵も素晴らしくご上達あそばしましょう。富士の山、何々の嶽」<BR>⏎ <P>⏎ などと、お話し申し上げる者もいる。また、西国の美しい浦々や、海岸辺りについて話し続ける者もいて、何かとお気を紛らし申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ 「近い所では、播磨国の明石の浦が、やはり格別でございます。どこといって奥深い趣はないが、ただ、海の方を見渡しているところが、不思議と他の海岸とは違って、ゆったりと広々した所でございます。<BR>⏎ <P>⏎ あの国の前国司で、出家したての人が、娘を大切に育てている家は、まことにたいしたものです。大臣の後裔で、出世もできたはずの人なのですが、たいそうな変わり者で、人づき合いをせず、近衛の中将を捨てて、申し出て頂戴した官職ですが、あの国の人にも少し馬鹿にされて、『何の面目があって、再び都に帰られようか』と言って、剃髪してしまったのでございますが、少し奥まった山中生活もしないで、そのような海岸に出ているのは、間違っているようですが、なるほど、あの国の中に、そのように、人が籠もるにふさわしい所々は方々にありますが、深い山里は、人気もなくもの寂しく、若い妻子がきっと心細がるにちがいないので、一方では気晴らしのできる住まいでございます。<BR>⏎ <P>⏎ | 59-63 | 「これは,まことに平凡でございます。地方などにございます海、山の景色などを御覧に入れましたならば、どんなにか,お絵も素晴らしくご上達あそばしましょう。富士の山、何々の嶽」<BR>⏎ などと,お話し申し上げる者もいる。また,西国の美しい浦々や、海岸辺りについて話し続ける者もいて、何かとお気を紛らし申し上げる。<BR>⏎ 「近い所では、播磨国の明石の浦が、やはり格別でございます。どこといって奥深い趣はないが、ただ,海の方を見渡しているところが、不思議と他の海岸とは違って、ゆったりと広々した所でございます。<BR>⏎ あの国の前国司で、出家したての人が、娘を大切に育てている家は、まことにたいしたものです。大臣の後裔で、出世もできたはずの人なのですが、たいそうな変わり者で、人づき合いをせず、近衛の中将を捨てて、申し出て頂戴した官職ですが、<BR>⏎ あの国の人にも少し馬鹿にされて、『何の面目があって、再び都に帰られようか』と言って、剃髪してしまったのでございますが、少し奥まった山中生活もしないで、そのような海岸に出ているのは、間違っているようですが、なるほど,あの国の中に、そのように,人が籠もるにふさわしい所々は方々にありますが、深い山里は、人気もなくもの寂しく、若い妻子がきっと心細がるにちがいないので、一方では気晴らしのできる住まいでございます。<BR>⏎ |
| d1 | 91 | <P>⏎ | ||
| cd4:3 | 92-95 | 「ところで、その娘は」と、お尋ねになる。<BR>⏎ <P>⏎ 「悪くはありません、器量や、気立てなども結構だということでございます。代々の国司などが、格別懇ろな態度で、結婚の申し込みをするようですが、全然承知しません。『自分の身がこのようにむなしく落ちぶれているのさえ無念なのに、この娘一人だけだが、特別に考えているのだ。もし、わたしに先立たれて、その素志を遂げられず、わたしの願っていた運命と違ったならば、海に入ってしまえ』と、いつも遺言をしているそうでございます」<BR>⏎ <P>⏎ | 65-67 | 「ところで,その娘は」と、お尋ねになる。<BR>⏎ 「悪くはありません、器量や、気立てなども結構だということでございます。代々の国司などが、格別懇ろな態度で、結婚の申し込みをするようですが、全然承知しません。<BR>⏎ 『自分の身がこのようにむなしく落ちぶれているのさえ無念なのに、この娘一人だけだが、特別に考えているのだ。もし,わたしに先立たれて,その素志を遂げられず、わたしの願っていた運命と違ったならば、海に入ってしまえ』と、いつも遺言をしているそうでございます」<BR>⏎ |
| d1 | 97 | <P>⏎ | ||
| d1 | 100 | <P>⏎ | ||
| d1 | 102 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 104-105 | 「それで、うろうろしているのだろう」<BR>⏎ <P>⏎ | 73 | 「それで,うろうろしているのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 107 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 108-109 | 「いやもう、そうは言っても、田舎びているだろう。幼い時からそのような所に成長して、古めかしい親にばかり教育されていたのでは」<BR>⏎ <P>⏎ | 75 | 「いやもう,そうは言っても、田舎びているだろう。幼い時からそのような所に成長して、古めかしい親にばかり教育されていたのでは」<BR>⏎ |
| d1 | 111 | <P>⏎ | ||
| d1 | 113 | <P>⏎ | ||
| d1 | 115 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 116-117 | 「どのような考えがあって、海の底まで深く思い込んでいるのだろうか。海底の「海松布」も何となく見苦しい」<BR>⏎ <P>⏎ | 79 | 「どのような考えがあって、海の底まで深く思い込んでいるのだろうか。海底の「海松布」も 何となく見苦しい」<BR>⏎ |
| d1 | 119 | <P>⏎ | ||
| d1 | 121 | <P>⏎ | ||
| d1 | 123 | <P>⏎ | ||
| d1 | 125 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 126-129 | 「それも、もっともなこと」と、供人皆が申し上げる。源氏の君も、このような旅寝もご経験ないことなので、何と言っても興味があって、<BR>⏎ <P>⏎ 「それでは、早朝に」とおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 84-85 | 「それも,もっともなこと」と、供人皆が申し上げる。源氏の君も、このような旅寝もご経験ないことなので、何と言っても興味があって、<BR>⏎ 「それでは,早朝に」とおっしゃる。<BR>⏎ |
| version05 | 130 | <A NAME="in13">[第三段 源氏、若紫の君を発見す]</A><BR> | 86 | |
| d1 | 131 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 132-135 | 人もいなくて、何もすることがないので、夕暮のたいそう霞わたっているのに紛れて、あの小柴垣の付近にお立ち出でになる。供人はお帰しになって、惟光朝臣とお覗きになると、ちょうどこの西面に、仏を安置申して勤行している、それは尼なのであった。簾を少し上げて、花を供えているようである。中の柱に寄り掛かって座って、脇息の上にお経を置いて、とても大儀そうに読経している尼君は、普通の人とは見えない。四十過ぎくらいで、とても色白で上品で、痩せてはいるが、頬はふっくらとして、目もとのぐあいや、髪がきれいに切り揃えられている端も、かえって長いのよりも、この上なく新鮮な感じだなあ、と感心して御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ 小綺麗な女房二人ほど、他には童女が出たり入ったりして遊んでいる。その中に、十歳くらいかと見えて、白い袿の上に、山吹襲などの、糊気の落ちた表着を着て、駆けてきた女の子は、大勢見えた子供とは比べものにならず、たいそう将来性が見えて、かわいらしげな顔かたちである。髪は扇を広げたようにゆらゆらとして、顔はとても赤く手でこすって立っている。<BR>⏎ <P>⏎ | 87-88 | 人もいなくて、何もすることがないので、夕暮のたいそう霞わたっているのに紛れて、あの小柴垣の付近にお立ち出でになる。供人はお帰しになって、惟光朝臣とお覗きになると、ちょうどこの西面に、仏を安置申して勤行している、それは尼なのであった。簾を少し上げて、花を供えているようである。中の柱に寄り掛かって座って、脇息の上にお経を置いて、とても大儀そうに読経している尼君は、普通の人とは見えない。四十過ぎくらいで、とても色白で上品で、痩せてはいるが、頬はふっくらとして、目もとのぐあいや、髪がきれいに切り揃えられている端も、かえって長いのよりも,この上なく新鮮な感じだなあ、と感心して御覧になる。<BR>⏎ 小綺麗な女房二人ほど、他には童女が出たり入ったりして遊んでいる。その中に,十歳くらいかと見えて、白い袿の上に、山吹襲などの,糊気の落ちた表着を着て、駆けてきた女の子は、大勢見えた子供とは比べものにならず、たいそう将来性が見えて、かわいらしげな顔かたちである。髪は扇を広げたようにゆらゆらとして、顔はとても赤く手でこすって立っている。<BR>⏎ |
| d1 | 137 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 138-139 | と言って、尼君が見上げた顔に、少し似ているところがあるので、「その子どもなのだろう」と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 90 | と言って,尼君が見上げた顔に、少し似ているところがあるので、「その子どもなのだろう」と御覧になる。<BR>⏎ |
| d1 | 141 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 142-143 | と言って、とても残念がっている。ここに座っていた女房が、<BR>⏎ <P>⏎ | 92 | と言って,とても残念がっている。ここに座っていた女房が、<BR>⏎ |
| d1 | 145 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 146-147 | と言って、立って行く。髪はゆったりととても長く、見苦しくない女のようである。少納言の乳母と皆が呼んでいるらしい人は、この子のご後見役なのだろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 94 | と言って,立って行く。髪はゆったりととても長く、見苦しくない女のようである。少納言の乳母と皆が呼んでいるらしい人は、この子のご後見役なのだろう。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 149-152 | 「何とまあ、幼いことよ。聞き分けもなくいらっしゃることね。わたしが、このように、今日明日にも思われる寿命を、何ともお考えにならず、雀を追いかけていらっしゃることよ。罪を得ることですよと、いつも申し上げていますのに、情けなく」と言って、「こちらへ、いらっしゃい」と言うと、ちょこんと座った。<BR>⏎ <P>⏎ 顔つきがとてもかわいらしげで、眉のあたりがほんのりとして、子供っぽく掻き上げた額つきや、髪の生え際は、大変にかわいらしい。「成長して行くさまが楽しみな人だなあ」と、お目がとまりなさる。それと言うのも、「限りなく心を尽くし申し上げている方に、とてもよく似ているので、目が引きつけられるのだ」と、思うにつけても涙が落ちる。<BR>⏎ <P>⏎ | 96-97 | 「何とまあ、幼いことよ。聞き分けもなくいらっしゃることね。わたしが,このように,今日明日にも思われる寿命を、何ともお考えにならず、雀を追いかけていらっしゃることよ。罪を得ることですよと、いつも申し上げていますのに、情けなく」と言って、「こちらへ,いらっしゃい」と言うと、ちょこんと座った。<BR>⏎ 顔つきがとてもかわいらしげで、眉のあたりがほんのりとして、子供っぽく掻き上げた額つきや、髪の生え際は、大変にかわいらしい。「成長して行くさまが楽しみな人だなあ」と、お目がとまりなさる。それと言うのも,「限りなく心を尽くし申し上げている方に、とてもよく似ているので、目が引きつけられるのだ」と、思うにつけても涙が落ちる。<BR>⏎ |
| d1 | 155 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 156-160 | と言って、たいそう泣くのを御覧になると、何とも言えず悲しい。子供心にも、やはりじっと見つめて、伏し目になってうつむいているところに、こぼれかかった髪が、つやつやとして素晴らしく見える。<BR>⏎ <P>⏎ 「これからどこでどう育って行くのかも分からない若草のようなあなたを<BR>⏎ 残してゆく露のようにはかないわたしは死ぬに死ねない思いです」<BR>⏎ <P>⏎ | 100-101 | と言って,たいそう泣くのを御覧になると、何とも言えず悲しい。子供心にも、やはりじっと見つめて、伏し目になってうつむいているところに、こぼれかかった髪が、つやつやとして素晴らしく見える。<BR>⏎ 「これからどこでどう育って行くのかも分からない若草のようなあなたを<BR> 残してゆく露のようにはかないわたしは死ぬに死ねない思いです」<BR>⏎ |
| d1 | 162 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 163-165 | 「初草のように若い姫君のご成長も御覧にならないうちに<BR>⏎ どうして尼君様は先立たれるようなことをお考えになるのでしょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 103 | 「初草のように若い姫君のご成長も御覧にならないうちに<BR> どうして尼君様は先立たれるようなことをお考えになるのでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 167 | <P>⏎ | ||
| d1 | 169 | <P>⏎ | ||
| d1 | 171 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 172-175 | 「世間で、大評判でいらっしゃる光源氏を、この機会に拝見なさいませんか。俗世を捨てた法師の気持ちにも、たいそう世俗の憂えを忘れ、寿命が延びるご様子の方です。どれ、ご挨拶を申し上げよう」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、立ち上がる音がするので、お帰りになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 107-108 | 「世間で、大評判でいらっしゃる光源氏を、この機会に拝見なさいませんか。俗世を捨てた法師の気持ちにも、たいそう世俗の憂えを忘れ、寿命が延びるご様子の方です。どれ,ご挨拶を申し上げよう」<BR>⏎ と言って,立ち上がる音がするので、お帰りになった。<BR>⏎ |
| version05 | 176 | <A NAME="in14">[第四段 若紫の君の素性を聞く]</A><BR> | 109 | |
| d1 | 177 | <P>⏎ | ||
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| d1 | 181 | <P>⏎ | ||
| d1 | 183 | <P>⏎ | ||
| d1 | 185 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 186-189 | 折り返し、僧都が参上なさった。法師であるが、とても気がおけて人品も重々しく、世間からもご信頼されていらっしゃる方なので、軽々しいお姿を、きまり悪くお思いになる。このように籠っている間のお話などを申し上げなさって、「同じ草庵ですが、少し涼しい遣水の流れも御覧に入れましょう」と、熱心にお勧め申し上げなさるので、あの、まだ自分を見ていない人々に大げさに吹聴していたのを、気恥ずかしくお思いになるが、かわいらしかった有様も気になって、おいでになった。<BR>⏎ <P>⏎ なるほど、とても格別に風流を凝らして、同じ木や草を植えていらっしゃった。月もないころなので、遣水に篝火を照らし、灯籠などにも火を灯してある。南面はとてもこざっぱりと整えていらっしゃる。空薫物が、たいそう奥ゆかしく薫って来て、名香の香などが、匂い満ちているところに、源氏の君のおん追い風がとても格別なので、奥の人々も気を使っている様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 114-115 | 折り返し、僧都が参上なさった。法師であるが、とても気がおけて人品も重々しく、世間からもご信頼されていらっしゃる方なので、軽々しいお姿を、きまり悪くお思いになる。このように籠っている間のお話などを申し上げなさって、「同じ草庵ですが、少し涼しい遣水の流れも御覧に入れましょう」と、熱心にお勧め申し上げなさるので、あの,まだ自分を見ていない人々に大げさに吹聴していたのを、気恥ずかしくお思いになるが、かわいらしかった有様も気になって、おいでになった。<BR>⏎ なるほど,とても格別に風流を凝らして、同じ木や草を植えていらっしゃった。月もないころなので、遣水に篝火を照らし、灯籠などにも火を灯してある。南面はとてもこざっぱりと整えていらっしゃる。空薫物が、たいそう奥ゆかしく薫って来て、名香の香などが,匂い満ちているところに、源氏の君のおん追い風がとても格別なので、奥の人々も気を使っている様子である。<BR>⏎ |
| d1 | 191 | <P>⏎ | ||
| d1 | 193 | <P>⏎ | ||
| d1 | 195 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 196-203 | 「唐突な夢のお話というものでございますな。お知りあそばされたても、きっとがっかりあそばされることでございましょう。故按察使大納言は、亡くなってから久しくなりましたので、ご存知ありますまい。その北の方が拙僧の妹でございます。あの按察使が亡くなって後、出家しておりますのが、最近、患うことがございましたので、こうして京にも行かずにおりますので、頼り所として籠っているのでございます」とお申し上げになる。<BR>⏎ <P>⏎ 「あの大納言のご息女が、おいでになると伺っておりましたのは。好色めいた気持ちからではなく、真面目に申し上げるのです」と当て推量におっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ 「娘がただ一人おりました。亡くなって、ここ十何年になりましょうか。故大納言は、入内させようなどと、大変大切に育てていましたが、その本願のようにもなりませず、亡くなってしまいましたので、ただこの尼君が一人で苦労して育てておりましたうちに、誰が手引をしたものか、兵部卿宮がこっそり通って来られるようになったのですが、本妻の北の方が、ご身分の高い人であったりして、気苦労が多くて、明け暮れ物思いに悩んで、亡くなってしまいました。物思いから病気になるものだと、目の当たりに拝見致しました次第です」<BR>⏎ <P>⏎ などとお申し上げなさる。「それでは、その人の子であったのだ」とご理解なさった。「親王のお血筋なので、あのお方にもお似通い申しているのであろうか」と、ますます心惹かれて世話をしたい。「人柄も上品でかわいらしくて、なまじの小ざかしいところもなく、一緒に暮らして、自分の理想通りに育ててみたいものだなあ」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 119-122 | 「唐突な夢のお話というものでございますな。お知りあそばされたても、きっとがっかりあそばされることでございましょう。故按察使大納言は、亡くなってから久しくなりましたので、ご存知ありますまい。その北の方が 拙僧の妹でございます。あの按察使が亡くなって後、出家しておりますのが、最近、患うことがございましたので、こうして京にも行かずにおりますので、頼り所として籠っているのでございます」とお申し上げになる。<BR>⏎ 「あの大納言のご息女が、おいでになると伺っておりましたのは。好色めいた気持ちからではなく、真面目に申し上げるのです」と 当て推量におっしゃると、<BR>⏎ 「娘がただ一人おりました。亡くなって、ここ十何年になりましょうか。故大納言は、入内させようなどと、大変大切に育てていましたが、その本願のようにもなりませず、亡くなってしまいましたので、ただこの尼君が一人で苦労して育てておりましたうちに、誰が手引をしたものか、兵部卿宮が こっそり通って来られるようになったのですが、本妻の北の方が、ご身分の高い人であったりして、気苦労が多くて、明け暮れ物思いに悩んで、亡くなってしまいました。物思いから病気になるものだと、目の当たりに拝見致しました次第です」<BR>⏎ などとお申し上げなさる。「それでは,その人の子であったのだ」とご理解なさった。「親王のお血筋なので、あのお方にもお似通い申しているのであろうか」と、ますます心惹かれて世話をしたい。「人柄も上品でかわいらしくて、なまじの小ざかしいところもなく、一緒に暮らして、自分の理想通りに育ててみたいものだなあ」とお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 205 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 206-209 | と、幼なかった子の将来が、もっとはっきりと知りたくて、お尋ねになると、<BR>⏎ <P>⏎ 「亡くなりますころに、生まれました。それも、女の子で。それにつけても心配の種として、余命少ない年に思い悩んでおりますようでございます」と申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 124-125 | と,幼なかった子の将来が、もっとはっきりと知りたくて、お尋ねになると、<BR>⏎ 「亡くなりますころに、生まれました。それも,女の子で。それにつけても心配の種として、余命少ない年に思い悩んでおりますようでございます」と申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 211 | <P>⏎ | ||
| d1 | 213 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 214-217 | 「たいそう嬉しいはずの仰せ言ですが、まだいっこうに幼い年頃のようでございますので、ご冗談にも、お世話なさるのは難しいのでは。もっとも、女性というものは、人に世話されて一人前にもおなりになるものですから、詳しくは申し上げられませんが、あの祖母に相談しまして、お返事申し上げさせましょう」<BR>⏎ <P>⏎ と、無愛想に言って、こわごわとした感じでいらっしゃるので、若いお心では恥ずかしくて、上手にお話し申し上げられない。<BR>⏎ <P>⏎ | 128-129 | 「たいそう嬉しいはずの仰せ言ですが、まだいっこうに幼い年頃のようでございますので、ご冗談にも、お世話なさるのは難しいのでは。もっとも、女性というものは、人に世話されて一人前にもおなりになるものですから、詳しくは申し上げられませんが、あの祖母に相談しまして,お返事申し上げさせましょう」<BR>⏎ と,無愛想に言って、こわごわとした感じでいらっしゃるので、若いお心では恥ずかしくて、上手にお話し申し上げられない。<BR>⏎ |
| d1 | 219 | <P>⏎ | ||
| cd4:3 | 220-223 | 源氏の君は、気分もとても悩ましいところに、雨が少し降りそそいで、山風が冷やかに吹いてきて、滝壺の水嵩も増して、音が大きく聞こえる。少し眠そうな読経が途絶え途絶えにぞっとするように聞こえるなども、何でもない人も、場所柄しんみりとした気持ちになる。まして、いろいろとお考えになることが多くて、お眠りになれない。初夜と言ったが、夜もたいそう更けてしまった。奥でも、人々の寝ていない様子がよく分かって、とても密かにしているが、数珠の脇息に触れて鳴る音がかすかに聞こえ、ものやさしくそよめく衣ずれの音を、上品だとお聞きになって、広くなく近いので、外側に立てめぐらしてある屏風の中を、少し引き開けて、扇を打ち鳴らしなさると、意外な気がするようだが、聞こえないふりもできようかということで、いざり出て来る人がいるようだ。少し後戻りして、<BR>⏎ <P>⏎ 「おかしいわ、聞き違いかしら」と不審がっているのを、お聞きになって、<BR>⏎ <P>⏎ | 131-133 | 源氏の君は、気分もとても悩ましいところに、雨が少し降りそそいで、山風が冷やかに吹いてきて、滝壺の水嵩も増して、音が大きく聞こえる。少し眠そうな読経が途絶え途絶えにぞっとするように聞こえるなども、何でもない人も、場所柄しんみりとした気持ちになる。まして,いろいろとお考えになることが多くて、お眠りになれない。<BR>⏎ 初夜と言ったが、夜もたいそう更けてしまった。奥でも、人々の寝ていない様子がよく分かって、とても密かにしているが、数珠の脇息に触れて鳴る音がかすかに聞こえ、ものやさしくそよめく衣ずれの音を、上品だとお聞きになって、広くなく近いので、外側に立てめぐらしてある屏風の中を、少し引き開けて、扇を打ち鳴らしなさると、意外な気がするようだが、聞こえないふりもできようかということで、いざり出て来る人がいるようだ。少し後戻りして、<BR>⏎ 「おかしいわ,聞き違いかしら」と不審がっているのを、お聞きになって、<BR>⏎ |
| d1 | 225 | <P>⏎ | ||
| d1 | 227 | <P>⏎ | ||
| d1 | 229 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 230-234 | 「なるほど、唐突なことだとご不審になるのも、ごもっともですが、<BR>⏎ <P>⏎ 初草のごときうら若き少女を見てからは<BR>⏎ わたしの旅寝の袖は恋しさの涙の露ですっかり濡れております<BR>⏎ <P>⏎ | 137-138 | 「なるほど,唐突なことだとご不審になるのも、ごもっともですが、<BR>⏎ 初草のごときうら若き少女を見てからは<BR> わたしの旅寝の袖は恋しさの涙の露ですっかり濡れております<BR>⏎ |
| d1 | 236 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 237-238 | 「まったく、このようなお言葉を、頂戴して分かるはずの人もいらっしゃらない有様は、ご存知でいらっしゃりそうなのに。どなたに」と申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 140 | 「まったく,このようなお言葉を、頂戴して分かるはずの人もいらっしゃらない有様は、ご存知でいらっしゃりそうなのに。どなたに」と申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 240 | <P>⏎ | ||
| d1 | 242 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 243-247 | 「まあ、華やいだことを。この姫君を、年頃でいらっしゃると、お思いなのだろうか。それにしては、あの『若草を』と詠んだのを、どうしてご存知でいらっしゃることか」と、あれこれと不思議なので、困惑して、遅くなっては、失礼になると思って、<BR>⏎ <P>⏎ 「今晩だけの旅の宿で涙に濡れていらっしゃるからといって<BR>⏎ 深山に住むわたしたちのことを引き合いに出さないでくださいまし<BR>⏎ <P>⏎ | 143-144 | 「まあ,華やいだことを。この姫君を、年頃でいらっしゃると、お思いなのだろうか。それにしては、あの『若草を』と詠んだのを、どうしてご存知でいらっしゃることか」と、あれこれと不思議なので、困惑して、遅くなっては、失礼になると思って、<BR>⏎ 「今晩だけの旅の宿で涙に濡れていらっしゃるからといって<BR> 深山に住むわたしたちのことを引き合いに出さないでくださいまし<BR>⏎ |
| d1 | 249 | <P>⏎ | ||
| d1 | 251 | <P>⏎ | ||
| d1 | 253 | <P>⏎ | ||
| d1 | 255 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 256-259 | 「なるほど、若い人なら嫌なことでしょうが、真面目におっしゃっているのは、恐れ多い」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、いざり寄りなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 149-150 | 「なるほど,若い人なら嫌なことでしょうが、真面目におっしゃっているのは、恐れ多い」<BR>⏎ と言って,いざり寄りなさった。<BR>⏎ |
| d1 | 261 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 262-265 | と言ったが、落ち着いていて、気の置ける様子に気後れして、すぐにはお切り出しになれない。<BR>⏎ <P>⏎ 「おっしゃるとおり、思い寄りも致しませぬ機会に、こうまでおっしゃっていただいたり、お話させていただけますのも、どうして浅い縁と申せましょう」とおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 152-153 | と言ったが,落ち着いていて、気の置ける様子に気後れして、すぐにはお切り出しになれない。<BR>⏎ 「おっしゃるとおり,思い寄りも致しませぬ機会に、こうまでおっしゃっていただいたり、お話させていただけますのも、どうして浅い縁と申せましょう」とおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 267 | <P>⏎ | ||
| d1 | 269 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 270-271 | 「みな、はっきりと承知致しておりますから、窮屈にご遠慮なさらず、深く思っております格別な心のほどを、御覧下さいませ」<BR>⏎ <P>⏎ | 156 | 「みな,はっきりと承知致しておりますから、窮屈にご遠慮なさらず、深く思っております格別な心のほどを、御覧下さいませ」<BR>⏎ |
| d1 | 273 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 274-275 | 「それでは、このように申し上げましたので、心丈夫です」と言って、屏風をお閉てになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 158 | 「それでは,このように申し上げましたので、心丈夫です」と言って、屏風をお閉てになった。<BR>⏎ |
| d1 | 277 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 278-282 | 「深山おろしの懺法の声に煩悩の夢が覚めて<BR>⏎ 感涙を催す滝の音であることよ」<BR>⏎ <P>⏎ 「不意に来られてお袖を濡らされたという山の水に<BR>⏎ 心を澄まして住んでいるわたしは驚きません<BR>⏎ | 160-161 | 「深山おろしの懺法の声に煩悩の夢が覚めて<BR> 感涙を催す滝の音であることよ」<BR>⏎ 「不意に来られてお袖を濡らされたという山の水に<BR> 心を澄まして住んでいるわたしは驚きません<BR>⏎ |
| d1 | 284 | <P>⏎ | ||
| version05 | 285 | <A NAME="in15">[第五段 翌日、迎えの人々と共に帰京]</A><BR> | 163 | |
| d1 | 286 | <P>⏎ | ||
| d1 | 288 | <P>⏎ | ||
| d1 | 290 | <P>⏎ | ||
| d1 | 292 | <P>⏎ | ||
| d1 | 294 | <P>⏎ | ||
| d1 | 296 | <P>⏎ | ||
| d1 | 298 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 299-301 | 大宮人に帰って話して聞かせましょう、この山桜の美しいことを<BR>⏎ 風の吹き散らす前に来て見るようにと」<BR>⏎ <P>⏎ | 170 | 大宮人に帰って話して聞かせましょう、この山桜の美しいことを<BR> 風の吹き散らす前に来て見るようにと」<BR>⏎ |
| d1 | 303 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 304-306 | 「三千年に一度咲くという優曇華の花の<BR>⏎ 咲くのにめぐり逢ったような気がして深山桜には目も移りません」<BR>⏎ <P>⏎ | 172 | 「三千年に一度咲くという優曇華の花の<BR> 咲くのにめぐり逢ったような気がして深山桜には目も移りません」<BR>⏎ |
| d1 | 308 | <P>⏎ | ||
| d1 | 310 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 311-315 | 「奥山の松の扉を珍しく開けましたところ<BR>⏎ まだ見たこともない花のごとく美しいお顔を拝見致しました」<BR>⏎ <P>⏎ と、ちょっと感涙に咽んで君を拝し上げる。聖は、ご守護に、独鈷を差し上げる。それを御覧になって、僧都は、聖徳太子が百済から得られた金剛子の数珠で、玉の飾りが付いているのを、そのままその国から入れてあった箱で、唐風なのを、透かし編みの袋に入れて、五葉の松の枝に付けて、紺瑠璃の壺々に、お薬類を入れて、藤や桜などに付けて、場所柄に相応しいお贈物類を、捧げて差し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 175-176 | 「奥山の松の扉を珍しく開けましたところ<BR> まだ見たこともない花のごとく美しいお顔を拝見致しました」<BR>⏎ と,ちょっと感涙に咽んで君を拝し上げる。聖は、ご守護に、独鈷を差し上げる。それを御覧になって、僧都は、聖徳太子が百済から得られた金剛子の数珠で、玉の飾りが付いているのを、そのままその国から入れてあった箱で、唐風なのを、透かし編みの袋に入れて、五葉の松の枝に付けて、紺瑠璃の壺々に、お薬類を入れて、藤や 桜などに付けて、場所柄に相応しいお贈物類を、捧げて差し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 317 | <P>⏎ | ||
| d1 | 319 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 320-321 | 「何ともこうとも、今すぐには、お返事申し上げようがありません。もし、君にお気持ちがあるならば、もう四、五年たってから、ともかくも」とおっしゃると、「しかじか」と同じようにばかりあるので、つまらないとお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 179 | 「何ともこうとも、今すぐには、お返事申し上げようがありません。もし,君にお気持ちがあるならば、もう四,五年たってから、ともかくも」とおっしゃると、「しかじか」と同じようにばかりあるので、つまらないとお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 323 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 324-326 | 「昨日の夕暮時にわずかに美しい花を見ましたので<BR>⏎ 今朝は霞の空に立ち去りがたい気がします」<BR>⏎ <P>⏎ | 181 | 「昨日の夕暮時にわずかに美しい花を見ましたので<BR> 今朝は霞の空に立ち去りがたい気がします」<BR>⏎ |
| d1 | 328 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 329-333 | 「本当に花の辺りを立ち去りにくいのでしょうか<BR>⏎ そのようなことをおっしゃるお気持ちを見たいものです」<BR>⏎ <P>⏎ と、教養ある筆跡で、とても上品であるのを、無造作にお書きになっている。<BR>⏎ <P>⏎ | 183-184 | 「本当に花の辺りを立ち去りにくいのでしょうか<BR> そのようなことをおっしゃるお気持ちを見たいものです」<BR>⏎ と,教養ある筆跡で、とても上品であるのを、無造作にお書きになっている。<BR>⏎ |
| d1 | 335 | <P>⏎ | ||
| d1 | 337 | <P>⏎ | ||
| d1 | 339 | <P>⏎ | ||
| d1 | 341 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 342-343 | 「これで、ちょっとひと弾きあそばして、同じことなら、山の鳥をも驚かしてやりましょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 189 | 「これで,ちょっとひと弾きあそばして、同じことなら、山の鳥をも驚かしてやりましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 345 | <P>⏎ | ||
| d1 | 347 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 348-351 | 名残惜しく残念だと、取るに足りない法師や、童子も、涙を落とし合っていた。彼ら以上に、室内では、年老いた尼君たちなどは、まだこのようにお美しい方の姿を見たことがなかったので、「この世の人とは思われなさらない」とお噂申し上げ合っていた。僧都も、<BR>⏎ <P>⏎ 「ああ、どのような因縁で、このような美しいお姿でもって、まことにむさ苦しい日本国の末世にお生まれになったのであろうと思うと、まことに悲しい」と言って、目を押し拭いなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 192-193 | 名残惜しく残念だと、取るに足りない法師や、童子も、涙を落とし合っていた。彼ら以上に,室内では、年老いた尼君たちなどは、まだこのようにお美しい方の姿を見たことがなかったので、「この世の人とは思われなさらない」とお噂申し上げ合っていた。僧都も、<BR>⏎ 「ああ,どのような因縁で、このような美しいお姿でもって、まことにむさ苦しい日本国の末世にお生まれになったのであろうと思うと、まことに悲しい」と言って、目を押し拭いなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 353 | <P>⏎ | ||
| d1 | 355 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 356-357 | 「それでは、あの方のお子様におなりあそばせな」<BR>⏎ <P>⏎ | 196 | 「それでは,あの方のお子様におなりあそばせな」<BR>⏎ |
| d1 | 359 | <P>⏎ | ||
| version05 | 360 | <A NAME="in16">[第六段 内裏と左大臣邸に参る]</A><BR> | 198 | |
| d1 | 361 | <P>⏎ | ||
| d1 | 363 | <P>⏎ | ||
| d1 | 365 | <P>⏎ | ||
| d1 | 367 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 368-369 | 「お迎えにもと存じましたが、お忍びの外出なので、どんなものかと遠慮して。のんびりと、一、二日、お休みなさい」と言って、「このまま、お供申しましょう」と申し上げなさるので、そうしたいとはお思いにならないが、連れられて退出なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 202 | 「お迎えにもと存じましたが、お忍びの外出なので、どんなものかと遠慮して。のんびりと,一,二日,お休みなさい」と言って、「このまま,お供申しましょう」と申し上げなさるので、そうしたいとはお思いにならないが、連れられて退出なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 371 | <P>⏎ | ||
| d1 | 373 | <P>⏎ | ||
| d1 | 375 | <P>⏎ | ||
| d1 | 377 | <P>⏎ | ||
| d1 | 379 | <P>⏎ | ||
| d1 | 381 | <P>⏎ | ||
| cd8:4 | 382-389 | と、流し目に御覧になっている目もとは、とても気後れがしそうで、気品高く美しそうなご容貌である。<BR>⏎ <P>⏎ 「たまさかにおっしゃるかと思えば、心外なお言葉ですね。訪ねない、などという間柄は、他人が使う言葉でございましょう。嫌なふうにおっしゃいますね。いつまでたっても変わらない体裁の悪い思いをさせるお振る舞いを、もしや、お考え直しになるときもあろうかと、あれやこれやとお試し申しているうちに、ますますお疎んじなられたようですね。仕方ない、長生きさえしたら」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、夜のご寝所にお入りになった。女君は、すぐにもお入りにならず、お誘い申しあぐねなさって、溜息をつきながら横になっているものの、何となくおもしろくないのであろうか、眠そうなふりをなさって、あれやこれやと夫婦仲を思い悩まれることが多かった。<BR>⏎ <P>⏎ この若草の君が成長していく間がやはり気にかかるので、「まだ相応しくない年頃と思っているのも、もっともである。申し込みにくいものだなあ。何とか手段を講じて、ほんの気楽に迎え取って、毎日の慰めとして一緒に暮らしたい。父兵部卿宮は、とても上品で優美でいらっしゃるが、つややかなお美しさはないのに、どうして、あの一族に似ていらっしゃるのだろう。父宮が同じお后様からお生まれになったからだろうか」などとお考えになる。血縁がとても親しく感じられて、何とかしてと、深く思われる。<BR>⏎ <P>⏎ | 209-212 | と,流し目に御覧になっている目もとは、とても気後れがしそうで、気品高く美しそうなご容貌である。<BR>⏎ 「たまさかにおっしゃるかと思えば、心外なお言葉ですね。訪ねない、などという間柄は、他人が使う言葉でございましょう。嫌なふうにおっしゃいますね。いつまでたっても変わらない体裁の悪い思いをさせるお振る舞いを、もしや,お考え直しになるときもあろうかと、あれやこれやとお試し申しているうちに、ますますお疎んじなられたようですね。仕方ない、長生きさえしたら」<BR>⏎ と言って,夜のご寝所にお入りになった。女君は、すぐにもお入りにならず、お誘い申しあぐねなさって、溜息をつきながら横になっているものの、何となくおもしろくないのであろうか、眠そうなふりをなさって、あれやこれやと夫婦仲を思い悩まれることが多かった。<BR>⏎ この若草の君が成長していく間がやはり気にかかるので、「まだ相応しくない年頃と思っているのも、もっともである。申し込みにくいものだなあ。何とか手段を講じて、ほんの気楽に迎え取って、毎日の慰めとして一緒に暮らしたい。父兵部卿宮は、とても上品で優美でいらっしゃるが、つややかなお美しさはないのに、どうして,あの一族に似ていらっしゃるのだろう。父宮が同じお后様からお生まれになったからだろうか」などとお考えになる。血縁がとても親しく感じられて、何とかしてと、深く思われる。<BR>⏎ |
| version05 | 390 | <A NAME="in17">[第七段 北山へ手紙を贈る]</A><BR> | 213 | |
| d1 | 391 | <P>⏎ | ||
| d1 | 393 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 394-395 | 「取り合って下さらなかったご様子に気がひけますので、思っておりますことをも、十分に申せずじまいになりましたことを。これほどに申し上げておりますことにつけても、並々ならぬ気持ちのほどを、お察しいただけたら、どんなに嬉しいことでしょうか」<BR>⏎ <P>⏎ | 215 | 「取り合って下さらなかったご様子に気がひけますので、思っておりますことをも、十分に申せずじまいになりましたことを。これほどに申し上げておりますことにつけても、並々ならぬ気持ちのほどを,お察しいただけたら、どんなに嬉しいことでしょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 397 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 398-400 | 「あなたの山桜のように美しい面影はわたしの身から離れません<BR>⏎ 心のすべてをそちらに置いて来たのですが<BR>⏎ <P>⏎ | 217 | 「あなたの山桜のように美しい面影はわたしの身から離れません<BR> 心のすべてをそちらに置いて来たのですが<BR>⏎ |
| d1 | 402 | <P>⏎ | ||
| d1 | 404 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 405-406 | 「まあ、困ったこと。どのようにお返事申し上げましょう」と、お困りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 220 | 「まあ,困ったこと。どのようにお返事申し上げましょう」と、お困りになる。<BR>⏎ |
| d1 | 408 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 409-410 | 激しい山風が吹いて散ってしまう峰の桜に<BR>⏎ その散る前にお気持ちを寄せられたように頼りなく思われます<BR>⏎ | 222 | 激しい山風が吹いて散ってしまう峰の桜に<BR> その散る前にお気持ちを寄せられたように頼りなく思われます<BR>⏎ |
| d1 | 412 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 413-414 | とある。僧都のお返事も同じようなので、残念に思って、二、三日たって、惟光を差し向けなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 224 | とある。僧都のお返事も同じようなので、残念に思って、二,三日たって、惟光を差し向けなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 416 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 417-418 | わざわざ、このようにお手紙があるので、僧都も恐縮の由申し上げなさる。少納言の乳母に申し入れて面会した。詳しく、お考えになっておっしゃったご様子や、日頃のご様子などを話す。多弁な人なので、もっともらしくいろいろ話し続けるが、「とても無理なお年なのに、どのようにお考えなのか」と、大変心配なことと、どなたもどなたもお思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 226 | わざわざ,このようにお手紙があるので、僧都も恐縮の由申し上げなさる。少納言の乳母に申し入れて面会した。詳しく、お考えになっておっしゃったご様子や、日頃のご様子などを話す。多弁な人なので、もっともらしくいろいろ話し続けるが、「とても無理なお年なのに、どのようにお考えなのか」と、大変心配なことと、どなたもどなたもお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 420 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 421-423 | 「浅香山のように浅い気持ちで思っているのではないのに<BR>⏎ どうしてわたしからかけ離れていらっしゃるのでしょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 228 | 「浅香山のように浅い気持ちで思っているのではないのに<BR> どうしてわたしからかけ離れていらっしゃるのでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 425 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 426-428 | 「うっかり薄情な人と契りを結んで後悔したと聞きました山の井のような<BR>⏎ 浅いお心のままどうして孫娘を御覧に入れられましょう」<BR>⏎ <P>⏎ | 230 | 「うっかり薄情な人と契りを結んで後悔したと聞きました山の井のような<BR> 浅いお心のままどうして孫娘を御覧に入れられましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 430 | <P>⏎ | ||
| d1 | 432 | <P>⏎ | ||
| version05 | 433 | <H4>第二章 藤壺の物語 夏の密通と妊娠の苦悩物語</H4> | 233 | |
| version05 | 434 | <A NAME="in21">[第一段 夏四月の短夜の密通事件]</A><BR> | 234 | |
| d1 | 435 | <P>⏎ | ||
| cd12:7 | 436-447 | 藤壺の宮に、ご不例の事があって、ご退出された。主上が、お気をもまれ、ご心配申し上げていらっしゃるご様子も、まことにおいたわしく拝見しながらも、せめてこのような機会にもと、魂も浮かれ出て、どこにもかしこにもお出かけにならず、内裏にいても里邸にいても、昼間は所在なくぼうっと物思いに沈んで、夕暮れになると、王命婦にあれこれとおせがみになる。<BR>⏎ <P>⏎ どのように手引したのだろうか、とても無理してお逢い申している間さえ、現実とは思われないのは、辛いことであるよ。宮も、思いもしなかった出来事をお思い出しになるだけでも、生涯忘れることのできないお悩みの種なので、せめてそれきりで終わりにしたいと深く決心されていたのに、とても情けなくて、ひどく辛そうなご様子でありながらも、優しくいじらしくて、そうかといって馴れ馴れしくなく、奥ゆかしく気品のある御物腰などが、やはり普通の女人とは違っていらっしゃるのを、「どうして、わずかの欠点すら少しも混じっていらっしゃらなかったのだろう」と、辛くまでお思いになられる。どのようなことをお話し申し上げきれようか。鞍馬の山に泊まりたいところだが、あいにくの短夜なので、情けなく、かえって辛い逢瀬である。<BR>⏎ <P>⏎ 「お逢いしても再び逢うことの難しい夢のようなこの世なので<BR>⏎ 夢の中にそのまま消えてしまいとうございます」<BR>⏎ <P>⏎ と、涙にひどくむせんでいられるご様子も、何と言ってもお気の毒なので、<BR>⏎ <P>⏎ 「世間の語り草として語り伝えるのではないでしょうか、<BR>⏎ この上なく辛い身の上を覚めることのない夢の中のこととしても」<BR>⏎ <P>⏎ | 235-241 | 藤壺の宮に、ご不例の事があって、ご退出された。主上が、お気をもまれ、ご心配申し上げていらっしゃるご様子も、まことにおいたわしく拝見しながらも、せめてこのような機会にもと、魂も浮かれ出て、どこにもかしこにも お出かけにならず、内裏にいても里邸にいても、昼間は所在なくぼうっと物思いに沈んで、夕暮れになると、王命婦にあれこれとおせがみになる。<BR>⏎ どのように手引したのだろうか、とても無理してお逢い申している間さえ、現実とは思われないのは、辛いことであるよ。<BR>⏎ 宮も、思いもしなかった出来事をお思い出しになるだけでも、生涯忘れることのできないお悩みの種なので、せめてそれきりで終わりにしたいと深く決心されていたのに、とても情けなくて、ひどく辛そうなご様子でありながらも、優しくいじらしくて、そうかといって馴れ馴れしくなく、奥ゆかしく気品のある御物腰などが、やはり普通の女人とは違っていらっしゃるのを、「どうして,わずかの欠点すら少しも混じっていらっしゃらなかったのだろう」と、辛くまでお思いになられる。<BR>⏎ どのようなことをお話し申し上げきれようか。鞍馬の山に泊まりたいところだが、あいにくの短夜なので、情けなく、かえって辛い逢瀬である。<BR>⏎ 「お逢いしても再び逢うことの難しい夢のようなこの世なので<BR> 夢の中にそのまま消えてしまいとうございます」<BR>⏎ と,涙にひどくむせんでいられるご様子も、何と言ってもお気の毒なので、<BR>⏎ 「世間の語り草として語り伝えるのではないでしょうか、<BR> この上なく辛い身の上を覚めることのない夢の中のこととしても」<BR>⏎ |
| d1 | 449 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 450-451 | お邸にお帰りになって、泣き臥してお暮らしになった。お手紙なども、例によって、御覧にならない旨ばかりなので、いつものことながらも、全く茫然自失とされて、内裏にも参内せず、二、三日閉じ籠もっていらっしゃるので、また、「どうかしたのだろうか」と、ご心配あそばされているらしいのも、恐ろしいばかりに思われなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 243 | お邸にお帰りになって、泣き臥してお暮らしになった。お手紙なども、例によって、御覧にならない旨ばかりなので、いつものことながらも、全く茫然自失とされて、内裏にも参内せず、二,三日閉じ籠もっていらっしゃるので、また,「どうかしたのだろうか」と、ご心配あそばされているらしいのも、恐ろしいばかりに思われなさる。<BR>⏎ |
| version05 | 452 | <A NAME="in22">[第二段 妊娠三月となる]</A><BR> | 244 | |
| d1 | 453 | <P>⏎ | ||
| d1 | 455 | <P>⏎ | ||
| d1 | 457 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 458-459 | 暑いころは、ますます起き上がりもなさらない。三か月におなりになると、とてもよく分かるようになって、女房たちもそれとお気付き申すにつけ、思いもかけないご宿縁のほどが、恨めしい。他の人たちは、思いもよらないことなので、「この月まで、ご奏上あそばされなかったこと」と、意外なことにお思い申し上げる。ご自身一人には、はっきりとお分かりになる節もあるのであったのだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 247 | 暑いころは、ますます起き上がりもなさらない。三か月におなりになると、とてもよく分かるようになって、女房たちもそれとお気付き申すにつけ、思いもかけないご宿縁のほどが、恨めしい。他の人たちは,思いもよらないことなので、「この月まで、ご奏上あそばされなかったこと」と、意外なことにお思い申し上げる。ご自身一人には、はっきりとお分かりになる節もあるのであったのだ。<BR>⏎ |
| d1 | 461 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 462-463 | 帝に対しては、おん物の怪のせいで、すぐには兆候がなくあそばしたように奏上したのであろう。周囲の人もそうとばかり思っていた。ますますこの上なく愛しくお思いあそばして、御勅使などがひっきりなしにあるにつけても、空恐ろしく、物思いの休まる時もない。<BR>⏎ <P>⏎ | 249 | 帝に対しては、おん物の怪のせいで、すぐには兆候がなくあそばしたように奏上したのであろう。周囲の人もそうとばかり思っていた。ますますこの上なく愛しくお思いあそばして、御勅使などがひっきりなしにあるにつけても、空恐ろしく、物思いの 休まる時もない。<BR>⏎ |
| d1 | 465 | <P>⏎ | ||
| d1 | 467 | <P>⏎ | ||
| d1 | 469 | <P>⏎ | ||
| d1 | 471 | <P>⏎ | ||
| d1 | 473 | <P>⏎ | ||
| version05 | 474 | <A NAME="in23">[第三段 初秋七月に藤壺宮中に戻る]</A><BR> | 255 | |
| d1 | 475 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 476-477 | 七月になって宮は参内なさった。珍しい事で感動深くて、以前にも増す御寵愛ぶりはこの上もない。少しふっくらとおなりになって、ちょっと悩ましげに、面痩せしていらっしゃるのは、それはそれでまた、なるほど比類なく素晴らしい。<BR>⏎ <P>⏎ | 256 | 七月になって宮は参内なさった。珍しい事で感動深くて、以前にも増す御寵愛ぶりはこの上もない。少しふっくらとおなりになって、ちょっと悩ましげに、面痩せしていらっしゃるのは、それはそれでまた,なるほど比類なく素晴らしい。<BR>⏎ |
| d1 | 479 | <P>⏎ | ||
| version05 | 480 | <H4>第三章 紫上の物語(2) 若紫の君、源氏の二条院邸に盗み出される物語</H4> | 258 | |
| version05 | 481 | <A NAME="in31">[第一段 紫の君、六条京極の邸に戻る]</A><BR> | 259 | |
| d1 | 482 | <P>⏎ | ||
| d1 | 484 | <P>⏎ | ||
| d1 | 486 | <P>⏎ | ||
| d1 | 488 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 489-490 | 「お気の毒なことよ。お見舞いすべきであったのに。どうして、そうと教えなかったのか。入って行って、挨拶をせよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 263 | 「お気の毒なことよ。お見舞いすべきであったのに。どうして,そうと教えなかったのか。入って行って、挨拶をせよ」<BR>⏎ |
| d1 | 492 | <P>⏎ | ||
| d1 | 494 | <P>⏎ | ||
| d1 | 496 | <P>⏎ | ||
| d1 | 498 | <P>⏎ | ||
| d1 | 500 | <P>⏎ | ||
| d1 | 502 | <P>⏎ | ||
| d1 | 504 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 505-506 | 「気分のすぐれませんことは、いつも変わらずでございますが、いよいよの際となりまして、まことにもったいなくも、お立ち寄りいただきましたのに、自分自身でお礼申し上げられませんこと。仰せられますお話の旨は、万一にもお気持ちが変わらないようでしたら、このような頑是ない時期が過ぎましてから、きっとお目をかけて下さいませ。ひどく頼りない身の上のまま残して逝きますのが、願っております仏道の妨げに存ぜずにはいられません」などと、申し上げなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 271 | 「気分のすぐれませんことは、いつも変わらずでございますが、いよいよの際となりまして、まことにもったいなくも、お立ち寄りいただきましたのに、自分自身でお礼申し上げられませんこと。仰せられますお話の旨は、万一にもお気持ちが変わらないようでしたら、このような頑是ない時期が過ぎましてから、きっとお目をかけて下さいませ。ひどく頼りない身の上のまま残して逝きますのが、願っております仏道の妨げに存ぜずにはいられません」などと,申し上げなさった。<BR>⏎ |
| d1 | 508 | <P>⏎ | ||
| d1 | 510 | <P>⏎ | ||
| d1 | 512 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 513-518 | 「どうして、浅く思っております気持ちから、このような好色めいた態度をお見せ申し上げましょうか。どのような前世からの因縁によってか、初めてお目にかかった時から、愛しくお思い申しているのも、不思議なまでに、この世の縁だけとは思われません」などとおっしゃって、「いつも甲斐ない思いばかりしていますので、あのかわいらしくいらっしゃるお一声を、ぜひとも」とおっしゃると、<BR>⏎ <P>⏎ 「いやはや、何もご存知ないさまで、ぐっすりお眠りになっていらっしゃって」<BR>⏎ <P>⏎ などと申し上げている、ちょうどその時、あちらの方からやって来る足音がして、<BR>⏎ <P>⏎ | 275-277 | 「どうして,浅く思っております気持ちから、このような好色めいた態度をお見せ申し上げましょうか。どのような前世からの因縁によってか、初めてお目にかかった時から、愛しくお思い申しているのも、不思議なまでに、この世の縁だけとは思われません」などとおっしゃって、「いつも甲斐ない思いばかりしていますので、あのかわいらしくいらっしゃるお一声を、ぜひとも」とおっしゃると、<BR>⏎ 「いやはや,何もご存知ないさまで、ぐっすりお眠りになっていらっしゃって」<BR>⏎ などと申し上げている,ちょうどその時、あちらの方からやって来る足音がして、<BR>⏎ |
| d1 | 520 | <P>⏎ | ||
| d1 | 522 | <P>⏎ | ||
| cd6:3 | 523-528 | 「あら、だって、『会ったので気分の悪いのも良くなった』とおっしゃったからよ」<BR>⏎ <P>⏎ と、利口なことを申し上げたとお思いになっておっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ とてもおもしろいとお聞きになるが、女房たちが困っているので、聞かないようにして、行き届いたお見舞いを申し上げおかれて、お帰りになった。「なるほど、まるで子供っぽいご様子だ。けれども、よく教育しよう」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 280-282 | 「あら,だって、『会ったので気分の悪いのも良くなった』とおっしゃったからよ」<BR>⏎ と,利口なことを申し上げたとお思いになっておっしゃる。<BR>⏎ とてもおもしろいとお聞きになるが、女房たちが困っているので、聞かないようにして、行き届いたお見舞いを申し上げおかれて、お帰りになった。「なるほど,まるで子供っぽいご様子だ。けれども、よく教育しよう」とお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 530 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 531-532 | 「かわいい鶴の一声を聞いてから<BR>⏎ 葦の間を行き悩む舟はただならぬ思いをしています<BR>⏎ | 284 | 「かわいい鶴の一声を聞いてから<BR> 葦の間を行き悩む舟はただならぬ思いをしています<BR>⏎ |
| d1 | 534 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 535-536 | と、殊更にかわいらしくお書きになっているのも、たいそう見事なので、「そのままお手本に」と、女房たちは申し上げる。少納言がお返事申し上げた。<BR>⏎ <P>⏎ | 286 | と,殊更にかわいらしくお書きになっているのも、たいそう見事なので、「そのままお手本に」と、女房たちは申し上げる。少納言がお返事申し上げた。<BR>⏎ |
| d1 | 538 | <P>⏎ | ||
| d1 | 540 | <P>⏎ | ||
| cd5:2 | 541-545 | 秋の夕暮れは、常にも増して、心の休まる間もなく恋い焦がれている人のことに思いが集中して、無理にでもそのゆかりの人を尋ね取りたい気持ちもお募りなさるのであろう。尼君が「死にきれない」と詠んだ夕暮れを自然とお思い出しになられて、恋しく思っても、また、実際に逢ってみたら見劣りがしないだろうかと、やはり不安である。<BR>⏎ <P>⏎ 「手に摘んで早く見たいものだ<BR>⏎ 紫草にゆかりのある野辺の若草を」<BR>⏎ <P>⏎ | 289-290 | 秋の夕暮れは、常にも増して,心の休まる間もなく恋い焦がれている人のことに思いが集中して、無理にでもそのゆかりの人を尋ね取りたい気持ちもお募りなさるのであろう。尼君が「死にきれない」と詠んだ夕暮れを自然とお思い出しになられて、恋しく思っても、また,実際に逢ってみたら見劣りがしないだろうかと、やはり不安である。<BR>⏎ 「手に摘んで早く見たいものだ<BR> 紫草にゆかりのある野辺の若草を」<BR>⏎ |
| version05 | 546 | <A NAME="in32">[第二段 尼君死去し寂寥と孤独の日々]</A><BR> | 291 | |
| d1 | 547 | <P>⏎ | ||
| d1 | 549 | <P>⏎ | ||
| d1 | 551 | <P>⏎ | ||
| d1 | 553 | <P>⏎ | ||
| d1 | 555 | <P>⏎ | ||
| d1 | 557 | <P>⏎ | ||
| d1 | 559 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 560-563 | 「どうして、このように繰り返して申し上げている気持ちを、気兼ねなさるのでしょう。その、幼いお考えの様子がかわいく愛しく思われなさるのも、宿縁が特別なものと、わたしの心には自然と思われてくるのです。やはり、人を介してではなく、直接お伝え申し上げたい。<BR>⏎ <P>⏎ 若君にお目にかかることは難しかろうとも<BR>⏎ 和歌の浦の波のようにこのまま立ち帰ることはしません<BR>⏎ | 298-299 | 「どうして,このように繰り返して申し上げている気持ちを、気兼ねなさるのでしょう。その,幼いお考えの様子が かわいく愛しく思われなさるのも、宿縁が特別なものと、わたしの心には自然と思われてくるのです。やはり,人を介してではなく、直接お伝え申し上げたい。<BR>⏎ 若君にお目にかかることは難しかろうとも<BR> 和歌の浦の波のようにこのまま立ち帰ることはしません<BR>⏎ |
| d1 | 565 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 566-569 | 「なるほど、恐れ多いこと」と言って、<BR>⏎ <P>⏎ 「和歌の浦に寄せる波に身を任せる玉藻のように<BR>⏎ 相手の気持ちをよく確かめもせずに従うことは頼りないことです<BR>⏎ | 301-302 | 「なるほど,恐れ多いこと」と言って、<BR>⏎ 「和歌の浦に寄せる波に身を任せる玉藻のように<BR> 相手の気持ちをよく確かめもせずに従うことは頼りないことです<BR>⏎ |
| d1 | 571 | <P>⏎ | ||
| d1 | 573 | <P>⏎ | ||
| d1 | 575 | <P>⏎ | ||
| d1 | 577 | <P>⏎ | ||
| d1 | 579 | <P>⏎ | ||
| d1 | 581 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 582-583 | と言って、近づいて来るお声が、とてもかわいらしい。<BR>⏎ <P>⏎ | 309 | と言って,近づいて来るお声が、とてもかわいらしい。<BR>⏎ |
| d1 | 585 | <P>⏎ | ||
| d1 | 587 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 588-589 | 「ねえ、行きましょうよ。眠いから」とおっしゃるので、<BR>⏎ <P>⏎ | 312 | 「ねえ,行きましょうよ. 眠いから」とおっしゃるので、<BR>⏎ |
| d1 | 591 | <P>⏎ | ||
| d1 | 593 | <P>⏎ | ||
| d1 | 595 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 596-597 | と言って、押しやり申したところ、無心にお座りになったので、お手を差し入れてお探りになると、柔らかなお召物の上に、髪がつやつやと掛かって、末の方までふさふさしているのが、とてもかわいらしく想像される。お手を捉えなさると、気味の悪いよその人が、このように近くにいらっしゃるのは、恐ろしくなって、<BR>⏎ <P>⏎ | 316 | と言って,押しやり申したところ、無心にお座りになったので、お手を差し入れてお探りになると、柔らかなお召物の上に、髪がつやつやと掛かって、末の方までふさふさしているのが、とてもかわいらしく想像される。お手を捉えなさると、気味の悪いよその人が、このように近くにいらっしゃるのは、恐ろしくなって、<BR>⏎ |
| d1 | 599 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 600-601 | と言って、無理に奥に入って行きなさるのに後から付いて御簾の中にすべり入って、<BR>⏎ <P>⏎ | 318 | と言って,無理に奥に入って行きなさるのに後から付いて御簾の中にすべり入って、<BR>⏎ |
| d1 | 603 | <P>⏎ | ||
| d1 | 605 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 606-609 | 「あら、まあ嫌でございますわ。あまりのなさりようでございますわ。いくらお話申し上げあそばしても、何の甲斐もございませんでしょうに」といって、つらそうに困っているので、<BR>⏎ <P>⏎ 「いくらなんでも、このようなお年の方をどうしようか。やはり、ただ世間にないほどのわたしの愛情をお見届けください」とおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 321-322 | 「あら,まあ嫌でございますわ。あまりのなさりようでございますわ。いくらお話申し上げあそばしても、何の甲斐もございませんでしょうに」といって、つらそうに困っているので、<BR>⏎ 「いくらなんでも、このようなお年の方をどうしようか。やはり,ただ世間にないほどのわたしの愛情をお見届けください」とおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 611 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 612-615 | 「どうして、このような少人数な所で頼りなく過ごしていらっしゃれようか」<BR>⏎ <P>⏎ と思うと、ついお泣きになって、とても見捨てては帰りにくい有様なので、<BR>⏎ <P>⏎ | 324-325 | 「どうして,このような少人数な所で頼りなく 過ごしていらっしゃれようか」<BR>⏎ と思うと,ついお泣きになって、とても見捨てては帰りにくい有様なので、<BR>⏎ |
| d1 | 617 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 618-619 | と言って、とても物馴れた態度で御帳の内側にお入りになるので、奇妙な思いも寄らないことをと、あっけにとられて、一同茫然としている。乳母は、心配で困ったことだと思うが、事を荒立て申すべき場合でないので、嘆息しながら見守っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 327 | と言って,とても物馴れた態度で御帳の内側にお入りになるので、奇妙な思いも寄らないことをと、あっけにとられて、一同茫然としている。乳母は、心配で困ったことだと思うが、事を荒立て申すべき場合でないので、嘆息しながら見守っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 621 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 622-625 | 「さあ、いらっしゃいよ。美しい絵などが多く、お人形遊びなどする所に」<BR>⏎ <P>⏎ と、気に入りそうなことをおっしゃる様子が、とても優しいので、子供心にも、そう大して物怖じせず、とは言っても、気味悪くて眠れなく思われて、もじもじして横になっていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 329-330 | 「さあ,いらっしゃいよ。美しい絵などが多く、お人形遊びなどする所に」<BR>⏎ と,気に入りそうなことをおっしゃる様子が、とても優しいので、子供心にも、そう大して物怖じせず、とは言っても、気味悪くて眠れなく思われて、もじもじして横になっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 627 | <P>⏎ | ||
| c1 | 628 | 「ほんとうに、このように、お越し下さらなかったら、どんなに心細かったことでしょう」<BR>⏎ | 332 | 「ほんとうに,このように、お越し下さらなかったら、どんなに心細かったことでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 630 | <P>⏎ | ||
| d1 | 632 | <P>⏎ | ||
| d1 | 634 | <P>⏎ | ||
| d1 | 636 | <P>⏎ | ||
| d1 | 638 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 639-640 | と言って、かき撫でかき撫でして、後髪を引かれる思いでお出になった。<BR>⏎ <P>⏎ | 338 | と言って,かき撫でかき撫でして、後髪を引かれる思いでお出になった。<BR>⏎ |
| d1 | 642 | <P>⏎ | ||
| cd8:3 | 643-650 | 「曙に霧が立ちこめた空模様につけても<BR>⏎ 素通りし難い貴女の家の前ですね」<BR>⏎ <P>⏎ と、二返ほど歌わせたところ、心得ある下仕え人を出して、<BR>⏎ <P>⏎ 「霧の立ちこめた家の前を通り過ぎ難いとおっしゃるならば<BR>⏎ 生い茂った草が門を閉ざしたことぐらい何でもないでしょうに」<BR>⏎ <P>⏎ | 340-342 | 「曙に霧が立ちこめた空模様につけても<BR> 素通りし難い貴女の家の前ですね」<BR>⏎ と,二返ほど歌わせたところ、心得ある下仕え人を出して、<BR>⏎ 「霧の立ちこめた家の前を通り過ぎ難いとおっしゃるならば<BR> 生い茂った草が門を閉ざしたことぐらい何でもないでしょうに」<BR>⏎ |
| d1 | 652 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 653-654 | かわいらしかった方の面影が恋しく、独り微笑みながら臥せっていらっしゃった。日が高くなってからお起きになって、手紙を書いておやりになる時、書くはずの言葉も普通と違うので、筆を書いては置き書いては置きと、気の向くままにお書きになっている。美しい絵などをお届けなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 344 | かわいらしかった方の面影が恋しく、独り微笑みながら臥せっていらっしゃった。日が高くなってからお起きになって、手紙を書いておやりになる時、書くはずの言葉も普通と違うので、筆を書いては置き書いては置きと,気の向くままにお書きになっている。美しい絵などをお届けなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 656 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 657-658 | 「このような所には、どうして、少しの間でも幼い子供がお過しになれよう。やはり、あちらにお引き取り申し上げよう。けっして窮屈な所ではない。乳母には、部屋をもらって仕えればよい。姫君は、若い子たちがいるので、一緒に遊んで、とても仲良くやって行けよう」などとおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 346 | 「このような所には、どうして,少しの間でも幼い子供がお過しになれよう。やはり,あちらにお引き取り申し上げよう。けっして窮屈な所ではない。乳母には、部屋をもらって仕えればよい。姫君は、若い子たちがいるので、一緒に遊んで、とても仲良くやって行けよう」などとおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 660 | <P>⏎ | ||
| d1 | 662 | <P>⏎ | ||
| d1 | 664 | <P>⏎ | ||
| d1 | 666 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 667-670 | と申して、なるほど、とてもひどく面痩せなさっているが、まことに上品でかわいらしく、かえって美しくお見えになる。<BR>⏎ <P>⏎ 「どうして、そんなにお悲しみなさる。今はもうこの世にいない方のことは、しかたがありません。わたしがついているので」<BR>⏎ <P>⏎ | 351-352 | と申して,なるほど,とてもひどく面痩せなさっているが、まことに上品でかわいらしく、かえって美しくお見えになる。<BR>⏎ 「どうして,そんなにお悲しみなさる。今はもうこの世にいない方のことは、しかたがありません。わたしがついているので」<BR>⏎ |
| d1 | 672 | <P>⏎ | ||
| d1 | 674 | <P>⏎ | ||
| d1 | 676 | <P>⏎ | ||
| d1 | 678 | <P>⏎ | ||
| d1 | 680 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 683-684 | 「ああ、大変だわ。何かのついでに、父宮にうっかりお口にあそばされますな」<BR>⏎ <P>⏎ | 360 | 「ああ,大変だわ. 何かのついでに、父宮にうっかりお口にあそばされますな」<BR>⏎ |
| d1 | 686 | <P>⏎ | ||
| d1 | 688 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 689-690 | 「これから先いつか、ご一緒になるようなご縁から、お逃れ申されなさらいものかも知れません。ただ今は、まったく不釣り合いなお話と拝察致しておりますが、不思議にご熱心に思ってくださり、またおっしゃってくださいますのを、どのようなお気持ちからかと、判断つかないで悩んでおります。今日も、宮さまがお越しあそばして、『安心の行くように仕えなさい。うっかりしたことは致すな』と仰せられたのも、とても厄介で、なんでもなかった時より、このような好色めいたことも改めて気になるのでございました」<BR>⏎ <P>⏎ | 363 | 「これから先いつか、ご一緒になるようなご縁から、お逃れ申されなさらいものかも知れません。ただ今は、まったく不釣り合いなお話と拝察致しておりますが、不思議にご熱心に思ってくださり,またおっしゃってくださいますのを、どのようなお気持ちからかと、判断つかないで悩んでおります。今日も、宮さまがお越しあそばして、『安心の行くように仕えなさい。うっかりしたことは致すな』と仰せられたのも、とても厄介で、なんでもなかった時より、このような好色めいたことも改めて気になるのでございました」<BR>⏎ |
| d1 | 692 | <P>⏎ | ||
| d1 | 694 | <P>⏎ | ||
| d1 | 696 | <P>⏎ | ||
| d1 | 698 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 699-700 | と、言葉数少なに言って、ろくにお相手もせずに、繕い物をする様子がはっきり分かるので、帰参した。<BR>⏎ <P>⏎ | 368 | と,言葉数少なに言って、ろくにお相手もせずに、繕い物をする様子がはっきり分かるので、帰参した。<BR>⏎ |
| version05 | 701 | <A NAME="in33">[第三段 源氏、紫の君を盗み取る]</A><BR> | 369 | |
| d1 | 702 | <P>⏎ | ||
| d1 | 704 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 705-708 | 参上したので、呼び寄せて様子をお尋ねになる。「これこれしかじかです」と申し上げるので、残念にお思いになって、「あの宮邸に移ってしまったら、わざわざ迎え取ることも好色めいたことであろう。子供を盗み出したと、きっと非難されるだろう。その前に、暫くの間、女房の口を封じさせて、連れて来てしまおう」とお考えになって、<BR>⏎ <P>⏎ 「早朝にあちらに行こう。車の準備はそのままに。随身を一、二名を申し付けておけ」とおっしゃる。承知して下がった。<BR>⏎ <P>⏎ | 371-372 | 参上したので、呼び寄せて様子をお尋ねになる。「これこれしかじかです」と申し上げるので、残念にお思いになって、「あの宮邸に移ってしまったら、わざわざ迎え取ることも 好色めいたことであろう。子供を盗み出したと、きっと非難されるだろう。その前に、暫くの間,女房の口を封じさせて、連れて来てしまおう」とお考えになって、<BR>⏎ 「早朝にあちらに行こう。車の準備はそのままに。随身を一,二名を申し付けておけ」とおっしゃる。承知して下がった。<BR>⏎ |
| d1 | 710 | <P>⏎ | ||
| d1 | 712 | <P>⏎ | ||
| d1 | 714 | <P>⏎ | ||
| d1 | 716 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 717-720 | 「ここに、おいでになっています」と言うと、<BR>⏎ <P>⏎ 「若君は、お寝みになっております。どうして、こんな暗いうちにお出あそばしたのでしょうか」と、どこかからの帰りがけと思って言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 377-378 | 「ここに,おいでになっています」と言うと、<BR>⏎ 「若君は、お寝みになっております。どうして,こんな暗いうちにお出あそばしたのでしょうか」と、どこかからの帰りがけと思って言う。<BR>⏎ |
| d1 | 722 | <P>⏎ | ||
| d1 | 724 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 725-726 | と言って、微笑んでいた。源氏の君が、お入りになると、とても困って、<BR>⏎ <P>⏎ | 381 | と言って,微笑んでいた。源氏の君が、お入りになると、とても困って、<BR>⏎ |
| d1 | 728 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 729-732 | 「まだ、お目覚めではありますまいね。どれ、お目をお覚まし申しましょう。このような素晴らしい朝霧を知らないで、寝ていてよいものですか」<BR>⏎ <P>⏎ とおっしゃって、ご寝所にお入りになるので、「もし」とも、お止めできない。<BR>⏎ <P>⏎ | 383-384 | 「まだ,お目覚めではありますまいね。どれ,お目をお覚まし申しましょう。このような素晴らしい朝霧を知らないで、寝ていてよいものですか」<BR>⏎ とおっしゃって,ご寝所にお入りになるので、「もし」とも、お止めできない。<BR>⏎ |
| d1 | 734 | <P>⏎ | ||
| d1 | 736 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 737-738 | 「さあ、いらっしゃい。父宮さまのお使いとして参ったのですよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 387 | 「さあ,いらっしゃい。父宮さまのお使いとして参ったのですよ」<BR>⏎ |
| d1 | 740 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 741-744 | 「ああ、情けない。わたしも同じ人ですよ」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、抱いてお出なさるので、大輔や少納言の乳母などは、「これは、どうなさいますか」と申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 389-390 | 「ああ,情けない。わたしも同じ人ですよ」<BR>⏎ と言って,抱いてお出なさるので、大輔や 少納言の乳母などは、「これは,どうなさいますか」と申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 746 | <P>⏎ | ||
| d1 | 748 | <P>⏎ | ||
| d1 | 750 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 751-752 | 「よし、後からでも女房たちは参ればよかろう」と言って、お車を寄せさせなさるので、驚きあきれて、どうしたらよいものかと困り合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 394 | 「よし,後からでも女房たちは参ればよかろう」と言って、お車を寄せさせなさるので、驚きあきれて、どうしたらよいものかと困り合っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 754 | <P>⏎ | ||
| d1 | 756 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 758-761 | 「やはり、まるで夢のような心地がしますが、どういたしましたらよいことなのでしょうか」と、ためらっているので、<BR>⏎ <P>⏎ 「それはあなたの考え次第でしょう。ご本人はお移し申し上げてしまったのだから、帰ろうと思うなら、送ってやろうよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 398-399 | 「やはり,まるで夢のような心地がしますが、どういたしましたらよいことなのでしょうか」と、ためらっているので、<BR>⏎ 「それは あなたの考え次第でしょう。ご本人はお移し申し上げてしまったのだから、帰ろうと思うなら、送ってやろうよ」<BR>⏎ |
| d1 | 763 | <P>⏎ | ||
| d1 | 765 | <P>⏎ | ||
| d1 | 767 | <P>⏎ | ||
| d1 | 769 | <P>⏎ | ||
| d1 | 771 | <P>⏎ | ||
| d1 | 773 | <P>⏎ | ||
| d1 | 775 | <P>⏎ | ||
| d1 | 777 | <P>⏎ | ||
| cd4:2 | 778-781 | このように、女をお迎えになったと、聞いた人は、「誰であろうか。並大抵の人ではあるまい」と、ひそひそ噂する。御手水や、お粥などを、こちらの対に持って上がる。日が高くなってお起きになって、<BR>⏎ <P>⏎ 「女房がいなくて、不便であろうから、しかるべき人々を、夕方になってから、お迎えなさるとよいだろう」<BR>⏎ <P>⏎ | 408-409 | このように,女をお迎えになったと、聞いた人は、「誰であろうか。並大抵の人ではあるまい」と、ひそひそ噂する。御手水や、お粥などを、こちらの対に持って上がる。日が高くなってお起きになって、<BR>⏎ 「女房がいなくて、不便であろうから、しかるべき人々を、夕方になってから,お迎えなさるとよいだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 783 | <P>⏎ | ||
| d1 | 785 | <P>⏎ | ||
| d1 | 787 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 788-789 | などと、今からお教え申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 413 | などと,今からお教え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 791 | <P>⏎ | ||
| d1 | 793 | <P>⏎ | ||
| cd7:3 | 794-800 | 東の対にお渡りになったので、端に出て行って、庭の木立や、池の方などを、お覗きになると、霜枯れの前栽が、絵に描いたように美しくて、見たこともない四位や五位の人々の服装が色とりどりに入り乱れて、ひっきりなしに出入りしていて、「なるほど、素晴らしい所だわ」と、お思いになる。御屏風類などの、とても素晴らしい絵を見ては、機嫌を良くしていらっしゃるのも、あどけないことよ。<BR>⏎ <P>⏎ 源氏の君は、二、三日、宮中へも参内なさらず、この人を手懐けようとお相手申し上げなさる。そのまま手本にとのお考えか、手習いや、お絵描きなど、いろいろと書いては描いては、御覧に入れなさる。とても素晴らしくお書き集めになった。「武蔵野と言うと文句を言いたくなってしまう」と、紫の紙にお書きになった墨の具合が、とても格別なのを取って御覧になっていらっしゃった。少し小さくて、<BR>⏎ <P>⏎ 「まだ一緒に寝てはみませんが愛しく思われます<BR>⏎ 武蔵野の露に難儀する紫のゆかりのあなたを」<BR>⏎ <P>⏎ | 416-418 | 東の対にお渡りになったので、端に出て行って、庭の木立や、池の方などを,お覗きになると、霜枯れの前栽が、絵に描いたように美しくて、見たこともない四位や 五位の人々の服装が色とりどりに入り乱れて、ひっきりなしに出入りしていて、「なるほど,素晴らしい所だわ」と,お思いになる。御屏風類などの、とても素晴らしい絵を見ては、機嫌を良くしていらっしゃるのも,あどけないことよ。<BR>⏎ 源氏の君は、二,三日、宮中へも参内なさらず、この人を手懐けようとお相手申し上げなさる。そのまま手本にとのお考えか、手習いや、お絵描きなど,いろいろと書いては描いては、御覧に入れなさる。とても素晴らしくお書き集めになった。「武蔵野と言うと文句を言いたくなってしまう」と、紫の紙にお書きになった墨の具合が、とても格別なのを取って御覧になっていらっしゃった。少し小さくて、<BR>⏎ 「まだ一緒に寝てはみませんが愛しく思われます<BR> 武蔵野の露に難儀する紫のゆかりのあなたを」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 802-806 | 「さあ、あなたもお書きなさい」と言うと、<BR>⏎ 「まだ、うまく書けません」<BR>⏎ <P>⏎ と言って、顔を見上げていらっしゃるのが、無邪気でかわいらしいので、つい微笑まれて、<BR>⏎ <P>⏎ | 420-422 | 「さあ,あなたもお書きなさい」と言うと、<BR>⏎ 「まだ,うまく書けません」<BR>⏎ と言って,顔を見上げていらっしゃるのが、無邪気でかわいらしいので、つい微笑まれて、<BR>⏎ |
| d1 | 808 | <P>⏎ | ||
| cd7:3 | 809-815 | とおっしゃると、ちょっと横を向いてお書きになる手つきや、筆をお持ちになる様子があどけないのも、かわいらしくてたまらないので、我ながら不思議だとお思いになる。「書き損ってしまった」と、恥ずかしがってお隠しになるのを、無理に御覧になると、<BR>⏎ <P>⏎ 「恨み言を言われる理由が分かりません<BR>⏎ わたしはどのような方のゆかりなのでしょう」<BR>⏎ <P>⏎ と、とても幼稚だが、将来の成長が思いやられて、ふっくらとお書きになっている。亡くなった尼君の筆跡に似ているのであった。「当世風の手本を習ったならば、とても良くお書きになるだろう」と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 424-426 | とおっしゃると、ちょっと横を向いてお書きになる手つきや、筆をお持ちになる様子があどけないのも、かわいらしくてたまらないので、我ながら不思議だとお思いになる。「書き損ってしまった」と,恥ずかしがってお隠しになるのを、無理に御覧になると、<BR>⏎ 「恨み言を言われる理由が分かりません<BR> わたしはどのような方のゆかりなのでしょう」<BR>⏎ と,とても幼稚だが、将来の成長が思いやられて、ふっくらとお書きになっている。亡くなった尼君の筆跡に似ているのであった。「当世風の手本を習ったならば、とても良くお書きになるだろう」と御覧になる。<BR>⏎ |
| d1 | 817 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 818-819 | あの残った女房たちは、兵部卿宮がお越しになって、お尋ね申し上げなさったが、お答え申し上げるすべもなくて、困り合っているのであった。「暫くの間、他人に聞かせてはならぬ」と源氏の君もおっしゃるし、少納言の乳母も考えていることなので、固く口止めさせていた。ただ、「行く方も知れず、少納言の乳母がお連れしてお隠し申したことで」とばかりお答え申し上げるので、宮もしょうがないとお思いになって、「亡くなった尼君も、あちらに姫君がお移りになることを、とても嫌だとお思いであったことなので、乳母が、ひどく出過ぎた考えから、すんなりとお移りになることを、不都合だ、などと言わないで、自分の一存で、連れ出してどこかへやってしまったのだろう」と、泣く泣くお帰りになった。「もし、消息をお聞きつけ申したら、知らせなさい」とおっしゃる言葉も、厄介で。僧都のお所にも、お尋ね申し上げなさるが、はっきり分からず、惜しいほどであったご器量など、恋しく悲しいとお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 428 | あの残った女房たちは、兵部卿宮がお越しになって、お尋ね申し上げなさったが、お答え申し上げるすべもなくて、困り合っているのであった。「暫くの間,他人に聞かせてはならぬ」と源氏の君もおっしゃるし、少納言の乳母も考えていることなので、固く口止めさせていた。ただ,「行く方も知れず、少納言の乳母がお連れしてお隠し申したことで」とばかりお答え申し上げるので、宮もしょうがないとお思いになって、「亡くなった尼君も、あちらに姫君がお移りになることを、とても嫌だとお思いであったことなので、乳母が、ひどく出過ぎた考えから、すんなりとお移りになることを、不都合だ、などと言わないで、自分の一存で、連れ出してどこかへやってしまったのだろう」と、泣く泣くお帰りになった。「もし,消息をお聞きつけ申したら、知らせなさい」とおっしゃる言葉も、厄介で。僧都のお所にも、お尋ね申し上げなさるが、はっきり分からず、惜しいほどであったご器量など、恋しく悲しいとお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 821 | <P>⏎ | ||
| d1 | 823 | <P>⏎ | ||
| d1 | 825 | <P>⏎ | ||
| cd3:1 | 826-828 | 小賢しい智恵がつき、何かとうっとうしい関係となってしまうと、自分の気持ちと多少ぴったりしない点も出て来たのかしらと、心を置かれて、相手も嫉妬しがちになり、意外なもめ事が自然と出て来るものなのに、まことにかわいらしい遊び相手である。自分の娘などでも、これほどの年になったら、気安く振る舞ったり、一緒に寝起きなどは、とてもできないものだろうに、この人は、とても風変わりな大切な娘であると、お思いのようである。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 432 | 小賢しい智恵がつき、何かとうっとうしい関係となってしまうと、自分の気持ちと多少ぴったりしない点も出て来たのかしらと、心を置かれて、相手も嫉妬しがちになり、意外なもめ事が 自然と出て来るものなのに、まことにかわいらしい遊び相手である。自分の娘などでも、これほどの年になったら、気安く振る舞ったり、一緒に寝起きなどは、とてもできないものだろうに、この人は,とても風変わりな大切な娘であると、お思いのようである。<BR>⏎ |
| d1 | 835 | ⏎ | ||
| i0 | 443 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version06 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d2 | 15-16 | ⏎ <P>⏎ | ||
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| d1 | 33 | <P>⏎ | ||
| d1 | 35 | <P>⏎ | ||
| version06 | 36 | <H4>第一章 末摘花の物語</H4> | 28 | |
| version06 | 37 | <A NAME="in11">[第一段 亡き夕顔追慕]</A><BR> | 29 | |
| c2 | 38-39 | どんなに思ってもなお飽き足りなかった夕顔の露のように先立たれた時の悲しみを、年月を経てもお忘れにならず、いずれもいずれも気の置ける方ばかりで、気取って思慮深さを競い合っているのに対して、人なつこく気を許していたかわいらしさに、二人となく恋しくお思い出しなさる。<BR>⏎ 何とかして、大層な評判はなく、とてもかわいらしげな女性で、気の置けないようなのを、見つけたいものだと、性懲りもなく思い続けていらっしゃるので、少しでも風流人らしく評判されるあたりには、漏れなくお耳を留めにならないことはないのに、それではと、お考え立たれるほどの人には、ちょっと手紙をおやりになるらしいが、お靡き申さずよそよそしく振る舞う人は、めったにいないらしいのには、まったく見飽きたことだ。<BR>⏎ | 30-31 | どんなに思ってもなお飽き足りなかった夕顔の露のように先立たれた時の悲しみを、年月を経ても お忘れにならず、いずれもいずれも 気の置ける方ばかりで、気取って思慮深さを競い合っているのに対して、人なつこく気を許していたかわいらしさに、二人となく恋しくお思い出しなさる。<BR>⏎ 何とかして,大層な評判はなく、とてもかわいらしげな女性で、気の置けないようなのを、見つけたいものだと、性懲りもなく思い続けていらっしゃるので、少しでも風流人らしく評判されるあたりには、漏れなくお耳を留めにならないことはないのに、それではと、お考え立たれるほどの人には、ちょっと手紙をおやりになるらしいが、お靡き申さずよそよそしく振る舞う人は、めったにいないらしいのには、まったく見飽きたことだ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 41-42 | あの空蝉を、何かの折節には、妬ましくお思い出しになる。荻の葉も、適当な機会がある時は、気をお引きなさる時もあるのだろう。燈火に照らされてしどけなかった姿は、もう一度そうして見たいものだとお思いになる。総じて、すっかりお忘れになることは、できないご性分なのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 33 | あの空蝉を、何かの折節には、妬ましくお思い出しになる。荻の葉も、適当な機会がある時は、気をお引きなさる時もあるのだろう。燈火に照らされてしどけなかった姿は、もう一度そうして見たいものだとお思いになる。総じて,すっかりお忘れになることは、できないご性分なのであった。<BR>⏎ |
| version06 | 43 | <A NAME="in12">[第二段 故常陸宮の姫君の噂]</A><BR> | 34 | |
| c1 | 44 | 左衛門の乳母といって、大弍の次に大切に思っていらっしゃる者の娘で、大輔の命婦といって、内裏に仕えている者は、皇族の血筋を引く兵部の大輔という人の娘であった。とても大層な色好みの若女房であったのを、君も召し使ったりなどなさる。母親は、筑前守と再婚して、赴任していたので、父君の家を里として通っている。<BR>⏎ | 35 | 左衛門の乳母といって、大弍の次に大切に思っていらっしゃる者の娘で、大輔の命婦といって、内裏に仕えている者は、皇族の血筋を引く兵部の大輔という人の娘であった。とても大層な色好みの若女房であったのを、君も召し使ったりなどなさる。母親は,筑前守と再婚して、赴任していたので、父君の家を里として通っている。<BR>⏎ |
| c1 | 46 | 「気立てや器量など、詳しくは存じません。控え目で、人と交際していらっしゃらないので、何か用のあった宵などに、物を隔ててお話しております。琴を親しい話相手と思っています」と申し上げると、<BR>⏎ | 37 | 「気立てや器量など、詳しくは存じません。控え目で、人と交際していらっしゃらないので、何か用のあった宵などに、物を隔てて お話しております。琴を親しい話相手と思っています」と申し上げると、<BR>⏎ |
| d1 | 53 | <P>⏎ | ||
| version06 | 54 | <A NAME="in13">[第三段 新春正月十六日の夜に姫君の琴を聴く]</A><BR> | 44 | |
| c2 | 56-57 | 「とても、困りましたことですわ。楽の音が冴え渡って聞こえる夜でもございませんようなので」と申し上げるが、<BR>⏎ 「もっと、あちらに行って、たった一声でも、お勧め申せ。聞かないで帰るようなのが、癪だろうから」<BR>⏎ | 46-47 | 「とても,困りましたことですわ。楽の音が冴え渡って聞こえる夜でもございませんようなので」と申し上げるが、<BR>⏎ 「もっと,あちらに行って、たった一声でも、お勧め申せ。聞かないで帰るようなのが、癪だろうから」<BR>⏎ |
| c1 | 61 | と言って、取り寄せるので、人ごとながら、どのようにお聞きになるだろうかと、どきどきする。<BR>⏎ | 51 | と言って,取り寄せるので、人ごとながら、どのようにお聞きになるだろうかと、どきどきする。<BR>⏎ |
| c1 | 66 | と言って、あまりお勧めしないで帰って来たので、<BR>⏎ | 56 | と言って,あまりお勧めしないで帰って来たので、<BR>⏎ |
| c3 | 71-73 | 「さあ、いかがなものでしょうか、とてもひっそりとした様子に思い沈んで、気の毒そうでいらっしゃるようなので、案じられまして」<BR>⏎ と言うと、「なるほど、それももっともだ。急に自分も相手も親しくなるような身分の人は、その程度の者なのだ」などと、お気の毒に思われるご身分のお方なので、<BR>⏎ 「やはり、気持ちをそれとなく伝えてくれよ」と、言い含めなさる。<BR>⏎ | 61-63 | 「さあ,いかがなものでしょうか、とてもひっそりとした様子に思い沈んで、気の毒そうでいらっしゃるようなので,案じられまして」<BR>⏎ と言うと、「なるほど,それももっともだ。急に自分も相手も親しくなるような身分の人は、その程度の者なのだ」などと、お気の毒に思われるご身分のお方なので、<BR>⏎ 「やはり,気持ちをそれとなく伝えてくれよ」と、言い含めなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 77 | 「他人が言うように、欠点を言い立てなさるな。これを好色な振る舞いと言ったら、どこかの女の有様は、弁解できないだろう」<BR>⏎ | 67 | 「他人が言うように、欠点を言い立てなさるな。これを好色な振る舞いと言ったら、どこかの女の有様は,弁解できないだろう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 79-80 | 寝殿の方に、姫君の様子が聞けようかとお思いになって、静かにお立ち下がりになる。透垣がわずかに折れ残っている物蔭に、お立ち添いになると、以前から立っている男がいるのであった。「誰だろう。懸想している好色人がいたのだなあ」とお思いになって、蔭に寄って隠れなさ⏎ ると、頭中将なのであった。<BR>⏎ | 69 | 寝殿の方に、姫君の様子が聞けようかとお思いになって、静かにお立ち下がりになる。透垣がわずかに折れ残っている物蔭に、お立ち添いになると、以前から立っている男がいるのであった。「誰だろう。懸想している好色人がいたのだなあ」とお思いになって、蔭に寄って隠れなさると、頭中将なのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 84-85 | ご一緒に宮中を退出しましたのに<BR>⏎ 行く先を晦ましてしまわれる十六夜の月ですね」<BR>⏎ | 73 | ご一緒に宮中を退出しましたのに<BR> 行く先を晦ましてしまわれる十六夜の月ですね」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 88-89 | 「どの里も遍く照らす月は空に見えても<BR>⏎ その月が隠れる山まで尋ねる人はいませんよ」<BR>⏎ | 76 | 「どの里も遍く照らす月は空に見えても<BR> その月が隠れる山まで尋ねる人はいませんよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 92-93 | と、反対にご忠告申し上げる。このようにしかと見つけられたのを、悔しくお思いになるが、あの撫子は見つけ出せないのを、大きな手柄だと、ご内心お思い出しになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 79 | と,反対にご忠告申し上げる。このようにしかと見つけられたのを、悔しくお思いになるが、あの撫子は見つけ出せないのを、大きな手柄だと、ご内心お思い出しになる。<BR>⏎ |
| version06 | 94 | <A NAME="in14">[第四段 頭中将とともに左大臣邸へ行く]</A><BR> | 80 | |
| c6 | 98-103 | 君たちは、先程の七絃琴の音をお思い出しになって、見すぼらしかった邸宅の様子なども、一風変わって興趣あると思い続け、「もし仮に、とても美しくかわいい女が、寂しく年月を送っているような時、結ばれて、ひどくいじらしくなったら、世間の評判になるほどなのは、自分ながら体裁の悪いことだろう」などとまで、中将は思うのであった。この君がこのように懸想しあるいていらっしゃるのを、「とても、あのままで、お済ましになれようか」と、小憎らしく心配するのであった。<BR>⏎ その後、こちらからもあちらからも、恋文などおやりになるようだ。どちらへもお返事がなく、気になっていらいらするので、「あまりにもひどいではないか。あのような生活をしている人は、物の情趣を解する風情や、ちょっとした木や草、空模様につけても、かこつけたりなどして、気立てが自然と推量される折々もあるようなのが、かわいらしいというものであろうに、重々しいといっても、とてもこうあまりに引っ込み思案なのは、おもしろくなく、よろしくない」と、中将は、君以上にやきもきするのであった。いつものように、お隔て申し上げなさらない性格から、<BR>⏎ 「これこれしかじかのお返事は御覧になりますか。試しにちょっと手紙を出してみたが、中途半端で、終わってしまった」<BR>⏎ と、残念がるので、「やっぱりそうか、懸想文を贈ったのだな」と、つい微笑まれて、<BR>⏎ 「さあ、しいて見たいとも思わないからか、見ることもない」<BR>⏎ と、お返事なさるのを、「分け隔てしたな」と思うと、まことに悔しい。<BR>⏎ | 84-89 | 君たちは、先程の七絃琴の音をお思い出しになって、見すぼらしかった邸宅の様子なども、一風変わって興趣あると思い続け、「もし仮に、とても美しくかわいい女が、寂しく年月を送っているような時、結ばれて、ひどくいじらしくなったら、世間の評判になるほどなのは、自分ながら体裁の悪いことだろう」などとまで、中将は思うのであった。この君がこのように懸想しあるいていらっしゃるのを、「とても,あのままで、お済ましになれようか」と、小憎らしく心配するのであった。<BR>⏎ その後、こちらからもあちらからも、恋文などおやりになるようだ。どちらへもお返事がなく、気になっていらいらするので、「あまりにもひどいではないか。あのような生活をしている人は、物の情趣を解する風情や、ちょっとした木や草、空模様につけても、かこつけたりなどして、気立てが自然と推量される折々もあるようなのが,かわいらしいというものであろうに、重々しいといっても、とてもこうあまりに引っ込み思案なのは、おもしろくなく、よろしくない」と、中将は、君以上にやきもきするのであった。いつものように、お隔て申し上げなさらない性格から、<BR>⏎ 「これこれしかじかのお返事は御覧になりますか。試しにちょっと手紙を出してみたが、中途半端で,終わってしまった」<BR>⏎ と,残念がるので、「やっぱりそうか、懸想文を贈ったのだな」と、つい微笑まれて、<BR>⏎ 「さあ,しいて見たいとも思わないからか、見ることもない」<BR>⏎ と,お返事なさるのを、「分け隔てしたな」と思うと、まことに悔しい。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 106-108 | 「さあ、おっしゃるように興趣あるお立ち寄り所には、とてもどうかしらと、お相応しくなく見えます。ひたすら恥ずかしがって、内気な点では、世にも珍しいくらいのお方です」<BR>⏎ と、見た様子をお話し申し上げる。「気が利いていて、才覚だったところはないようだ。とても子供のようにおっとりしているのが、かわいいものだ」とお忘れにならず、お頼みになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 92-93 | 「さあ,おっしゃるように興趣あるお立ち寄り所には、とてもどうかしらと、お相応しくなく見えます。ひたすら恥ずかしがって、内気な点では、世にも珍しいくらいのお方です」<BR>⏎ と,見た様子をお話し申し上げる。「気が利いていて、才覚だったところはないようだ。とても子供のようにおっとりしているのが、かわいいものだ」とお忘れにならず、お頼みになる。<BR>⏎ |
| d1 | 110 | <P>⏎ | ||
| version06 | 111 | <A NAME="in15">[第五段 秋八月二十日過ぎ常陸宮の姫君と逢う]</A><BR> | 95 | |
| c2 | 114-115 | と、とても不愉快に思っておっしゃるので、お気の毒に思って、<BR>⏎ 「かけ離れて、不釣り合いなご縁だとも、申し上げたことはありません。ただ、万事につけて内気な性格が強すぎて、お返事なさらないのだろうと存じます」と申し上げると、<BR>⏎ | 98-99 | と,とても不愉快に思っておっしゃるので、お気の毒に思って、<BR>⏎ 「かけ離れて、不釣り合いなご縁だとも、申し上げたことはありません。ただ,万事につけて内気な性格が強すぎて、お返事なさらないのだろうと存じます」と申し上げると、<BR>⏎ |
| c2 | 117-118 | などと、ご相談なさる。<BR>⏎ やはり世間一般の女性の様子を、一通りのこととして聞き集め、お耳を留めなさる癖がついていらっしゃるので、もの寂しい夜の席などで、ちょっとした折に、このような女性がと申し上げたことに、このように殊更におっしゃり続けるので、「何となく気が重く、女君のご様子も、恋愛の経験や、風流らしくもないのに、かえって手引したことによって、きっと気の毒なことになりはしないか」と思ったが、君がこのように本気になっておっしゃるので、「聞き入れないのも、いかにも変わり者のようだろう。父親王が生きていらしたころでさえ、時代遅れの所だと言って、ご訪問申し上げる人もなかったのだが、まして、今となっては浅茅生を分けて訪ねて来る人もまったく絶えているのに」。<BR>⏎ | 101-102 | などと,ご相談なさる。<BR>⏎ やはり世間一般の女性の様子を、一通りのこととして聞き集め、お耳を留めなさる癖がついていらっしゃるので、もの寂しい夜の席などで、ちょっとした折に、このような女性がと申し上げたことに、このように殊更におっしゃり続けるので、「何となく気が重く、女君のご様子も、恋愛の経験や、風流らしくもないのに、かえって手引したことによって、きっと気の毒なことになりはしないか」と思ったが、君がこのように本気になっておっしゃるので、「聞き入れないのも、いかにも変わり者のようだろう。父親王が生きていらしたころでさえ、時代遅れの所だと言って、ご訪問申し上げる人もなかったのだが、まして,今となっては浅茅生を分けて訪ねて来る人もまったく絶えているのに」。<BR>⏎ |
| c1 | 120 | 命婦は、「それでは、適当な機会に、物越しにお話申し上げなさって、お気に召さなかったら、そのまま終わってしまってよし。また、ご縁があって、一時的にでもお通いになるとしても、誰もお咎めなさるはずの方もいない」などと、色事にかけては軽率な性分でふと考えて、父君にも、このようなことなど、話さなかったのであった。<BR>⏎ | 104 | 命婦は、「それでは,適当な機会に、物越しにお話申し上げなさって、お気に召さなかったら、そのまま終わってしまってよし。また,ご縁があって、一時的にでもお通いになるとしても、誰もお咎めなさるはずの方もいない」などと、色事にかけては軽率な性分でふと考えて、父君にも、このようなことなど,話さなかったのであった。<BR>⏎ |
| c3 | 122-124 | 月がようやく出て、荒れた垣根の状態を気味悪く眺めていらっしゃると、琴を勧められて、かすかにお弾きになるのは、悪くはない。「もう少し、親しみやすい、今風の感じを加えたいものだ」と、蓮っ葉な性分から、じれったく思っていた。人目のない邸なので、安心してお入りになる。命婦をお呼ばせになる。今初めて、気がついた顔して、<BR>⏎ 「とても困りましたわ。これこれということで、お越しあそばしたそうですわ。いつも、このようにお恨み申していらっしゃったが、一存ではまいらぬ旨ばかり、お断り申しておりますので、『自身でお話をおつけ申し上げよう』とかねておっしゃっていたのです。どのようにお返事申し上げましょうか。並大抵の軽いお出ましではありませんので、困ったことで。物越しにでも、おっしゃるところを、お聞きあそばしませ」<BR>⏎ と言うと、とても恥ずかしい、と思って、<BR>⏎ | 106-108 | 月がようやく出て、荒れた垣根の状態を気味悪く眺めていらっしゃると、琴を勧められて、かすかにお弾きになるのは、悪くはない。「もう少し,親しみやすい,今風の感じを加えたいものだ」と、蓮っ葉な性分から、じれったく思っていた。人目のない邸なので、安心してお入りになる。命婦をお呼ばせになる。今初めて、気がついた顔して、<BR>⏎ 「とても困りましたわ。これこれということで、お越しあそばしたそうですわ。いつも,このようにお恨み申していらっしゃったが、一存ではまいらぬ旨ばかり、お断り申しておりますので、『自身でお話をおつけ申し上げよう』と、かねておっしゃっていたのです。どのようにお返事申し上げましょうか。並大抵の軽いお出ましではありませんので、困ったことで。物越しにでも、おっしゃるところを、お聞きあそばしませ」<BR>⏎ と言うと、とても恥ずかしい,と思って、<BR>⏎ |
| c2 | 126-127 | と言って、奥の方へいざってお入りになる態度は、とてもうぶな様子である。微笑んで、<BR>⏎ 「とても、子供じみていらっしゃいますのが、気がかりですわ。ご身分の高い方も、ご両親様が生きていらっして、手を掛けてお世話申していらっしゃる間なら、子供っぽくいらっしゃるのも結構ですが、このような心細いお暮らし向きで、相変わらず世間を知らずに引っ込み思案でいらっしゃるのは、よろしうございません」とお教え申し上げる。<BR>⏎ | 110-111 | と言って,奥の方へいざってお入りになる態度は、とてもうぶな様子である。微笑んで、<BR>⏎ 「とても,子供じみていらっしゃいますのが、気がかりですわ。ご身分の高い方も、ご両親様が生きていらっして,手を掛けてお世話申していらっしゃる間なら、子供っぽくいらっしゃるのも結構ですが、このような心細いお暮らし向きで、相変わらず世間を知らずに引っ込み思案でいらっしゃるのは、よろしうございません」とお教え申し上げる。<BR>⏎ |
| c3 | 131-133 | などと、うまく言い含めて、二間の端にある障子を、自分で固く錠鎖して、お座蒲団を敷いて整える。<BR>⏎ とても恥ずかしくお思いになっているが、このような方に応対する心得なども、まったくご存じなかったので、命婦がこのように言うのを、そういうものなのであろうと思って任せていらっしゃる。乳母のような老女などは、部屋に入って横になってうつらうつらしている時分である。若い女房、二、三人いるのは、世間で評判高いお姿を、見たいものだとお思い申し上げて、期待して緊張し合っている。結構なご衣装にお召し替え申し、身繕い申し上げると、ご本人は、何の頓着もなくいらっしゃる。<BR>⏎ 男は、まことこの上ないお姿を、お忍びで心づかいしていらっしゃるご様子、何とも優美で、「風流を解する人にこそ見せたいが、見栄えもしない邸で、ああ、お気の毒な」と、命婦は思うが、ただおっとりしていらっしゃるのを、「安心で、出過ぎたところはお見せ申さるまい」と思うのであった。「自分がいつも責められ申していた責任逃れに、気の毒な姫の物思いが生じてきはしまいか」などと、不安に思っている。<BR>⏎ | 115-117 | などと,うまく言い含めて、二間の端にある障子を、自分で固く錠鎖して、お座蒲団を敷いて整える。<BR>⏎ とても恥ずかしくお思いになっているが、このような方に応対する心得なども、まったくご存じなかったので、命婦がこのように言うのを、そういうものなのであろうと思って任せていらっしゃる。乳母のような老女などは、部屋に入って横になって うつらうつらしている時分である。若い女房、二,三人いるのは、世間で評判高いお姿を、見たいものだとお思い申し上げて、期待して緊張し合っている。結構なご衣装にお召し替え申し、身繕い申し上げると、ご本人は、何の頓着もなくいらっしゃる。<BR>⏎ 男は、まことこの上ないお姿を、お忍びで心づかいしていらっしゃるご様子、何とも優美で、「風流を解する人にこそ見せたいが、見栄えもしない邸で、ああ,お気の毒な」と、命婦は思うが、ただおっとりしていらっしゃるのを、「安心で、出過ぎたところはお見せ申さるまい」と思うのであった。「自分がいつも責められ申していた責任逃れに、気の毒な姫の物思いが生じてきはしまいか」などと、不安に思っている。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 135-136 | 「何度あなたの沈黙に負けたことでしょう<BR>⏎ ものを言うなとおっしゃらないことを頼みとして<BR>⏎ | 119 | 「何度あなたの沈黙に負けたことでしょう<BR> ものを言うなとおっしゃらないことを頼みとして<BR>⏎ |
| cd3:1 | 139-141 | 「鐘をついて論議を終わりにするように<BR>⏎ 何も言うなとはさすがに言いかねます<BR>⏎ ただお答えしにくいのが、何ともうまく説明できないのです」<BR>⏎ | 122 | 「鐘をついて論議を終わりにするように<BR> 何も言うなとはさすがに言いかねます<BR> (ただお答えしにくいのが、何ともうまく説明できないのです)」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 144-145 | 何もおっしゃらないのは口に出して言う以上なのだとは知っていますが、<BR>⏎ やはりずっと黙っていらっしゃるのは辛いものですよ」<BR>⏎ | 125 | 何もおっしゃらないのは口に出して言う以上なのだとは知っていますが、<BR> やはりずっと黙っていらっしゃるのは辛いものですよ」<BR>⏎ |
| c2 | 148-149 | 命婦、「まあ、ひどい。油断させていらっしゃって」と、気の毒なので、知らない顔をして、自分の部屋の方へ行ってしまった。先程の若い女房連中、言うまでもない、世に例のない美しいお姿の評判の高さに、お咎め申し上げず、大げさに嘆くこともせず、ただ、思いも寄らず急なことで、何のお心構えもないのを、案じるのであった。<BR>⏎ ご本人は、まったく無我夢中で、恥ずかしく身の竦むような思いの他は何も考えられないので、「最初はこのようなのがかわいいのだ。まだ世間ずれしていない人で、大切に育てられているのが」と、大目に見られる一方で、合点がゆかず、どことなく気の毒な感じに思われるご様子である。どのようなところにお心が惹かれるのだろうか、つい溜息をつかれて、夜もまだ深いうちにお出になった。<BR>⏎ | 128-129 | 命婦、「まあ,ひどい。油断させていらっしゃって」と、気の毒なので、知らない顔をして、自分の部屋の方へ行ってしまった。先程の若い女房連中、言うまでもない,世に例のない美しいお姿の評判の高さに、お咎め申し上げず、大げさに嘆くこともせず、ただ,思いも寄らず急なことで、何のお心構えもないのを、案じるのであった。<BR>⏎ ご本人は、まったく無我夢中で、恥ずかしく身の竦むような思いの他は何も考えられないので、「最初はこのようなのがかわいいのだ. まだ世間ずれしていない人で、大切に育てられているのが」と、大目に見られる一方で、合点がゆかず、どことなく気の毒な感じに思われるご様子である。どのようなところにお心が惹かれるのだろうか、つい溜息をつかれて、夜もまだ深いうちにお出になった。<BR>⏎ |
| d1 | 151 | <P>⏎ | ||
| version06 | 152 | <A NAME="in16">[第六段 その後、訪問なく秋が過ぎる]</A><BR> | 131 | |
| c4 | 159-162 | と、急いでいるようなので、<BR>⏎ 「それでは、ご一緒に」<BR>⏎ と言って、お粥や、強飯を召し上がって、客人にも差し上げなさって、お車を連ねたが、一台に相乗りなさって、<BR>⏎ 「まだ、とても眠そうだ」<BR>⏎ | 138-141 | と,急いでいるようなので、<BR>⏎ 「それでは,ご一緒に」<BR>⏎ と言って,お粥や、強飯を召し上がって、客人にも差し上げなさって、お車を連ねたが、一台に相乗りなさって、<BR>⏎ 「まだ,とても眠そうだ」<BR>⏎ |
| c1 | 165 | と、お恨み申し上げなさる。<BR>⏎ | 144 | と,お恨み申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 167-170 | あちらには、せめて後朝の文だけでもと、お気の毒にお思い出しになって、夕方にお出しになった。雨が降り出して、面倒な上に、雨宿りしようとは、とてもなれなかったのであろうか。⏎ あちらでは、後朝の文の来る時刻も過ぎて、命婦も、「とてもお気の毒なご様子だ」と、情けなく思うのであった。ご本人は、お心の中で恥ずかしくお思いになって、今朝のお文が暮れてしまってから来たのも、かえって、非礼ともお気づきにならないのであった。<BR>⏎ 「夕霧が晴れる気配をまだ見ないうちに<BR>⏎ さらに気持ちを滅入らせる宵の雨まで降ることよ<BR>⏎ | 146-147 | あちらには、せめて後朝の文だけでもと、お気の毒にお思い出しになって、夕方にお出しになった。雨が降り出して、面倒な上に、雨宿りしようとは、とてもなれなかったのであろうか。あちらでは、後朝の文の来る時刻も過ぎて、命婦も、「とてもお気の毒なご様子だ」と、情けなく思うのであった。ご本人は、お心の中で恥ずかしくお思いになって、今朝のお文が暮れてしまってから来たのも、かえって、非礼ともお気づきにならないのであった。<BR>⏎ 「夕霧が晴れる気配をまだ見ないうちに<BR> さらに気持ちを滅入らせる宵の雨まで降ることよ<BR>⏎ |
| cd4:3 | 173-176 | 「やはり、お返事は差し上げあそばしませ」<BR>⏎ と、お勧めしあうが、ますますお思い乱れていらっしゃる時で、型通りにも返歌がおできになれないので、「夜が更けてしまいます」と言って、侍従が、いつものようにお教え申し上げる。<BR>⏎ 「雨雲の晴れない夜の月を待っている人を思いやってください<BR>⏎ わたしと同じ気持ちで眺めているのでないにしても」<BR>⏎ | 150-152 | 「やはり,お返事は差し上げあそばしませ」<BR>⏎ と,お勧めしあうが、ますますお思い乱れていらっしゃる時で、型通りにも返歌がおできになれないので、「夜が更けてしまいます」と言って、侍従が、いつものようにお教え申し上げる。<BR>⏎ 「雨雲の晴れない夜の月を待っている人を思いやってください<BR> わたしと同じ気持ちで眺めているのでないにしても」<BR>⏎ |
| c1 | 178 | どのように思っているだろうか、と想像するにつけても、気が落ち着かない。<BR>⏎ | 154 | どのように思っているだろうか,と想像するにつけても、気が落ち着かない。<BR>⏎ |
| d1 | 183 | <P>⏎ | ||
| version06 | 184 | <A NAME="in17">[第七段 冬の雪の激しく降る日に訪問]</A><BR> | 159 | |
| cd4:3 | 188-191 | などと、今にも泣き出しそうに思っている。「奥ゆかしく思っているところで止めておこうとしたのを、台無しにしてしまったのを、思いやりがないとこの人は思っているだろう」とまでお思いになる。ご本人が、何もおっしゃらないで、思い沈んでいらっしゃるだろう有様、ご想像なさるにつけても、お気の毒なので、<BR>⏎ 「忙しい時だよ、やむをえない」と、嘆息なさって、「人情というものを少しも理解してないような気性を、懲らしめようと思っているのだよ」<BR>⏎ と、にこりなさっているのが、若々しく美しそうなので、自分もつい微笑まれる気がして、⏎ 「困った、人に恨まれなさる、お年頃だ。相手の気持ちを察することが足りなくて、ご自分のお気持ち次第というのも、もっともだ」と思う。<BR>⏎ | 163-165 | などと,今にも泣き出しそうに思っている。「奥ゆかしく思っているところで止めておこうとしたのを、台無しにしてしまったのを、思いやりがないとこの人は思っているだろう」とまでお思いになる。ご本人が、何もおっしゃらないで、思い沈んでいらっしゃるだろう有様、ご想像なさるにつけても、お気の毒なので、<BR>⏎ 「忙しい時だよ。やむをえない」と、嘆息なさって、「人情というものを少しも理解してないような気性を、懲らしめようと思っているのだよ」<BR>⏎ と,にこりなさっているのが、若々しく美しそうなので、自分もつい微笑まれる気がして、「困った、人に恨まれなさるお年頃だ。相手の気持ちを察することが足りなくて、ご自分のお気持ち次第というのも、もっともだ」と思う。<BR>⏎ |
| cd6:5 | 193-198 | あの紫のゆかり、手に入れなさってからは、そのかわいがりを一心になさって、六条辺りにさえ、一段と遠のきなさるらしいので、ましてや荒れた邸は、気の毒と思う気持ちは絶えずありながらも、億劫になるのはしかたのないことであったと、大げさな恥ずかしがりやの正体を見てやろうというお気持ちも、特別なくて過ぎて行くのを、又一方では、思い返して、「よく見れば良いところも現れて来はしまいか。手だ触った感触でははっきりしないので、妙に、腑に落ちない点があるのだろうか。見てみたいものだ」とお思いになるが、あからさまに見るのも気が引ける。⏎ 気を許している宵時に、静かにお入りになって、格子の間から御覧になったのであった。<BR>⏎ けれども、ご本人の姿はお見えになるはずもない。几帳など、ひどく破れてはいたが、昔ながらに置き場所を変えず、動かしたりなど乱れてないので、よく見えなくて、女房たち四、五人座っている。お膳、青磁らしい食器は舶来物だが、みっともなく古ぼけて、お食事もこれといった料理もなく貧弱なのを、退がって来て女房たちが食べている。<BR>⏎ 隅の間の方に、とても寒そうな女房が、白い着物で譬えようもなく煤けた上に、汚らしい褶を纏っている腰つき、いかにも不体裁である。それでも、櫛を前下がりに挿している額つきは、内教坊、内侍所辺りに、このような連中がいたことよと、おかしい。夢にも、宮家でお側にお仕えしているとはご存知なかった。<BR>⏎ 「ああ、何とも寒い年ですね。長生きすると、このような辛い目にも遭うのですね」<BR>⏎ と、言って泣く者もいる。<BR>⏎ | 167-171 | あの紫のゆかり、手に入れなさってからは、そのかわいがりを一心になさって、六条辺りにさえ、一段と遠のきなさるらしいので、ましてや荒れた邸は、気の毒と思う気持ちは絶えずありながらも、億劫になるのはしかたのないことであったと、大げさな恥ずかしがりやの正体を見てやろうというお気持ちも、特別なくて過ぎて行くのを、又一方では、思い返して、「よく見れば良いところも現れて来はしまいか。手だ触った感触でははっきりしないので、妙に、腑に落ちない点があるのだろうか。見てみたいものだ」とお思いになるが、あからさまに見るのも気が引ける。気を許している宵時に、静かにお入りになって、格子の間から御覧になったのであった。<BR>⏎ けれども、ご本人の姿はお見えになるはずもない。几帳など、ひどく破れてはいたが、昔ながらに置き場所を変えず、動かしたりなど乱れてないので、よく見えなくて、女房たち四,五人座っている。お膳、青磁らしい食器は舶来物だが、みっともなく古ぼけて、お食事もこれといった料理もなく貧弱なのを、退がって来て女房たちが食べている。<BR>⏎ 隅の間の方に、とても寒そうな女房が、白い着物で譬えようもなく煤けた上に、汚らしい褶を纏っている腰つき、いかにも不体裁である。それでも,櫛を前下がりに挿している額つきは、内教坊、内侍所辺りに、このような連中がいたことよと、おかしい。夢にも、宮家でお側にお仕えしているとはご存知なかった。<BR>⏎ 「ああ,何とも寒い年ですね。長生きすると、このような辛い目にも遭うのですね」<BR>⏎ と,言って泣く者もいる。<BR>⏎ |
| c1 | 200 | と言って、飛び上がりそうにぶるぶる震えている者もいる。<BR>⏎ | 173 | と言って,飛び上がりそうにぶるぶる震えている者もいる。<BR>⏎ |
| c1 | 202 | 「それ、それ」などと言って燈火の向きを変え、格子を外してお入れ申し上げる。<BR>⏎ | 175 | 「それ,それ」などと言って 燈火の向きを変え、格子を外してお入れ申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 204 | ますます、辛いと言っていた雪が、空を閉ざして激しく降って来た。空模様は険しく、風が吹き荒れて、大殿油が消えてしまったのを点し直す人もいない。あの、魔物に襲われた時を自然とお思い出しになられて、荒れた様子は劣らないようだが、邸の狭い感じや、人気が少しあるなどで安心していたが、ぞっとするように怖く、寝つかれそうにない夜の有様である。<BR>⏎ | 177 | ますます,辛いと言っていた雪が、空を閉ざして激しく降って来た。空模様は険しく、風が吹き荒れて、大殿油が消えてしまったのを 点し直す人もいない。あの,魔物に襲われた時を自然とお思い出しになられて、荒れた様子は劣らないようだが、邸の狭い感じや、人気が少しあるなどで安心していたが、ぞっとするように怖く,寝つかれそうにない夜の有様である。<BR>⏎ |
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| version06 | 207 | <A NAME="in18">[第八段 翌朝、姫君の醜貌を見る]</A><BR> | 179 | |
| c1 | 210 | と、お恨み申し上げなさる。まだほの暗いが、雪の光にますます美しく若々しくお見えになるのを、年老いた女房どもは、喜色満面に拝し上げる。<BR>⏎ | 182 | と,お恨み申し上げなさる。まだほの暗いが、雪の光にますます美しく若々しくお見えになるのを、年老いた女房どもは,喜色満面に拝し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 213-214 | 見ないようにして、外の方を御覧になっていらっしゃるが、横目は尋常でない。「どんなであろうか、馴れ親しんで見たときに、少しでも良いところを発見できれば嬉しかろうが」と、お思いになるのも、身勝手なお考えというものであるよ。<BR>⏎ まず第一に、座高が高くて、胴長にお見えなので、「やはりそうであったか」と、失望した。引き続いて、ああみっともないと見えるのは、鼻なのであった。ふと目がとまる。普賢菩薩の乗物と思われる。あきれて高く長くて、先の方がすこし垂れ下がって色づいていること、特に異様である。顔色は、雪も恥じるほど白くまっ青で、額の具合がとても広いうえに、それでも下ぶくれの容貌は、おおよそ驚く程の面長なのであろう。痩せ細っていらっしゃること、気の毒なくらい骨ばって、肩の骨など痛々しそうに着物の上から透けて見える。「どうしてすっかり見てしまったのだろう」と思う一方で、異様な恰好をしているので、そうはいっても、ついつい目が行っておしまいになる。<BR>⏎ | 185-186 | 見ないようにして、外の方を御覧になっていらっしゃるが、横目は尋常でない。「どんなであろうか、馴れ親しんで見たときに、少しでも良いところを発見できれば嬉しかろうが」と,お思いになるのも、身勝手なお考えというものであるよ。<BR>⏎ まず第一に,座高が高くて、胴長にお見えなので、「やはりそうであったか」と、失望した。引き続いて、ああみっともないと見えるのは、鼻なのであった。ふと目がとまる。普賢菩薩の乗物と思われる。あきれて高く長くて、先の方がすこし垂れ下がって色づいていること、特に異様である。顔色は,雪も恥じるほど白くまっ青で、額の具合がとても広いうえに、それでも下ぶくれの容貌は、おおよそ驚く程の面長なのであろう。痩せ細っていらっしゃること、気の毒なくらい骨ばって、肩の骨など 痛々しそうに着物の上から透けて見える。「どうしてすっかり見てしまったのだろう」と思う一方で、異様な恰好をしているので、そうはいっても、ついつい目が行っておしまいになる。<BR>⏎ |
| c1 | 216 | 聴し色のひどく古びて色褪せた一襲に、すっかり黒ずんだ袿を重ねて、上着には黒貂の皮衣、とてもつやつやとして香を焚きしめたのを着ていらっしゃる。昔風の由緒ある御装束であるが、やはり若い女性のお召し物としては、似つかわしくなく仰々しいことが、まことに目立つ。しかし、なるほど、この皮衣がなくては、さぞ寒いことだろう、と見えるお顔色なのを、お気の毒とご覧になる。<BR>⏎ | 188 | 聴し色のひどく古びて色褪せた一襲に、すっかり黒ずんだ袿を重ねて、上着には黒貂の皮衣、とてもつやつやとして香を焚きしめたのを着ていらっしゃる。昔風の由緒ある御装束であるが、やはり若い女性のお召し物としては、似つかわしくなく仰々しいことが、まことに目立つ。しかし,なるほど,この皮衣がなくては、さぞ寒いことだろう,と見えるお顔色なのを、お気の毒とご覧になる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 219-220 | 「朝日がさしている軒のつららは解けましたのに<BR>⏎ どうして氷は解けないでいるのでしょう」<BR>⏎ | 191 | 「朝日がさしている軒のつららは解けましたのに<BR> どうして氷は解けないでいるのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 222 | お車を寄せてある中門が、とてもひどく傾いていて、夜目にこそ、それとはっきり分かっていながら何かと目立たないことが多かったが、とてもお気の毒に寂しく荒廃しているなかで、松の雪だけが暖かそうに降り積もっている、山里のような感じがして、物哀れに思われるが、「あの人たちが言っていた荒れた宿とは、このような所だったのだろう。なるほど、気の毒でかわいらしい女性をここに囲っておいて、気がかりで恋しいと思いたいものだ。大それた恋は、そのことで気が紛れるだろう」と、「理想的な荒れた宿に不似合いなご器量は、取柄がない」と思う一方で、「自分以外の人は、なおさら我慢できようか。わたしがこのように通うようになったのは、故親王が心配に思って結び付けた霊の導きによるようである」とお思いになる。<BR>⏎ | 193 | お車を寄せてある中門が、とてもひどく傾いていて、夜目にこそ、それとはっきり分かっていながら何かと目立たないことが多かったが、とてもお気の毒に寂しく荒廃しているなかで、松の雪だけが暖かそうに降り積もっている、山里のような感じがして、物哀れに思われるが、「あの人たちが言っていた荒れた宿とは、このような所だったのだろう。なるほど,気の毒でかわいらしい女性をここに囲っておいて、気がかりで恋しいと思いたいものだ。大それた恋は、そのことで気が紛れるだろう」と、「理想的な荒れた宿に不似合いなご器量は、取柄がない」と思う一方で、「自分以外の人は、なおさら我慢できようか。わたしがこのように通うようになったのは、故親王が心配に思って結び付けた霊の導きによるようである」とお思いになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 224-226 | お車が出るはずの門は、まだ開けてなかったので、鍵の番人を探し出すしたところ、老人でとてもひどく年とった者が出て来た。その娘だろうか、孫であろうか、どちらともつかない大きさの女が、着物は雪に映えて黒くくすみ、寒がっている様子、たいそうで、奇妙な物に火をわずかに入れて、袖で覆うようにして持っていた。老人が、中門を開けられないので、近寄って手伝うのが、いかにも不体裁である。お供の人が、近寄って開けた。<BR>⏎ 「老人の白髪頭に積もった雪を見ると<BR>⏎ その人以上に、今朝は涙で袖を濡らすことだ<BR>⏎ | 195-196 | お車が出るはずの門は、まだ開けてなかったので、鍵の番人を探し出すしたところ、老人でとてもひどく年とった者が出て来た。その娘だろうか、孫であろうか、どちらともつかない大きさの女が、着物は雪に映えて黒くくすみ、寒がっている様子、たいそうで、奇妙な物に火をわずかに入れて,袖で覆うようにして持っていた。老人が、中門を開けられないので、近寄って手伝うのが、いかにも不体裁である。お供の人が、近寄って開けた。<BR>⏎ 「老人の白髪頭に積もった雪を見ると<BR> その人以上に、今朝は涙で袖を濡らすことだ<BR>⏎ |
| c1 | 228 | と口ずさみなさっても、鼻の色に現れて、とても寒いと見えたおん面影が、ふと思い出されて、微笑まれなさる。「頭中将に、これを見せた時には、どのような譬えを言うだろう。いつも探りに来ているので、やがて見つけられるだろう」と、しかたなくお思いになる。<BR>⏎ | 198 | と口ずさみなさっても、鼻の色に現れて、とても寒いと見えたおん面影が、ふと思い出されて、微笑まれなさる。「頭中将に、これを見せた時には、どのような譬えを言うだろう. いつも探りに来ているので、やがて見つけられるだろう」と、しかたなくお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 232 | <P>⏎ | ||
| version06 | 233 | <A NAME="in19">[第九段 歳末に姫君から和歌と衣箱が届けられる]</A><BR> | 202 | |
| c1 | 236 | と、微笑みながら全部を申し上げないのを、<BR>⏎ | 205 | と,微笑みながら全部を申し上げないのを、<BR>⏎ |
| c2 | 238-239 | 「どういたしまして。自分自身の困った事ならば、恐れ多くとも、まっ先に。これは、とても申し上げにくくて」<BR>⏎ と、ひどく口ごもっているので、<BR>⏎ | 207-208 | 「どういたしまして。自分自身の困った事ならば、恐れ多くとも、まっ先に。これは,とても申し上げにくくて」<BR>⏎ と,ひどく口ごもっているので、<BR>⏎ |
| c1 | 243 | と言って、お取りになるにつけても、どきりとする。<BR>⏎ | 212 | と言って,お取りになるにつけても、どきりとする。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 245-246 | 「あなたの冷たい心がつらいので<BR>⏎ わたしの袂は涙でこんなにただもう濡れております」<BR>⏎ | 214 | 「あなたの冷たい心がつらいので<BR> わたしの袂は涙でこんなにただもう濡れております」<BR>⏎ |
| c1 | 248 | 「これを、どうして、見苦しいと存ぜずにいられましょう。けれども、元日のご衣装にと言って、わざわざございましたようなを、無愛想にはお返しできません。勝手にしまい込んで置きますのも、姫君のお気持ちに背きましょうから、御覧に入れた上で」と申し上げると、<BR>⏎ | 216 | 「これを,どうして、見苦しいと存ぜずにいられましょう。けれども,元日のご衣装にと言って、わざわざございましたようなを、無愛想にはお返しできません。勝手にしまい込んで置きますのも、姫君のお気持ちに背きましょうから、御覧に入れた上で」と申し上げると、<BR>⏎ |
| c1 | 250 | とおっしゃって、他には何ともおっしゃれない。「それにしても、何とまあ、あきれた詠みぶりであることか。これがご自身の精一杯のようだ。侍従が直すべきところだろう。他に、手を取って教える先生はいないのだろう」と、何とも言いようなくお思いになる。精魂こめて詠み出された苦労を想像なさると、<BR>⏎ | 218 | とおっしゃって、他には何ともおっしゃれない。「それにしても、何とまあ,あきれた詠みぶりであることか。これがご自身の精一杯のようだ。侍従が直すべきところだろう。他に,手を取って教える先生はいないのだろう」と、何とも言いようなくお思いになる。精魂こめて詠み出された苦労を想像なさると、<BR>⏎ |
| c1 | 252 | と、苦笑しながら御覧になるのを、命婦、赤面して拝する。<BR>⏎ | 220 | と,苦笑しながら御覧になるのを、命婦、赤面して拝する。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 254-255 | 「格別親しみを感じる花でもないのに<BR>⏎ どうしてこの末摘花を手にすることになったのだろう<BR>⏎ | 222 | 「格別親しみを感じる花でもないのに<BR> どうしてこの末摘花を手にすることになったのだろう<BR>⏎ |
| cd3:2 | 257-259 | などと、お書き汚しなさる。紅花の非難を、やはりわけがあるのだろうと、思い合わされる折々の、月の光で見た容貌などを、気の毒に思う一方で、またおかしくも思った。<BR>⏎ 「紅色に一度染めた衣は色が薄くても<BR>⏎ どうぞ悪い評判をお立てなさることさえなければ<BR>⏎ | 224-225 | などと,お書き汚しなさる。紅花の非難を、やはりわけがあるのだろうと、思い合わされる折々の、月の光で見た容貌などを、気の毒に思う一方で、またおかしくも思った。<BR>⏎ 「紅色に一度染めた衣は色が薄くても<BR> どうぞ悪い評判をお立てなさることさえなければ<BR>⏎ |
| c1 | 261 | と、とてももの馴れたように独り言をいうのを、上手ではないが、「せめてこの程度に通り一遍にでもできたならば」と、返す返すも残念である。身分が高い方だけに気の毒なので、名前に傷がつくのは何といってもおいたわしい。女房たちが参ったので、<BR>⏎ | 227 | と,とてももの馴れたように独り言をいうのを、上手ではないが、「せめてこの程度に通り一遍にでもできたならば」と、返す返すも残念である。身分が高い方だけに気の毒なので、名前に傷がつくのは何といってもおいたわしい。女房たちが参ったので、<BR>⏎ |
| c1 | 263 | と、つい呻きなさる。「どうして、御覧に入れてしまったのだろうか。自分までが思慮のないように」と、とても恥ずかしくて、静かに下がった。<BR>⏎ | 229 | と,つい呻きなさる。「どうして,御覧に入れてしまったのだろうか。自分までが思慮のないように」と、とても恥ずかしくて、静かに下がった。<BR>⏎ |
| c1 | 266 | と言って、お投げ入れになった。女房たち、何事だろうかと、見たがる。<BR>⏎ | 232 | と言って,お投げ入れになった。女房たち、何事だろうかと、見たがる。<BR>⏎ |
| c2 | 268-269 | と、口ずさんでお出になったのを、命婦は「とてもおかしい」と思う。事情を知らない女房たちは、<BR>⏎ 「どうして、独り笑いなさって」と、口々に非難しあっている。<BR>⏎ | 234-235 | と,口ずさんでお出になったのを、命婦は「とてもおかしい」と思う。事情を知らない女房たちは、<BR>⏎ 「どうして,独り笑いなさって」と、口々に非難しあっている。<BR>⏎ |
| c1 | 273 | などと、合点がゆかず、言い合っている。<BR>⏎ | 239 | などと,合点がゆかず,言い合っている。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 275-276 | 「逢わない夜が多いのに間を隔てる衣とは<BR>⏎ ますます重ねて見なさいということですか」<BR>⏎ | 241 | 「逢わない夜が多いのに間を隔てる衣とは<BR> ますます重ねて見なさいということですか」<BR>⏎ |
| c1 | 278 | 大晦日の日、夕方に、あの御衣装箱に「御料」と書いて、人が献上した御衣装一具、葡萄染めの織物の御衣装、他に山吹襲か何襲か、色さまざまに見えて、命婦が差し上げた。「先日差し上げた衣装の色合いを良くないと思われたのだろうか」と思い当たるが、「あれだって、紅色の重々しい色だわ。よもや見劣りはしますまい」と、老女房たちは判断する。<BR>⏎ | 243 | 大晦日の日、夕方に、あの御衣装箱に 「御料」と書いて、人が献上した御衣装一具、葡萄染めの織物の御衣装、他に山吹襲か何襲か、色さまざまに見えて、命婦が差し上げた。「先日差し上げた衣装の色合いを良くないと思われたのだろうか」と思い当たるが、「あれだって、紅色の重々しい色だわ。よもや見劣りはしますまい」と、老女房たちは判断する。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 281-282 | などと、口々に言い合っている。姫君も、並大抵のわざでなく詠み出したもとなので、手控えに書き付けて置かれたのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 246 | などと,口々に言い合っている。姫君も、並大抵のわざでなく詠み出したもとなので、手控えに書き付けて置かれたのであった。<BR>⏎ |
| version06 | 283 | <A NAME="in110">[第十段 正月七日夜常陸宮邸に泊まる]</A><BR> | 247 | |
| c1 | 284 | 正月の数日も過ぎて、今年、男踏歌のある予定なので、例によって、家々で音楽の練習に大騷ぎなさっているので、何かと騒々しいが、寂しい邸が気の毒にお思いやらずにはいられっしゃれないので、七日の日の節会が終わって、夜になって、御前から退出なさったが、御宿直所にそのままお泊まりになったように見せて、夜の更けるのを待って、お出かけになった。<BR>⏎ | 248 | 正月の数日も過ぎて、今年、男踏歌のある予定なので、例によって、家々で音楽の練習に大騷ぎなさっているので、何かと騒々しいが、寂しい邸が気の毒にお思いやらずにはいられっしゃれないので、七日の日の節会が終わって、夜になって、御前から退出なさったが、御宿直所にそのままお泊まりになったように見せて、夜の更けるのを待って,お出かけになった。<BR>⏎ |
| c1 | 290 | 「せめて今年は、お声を少しはお聞かせ下さい。待たれる鴬はさしおいても、お気持ちの改まるのが、待ち遠しいのです」と、おっしゃると、<BR>⏎ | 254 | 「せめて今年は、お声を少しはお聞かせ下さい。待たれる鴬はさしおいても、お気持ちの改まるのが,待ち遠しいのです」と,おっしゃると、<BR>⏎ |
| c1 | 292 | と、ようやくのことで、震え声に言い出した。<BR>⏎ | 256 | と,ようやくのことで,震え声に言い出した。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 294-295 | と、口ずさんでお帰りになるのを、見送って物に添い臥していらっしゃる。口を覆っている横顔から、やはり、あの「末摘花」が、とても鮮やかに突き出している。「みっともない代物だ」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 258 | と,口ずさんでお帰りになるのを、見送って物に添い臥していらっしゃる。口を覆っている横顔から、やはり,あの「末摘花」が、とても鮮やかに突き出している。「みっともない代物だ」とお思いになる。<BR>⏎ |
| version06 | 296 | <H4>第二章 若紫の物語</H4> | 259 | |
| version06 | 297 | <A NAME="in21">[第一段 紫の君と鼻を赤く塗って戯れる]</A><BR> | 260 | |
| c1 | 298 | 二条の院にお帰りになると、紫の君、とてもかわいらしい幼な娘で、「紅色でもこうも慕わしいものもあるものだ」と見える着物の上に、無紋の桜襲の細長、しなやかに着こなして、あどけない様子でいらっしゃる姿、たいそうかわいらしい。古風な祖母君のお躾のままで、お歯黒もまだであったのを、お化粧をさせなさったので、眉がくっきりとなっているのも、かわいらしく美しい。「自ら求めて、どうして、こうもうっとうしい事にかかずらっているのだろう。こんなにかわいい人とも一緒にいないで」と、お思いになりながら、例によって、一緒にお人形遊びをなさる。<BR>⏎ | 261 | 二条の院にお帰りになると、紫の君、とてもかわいらしい幼な娘で、「紅色でもこうも慕わしいものもあるものだ」と見える着物の上に、無紋の桜襲の細長、しなやかに着こなして、あどけない様子でいらっしゃる姿、たいそうかわいらしい。古風な祖母君のお躾のままで、お歯黒もまだであったのを、お化粧をさせなさったので、眉がくっきりとなっているのも、かわいらしく美しい。「自ら求めて,どうして,こうもうっとうしい事にかかずらっているのだろう。こんなにかわいい人とも一緒にいないで」と、お思いになりながら、例によって、一緒にお人形遊びをなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 300-301 | 「わたしが、もしこのように不具になってしまったら、どうですか」<BR>⏎ と、おっしゃると、<BR>⏎ | 263 | 「わたしが,もしこのように不具になってしまったら、どうですか」と,おっしゃると、<BR>⏎ |
| c1 | 303 | と言って、そのまま染み付かないかと、心配していらっしゃる。うそ拭いをして、<BR>⏎ | 265 | と言って,そのまま染み付かないかと、心配していらっしゃる。うそ拭いをして、<BR>⏎ |
| c1 | 305 | と、とても真剣におっしゃるのを、本気で気の毒にお思いになって、近寄ってお拭いになると、<BR>⏎ | 267 | と,とても真剣におっしゃるのを、本気で気の毒にお思いになって、近寄ってお拭いになると、<BR>⏎ |
| c1 | 307 | と、ふざけていらっしゃる様子、とても睦まじい兄妹とお見えである。<BR>⏎ | 269 | と,ふざけていらっしゃる様子、とても睦まじい兄妹とお見えである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 309-310 | 「紅の花はわけもなく嫌な感じがする<BR>⏎ 梅の立ち枝に咲いた花は慕わしく思われるが<BR>⏎ | 271 | 「紅の花はわけもなく嫌な感じがする<BR> 梅の立ち枝に咲いた花は慕わしく思われるが<BR>⏎ |
| c1 | 312 | と、不本意に溜息をお吐かれになる。<BR>⏎ | 273 | と,不本意に溜息をお吐かれになる。<BR>⏎ |
| d1 | 314 | <P>⏎ | ||
| d1 | 321 | ⏎ | ||
| i0 | 285 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version07 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-1)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
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| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| version07 | 48 | <H4>第一章 藤壷の物語 源氏、藤壷の御前で青海波を舞う</H4> | 43 | |
| version07 | 49 | <A NAME="in11">[第一段 御前の試楽]</A><BR> | 44 | |
| c2 | 52-53 | 入り方の日の光、鮮やかに差し込んでいる時に、楽の声が高まり、感興もたけなわの時に、同じ舞の足拍子、表情は、世にまたとない様子である。朗唱などをなさっている声は、「これが、仏の御迦陵頻伽のお声だろうか」と聞こえる。美しくしみじみと心打つので、帝は、涙をお拭いになさり、上達部、親王たちも、皆落涙なさった。朗唱が終わって、袖をさっとお直しになると、待ち構えていた楽の音が賑やかに奏され、お顔の色が一段と映えて、常よりも光り輝いてお見えになる。<BR>⏎ 春宮の女御は、このように立派に見えるのにつけても、おもしろからずお思いになって、「神などが、空から魅入りそうな、容貌だこと。嫌な、不吉だこと」とおっしゃるのを、若い女房などは、厭味なと、聞きとがめるのであった。藤壷は、「大それた心のわだかまりがなかったならば、いっそう素晴らしく見えたろうに」とお思いになると、夢のような心地がなさるのであった。<BR>⏎ | 47-48 | 入り方の日の光、鮮やかに差し込んでいる時に、楽の声が高まり、感興もたけなわの時に、同じ舞の足拍子、表情は、世にまたとない様子である。朗唱などをなさっている声は、「これが,仏の御迦陵頻伽のお声だろうか」と聞こえる。美しくしみじみと心打つので、帝は,涙をお拭いになさり、上達部,親王たちも、皆落涙なさった。朗唱が終わって、袖をさっとお直しになると、待ち構えていた楽の音が賑やかに奏され、お顔の色が一段と映えて、常よりも光り輝いてお見えになる。<BR>⏎ 春宮の女御は、このように立派に見えるのにつけても、おもしろからずお思いになって、「神などが、空から魅入りそうな容貌だこと。嫌な,不吉だこと」とおっしゃるのを、若い女房などは、厭味なと,聞きとがめるのであった。藤壷は、「大それた心のわだかまりがなかったならば、いっそう素晴らしく見えたろうに」とお思いになると、夢のような心地がなさるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 56 | と、お尋ね申し上げあそばすと、心ならずも、お答え申し上げにくくて、<BR>⏎ | 51 | と,お尋ね申し上げあそばすと、心ならずも、お答え申し上げにくくて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 58-59 | 「相手役も、悪くはなく見えた。舞の様子、手捌きは、良家の子弟は格別であるな。世間で名声を博している舞の男どもも、確かに大したものであるが、大様で優美な趣きを、表すことができない。試楽の日に、こんなに十分に催してしまったので、紅葉の木陰は、寂しかろうかと思うが、お見せ申したいとの気持ちで、念入りに催させた」などと、お話し申し上げあそばす。<BR>⏎ <P>⏎ | 53 | 「相手役も、悪くはなく見えた。舞の様子、手捌きは、良家の子弟は格別であるな。世間で名声を博している舞の男どもも、確かに大したものであるが、大様で優美な趣きを、表すことができない。試楽の日に、こんなに十分に催してしまったので、紅葉の木陰は寂しかろうかと思うが、お見せ申したいとの気持ちで、念入りに催させた」などと,お話し申し上げあそばす。<BR>⏎ |
| version07 | 60 | <A NAME="in12">[第二段 試楽の翌日、源氏藤壷と和歌遠贈答]</A><BR> | 54 | |
| cd2:1 | 63-64 | つらい気持ちのまま立派に舞うことなどはとてもできそうもないわが身が<BR>⏎ 袖を振って舞った気持ちはお分りいただけたでしょうか<BR>⏎ | 57 | つらい気持ちのまま立派に舞うことなどはとてもできそうもないわが身が<BR> 袖を振って舞った気持ちはお分りいただけたでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 67-68 | 「唐の人が袖振って舞ったことは遠い昔のことですが<BR>⏎ その立ち居舞い姿はしみじみと拝見いたしました<BR>⏎ | 60 | 「唐の人が袖振って舞ったことは遠い昔のことですが<BR> その立ち居舞い姿はしみじみと拝見いたしました<BR>⏎ |
| d1 | 71 | <P>⏎ | ||
| version07 | 72 | <A NAME="in13">[第三段 十月十余日、朱雀院へ行幸]</A><BR> | 63 | |
| d1 | 80 | <P>⏎ | ||
| version07 | 81 | <A NAME="in14">[第四段 葵の上、源氏の態度を不快に思う]</A><BR> | 71 | |
| c1 | 82 | 宮は、そのころご退出なさったので、例によって、お会いできる機会がないかと窺い回るのに夢中であったので、大殿では穏やかではいらっしゃれない。その上、あの若草をお迎えになったのを、「二条院では、女の人をお迎えになったそうだ」と、誰かが申し上げたので、まことに気に食わないとお思いになっていた。<BR>⏎ | 72 | 宮は、そのころご退出なさったので、例によって、お会いできる機会がないかと窺い回るのに夢中であったので、大殿では穏やかではいらっしゃれない。その上,あの若草をお迎えになったのを、「二条院では女の人をお迎えになったそうだ」と,誰かが申し上げたので、まことに気に食わないとお思いになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 84 | <P>⏎ | ||
| version07 | 85 | <H4>第二章 紫の物語 源氏、紫の君に心慰める</H4> | 74 | |
| version07 | 86 | <A NAME="in21">[第一段 紫の君、源氏を慕う]</A><BR> | 75 | |
| c1 | 87 | 幼い人は馴染まれるにつれて、とてもよい性質、容貌なので、無心に懐いてお側からお放し申されない。「暫くの間は、邸内の者にも誰それと知らせまい」とお思いになって、今も離れた対の屋に、お部屋の設備をまたとなく立派にして、ご自分も明け暮れお入りになって、ありとあらゆるお稽古事をお教え申し上げなさる。お手本を書いてお習字などさせては、まるで他で育ったご自分の娘をお迎えになったようなお気持ちでいらっしゃった。<BR>⏎ | 76 | 幼い人は 馴染まれるにつれて、とてもよい性質、容貌なので、無心に懐いてお側からお放し申されない。「暫くの間は,邸内の者にも誰それと知らせまい」とお思いになって、今も離れた対の屋に、お部屋の設備をまたとなく立派にして、ご自分も明け暮れお入りになって、ありとあらゆるお稽古事をお教え申し上げなさる. お手本を書いてお習字などさせては、まるで他で育ったご自分の娘をお迎えになったようなお気持ちでいらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 90-91 | 二、三日宮中に伺候し、大殿にもいらっしゃる時は、とてもひどく塞ぎ込んだりなさるので、気の毒で、母親のいない子を持ったような心地がして、外出も落ち着いてできなくお思いになる。僧都は、これこれと、お聞きになって、不思議な気がする一方で、嬉しいことだとお思いであった。あの尼君の法事などをなさる時にも、立派なお供物をお届けなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 79 | 二,三日宮中に伺候し、大殿にもいらっしゃる時は、とてもひどく塞ぎ込んだりなさるので、気の毒で、母親のいない子を持ったような心地がして、外出も落ち着いてできなくお思いになる。僧都は、これこれと、お聞きになって、不思議な気がする一方で、嬉しいことだとお思いであった。あの尼君の法事などをなさる時にも、立派なお供物をお届けなさった。<BR>⏎ |
| version07 | 92 | <A NAME="in22">[第二段 藤壷の三条宮邸に見舞う]</A><BR> | 80 | |
| c1 | 93 | 藤壷が退出していらっしゃる三条の宮に、ご様子も知りたくて、参上なさると、命婦、中納言の君、中務などといった女房たちが応対に出た。「他人行儀なお扱いであるな」とおもしろくなく思うが、落ち着けて、世間一般のお話を申し上げなさっているところに、兵部卿宮が参上なさった。<BR>⏎ | 81 | 藤壷が退出していらっしゃる三条の宮に、ご様子も知りたくて、参上なさると、命婦、中納言の君、中務などといった女房たちが応対に出た。「他人行儀なお扱いであるな」と、おもしろくなく思うが、落ち着けて、世間一般のお話を申し上げなさっているところに、兵部卿宮が参上なさった。<BR>⏎ |
| c1 | 95 | 日が暮れたので、御簾の内側にお入りになるのを、羨ましく、昔はお上の御待遇で、とても近くで直接にお話申し上げになさったのに、すっかり疎んじていらっしゃるのも、辛く思われるとは、理不尽なことであるよ。<BR>⏎ | 83 | 日が暮れたので、御簾の内側にお入りになるのを、羨ましく、昔は お上の御待遇で、とても近くで 直接にお話申し上げになさったのに、すっかり疎んじていらっしゃるのも、辛く思われるとは、理不尽なことであるよ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 97-98 | などと、堅苦しい挨拶をしてお出になった。命婦も、手引き申し上げる手段もなく、宮のご様子も以前よりは、いっそう辛いことにお思いになっていて、お打ち解けにならないご様子も、恥ずかしくおいたわしくもあるので、何の効もなく、月日が過ぎて行く。「何とはかない御縁か」と、お悩みになること、お互いに嘆ききれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 85 | などと,堅苦しい挨拶をしてお出になった。命婦も、手引き申し上げる手段もなく、宮のご様子も 以前よりは、いっそう辛いことにお思いになっていて、お打ち解けにならないご様子も、恥ずかしくおいたわしくもあるので、何の効もなく、月日が過ぎて行く。「何とはかない御縁か」と,お悩みになること、お互いに嘆ききれない。<BR>⏎ |
| version07 | 99 | <A NAME="in23">[第三段 故祖母君の服喪明ける]</A><BR> | 86 | |
| c1 | 100 | 少納言は、「思いがけず嬉しい運が回って来たこと。これも、故尼上が、姫君様をご心配なさって、御勤行にもお祈り申し上げなさった仏の御利益であろうか」と思われる。「大殿は、本妻として歴としていらっしゃる。あちらこちら大勢お通いになっているのを、本当に成人されてからは、厄介なことも起きようか」と案じられるのだった。しかし、このように特別になさっていらっしゃるご寵愛のうちは、とても心強い限りである。<BR>⏎ | 87 | 少納言は、「思いがけず嬉しい運が回って来たこと。これも,故尼上が、姫君様をご心配なさって、御勤行にもお祈り申し上げなさった仏の御利益であろうか」と思われる。「大殿は、本妻として歴としていらっしゃる。あちらこちら大勢お通いになっているのを、本当に成人されてからは、厄介なことも起きようか」と案じられるのだった。しかし,このように特別になさっていらっしゃるご寵愛のうちは、とても心強い限りである。<BR>⏎ |
| d1 | 102 | <P>⏎ | ||
| version07 | 103 | <A NAME="in24">[第四段 新年を迎える]</A><BR> | 89 | |
| c3 | 108-110 | と言って、とても大事件だとお思いである。<BR>⏎ 「なるほど、とてもそそっかしい人のやったことらしいですね。直ぐに直させましょう。今日は涙を慎んで、お泣きなさるな」<BR>⏎ と言って、お出かけになる様子、辺り狭しのご立派さを、女房たちは端に出てお見送り申し上げるので、姫君も立って行ってお見送り申し上げなさって、お人形の中の源氏の君を着飾らせて、内裏に参内させる真似などなさる。<BR>⏎ | 94-96 | と言って,とても大事件だとお思いである。<BR>⏎ 「なるほど,とてもそそっかしい人のやったことらしいですね。直ぐに直させましょう。今日は涙を慎んで、お泣きなさるな」<BR>⏎ と言って,お出かけになる様子、辺り狭しのご立派さを、女房たちは端に出てお見送り申し上げるので、姫君も立って行ってお見送り申し上げなさって、お人形の中の源氏の君を着飾らせて、内裏に参内させる真似などなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 112-113 | などと少納言も、お諌め申し上げる。お人形遊びにばかり夢中になっていらっしゃるので、これではいけないと思わせ申そうと思って言うと、心の中で、「わたしは、それでは、夫君を持ったのだわ。この女房たちの夫君というのは、何と醜い人たちなのであろう。わたしは、こんなにも魅力的で若い男性を持ったのだわ」と、今になってお分かりになるのであった。何と言っても、お年を一つ取った証拠なのであろう。このように幼稚なご様子が、何かにつけてはっきり分かるので、殿の内の女房たちも変だと思ったが、とてもこのように夫婦らしくないお添い寝相手だろうとは思わなかったのである。<BR>⏎ <P>⏎ | 98 | などと少納言も、お諌め申し上げる。お人形遊びにばかり夢中になっていらっしゃるので、これではいけないと思わせ申そうと思って言うと、心の中で、「わたしは、それでは,夫君を持ったのだわ。この女房たちの夫君というのは、何と醜い人たちなのであろう。わたしは,こんなにも魅力的で若い男性を持ったのだわ」と、今になってお分かりになるのであった。何と言っても、お年を一つ取った証拠なのであろう。このように幼稚なご様子が、何かにつけてはっきり分かるので、殿の内の女房たちも 変だと思ったが、とてもこのように夫婦らしくないお添い寝相手だろうとは思わなかったのである。<BR>⏎ |
| version07 | 114 | <H4>第三章 藤壷の物語(二) 二月に男皇子を出産</H4> | 99 | |
| version07 | 115 | <A NAME="in31">[第一段 左大臣邸に赴く]</A><BR> | 100 | |
| c1 | 116 | 宮中から大殿にご退出なさると、いつものように端然と威儀を正したご態度で、やさしいそぶりもなく窮屈なので、<BR>⏎ | 101 | 宮中から大殿にご退出なさると、いつものように端然と威儀を正したご態度で、やさしいそぶりもなく 窮屈なので、<BR>⏎ |
| c2 | 118-119 | などとお申し上げなさるが、「わざわざ女の人を置いて、かわいがっていらっしゃる」と、お聞きになってからは、「重要な夫人とお考えになってのことであろう」と、隔て心ばかりが自然と生じて、ますます疎ましく気づまりにお感じになられるのであろう。つとめて見知らないように振る舞って、冗談をおっしゃっるご様子には、強情もを張り通すこともできず、お返事などちょっと申し上げなさるところは、やはり他の女性とはとても違うのである。<BR>⏎ 四歳ほど年上でいらっしゃるので、姉様で、気後れがし、女盛りで非の打ちどころがなくお見えになる。「どこにこの人の足りないところがおありだろうか。自分のあまり良くない浮気心からこのようにお恨まれ申すのだ」と、お考えにならずにはいられない。同じ大臣と申し上げる中でも、御信望この上なくいらっしゃる方が、宮との間にお一人儲けて大切にお育てなさった気位の高さは、とても大変なもので、「少しでも疎略にするのは、失敬である」とお思い申し上げていらっしゃるのを、男君は、「どうしてそんなにまでも」と、お躾なさる、お二人の心の隔てがあるの生じさせたのであろう。<BR>⏎ | 103-104 | などとお申し上げなさるが、「わざわざ女の人を置いて、かわいがっていらっしゃる」と,お聞きになってからは、「重要な夫人とお考えになってのことであろう」と、隔て心ばかりが自然と生じて、ますます疎ましく気づまりにお感じになられるのであろう。つとめて見知らないように振る舞って、冗談をおっしゃっるご様子には、強情もを張り通すこともできず、お返事などちょっと申し上げなさるところは、やはり他の女性とはとても違うのである。<BR>⏎ 四歳ほど年上でいらっしゃるので、姉様で、気後れがし、女盛りで非の打ちどころがなくお見えになる。「どこにこの人の足りないところがおありだろうか。自分のあまり良くない浮気心から このようにお恨まれ申すのだ」と、お考えにならずにはいられない。同じ大臣と申し上げる中でも、御信望この上なくいらっしゃる方が、宮との間にお一人儲けて大切にお育てなさった気位の高さは、とても大変なもので、「少しでも疎略にするのは、失敬である」とお思い申し上げていらっしゃるのを、男君は、「どうしてそんなにまでも」と、お躾なさる、お二人の心の隔てがあるの生じさせたのであろう。<BR>⏎ |
| c1 | 121 | 「これは、内宴などということもございますそうですから、そのような折にでも」<BR>⏎ | 106 | 「これは,内宴などということもございますそうですから、そのような折にでも」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 124-125 | と言って、無理にお締め申し上げなさる。なるほど、万事にお世話して拝見なさると、生き甲斐が感じられ、「たまさかであっても、このような方をお出入りさせてお世話するのに、これ以上の喜びはあるまい」とお見えである。<BR>⏎ <P>⏎ | 109 | と言って,無理にお締め申し上げなさる。なるほど,万事にお世話して拝見なさると、生き甲斐が感じられ、「たまさかであっても、このような方をお出入りさせてお世話するのに、これ以上の喜びはあるまい」とお見えである。<BR>⏎ |
| version07 | 126 | <A NAME="in32">[第二段 二月十余日、藤壷に皇子誕生]</A><BR> | 110 | |
| c1 | 127 | 参賀のご挨拶といっても、多くの所にはお出かけにならず、内裏、春宮、一院だけ、その他では、藤壷の三条の宮にお伺いなさる。<BR>⏎ | 111 | 参賀のご挨拶といっても、多くの所にはお出かけにならず、内裏,春宮,一院だけ、その他では,藤壷の三条の宮にお伺いなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 130-131 | と、女房たちがお褒め申し上げているのを、宮、几帳の隙間からわずかにお姿を御覧になるにつけても、物思いなさることが多いのであった。<BR>⏎ 御出産の予定の、十二月も過ぎてしまったのが、気がかりで、今月はいくら何でもと、宮家の人々もお待ち申し上げ、主上におかれても、そのお心づもりでいるのに、何事もなく過ぎてしまった。「御物の怪のせいであろうか」と、世間の人々もお噂申し上げるのを、宮、とても身にこたえてつらく、「このお産のために、命を落とすことになってしまいそうだ」と、お嘆きになると、ご気分もとても苦しくてお悩みになる。<BR>⏎ | 114-115 | と,女房たちがお褒め申し上げているのを、宮、几帳の隙間から わずかにお姿を御覧になるにつけても、物思いなさることが多いのであった。<BR>⏎ 御出産の予定の、十二月も過ぎてしまったのが、気がかりで、今月はいくら何でもと、宮家の人々もお待ち申し上げ、主上におかれても、そのお心づもりでいるのに、何事もなく過ぎてしまった。「御物の怪のせいであろうか」と、世間の人々もお噂申し上げるのを、宮、とても身にこたえてつらく、「このお産のために、命を落とすことになってしまいそうだ」と,お嘆きになると、ご気分もとても苦しくてお悩みになる。<BR>⏎ |
| c2 | 133-134 | 「長生きを」とお思いなさるのは、つらいことだが、「弘徽殿などが、呪わしそうにおっしゃっている」と聞いたので、「死んだとお聞きになったならば、物笑いの種になろう」と、お気を強くお持ちになって、だんだん少しずつ気分が快方に向かっていかれたのであった。<BR>⏎ お上が、早く御子を御覧になりたいとおぼし召されること、この上ない。あの、密かなお気持ちとしても、ひどく気がかりで、人のいない時に参上なさって、<BR>⏎ | 117-118 | 「長生きを」とお思いなさるのは,つらいことだが、「弘徽殿などが、呪わしそうにおっしゃっている」と聞いたので、「死んだとお聞きになったならば、物笑いの種になろう」と,お気を強くお持ちになって、だんだん少しずつ気分が快方に向かっていかれたのであった。<BR>⏎ お上が、早く御子を御覧になりたいとおぼし召されること、この上ない。あの,密かなお気持ちとしても、ひどく気がかりで、人のいない時に参上なさって、<BR>⏎ |
| c3 | 138-140 | と言って、お見せ申し上げなさらないのも、ごもっともである。実のところ、とても驚くほど珍しいまでに生き写しでいらっしゃる顔形、紛うはずもない。宮が、良心の呵責にとても苦しく、「女房たちが拝見しても、不審に思われた月勘定の狂いを、どうして変だと思い当たらないだろうか。それほどでないつまらないことでさえも、欠点を探し出そうとする世の中で、どのような噂がしまいには世に漏れようか」と思い続けなさると、わが身だけがとても情けない。<BR>⏎ 命婦の君に、まれにお会いになって、切ない言葉を尽くしてお頼みなさるが、何の効果があるはずもない。若宮のお身の上を無性に御覧になりたくお訴え申し上げなさるので、<BR>⏎ 「どうして、こうまでもご無理を仰せあそばすのでしょう。そのうち、自然に御覧あそばされましょう」<BR>⏎ | 122-124 | と言って,お見せ申し上げなさらないのも、ごもっともである。実のところ,とても驚くほど 珍しいまでに生き写しでいらっしゃる顔形、紛うはずもない。宮が、良心の呵責にとても苦しく、「女房たちが拝見しても、不審に思われた月勘定の狂いを、どうして変だと思い当たらないだろうか。それほどでないつまらないことでさえも、欠点を探し出そうとする世の中で、どのような噂がしまいには世に漏れようか」と思い続けなさると、わが身だけがとても情けない。<BR>⏎ 命婦の君に、まれにお会いになって、切ない言葉を尽くしてお頼みなさるが、何の効果があるはずもない。若宮のお身の上を 無性に御覧になりたくお訴え申し上げなさるので、<BR>⏎ 「どうして,こうまでもご無理を仰せあそばすのでしょう。そのうち、自然に御覧あそばされましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 144-145 | 「どのように前世で約束を交わした縁で<BR>⏎ この世にこのような二人の仲に隔てがあるのだろうか<BR>⏎ | 128 | 「どのように前世で約束を交わした縁で<BR> この世にこのような二人の仲に隔てがあるのだろうか<BR>⏎ |
| cd3:1 | 149-151 | 「御覧になっている方も物思をされています<BR>⏎ 御覧にならないあなたはまたどんなにお嘆きのことでしょう<BR>⏎ これが世の人が言う親心の闇でしょうか<BR>⏎ | 132 | 「御覧になっている方も物思をされています.御覧にならないあなたはまたどんなにお嘆きのことでしょう<BR> これが世の人が言う親心の闇でしょうか<BR>⏎ |
| c1 | 153 | と、こっそりとお返事申し上げたのであった。<BR>⏎ | 134 | と,こっそりとお返事申し上げたのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 155 | <P>⏎ | ||
| version07 | 156 | <A NAME="in33">[第三段 藤壷、皇子を伴って四月に宮中に戻る]</A><BR> | 136 | |
| c1 | 157 | 四月に参内なさる。日数の割には大きく成長なさっていて、だんだん寝返りなどをお打ちになる。驚きあきれるくらい、間違いようもないお顔つきを、ご存知ないことなので、「他に類のない美しい人どうしというのは、なるほど似通っていらっしゃるものだ」と、お思いあそばすのであった。たいそう大切にお慈しみになること、この上もない。源氏の君を、限りなくかわいい人と愛していらっしゃりながら、世間の人々のがご賛成申し上げそうになかったことによって、坊にもお据え申し上げられずに終わったことを、どこまでも残念に、臣下としてもったいないご様子、容貌で、ご成人していらっしゃるのを御覧になるにつけ、おいたわしくおぼし召されるので、「このように高貴な人から、同様に光り輝いてお生まれになったので、疵のない玉だ」と、お思いあそばして大切になさるので、宮は何につけても、胸の痛みの消える間もなく、不安な思いをしていらっしゃる。<BR>⏎ | 137 | 四月に参内なさる。日数の割には大きく成長なさっていて、だんだん寝返りなどをお打ちになる。驚きあきれるくらい、間違いようもないお顔つきを、ご存知ないことなので、「他に類のない美しい人どうしというのは、なるほど似通っていらっしゃるものだ」と、お思いあそばすのであった。たいそう大切にお慈しみになること、この上もない。源氏の君を、限りなくかわいい人と愛していらっしゃりながら、世間の人々のがご賛成申し上げそうになかったことによって、坊にもお据え申し上げられずに終わったことを、どこまでも残念に、臣下としてもったいないご様子、容貌で、ご成人していらっしゃるのを御覧になるにつけ、おいたわしくおぼし召されるので、「このように高貴な人から、同様に光り輝いてお生まれになったので、疵のない玉だ」と,お思いあそばして大切になさるので、宮は何につけても、胸の痛みの消える間もなく、不安な思いをしていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c2 | 159-160 | 「御子たち、大勢いるが、そなただけを、このように小さい時から明け暮れ見てきた。それゆえ、思い出されるのだろうか。とてもよく似て見える。とても幼いうちは皆このように見えるのであろうか」<BR>⏎ と言って、たいそうかわいらしいとお思い申し上げあそばされている。<BR>⏎ | 139-140 | 「御子たち、大勢いるが、そなただけを、このように小さい時から明け暮れ見てきた。それゆえ、思い出されるのだろうか。とてもよく似て見える。とても幼いうちは 皆このように見えるのであろうか」<BR>⏎ と言って,たいそうかわいらしいとお思い申し上げあそばされている。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 163-164 | 「思いよそえて見ているが、気持ちは慰まず<BR>⏎ 涙を催させる撫子の花の花であるよ<BR>⏎ | 143 | 「思いよそえて見ているが、気持ちは慰まず<BR> 涙を催させる撫子の花の花であるよ<BR>⏎ |
| cd4:2 | 169-172 | 「袖を濡らしている方の縁と思うにつけても<BR>⏎ やはり疎ましくなってしまう大和撫子です」<BR>⏎ とだけ、かすかに中途で書き止めたような歌を、喜びながら差し上げたが、「いつものことで、返事はあるまい」と、力なくぼんやりと臥せっていらっしゃったところに、胸をときめかして、たいそう嬉しいので、涙がこぼれた。<BR>⏎ <P>⏎ | 148-149 | 「袖を濡らしている方の縁と思うにつけても<BR> やはり疎ましくなってしまう大和撫子です」<BR>⏎ とだけ,かすかに中途で書き止めたような歌を、喜びながら差し上げたが、「いつものことで、返事はあるまい」と、力なくぼんやりと臥せっていらっしゃったところに、胸をときめかして、たいそう嬉しいので,涙がこぼれた。<BR>⏎ |
| version07 | 173 | <A NAME="in34">[第四段 源氏、紫の君に心を慰める]</A><BR> | 150 | |
| c2 | 180-181 | 「まあ、憎らしい。このようなことをおっしゃるようになりましたね。みるめに人を飽きるとは、良くないことですよ」<BR>⏎ と言って、人を召して、お琴取り寄せてお弾かせ申し上げなさる。<BR>⏎ | 157-158 | 「まあ,憎らしい。このようなことをおっしゃるようになりましたね。みるめに人を飽きるとは、良くないことですよ」<BR>⏎ と言って,人を召して、お琴取り寄せてお弾かせ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 183-184 | と言って、平調に下げてお調べになる。調子合わせの小曲だけ弾いて、押しやりなさると、いつまでもすねてもいられず、とてもかわいらしくお弾きになる。<BR>⏎ お小さいからだで、左手をさしのべて、弦を揺らしなさる手つき、とてもかわいらしいので、愛しいとお思いになって、笛吹き鳴らしながらお教えになる。とても賢くて難しい調子などを、たった一度で習得なさる。何事につけても才長けたご性格を、「期待していた通りである」とお思いになる。「保曽呂具世利」という曲目は、名前は嫌だが、素晴らしくお吹きになると、合奏させて、まだ未熟だが、拍子を間違えず上手のようである。<BR>⏎ | 160-161 | と言って,平調に下げてお調べになる。調子合わせの小曲だけ弾いて、押しやりなさると、いつまでもすねてもいられず、とてもかわいらしくお弾きになる。<BR>⏎ お小さいからだで、左手をさしのべて、弦を揺らしなさる手つき、とてもかわいらしいので、愛しいとお思いになって、笛吹き鳴らしながらお教えになる。とても賢くて 難しい調子などを、たった一度で習得なさる。何事につけても才長けたご性格を、「期待していた通りである」とお思いになる。「保曽呂具世利」という曲目は、名前は嫌だが、素晴らしくお吹きになると、合奏させて、まだ未熟だが、拍子を間違えず上手のようである。<BR>⏎ |
| c1 | 187 | などと言うので、姫君、いつものように心細くふさいでいらっしゃった。絵を見ることも止めて、うつ伏していらっしゃるので、とても可憐で、お髪がとても見事にこぼれかかっているのを、かき撫でて、<BR>⏎ | 164 | などと言うので、姫君、いつものように 心細くふさいでいらっしゃった。絵を見ることも止めて、うつ伏していらっしゃるので、とても可憐で、お髪がとても見事にこぼれかかっているのを、かき撫でて、<BR>⏎ |
| c2 | 190-191 | 「わたしも、一日もお目にかからないでいるのは、とてもつらいことですが、お小さくいらっしゃるうちは、気安くお思い申すので、まず、ひねくれて嫉妬する人の機嫌を損ねまいと思って、うっとうしいので、暫く間はこのように出かけるのですよ。大人におなりになったら、他の所へは決して行きませんよ。人の嫉妬を受けまいなどと思うのも、長生きをして、思いのままに一緒にお暮らし申したいと思うからですよ」<BR>⏎ などと、こまごまとご機嫌をお取り申されると、そうは言うものの恥じらって、何ともお返事申し上げなされない。そのままお膝に寄りかかって、眠っておしまになったので、とてもいじらしく思って、<BR>⏎ | 167-168 | 「わたしも、一日もお目にかからないでいるのは,とてもつらいことですが、お小さくいらっしゃるうちは、気安くお思い申すので、まず,ひねくれて嫉妬する人の機嫌を損ねまいと思って、うっとうしいので、暫く間はこのように出かけるのですよ。大人におなりになったら、他の所へは決して行きませんよ。人の嫉妬を受けまいなどと思うのも、長生きをして、思いのままに一緒にお暮らし申したいと思うからですよ」<BR>⏎ などと,こまごまとご機嫌をお取り申されると、そうは言うものの恥じらって、何ともお返事申し上げなされない。そのままお膝に寄りかかって、眠っておしまになったので、とてもいじらしく思って、<BR>⏎ |
| c3 | 196-198 | 「では、お寝みなさい」<BR>⏎ と不安げに思っていらっしゃるので、このような人を放ってはどんな道であっても出かけることはできない、と思われなさる。<BR>⏎ このように、引き止められなさる時々も多くあるのを、自然と漏れ聞く人が、大殿にも申し上げたので、<BR>⏎ | 173-175 | 「では,お寝みなさい」<BR>⏎ と不安げに思っていらっしゃるので、このような人を放っては どんな道であっても出かけることはできない、と思われなさる。<BR>⏎ このように,引き止められなさる時々も多くあるのを、自然と漏れ聞く人が、大殿にも申し上げたので、<BR>⏎ |
| cd6:5 | 202-207 | などと、お仕えする女房たちも噂し合っていた。<BR>⏎ お上におかれても、「このような女の人がいる」と、お耳に入れあそばして、<BR>⏎ 「気の毒に、大臣がお嘆きということも、なるほど、まだ幼かったころを、一生懸命にこんなにお世話してきた気持ちを、それくらいのことをご分別できない年頃でもあるまいに。どうして薄情な仕打ちをなさるのだろう」<BR>⏎ と、仰せられるが、恐縮した様子で、お返事も申し上げられないので、「お気に入らないようだ」と、かわいそうにお思いあそばす。<BR>⏎ 「その一方では、好色がましく振る舞って、ここに見える女房であれ、またここかしこの女房たちなどと、浅からぬ仲に見えたり噂も聞かないようだが、どのような人目につかない所にあちこち隠れ歩いて、このように人に怨まれることをしているのだろう」と仰せられる。<BR>⏎ <P>⏎ | 179-183 | などと,お仕えする女房たちも噂し合っていた。<BR>⏎ お上におかれても、「このような女の人がいる」と,お耳に入れあそばして、<BR>⏎ 「気の毒に、大臣がお嘆きということも、なるほど,まだ幼かったころを、一生懸命にこんなにお世話してきた気持ちを、それくらいのことをご分別できない年頃でもあるまいに。どうして薄情な仕打ちをなさるのだろう」<BR>⏎ と,仰せられるが、恐縮した様子で、お返事も申し上げられないので、「お気に入らないようだ」と、かわいそうにお思いあそばす。<BR>⏎ 「その一方では,好色がましく振る舞って、ここに見える女房であれ、またここかしこの女房たちなどと、浅からぬ仲に見えたり噂も聞かないようだが、どのような人目につかない所にあちこち隠れ歩いて、このように人に怨まれることをしているのだろう」と仰せられる。<BR>⏎ |
| version07 | 208 | <H4>第四章 源典侍の物語 老女との好色事件</H4> | 184 | |
| version07 | 209 | <A NAME="in41">[第一段 源典侍の風評]</A><BR> | 185 | |
| cd3:2 | 210-212 | 帝のお年、かなりお召しあそばされたが、このような方面は、無関心ではいらっしゃれず、采女、女蔵人などの容貌や気立ての良い者を、格別にもてなしお目をかけあそばしていたので、教養のある宮仕え人の多いこの頃である。ちょっとしたことでも、お話しかけになれば、知らない顔をする者はめったにいないので、見慣れてしまったのであろうか、「なるほど、不思議にも好色な振る舞いのないようだ」と、試しに冗談を申し上げたりなどする折もあるが、恥をかかせない程度に軽くあしらって、本気になってお取り乱しにならないのを、「真面目ぶってつまらない」と、お思い申し上げる女房もいる。<BR>⏎ 年をたいそう取っている典侍、人柄も重々しく、才気があり、高貴で、人から尊敬されてはいるものの、たいそう好色な性格で、その方面では腰の軽いのを、「こう、年を取ってまで、どうしてそんなにふしだらなのか」と、興味深くお思いになったので、冗談を言いかけてお試しになると、不釣り合いなとも思わないのであった。あきれた、とはお思いになりながら、やはりこのような女も興味があるので、お話しかけなどなさったが、人が漏れ聞いても、年とった年齢なので、そっけなく振る舞っていらっしゃるのを、女は、とてもつらいと思っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 186-187 | 帝のお年、かなりお召しあそばされたが、このような方面は、無関心ではいらっしゃれず、采女、女蔵人などの 容貌や 気立ての良い者を、格別にもてなしお目をかけあそばしていたので、教養のある宮仕え人の多いこの頃である。ちょっとしたことでも,お話しかけになれば、知らない顔をする者はめったにいないので、見慣れてしまったのであろうか、「なるほど,不思議にも好色な振る舞いのないようだ」と、試しに冗談を申し上げたりなどする折もあるが、恥をかかせない程度に軽くあしらって、本気になってお取り乱しにならないのを、「真面目ぶってつまらない」と,お思い申し上げる女房もいる。<BR>⏎ 年をたいそう取っている典侍、人柄も重々しく、才気があり、高貴で,人から尊敬されてはいるものの、たいそう好色な性格で、その方面では腰の軽いのを、「こう,年を取ってまで、どうしてそんなにふしだらなのか」と、興味深くお思いになったので、冗談を言いかけてお試しになると、不釣り合いなとも思わないのであった。あきれた、とはお思いになりながら、やはりこのような女も興味があるので、お話しかけなどなさったが、人が漏れ聞いても、年とった年齢なので、そっけなく振る舞っていらっしゃるのを、女は、とてもつらいと思っていた。<BR>⏎ |
| version07 | 213 | <A NAME="in42">[第二段 源氏、源典侍と和歌を詠み交わす]</A><BR> | 188 | |
| c1 | 215 | 「似合わない派手な扇だな」と御覧になって、ご自分のお持ちのと取り替えて御覧になると、赤い紙で顔に照り返すような色合いで、木高い森の絵を金泥で塗りつぶしてある。その端の方に、筆跡はとても古めかしいが、風情がなくもなく、「森の下草が老いてしまったので」などと書き流してあるのを、「他に書くことも他にあろうに、嫌らしい趣向だ」と微笑まれて、<BR>⏎ | 190 | 「似合わない派手な扇だな」と御覧になって、ご自分のお持ちのと 取り替えて御覧になると、赤い紙で 顔に照り返すような色合いで、木高い森の絵を金泥で塗りつぶしてある。その端の方に、筆跡はとても古めかしいが、風情がなくもなく、「森の下草が老いてしまったので」などと書き流してあるのを、「他に書くことも他にあろうに、嫌らしい趣向だ」と微笑まれて、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 217-219 | と言って、いろいろとおっしゃるのも、不釣り合いで、人が見つけるかと気になるが、女はそうは思っていない。<BR>⏎ 「あなたがいらしたならば良く馴れた馬に秣を刈ってやりましょう<BR>⏎ 盛りの過ぎた下草であっても」<BR>⏎ | 192-193 | と言って,いろいろとおっしゃるのも、不釣り合いで、人が見つけるかと気になるが、女はそうは思っていない。<BR>⏎ 「あなたがいらしたならば良く馴れた馬に秣を刈ってやりましょう<BR> 盛りの過ぎた下草であっても」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 221-222 | 「笹を分けて入って行ったら人が注意しましょう<BR>⏎ いつでも馬を懐けている森の木陰では<BR>⏎ | 195 | 「笹を分けて入って行ったら人が注意しましょう<BR> いつでも馬を懐けている森の木陰では<BR>⏎ |
| c1 | 224 | と言って、お立ちになるのを、袖を取って、<BR>⏎ | 197 | と言って,お立ちになるのを、袖を取って、<BR>⏎ |
| c1 | 228 | と言って、振り切ってお出になるのを、懸命に取りすがって、「橋柱」と恨み言を言うのを、お上はお召し替えが済んで、御障子の隙間から御覧あそばしたのであった。「似つかわしくない仲だな」と、とてもおかしく思し召されて、<BR>⏎ | 201 | と言って,振り切ってお出になるのを、懸命に取りすがって、「橋柱」と恨み言を言うのを、お上はお召し替えが済んで、御障子の隙間から御覧あそばしたのであった。「似つかわしくない仲だな」と、とてもおかしく思し召されて、<BR>⏎ |
| c1 | 230 | と言って、お笑いあそばすので、典侍はばつが悪い気がするが、恋しい人のためなら、濡衣をさえ着たがる類もいるそうだからか、大して弁解も申し上げない。<BR>⏎ | 203 | と言って,お笑いあそばすので、典侍は ばつが悪い気がするが、恋しい人のためなら、濡衣をさえ着たがる類もいるそうだからか、大して弁解も申し上げない。<BR>⏎ |
| d1 | 233 | <P>⏎ | ||
| version07 | 234 | <A NAME="in43">[第三段 温明殿付近で密会中、頭中将に発見され脅される]</A><BR> | 206 | |
| c1 | 235 | たいそう秘密にしているので、源氏の君はご存知ない。お見かけ申しては、まず恨み言を申すので、お年の程もかわいそうなので、慰めてやろうとお思いになるが、その気になれない億劫さで、たいそう日数が経ってしまったが、夕立があって、その後の涼しい夕闇に紛れて、温明殿の辺りを歩き回っていられると、この典侍、琵琶をとても美しく弾いていた。御前などでも殿方の管弦のお遊びに加わりなどして、殊にこの人に勝る人もない名人なので、恨み言を言いたい気分でいたところから、とてもしみじみと聞こえて来る。<BR>⏎ | 207 | たいそう秘密にしているので、源氏の君はご存知ない。お見かけ申しては、まず恨み言を申すので、お年の程もかわいそうなので、慰めてやろうとお思いになるが、その気になれない億劫さで、たいそう日数が経ってしまったが、夕立があって、その後の涼しい夕闇に紛れて、温明殿の辺りを歩き回っていられると、この典侍、琵琶をとても美しく弾いていた。御前などでも 殿方の管弦のお遊びに加わりなどして、殊にこの人に勝る人もない名人なので、恨み言を言いたい気分でいたところから、とてもしみじみと聞こえて来る。<BR>⏎ |
| c1 | 237 | と、声はとても美しく歌うのが、ちょっと気に食わない。「鄂州にいたという昔の人も、このように興趣を引かれたのだろうか」と、耳を止めてお聞きになる。弾き止んで、とても深く思い悩んでいる様子である。君が、「東屋」を小声で歌ってお近づきになると、<BR>⏎ | 209 | と,声はとても美しく歌うのが、ちょっと気に食わない。「鄂州にいたという昔の人も、このように興趣を引かれたのだろうか」と、耳を止めてお聞きになる。弾き止んで、とても深く思い悩んでいる様子である。君が、「東屋」を小声で歌ってお近づきになると、<BR>⏎ |
| cd12:10 | 239-250 | と、後を続けて歌うのも、普通の女とは違った気がする。<BR>⏎ 「誰も訪れて来て濡れる人もいない東屋に<BR>⏎ 嫌な雨垂れが落ちて来ます」<BR>⏎ と嘆くのを、自分一人が怨み言を負う筋ではないが、「嫌になるな。何をどうしてこんなに嘆くのだろう」と、思われなさる。<BR>⏎ 「人妻はもう面倒です<BR>⏎ あまり親しくなるまいと思います」<BR>⏎ と言って、通り過ぎたいが、「あまり無愛想では」と思い直して、相手によるので、少し軽薄な冗談などを言い交わして、これも珍しい経験だとお思いになる。<BR>⏎ 頭中将は、この君がたいそう真面目ぶっていて、いつも非難なさるのが癪なので、何食わぬ顔でこっそりお通いの所があちこちに多くあるらしいのを、「何とか発見してやろう」とばかり思い続けていたところ、この現場を見つけた気分、まこと嬉しい。「このような機会に、少し脅かし申して、お心をびっくりさせて、これに懲りたか、と言ってやろう」と思って、油断をおさせ申す。<BR>⏎ 風が冷たく吹いて来て、次第に夜も更けかけてゆくころに、少し寝込んだろうかと思われる様子なので、静かに入って来ると、君は、安心してお眠りになれない気分なので、ふと聞きつけて、この中将とは思いも寄らず、「いまだ未練のあるという修理の大夫であろう」とお思いになると、年配の人に、このような似つかわしくない振る舞いをして、見つけられるのは何とも照れくさいので、<BR>⏎ 「ああ、厄介な。帰りますよ。夫が後から来ることは、分かっていましたから。ひどいな、おだましになるとは」<BR>⏎ と言って、直衣だけを取って、屏風の後ろにお入りになった。中将、おかしさを堪えて、お引き廻らしになってある屏風のもとに近寄って、ばたばたと畳み寄せて、大げさに振る舞ってあわてさせると、典侍は、年取っているが、ひどく上品ぶった艶っぽい女で、以前にもこのようなことがあって、肝を冷やしたことが度々あったので、馴れていて、ひどく気は動転していながらも、「この君をどうなされてしまうのか」と心配で、震えながらしっかりと取りすがっている。「誰とも分からないように逃げ出そう」とお思いになるが、だらしない恰好で、冠などをひん曲げて逃げて行くような後ろ姿を思うと、「まことに醜態であろう」と、おためらいなさる。<BR>⏎ 中将、「何とかして自分だとは知られ申すまい」と思って、何とも言わない。ただひどく怒った形相を作って、太刀を引き抜くと、女は、<BR>⏎ | 211-220 | と,後を続けて歌うのも、普通の女とは違った気がする。<BR>⏎ 「誰も訪れて来て濡れる人もいない東屋に<BR> 嫌な雨垂れが落ちて来ます」<BR>⏎ と嘆くのを、自分一人が怨み言を負う筋ではないが、「嫌になるな. 何をどうしてこんなに嘆くのだろう」と、思われなさる。<BR>⏎ 「人妻はもう面倒です<BR> あまり親しくなるまいと思います」<BR>⏎ と言って,通り過ぎたいが、「あまり無愛想では」と思い直して、相手によるので、少し軽薄な冗談などを言い交わして、これも珍しい経験だとお思いになる。<BR>⏎ 頭中将は、この君がたいそう真面目ぶっていて、いつも非難なさるのが癪なので、何食わぬ顔でこっそりお通いの所があちこちに多くあるらしいのを、「何とか発見してやろう」とばかり思い続けていたところ、この現場を見つけた気分、まこと嬉しい。「このような機会に、少し脅かし申して、お心をびっくりさせて、これに懲りたか,と言ってやろう」と思って、油断をおさせ申す。<BR>⏎ 風が冷たく吹いて来て、次第に夜も更けかけてゆくころに、少し寝込んだろうかと思われる様子なので、静かに入って来ると、君は、安心してお眠りになれない気分なので、ふと聞きつけて、この中将とは思いも寄らず、「いまだ未練のあるという修理の大夫であろう」とお思いになると、年配の人に、このような似つかわしくない振る舞いをして、見つけられるのは 何とも照れくさいので、<BR>⏎ 「ああ,厄介な。帰りますよ。夫が後から来ることは、分かっていましたから。ひどいな、おだましになるとは」<BR>⏎ と言って,直衣だけを取って、屏風の後ろにお入りになった。中将、おかしさを堪えて、お引き廻らしになってある屏風のもとに近寄って、ばたばたと畳み寄せて、大げさに振る舞ってあわてさせると、典侍は、年取っているが、ひどく上品ぶった艶っぽい女で、以前にもこのようなことがあって、肝を冷やしたことが度々あったので、馴れていて、ひどく気は動転していながらも、「この君をどうなされてしまうのか」と心配で、震えながらしっかりと取りすがっている。「誰とも分からないように逃げ出そう」とお思いになるが、だらしない恰好で、冠などをひん曲げて逃げて行くような後ろ姿を思うと、「まことに醜態であろう」と、おためらいなさる。<BR>⏎ 中将、「何とかして自分だとは知られ申すまい」と思って、何とも言わない. ただひどく怒った形相を作って、太刀を引き抜くと、女は、<BR>⏎ |
| c2 | 252-253 | と、向かって手を擦り合わせて拝むので、あやうく笑い出してしまいそうになる。好ましく若づくりして振る舞っている表面だけは、まあ見られたものであるが、五十七、八歳の女が、着物をきちんと付けず慌てふためいている様子、実に素晴らしい二十代の若者たちの間にはさまれて怖がっているのは、何ともみっともない。このように別人のように装って、恐ろしい様子を見せるが、かえってはっきりとお見破りになって、「わたしだと知ってわざとやっているのだな」と、馬鹿らしくなった。「あの男のようだ」とお分かりになると、とてもおかしかったので、太刀を抜いている腕をつかまえて、とてもきつくおつねりになったので、悔しいと思いながらも、堪え切れずに笑ってしまった。<BR>⏎ 「ほんと、正気の沙汰かね。冗談も出来ないね。さあ、この直衣を着よう」<BR>⏎ | 222-223 | と,向かって手を擦り合わせて拝むので、あやうく笑い出してしまいそうになる。好ましく若づくりして振る舞っている表面だけは、まあ見られたものであるが、五十七,八歳の女が、着物をきちんと付けず慌てふためいている様子、実に素晴らしい二十代の若者たちの間にはさまれて怖がっているのは、何ともみっともない。このように別人のように装って、恐ろしい様子を見せるが、かえってはっきりとお見破りになって、「わたしだと知って わざとやっているのだな」と、馬鹿らしくなった。「あの男のようだ」とお分かりになると、とてもおかしかったので、太刀を抜いている腕をつかまえて、とてもきつくおつねりになったので、悔しいと思いながらも、堪え切れずに笑ってしまった。<BR>⏎ 「ほんと,正気の沙汰かね。冗談も出来ないね。さあ,この直衣を着よう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 255-258 | 「それでは、一緒に」<BR>⏎ と言って、中将の帯を解いてお脱がせになると、脱ぐまいと抵抗するのを、何かと引っ張り合ううちに、開いている所からびりびりと破れてしまった。中将は、<BR>⏎ 「隠している浮名も洩れ出てしまいましょう<BR>⏎ 引っ張り合って破れてしまった二人の仲の衣から<BR>⏎ | 225-227 | 「それでは,一緒に」<BR>⏎ と言って,中将の帯を解いてお脱がせになると、脱ぐまいと抵抗するのを、何かと引っ張り合ううちに、開いている所からびりびりと破れてしまった。中将は、<BR>⏎ 「隠している浮名も洩れ出てしまいましょう<BR> 引っ張り合って破れてしまった二人の仲の衣から<BR>⏎ |
| cd2:1 | 261-262 | 「この女との仲まで知られてしまうのを承知の上でやって来て<BR>⏎ 夏衣を着るとは、何と薄情で浅薄なお気持ちかと思いますよ」<BR>⏎ | 230 | 「この女との仲まで知られてしまうのを承知の上でやって来て<BR> 夏衣を着るとは、何と薄情で浅薄なお気持ちかと思いますよ」<BR>⏎ |
| d1 | 264 | <P>⏎ | ||
| version07 | 265 | <A NAME="in44">[第四段 翌日、源氏と頭中将と宮中で応酬しあう]</A><BR> | 232 | |
| cd2:1 | 267-268 | 「恨んでも何の甲斐もありません<BR>⏎ 次々とやって来ては帰っていったお二人の波の後では<BR>⏎ | 234 | 「恨んでも何の甲斐もありません<BR> 次々とやって来ては帰っていったお二人の波の後では<BR>⏎ |
| cd2:1 | 271-272 | 「荒々しく暴れた頭中将には驚かないが<BR>⏎ その彼を寄せつけたあなたをどうして恨まずにはいられようか」<BR>⏎ | 237 | 「荒々しく暴れた頭中将には驚かないが<BR> その彼を寄せつけたあなたをどうして恨まずにはいられようか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 275-277 | 中将が、宿直所から、「これを、まずはお付けあそばせ」といって、包んで寄こしたのを、「どうやって、持って行ったのか」と憎らしく思う。「この帯を獲らなかったら、大変だった」とお思いになる。同じ色の紙に包んで、<BR>⏎ 「仲が切れたらわたしのせいだと非難されようかと思ったが<BR>⏎ 縹の帯などわたしには関係ありません」<BR>⏎ | 240-241 | 中将が、宿直所から、「これを,まずはお付けあそばせ」といって、包んで寄こしたのを、「どうやって、持って行ったのか」と憎らしく思う。「この帯を獲らなかったら、大変だった」とお思いになる。同じ色の紙に包んで、<BR>⏎ 「仲が切れたらわたしのせいだと非難されようかと思ったが<BR> 縹の帯などわたしには関係ありません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 279-280 | 「あなたにこのように取られてしまった帯ですから<BR>⏎ こんな具合に仲も切れてしまったものとしましょうよ<BR>⏎ | 243 | 「あなたにこのように取られてしまった帯ですから<BR> こんな具合に仲も切れてしまったものとしましょうよ<BR>⏎ |
| c2 | 285-286 | と言って、とても憎らしそうな流し目である。<BR>⏎ 「どうして、そんなことがありましょう。そのまま帰ってしまったあなたこそ、お気の毒だ。本当の話、嫌なものだよ、男女の仲とは」<BR>⏎ | 248-249 | と言って,とても憎らしそうな流し目である。<BR>⏎ 「どうして,そんなことがありましょう。そのまま帰ってしまったあなたこそ、お気の毒だ。本当の話、嫌なものだよ、男女の仲とは」<BR>⏎ |
| c2 | 288-289 | さて、それから後、ともすれば何かの折毎に、話に持ち出す種とするので、ますますあの厄介な女のためにと、お思い知りになったであろう。女は、相変わらずまこと色気たっぷりに恨み言をいって寄こすが、興醒めだと逃げ回りなさる。<BR>⏎ 中将は、妹の君にも申し上げず、ただ、「何かの時の脅迫の材料にしよう」と思っていた。高貴な身分の妃からお生まれになった親王たちでさえ、お上の御待遇がこの上ないのを憚って、とても御遠慮申し上げていらっしゃるのに、この中将は、「絶対に圧倒され申すまい」と、ちょっとした事柄につけても対抗申し上げなさる。<BR>⏎ | 251-252 | さて,それから後、ともすれば何かの折毎に、話に持ち出す種とするので、ますますあの厄介な女のためにと、お思い知りになったであろう。女は、相変わらずまこと色気たっぷりに恨み言をいって寄こすが、興醒めだと逃げ回りなさる。<BR>⏎ 中将は、妹の君にも申し上げず、ただ,「何かの時の脅迫の材料にしよう」と思っていた。高貴な身分の妃からお生まれになった親王たちでさえ、お上の御待遇がこの上ないのを憚って、とても御遠慮申し上げていらっしゃるのに、この中将は、「絶対に圧倒され申すまい」と、ちょっとした事柄につけても 対抗申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 291 | <P>⏎ | ||
| version07 | 292 | <H4>第五章 藤壷の物語(三) 秋、藤壷は中宮、源氏は宰相となる</H4> | 254 | |
| version07 | 293 | <A NAME="in51">[第一段 七月に藤壷女御、中宮に立つ]</A><BR> | 255 | |
| c1 | 294 | 七月に、后がお立ちになるようであった。源氏の君、宰相におなりになった。帝、御譲位あそばすお心づもりが近くなって、この若君を春宮に、とお考えあそばされるが、御後見なさるべき方がいらっしゃらない。御母方が、みな親王方で、皇族が政治を執るべき筋合ではないので、せめて母宮だけでも不動の地位におつけ申して、お力にとお考えあそばすのであった。<BR>⏎ | 256 | 七月に、后がお立ちになるようであった。源氏の君、宰相におなりになった。帝,御譲位あそばすお心づもりが近くなって、この若君を春宮に、とお考えあそばされるが、御後見なさるべき方がいらっしゃらない。御母方が、みな親王方で、皇族が政治を執るべき筋合ではないので、せめて母宮だけでも不動の地位におつけ申して、お力にとお考えあそばすのであった。<BR>⏎ |
| cd7:5 | 297-303 | とお慰め申し上げあそばすのであった。「なるほど、春宮の御母堂として二十余年におなりの女御を差し置き申して、先にお越し申されることは難しいことだ」と、例によって、穏やかならず世間の人も噂するのであった。<BR>⏎ 参内なさる夜のお供に、宰相君もお仕え申し上げなさる。同じ宮と申し上げる中でも、后腹の内親王で、玉のように美しく光り輝いて、類ない御寵愛をさえ蒙っていらっしゃるので、世間の人々もとても特別に御奉仕申し上げた。言うまでもなく、切ないお心の中では、御輿の中も思いやられて、ますます手も届かない気持ちがなさると、じっとしてはいられないまでに思われた。<BR>⏎ 「尽きない恋の思いに何も見えない<BR>⏎ はるか高い地位につかれる方を仰ぎ見るにつけても」<BR>⏎ とだけ、独言が口をついて出て、何につけ切なく思われる。<BR>⏎ 皇子は、ご成長なさっていく月日につれて、とてもお見分け申しがたいほどでいらっしゃるのを、宮は、まこと辛い、とお思いになるが、気付く人はいないらしい。なるほど、どのように作り変えたならば、負けないくらいの方がこの世にお生まれになろうか。月と日が似通って光り輝いているように、世人も思っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 259-263 | とお慰め申し上げあそばすのであった。「なるほど,春宮の御母堂として二十余年におなりの女御を差し置き申して、先にお越し申されることは難しいことだ」と、例によって、穏やかならず世間の人も噂するのであった。<BR>⏎ 参内なさる夜のお供に、宰相君もお仕え申し上げなさる。同じ宮と申し上げる中でも、后腹の内親王で、玉のように美しく光り輝いて、類ない御寵愛をさえ蒙っていらっしゃるので、世間の人々もとても特別に御奉仕申し上げた。言うまでもなく,切ないお心の中では、御輿の中も思いやられて、ますます手も届かない気持ちがなさると、じっとしてはいられないまでに思われた。<BR>⏎ 「尽きない恋の思いに何も見えない<BR> はるか高い地位につかれる方を仰ぎ見るにつけても」<BR>⏎ とだけ,独言が口をついて出て、何につけ切なく思われる。<BR>⏎ 皇子は、ご成長なさっていく月日につれて、とてもお見分け申しがたいほどでいらっしゃるのを、宮は、まこと辛い、とお思いになるが、気付く人はいないらしい。なるほど,どのように作り変えたならば、負けないくらいの方が この世にお生まれになろうか。月と日が似通って光り輝いているように、世人も思っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 310 | ⏎ | ||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version08 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 24 | <P>⏎ | ||
| version08 | 25 | <H4> 朧月夜の君物語 春の夜の出逢いの物語</H4> | 21 | |
| version08 | 26 | <A NAME="in11">[第一段 二月二十余日、紫宸殿の桜花の宴]</A><BR> | 22 | |
| c3 | 27-29 | 如月の二十日過ぎ、南殿の桜の宴をお催しあそばす。皇后、春宮の御座所、左右に設定して、参上なさる。弘徽殿の女御、中宮がこのようにお座りになるのを、機会あるごとに不愉快にお思いになるが、見物だけはお見過ごしできないで、参上なさる。<BR>⏎ その日はとてもよく晴れて、空の様子、鳥の声も、気持ちよさそうな折に、親王たち、上達部をはじめとして、その道の人々は皆、韻字を戴いて詩をお作りになる。宰相中将、「春という文字を戴きました」と、おっしゃる声までが、例によって、他の人とは格別である。次に頭中将、その目で次に見られるのも、どう思われるかと不安のようだが、とても好ましく落ち着いて、声の上げ方など、堂々として立派である。その他の人々は、皆気後れしておどおどした様子の者が多かった。地下の人は、それ以上に、帝、春宮の御学問が素晴らしく優れていらっしゃる上に、このような作文の道に優れた人々が多くいられるころなので、気後れがして、広々と晴の庭に立つ時は、恰好が悪くて、簡単なことであるが、大儀そうである。高齢の博士どもの、姿恰好が見すぼらしく貧相だが、場馴れているのも、しみじみと、あれこれ御覧になるのは、興趣あることであった。<BR>⏎ 舞楽類などは、改めて言うまでもなく万端御準備あそばしていた。だんだん入日になるころ、春鴬囀という舞、とても興趣深く見えるので、源氏の御紅葉の賀の折、自然とお思い出されて、春宮が、挿頭を御下賜になって、しきりに御所望なさるので、お断りし難くて、立ってゆっくり袖を返すところを一さしお真似事のようにお舞いになると、当然似るものがなく素晴らしく見える。左大臣は、恨めしさも忘れて、涙を落としなさる。<BR>⏎ | 23-25 | 如月の二十日過ぎ、南殿の桜の宴をお催しあそばす。皇后,春宮の御座所、左右に設定して、参上なさる。弘徽殿の女御、中宮がこのようにお座りになるのを、機会あるごとに不愉快にお思いになるが、見物だけはお見過ごしできないで、参上なさる。<BR>⏎ その日はとてもよく晴れて、空の様子、鳥の声も、気持ちよさそうな折に、親王たち、上達部をはじめとして、その道の人々は皆、韻字を戴いて詩をお作りになる。宰相中将、「春という文字を戴きました」と、おっしゃる声までが、例によって、他の人とは格別である。次に頭中将、その目で次に見られるのも、どう思われるかと不安のようだが、とても好ましく落ち着いて、声の上げ方など、堂々として立派である。その他の人々は、皆気後れしておどおどした様子の者が多かった。地下の人は、それ以上に,帝,春宮の御学問が素晴らしく優れていらっしゃる上に、このような作文の道に優れた人々が多くいられるころなので、気後れがして、広々と晴の庭に立つ時は、恰好が悪くて、簡単なことであるが、大儀そうである。高齢の博士どもの、姿恰好が見すぼらしく貧相だが、場馴れているのも、しみじみと、あれこれ御覧になるのは、興趣あることであった。<BR>⏎ 舞楽類などは、改めて言うまでもなく万端御準備あそばしていた。だんだん入日になるころ、春鴬囀という舞、とても興趣深く見えるので、源氏の御紅葉の賀の折、自然とお思い出されて、春宮が、挿頭を御下賜になって、しきりに御所望なさるので、お断りし難くて、立ってゆっくり袖を返すところを一さし お真似事のようにお舞いになると、当然似るものがなく素晴らしく見える。左大臣は、恨めしさも忘れて、涙を落としなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 33-34 | 「何の関係もなく花のように美しいお姿を拝するのであったなら<BR>⏎ 少しも気兼ねなどいらなかろうものを」<BR>⏎ | 29 | 「何の関係もなく花のように美しいお姿を拝するのであったなら<BR> 少しも気兼ねなどいらなかろうものを」<BR>⏎ |
| d1 | 36 | <P>⏎ | ||
| version08 | 37 | <A NAME="in12">[第二段 宴の後、朧月夜の君と出逢う]</A><BR> | 31 | |
| c2 | 38-39 | 夜もたいそう更けて御宴は終わったのであった。<BR>⏎ 上達部はそれぞれ退出し、中宮、春宮も還御あそばしたので、静かになったころに、月がとても明るくさし出て美しいので、源氏の君、酔心地に見過ごし難くお思いになったので、「殿上の宿直の人々も寝んで、このように思いもかけない時に、もしや都合のよい機会もあろうか」と、藤壷周辺を、無性に人目を忍んであちこち窺ったが、手引を頼むはずの戸口も閉まっているので、溜息をついて、なおもこのままでは気がすまず、弘徽殿の細殿にお立ち寄りになると、三の口が開いている。<BR>⏎ | 32-33 | 夜もたいそう更けて 御宴は終わったのであった。<BR>⏎ 上達部はそれぞれ退出し、中宮,春宮も還御あそばしたので、静かになったころに、月がとても明るくさし出て美しいので、源氏の君、酔心地に 見過ごし難くお思いになったので、「殿上の宿直の人々も寝んで、このように思いもかけない時に、もしや都合のよい機会もあろうか」と、藤壷周辺を、無性に人目を忍んであちこち窺ったが、手引を頼むはずの戸口も閉まっているので、溜息をついて、なおもこのままでは気がすまず、弘徽殿の細殿にお立ち寄りになると、三の口が開いている。<BR>⏎ |
| cd8:7 | 44-51 | 「あら、嫌ですわ。これは、どなたですか」とおっしゃるが、<BR>⏎ 「どうして、嫌ですか」と言って、<BR>⏎ 「趣深い春の夜更けの情趣をご存知でいられるのも<BR>⏎ 前世からの浅からぬ御縁があったものと存じます」<BR>⏎ と詠んで、そっと抱き下ろして、戸は閉めてしまった。あまりの意外さに驚きあきれている様子、とても親しみやすくかわいらしい感じである。怖さに震えながら、<BR>⏎ 「ここに、人が」<BR>⏎ と、おっしゃるが、<BR>⏎ 「わたしは、誰からも許されているので、人を呼んでも、何ということありませんよ。ただ、じっとしていなさい」<BR>⏎ | 38-44 | 「あら,嫌ですわ。これは,どなたですか」とおっしゃるが、<BR>⏎ 「どうして,嫌ですか」と言って、<BR>⏎ 「趣深い春の夜更けの情趣をご存知でいられるのも<BR> 前世からの浅からぬ御縁があったものと存じます」<BR>⏎ と詠んで,そっと抱き下ろして、戸は閉めてしまった。あまりの意外さに驚きあきれている様子、とても親しみやすくかわいらしい感じである。怖さに震えながら、<BR>⏎ 「ここに,人が」<BR>⏎ と,おっしゃるが、<BR>⏎ 「わたしは,誰からも許されているので、人を呼んでも、何ということありませんよ。ただ,じっとしていなさい」<BR>⏎ |
| c1 | 54 | 「やはり、お名前をおっしゃってください。どのようして、お便りを差し上げられましょうか。こうして終わろうとは、いくら何でもお思いではあるまい」<BR>⏎ | 47 | 「やはり,お名前をおっしゃってください。どのようして、お便りを差し上げられましょうか。こうして終わろうとは、いくら何でもお思いではあるまい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 56-57 | 「不幸せな身のまま名前を明かさないでこの世から死んでしまったなら<BR>⏎ 野末の草の原まで尋ねて来ては下さらないのかと思います」<BR>⏎ | 49 | 「不幸せな身のまま名前を明かさないでこの世から死んでしまったなら<BR> 野末の草の原まで尋ねて来ては下さらないのかと思います」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 60-61 | 「どなたであろうかと家を探しているうちに<BR>⏎ 世間に噂が立ってだめになってしまうといけないと思いまして<BR>⏎ | 52 | 「どなたであろうかと家を探しているうちに<BR> 世間に噂が立ってだめになってしまうといけないと思いまして<BR>⏎ |
| cd2:1 | 68-69 | などと、いろいろと気にかかるのも、心惹かれるところがあるのだろう。このようなことにつけても、まずは、「あの周辺の有様が、どこよりも奥まっているな」と、世にも珍しくご比較せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 59 | などと,いろいろと気にかかるのも、心惹かれるところがあるのだろう。このようなことにつけても、まずは,「あの周辺の有様が、どこよりも奥まっているな」と、世にも珍しくご比較せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| version08 | 70 | <A NAME="in13">[第三段 桜宴の翌日、昨夜の女性の素性を知りたがる]</A><BR> | 60 | |
| c1 | 74 | 「どのようにして、どの君と確かめ得ようか。父大臣などが聞き知って、大げさに婿扱いされるのも、どんなものか。まだ、相手の様子をよく見定めないうちは、厄介なことだろう。そうかと言って、確かめないでいるのも、それまた、誠に残念なことだろうから、どうしたらよいものか」と、ご思案に余って、ぼんやりと物思いに耽り横になっていらっしゃった。<BR>⏎ | 64 | 「どのようにして、どの君と確かめ得ようか。父大臣などが聞き知って、大げさに婿扱いされるのも、どんなものか。まだ,相手の様子をよく見定めないうちは、厄介なことだろう。そうかと言って、確かめないでいるのも、それまた,誠に残念なことだろうから、どうしたらよいものか」と、ご思案に余って、ぼんやりと物思いに耽り横になっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 76-77 | 「今までに味わったことのない気がする<BR>⏎ 有明の月の行方を途中で見失ってしまって」<BR>⏎ | 66 | 「今までに味わったことのない気がする<BR> 有明の月の行方を途中で見失ってしまって」<BR>⏎ |
| d1 | 79 | <P>⏎ | ||
| version08 | 80 | <A NAME="in14">[第四段 紫の君の理想的成長ぶり、葵の上との夫婦仲不仲]</A><BR> | 68 | |
| c1 | 81 | 「大殿にも久しく御無沙汰してしまったなあ」とお思いになるが、若君も気がかりなので、慰めようとお思いになって、二条院へお出かけになった。見れば見るほどとてもかわいらしく成長して、魅力的で利発な気立て、まことに格別である。不足なところのなく、ご自分の思いのままに教えよう、とお思いになっていたのに、叶う感じにちがいない。男手のお教えなので、多少男馴れしたところがあるかも知れない、と思う点が不安である。<BR>⏎ | 69 | 「大殿にも久しく御無沙汰してしまったなあ」とお思いになるが、若君も気がかりなので、慰めようとお思いになって、二条院へお出かけになった。見れば見るほど とてもかわいらしく成長して、魅力的で利発な気立て、まことに格別である。不足なところのなく、ご自分の思いのままに教えよう、とお思いになっていたのに,叶う感じにちがいない。男手のお教えなので、多少男馴れしたところがあるかも知れない、と思う点が不安である。<BR>⏎ |
| c1 | 86 | 「この高齢で、明王の御世を、四代にわたって見て参りましたが、今度のように作文類が優れていて、舞、楽、楽器の音色が整っていて、寿命の延びる思いをしたことはありませんでした。それぞれ専門の道の名人が多いこのころに、お詳しく精通していらして、お揃えあそばしたからです。わたくしごとき老人も、ついつい舞い出してしまいそうな心地が致しました」<BR>⏎ | 74 | 「この高齢で、明王の御世を、四代にわたって見て参りましたが、今度のように 作文類が優れていて、舞,楽,楽器の音色が整っていて、寿命の延びる思いをしたことはありませんでした。それぞれ専門の道の名人が多いこのころに、お詳しく精通していらして、お揃えあそばしたからです。わたくしごとき老人も、ついつい舞い出してしまいそうな心地が致しました」<BR>⏎ |
| c1 | 88 | 「特別に整えたわけではございません。ただお役目として、優れた音楽の師たちをあちこちから捜したまでのことです。何はさておき、「柳花苑」は、本当に後代の例ともなるにちがいなく拝見しましたが、まして、「栄える春」に倣って舞い出されたら、どんなにか一世の名誉だったでしょうに」<BR>⏎ | 76 | 「特別に整えたわけではございません。ただお役目として、優れた音楽の師たちを、あちこちから捜したまでのことです。何はさておき、「柳花苑」は、本当に後代の例ともなるにちがいなく拝見しましたが、まして,「栄える春」に倣って舞い出されたら、どんなにか一世の名誉だったでしょうに」<BR>⏎ |
| d1 | 91 | <P>⏎ | ||
| version08 | 92 | <A NAME="in15">[第五段 三月二十余日、右大臣邸の藤花の宴]</A><BR> | 79 | |
| c4 | 93-96 | あの有明の君は、夢のようにはかなかった逢瀬をお思い出しになって、とても物嘆かしくて物思いに沈んでいらっしゃる。春宮には、卯月ころとご予定になっていたので、とてもたまらなく悩んでいらっしゃったが、男も、お捜しになるにも手がかりがないわけではないが、どちらとも分からず、特に好ましく思っておられないご一族に関係するのも、体裁の悪く思い悩んでいらっしゃるところに、弥生の二十日過ぎ、右の大殿の弓の結があり、上達部、親王方、大勢お集まりになって、引き続いて藤の宴をなさる。花盛りは過ぎてしまったが、「他のが散りってしまった後に」と、教えられたのであろうか、遅れて咲く桜、二本がとても美しい。新しくお造りになった殿を、姫宮たちの御裳着の儀式の日に、磨き飾り立ててある。派手好みでいらっしゃるご家風のようで、すべて当世風に洒落た行き方になさている。<BR>⏎ 源氏の君にも、先日、宮中でお会いした折に、ご案内申し上げなさったが、おいでにならないので、残念で、折角の催しも見栄えがしない、とお思いになって、ご子息の四位少将をお迎えに差し上げなさる。<BR>⏎ 「わたしの邸の藤の花が世間一般の色をしているのなら<BR>⏎ どうしてあなたをお待ち致しましょうか」<BR>⏎ | 80-83 | あの有明の君は、夢のようにはかなかった逢瀬をお思い出しになって、とても物嘆かしくて物思いに沈んでいらっしゃる。春宮には、卯月ころとご予定になっていたので、とてもたまらなく悩んでいらっしゃったが、男も、お捜しになるにも手がかりがないわけではないが、どちらとも分からず、特に好ましく思っておられないご一族に関係するのも、体裁の悪く思い悩んでいらっしゃるところに、弥生の二十日過ぎ、右の大殿の弓の結があり、上達部,親王方,大勢お集まりになって、引き続いて藤の宴をなさる。<BR>⏎ 花盛りは過ぎてしまったが、「他のが散りってしまった後に」と,教えられたのであろうか、遅れて咲く桜、二本がとても美しい。新しくお造りになった殿を、姫宮たちの御裳着の儀式の日に、磨き飾り立ててある。派手好みでいらっしゃるご家風のようで、すべて当世風に洒落た行き方になさている。<BR>⏎ 源氏の君にも、先日、宮中でお会いした折に、ご案内申し上げなさったが、おいでにならないので、残念で、折角の催しも見栄えがしない,とお思いになって、ご子息の四位少将をお迎えに差し上げなさる。<BR>⏎ 「わたしの邸の藤の花が世間一般の色をしているのなら<BR> どうしてあなたをお待ち致しましょうか」<BR>⏎ |
| c2 | 99-100 | 「わざわざお迎えがあるようだから、早くお行きになるのがよい。女御子たちも成長なさっている所だから、赤の他人とは思っていまいよ」<BR>⏎ などと仰せになる。御装束などお整えになって、たいそう日が暮れたころ、待ち兼ねられて、お着きになる。<BR>⏎ | 86-87 | 「わざわざお迎えがあるようだから、早くお行きになるのがよい。女御子たちも 成長なさっている所だから、赤の他人とは思っていまいよ」<BR>⏎ などと仰せになる。御装束などお整えになって、たいそう日が暮れたころ、待ち兼ねられて,お着きになる。<BR>⏎ |
| c3 | 104-106 | 「苦しいところに、とてもひどく勧められて、困っております。恐縮ですが、この辺の物蔭にでも隠させてください」<BR>⏎ と言って、妻戸の御簾を引き被りなさると、<BR>⏎ 「あら、困りますわ。身分の賎しい人なら、高貴な縁者を頼って来るとは聞いておりますが」<BR>⏎ | 91-93 | 「苦しいところに、とてもひどく勧められて、困っております。恐縮ですが、この辺の物蔭にでも 隠させてください」<BR>⏎ と言って,妻戸の御簾を引き被りなさると、<BR>⏎ 「あら,困りますわ。身分の賎しい人なら、高貴な縁者を頼って来るとは聞いておりますが」<BR>⏎ |
| c1 | 110 | と、わざとのんびりとした声で言って、近寄ってお座りになった。<BR>⏎ | 97 | と,わざとのんびりとした声で言って、近寄ってお座りになった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 112-114 | と答えるのは、事情を知らない人であろう。返事はしないで、わずかに時々、溜息をついている様子のする方に寄り掛かって、几帳越しに、手を捉えて、<BR>⏎ 「月の入るいるさの山の周辺でうろうろと迷っています<BR>⏎ かすかに見かけた月をまた見ることができようかと<BR>⏎ | 99-100 | と答えるのは、事情を知らない人であろう。返事はしないで、わずかに時々、溜息をついている様子のする方に寄り掛かって、几帳越しに,手を捉えて、<BR>⏎ 「月の入るいるさの山の周辺でうろうろと迷っています<BR> かすかに見かけた月をまた見ることができようかと<BR>⏎ |
| cd3:2 | 116-118 | と、当て推量におっしゃるのを、堪えきれないのであろう。<BR>⏎ 「本当に深くご執心でいらっしゃれば<BR>⏎ たとえ月が出ていなくても迷うことがありましょうか」<BR>⏎ | 102-103 | と,当て推量におっしゃるのを、堪えきれないのであろう。<BR>⏎ 「本当に深くご執心でいらっしゃれば<BR> たとえ月が出ていなくても迷うことがありましょうか」<BR>⏎ |
| d2 | 120-121 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 129 | ⏎ | ||
| i0 | 116 | |||
| diff | src/original/version09.html | src/modified/version09.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version09 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 40 | <P>⏎ | ||
| version09 | 41 | <H4>第一章 六条御息所の物語 御禊見物の車争いの物語</H4> | 37 | |
| version09 | 42 | <A NAME="in11">[第一段 朱雀帝即位後の光る源氏]</A><BR> | 38 | |
| cd2:1 | 44-45 | 今では、以前にも増して、臣下の夫婦のようにお側においであそばすのを、今后は不愉快にお思いなのか、宮中にばかり伺候していらっしゃるので、競争者もなく気楽そうである。折々につけては、管弦の御遊などを興趣深く、世間に評判になるほどに繰り返しお催しあそばして、現在のご生活のほうがかえって結構である。ただ、春宮のことだけをとても恋しく思い申し上げあそばす。ご後見役のいないのを、気がかりにお思い申されて、大将の君に万事ご依頼申し上げるにつけても、気の咎める思いがする一方で、嬉しいとお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 40 | 今では、以前にも増して、臣下の夫婦のようにお側においであそばすのを、今后は不愉快にお思いなのか、宮中にばかり伺候していらっしゃるので、競争者もなく気楽そうである。折々につけては、管弦の御遊などを興趣深く、世間に評判になるほどに繰り返しお催しあそばして、現在のご生活のほうがかえって結構である。ただ,春宮のことだけをとても恋しく思い申し上げあそばす。ご後見役のいないのを、気がかりにお思い申されて、大将の君に万事ご依頼申し上げるにつけても、気の咎める思いがする一方で、嬉しいとお思いになる。<BR>⏎ |
| c2 | 48-49 | 「故宮がたいそう重々しくお思いおかれ、ご寵愛なさったのに、軽々しく並の女性と同じように扱っているそうなのが、気の毒なこと。斎宮をも、わが皇女たちと同じように思っているのだから、どちらからいっても疎略にしないのがよかろう。気まぐれにまかせて、このような浮気をするのは、まことに世間の非難を受けるにちがいない事である」<BR>⏎ などと、御機嫌悪いので、ご自分でも、仰せのとおりだと思わずにはいられないので、恐縮して控えていらっしゃる。<BR>⏎ | 43-44 | 「故宮がたいそう重々しくお思いおかれ、ご寵愛なさったのに、軽々しく並の女性と同じように扱っているそうなのが、気の毒なこと。斎宮をも、わが皇女たちと同じように思っているのだから、どちらからいっても、疎略にしないのがよかろう。気まぐれにまかせて、このような浮気をするのは、まことに世間の非難を受けるにちがいない事である」<BR>⏎ などと,御機嫌悪いので、ご自分でも、仰せのとおりだと思わずにはいられないので、恐縮して控えていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c2 | 51-52 | と仰せになるにつけても、「不届きな大それた不埒さをお聞きつけあそばした時には」と恐ろしいので、恐縮して退出なさった。<BR>⏎ また一方、このように院におかれてもお耳に入れられ、御訓戒あそばされるのにつけ、相手のご名誉のためにも、自分にとっても、好色がましく困ったことであるので、以前にも増して大切に思い、気の毒にお思い申し上げていられるが、まだ表面立っては、特別にお扱い申し上げなさらない。<BR>⏎ | 46-47 | と仰せになるにつけても、「不届きな大それた不埒さをお聞きつけあそばした時には」と、恐ろしいので、恐縮して退出なさった。<BR>⏎ また一方,このように院におかれてもお耳に入れられ、御訓戒あそばされるのにつけ、相手のご名誉のためにも、自分にとっても、好色がましく困ったことであるので、以前にも増して大切に思い、気の毒にお思い申し上げていられるが、まだ表面立っては、特別にお扱い申し上げなさらない。<BR>⏎ |
| d1 | 54 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 55-56 | このようなことをお聞きになるにつけても、朝顔の姫君は、「何としても、人の二の舞は演じまい」と固く決心なさっているので、ちょっとしたお返事なども、ほとんどない。そうかといって、憎らしく体裁悪い思いをさせなさらないご様子を、君も、「やはり格別である」と思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 49 | このようなことをお聞きになるにつけても、朝顔の姫君は、「何としても,人の二の舞は演じまい」と固く決心なさっているので、ちょっとしたお返事なども、ほとんどない。そうかといって、憎らしく、体裁悪い思いをさせなさらないご様子を、君も、「やはり格別である」と思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 58 | <P>⏎ | ||
| version09 | 59 | <A NAME="in12">[第二段 新斎院御禊の見物]</A><BR> | 51 | |
| c1 | 60 | そのころ、斎院も退下なさって、皇太后腹の女三の宮がおなりになった。帝、大后と、特にお思い申し上げていらっしゃる宮なので、神にお仕えする身におなりになるのを、まことに辛くおぼし召されたが、他の姫宮たちで適当な方がいらっしゃらない。儀式など、規定の神事であるが、盛大な騷ぎである。祭の時は、規定のある公事に付け加えることが多くあり、この上ない見物である。お人柄によると思われた。<BR>⏎ | 52 | そのころ、斎院も退下なさって、皇太后腹の女三の宮がおなりになった。帝,大后と、特にお思い申し上げていらっしゃる宮なので、神にお仕えする身におなりになるのを、まことに辛くおぼし召されたが、他の姫宮たちで適当な方がいらっしゃらない。儀式など、規定の神事であるが、盛大な騷ぎである。祭の時は、規定のある公事に付け加えることが多くあり、この上ない見物である。お人柄によると思われた。<BR>⏎ |
| c1 | 64 | 「さあ、どんなものでしょうか。わたくしどもだけでこっそり見物するのでは、ぱあっとしないでしょう。関係のない人でさえ、今日の見物には、まず大将殿をと、賎しい田舎者までが拝見しようと言うことですよ。遠い国々から、妻子を引き連れ引き連れして上京して来ると言いますのに。御覧にならないのは、あまりなことでございますわ」<BR>⏎ | 56 | 「さあ,どんなものでしょうか。わたくしどもだけでこっそり見物するのでは、ぱあっとしないでしょう。関係のない人でさえ、今日の見物には、まず大将殿をと、賎しい田舎者までが拝見しようと言うことですよ。遠い国々から、妻子を引き連れ引き連れして上京して来ると言いますのに。御覧にならないのは、あまりなことでございますわ」<BR>⏎ |
| cd5:4 | 67-71 | と言って、急にお触れを廻しなさって、ご見物なさる。<BR>⏎ <P>⏎ 日が高くなってから、お支度も特別なふうでなくお出かけになった。隙間もなく立ち混んでいる所に、物々しく引き連ねて場所を探しあぐねる。身分の高い女車が多いので、下々の者のいない隙間を見つけて、みな退けさせた中に、網代車で少し使い馴れたのが、下簾の様子などが趣味がよいうえに、とても奥深く乗って、わずかに見える袖口、裳の裾、汗衫などの衣装の色合、とても美しくて、わざと質素にしている様子がはっきりと分かる車が、二台ある。<BR>⏎ 「この車は、決して、そのように押し退けたりしてよいお車ではありませぬ」<BR>⏎ と、言い張って、手を触れさせない。どちらの側も、若い供人同士が酔い過ぎて、争っている事なので、制止することができない。年輩のご前駆の人々は、「そんなことするな」などと言うが、とても制止することができない。<BR>⏎ | 59-62 | と言って,急にお触れを廻しなさって、ご見物なさる。<BR>⏎ 日が高くなってから、お支度も特別なふうでなくお出かけになった。隙間もなく立ち混んでいる所に、物々しく引き連ねて場所を探しあぐねる。身分の高い女車が多いので、下々の者のいない隙間を見つけて、みな退けさせた中に、網代車で少し使い馴れたのが、下簾の様子などが趣味がよいうえに、とても奥深く乗って、わずかに見える袖口、裳の裾、汗衫などの、衣装の色合、とても美しくて、わざと質素にしている様子がはっきりと分かる車が、二台ある。<BR>⏎ 「この車は,決して、そのように押し退けたりしてよいお車ではありませぬ」<BR>⏎ と,言い張って、手を触れさせない。どちらの側も、若い供人同士が酔い過ぎて、争っている事なので、制止することができない。年輩のご前駆の人々は、「そんなことするな」などと言うが、とても制止することができない。<BR>⏎ |
| c1 | 76 | とうとう、お車を立ち並べてしまったので、副車の奥の方に押しやられて、何も見えない。悔しい気持ちはもとより、このような忍び姿を自分と知られてしまったのが、ひどく悔しいこと、この上ない。榻などもみなへし折られて、場違いな車の轂に掛けたので、またとなく体裁が悪く悔しく、「いったい何しに、来たのだろう」と思ってもどうすることもできない。見物を止めて帰ろうとなさるが、抜け出る隙間もないでいるところに、<BR>⏎ | 67 | とうとう,お車を立ち並べてしまったので、副車の奥の方に押しやられて、何も見えない。悔しい気持ちはもとより、このような忍び姿を自分と知られてしまったのが、ひどく悔しいこと、この上ない。榻などもみなへし折られて、場違いな車の轂に掛けたので、またとなく体裁が悪く、悔しく、「いったい何しに、来たのだろう」と思ってもどうすることもできない。見物を止めて帰ろうとなさるが、抜け出る隙間もないでいるところに、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 79-82 | なるほど、いつもより趣向を凝らした幾台もの車が、自分こそはと競って見せている出衣の下簾の隙間隙間も、何くわぬ顔だが、ほほ笑みながら流し目に目をお止めになる者もいる。大殿の車は、それとはっきり分かるので、真面目な顔をしてお通りになる。お供の人々がうやうやしく、敬意を表しながら通るのを、すっかり無視されてしまった有様、この上なく堪らなくお思いになる。<BR>⏎ 「今日の御禊にお姿をちらりと見たばかりで<BR>⏎ そのつれなさにかえって我が身の不幸せがますます思い知られる」<BR>⏎ と、思わず涙のこぼれるのを、女房の見る目も体裁が悪いが、目映いばかりのご様子、容貌が、「一層の晴れの場でのお姿を見なかったら」とお思いになる。<BR>⏎ | 70-72 | なるほど,いつもより趣向を凝らした幾台もの車が、自分こそはと競って見せている出衣の下簾の隙間隙間も、何くわぬ顔だが、ほほ笑みながら流し目に目をお止めになる者もいる。大殿の車は、それとはっきり分かるので、真面目な顔をしてお通りになる。お供の人々がうやうやしく、敬意を表しながら通るのを、すっかり無視されてしまった有様、この上なく堪らなくお思いになる。<BR>⏎ 「今日の御禊にお姿をちらりと見たばかりで<BR> そのつれなさにかえって我が身の不幸せがますます思い知られる」<BR>⏎ と,思わず涙のこぼれるのを、女房の見る目も体裁が悪いが、目映いばかりのご様子、容貌が、「一層の晴れの場でのお姿を見なかったら」とお思いになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 84-86 | 壷装束などという姿をして、女房で賎しくない者や、また尼などの世を捨てた者なども、倒れたりふらついたりしながら見物に出て来ているのも、いつもなら、「よせばいいのに、ああみっともない」と思われるのに、今日は無理もないことで、口もとがすぼんで、髪を着込んだ下女どもが、手を合わせて、額に当てながら拝み申し上げているのも。馬鹿面した下男までが、自分の顔がどんな顔になっているのかも考えずに嬉色満面でいる。まったくお目を止めになることもないつまらない受領の娘などまでが、精一杯飾り立てた車に乗り、わざとらしく気取っているのが、おもしろいさまざまな見物であった。<BR>⏎ まして、あちらこちらのお忍びでお通いになる方々は、人数にも入らない嘆きを募らせる方も多かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 74-75 | 壷装束などという姿をして、女房で賎しくない者や、また尼などの世を捨てた者なども、倒れたりふらついたりしながら、見物に出て来ているのも、いつもなら、「よせばいいのに、ああみっともない」と思われるのに、今日は無理もないことで、口もとがすぼんで、髪を着込んだ下女どもが、手を合わせて、額に当てながら拝み申し上げているのも。馬鹿面した下男までが、自分の顔がどんな顔になっているのかも考えずに嬉色満面でいる。まったくお目を止めになることもない、つまらない受領の娘などまでが、精一杯飾り立てた車に乗り、わざとらしく気取っているのが、おもしろいさまざまな見物であった。<BR>⏎ まして,あちらこちらのお忍びでお通いになる方々は、人数にも入らない嘆きを募らせる方も、多かった。<BR>⏎ |
| cd8:6 | 89-96 | と、不吉にお思いになっていた。姫君は、数年来お手紙をお寄せ申していらっしゃるお気持ちが世間の男性とは違っているのを、<BR>⏎ 「並の男でさえこれだけ深い愛情をお持ちならば。ましてや、こんなにも、どうして」<BR>⏎ と、お心が惹かれた。それ以上近づいてお逢いなさろうとまではお考えにならない。若い女房たちは、聞き苦しいまでにお褒め申し上げていた。<BR>⏎ <P>⏎ 祭の日は、大殿におかれてはご見物なさらない。大将の君、あのお車の場所争いをそっくりご報告する者があったので、「とても気の毒に情けない」とお思いになって、<BR>⏎ 「やはり、惜しいことに重々しい方でいらっしゃる人が、何事にも情愛に欠けて、無愛想なところがおありになるあまり、ご自身はさほどお思いにならなかったようだが、このような妻妾の間柄では情愛を交わしあうべきだともお思いでないお考え方に従って、引き継いで下々の者が争いをさせたのであろう。御息所は、気立てがとてもこちらが気が引けるほど奥ゆかしく、上品でいらっしゃるのに、どんなに嫌な思いをされたことだろう」<BR>⏎ と、気の毒に思って、お見舞いに参上なさったが、斎宮がまだ元の御殿にいらっしゃるので、神事の憚りを口実にして、気安くお会いなさらない。もっともなことだとはお思いになるが、「どうして、こんなにお互いによそよそしくなさらずいらっしゃればよいものを」と、ついご不満が呟かれる。<BR>⏎ <P>⏎ | 78-83 | と,不吉にお思いになっていた。姫君は、数年来お手紙をお寄せ申していらっしゃるお気持ちが世間の男性とは違っているのを、<BR>⏎ 「並の男でさえこれだけ深い愛情をお持ちならば。ましてや,こんなにも,どうして」<BR>⏎ と,お心が惹かれた。それ以上近づいてお逢いなさろうとまではお考えにならない。若い女房たちは、聞き苦しいまでにお褒め申し上げていた。<BR>⏎ 祭の日は、大殿におかれてはご見物なさらない。大将の君、あのお車の場所争いを、そっくりご報告する者があったので、「とても気の毒に情けない」とお思いになって、<BR>⏎ 「やはり,惜しいことに重々しい方でいらっしゃる人が、何事にも情愛に欠けて、無愛想なところがおありになるあまり、ご自身はさほどお思いにならなかったようだが、このような妻妾の間柄では情愛を交わしあうべきだともお思いでないお考え方に従って、引き継いで下々の者が争いをさせたのであろう。御息所は、気立てがとてもこちらが気が引けるほど奥ゆかしく、上品でいらっしゃるのに、どんなに嫌な思いをされたことだろう」<BR>⏎ と,気の毒に思って、お見舞いに参上なさったが、斎宮がまだ元の御殿にいらっしゃるので、神事の憚りを口実にして、気安くお会いなさらない。もっともなことだとはお思いになるが、「どうして,こんなにお互いによそよそしくなさらずいらっしゃればよいものを」と、ついご不満が呟かれる。<BR>⏎ |
| version09 | 97 | <A NAME="in13">[第三段 賀茂祭の当日、紫の君と見物]</A><BR> | 84 | |
| c7 | 102-108 | と言って、お髪がいつもより美しく見えるので、かき撫でなさって、<BR>⏎ 「長い間、お切り揃えにならなかったようだが、今日は、日柄も吉いのだろうかな」<BR>⏎ と言って、暦の博士をお呼びになって、時刻を調べさせたりしていらっしゃる間に、<BR>⏎ 「まずは、女房たちから出発だよ」<BR>⏎ と言って、童女の姿態のかわいらしいのを御覧になる。とてもかわいらしげな髪の裾、皆こざっぱりと削いで、浮紋の表の袴に掛かっている様子が、くっきりと見える。<BR>⏎ 「あなたのお髪は、わたしが削ごう」と言って、「何と嫌に、たくさんあるのだね。どんなに長くおなりになることだろう」<BR>⏎ と、削ぐのにお困りになる。<BR>⏎ | 89-95 | と言って,お髪がいつもより美しく見えるので、かき撫でなさって、<BR>⏎ 「長い間お切り揃えにならなかったようだが、今日は、日柄も吉いのだろうかな」<BR>⏎ と言って,暦の博士をお呼びになって、時刻を調べさせたりしていらっしゃる間に、<BR>⏎ 「まずは,女房たちから出発だよ」<BR>⏎ と言って,童女の姿態のかわいらしいのを御覧になる。とてもかわいらしげな髪の裾、皆こざっぱりと削いで、浮紋の表の袴に掛かっている様子が、くっきりと見える。<BR>⏎ 「あなたのお髪は、わたしが削ごう」と言って、「何と嫌に,たくさんあるのだね。どんなに長くおなりになることだろう」<BR>⏎ と,削ぐのにお困りになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 110-112 | と言って、削ぎ終わって、「千尋に」とお祝い言をお申し上げになるのを、少納言、「何とももったいないことよ」と拝し上げる。<BR>⏎ 「限りなく深い海の底に生える海松のように<BR>⏎ 豊かに成長してゆく黒髪はわたしだけが見届けよう」<BR>⏎ | 97-98 | と言って,削ぎ終わって、「千尋に」とお祝い言をお申し上げになるのを、少納言、「何とももったいないことよ」と拝し上げる。<BR>⏎ 「限りなく深い海の底に生える海松のように<BR> 豊かに成長してゆく黒髪はわたしだけが見届けよう」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 114-117 | 「千尋も深い愛情を誓われてもがどうして分りましょう<BR>⏎ 満ちたり干いたり定めない潮のようなあなたですもの」<BR>⏎ と、何かに書きつけていられる様子、いかにも物慣れている感じがするが、初々しく美しいのを、素晴らしいとお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 100-101 | 「千尋も深い愛情を誓われてもがどうして分りましょう<BR> 満ちたり干いたり定めない潮のようなあなたですもの」<BR>⏎ と,何かに書きつけていられる様子、いかにも物慣れている感じがするが、初々しく美しいのを、素晴らしいとお思いになる。<BR>⏎ |
| c1 | 120 | と、ためらっていらっしゃると、まあまあの女車で、派手に袖口を出している所から、扇を差し出して、供人を招き寄せて、<BR>⏎ | 104 | と,ためらっていらっしゃると、まあまあの女車で、派手に袖口を出している所から、扇を差し出して、供人を招き寄せて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 125-126 | 「あら情けなや、他の人と同車なさっているとは<BR>⏎ 神の許す今日の機会を待っていましたのに<BR>⏎ | 109 | 「あら情けなや、他の人と同車なさっているとは<BR> 神の許す今日の機会を待っていましたのに<BR>⏎ |
| cd2:1 | 129-130 | 「そのようにおっしゃるあなたの心こそ当てにならないものと思いますよ<BR>⏎ たくさんの人々に誰彼となく靡くものですから」<BR>⏎ | 112 | 「そのようにおっしゃるあなたの心こそ当てにならないものと思いますよ<BR> たくさんの人々に誰彼となく靡くものですから」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 132-133 | 「ああ悔しい、葵に逢う日を当てに楽しみにしていたのに<BR>⏎ わたしは期待を抱かせるだけの草葉に過ぎないのですか」<BR>⏎ | 114 | 「ああ悔しい、葵に逢う日を当てに楽しみにしていたのに<BR> わたしは期待を抱かせるだけの草葉に過ぎないのですか」<BR>⏎ |
| d1 | 136 | <P>⏎ | ||
| version09 | 137 | <H4>第二章 葵の上の物語 六条御息所がもののけとなってとり憑く物語</H4> | 117 | |
| version09 | 138 | <A NAME="in21">[第一段 車争い後の六条御息所]</A><BR> | 118 | |
| c1 | 139 | 御息所は、心魂の煩悶なさること、ここ数年来よりも多く加わってしまった。薄情な方とすっかりお諦めになったが、今日を最後と振り切ってお下りになるのは、「とても心細いだろうし、世間の人の噂にも、物笑いの種になるだろうこと」とお思いになる。それだからといって、京に留まるようなお気持ちになるためには、「あの時のようなこれ以上の恥はないほどに誰もが見下げることであろうのも穏やかでなく、釣する海人の浮きか」と、寝ても起きても悩んでいられるせいか、魂も浮いたようにお感じになられて、お具合が悪くいらっしゃる。<BR>⏎ | 119 | 御息所は、心魂の煩悶なさること、ここ数年来よりも多く加わってしまった。薄情な方とすっかりお諦めになったが、今日を最後と振り切ってお下りになるのは、「とても心細いだろうし、世間の人の噂にも,物笑いの種になるだろうこと」とお思いになる。それだからといって、京に留まるようなお気持ちになるためには、「あの時のようなこれ以上の恥はないほどに誰もが見下げることであろうのも穏やかでなく、釣する海人の浮きか」と、寝ても起きても悩んでいられるせいか、魂も浮いたようにお感じになられて、お具合が悪くいらっしゃる。<BR>⏎ |
| c2 | 141-142 | 「わたしのようなつまらない者を、見るのも嫌だとお思い捨てなさるのもごもっともですが、今はやはりつまらない男でも、最後までお見限りなさらないのが、浅からぬ情愛というものではないでしょうか」<BR>⏎ と、絡んで申し上げなさるので、決心しかねていらしたお気持ちも紛れることがあろうかと、外出なさった御禊見物の辛い経験から、いっそう、万事がとても辛くお思いつめになっていた。<BR>⏎ | 121-122 | 「わたしのようなつまらない者を、見るのも嫌だとお思い捨てなさるのもごもっともですが、今はやはり つまらない男でも、最後までお見限りなさらないのが、浅からぬ情愛というものではないでしょうか」<BR>⏎ と,絡んで申し上げなさるので、決心しかねていらしたお気持ちも紛れることがあろうかと、外出なさった御禊見物の辛い経験から、いっそう,万事がとても辛くお思いつめになっていた。<BR>⏎ |
| c1 | 144 | 物の怪、生霊などというものがたくさん出てきて、いろいろな名乗りを上げる中で、憑坐にも一向に移らず、ただご本人のお身体にぴったりと憑いた状態で、特に大変にお悩ませ申すこともないが、その一方で、暫しの間も離れることのないのが一つある。すぐれた験者どもにも調伏されず、しつこい様子は並の物の怪ではない、と見えた。<BR>⏎ | 124 | 物の怪、生霊などというものがたくさん出てきて、いろいろな名乗りを上げる中で、憑坐にも一向に移らず、ただご本人のお身体にぴったりと憑いた状態で、特に大変にお悩ませ申すこともないが、その一方で,暫しの間も離れることのないのが一つある。すぐれた験者どもにも調伏されず、しつこい様子は並の物の怪ではない、と見えた。<BR>⏎ |
| c1 | 147 | とささやいて、占師に占わせなさるが、特にお当て申すこともない。物の怪といっても、特別に深いお敵と申す人もいない。亡くなったおん乳母のような人、もしくは親の血筋に代々祟り続けてきた怨霊が、弱みにつけこんで現れ出たものなど、大したものではないのがばらばらに出て来る。たださめざめと声を上げてお泣きになるばかりで、時々は胸をせき上げせき上げして、ひどく堪え難そうにもだえていられるので、どのようにおなりになるのかと、不吉に悲しくお慌てになっていた。<BR>⏎ | 127 | とささやいて、占師に占わせなさるが、特にお当て申すこともない。物の怪といっても、特別に深いお敵と申す人もいない。亡くなったおん乳母のような人、もしくは親の血筋に代々祟り続けてきた怨霊が、弱みにつけこんで現れ出たものなど、大したものではないのがばらばらに出て来る。たださめざめと 声を上げてお泣きになるばかりで、時々は胸をせき上げせき上げして、ひどく堪え難そうにもだえていられるので、どのようにおなりになるのかと、不吉に悲しくお慌てになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 150 | <P>⏎ | ||
| version09 | 151 | <A NAME="in22">[第二段 源氏、御息所を旅所に見舞う]</A><BR> | 130 | |
| c2 | 155-156 | などと、こまごまとお話し申し上げなさる。いつもよりも痛々しげなご様子を、無理もないことと、しみじみ哀れに拝見なさる。<BR>⏎ 打ち解けぬままの明け方に、お帰りになるお姿の美しさにつけても、やはり振り切って別れることは、考え直さずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 134-135 | などと,こまごまとお話し申し上げなさる。いつもよりも痛々しげなご様子を、無理もないことと、しみじみ哀れに拝見なさる。<BR>⏎ 打ち解けぬままの明け方に、お帰りになるお姿の美しさにつけても、やはり振り切って別れることは,考え直さずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 161-162 | 「袖を濡らす恋とは分かっていながら<BR>⏎ そうなってしまうわが身の疎ましいことよ<BR>⏎ | 140 | 「袖を濡らす恋とは分かっていながら<BR> そうなってしまうわが身の疎ましいことよ<BR>⏎ |
| c1 | 164 | とある。「ご筆跡は、やはり数多い女性の中で抜きん出ている」と御覧になりながら、「どうしてこうも思うようにならないのかなあ。気立ても容貌も、それぞれに捨ててよいものでなく、その反面これぞと思える人もいないことだ」。苦しくお思いになる。お返事は、たいそう暗くなってしまったが、<BR>⏎ | 142 | とある。「ご筆跡は、やはり数多い女性の中で抜きん出ている」と御覧になりながら、「どうしてこうも思うようにならないのかなあ。気立ても容貌も、それぞれに捨ててよいものでなく、その反面これぞと思える人もいないことだ」苦しくお思いになる。お返事は、たいそう暗くなってしまったが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 166-167 | 袖が濡れるとは浅い所にお立ちだからでしょう<BR>⏎ わたしは全身ずぶ濡れになるほど深い所に立っております<BR>⏎ | 144 | 袖が濡れるとは浅い所にお立ちだからでしょう<BR> わたしは全身ずぶ濡れになるほど深い所に立っております<BR>⏎ |
| d1 | 170 | <P>⏎ | ||
| version09 | 171 | <A NAME="in23">[第三段 葵の上に御息所のもののけ出現する]</A><BR> | 147 | |
| c1 | 174 | と、お気づきになることもある。<BR>⏎ | 150 | と,お気づきになることもある。<BR>⏎ |
| c2 | 176-177 | 「ああ、何と忌まわしいことか。なるほど、身体を抜け出して出て行ったのだろう」と、正気を失ったように思われなさる時が度々あるので、「何でもないことでさえも、他人の事では、よいような噂は立てないのが世間の常なので、ましてこのことは、何とでも噂立てられる絶好の種だ」とお思いになると、とても評判になりそうで、<BR>⏎ 「もう亡くなってしまって、後に怨みを残すのは世間にもあることだ。それでさえ、人の身の上については、罪深く忌まわしいのに、生きている身でありながら、そのような忌まわしいことを、噂される因縁の辛いこと。もう一切、薄情な方に決して心をお掛け申すまい」<BR>⏎ | 152-153 | 「ああ,何と忌まわしいことか。なるほど,身体を抜け出して 出て行ったのだろう」と、正気を失ったように思われなさる時が度々あるので、「何でもないことでさえも、他人の事では、よいような噂は立てないのが世間の常なので、ましてこのことは、何とでも噂立てられる絶好の種だ」とお思いになると、とても評判になりそうで、<BR>⏎ 「もう亡くなってしまって、後に怨みを残すのは世間にもあることだ。それでさえ、人の身の上については、罪深く忌まわしいのに、生きている身でありながら、そのような忌まわしいことを,噂される因縁の辛いこと。もう一切、薄情な方に決して心をお掛け申すまい」<BR>⏎ |
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| version09 | 180 | <A NAME="in24">[第四段 斎宮、秋に宮中の初斎院に入る]</A><BR> | 155 | |
| c2 | 182-183 | ひどく苦しいという様子ではなく、どこが悪いということもなくて、月日をお過ごしになる。大将殿も欠かさずお見舞い申し上げなさるが、さらに大事な方がひどく患っていられるので、お気持ちの余裕がないようである。<BR>⏎ まだその時期ではないと、誰も彼もが油断していられたところ、急に産気づかれてお苦しみになるので、これまで以上の御祈祷の有りったけを尽くしておさせになるが、例の執念深い物の怪が一つだけ全然動かず、霊験あらたかな験者どもは、珍しいことだと困惑する。とはいっても、たいそう調伏されて、いたいたしげに泣き苦しんで、<BR>⏎ | 157-158 | ひどく苦しいという様子ではなく、どこが悪いということもなくて、月日をお過ごしになる。大将殿も 欠かさずお見舞い申し上げなさるが、さらに大事な方がひどく患っていられるので、お気持ちの余裕がないようである。<BR>⏎ まだその時期ではないと、誰も彼もが油断していられたところ、急に産気づかれて お苦しみになるので、これまで以上の御祈祷の 有りったけを尽くしておさせになるが、例の執念深い物の怪が一つだけ 全然動かず、霊験あらたかな験者どもは、珍しいことだと困惑する。とはいっても、たいそう調伏されて、いたいたしげに泣き苦しんで、<BR>⏎ |
| c5 | 186-190 | と言って、近くの御几帳の側にお入れ申し上げた。とてももうだめかと思われるような容態でいられるので、ご遺言申し上げて置きたいことでもあるのだろうかと思って、大臣も宮も少しお下がりになった。加持の僧どもは、声を低めて法華経を読んでいる、たいそう尊い。<BR>⏎ 御几帳の帷子を引き上げて拝見なさると、とても美しいお姿で、お腹はたいそう大きくて臥していられる様子、他人であっても、拝見しては心動かさずにはいられないであろう。まして惜しく悲しくお思いになるのは、もっともである。白いお着物に、色合いがとてもくっきりとして、髪がとても長くて豊かなのを、引き結んで横に添えてあるのも、「こうあってこそかわいらしげで優美な点が加わり美しいのだなあ」と見える。お手を取って、<BR>⏎ 「ああ、ひどい。辛い思いをおさせになるとは」<BR>⏎ と言って、何も申し上げられずにお泣きになると、いつもはとても煩わしく気が引けて近づきがたいまなざしを、とても苦しそうに見上げて、じっとお見つめ申していらっしゃると、涙がこぼれる様子を御覧になるのは、どうして情愛を浅く思うであろうか。<BR>⏎ あまりひどくお泣きになるので、「気の毒なご両親のことをご心配され、また、このように御覧になるにつけても、残念にお思いになってのことだろうか」とお思いになって、<BR>⏎ | 161-165 | と言って,近くの御几帳の側にお入れ申し上げた。とてももうだめかと思われるような容態でいられるので、ご遺言申し上げて置きたいことでもあるのだろうかと思って、大臣も宮も少しお下がりになった。加持の僧どもは、声を低めて法華経を読んでいる、たいそう尊い。<BR>⏎ 御几帳の帷子を引き上げて拝見なさると、とても美しいお姿で、お腹はたいそう大きくて臥していられる様子、他人であっても、拝見しては心動かさずにはいられないであろう。まして惜しく悲しくお思いになるのは、もっともである。白いお着物に、色合いがとてもくっきりとして、髪がとても長くて豊かなのを、引き結んで横に添えてあるのも、「こうあってこそ かわいらしげで優美な点が加わり美しいのだなあ」と見える。お手を取って、<BR>⏎ 「ああ,ひどい。辛い思いをおさせになるとは」<BR>⏎ と言って,何も申し上げられずにお泣きになると、いつもはとても煩わしく気が引けて近づきがたいまなざしを、とても苦しそうに見上げて、じっとお見つめ申していらっしゃると、涙がこぼれる様子を御覧になるのは、どうして情愛を浅く思うであろうか。<BR>⏎ あまりひどくお泣きになるので、「気の毒なご両親のことをご心配され、また,このように御覧になるにつけても、残念にお思いになってのことだろうか」とお思いになって、<BR>⏎ |
| cd6:5 | 192-197 | と、お慰めになると、<BR>⏎ 「いえ、そうではありません。身体がとても苦しいので、少し休めて下さいと申そうと思って。このように参上しようとはまったく思わないのに、物思いする人の魂は、なるほど抜け出るものだったのですね」<BR>⏎ と、親しげに言って、<BR>⏎ 「悲しみに堪えかねて抜け出たわたしの魂を<BR>⏎ 結び留めてください、下前の褄を結んで」<BR>⏎ とおっしゃる声、雰囲気、この人ではなく、変わっていらっしゃった。「たいそう変だ」とお考えめぐらすと、まったく、あの御息所その人なのであった。あきれて、人が何かと噂をするのを、下々の者たちが言い出したことも、聞くに耐えないとお思いになって、無視していられたが、目の前にまざまざと、「本当に、このようなこともあったのだ」と、気味悪くなった。「ああ、嫌な」と思わずにはいらっしゃれず、<BR>⏎ | 167-171 | と,お慰めになると、<BR>⏎ 「いえ,そうではありません。身体がとても苦しいので、少し休めて下さいと申そうと思って。このように参上しようとはまったく思わないのに、物思いする人の魂は、なるほど抜け出るものだったのですね」<BR>⏎ と,親しげに言って、<BR>⏎ 「悲しみに堪えかねて抜け出たわたしの魂を<BR> 結び留めてください、下前の褄を結んで」<BR>⏎ とおっしゃる声,雰囲気、この人ではなく、変わっていらっしゃった。「たいそう変だ」とお考えめぐらすと、まったく,あの御息所その人なのであった。あきれて、人が何かと噂をするのを、下々の者たちが言い出したことも、聞くに耐えないとお思いになって、無視していられたが、目の前にまざまざと、「本当に、このようなこともあったのだ」と、気味悪くなった。「ああ,嫌な」と思わずにはいらっしゃれず、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 199-200 | とおっしゃると、まったく、その方そっくりのご様子なので、あきれはてるという言い方では平凡である。女房たちがお側近くに参るのも、気が気ではない。<BR>⏎ <P>⏎ | 173 | とおっしゃると、まったく,その方そっくりのご様子なので、あきれはてるという言い方では平凡である。女房たちがお側近くに参るのも、気が気ではない。<BR>⏎ |
| version09 | 201 | <A NAME="in25">[第五段 葵の上、男子を出産]</A><BR> | 174 | |
| c1 | 204 | 大勢の人たちが心を尽くした幾日もの看病の後の緊張が、少し解けて、「今はもう大丈夫」とお思いになる。御修法などは、再びお始めさせなさるが、差し当たっては、楽しくあり、おめでたいお世話に、皆ほっとしている。<BR>⏎ | 177 | 大勢の人たちが心を尽くした幾日もの看病の後の緊張が、少し解けて、「今はもう大丈夫」とお思いになる。御修法などは、再びお始めさせなさるが、差し当たっては,楽しくあり、おめでたいお世話に、皆ほっとしている。<BR>⏎ |
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| c1 | 208 | 不思議に、自分が自分でないようなご気分を思い辿って御覧になると、お召物なども、すっかり芥子の香が滲み着いている奇妙さに、髪をお洗いになり、着物をお召し替えになったりなどして、お試しになるが、依然として前と同じようにばかり臭いがするので、自分の身でさえありながら疎ましく思わずにはいらっしゃれないのに、それ以上に、他人が噂し推量するだろう事など、誰にもおっしゃれるような内容でないので、心一つに収めてお嘆きになっていると、ますます気が変になって行く。<BR>⏎ | 180 | 不思議に、自分が自分でないようなご気分を思い辿って御覧になると、お召物なども、すっかり芥子の香が滲み着いている奇妙さに、髪をお洗いになり、着物をお召し替えになったりなどして、お試しになるが、依然として前と同じようにばかり臭いがするので、自分の身でさえありながら疎ましく思わずにはいらっしゃれないのに、それ以上に,他人が噂し推量するだろう事など、誰にもおっしゃれるような内容でないので、心一つに収めてお嘆きになっていると、ますます気が変になって行く。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 210-212 | ひどくお患いになった方の病後が心配で、気を緩めずに、皆がお思いであったので、当然のことなので、お忍び歩きもしない。依然としてひどく悩ましそうにばかりなさっているので、普段のようにはまだお会いになさらない。若君がとても恐いまでにかわいらしくお見えになるお姿を、今から、とても特別にお育て申し上げなさる様子、並大抵でなく、願い通りの感じがして、大臣も嬉しく幸せにお思い申していられるが、ただ、このご気分がすっかりご回復なさらないのを、ご心配になっているが、「あれほど重く患った後だから」とお思いになって、どうして、それほどご心配ばかりなっていられようか。<BR>⏎ <P>⏎ 若君のお目もとのかわいらしさなどが、春宮にそっくりお似申していられるのを、拝見なされても、まっ先に、恋しくお思い出しにならずにはいらっしゃれなくて、堪えがたくて、参内なさろうとして、<BR>⏎ | 182-183 | ひどくお患いになった方の病後が心配で、気を緩めずに、皆がお思いであったので、当然のことなので、お忍び歩きもしない。依然としてひどく悩ましそうにばかりなさっているので、普段のようにはまだお会いになさらない。若君がとても恐いまでにかわいらしくお見えになるお姿を、今から、とても特別にお育て申し上げなさる様子、並大抵でなく、願い通りの感じがして、大臣も嬉しく幸せにお思い申していられるが、ただ,このご気分がすっかりご回復なさらないのを、ご心配になっているが、「あれほど重く患った後だから」とお思いになって、どうして,それほどご心配ばかりなっていられようか。<BR>⏎ 若君のお目もとのかわいらしさなどが、春宮にそっくりお似申していられるのを、拝見なされても、まっ先に,恋しくお思い出しにならずにはいらっしゃれなくて、堪えがたくて、参内なさろうとして、<BR>⏎ |
| c6 | 214-219 | とお怨み申し上げなさると、<BR>⏎ 「仰せのとおりですわ、ただひたすら優美にばかり振る舞うお仲ではありませんが、ひどくおやつれになっていらっしゃるとは申しても、物を隔ててお会いになる間柄ではございませんわ」<BR>⏎ と言って、臥せっていられる所に、お席を近く設けたので、中に入ってお話など申し上げなさる。<BR>⏎ お返事、時々申し上げなさるが、やはりとても弱々しそうである。けれど、もう助からない人とお思い申したご様子をお思い出しになると、夢のような気がして、危なかった時の事などをお話し申し上げなさる中でも、あのすっかり息も止まったかのようになったのが、急に人が変わって、ぽつりぽつりとお話し出されたことをお思い出しになると、不愉快に思われるので、<BR>⏎ 「いや、お話し申したいことはとてもたくさんあるが、まだとても大儀そうなご気分でいられるようですから」<BR>⏎ と言って、「お薬湯をお飲みなさい」などとまで、お世話申し上げなさるのを、いつの間にお覚えになったのだろう、と女房たちは感心申し上げる。<BR>⏎ | 185-190 | と お怨み申し上げなさると、<BR>⏎ 「仰せのとおりですわ,ただひたすら優美にばかり振る舞うお仲ではありませんが、ひどくおやつれになっていらっしゃるとは申しても、物を隔ててお会いになる間柄ではございませんわ」<BR>⏎ と言って,臥せっていられる所に、お席を近く設けたので、中に入ってお話など申し上げなさる。<BR>⏎ お返事、時々申し上げなさるが、やはりとても弱々しそうである。けれど,もう助からない人とお思い申したご様子をお思い出しになると、夢のような気がして、危なかった時の事などをお話し申し上げなさる中でも、あのすっかり息も止まったかのようになったのが、急に人が変わって、ぽつりぽつりとお話し出されたことをお思い出しになると、不愉快に思われるので、<BR>⏎ 「いや,お話し申したいことはとてもたくさんあるが、まだとても大儀そうなご気分でいられるようですから」<BR>⏎ と言って,「お薬湯をお飲みなさい」などとまで、お世話申し上げなさるのを、いつの間にお覚えになったのだろう、と女房たちは感心申し上げる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 221-223 | 「院などに参って、すぐに下がって来ましょう。このようにして、隔てなくお会い申すことができるならば、嬉しいのですが、宮がぴったりと付いていらっしゃるので、不躾ではないかしらと遠慮して来ましたのも辛いが、やはりだんだんと気を強くお持ちになって、いつものご座所に。あまり幼く甘えていられると、一方では、いつまでもこのようなままでいらっしゃいますよ」<BR>⏎ などと、申し上げ置きなさって、とても美しく装束をお召しになってお出かけになるのを、いつもよりは目を凝らして、お見送りしながら臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 192-193 | 「院などに参って、すぐに下がって来ましょう。このようにして、隔てなくお会い申すことができるならば、嬉しいのですが、宮がぴったりと付いていらっしゃるので、不躾ではないかしらと 遠慮して来ましたのも辛いが、やはりだんだんと気を強くお持ちになって、いつものご座所に。あまり幼く甘えていられると、一方では、いつまでもこのようなままでいらっしゃいますよ」<BR>⏎ などと,申し上げ置きなさって、とても美しく装束をお召しになってお出かけになるのを、いつもよりは目を凝らして、お見送りしながら臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version09 | 224 | <A NAME="in26">[第六段 秋の司召の夜、葵の上死去する]</A><BR> | 194 | |
| c2 | 227-228 | 大騒ぎになったのは、夜半頃なので、山の座主、誰それといった僧都たちも、お迎えになれない。いくら何でも、もう大丈夫、と気を緩めていたところに、大変なことになったので、邸の内の人々、まごついている。方々からのご弔問の使者など、立て込んだが、とても取り次ぎできず、上を下への大騷ぎになって、大変なご悲嘆は、まことに恐ろしいまでに見えなさる。<BR>⏎ 物の怪が度々お取り憑き申したことをお考えになって、お枕などもそのままにして、二、三日拝見なさったが、だんだんとお変わりになることどもが現れて来たので、もうこれまで、とお諦めになる時、誰も彼も、本当に悲しい。<BR>⏎ | 197-198 | 大騒ぎになったのは、夜半頃なので、山の座主、誰それといった僧都たちも、お迎えになれない。いくら何でも,もう大丈夫、と気を緩めていたところに、大変なことになったので、邸の内の人々、まごついている。方々からのご弔問の使者など、立て込んだが、とても取り次ぎできず、上を下への大騷ぎになって、大変なご悲嘆は、まことに恐ろしいまでに見えなさる。<BR>⏎ 物の怪が度々お取り憑き申したことをお考えになって、お枕などもそのままにして、二,三日拝見なさったが、だんだんとお変わりになることどもが現れて来たので、もうこれまで、とお諦めになる時、誰も彼も,本当に悲しい。<BR>⏎ |
| d1 | 231 | <P>⏎ | ||
| version09 | 232 | <A NAME="in27">[第七段 葵の上の葬送とその後]</A><BR> | 201 | |
| cd3:1 | 238-240 | 「空に上った煙は雲と混ざり合ってそれと区別がつかないが<BR>⏎ おしなべてどの雲もしみじみと眺められることよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 207 | 「空に上った煙は雲と混ざり合ってそれと区別がつかないが<BR> おしなべてどの雲もしみじみと眺められることよ」<BR>⏎ |
| c5 | 242-246 | 「どうして、最後には自然と分かってくれようと、のんびりと考えて、かりそめの浮気につけても、ひどいと思われ申してしまったのだろう。結婚生活中、親しめない気の置けるものと思って、お亡くなりになってしまったことよ」<BR>⏎ などと、悔やまれることが多く、次々とお思い出しにならずにはいらっしゃれないが、効がない。鈍色の喪服をお召しになるのも、夢のような気がして、「自分が先立ったのならば、色濃くお染めになったろうに」と、お思いになるのまでが、<BR>⏎ 「きまりがあるので薄い色の喪服を着ているが<BR>⏎ 涙で袖は淵のように深く悲しみに濡れている」<BR>⏎ と詠んで、念仏読経なさっている様子、ますます優美な感じが勝って、お経を声をひそめてお読みになりながら、「法界三昧普賢大士」とお唱えになるのは、勤行慣れした法師よりも殊勝である。若君を拝見なさるにつけても、「何を忍ぶよすがに」と、ますます涙がこぼれ出て来たが、「このような子までがいなかったら」と、気をお紛らしになる。<BR>⏎ | 209-213 | 「どうして,最後には自然と分かってくれようと、のんびりと考えて、かりそめの浮気につけても、ひどいと思われ申してしまったのだろう。結婚生活中、親しめない気の置けるものと思って,お亡くなりになってしまったことよ」<BR>⏎ などと,悔やまれることが多く、次々とお思い出しにならずにはいらっしゃれないが、効がない。鈍色の喪服をお召しになるのも、夢のような気がして、「自分が先立ったのならば、色濃くお染めになったろうに」と、お思いになるのまでが、<BR>⏎ 「きまりがあるので薄い色の喪服を着ているが<BR> 涙で袖は淵のように深く悲しみに濡れている」<BR>⏎ と詠んで,念仏読経なさっている様子、ますます優美な感じが勝って、お経を声をひそめてお読みになりながら、<BR>⏎ 「法界三昧普賢大士」とお唱えになるのは、勤行慣れした法師よりも殊勝である。若君を拝見なさるにつけても、「何を忍ぶよすがに」と、ますます涙がこぼれ出て来たが、「このような子までがいなかったら」と、気をお紛らしになる。<BR>⏎ |
| d1 | 248 | <P>⏎ | ||
| c1 | 249 | とりとめもなく月日が過ぎて行くので、ご法事の準備などをおさせになるのも、思いもなさらなかったことなので、悲しみは尽きず大変である。取るに足らない不出来な子供でさえ、人の親はどんなに辛く思うことだろう、まして、当然である。また、他に姫君がいらっしゃらないのさえ、物足りなくお思いになっていたのに、袖の上の玉が砕けたという事よりも残念である。<BR>⏎ | 215 | とりとめもなく月日が過ぎて行くので、ご法事の準備などをおさせになるのも、思いもなさらなかったことなので、悲しみは尽きず大変である。取るに足らない不出来な子供でさえ、人の親はどんなに辛く思うことだろう、まして,当然である。また,他に姫君がいらっしゃらないのさえ、物足りなくお思いになっていたのに、袖の上の玉が砕けたという事よりも 残念である。<BR>⏎ |
| d1 | 253 | <P>⏎ | ||
| c1 | 254 | 「晩秋の情趣を増して行く風の音、身にしみて感じられることよ」と、慣れないお独り寝に、明かしかねていらっしゃる朝ぼらけの霧が立ちこめている時に、菊の咲きかけた枝に、濃い青鈍色の紙の文を結んで、ちょっと置いて去っていった。「優美な感じだ」と思って、御覧になると、御息所のご筆跡である。<BR>⏎ | 219 | 「晩秋の情趣を増して行く風の音、身にしみて感じられることよ」と、慣れないお独り寝に,明かしかねていらっしゃる朝ぼらけの霧が立ちこめている時に、菊の咲きかけた枝に、濃い青鈍色の紙の文を結んで、ちょっと置いて去っていった。「優美な感じだ」と思って、御覧になると、御息所のご筆跡である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 256-257 | 人の世の無常を聞くにつけ涙がこぼれますが<BR>⏎ 先立たれなさってさぞかしお袖を濡らしてとお察しいたします<BR>⏎ | 221 | 人の世の無常を聞くにつけ涙がこぼれますが<BR> 先立たれなさってさぞかしお袖を濡らしてとお察しいたします<BR>⏎ |
| c1 | 259 | とある。「いつもよりも優美にお書きになっているなあ」と、やはり下に置きにくく御覧になるものの、「誠意のないご弔問だ」と嫌な気がする。そうかといって、お返事を差し上げないのもお気の毒で、ご名誉にも傷がつくことになるに違いない事だと、いろいろとお案じになる。<BR>⏎ | 223 | とある。「いつもよりも優美にお書きになっているなあ」と、やはり下に置きにくく御覧になるものの、「誠意のないご弔問だ」と嫌な気がする。そうかといって、お返事を差し上げないのもお気の毒で、ご名誉にも傷がつくことになるに違いない事だと,いろいろとお案じになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 262-264 | 「すっかりご無沙汰いたしましたが、常に心にお掛け申し上げておりながら、喪中の間は、そのようなわけで、お察しいただけようかと存じまして。<BR>⏎ 生き残った者も死んだ者も同じ露のようにはかない世に<BR>⏎ 心の執着を残して置くことはつまらないことです<BR>⏎ | 226-227 | 「すっかりご無沙汰いたしましたが、常に心にお掛け申し上げておりながら、喪中の間は、そのようなわけで,お察しいただけようかと存じまして。<BR>⏎ 生き残った者も死んだ者も同じ露のようにはかない世に<BR> 心の執着を残して置くことはつまらないことです<BR>⏎ |
| cd5:4 | 267-271 | 里においでになる時だったので、こっそりと御覧になって、ほのめかしておっしゃっている様子を、内心気にとがめていることがあったので、はっきりとご理解なさって、「やはりそうであったのか」とお思いになるにつけ、とても堪らない。<BR>⏎ 「やはり、とてもこの上なく情けない身の上であったよ。このような噂が立って、院におかれてもどのようにお考えあそばされよう。故前坊の、同腹のご兄弟という中でも、たいそうお互いに仲好くあそばして、わが斎宮のご将来のことをも、こまごまとお頼み申し上げあそばしたので、『そのおん代わりに、そのままお世話申そう』などと、いつも仰せられて、『そのまま宮中にお住みなさい』と、度々お勧め申し上げあそばしたことだけでも、まことに恐れ多いこと、と考えてもみなかったのに、このように意外にも年がいもなく物思いをして、遂には面目ない評判まで流してしまうに違いないこと」<BR>⏎ と、お悩みになると、やはりいつものような状態でおいでではない。<BR>⏎ とはいえ、世間一般のことにつけては、奥ゆかしく趣味の豊かな方としての評判があって、昔から高名でいらしたので、野の宮へのお移りの時にも、興趣ある当世風のことを多く考案し出して、「殿上人どもで風流な者などは、朝に夕べに露を分けて訪れるのを、その頃の仕事としている」などとお聞きになっても、大将の君は、「もっともなことだ。風雅を解することでは、どこまでも十分備わっていられる方だ。もし、愛想をつかされてお下りになってしまわれたら、どんなにか寂しいに違いないだろう」と、やはりお思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 230-233 | 里においでになる時だったので、こっそりと御覧になって、ほのめかしておっしゃっている様子を、内心気にとがめていることがあったので,はっきりとご理解なさって、「やはりそうであったのか」とお思いになるにつけ、とても堪らない。<BR>⏎ 「やはり,とてもこの上なく情けない身の上であったよ。このような噂が立って、院におかれてもどのようにお考えあそばされよう。故前坊の、同腹のご兄弟という中でも、たいそうお互いに仲好くあそばして、わが斎宮のご将来のことをも、こまごまとお頼み申し上げあそばしたので、『そのおん代わりに、そのままお世話申そう』などと、いつも仰せられて、『そのまま宮中にお住みなさい』と、度々お勧め申し上げあそばしたことだけでも、まことに恐れ多いこと、と考えてもみなかったのに、このように意外にも年がいもなく物思いをして、遂には面目ない評判まで流してしまうに違いないこと」<BR>⏎ と,お悩みになると、やはりいつものような状態でおいでではない。<BR>⏎ とはいえ,世間一般のことにつけては、奥ゆかしく趣味の豊かな方としての評判があって、昔から高名でいらしたので、野の宮へのお移りの時にも、興趣ある当世風のことを多く考案し出して、「殿上人どもで風流な者などは、朝に夕べに露を分けて訪れるのを、その頃の仕事としている」などとお聞きになっても、大将の君は、「もっともなことだ。風雅を解することでは、どこまでも十分備わっていられる方だ。もし,愛想をつかされてお下りになってしまわれたら、どんなにか寂しいに違いないだろう」と、やはりお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| version09 | 272 | <A NAME="in28">[第八段 三位中将と故人を追慕する]</A><BR> | 234 | |
| c2 | 273-274 | ご法事など次々と過ぎていったが、正日までは、やはり引き籠もっていらっしゃる。経験したことのない所在なさを、お気の毒に思われなさって、三位の中将は、毎日お部屋に参上なさっては、世間話など、真面目な話や、また例の好色めいた話などをも申し上げて、お気持ちをお慰め申し上げなさる中で、あの典侍の話は、お笑い種になるようである。大将の君は、<BR>⏎ 「ああ、お気の毒な。おばば殿のことを、ひどく軽蔑なさるな」<BR>⏎ | 235-236 | ご法事など次々と過ぎていったが、正日までは、やはり引き籠もっていらっしゃる。経験したことのない所在なさを、お気の毒に思われなさって、三位の中将は,毎日お部屋に参上なさっては、世間話など、真面目な話や、また例の好色めいた話などをも申し上げて、お気持ちをお慰め申し上げなさる中で、あの典侍の話は、お笑い種になるようである。大将の君は、<BR>⏎ 「ああ,お気の毒な。おばば殿のことを、ひどく軽蔑なさるな」<BR>⏎ |
| c1 | 276 | あの十六夜の、はっきりしなかった秋の事件など、その他の事などの、いといろな浮気話を互いに暴露なさい合う、しまいには、世の無常を言い言いして、涙をお漏らしになったりするのであった。<BR>⏎ | 238 | あの十六夜の、はっきりしなかった秋の事件など、その他の事などの、いといろな浮気話を 互いに暴露なさい合う、しまいには、世の無常を言い言いして、涙をお漏らしになったりするのであった。<BR>⏎ |
| c3 | 279-281 | 「雨となり、雲とやなりにけむ、今は知らず」<BR>⏎ と、独り言をいって、頬杖を突いていられるお姿、「女であったら、先立った魂もきっと留まろう」と、色っぽい気持ちで、ついじっと見つめられながら、近くにお座りになると、おくつろぎの姿でいられながらも、入れ紐だけをさし直しなさる。⏎ こちらは、もう少し濃い鈍色の夏のお直衣に、紅色の光沢のある袿を下襲して、地味なお姿でいらっしゃるのが、かえって見飽きない感じがする。<BR>⏎ | 241-243 | 「雨となり,雲とやなりにけむ、今は知らず」<BR>⏎ と,独り言をいって、頬杖を突いていられるお姿、「女であったら、先立った魂もきっと留まろう」と、色っぽい気持ちで、ついじっと見つめられながら、近くにお座りになると、おくつろぎの姿でいられながらも、入れ紐だけをさし直しなさる。⏎ こちらは,もう少し濃い鈍色の夏のお直衣に、紅色の光沢のある袿を下襲して、地味なお姿でいらっしゃるのが、かえって見飽きない感じがする。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 283-284 | 「妹が時雨となって降る空の浮雲を<BR>⏎ どちらの方向の雲と眺めようか<BR>⏎ | 245 | 「妹が時雨となって降る空の浮雲を<BR> どちらの方向の雲と眺めようか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 286-288 | と独り言のようなのを、<BR>⏎ 「妻が雲となり雨となってしまった空までが<BR>⏎ ますます時雨で暗く泣き暮らしている今日この頃だ」<BR>⏎ | 247-248 | と 独り言のようなのを、<BR>⏎ 「妻が雲となり雨となってしまった空までが<BR> ますます時雨で暗く泣き暮らしている今日この頃だ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 292-294 | 枯れた下草の中に、龍胆、撫子などが咲き出したのを折らせなさって、中将がお帰りになった後に、若君の御乳母の宰相の君に持たせて、<BR>⏎ 「草の枯れた垣根に咲き残っている撫子の花を<BR>⏎ 秋に死別れた方の形見と思います<BR>⏎ | 252-253 | 枯れた下草の中に、龍胆、撫子などが 咲き出したのを折らせなさって、中将がお帰りになった後に、若君の御乳母の宰相の君に持たせて、<BR>⏎ 「草の枯れた垣根に咲き残っている撫子の花を<BR> 秋に死別れた方の形見と思います<BR>⏎ |
| cd7:4 | 296-302 | と差し上げなさった。なるほど無邪気な微笑み顔はたいそうかわいらしい。宮は、吹く風につけてさえ、木の葉よりも脆いお涙は、それ以上で、手に取ることさえおできになれない。<BR>⏎ 「ただ今見てもかえって袖を涙で濡らしております<BR>⏎ 垣根も荒れはてて母親に先立たれてしまった撫子なので」<BR>⏎ <P>⏎ 依然として、ひどく所在のない気がするので、朝顔の宮に、「今日の物悲しさは、そうはいってもお分りになられるであろう」と推察されるお心の方なので、暗くなった時分であるが、差し上げなさる。たまにしかないが、それが普通になってしまったお便りなので、気にも止めず御覧に入れる。空の色をした唐の紙に、<BR>⏎ 「とりわけ今日の夕暮れは涙に袖を濡らしております<BR>⏎ 今までにも物思いのする秋はたくさん経験してきたのですが<BR>⏎ | 255-258 | と差し上げなさった。なるほど無邪気な微笑み顔は たいそうかわいらしい。宮は、吹く風につけてさえ、木の葉よりも脆いお涙は、それ以上で,手に取ることさえおできになれない。<BR>⏎ 「ただ今見てもかえって袖を涙で濡らしております<BR> 垣根も荒れはてて母親に先立たれてしまった撫子なので」<BR>⏎ 依然として,ひどく所在のない気がするので、朝顔の宮に、「今日の物悲しさは、そうはいってもお分りになられるであろう」と推察されるお心の方なので、暗くなった時分であるが、差し上げなさる。たまにしかないが、それが普通になってしまったお便りなので、気にも止めず御覧に入れる。空の色をした唐の紙に、<BR>⏎ 「とりわけ今日の夕暮れは涙に袖を濡らしております<BR> 今までにも物思いのする秋はたくさん経験してきたのですが<BR>⏎ |
| cd3:2 | 306-308 | 「秋霧の立つころ、先立たれなさったとお聞き致しましたが<BR>⏎ それ以来時雨の季節につけいかほどお悲しみのことかとお察し申し上げます」<BR>⏎ とだけ、かすれた墨跡で、気のせいか奥ゆかしい。<BR>⏎ | 262-263 | 「秋霧の立つころ、先立たれなさったとお聞き致しましたが<BR> それ以来時雨の季節につけいかほどお悲しみのことかとお察し申し上げます」<BR>⏎ とだけ,かすれた墨跡で、気のせいか奥ゆかしい。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 310-311 | 「すげないお扱いながらも、しかるべき時節折々の情趣はお見逃しなさらない、こういう間柄こそ、お互いに情愛を最後まで交わし合うことができるものだ。やはり、教養があり風流好みで、人目にも付くくらいなのは、よけいな欠点も出て来るものだ。対の姫君を、決してそのようには育てまい」とお考えになる。「所在なく恋しく思っていることだろう」と、お忘れになることはないが、まるで母親のない子を、一人残して来ているような気がして、会わない間は、気がかりで、「どのように嫉妬しているだろうか」と心配がないのは、気楽なことであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 265 | 「すげないお扱いながらも、しかるべき時節折々の情趣はお見逃しなさらない、こういう間柄こそ、お互いに情愛を最後まで交わし合うことができるものだ。やはり,教養があり風流好みで、人目にも付くくらいなのは、よけいな欠点も出て来るものだ。対の姫君を、決してそのようには育てまい」とお考えになる。「所在なく恋しく思っていることだろう」と、お忘れになることはないが、まるで母親のない子を、一人残して来ているような気がして、会わない間は、気がかりで、「どのように嫉妬しているだろうか」と心配がないのは、気楽なことであった。<BR>⏎ |
| c1 | 314 | 「こうして、ここ数日は、以前にも増して、誰も彼も他に気を紛らすこともなく、互いに毎日顔を会わせ顔を会わせしていたから、今後いつもこうすることができないのは、恋しいと思わないだろうか。まこと悲しいことはしかたがないとして、あれこれと考えめぐらしてみると、悲しくて堪らないことがたくさんあるなあ」<BR>⏎ | 268 | 「こうして,ここ数日は、以前にも増して、誰も彼も他に気を紛らすこともなく、互いに毎日顔を会わせ顔を会わせしていたから、今後いつもこうすることができないのは、恋しいと思わないだろうか。まこと悲しいことはしかたがないとして、あれこれと考えめぐらしてみると、悲しくて堪らないことがたくさんあるなあ」<BR>⏎ |
| c1 | 317 | と、最後まで申し上げきれない。かわいそうにとお見渡しになって、<BR>⏎ | 271 | と,最後まで申し上げきれない。かわいそうにとお見渡しになって、<BR>⏎ |
| c1 | 319 | と言って、燈火を眺めていらっしゃる目もとが、濡れていらっしゃるのが、素晴らしい。<BR>⏎ | 273 | と言って,燈火を眺めていらっしゃる目もとが、濡れていらっしゃるのが、素晴らしい。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 324-326 | などと、皆に気長く留まることをおっしゃるが、「さあ、ますます間遠になられることだろう」と思うと、ますます心細い。<BR>⏎ 大殿は、女房たちに、身分身分に応じて、ちょっとした趣味的な道具や、また、本当のお形見となるような物などを、改まった形にならないように心づかいして、一同にお配らせになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 278-279 | などと,皆に気長く留まることをおっしゃるが、「さあ,ますます間遠になられることだろう」と思うと、ますます心細い。<BR>⏎ 大殿は、女房たちに、身分身分に応じて、ちょっとした趣味的な道具や、また,本当のお形見となるような物などを、改まった形にならないように心づかいして、一同にお配らせになるのであった。<BR>⏎ |
| version09 | 327 | <A NAME="in29">[第九段 源氏、左大臣邸を辞去する]</A><BR> | 280 | |
| c1 | 331 | 「院におかれても御心配あそばされおっしゃりますので、今日参内致します。ちょっと外出致しますにつけても、よくぞ今日まで生き永らえて来られたものよと、悲しみに掻き乱されるばかりの気がするので、ご挨拶申し上げるのも、かえって悲しく思われるに違いないので、そちらにはお伺い致しません」<BR>⏎ | 284 | 「院におかれても御心配あそばされおっしゃりますので、今日参内致します。ちょっと外出致しますにつけても、よくぞ今日まで生き永らえて来られたものよと、悲しみに掻き乱されるばかりの気がするので、ご挨拶申し上げるのも,かえって悲しく思われるに違いないので、そちらにはお伺い致しません」<BR>⏎ |
| c2 | 335-336 | 「年をとると、たいしたことでもないことに対してさえ、涙もろくなるものでございますのに。まして、涙の乾く間もなくかきくらされている心を、とても鎮めることができませんので、人の目にも、とても取り乱して、気の弱い恰好にきっと見えましょうから、院などにも参内できないのでございます。お話のついでには、そのように取りなして奏上なさって下さい。いくらもありそうにない年寄の身で、先立たれたのが辛いのでございますよ」<BR>⏎ と無理に抑えておっしゃる様子、まことに痛々しい。君も何度も鼻をかんで、<BR>⏎ | 288-289 | 「年をとると、たいしたことでもないことに対してさえ、涙もろくなるものでございますのに. まして,涙の乾く間もなくかきくらされている心を、とても鎮めることができませんので、人の目にも、とても取り乱して、気の弱い恰好にきっと見えましょうから、院などにも参内できないのでございます。お話のついでには、そのように取りなして奏上なさって下さい。いくらもありそうにない年寄の身で、先立たれたのが 辛いのでございますよ」<BR>⏎ と,無理に抑えておっしゃる様子、まことに痛々しい。君も 何度も鼻をかんで、<BR>⏎ |
| c1 | 338 | 「それでは、時雨も止む間もなさそうでございすから、暮れないうちに」と、お促し申し上げなさる。<BR>⏎ | 291 | 「それでは,時雨も止む間もなさそうでございすから、暮れないうちに」と、お促し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 342 | 「とても思慮の浅い女房たちの嘆きでございますな。仰せのとおり、どうあろうともいずれはと、気長に存じておりました間は、自然とご無沙汰致した時もございましたが、かえって今では、何を心頼みしてご無沙汰ができましょうか。いずれお分りになろう」<BR>⏎ | 295 | 「とても思慮の浅い女房たちの嘆きでございますな。仰せのとおり,どうあろうともいずれはと、気長に存じておりました間は、自然とご無沙汰致した時もございましたが、かえって今では、何を心頼みしてご無沙汰ができましょうか。いずれお分りになろう」<BR>⏎ |
| cd6:4 | 346-351 | と、空を仰いでぼんやりとしていらっしゃる。他人として拝見することになるのが、残念に思われるのだろう。「旧き枕故き衾、誰と共にか」とあるところに、<BR>⏎ 「亡くなった人の魂もますます離れがたく悲しく思っていることだろう<BR>⏎ 共に寝た床をわたしも離れがたく思うのだから」<BR>⏎ また、「霜の華白し」とあるところに、<BR>⏎ 「あなたが亡くなってから塵の積もった床に<BR>⏎ 涙を払いながら幾晩独り寝したことだろうか」<BR>⏎ | 299-302 | と,空を仰いでぼんやりとしていらっしゃる。他人として拝見することになるのが、残念に思われるのだろう。「旧き枕故き衾、誰と共にか」とあるところに、<BR>⏎ 「亡くなった人の魂もますます離れがたく悲しく思っていることだろう<BR> 共に寝た床をわたしも離れがたく思うのだから」<BR>⏎ また,「霜の華白し」とあるところに、<BR>⏎ 「あなたが亡くなってから塵の積もった床に<BR> 涙を払いながら幾晩独り寝したことだろうか」<BR>⏎ |
| c3 | 354-356 | 「今さら言ってもしかたのないことはさておいて、このような悲しい逆縁の例は、世間にないことではないと、しいて思いながら、親子の縁も長く続かず、このように心を悲しませるために生まれて来たのであろうかと、かえって辛く、前世の因縁に思いを馳せながら、覚まそうとしていますが、ただ、日が経てば経つほど、恋しさが堪えきれないのと、この大将の君が、今日を限りに他人になってしまわれるのが、何とも残念に思わずにはいられません。一日、二日もお見えにならず、途絶えがちにいらしたのでさえ、物足りなく胸を痛めておりましたのに、朝夕の光を失っては、どうして生き永らえて行けようか」<BR>⏎ と、お声も抑えきれずお泣きになると、御前に控えている年輩の女房など、とても悲しくて、わっと泣き出すのは、何となく寒々とした夕べの情景である。<BR>⏎ 若い女房たちは、あちこちにかたまって、お互いに悲しいことを話し合って、<BR>⏎ | 305-307 | 「今さら言ってもしかたのないことはさておいて、このような悲しい逆縁の例は、世間にないことではないと、しいて思いながら、親子の縁も長く続かず、このように心を悲しませるために生まれて来たのであろうかと、かえって辛く、前世の因縁に思いを馳せながら、覚まそうとしていますが、ただ,日が経てば経つほど、恋しさが堪えきれないのと、この大将の君が、今日を限りに他人になってしまわれるのが、何とも残念に思わずにはいられません。一日、二日もお見えにならず、途絶えがちにいらしたのでさえ、物足りなく胸を痛めておりましたのに、朝夕の光を失っては、どうして生き永らえて行けようか」<BR>⏎ と,お声も抑えきれずお泣きになると、御前に控えている年輩の女房など、とても悲しくて、わっと泣き出すのは、何となく寒々とした夕べの情景である。<BR>⏎ 若い女房たちは、あちこちにかたまって、お互いに 悲しいことを話し合って、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 358-359 | と言って、それぞれが、「しばらく里に下がって、また参上しよう」と言う者もいるので、互いに別れを惜しんだりする折、それぞれ物悲しい事が多かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 309 | と言って,それぞれが、「しばらく里に下がって、また参上しよう」と言う者もいるので、互いに別れを惜しんだりする折、それぞれ物悲しい事が多かった。<BR>⏎ |
| c1 | 362 | と、お気の毒に御心配あそばして、御前においてお食事などを差し上げなさって、あれやこれやとお心を配ってお世話申し上げあそばす様子、身にしみてもったいない。<BR>⏎ | 312 | と,お気の毒に御心配あそばして、御前においてお食事などを差し上げなさって、あれやこれやとお心を配ってお世話申し上げあそばす様子、身にしみてもったいない。<BR>⏎ |
| c1 | 365 | と、お伝え申し上げあそばした。<BR>⏎ | 315 | と,お伝え申し上げあそばした。<BR>⏎ |
| c1 | 367 | と言って、何でもない時でさえ持っているお悩みを取り重ねて、とてもおいたわしそうである。無紋の袍のお召物に、鈍色の御下襲、巻纓をなされた喪服のお姿は、華やかな時よりも、優美さが勝っていらっしゃった。<BR>⏎ | 317 | と言って,何でもない時でさえ持っているお悩みを取り重ねて、とてもおいたわしそうである。無紋の袍のお召物に、鈍色の御下襲、巻纓をなされた喪服のお姿は、華やかな時よりも、優美さが勝っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 369 | <P>⏎ | ||
| version09 | 370 | <H4>第三章 紫の君の物語 新手枕の物語</H4> | 319 | |
| version09 | 371 | <A NAME="in31">[第一段 源氏、紫の君と新手枕を交わす]</A><BR> | 320 | |
| c1 | 372 | 二条院では、あちこち掃き立て磨き立てて、男も女も、お待ち申し上げていた。上臈の女房どもは、皆参上して、我も我もと美しく着飾り、化粧しているのを御覧になるにつけても、あの居並んで沈んでいた様子を、しみじみかわいそうに思い出されずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 321 | 二条院では、あちこち掃き立て磨き立てて、男も女も、お待ち申し上げていた。上臈の女房どもは,皆参上して、我も我もと美しく着飾り、化粧しているのを御覧になるにつけても、あの居並んで沈んでいた様子を、しみじみかわいそうに思い出されずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| c2 | 376-377 | と言って、小さい御几帳を引き上げて拝見なさると、横を向いて笑っていらっしゃるお姿、何とも申し分ない。<BR>⏎ 「火影に照らされた横顔、頭の恰好など、まったく、あの心を尽くしてお慕い申し上げている方に、少しも違うところなく成長されていくことだなあ」<BR>⏎ | 325-326 | と言って,小さい御几帳を引き上げて拝見なさると、横を向いて笑っていらっしゃるお姿、何とも申し分ない。<BR>⏎ 「火影に照らされた横顔、頭の恰好など、まったく,あの心を尽くしてお慕い申し上げている方に、少しも違うところなく成長されていくことだなあ」<BR>⏎ |
| c1 | 381 | と、こまやかにお話し申し上げなさるのを、少納言は嬉しいと聞く一方で、やはり不安に思い申し上げる。「高貴なお忍びの方々が大勢いらっしゃるので、またやっかいな方が代わって現れなさるかも知れない」と思うのも、憎らしい気の廻しようであるよ。<BR>⏎ | 330 | と,こまやかにお話し申し上げなさるのを、少納言は嬉しいと聞く一方で、やはり不安に思い申し上げる。「高貴なお忍びの方々が大勢いらっしゃるので、またやっかいな方が代わって現れなさるかも知れない」と思うのも、憎らしい気の廻しようであるよ。<BR>⏎ |
| d1 | 384 | <P>⏎ | ||
| cd8:7 | 385-392 | とても所在なく物思いに耽りがちだが、何でもないお忍び歩きも億劫にお思いになって、ご決断がつかない。<BR>⏎ 姫君が、何事につけ理想的にすっかり成長なさって、とても素晴らしくばかり見えなさるのを、もう良い年頃だと、やはり、しいて御覧になっているので、それを匂わすようなことなど、時々お試みなさるが、まったくお分りにならない様子である。<BR>⏎ 所在ないままに、ただこちらで碁を打ったり、偏継ぎしたりして、毎日お暮らしになると、気性が利発で好感がもて、ちょっとした遊びの中にもかわいらしいところをお見せになるので、念頭に置かれなかった年月は、ただそのようなかわいらしさばかりはあったが、抑えることができなくなって、気の毒だけれど、どういうことだったのだろうか、周囲の者がお見分け申せる間柄ではないのだが、男君は早くお起きになって、女君は一向にお起きにならない朝がある。<BR>⏎ 女房たちは、「どうして、こうしていらっしゃるのだろうかしら。ご気分がすぐれないのだろうか」と、お見上げ申して嘆くが、君はお帰りになろうとして、お硯箱を、御帳台の内に差し入れて出て行かれた。<BR>⏎ 人のいない間にやっと頭を上げなさると、結んだ手紙、おん枕元にある。何気なく開いて御覧になると、<BR>⏎ 「どうして長い間何でもない間柄でいたのでしょう<BR>⏎ 幾夜も幾夜も馴れ親しんで来た仲なのに」<BR>⏎ と、お書き流しになっているようである。「このようなお心がおありだろう」とは、まったくお思いになってもみなかったので、<BR>⏎ | 333-339 | とても所在なく物思いに耽りがちだが、何でもないお忍び歩きも 億劫にお思いになって、ご決断がつかない。<BR>⏎ 姫君が、何事につけ理想的にすっかり成長なさって、とても素晴らしくばかり見えなさるのを、もう良い年頃だと、やはり,しいて御覧になっているので、それを匂わすようなことなど、時々お試みなさるが、まったくお分りにならない様子である。<BR>⏎ 所在ないままに、ただこちらで碁を打ったり、偏継ぎしたりして、毎日お暮らしになると、気性が利発で好感がもて、ちょっとした遊びの中にも かわいらしいところをお見せになるので、念頭に置かれなかった年月は、ただそのようなかわいらしさばかりはあったが、抑えることができなくなって、気の毒だけれど、どういうことだったのだろうか、周囲の者がお見分け申せる間柄ではないのだが、男君は早くお起きになって、女君は一向にお起きにならない朝がある。<BR>⏎ 女房たちは、「どうして,こうしていらっしゃるのだろうかしら。ご気分がすぐれないのだろうか」と,お見上げ申して嘆くが、君はお帰りになろうとして、お硯箱を、御帳台の内に差し入れて出て行かれた。<BR>⏎ 人のいない間にやっと頭を上げなさると、結んだ手紙、おん枕元にある。何気なく 開いて御覧になると、<BR>⏎ 「どうして長い間何でもない間柄でいたのでしょう<BR> 幾夜も幾夜も馴れ親しんで来た仲なのに」<BR>⏎ と,お書き流しになっているようである。「このようなお心がおありだろう」とは、まったくお思いになってもみなかったので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 394-395 | と、悔しい思いがなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 341 | と,悔しい思いがなさる。<BR>⏎ |
| c5 | 398-402 | と言って、お覗きになると、ますますお召物を引き被って臥せっていらっしゃる。女房たちは退いて控えているので、お側にお寄りになって、<BR>⏎ 「どうして、こう気づまりな態度をなさるの。意外にも冷たい方でいらっしゃいますね。皆がどうしたのかと変に思うでしょう」<BR>⏎ と言って、お衾を引き剥ぎなさると、汗でびっしょりになって、額髪もひどく濡れていらっしゃった。<BR>⏎ 「ああ、嫌な。これはとても大変なことですよ」<BR>⏎ と言って、いろいろと慰めすかし申し上げなさるが、本当に、とても辛い、とお思いになって、一言もお返事をなさらない。<BR>⏎ | 344-348 | と言って,お覗きになると、ますますお召物を引き被って臥せっていらっしゃる。女房たちは退いて控えているので、お側にお寄りになって、<BR>⏎ 「どうして,こう気づまりな態度をなさるの。意外にも冷たい方でいらっしゃいますね。皆がどうしたのかと変に思うでしょう」<BR>⏎ と言って,お衾を引き剥ぎなさると、汗でびっしょりになって、額髪もひどく濡れていらっしゃった。<BR>⏎ 「ああ,嫌な。これはとても大変なことですよ」<BR>⏎ と言って,いろいろと慰めすかし申し上げなさるが、本当に、とても辛い,とお思いになって、一言もお返事をなさらない。<BR>⏎ |
| d1 | 405 | <P>⏎ | ||
| version09 | 406 | <A NAME="in32">[第二段 結婚の儀式の夜]</A><BR> | 351 | |
| c1 | 407 | その晩、亥の子餅を御前に差し上げた。こうした喪中の折なので、大げさにはせずに、こちらだけに美しい桧破籠などだけを、様々な色の趣向を凝らして持参したのを御覧になって、君は、南面にお出になって、惟光を呼んで、<BR>⏎ | 352 | その晩、亥の子餅を御前に差し上げた。こうした喪中の折なので、大げさにはせずに、こちらだけに 美しい桧破籠などだけを、様々な色の趣向を凝らして持参したのを御覧になって、君は、南面にお出になって、惟光を呼んで、<BR>⏎ |
| c3 | 409-411 | と、ほほ笑んでおっしゃるご様子から、機転の働く者なので、ふと気がついた。惟光、詳しいことも承らずに、<BR>⏎ 「なるほど、おめでたいお祝いは、吉日を選んでお召し上がりになるべきでしょう。ところで子の子の餅はいくつお作り申しましょう」<BR>⏎ と、真面目に申すので、<BR>⏎ | 354-356 | と,ほほ笑んでおっしゃるご様子から、機転の働く者なので、ふと気がついた。惟光、詳しいことも承らずに、<BR>⏎ 「なるほど,おめでたいお祝いは、吉日を選んでお召し上がりになるべきでしょう。ところで子の子の餅はいくつお作り申しましょう」<BR>⏎ と,真面目に申すので、<BR>⏎ |
| c1 | 413 | とおっしゃるので、すっかり呑み込んで、立ち去った。「物馴れた男よ」と、君はお思いになる。誰にも言わないで、手作りと言ったふうに実家で作っていたのだった。<BR>⏎ | 358 | とおっしゃるので、すっかり呑み込んで、立ち去った。「物馴れた男よ」と、君はお思いになる。誰にも言わないで、手作りと言ったふうに 実家で 作っていたのだった。<BR>⏎ |
| c2 | 417-418 | と言って、香壷の箱を一具、差し入れた。<BR>⏎ 「確かに、お枕元に差し上げなければならない祝いの物でございます。ああ、勿体ない。あだや疎かに」<BR>⏎ | 362-363 | と言って,香壷の箱を一具、差し入れた。<BR>⏎ 「確かに、お枕元に差し上げなければならない祝いの物でございます。ああ,勿体ない。あだや疎かに」<BR>⏎ |
| c1 | 421 | と言って、受け取ると、<BR>⏎ | 366 | と言って,受け取ると、<BR>⏎ |
| c2 | 424-425 | 女房たちは知り得ずにいたが、翌朝、この箱を下げさせなさったので、側近の女房たちだけは、合点の行くことがあったのだった。お皿類なども、いつの間に準備したのだろうか。花足はとても立派で、餅の様子も、格別にとても素晴らしく仕立ててあった。⏎ 少納言は、「とてもまあ、これほどまでも」とお思い申し上げたが、身にしみてもったいなく、行き届かない所のない君のお心配りに、何よりもまず涙が思わずこぼれた。<BR>⏎ | 369-370 | 女房たちは知り得ずにいたが、翌朝、この箱を下げさせなさったので、側近の女房たちだけは、合点の行くことがあったのだった。お皿類なども、いつの間に準備したのだろうか。花足はとても立派で、餅の様子も、格別に とても素晴らしく仕立ててあった。⏎ 少納言は、「とてもまあ,これほどまでも」とお思い申し上げたが、身にしみてもったいなく、行き届かない所のない君のお心配りに、何よりもまず涙が思わずこぼれた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 427-428 | と、ひそひそ囁き合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 372 | と,ひそひそ囁き合っていた。<BR>⏎ |
| c1 | 434 | などと、大臣はおっしゃるが、「とても憎い」と、お思い申し上げになって、<BR>⏎ | 378 | などと,大臣はおっしゃるが、「とても憎い」と、お思い申し上げになって、<BR>⏎ |
| c1 | 436 | と、ご入内おさせ申すことを熱心に画策なさる。<BR>⏎ | 380 | と,ご入内おさせ申すことを熱心に画策なさる。<BR>⏎ |
| c1 | 439 | と、ますます案じられお懲りになっていらっしゃった。<BR>⏎ | 383 | と,ますます案じられお懲りになっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 443 | <P>⏎ | ||
| version09 | 444 | <A NAME="in33">[第三段 新年の参賀と左大臣邸へ挨拶回り]</A><BR> | 387 | |
| c1 | 447 | 若君を拝見なさると、すっかり大きく成長して、にこにこしていらっしゃるのも、しみじみと胸を打つ。目もと、口つきは、まったく春宮と同じご様子でいらっしゃるので、「人が見て不審にお思い申すかも知れない」と御覧になる。<BR>⏎ | 390 | 若君を拝見なさると、すっかり大きく成長して、にこにこしていらっしゃるのも、しみじみと胸を打つ。目もと,口つきは、まったく春宮と同じご様子でいらっしゃるので、「人が見て不審にお思い申すかも知れない」と御覧になる。<BR>⏎ |
| c2 | 452-453 | 「今まで通りの習わしで新調しましたご衣装も、ここ幾月は、ますます涙に霞んで、色合いも映えなく御覧になられましょうかと存じますが、今日だけは、やはり粗末な物ですが、お召し下さいませ」<BR>⏎ と言って、たいそう丹精こめてお作りになったご衣装類、またさらに差し上げになさった。必ず今日お召しになるように、とお考えになった御下襲は、色合いも織り方も、この世の物とは思われず、格別な品物なので、ご厚意を無にしてはと思って、お召し替えになる。来なかったら、さぞかし残念にお思いであったろう、とおいたわしい。お返事には、<BR>⏎ | 395-396 | 「今まで通りの習わしで新調しましたご衣装も、ここ幾月は、ますます涙に霞んで、色合いも映えなく御覧になられましょうかと存じますが、今日だけは、やはり粗末な物ですが,お召し下さいませ」<BR>⏎ と言って,たいそう丹精こめてお作りになったご衣装類、またさらに差し上げになさった。必ず今日お召しになるように、とお考えになった御下襲は、色合いも織り方も、この世の物とは思われず、格別な品物なので、ご厚意を無にしてはと思って、お召し替えになる。来なかったら、さぞかし残念にお思いであったろう、とおいたわしい。お返事には、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 455-456 | 何年来も元日毎に参っては着替えをしてきた晴着だが<BR>⏎ それを着ると今日は涙がこぼれる思いがする<BR>⏎ | 398 | 何年来も元日毎に参っては着替えをしてきた晴着だが<BR> それを着ると今日は涙がこぼれる思いがする<BR>⏎ |
| cd3:2 | 458-460 | と、お申し上げなさった。お返歌は、<BR>⏎ 「新年になったとは申しても降りそそぐものは<BR>⏎ 老母の涙でございます」<BR>⏎ | 400-401 | と,お申し上げなさった。お返歌は、<BR>⏎ 「新年になったとは申しても降りそそぐものは<BR> 老母の涙でございます」<BR>⏎ |
| d2 | 462-463 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 470 | ⏎ | ||
| i0 | 413 | |||
| diff | src/original/version10.html | src/modified/version10.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version10 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 62 | <P>⏎ | ||
| version10 | 63 | <H4>第一章 六条御息所の物語 秋の別れと伊勢下向の物語</H4> | 59 | |
| version10 | 64 | <A NAME="in11">[第一段 六条御息所、伊勢下向を決意]</A><BR> | 60 | |
| cd3:2 | 66-68 | 母親が付き添ってお下りになる先例も、特にないが、とても手放し難いご様子なのに託つけて、「嫌な世間から逃れ去ろう」とお思いになると、大将の君、そうは言っても、これが最後と遠くへ行っておしまいになるのも残念に思わずにはいらっしゃれず、お手紙だけは情のこもった書きぶりで、度々交わす。お会いになることは、今さらありえない事と、女君も思っていらっしゃる。「相手は気にくわないと、根に持っていらっしゃることがあろうから、自分は、今以上に悩むことがきっと増すにちがいないので、無益なこと」と、固くご決心されているのだろう。<BR>⏎ 里の殿には、ほんのちょっとお帰りになる時々もあるが、たいそう内々にしていらっしゃるので、大将殿、お知りになることができない。簡単にお心のままに参ってよいようなお住まいでは勿論ないので、気がかりに月日も経ってしまったところに、院の上、たいそう重い御病気というのではないが、普段と違って、時々お苦しみあそばすので、ますますお気持ちに余裕がないけれど、「薄情な者とお思い込んでしまわれるのも、おいたわしいし、人が聞いても冷淡な男だと思われはしまいか」とご決心されて、野宮にお伺いなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 62-63 | 母親が付き添ってお下りになる先例も、特にないが、とても手放し難いご様子なのに託つけて、「嫌な世間から逃れ去ろう」とお思いになると、大将の君、そうは言っても、これが最後と遠くへ行っておしまいになるのも 残念に思わずにはいらっしゃれず、お手紙だけは 情のこもった書きぶりで、度々交わす。お会いになることは、今さらありえない事と、女君も思っていらっしゃる。「相手は気にくわないと、根に持っていらっしゃることがあろうから、自分は、今以上に悩むことがきっと増すにちがいないので、無益なこと」と、固くご決心されているのだろう。<BR>⏎ 里の殿には、ほんのちょっとお帰りになる時々もあるが、たいそう内々にしていらっしゃるので、大将殿、お知りになることができない。簡単にお心のままに 参ってよいようなお住まいでは勿論ないので、気がかりに月日も経ってしまったところに、院の上、たいそう重い御病気というのではないが、普段と違って、時々お苦しみあそばすので、ますますお気持ちに余裕がないけれど、「薄情な者とお思い込んでしまわれるのも、おいたわしいし、人が聞いても冷淡な男だと思われはしまいか」とご決心されて、野宮にお伺いなさる。<BR>⏎ |
| version10 | 69 | <A NAME="in12">[第二段 野の宮訪問と暁の別れ]</A><BR> | 64 | |
| c2 | 72-73 | 気心の知れた御前駆の者、十余人ほど、御随身、目立たない服装で、たいそうお忍びのふうをしていられるが、格別にお気を配っていらっしゃるご様子、まことに素晴らしくお見えになるので、お供の風流者など、場所が場所だけに身にしみて感じ入っていた。ご内心、「どうして、今まで来なかったのだろう」と、過ぎ去った日々、後悔せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ ちょっとした小柴垣を外囲いにして、板屋が幾棟もあちこちに仮普請のようである。黒木の鳥居どもは、やはり神々しく眺められて、遠慮される気がするが、神官どもが、あちこちで咳払いをして、お互いに、何か話している様子なども、他所とは様子が変わって見える。火焼屋、微かに明るくて、人影も少なく、しんみりとしていて、ここに物思いに沈んでいる人が、幾月日も世間から離れて過ごしてこられた間のことをご想像なさると、とてもたまらなくおいたわしい。<BR>⏎ | 67-68 | 気心の知れた御前駆の者、十余人ほど、御随身、目立たない服装で、たいそうお忍びのふうをしていられるが、格別にお気を配っていらっしゃるご様子、まことに素晴らしくお見えになるので、お供の風流者など、場所が場所だけに身にしみて感じ入っていた。ご内心、「どうして,今まで来なかったのだろう」と、過ぎ去った日々、後悔せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ ちょっとした小柴垣を外囲いにして、板屋が幾棟もあちこちに仮普請のようである。黒木の鳥居どもは、やはり神々しく眺められて、遠慮される気がするが、神官どもが、あちこちで咳払いをして、お互いに、何か話している様子なども、他所とは様子が変わって見える。火焼屋,微かに明るくて、人影も少なく、しんみりとしていて、ここに物思いに沈んでいる人が、幾月日も世間から離れて過ごしてこられた間のことをご想像なさると、とてもたまらなくおいたわしい。<BR>⏎ |
| c3 | 76-78 | 「このような外出も、今では相応しくない身分になってしまったことを、お察しいただければ、このような注連の外には、立たせて置くようなことはなさらないで。胸に溜まっていますことをも、晴らしたいものです」<BR>⏎ と、真面目に申し上げなさると、女房たち、<BR>⏎ 「おっしゃるとおり、とても見てはいられませんわ」<BR>⏎ | 71-73 | 「このような外出も、今では相応しくない身分になってしまったことを、お察しいただければ、このような注連の外には,立たせて置くようなことはなさらないで。胸に溜まっていますことをも、晴らしたいものです」<BR>⏎ と,真面目に申し上げなさると、女房たち、<BR>⏎ 「おっしゃるとおり,とても見てはいられませんわ」<BR>⏎ |
| c1 | 80 | などと、お取りなし申すので、「さてどうしたものか。ここの女房たちの目にも体裁が悪いだろうし、あの方がお思いになることも、年甲斐もなく、端近に出て行くのが、今さらに気後れして」とお思いになると、とても億劫であるが、冷淡な態度をとるほど気強くもないので、とかく溜息をつきためらって、いざり出ていらっしゃったご様子、まことに奥ゆかしい。<BR>⏎ | 75 | などと,お取りなし申すので、「さてどうしたものか。ここの女房たちの目にも体裁が悪いだろうし、あの方がお思いになることも、年甲斐もなく、端近に出て行くのが、今さらに気後れして」とお思いになると、とても億劫であるが、冷淡な態度をとるほど気強くもないので、とかく溜息をつき ためらって、いざり出ていらっしゃったご様子、まことに奥ゆかしい。<BR>⏎ |
| c1 | 82 | と言って、上がっておすわりになった。<BR>⏎ | 77 | と言って,上がっておすわりになった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 86-87 | 「ここには人の訪ねる目印の杉もないのに<BR>⏎ どう間違えて折って持って来た榊なのでしょう」<BR>⏎ | 81 | 「ここには人の訪ねる目印の杉もないのに<BR> どう間違えて折って持って来た榊なのでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 89-90 | 「少女子がいる辺りだと思うと<BR>⏎ 榊葉が慕わしくて探し求めて折ったのです」<BR>⏎ | 83 | 「少女子がいる辺りだと思うと<BR> 榊葉が慕わしくて探し求めて折ったのです」<BR>⏎ |
| c1 | 93 | また一方、心の中に、「いかがなものか、欠点があって」と、お思い申してから後、やはり、情愛も次第に褪めて、このように仲も離れてしまったのを、久しぶりのご対面が昔のことを思い出させるので、「ああ」と、悩ましさで胸が限りなくいっぱいになる。今までのこと、将来のこと、それからそれへとお思い続けられて、心弱く泣いてしまった。<BR>⏎ | 86 | また一方,心の中に、「いかがなものか、欠点があって」と、お思い申してから後、やはり,情愛も次第に褪めて、このように仲も離れてしまったのを、久しぶりのご対面が昔のことを思い出させるので、「ああ」と、悩ましさで胸が限りなくいっぱいになる。今までのこと、将来のこと、それからそれへとお思い続けられて、心弱く泣いてしまった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 98-99 | 「明け方の別れにはいつも涙に濡れたが<BR>⏎ 今朝の別れは今までにない涙に曇る秋の空ですね」<BR>⏎ | 91 | 「明け方の別れにはいつも涙に濡れたが<BR> 今朝の別れは今までにない涙に曇る秋の空ですね」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 101-103 | 風、とても冷たく吹いて、松虫が鳴き嗄らした声も、気持ちを知っているかのようなのを、それほど物思いのない者でさえ、聞き過ごしがたいのに、まして、どうしようもないほど思い乱れていらっしゃるお二人には、かえって、歌も思うように行かないのだろうか。<BR>⏎ 「ただでさえ秋の別れというものは悲しいものなのに<BR>⏎ さらに鳴いて悲しませてくれるな野辺の松虫よ」<BR>⏎ | 93-94 | 風、とても冷たく吹いて、松虫が鳴き嗄らした声も、気持ちを知っているかのようなのを、それほど物思いのない者でさえ、聞き過ごしがたいのに、まして,どうしようもないほど思い乱れていらっしゃるお二人には、かえって、歌も思うように行かないのだろうか。<BR>⏎ 「ただでさえ秋の別れというものは悲しいものなのに<BR> さらに鳴いて悲しませてくれるな野辺の松虫よ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 107-108 | と、わけもなく涙ぐみ合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 98 | と,わけもなく涙ぐみ合っていた。<BR>⏎ |
| version10 | 109 | <A NAME="in13">[第三段 伊勢下向の日決定]</A><BR> | 99 | |
| c1 | 111 | 男は、それほどお思いでもないことでも、恋路のためには上手に言い続けなさるようなので、まして、並々の相手とはお思い申し上げていられなかったお間柄で、このようにしてお別れなさろうとするのを、残念にもおいたわしくも、お思い悩んでいられるのであろう。<BR>⏎ | 101 | 男は、それほどお思いでもないことでも、恋路のためには上手に言い続けなさるようなので、まして,並々の相手とはお思い申し上げていられなかったお間柄で、このようにしてお別れなさろうとするのを、残念にもおいたわしくも、お思い悩んでいられるのであろう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 113-114 | 斎宮は、幼な心に、決定しなかったご出立が、このように決まってゆくのを、嬉しい、とばかりお思いでいた。世間の人々は、先例のないことだと、非難も同情も、いろいろとお噂申しているようだ。何事でも、人から非難されないような身分の者は気楽なものである。かえって世に抜きん出た方のご身辺は窮屈なことが多いことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 103 | 斎宮は、幼な心に、決定しなかったご出立が、このように決まってゆくのを、嬉しい,とばかりお思いでいた。世間の人々は、先例のないことだと、非難も同情も、いろいろとお噂申しているようだ。何事でも、人から非難されないような身分の者は気楽なものである。かえって世に抜きん出た方のご身辺は 窮屈なことが多いことである。<BR>⏎ |
| version10 | 115 | <A NAME="in14">[第四段 斎宮、宮中へ向かう]</A><BR> | 104 | |
| c1 | 116 | 十六日、桂川でお祓いをなさる。慣例の儀式より立派で、長奉送使など、その他の上達部も身分高く、世間から評判の良い方をお選びさせた。院のお心遣いもあってのことであろう。お出になる時、大将殿から例によって名残尽きない思いのたけをお申し上げなさった。「恐れ多くも、御前に」と言って、木綿に結びつけて、<BR>⏎ | 105 | 十六日、桂川でお祓いをなさる。慣例の儀式より立派で、長奉送使など、その他の上達部も 身分高く、世間から評判の良い方をお選びさせた。院のお心遣いもあってのことであろう。お出になる時、大将殿から例によって名残尽きない思いのたけをお申し上げなさった。「恐れ多くも,御前に」と言って、木綿に結びつけて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 118-119 | 大八洲をお守りあそばす国つ神もお情けがあるならば<BR>⏎ 尽きぬ思いで別れなければならいわけをお聞かせ下さい<BR>⏎ | 107 | 大八洲をお守りあそばす国つ神もお情けがあるならば<BR> 尽きぬ思いで別れなければならいわけをお聞かせ下さい<BR>⏎ |
| cd2:1 | 122-123 | 「国つ神がお二人の仲を裁かれることになったならば<BR>⏎ あなたの実意のないお言葉をまずは糺されることでしょう」<BR>⏎ | 110 | 「国つ神がお二人の仲を裁かれることになったならば<BR> あなたの実意のないお言葉をまずは糺されることでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 125-126 | 斎宮のお返事がいかにも成人した詠みぶりなのを、ほほ笑んで御覧になった。「お年の割には、人情がお分かりのようでいらっしゃるな」と、お心が動く。このように普通とは違っためんどうな事には、きっと心動かすご性分なので、「いくらでも拝見しようとすればできたはずであった幼い時を、見ないで過ごしてしまったのは残念なことであった。世の中は無常であるから、お目にかかるようなこともきっとあろう」などと、お思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 112 | 斎宮のお返事がいかにも成人した詠みぶりなのを、ほほ笑んで御覧になった。「お年の割には、人情がお分かりのようでいらっしゃるな」と、お心が動く。このように普通とは違っためんどうな事には、きっと心動かすご性分なので、「いくらでも拝見しようとすればできたはずであった幼い時を、見ないで過ごしてしまったのは残念なことであった。世の中は無常であるから、お目にかかるようなこともきっとあろう」などと,お思いになる。<BR>⏎ |
| version10 | 127 | <A NAME="in15">[第五段 斎宮、伊勢へ向かう]</A><BR> | 113 | |
| cd3:2 | 130-132 | 「昔のことを今日は思い出すまいと堪えていたが<BR>⏎ 心の底では悲しく思われてならない」<BR>⏎ 斎宮は、十四におなりであった。とてもかわいらしういらっしゃるご様子を、立派に装束をお着せ申されたのが、とても恐いまでに美しくお見えになるのを、帝、お心が動いて、別れの御櫛を挿してお上げになる時、まことに心揺さぶられて、涙をお流しあそばした。<BR>⏎ | 116-117 | 「昔のことを今日は思い出すまいと堪えていたが<BR> 心の底では悲しく思われてならない」<BR>⏎ 斎宮は、十四におなりであった。とてもかわいらしういらっしゃるご様子を、立派に装束をお着せ申されたのが、とても恐いまでに美しくお見えになるのを、帝,お心が動いて、別れの御櫛を挿してお上げになる時、まことに心揺さぶられて、涙をお流しあそばした。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 135-139 | 「わたしを捨てて今日は旅立って行かれるが鈴鹿川を<BR>⏎ 渡る時に袖を濡らして後悔なさいませんでしょうか」<BR>⏎ とお申し上げになったが、たいそう暗く、何かとあわただしい時なので、翌日、逢坂の関の向こうからお返事がある。<BR>⏎ 「鈴鹿川の八十瀬の波に袖が濡れるか濡れないか<BR>⏎ 伊勢に行った先まで誰が思いおこしてくださるでしょうか」<BR>⏎ | 120-122 | 「わたしを捨てて今日は旅立って行かれるが鈴鹿川を<BR> 渡る時に袖を濡らして後悔なさいませんでしょうか」<BR>⏎ とお申し上げになったが、たいそう暗く、何かとあわただしい時なので、翌日、逢坂の関の向こうから お返事がある。<BR>⏎ 「鈴鹿川の八十瀬の波に袖が濡れるか濡れないか<BR> 伊勢に行った先まで誰が思いおこしてくださるでしょうか」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 142-145 | 「あの行った方角を眺めていよう、今年の秋は<BR>⏎ 逢うという逢坂山を霧よ隠さないでおくれ」<BR>⏎ 西の対にもお渡りにならず、誰のせいというのでもなく、何とはなく寂しげに物思いに耽ってお過ごしになる。ましてや、旅路の一行は、どんなにか物思いにお心を尽くしになること、多かったことだろうか。<BR>⏎ <P>⏎ | 125-126 | 「あの行った方角を眺めていよう、今年の秋は<BR> 逢うという逢坂山を霧よ隠さないでおくれ」<BR>⏎ 西の対にもお渡りにならず、誰のせいというのでもなく、何とはなく寂しげに物思いに耽ってお過ごしになる。ましてや,旅路の一行は、どんなにか物思いにお心を尽くしになること,多かったことだろうか。<BR>⏎ |
| version10 | 146 | <H4>第二章 光る源氏の物語 父桐壷帝の崩御</H4> | 127 | |
| version10 | 147 | <A NAME="in21">[第一段 十月、桐壷院、重体となる]</A><BR> | 128 | |
| c4 | 149-152 | 「在世中と変わらず、大小の事に関わらず、何事も御後見役とお思いあそばせ。年の割には政治を執っても、少しも遠慮するところはない人と、拝見している。必ず天下を治める相のある人である。それによって、煩わしく思って、親王にもなさず、臣下に下して、朝廷の補佐役とさせようと、思ったのである。その心づもりにお背きあそばすな」<BR>⏎ と、しみじみとした御遺言が多かったが、女の書くべきことではないので、その一部分を語るだけでも気の引ける思いだ。<BR>⏎ 帝も、大層悲しいとお思いになって、決してお背き申し上げまい旨を、繰り返し申し上げあそばす。御容貌もとても美しく御成長あそばされているのを、嬉しく頼もしくお見上げあそばす。きまりがあるので、急いでお帰りあそばすにつけても、かえって悲しいことが多い。<BR>⏎ 春宮も御一緒にとお思いあそばしたが、大層な騷ぎになるので、日を改めて、行啓なさった。お年の割には、大人びてかわいらしい御様子で、恋しいとお思い申し上げあそばしていたあげくなので、ただもう無心に嬉しくお思いになって、お目にかかりになる御様子、まことにいじらしい。<BR>⏎ | 130-133 | 「在世中と変わらず、大小の事に関わらず、何事も御後見役とお思いあそばせ。年の割には 政治を執っても、少しも遠慮するところはない人と、拝見している。必ず天下を治める相のある人である。それによって、煩わしく思って、親王にもなさず、臣下に下して、朝廷の補佐役とさせようと、思ったのである。その心づもりにお背きあそばすな」<BR>⏎ と,しみじみとした御遺言が多かったが、女の書くべきことではないので、その一部分を語るだけでも気の引ける思いだ。<BR>⏎ 帝も、大層悲しいとお思いになって、決してお背き申し上げまい旨を、繰り返し申し上げあそばす。御容貌も とても美しく御成長あそばされているのを、嬉しく頼もしくお見上げあそばす。きまりがあるので、急いでお帰りあそばすにつけても、かえって悲しいことが多い。<BR>⏎ 春宮も 御一緒にとお思いあそばしたが、大層な騷ぎになるので、日を改めて、行啓なさった。お年の割には、大人びてかわいらしい御様子で、恋しいとお思い申し上げあそばしていたあげくなので、ただもう無心に嬉しくお思いになって、お目にかかりになる御様子、まことにいじらしい。<BR>⏎ |
| d1 | 156 | <P>⏎ | ||
| version10 | 157 | <A NAME="in22">[第二段 十一月一日、桐壷院、崩御]</A><BR> | 137 | |
| cd5:4 | 160-164 | 中宮、大将殿などは、まして人一倍、何もお考えられなく、後々の御法事などをご供養申し上げなさる様子も、大勢の親王たちの御中でも格別優れていらっしゃるのを、当然のことながら、まことにおいたわしく、世の人々も拝し上げる。喪服を着て悲しみに沈んでいらっしゃるのにつけても、この上なく美しくおいたわしげである。去年、今年と引き続いて、このような不幸にお遭いになると、世の中が本当につまらなくお思いになるが、このような機会にも、出家しようかと思わずにはいらっしゃれない事もあるが、また一方では、いろいろとお妨げとなるものが多いのであった。<BR>⏎ 御四十九日までは、女御、御息所たち、皆、院に集まっていらっしゃったが、過ぎたので、散り散りにご退出なさる。十二月の二十日なので、世の中一般も年の暮という空模様につけても、まして心晴れることのない、中宮のお心の中である。大后のお心も御存知でいらっしゃるので、思いのままになさるであろう世が、体裁の悪く住みにくいことになろうことをお考えになるよりも、お親しみ申し上げなさった長い年月の御面影を、お偲び申し上げない時の間もない上に、このままここにおいでになるわけにもゆかず、皆方々へとご退出なさるに当たっては、悲しいことこの上ない。<BR>⏎ 宮は、三条の宮にお渡りになる。お迎えに兵部卿宮が参上なさった。雪がひとしきり降り、風が激しく吹いて、院の中、だんだんと人数少なになっていって、しんみりとしていた時に、大将殿、こちらに参上なさって、昔の思い出話をお申し上げなさる。お庭先の五葉の松が、雪に萎れて、下葉が枯れているのを御覧になって、親王、<BR>⏎ 「木蔭が広いので頼りにしていた松の木は枯れてしまったのだろうか<BR>⏎ 下葉が散り行く今年の暮ですね」<BR>⏎ | 140-143 | 中宮、大将殿などは、まして人一倍、何もお考えられなく、後々の御法事などを ご供養申し上げなさる様子も、大勢の親王たちの御中でも格別優れていらっしゃるのを、当然のことながら、まことにおいたわしく、世の人々も拝し上げる。喪服を着て悲しみに沈んでいらっしゃるのにつけても、この上なく美しくおいたわしげである。去年、今年と引き続いて、このような不幸にお遭いになると、世の中が本当につまらなくお思いになるが、このような機会にも、出家しようかと思わずにはいらっしゃれない事もあるが、また一方では,いろいろとお妨げとなるものが多いのであった。<BR>⏎ 御四十九日までは、女御、御息所たち、皆,院に集まっていらっしゃったが、過ぎたので、散り散りにご退出なさる。十二月の二十日なので、世の中一般も年の暮という空模様につけても、まして心晴れることのない、中宮のお心の中である。大后のお心も御存知でいらっしゃるので、思いのままになさるであろう世が、体裁の悪く住みにくいことになろうことをお考えになるよりも、お親しみ申し上げなさった長い年月の御面影を、お偲び申し上げない時の間もない上に、このままここにおいでになるわけにもゆかず、皆方々へとご退出なさるに当たっては、悲しいことこの上ない。<BR>⏎ 宮は、三条の宮にお渡りになる。お迎えに兵部卿宮が参上なさった。雪がひとしきり降り、風が激しく吹いて、院の中、だんだんと人数少なになっていって、しんみりとしていた時に、大将殿、こちらに参上なさって、昔の思い出話をお申し上げなさる。お庭先の五葉の松が,雪に萎れて、下葉が枯れているのを御覧になって、親王、<BR>⏎ 「木蔭が広いので頼りにしていた松の木は枯れてしまったのだろうか<BR> 下葉が散り行く今年の暮ですね」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 166-170 | 「氷の張りつめた池が鏡のようになっているが<BR>⏎ 長年見慣れた影を見られないのが悲しい」<BR>⏎ と、お気持ちのままに詠まれたのは、あまりに子供っぽい詠み方ではないか。王命婦、<BR>⏎ 「年が暮れて岩井の水も凍りついて<BR>⏎ 見慣れていた人影も見えなくなってゆきますこと」<BR>⏎ | 145-147 | 「氷の張りつめた池が鏡のようになっているが<BR> 長年見慣れた影を見られないのが悲しい」<BR>⏎ と,お気持ちのままに詠まれたのは、あまりに子供っぽい詠み方ではないか。王命婦、<BR>⏎ 「年が暮れて岩井の水も凍りついて<BR> 見慣れていた人影も見えなくなってゆきますこと」<BR>⏎ |
| d1 | 173 | <P>⏎ | ||
| version10 | 174 | <A NAME="in23">[第三段 諒闇の新年となる]</A><BR> | 150 | |
| c3 | 175-177 | 年も改まったが、世の中ははなやかなことはなく静かである。まして大将殿は、何となく悲しくて退き籠もっていらっしゃる。除目のころなどは、院の御在位中は言うまでもなく、ここ数年来、悪く変わることなくて、御門の周辺、隙間なく立て込んでいた馬、車が少なくなって、夜具袋などもほとんど見えず、親密な家司どもばかりが、特別に準備することもなさそうでいるのを御覧になるにつけても、「今後は、こうなるのだろう」と思いやられて、何となく味気なく思われる。<BR>⏎ 御匣殿は、二月に、尚侍におなりになった。院の御喪に服してそのまま尼におなりになった方の、替わりであった。高貴な家の出として振る舞って、人柄もとてもよくいらっしゃるので、大勢入内なさっている中でも、格別に御寵愛をお受けになる。后は、里邸にいらっしゃりがちで、参内なさる時のお局には、梅壷を当てていたので、弘徽殿には尚侍がお住みになる。登花殿が陰気であったのに対して、晴ればれしくなって、女房なども数えきれないほど参集して、当世風にはなやかにおなりになったが、お心の中では、思いがけなかった事を忘れられず嘆いていらっしゃる。ごく内密に文を通わしなさることは、以前と同様なのであろう。「噂が立ったらどうなることだろう」とお思いになりながら、例のご性癖なので、今になってかえってご愛情が募るようである。<BR>⏎ 院の御在世中こそは、遠慮もなさっていたが、后の御気性は激しくて、あれこれと悔しい思いをしてきたことの仕返しをしよう、とお思いのようである。何かにつけて、体裁の悪いことばかり生じてくるので、きっとこうなることとはお思いになっていたが、ご経験のない世間の辛さなので、立ち交じっていこうともお考えになれない。<BR>⏎ | 151-153 | 年も改まったが、世の中ははなやかなことはなく静かである。まして大将殿は、何となく悲しくて退き籠もっていらっしゃる。除目のころなどは、院の御在位中は言うまでもなく、ここ数年来,悪く変わることなくて、御門の周辺、隙間なく立て込んでいた馬,車が少なくなって、夜具袋などもほとんど見えず、親密な家司どもばかりが、特別に準備することもなさそうでいるのを御覧になるにつけても、「今後は、こうなるのだろう」と思いやられて、何となく味気なく思われる。<BR>⏎ 御匣殿は、二月に、尚侍におなりになった。院の御喪に服してそのまま尼におなりになった方の、替わりであった。高貴な家の出として振る舞って、人柄もとてもよくいらっしゃるので、大勢入内なさっている中でも、格別に御寵愛をお受けになる。后は、里邸にいらっしゃりがちで、参内なさる時のお局には,梅壷を当てていたので、弘徽殿には尚侍がお住みになる。登花殿が陰気であったのに対して、晴ればれしくなって、女房なども数えきれないほど参集して、当世風にはなやかにおなりになったが、お心の中では、思いがけなかった事を忘れられず嘆いていらっしゃる。ごく内密に文を通わしなさることは、以前と同様なのであろう。「噂が立ったらどうなることだろう」とお思いになりながら、例のご性癖なので、今になってかえってご愛情が募るようである。<BR>⏎ 院の御在世中こそは,遠慮もなさっていたが、后の御気性は激しくて、あれこれと悔しい思いをしてきたことの仕返しをしよう、とお思いのようである。何かにつけて、体裁の悪いことばかり生じてくるので、きっとこうなることとはお思いになっていたが、ご経験のない世間の辛さなので、立ち交じっていこうともお考えになれない。<BR>⏎ |
| d1 | 182 | <P>⏎ | ||
| version10 | 183 | <A NAME="in24">[第四段 源氏朧月夜と逢瀬を重ねる]</A><BR> | 158 | |
| c3 | 184-186 | 帝は、院の御遺言に背かず、親しくお思いであったが、お若くいらっしゃるうえにも、お心が優し過ぎて、毅然としたところがおありでないのであろう、母后、祖父大臣、それぞれになさる事に対しては、反対することがおできあそばされず、天下の政治も、お心通りに行かないようである。<BR>⏎ 厄介な事ばかりが多くなるが、尚侍の君は、密かにお心を通わしているので、無理をなさりつつも、長い途絶えがあるわけではない。五壇の御修法の初日で、お慎しみあそばす隙間を狙って、いつものように、夢のようにお逢い申し上げる。あの、昔を思い出させる細殿の局に、中納言の君が、人目を紛らしてお入れ申し上げる。人目の多いころなので、いつもより端近なのが、何となく恐ろしく思わずにはいられない。<BR>⏎ 朝夕に拝見している人でさえ、見飽きないご様子なので、まして、まれまれにある逢瀬であっては、どうして並々のことであろうか。女のご様子も、なるほど素晴しいお盛りである。重々しいという点では、どうであろうか、魅力的で優美で若々しい感じがして、好ましいご様子である。<BR>⏎ | 159-161 | 帝は、院の御遺言に背かず、親しくお思いであったが、お若くいらっしゃるうえにも、お心が優し過ぎて、毅然としたところがおありでないのであろう、母后,祖父大臣、それぞれになさる事に対しては、反対することがおできあそばされず、天下の政治も、お心通りに行かないようである。<BR>⏎ 厄介な事ばかりが多くなるが、尚侍の君は、密かにお心を通わしているので、無理をなさりつつも、長い途絶えがあるわけではない。五壇の御修法の初日で、お慎しみあそばす隙間を狙って、いつものように、夢のようにお逢い申し上げる。あの,昔を思い出させる細殿の局に、中納言の君が、人目を紛らしてお入れ申し上げる。人目の多いころなので、いつもより端近なのが、何となく恐ろしく思わずにはいられない。<BR>⏎ 朝夕に拝見している人でさえ、見飽きないご様子なので、まして,まれまれにある逢瀬であっては、どうして並々のことであろうか。女のご様子も、なるほど素晴しいお盛りである。重々しいという点では、どうであろうか、魅力的で優美で若々しい感じがして、好ましいご様子である。<BR>⏎ |
| c1 | 189 | と、声を上げて申告するようである。「自分以外にも、この近辺で密会している近衛府の官人がいるのだろう。こ憎らしい傍輩が教えてよこしたのだろう」と、大将はお聞きになる。面白いと思う一方、厄介である。<BR>⏎ | 164 | と,声を上げて申告するようである。「自分以外にも、この近辺で密会している近衛府の官人がいるのだろう。こ憎らしい傍輩が教えてよこしたのだろう」と、大将はお聞きになる。面白いと思う一方、厄介である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 193-194 | 「自分からあれこれと涙で袖を濡らすことですわ<BR>⏎ 夜が明けると教えてくれる声につけましても」<BR>⏎ | 168 | 「自分からあれこれと涙で袖を濡らすことですわ<BR> 夜が明けると教えてくれる声につけましても」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 196-197 | 「嘆きながら一生をこのように過ごせというのでしょうか<BR>⏎ 胸の思いの晴れる間もないのに」<BR>⏎ | 170 | 「嘆きながら一生をこのように過ごせというのでしょうか<BR> 胸の思いの晴れる間もないのに」<BR>⏎ |
| d1 | 201 | <P>⏎ | ||
| version10 | 202 | <H4>第三章 藤壷の物語 塗籠事件</H4> | 174 | |
| version10 | 203 | <A NAME="in31">[第一段 源氏、再び藤壷に迫る]</A><BR> | 175 | |
| c2 | 204-205 | 内裏に参内なさるようなことは、物馴れない気がし、窮屈にお感じになって、東宮をご後見申し上げなされないのを、気がかりに思われなさる。また一方、頼りとする人もいらっしゃらないので、ただこの大将の君を、いろいろとお頼り申し上げていらっしゃったが、依然として、この憎らしいご執心が止まないうえに、ややもすれば度々胸をお痛めになって、少しも関係をお気づきあそばさずじまいだったのを思うだけでも、とても恐ろしいのに、今その上にまた、そのような事の噂が立っては、自分の身はともかくも、東宮の御ためにきっとよくない事が出て来よう、とお思いになると、とても恐ろしいので、ご祈祷までおさせになって、この事をお絶ちいただこうと、あらゆるご思案をなさって逃れなさるが、どのような機会だったのだろうか、思いもかけぬことに、お近づきになった。慎重に計画なさったことを、気づいた女房もいなかったので、夢のようであった。<BR>⏎ 筆に写して伝えることができないくらい言葉巧みにかき口説き申し上げなさるが、宮、まことにこの上もなく冷たくおあしらい申し上げなさって、遂には、お胸をひどくお苦しみなさったので、近くに控えていた命婦、弁などは、驚きあきれてご介抱申し上げる。男は、恨めしい、辛い、とお思い申し上げなさること、この上もないので、過去も未来も、まっ暗闇になった感じで、理性も失せてしまったので、すっかり明けてしまったが、お出にならないままになってしまった。<BR>⏎ | 176-177 | 内裏に参内なさるようなことは、物馴れない気がし、窮屈にお感じになって、東宮をご後見申し上げなされないのを、気がかりに思われなさる。また一方,頼りとする人もいらっしゃらないので、ただこの大将の君を、いろいろとお頼り申し上げていらっしゃったが、依然として、この憎らしいご執心が止まないうえに、ややもすれば度々胸をお痛めになって、少しも関係をお気づきあそばさずじまいだったのを思うだけでも、とても恐ろしいのに、今その上にまた、そのような事の噂が立っては、自分の身はともかくも、東宮の御ためにきっとよくない事が出て来よう、とお思いになると、とても恐ろしいので、ご祈祷までおさせになって、この事をお絶ちいただこうと、あらゆるご思案をなさって逃れなさるが、どのような機会だったのだろうか、思いもかけぬことに、お近づきになった。慎重に計画なさったことを、気づいた女房もいなかったので、夢のようであった。<BR>⏎ 筆に写して伝えることができないくらい言葉巧みにかき口説き申し上げなさるが、宮、まことにこの上もなく冷たくおあしらい申し上げなさって、遂には、お胸をひどくお苦しみなさったので、近くに控えていた命婦、弁などは、驚きあきれてご介抱申し上げる。男は、恨めしい,辛い、とお思い申し上げなさること、この上もないので、過去も未来も、まっ暗闇になった感じで、理性も失せてしまったので、すっかり明けてしまったが、お出にならないままになってしまった。<BR>⏎ |
| c1 | 208 | などと騒ぐのを、大将は、とても辛く聞いていらっしゃる。やっとのことで、暮れて行くころに、ご回復あそばした。<BR>⏎ | 180 | などと騒ぐのを、大将は、とても辛く聞いていらっしゃる。やっとのことで、暮れて行くころに,ご回復あそばした。<BR>⏎ |
| c1 | 211 | などと、ひそひそとささやきもてあましている。<BR>⏎ | 183 | などと,ひそひそとささやきもてあましている。<BR>⏎ |
| c3 | 213-215 | 「やはり、とても苦しい。死んでしまうのかしら」<BR>⏎ と言って、外の方を遠く見ていらっしゃる横顔、何とも言いようがないほど優美に見える。お果物だけでも、といって差し上げた。箱の蓋などにも、おいしそうに盛ってあるが、見向きもなさらない。世の中をとても深く思い悩んでいられるご様子で、静かに物思いに耽っていらっしゃる、たいそういじらしげである。髪の生え際、頭の恰好、御髪のかかっている様子、この上ない美しさなど、まるで、あの対の姫君に異なるところがない。ここ数年来、少し思い忘れていらしたのを、「驚きあきれるまでよく似ていらっしゃることよ」と御覧になっていらっしゃると、少し執心の晴れる心地がなさる。<BR>⏎ 気品高く気後れするような様子なども、まったく別人と区別することも難しいのを、やはり、何よりも大切に昔からお慕い申し上げてきた心の思いなしか、「たいそう格別に、お年とともにますますお美しくなってこられたなあ」と、他に比べるものがなくお思いになると、惑乱して、そっと御帳の中に纏いつくように入り込んで、御衣の褄を引き動かしなさる。気配ははっきり分かり、さっと匂ったので、あきれて不快な気がなさって、そのまま伏せっておしまいになった。「振り向いて下さるだけでも」と恨めしく辛くて、引き寄せなさると、お召物を脱ぎ滑らせて、いざり退きなさるが、思いがけず、御髪がお召し物と一緒に掴まえられたので、まことに情けなく、宿縁の深さ、思い知られなさって、実に辛い、とお思いになった。<BR>⏎ | 185-187 | 「やはり,とても苦しい。死んでしまうのかしら」<BR>⏎ と言って,外の方を遠く見ていらっしゃる横顔、何とも言いようがないほど優美に見える。お果物だけでも、といって差し上げた。箱の蓋などにも、おいしそうに盛ってあるが、見向きもなさらない。世の中をとても深く思い悩んでいられるご様子で、静かに物思いに耽っていらっしゃる、たいそういじらしげである。髪の生え際、頭の恰好、御髪のかかっている様子、この上ない美しさなど、まるで,あの対の姫君に異なるところがない。ここ数年来、少し思い忘れていらしたのを、「驚きあきれるまでよく似ていらっしゃることよ」と御覧になっていらっしゃると、少し執心の晴れる心地がなさる。<BR>⏎ 気品高く気後れするような様子なども、まったく別人と区別することも難しいのを、やはり,何よりも大切に昔からお慕い申し上げてきた心の思いなしか、「たいそう格別に、お年とともにますますお美しくなってこられたなあ」と、他に比べるものがなくお思いになると、惑乱して、そっと御帳の中に纏いつくように入り込んで、御衣の褄を引き動かしなさる。気配ははっきり分かり、さっと匂ったので、あきれて不快な気がなさって、そのまま伏せっておしまいになった。「振り向いて下さるだけでも」と恨めしく辛くて、引き寄せなさると、お召物を脱ぎ滑らせて、いざり退きなさるが、思いがけず、御髪がお召し物と一緒に掴まえられたので、まことに情けなく、宿縁の深さ、思い知られなさって、実に辛い,とお思いになった。<BR>⏎ |
| c4 | 221-224 | 「わずか、この程度であっても、時々、大層深い苦しみだけでも、晴らすことができれば、何の大それた考えもございません」<BR>⏎ などと、ご安心申し上げなさるのだろう。ありふれたことでさえも、このような間柄には、しみじみとしたことも多く付きまとうというものだが、それ以上に、匹敵するものがなさそうである。<BR>⏎ 明けてしまったので、二人して、大変なことになるとご忠告申し上げ、宮は、半ば魂も抜けたような御様子なのが、おいたわしいので、<BR>⏎ 「世の中にまだ生きているとお聞きあそばすのも、とても恥ずかしいので、このまま死んでしまいますのも、また、この世だけともならぬ罪障となりましょうことよ」<BR>⏎ | 193-196 | 「わずか,この程度であっても、時々、大層深い苦しみだけでも、晴らすことができれば、何の大それた考えもございません」<BR>⏎ などと,ご安心申し上げなさるのだろう。ありふれたことでさえも、このような間柄には、しみじみとしたことも多く付きまとうというものだが、それ以上に,匹敵するものがなさそうである。<BR>⏎ 明けてしまったので、二人して、大変なことになるとご忠告申し上げ、宮は、半ば魂も抜けたような御様子なのが,おいたわしいので、<BR>⏎ 「世の中にまだ生きているとお聞きあそばすのも、とても恥ずかしいので、このまま死んでしまいますのも、また,この世だけともならぬ罪障となりましょうことよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 226-227 | 「お逢いすることの難しさが今日でおしまいでないならば<BR>⏎ いく転生にわたって嘆きながら過すことでしょうか<BR>⏎ | 198 | 「お逢いすることの難しさが今日でおしまいでないならば<BR> いく転生にわたって嘆きながら過すことでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 230-231 | 「未来永劫の怨みをわたしに残したと言っても<BR>⏎ そのようなお心はまた一方ですぐに変わるものと知っていただきたい」<BR>⏎ | 201 | 「未来永劫の怨みをわたしに残したと言っても<BR> そのようなお心はまた一方ですぐに変わるものと知っていただきたい」<BR>⏎ |
| d1 | 233 | <P>⏎ | ||
| version10 | 234 | <A NAME="in32">[第二段 藤壷、出家を決意]</A><BR> | 203 | |
| c1 | 235 | 「何の面目があって、再びお目にかかることができようか。気の毒だとお気づきになるだけでも」とお思いになって、後朝の文も差し上げなさらない。すっかりもう、内裏、東宮にも参内なさらず、籠もっていらして、寝ても覚めても、「本当にひどいお気持ちの方だ」と、体裁が悪いほど恋しく悲しいので、気も魂も抜け出してしまったのだろうか、ご気分までが悪く感じられる。何となく心細く、「どうしてか、世の中に生きていると嫌なことばかり増えていくのだろう」と、発意なさる一方では、この女君がとてもかわいらしげで、心からお頼り申し上げていらっしゃるのを、振り捨てるようなこと、とても難しい。<BR>⏎ | 204 | 「何の面目があって、再びお目にかかることができようか。気の毒だとお気づきになるだけでも」とお思いになって、後朝の文も差し上げなさらない。すっかりもう、内裏、東宮にも参内なさらず、籠もっていらして、寝ても覚めても、「本当にひどいお気持ちの方だ」と、体裁が悪いほど恋しく悲しいので、気も魂も抜け出してしまったのだろうか、ご気分までが悪く感じられる。何となく心細く、「どうしてか,世の中に生きていると嫌なことばかり増えていくのだろう」と、発意なさる一方では、この女君がとてもかわいらしげで、心からお頼り申し上げていらっしゃるのを、振り捨てるようなこと、とても難しい。<BR>⏎ |
| c2 | 237-238 | 「このようなことが止まなかったら、ただでさえ辛い世の中に、嫌な噂までが立てられるだろう。大后が、けしからんことだとおっしゃっているという地位をも退いてしまおう」と、次第にお思いになる。故院が御配慮あそばして仰せになったことが、並大抵のことではなかったことをお思い出しになるにも、「すべてのことが、以前と違って、変わって行く世の中のようだ。戚夫人が受けたような辱めではなくても、きっと、世間の物嗤いになるようなことは、身の上に起こるにちがいない」などと、世の中が厭わしく、生きて行きがたく感じられずにはいられないので、出家してしまうことを御決意なさるが、東宮に、お眼にかからないで尼姿になること、悲しく思われなさるので、こっそりと参内なさった。<BR>⏎ 大将の君は、それほどでないことでさえ、お気づきにならないことなくお仕え申し上げていらっしゃるが、ご気分がすぐれないことを理由にして、お送りの供奉にも参上なさらない。一通りのお世話は、いつもと同じようだが、「すっかり、気落ちしていらっしゃる」と、事情を知っている女房たちは、お気の毒にお思い申し上げる。<BR>⏎ | 206-207 | 「このようなことが止まなかったら、ただでさえ辛い世の中に、嫌な噂までが立てられるだろう。大后が、けしからんことだとおっしゃっているという地位をも退いてしまおう」と、次第にお思いになる。故院が御配慮あそばして仰せになったことが、並大抵のことではなかったことをお思い出しになるにも、「すべてのことが、以前と違って、変わって行く世の中のようだ。戚夫人が受けたような辱めではなくても、きっと,世間の物嗤いになるようなことは、身の上に起こるにちがいない」などと、世の中が厭わしく、生きて行きがたく感じられずにはいられないので、出家してしまうことを御決意なさるが、東宮に、お眼にかからないで尼姿になること、悲しく思われなさるので、こっそりと参内なさった。<BR>⏎ 大将の君は、それほどでないことでさえ、お気づきにならないことなくお仕え申し上げていらっしゃるが、ご気分がすぐれないことを理由にして、お送りの供奉にも参上なさらない。一通りのお世話は、いつもと同じようだが、「すっかり,気落ちしていらっしゃる」と、事情を知っている女房たちは、お気の毒にお思い申し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 243-244 | 「式部のようになの。どうして、そのようにはおなりになりましょう」<BR>⏎ と、笑っておっしゃる。何とも言いようがなくいじらしいので、<BR>⏎ | 212-213 | 「式部のようになの。どうして,そのようにはおなりになりましょう」<BR>⏎ と,笑っておっしゃる。何とも言いようがなくいじらしいので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 248-249 | と言って、涙が落ちたので、恥ずかしいとお思いになって、それでも横をお向きになっていらっしゃる、お髪はふさふさと美しくて、目もとがやさしく輝いていらっしゃる様子、大きく成長なさっていくにつれて、まるで、あの方のお顔を移し変えなさったようである。御歯が少し虫歯になって、口の中が黒ずんで、笑っていらっしゃる輝く美しさは、女として拝見したい美しさである。「とても、こんなに似ていらっしゃるのが、心配だ」と、玉の疵にお思いなされるのも、世間のうるさいことが、空恐ろしくお思いになられるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 217 | と言って,涙が落ちたので、恥ずかしいとお思いになって、それでも横をお向きになっていらっしゃる、お髪はふさふさと美しくて、目もとがやさしく輝いていらっしゃる様子、大きく成長なさっていくにつれて、まるで,あの方のお顔を移し変えなさったようである。御歯が少し虫歯になって、口の中が黒ずんで、笑っていらっしゃる輝く美しさは、女として拝見したい美しさである。「とても,こんなに似ていらっしゃるのが、心配だ」と、玉の疵にお思いなされるのも、世間のうるさいことが、空恐ろしくお思いになられるのであった。<BR>⏎ |
| version10 | 250 | <H4>第四章 光る源氏の物語 雲林院参籠</H4> | 218 | |
| version10 | 251 | <A NAME="in41">[第一段 秋、雲林院に参籠]</A><BR> | 219 | |
| cd5:4 | 253-257 | 「故母御息所のご兄妹の律師が籠もっていらっしゃる坊で、法文などを読み、勤行をしよう」⏎ とお思いになって、二、三日いらっしゃると、心打たれる事柄が多かった。<BR>⏎ 紅葉がだんだん一面に色づいてきて、秋の野がとても優美な様子などを御覧になって、邸のことなども忘れてしまいそうに思われなさる。法師たちで、学才のある者ばかりを召し寄せて、論議させてお聞きあそばす。場所柄のせいで、ますます世の中の無常を夜を明かしてお考えになっても、やはり、「つれない人こそ、恋しく思われる」と、思い出さずにはいらっしゃれない明け方の月の光に、法師たちが閼伽棚にお供え申そうとして、からからと鳴らしながら、菊の花、濃い薄い紅葉など、折って散らしてあるのも、些細なことのようだが、<BR>⏎ 「この方面のお勤めは、この世の所在なさの慰めになり、また来世も頼もしげである。それに引き比べ、つまらない身の上を持て余していることよ」<BR>⏎ などと、お思い続けなさる。律師が、とても尊い声で、<BR>⏎ | 221-224 | 「故母御息所のご兄妹の律師が籠もっていらっしゃる坊で、法文などを読み、勤行をしよう」とお思いになって、二,三日いらっしゃると、心打たれる事柄が多かった。<BR>⏎ 紅葉がだんだん一面に色づいてきて、秋の野がとても優美な様子などを御覧になって、邸のことなども忘れてしまいそうに思われなさる。法師たちで、学才のある者ばかりを召し寄せて、論議させてお聞きあそばす。場所柄のせいで、ますます世の中の無常を夜を明かしてお考えになっても、やはり,「つれない人こそ,恋しく思われる」と、思い出さずにはいらっしゃれない明け方の月の光に、法師たちが閼伽棚にお供え申そうとして、からからと鳴らしながら、菊の花、濃い薄い紅葉など、折って散らしてあるのも、些細なことのようだが、<BR>⏎ 「この方面のお勤めは、この世の所在なさの慰めになり、また来世も 頼もしげである。それに引き比べ、つまらない身の上を持て余していることよ」<BR>⏎ などと,お思い続けなさる。律師が、とても尊い声で、<BR>⏎ |
| c2 | 259-260 | と、声を引き延ばして読経なさっているのは、とても羨ましいので、「どうして自分は」とお考えになると、まず、姫君が心にかかって思い出されなさるのは、まことに未練がましい悪い心であるよ。<BR>⏎ いつにない長い隔ても、不安にばかり思われなさるので、お手紙だけは頻繁に差し上げなさるようである。<BR>⏎ | 226-227 | と,声を引き延ばして読経なさっているのは、とても羨ましいので、「どうして自分は」とお考えになると、まず,姫君が心にかかって思い出されなさるのは、まことに未練がましい悪い心であるよ。<BR>⏎ いつにない長い隔ても、不安にばかり思われなさるので、お手紙だけは 頻繁に差し上げなさるようである。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 262-264 | などと、陸奥紙に、気楽にお書きになっているのまでが、素晴らしい。<BR>⏎ 「浅茅生に置く露のようにはかないこの世にあなたを置いてきたので<BR>⏎ まわりから吹きつける世間の激しい風を聞くにつけ、気ががりでなりません」<BR>⏎ | 229-230 | などと,陸奥紙に,気楽にお書きになっているのまでが、素晴らしい。<BR>⏎ 「浅茅生に置く露のようにはかないこの世にあなたを置いてきたので<BR> まわりから吹きつける世間の激しい風を聞くにつけ、気ががりでなりません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 266-267 | 「風が吹くとまっ先に乱れて色変わりするはかない浅茅生の露の上に<BR>⏎ 糸をかけてそれを頼りに生きている蜘蛛のようなわたしですから」<BR>⏎ | 232 | 「風が吹くとまっ先に乱れて色変わりするはかない浅茅生の露の上に<BR> 糸をかけてそれを頼りに生きている蜘蛛のようなわたしですから」<BR>⏎ |
| d1 | 270 | <P>⏎ | ||
| version10 | 271 | <A NAME="in42">[第二段 朝顔斎院と和歌を贈答]</A><BR> | 235 | |
| cd4:3 | 273-276 | 「このように、旅の空に、物思いゆえに身も魂もさまよい出たのを、ご存知なはずはありますまいね」<BR>⏎ などと、恨み言を述べて、御前には、<BR>⏎ 「口に上して言うことは恐れ多いことですけれど<BR>⏎ その昔の秋のころのことが思い出されます<BR>⏎ | 237-239 | 「このように,旅の空に、物思いゆえに身も魂もさまよい出たのを、ご存知なはずはありますまいね」<BR>⏎ などと,恨み言を述べて、御前には、<BR>⏎ 「口に上して言うことは恐れ多いことですけれど<BR> その昔の秋のころのことが思い出されます<BR>⏎ |
| c1 | 278 | と、親しげに、唐の浅緑の紙に、榊に木綿をつけたりなど、神々しく仕立てて差し上げさせなさる。<BR>⏎ | 241 | と,親しげに、唐の浅緑の紙に、榊に木綿をつけたりなど、神々しく仕立てて差し上げさせなさる。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 280-283 | 「気の紛れることもなくて、過ぎ去ったことを思い出してはその所在なさに、お偲び申し上げること、多くございますが、何の甲斐もございません事ばかりで」<BR>⏎ と、少し丹念に多く書かれていた。御前の歌は、木綿の片端に、<BR>⏎ 「その昔どうだったとおっしゃるのでしょうか<BR>⏎ 心にかけて偲ぶとおっしゃるわけは<BR>⏎ | 243-245 | 「気の紛れることもなくて、過ぎ去ったことを思い出してはその所在なさに、お偲び申し上げること,多くございますが、何の甲斐もございません事ばかりで」<BR>⏎ と,少し丹念に多く書かれていた。御前の歌は、木綿の片端に、<BR>⏎ 「その昔どうだったとおっしゃるのでしょうか<BR> 心にかけて偲ぶとおっしゃるわけは<BR>⏎ |
| c2 | 286-287 | 「ご筆跡、こまやかな美しさではないが、巧みで、草書きなど美しくなったものだ。ましてや、お顔も、いよいよ美しくなられたろう」と想像されるのも、心が騒いで、恐ろしいことよ。<BR>⏎ 「ああ、このころであったよ。野宮でのしみじみとした事は」とお思い出しになって、「不思議に、同じような事だ」と、神域を恨めしくお思いになられるご性癖が、見苦しいことである。是非にとお思いなら、望みのようにもなったはずのころには、のんびりとお過ごしになって、今となって悔しくお思いになるらしいのも、奇妙なご性質だことよ。<BR>⏎ | 248-249 | 「ご筆跡、こまやかな美しさではないが、巧みで、草書きなど美しくなったものだ。ましてや,お顔も,いよいよ美しくなられたろう」と想像されるのも、心が騒いで、恐ろしいことよ。<BR>⏎ 「ああ,このころであったよ。野宮でのしみじみとした事は」とお思い出しになって、「不思議に、同じような事だ」と、神域を恨めしくお思いになられるご性癖が、見苦しいことである。是非にとお思いなら、望みのようにもなったはずのころには、のんびりとお過ごしになって、今となって悔しくお思いになるらしいのも、奇妙なご性質だことよ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 289-290 | 六十巻という経文、お読みになり、不明な所々を解説させたりなどしていらっしゃるのを、「山寺にとっては、たいそうな光明を修行の力でお祈り出し申した」と、「仏の御面目が立つことだ」と、賎しい法師連中までが喜び合っていた。静かにして、世の中のことをお考え続けなさると、帰ることも億劫な気持ちになってしまいそうだが、姫君一人の身の上をご心配なさるのが心にかかる事なので、長くはいらっしゃれないで、寺にも御誦経の御布施を立派におさせになる。伺候しているすべての、身分の上下を問わない僧ども、その周辺の山賎にまで、物を下賜され、あらゆる功徳を施して、お出になる。お見送り申そうとして、あちらこちらに、賎しい柴掻き人連中が集まっていて、涙を落としながら拝し上げる。黒いお車の中に、喪服を着て質素にしていらっしゃるので、よくはっきりお見えにならないが、かすかなご様子を、またとなく素晴らしい人とお思い申し上げているようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 251 | 六十巻という経文、お読みになり、不明な所々を解説させたりなどしていらっしゃるのを、「山寺にとっては、たいそうな光明を修行の力でお祈り出し申した」と、「仏の御面目が立つことだ」と、賎しい法師連中までが喜び合っていた。静かにして、世の中のことをお考え続けなさると、帰ることも億劫な気持ちになってしまいそうだが、姫君一人の身の上をご心配なさるのが心にかかる事なので、長くはいらっしゃれないで、寺にも御誦経の御布施を立派におさせになる。伺候しているすべての、身分の上下を問わない僧ども、その周辺の山賎にまで,物を下賜され、あらゆる功徳を施して,お出になる。お見送り申そうとして、あちらこちらに、賎しい柴掻き人連中が集まっていて、涙を落としながら拝し上げる。黒いお車の中に、喪服を着て質素にしていらっしゃるので、よくはっきりお見えにならないが、かすかなご様子を、またとなく素晴らしい人とお思い申し上げているようである。<BR>⏎ |
| version10 | 291 | <A NAME="in43">[第三段 源氏、二条院に帰邸]</A><BR> | 252 | |
| c2 | 292-293 | 女君は、この数日間に、いっそう美しく成長なさった感じがして、とても落ち着いていらして、男君との仲が今後どうなって行くのだろうと思っている様子が、いじらしくお思いなさるので、困った心がさまざまに乱れているのがはっきりと目につくのだろうか、「色変わる」とあったのも、かわいらしく思われて、いつもよりも親密にお話し申し上げなさる。<BR>⏎ 山の土産にお持たせになった紅葉、お庭先のと比べて御覧になると、格別に一段と染めてあった露の心やりも、そのままにはできにくく、久しいご無沙汰も体裁悪いまで思われなさるので、ただ普通の贈り物として、宮に差し上げなさる。命婦のもとに、<BR>⏎ | 253-254 | 女君は、この数日間に、いっそう美しく成長なさった感じがして、とても落ち着いていらして、男君との仲が今後どうなって行くのだろうと思っている様子が、いじらしくお思いなさるので、困った心がさまざまに乱れているのがはっきりと目につくのだろうか、「色変わる」とあったのも,かわいらしく思われて、いつもよりも親密にお話し申し上げなさる。<BR>⏎ 山の土産にお持たせになった紅葉、お庭先のと比べて御覧になると、格別に一段と染めてあった露の心やりも、そのままにはできにくく、久しいご無沙汰も体裁悪いまで思われなさるので、ただ普通の贈り物として,宮に差し上げなさる。命婦のもとに、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 296-299 | なるほど、立派な枝ぶりなので、お目も惹きつけられると、いつものように、ちょっとした文が結んであるのだった。女房たちが拝見しているので、お顔の色も変わって、<BR>⏎ 「依然として、このようなお心がお止みにならないのが、ほんとうに嫌なこと。惜しいことに思慮深くいらっしゃる方が、考えもなく、このようなこと、時々お加えなさるのを、女房たちもきっと変だと思うであろう」<BR>⏎ と、気に食わなく思われなさって、瓶に挿させて、廂の柱のもとに押しやらせなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 257-259 | なるほど,立派な枝ぶりなので、お目も惹きつけられると、いつものように、ちょっとした文が結んであるのだった。女房たちが拝見しているので、お顔の色も変わって、<BR>⏎ 「依然として,このようなお心がお止みにならないのが、ほんとうに嫌なこと。惜しいことに思慮深くいらっしゃる方が、考えもなく、このようなこと、時々お加えなさるのを、女房たちもきっと変だと思うであろう」<BR>⏎ と,気に食わなく思われなさって、瓶に挿させて、廂の柱のもとに押しやらせなさった。<BR>⏎ |
| version10 | 300 | <A NAME="in44">[第四段 朱雀帝と対面]</A><BR> | 260 | |
| c1 | 302 | まず最初、帝の御前に参上なさると、くつろいでいらっしゃるところで、昔今のお話を申し上げなさる。御容貌も、院にとてもよくお似申していらして、さらに一段と優美な点が付け加わって、お優しく穏やかでおいであそばす。お互いに懐かしく思ってお会いなさる。<BR>⏎ | 262 | まず最初,帝の御前に参上なさると、くつろいでいらっしゃるところで、昔今のお話を申し上げなさる。御容貌も、院にとてもよくお似申していらして、さらに一段と優美な点が付け加わって、お優しく穏やかでおいであそばす。お互いに懐かしく思ってお会いなさる。<BR>⏎ |
| c3 | 304-306 | 「どうして、今に始まったことならばともかく、前から続いていたことなのだ。そのように心を通じ合っても、おかしくはない二人の仲なのだ」<BR>⏎ と、しいてそうお考えになって、お咎めあそばさないのであった。<BR>⏎ いろいろなお話、学問上で不審にお思いあそばしている点など、お尋ねあそばして、また、色めいた歌の話なども、お互いに打ち明けお話し申し上げなさる折に、あの斎宮がお下りになった日のこと、ご容貌が美しくおいであそばしたことなど、お話しあそばすので、自分も気を許して、野宮のしみじみとした明け方の話も、すっかりお話し申し上げてしまったのであった。<BR>⏎ | 264-266 | 「どうして,今に始まったことならばともかく,前から続いていたことなのだ。そのように心を通じ合っても、おかしくはない二人の仲なのだ」<BR>⏎ と,しいてそうお考えになって、お咎めあそばさないのであった。<BR>⏎ いろいろなお話、学問上で不審にお思いあそばしている点など、お尋ねあそばして、また,色めいた歌の話なども、お互いに打ち明けお話し申し上げなさる折に、あの斎宮がお下りになった日のこと、ご容貌が美しくおいであそばしたことなど、お話しあそばすので、自分も気を許して、野宮のしみじみとした明け方の話も、すっかりお話し申し上げてしまったのであった。<BR>⏎ |
| c3 | 313-315 | と、仰せになるので、<BR>⏎ 「おおよそ、なさることなどは、とても賢く大人のような様子でいらっしゃるが、まだ、とても不十分で」<BR>⏎ などと、その御様子も申し上げなさって、退出なさる時に、大宮のご兄弟の藤大納言の子で、頭の弁という者が、時流に乗って、今を時めく若者なので、何も気兼ねすることのないのであろう、妹の麗景殿の御方に行くところに、大将が先払いをひそやかにすると、ちょっと立ち止まって、<BR>⏎ | 273-275 | と,仰せになるので、<BR>⏎ 「おおよそ、なさることなどは、とても賢く大人のような様子でいらっしゃるが、まだ,とても不十分で」<BR>⏎ などと,その御様子も申し上げなさって、退出なさる時に、大宮のご兄弟の藤大納言の子で、頭の弁という者が、時流に乗って、今を時めく若者なので、何も気兼ねすることのないのであろう、妹の麗景殿の御方に行くところに、大将が先払いをひそやかにすると、ちょっと立ち止まって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 317-318 | と、たいそうゆっくりと朗誦したのを、大将、まことに聞きにくいとお聞きになったが、何の咎め立てできることであろうか。后の御機嫌は、ひどく恐ろしく、厄介な噂ばかり聞いているうえに、このように一族の人々までも、態度に現して非難して言うらしいことがあるのを、厄介に思われなさったが、知らないふりをなさっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 277 | と,たいそうゆっくりと朗誦したのを、大将、まことに聞きにくいとお聞きになったが、何の咎め立てできることであろうか。后の御機嫌は、ひどく恐ろしく、厄介な噂ばかり聞いているうえに、このように一族の人々までも、態度に現して非難して言うらしいことがあるのを、厄介に思われなさったが、知らないふりをなさっていた。<BR>⏎ |
| version10 | 319 | <A NAME="in45">[第五段 藤壷に挨拶]</A><BR> | 278 | |
| cd7:5 | 321-327 | と、ご挨拶申し上げなさる。<BR>⏎ 月が明るく照っているので、「昔、このような時には、管弦の御遊をあそばされて、華やかにお扱いしてくださった」などと、お思い出しになると、同じ宮中ながらも、変わってしまったことが多く悲しい。<BR>⏎ 「宮中には霧が幾重にもかかっているのでしょうか<BR>⏎ 雲の上で見えない月をはるかにお思い申し上げますことよ」<BR>⏎ と、命婦を取り次ぎにして、申し上げさせなさる。それほど離れた距離ではないので、御様子も、かすかではあるが、慕わしく聞こえるので、辛い気持ちも自然と忘れられて、まっ先に涙がこぼれた。<BR>⏎ 「月の光は昔の秋と変わりませんのに<BR>⏎ 隔てる霧のあるのがつらく思われるのです<BR>⏎ | 280-284 | と,ご挨拶申し上げなさる。<BR>⏎ 月が明るく照っているので、「昔,このような時には、管弦の御遊をあそばされて、華やかにお扱いしてくださった」などと、お思い出しになると、同じ宮中ながらも、変わってしまったことが多く悲しい。<BR>⏎ 「宮中には霧が幾重にもかかっているのでしょうか<BR> 雲の上で見えない月をはるかにお思い申し上げますことよ」<BR>⏎ と,命婦を取り次ぎにして、申し上げさせなさる。それほど離れた距離ではないので、御様子も、かすかではあるが、慕わしく聞こえるので、辛い気持ちも自然と忘れられて、まっ先に涙がこぼれた。<BR>⏎ 「月の光は昔の秋と変わりませんのに<BR> 隔てる霧のあるのがつらく思われるのです<BR>⏎ |
| c1 | 329 | などと、申し上げなさる。<BR>⏎ | 286 | などと,申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 331 | <P>⏎ | ||
| version10 | 332 | <A NAME="in46">[第六段 初冬のころ、源氏朧月夜と和歌贈答]</A><BR> | 288 | |
| cd3:2 | 335-337 | 「木枯が吹くたびごとに訪れを待っているうちに<BR>⏎ 長い月日が経ってしまいました」<BR>⏎ と差し上げなさった。時節柄しみじみとしたころであり、無理をしてこっそりお書きになったらしいお気持ちも、いじらしいので、お使いを留めさせて、唐の紙をお入れあそばしている御厨子を開けさせなさって、特別上等なのをあれこれ選び出しなさって、筆を念入りに整えて認めていらっしゃる様子、優美なので、御前の女房たちは、「どなたのであろう」と、互いにつっ突き合っている。<BR>⏎ | 291-292 | 「木枯が吹くたびごとに訪れを待っているうちに<BR> 長い月日が経ってしまいました」<BR>⏎ と差し上げなさった。時節柄しみじみとしたころであり、無理をしてこっそりお書きになったらしいお気持ちも、いじらしいので、お使いを留めさせて、唐の紙をお入れあそばしている御厨子を開けさせなさって、特別上等なのをあれこれ選び出しなさって、筆を念入りに整えて認めていらっしゃる様子、優美なので、御前の女房たちは、「どなたのであろう」と,互いにつっ突き合っている。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 339-342 | お逢いできずに恋い忍んで泣いている涙の雨までを<BR>⏎ ありふれた秋の時雨とお思いなのでしょうか<BR>⏎ 心が通じるならば、どんなに物思いに沈んでいる気持ちも、紛れることでしょう」<BR>⏎ などと、つい情のこもった手紙になってしまった。<BR>⏎ | 294-296 | お逢いできずに恋い忍んで泣いている涙の雨までを<BR> ありふれた秋の時雨とお思いなのでしょうか<BR>⏎ 心が通じるならば、どんなに物思いに沈んでいる気持ちも,紛れることでしょう」<BR>⏎ などと,つい情のこもった手紙になってしまった。<BR>⏎ |
| d1 | 344 | <P>⏎ | ||
| version10 | 345 | <H4>第五章 藤壷の物語 法華八講主催と出家</H4> | 298 | |
| version10 | 346 | <A NAME="in51">[第一段 十一月一日、故桐壷院の御国忌]</A><BR> | 299 | |
| cd2:1 | 349-350 | 「故院にお別れ申した日がめぐって来ましたが、雪はふっても<BR>⏎ その人にまた行きめぐり逢える時はいつと期待できようか」<BR>⏎ | 302 | 「故院にお別れ申した日がめぐって来ましたが、雪はふっても<BR> その人にまた行きめぐり逢える時はいつと期待できようか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 352-353 | 「生きながらえておりますのは辛く嫌なことですが<BR>⏎ 一周忌の今日は、故院の在世中のような思いがいたしまして」<BR>⏎ | 304 | 「生きながらえておりますのは辛く嫌なことですが<BR> 一周忌の今日は、故院の在世中のような思いがいたしまして」<BR>⏎ |
| d1 | 355 | <P>⏎ | ||
| version10 | 356 | <A NAME="in52">[第二段 十二月十日過ぎ、藤壷、法華八講主催の後、出家す]</A><BR> | 306 | |
| c1 | 358 | 第一日は、先帝の御ため。第二日は、母后の御ため。次の日は、故院の御ため。第五巻目の日なので、上達部なども、世間の思惑に遠慮なさってもおれず、おおぜい参上なさった。今日の講師は、特に厳選あそばしていらっしゃるので、「薪こり」という讃歌をはじめとして、同じ唱える言葉でも、たいそう尊い。親王たちも、さまざまな供物を捧げて行道なさるが、大将殿のお心づかいなど、やはり他に似るものがない。いつも同じことのようだが、拝見する度毎に素晴らしいのは、どうしたらよいだろうか。<BR>⏎ | 308 | 第一日は、先帝の御ため。第二日は、母后の御ため。次の日は、故院の御ため。第五巻目の日なので、上達部なども、世間の思惑に遠慮なさってもおれず、おおぜい参上なさった。今日の講師は、特に厳選あそばしていらっしゃるので、「薪こり」という讃歌をはじめとして、同じ唱える言葉でも、たいそう尊い。親王たちも、さまざまな供物を捧げて行道なさるが、大将殿のお心づかいなど、やはり他に似るものがない。いつも同じことのようだが、拝見する度毎に 素晴らしいのは、どうしたらよいだろうか。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 360-363 | 親王は、儀式の最中に座を立って、お入りになった。御決心の固いことをおっしゃって、終わりころに、山の座主を召して、戒をお受けになる旨、仰せになる。御伯父の横川の僧都、お近くに参上なさって、お髪を下ろしなさる時、宮邸中どよめいて、不吉にも泣き声が満ちわたった。⏎ たいしたこともない老い衰えた人でさえ、今は最後と出家をする時は、不思議と感慨深いものなのだが、まして、前々からお顔色にもお出しにならなかったことなので、親王もひどくお泣きになる。<BR>⏎ 参集なさった方々も、大方の成り行きも、しみじみ尊いので、皆、袖を濡らしてお帰りになったのであった。<BR>⏎ 故院の皇子たちは、在世中の御様子をお思い出しになると、ますます、しみじみと悲しく思わずにはいらっしゃれなくて、皆、お見舞いの詞をお掛け申し上げなさる。大将は、お残りになって、お言葉かけ申し上げるすべもなく、目の前がまっ暗闇に思われなさるが、「どうして、そんなにまで」と、人々がお見咎め申すにちがいないので、親王などがお出になった後に、御前に参上なさった。<BR>⏎ | 310-312 | 親王は、儀式の最中に座を立って、お入りになった。御決心の固いことをおっしゃって、終わりころに、山の座主を召して、戒をお受けになる旨、仰せになる。御伯父の横川の僧都、お近くに参上なさって、お髪を下ろしなさる時、宮邸中どよめいて、不吉にも泣き声が満ちわたった。たいしたこともない老い衰えた人でさえ、今は最後と出家をする時は、不思議と感慨深いものなのだが、まして,前々からお顔色にもお出しにならなかったことなので、親王もひどくお泣きになる。<BR>⏎ 参集なさった方々も、大方の成り行きも、しみじみ尊いので、皆,袖を濡らしてお帰りになったのであった。<BR>⏎ 故院の皇子たちは、在世中の御様子をお思い出しになると、ますます,しみじみと悲しく思わずにはいらっしゃれなくて、皆,お見舞いの詞をお掛け申し上げなさる。大将は、お残りになって、お言葉かけ申し上げるすべもなく、目の前がまっ暗闇に思われなさるが、「どうして,そんなにまで」と、人々がお見咎め申すにちがいないので、親王などがお出になった後に、御前に参上なさった。<BR>⏎ |
| c2 | 368-369 | などと、いつものように、命婦を通じて申し上げなさる。<BR>⏎ 御簾の中の様子、おおぜい伺候している女房の衣ずれの音、わざとひっそりと気をつけて、振る舞い身じろぎながら、悲しみが慰めがたそうに外へ漏れくる様子、もっともなことで、悲しいと、お聞きになる。<BR>⏎ | 317-318 | などと,いつものように、命婦を通じて申し上げなさる。<BR>⏎ 御簾の中の様子、おおぜい伺候している女房の衣ずれの音、わざとひっそりと気をつけて、振る舞い身じろぎながら、悲しみが慰めがたそうに外へ漏れくる様子、もっともなことで、悲しいと,お聞きになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 373-374 | 「月のように心澄んだ御出家の境地をお慕い申しても<BR>⏎ なおも子どもゆえのこの世の煩悩に迷い続けるのであろうか<BR>⏎ | 322 | 「月のように心澄んだ御出家の境地をお慕い申しても<BR> なおも子どもゆえのこの世の煩悩に迷い続けるのであろうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 377-378 | 「世間一般の嫌なことからは離れたが、子どもへの煩悩は<BR>⏎ いつになったらすっかり離れ切ることができるのであろうか<BR>⏎ | 325 | 「世間一般の嫌なことからは離れたが、子どもへの煩悩は<BR> いつになったらすっかり離れ切ることができるのであろうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 380-381 | などと、半分は取次ぎの女房のとりなしであろう。悲しみの気持ちばかりが尽きないので、胸の苦しい思いで退出なさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 327 | などと,半分は取次ぎの女房のとりなしであろう。悲しみの気持ちばかりが尽きないので、胸の苦しい思いで退出なさった。<BR>⏎ |
| version10 | 382 | <A NAME="in53">[第三段 後に残された源氏]</A><BR> | 328 | |
| cd4:3 | 384-387 | 「せめて母宮だけでも表向きの御後見役にと、お考えおいておられたのに、世の中の嫌なことに堪え切れず、このようにおなりになってしまったので、もとの地位のままでいらっしゃることもおできになれまい。自分までがご後見申し上げなくなってしまったら」などと、お考え続けなさり、夜を明かすこと、一再でない。<BR>⏎ 「今となっては、こうした方面の御調度類などを、さっそくに」とお思いになると、年内にと考えて、お急がせなさる。命婦の君もお供して出家してしまったので、その人にも懇ろにお見舞いなさる。詳しく語ることも、仰々しいことになるので、省略したもののようである。実のところ、このような折にこそ、趣の深い歌なども出てくるものだが、物足りないことよ。<BR>⏎ 参上なさっても、今は遠慮も薄らいで、御自身でお話を申し上げなさる時もあるのであった。ご執心であったことは、全然お心からなくなってはないが、言うまでもなく、あってはならないことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 330-332 | 「せめて母宮だけでも表向きの御後見役にと、お考えおいておられたのに、世の中の嫌なことに堪え切れず、このようにおなりになってしまったので、もとの地位のままでいらっしゃることもおできになれまい。自分までがご後見申し上げなくなってしまったら」などと、お考え続けなさり,夜を明かすこと,一再でない。<BR>⏎ 「今となっては、こうした方面の御調度類などを,さっそくに」とお思いになると、年内にと考えて、お急がせなさる。命婦の君もお供して出家してしまったので、その人にも懇ろにお見舞いなさる。詳しく語ることも、仰々しいことになるので、省略したもののようである。実のところ,このような折にこそ、趣の深い歌なども出てくるものだが、物足りないことよ。<BR>⏎ 参上なさっても、今は遠慮も薄らいで、御自身でお話を申し上げなさる時もあるのであった。ご執心であったことは、全然お心からなくなってはないが、言うまでもなく,あってはならないことである。<BR>⏎ |
| version10 | 388 | <H4>第六章 光る源氏の物語 寂寥の日々</H4> | 333 | |
| version10 | 389 | <A NAME="in61">[第一段 諒闇明けの新年を迎える]</A><BR> | 334 | |
| cd2:1 | 394-395 | 「物思いに沈んでいらっしゃるお住まいかと存じますと<BR>⏎ 何より先に涙に暮れてしまいます」<BR>⏎ | 339 | 「物思いに沈んでいらっしゃるお住まいかと存じますと<BR> 何より先に涙に暮れてしまいます」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 397-401 | 「昔の俤さえないこのような所に<BR>⏎ 立ち寄ってくださるとは珍しいですね」<BR>⏎ とおっしゃるのが、微かに聞こえるので、堪えていたが、涙がほろほろとおこぼれになった。⏎ 世の中を悟り澄ましている尼君たちが見ているだろうのも、体裁が悪いので、言葉少なにしてお帰りになった。<BR>⏎ 「なんと、またとないくらい立派にお成りですこと」<BR>⏎ | 341-343 | 「昔の俤さえないこのような所に<BR> 立ち寄ってくださるとは珍しいですね」<BR>⏎ とおっしゃるのが、微かに聞こえるので、堪えていたが、涙がほろほろとおこぼれになった。世の中を悟り澄ましている尼君たちが見ているだろうのも、体裁が悪いので、言葉少なにしてお帰りになった。<BR>⏎ 「なんと,またとないくらい立派にお成りですこと」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 404-405 | などと、年老いた女房たち、涙を流しながら、お褒め申し上げる。宮も、お思い出しになる事が多かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 346 | などと,年老いた女房たち、涙を流しながら、お褒め申し上げる。宮も、お思い出しになる事が多かった。<BR>⏎ |
| version10 | 406 | <A NAME="in62">[第二段 源氏一派の人々の不遇]</A><BR> | 347 | |
| c1 | 412 | ご子息たちは、どの方も皆人柄が良く朝廷に用いられて、得意そうでいらっしゃったが、すっかり沈んで、三位中将なども、前途を悲観している様子、格別である。あの四の君との仲も、相変わらず、間遠にお通いになっては、心外なお扱いをなさっているので、気を許した婿君の中にはお入れにならない。思い知れというのであろうか、今度の司召にも漏れてしまったが、たいして気にはしていない。<BR>⏎ | 353 | ご子息たちは、どの方も皆人柄が良く朝廷に用いられて、得意そうでいらっしゃったが、すっかり沈んで、三位中将なども、前途を悲観している様子、格別である。あの四の君との仲も、相変わらず,間遠にお通いになっては、心外なお扱いをなさっているので、気を許した婿君の中にはお入れにならない。思い知れというのであろうか、今度の司召にも漏れてしまったが、たいして気にはしていない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 415-416 | 春秋の季の御読経はいうまでもなく、臨時のでも、あれこれと尊い法会をおさせになったりなどして、また一方、無聊で暇そうな博士連中を呼び集めて、作文会、韻塞ぎなどの気楽な遊びをしたりなど、気を晴らして、宮仕えなどもめったになさらず、お気の向くままに遊び興じていらっしゃるのを、世間では、厄介なことをだんだん言い出す人々がきっといるであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 356 | 春秋の季の御読経はいうまでもなく、臨時のでも、あれこれと尊い法会をおさせになったりなどして、また一方,無聊で暇そうな博士連中を呼び集めて、作文会、韻塞ぎなどの気楽な遊びをしたりなど、気を晴らして、宮仕えなどもめったになさらず、お気の向くままに遊び興じていらっしゃるのを、世間では、厄介なことをだんだん言い出す人々がきっといるであろう。<BR>⏎ |
| version10 | 417 | <A NAME="in63">[第三段 韻塞ぎに無聊を送る]</A><BR> | 357 | |
| c1 | 418 | 夏の雨、静かに降って、所在ないころ、中将、適当な詩集類をたくさん持たせて参上なさった。殿でも、文殿を開けさせなさって、まだ開いたことのない御厨子類の中の、珍しい古集で由緒あるものを、少し選び出させなさって、その道に堪能な人々、特別にというのではないが、おおぜい呼んであった。殿上人も大学の人も、とてもおおぜい集まって、左方と右方とに交互に組をお分けになった。賭物なども、又となく素晴らしい物で、競争し合った。<BR>⏎ | 358 | 夏の雨、静かに降って、所在ないころ、中将、適当な詩集類をたくさん持たせて参上なさった。殿でも、文殿を開けさせなさって、まだ開いたことのない御厨子類の中の、珍しい古集で由緒あるものを、少し選び出させなさって、その道に堪能な人々、特別にというのではないが,おおぜい呼んであった。殿上人も大学の人も、とてもおおぜい集まって、左方と右方とに交互に組をお分けになった。賭物なども、又となく素晴らしい物で、競争し合った。<BR>⏎ |
| c1 | 420 | 「どうして、こうも満ち足りていらっしたのだろう」<BR>⏎ | 360 | 「どうして,こうも満ち足りていらっしたのだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 422 | と、お褒め申し上げる。最後には、右方が負けた。<BR>⏎ | 362 | と,お褒め申し上げる。最後には、右方が負けた。<BR>⏎ |
| c1 | 425 | 中将のご子息で、今年初めて童殿上する、八、九歳ほどで、声がとても美しく、笙の笛を吹いたりなどする子を、かわいがりお相手なさる。四の君腹の二郎君であった。世間の心寄せも重くて、特別大切に扱っていた。気立ても才気があふれ、顔形も良くて、音楽のお遊びが少しくだけてゆくころ、「高砂」を声張り上げて謡う、とてもかわいらしい。大将の君、お召物を脱いでお与えになる。<BR>⏎ | 365 | 中将のご子息で、今年初めて童殿上する、八,九歳ほどで、声がとても美しく、笙の笛を吹いたりなどする子を、かわいがりお相手なさる。四の君腹の二郎君であった。世間の心寄せも重くて、特別大切に扱っていた。気立ても才気があふれ、顔形も良くて、音楽のお遊びが少しくだけてゆくころ、「高砂」を声張り上げて謡う、とてもかわいらしい。大将の君、お召物を脱いでお与えになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 427-428 | 「それを見たいと思っていた今朝咲いた花に<BR>⏎ 劣らないお美しさのわが君でございます」<BR>⏎ | 367 | 「それを見たいと思っていた今朝咲いた花に<BR> 劣らないお美しさのわが君でございます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 430-431 | 「時節に合わず今朝咲いた花は夏の雨に<BR>⏎ 萎れてしまったらしい、美しさを見せる間もなく<BR>⏎ | 369 | 「時節に合わず今朝咲いた花は夏の雨に<BR> 萎れてしまったらしい、美しさを見せる間もなく<BR>⏎ |
| c2 | 433-434 | と、陽気に戯れて、酔いの紛れの言葉とお取りなしになるのを、お咎めになる一方で、無理に杯をお進めになる。<BR>⏎ 多く詠まれたらしい歌も、このような時の真面目でない歌、数々書き連ねるのも、はしたないわざだと、貫之の戒めていることであり、それに従って、面倒なので省略した。すべて、この君を讃えた趣旨ばかりで、和歌も漢詩も詠み続けてあった。ご自身でも、たいそう自負されて、<BR>⏎ | 371-372 | と,陽気に戯れて、酔いの紛れの言葉とお取りなしになるのを、お咎めになる一方で、無理に杯をお進めになる。<BR>⏎ 多く詠まれたらしい歌も、このような時の真面目でない歌、数々書き連ねるのも、はしたないわざだと、貫之の戒めていることであり、それに従って、面倒なので 省略した。すべて,この君を讃えた趣旨ばかりで、和歌も漢詩も詠み続けてあった。ご自身でも、たいそう自負されて、<BR>⏎ |
| c1 | 436 | と、口ずさみなさったご自認の言葉までが、なるほど、立派である。「成王の何」と、おっしゃろうというのであろうか。それだけは、また自信がないであろうよ。<BR>⏎ | 374 | と,口ずさみなさったご自認の言葉までが、なるほど,立派である。「成王の何」と、おっしゃろうというのであろうか。それだけは、また自信がないであろうよ。<BR>⏎ |
| d1 | 438 | <P>⏎ | ||
| version10 | 439 | <H4>第七章 朧月夜の物語 村雨の紛れの密会露見</H4> | 376 | |
| version10 | 440 | <A NAME="in71">[第一段 源氏、朧月夜と密会中、右大臣に発見される]</A><BR> | 377 | |
| c1 | 442 | まことに女盛りで、豊かで派手な感じがなさる方が、少し病んで痩せた感じにおなりでいらっしゃるところ、実に魅力的である。<BR>⏎ | 379 | まことに女盛りで、豊かで派手な感じがなさる方が、少し病んで 痩せた感じにおなりでいらっしゃるところ、実に魅力的である。<BR>⏎ |
| c1 | 446 | 雷が鳴りやんで、雨が少し小降りになったころに、大臣が渡っていらして、まず最初、宮のお部屋にいらしたが、村雨の音に紛れてご存知でなかったところへ、気軽にひょいとお入りになって、御簾を巻き上げなさりながら、<BR>⏎ | 383 | 雷が鳴りやんで、雨が少し小降りになったころに、大臣が渡っていらして、まず最初,宮のお部屋にいらしたが、村雨の音に紛れてご存知でなかったところへ、気軽にひょいとお入りになって、御簾を巻き上げなさりながら、<BR>⏎ |
| c1 | 448 | などと、おっしゃる様子が、早口で軽率なのを、大将は、危険な時にでも、左大臣のご様子をふとお思い出しお比べになって、比較しようもないほど、つい笑ってしまわれる。なるほど、すっかり入ってからおっしゃればよいものを。<BR>⏎ | 385 | などと,おっしゃる様子が、早口で軽率なのを、大将は、危険な時にでも、左大臣のご様子を ふとお思い出しお比べになって、比較しようもないほど、つい笑ってしまわれる。なるほど,すっかり入ってからおっしゃればよいものを。<BR>⏎ |
| cd6:5 | 450-455 | 「どうして、まだお顔色がいつもと違うのか。物の怪などがしつこいから、修法を続けさせるべきだった」<BR>⏎ とおっしゃると、薄二藍色の帯が、お召物にまつわりついて出ているのをお見つけになって、変だとお思いになると、また一方に、懐紙に歌など書きちらしたものが、御几帳のもとに落ちていた。「これはいったいどうしたことか」と、驚かずにはいらっしゃれなくて、<BR>⏎ 「あれは、誰のものか。見慣れない物だね。見せてください。それを手に取って誰のものか調べよう」<BR>⏎ とおっしゃるので、振り返ってみて、ご自分でもお見つけになった。ごまかすこともできないので、どのようにお応え申し上げよう。呆然としていらっしゃるのを、「我が子ながら恥ずかしいと思っていられるのだろう」と、これほどの方は、お察しなさって遠慮すべきである。しかし、まことに性急で、ゆったりしたところがおありでない大臣で、後先のお考えもなくなって、懐紙をお持ちになったまま、几帳から覗き込みなさると、まことにたいそうしなやかな恰好で、臆面もなく添い臥している男もいる。今になって、そっと顔をひき隠して、あれこれと身を隠そうとする。あきれて、癪にさわり腹立たしいけれど、面と向かっては、どうして暴き立てることがおできになれようか。目の前がまっ暗になる気がするので、この懐紙を取って、寝殿にお渡りになった。<BR>⏎ 尚侍の君は、呆然自失して、死にそうな気がなさる。大将殿も、「困ったことになった、とうとう、つまらない振る舞いが重なって、世間の非難を受けるだろうことよ」とお思いになるが、女君の気の毒なご様子を、いろいろとお慰め申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 387-391 | 「どうして,まだお顔色がいつもと違うのか。物の怪などがしつこいから、修法を続けさせるべきだった」<BR>⏎ とおっしゃると、薄二藍色の帯が、お召物にまつわりついて出ているのをお見つけになって、変だとお思いになると、また一方に,懐紙に歌など書きちらしたものが、御几帳のもとに落ちていた。「これはいったいどうしたことか」と、驚かずにはいらっしゃれなくて、<BR>⏎ 「あれは,誰のものか。見慣れない物だね。見せてください。それを手に取って誰のものか調べよう」<BR>⏎ とおっしゃるので、振り返ってみて、ご自分でもお見つけになった。ごまかすこともできないので、どのようにお応え申し上げよう。呆然としていらっしゃるのを、「我が子ながら恥ずかしいと思っていられるのだろう」と、これほどの方は、お察しなさって遠慮すべきである。しかし,まことに性急で、ゆったりしたところがおありでない大臣で、後先のお考えもなくなって、懐紙をお持ちになったまま、几帳から覗き込みなさると、まことにたいそうしなやかな恰好で、臆面もなく添い臥している男もいる。今になって、そっと顔をひき隠して、あれこれと身を隠そうとする。あきれて、癪にさわり腹立たしいけれど、面と向かっては、どうして暴き立てることがおできになれようか。目の前がまっ暗になる気がするので、この懐紙を取って、寝殿にお渡りになった。<BR>⏎ 尚侍の君は、呆然自失して、死にそうな気がなさる。大将殿も、「困ったことになった、とうとう,つまらない振る舞いが重なって、世間の非難を受けるだろうことよ」とお思いになるが、女君の気の毒なご様子を、いろいろとお慰め申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version10 | 456 | <A NAME="in72">[第二段 右大臣、源氏追放を画策する]</A><BR> | 392 | |
| ci1:2 | 458 | 「これこれしかじかのことがございました。この懐紙は、右大将のご筆跡である。以前にも、許しを受けないで始まった仲であるが、人品の良さに免じていろいろ我慢して、それでは婿殿にしようかと、言いました時は、心にも止めず、失敬な態度をお取りになったので、不愉快に存じましたが、前世からの宿縁なのかと思って、決して清らかでなくなったからといっても、お見捨てになるまいことを信頼して、このように当初どおり差し上げながら、やはり、その遠慮があって、晴れ晴れしい女御などともお呼ばせになれませんでしたことさえ、物足りなく残念に存じておりましたのに、再び、このような事までがございましたのでは、改めてたいそう情けない気持ちになってしまいました。男の習性とは言いながら、大将もまことにけしからんご性癖であるよ。斎院にもやはり手を出し手を出ししては、こっそりとお手紙のやりとりなどをして、怪しい様子だなどと、人が話しましたのも、国家のためばかりでなく、自分にとっても決して良いことではないので、まさかそのような思慮分別のないことは、し出かさないだろうと、当代の知識人として、天下を風靡していらっしゃる様子、格別のようなので、大将のお心を、疑ってもみなかった」<BR>⏎ | 394-395 | 「これこれしかじかのことがございました。この懐紙は、右大将のご筆跡である。以前にも、許しを受けないで始まった仲であるが、人品の良さに免じていろいろ我慢して、それでは婿殿にしようかと、言いました時は、心にも止めず、失敬な態度をお取りになったので、不愉快に存じましたが、前世からの宿縁なのかと思って、決して清らかでなくなったからといっても、お見捨てになるまいことを信頼して、このように当初どおり差し上げながら、やはり,その遠慮があって、晴れ晴れしい女御などともお呼ばせになれませんでしたことさえ、物足りなく残念に存じておりましたのに、再び,このような事までがございましたのでは、改めてたいそう情けない気持ちになってしまいました。<BR>⏎ 男の習性とは言いながら、大将もまことにけしからんご性癖であるよ。斎院にもやはり手を出し手を出ししては、こっそりとお手紙のやりとりなどをして、怪しい様子だなどと、人が話しましたのも、国家のためばかりでなく、自分にとっても決して良いことではないので、まさかそのような思慮分別のないことは、し出かさないだろうと、当代の知識人として,天下を風靡していらっしゃる様子、格別のようなので、大将のお心を、疑ってもみなかった」<BR>⏎ |
| cd7:5 | 460-466 | 「帝と申し上げるが、昔からどの人も軽んじお思い申し上げて、致仕の大臣も、またとなく大切に育てている一人娘を、兄で東宮でいっしゃる方には差し上げないで、弟で源氏で、まだ幼い者の元服の時の添臥に取り立てて、また、この君を宮仕えにという心づもりでいましたところを、きまりの悪い様子になったのを、誰もが皆、不都合であるとはお思いになったでしょうか。皆が、あのお方にお味方していたようなのを、その当てが外れたことになって、こうして出仕していらっしゃるようだが、気の毒で、何とかそのような宮仕えであっても、他の人に負けないようにして差し上げよう、あれほど憎らしかった人の手前もあるし、などと思っておりましたが、こっそりと自分の気に入った方に、心を寄せていらっしゃるのでしょう。斎院のお噂は、ますますもってそうなのでしょうよ。どのようなことにつけても、帝にとって安心できないように見えるのは、東宮の御治世を、格別期待している人なので、もっともなことでしょう」<BR>⏎ と、容赦なくおっしゃり続けるので、そうはいうものの聞き苦しく、「どうして、申し上げてしまったのか」と、思わずにいられないので、<BR>⏎ 「まあ仕方ない。暫くの間、この話を漏らすまい。帝にも奏上あそばすな。このように、罪がありましても、お捨てにならないのを頼りにして、いい気になっているのでしょう。内々にお諌めなさっても、聞きませんでしたら、その責めは、ひとえにこのわたしが負いましょう」<BR>⏎ などと、お取りなし申されるが、別にご機嫌も直らない。<BR>⏎ 「このように、同じ邸にいらして隙間もないのに、遠慮会釈もなく、あのように忍び込んで来られるというのは、わざと軽蔑し愚弄しておられるのだ」とお思いになると、ますますひどく腹立たしくて、「この機会に、しかるべき事件を企てるのには、よいきっかけだ」と、いろいろとお考えめぐらすようである。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 397-401 | 「帝と申し上げるが、昔からどの人も軽んじお思い申し上げて、致仕の大臣も、またとなく大切に育てている一人娘を、兄で東宮でいっしゃる方には差し上げないで、弟で源氏で、まだ幼い者の元服の時の添臥に取り立てて、また,この君を宮仕えにという心づもりでいましたところを、きまりの悪い様子になったのを、誰もが皆,不都合であるとはお思いになったでしょうか。皆が,あのお方にお味方していたようなのを、その当てが外れたことになって、こうして出仕していらっしゃるようだが、気の毒で、何とかそのような宮仕えであっても、他の人に負けないようにして差し上げよう、あれほど憎らしかった人の手前もあるし、などと思っておりましたが、こっそりと自分の気に入った方に、心を寄せていらっしゃるのでしょう。斎院のお噂は、ますますもってそうなのでしょうよ。どのようなことにつけても、帝にとって安心できないように見えるのは、東宮の御治世を、格別期待している人なので、もっともなことでしょう」<BR>⏎ と,容赦なくおっしゃり続けるので、そうはいうものの聞き苦しく、「どうして,申し上げてしまったのか」と、思わずにいられないので、<BR>⏎ 「まあ仕方ない,暫くの間、この話を漏らすまい。帝にも奏上あそばすな。このように,罪がありましても、お捨てにならないのを頼りにして、いい気になっているのでしょう。内々にお諌めなさっても、聞きませんでしたら、その責めは、ひとえにこのわたしが負いましょう」<BR>⏎ などと,お取りなし申されるが、別にご機嫌も直らない。<BR>⏎ 「このように,同じ邸にいらして隙間もないのに、遠慮会釈もなく、あのように忍び込んで来られるというのは、わざと軽蔑し愚弄しておられるのだ」とお思いになると、ますますひどく腹立たしくて、「この機会に、しかるべき事件を企てるのには、よいきっかけだ」と、いろいろとお考えめぐらすようである。<BR>⏎ |
| d1 | 473 | ⏎ | ||
| i0 | 412 | |||
| diff | src/original/version11.html | src/modified/version11.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version11 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 23 | <P>⏎ | ||
| version11 | 24 | <H4>花散里の物語</H4> | 20 | |
| version11 | 25 | <A NAME="in11">[第一段 花散里訪問を決意]</A><BR> | 21 | |
| d1 | 29 | <P>⏎ | ||
| version11 | 30 | <A NAME="in12">[第二段 中川の女と和歌を贈答]</A><BR> | 25 | |
| cd5:3 | 31-35 | 特にこれといったお支度もなさらず、目立たぬようにして、御前駆などもなく、お忍びで、中川の辺りをお通り過ぎになると、小さな家で、木立など風情があって、良い音色の琴を東の調べに合わせて、賑やかに弾いているのが聞こえる。<BR>⏎ お耳にとまって、門に近い所なので、少し乗り出してお覗き込みなさると、大きな桂の木を吹⏎ き過ぎる風に乗って匂ってくる香りに、葵祭のころが思い出されなさって、どことなく趣があるので、「一度お契りになった家だ」と御覧になる。お気持ちが騒いで、「ずいぶんと過ぎてしまったなあ、はっきりと覚えているかどうか」と、気が引けたが、通り過ぎることもできず、ためらっていらっしゃる、ちょうどその時、ほととぎすが鳴いて飛んで行く。訪問せよと促しているかのようなので、お車を押し戻させて、例によって、惟光をお入れになる。<BR>⏎ 「昔にたちかえって懐かしく思わずにはいられない、ほととぎすの声だ<BR>⏎ かつてわずかに契りを交わしたこの家なので」<BR>⏎ | 26-28 | 特にこれといったお支度もなさらず、目立たぬようにして、御前駆などもなく、お忍びで、中川の辺りをお通り過ぎになると、小さな家で、木立など風情があって、良い音色の琴を 東の調べに 合わせて、賑やかに弾いているのが聞こえる。<BR>⏎ お耳にとまって、門に近い所なので、少し乗り出してお覗き込みなさると、大きな桂の木を吹き過ぎる風に乗って匂ってくる香りに、葵祭のころが思い出されなさって、どことなく趣があるので、「一度お契りになった家だ」と御覧になる。お気持ちが騒いで、「ずいぶんと過ぎてしまったなあ、はっきりと覚えているかどうか」と、気が引けたが、通り過ぎることもできず,ためらっていらっしゃる、ちょうどその時、ほととぎすが鳴いて飛んで行く。訪問せよと促しているかのようなので、お車を押し戻させて、例によって、惟光をお入れになる。<BR>⏎ 「昔にたちかえって懐かしく思わずにはいられない、ほととぎすの声だ<BR> かつてわずかに契りを交わしたこの家なので」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 37-38 | 「ほととぎすの声ははっきり分かりますが<BR>⏎ どのようなご用か分かりません、五月雨の空のように」<BR>⏎ | 30 | 「ほととぎすの声ははっきり分かりますが<BR> どのようなご用か分かりません、五月雨の空のように」<BR>⏎ |
| c1 | 40 | 「よろしい。植えた垣根も」<BR>⏎ | 32 | 「よろしい. 植えた垣根も」<BR>⏎ |
| c2 | 42-43 | 「そのように、遠慮しなければならない事情があるのであろう。道理でもあるので、そうもいかまい。このような身分では、筑紫の五節がかわいらしげであったなあ」<BR>⏎ と、まっ先にお思い出しになる。<BR>⏎ | 34-35 | 「そのように、遠慮しなければならない事情があるのであろう。道理でもあるので、そうもいかまい。このような身分では、筑紫の五節が かわいらしげであったなあ」<BR>⏎ と,まっ先にお思い出しになる。<BR>⏎ |
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| version11 | 46 | <A NAME="in13">[第三段 姉麗景殿女御と昔を語る]</A><BR> | 37 | |
| c1 | 47 | あの目的の所は、ご想像なさっていた以上に、人影もなく、ひっそりとお暮らしになっている様子を御覧になるにつけても、まことにおいたわしい。最初に、女御のお部屋で、昔のお話などを申し上げなさっているうちに、夜も更けてしまった。<BR>⏎ | 38 | あの目的の所は、ご想像なさっていた以上に、人影もなく、ひっそりとお暮らしになっている様子を御覧になるにつけても、まことにおいたわしい。最初に,女御のお部屋で、昔のお話などを申し上げなさっているうちに、夜も更けてしまった。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 50-54 | などと、お思い出し申し上げなさるにつけても、昔のことが次から次へと思い出されて、ふとお泣きになる。<BR>⏎ ほととぎす、先程の垣根のであろうか、同じ声で鳴く。「自分の後を追って来たのだな」と思われなさるのも、優美である。「どのように知ってか」などと、小声で口ずさみなさる。<BR>⏎ 「昔を思い出させる橘の香を懐かしく思って<BR>⏎ ほととぎすが花の散ったこのお邸にやって来ました<BR>⏎ 昔の忘れられない心の慰めには、やはり参上いたすべきでした。この上なく、物思いの紛れることも、数増すこともございました。人は時流に従うものですから、昔話も語り合える人が少なくなって行くのを、わたし以上に、所在なさも紛らすすべもなくお思いでしょう」<BR>⏎ | 41-44 | などと,お思い出し申し上げなさるにつけても、昔のことが次から次へと思い出されて、ふとお泣きになる。<BR>⏎ ほととぎす、先程の垣根のであろうか、同じ声で鳴く。「自分の後を追って来たのだな」と 思われなさるのも、優美である。「どのように知ってか」などと、小声で口ずさみなさる。<BR>⏎ 「昔を思い出させる橘の香を懐かしく思って<BR> ほととぎすが花の散ったこのお邸にやって来ました<BR>⏎ 昔の忘れられない心の慰めには、やはり参上いたすべきでした。この上なく、物思いの紛れることも、数増すこともございました。人は時流に従うものですから、昔話も語り合える人が少なくなって行くのを、わたし以上に,所在なさも紛らすすべもなくお思いでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 56-57 | 「訪れる人もなく荒れてしまった住まいには<BR>⏎ 軒端の橘だけがお誘いするよすがになったのでした」<BR>⏎ | 46 | 「訪れる人もなく荒れてしまった住まいには<BR> 軒端の橘だけがお誘いするよすがになったのでした」<BR>⏎ |
| d1 | 59 | <P>⏎ | ||
| version11 | 60 | <A NAME="in14">[第四段 花散里を訪問]</A><BR> | 48 | |
| cd3:1 | 62-64 | かりそめにもお契りになる相手は、皆並々の身分の方ではなく、それぞれにつけて、何の取柄もないとお思いになるような方はいないからであろうか、嫌と思わず、自分も相手も情愛を交わし合いながら、お過ごしになるのであった。それを、つまらないと思う人は、何やかやと心変わりしていくのも、「無理もない、人の世の習いだ」と、しいてお思いになる。先程の垣根も、そのようなわけで、心変わりしてしまった類の人なのであった。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 50 | かりそめにもお契りになる相手は、皆並々の身分の方ではなく、それぞれにつけて、何の取柄もないとお思いになるような方はいないからであろうか、嫌と思わず、自分も相手も情愛を交わし合いながら、お過ごしになるのであった。それを,つまらないと思う人は、何やかやと心変わりしていくのも、「無理もない、人の世の習いだ」と、しいてお思いになる。先程の垣根も、そのようなわけで、心変わりしてしまった類の人なのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 72 | ⏎ | ||
| i1 | 61 | ⏎ | ||
| diff | src/original/version12.html | src/modified/version12.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version12 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-3)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 49 | <P>⏎ | ||
| version12 | 50 | <H4>第一章 光る源氏の物語 逝く春と離別の物語</H4> | 46 | |
| version12 | 51 | <A NAME="in11">[第一段 源氏、須磨退去を決意]</A><BR> | 47 | |
| ci1:2 | 54 | すべてのこと、今までのこと将来のこと、お思い続けなさると、悲しいことさまざまである。嫌な世だとお捨てになった世の中も、今は最後と住み離れるようなことお思いになると、まことに捨てがたいことが多いなかでも、姫君が、明け暮れ日の経つにつれて、思い悲しんでいられる様子が、気の毒で悲しいので、「別れ別れになても、再び逢えることは必ず」と、お思いになる場合でも、やはり一、二日の間、別々にお過ごしになった時でさえ、気がかりに思われ、女君も心細いばかりに思っていらっしゃるのを、「何年間と期限のある旅路でもなく、再び逢えるまであてどもなく漂って行くのも、無常の世に、このまま別れ別れになってしまう旅立ちにでもなりはしまいか」と、たいそう悲しく思われなさるので、「こっそりと一緒にでは」と、お思いよりになる時もあるが、そのような心細いような海辺の、波風より他に訪れる人もないような所に、このようないじらしいご様子で、お連れなさるのも、まことに不似合いで、自分の心にも、「かえって、物思いの種になるにちがいなかろう」などとお考え直しになるが、女君は、「どんなにつらい旅路でも、ご一緒申し上げることができたら」と、それとなくほのめかして、恨めしそうに思っていらっしゃった。<BR>⏎ | 50-51 | すべてのこと、今までのこと将来のこと、お思い続けなさると、悲しいことさまざまである。嫌な世だとお捨てになった世の中も、今は最後と住み離れるようなことお思いになると、まことに捨てがたいことが多いなかでも、姫君が、明け暮れ日の経つにつれて、思い悲しんでいられる様子が、気の毒で悲しいので、<BR>⏎ 「別れ別れになても、再び逢えることは必ず」と、お思いになる場合でも、やはり一,二日の間、別々にお過ごしになった時でさえ、気がかりに思われ、女君も心細いばかりに思っていらっしゃるのを、「何年間と期限のある旅路でもなく、再び逢えるまであてどもなく漂って行くのも、無常の世に、このまま別れ別れになってしまう旅立ちにでもなりはしまいか」と、たいそう悲しく思われなさるので、「こっそりと一緒にでは」と、お思いよりになる時もあるが、そのような心細いような海辺の、波風より他に訪れる人もないような所に、このようないじらしいご様子で、お連れなさるのも、まことに不似合いで、自分の心にも、「かえって、物思いの種になるにちがいなかろう」などとお考え直しになるが、女君は、「どんなにつらい旅路でも、ご一緒申し上げることができたら」と、それとなくほのめかして、恨めしそうに思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 56-57 | 入道の宮からも、「世間の噂は、またどのように取り沙汰されるだろうか」と、ご自身にとっても用心されるが、人目に立たないよう立たないようにしてお見舞いが始終ある。「昔、このように互いに思ってくださり、情愛をもお見せくださったのであったならば」と、ふとお思い出しになるにつけても、「そのようにも、あれやこれやと、心の限りを尽くさなければならない宿縁のお方であった」と、辛くお思い申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 53 | 入道の宮からも、「世間の噂は、またどのように取り沙汰されるだろうか」と、ご自身にとっても用心されるが、人目に立たないよう立たないようにしてお見舞いが始終ある。「昔,このように互いに思ってくださり、情愛をもお見せくださったのであったならば」と、ふとお思い出しになるにつけても、「そのようにも,あれやこれやと、心の限りを尽くさなければならない宿縁のお方であった」と、辛くお思い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version12 | 58 | <A NAME="in12">[第二段 左大臣邸に離京の挨拶]</A><BR> | 54 | |
| c2 | 59-60 | 三月二十日過ぎのころに、都をお離れになった。誰にもいつとはお知らせなさらず、わずかにごく親しくお仕え申し馴れている者だけ、七、八人ほどをお供として、たいそうひっそりとご出発になる。しかるべき所々には、お手紙だけをそっと差し上げなさったが、しみじみと偲ばれるほど言葉をお尽くしになったのは、きっと素晴らしいものであっただろうが、その時の、気の動転で、はっきりと聞いて置かないままになってしまったのであった。<BR>⏎ 二、三日前に、夜の闇に隠れて、大殿にお渡りになった。網代車の粗末なので、女車のようにひっそりとお入りになるのも、実にしみじみと、夢かとばかり思われる。お部屋は、とても寂しそうに荒れたような感じがして、若君の御乳母どもや、生前から仕えていた女房の中で、お暇を取らずにいた人は皆、このようにお越しになったのを珍しくお思い申して、参集して拝し上げるにつけても、たいして思慮深くない若い女房でさえ、世の中の無常が思い知られて、涙にくれた。<BR>⏎ | 55-56 | 三月二十日過ぎのころに、都をお離れになった。誰にもいつとはお知らせなさらず、わずかにごく親しくお仕え申し馴れている者だけ、七,八人ほどをお供として、たいそうひっそりとご出発になる。しかるべき所々には、お手紙だけをそっと差し上げなさったが、しみじみと偲ばれるほど言葉をお尽くしになったのは、きっと素晴らしいものであっただろうが、その時の、気の動転で、はっきりと聞いて置かないままになってしまったのであった。<BR>⏎ 二,三日前に、夜の闇に隠れて、大殿にお渡りになった。網代車の粗末なので、女車のようにひっそりとお入りになるのも、実にしみじみと、夢かとばかり思われる。お部屋は、とても寂しそうに荒れたような感じがして、若君の御乳母どもや、生前から仕えていた女房の中で、お暇を取らずにいた人は皆、このようにお越しになったのを珍しくお思い申して、参集して拝し上げるにつけても、たいして思慮深くない若い女房でさえ、世の中の無常が思い知られて、涙にくれた。<BR>⏎ |
| c1 | 63 | と言って、膝の上にお乗せになったご様子、堪えきれなさそうである。<BR>⏎ | 59 | と言って,膝の上にお乗せになったご様子、堪えきれなさそうである。<BR>⏎ |
| c2 | 67-68 | 「このようなことも、あのようなことも、前世からの因果だということでございますから、せんじつめれば、ただ、わたくしの宿運のつたなさゆえでございます。これと言った理由で、このように、官位を剥奪されず、ちょっとした科に関係しただけでも、朝廷のお咎めを受けた者が、普段と変わらない様子で世の中に生活をしているのは、罪の重いことに唐土でも致しておるということですが、遠流に処すべきだという決定などもございますというのは、容易ならぬ罪科に当たることになっているのでしょう。潔白な心のままで、素知らぬ顔で過ごしていますのも、まことに憚りが多く、これ以上大きな辱めを受ける前に、都を離れようと決意致した次第です」<BR>⏎ などと、詳しくお話し申し上げなさる。<BR>⏎ | 63-64 | 「このようなことも、あのようなことも、前世からの因果だということでございますから、せんじつめれば、ただ,わたくしの宿運のつたなさゆえでございます。これと言った理由で,このように,官位を剥奪されず、ちょっとした科に関係しただけでも、朝廷のお咎めを受けた者が、普段と変わらない様子で世の中に生活をしているのは、罪の重いことに唐土でも致しておるということですが、遠流に処すべきだという決定などもございますというのは、容易ならぬ罪科に当たることになっているのでしょう。潔白な心のままで、素知らぬ顔で過ごしていますのも、まことに憚りが多く、これ以上大きな辱めを受ける前に、都を離れようと決意致した次第です」<BR>⏎ などと,詳しくお話し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 70-71 | 「亡くなりました人を、まことに忘れる時とてなく、今でも悲しんでおりますのに、この度の出来事で、もし生きていましたら、どんなに嘆き悲しんだことでしょう。よくぞ短命で、このような悪夢を見ないで済んだことだと、存じて僅かに慰めております。あどけなくいらっしゃるのが、このように年寄たちの中に後に残されなさって、お甘え申し上げられない月日が重なって行かれるのであろうと存じますのが、何事にもまして、悲しうございます。昔の人も、本当に犯した罪があったからといっても、このような罪科には処せられたわけではありませんでした。やはり前世からの宿縁で、異国の朝廷にもこのような冤罪に遭った例は数多くございました。けれど、言い出す根拠があって、そのようなことにもなったのでございますが、どのような点から見ても、思い当たるような節がございませんのに」<BR>⏎ などと、数々お話をお申し上げになる。<BR>⏎ | 66-67 | 「亡くなりました人を、まことに忘れる時とてなく、今でも悲しんでおりますのに、この度の出来事で、もし生きていましたら、どんなに嘆き悲しんだことでしょう。よくぞ短命で、このような悪夢を見ないで済んだことだと、存じて僅かに慰めております。あどけなくいらっしゃるのが、このように年寄たちの中に後に残されなさって、お甘え申し上げられない月日が重なって行かれるのであろうと存じますのが、何事にもまして、悲しうございます。昔の人も、本当に犯した罪があったからといっても、このような罪科には処せられたわけではありませんでした。やはり前世からの宿縁で、異国の朝廷にもこのような冤罪に遭った例は数多くございました。けれど,言い出す根拠があって、そのようなことにもなったのでございますが、どのような点から見ても、思い当たるような節がございませんのに」<BR>⏎ などと,数々お話をお申し上げになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 80-81 | 「あの鳥辺山で焼いた煙に似てはいないかと<BR>⏎ 海人が塩を焼く煙を見に行きます」<BR>⏎ | 76 | 「あの鳥辺山で焼いた煙に似てはいないかと<BR> 海人が塩を焼く煙を見に行きます」<BR>⏎ |
| c1 | 86 | と、鼻声になって、なるほど深く悲しんでいる。<BR>⏎ | 81 | と,鼻声になって、なるほど深く悲しんでいる。<BR>⏎ |
| c1 | 90 | 入り方の月がとても明るいので、ますます優雅に清らかで、物思いされているご様子、虎、狼でさえ、泣くにちがいない。まして、お小さくいらした時からお世話申し上げてきた女房たちなので、譬えようもないご境遇をひどく悲しいと思う。<BR>⏎ | 85 | 入り方の月がとても明るいので、ますます優雅に清らかで、物思いされているご様子、虎,狼でさえ,泣くにちがいない。まして,お小さくいらした時からお世話申し上げてきた女房たちなので、譬えようもないご境遇をひどく悲しいと思う。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 92-93 | 「亡き娘との仲もますます遠くなってしまうでしょう<BR>⏎ 煙となった都の空のではないのでは」<BR>⏎ | 87 | 「亡き娘との仲もますます遠くなってしまうでしょう<BR> 煙となった都の空のではないのでは」<BR>⏎ |
| d1 | 95 | <P>⏎ | ||
| version12 | 96 | <A NAME="in13">[第三段 二条院の人々との離別]</A><BR> | 89 | |
| c3 | 103-105 | とだけおっしゃって、悲しいと思い込んでいらっしゃる様子、人一倍であるのは、もっともなことで、父親王は、実に疎遠にはじめからお思いになっていたが、まして今は、世間の噂を煩わしく思って、お便りも差し上げなさらず、お見舞いにさえお越しにならないのを、人の手前も恥ずかしく、かえってお知られ頂かないままであればよかったのに、継母の北の方などが、<BR>⏎ 「束の間であった幸せの急がしさ。ああ、縁起でもない。大事な人が、それぞれに別れなさる人だわ」<BR>⏎ とおっしゃったのを、ある筋から漏れ聞きなさるにつけても、ひどく情けないので、こちらからも少しもお便りを差し上げなさらない。他に頼りとする人もなく、なるほど、お気の毒なご様子である。<BR>⏎ | 96-98 | とだけおっしゃって、悲しいと思い込んでいらっしゃる様子、人一倍であるのは、もっともなことで、父親王は、実に疎遠にはじめからお思いになっていたが、まして今は,世間の噂を煩わしく思って、お便りも差し上げなさらず、お見舞いにさえお越しにならないのを、人の手前も恥ずかしく、かえってお知られ頂かないままであればよかったのに、継母の北の方などが、<BR>⏎ 「束の間であった幸せの急がしさ。ああ,縁起でもない。大事な人が、それぞれに別れなさる人だわ」<BR>⏎ とおっしゃったのを、ある筋から漏れ聞きなさるにつけても、ひどく情けないので、こちらからも少しもお便りを差し上げなさらない。他に頼りとする人もなく、なるほど,お気の毒なご様子である。<BR>⏎ |
| c1 | 107 | などと、お話し申し上げなさる。<BR>⏎ | 100 | などと,お話し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 110-111 | と言って、無紋の直衣、かえって、とても優しい感じなのをお召しになって、地味にしていらっしゃるのが、たいそう素晴らしい。鬢の毛を掻きなでなさろうとして、鏡台に近寄りなさると、面痩せなさった顔形が、自分ながらとても気品あって美しいので、<BR>⏎ 「すっかり、衰えてしまったな。この影のように痩せていますか。ああ、悲しいことだ」<BR>⏎ | 103-104 | と言って,無紋の直衣、かえって、とても優しい感じなのをお召しになって、地味にしていらっしゃるのが、たいそう素晴らしい。鬢の毛を掻きなでなさろうとして、鏡台に近寄りなさると、面痩せなさった顔形が、自分ながらとても気品あって美しいので、<BR>⏎ 「すっかり、衰えてしまったな。この影のように痩せていますか。ああ,悲しいことだ」<BR>⏎ |
| cd6:4 | 113-118 | 「わが身はこのように流浪しようとも<BR>⏎ 鏡に映った影はあなたの元を離れずに残っていよう」<BR>⏎ と、お申し上げになると、<BR>⏎ 「お別れしても影だけでもとどまっていてくれるものならば<BR>⏎ 鏡を見て慰めることもできましょうに」<BR>⏎ 柱の蔭に隠れて座って、涙を隠していらっしゃる様子、「やはり、おおぜいの妻たちの中で類のない人だ」と、思わずにはいらっしゃれないご様子の方である。<BR>⏎ | 106-109 | 「わが身はこのように流浪しようとも<BR> 鏡に映った影はあなたの元を離れずに残っていよう」<BR>⏎ と,お申し上げになると、<BR>⏎ 「お別れしても影だけでもとどまっていてくれるものならば<BR> 鏡を見て慰めることもできましょうに」<BR>⏎ 柱の蔭に隠れて座って、涙を隠していらっしゃる様子、「やはり,おおぜいの妻たちの中で類のない人だ」と、思わずにはいらっしゃれないご様子の方である。<BR>⏎ |
| d1 | 120 | <P>⏎ | ||
| version12 | 121 | <A NAME="in14">[第四段 花散里邸に離京の挨拶]</A><BR> | 111 | |
| c2 | 124-125 | と、感謝申し上げるご様子、書き綴るのも煩わしい。<BR>⏎ とてもひどく心細いご様子で、まったくこの方のご庇護のもとにお過ごしになってきた歳月、ますます荒れていくだろうことが、ご想像されて、邸内は、まことにひっそりとしている。<BR>⏎ | 114-115 | と,感謝申し上げるご様子、書き綴るのも煩わしい。<BR>⏎ とてもひどく心細いご様子で、まったくこの方のご庇護のもとにお過ごしになってきた歳月、ますます荒れていくだろうことが,ご想像されて、邸内は、まことにひっそりとしている。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 129-131 | と、過ぎ去った事のあれこれをおっしゃって、鶏もしきりに鳴くので、人目を憚って急いでお帰りになる。例によって、月がすっかり入るのになぞらえられて、悲しい。女君の濃いお召物に映えて、なるほど、濡るる顔の風情なので、<BR>⏎ 「月の光が映っているわたしの袖は狭いですが<BR>⏎ そのまま留めて置きたいと思います、見飽きることのない光を」<BR>⏎ | 119-120 | と,過ぎ去った事のあれこれをおっしゃって、鶏もしきりに鳴くので、人目を憚って急いでお帰りになる。例によって、月がすっかり入るのになぞらえられて、悲しい。女君の濃いお召物に映えて、なるほど,濡るる顔の風情なので、<BR>⏎ 「月の光が映っているわたしの袖は狭いですが<BR> そのまま留めて置きたいと思います、見飽きることのない光を」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 133-135 | 「大空を行きめぐって、ついには澄むはずの月の光ですから<BR>⏎ しばらくの間曇っているからといって悲観なさいますな<BR>⏎ 考えてみれば、はかないことよ。ただ、行方を知らない涙ばかりが、心を暗くさせるものですね」<BR>⏎ | 122-123 | 「大空を行きめぐって、ついには澄むはずの月の光ですから<BR> しばらくの間曇っているからといって悲観なさいますな<BR>⏎ 考えてみれば、はかないことよ。ただ,行方を知らない涙ばかりが、心を暗くさせるものですね」<BR>⏎ |
| d1 | 137 | <P>⏎ | ||
| version12 | 138 | <A NAME="in15">[第五段 旅生活の準備と身辺整理]</A><BR> | 125 | |
| c1 | 140 | あの山里の生活の道具は、どうしてもご必要な品物類を、特に飾りけなく簡素にして、しかるべき漢籍類、『白氏文集』などの入った箱、その他には琴を一張を持たせなさる。大げさなご調度類や、華やかなお装いなどは、まったくお持ちにならず、賎しい山里人のような振る舞いをなさる。<BR>⏎ | 127 | あの山里の生活の道具は、どうしてもご必要な品物類を、特に飾りけなく簡素にして、しかるべき漢籍類,『白氏文集』などの入った箱、その他には琴を一張を持たせなさる。大げさなご調度類や、華やかなお装いなどは、まったくお持ちにならず、賎しい山里人のような振る舞いをなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 144 | とおっしゃって、上下の女房たち、皆参上させなさる。<BR>⏎ | 131 | とおっしゃって、上下の女房たち,皆参上させなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 146 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 149-150 | あなたに逢えないことに涙を流したことが<BR>⏎ 流浪する身の上となるきっかけだったのでしょうか<BR>⏎ | 135 | あなたに逢えないことに涙を流したことが<BR> 流浪する身の上となるきっかけだったのでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 154-155 | 「涙川に浮かんでいる水泡も消えてしまうでしょう<BR>⏎ 生きながらえて再びお会いできる日を待たないで」<BR>⏎ | 139 | 「涙川に浮かんでいる水泡も消えてしまうでしょう<BR> 生きながらえて再びお会いできる日を待たないで」<BR>⏎ |
| d1 | 157 | <P>⏎ | ||
| version12 | 158 | <A NAME="in16">[第六段 藤壷に離京の挨拶]</A><BR> | 141 | |
| c2 | 159-160 | 明日という日、夕暮には、院のお墓にお参りなさろうとして、北山へ参拝なさる。明け方近くに月の出るころなので、最初、入道の宮にお伺いさる。近くの御簾の前にご座所をお設けになって、ご自身でご応対あそばす。東宮のお身の上をたいそうご心配申し上げなさる。<BR>⏎ お互いに感慨深くお感じになっている者同士のお話は、何事もしみじみと胸に迫るものがさぞ多かったことであろう。慕わしく素晴らしいご様子が変わらないので、恨めしかったお気持ちも、それとなく申し上げたいが、いまさら嫌なこととお思いになろうし、自分自身でも、かえって一段と心が乱れるであろうから、思い直して、ただ、<BR>⏎ | 142-143 | 明日という日、夕暮には、院のお墓にお参りなさろうとして、北山へ参拝なさる。明け方近くに月の出るころなので、最初,入道の宮にお伺いさる。近くの御簾の前にご座所をお設けになって、ご自身でご応対あそばす。東宮のお身の上をたいそうご心配申し上げなさる。<BR>⏎ お互いに感慨深くお感じになっている者同士のお話は、何事もしみじみと胸に迫るものがさぞ多かったことであろう。慕わしく素晴らしいご様子が変わらないので、恨めしかったお気持ちも、それとなく申し上げたいが、いまさら嫌なこととお思いになろうし、自分自身でも、かえって一段と心が乱れるであろうから、思い直して、ただ,<BR>⏎ |
| cd2:1 | 166-167 | 「院は亡くなられ生きておいでの方は悲しいお身の上の世の末を<BR>⏎ 出家した甲斐もなく泣きの涙で暮らしています」<BR>⏎ | 149 | 「院は亡くなられ生きておいでの方は悲しいお身の上の世の末を<BR> 出家した甲斐もなく泣きの涙で暮らしています」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 169-171 | 「故院にお別れした折に悲しい思いを尽くしたと思ったはずなのに<BR>⏎ またもこの世のさらに辛いことに遭います」<BR>⏎ <P>⏎ | 151 | 「故院にお別れした折に悲しい思いを尽くしたと思ったはずなのに<BR> またもこの世のさらに辛いことに遭います」<BR>⏎ |
| version12 | 172 | <A NAME="in17">[第七段 桐壷院の御墓に離京の挨拶]</A><BR> | 152 | |
| c1 | 173 | 月を待ってお出かけになる。お供にわずか五、六人ほど、下人も気心の知れた者だけを連れて、お馬でいらっしゃる。言うまでもないことだが、以前のご外出と違って、皆とても悲しく思うのである。その中で、あの御禊の日、仮の御随身となってご奉仕した右近将監の蔵人、当然得るはずの五位の位にも時期が過ぎてしまったが、とうとう殿上の御簡も削られ、官職も剥奪されて、面目がないので、お供に参る一人である。<BR>⏎ | 153 | 月を待ってお出かけになる。お供にわずか五,六人ほど、下人も気心の知れた者だけを連れて、お馬でいらっしゃる。言うまでもないことだが、以前のご外出と違って、皆とても悲しく思うのである。その中で,あの御禊の日、仮の御随身となってご奉仕した右近将監の蔵人、当然得るはずの五位の位にも時期が過ぎてしまったが、とうとう殿上の御簡も削られ、官職も剥奪されて、面目がないので、お供に参る一人である。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 175-177 | 「お供をして葵を頭に挿した御禊の日のことを思うと<BR>⏎ 御利益がなかったのかとつらく思われます、賀茂の神様」<BR>⏎ と詠むのを、「本当に、どんなに悲しんでいることだろう。誰よりも羽振りがよく振る舞っていたのに」とお思いになると、気の毒である。<BR>⏎ | 155-156 | 「お供をして葵を頭に挿した御禊の日のことを思うと<BR> 御利益がなかったのかとつらく思われます、賀茂の神様」<BR>⏎ と詠むのを、「本当に,どんなに悲しんでいることだろう。誰よりも羽振りがよく振る舞っていたのに」とお思いになると、気の毒である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 179-180 | 「辛い世の中を今離れて行く、後に残る<BR>⏎ 噂の是非は、糺の神に委ねて」<BR>⏎ | 158 | 「辛い世の中を今離れて行く、後に残る<BR> 噂の是非は、糺の神に委ねて」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 183-186 | 御陵は、参道の草が生い茂って、かき分けてお入りになって行くうちに、ますます露に濡れると、月も雲に隠れて、森の木立は木深くぞっとする。帰る道も分からない気がして、参拝なさっているところに、御生前の御姿、はっきりと現れなさった、鳥肌の立つ思いである。<BR>⏎ 「亡き父上はどのように御覧になっていられることだろうか<BR>⏎ 父上のように思って見ていた月の光も雲に隠れてしまった」<BR>⏎ <P>⏎ | 161-162 | 御陵は、参道の草が生い茂って、かき分けてお入りになって行くうちに、ますます露に濡れると、月も雲に隠れて、森の木立は 木深くぞっとする。帰る道も分からない気がして、参拝なさっているところに、御生前の御姿、はっきりと現れなさった、鳥肌の立つ思いである。<BR>⏎ 「亡き父上はどのように御覧になっていられることだろうか<BR> 父上のように思って見ていた月の光も雲に隠れてしまった」<BR>⏎ |
| version12 | 187 | <A NAME="in18">[第八段 東宮に離京の挨拶]</A><BR> | 163 | |
| cd2:1 | 190-191 | いつ再び春の都の花盛りを見ることができようか<BR>⏎ 時流を失った山賤のわが身になって」<BR>⏎ | 166 | いつ再び春の都の花盛りを見ることができようか<BR> 時流を失った山賤のわが身になって」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 198-200 | と、とりとめなく、心が動揺しているからであろう。<BR>⏎ 「咲いたかと思うとすぐに散ってしまう桜の花は悲しいけれども<BR>⏎ 再び都に戻って春の都を御覧ください<BR>⏎ | 173-174 | と,とりとめなく、心が動揺しているからであろう。<BR>⏎ 「咲いたかと思うとすぐに散ってしまう桜の花は悲しいけれども<BR> 再び都に戻って春の都を御覧ください<BR>⏎ |
| c1 | 203 | 一目でも拝し上げた者は、このようにご悲嘆のご様子を、嘆き惜しまない人はいない。まして、平素お仕えしてきた者は、ご存知になるはずもない下女、御厠人まで、世にまれなほどの手厚いご庇護であったのを、「少しの間にせよ、拝さぬ月日を過すことになるのか」と、思い嘆くのであった。<BR>⏎ | 177 | 一目でも拝し上げた者は、このようにご悲嘆のご様子を、嘆き惜しまない人はいない。まして,平素お仕えしてきた者は、ご存知になるはずもない下女、御厠人まで、世にまれなほどの手厚いご庇護であったのを、「少しの間にせよ、拝さぬ月日を過すことになるのか」と、思い嘆くのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 205 | <P>⏎ | ||
| version12 | 206 | <A NAME="in19">[第九段 離京の当日]</A><BR> | 179 | |
| cd3:2 | 209-211 | とおっしゃって、御簾を巻き上げて、端近にお誘い申し上げなさると、女君、泣き沈んでいらっしゃたが、気持ちを抑えて、膝行して出ていらっしゃったのが、月の光にたいそう美しくお座りになった。「わが身がこのようにはかない世の中を離れて行ったら、どのような状態でさすらって行かれるのであろうか」と、不安で悲しく思われるが、深いお悲しみの上に、ますます悲しませるようなので、<BR>⏎ 「生きている間にも生き別れというものがあるとは知らずに<BR>⏎ 命のある限りは一緒にと信じていたことよ<BR>⏎ | 182-183 | とおっしゃって,御簾を巻き上げて、端近にお誘い申し上げなさると、女君、泣き沈んでいらっしゃたが、気持ちを抑えて、膝行して出ていらっしゃったのが、月の光に たいそう美しくお座りになった。「わが身がこのようにはかない世の中を離れて行ったら、どのような状態でさすらって行かれるのであろうか」と、不安で悲しく思われるが、深いお悲しみの上に、ますます悲しませるようなので、<BR>⏎ 「生きている間にも生き別れというものがあるとは知らずに<BR> 命のある限りは一緒にと信じていたことよ<BR>⏎ |
| cd5:3 | 213-217 | などと、わざとあっさりと申し上げなさったので、<BR>⏎ 「惜しくもないわたしの命に代えて、今のこの<BR>⏎ 別れを少しの間でも引きとどめて置きたいものです」<BR>⏎ 「なるほど、そのようにもお思いだろう」と、たいそう見捨てて行きにくいが、夜がすっかり明けてしまったら、きまりが悪いので、急いでお立ちになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 185-187 | などと,わざとあっさりと申し上げなさったので、<BR>⏎ 「惜しくもないわたしの命に代えて、今のこの<BR> 別れを少しの間でも引きとどめて置きたいものです」<BR>⏎ 「なるほど,そのようにもお思いだろう」と、たいそう見捨てて行きにくいが、夜がすっかり明けてしまったら、きまりが悪いので、急いでお立ちになった。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 219-223 | 「唐国で名を残した人以上に<BR>⏎ 行方も知らない侘住まいをするのだろうか」<BR>⏎ 渚に打ち寄せる波の寄せては返すのを御覧になって、「うらやましくも」と口ずさみなさっているご様子、誰でも知っている古歌であるが、珍しく聞けて、悲しいとばかりお供の人々は思っている。振り返って御覧になると、来た方角の山は霞が遠くにかかって、まことに、「三千里の外」という心地がすると、櫂の滴も耐えきれない。<BR>⏎ 「住みなれた都を峰の霞は遠く隔てるが<BR>⏎ 悲しい気持ちで眺めている空は同じ空なのだ」<BR>⏎ | 189-191 | 「唐国で名を残した人以上に<BR> 行方も知らない侘住まいをするのだろうか」<BR>⏎ 渚に打ち寄せる波の寄せては返すのを御覧になって、「うらやましくも」と 口ずさみなさっているご様子、誰でも知っている古歌であるが、珍しく聞けて、悲しいとばかりお供の人々は思っている。振り返って御覧になると、来た方角の山は霞が遠くにかかって、まことに,「三千里の外」という心地がすると、櫂の滴も耐えきれない。<BR>⏎ 「住みなれた都を峰の霞は遠く隔てるが<BR> 悲しい気持ちで眺めている空は同じ空なのだ」<BR>⏎ |
| d1 | 225 | <P>⏎ | ||
| version12 | 226 | <H4>第二章 光る源氏の物語 夏の長雨と鬱屈の物語</H4> | 193 | |
| version12 | 227 | <A NAME="in21">[第一段 須磨の住居]</A><BR> | 194 | |
| cd2:1 | 230-231 | 近い所々のご荘園の管理者を呼び寄せて、しかるべき事どもを、良清朝臣が、側近の家司として、お命じになり取り仕切るのも感に耐えないことである。暫くの間に、たいそう風情があるようにお手入れさせなさる。遣水を深く流し、植木類を植えたりして、もうすっかりと落ち着きなさるお気持ち、夢のようである。国守も親しい家来筋の者なので、こっそりと好意をもってお世話申し上げる。このような旅の生活にも似ず、人がおおぜい出入りするが、まともにお話相手となりそうな人もいないので、知らない他国の心地がして、ひどく気も滅入って、「どのようにしてこれから先過ごして行こうか」と、お思いやらずにはいられない。<BR>⏎ <P>⏎ | 197 | 近い所々のご荘園の管理者を呼び寄せて、しかるべき事どもを、良清朝臣が、側近の家司として、お命じになり取り仕切るのも感に耐えないことである。暫くの間に、たいそう風情があるようにお手入れさせなさる。遣水を深く流し、植木類を植えたりして、もうすっかりと落ち着きなさるお気持ち、夢のようである。国守も親しい家来筋の者なので、こっそりと好意をもってお世話申し上げる。このような旅の生活にも似ず、人がおおぜい出入りするが、まともにお話相手となりそうな人もいないので、知らない他国の心地がして、ひどく気も滅入って、「どのようにしてこれから先過ごして行こうか」と,お思いやらずにはいられない。<BR>⏎ |
| version12 | 232 | <A NAME="in22">[第二段 京の人々へ手紙]</A><BR> | 198 | |
| cd2:1 | 235-236 | 「出家されたあなた様はいかがお過ごしでしょうか<BR>⏎ わたしは須磨の浦で涙に泣き濡れております今日このごろです<BR>⏎ | 201 | 「出家されたあなた様はいかがお過ごしでしょうか<BR> わたしは須磨の浦で涙に泣き濡れております今日このごろです<BR>⏎ |
| cd3:2 | 240-242 | 性懲りもなくお逢いしたく思っていますが<BR>⏎ あなた様はどう思っておいででしょうか」<BR>⏎ いろいろとお心を尽くして書かれた言葉というのを想像してください。<BR>⏎ | 205-206 | 性懲りもなくお逢いしたく思っていますが<BR> あなた様はどう思っておいででしょうか」<BR>⏎ いろいろとお心を尽くして書かれた言葉というのを 想像してください。<BR>⏎ |
| d1 | 244 | <P>⏎ | ||
| c1 | 246 | 日頃お使いになっていらした御調度などや、お弾き馴れていらしたお琴、お脱ぎ置きになったお召し物の薫りなどにつけても、今はもうこの世にいない人のようにばかりお思いになっているので、ごもっともと思う一方で縁起でもないので、少納言は、僧都にご祈祷をお願い申し上げる。お二方のために御修法などをおさせになる。ご帰京を祈る一方では、「このようにお悲しみになっているお気持ちをお鎮めくださって、物思いのないお身の上にさせて上げてください」と、おいたわしい気持ちでお祈り申し上げなさる。<BR>⏎ | 209 | 日頃お使いになっていらした御調度などや、お弾き馴れていらしたお琴、お脱ぎ置きになったお召し物の薫りなどにつけても、今はもうこの世にいない人のようにばかりお思いになっているので、ごもっともと思う一方で縁起でもないので、少納言は、僧都にご祈祷をお願い申し上げる。お二方のために御修法などをおさせになる。ご帰京を祈る一方では,「このようにお悲しみになっているお気持ちをお鎮めくださって、物思いのないお身の上にさせて上げてください」と、おいたわしい気持ちでお祈り申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 248-249 | 始終出入りなさったあたり、寄り掛かりなさった真木柱などを御覧になるにつけても、胸ばかりが塞がって、よく物事の分別がついて、世間の経験を積ん年輩の人でさえそうであるのに、まして、お馴れ親しみ申し、父母にもなりかわってお育て申されてきたので、恋しくお思い申し上げなさるのも、ごもっともなことである。まるでこの世から去られてしまうのは、何とも言いようがなく、だんだん忘れることもできようが、聞けば近い所であるが、いつまでと期限のあるお別れでもないので、思えば思うほど悲しみは尽きないのである。<BR>⏎ <P>⏎ | 211 | 始終出入りなさったあたり、寄り掛かりなさった真木柱などを御覧になるにつけても、胸ばかりが塞がって、よく物事の分別がついて、世間の経験を積ん年輩の人でさえそうであるのに、まして,お馴れ親しみ申し、父母にもなりかわってお育て申されてきたので、恋しくお思い申し上げなさるのも、ごもっともなことである。まるでこの世から去られてしまうのは、何とも言いようがなく、だんだん忘れることもできようが、聞けば近い所であるが、いつまでと期限のあるお別れでもないので、思えば思うほど悲しみは尽きないのである。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 251-254 | 「このごろは、ますます、<BR>⏎ 涙に濡れているのを仕事として<BR>⏎ 出家したわたしも嘆きを積み重ねています」<BR>⏎ <P>⏎ | 213-214 | 「このごろは、ますます,<BR>⏎ 涙に濡れているのを仕事として<BR> 出家したわたしも嘆きを積み重ねています」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 256-257 | 「須磨の浦の海人でさえ人目を隠す恋の火ですから<BR>⏎ 人目多い都にいる思いはくすぶり続けて晴れようがありません<BR>⏎ | 216 | 「須磨の浦の海人でさえ人目を隠す恋の火ですから<BR> 人目多い都にいる思いはくすぶり続けて晴れようがありません<BR>⏎ |
| cd2:1 | 259-260 | とだけ、わずかに書いて、中納言の君の手紙の中にある。お嘆きのご様子など、たくさん書かれてあった。いとしいとお思い申されるところがあるので、ふとお泣きになってしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 218 | とだけ,わずかに書いて、中納言の君の手紙の中にある。お嘆きのご様子など、たくさん書かれてあった。いとしいとお思い申されるところがあるので、ふとお泣きになってしまった。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 262-265 | 「あなたのお袖とお比べになってみてください<BR>⏎ 遠く波路隔てた都で独り袖を濡らしている夜の衣と」<BR>⏎ お召物の色合い、仕立て具合など、実に良く出来上がっていた。何事につけてもいかにも上手にお出来になるのが、思い通りであるので、<BR>⏎ 「今ではよけいな情事に心せわしく、かかずらうこともなく、落ち着いて暮らせるはずものを」とお思いになると、ひどく残念に、昼夜なく面影が目の前に浮かんで、堪え難く思わずにはいらっしゃれないので、「やはりこっそりと呼び寄せようかしら」とお思いになる。また一方で思い返して、「どうして出来ようか、このようにつらい世であるから、せめて罪障だけでも消滅させよう」とお考えになると、そのままご精進の生活に入って、明け暮れお勤めをなさる。<BR>⏎ | 220-221 | 「あなたのお袖とお比べになってみてください<BR> 遠く波路隔てた都で独り袖を濡らしている夜の衣と」<BR>⏎ お召物の色合い、仕立て具合など、実に良く出来上がっていた。何事につけてもいかにも上手にお出来になるのが、思い通りであるので、「今ではよけいな情事に心せわしく、かかずらうこともなく、落ち着いて暮らせるはずものを」とお思いになると、ひどく残念に、昼夜なく面影が目の前に浮かんで、堪え難く思わずにはいらっしゃれないので、「やはりこっそりと呼び寄せようかしら」とお思いになる。また一方で思い返して、「どうして出来ようか,このようにつらい世であるから、せめて罪障だけでも消滅させよう」とお考えになると、そのままご精進の生活に入って、明け暮れお勤めをなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 267 | <P>⏎ | ||
| version12 | 268 | <A NAME="in23">[第三段 伊勢の御息所へ手紙]</A><BR> | 223 | |
| cd4:3 | 269-272 | ほんと、そうであった、混雑しているうちに言い落としてしまった。あの伊勢の宮へもお使者があったのであった。そこからもお見舞いの使者がわざわざ尋ねて参った。並々ならぬ事柄をお書きになっていた。言葉の用い方、筆跡などは、誰よりも格別に優美で教養の深さが窺えた。<BR>⏎ 「依然として現実のこととは存じられませぬお住まいの様を承りますと、無明長夜の闇に迷っているのかと存じられます。そうは言っても、長の年月をお送りになることはありますまいと推察申し上げますにつけても、罪障深いわが身だけは、再びお目にかかることも遠い先のことでしょう。<BR>⏎ 辛く淋しい思いを致してます伊勢の人を思いやってくださいまし<BR>⏎ やはり涙に暮れていらっしゃるという須磨の浦から<BR>⏎ | 224-226 | ほんと,そうであった、混雑しているうちに言い落としてしまった。あの伊勢の宮へもお使者があったのであった。そこからもお見舞いの使者がわざわざ尋ねて参った。並々ならぬ事柄をお書きになっていた。言葉の用い方、筆跡などは、誰よりも格別に優美で 教養の深さが窺えた。<BR>⏎ 「依然として現実のこととは存じられませぬお住まいの様を承りますと、無明長夜の闇に迷っているのかと存じられます。そうは言っても、長の年月をお送りになることはありますまいと 推察申し上げますにつけても、罪障深いわが身だけは、再びお目にかかることも遠い先のことでしょう。<BR>⏎ 辛く淋しい思いを致してます伊勢の人を思いやってくださいまし<BR> やはり涙に暮れていらっしゃるという須磨の浦から<BR>⏎ |
| cd6:4 | 275-280 | 「伊勢の海の干潟で貝取りしても<BR>⏎ 何の甲斐もないのはこのわたしです」<BR>⏎ しみじみとしたお気持ちで、筆を置いては書き置いては書きなさっている、白い唐紙、四、五枚ほどを継ぎ紙に巻いて、墨の付け具合なども素晴らしい。<BR>⏎ 「もともと慕わしくお思い申し上げていた人であったが、あの一件を辛くお思い申し上げた心の行き違いから、あの御息所も情けなく思って別れて行かれたのだ」とお思いになると、今ではお気の毒に申し訳ないこととお思い申し上げていらっしゃる。折からのお手紙、たいそう胸にしみたので、お使いの者までが慕わしく思われて、二、三日逗留させなさって、あちらのお話などをさせてお聞きになる。<BR>⏎ 若々しく教養ある侍所の人なのであった。このような寂しいお住まいなので、このような使者も自然と間近にちらっと拝する御様子、容貌を、たいそう立派である、と感涙するのであった。⏎ お返事をお書きになる、文言、想像してみるがよいであろう。<BR>⏎ | 229-232 | 「伊勢の海の干潟で貝取りしても<BR> 何の甲斐もないのはこのわたしです」<BR>⏎ しみじみとしたお気持ちで、筆を置いては書き置いては書きなさっている、白い唐紙、四,五枚ほどを継ぎ紙に巻いて、墨の付け具合なども素晴らしい。<BR>⏎ 「もともと慕わしくお思い申し上げていた人であったが、あの一件を辛くお思い申し上げた心の行き違いから、あの御息所も情けなく思って別れて行かれたのだ」とお思いになると、今ではお気の毒に申し訳ないこととお思い申し上げていらっしゃる。折からのお手紙、たいそう胸にしみたので、お使いの者までが慕わしく思われて、二,三日逗留させなさって、あちらのお話などをさせてお聞きになる。<BR>⏎ 若々しく教養ある侍所の人なのであった。このような寂しいお住まいなので、このような使者も自然と間近に ちらっと拝する御様子、容貌を、たいそう立派である、と感涙するのであった。お返事をお書きになる、文言、想像してみるがよいであろう。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 282-285 | 伊勢人が波の上を漕ぐ舟に一緒に乗ってお供すればよかったものを<BR>⏎ 須磨で浮海布など刈って辛い思いをしているよりは<BR>⏎ 海人が積み重ねる投げ木の中に涙に濡れて<BR>⏎ いつまで須磨の浦にさすらっていることでしょう<BR>⏎ | 234-235 | 伊勢人が波の上を漕ぐ舟に一緒に乗ってお供すればよかったものを<BR> 須磨で浮海布など刈って辛い思いをしているよりは<BR>⏎ 海人が積み重ねる投げ木の中に涙に濡れて<BR> いつまで須磨の浦にさすらっていることでしょう<BR>⏎ |
| cd2:1 | 287-288 | などとあったのだった。このように、どの方ともことこまかにお手紙を書き交わしなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 237 | などとあったのだった。このように,どの方ともことこまかにお手紙を書き交わしなさる。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 290-293 | 「荒れて行く軒の忍ぶ草を眺めていると<BR>⏎ ひどく涙の露に濡れる袖ですこと」<BR>⏎ とあるのを、「なるほど、八重葎より他の後見もない状態でいられるのだろう」とお思いやりになって、「長雨に築地が所々崩れて」などとお聞きになったので、京の家司のもとにご命令なさって、近くの国々の荘園の者たちを徴用させて、修理をさせるようお命じになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 239-240 | 「荒れて行く軒の忍ぶ草を眺めていると<BR> ひどく涙の露に濡れる袖ですこと」<BR>⏎ とあるのを、「なるほど,八重葎より他の後見もない状態でいられるのだろう」とお思いやりになって、「長雨に築地が所々崩れて」などとお聞きになったので、京の家司のもとにご命令なさって、近くの国々の荘園の者たちを徴用させて、修理をさせるようお命じになる。<BR>⏎ |
| version12 | 294 | <A NAME="in24">[第四段 朧月夜尚侍参内する]</A><BR> | 241 | |
| c2 | 295-296 | 尚侍の君は、世間体を恥じてひどく沈みこんでいられるのを、大臣がたいそうかわいがっていらっしゃる姫君なので、無理やり、大后にも帝にもお許しを奏上なさったので、「決まりのある女御や御息所でもいらっしゃらず、公的な宮仕え人」とお考え直しになり、また、「あの一件が憎く思われたゆえに、厳しい処置も出て来たのだが」と。赦されなさって、参内なさるにつけても、やはり心に深く染み込んだお方のことが、しみじみと恋しく思われなさるのであった。<BR>⏎ 七月になって参内なさる。格別であった御寵愛が今に続いているので、他人の悪口などお気になさらず、いつものようにお側にずっと伺候させあそばして、いろいろと恨み言を言い、一方では愛情深く将来をお約束あそばす。<BR>⏎ | 242-243 | 尚侍の君は、世間体を恥じてひどく沈みこんでいられるのを、大臣がたいそうかわいがっていらっしゃる姫君なので、無理やり,大后にも帝にもお許しを奏上なさったので、「決まりのある女御や御息所でもいらっしゃらず、公的な宮仕え人」とお考え直しになり、また,「あの一件が憎く思われたゆえに、厳しい処置も出て来たのだが」と。赦されなさって、参内なさるにつけても、やはり心に深く染み込んだお方のことが、しみじみと恋しく思われなさるのであった。<BR>⏎ 七月になって参内なさる。格別であった御寵愛が今に続いているので、他人の悪口などお気になさらず、いつものように お側にずっと伺候させあそばして、いろいろと恨み言を言い、一方では愛情深く将来をお約束あそばす。<BR>⏎ |
| c4 | 298-301 | 「あの人がいないのが、とても淋しいね。どんなに自分以上にそのように思っている人が多いことであろう。何事につけても、光のない心地がするね」と仰せになって、「院がお考えになり仰せになったお心に背いてしまったなあ。きっと罰を得るだろう」<BR>⏎ と言って、涙ぐみあそばすので、涙をお堪えきれになれない。<BR>⏎ 「世の中は、生きていてもつまらないものだと思い知られるにつれて、長生きをしようなどとは、少しも思わない。そうなった時には、どのようにお思いになるでしょう。最近の別れよりも軽く思われるのが、悔しい。生きている日のためというのは、なるほど、つまらない人が詠み残したのであろう」<BR>⏎ と、とても優しい御様子で、何事も本当にしみじみとお考え入って仰せになるのにつけて、ぽろぽろと涙がこぼれ出ると、<BR>⏎ | 245-248 | 「あの人がいないのが、とても淋しいね。どんなに自分以上にそのように思っている人が多いことであろう。何事につけても,光のない心地がするね」と仰せになって、「院がお考えになり仰せになったお心に背いてしまったなあ。きっと罰を得るだろう」<BR>⏎ と言って,涙ぐみあそばすので、涙をお堪えきれになれない。<BR>⏎ 「世の中は、生きていてもつまらないものだ と思い知られるにつれて、長生きをしようなどとは、少しも思わない。そうなった時には、どのようにお思いになるでしょう。最近の別れよりも軽く思われるのが、悔しい。生きている日のためというのは、なるほど,つまらない人が詠み残したのであろう」<BR>⏎ と,とても優しい御様子で、何事も本当にしみじみとお考え入って仰せになるのにつけて、ぽろぽろと涙がこぼれ出ると、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 305-306 | などと、治世をお心向きとは違って取り仕切る人々がいても、お若い思慮で、強いことの言えないお年頃なので、困ったことだとお思いあそばすことも多いのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 252 | などと,治世をお心向きとは違って取り仕切る人々がいても、お若い思慮で、強いことの言えないお年頃なので、困ったことだとお思いあそばすことも多いのであった。<BR>⏎ |
| version12 | 307 | <H4>第三章 光る源氏の物語 須磨の秋の物語</H4> | 253 | |
| version12 | 308 | <A NAME="in31">[第一段 須磨の秋]</A><BR> | 254 | |
| cd2:1 | 311-312 | 「恋いわびて泣くわが泣き声に交じって波音が聞こえてくるが<BR>⏎ それは恋い慕っている都の方から風が吹くからであろうか」<BR>⏎ | 257 | 「恋いわびて泣くわが泣き声に交じって波音が聞こえてくるが<BR> それは恋い慕っている都の方から風が吹くからであろうか」<BR>⏎ |
| c1 | 314 | 「なるほど、どのように思っていることだろう。自分一人のために、親、兄弟が片時でも離れにくく、身分相応に大事に思っているだろう家人に別れて、このようにさまよっているとは」とお思いになると、ひどく気の毒で、「まことこのように沈んでいる様子を、心細いと思っているだろう」とお思いになると、昼間は何かとおっしゃってお紛らわしになり、なすこともないままに、色々な色彩の紙を継いで手習いをなさり、珍しい唐の綾などに、さまざまな絵を描いて気を紛らわしなさった屏風の絵など、とても素晴らしく見所がある。<BR>⏎ | 259 | 「なるほど,どのように思っていることだろう。自分一人のために、親,兄弟が片時でも離れにくく、身分相応に大事に思っているだろう家人に別れて、このようにさまよっているとは」とお思いになると、ひどく気の毒で、「まことこのように沈んでいる様子を、心細いと思っているだろう」とお思いになると、昼間は何かとおっしゃってお紛らわしになり、なすこともないままに、色々な色彩の紙を継いで 手習いをなさり、珍しい唐の綾などに、さまざまな絵を描いて気を紛らわしなさった屏風の絵など、とても素晴らしく見所がある。<BR>⏎ |
| c1 | 317 | と言って、皆残念がっていた。優しく立派なご様子に、世の中の憂さが忘れられて、お側に親しくお仕えできることを嬉しいことと思って、四、五人ほどが、ぴったりと伺候していたのであった。<BR>⏎ | 262 | と言って,皆残念がっていた。優しく立派なご様子に、世の中の憂さが忘れられて、お側に親しくお仕えできることを嬉しいことと思って、四,五人ほどが、ぴったりと伺候していたのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 322-323 | 「初雁は恋しい人の仲間なのだろうか<BR>⏎ 旅の空を飛んで行く声が悲しく聞こえる」<BR>⏎ | 267 | 「初雁は恋しい人の仲間なのだろうか<BR> 旅の空を飛んで行く声が悲しく聞こえる」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 325-326 | 「次々と昔の事が懐かしく思い出されます<BR>⏎ 雁は昔からの友達であったわけではないのだが」<BR>⏎ | 269 | 「次々と昔の事が懐かしく思い出されます<BR> 雁は昔からの友達であったわけではないのだが」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 328-329 | 「自分から常世を捨てて旅の空に鳴いて行く雁を<BR>⏎ ひとごとのように思っていたことよ」<BR>⏎ | 271 | 「自分から常世を捨てて旅の空に鳴いて行く雁を<BR> ひとごとのように思っていたことよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 331-332 | 「常世を出て旅の空にいる雁も<BR>⏎ 仲間に外れないでいるあいだは心も慰みましょう<BR>⏎ | 273 | 「常世を出て旅の空にいる雁も<BR> 仲間に外れないでいるあいだは心も慰みましょう<BR>⏎ |
| d1 | 335 | <P>⏎ | ||
| version12 | 336 | <A NAME="in32">[第二段 配所の月を眺める]</A><BR> | 276 | |
| c1 | 339 | と朗誦なさると、いつものように涙がとめどなく込み上げてくる。入道の宮が、「九重には霧が隔てているのか」とお詠みになった折、何とも言いようもがなく恋しく、折々のことをお思い出しになると、よよと、泣かずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 279 | と朗誦なさると、いつものように涙がとめどなく込み上げてくる。入道の宮が、「九重には霧が隔てているのか」とお詠みになった折、何とも言いようもがなく恋しく、折々のことをお思い出しになると、よよと,泣かずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 342-343 | 「見ている間は暫くの間だが心慰められる、また廻り逢える<BR>⏎ 月の都は、遥か遠くであるが」<BR>⏎ | 282 | 「見ている間は暫くの間だが心慰められる、また廻り逢える<BR> 月の都は、遥か遠くであるが」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 347-349 | 「辛いとばかり一途に思うこともできず<BR>⏎ 恋しさと辛さとの両方に濡れるわが袖よ」<BR>⏎ <P>⏎ | 286 | 「辛いとばかり一途に思うこともできず<BR> 恋しさと辛さとの両方に濡れるわが袖よ」<BR>⏎ |
| version12 | 350 | <A NAME="in33">[第三段 筑紫五節と和歌贈答]</A><BR> | 287 | |
| c1 | 351 | その頃、大弍は上京した。ものものしいほど一族が多く、娘たちもおおぜいで大変だったので、北の方は舟で上京する。浦伝いに風景を見ながら来たところ、他の場所よりも美しい辺りなので、心惹かれていると、「大将が退居していらっしゃる」と聞くと、関係のないことなのに、色めいた若い娘たちは、舟の中にいてさえ気になって、改まった気持ちにならずにはいられない。まして、五節の君は、綱手を引いて通り過ぎるのも残念に思っていたので、琴の音が、風に乗って遠くから聞こえて来ると、場所の様子、君のお人柄、琴の音の淋しい感じなど、あわせて、風流を解する者たちは皆泣いてしまった。<BR>⏎ | 288 | その頃、大弍は上京した。ものものしいほど一族が多く、娘たちもおおぜいで大変だったので、北の方は舟で上京する。浦伝いに風景を見ながら来たところ、他の場所よりも美しい辺りなので、心惹かれていると、「大将が退居していらっしゃる」と聞くと、関係のないことなのに、色めいた若い娘たちは、舟の中にいてさえ気になって、改まった気持ちにならずにはいられない。まして,五節の君は、綱手を引いて通り過ぎるのも残念に思っていたので、琴の音が、風に乗って遠くから聞こえて来ると、場所の様子、君のお人柄、琴の音の淋しい感じなど、あわせて、風流を解する者たちは皆泣いてしまった。<BR>⏎ |
| c2 | 354-355 | などと申し上げた。子の筑前守が参上した。この殿が、蔵人にして目をかけてやった人なので、とても悲しく辛いと思うが、また人の目があるので、噂を憚って、暫くの間も立ち留まっていることもできない。<BR>⏎ 「都を離れて後は、昔から親しかった人々に会うことは難しくなっていたが、このようにわざわざ立ち寄ってくれたとは」<BR>⏎ | 291-292 | などと申し上げた。子の筑前守が参上した。この殿が、蔵人にして目をかけてやった人なので、とても悲しく 辛いと思うが、また人の目があるので、噂を憚って、暫くの間も立ち留まっていることもできない。<BR>⏎ 「都を離れて後は、昔から親しかった人々に 会うことは難しくなっていたが、このようにわざわざ立ち寄ってくれたとは」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 358-359 | 「琴の音に引き止められた綱手縄のように<BR>⏎ ゆらゆら揺れているわたしの心をお分かりでしょうか<BR>⏎ | 295 | 「琴の音に引き止められた綱手縄のように<BR> ゆらゆら揺れているわたしの心をお分かりでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 362-363 | 「わたしを思う心があって引手綱のように揺れるというならば<BR>⏎ 通り過ぎて行きましょうか、この須磨の浦を<BR>⏎ | 298 | 「わたしを思う心があって引手綱のように揺れるというならば<BR> 通り過ぎて行きましょうか、この須磨の浦を<BR>⏎ |
| cd2:1 | 365-366 | とある。駅長に口詩をお与えになった人もあったが、それ以上に、このまま留まってしまいそうに思うのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 300 | とある。駅長に口詩をお与えになった人もあったが、それ以上に,このまま留まってしまいそうに思うのであった。<BR>⏎ |
| version12 | 367 | <A NAME="in34">[第四段 都の人々の生活]</A><BR> | 301 | |
| c1 | 368 | 都では、月日が過ぎて行くにつれて、帝をおはじめ申して、恋い慕い申し上げる折節が多かった。東宮は、まして誰よりも、いつでもお思い出しなさっては忍び泣きなさる。拝見する御乳母や、それ以上に王命婦の君は、ひどく悲しく拝し上げる。<BR>⏎ | 302 | 都では、月日が過ぎて行くにつれて、帝をおはじめ申して、恋い慕い申し上げる折節が多かった。東宮は、まして誰よりも,いつでもお思い出しなさっては忍び泣きなさる。拝見する御乳母や、それ以上に王命婦の君は、ひどく悲しく拝し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 372 | などと、良くないことが聞こえてきたので、厄介なことだと思って、手紙を差し上げなさる方もいない。<BR>⏎ | 306 | などと,良くないことが聞こえてきたので、厄介なことだと思って、手紙を差し上げなさる方もいない。<BR>⏎ |
| d1 | 374 | <P>⏎ | ||
| version12 | 375 | <A NAME="in35">[第五段 須磨の生活]</A><BR> | 308 | |
| cd4:2 | 376-379 | あちらのお暮らしは、生活が長くなるにしたがって、とても我慢できなくお思いになったが、「自分の身でさえ驚くばかりの運命だと思われる住まいなのに、どうして、一緒に暮らせようか、いかにもふさわしくない」さまをお考え直しになる。場所が場所なだけに、すべて様子が違って、ご存じでない下人の身の上をも、見慣れていらっしゃらなかったことなので、心外にももったいなくも、ご自身思わずにはいらっしゃれない。煙がとても近くに時々立ち上るのを、「これが海人が塩を焼く煙なのだろう」とずっとお思いになっていたのは、お住まいになっている後ろの山で、柴というものをいぶしているのであった。珍しいので、<BR>⏎ 「賤しい山人が粗末な家で焼いている柴のように<BR>⏎ しばしば訪ねて来てほしいわが恋しい都の人よ」<BR>⏎ <P>⏎ | 309-310 | あちらのお暮らしは、生活が長くなるにしたがって、とても我慢できなくお思いになったが、「自分の身でさえ驚くばかりの運命だと思われる住まいなのに、どうして,一緒に暮らせようか、いかにもふさわしくない」さまをお考え直しになる。場所が場所なだけに、すべて様子が違って、ご存じでない下人の身の上をも、見慣れていらっしゃらなかったことなので、心外にももったいなくも、ご自身思わずにはいらっしゃれない。煙がとても近くに時々立ち上るのを、「これが海人が塩を焼く煙なのだろう」とずっとお思いになっていたのは、お住まいになっている後ろの山で、柴というものをいぶしているのであった。珍しいので、<BR>⏎ 「賤しい山人が粗末な家で焼いている柴のように<BR> しばしば訪ねて来てほしいわが恋しい都の人よ」<BR>⏎ |
| c1 | 381 | 昔、胡の国に遣わしたという女のことをお思いやりになって、「自分以上にどんな気持ちであったろう。この世で自分の愛する人をそのように遠くにやったりしたら」などと思うと、実際に起こるように不吉に思われて、<BR>⏎ | 312 | 昔,胡の国に遣わしたという女のことをお思いやりになって、「自分以上にどんな気持ちであったろう。この世で自分の愛する人をそのように遠くにやったりしたら」などと思うと、実際に起こるように不吉に思われて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 387-388 | 「どの方角の雲路にわたしも迷って行くことであろう<BR>⏎ 月が見ているだろうことも恥ずかしい」<BR>⏎ | 318 | 「どの方角の雲路にわたしも迷って行くことであろう<BR> 月が見ているだろうことも恥ずかしい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 390-391 | 「友千鳥が声を合わせて鳴いている明け方は<BR>⏎ 独り寝覚めて泣くわたしも心強い気がする」<BR>⏎ | 320 | 「友千鳥が声を合わせて鳴いている明け方は<BR> 独り寝覚めて泣くわたしも心強い気がする」<BR>⏎ |
| d1 | 394 | <P>⏎ | ||
| version12 | 395 | <A NAME="in36">[第六段 明石入道の娘]</A><BR> | 323 | |
| c1 | 402 | 「まあ、とんでもない。京の人の話すのを聞くと、ご立派な奥方様たちをとてもたくさんお持ちになっていらして、その他にも、こっそりと帝のお妃まで過ちを犯しなさって、このような騷ぎになられた方が、いったいこのような賤しい田舎者に心をとめてくださいましょうか」<BR>⏎ | 330 | 「まあ,とんでもない。京の人の話すのを聞くと、ご立派な奥方様たちを とてもたくさんお持ちになっていらして、その他にも、こっそりと帝のお妃まで過ちを犯しなさって、このような騷ぎになられた方が、いったいこのような賤しい田舎者に 心をとめてくださいましょうか」<BR>⏎ |
| c2 | 405-406 | と、思いのままに言うのも頑固に見える。眩しいくらい立派に飾りたて大事にお世話していた。母君は、<BR>⏎ 「どうして、ご立派な方とはいえ、初めての縁談に、罪に当たって流されていらしたような方を考えるのでしょう。それにしても、心をおとめくださるようならともかくも、冗談にもありそうにないことです」<BR>⏎ | 333-334 | と,思いのままに言うのも頑固に見える。眩しいくらい立派に飾りたて大事にお世話していた。母君は、<BR>⏎ 「どうして,ご立派な方とはいえ、初めての縁談に、罪に当たって流されていらしたような方を考えるのでしょう。それにしても,心をおとめくださるようならともかくも、冗談にもありそうにないことです」<BR>⏎ |
| c1 | 408 | 「罪に当たることは、唐土でもわが国でも、このように世の中に傑出して、何事でも人に抜きんでた人には必ずあることなのだ。どういうお方でいらっしゃると思うか。亡くなった母御息所は、わたしの叔父でいらした按察大納言の御娘である。まことに素晴らしい評判をとって、宮仕えにお出しなさったところ、国王も格別に御寵愛あそばすこと、並ぶ者がなかったほどであったが、皆の嫉妬が強くてお亡くなりになってしまったが、この君が生いきていらっしゃる、大変に喜ばしいことである。女は気位を高く持つべきなのだ。わたしが、このような田舎者だからといって、お見捨てになることはあるまい」<BR>⏎ | 336 | 「罪に当たることは、唐土でもわが国でも、このように世の中に傑出して、何事でも人に抜きんでた人には 必ずあることなのだ。どういうお方でいらっしゃると思うか。亡くなった母御息所は、わたしの叔父でいらした按察大納言の御娘である。まことに素晴らしい評判をとって、宮仕えにお出しなさったところ、国王も格別に御寵愛あそばすこと、並ぶ者がなかったほどであったが、皆の嫉妬が強くてお亡くなりになってしまったが、この君が生いきていらっしゃる、大変に喜ばしいことである。女は気位を高く持つべきなのだ。わたしが,このような田舎者だからといって、お見捨てになることはあるまい」<BR>⏎ |
| c1 | 410 | この娘、すぐれた器量ではないが、優しく上品らしく、賢いところなどは、なるほど、高貴な女性に負けないようであった。わが身の境遇を、ふがいない者とわきまえて、<BR>⏎ | 338 | この娘、すぐれた器量ではないが、優しく上品らしく、賢いところなどは、なるほど,高貴な女性に負けないようであった。わが身の境遇を、ふがいない者とわきまえて、<BR>⏎ |
| d1 | 414 | <P>⏎ | ||
| version12 | 415 | <H4>第四章 光る源氏の物語 信仰生活と神の啓示の物語</H4> | 342 | |
| version12 | 416 | <A NAME="in41">[第一段 須磨で新年を迎える]</A><BR> | 343 | |
| cd2:1 | 419-420 | 「いつと限らず大宮人が恋しく思われるのに<BR>⏎ 桜をかざして遊んだその日がまたやって来た」<BR>⏎ | 346 | 「いつと限らず大宮人が恋しく思われるのに<BR> 桜をかざして遊んだその日がまたやって来た」<BR>⏎ |
| c1 | 432 | と、一緒に朗誦なさる。お供の人も涙を流す。お互いに、しばしの別れを惜しんでいるようである。<BR>⏎ | 358 | と,一緒に朗誦なさる。お供の人も涙を流す。お互いに、しばしの別れを惜しんでいるようである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 434-435 | 「ふる里をいつの春にか見ることができるだろう<BR>⏎ 羨ましいのは今帰って行く雁だ」<BR>⏎ | 360 | 「ふる里をいつの春にか見ることができるだろう<BR> 羨ましいのは今帰って行く雁だ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 437-438 | 「まだ飽きないまま雁は常世を立ち去りますが<BR>⏎ 花の都への道にも惑いそうです」<BR>⏎ | 362 | 「まだ飽きないまま雁は常世を立ち去りますが<BR> 花の都への道にも惑いそうです」<BR>⏎ |
| c1 | 443 | と言って、たいそう立派な笛で高名なのを贈るぐらいで、人が咎め立てするようなことは、お互いにすることはおできになれない。<BR>⏎ | 367 | と言って,たいそう立派な笛で高名なのを贈るぐらいで、人が咎め立てするようなことは、お互いにすることはおできになれない。<BR>⏎ |
| cd6:4 | 447-452 | 「雲の近くを飛びかっている鶴よ、雲上人よ、はっきりと照覧あれ<BR>⏎ わたしは春の日のようにいささかも疚しいところのない身です<BR>⏎ 一方では当てにしながら、このように勅勘を蒙った人は、昔の賢人でさえ、満足に世に再び出ることは難しかったのだから、どうして、都の地を再び見ようなどとは思いませぬ」<BR>⏎ などとおっしゃると、宰相は、<BR>⏎ 「頼りない雲居にわたしは独りで泣いています<BR>⏎ かつて共に翼を並べた君を恋い慕いながら<BR>⏎ | 371-374 | 「雲の近くを飛びかっている鶴よ、雲上人よ、はっきりと照覧あれ<BR> わたしは春の日のようにいささかも疚しいところのない身です<BR>⏎ 一方では当てにしながら、このように勅勘を蒙った人は、昔の賢人でさえ、満足に世に再び出ることは難しかったのだから、どうして,都の地を再び見ようなどとは思いませぬ」<BR>⏎ などとおっしゃる。宰相は、<BR>⏎ 「頼りない雲居にわたしは独りで泣いています<BR> かつて共に翼を並べた君を恋い慕いながら<BR>⏎ |
| cd2:1 | 454-455 | などと、しんみりすることなくてお帰りになった、その後、ますます悲しく物思いに沈んでお過ごしになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 376 | などと,しんみりすることなくてお帰りになった,その後、ますます悲しく物思いに沈んでお過ごしになる。<BR>⏎ |
| version12 | 456 | <A NAME="in42">[第二段 上巳の祓と嵐]</A><BR> | 377 | |
| cd4:3 | 459-462 | と、知ったかぶりの人が申し上げるので、海辺も見たくてお出かけになる。ひどく簡略に、軟障だけを引きめぐらして、この国に行き来していた陰陽師を召して、祓いをおさせなになる。舟に仰々しい人形を乗せて流すのを御覧になるにつけても、わが身になぞらえられて、<BR>⏎ 「見も知らなかった大海原に流れきて<BR>⏎ 人形に一方ならず悲しく思われることよ」<BR>⏎ と詠んで、じっとしていらっしゃるご様子、このような広く明るい所に出て、何とも言いようのないほど素晴らしくお見えになる。<BR>⏎ | 380-382 | と,知ったかぶりの人が申し上げるので、海辺も見たくてお出かけになる。ひどく簡略に、軟障だけを引きめぐらして、この国に行き来していた陰陽師を召して、祓いをおさせなになる。舟に仰々しい人形を乗せて流すのを御覧になるにつけても、わが身になぞらえられて、<BR>⏎ 「見も知らなかった大海原に流れきて<BR> 人形に一方ならず悲しく思われることよ」<BR>⏎ と詠んで,じっとしていらっしゃるご様子、このような広く明るい所に出て、何とも言いようのないほど素晴らしくお見えになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 464-466 | 「八百万の神々もわたしを哀れんでくださるでしょう<BR>⏎ これといって犯した罪はないのだから」<BR>⏎ とお詠みになると、急に風が吹き出して、空もまっ暗闇になった。お祓いもし終えないで、騒然となった。肱笠雨とかいうものが降ってきて、ひどくあわただしいので、皆がお帰りになろうとするが、笠も手に取ることができない。こうなろうとは思いもしなかったが、いろいろと吹き飛ばし、またとない大風である。波がひどく荒々しく立ってきて、人々の足も空に浮いた感じである。海の表面は、衾を広げたように一面にきらきら光って、雷が鳴りひらめく。落ちてきそうな気がして、やっとのことで、家にたどり着いて、<BR>⏎ | 384-385 | 「八百万の神々もわたしを哀れんでくださるでしょう<BR> これといって犯した罪はないのだから」<BR>⏎ とお詠みになると、急に風が吹き出して、空もまっ暗闇になった。お祓いもし終えないで、騒然となった。肱笠雨とかいうものが降ってきて、ひどくあわただしいので、皆がお帰りになろうとするが、笠も手に取ることができない。こうなろうとは思いもしなかったが、いろいろと吹き飛ばし、またとない大風である。波がひどく荒々しく立ってきて、人々の足も空に浮いた感じである。海の表面は、衾を広げたように一面にきらきら光って、雷が鳴りひらめく。落ちてきそうな気がして、やっとのことで,家にたどり着いて、<BR>⏎ |
| c1 | 468 | 「風などは、吹くが、前触れがあって吹くものだ。思いもせぬ珍しいことだ」<BR>⏎ | 387 | 「風などは,吹くが、前触れがあって吹くものだ。思いもせぬ珍しいことだ」<BR>⏎ |
| c2 | 472-473 | 「もうしばらくこのままだったら、波に呑みこまれて海に入ってしまうところだった」<BR>⏎ 「高潮というものに、何を取る余裕もなく人の命がそこなわれるとは聞いているが、まこと、このようなことは、まだ見たこともない」<BR>⏎ | 391-392 | 「もうしばらく このままだったら、波に呑みこまれて海に入ってしまうところだった」<BR>⏎ 「高潮というものに、何を取る余裕もなく人の命がそこなわれるとは聞いているが、まこと,このようなことは、まだ見たこともない」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 476-479 | 「どうして、宮からお召しがあるのに参らないのか」<BR>⏎ と言って、手探りで捜してしるように見ると、目が覚めて、「さては海龍王が、美しいものがひどく好きなもので、魅入ったのであったな」とお思いになると、とても気味が悪く、ここの住まいが耐えられなくお思いになった。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 395-396 | 「どうして,宮からお召しがあるのに参らないのか」<BR>⏎ と言って,手探りで捜してしるように見ると、目が覚めて、「さては海龍王が、美しいものがひどく好きなもので、魅入ったのであったな」とお思いになると、とても気味が悪く、ここの住まいが耐えられなくお思いになった。<BR>⏎ |
| d1 | 486 | ⏎ | ||
| i0 | 407 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version13 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 21 | <LI>明石入道の迎えの舟---<A HREF="#in14">渚に小さい舟を寄せて、人が二、三人ほど</A>⏎ | 18 | <LI>明石入道の迎えの舟---<A HREF="#in14">渚に小さい舟を寄せて、人が二,三人ほど</A>⏎ |
| d1 | 55 | <P>⏎ | ||
| version13 | 56 | <H4>第一章 光る源氏の物語 須磨の嵐と神の導きの物語</H4> | 52 | |
| version13 | 57 | <A NAME="in11">[第一段 須磨の嵐続く]</A><BR> | 53 | |
| c1 | 58 | 依然として雨風が止まず、雷も鳴り静まらないで、数日がたった。ますます心細いこと、数限りなく、過去も未来も、悲しいお身の上で、気強くもお考えになることもできず、「どうしよう。こうだからといって、都に帰るようなことも、まだ赦免がなくては、物笑いになることが増そう。やはり、ここより深い山を求めて、姿をくらましてしまおうか」とお思いになるにつけても、「波風に脅かされてなど、人が言い伝えるようなこと、後世にまで、たいそう軽率な浮名を流してしまうことになろう」とお迷いになる。<BR>⏎ | 54 | 依然として雨風が止まず、雷も鳴り静まらないで、数日がたった。ますます心細いこと、数限りなく、過去も未来も、悲しいお身の上で、気強くもお考えになることもできず、「どうしよう。こうだからといって、都に帰るようなことも、まだ赦免がなくては、物笑いになることが増そう。やはり,ここより深い山を求めて、姿をくらましてしまおうか」とお思いになるにつけても、「波風に脅かされてなど、人が言い伝えるようなこと、後世にまで、たいそう軽率な浮名を流してしまうことになろう」とお迷いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 62-63 | 須磨の浦ではどんなに激しく風が吹いていることでしょう<BR>⏎ 心配で袖を涙で濡らしている今日このごろです」<BR>⏎ | 58 | 須磨の浦ではどんなに激しく風が吹いていることでしょう<BR> 心配で袖を涙で濡らしている今日このごろです」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 66-69 | などと、はきはきともせず、たどたどしく話すが、京のこととお思いになると知りたくて、御前に召し出して、お尋ねあそばす。<BR>⏎ 「ただ、例によって雨が小止みなく降って、風は時々吹き出して、数日来になりますのを、ただ事でないと驚いているのです。まことにこのように、地の底に通るほどの雹が降り、雷の静まらないことはございませんでした」<BR>⏎ などと、大変な様子で驚き脅えて畏まっている顔がとてもつらそうなのにつけても、心細さがつのるのだった。<BR>⏎ <P>⏎ | 61-63 | などと,はきはきともせず、たどたどしく話すが、京のこととお思いになると知りたくて、御前に召し出して、お尋ねあそばす。<BR>⏎ 「ただ,例によって雨が小止みなく降って、風は時々吹き出して、数日来になりますのを、ただ事でないと驚いているのです。まことにこのように、地の底に通るほどの雹が降り、雷の静まらないことはございませんでした」<BR>⏎ などと,大変な様子で驚き脅えて畏まっている顔がとてもつらそうなのにつけても、心細さがつのるのだった。<BR>⏎ |
| version13 | 70 | <A NAME="in12">[第二段 光る源氏の祈り]</A><BR> | 64 | |
| c1 | 71 | 「こうしながらこの世は滅びてしまうのであろうか」と思わずにはいらっしゃれないでいると、その翌日の明け方から、風が激しく吹き、潮が高く満ちきて、波の音の荒々しいこと、巌も山をも無くしてしまいそうである。雷の鳴りひらめく様子、さらに言いようがなくて、「そら、落ちてきた」と思われると、その場に居合わせた者でしっかりした人はいない。<BR>⏎ | 65 | 「こうしながらこの世は滅びてしまうのであろうか」と思わずにはいらっしゃれないでいると、その翌日の明け方から、風が激しく吹き、潮が高く満ちきて、波の音の荒々しいこと、巌も山をも無くしてしまいそうである。雷の鳴りひらめく様子、さらに言いようがなくて、「そら,落ちてきた」と思われると、その場に居合わせた者でしっかりした人はいない。<BR>⏎ |
| c1 | 73 | と嘆く。君は、お心を静めて、「どれほどの過失によって、この海辺に命を落とすというのか」と、気を強くお持ちになるが、ひどく脅え騒いでいるので、色とりどりの幣帛を奉らせなさって、<BR>⏎ | 67 | と嘆く。君は,お心を静めて、「どれほどの過失によって、この海辺に命を落とすというのか」と、気を強くお持ちになるが、ひどく脅え騒いでいるので、色とりどりの幣帛を奉らせなさって、<BR>⏎ |
| cd5:4 | 75-79 | と、数多くの大願を立てなさる。各自めいめいの命は、それはそれとして、このような方がまたとない例にお命を落としてしまいそうなことがひどく悲しい、心を奮い起こして、わずかに気を確かに持っている者は皆、「わが身に代えて、この御身ひとつをお救い申し上げよう」と、大声を上げて、声を合わせて仏、神をお祈り申し上げる。<BR>⏎ 「帝王の、深宮に育てられなさって、さまざまな楽しみをほしいままになさったが、深い御仁徳は、大八洲にあまねく、沈淪していた人々を数多く浮かび上がらせなさった。今、何の報いによってか、こんなに非道な波風に溺れ死ななければならないのか。天地の神々よ、ご判断ください。罪なくして罪に当たり、官職、爵位を剥奪され、家を離れ、都を去って、日夜お心の安まる時なく、お嘆きになっていらっしゃる上に、このような悲しい憂き目にまで遭い、命を失ってしまいそうになるのは、前世からの報いか、この世での犯しによるのかと、神、仏、確かにいらっしゃるならば、この災いをお鎮めください」<BR>⏎ と、お社の方を向いて、さまざまな願を立てなさる。<BR>⏎ また、海の中の龍王、八百万の神々に願をお立てさせになると、ますます雷が鳴り轟いて、いらっしゃるご座所に続いている廊に落ちてきた。炎が燃え上がって、廊は焼けてしまった。生きた心地もせず、皆が皆あわてふためく。後方にある大炊殿とおぼしい建物にお移し申して、上下なく人々が入り込んで、ひどく騒がしく泣き叫ぶ声、雷鳴にも負けない。空は黒墨を擦ったようで、日も暮れてしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 69-72 | と,数多くの大願を立てなさる。各自めいめいの命は、それはそれとして、このような方がまたとない例にお命を落としてしまいそうなことがひどく悲しい、心を奮い起こして、わずかに気を確かに持っている者は皆、「わが身に代えて,この御身ひとつをお救い申し上げよう」と、大声を上げて、声を合わせて仏、神をお祈り申し上げる。<BR>⏎ 「帝王の,深宮に育てられなさって、さまざまな楽しみをほしいままになさったが、深い御仁徳は、大八洲にあまねく、沈淪していた人々を数多く浮かび上がらせなさった。今、何の報いによってか、こんなに非道な波風に溺れ死ななければならないのか。天地の神々よ、ご判断ください。罪なくして罪に当たり、官職、爵位を剥奪され、家を離れ、都を去って、日夜お心の安まる時なく、お嘆きになっていらっしゃる上に、このような悲しい憂き目にまで遭い、命を失ってしまいそうになるのは、前世からの報いか、この世での犯しによるのかと、神、仏、確かにいらっしゃるならば、この災いをお鎮めください」<BR>⏎ と,お社の方を向いて、さまざまな願を立てなさる。<BR>⏎ また,海の中の龍王、八百万の神々に願をお立てさせになると、ますます雷が鳴り轟いて、いらっしゃるご座所に続いている廊に落ちてきた。炎が燃え上がって、廊は焼けてしまった。生きた心地もせず、皆が皆あわてふためく。後方にある大炊殿とおぼしい建物にお移し申して、上下なく人々が入り込んで、ひどく騒がしく泣き叫ぶ声、雷鳴にも負けない。空は黒墨を擦ったようで、日も暮れてしまった。<BR>⏎ |
| version13 | 80 | <A NAME="in13">[第三段 嵐収まる]</A><BR> | 73 | |
| c1 | 86 | 「この風が、今しばらく止まなかったら、潮が上がって来て、残るところなく攫われてしまったことでしょう。神のご加護は大変なものであった」<BR>⏎ | 79 | 「この風が、今しばらく止まなかったら、潮が上がって来て,残るところなく攫われてしまったことでしょう。神のご加護は大変なものであった」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 88-91 | 「海に鎮座まします神の御加護がなかったならば<BR>⏎ 潮の渦巻く遥か沖合に流されていたことであろう」<BR>⏎ 一日中、激しく物を煎り揉みしていた雷の騷ぎのために、そうはいっても、ひどくお疲れになったので、思わずうとうととなさる。恐れ多いほど粗末なご座所なので、ちょっと寄り掛かっていらっしゃると、故院が、まるで御生前おいであそばしたお姿のままお立ちになって、<BR>⏎ 「どうして、このような見苦しい所にいるのだ」<BR>⏎ | 81-83 | 「海に鎮座まします神の御加護がなかったならば<BR> 潮の渦巻く遥か沖合に流されていたことであろう」<BR>⏎ 一日中,激しく物を煎り揉みしていた雷の騷ぎのために、そうはいっても、ひどくお疲れになったので、思わずうとうととなさる。恐れ多いほど粗末なご座所なので、ちょっと寄り掛かっていらっしゃると、故院が、まるで御生前おいであそばしたお姿のままお立ちになって、<BR>⏎ 「どうして,このような見苦しい所にいるのだ」<BR>⏎ |
| c2 | 97-98 | 「実にとんでもないことだ。これは、ちょっとしたことの報いである。朕は、在位中に、過失はなかったけれど、知らず知らずのうちに犯した罪があったので、その罪を償うのに暇がなくて、この世を顧みなかったが、大変な難儀に苦しんでいるのを見ると、堪え難くて、海に入り渚に上がり、たいそう疲れたけれど、このような機会に、奏上しなければならないことがあるので、急いで上るのだ」<BR>⏎ と言って、お立ち去りになってしまった。<BR>⏎ | 89-90 | 「実にとんでもないことだ。これは,ちょっとしたことの報いである。朕は、在位中に、過失はなかったけれど、知らず知らずのうちに犯した罪があったので、その罪を償うのに暇がなくて、この世を顧みなかったが、大変な難儀に苦しんでいるのを見ると、堪え難くて、海に入り渚に上がり、たいそう疲れたけれど、このような機会に、奏上しなければならないことがあるので、急いで上るのだ」<BR>⏎ と言って,お立ち去りになってしまった。<BR>⏎ |
| c1 | 100 | ここ数年来、夢の中でもお会い申さず、恋しくお会いしたいお姿を、わずかな時間ではあるが、はっきりと拝見したお顔だけが、眼前にお浮かびになって、「自分がこのように悲しみを窮め尽くし、命を失いそうになったのを、助けるために天翔っていらした」と、しみじみと有り難くお思いになると、「よくぞこんな騷ぎもあったものよ」と、夢の後も頼もしくうれしく思われなさること、限りない。<BR>⏎ | 92 | ここ数年来、夢の中でもお会い申さず、恋しくお会いしたいお姿を、わずかな時間ではあるが、はっきりと拝見したお顔だけが、眼前にお浮かびになって、「自分がこのように悲しみを窮め尽くし、命を失いそうになったのを、助けるために天翔っていらした」と、しみじみと有り難くお思いになると、「よくぞこんな騷ぎもあったものよ」と、夢の後も頼もしく うれしく思われなさること、限りない。<BR>⏎ |
| d1 | 102 | <P>⏎ | ||
| version13 | 103 | <A NAME="in14">[第四段 明石入道の迎えの舟]</A><BR> | 94 | |
| c1 | 104 | 渚に小さい舟を寄せて、人が二、三人ほど、この旅のお館をめざして来る。何者だろうと尋ねると、<BR>⏎ | 95 | 渚に小さい舟を寄せて、人が二,三人ほど、この旅のお館をめざして来る。何者だろうと尋ねると、<BR>⏎ |
| ci2:3 | 108-109 | と言って、不審がる。君が、お夢などもご連想なさることもあって、「早く会え」とおっしゃるので、舟まで行って会った。「あれほど激しかった波風なのに、いつの間に船出したのだろう」と、合点が行かず思っていた。<BR>⏎ 「去る上旬の日の夢に、異形のものが告げ知らせることがございましたので、信じがたいこととは存じましたが、『十三日にあらたかな霊験を見せよう。舟の準備をして、必ず、この雨風が止んだら、この浦に寄せ着けよ』と、前もって告げていたことがございましたので、試しに舟の用意をして待っておりましたところ、激しい雨、風、雷がそれと気づかせてくれましたので、異国の朝廷でも、夢を信じて国を助けるた例が多くございましたので、お取り上げにならないにしても、この予告の日をやり過さず、この由をお知らせ申し上げましょうと思って、舟出しましたところ、不思議な風が細く吹いて、この浦に着きましたこと、ほんとうに神のお導きは間違いがございません。こちらにも、もしやお心あたりのこともございましたでしょうか、と存じまして。大変に恐縮ですが、この由、お伝え申し上げてください」<BR>⏎ | 99-101 | と言って,不審がる。君が、お夢などもご連想なさることもあって、「早く会え」とおっしゃるので、舟まで行って会った。「あれほど激しかった波風なのに、いつの間に船出したのだろう」と、合点が行かず思っていた。<BR>⏎ 「去る上旬の日の夢に、異形のものが告げ知らせることがございましたので、信じがたいこととは存じましたが、『十三日にあらたかな霊験を見せよう。舟の準備をして、必ず、この雨風が止んだら、この浦に寄せ着けよ』と、前もって告げていたことがございましたので、<BR>⏎ 試しに舟の用意をして待っておりましたところ、激しい雨、風、雷がそれと気づかせてくれましたので、異国の朝廷でも、夢を信じて国を助けるた例が多くございましたので、お取り上げにならないにしても、この予告の日をやり過さず、この由をお知らせ申し上げましょうと思って、舟出しましたところ、不思議な風が細く吹いて、この浦に着きましたこと、ほんとうに神のお導きは間違いがございません。こちらにも、もしやお心あたりのこともございましたでしょうか、と存じまして。大変に恐縮ですが、この由、お伝え申し上げてください」<BR>⏎ |
| ci1:2 | 112 | 「世間の人々がこれを聞き伝えるような後世の非難も穏やかではないだろうことを恐れて、本当の神の助けであるのに、背いたものなら、またそれ以上に、物笑いを受けることになるだろうか。現実の世界の人の意向でさえ背くのは難しい。ちょっとしたことでも慎重にして、自分より年齢もまさるとか、もしくは爵位が高いとか、世間の信望がいま一段まさる人とかには、言葉に従って、その意向を考え入れるべきである。謙虚に振る舞って非難されることはないと、昔、賢人も言い残していた。なるほど、このような命の極限まで辿り着き、この世にまたとないほどの困難の限りを体験し尽くした。今さら後世の悪評を避けたところで、たいしたこともあるまい。夢の中にも父帝のお導きがあったのだから、また何を疑おうか」<BR>⏎ | 104-105 | 「世間の人々がこれを聞き伝えるような後世の非難も穏やかではないだろうことを恐れて、本当の神の助けであるのに、背いたものなら、またそれ以上に、物笑いを受けることになるだろうか。現実の世界の人の意向でさえ背くのは難しい。ちょっとしたことでも慎重にして、自分より年齢もまさるとか、もしくは爵位が高いとか、世間の信望がいま一段まさる人とかには、言葉に従って、その意向を考え入れるべきである。謙虚に振る舞って非難されることはないと、昔,賢人も言い残していた。<BR>⏎ なるほど、このような命の極限まで辿り着き、この世にまたとないほどの困難の限りを体験し尽くした。今さら後世の悪評を避けたところで、たいしたこともあるまい。夢の中にも父帝のお導きがあったのだから、また何を疑おうか」<BR>⏎ |
| c1 | 117 | ということで、いつもの側近の者だけ、四、五人ほど供にしてお乗りになった。<BR>⏎ | 110 | ということで,いつもの側近の者だけ、四,五人ほど 供にしてお乗りになった。<BR>⏎ |
| d1 | 119 | <P>⏎ | ||
| version13 | 120 | <H4>第二章 明石の君の物語 明石での新生活の物語</H4> | 112 | |
| version13 | 121 | <A NAME="in21">[第一段 明石入道の浜の館]</A><BR> | 113 | |
| c1 | 124 | 舟からお車にお乗り移りになるころ、日がだんだん高くなって、ほのかに拝するやいなや、老いも忘れ、寿命も延びる心地がして、笑みを浮かべて、まずは住吉の神をとりあえず拝み申し上げる。月と日の光を手にお入れ申した心地がして、お世話申し上げること、ごもっともである。<BR>⏎ | 116 | 舟からお車にお乗り移りになるころ、日がだんだん高くなって、ほのかに拝するやいなや、老いも忘れ、寿命も延びる心地がして、笑みを浮かべて、まずは住吉の神を とりあえず拝み申し上げる。月と日の光を手にお入れ申した心地がして、お世話申し上げること、ごもっともである。<BR>⏎ |
| d1 | 126 | <P>⏎ | ||
| version13 | 127 | <A NAME="in22">[第二段 京への手紙]</A><BR> | 118 | |
| cd3:2 | 132-134 | 「繰り返し繰り返し、恐ろしい目の極限を体験し尽くした状態なので、今は俗世を離れたいという気持ちだけが募っていますが、『鏡を見ても』とお詠みになった面影が離れる間がないので、このように遠く離れたまま出来ようかと思うと、たくさんのさまざまな心配事は、二の次に自然と思われて、<BR>⏎ 遠く遥かより思いやっております<BR>⏎ 知らない浦からさらに遠くの浦に流れ来ても<BR>⏎ | 123-124 | 「繰り返し繰り返し,恐ろしい目の極限を体験し尽くした状態なので、今は俗世を離れたいという気持ちだけが募っていますが、『鏡を見ても』とお詠みになった面影が離れる間がないので、このように遠く離れたまま出来ようかと思うと、たくさんのさまざまな心配事は、二の次に自然と思われて、<BR>⏎ 遠く遥かより思いやっております<BR> 知らない浦からさらに遠くの浦に流れ来ても<BR>⏎ |
| c1 | 136 | と、なるほど、とりとめもなくお書き散らしになっているが、まことに側からのぞき込みたくなるようなのを、「たいそう並々ならぬご寵愛のほどだ」と、供の人々は拝見する。<BR>⏎ | 126 | と,なるほど、とりとめもなくお書き散らしになっているが、まことに側からのぞき込みたくなるようなのを、「たいそう並々ならぬご寵愛のほどだ」と、供の人々は拝見する。<BR>⏎ |
| d1 | 139 | <P>⏎ | ||
| version13 | 140 | <A NAME="in23">[第三段 明石の入道とその娘]</A><BR> | 129 | |
| ci2:4 | 141-142 | 明石の入道、その勤行の態度は、たいそう悟り澄ましているが、ただその娘一人を心配している様子は、とても側で見ているのも気の毒なくらいに、時々愚痴をこぼし申し上げる。ご心中にも、興味をお持ちになった女なので、「このように意外にも廻り合わせなさったのも、そうなるはずの前世からの宿縁があるのか」とお思いになるものの、「やはり、このように身を沈めている間は、勤行より他のことは考えまい。都の人も、普通の場合以上に、約束したことと違うとお思いになるのも、気恥ずかしい」と思われなさると、素振りをお見せになることはない。折にふれて、「気立てや、容姿など、並み大抵ではないのかなあ」と、心惹かれないでもない。<BR>⏎ こちらではご遠慮申し上げて、自身はめったに参上せず、離れた下屋に控えている。その実、毎日お世話申し上げたく思い、物足りなくお思い申して、「何とか願いを叶えたい」と、仏、神をますますお祈り申し上げる。<BR>⏎ | 130-133 | 明石の入道、その勤行の態度は、たいそう悟り澄ましているが、ただその娘一人を心配している様子は、とても側で見ているのも気の毒なくらいに、時々愚痴をこぼし申し上げる。<BR>⏎ ご心中にも、興味をお持ちになった女なので、「このように意外にも廻り合わせなさったのも、そうなるはずの前世からの宿縁があるのか」とお思いになるものの、「やはり,このように身を沈めている間は、勤行より他のことは考えまい。都の人も、普通の場合以上に、約束したことと違うとお思いになるのも、気恥ずかしい」と思われなさると、素振りをお見せになることはない。<BR>⏎ 折にふれて、「気立てや、容姿など、並み大抵ではないのかなあ」と、心惹かれないでもない。<BR>⏎ こちらではご遠慮申し上げて、自身はめったに参上せず、離れた下屋に控えている。その実,毎日お世話申し上げたく思い、物足りなくお思い申して、「何とか願いを叶えたい」と、仏、神をますますお祈り申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 147 | <P>⏎ | ||
| version13 | 148 | <A NAME="in24">[第四段 夏四月となる]</A><BR> | 138 | |
| cd3:2 | 151-153 | 「ああ、と遥かに」などとおっしゃって、<BR>⏎ 「ああと、しみじみ眺める淡路島の悲しい情趣まで<BR>⏎ すっかり照らしだす今宵の月であることよ」<BR>⏎ | 141-142 | 「ああ,と遥かに」などとおっしゃって、<BR>⏎ 「ああと,しみじみ眺める淡路島の悲しい情趣まで<BR> すっかり照らしだす今宵の月であることよ」<BR>⏎ |
| d1 | 156 | <P>⏎ | ||
| version13 | 157 | <A NAME="in25">[第五段 源氏、入道と琴を合奏]</A><BR> | 145 | |
| c1 | 159 | 「まったく、一度捨て去った俗世も改めて思い出されそうでございます。来世に願っております極楽の有様も、かくやと想像される今宵の、妙なる笛の音でございますね」<BR>⏎ | 147 | 「まったく,一度捨て去った俗世も改めて思い出されそうでございます。来世に願っております極楽の有様も、かくやと想像される今宵の、妙なる笛の音でございますね」<BR>⏎ |
| c1 | 161 | ご自身でも、四季折々の管弦の御遊、その人あの人の琴や笛の音、または声の出し具合、その時々の催しにおいて絶賛されなさった様子、帝をはじめたてまつり、多くの方々が大切に敬い申し上げなさったことを、他人の身の上もご自身の様子も、お思い出しになられて、夢のような気がなさるままに、掻き鳴らしなさっている琴の音も、寂寞として聞こえる。<BR>⏎ | 149 | ご自身でも、四季折々の管弦の御遊、その人あの人の琴や笛の音、または声の出し具合、その時々の催しにおいて 絶賛されなさった様子、帝をはじめたてまつり、多くの方々が大切に敬い申し上げなさったことを、他人の身の上もご自身の様子も、お思い出しになられて、夢のような気がなさるままに、掻き鳴らしなさっている琴の音も、寂寞として聞こえる。<BR>⏎ |
| c1 | 163 | 箏の琴をお進め申したところ、少しお弾きになるのも、さまざまな方面にも、たいそうご堪能だとばかり感じ入り申し上げた。実際には、さほどだと思えない楽の音でさえ、その状況によって引き立つものであるが、広々と何物もない海辺である上に、かえって、春秋の花や紅葉の盛りである時よりも、ただ何ということなく青々と繁っている木蔭が、美しい感じがするので、水鶏が鳴いているのは、「誰が門さして」と、しみじみと興趣が催される。<BR>⏎ | 151 | 箏の琴をお進め申したところ、少しお弾きになるのも、さまざまな方面にも,たいそうご堪能だとばかり感じ入り申し上げた。実際には,さほどだと思えない楽の音でさえ、その状況によって引き立つものであるが、広々と何物もない海辺である上に、かえって、春秋の花や紅葉の盛りである時よりも、ただ何ということなく青々と繁っている木蔭が、美しい感じがするので、水鶏が鳴いているのは、「誰が門さして」と、しみじみと興趣が催される。<BR>⏎ |
| c2 | 165-166 | 「この琴は、女性が優しい姿態でくつろいだ感じに弾いたのが、おもしろいですね」<BR>⏎ と、何気なくおっしゃるのを、入道はわけもなく微笑んで、<BR>⏎ | 153-154 | 「この琴は,女性が優しい姿態でくつろいだ感じに弾いたのが、おもしろいですね」<BR>⏎ と,何気なくおっしゃるのを、入道はわけもなく微笑んで、<BR>⏎ |
| c3 | 170-172 | 「琴など、琴ともお聞きになるなずのない名人揃いの所で、悔しいことをしたなあ」<BR>⏎ と言って、押しやりなさって、<BR>⏎ 「不思議なことに、昔から箏は、女が習得するものであった。嵯峨の帝のご伝授で、女五の宮が、その当時の名人でいらっしゃったが、その御系統で、格別に伝授する人はいません。総じて、ただ現在に著名な人々は、通り一遍の自己満足程度に過ぎないが、ここにそのように隠れて伝えていらっしゃるとは、実に興味深いものですね。ぜひとも、聴いてみたいものです」<BR>⏎ | 158-160 | 「琴など,琴ともお聞きになるなずのない名人揃いの所で、悔しいことをしたなあ」<BR>⏎ と言って,押しやりなさって、<BR>⏎ 「不思議なことに、昔から箏は、女が習得するものであった。嵯峨の帝のご伝授で、女五の宮が、その当時の名人でいらっしゃったが、その御系統で、格別に伝授する人はいません。総じて,ただ現在に著名な人々は、通り一遍の自己満足程度に過ぎないが、ここにそのように隠れて伝えていらっしゃるとは、実に興味深いものですね。ぜひとも、聴いてみたいものです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 176-177 | なるほど、たいそう上手に掻き鳴らした。現在では知られていない奏法を身につけていて、手さばきもたいそう唐風で、揺の音が深く澄んで聞こえた。「伊勢の海」ではないが、「清い渚で貝を拾おう」などと、声の美しい人に歌わせて、自分でも時々拍子をとって、お声を添えなさるのを、琴の手を度々弾きやめて、お褒め申し上げる。お菓子など、珍しいさまに盛って差し上げ、供の人々に酒を大いに勧めたりして、いつしか物憂さも忘れてしまいそうな夜の様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 164 | なるほど,たいそう上手に掻き鳴らした。現在では知られていない奏法を身につけていて、手さばきもたいそう唐風で、揺の音が深く澄んで聞こえた。「伊勢の海」ではないが、「清い渚で貝を拾おう」などと、声の美しい人に歌わせて、自分でも時々拍子をとって、お声を添えなさるのを、琴の手を度々弾きやめて、お褒め申し上げる。お菓子など、珍しいさまに盛って差し上げ、供の人々に酒を大いに勧めたりして、いつしか物憂さも忘れてしまいそうな夜の様子である。<BR>⏎ |
| version13 | 178 | <A NAME="in26">[第六段 入道の問わず語り]</A><BR> | 165 | |
| c1 | 180 | 「とても取り立てては申し上げにくいことでございますが、あなた様が、このような思いがけない土地に、一時的にせよ、移っていらっしゃいましたことは、もしや、長年この老法師めがお祈り申していました神仏がお憐れみになって、しばらくの間、あなた様にご心労をお掛け申し上げることになったのではないかと存ぜられます。<BR>⏎ | 167 | 「とても取り立てては申し上げにくいことでございますが、あなた様が、このような思いがけない土地に、一時的にせよ、移っていらっしゃいましたことは、もしや,長年この老法師めがお祈り申していました神仏がお憐れみになって、しばらくの間、あなた様にご心労をお掛け申し上げることになったのではないかと存ぜられます。<BR>⏎ |
| c2 | 182-183 | 前世からの宿縁に恵まれませんもので、このようなつまらない下賤な者になってしまったのでございますが、父親は、大臣の位を保っておられました。自分からこのような田舎の民となってしまったのでございます。子々孫々と、落ちぶれる一方では、終いにはどのようになってしまうのかと悲しく思っておりますが、わが娘は生まれた時から頼もしく思うところがございます。何とかして都の高貴な方に差し上げたいと思う決心、固いものですから、身分が低ければ低いなりに、多数の人々の嫉妬を受け、わたしにとってもつらい目に遭う折々多くございましたが、少しも苦しみとは思っておりません。自分が生きておりますうちは微力ながら育てましょう。このまま先立ってしまったら、海の中にでも身を投げてしまいなさい、と申しつけております」<BR>⏎ などと、全部はお話できそうにもないことを、泣く泣く申し上げる。<BR>⏎ | 169-170 | 前世からの宿縁に恵まれませんもので、このようなつまらない下賤な者になってしまったのでございますが、父親は、大臣の位を保っておられました。自分からこのような田舎の民となってしまったのでございます。子々孫々と,落ちぶれる一方では、終いにはどのようになってしまうのかと 悲しく思っておりますが、わが娘は 生まれた時から頼もしく思うところがございます。何とかして都の高貴な方に差し上げたいと思う決心、固いものですから、身分が低ければ低いなりに、多数の人々の嫉妬を受け、わたしにとってもつらい目に遭う折々多くございましたが、少しも苦しみとは思っておりません。自分が生きておりますうちは微力ながら育てましょう。このまま先立ってしまったら、海の中にでも身を投げてしまいなさい、と申しつけております」<BR>⏎ などと,全部はお話できそうにもないことを、泣く泣く申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 185 | 「無実の罪に当たって、思いもよらない地方にさすらうのも、何の罪によるのかと分からなく思っていたが、今夜のお話をうかがって考え合わせてみると、なるほど浅くはない前世からの宿縁であったのだと、しみじみと分かった。どうして、このようにはっきりとご存じであったことを、今までお話してくださらなかったのか。都を離れた時から、世の無常に嫌気がさし、勤行以外のことはせずに月日を送っているうちに、すっかり意気地がなくなってしまった。そのような人がいらっしゃるとは、ほのかに聞いてはいたが、役立たずの者では縁起でもなく思って相手にもなさらぬであろうと、自信をなくしていたが、それではご案内してくださるというのだね。心細い独り寝の慰めにも」<BR>⏎ | 172 | 「無実の罪に当たって、思いもよらない地方にさすらうのも、何の罪によるのかと分からなく思っていたが、今夜のお話をうかがって考え合わせてみると、なるほど浅くはない前世からの宿縁であったのだと、しみじみと分かった。どうして,このようにはっきりとご存じであったことを、今までお話してくださらなかったのか。都を離れた時から、世の無常に嫌気がさし、勤行以外のことはせずに月日を送っているうちに、すっかり意気地がなくなってしまった。そのような人がいらっしゃるとは、ほのかに聞いてはいたが、役立たずの者では縁起でもなく思って相手にもなさらぬであろうと、自信をなくしていたが、それではご案内してくださるというのだね。心細い独り寝の慰めにも」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 187-188 | 「独り寝はあなた様もお分かりになったでしょうか<BR>⏎ 所在なく物思いに夜を明かす明石の浦の心淋しさを<BR>⏎ | 174 | 「独り寝はあなた様もお分かりになったでしょうか<BR> 所在なく物思いに夜を明かす明石の浦の心淋しさを<BR>⏎ |
| cd4:2 | 192-195 | 「旅の生活の寂しさに夜を明かしかねて<BR>⏎ 安らかな夢を見ることもありません」<BR>⏎ と、ちょっと寛いでいらっしゃるご様子は、たいそう魅力的で、何ともいいようのないお美しさである。数えきれないほどのことどもを申し上げたが、何とも煩わしいことよ。誇張をまじえて書いたので、ますます、馬鹿げて頑固な入道の性質も、現れてしまったことであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 178-179 | 「旅の生活の寂しさに夜を明かしかねて<BR> 安らかな夢を見ることもありません」<BR>⏎ と,ちょっと寛いでいらっしゃるご様子は、たいそう魅力的で、何ともいいようのないお美しさである。数えきれないほどのことどもを申し上げたが、何とも煩わしいことよ。誇張をまじえて書いたので、ますます,馬鹿げて頑固な入道の性質も、現れてしまったことであろう。<BR>⏎ |
| version13 | 196 | <A NAME="in27">[第七段 明石の娘へ懸想文]</A><BR> | 180 | |
| cd2:1 | 198-199 | 「何もわからない土地にわびしい生活を送っていましたが<BR>⏎ お噂を耳にしてお便りを差し上げます<BR>⏎ | 182 | 「何もわからない土地にわびしい生活を送っていましたが<BR> お噂を耳にしてお便りを差し上げます<BR>⏎ |
| c1 | 203 | お返事には、たいそう時間がかかる。奥に入って催促するが、娘は一向に聞き入れない。気後れするようなお手紙の様子に、お返事をしたためる筆跡も、恥ずかしく気後れして、相手のご身分と、わが身の程を思い比べると、比較にもならない思いがして、気分が悪いといって、物に寄り伏してしまった。<BR>⏎ | 186 | お返事には、たいそう時間がかかる。奥に入って催促するが、娘は一向に聞き入れない。気後れするようなお手紙の様子に、お返事をしたためる筆跡も、恥ずかしく気後れする。相手のご身分と、わが身の程を思い比べると、比較にもならない思いがして、気分が悪いといって,物に寄り伏してしまった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 206-207 | 物思いされながら眺めていらっしゃる空を同じく眺めていますのは<BR>⏎ きっと同じ気持ちだからなのでしょう<BR>⏎ | 189 | 物思いされながら眺めていらっしゃる空を同じく眺めていますのは<BR> きっと同じ気持ちだからなのでしょう<BR>⏎ |
| c1 | 209 | と申し上げた。陸奥紙に、ひどく古風な書き方だが、筆跡はしゃれていた。「なるほど、色っぽく書いたものだ」と、目を見張って御覧になる。御使者に、並々ならぬ女装束などを与えた。<BR>⏎ | 191 | と申し上げた。陸奥紙に、ひどく古風な書き方だが、筆跡はしゃれていた。「なるほど,色っぽく書いたものだ」と、目を見張って御覧になる。御使者に、並々ならぬ女装束などを与えた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 212-213 | 「悶々として心の中で悩んでおります<BR>⏎ いかがですかと尋ねてくださる人もいないので<BR>⏎ | 194 | 「悶々として心の中で悩んでおります<BR> いかがですかと尋ねてくださる人もいないので<BR>⏎ |
| cd3:2 | 215-217 | と、今度は、たいそうしなやかな薄様に、とても美しそうにお書きになっていた。若い女性が素晴らしいと思わなかったら、あまりに引っ込み思案というものであろう。ご立派なとは思うものの、比較にならないわが身の程が、ひどくふがいないので、かえって、自分のような女がいるということを、お知りになり訪ねてくださるにつけて、自然と涙ぐまれて、まったく例によって動こうとしないのを、責められ促されて、深く染めた紫の紙に、墨つきも濃く薄く書き紛らわして、<BR>⏎ 「思って下さるとおっしゃいますが、その真意はいかがなものでしょうか<BR>⏎ まだ見たこともない方が噂だけで悩むということがあるのでしょうか」<BR>⏎ | 196-197 | と,今度は、たいそうしなやかな薄様に、とても美しそうにお書きになっていた。若い女性が素晴らしいと思わなかったら、あまりに引っ込み思案というものであろう。ご立派なとは思うものの、比較にならないわが身の程が、ひどくふがいないので、かえって、自分のような女がいるということを、お知りになり訪ねてくださるにつけて、自然と涙ぐまれて、まったく例によって動こうとしないのを、責められ促されて、深く染めた紫の紙に、墨つきも濃く薄く書き紛らわして、<BR>⏎ 「思って下さるとおっしゃいますが、その真意はいかがなものでしょうか<BR> まだ見たこともない方が噂だけで悩むということがあるのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 219-222 | 京の事が思い出されて、興趣深いと御覧になるが、続けざまに手紙を出すのも、人目が憚られるので、二、三日置きに、所在ない夕暮や、もしくは、しみじみとした明け方などに紛らわして、それらの時々に、同じ思いをしているにちがいない時を推量して、書き交わしなさると、不似合いではない。<BR>⏎ 思慮深く気位高くかまえている様子も、是非とも会わないと気がすまないと、お思いになる一方で、良清がわがもの顔に言っていた様子もしゃくにさわるし、長年心にかけていただろうことを、目の前で失望させるのも気の毒にご思案されて、「相手が進んで参ったような恰好ならば、そのようなことにして、うやむやのうちに事をはこぼう」とお思いになるが、女は女で、かえって高貴な身分の方以上に、たいそう気位高くかまえていて、いまいましく思うようにお仕向け申しているので、意地の張り合いで日が過ぎて行ったのであった。<BR>⏎ 京の事を、このように関よりも遠くに行った今では、ますます気がかりにお思い申し上げなさって、「どうしたものだろう。冗談でないことだ。こっそりと、お迎え申してしまおうか」と、お気弱になられる時々もあるが、「そうかといって、こうして何年も過せようかと、今さら体裁の悪いことを」と、お思い静めになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 199-201 | 京の事が思い出されて、興趣深いと御覧になるが、続けざまに手紙を出すのも、人目が憚られるので、二,三日置きに、所在ない夕暮や、もしくは,しみじみとした明け方などに紛らわして、それらの時々に、同じ思いをしているにちがいない時を推量して、書き交わしなさると、不似合いではない。<BR>⏎ 思慮深く気位高くかまえている様子も、是非とも会わないと気がすまないと,お思いになる一方で、良清がわがもの顔に言っていた様子もしゃくにさわるし、長年心にかけていただろうことを、目の前で失望させるのも気の毒にご思案されて、「相手が進んで参ったような恰好ならば、そのようなことにして、うやむやのうちに事をはこぼう」とお思いになるが、女は女で、かえって高貴な身分の方以上に、たいそう気位高くかまえていて、いまいましく思うようにお仕向け申しているので、意地の張り合いで日が過ぎて行ったのであった。<BR>⏎ 京の事を、このように関よりも遠くに行った今では、ますます気がかりにお思い申し上げなさって、「どうしたものだろう。冗談でないことだ。こっそりと、お迎え申してしまおうか」と、お気弱になられる時々もあるが、「そうかといって、こうして 何年も過せようかと、今さら体裁の悪いことを」と、お思い静めになった。<BR>⏎ |
| version13 | 223 | <A NAME="in28">[第八段 都の天変地異]</A><BR> | 202 | |
| c1 | 228 | お睨みになったとき、眼をお見合わせになったと思し召してか、眼病をお患になって、堪えきれないほどお苦しみになる。御物忌み、宮中でも大后宮でも、数知れずお執り行わせあそばす。<BR>⏎ | 207 | お睨みになったとき、眼をお見合わせになったと思し召してか、眼病をお患になって、堪えきれないほどお苦しみになる。御物忌み、宮中でも大后宮でも,数知れずお執り行わせあそばす。<BR>⏎ |
| c1 | 230 | 「やはり、この源氏の君が、真実に無実の罪でこのように沈んでいるならば、必ずその報いがあるだろうと思われます。今は、やはり元の位階を授けよう」<BR>⏎ | 209 | 「やはり,この源氏の君が、真実に無実の罪でこのように沈んでいるならば、必ずその報いがあるだろうと思われます。今は、やはり元の位階を授けよう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 233-234 | などと、大后は固くお諌めになるので、ためらっていらっしゃるうちに月日がたって、お二方の御病気も、それぞれ次第に重くなって行かれる。<BR>⏎ <P>⏎ | 212 | などと,大后は固くお諌めになるので、ためらっていらっしゃるうちに月日がたって、お二方の御病気も、それぞれ次第に重くなって行かれる。<BR>⏎ |
| version13 | 235 | <H4>第三章 明石の君の物語 結婚の喜びと嘆きの物語</H4> | 213 | |
| version13 | 236 | <A NAME="in31">[第一段 明石の侘び住まい]</A><BR> | 214 | |
| ci1:2 | 240 | 「とても取るに足りない身分の田舎者は、一時的に下向した人の甘い言葉に乗って、そのように軽く良い仲になることもあろうが、一人前の夫人として思ってくださらないだろうから、わたしはたいへんつらい物思いの種を増すことだろう。あのように及びもつかぬ高望みをしている両親も、未婚の間で過ごしているうちは、当てにならないことを当てにして、将来に希望をかけていようが、かえって心配が増ることであろう」と思って、「ただこの浦にいらっしゃる間は、このようなお手紙だけをやりとりさせていただけるのは、並々ならぬこと。長年噂にだけ聞いて、いつの日にかそのような方のご様子をちらっとでも拝見しようなどと、思いもしなかったお住まいで、よそながらもちらと拝見し、世にも素晴らしいと聞き伝えていたお琴の音をも風に乗せて聴き、毎日のお暮らしぶりもはっきりと見聞きし、このようにまでわたしに対してご関心いただくのは、このような海人の中に混じって朽ち果てた身にとっては、過分の幸せだわ」<BR>⏎ | 218-219 | 「とても取るに足りない身分の田舎者は、一時的に下向した人の甘い言葉に乗って、そのように軽く良い仲になることもあろうが、一人前の夫人として思ってくださらないだろうから、わたしはたいへんつらい物思いの種を増すことだろう。<BR>⏎ あのように及びもつかぬ高望みをしている両親も、未婚の間で過ごしているうちは、当てにならないことを当てにして、将来に希望をかけていようが、かえって心配が増ることであろう」と思って、「ただこの浦にいらっしゃる間は、このようなお手紙だけをやりとりさせていただけるのは、並々ならぬこと。長年噂にだけ聞いて、いつの日にかそのような方のご様子をちらっとでも拝見しようなどと、思いもしなかったお住まいで、よそながらもちらと拝見し、世にも素晴らしいと聞き伝えていたお琴の音をも風に乗せて聴き、毎日のお暮らしぶりもはっきりと見聞きし、このようにまでわたしに対してご関心いただくのは、このような海人の中に混じって朽ち果てた身にとっては,過分の幸せだわ」<BR>⏎ |
| c1 | 246 | などと、改めて思い悩んでいた。君は、<BR>⏎ | 225 | などと,改めて思い悩んでいた。君は、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 248-249 | などと、いつもおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 227 | などと,いつもおっしゃる。<BR>⏎ |
| version13 | 250 | <A NAME="in32">[第二段 明石の君を初めて訪ねる]</A><BR> | 228 | |
| cd2:1 | 253-254 | 「秋の夜の月毛の駒よ、わが恋する都へ天翔っておくれ<BR>⏎ 束の間でもあの人に会いたいので」<BR>⏎ | 231 | 「秋の夜の月毛の駒よ、わが恋する都へ天翔っておくれ<BR> 束の間でもあの人に会いたいので」<BR>⏎ |
| ci1:2 | 256 | 造りざまは、木が深く繁って、ひどく感心する所があって、結構な住まいである。海辺の住まいは堂々として興趣に富み、こちらの家はひっそりとした住まいの様子で、「ここで暮らしたら、どんな物思いもし残すことはなかろう」と自然と想像されて、しみじみとした思いにかられる。三昧堂が近くにあって、鐘の音、松風に響き合って、もの悲しく、巌に生えている松の根ざしも、情趣ある様子である。いくつもの前栽に虫が声いっぱいに鳴いている。あちらこちらの様子を御覧になる。娘を住ませている建物は、格別に美しくしてあって、月の光を入れた真木の戸口は、ほんの気持ちばかり開けてある。<BR>⏎ | 233-234 | 造りざまは、木が深く繁って、ひどく感心する所があって、結構な住まいである。海辺の住まいは堂々として興趣に富み、こちらの家はひっそりとした住まいの様子で、「ここで暮らしたら、どんな物思いもし残すことはなかろう」と 自然と想像されて、しみじみとした思いにかられる。三昧堂が近くにあって、鐘の音、松風に響き合って、もの悲しく、巌に生えている松の根ざしも、情趣ある様子である。いくつもの前栽に虫が声いっぱいに鳴いている。あちらこちらの様子を御覧になる。<BR>⏎ 娘を住ませている建物は、格別に美しくしてあって、月の光を入れた真木の戸口は、ほんの気持ちばかり開けてある。<BR>⏎ |
| cd7:5 | 258-264 | 近くの几帳の紐に触れて、箏の琴が音をたてたのも、感じが取り繕ってなく、くつろいだ普段のまま琴を弄んでいた様子が想像されて、興趣あるので、<BR>⏎ 「この、噂に聞いていた琴までも聴かせてくれないのですか」<BR>⏎ などと、いろいろとおっしゃる。<BR>⏎ 「睦言を語り合える相手が欲しいものです<BR>⏎ この辛い世の夢がいくらかでも覚めやしないかと」<BR>⏎ 「闇の夜にそのまま迷っておりますわたしには<BR>⏎ どちらが夢か現実か区別してお話し相手になれましょう」<BR>⏎ | 236-240 | 近くの几帳の紐に触れて、箏の琴が音をたてたのも、感じが取り繕ってなく、くつろいだ普段のまま琴を弄んでいた様子が想像されて,興趣あるので、<BR>⏎ 「この,噂に聞いていた琴までも聴かせてくれないのですか」<BR>⏎ などと,いろいろとおっしゃる。<BR>⏎ 「睦言を語り合える相手が欲しいものです<BR> この辛い世の夢がいくらかでも覚めやしないかと」<BR>⏎ 「闇の夜にそのまま迷っておりますわたしには<BR> どちらが夢か現実か区別してお話し相手になれましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 268-269 | こうして後は、こっそりと時々お通いになる。「距離も少し離れているので、自然と口さがない海人の子どもがいるかも知れない」とおためらいになる途絶えを、「やはり、思っていたとおりだわ」と嘆いているので、「なるほど、どうなることやら」と、入道も極楽往生の願いも忘れて、ただ君のお通いを待つことばかりである。今さら心を乱すのも、とても気の毒なことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 244 | こうして後は、こっそりと時々お通いになる。「距離も少し離れているので、自然と口さがない海人の子どもがいるかも知れない」とおためらいになる途絶えを、「やはり,思っていたとおりだわ」と嘆いているので、「なるほど,どうなることやら」と、入道も極楽往生の願いも忘れて、ただ君のお通いを待つことばかりである。今さら心を乱すのも、とても気の毒なことである。<BR>⏎ |
| version13 | 270 | <A NAME="in33">[第三段 紫の君に手紙]</A><BR> | 245 | |
| c2 | 271-272 | 二条院の君が、風の便りにも漏れお聞きなさるようなことは、「冗談にもせよ、隠しだてをしたのだと、お疎み申されるのは、申し訳なくも恥ずかしいことだ」とお思いになるのも、あまりなご愛情の深さというものであろう。「こういう方面のことは、穏和な方とはいえ、気になさってお恨みになった折々、どうして、つまらない忍び歩きにつけても、そのようなつらい思いをおさせ申したのだろうか」などと、昔を今に取り戻したく、女の有様を御覧になるにつけても、恋しく思う気持ちが慰めようがないので、いつもよりお手紙を心こめてお書きになって、<BR>⏎ 「ところで、そうそう、自分ながら心にもない出来心を起こして、お恨まれ申した時々のことを、思い出すのさえ胸が痛くなりますのに、またしても、変なつまらない夢を見たのです。このように申し上げます問わず語りに、隠しだてしない胸の中だけはご理解ください。『誓ひしことも』」などと書いて、<BR>⏎ | 246-247 | 二条院の君が、風の便りにも漏れお聞きなさるようなことは、「冗談にもせよ、隠しだてをしたのだと、お疎み申されるのは、申し訳なくも恥ずかしいことだ」とお思いになるのも、あまりなご愛情の深さというものであろう。「こういう方面のことは、穏和な方とはいえ、気になさってお恨みになった折々、どうして,つまらない忍び歩きにつけても、そのようなつらい思いをおさせ申したのだろうか」などと、昔を今に取り戻したく、女の有様を御覧になるにつけても、恋しく思う気持ちが慰めようがないので、いつもよりお手紙を心こめてお書きになって、<BR>⏎ 「ところで,そうそう、自分ながら心にもない出来心を起こして、お恨まれ申した時々のことを、思い出すのさえ胸が痛くなりますのに、またしても,変なつまらない夢を見たのです。このように申し上げます問わず語りに、隠しだてしない胸の中だけはご理解ください。『誓ひしことも』」などと書いて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 274-275 | あなたのことが思い出されて、さめざめと泣けてしまいます<BR>⏎ かりそめの恋は海人のわたしの遊び事ですけれども」<BR>⏎ | 249 | あなたのことが思い出されて、さめざめと泣けてしまいます<BR> かりそめの恋は海人のわたしの遊び事ですけれども」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 278-279 | 固い約束をしましたので、何の疑いもなく信じておりました<BR>⏎ 末の松山のように、心変わりはないものと」<BR>⏎ | 252 | 固い約束をしましたので、何の疑いもなく信じておりました<BR> 末の松山のように、心変わりはないものと」<BR>⏎ |
| d1 | 281 | <P>⏎ | ||
| version13 | 282 | <A NAME="in34">[第四段 明石の君の嘆き]</A><BR> | 254 | |
| c1 | 285 | と、以前から想像していた以上に、何事につけ悲しいけれど、穏やかに振る舞って、憎らしげのない態度でお会い申し上げる。<BR>⏎ | 257 | と,以前から想像していた以上に、何事につけ悲しいけれど、穏やかに振る舞って、憎らしげのない態度でお会い申し上げる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 287-288 | 絵をいろいろとお描きになって、思うことを書きつけて、返歌を聞かれるようにという趣向にお作りなった。見る人の心にしみ入るような絵の様子である。どうして、お心が通じあっているのであろうか、二条院の君も、悲しい気持ちが紛れることなくお思いになる時々は、同じように絵をたくさんお描きになって、そのままご自分の有様を、日記のようにお書きになっていた。どうなって行かれるお二方の身の上であろうか。<BR>⏎ <P>⏎ | 259 | 絵をいろいろとお描きになって、思うことを書きつけて、返歌を聞かれるようにという趣向にお作りなった。見る人の心にしみ入るような絵の様子である。どうして,お心が通じあっているのであろうか、二条院の君も、悲しい気持ちが紛れることなくお思いになる時々は、同じように絵をたくさんお描きになって、そのままご自分の有様を、日記のようにお書きになっていた。どうなって行かれるお二方の身の上であろうか。<BR>⏎ |
| version13 | 289 | <H4>第四章 明石の君の物語 明石の浦の別れの秋の物語</H4> | 260 | |
| version13 | 290 | <A NAME="in41">[第一段 七月二十日過ぎ、帰京の宣旨下る]</A><BR> | 261 | |
| cd2:1 | 293-294 | いつかはこうなることと思っていたが、世の中の定めないことにつけても、「どういうことになってしまうのだろうか」とお嘆きになるが、このように急なので、嬉しいと思うとともに、また一方で、この浦を今を限りと離れることをお嘆き悲しみになるが、入道は、当然そうなることとは思いながら、聞くなり胸のつぶれる気持ちがするが、「思い通りにお栄えになってこそ、自分の願いも叶うことなのだ」などと、思い直す。<BR>⏎ <P>⏎ | 264 | いつかはこうなることと思っていたが、世の中の定めないことにつけても、「どういうことになってしまうのだろうか」とお嘆きになるが、このように急なので、嬉しいと思うとともに、また一方で,この浦を今を限りと離れることをお嘆き悲しみになるが、入道は、当然そうなることとは思いながら、聞くなり胸のつぶれる気持ちがするが、「思い通りにお栄えになってこそ、自分の願いも叶うことなのだ」などと、思い直す。<BR>⏎ |
| version13 | 295 | <A NAME="in42">[第二段 明石の君の懐妊]</A><BR> | 265 | |
| c1 | 296 | そのころは、毎夜お通いになってお語らいになる。六月頃から懐妊の兆候が現れて苦しんでいるのであった。このようにお別れなさらねばならない時なので、あいにくご愛情もいや増すというのであろうか、以前よりもいとしくお思いになって、「不思議と物思いせずにはいられない、わが身であることよ」とお悩みになる。<BR>⏎ | 266 | そのころは、毎夜お通いになってお語らいになる。六月頃から懐妊の兆候が現れて苦しんでいるのであった。このようにお別れなさらねばならない時なので、あいにくご愛情もいや増すというのであろうか、以前よりもいとしくお思いになって、「不思議と物思いせずにはいられない,わが身であることよ」とお悩みになる。<BR>⏎ |
| c2 | 300-301 | 季節までもしみじみとした空の様子なので、「どうして、自分から求めて今も昔も、埒もない恋のために憂き身をやつすのだろう」と、さまざまにお思い悩んでいられるのを、事情を知っている人々は、<BR>⏎ 「ああ、困った方だ。いつものお癖だ」<BR>⏎ | 270-271 | 季節までもしみじみとした空の様子なので、「どうして,自分から求めて今も昔も、埒もない恋のために憂き身をやつすのだろう」と、さまざまにお思い悩んでいられるのを、事情を知っている人々は、<BR>⏎ 「ああ,困った方だ. いつものお癖だ」<BR>⏎ |
| c1 | 303 | 「ここ数月来、全然、誰にもそぶりもお見せにならず、時々人目を忍んでお通いになっていらっしゃった冷淡さだったのに」<BR>⏎ | 273 | 「ここ数月来、全然,誰にもそぶりもお見せにならず、時々人目を忍んでお通いになっていらっしゃった冷淡さだったのに」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 305-306 | と、互いに陰口をたたき合う。源少納言は、ご紹介申した当初の頃のことなどを、ささやき合っているのを、おもしろからず思っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 275 | と,互いに陰口をたたき合う。源少納言は、ご紹介申した当初の頃のことなどを、ささやき合っているのを、おもしろからず思っていた。<BR>⏎ |
| version13 | 307 | <A NAME="in43">[第三段 離別間近の日]</A><BR> | 276 | |
| cd3:2 | 309-311 | 男のお顔だち、お姿は、改めていうまでもない。長い間のご勤行にひどく面痩せなさっていらっしゃるのが、いいようもなく立派なご様子で、痛々しいご様子に涙ぐみながら、しみじみと固いお約束なさるのは、「ただ一時の逢瀬でも、幸せと思って、諦めてもいいではないか」とまで思われもするが、ご立派さにつけて、わが身のほどを思うと、悲しみは尽きない。波の音、秋の風の中では、やはり響きは格別である。塩焼く煙が、かすかにたなびいて、何もかもが悲しい所の様子である。<BR>⏎ 「今はいったんお別れしますが、藻塩焼く煙のように<BR>⏎ 上京したら一緒に暮らしましょう」<BR>⏎ | 278-279 | 男のお顔だち、お姿は、改めていうまでもない。長い間のご勤行にひどく面痩せなさっていらっしゃるのが、いいようもなく立派なご様子で、痛々しいご様子に涙ぐみながら、しみじみと固いお約束なさるのは、「ただ一時の逢瀬でも、幸せと思って、諦めてもいいではないか」とまで思われもするが、ご立派さにつけて、わが身のほどを思うと、悲しみは尽きない。波の音、秋の風の中では、やはり響きは格別である。塩焼く煙が,かすかにたなびいて、何もかもが悲しい所の様子である。<BR>⏎ 「今はいったんお別れしますが、藻塩焼く煙のように<BR> 上京したら一緒に暮らしましょう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 313-316 | 「何とも悲しい気持ちでいっぱいですが<BR>⏎ 今は申しても甲斐のないことですから、お恨みはいたしません」<BR>⏎ せつなげに涙ぐんで、言葉少なではあるが、しかるべきお返事などは心をこめて申し上げる。あの、いつもお聴きになりたがっていらした琴の音色など、まったくお聴かせ申さなかったのを、たいそうお恨みになる。<BR>⏎ 「それでは、形見として思い出になるよう、せめて一節だけでも」<BR>⏎ | 281-283 | 「何とも悲しい気持ちでいっぱいですが<BR> 今は申しても甲斐のないことですから、お恨みはいたしません」<BR>⏎ せつなげに涙ぐんで、言葉少なではあるが、しかるべきお返事などは心をこめて申し上げる。あの,いつもお聴きになりたがっていらした琴の音色など、まったくお聴かせ申さなかったのを、たいそうお恨みになる。<BR>⏎ 「それでは,形見として思い出になるよう,せめて一節だけでも」<BR>⏎ |
| c2 | 318-319 | 入道も、たまりかねて箏の琴を取って差し入れた。娘自身も、ますます涙まで催されて、止めようもないので、気持ちをそそられるのであろう、ひっそりと音色を調べた具合、まことに気品のある奏法である。入道の宮のお琴の音色を、今の世に類のないものとお思い申し上げていたのは、「当世風で、ああ、素晴らしい」と、聴く人の心がほれぼれとして、御器量までが自然と想像されることは、なるほど、まことにこの上ないお琴の音色である。<BR>⏎ これはどこまでも冴えた音色で、奥ゆかしく憎らしいほどの音色が優れていた。この君でさえ、初めてしみじみと心惹きつけられる感じで、まだお聴きつけにならない曲などを、もっと聴いていたいと感じさせる程度に、弾き止め弾き止めして、物足りなくお思いになるにつけても、「いく月も、どうして無理してでも、聴き親しまなかったのだろう」と、残念にお思いになる。心をこめて将来のお約束をなさるばかりである。<BR>⏎ | 285-286 | 入道も、たまりかねて箏の琴を取って差し入れた。娘自身も、ますます涙まで催されて、止めようもないので、気持ちをそそられるのであろう、ひっそりと音色を調べた具合、まことに気品のある奏法である。入道の宮のお琴の音色を、今の世に類のないものとお思い申し上げていたのは、「当世風で、ああ,素晴らしい」と、聴く人の心がほれぼれとして、御器量までが自然と想像されることは、なるほど,まことにこの上ないお琴の音色である。<BR>⏎ これはどこまでも冴えた音色で、奥ゆかしく憎らしいほどの音色が優れていた。この君でさえ、初めてしみじみと心惹きつけられる感じで、まだお聴きつけにならない曲などを、もっと聴いていたいと感じさせる程度に,弾き止め弾き止めして、物足りなくお思いになるにつけても、「いく月も、どうして無理してでも、聴き親しまなかったのだろう」と、残念にお思いになる。心をこめて将来のお約束をなさるばかりである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 322-323 | 「軽いお気持ちでおっしゃるお言葉でしょうが<BR>⏎ その一言を悲しくて泣きながら心にかけて、お偲び申します」<BR>⏎ | 289 | 「軽いお気持ちでおっしゃるお言葉でしょうが<BR> その一言を悲しくて泣きながら心にかけて、お偲び申します」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 325-326 | 「今度逢う時までの形見に残した琴の中の緒の調子のように<BR>⏎ 二人の仲の愛情も、格別変わらないでいて欲しいものです<BR>⏎ | 291 | 「今度逢う時までの形見に残した琴の中の緒の調子のように<BR> 二人の仲の愛情も、格別変わらないでいて欲しいものです<BR>⏎ |
| cd2:1 | 328-329 | とお約束なさるようである。それでも、ただ別れる時のつらさを思ってむせび泣いているのも、まことに無理はない。<BR>⏎ <P>⏎ | 293 | とお約束なさるようである。それでも,ただ別れる時のつらさを思ってむせび泣いているのも、まことに無理はない。<BR>⏎ |
| version13 | 330 | <A NAME="in44">[第四段 離別の朝]</A><BR> | 294 | |
| cd2:1 | 332-333 | 「あなたを置いて明石の浦を旅立つわたしも悲しい気がしますが<BR>⏎ 後に残ったあなたはさぞやどのような気持ちでいられるかお察しします」<BR>⏎ | 296 | 「あなたを置いて明石の浦を旅立つわたしも悲しい気がしますが<BR> 後に残ったあなたはさぞやどのような気持ちでいられるかお察しします」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 335-337 | 「長年住みなれたこの苫屋も、あなた様が立ち去った後は荒れはてて<BR>⏎ つらい思いをしましょうから、いっそ打ち返す波に身を投げてしまおうかしら」<BR>⏎ と、気持ちのままなのを御覧になると、堪えていらっしゃったが、ほろほろと涙がこぼれてしまった。事情を知らない人々は、<BR>⏎ | 298-299 | 「長年住みなれたこの苫屋も、あなた様が立ち去った後は荒れはてて<BR> つらい思いをしましょうから、いっそ打ち返す波に身を投げてしまおうかしら」<BR>⏎ と,気持ちのままなのを御覧になると、堪えていらっしゃったが、ほろほろと涙がこぼれてしまった。事情を知らない人々は、<BR>⏎ |
| c1 | 339 | などと、拝見する。<BR>⏎ | 301 | などと,拝見する。<BR>⏎ |
| c1 | 341 | 嬉しいにつけても、「なるほど、今日限りで、この浦を去ることよ」などと、名残を惜しみ合って、口々に涙ぐんで挨拶をし合っているようだ。けれど、いちいちお話する必要もあるまい。<BR>⏎ | 303 | 嬉しいにつけても、「なるほど,今日限りで、この浦を去ることよ」などと,名残を惜しみ合って、口々に涙ぐんで挨拶をし合っているようだ。けれど,いちいちお話する必要もあるまい。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 343-344 | 「ご用意致しました旅のご装束は寄る波の<BR>⏎ 涙に濡れていまので、嫌だとお思いになりましょうか」<BR>⏎ | 305 | 「ご用意致しました旅のご装束は寄る波の<BR> 涙に濡れていまので、嫌だとお思いになりましょうか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 346-348 | 「お互いに形見として着物を交換しましょう<BR>⏎ また逢える日までの間の二人の仲の、この中の衣を」<BR>⏎ とおっしゃって、「せっかくの好意だから」と言って、お召し替えになる。お身につけていらしたのをお遣わしになる。なるほど、もう一つお偲びになるよすがを添えた形見のようである。素晴らしいお召し物に移り香が匂っているのを、どうして相手の心にも染みないことがあろうか。<BR>⏎ | 307-308 | 「お互いに形見として着物を交換しましょう<BR> また逢える日までの間の二人の仲の、この中の衣を」<BR>⏎ とおっしゃって,「せっかくの好意だから」と言って、お召し替えになる。お身につけていらしたのをお遣わしになる。なるほど,もう一つお偲びになるよすがを添えた形見のようである。素晴らしいお召し物に移り香が匂っているのを、どうして相手の心にも染みないことがあろうか。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 352-353 | 「世の中が嫌になって長年この海浜の汐風に吹かれて暮らして来たが<BR>⏎ なお依然として子の故に此岸を離れることができずにおります<BR>⏎ | 312 | 「世の中が嫌になって長年この海浜の汐風に吹かれて暮らして来たが<BR> なお依然として子の故に此岸を離れることができずにおります<BR>⏎ |
| cd6:4 | 356-361 | などと、ご内意を頂戴する。たいそう気の毒にお思いになって、お顔の所々を赤くしていらっしゃるお目もとのあたりがなどが、何ともいいようなくお見えになる。<BR>⏎ 「放っておきがたい事情もあるので、きっと今すぐにお思い直しくださるでしょう。ただ、この住まいが見捨てがたいのです。どうしたものでしょう」とおっしゃって、<BR>⏎ 「都を立ち去ったあの春の悲しさに決して劣ろうか<BR>⏎ 年月を過ごしてきたこの浦を離れる悲しい秋は」<BR>⏎ とお詠みになって、涙を拭っていらっしゃると、ますます分別を失って、涙をさらに流す。立居もままならず転びそうになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 315-318 | などと,ご内意を頂戴する。たいそう気の毒にお思いになって、お顔の所々を赤くしていらっしゃるお目もとのあたりがなどが、何ともいいようなくお見えになる。<BR>⏎ 「放っておきがたい事情もあるので、きっと今すぐにお思い直しくださるでしょう。ただ,この住まいが見捨てがたいのです。どうしたものでしょう」とおっしゃって、<BR>⏎ 「都を立ち去ったあの春の悲しさに決して劣ろうか<BR> 年月を過ごしてきたこの浦を離れる悲しい秋は」<BR>⏎ とお詠みになって,涙を拭っていらっしゃると、ますます分別を失って、涙をさらに流す。立居もままならず転びそうになる。<BR>⏎ |
| version13 | 362 | <A NAME="in45">[第五段 残された明石の君の嘆き]</A><BR> | 319 | |
| c1 | 364 | 「どうして、こんなに気を揉むようなことを思いついたのでしょう。あれもこれも、偏屈な主人に従ったわたしの失敗でした」<BR>⏎ | 321 | 「どうして,こんなに気を揉むようなことを思いついたのでしょう。あれもこれも、偏屈な主人に従ったわたしの失敗でした」<BR>⏎ |
| c2 | 366-367 | 「まあ、静かに。お捨て置きになれない事情もおありになるようですから、今は別れたといっても、お考えになっていることがございましょう。気持ちを落ち着かせて、せめてお薬湯などでも召し上がれ。ああ、縁起でもない」<BR>⏎ と言って、片隅に座っていた。乳母、母君などは、偏屈な心をそしり合いながら、<BR>⏎ | 323-324 | 「まあ,静かに。お捨て置きになれない事情もおありになるようですから、今は別れたといっても、お考えになっていることがございましょう。気持ちを落ち着かせて、せめてお薬湯などでも召し上がれ。ああ,縁起でもない」<BR>⏎ と言って,片隅に座っていた。乳母、母君などは、偏屈な心をそしり合いながら、<BR>⏎ |
| d1 | 371 | <P>⏎ | ||
| version13 | 372 | <H4>第五章 光る源氏の物語 帰京と政界復帰の物語</H4> | 328 | |
| version13 | 373 | <A NAME="in51">[第一段 難波の御祓い]</A><BR> | 329 | |
| c1 | 376 | 女君も、生きていても甲斐ないとまでお思い棄てていた命、嬉しくお思いのことであろう。とても美しくご成人なさって、ご苦労の間に、うるさいほどあったお髪が少し減ったのも、かえってたいそう素晴らしいのを、「今はもうこうして毎日お会いできるのだ」と、お心が落ち着くにつけて、また一方では、心残りの別れをしてきた人が悲しんでいた様子、痛々しくお思いやらずにはいられない。やはり、いつになってもこのような方面では、お心の休まる時のないことよ。<BR>⏎ | 332 | 女君も、生きていても甲斐ないとまでお思い棄てていた命、嬉しくお思いのことであろう。とても美しくご成人なさって、ご苦労の間に、うるさいほどあったお髪が少し減ったのも、かえってたいそう素晴らしいのを、「今はもうこうして毎日お会いできるのだ」と、お心が落ち着くにつけて、また一方では,心残りの別れをしてきた人が悲しんでいた様子、痛々しくお思いやらずにはいられない。やはり,いつになっても、このような方面では,お心の休まる時のないことよ。<BR>⏎ |
| d1 | 379 | <P>⏎ | ||
| version13 | 380 | <A NAME="in52">[第二段 源氏、参内]</A><BR> | 335 | |
| c1 | 381 | お召しがあって、参内なさる。御前に伺候していられると、いよいよ立派になられて、「どうしてあのような辺鄙な土地で、長年お暮らしになったのだろう」と拝見する。女房などの中で、故院の御在世中にお仕えして、年老いた連中は、悲しくて、今さらのように泣き騒いでお褒め申し上げる。<BR>⏎ | 336 | お召しがあって、参内なさる。御前に伺候していられると、いよいよ立派になられて、「どうしてあのような辺鄙な土地で,長年お暮らしになったのだろう」と拝見する。女房などの中で、故院の御在世中にお仕えして、年老いた連中は、悲しくて、今さらのように泣き騒いでお褒め申し上げる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 386-387 | 「海浜でうちしおれて落ちぶれながら蛭子のように<BR>⏎ 立つこともできず三年を過ごして来ました」<BR>⏎ | 341 | 「海浜でうちしおれて落ちぶれながら蛭子のように<BR> 立つこともできず三年を過ごして来ました」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 389-390 | 「こうしてめぐり会える時があったのだから<BR>⏎ あの別れた春の恨みはもう忘れてください」<BR>⏎ | 343 | 「こうしてめぐり会える時があったのだから<BR> あの別れた春の恨みはもう忘れてください」<BR>⏎ |
| d1 | 394 | <P>⏎ | ||
| version13 | 395 | <A NAME="in53">[第三段 明石の君への手紙、他]</A><BR> | 347 | |
| c1 | 396 | そうそう、あの明石には、送って来た者たちの帰りにことづけて、お手紙をお遣はしになる。人目に立たないようにして情愛こまやかにお書きになるようである。<BR>⏎ | 348 | そうそう、あの明石には、送って来た者たちの帰りにことづけて,お手紙をお遣はしになる。人目に立たないようにして情愛こまやかにお書きになるようである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 398-399 | お嘆きになりながら暮らしていらっしゃる明石の浦に<BR>⏎ 嘆きの息が朝霧となって立ちこめているのではないかと想像しています」<BR>⏎ | 350 | お嘆きになりながら暮らしていらっしゃる明石の浦に<BR> 嘆きの息が朝霧となって立ちこめているのではないかと想像しています」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 401-402 | 「須磨の浦で好意をお寄せ申した舟人が<BR>⏎ そのまま涙で朽ちさせてしまった袖をお見せ申しとうございます」<BR>⏎ | 352 | 「須磨の浦で好意をお寄せ申した舟人が<BR> そのまま涙で朽ちさせてしまった袖をお見せ申しとうございます」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 404-406 | 「かえってこちらこそ愚痴を言いたいくらいです、ご好意を寄せていただいて<BR>⏎ それ以来涙に濡れて袖が乾かないものですから」<BR>⏎ 「いかにもかわいい」とお思いになった昔の思い出もあるので、はっとびっくりさせられなさって、ますますいとしくお思い出しになるが、最近は、そのようなお忍び歩きはまったく慎んでいらっしゃるようである。<BR>⏎ | 354-355 | 「かえってこちらこそ愚痴を言いたいくらいです、ご好意を寄せていただいて<BR> それ以来涙に濡れて袖が乾かないものですから」<BR>⏎ 「いかにもかわいい」とお思いになった昔の思い出もあるので、はっとびっくりさせられなさって、ますますいとしくお思い出しになるが、最近は、そのようなお忍び歩きは まったく慎んでいらっしゃるようである。<BR>⏎ |
| d2 | 408-409 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 416 | ⏎ | ||
| i1 | 366 | ⏎ | ||
| diff | src/original/version14.html | src/modified/version14.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version14 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 50 | <LI>六条御息所、死去---<A HREF="#in53">七、八日あって、お亡くなりになったのであった</A>⏎ | 47 | <LI>六条御息所、死去---<A HREF="#in53">七,八日あって、お亡くなりになったのであった</A>⏎ |
| d1 | 55 | <P>⏎ | ||
| version14 | 56 | <H4>第一章 光る源氏の物語 光る源氏の政界領導と御世替わり</H4> | 52 | |
| version14 | 57 | <A NAME="in11">[第一段 故桐壷院の追善法華御八講]</A><BR> | 53 | |
| c1 | 58 | はっきりとお見えになった夢の後は、院の帝の御ことを心にお掛け申し上げになって、「何とか、あの沈んでいらっしゃるという罪、お救い申すことをしたい」と、お嘆きになっていらしたが、このようにお帰りになってからは、そのご準備をなさる。神無月に御八講をお催しになる。世間の人が追従し奉仕すること、昔と同じようである。<BR>⏎ | 54 | はっきりとお見えになった夢の後は、院の帝の御ことを心にお掛け申し上げになって、「何とか,あの沈んでいらっしゃるという罪、お救い申すことをしたい」と、お嘆きになっていらしたが、このようにお帰りになってからは、そのご準備をなさる。神無月に御八講をお催しになる。世間の人が追従し奉仕すること、昔と同じようである。<BR>⏎ |
| d1 | 60 | <P>⏎ | ||
| version14 | 61 | <A NAME="in12">[第二段 朱雀帝と源氏の朧月夜尚侍をめぐる確執]</A><BR> | 56 | |
| cd5:4 | 64-68 | と言って、お泣きあそばす。<BR>⏎ 女君、顔は赤くそまって、こぼれるばかりのお美しさで、涙もこぼれたのを、一切の過失を忘れて、しみじみと愛しい、と御覧にならずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「どうして、せめて御子だけでも生まれなかったのだろうか。残念なことよ。ご縁の深いあの方のためでしたら、今すぐにでもお生みになるだろうと思うにつけても、たまらないことよ。身分に限りがあるので、臣下としてお育てになるのだろうね」<BR>⏎ などと、先々のことまで仰せになるので、とても恥ずかしくも悲しくもお思いになる。お顔など、優雅で美しくて、この上ない御愛情が年月とともに深まってお扱いあそばすので、素晴らしい方であるが、それほど深く愛してくださらなかった様子、気持ちなど、自然と物事がお分かりになってくるにつれて、「どうして自分の思慮の若く未熟なのにまかせて、あのような事件まで引き起こして、自分の名はいうまでもなく、あの方のためにさえ」などとお思い出しになると、まことにつらいお身の上である。<BR>⏎ <P>⏎ | 59-62 | と言って,お泣きあそばす。<BR>⏎ 女君、顔は赤くそまって、こぼれるばかりのお美しさで、涙もこぼれたのを、一切の過失を忘れて、しみじみと愛しい,と御覧にならずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「どうして,せめて御子だけでも生まれなかったのだろうか。残念なことよ。ご縁の深いあの方のためでしたら、今すぐにでもお生みになるだろうと思うにつけても、たまらないことよ。身分に限りがあるので、臣下としてお育てになるのだろうね」<BR>⏎ などと,先々のことまで仰せになるので、とても恥ずかしくも悲しくもお思いになる。お顔など、優雅で美しくて、この上ない御愛情が年月とともに深まってお扱いあそばすので、素晴らしい方であるが、それほど深く愛してくださらなかった様子、気持ちなど、自然と物事がお分かりになってくるにつれて、「どうして自分の思慮の若く未熟なのにまかせて、あのような事件まで引き起こして、自分の名はいうまでもなく、あの方のためにさえ」などとお思い出しになると、まことにつらいお身の上である。<BR>⏎ |
| version14 | 69 | <A NAME="in13">[第三段 東宮の御元服と御世替わり]</A><BR> | 63 | |
| c1 | 70 | 翌年の二月に、東宮の御元服の儀式がある。十一歳におなりだが、年齢以上に大きくおとならしく美しくて、まるで源氏の大納言のお顔をもう一つ写したようにお見えになる。たいそう眩しいまでに光り輝き合っていらっしゃるのを、世間の人々は素晴らしいこととお噂申し上げるが、母宮は、たいそうはらはらなさって、どうにもならないことにお心をお痛めになる。<BR>⏎ | 64 | 翌年の二月に、東宮の御元服の儀式がある。十一歳におなりだが、年齢以上に大きく おとならしく美しくて、まるで源氏の大納言のお顔をもう一つ写したようにお見えになる。たいそう眩しいまでに光り輝き合っていらっしゃるのを、世間の人々は素晴らしいこととお噂申し上げるが、母宮は、たいそうはらはらなさって、どうにもならないことにお心をお痛めになる。<BR>⏎ |
| c1 | 75 | 東宮坊には承香殿の皇子がお立ちになった。世の中が一変して、うって変わってはなやかなことが多くなった。源氏の大納言は、内大臣におなりになった。席がふさがって余裕がなかったので、員外の大臣としてお加わりになったのであった。<BR>⏎ | 69 | 東宮坊には承香殿の皇子がお立ちになった。世の中が一変して、うって変わってはなやかなことが多くなった。源氏の大納言は、内大臣におなりになった。席がふさがって 余裕がなかったので、員外の大臣としてお加わりになったのであった。<BR>⏎ |
| c5 | 77-81 | 「病気を理由にして官職をお返し申し上げたのに、ますます老齢を重ねて、立派な政務はできますまい」<BR>⏎ と、ご承諾なさらない。「外国でも、事変が起こり国政が不穏な時は、深山に身を隠してしまった人でさえも、平和な世には、白髪になったのも恥じず進んでお仕えする人を、本当の聖人だと言っていた。病に沈んで、お返し申された官職を、世の中が変わって再びご就任なさるのに、何の差支えもない」と、朝廷、世間ともに決定される。そうした先例もあったので、辞退しきれず、太政大臣におなりになる。お歳も六十三におなりである。<BR>⏎ 世の中がおもしろくなかったことにより、それが一つの理由で隠居していらしたのだが、また元のように盛んになられたので、ご子息たちなども不遇な様子でいらしたが、皆よくおなりになる。とりわけて、宰相中将は、権中納言におなりになる。あの四の君腹の姫君、十二歳におなりになるのを、帝に入内させようと大切にお世話なさる。あの「高砂」を謡った君も、元服させて、たいそう思いのままである。ご夫人方にご子息方がとてもおおぜい次々とお育ちになって、にぎやかそうなのを、源氏の内大臣は、羨ましくお思いになる。<BR>⏎ 大殿腹の若君、誰よりも格別におかわいらしゅうて、内裏や東宮御所の童殿上なさる。故姫君がお亡くなりになった悲しみを、大宮と大臣、改めてお嘆きになる。けれど、亡くなられた後も、まったくこの大臣のご威光によって、なにもかも引き立てられなさって、ここ数年、思い沈んでいらした跡形もないまでにお栄えになる。やはり昔とお心づかいは変わらず、事あるごとにお渡りになっては、若君の御乳母たちや、その他の女房たちにも、長年の間暇を取らずにいた人々には、皆適当な機会ごとに、便宜を計らっておやりになることをお考えおきになっていたので、幸せ者がきっと多くなったことであろう。<BR>⏎ 二条院でも、同じようにお待ち申し上げていた人々を、殊勝の者だとお考えになって、数年来の胸のつかえが晴れるほどにと、お思いになると、中将の君、中務の君のような人たちには、身分に応じて情愛をかけておやりになるので、お暇がなくて、外歩きもなさらない。<BR>⏎ | 71-75 | 「病気を理由にして 官職をお返し申し上げたのに、ますます老齢を重ねて、立派な政務はできますまい」<BR>⏎ と,ご承諾なさらない。「外国でも、事変が起こり国政が不穏な時は、深山に身を隠してしまった人でさえも、平和な世には、白髪になったのも恥じず進んでお仕えする人を、本当の聖人だと言っていた。病に沈んで、お返し申された官職を、世の中が変わって再びご就任なさるのに、何の差支えもない」と、朝廷、世間ともに決定される。そうした先例もあったので、辞退しきれず、太政大臣におなりになる。お歳も六十三におなりである。<BR>⏎ 世の中がおもしろくなかったことにより、それが一つの理由で隠居していらしたのだが、また元のように盛んになられたので、ご子息たちなども不遇な様子でいらしたが、皆よくおなりになる。とりわけて、宰相中将は、権中納言におなりになる。あの四の君腹の姫君、十二歳におなりになるのを、帝に入内させようと大切にお世話なさる。あの「高砂」を謡った君も、元服させて、たいそう思いのままである。ご夫人方にご子息方がとてもおおぜい次々とお育ちになって、にぎやかそうなのを、源氏の内大臣は,羨ましくお思いになる。<BR>⏎ 大殿腹の若君、誰よりも格別におかわいらしゅうて、内裏や東宮御所の童殿上なさる。故姫君がお亡くなりになった悲しみを、大宮と大臣、改めてお嘆きになる。けれど,亡くなられた後も、まったくこの大臣のご威光によって、なにもかも引き立てられなさって、ここ数年、思い沈んでいらした跡形もないまでにお栄えになる。やはり昔とお心づかいは変わらず、事あるごとにお渡りになっては、若君の御乳母たちや、その他の女房たちにも、長年の間暇を取らずにいた人々には、皆適当な機会ごとに、便宜を計らっておやりになることをお考えおきになっていたので、幸せ者がきっと多くなったことであろう。<BR>⏎ 二条院でも、同じようにお待ち申し上げていた人々を、殊勝の者だとお考えになって、数年来の胸のつかえが晴れるほどにと,お思いになると、中将の君,中務の君のような人たちには、身分に応じて情愛をかけておやりになるので、お暇がなくて、外歩きもなさらない。<BR>⏎ |
| d1 | 83 | <P>⏎ | ||
| version14 | 84 | <H4>第二章 明石の物語 明石の姫君誕生</H4> | 77 | |
| version14 | 85 | <A NAME="in21">[第一段 宿曜の予言と姫君誕生]</A><BR> | 78 | |
| c1 | 88 | とご報告する。久々の御子誕生でしかも女の子であったのをお思いになると、喜びは一通りでない。「どうして、京に迎えて、こうした事をさせなかったのだろう」と、後悔されてならない。<BR>⏎ | 81 | とご報告する。久々の御子誕生でしかも女の子であったのをお思いになると、喜びは一通りでない。「どうして,京に迎えて、こうした事をさせなかったのだろう」と、後悔されてならない。<BR>⏎ |
| c4 | 90-93 | 「お子様は三人。帝、后がきっと揃ってお生まれになるであろう。その中の一番低い子は太政大臣となって位人臣を極めるであろう」<BR>⏎ と、勘申したことが、一つ一つ的中するようである。おおよそ、この上ない地位に昇り、政治を執り行うであろうこと、あれほど賢明であったおおぜいの相人連中がこぞって申し上げていたのを、ここ数年来は世情のやっかいさにすっかりお打ち消しになっていらしたが、今上の帝が、このように御即位なされたことを、思いの通り嬉しくお思いになる。ご自身も「及びもつかない方面は、まったくありえないことだ」とお考えになる。<BR>⏎ 「大勢の親王たちの中で、特別にかわいがってくださったが、臣下にとお考えになったお心を思うと、帝位には遠い運命であったのだ。主上がこのように皇位におつきあそばしているのを、真相は誰も知ることでないが、相人の予言は、誤りでなかった」<BR>⏎ と、ご心中お思いになるのであった。今、これから先の予想をなさると、<BR>⏎ | 83-86 | 「お子様は三人。帝,后がきっと揃ってお生まれになるであろう。その中の一番低い子は 太政大臣となって位人臣を極めるであろう」<BR>⏎ と,勘申したことが、一つ一つ的中するようである。おおよそ、この上ない地位に昇り、政治を執り行うであろうこと、あれほど賢明であったおおぜいの相人連中がこぞって申し上げていたのを、ここ数年来は世情のやっかいさにすっかりお打ち消しになっていらしたが、今上の帝が,このように御即位なされたことを、思いの通り嬉しくお思いになる。ご自身も 「及びもつかない方面は、まったくありえないことだ」とお考えになる。<BR>⏎ 「大勢の親王たちの中で、特別にかわいがってくださったが、臣下にとお考えになったお心を思うと、帝位には遠い運命であったのだ。主上がこのように皇位におつきあそばしているのを、真相は誰も知ることでないが、相人の予言は,誤りでなかった」<BR>⏎ と,ご心中お思いになるのであった。今、これから先の予想をなさると、<BR>⏎ |
| d1 | 96 | <P>⏎ | ||
| version14 | 97 | <A NAME="in22">[第二段 宣旨の娘を乳母に選定]</A><BR> | 89 | |
| c3 | 99-101 | まだ若く、世情にも疎い人で、毎日訪れる人もないあばらやで、物思いに沈んでいるような心細さなので、あれこれ深く考えもせずに、この方に関係のあることを一途に素晴らしいとお思い申し上げて、確かにお仕えする旨、お答え申し上げさせた。たいそう不憫に一方ではお思いにもなるが、出発させなさる。<BR>⏎ 外出の折に、たいそう人目を忍んでお立ち寄りになった。そうは申し上げたものの、どうしようかしらと、思い悩んでいたが、じきじきのお出ましに、いろいろと気もやすまって、<BR>⏎ 「ただ、仰せのとおりに」<BR>⏎ | 91-93 | まだ若く、世情にも疎い人で、毎日訪れる人もないあばらやで、物思いに沈んでいるような心細さなので、あれこれ深く考えもせずに、この方に関係のあることを一途に素晴らしいとお思い申し上げて、確かにお仕えする旨,お答え申し上げさせた。たいそう不憫に一方ではお思いにもなるが、出発させなさる。<BR>⏎ 外出の折に、たいそう人目を忍んでお立ち寄りになった。そうは申し上げたものの、どうしようかしらと,思い悩んでいたが、じきじきのお出ましに、いろいろと気もやすまって、<BR>⏎ 「ただ,仰せのとおりに」<BR>⏎ |
| c2 | 104-105 | などと、事の次第を詳しくお頼みになる。<BR>⏎ 主上付きの宮仕えを時々していたので、御覧になる機会もあったが、すっかりやつれきっていた。家のありさまも、何とも言いようがなく荒れはてて、それでも、大きな邸で、木立なども気味悪いほどで、「どのように暮らしてきたのだろう」と思われる。人柄は、若々しく美しいので、お見過ごしになれない。何やかやと冗談をなさって、<BR>⏎ | 96-97 | などと,事の次第を詳しくお頼みになる。<BR>⏎ 主上付きの宮仕えを時々していたので、御覧になる機会もあったが、すっかりやつれきっていた。家のありさまも,何とも言いようがなく荒れはてて、それでも、大きな邸で、木立なども気味悪いほどで、「どのように暮らしてきたのだろう」と思われる。人柄は、若々しく美しいので、お見過ごしになれない。何やかやと冗談をなさって、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 107-109 | とおっしゃるにつけても、「おっしゃるとおり、同じことなら、ずっとお側近くにお仕えさせていただけるものなら、わが身の不幸も慰みましようものを」と拝する。<BR>⏎ 「以前から特に親しい仲であったわけではないが<BR>⏎ 別れは惜しい気がするものであるよ<BR>⏎ | 99-100 | とおっしゃるにつけても、「おっしゃるとおり,同じことなら、ずっとお側近くにお仕えさせていただけるものなら、わが身の不幸も慰みましようものを」と拝する。<BR>⏎ 「以前から特に親しい仲であったわけではないが<BR> 別れは惜しい気がするものであるよ<BR>⏎ |
| cd2:1 | 112-113 | 「口から出まかせの別れを惜しむことばにかこつけて<BR>⏎ 恋しい方のいらっしゃる所にお行きになりませんか」<BR>⏎ | 103 | 「口から出まかせの別れを惜しむことばにかこつけて<BR> 恋しい方のいらっしゃる所にお行きになりませんか」<BR>⏎ |
| d1 | 115 | <P>⏎ | ||
| version14 | 116 | <A NAME="in23">[第三段 乳母、明石へ出発]</A><BR> | 105 | |
| cd2:1 | 119-120 | 「早くわたしの手元に姫君を引き取って世話をしてあげたい<BR>⏎ 天女が羽衣で岩を撫でるように幾千万年も姫の行く末を祝って」<BR>⏎ | 108 | 「早くわたしの手元に姫君を引き取って世話をしてあげたい<BR> 天女が羽衣で岩を撫でるように幾千万年も姫の行く末を祝って」<BR>⏎ |
| c2 | 122-123 | 入道、待ち迎えて、喜び恐縮申すこと、この上ない。そちらの方角を向いて拝み恐縮申し上げて、並々ならないお心づかいを思うと、ますます大事に恐れ多いまでに思う。<BR>⏎ 幼い姫君がたいそう不吉なまでに美しくいらっしゃること、またと類がない。「なるほど、恐れ多いお心から、大切にお育て申そうとお考えになっていらっしゃるのは、もっともなことであった」と拝すると、辺鄙な田舎に旅出して、夢のような気持ちがした悲しみも忘れてしまった。たいそう美しくかわいらしく思えて、お世話申し上げる。<BR>⏎ | 110-111 | 入道,待ち迎えて、喜び恐縮申すこと、この上ない。そちらの方角を向いて拝み恐縮申し上げて、並々ならないお心づかいを思うと、ますます大事に 恐れ多いまでに思う。<BR>⏎ 幼い姫君がたいそう不吉なまでに美しくいらっしゃること、またと類がない。「なるほど,恐れ多いお心から、大切にお育て申そうとお考えになっていらっしゃるのは、もっともなことであった」と拝すると、辺鄙な田舎に旅出して、夢のような気持ちがした悲しみも忘れてしまった。たいそう美しくかわいらしく思えて、お世話申し上げる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 125-126 | 「わたし一人で姫君をお世話するには行き届きませんので<BR>⏎ 大きなご加護を期待しております」<BR>⏎ | 113 | 「わたし一人で姫君をお世話するには行き届きませんので<BR> 大きなご加護を期待しております」<BR>⏎ |
| d1 | 128 | <P>⏎ | ||
| version14 | 129 | <A NAME="in24">[第四段 紫の君に姫君誕生を語る]</A><BR> | 115 | |
| c1 | 133 | 「変ですこと、いつもそのようなことを、ご注意をいただく私の心の程が、自分ながら嫌になりますわ。嫉妬することは、いつ教えていただいたのかしら」<BR>⏎ | 119 | 「変ですこと、いつもそのようなことを,ご注意をいただく私の心の程が、自分ながら嫌になりますわ。嫉妬することは、いつ教えていただいたのかしら」<BR>⏎ |
| c1 | 136 | とおっしゃって、しまいには涙ぐんでいらっしゃる。長い年月恋しくてたまらなく思っていらしたお二人の心の中や、季節折々のお手紙のやりとりなどをお思い出しなさると、「全部が、一時の慰み事であったのだわ」と、打ち消される気持ちになる。<BR>⏎ | 122 | とおっしゃって,しまいには涙ぐんでいらっしゃる。長い年月恋しくてたまらなく思っていらしたお二人の心の中や、季節折々のお手紙のやりとりなどをお思い出しなさると、「全部が、一時の慰み事であったのだわ」と,打ち消される気持ちになる。<BR>⏎ |
| c1 | 140 | などと、お話し申し上げになる。<BR>⏎ | 126 | などと,お話し申し上げになる。<BR>⏎ |
| cd5:2 | 143-147 | と、穏やかならず、次から次へと恨めしくお思いになって、「わたしは、わたし」と、背を向けて物思わしげに、<BR>⏎ 「しみじみと心の通いあった二人の仲でしたのにね」<BR>⏎ と、独り言のようにふっと嘆いて、<BR>⏎ 「愛しあっている同士が同じ方向になびいているのとは違って<BR>⏎ わたしは先に煙となって死んでしまいたい」<BR>⏎ | 129-130 | と,穏やかならず、次から次へと恨めしくお思いになって、「わたしは,わたし」と、背を向けて物思わしげに、「しみじみと心の通いあった二人の仲でしたのにね」と、独り言のようにふっと嘆いて、<BR>⏎ 「愛しあっている同士が同じ方向になびいているのとは違って<BR> わたしは先に煙となって死んでしまいたい」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 149-153 | いったい誰のために憂き世を海や山にさまよって<BR>⏎ 止まることのない涙を流して浮き沈みしてきたのでしょうか<BR>⏎ さあ、何としてでも本心をお見せ申しましょう。寿命だけは思うようにならないもののようですが。つまらないことで、恨まれまいと思うのも、ただあなた一人のためですよ」<BR>⏎ と言って、箏のお琴を引き寄せて、調子合わせに軽くお弾きになって、お勧め申し上げなさるが、あの、上手だったというのも癪なのであろうか、手もお触れにならない。とてもおっとりと美しくしなやかでいらっしゃる一方で、やはりしつこいところがあって、嫉妬なさっているのが、かえって愛らしい様子でお腹立ちになっていらっしゃるのを、おもしろく相手にしがいがある、とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 132-134 | いったい誰のために憂き世を海や山にさまよって<BR> 止まることのない涙を流して浮き沈みしてきたのでしょうか<BR>⏎ さあ,何としてでも本心をお見せ申しましょう。寿命だけは思うようにならないもののようですが。つまらないことで、恨まれまいと思うのも、ただあなた一人のためですよ」<BR>⏎ と言って,箏のお琴を引き寄せて、調子合わせに軽くお弾きになって、お勧め申し上げなさるが、あの,上手だったというのも癪なのであろうか、手もお触れにならない。とてもおっとりと美しくしなやかでいらっしゃる一方で、やはりしつこいところがあって、嫉妬なさっているのが、かえって愛らしい様子でお腹立ちになっていらっしゃるのを、おもしろく相手にしがいがある、とお思いになる。<BR>⏎ |
| version14 | 154 | <A NAME="in25">[第五段 姫君の五十日の祝]</A><BR> | 135 | |
| cd3:2 | 159-161 | 「海松は、いつも変わらない蔭にいたのでは、今日が五日の節句の⏎ 五十日の祝とどうしてお分りになりましょうか<BR>⏎ 飛んで行きたい気持ちです。やはり、このまま過していることはできないから、ご決心をなさい。いくらなんでも、心配なさることは、決してありません」<BR>⏎ | 140-141 | 「海松は、いつも変わらない蔭にいたのでは、今日が五日の節句の<BR> 五十日の祝とどうしてお分りになりましょうか<BR>⏎ 飛んで行きたい気持ちです。やはり,このまま過していることはできないから、ご決心をなさい。いくらなんでも、心配なさることは、決してありません」<BR>⏎ |
| c5 | 163-167 | 入道は、いつもの喜び泣きをしていた。このような時には、生きていた甲斐があるとべそをかくのも、無理はないと思われる。<BR>⏎ ここでも、万事至らぬところのないまで盛大に準備していたが、このお使いが来なかったら、闇夜の錦のように何の見栄えもなく終わってしまったであろう。乳母も、この女君が感心するくらい理想的な人柄なのを、よい相談相手として、憂き世の慰めにしているのであった。さして劣らない女房を、縁故を頼って迎えて付けさせているが、すっかり落ちぶれはてた宮仕え人で、出家や隠棲しようとしていた人々が残っていたというのであるが、この人は、この上なくおっとりとして気位高かった。<BR>⏎ 聞くに値する世間話などをして、大臣の君のご様子、世間から大切にされていらっしゃるご評判なども、女心にまかせて果てもなく話をするので、「なるほど、このようにお思い出してくださるよすがを残した自分も、たいそう偉いものだ」とだんだん思うようになるのであった。お手紙を一緒に見て、心の中で、<BR>⏎ 「ああ、こんなにも意外に、幸福な運命のお方もあるものだわ。不幸なのはわたしだわ」<BR>⏎ と、自然と思い続けられるが、「乳母はどうしているか」などと、やさしく案じてくださっているのも、もったいなくて、どんなに嫌なことも慰められるのであった。<BR>⏎ | 143-147 | 入道は、いつもの 喜び泣きをしていた。このような時には、生きていた甲斐があるとべそをかくのも、無理はないと思われる。<BR>⏎ ここでも、万事至らぬところのないまで盛大に準備していたが、このお使いが来なかったら、闇夜の錦のように何の見栄えもなく終わってしまったであろう。乳母も、この女君が感心するくらい理想的な人柄なのを、よい相談相手として、憂き世の慰めにしているのであった。さして劣らない女房を、縁故を頼って迎えて付けさせているが、すっかり落ちぶれはてた宮仕え人で、出家や隠棲しようとしていた人々が残っていたというのであるが、この人は,この上なくおっとりとして気位高かった。<BR>⏎ 聞くに値する世間話などをして、大臣の君のご様子、世間から大切にされていらっしゃるご評判なども、女心にまかせて果てもなく話をするので、「なるほど,このようにお思い出してくださるよすがを残した自分も、たいそう偉いものだ」とだんだん思うようになるのであった。お手紙を一緒に見て、心の中で、<BR>⏎ 「ああ,こんなにも意外に、幸福な運命のお方もあるものだわ。不幸なのはわたしだわ」<BR>⏎ と,自然と思い続けられるが、「乳母はどうしているか」などと、やさしく案じてくださっているのも、もったいなくて、どんなに嫌なことも慰められるのであった。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 169-173 | 「人数に入らないわたしのもとで育つわが子を<BR>⏎ 今日の五十日の祝いはどうしているかと尋ねてくれる人は他にいません<BR>⏎ いろいろと物思いに沈んでおります様子を、このように時たまのお慰めに掛けておりますわたしの命も心細く存じられます。仰せの通りに、安心させていただきたいものです」<BR>⏎ と、心からお頼み申し上げた。<BR>⏎ <P>⏎ | 149-151 | 「人数に入らないわたしのもとで育つわが子を<BR> 今日の五十日の祝いはどうしているかと尋ねてくれる人は他にいません<BR>⏎ いろいろと物思いに沈んでおります様子を、このように時たまのお慰めに掛けておりますわたしの命も 心細く存じられます。仰せの通りに、安心させていただきたいものです」<BR>⏎ と,心からお頼み申し上げた。<BR>⏎ |
| version14 | 174 | <A NAME="in26">[第六段 紫の君、嫉妬を覚える]</A><BR> | 152 | |
| cd4:3 | 177-180 | と、ひっそりと独り言を言って、物思いに沈んでいらっしゃるのを、<BR>⏎ 「ほんとうに、こんなにまで邪推なさるのですね。これは、ただ、これだけの愛情ですよ。土地の様子など、ふと想像する時々に、昔のことが忘れられないで漏らす独り言を、よくお聞き過しなさらないのですね」<BR>⏎ などと、お恨み申されて、上包みだけをお見せ申し上げになさる。筆跡などがとても立派で、高貴な方も引け目を感じそうなので、「これだからであろう」と、お思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 155-157 | と,ひっそりと独り言を言って、物思いに沈んでいらっしゃるのを、<BR>⏎ 「ほんとうに、こんなにまで邪推なさるのですね。これは,ただ,これだけの愛情ですよ。土地の様子など、ふと想像する時々に、昔のことが忘れられないで漏らす独り言を、よくお聞き過しなさらないのですね」<BR>⏎ などと,お恨み申されて、上包みだけをお見せ申し上げになさる。筆跡などがとても立派で、高貴な方も引け目を感じそうなので、「これだからであろう」と、お思いになる。<BR>⏎ |
| version14 | 181 | <H4>第三章 光る源氏の物語 新旧後宮女性の動向</H4> | 158 | |
| version14 | 182 | <A NAME="in31">[第一段 花散里訪問]</A><BR> | 159 | |
| c1 | 183 | このように、この方のお気持ちの御機嫌をとっていらっしゃる間に、花散里などをすっかり途絶えていらっしゃったのは、お気の毒なことである。公事も忙しく、気軽には動けないご身分であるため、ご遠慮されるのに加えても、目新しくお心を動かすことが来ない間、慎重にしていらっしゃるようである。<BR>⏎ | 160 | このように,この方のお気持ちの御機嫌をとっていらっしゃる間に、花散里などをすっかり途絶えていらっしゃったのは、お気の毒なことである。公事も忙しく、気軽には動けないご身分であるため、ご遠慮されるのに加えても、目新しくお心を動かすことが来ない間、慎重にしていらっしゃるようである。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 186-188 | 「せめて水鶏だけでも戸を叩いて知らせてくれなかったら<BR>⏎ どのようにしてこの荒れた邸に月の光を迎え入れることができたでしょうか」<BR>⏎ と、たいそうやさしく、恨み言を抑えていらっしゃるので、<BR>⏎ | 163-164 | 「せめて水鶏だけでも戸を叩いて知らせてくれなかったら<BR> どのようにしてこの荒れた邸に月の光を迎え入れることができたでしょうか」<BR>⏎ と,たいそうやさしく、恨み言を抑えていらっしゃるので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 191-192 | 「どの家の戸でも叩く水鶏の音に見境なしに戸を開けたら<BR>⏎ わたし以外の月の光が入って来たら大変だ<BR>⏎ | 167 | 「どの家の戸でも叩く水鶏の音に見境なしに戸を開けたら<BR> わたし以外の月の光が入って来たら大変だ<BR>⏎ |
| c2 | 194-195 | とは、やはり言葉の上では申し上げなさるが、浮気めいたことなど、疑いの生じるご性質ではない。長い年月、お待ち申し上げていらしたのも、まったく並み大抵の気持ちとはお思いにならなかった。「空を眺めなさるな」と、お約束申された時のことも、お話し出されて、<BR>⏎ 「どうして、またとない不幸だと、ひどく嘆き悲しんだのでしょう。辛い身の上にとっは、同じ悲しさですのに」<BR>⏎ | 169-170 | とは,やはり言葉の上では申し上げなさるが、浮気めいたことなど、疑いの生じるご性質ではない。長い年月、お待ち申し上げていらしたのも、まったく並み大抵の気持ちとはお思いにならなかった。「空を眺めなさるな」と、お約束申された時のことも、お話し出されて、<BR>⏎ 「どうして,またとない不幸だと、ひどく嘆き悲しんだのでしょう。辛い身の上にとっは、同じ悲しさですのに」<BR>⏎ |
| d1 | 197 | <P>⏎ | ||
| version14 | 198 | <A NAME="in32">[第二段 筑紫の五節と朧月夜尚侍]</A><BR> | 172 | |
| c1 | 202 | 東の院の造りようは、かえって見所が多く今風である。風流を解する受領など選んで、それぞれに分担させて急がせなさる。<BR>⏎ | 176 | 東の院の造りようは、かえって見所が多く 今風である。風流を解する受領など選んで、それぞれに分担させて急がせなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 204 | <P>⏎ | ||
| version14 | 205 | <A NAME="in33">[第三段 旧後宮の女性たちの動向]</A><BR> | 178 | |
| c1 | 206 | 院は気楽な御心境になられて、四季折々につけて、風雅な管弦の御遊など、御機嫌よろしうおいであそばす。女御、更衣、みな院の御所に伺候していらっしゃるが、東宮の御母女御だけは、特別にはなやかにおなりになることもなく、尚侍の君のご寵愛に圧倒されていらっしゃったのが、このようにうって変わって、結構なご幸福で、離れて東宮にお付き添い申し上ていらっしゃった。<BR>⏎ | 179 | 院は気楽な御心境になられて、四季折々につけて、風雅な管弦の御遊など、御機嫌よろしうおいであそばす。女御,更衣、みな院の御所に伺候していらっしゃるが、東宮の御母女御だけは、特別にはなやかにおなりになることもなく、尚侍の君のご寵愛に圧倒されていらっしゃったのが、このようにうって変わって、結構なご幸福で、離れて東宮にお付き添い申し上ていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 208 | 入道后の宮は、御位を再びお改めになるべきでもないので、太上天皇に准じて御封を賜りあそばす。院司たちが任命されて、その様子は格別立派である。御勤行、功徳のことを、毎日のお仕事になさっている。ここ数年来、世間に遠慮して参内も難しく、お会い申されないお悲しみに、胸塞がる思いでいらっしゃったが、お思いの通りに、参内退出なさるのもまことに結構なので、大后は、「嫌なものは世の移り変わりよ」とお嘆きになる。<BR>⏎ | 181 | 入道后の宮は、御位を再びお改めになるべきでもないので、太上天皇に准じて 御封を賜りあそばす。院司たちが任命されて、その様子は格別立派である。御勤行、功徳のことを、毎日のお仕事になさっている。ここ数年来、世間に遠慮して参内も難しく、お会い申されないお悲しみに,胸塞がる思いでいらっしゃったが、お思いの通りに、参内退出なさるのもまことに結構なので、大后は、「嫌なものは世の移り変わりよ」とお嘆きになる。<BR>⏎ |
| d1 | 210 | <P>⏎ | ||
| version14 | 211 | <A NAME="in34">[第四段 冷泉帝後宮の入内争い]</A><BR> | 183 | |
| c1 | 213 | 世間一般に対しては、誰に対しても結構なお心なのであるが、この宮あたりに対しては、むしろ冷淡な態度も、ままおとりになるのを、入道の宮は、困ったことで不本意なことだ、とお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 185 | 世間一般に対しては、誰に対しても結構なお心なのであるが、この宮あたりに対しては、むしろ冷淡な態度も、ままおとりになるのを、入道の宮は、困ったことで不本意なことだ,とお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 216-217 | 兵部卿宮の中の君も、そのように志して、大切にお世話なさっているとの評判は高いが、内大臣は、他より一段と勝るようにとも、お考えにはならないのであった。どうなさるおつもりであろうか。<BR>⏎ <P>⏎ | 188 | 兵部卿宮の中の君も、そのように志して,大切にお世話なさっているとの評判は高いが、内大臣は、他より一段と勝るようにとも,お考えにはならないのであった。どうなさるおつもりであろうか。<BR>⏎ |
| version14 | 218 | <H4>第四章 明石の物語 住吉浜の邂逅</H4> | 189 | |
| version14 | 219 | <A NAME="in41">[第一段 住吉詣で]</A><BR> | 190 | |
| c1 | 221 | ちょうどその折、あの明石の人は、毎年恒例にして参詣するのが、去年今年は差し障りがあって、参詣できなかった、そのお詫びも兼ねて思い立ったのであった。<BR>⏎ | 192 | ちょうどその折、あの明石の人は、毎年恒例にして参詣するのが、去年今年は差し障りがあって、参詣できなかった、そのお詫びも兼ねて 思い立ったのであった。<BR>⏎ |
| c3 | 225-227 | 「内大臣殿が、御願ほどきに参詣なさるのを、知らない人もいたのだなあ」<BR>⏎ と言って、とるにたりない身分の低い者までもが、気持ちよさそうに笑う。<BR>⏎ 「なるほど、あきれたことよ、他の月日もあろうに、かえって、このご威勢を遠くから眺めるのも、わが身の程が情なく思われる。とはいえ、お離れ申し上げられない運命ながら、このような賤しい身分の者でさえも、何の物思いもないふうで、お仕えしているのを晴れがましいことに思っているのに、どのような罪深い身で、心に掛けてお案じ申し上げていながら、これほどの評判であったご参詣のことも知らずに、出掛けて来たのだろう」<BR>⏎ | 196-198 | 「内大臣殿が,御願ほどきに参詣なさるのを、知らない人もいたのだなあ」<BR>⏎ と言って,とるにたりない身分の低い者までもが、気持ちよさそうに笑う。<BR>⏎ 「なるほど,あきれたことよ、他の月日もあろうに。かえって、このご威勢を遠くから眺めるのも、わが身の程が情なく思われる。とはいえ、お離れ申し上げられない運命ながら、このような賤しい身分の者でさえも、何の物思いもないふうで、お仕えしているのを晴れがましいことに思っているのに、どのような罪深い身で、心に掛けてお案じ申し上げていながら、これほどの評判であったご参詣のことも知らずに、出掛けて来たのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 229 | <P>⏎ | ||
| version14 | 230 | <A NAME="in42">[第二段 住吉社頭の盛儀]</A><BR> | 200 | |
| d1 | 241 | <P>⏎ | ||
| version14 | 242 | <A NAME="in43">[第三段 源氏、惟光と住吉の神徳を感ず]</A><BR> | 211 | |
| cd2:1 | 245-246 | 「住吉の松を見るにつけ感慨無量です<BR>⏎ 昔のことがを忘れられずに思われますので」<BR>⏎ | 214 | 「住吉の松を見るにつけ感慨無量です<BR> 昔のことがを忘れられずに思われますので」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 248-249 | 「あの須磨の大嵐が荒れ狂った時に<BR>⏎ 念じた住吉の神の御神徳をどうして忘られようぞ<BR>⏎ | 216 | 「あの須磨の大嵐が荒れ狂った時に<BR> 念じた住吉の神の御神徳をどうして忘られようぞ<BR>⏎ |
| d1 | 252 | <P>⏎ | ||
| version14 | 253 | <A NAME="in44">[第四段 源氏、明石の君に和歌を贈る]</A><BR> | 219 | |
| cd12:8 | 257-268 | と、無意識のうちに、ふと朗誦なさったのを、お車の近くにいる惟光、聞きつけたのであろうか、そのような御用もあろうかと、いつものように懐中に準備しておいた柄の短い筆などを、お車を止めた所で差し上げた。「よく気がつくな」と感心なさって、畳紙に、<BR>⏎ 「身を尽くして恋い慕っていた甲斐のあるここで<BR>⏎ めぐり逢えたとは、縁は深いのですね」<BR>⏎ と書いて、お与えになると、あちらの事情を知っている下人を遣わして贈るのであった。馬を多数並べて、通り過ぎて行かれるにつけても、心が乱れるばかりで、ほんの歌一首ばかりのお手紙であるが、実にしみじみともったいなく思われて、涙がこぼれた。<BR>⏎ 「とるに足らない身の上で、何もかもあきらめておりましたのに<BR>⏎ どうして身を尽くしてまでお慕い申し上げることになったのでしょう」<BR>⏎ 田蓑の島で禊を勤めるお祓いの木綿につけて差し上げる。日も暮れ方になって行く。<BR>⏎ 夕潮が満ちて来て、入江の鶴も、声惜しまず鳴く頃のしみじみとした情趣からであろうか、人の目も憚らず、お逢いしたいとまで、思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「涙に濡れる旅の衣は、昔、海浜を流浪した時と同じようだ<BR>⏎ 田蓑の島という名の蓑の名には身は隠れないので」<BR>⏎ 道すがら、結構な遊覧や奏楽をして大騷ぎなさるが、お心にはなおも掛かって思いをお馳せになる。遊女連中が集まって参っているが、上達部と申し上げても、若々しく風流好みの方は、皆、目を留めていらっしゃるようである。けれども、「さあ、風流なことも、ものの情趣も、相手の人柄によるものだろう。普通の恋愛でさえ、少し浮ついたものは、心を留める点もないものだから」とお思いになると、自分の心の赴くままに、嬌態を演じあっているのも、嫌に思われるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 223-230 | と,無意識のうちに、ふと朗誦なさったのを、お車の近くにいる惟光、聞きつけたのであろうか、そのような御用もあろうかと、いつものように懐中に準備しておいた柄の短い筆などを、お車を止めた所で差し上げた。「よく気がつくな」と感心なさって、畳紙に、<BR>⏎ 「身を尽くして恋い慕っていた甲斐のあるここで<BR> めぐり逢えたとは、縁は深いのですね」<BR>⏎ と書いて,お与えになると、あちらの事情を知っている下人を遣わして贈るのであった。馬を多数並べて、通り過ぎて行かれるにつけても、心が乱れるばかりで、ほんの歌一首ばかりのお手紙であるが、実にしみじみともったいなく思われて、涙がこぼれた。<BR>⏎ 「とるに足らない身の上で、何もかもあきらめておりましたのに<BR> どうして身を尽くしてまでお慕い申し上げることになったのでしょう」<BR>⏎ 田蓑の島で禊を勤める お祓いの木綿につけて差し上げる。日も暮れ方になって行く。<BR>⏎ 夕潮が満ちて来て、入江の鶴も,声惜しまず鳴く頃のしみじみとした情趣からであろうか、人の目も憚らず、お逢いしたいとまで,思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「涙に濡れる旅の衣は、昔,海浜を流浪した時と同じようだ<BR> 田蓑の島という名の蓑の名には身は隠れないので」<BR>⏎ 道すがら、結構な遊覧や奏楽をして大騷ぎなさるが、お心にはなおも掛かって思いをお馳せになる。遊女連中が集まって参っているが、上達部と申し上げても、若々しく風流好みの方は、皆,目を留めていらっしゃるようである。けれども、「さあ,風流なことも、ものの情趣も、相手の人柄によるものだろう。普通の恋愛でさえ、少し浮ついたものは、心を留める点もないものだから」とお思いになると、自分の心の赴くままに、嬌態を演じあっているのも,嫌に思われるのであった。<BR>⏎ |
| version14 | 269 | <A NAME="in45">[第五段 明石の君、翌日住吉に詣でる]</A><BR> | 231 | |
| c1 | 270 | あの人は、通り過ぎるのをお待ち申して、次の日が日柄も悪くはなかったので、幣帛を奉る。身分相応の願ほどきなど、ともかくも済ませたのであった。また一方、かえって物思いが加わって、朝に晩に、取るに足らない身の上を嘆いている。<BR>⏎ | 232 | あの人は、通り過ぎるのをお待ち申して、次の日が日柄も悪くはなかったので、幣帛を奉る。身分相応の願ほどきなど、ともかくも済ませたのであった。また一方,かえって物思いが加わって、朝に晩に、取るに足らない身の上を嘆いている。<BR>⏎ |
| c1 | 272 | 「とても頼りがいありそうに、一人前に扱ってくださるようだけれども、どうかしら、また、故郷を出て、どっちつかずの心細い思いをするのではないかしら」<BR>⏎ | 234 | 「とても頼りがいありそうに、一人前に扱ってくださるようだけれども、どうかしら,また,故郷を出て、どっちつかずの心細い思いをするのではないかしら」<BR>⏎ |
| d1 | 275 | <P>⏎ | ||
| version14 | 276 | <H4>第五章 光る源氏の物語 冷泉帝後宮の入内争い</H4> | 237 | |
| version14 | 277 | <A NAME="in51">[第一段 斎宮と母御息所上京]</A><BR> | 238 | |
| c1 | 278 | そう言えば、あの斎宮もお代わりになったので、御息所も上京なさって後、昔と変わりなく何くれとなくお見舞い申し上げなさることは、世にまたとないほど、お心を尽くしてなさるが、「昔でさえ冷淡であったお気持ちを、なまじ会うことによって、かえって、昔ながらのつらい思いをすることはするまい」と、きっぱりと思い絶っていらしたので、お出向きになることはない。<BR>⏎ | 239 | そう言えば、あの斎宮もお代わりになったので、御息所も上京なさって後、昔と変わりなく何くれとなくお見舞い申し上げなさることは、世にまたとないほど、お心を尽くしてなさるが、「昔でさえ冷淡であったお気持ちを、なまじ会うことによって,かえって,昔ながらのつらい思いをすることはするまい」と、きっぱりと思い絶っていらしたので、お出向きになることはない。<BR>⏎ |
| c2 | 281-282 | 昔どおり、あの六条の旧邸をたいそうよく修理なさったので、優雅にお住まいになっているのであった。風雅でいらっしゃること、変わらないままで、優れた女房などが多く、風流な人々の集まる所で、何となく寂しいようであるが、気晴らしをなさってお暮らしになっているうちに、急に重くお患いになられて、たいそう心細い気持ちにおなりになったので、仏道を忌む所辺りに何年も過ごしていたことも、ひどく気になさって、尼におなりになった。<BR>⏎ 内大臣、お聞きになって、色恋といった仲ではないが、やはり風雅に関することでのお話相手になるお方とお思い申し上げていたのを、このようにご決意なさったのが残念に思われなさって、驚いたままお出向きになった。いつ尽きるともないしみじみとしたお見舞いの言葉を申し上げになる。⏎ | 242-243 | 昔どおり,あの六条の旧邸をたいそうよく修理なさったので、優雅にお住まいになっているのであった。風雅でいらっしゃること、変わらないままで、優れた女房などが多く、風流な人々の集まる所で、何となく寂しいようであるが、気晴らしをなさってお暮らしになっているうちに、急に重くお患いになられて、たいそう心細い気持ちにおなりになったので、仏道を忌む所辺りに何年も過ごしていたことも、ひどく気になさって、尼におなりになった。<BR>⏎ 内大臣、お聞きになって、色恋といった仲ではないが、やはり風雅に関することでのお話相手になるお方と お思い申し上げていたのを、このようにご決意なさったのが残念に思われなさって、驚いたままお出向きになった。いつ尽きるともないしみじみとしたお見舞いの言葉を申し上げになる。⏎ |
| d1 | 284 | <P>⏎ | ||
| version14 | 285 | <A NAME="in52">[第二段 御息所、斎宮を源氏に託す]</A><BR> | 245 | |
| c3 | 287-289 | 「心細い状況で先立たれなさるのを、きっと、何かにつけて面倒を見て上げてくださいまし。また他に後見を頼む人もなく、この上もなくお気の毒な身の上でございまして。何の力もないながらも、もうしばらく平穏に生き長らえていられるうちは、あれやこれや物の分別がおつきになるまでは、お世話申そうと存じておりましたが」<BR>⏎ と言って、息も絶え絶えにお泣きになる。<BR>⏎ 「このようなお言葉がなくてでさえも、放ってお置き申すことはあるはずもないのに、ましてや、気のつく限りは、どのようなことでもご後見申そうと存じております。けっして、ご心配申されることはありません」<BR>⏎ | 247-249 | 「心細い状況で先立たれなさるのを、きっと,何かにつけて面倒を見て上げてくださいまし。また他に後見を頼む人もなく、この上もなくお気の毒な身の上でございまして。何の力もないながらも、もうしばらく平穏に生き長らえていられるうちは、あれやこれや物の分別がおつきになるまでは、お世話申そうと存じておりましたが」<BR>⏎ と言って,息も絶え絶えにお泣きになる。<BR>⏎ 「このようなお言葉がなくてでさえも、放ってお置き申すことはあるはずもないのに、ましてや,気のつく限りは、どのようなことでもご後見申そうと存じております。けっして、ご心配申されることはありません」<BR>⏎ |
| c1 | 291 | 「とても難しいこと。本当に信頼できる父親などで、後を任せられる人がいてさえ、女親に先立たれた娘は、実にかわいそうなもののようでございます。ましてや、ご寵愛の人のようになるにつけても、つまらない嫉妬心が起こり、他の女の人からも憎まれたりなさいましょう。嫌な気のまわしようですが、けっして、そのような色めいたことはお考えくださいますな。悲しいわが身を引き比べてみましても、女というものは、思いも寄らないことで気苦労をするものでございましたので、何とかしてそのようなこととは関係なく、後見していただきたく存じます」<BR>⏎ | 251 | 「とても難しいこと。本当に信頼できる父親などで、後を任せられる人がいてさえ、女親に先立たれた娘は、実にかわいそうなもののようでございます。ましてや,ご寵愛の人のようになるにつけても、つまらない嫉妬心が起こり、他の女の人からも憎まれたりなさいましょう。嫌な気のまわしようですが、けっして,そのような色めいたことはお考えくださいますな。悲しいわが身を引き比べてみましても、女というものは、思いも寄らないことで気苦労をするものでございましたので、何とかしてそのようなこととは関係なく、後見していただきたく存じます」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 293-296 | 「ここ数年来、何事も思慮深くなっておりますものを、昔の好色心が今に残っているようにおっしゃいますのは、不本意なことです。いずれ、そのうちに」<BR>⏎ と言って、外は暗くなり、内側は大殿油がかすかに物越しに透けて見えるので、「もしや」とお思いになって、そっと御几帳の隙間から御覧になると、頼りなさそうな燈火に、お髪がたいそう美しそうにくっきりと尼削ぎにして、寄り伏していらっしゃる、絵に描いたような様に見えて、ひどく胸を打つ。東面に添い伏していらっしゃるのが斎宮なのであろう。御几帳が無造作に押しやられている隙間から、お目を凝らして見通して御覧になると、頬杖をついてたいそう悲しくお思いの様子である。わずかしか見えないが、とても器量がよさそうに見える。<BR>⏎ お髪の掛ったところ、頭の恰好、感じ、上品で気高い感じがする一方で、小柄で愛嬌がおありになる感じが、はっきりお見えになるので、心惹かれ好奇心がわいてくるが、「あれほどおっしゃっているのだから」と、お思い直しなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 253-255 | 「ここ数年来、何事も思慮深くなっておりますものを、昔の好色心が今に残っているようにおっしゃいますのは,不本意なことです。いずれ,そのうちに」<BR>⏎ と言って,外は暗くなり、内側は大殿油がかすかに物越しに透けて見えるので、「もしや」とお思いになって、そっと御几帳の隙間から御覧になると、頼りなさそうな燈火に、お髪がたいそう美しそうにくっきりと尼削ぎにして、寄り伏していらっしゃる、絵に描いたような様に見えて、ひどく胸を打つ。東面に添い伏していらっしゃるのが斎宮なのであろう。御几帳が無造作に押しやられている隙間から、お目を凝らして見通して御覧になると、頬杖をついて たいそう悲しくお思いの様子である。わずかしか見えないが、とても器量がよさそうに見える。<BR>⏎ お髪の掛ったところ、頭の恰好,感じ、上品で気高い感じがする一方で、小柄で愛嬌がおありになる感じが、はっきりお見えになるので、心惹かれ好奇心がわいてくるが、「あれほどおっしゃっているのだから」と、お思い直しなさる。<BR>⏎ |
| c5 | 298-302 | とおっしゃって、女房に臥せさせられなさる。<BR>⏎ 「お側近くに伺った甲斐があって、いくらか具合がよくなられたのなら、嬉しく存じられるのですが、おいたわしいことです。いかがなお具合ですか」<BR>⏎ と言って、お覗きになる様子なので、<BR>⏎ 「たいそうひどい格好でございますよ。病状が本当にこれが最期と思われる時に、ちょうどお越しくださいましたのは、まことに深いご宿縁であると思われます。気にかかっていたことを、少しでもお話申し上げましたので、死んだとしても、頼もしく思われます」<BR>⏎ と、お申し上げになる。<BR>⏎ | 257-261 | とおっしゃって,女房に臥せさせられなさる。<BR>⏎ 「お側近くに伺った甲斐があって、いくらか具合がよくなられたのなら,嬉しく存じられるのですが、おいたわしいことです。いかがなお具合ですか」<BR>⏎ と言って,お覗きになる様子なので、<BR>⏎ 「たいそうひどい格好でございますよ。病状が本当にこれが最期と思われる時に,ちょうどお越しくださいましたのは、まことに深いご宿縁であると思われます。気にかかっていたことを、少しでもお話申し上げましたので、死んだとしても、頼もしく思われます」<BR>⏎ と,お申し上げになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 304-305 | などと申し上げて、お帰りになった。お見舞い、以前よりもっとねんごろに頻繁にお訪ねになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 263 | などと申し上げて、お帰りになった。お見舞い、以前よりもっとねんごろに 頻繁にお訪ねになる。<BR>⏎ |
| version14 | 306 | <A NAME="in53">[第三段 六条御息所、死去]</A><BR> | 264 | |
| c1 | 307 | 七、八日あって、お亡くなりになったのであった。あっけなくお思いなさるにつけて、人の寿命もまことはかなくて、何となく心細くお思いになって、内裏へも参内なさらず、あれこれと御葬送のことなどをお指図なさる。他に頼りになる人が格別いらっしゃらないのであった。かつての斎宮の宮司など、前々から出入りしていた者が、なんとか諸事を取り仕切ったのであった。<BR>⏎ | 265 | 七,八日あって,お亡くなりになったのであった。あっけなくお思いなさるにつけて、人の寿命もまことはかなくて、何となく心細くお思いになって、内裏へも参内なさらず、あれこれと御葬送のことなどをお指図なさる。他に頼りになる人が格別いらっしゃらないのであった。かつての斎宮の宮司など、前々から出入りしていた者が、なんとか諸事を取り仕切ったのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 310 | と、女別当を介して、お伝え申された。<BR>⏎ | 268 | と,女別当を介して、お伝え申された。<BR>⏎ |
| c1 | 314 | 雪、霙、降り乱れる日、「どんなに、宮邸の様子は、心細く物思いに沈んでいられるだろうか」とご想像なさって、お使いを差し向けなさった。<BR>⏎ | 272 | 雪、霙、降り乱れる日、「どんなに,宮邸の様子は、心細く物思いに沈んでいられるだろうか」とご想像なさって、お使いを差し向けなさった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 316-317 | 雪や霙がしきりに降り乱れている中空を、亡き母宮の御霊が<BR>⏎ まだ家の上を離れずに天翔けっていらっしゃるのだろうと悲しく思われます」<BR>⏎ | 274 | 雪や霙がしきりに降り乱れている中空を、亡き母宮の御霊が<BR> まだ家の上を離れずに天翔けっていらっしゃるのだろうと悲しく思われます」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 321-323 | と、お責め申し上げるので、鈍色の紙で、たいそう香をたきしめた優美な紙に、墨つきの濃淡を美しく交えて、<BR>⏎ 「消えそうになく生きていますのが悲しく思われます<BR>⏎ 毎日涙に暮れてわが身がわが身とも思われません世の中に」<BR>⏎ | 278-279 | と,お責め申し上げるので、鈍色の紙で、たいそう香をたきしめた優美な紙に、墨つきの濃淡を美しく交えて、<BR>⏎ 「消えそうになく生きていますのが悲しく思われます<BR> 毎日涙に暮れてわが身がわが身とも思われません世の中に」<BR>⏎ |
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| version14 | 326 | <A NAME="in54">[第四段 斎宮を養女とし、入内を計画]</A><BR> | 281 | |
| c1 | 327 | 下向なさった時から、ただならずお思いであったが、「今はいつでも心に掛けて、どのようにも言い寄ることができるのだ」とお思いになる一方では、いつものように思い返して、<BR>⏎ | 282 | 下向なさった時から、ただならずお思いであったが、「今はいつでも心に掛けて、どのようにも言い寄ることができるのだ」とお思いになる一方では、いつものように 思い返して、<BR>⏎ |
| c1 | 332 | 「女別当、内侍などという女房たち、ある者は、同じ御血縁の王孫などで、教養のある人々が多くいるのであろう。この、ひそかに思っている後宮生活をおさせ申すにしても、けっして他の妃たちに劣るようなことはなさそうだ。何とかはっきりと、ご器量を見たいものだ」<BR>⏎ | 287 | 「女別当,内侍などという女房たち、ある者は,同じ御血縁の王孫などで、教養のある人々が多くいるのであろう。この,ひそかに思っている後宮生活をおさせ申すにしても、けっして他の妃たちに劣るようなことはなさそうだ。何とかはっきりと、ご器量を見たいものだ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 334-335 | ご自分でもお気持ちが揺れ動いていたので、こう考えているということも、他人にはお漏らしにならない。ご法事の事なども、格別にねんごろにおさせになるので、ありがたいご厚志を、宮家の人々も皆喜んでいた。<BR>⏎ <P>⏎ | 289 | ご自分でもお気持ちが揺れ動いていたので、こう考えているということも、他人にはお漏らしにならない。ご法事の事なども,格別にねんごろにおさせになるので、ありがたいご厚志を、宮家の人々も皆喜んでいた。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 338-340 | 「御乳母たちでさえ、自分勝手なことをしでかしてはならないぞ」<BR>⏎ などと、親ぶって申していらっしゃったので、「とても立派で気の引けるご様子なので、不始末なことをお耳に入れまい」と言ったり思ったりしあって、ちょっとした色めいた事も、まったくない。<BR>⏎ <P>⏎ | 292-293 | 「御乳母たちでさえ、自分勝手なことを しでかしてはならないぞ」<BR>⏎ などと,親ぶって申していらっしゃったので、「とても立派で気の引けるご様子なので、不始末なことをお耳に入れまい」と言ったり思ったりしあって、ちょっとした色めいた事も、まったくない。<BR>⏎ |
| version14 | 341 | <A NAME="in55">[第五段 朱雀院と源氏の斎宮をめぐる確執]</A><BR> | 294 | |
| c3 | 344-346 | と、御息所にも申し上げあそばした。けれども、「高貴な方々が伺候していらっしゃるので、大勢のお世話役がいなくては」とご躊躇なさり、「院の上は、とても御病気がちでいらっしゃるのも心配で、その上物思いの種が加わるだろうか」と、ご遠慮申してこられたのに、今となっては、まして誰が後見を申そう、と女房たちは諦めていたが、懇切に院におかれては仰せになるのであった。<BR>⏎ 内大臣は、お聞きになって、「院からご所望があるのを、背いて、横取りなさるのも恐れ多いこと」とお思いになるが、宮のご様子がとてもかわいらしいので、手放すのもまた残念な気がして、入道の宮にご相談申し上げになるのであった。<BR>⏎ 「これこれのことで、思案いたしておりますが、母御息所は、とても重々しく思慮深い方でおりましたが、つまらない浮気心から、とんでもない浮き名までも流して、嫌な者と思われたままになってしまいましたが、本当にお気の毒に存じられてなりません。この世では、その恨みが晴れずに終わってしまったが、ご臨終となった際に、この斎宮のご将来を、ご遺言されましたので、信頼できる者とかねてお思いになって、心中の思いをすっかり残さず頼もうと、恨みは恨みとしても、やはりお考えになっていてくださったのだと存じますにつけても、たまらない気がして。直接関わりあいのない事柄でさえも、気の毒なことは見過ごしがたい性分でございますので、何とかして、亡くなった後からでも、生前のお恨みが晴れるほどに、と存じておりますが、主上におかせられましても、あのように大きうおなりあそばしていますが、まだご幼年でおいであそばしますから、少し物事の分別のある方がお側におられてもよいのではないかと存じましたが、ご判断に」<BR>⏎ | 297-299 | と,御息所にも申し上げあそばした。けれども,「高貴な方々が伺候していらっしゃるので、大勢のお世話役がいなくては」とご躊躇なさり、「院の上は、とても御病気がちでいらっしゃるのも心配で、その上物思いの種が加わるだろうか」と、ご遠慮申してこられたのに、今となっては、まして誰が後見を申そう、と女房たちは諦めていたが、懇切に院におかれては仰せになるのであった。<BR>⏎ 内大臣は、お聞きになって、「院からご所望があるのを、背いて、横取りなさるのも 恐れ多いこと」とお思いになるが、宮のご様子がとてもかわいらしいので、手放すのもまた残念な気がして、入道の宮にご相談申し上げになるのであった。<BR>⏎ 「これこれのことで、思案いたしておりますが、母御息所は、とても重々しく思慮深い方でおりましたが、つまらない浮気心から、とんでもない浮き名までも流して、嫌な者と思われたままになってしまいましたが、本当にお気の毒に存じられてなりません。この世では、その恨みが晴れずに終わってしまったが、ご臨終となった際に、この斎宮のご将来を、ご遺言されましたので、信頼できる者とかねてお思いになって、心中の思いをすっかり残さず頼もうと、恨みは恨みとしても、やはりお考えになっていてくださったのだと存じますにつけても、たまらない気がして。直接関わりあいのない事柄でさえも、気の毒なことは見過ごしがたい性分でございますので、何とかして,亡くなった後からでも、生前のお恨みが晴れるほどに、と存じておりますが、主上におかせられましても、あのように大きうおなりあそばしていますが、まだご幼年でおいであそばしますから、少し物事の分別のある方がお側におられてもよいのではないかと存じましたが、ご判断に」<BR>⏎ |
| c3 | 348-350 | 「とてもよくお考えくださいました。院におかせられても、お思いあそばしますことは、なるほどもったいなくお気の毒なことですが、あのご遺言にかこつけて、知らないふりをしてご入内申し上げなさい。今では、そのようことは、特別にお思いではなく、御勤行がちになられていますので、このように申し上げなさっても、さほど深くお咎めになることはありますまいと存じます」<BR>⏎ 「それでは、ご意向があって、一人前に扱っていただけるならば、促す程度のことを、口添えをすることに致しましょう。あれこれと、十分に遺漏なく配慮尽くし、これほどまで深く考えておりますことを、そっくりそのままお話しましたが、世間の人々はどのように取り沙汰するだろうかと、心配でございます」<BR>⏎ などと申し上げなさって、後には、「仰せのとおり、知らなかったようにして、ここにお迎えしてしまおう」とお考えになる。<BR>⏎ | 301-303 | 「とてもよくお考えくださいました. 院におかせられても、お思いあそばしますことは、なるほどもったいなく お気の毒なことですが、あのご遺言にかこつけて、知らないふりをしてご入内申し上げなさい。今では、そのようことは、特別にお思いではなく、御勤行がちになられていますので、このように申し上げなさっても、さほど深くお咎めになることはありますまいと存じます」<BR>⏎ 「それでは,ご意向があって、一人前に扱っていただけるならば、促す程度のことを、口添えをすることに致しましょう。あれこれと、十分に遺漏なく配慮尽くし、これほどまで深く考えておりますことを、そっくりそのままお話しましたが、世間の人々はどのように取り沙汰するだろうかと、心配でございます」<BR>⏎ などと申し上げなさって、後には、「仰せのとおり,知らなかったようにして、ここにお迎えしてしまおう」とお考えになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 353-354 | と、お話し申し上げなさると、嬉しいこととお思いになって、ご移転のご準備をなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 306 | と,お話し申し上げなさると、嬉しいこととお思いになって、ご移転のご準備をなさる。<BR>⏎ |
| version14 | 355 | <A NAME="in56">[第六段 冷泉帝後宮の入内争い]</A><BR> | 307 | |
| d2 | 360-361 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 368 | ⏎ | ||
| i0 | 322 | |||
| diff | src/original/version15.html | src/modified/version15.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version15 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-4)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 27 | <LI>法華御八講---<A HREF="#in22">冬になってゆくにつれて、ますます、すがりつくべきてだてもなく</A>⏎ | 24 | <LI>法華御八講---<A HREF="#in22">冬になってゆくにつれて、ますます,すがりつくべきてだてもなく</A>⏎ |
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| version15 | 46 | <H4>第一章 末摘花の物語 光る源氏の須磨明石離京時代</H4> | 42 | |
| version15 | 47 | <A NAME="in11">[第一段 末摘花の孤独]</A><BR> | 43 | |
| c2 | 48-49 | 須磨の浦で涙に暮れながら過ごしていらっしゃったころ、都でも、あれこれとお嘆きになっていらっしゃる方々が多かったが、そうはいっても、ご自身の生活のよりどころのある方は、ただお一方をお慕いする思いだけは辛そうであったが、二条の上なども、平穏なお暮らしで、旅のお暮らしをご心配申し、お手紙をやりとりなさっては、位をお退きになってからの仮りのご装束をも、この世の辛い生活をも、季節ごとにご調進申し上げなさることによって、心を慰めなさったであろうが、かえって、その妻妾の一人として世の人にも認められず、ご離京なさった時のご様子にも、他人事のように聞いて思いやった人々で、内心をお痛めになった人も多かった。<BR>⏎ 常陸宮の姫君は、父の親王がお亡くなりになってから、他には誰もお世話する人もないお身の上で、ひどく心細い有様であったが、思いがけないお通いが始まって、お気をつけてくださることは絶えなかっが、大変なご威勢には、大したこともない、お情け程度とお思いであったが、それを待ち受けていらっしゃる貧しい生活には、大空の星の光を盥の水に映したような気持ちがして、お過ごしになっていたところ、あのような世の中の騒動が起こって、おしなべて世の中が嫌なことに思い悩まれた折に、格別に深い関係でない方への愛情は、何となく忘れたようになって、遠く旅立ちなさった後は、わざわざお訪ね申し上げることもおできになれない。かつてのご庇護のお蔭で、しばらくの間は、泣きながらもお過ごしになっていらっしゃったが、歳月が過ぎるにしたがって、実にお寂しいご様子である。<BR>⏎ | 44-45 | 須磨の浦で涙に暮れながら過ごしていらっしゃったころ、都でも、あれこれとお嘆きになっていらっしゃる方々が多かったが、そうはいっても,ご自身の生活のよりどころのある方は、ただお一方をお慕いする思いだけは辛そうであったが、二条の上なども、平穏なお暮らしで、旅のお暮らしをご心配申し、お手紙をやりとりなさっては、位をお退きになってからの仮りのご装束をも、この世の辛い生活をも、季節ごとにご調進申し上げなさることによって、心を慰めなさったであろうが、かえって、その妻妾の一人として世の人にも認められず、ご離京なさった時のご様子にも、他人事のように聞いて思いやった人々で、内心をお痛めになった人も多かった。<BR>⏎ 常陸宮の姫君は、父の親王がお亡くなりになってから、他には誰もお世話する人もないお身の上で、ひどく心細い有様であったが、思いがけないお通いが始まって、お気をつけてくださることは絶えなかっが、大変なご威勢には、大したこともない、お情け程度とお思いであったが、それを待ち受けていらっしゃる貧しい生活には、大空の星の光を盥の水に映したような気持ちがして,お過ごしになっていたところ、あのような世の中の騒動が起こって、おしなべて世の中が嫌なことに思い悩まれた折に、格別に深い関係でない方への愛情は,何となく忘れたようになって、遠く旅立ちなさった後は、わざわざお訪ね申し上げることもおできになれない。かつてのご庇護のお蔭で、しばらくの間は、泣きながらもお過ごしになっていらっしゃったが、歳月が過ぎるにしたがって、実にお寂しいご様子である。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 51-53 | 「いやはや、まったく情けないご運であった。思いがけない神仏がご出現なさったようであったお心寄せを受けて、このような頼りになることも出ていらっしゃるのだと、ありがたく拝見しておりましたが、世間一般のこととはいいながらも、また他には誰をも頼りにできないお身の上は、悲しいことです」<BR>⏎ と、ぶつぶつ言って嘆く。あのような生活に馴れていた昔の長い年月は、何とも言いようもない寂しさに目なれてお過ごしになっていたが、なまじっか少し世間並みの生活になった年月を送ったばかりに、かえってとても堪え難く嘆くのであろう。少しでも、女房としてふさわしい者たちは、自然と参集して来たが、みな次々と後を追って離散して行ってしまった。女房たちの中には亡くなった者もいて、月日の過ぎるにしたがって、上下の女房の数が少なくなって行く。<BR>⏎ <P>⏎ | 47-48 | 「いやはや,まったく情けないご運であった。思いがけない神仏がご出現なさったようであったお心寄せを受けて、このような頼りになることも出ていらっしゃるのだと、ありがたく拝見しておりましたが、世間一般のこととはいいながらも、また他には誰をも頼りにできないお身の上は、悲しいことです」<BR>⏎ と,ぶつぶつ言って嘆く。あのような生活に馴れていた昔の長い年月は、何とも言いようもない寂しさに目なれてお過ごしになっていたが、なまじっか少し世間並みの生活になった年月を送ったばかりに、かえってとても堪え難く嘆くのであろう。少しでも、女房としてふさわしい者たちは、自然と参集して来たが、みな次々と後を追って離散して行ってしまった。女房たちの中には亡くなった者もいて、月日の過ぎるにしたがって、上下の女房の数が少なくなって行く。<BR>⏎ |
| version15 | 54 | <A NAME="in12">[第二段 常陸宮邸の窮乏]</A><BR> | 49 | |
| c2 | 55-56 | もともと荒れていた宮の邸の中、ますます狐の棲みかとなって、気味悪く、人気のない木立に、梟の声を毎日耳にして、人気のあるによって、そのような物どもも阻まれて姿を隠していたが、木霊などの怪異の物どもが、我がもの顔になって、だんだんと姿を現し、何ともやりきれないことばかりが数知らず増えて行くので、たまたま残っていてお仕えしている女房は、<BR>⏎ 「やはり、まこと困ったことです。最近の受領どもで、風流な家造りを好む者が、この宮の木立に心をかけて、お手放しにならないかと、伝を求めて、ご意向を伺わせていますが、そのようにあそばして、とてもこう、恐ろしくないお住まいに、ご転居をお考えになってください。今も残って仕えている者も、とても我慢できません」<BR>⏎ | 50-51 | もともと荒れていた宮の邸の中、ますます狐の棲みかとなって、気味悪く、人気のない木立に、梟の声を毎日耳にして、人気のあるによって、そのような物どもも阻まれて姿を隠していたが、木霊などの 怪異の物どもが、我がもの顔になって、だんだんと姿を現し、何ともやりきれないことばかりが数知らず増えて行くので、たまたま残っていてお仕えしている女房は、<BR>⏎ 「やはり,まこと困ったことです。最近の受領どもで、風流な家造りを好む者が、この宮の木立に心をかけて、お手放しにならないかと、伝を求めて、ご意向を伺わせていますが、そのようにあそばして、とてもこう、恐ろしくないお住まいに、ご転居をお考えになってください。今も残って仕えている者も、とても我慢できません」<BR>⏎ |
| c2 | 58-59 | 「まあ、とんでもありません。世間の外聞もあります。生きているうちに、そのようなお形見を何もかも無くしてしまうなんて、どうしてできましょう。このように恐ろしそうにすっかり荒れてしまったが、親の面影がとどまっている心地がする懐かしい住まいだと思うから、慰められるのです」<BR>⏎ と、泣く泣くおっしゃって、お考えにも入れない。<BR>⏎ | 53-54 | 「まあ,とんでもありません。世間の外聞もあります。生きているうちに、そのようなお形見を何もかも無くしてしまうなんて、どうしてできましょう。このように恐ろしそうにすっかり荒れてしまったが、親の面影がとどまっている心地がする懐かしい住まいだと思うから、慰められるのです」<BR>⏎ と,泣く泣くおっしゃって、お考えにも入れない。<BR>⏎ |
| c1 | 62 | と思って、目立たぬように取り計らって、眼前の今日明日の生活の不自由を繕う時もあるのを、きつくお叱りになって、<BR>⏎ | 57 | と思って,目立たぬように取り計らって、眼前の今日明日の生活の不自由を繕う時もあるのを、きつくお叱りになって、<BR>⏎ |
| d1 | 65 | <P>⏎ | ||
| version15 | 66 | <A NAME="in13">[第三段 常陸宮邸の荒廃]</A><BR> | 60 | |
| c1 | 67 | ちょっとした用件でも、お訪ね申す人はないお身の上である。ただ、ご兄弟の禅師の君だけが、たまに京にお出になる時には、お立ち寄りになるが、その方も、世にもまれな古風な方で、同じ法師という中でも、処世の道を知らない、この世離れした僧でいらっしゃって、生い茂った草、蓬をさえ、かき払うものともお考えつきにならない。<BR>⏎ | 61 | ちょっとした用件でも、お訪ね申す人はないお身の上である。ただ,ご兄弟の禅師の君だけが、たまに京にお出になる時には、お立ち寄りになるが、その方も,世にもまれな古風な方で、同じ法師という中でも、処世の道を知らない、この世離れした僧でいらっしゃって、生い茂った草、蓬をさえ、かき払うものともお考えつきにならない。<BR>⏎ |
| d1 | 71 | <P>⏎ | ||
| version15 | 72 | <A NAME="in14">[第四段 末摘花の気紛らし]</A><BR> | 65 | |
| d1 | 75 | <P>⏎ | ||
| version15 | 76 | <A NAME="in15">[第五段 乳母子の侍従と叔母]</A><BR> | 68 | |
| c1 | 80 | などと、こ憎らしい言葉を言って聞かせては、時々手紙を差し上げた。<BR>⏎ | 72 | などと,こ憎らしい言葉を言って聞かせては、時々手紙を差し上げた。<BR>⏎ |
| c1 | 82 | 「わたしがこのように落ちぶれたさまを、軽蔑されていたのだから、何とかして、このような宮家の衰退した折に、この姫君を、自分の娘たちの召し使いにしたいものだ。考え方の古風なところがあるが、それはいかにも安心できる世話役といえよう」と思って、<BR>⏎ | 74 | 「わたしがこのように落ちぶれたさまを、軽蔑されていたのだから、何とかして,このような宮家の衰退した折に、この姫君を、自分の娘たちの召し使いにしたいものだ。考え方の古風なところがあるが、それはいかにも安心できる世話役といえよう」と思って、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 87-90 | などと、言葉巧みに言うが、まったくご承知なさらないので、<BR>⏎ 「まあ、憎らしい。ご大層なこと。自分一人お高くとまっていても、あのような薮原に過ごしていらっしゃる人を、大将殿も、大事にお思い申し上げないでしょう」<BR>⏎ などと、恨んだり呪ったりしているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 79-81 | などと,言葉巧みに言うが、まったくご承知なさらないので、<BR>⏎ 「まあ,憎らしい。ご大層なこと。自分一人お高くとまっていても、あのような薮原に過ごしていらっしゃる人を、大将殿も、大事にお思い申し上げないでしょう」<BR>⏎ などと,恨んだり呪ったりしているのであった。<BR>⏎ |
| version15 | 91 | <H4>第二章 末摘花の物語 光る源氏帰京後</H4> | 82 | |
| version15 | 92 | <A NAME="in21">[第一段 顧みられない末摘花]</A><BR> | 83 | |
| c2 | 93-94 | そうこうしているうちに、はたして天下に赦免されなさって、都にお帰りになるというので、世の中の慶事として大騷ぎする。自分も何とか、人より先に、深い誠意をご理解いただこうとばかりに、競い合っている男、女につけても、身分の貴い人も賤しい人も、人の心の動きを御覧になるにつけ、しみじみと考えさせられること、さまざまである。このように、あわただしいうちに、まったくお思い出しになる様子もなく月日が過ぎた。<BR>⏎ 「今はもうお終いだ。長い年月、ご不運な生活を、悲しくお気の毒なことと思いながらも、万物の蘇る春にめぐりあっていただきたいと願っていたが、とるにたらない下賤な者までが喜んでいるという、ご昇進などするのを、他人事として聞かねばならないのだった。悲しかった時の嘆かしさは、ただ自分ひとりのために起こったのだと思ったが、嘆いても甲斐のない仲だわ」とがっかりして、辛く悲しいので、人知れず声を立ててお泣きになるばかりである。<BR>⏎ | 84-85 | そうこうしているうちに、はたして天下に赦免されなさって、都にお帰りになるというので、世の中の慶事として大騷ぎする。自分も何とか、人より先に、深い誠意をご理解いただこうとばかりに、競い合っている男、女につけても、身分の貴い人も賤しい人も、人の心の動きを御覧になるにつけ、しみじみと考えさせられること、さまざまである。このように,あわただしいうちに、まったくお思い出しになる様子もなく月日が過ぎた。<BR>⏎ 「今はもうお終いだ。長い年月、ご不運な生活を、悲しくお気の毒なことと思いながらも、万物の蘇る春にめぐりあっていただきたいと願っていたが、とるにたらない下賤な者までが喜んでいるという、ご昇進などするのを、他人事として聞かねばならないのだった。悲しかった時の嘆かしさは、ただ自分ひとりのために起こったのだと思ったが、嘆いても甲斐のない仲だわ」と がっかりして、辛く悲しいので、人知れず声を立ててお泣きになるばかりである。<BR>⏎ |
| c4 | 96-99 | 「それ見たことか。いったい、このように不如意で、体裁の悪い人のご様子を、一人前にお扱いになる方がありましょうか。仏、聖も、罪の軽い人をよくお導きもなさるというものだが、このようなご様子で、偉そうに世間を見下しなさって、宮、上などが生きていらした時のままと同じようでいらっしゃる、ご高慢が、不憫なこと」<BR>⏎ と、ますます馬鹿らしく思って、<BR>⏎ 「やはり、ご決心なさい。何かとうまく行かない時は、何も見なくてすむ山奥へ入りこむというものですよ。地方などは、むさ苦しい所とお思いでしょうが、むやみに体裁の悪いもてなしは、けっして、致しません」<BR>⏎ などと、とても言葉巧みに言うと、すっかり元気をなくしている女房たちは、<BR>⏎ | 87-90 | 「それ見たことか。いったい,このように不如意で、体裁の悪い人のご様子を、一人前にお扱いになる方がありましょうか。仏、聖も、罪の軽い人をよくお導きもなさるというものだが、このようなご様子で、偉そうに世間を見下しなさって、宮、上などが生きていらした時のままと同じようでいらっしゃる、ご高慢が、不憫なこと」<BR>⏎ と,ますます馬鹿らしく思って、<BR>⏎ 「やはり,ご決心なさい。何かとうまく行かない時は、何も見なくてすむ山奥へ入りこむというものですよ。地方などは、むさ苦しい所とお思いでしょうが、むやみに体裁の悪いもてなしは、けっして,致しません」<BR>⏎ などと,とても言葉巧みに言うと、すっかり元気をなくしている女房たちは、<BR>⏎ |
| c1 | 101 | と、ぶつぶつと非難する。<BR>⏎ | 92 | と,ぶつぶつと非難する。<BR>⏎ |
| c1 | 104 | と言って、お誘い申し上げるが、やはり、このように離れてしばらくになってしまった方に期待をかけなさっている。お心の中では、「いくら何でも、時のたつうちには、お思い出しくださる機会のないことがあろうか。しみじみと深いお約束をなさったのだから、わが身の上はつらくて、このように忘れられているようであるが、風の便りにでも、わたしのこのようにひどい暮らしをお耳になさったら、きっとお訪ねになってくださるにちがいない」と、長年お思いになっていたので、おおよそのお住まいも以前より実に荒廃してひどいが、ご自分のお考えで、ちょっとした御調度類なども失くさないようにさせなさって、辛抱強く同じように堪え忍んでてお過ごしになっているのであった。<BR>⏎ | 95 | と言って,お誘い申し上げるが、やはり,このように離れてしばらくになってしまった方に期待をかけなさっている。お心の中では、「いくら何でも、時のたつうちには、お思い出しくださる機会のないことがあろうか。しみじみと深いお約束をなさったのだから、わが身の上はつらくて、このように忘れられているようであるが、風の便りにでも、わたしのこのようにひどい暮らしをお耳になさったら、きっとお訪ねになってくださるにちがいない」と、長年お思いになっていたので、おおよそのお住まいも 以前より実に荒廃してひどいが、ご自分のお考えで、ちょっとした御調度類なども失くさないようにさせなさって、辛抱強く同じように堪え忍んでてお過ごしになっているのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 106 | <P>⏎ | ||
| version15 | 107 | <A NAME="in22">[第二段 法華御八講]</A><BR> | 97 | |
| c1 | 108 | 冬になってゆくにつれて、ますます、すがりつくべきてだてもなく、悲しそうに物思いに沈んでお過ごしになる。あの殿におかれては、故院の御追善の御八講を、世間でも大騷ぎとなって盛大に催しなさる。特に僧侶などは、普通の僧はお召しにならず、学問の優れ修行を積んだ、高徳の僧だけをお選びあそばしたので、この禅師の君も参上なさっていた。<BR>⏎ | 98 | 冬になってゆくにつれて、ますます,すがりつくべきてだてもなく、悲しそうに物思いに沈んでお過ごしになる。あの殿におかれては、故院の御追善の御八講を、世間でも大騷ぎとなって盛大に催しなさる。特に僧侶などは、普通の僧はお召しにならず、学問の優れ修行を積んだ、高徳の僧だけをお選びあそばしたので、この禅師の君も参上なさっていた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 112-113 | 言葉少なで、世間の人と違ったご兄妹どうしであって、ちょっとした世間話でさえお交わしなされない。「それにしても、このように不甲斐ない身の上を、悲しく不安なままに放ってお過ごしになるとは、辛い仏菩薩様だわ」と、辛く思われるが、「いかにも、これきりの縁なのだろう」と、だんだんお考えになっているところに、大弐の北の方が、急に来た。<BR>⏎ <P>⏎ | 102 | 言葉少なで、世間の人と違ったご兄妹どうしであって、ちょっとした世間話でさえお交わしなされない。「それにしても,このように不甲斐ない身の上を、悲しく不安なままに放ってお過ごしになるとは、辛い仏菩薩様だわ」と、辛く思われるが、「いかにも,これきりの縁なのだろう」と、だんだんお考えになっているところに、大弐の北の方が、急に来た。<BR>⏎ |
| version15 | 114 | <A NAME="in23">[第三段 叔母、末摘花を誘う]</A><BR> | 103 | |
| c1 | 115 | いつもはそんなに親しくしないのに、お誘い申そうとの考えで、お召しになるご装束など準備して、よい車に乗って、顔つき、態度も、得意に物思いのない様子で、予告もなくやって来て、門を開けさせるや、見苦しく寂しい様子、この上もない。左右の戸もみな傾き倒れてしまっていたので、男どもが手助けして、あれこれと大騷ぎして開ける。どれがそれか、この寂しい宿にも必ず踏み分けた跡があるという三つの道はと、探し当てて行く。<BR>⏎ | 104 | いつもはそんなに親しくしないのに、お誘い申そうとの考えで、お召しになるご装束など準備して、よい車に乗って、顔つき,態度も、得意に物思いのない様子で、予告もなくやって来て、門を開けさせるや、見苦しく寂しい様子、この上もない。左右の戸もみな傾き倒れてしまっていたので、男どもが手助けして,あれこれと大騷ぎして開ける。どれがそれか、この寂しい宿にも必ず踏み分けた跡があるという三つの道はと、探し当てて行く。<BR>⏎ |
| c1 | 118 | と言って、つい泣き出してしまうはずのところだ。けれども旅先に思いを馳せて、とても気分よさそうである。<BR>⏎ | 107 | と言って,つい泣き出してしまうはずのところだ。けれども旅先に思いを馳せて、とても気分よさそうである。<BR>⏎ |
| c1 | 123 | 「なるほど、そのようにお思いになるのもごもっともですが、せっかく生きている身をだいなしにして、このように気味の悪い所に暮らしている例はございませんでしょう。大将殿がお手入れしてくだされば、うって変わって元の美しい御殿にもなり変わろうと、頼もしうございますが、ただ今のところは、式部卿宮の姫君より他には、心をお分けになる方もないということです。昔から浮気なお心で、かりそめにお通いになった人々は、みなすっかりお心が離れておしまいになったということです。ましてや、このようにみすぼらしい様子で、薮原にお過ごしになっていらっしゃる人を、貞淑に自分を頼っていらっしゃる様子だと、お訪ね申されることは、とても難しいことです」<BR>⏎ | 112 | 「なるほど,そのようにお思いになるのもごもっともですが、せっかく生きている身をだいなしにして、このように気味の悪い所に暮らしている例はございませんでしょう。大将殿がお手入れしてくだされば、うって変わって元の美しい御殿にもなり変わろうと、頼もしうございますが、ただ今のところは、式部卿宮の姫君より他には、心をお分けになる方もないということです。昔から浮気なお心で、かりそめにお通いになった人々は、みなすっかりお心が離れておしまいになったということです。ましてや,このようにみすぼらしい様子で、薮原にお過ごしになっていらっしゃる人を、貞淑に自分を頼っていらっしゃる様子だと,お訪ね申されることは、とても難しいことです」<BR>⏎ |
| d1 | 125 | <P>⏎ | ||
| version15 | 126 | <A NAME="in24">[第四段 侍従、叔母に従って離京]</A><BR> | 114 | |
| c5 | 127-131 | けれども、動きそうにもないので、一日中いろいろと説得したものの困りはてて、<BR>⏎ 「それでは、侍従だけでも」<BR>⏎ と、日が暮れるままに急ぎ立てるので、気がせいて、泣く泣く、<BR>⏎ 「それでは、ともかく今日のところは。このようにお勧めになるお見送りだけでも参りましょう。あのように申されることもごもっともなことです。また一方、お迷いになることもごもっともなことですので、間に立って拝見するのも辛くて」<BR>⏎ と、小声で申し上げる。<BR>⏎ | 115-119 | けれども,動きそうにもないので、一日中いろいろと説得したものの困りはてて、<BR>⏎ 「それでは,侍従だけでも」<BR>⏎ と,日が暮れるままに急ぎ立てるので、気がせいて、泣く泣く、<BR>⏎ 「それでは,ともかく今日のところは。このようにお勧めになるお見送りだけでも参りましょう。あのように申されることもごもっともなことです。また一方,お迷いになることもごもっともなことですので、間に立って拝見するのも辛くて」<BR>⏎ と,小声で申し上げる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 133-135 | 形見にお与えになるべき着用の衣も垢じみているので、長年の奉公に報いるべき物がなくて、ご自分のお髪の抜け落ちたのを集めて、鬘になさっていたのが、九尺余りの長さで、たいそうみごとなのを、風流な箱に入れて、昔の薫衣香のたいそう香ばしいのを、一壷添えてお与えになる。<BR>⏎ 「あなたを絶えるはずのない間柄だと信頼していましたが<BR>⏎ 思いのほかに遠くへ行ってしまうのですね<BR>⏎ | 121-122 | 形見にお与えになるべき着用の衣も 垢じみているので、長年の奉公に報いるべき物がなくて、ご自分のお髪の抜け落ちたのを集めて、鬘になさっていたのが、九尺余りの長さで、たいそうみごとなのを、風流な箱に入れて、昔の薫衣香のたいそう香ばしいのを、一壷添えてお与えになる。<BR>⏎ 「あなたを絶えるはずのない間柄だと信頼していましたが<BR> 思いのほかに遠くへ行ってしまうのですね<BR>⏎ |
| c1 | 137 | と言って、ひどくお泣きになる。この人も、何も申し上げることができない。<BR>⏎ | 124 | と言って,ひどくお泣きになる。この人も、何も申し上げることができない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 139-140 | 「お別れしましてもお見捨て申しません<BR>⏎ 行く道々の道祖神にかたくお誓いしましょう<BR>⏎ | 126 | 「お別れしましてもお見捨て申しません<BR> 行く道々の道祖神にかたくお誓いしましょう<BR>⏎ |
| cd5:4 | 144-148 | と、ぶつぶつ言われて、心も上の空のまま引き出したので、振り返りばかりせずにはいられないのであった。<BR>⏎ 長年辛い思いをしながらも、お側を離れなかった人が、このように離れて行ってしまったことを、たいそう心細くお思いになると、世間では役に立ちそうにもない老女房までが、<BR>⏎ 「いやはや、無理もないことです。どうしてお残りになることがありましょうか。わたしたちも、とても我慢できそうにありませんわ」<BR>⏎ と、それぞれに関係ある縁故を思い出して、残っていられないと思っているのを、体裁の悪いことだと聞いていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 130-133 | と,ぶつぶつ言われて、心も上の空のまま引き出したので、振り返りばかりせずにはいられないのであった。<BR>⏎ 長年辛い思いをしながらも,お側を離れなかった人が、このように離れて行ってしまったことを、たいそう心細くお思いになると、世間では役に立ちそうにもない老女房までが、<BR>⏎ 「いやはや,無理もないことです。どうしてお残りになることがありましょうか。わたしたちも、とても我慢できそうにありませんわ」<BR>⏎ と,それぞれに関係ある縁故を思い出して、残っていられないと思っているのを、体裁の悪いことだと聞いていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version15 | 149 | <A NAME="in25">[第五段 常陸宮邸の寂寥]</A><BR> | 134 | |
| cd2:1 | 151-152 | あちらの殿では、久々に再会した方に、ますます夢中なご様子で、たいして重要にお思いでない方々には、特別ご訪問もおできになれない。まして、「あの人はまだ生きていらっしゃるだろうか」という程度にお思い出しになる時もあるが、お訪ねになろうというお気持ちも急に起こらずにいるうちに、年も変わった。<BR>⏎ <P>⏎ | 136 | あちらの殿では、久々に再会した方に、ますます夢中なご様子で、たいして重要にお思いでない方々には、特別ご訪問もおできになれない。まして,「あの人はまだ生きていらっしゃるだろうか」という程度にお思い出しになる時もあるが、お訪ねになろうというお気持ちも急に起こらずにいるうちに、年も変わった。<BR>⏎ |
| version15 | 153 | <H4>第三章 末摘花の物語 久しぶりの再会の物語</H4> | 137 | |
| version15 | 154 | <A NAME="in31">[第一段 花散里訪問途上]</A><BR> | 138 | |
| cd2:1 | 164-165 | 「亡き父上を恋い慕って泣く涙で袂の乾く間もないのに<BR>⏎ 荒れた軒の雨水までが降りかかる」<BR>⏎ | 148 | 「亡き父上を恋い慕って泣く涙で袂の乾く間もないのに<BR> 荒れた軒の雨水までが降りかかる」<BR>⏎ |
| d1 | 167 | <P>⏎ | ||
| version15 | 168 | <A NAME="in32">[第二段 惟光、邸内を探る]</A><BR> | 150 | |
| c1 | 176 | 室内では、思いも寄らない、狩衣姿の男性が、ひっそりと振る舞い、物腰も柔らかなので、見馴れなくなってしまった目には、「もしや、狐などの変化のものではないか」と思われるが、近く寄って、<BR>⏎ | 158 | 室内では、思いも寄らない、狩衣姿の男性が、ひっそりと振る舞い、物腰も柔らかなので、見馴れなくなってしまった目には、「もしや,狐などの変化のものではないか」と思われるが、近く寄って、<BR>⏎ |
| c2 | 180-181 | と、ぽつりぽつりと話し出して、問わず語りもし出しそうなのが、厄介なので、<BR>⏎ 「よいよい、分かった。まずは、そのように、申し上げましょう」<BR>⏎ | 162-163 | と,ぽつりぽつりと話し出して、問わず語りもし出しそうなのが、厄介なので、<BR>⏎ 「よいよい、分かった。まずは,そのように、申し上げましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 183 | <P>⏎ | ||
| version15 | 184 | <A NAME="in33">[第三段 源氏、邸内に入る]</A><BR> | 165 | |
| ci1:2 | 188 | と、その様子を申し上げる。ひどく不憫な気持ちになって、<BR>⏎ | 169-170 | と,その様子を申し上げる。<BR>⏎ ひどく不憫な気持ちになって、<BR>⏎ |
| c1 | 190 | と、ご自分の薄情さを思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 172 | と,ご自分の薄情さを思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 195-196 | 「誰も訪ねませんがわたしこそは訪問しましょう<BR>⏎ 道もないくらい深く茂った蓬の宿の姫君の変わらないお心を」<BR>⏎ | 177 | 「誰も訪ねませんがわたしこそは訪問しましょう<BR> 道もないくらい深く茂った蓬の宿の姫君の変わらないお心を」<BR>⏎ |
| c1 | 199 | 「お傘がございます。なるほど、木の下露は雨にまさって」<BR>⏎ | 180 | 「お傘がございます。なるほど,木の下露は 雨にまさって」<BR>⏎ |
| d1 | 201 | <P>⏎ | ||
| version15 | 202 | <A NAME="in34">[第四段 末摘花と再会]</A><BR> | 182 | |
| cd5:4 | 205-209 | 「長年のご無沙汰にも、心だけは変わらずに、お思い申し上げていましたが、何ともおっしゃってこないのが恨めしくて、今まで様子をお伺い申し上げておりましたが、あのしるしの杉ではないが、その木立がはっきりと目につきましたので、通り過ぎることもできず、根くらべにお負け致しました」<BR>⏎ とおっしゃって、帷子を少しかきやりなさると、例によって、たいそうきまり悪そうにすぐにも、お返事申し上げなさらない。こうまでして草深い中をお訪ねになったお心の浅くないことに、勇気を奮い起こして、かすかにお返事申し上げるのであった。<BR>⏎ 「このような草深い中にひっそりとお過ごしになっていらした年月のおいたわしさも、一通りではございませんが、また昔と心変わりしない性癖なので、あなたのお心中も知らないままに、分け入って参りました露けさなどを、どのようにお思いでしょうか。長年のご無沙汰は、それはまた、どなたからもお許しいただけることでしょう。今から後のお心に適わないようなことがあったら、言ったことに違うという罪も負いましょう」<BR>⏎ などと、それほどにもお思いにならないことでも、深く愛しているふうに申し上げなさることも、いろいろあるようだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 185-188 | 「長年のご無沙汰にも、心だけは変わらずに、お思い申し上げていましたが、何ともおっしゃってこないのが恨めしくて、今まで様子をお伺い申し上げておりましたが、あのしるしの杉ではないが,その木立がはっきりと目につきましたので、通り過ぎることもできず、根くらべにお負け致しました」<BR>⏎ とおっしゃって,帷子を少しかきやりなさると、例によって、たいそうきまり悪そうにすぐにも、お返事申し上げなさらない。こうまでして草深い中をお訪ねになったお心の浅くないことに、勇気を奮い起こして、かすかにお返事申し上げるのであった。<BR>⏎ 「このような草深い中にひっそりとお過ごしになっていらした年月のおいたわしさも、一通りではございませんが、また昔と心変わりしない性癖なので、あなたのお心中も知らないままに、分け入って参りました露けさなどを、どのようにお思いでしょうか。長年のご無沙汰は、それはまた,どなたからもお許しいただけることでしょう。今から後のお心に適わないようなことがあったら、言ったことに違うという罪も負いましょう」<BR>⏎ などと,それほどにもお思いにならないことでも、深く愛しているふうに申し上げなさることも、いろいろあるようだ。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 211-213 | 「松にかかった藤の花を見過ごしがたく思ったのは<BR>⏎ その松がわたしを待つというあなたの家の目じるしであったのですね<BR>⏎ 数えてみると、すっかり月日が積もってしまったようだね。都で変わったことが多かったのも、あれこれと胸が痛みます。そのうち、のんびりと田舎に離別して下ったという苦労話もすべて申し上げましょう。長年過ごして来られた折節のお暮らしの辛かったことなども、わたし以外の誰に訴えることがおできになれようかと、衷心より思われますのも、一方では、不思議なくらいに思われます」<BR>⏎ | 190-191 | 「松にかかった藤の花を見過ごしがたく思ったのは<BR> その松がわたしを待つというあなたの家の目じるしであったのですね<BR>⏎ 数えてみると、すっかり月日が積もってしまったようだね。都で変わったことが多かったのも、あれこれと胸が痛みます。そのうち、のんびりと田舎に離別して下ったという苦労話もすべて申し上げましょう。長年過ごして来られた折節のお暮らしの辛かったことなども、わたし以外の誰に訴えることがおできになれようかと、衷心より思われますのも、一方では,不思議なくらいに思われます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 215-216 | 「長年待っていた甲斐のなかったわたしの宿を<BR>⏎ あなたはただ藤の花を御覧になるついでにお立ち寄りになっただけなのですね」<BR>⏎ | 193 | 「長年待っていた甲斐のなかったわたしの宿を<BR> あなたはただ藤の花を御覧になるついでにお立ち寄りになっただけなのですね」<BR>⏎ |
| d1 | 218 | <P>⏎ | ||
| d1 | 221 | <P>⏎ | ||
| version15 | 222 | <H4>第四章 末摘花の物語 その後の物語</H4> | 197 | |
| version15 | 223 | <A NAME="in41">[第一段 末摘花への生活援助]</A><BR> | 198 | |
| c1 | 226 | などと、女房たちのことまでお気を配りになって、お世話申し上げなさるので、このようにみすぼらしい蓬生の宿では、身の置きどころのないまで、女房たちも空を仰いで、そちらの方角を向いてお礼申し上げるのであった。<BR>⏎ | 201 | などと,女房たちのことまでお気を配りになって、お世話申し上げなさるので、このようにみすぼらしい蓬生の宿では、身の置きどころのないまで、女房たちも空を仰いで、そちらの方角を向いてお礼申し上げるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 228 | <P>⏎ | ||
| version15 | 229 | <A NAME="in42">[第二段 常陸宮邸に活気戻る]</A><BR> | 203 | |
| cd2:1 | 230-231 | もうこれまでだと、馬鹿にしきって、それぞれさまよい離散して行った上下の女房たち、我も我もとお仕えし直そうと、争って願い出て来る者もいる。気立てなど、それはそれはで、引っ込み思案なまでによくていらっしゃるご様子ゆえに、気楽な宮仕えに慣れて、これといったところのないつまらない受領などのような家にいる女房は、今までに経験したこともないきまりの悪い思いをするのもいて、げんきんな心をあけすけにして帰って参り、源氏の君は、以前にも勝るご権勢となって、何かにつけて物事の思いやりもさらにお加わりになったので、細々と指図して置かれているので、明るく活気づいて、宮邸の中がだんだんと人の姿も多くなり、木や草の葉もただすさまじくいたわしく見えたのを、遣水を掃除し、前栽の根元をさっぱりなどさせて、大して目をかけていただけない下家司で、格別にお仕えしたいと思う者は、このようにご寵愛になるらしいと見てとって、ご機嫌を伺いながら、追従してお仕え申し上げている。<BR>⏎ <P>⏎ | 204 | もうこれまでだと、馬鹿にしきって、それぞれさまよい離散して行った上下の女房たち、我も我もとお仕えし直そうと,争って願い出て来る者もいる。気立てなど、それはそれはで,引っ込み思案なまでによくていらっしゃるご様子ゆえに、気楽な宮仕えに慣れて、これといったところのないつまらない受領などのような家にいる女房は、今までに経験したこともないきまりの悪い思いをするのもいて、げんきんな心をあけすけにして帰って参り、源氏の君は、以前にも勝るご権勢となって、何かにつけて物事の思いやりもさらにお加わりになったので、細々と指図して置かれているので、明るく活気づいて、宮邸の中がだんだんと人の姿も多くなり、木や草の葉もただすさまじくいたわしく見えたのを、遣水を掃除し、前栽の根元をさっぱりなどさせて、大して目をかけていただけない下家司で、格別にお仕えしたいと思う者は、このようにご寵愛になるらしいと見てとって、ご機嫌を伺いながら、追従してお仕え申し上げている。<BR>⏎ |
| version15 | 232 | <A NAME="in43">[第三段 末摘花のその後]</A><BR> | 205 | |
| cd3:1 | 234-236 | あの大弐の北の方が、上京して来て驚いた様子や、侍従が、嬉しく思う一方で、もう少しお待ち申さなかった思慮の浅さを、恥ずかしく思っていたところなどを、もう少し問わず語りもしたいが、ひどく頭が痛く、厄介で、億劫に思われるので。今後また機会のある折に思い出してお話し申し上げよう、ということである。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 207 | あの大弐の北の方が、上京して来て驚いた様子や、侍従が、嬉しく思う一方で、もう少しお待ち申さなかった思慮の浅さを、恥ずかしく思っていたところなどを、もう少し問わず語りもしたいが、ひどく頭が痛く、厄介で、億劫に思われるので。今後また機会のある折に 思い出してお話し申し上げよう、ということである。<BR>⏎ |
| d1 | 243 | ⏎ | ||
| i0 | 218 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version16 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 19 | <LI>源氏、石山寺参詣---<A HREF="#in12">逢坂の関に入る日、ちょうど、この殿が、石山寺にご願果たしに</A>⏎ | 16 | <LI>源氏、石山寺参詣---<A HREF="#in12">逢坂の関に入る日,ちょうど、この殿が、石山寺にご願果たしに</A>⏎ |
| d1 | 32 | <P>⏎ | ||
| version16 | 33 | <H4>第一章 空蝉の物語 逢坂関での再会の物語</H4> | 29 | |
| version16 | 34 | <A NAME="in11">[第一段 空蝉、夫と常陸国下向]</A><BR> | 30 | |
| d1 | 36 | <P>⏎ | ||
| version16 | 37 | <A NAME="in12">[第二段 源氏、石山寺参詣]</A><BR> | 32 | |
| cd4:3 | 38-41 | 逢坂の関に入る日、ちょうど、この殿が、石山寺にご願果たしに参詣なさったのであった。京から、あの紀伊守などといった子どもや、迎えに来た人々、「この殿がこのように参詣なさる予定だ」と告げたので、「道中、きっと混雑するだろう」と思って、まだ暁のうちから急いだが、女車が多く、道いっぱいに練り歩いて来たので、日が高くなってしまった。<BR>⏎ 打出の浜にやって来た時に、「殿は、粟田山を既にお越えになった」と言って、御前駆の人々が、道も避けきれないほど大勢入り込んで来たので、関山で皆下りてかしこまって、あちらこちらの杉の木の下に幾台もの車の轅を下ろして、木蔭に座りかしこまってお通し申し上げる。車などは行列の一部は遅らせたり、先にやったりしたが、それでもなお、一族が多く見える。⏎ 車十台ほどから、袖口、衣装の色合いなども、こぼれ出て見えるのが、田舎風にならず品があって、斎宮のご下向か何かの時の物見車が自然とお思い出しになられる。殿も、このように世に栄え出なされた珍しさに、数知れない御前駆の者たちが、皆目を留めた。<BR>⏎ <P>⏎ | 33-35 | 逢坂の関に入る日,ちょうど、この殿が、石山寺にご願果たしに参詣なさったのであった。京から、あの紀伊守などといった子どもや、迎えに来た人々、「この殿がこのように参詣なさる予定だ」と告げたので、「道中,きっと混雑するだろう」と思って、まだ暁のうちから急いだが、女車が多く、道いっぱいに練り歩いて来たので、日が高くなってしまった。<BR>⏎ 打出の浜にやって来た時に、「殿は、粟田山を既にお越えになった」と言って、御前駆の人々が、道も避けきれないほど大勢入り込んで来たので、関山で皆下りてかしこまって、あちらこちらの杉の木の下に幾台もの車の轅を下ろして、木蔭に座りかしこまってお通し申し上げる。車などは 行列の一部は遅らせたり、先にやったりしたが、それでもなお,一族が多く見える。⏎ 車十台ほどから、袖口、衣装の色合いなども、こぼれ出て見えるのが、田舎風にならず 品があって、斎宮のご下向か何かの時の物見車が自然とお思い出しになられる。殿も、このように世に栄え出なされた珍しさに、数知れない御前駆の者たちが、皆目を留めた。<BR>⏎ |
| version16 | 42 | <A NAME="in13">[第三段 逢坂の関での再会]</A><BR> | 36 | |
| c1 | 43 | 九月の晦日なので、紅葉の色とりどりに混じり、霜枯れの叢が趣深く見わたされるところに、関屋からさっと現れ出た何人もの旅姿の、色とりどりの狩襖に似つかわしい刺繍をし、絞り染めした姿も、興趣深く見える。お車は簾を下ろしなさって、あの昔の小君、今、右衛門佐である者を召し寄せて、<BR>⏎ | 37 | 九月の晦日なので、紅葉の色とりどりに混じり、霜枯れの叢が趣深く見わたされるところに、関屋から さっと現れ出た何人もの旅姿の、色とりどりの狩襖に似つかわしい刺繍をし、絞り染めした姿も、興趣深く見える。お車は簾を下ろしなさって、あの昔の小君、今、右衛門佐である者を召し寄せて、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 45-47 | などとおっしゃる、ご心中、まことにしみじみとお思い出しになることが数多いけれど、ありきたりの伝言では何の効もない。女も人知れず昔のことを忘れないので、あの頃を思い出して、しみじみと胸一杯になる。<BR>⏎ 「行く人と来る人の逢坂の関で、せきとめがたく流れるわたしの涙を<BR>⏎ 絶えず流れる関の清水と人は見るでしょう<BR>⏎ | 39-40 | などとおっしゃる,ご心中、まことにしみじみとお思い出しになることが数多いけれど、ありきたりの伝言では何の効もない。女も 人知れず昔のことを忘れないので、あの頃を思い出して、しみじみと胸一杯になる。<BR>⏎ 「行く人と来る人の逢坂の関で、せきとめがたく流れるわたしの涙を<BR> 絶えず流れる関の清水と人は見るでしょう<BR>⏎ |
| d1 | 49 | <P>⏎ | ||
| version16 | 50 | <H4>第二章 空蝉の物語 手紙を贈る</H4> | 42 | |
| version16 | 51 | <A NAME="in21">[第一段 昔の小君と紀伊守]</A><BR> | 43 | |
| c1 | 52 | 石山寺からお帰りになるお出迎えに右衛門佐が参上して、そのまま行き過ぎてしまったお詫びなどを申し上げる。昔、童として、たいそう親しくかわいがっていらっしゃったので、五位の叙爵を得たまで、この殿のお蔭を蒙ったのだが、思いがけない世の騒動があったころ、世間の噂を気にして、常陸国に下行したのを、少し根に持ってここ数年はお思いになっていたが、顔色にもお出しにならず、昔のようにではないが、やはり親しい家人の中には数えていらっしゃっるのであった。<BR>⏎ | 44 | 石山寺からお帰りになるお出迎えに右衛門佐が参上して、そのまま行き過ぎてしまったお詫びなどを申し上げる。昔,童として、たいそう親しくかわいがっていらっしゃったので、五位の叙爵を得たまで、この殿のお蔭を蒙ったのだが、思いがけない世の騒動があったころ、世間の噂を気にして、常陸国に下行したのを、少し根に持ってここ数年はお思いになっていたが、顔色にもお出しにならず、昔のようにではないが、やはり親しい家人の中には数えていらっしゃっるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 54 | <P>⏎ | ||
| version16 | 55 | <A NAME="in22">[第二段 空蝉へ手紙を贈る]</A><BR> | 46 | |
| cd2:1 | 58-59 | 偶然に逢坂の関でお逢いしたことに期待を寄せていましたが<BR>⏎ それも効ありませんね、やはり潮海でない淡海だから<BR>⏎ | 49 | 偶然に逢坂の関でお逢いしたことに期待を寄せていましたが<BR> それも効ありませんね、やはり潮海でない淡海だから<BR>⏎ |
| c2 | 63-64 | と言って、お渡しになったので、恐縮して持って行って、<BR>⏎ 「とにかく、お返事なさいませ。昔よりは少しお疎んじになっているところがあろうと存じましたが、相変わらぬお気持ちの優しさといったら、ひとしおありがたい。浮気事の取り持ちは、無用のことと思うが、とてもきっぱりとお断り申し上げられません。女の身としては、負けてお返事を差し上げなさったところで、何の非難も受けますまい」<BR>⏎ | 53-54 | と言って,お渡しになったので、恐縮して持って行って、<BR>⏎ 「とにかく、お返事なさいませ。昔よりは少しお疎んじになっているところがあろうと存じましたが、相変わらぬお気持ちの優しさといったら、ひとしおありがたい。浮気事の取り持ちは,無用のことと思うが、とてもきっぱりとお断り申し上げられません。女の身としては、負けてお返事を差し上げなさったところで、何の非難も受けますまい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 66-67 | 「逢坂の関は、いったいどのような関なのでしょうか<BR>⏎ こんなに深い嘆きを起こさせ、人の仲を分けるのでしょう<BR>⏎ | 56 | 「逢坂の関は、いったいどのような関なのでしょうか<BR> こんなに深い嘆きを起こさせ、人の仲を分けるのでしょう<BR>⏎ |
| cd2:1 | 69-70 | と申し上げた。いとしさも恨めしさも、忘られない人とお思い置かれている女なので、時々は、やはり、お便りなさって気持ちを揺するのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 58 | と申し上げた。いとしさも恨めしさも、忘られない人とお思い置かれている女なので、時々は、やはり,お便りなさって気持ちを揺するのであった。<BR>⏎ |
| version16 | 71 | <H4>第三章 空蝉の物語 夫の死去後に出家</H4> | 59 | |
| version16 | 72 | <A NAME="in31">[第一段 夫常陸介死去]</A><BR> | 60 | |
| c1 | 76 | 女君の、「辛い運命の下に生まれて、この人にまで先立たれて、どのように落ちぶれて途方に暮れることになっていくのだろうか」と、思い嘆いていらっしゃるのを見ると、<BR>⏎ | 64 | 女君の、「辛い運命の下に生まれて、この人にまで先立たれて、どのように落ちぶれて途方に暮れることになっていくのだろうか」と,思い嘆いていらっしゃるのを見ると、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 78-79 | と、気掛かりで悲しいことだと、口にしたり思ったりしたが、思いどおりに行かないもので、亡くなってしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 66 | と,気掛かりで悲しいことだと、口にしたり思ったりしたが、思いどおりに行かないもので、亡くなってしまった。<BR>⏎ |
| version16 | 80 | <A NAME="in32">[第二段 空蝉、出家す]</A><BR> | 67 | |
| c1 | 81 | 暫くの間は、「あのようにご遺言なさったのだから」などと、情けのあるように振る舞っていたが、うわべだけのことであって、辛いことが多かった。それもこれもみな世の道理なので、わが身一つの不幸として、嘆きながら毎日を暮らしている。ただ、この河内守だけは、昔から好色心があって、少し優しげに振る舞うのであった。<BR>⏎ | 68 | 暫くの間は、「あのようにご遺言なさったのだから」などと、情けのあるように振る舞っていたが、うわべだけのことであって、辛いことが多かった。それもこれもみな世の道理なので、わが身一つの不幸として、嘆きながら毎日を暮らしている。ただ,この河内守だけは、昔から好色心があって、少し優しげに振る舞うのであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 84-86 | 「辛い運命の身で、このように生き残って、終いには、とんでもない事まで耳にすることよ」⏎ と、人知れず思い悟って、他人にはそれとは知らせずに、尼になってしまったのであった。<BR>⏎ 仕えている女房たち、何とも言いようがないと、悲しみ嘆く。河内守もたいそう辛く、<BR>⏎ | 71-72 | 「辛い運命の身で、このように生き残って、終いには、とんでもない事まで耳にすることよ」と、人知れず思い悟って、他人にはそれとは知らせずに、尼になってしまったのであった。<BR>⏎ 仕えている女房たち、何とも言いようがないと、悲しみ嘆く。河内守も たいそう辛く、<BR>⏎ |
| cd3:1 | 88-90 | などと、つまらぬおせっかいだなどと、申しているようである。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 74 | などと,つまらぬおせっかいだなどと、申しているようである。<BR>⏎ |
| d1 | 97 | ⏎ | ||
| i0 | 85 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version17 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-3)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 44 | <P>⏎ | ||
| version17 | 45 | <H4>第一章 前斎宮の物語 前斎宮をめぐる朱雀院と光る源氏の確執</H4> | 41 | |
| version17 | 46 | <A NAME="in11">[第一段 朱雀院、前斎宮の入内に際して贈り物する]</A><BR> | 42 | |
| cd8:7 | 48-55 | 朱雀院はたいそう残念に思し召されるが、体裁が悪いので、お手紙なども絶えてしまっていたが、その当日になって、何ともいえない素晴らしいご装束の数々、お櫛の箱、打乱の箱、香壷の箱など幾つも、並大抵のものでなく、いろいろのお薫物の数々、薫衣香のまたとない素晴らしいほどに、百歩の外を遠く過ぎても匂うくらいの、特別に心をこめてお揃えあそばした。内大臣が御覧になろうからと、前々から御準備あそばしていたのであろうか、いかにも特別誂えといった感じのようである。<BR>⏎ 殿もお渡りになっていた時なので、「これこれの次第で」と言って、女別当が御覧に入れさせる。ちょっと、お櫛の箱の片端を御覧になると、この上もなく精巧で優美に、めったにない作りである。さし櫛の箱の心葉に、<BR>⏎ 「別れの御櫛を差し上げましたが、それを口実に<BR>⏎ あなたとの仲を遠く離れたものと神がお決めになったのでしょうか」<BR>⏎ 大臣、これを御覧になって、いろいろとお考えめぐらすと、たいそう恐れ多く、おいたわしくて、ご自分の性癖の、ままならぬ恋に惹かれるわが身をつまされて、<BR>⏎ 「あのお下りになった時、お心にお思いになっただろうこと、このように何年も経ってお帰りになって、そのお気持ちを遂げられる時に、このように意に反することが起こったのを、どのようにお思いであろう。御位を去り、もの静かに過ごしていらして、世を恨めしくお思いだろうか」などと、「自分がその立場であったなら、きっと心を動かさずにはいられないだろう」と、お思い続けなさると、お気の毒になって、「どうしてこのような無理強引なことを思いついて、おいたわしくお苦しめ悩ますのだろう。恨めしいとも、お思い申したが、また一方では、お優しく情け深いお気持ちの方を」などと、お思い乱れなさって、しばらくは物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ 「このご返歌は、どのように申し上げあそばすのでしょうか。また、お手紙はどのように」<BR>⏎ などと、お尋ね申し上げなさるが、とても具合が悪いので、お手紙はお出しになれない。宮はご気分も悪そうにお思いになって、ご返事をとても億劫になさったが、<BR>⏎ | 44-50 | 朱雀院はたいそう残念に思し召されるが、体裁が悪いので、お手紙なども絶えてしまっていたが、その当日になって、何ともいえない素晴らしいご装束の数々、お櫛の箱,打乱の箱,香壷の箱など幾つも、並大抵のものでなく、いろいろのお薫物の数々、薫衣香の またとない素晴らしいほどに、百歩の外を遠く過ぎても匂うくらいの、特別に心をこめてお揃えあそばした。内大臣が御覧になろうからと、前々から御準備あそばしていたのであろうか、いかにも特別誂えといった感じのようである。<BR>⏎ 殿もお渡りになっていた時なので、「これこれの次第で」と言って、女別当が御覧に入れさせる。ちょっと,お櫛の箱の片端を御覧になると、この上もなく精巧で優美に、めったにない作りである。さし櫛の箱の心葉に、<BR>⏎ 「別れの御櫛を差し上げましたが、それを口実に<BR> あなたとの仲を遠く離れたものと神がお決めになったのでしょうか」<BR>⏎ 大臣、これを御覧になって、いろいろとお考えめぐらすと、たいそう恐れ多く,おいたわしくて、ご自分の性癖の、ままならぬ恋に惹かれるわが身をつまされて、<BR>⏎ 「あのお下りになった時、お心にお思いになっただろうこと、このように何年も経ってお帰りになって、そのお気持ちを遂げられる時に、このように意に反することが起こったのを、どのようにお思いであろう。御位を去り、もの静かに過ごしていらして、世を恨めしくお思いだろうか」などと、「自分がその立場であったなら,きっと心を動かさずにはいられないだろう」と、お思い続けなさると、お気の毒になって、「どうしてこのような無理強引なことを思いついて、おいたわしくお苦しめ悩ますのだろう。恨めしいとも、お思い申したが、また一方では,お優しく情け深いお気持ちの方を」などと、お思い乱れなさって、しばらくは物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ 「このご返歌は、どのように申し上げあそばすのでしょうか。また,お手紙はどのように」<BR>⏎ などと,お尋ね申し上げなさるが、とても具合が悪いので、お手紙はお出しになれない。宮はご気分も悪そうにお思いになって、ご返事をとても億劫になさったが、<BR>⏎ |
| c1 | 57 | と、女房たちが催促申し上げ困っている様子をお聞きになって、<BR>⏎ | 52 | と,女房たちが催促申し上げ困っている様子をお聞きになって、<BR>⏎ |
| cd5:3 | 59-63 | と申し上げなさるにつけても、ひどく恥ずかしいが、昔のことをお思い出しになると、たいそう優しくお美しくいらして、ひどくお泣きになったご様子を、どことなくしみじみと拝見なさった子供心にも、つい昨日のことと思われると、故御息所のお事など、それからそれへとしみじみと悲しく思い出さずにはいらっしゃれないので、ただこのように、<BR>⏎ 「別れの御櫛をいただいた時に仰せられた一言が<BR>⏎ 帰京した今となっては悲しく思われます」<BR>⏎ と、ぐらいにあったのであろうか。お使いへの禄、身分に応じてお与えになる。大臣は、お返事をひどく御覧になりたくお思いになったが、お口にはお出しになれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 54-56 | と申し上げなさるにつけても、ひどく恥ずかしいが、昔のことをお思い出しになると、たいそう優しく お美しくいらして、ひどくお泣きになったご様子を、どことなくしみじみと拝見なさった子供心にも、つい昨日のことと思われると、故御息所のお事など、それからそれへとしみじみと悲しく思い出さずにはいらっしゃれないので、ただこのように、<BR>⏎ 「別れの御櫛をいただいた時に仰せられた一言が<BR> 帰京した今となっては悲しく思われます」<BR>⏎ と,ぐらいにあったのであろうか。お使いへの禄、身分に応じてお与えになる。大臣は、お返事をひどく御覧になりたくお思いになったが、お口にはお出しになれない。<BR>⏎ |
| version17 | 64 | <A NAME="in12">[第二段 源氏、朱雀院の心中を思いやる]</A><BR> | 57 | |
| cd2:1 | 67-68 | 「ああ、生きていらしたら、どんなにかお世話の仕甲斐のあることに思って、お世話なさったことだろう」と、故人のご性質をお思い出しになるにつけ、「特別な関係を抜きにして考えれば、まことに惜しむべきお人柄であったよ。ああまではいらっしゃれないものだ。風流な面では、やはり優れて」と、何かの時々にはお思い出し申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 60 | 「ああ,生きていらしたら、どんなにかお世話の仕甲斐のあることに思って、お世話なさったことだろう」と、故人のご性質をお思い出しになるにつけ、「特別な関係を抜きにして考えれば、まことに惜しむべきお人柄であったよ。ああまではいらっしゃれないものだ。風流な面では、やはり優れて」と、何かの時々にはお思い出し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version17 | 69 | <A NAME="in13">[第三段 帝と弘徽殿女御と斎宮女御]</A><BR> | 61 | |
| c1 | 71 | 「このような立派な妃が入内なさるのだから、よくお気をつけてお会い申されませ」<BR>⏎ | 63 | 「このような立派な妃が入内なさるのだから、よくお気をつけて お会い申されませ」<BR>⏎ |
| c1 | 74 | 弘徽殿女御には、おなじみになっていらしたので、親しくかわいく気がねなくお思いになり、この方は、人柄も実に落ち着いて、気が置けるほどで、内大臣のご待遇も丁重で重々しいので、軽々しくはお扱いできにくく自然お思いになって、御寝の伺候などは対等になるが、気を許した子供どうしのお遊びなどに、昼間などにお出向きになることは、あちら方に多くいらっしゃる。<BR>⏎ | 66 | 弘徽殿女御には、おなじみになっていらしたので、親しくかわいく気がねなくお思いになり、この方は,人柄も実に落ち着いて、気が置けるほどで、内大臣のご待遇も丁重で重々しいので、軽々しくはお扱いできにくく自然お思いになって、御寝の伺候などは対等になるが、気を許した子供どうしのお遊びなどに、昼間などにお出向きになることは、あちら方に多くいらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 76 | <P>⏎ | ||
| version17 | 77 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、朱雀院と語る]</A><BR> | 68 | |
| c1 | 80 | 「素晴らしい器量だと、御執着していらっしゃるご容貌、いったいどれほどの美しさなのか」と、拝見したくお思い申されるが、まったく拝見おできになれないのを悔しくお思いになる。<BR>⏎ | 71 | 「素晴らしい器量だと、御執着していらっしゃるご容貌、いったいどれほどの美しさなのか」と、拝見したくお思い申されるが、まったく拝見おできになれないのを 悔しくお思いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 82-83 | このように隙間もない状態で、お二方が伺候していらっしゃるので、兵部卿宮、すらすらとはご決意になれず、「主上が、御成人あそばしたら、いくらなんでも、お見捨てあそばすことはあるまい」と、その時機をお待ちになる。お二方の御寵愛は、それぞれに競い合っていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 73 | このように隙間もない状態で、お二方が伺候していらっしゃるので、兵部卿宮、すらすらとはご決意になれず、「主上が,御成人あそばしたら、いくらなんでも、お見捨てあそばすことはあるまい」と、その時機をお待ちになる。お二方の御寵愛は、それぞれに競い合っていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version17 | 84 | <H4>第二章 後宮の物語 中宮の御前の物語絵合せ</H4> | 74 | |
| version17 | 85 | <A NAME="in21">[第一段 権中納言方、絵を集める]</A><BR> | 75 | |
| cd3:2 | 87-89 | 殿上の若い公達でも、この事を習う者をお目に掛けになり、お気に入りにあそばしたので、なおさらのこと、お美しい方が、趣のあるさまに、型にはまらずのびのびと描き、優美に物に寄り掛かって、ああかこうかと筆を止めて考えていらっしゃるご様子、そのかわいらしさにお心捉えられて、たいそう頻繁にお渡りあそばして、以前にもまして格段に御寵愛が深くなったのを、権中納言、お聞きになって、どこまでも才気煥発な現代風なご性分で、「自分は人に負けるものか」と心を奮い立てて、優れた名人たちを呼び集めて、厳重な注意を促して、またとない素晴らしい絵の数々を、またとない立派な幾枚もの紙に描き集めさせなさる。<BR>⏎ <P>⏎ <A NAME="in22">[第二段 源氏方、須磨の絵日記を準備]</A>><BR>⏎ | 77-78 | 殿上の若い公達でも、この事を習う者をお目に掛けになり、お気に入りにあそばしたので、なおさらのこと,お美しい方が、趣のあるさまに、型にはまらずのびのびと描き、優美に物に寄り掛かって、ああかこうかと筆を止めて考えていらっしゃるご様子、そのかわいらしさにお心捉えられて、たいそう頻繁にお渡りあそばして、以前にもまして格段に御寵愛が深くなったのを、権中納言、お聞きになって、どこまでも才気煥発な現代風なご性分で、「自分は人に負けるものか」と心を奮い立てて、優れた名人たちを呼び集めて、厳重な注意を促して、またとない素晴らしい絵の数々を、またとない立派な幾枚もの紙に描き集めさせなさる。<BR>⏎ <A NAME="in22">[第二段 源氏方、須磨の絵日記を準備]</A><BR>⏎ |
| c3 | 91-93 | と言って、おもしろく興趣ある場面ばかりを選んでは描かせなさる。普通の月次の絵も、目新しい趣向に、詞書を書き連ねて、御覧に供される。<BR>⏎ 特別に興趣深く描いてあるので、また、こちらで御覧あそばそうとすると、気安くお取り出しにならず、ひどく秘密になさって、こちらの御方へ御持参あそばそうとするのを惜しんで、お貸しなさらないので、内大臣、お聞きになって、<BR>⏎ 「相変わらず、権中納言のお心の大人げなさは、変わらないな」<BR>⏎ | 80-82 | と言って,おもしろく興趣ある場面ばかりを選んでは描かせなさる。普通の月次の絵も、目新しい趣向に、詞書を書き連ねて、御覧に供される。<BR>⏎ 特別に興趣深く描いてあるので、また,こちらで御覧あそばそうとすると、気安くお取り出しにならず、ひどく秘密になさって、こちらの御方へ御持参あそばそうとするのを惜しんで、お貸しなさらないので、内大臣、お聞きになって、<BR>⏎ 「相変わらず,権中納言のお心の大人げなさは、変わらないな」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 98-100 | あの旅の御日記の箱をもお取り出しになって、この機会に、女君にもお見せ申し上げになったのであった。ご心境を深く知らなくて今初めて見る人でさえ、多少物の分かるような人ならば、涙を禁じえないほどのしみじみと感銘深いものである。まして、忘れがたく、その当時の夢のような体験をお覚ましになる時とてないお二方にとっては、当時に戻ったように悲しく思い出さずにはいらっしゃれない。今までお見せにならなかった恨み言を申し上げなさるのであった。<BR>⏎ 「独り京に残って嘆いていた時よりも、海人が住んでいる<BR>⏎ 干潟を絵に描いていたほうがよかったわ<BR>⏎ | 87-88 | あの旅の御日記の箱をもお取り出しになって、この機会に、女君にもお見せ申し上げになったのであった。ご心境を深く知らなくて今初めて見る人でさえ、多少物の分かるような人ならば、涙を禁じえないほどのしみじみと感銘深いものである。まして,忘れがたく、その当時の夢のような体験をお覚ましになる時とてないお二方にとっては、当時に戻ったように悲しく思い出さずにはいらっしゃれない。今までお見せにならなかった恨み言を申し上げなさるのであった。<BR>⏎ 「独り京に残って嘆いていた時よりも、海人が住んでいる<BR> 干潟を絵に描いていたほうがよかったわ<BR>⏎ |
| cd4:2 | 103-106 | 「辛い思いをしたあの当時よりも、今日はまた<BR>⏎ 再び過去を思い出していっそう涙が流れて来ます」<BR>⏎ 中宮だけにはぜひともお見せ申し上げなければならないものである。不出来でなさそうなのを一帖ずつ、何といっても浦々の景色がはっきりと描き出されているのを、お選びになる折にも、あの明石の住居のことが、まっさきに、「どうしているだろうか」とお思いやりにならない時がない。<BR>⏎ <P>⏎ | 91-92 | 「辛い思いをしたあの当時よりも、今日はまた<BR> 再び過去を思い出していっそう涙が流れて来ます」<BR>⏎ 中宮だけには ぜひともお見せ申し上げなければならないものである。不出来でなさそうなのを一帖ずつ、何といっても浦々の景色がはっきりと描き出されているのを、お選びになる折にも、あの明石の住居のことが、まっさきに,「どうしているだろうか」とお思いやりにならない時がない。<BR>⏎ |
| version17 | 107 | <A NAME="in23">[第三段 三月十日、中宮の御前の物語絵合せ]</A><BR> | 93 | |
| c1 | 108 | このように幾つもの絵を集めていらっしゃるとお聞きになって、権中納言、たいそう対抗意識を燃やして、軸、表紙、紐の飾りをいっそう調えなさる。<BR>⏎ | 94 | このように幾つもの絵を集めていらっしゃるとお聞きになって、権中納言、たいそう対抗意識を燃やして、軸,表紙,紐の飾りを いっそう調えなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 111-112 | 主上付きの女房なども、絵に嗜みのある人々はすべて、「これはどうの、あれはどうの」などと批評し合うのを、近頃の仕事にしているようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 97 | 主上付きの女房なども、絵に嗜みのある人々はすべて、「これはどうの,あれはどうの」などと批評し合うのを、近頃の仕事にしているようである。<BR>⏎ |
| version17 | 113 | <A NAME="in24">[第四段 「竹取」対「宇津保」]</A><BR> | 98 | |
| c1 | 115 | 梅壷の御方には、平典侍、侍従内侍、少将命婦。右方には、大弍典侍、中将命婦、兵衛命婦を、当時のすぐれた識者たちとして、思い思いに論争する弁舌の数々を、興味深くお聞きになって、最初、物語の元祖である『竹取の翁』と『宇津保の俊蔭』を番わせて争う。<BR>⏎ | 100 | 梅壷の御方には、平典侍、侍従内侍、少将命婦。右方には、大弍典侍、中将命婦、兵衛命婦を、当時のすぐれた識者たちとして、思い思いに論争する弁舌の数々を、興味深くお聞きになって、最初,物語の元祖である『竹取の翁』と『宇津保の俊蔭』を番わせて争う。<BR>⏎ |
| c1 | 118 | 「かぐや姫が昇ったという雲居は、おっしゃるとおり、及ばないことなので、誰も知ることができません。この世での縁は、竹の中に生まれたので、素性の卑しい人と思われます。一つの家の中は照らしたでしょうが、宮中の恐れ多い光と並んで妃にならずに終わってしまいました。阿部の御主人が千金を投じて、火鼠の裘に思いを寄せて片時の間に消えてしまったのも、まことにあっけないことです。車持の親王が、真実の蓬莱の神秘の事情を知りながら、偽って玉の枝に疵をつけたのを欠点とします」<BR>⏎ | 103 | 「かぐや姫が昇ったという雲居は、おっしゃるとおり,及ばないことなので、誰も知ることができません。この世での縁は,竹の中に生まれたので、素性の卑しい人と思われます。一つの家の中は照らしたでしょうが、宮中の恐れ多い光と並んで妃にならずに終わってしまいました。阿部の御主人が千金を投じて、火鼠の裘に思いを寄せて片時の間に消えてしまったのも、まことにあっけないことです。車持の親王が、真実の蓬莱の神秘の事情を知りながら、偽って玉の枝に疵をつけたのを欠点とします」<BR>⏎ |
| c1 | 120 | 「俊蔭は、激しい波風に溺れ、知らない国に流されましたが、やはり、目ざしていた目的を叶えて、遂に、外国の朝廷にもわが国にも、めったにない音楽の才能を知らせ、名を残した昔の伝えからいうと、絵の様子も、唐土と日本とを取り合わせて、興趣深いこと、やはり並ぶものがありません」<BR>⏎ | 105 | 「俊蔭は、激しい波風に溺れ、知らない国に流されましたが、やはり,目ざしていた目的を叶えて、遂に,外国の朝廷にもわが国にも、めったにない音楽の才能を知らせ、名を残した昔の伝えからいうと、絵の様子も、唐土と日本とを取り合わせて、興趣深いこと、やはり並ぶものがありません」<BR>⏎ |
| d1 | 122 | <P>⏎ | ||
| version17 | 123 | <A NAME="in25">[第五段 「伊勢物語」対「正三位」]</A><BR> | 107 | |
| c1 | 124 | 次に、『伊勢物語』と『正三位』を番わせて、また結論がでない。これも、右方は興味深く華やかで、宮中あたりをはじめとして、近頃の様子を描いたのは、興趣深く見応えがする。<BR>⏎ | 108 | 次に、『伊勢物語』と『正三位』を番わせて、また結論がでない。これも,右方は興味深く華やかで、宮中あたりをはじめとして、近頃の様子を描いたのは、興趣深く見応えがする。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 126-127 | 「『伊勢物語』の深い心を訪ねないで<BR>⏎ 単に古い物語だからといって価値まで落としめてよいものでしょうか<BR>⏎ | 110 | 「『伊勢物語』の深い心を訪ねないで<BR> 単に古い物語だからといって価値まで落としめてよいものでしょうか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 129-131 | と、反論しかねている。右方の大弍の典侍は、<BR>⏎ 「雲居の宮中に上った『正三位』の心から見ますと<BR>⏎ 『伊勢物語』の千尋の心も遥か下の方に見えます」<BR>⏎ | 112-113 | と,反論しかねている。右方の大弍の典侍は、<BR>⏎ 「雲居の宮中に上った『正三位』の心から見ますと<BR> 『伊勢物語』の千尋の心も遥か下の方に見えます」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 134-137 | 「ちょっと見た目には古くさく見えましょうが<BR>⏎ 昔から名高い『伊勢物語』の名を落とすことができましょうか」<BR>⏎ このような女たちの論議で、とりとめもなく優劣を争うので、一巻の判定に数多くの言葉を尽くしても容易に決着がつかない。ただ、思慮の浅い若い女房たちは、死ぬほど興味深く思っているが、主上づきの女房も、中宮づきの女房も、その一部分さえ見ることができないほど、たいそう隠していらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 116-117 | 「ちょっと見た目には古くさく見えましょうが<BR> 昔から名高い『伊勢物語』の名を落とすことができましょうか」<BR>⏎ このような女たちの論議で、とりとめもなく優劣を争うので、一巻の判定に数多くの言葉を尽くしても 容易に決着がつかない。ただ,思慮の浅い若い女房たちは、死ぬほど興味深く思っているが、主上づきの女房も,中宮づきの女房も、その一部分さえ見ることができないほど、たいそう隠していらっしゃった。<BR>⏎ |
| version17 | 138 | <H4>第三章 後宮の物語 帝の御前の絵合せ</H4> | 118 | |
| version17 | 139 | <A NAME="in31">[第一段 帝の御前の絵合せの企画]</A><BR> | 119 | |
| c1 | 142 | と、おっしゃるまでになった。このようなこともあろうかと、以前からお思いになっていたので、その中でも特別なのは選び残していらっしゃったが、あの「須磨」「明石」の二巻は、お考えになるところがあって、お加えになったのであった。<BR>⏎ | 122 | と,おっしゃるまでになった。このようなこともあろうかと、以前からお思いになっていたので、その中でも特別なのは選び残していらっしゃったが、あの「須磨」「明石」の二巻は、お考えになるところがあって、お加えになったのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 146 | 一年の内の数々の節会のおもしろく興趣ある様を、昔の名人たちがそれぞれに描いた絵に、延喜の帝がお手ずからその趣旨をお書きあそばしたものや、また御自身の御世のこともお描かせになった巻に、あの斎宮がお下りになった日の、大極殿での儀式を、お心に刻みこまれてあったので、描くべきさまを詳しく仰せになって、巨勢公茂がお描き申したのが、たいそう素晴らしいのを差し上げなさった。<BR>⏎ | 126 | 一年の内の数々の節会のおもしろく興趣ある様を、昔の名人たちがそれぞれに描いた絵に、延喜の帝がお手ずからその趣旨をお書きあそばしたものや、また御自身の御世のこともお描かせになった巻に、あの斎宮がお下りになった日の,大極殿での儀式を、お心に刻みこまれてあったので、描くべきさまを詳しく仰せになって、巨勢公茂がお描き申したのが、たいそう素晴らしいのを差し上げなさった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 148-149 | 「わが身はこのように内裏の外におりますが<BR>⏎ あの当時の気持ちは今でも忘れずにおります」<BR>⏎ | 128 | 「わが身はこのように内裏の外におりますが<BR> あの当時の気持ちは今でも忘れずにおります」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 151-152 | 「内裏の中は昔とすっかり変わってしまった気がして<BR>⏎ 神にお仕えしていた昔のことが今は恋しく思われます」<BR>⏎ | 130 | 「内裏の中は昔とすっかり変わってしまった気がして<BR> 神にお仕えしていた昔のことが今は恋しく思われます」<BR>⏎ |
| d1 | 156 | <P>⏎ | ||
| version17 | 157 | <A NAME="in32">[第二段 三月二十日過ぎ、帝の御前の絵合せ]</A><BR> | 134 | |
| c1 | 161 | 皆、御前に御絵を並べ立てる。主上つきの女房、前に後に、装束の色を分けている。<BR>⏎ | 138 | 皆,御前に御絵を並べ立てる。主上つきの女房、前に後に、装束の色を分けている。<BR>⏎ |
| d1 | 166 | <P>⏎ | ||
| version17 | 167 | <A NAME="in33">[第三段 左方、勝利をおさめる]</A><BR> | 143 | |
| c2 | 168-169 | 勝負がつかないで夜に入った。左方、なお一番残っている最後に、「須磨」の絵巻が出て来たので、権中納言のお心、動揺してしまった。あちらでも心づもりして、最後の巻は特に優れた絵を選んでいらっしゃったのだが、このような大変な絵の名人が、心ゆくばかり思いを澄ませて心静かにお描きになったのは、譬えようがない。<BR>⏎ 親王をはじめまいらせて、感涙を止めることがおできになれない。あの当時に、「お気の毒に、悲しいこと」とお思いになった時よりも、お過ごしになったという所の様子、どのようなお気持ちでいらしたかなど、まるで目の前のことのように思われ、その土地の風景、見たこともない浦々、磯を隈なく描き現していらっしゃった。<BR>⏎ | 144-145 | 勝負がつかないで夜に入った。左方,なお一番残っている最後に、「須磨」の絵巻が出て来たので、権中納言のお心、動揺してしまった。あちらでも心づもりして、最後の巻は特に優れた絵を選んでいらっしゃったのだが、このような大変な絵の名人が、心ゆくばかり思いを澄ませて心静かにお描きになったのは、譬えようがない。<BR>⏎ 親王をはじめまいらせて、感涙を止めることがおできになれない。あの当時に、「お気の毒に,悲しいこと」とお思いになった時よりも、お過ごしになったという所の様子、どのようなお気持ちでいらしたかなど、まるで目の前のことのように思われ、その土地の風景、見たこともない浦々、磯を隈なく描き現していらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 171 | <P>⏎ | ||
| version17 | 172 | <H4>第四章 光る源氏の物語 光る源氏世界の黎明</H4> | 147 | |
| version17 | 173 | <A NAME="in41">[第一段 学問と芸事の清談]</A><BR> | 148 | |
| ci5:6 | 175-179 | 「幼いころから、学問に心を入れておりましたが、少し学才などがつきそうに御覧になったのでしょうか、故院が仰せになったことに、『学問の才能というものは、世間で重んじられるからであろうか、たいそう学問を究めた人で、長寿と、幸福とが並んだ者は、めったにいないものだ。高い身分に生まれ、そうしなくても人に劣ることのない身分なのだから、むやみにこの道に深入りするな』と、お諌めあそばして、正式な学問以外の芸を教えてくださいましたが、出来の悪いものもなく、また特にこのことはと上達したこともございませんでした。ただ、絵を描くことだけが、妙なつまらないことですが、どうしたら心のゆくほど描けるだろうかと、思う折々がございましたが、思いもよらない賤しい身の上となって、四方の海の深い趣を見ましたので、まったく思い至らぬ所のないほど会得できましたが、絵筆で描くにはは限界がありまして、心で思うとおりには事の運ばぬように存じられましたが、機会がなくて、御覧に入れるわけにも行きませんので、このように物好きのようなのは、後々に噂が立ちましょうか」<BR>⏎ と、親王に申し上げなさると、<BR>⏎ 「何の芸道も、心がこもっていなくては習得できるものではありませんが、それぞれの道に師匠がいて、学びがいのあるようなものは、度合の深さ浅さは別として、自然と学んだだけの事は後に残るでしょう。書画の道と碁を打つことは、不思議と天分の差が現れるもので、深く習練したと思えぬ凡愚の者でも、その天分によって、巧みに描いたり打ったりする者も出て来ますが、名門の子弟の中には、やはり抜群の人がいて、何事にも上達すると見えました。故院のお膝もとで、親王たち、内親王、どなたもいろいろさまざまなお稽古事を習わさせなかったことがありましょうか。その中でも、特にご熱心になって、伝授を受けご習得なさった甲斐があって、『詩文の才能は言うまでもなく、それ以外のことの中では、琴の琴をお弾きになることが第一番で、次には、横笛、琵琶、箏の琴を次々とお習いになった』と、故院も仰せになっていました。世間の人、そのようにお思い申し上げていましたが、絵はやはり筆のついでの慰み半分の余技と存じておりましたが、たいそうこんなに不都合なくらいに、昔の墨描きの名人たちが逃げ出してしまいそうなのは、かえって、とんでもないことです」<BR>⏎ と、酔いに乱れて申し上げなさって、酔い泣きであろうか、故院の御事を申し上げて、皆涙をお流しになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 150-155 | 「幼いころから、学問に心を入れておりましたが、少し学才などがつきそうに御覧になったのでしょうか、故院が仰せになったことに、『学問の才能というものは、世間で重んじられるからであろうか、たいそう学問を究めた人で、長寿と、幸福とが並んだ者は、めったにいないものだ。高い身分に生まれ、そうしなくても人に劣ることのない身分なのだから、むやみにこの道に深入りするな』と、お諌めあそばして、正式な学問以外の芸を教えてくださいましたが、出来の悪いものもなく、また特にこのことはと上達したこともございませんでした。<BR>⏎ ただ,絵を描くことだけが、妙なつまらないことですが、どうしたら心のゆくほど描けるだろうかと、思う折々がございましたが、思いもよらない賤しい身の上となって、四方の海の深い趣を見ましたので、まったく思い至らぬ所のないほど会得できましたが、絵筆で描くにはは限界がありまして、心で思うとおりには事の運ばぬように存じられましたが、機会がなくて、御覧に入れるわけにも行きませんので、このように物好きのようなのは、後々に噂が立ちましょうか」<BR>⏎ と,親王に申し上げなさると、<BR>⏎ 「何の芸道も、心がこもっていなくては習得できるものではありませんが、それぞれの道に師匠がいて、学びがいのあるようなものは、度合の深さ浅さは別として、自然と学んだだけの事は後に残るでしょう。書画の道と碁を打つことは、不思議と天分の差が現れるもので、深く習練したと思えぬ凡愚の者でも、その天分によって、巧みに描いたり打ったりする者も出て来ますが、名門の子弟の中には、やはり抜群の人がいて、何事にも上達すると見えました。<BR>⏎ 故院のお膝もとで、親王たち,内親王,どなたも いろいろさまざまなお稽古事を習わさせなかったことがありましょうか。その中でも、特にご熱心になって、伝授を受けご習得なさった甲斐があって、『詩文の才能は言うまでもなく、それ以外のことの中では、琴の琴をお弾きになることが第一番で、次には、横笛、琵琶、箏の琴を次々とお習いになった』と、故院も仰せになっていました。世間の人、そのようにお思い申し上げていましたが、絵はやはり筆のついでの慰み半分の余技と存じておりましたが、たいそうこんなに不都合なくらいに、昔の墨描きの名人たちが 逃げ出してしまいそうなのは、かえって、とんでもないことです」<BR>⏎ と,酔いに乱れて申し上げなさって、酔い泣きであろうか、故院の御事を申し上げて、皆涙をお流しになった。<BR>⏎ |
| version17 | 180 | <A NAME="in42">[第二段 光る源氏体制の夜明け]</A><BR> | 156 | |
| d1 | 183 | <P>⏎ | ||
| version17 | 184 | <A NAME="in43">[第三段 冷泉朝の盛世]</A><BR> | 159 | |
| c2 | 189-190 | とお申し上げさせになる。主上におかせられても、御満足に思し召していらっしゃるのを、嬉しくお思い申し上げなさる。<BR>⏎ ちょっとしたことにつけても、このようにお引き立てになるので、権中納言は、「やはり、世間の評判も圧倒されるのではなかろうか」と、悔しくお思いのようである。主上の御愛情は、初めから馴染んでいらっしゃったので、やはり、御寵愛厚い御様子を、人知れず拝見し存じ上げていらっしゃったので、頼もしく思い、「いくら何でも」とお思になるのであった。<BR>⏎ | 164-165 | とお申し上げさせになる。主上におかせられても,御満足に思し召していらっしゃるのを、嬉しくお思い申し上げなさる。<BR>⏎ ちょっとしたことにつけても、このようにお引き立てになるので、権中納言は、「やはり,世間の評判も圧倒されるのではなかろうか」と、悔しくお思いのようである。主上の御愛情は、初めから馴染んでいらっしゃったので、やはり,御寵愛厚い御様子を、人知れず拝見し存じ上げていらっしゃったので、頼もしく思い、「いくら何でも」とお思になるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 192 | <P>⏎ | ||
| version17 | 193 | <A NAME="in44">[第四段 嵯峨野に御堂を建立]</A><BR> | 167 | |
| cd3:1 | 195-197 | 「昔の例を見たり聞いたりするにも、若くして高位高官に昇り、世に抜きん出てしまった人で、長生きはできないものなのだ。この御代では、身のほど過ぎてしまった。途中で零落して悲しい思いをした代わりに、今まで生き永らえたのだ。今後の栄華は、やはり命が心配である。静かに引き籠もって、後の世のことを勤め、また一方では寿命を延ばそう」とお思いになって、山里の静かな所を手に入れて、御堂をお造らせになり、仏像や経巻のご準備をさせていらっしゃるらしいけれども、幼少のお子たちを、思うようにお世話しようとお思いになるにつけても、早く出家するのは、難しそうである。どのようにお考えなのかと、まことに分からない。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 169 | 「昔の例を見たり聞いたりするにも、若くして 高位高官に昇り、世に抜きん出てしまった人で、長生きはできないものなのだ。この御代では、身のほど過ぎてしまった。途中で零落して悲しい思いをした代わりに、今まで生き永らえたのだ。今後の栄華は、やはり命が心配である。静かに引き籠もって、後の世のことを勤め、また一方では寿命を延ばそう」とお思いになって、山里の静かな所を手に入れて、御堂をお造らせになり、仏像や経巻のご準備をさせていらっしゃるらしいけれども、幼少のお子たちを、思うようにお世話しようとお思いになるにつけても、早く出家するのは、難しそうである。どのようにお考えなのかと、まことに分からない。<BR>⏎ |
| d1 | 204 | ⏎ | ||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version18 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 45 | <P>⏎ | ||
| version18 | 46 | <H4>第一章 明石の物語 上洛と老夫婦の別れの秋</H4> | 42 | |
| version18 | 47 | <A NAME="in11">[第一段 二条東院の完成、明石に上洛を促す]</A><BR> | 43 | |
| ci5:7 | 48-52 | 東の院を建築して、花散里と申し上げた方を、お移しになる。西の対、渡殿などにかけて、政所、家司など、しかるべき状態にお設けになる。東の対は、明石の御方をとお考えになっていた。北の対は、特別に広くお造りになって、一時的にせよ、ご愛情をお持ちになって、将来までもと約束なさり心頼りにおさせにった女性たちが一緒に住めるようにと、部屋部屋を仕切ってお造りになっているのも、感じがよく、見所があって、行き届いている。寝殿はお当てがいなさらず、時々ごお渡りになる時のお住まいにして、そのような設備をなさっていた。<BR>⏎ 明石にはお便りを絶えず遣わして、今はもうぜひとも上京なさるようにとおっしゃるが、女は、やはり、わが身のほどが分かっているので、<BR>⏎ 「この上なく高貴な身分の女性でさえ、縁がすっかり切れるでないご様子の冷淡さを見ながら、かえって、物思いを募らせていると聞くのに、まして、どれほども世間から重んじられているわけでもない者が、その中へ入って行けようか。この若君の不面目になり、賤しい身の上が現れてしまおう。まれまれにこっそりお渡りになる機会を待つことになって、物笑いの種になり、引っ込みがつかなくなること、どんなであろう」<BR>⏎ と思い乱れても、又一方では、そうかといって、このような明石の田舎の地に生まれて、お子として認めてもらえないのも、ひどくかわいそうなので、一途に恨んだり背いたりすることもできない。両親も、「なるほど、もっともなことだ」と嘆いて、かえって、気苦労の限りをし尽くすのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 44-50 | 東の院を建築して、花散里と申し上げた方を、お移しになる。西の対、渡殿などにかけて、政所、家司など、しかるべき状態にお設けになる。<BR>⏎ 東の対は、明石の御方をとお考えになっていた。<BR>⏎ 北の対は、特別に広くお造りになって、一時的にせよ、ご愛情をお持ちになって、将来までもと約束なさり心頼りにおさせにった女性たちが一緒に住めるようにと、部屋部屋を仕切ってお造りになっているのも、感じがよく見所があって行き届いている。<BR>⏎ 寝殿はお当てがいなさらず、時々ごお渡りになる時のお住まいにして、そのような設備をなさっていた。<BR>⏎ 明石にはお便りを絶えず遣わして、今はもうぜひとも上京なさるようにとおっしゃるが、女は、やはり,わが身のほどが分かっているので、<BR>⏎ 「この上なく高貴な身分の女性でさえ、縁がすっかり切れるでないご様子の冷淡さを見ながら、かえって物思いを募らせていると聞くのに、まして,どれほども世間から重んじられているわけでもない者が、その中へ入って行けようか。この若君の不面目になり、賤しい身の上が現れてしまおう。まれまれにこっそりお渡りになる機会を待つことになって、物笑いの種になり、引っ込みがつかなくなること、どんなであろう」<BR>⏎ と思い乱れても、又一方では,そうかといって、このような明石の田舎の地に生まれて、お子として認めてもらえないのも、ひどくかわいそうなので、一途に恨んだり背いたりすることもできない。両親も、「なるほど,もっともなことだ」と嘆いて、かえって、気苦労の限りをし尽くすのであった。<BR>⏎ |
| version18 | 53 | <A NAME="in12">[第二段 明石方、大堰の山荘を修理]</A><BR> | 51 | |
| c1 | 54 | 昔、母君の祖父で、中務宮と申し上げた方が所領なさっていた所が、大堰川の近くにあったのを、その後は、しっかりと引き継ぐ人もいなくて、長年荒れていたのを思い出して、あの当時から代々留守番のような役をしていた人を呼び迎えて相談する。<BR>⏎ | 52 | 昔,母君の祖父で、中務宮と申し上げた方が所領なさっていた所が、大堰川の近くにあったのを、その後は、しっかりと引き継ぐ人もいなくて、長年荒れていたのを思い出して、あの当時から代々留守番のような役をしていた人を呼び迎えて相談する。<BR>⏎ |
| c2 | 57-58 | 「長年、ご領主様もいらっしゃらず、ひどいようになっておりますので、下屋を繕って住んでおりますが、今年の春頃から、内大臣殿がご建立なさっている御堂が近いので、あの近辺は、とても騒々しくなっております。立派な御堂をいくつも建立して、大勢の人々が造営にあたっているようでございます。静かなのがご希望ならば、あそこは適当ではございません」<BR>⏎ 「何、かまわぬ。このことも、あの殿のご庇護に、お頼りしようと思うことがあってのことだ。いずれ、おいおいと内部の修理はしよう。まずは、急いでだいたいの修理をしてほしい」<BR>⏎ | 55-56 | 「長年、ご領主様もいらっしゃらず、ひどいようになっておりますので、下屋を繕って住んでおりますが、今年の春頃から、内大臣殿がご建立なさっている御堂が近いので、あの近辺は、とても騒々しくなっております。立派な御堂をいくつも建立して、大勢の人々が、造営にあたっているようでございます。静かなのがご希望ならば、あそこは適当ではございません」<BR>⏎ 「何、かまわぬ。このことも,あの殿のご庇護に、お頼りしようと思うことがあってのことだ。いずれ,おいおいと内部の修理はしよう。まずは,急いでだいたいの修理をしてほしい」<BR>⏎ |
| c2 | 61-62 | などと、その収穫したものを心配そうに思って、髭だらけの憎々しい顔をして、鼻などを赤くしいしい、口をとがらせて言うので、<BR>⏎ 「まったく、その田畑などのようなことは、こちらでは問題にするつもりはない。ただこれまで通りに思って使用するがよい。証書などはここにあるが、まったく世を捨てた身なので、長年どうなっていたか調べなかったが、そのことも今詳しくはっきりさせよう」<BR>⏎ | 59-60 | などと,その収穫したものを心配そうに思って、髭だらけの憎々しい顔をして、鼻などを赤くしいしい、口をとがらせて言うので、<BR>⏎ 「まったく,その田畑などのようなことは、こちらでは問題にするつもりはない。ただこれまで通りに思って使用するがよい。証書などはここにあるが、まったく世を捨てた身なので、長年どうなっていたか調べなかったが、そのことも今詳しくはっきりさせよう」<BR>⏎ |
| d1 | 64 | <P>⏎ | ||
| version18 | 65 | <A NAME="in13">[第三段 惟光を大堰に派遣]</A><BR> | 62 | |
| c2 | 67-68 | 惟光朝臣、例によって、内緒事にはいつに限らず関係してお勤めする人なので、お遣わしになって、しかるべきさまにあれこれの準備などをおさせになるのであった。<BR>⏎ 「付近一帯、趣のある所で、海辺に似た感じの所でございました」<BR>⏎ | 64-65 | 惟光朝臣、例によって、内緒事にはいつに限らず関係してお勤めする人なので、お遣わしになって、しかるべきさまに、あれこれの準備などをおさせになるのであった。<BR>⏎ 「付近一帯,趣のある所で、海辺に似た感じの所でございました」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 71-72 | こちらは、大堰川に面していて、何とも言えぬ風趣ある松蔭に、何の工夫も凝らさずに建てた寝殿の簡素な様子も、自然と山里のしみじみとした情趣が感じられる。内部の装飾などまでご配慮なさっている。<BR>⏎ <P>⏎ | 68 | こちらは,大堰川に面していて、何とも言えぬ風趣ある松蔭に、何の工夫も凝らさずに建てた寝殿の簡素な様子も、自然と山里のしみじみとした情趣が感じられる。内部の装飾などまでご配慮なさっている。<BR>⏎ |
| version18 | 73 | <A NAME="in14">[第四段 腹心の家来を明石に派遣]</A><BR> | 69 | |
| cd5:4 | 74-78 | 親しい側近たちを、たいそう内密にお下し遣わしなさる。断わりようもなくて、いよいよ上京と思うと、長年住み慣れた明石の浦を去ること、しみじみとして、入道が心細く独り残るだろうことを思い悩んで、いろいろと悲しい気がする。「何につけても、どうして、こう、心をくだくことになったわが身の上なのだろうか」と、お恵みのかからない人々が羨ましく思われる。<BR>⏎ 両親も、このようなお迎えを受けて上京する幸いは、長年寝ても覚めても、願い続けていた本望が叶うのだと、たいそう嬉しいけれど、お互いに一緒に暮らせない気がかりが堪えきれず悲しいので、昼夜ぼんやりして、同じようなことばかり、「そうなると、若君にお目にかかれず、過すことになるのか」と言うこと以外、言葉がない。<BR>⏎ 母君も、たいそう切ない気持ちである。今まででさえ、同じ庵に住まずに離れていたので、まして誰を頼りとして留まっていられようか。ただ、かりそめの契りを交わした人の浅い関係であってさえ、いったん馴染んだ末に、別れることは、一通りのものでないようだが、まして、変な恰好の頭や、気質は頼りになりそうにないが、またその方面で、「この土地こそは、一生を終える住まいだ」と、永遠ではない寿命を待つ間の限りを思って、夫婦で暮らして来たのに、急に別れ去るのも、心細い気がする。<BR>⏎ 若い女房たちで、憂鬱な気持ちで塞ぎこんでいた者は、嬉しく思う一方で、見捨て難い浜辺の風景を、「もう再びと、帰ってくることもあるまい」と、寄せては返す波に思いを寄せて、涙に袖が濡れがちである。<BR>⏎ <P>⏎ | 70-73 | 親しい側近たちを、たいそう内密にお下し遣わしなさる。断わりようもなくて、いよいよ上京と思うと、長年住み慣れた明石の浦を去ること、しみじみとして、入道が心細く独り残るだろうことを思い悩んで、いろいろと悲しい気がする。「何につけても、どうして,こう,心をくだくことになったわが身の上なのだろうか」と、お恵みのかからない人々が羨ましく思われる。<BR>⏎ 両親も、このようなお迎えを受けて上京する幸いは、長年寝ても覚めても、願い続けていた本望が叶うのだと、たいそう嬉しいけれど、お互いに一緒に暮らせない気がかりが堪えきれず悲しいので、昼夜ぼんやりして、同じようなことばかり、「そうなると,若君にお目にかかれず、過すことになるのか」と言うこと以外言葉がない。<BR>⏎ 母君も、たいそう切ない気持ちである。今まででさえ、同じ庵に住まずに離れていたので、まして誰を頼りとして、留まっていられようか。ただ,かりそめの契りを交わした人の浅い関係であってさえ、いったん馴染んだ末に、別れることは、一通りのものでないようだが、まして,変な恰好の頭や、気質は頼りになりそうにないが、またその方面で、「この土地こそは、一生を終える住まいだ」と、永遠ではない寿命を待つ間の限りを思って、夫婦で暮らして来たのに、急に別れ去るのも心細い気がする。<BR>⏎ 若い女房たちで、憂鬱な気持ちで塞ぎこんでいた者は、嬉しく思う一方で、見捨て難い浜辺の風景を、「もう再びと,帰ってくることもあるまい」と、寄せては返す波に思いを寄せて、涙に袖が濡れがちである。<BR>⏎ |
| version18 | 79 | <A NAME="in15">[第五段 老夫婦、父娘の別れの歌]</A><BR> | 74 | |
| cd3:2 | 81-83 | 若君は、とてもとてもかわいらしい感じで、あの夜光ったという玉のような心地がして、袖から外にお放し申さなかったが、見慣れてつきまとっていらっしゃる心根など、不吉なまでに、こう、通常の人と違ってしまった身をいまいましく思いながら、「片時も拝見しなくては、どのようにして過ごしてゆけようか」と、我慢しきれない。<BR>⏎ 「姫君の将来がご幸福であれと祈る別れに際して<BR>⏎ 堪えきれないのは老人の涙であるよ<BR>⏎ | 76-77 | 若君は、とてもとてもかわいらしい感じで、あの夜光ったという玉のような心地がして、袖から外にお放し申さなかったが、見慣れてつきまとっていらっしゃる心根など、不吉なまでに、こう,通常の人と違ってしまった身をいまいましく思いながら、「片時も拝見しなくては、どのようにして過ごしてゆけようか」と、我慢しきれない。<BR>⏎ 「姫君の将来がご幸福であれと祈る別れに際して<BR> 堪えきれないのは老人の涙であるよ<BR>⏎ |
| cd6:4 | 85-90 | と言って、涙を拭って隠す。尼君、<BR>⏎ 「ご一緒に都を出て来ましたが、今度の旅は<BR>⏎ 一人で都へ帰る野中の道で迷うことでしょう」<BR>⏎ と言って、お泣きになる様子、まことに無理はない。長年契り交わしてきた年月のほどを思うと、このように当てにならないことを当てにして、捨てた都の生活に帰るのも、考えてみると頼りないことである。御方、<BR>⏎ 「京へ行って生きて再びお会いできることをいつと思って<BR>⏎ 限りも分からない寿命を頼りにできましょうか<BR>⏎ | 79-82 | と言って,涙を拭って隠す。尼君、<BR>⏎ 「ご一緒に都を出て来ましたが、今度の旅は<BR> 一人で都へ帰る野中の道で迷うことでしょう」<BR>⏎ と言って,お泣きになる様子、まことに無理はない。長年契り交わしてきた年月のほどを思うと、このように当てにならないことを当てにして、捨てた都の生活に帰るのも、考えてみると頼りないことである。御方、<BR>⏎ 「京へ行って生きて再びお会いできることをいつと思って<BR> 限りも分からない寿命を頼りにできましょうか<BR>⏎ |
| d1 | 93 | <P>⏎ | ||
| version18 | 94 | <A NAME="in16">[第六段 明石入道の別離の詞]</A><BR> | 85 | |
| c3 | 95-97 | 「世の中を捨てた当初に、このような見知らぬ国に決意して下って来ましたことども、ただあなたの御ためにと、思いどおりに朝晩のお世話も満足にできようかと、決心致したのですが、わが身の不運な身分が思い知らされることが多かったので、絶対に、都に帰って、古受領の落ちぶれた類となって、貧しい家の蓬や葎の様子が、元の状態に改まることもないものから、公私につけて、馬鹿らしい名を広めて、亡き親の名誉を辱めることの堪らなさに、そのまま世を捨てる門出であったのだと、世間の人にも知られてしまったが、そのことについては、よく思い切ったと思っていましたが、あなたがだんだんとご成長なさり、物ごとが分かってくるようになると、どうして、こんなつまらない田舎に錦をお隠し申しておくのかと、親の心の闇の晴れる間もなくずっと嘆いておりましたが、仏神にご祈願申して、いくら何でも、このように不甲斐ない身の上に巻き添えになって、田舎の生活を一緒にはなさるまい、と思う心を独り持って期待していましたが、思いがけなく、嬉しいことを拝見しましてこのかたも、かえって身の程を、あれこれと悲しく嘆いていましたが、若君がこのようにお生まれになったご因縁の頼もしさに、このような海辺で月日を送っていらっしゃるのも、たいそうもったいなく、宿縁も格別に存じられますので、お目にかかれない悲しさは、鎮めがたい気がするが、わが身は永遠に世を捨てた覚悟がございます。あなたたちは、世の中をお照らしになる光明がはっきりしているので、しばらくの間、このような田舎者の心をお乱しになるほどのご宿縁があったのでしょう。天上界に生まれる人でも、いまわしい三悪道に帰るようなのも一時のことと思いなぞらえて、今日、永遠にお別れ申し上げます。寿命が尽きたとお聞きになっても、死後のこと、お考えくださるな。逃れられない別れに、お心を動かしなさるな」と言い切る一方で、「煙となろう夕べまで、若君のことを、六時の勤めにも、やはり未練がましく、きっとお祈りにお加え申し上げることであろう」<BR>⏎ と言って、自分の言葉に、涙ぐんでしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 86-88 | 「世の中を捨てた当初に、このような見知らぬ国に決意して下って来ましたことども、ただあなたの御ためにと、思いどおりに朝晩のお世話も満足にできようかと、決心致したのですが、わが身の不運な身分が思い知らされることが多かったので、絶対に,都に帰って、古受領の落ちぶれた類となって、貧しい家の蓬や葎の様子が、元の状態に改まることもないものから、公私につけて、馬鹿らしい名を広めて、亡き親の名誉を辱めることの堪らなさに、そのまま世を捨てる門出であったのだと世間の人にも知られてしまったが、そのことについては、よく思い切ったと思っていましたが、あなたがだんだんとご成長なさり、物ごとが分かってくるようになると、どうして,こんなつまらない田舎に錦をお隠し申しておくのかと、親の心の闇の晴れる間もなくずっと嘆いておりましたが、仏神にご祈願申して、いくら何でも、このように不甲斐ない身の上に巻き添えになって、田舎の生活を一緒にはなさるまい、と思う心を独り持って期待していましたが、<BR>⏎ 思いがけなく、嬉しいことを拝見しましてこのかたも、かえって身の程を、あれこれと悲しく嘆いていましたが、若君がこのようにお生まれになったご因縁の頼もしさに、このような海辺で月日を送っていらっしゃるのも、たいそうもったいなく、宿縁も格別に存じられますので、お目にかかれない悲しさは、鎮めがたい気がするが、わが身は永遠に世を捨てた覚悟がございます。あなたたちは、世の中をお照らしになる光明がはっきりしているので、しばらくの間,このような田舎者の心をお乱しになるほどのご宿縁があったのでしょう。天上界に生まれる人でも、いまわしい三悪道に帰るようなのも一時のことと思いなぞらえて、今日、永遠にお別れ申し上げます。寿命が尽きたとお聞きになっても、死後のことお考えくださるな。逃れられない別れに、お心を動かしなさるな」と言い切る一方で、「煙となろう夕べまで、若君のことを、六時の勤めにも、やはり未練がましく、きっとお祈りにお加え申し上げることであろう」<BR>⏎ と言って,自分の言葉に、涙ぐんでしまった。<BR>⏎ |
| version18 | 98 | <A NAME="in17">[第七段 明石一行の上洛]</A><BR> | 89 | |
| cd2:1 | 100-101 | 「彼岸の浄土に思いを寄せていた尼のわたしが<BR>⏎ 捨てた都の世界に帰って行くのだわ」<BR>⏎ | 91 | 「彼岸の浄土に思いを寄せていた尼のわたしが<BR> 捨てた都の世界に帰って行くのだわ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 103-104 | 「何年も秋を過ごし過ごしして来たが<BR>⏎ 頼りない舟に乗って都に帰って行くのでしょう」<BR>⏎ | 93 | 「何年も秋を過ごし過ごしして来たが<BR> 頼りない舟に乗って都に帰って行くのでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 106 | <P>⏎ | ||
| version18 | 107 | <H4>第二章 明石の物語 上洛後、源氏との再会</H4> | 95 | |
| version18 | 108 | <A NAME="in21">[第一段 大堰山荘での生活始まる]</A><BR> | 96 | |
| cd2:1 | 109-110 | 山荘の様子も風情あって、長年住み慣れた海辺に似ていたので、場所が変わった気もしない。⏎ 昔のことが自然と思い出されて、しみじみと感慨を催すことが多かった。造り加えた廊など、風流な様子で、遣水の流れも風流に作ってあった。まだ細かな造作は出来上がっていないが、住み慣れればそのままでも住めるであろう。<BR>⏎ | 97 | 山荘の様子も風情あって、長年住み慣れた海辺に似ていたので、場所が変わった気もしない。昔のことが自然と思い出されて、しみじみと感慨を催すことが多かった。造り加えた廊など、風流な様子で、遣水の流れも風流に作ってあった。まだ細かな造作は出来上がっていないが、住み慣れればそのままでも住めるであろう。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 112-114 | かえって物思いの日々が続いて、捨てた家も恋しく、所在ないので、あのお形見の琴の琴を弾き鳴らす。折柄、たいそう堪えがたいので、人里から離れた所で、気ままに少し弾いてみると、松風がきまりわるいほど音を合わせて吹いてきた。尼君、もの悲しそうに物に寄り掛かっていらっしゃったが、起き上がって、<BR>⏎ 「尼姿となって一人帰ってきた山里に<BR>⏎ 昔聞いたことがあるような松風が吹いている」<BR>⏎ | 99-100 | かえって物思いの日々が続いて、捨てた家も恋しく、所在ないので、あのお形見の琴の琴を弾き鳴らす。折柄、たいそう堪えがたいので、人里から離れた所で気ままに少し弾いてみると、松風がきまりわるいほど音を合わせて吹いてきた。尼君、もの悲しそうに物に寄り掛かっていらっしゃったが、起き上がって、<BR>⏎ 「尼姿となって一人帰ってきた山里に<BR> 昔聞いたことがあるような松風が吹いている」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 116-118 | 「故里で昔親しんだ人を恋い慕って弾く<BR>⏎ 田舎びた琴の音を誰が分かってくれようか」<BR>⏎ <P>⏎ | 102 | 「故里で昔親しんだ人を恋い慕って弾く<BR> 田舎びた琴の音を誰が分かってくれようか」<BR>⏎ |
| version18 | 119 | <A NAME="in22">[第二段 大堰山荘訪問の暇乞い]</A><BR> | 103 | |
| c1 | 121 | 「桂に用事がございますが、いやはや、心ならずも日が過ぎてしまった。訪問しようと約束した人までが、あの辺り近くに来ていて、待っているというので、気の毒でなりません。嵯峨野の御堂にも、まだ飾り付けのできていない仏像のお世話をしなければなりませんので、二三日は逗留することになりましょう」<BR>⏎ | 105 | 「桂に用事がございますが、いやはや,心ならずも日が過ぎてしまった。訪問しようと約束した人までが、あの辺り近くに来ていて、待っているというので、気の毒でなりません。嵯峨野の御堂にも、まだ飾り付けのできていない仏像のお世話をしなければなりませんので、二,三日は逗留することになりましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 125 | <P>⏎ | ||
| version18 | 126 | <A NAME="in23">[第三段 源氏と明石の再会]</A><BR> | 109 | |
| c1 | 127 | ひっそりと、御前駆の親しくない者は加えないで、十分気を配っておいでになった。黄昏時にお着きになった。狩衣のご装束で質素になさっていたお姿でさえ、またとなく美しい心地がしたのに、なおさらのこと、そのお心づかいをして装っていらっしゃる御直衣姿、世になく優美でまぶしい気がするので、嘆き悲しんでいた心の闇も晴れるようである。<BR>⏎ | 110 | ひっそりと、御前駆の親しくない者は加えないで、十分気を配っておいでになった。黄昏時にお着きになった。狩衣のご装束で質素になさっていたお姿でさえ、またとなく美しい心地がしたのに、なおさらのこと,そのお心づかいをして装っていらっしゃる御直衣姿、世になく優美でまぶしい気がするので、嘆き悲しんでいた心の闇も晴れるようである。<BR>⏎ |
| c2 | 129-130 | 「大殿腹の若君をかわいらしいと、世間の人がもてはやすのは、やはり時流におもねってそのように見做すのであった。こんなふうに、優れた人の将来は、今からはっきりしているものを」<BR>⏎ と、微笑んでいる顔の無邪気さが、愛くるしく、つややかなのを、たいそうかわいらしいとお思いになる。<BR>⏎ | 112-113 | 「大殿腹の若君をかわいらしいと、世間の人がもてはやすのは、やはり時流におもねって そのように見做すのであった。こんなふうに、優れた人の将来は,今からはっきりしているものを」<BR>⏎ と,微笑んでいる顔の無邪気さが、愛くるしく、つややかなのを、たいそうかわいらしいとお思いになる。<BR>⏎ |
| c1 | 132 | 「ここでも、たいそう人里離れて、出向いて来ることも難しいので、やはり、あのかねて考えてある所にお引っ越しなさいませ」<BR>⏎ | 115 | 「ここでも、たいそう人里離れて、出向いて来ることも難しいので、やはり,あのかねて考えてある所にお引っ越しなさいませ」<BR>⏎ |
| d1 | 136 | <P>⏎ | ||
| version18 | 137 | <A NAME="in24">[第四段 源氏、大堰山荘で寛ぐ]</A><BR> | 119 | |
| c2 | 140-141 | などと、昔のこともお口に出しになさって、泣いたり笑ったりして、くつろいでお話になっているのが、実に素晴らしい。<BR>⏎ 尼君、のぞいて拝すると、老いも忘れて、物思いも晴れるような心地がして、思わずにっこりしてしまった。<BR>⏎ | 122-123 | などと,昔のこともお口に出しになさって、泣いたり笑ったりして、くつろいでお話になっているのが、実に素晴らしい。<BR>⏎ 尼君、のぞいて拝すると、老いも忘れて、物思いも晴れるような心地がして,思わずにっこりしてしまった。<BR>⏎ |
| c3 | 144-146 | とおっしゃって、御直衣をお取り寄せになって、お召しになる。几帳の側にお近寄りになって、<BR>⏎ 「罪を軽めてお育てなさった、その人の原因は、お勤行のほどをありがたくお思い申し上げます。たいそう深く心を澄まして住んでいらっしゃったお家を捨てて、憂き世にお帰りになられたお気持ち、深く感謝します。またあちらには、どのように居残って、こちらを思っていらっしゃるのだろうと、あれこれと思われることです」<BR>⏎ と、たいそう優しくおっしゃる。<BR>⏎ | 126-128 | とおっしゃって,御直衣をお取り寄せになって、お召しになる。几帳の側にお近寄りになって、<BR>⏎ 「罪を軽めてお育てなさった、その人の原因は、お勤行のほどをありがたく お思い申し上げます。たいそう深く心を澄まして住んでいらっしゃったお家を捨てて、憂き世にお帰りになられたお気持ち、深く感謝します。またあちらには、どのように居残って、こちらを思っていらっしゃるのだろうと、あれこれと思われることです」<BR>⏎ と,たいそう優しくおっしゃる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 149-150 | 「かつて住み慣れていたわたしは帰って来て、昔のことを思い出そうとするが<BR>⏎ 遣水はこの家の主人のような昔ながらの音を立てています」<BR>⏎ | 131 | 「かつて住み慣れていたわたしは帰って来て、昔のことを思い出そうとするが<BR> 遣水はこの家の主人のような昔ながらの音を立てています」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 152-156 | 「小さな遣水は昔のことも忘れないのに<BR>⏎ もとの主人は姿を変えてしまったからであろうか<BR>⏎ ああ、懐かしい」<BR>⏎ と、ちょっと眺めて、お立ちになる姿、美しさを、世の中に見たこともない、とばかり思い申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 133-135 | 「小さな遣水は昔のことも忘れないのに<BR> もとの主人は姿を変えてしまったからであろうか<BR>⏎ ああ,懐かしい」<BR>⏎ と,ちょっと眺めて、お立ちになる姿,美しさを、世の中に見たこともない、とばかり思い申し上げる。<BR>⏎ |
| version18 | 157 | <A NAME="in25">[第五段 嵯峨御堂に出向き大堰山荘に宿泊]</A><BR> | 136 | |
| c1 | 158 | お寺にお出向きになって、毎月の十四、五日、晦日の日行われるはずの普賢講、阿彌陀、釈迦の念仏の三昧のことは言うまでもなく、さらにまたお加えになるべきことなど、お定めさせなさる。堂の飾り付け、仏像の道具類、お触れを回してお命じになる。月の明るいうちにお戻りになる。<BR>⏎ | 137 | お寺にお出向きになって、毎月の十四,五日、晦日の日、行われるはずの普賢講,阿彌陀,釈迦の念仏の三昧のことは言うまでもなく、さらにまたお加えになるべきことなど、お定めさせなさる。堂の飾り付け、仏像の道具類、お触れを回してお命じになる。月の明るいうちにお戻りになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 160-161 | 「約束したとおり、琴の調べのように変わらない<BR>⏎ わたしの心をお分かりいただけましたか」<BR>⏎ | 139 | 「約束したとおり、琴の調べのように変わらない<BR> わたしの心をお分かりいただけましたか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 163-165 | 「変わらないと約束なさったことを頼みとして<BR>⏎ 松風の音に泣く声を添えていました」<BR>⏎ と詠み交わし申し上げたのも、不釣り合いでないのは、身に余る幸せのようである。すっかりと立派になった器量、雰囲気、とても見捨てがたく、若君、言うまでもなく、いつまでもじっと見守らずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 141-142 | 「変わらないと約束なさったことを頼みとして<BR> 松風の音に泣く声を添えていました」<BR>⏎ と詠み交わし申し上げたのも、不釣り合いでないのは、身に余る幸せのようである。すっかりと立派になった器量,雰囲気、とても見捨てがたく、若君、言うまでもなく,いつまでもじっと見守らずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 167-168 | とお考えになるが、また一方で、悲しむことも気の毒で、お口に出すこともできず、涙ぐんで御覧になる。幼い心で、少し人見知りしていたが、だんだん打ち解けてきて、何か言ったり笑ったりして、親しみなさるのを見るにつれて、ますます美しくかわいらしく感じられる。抱いていらっしゃる様子、いかにも立派で、将来この上ないと思われた。<BR>⏎ <P>⏎ | 144 | とお考えになるが、また一方で,悲しむことも気の毒で、お口に出すこともできず、涙ぐんで御覧になる。幼い心で、少し人見知りしていたが、だんだん打ち解けてきて、何か言ったり笑ったりして、親しみなさるのを見るにつれて、ますます美しくかわいらしく感じられる。抱いていらっしゃる様子、いかにも立派で、将来この上ないと思われた。<BR>⏎ |
| version18 | 169 | <H4>第三章 明石の物語 桂院での饗宴</H4> | 145 | |
| version18 | 170 | <A NAME="in31">[第一段 大堰山荘を出て桂院に向かう]</A><BR> | 146 | |
| c1 | 173 | と言って、騒がしさにひかれてお出になる。気の毒なので、さりげないふうによそおって立ち止まっていらっしゃる戸口に、乳母が、若君を抱いて出て来た。かわいらしい様子なので、ちょっとお撫でになって、<BR>⏎ | 149 | と言って,騒がしさにひかれてお出になる。気の毒なので、さりげないふうによそおって立ち止まっていらっしゃる戸口に、乳母が、若君を抱いて出て来た。かわいらしい様子なので、ちょっとお撫でになって、<BR>⏎ |
| c1 | 178 | 「不思議と、気苦労の絶えないわが身であるよ。少しの間でもつらい。どこか。どうして、一緒に出て来て、別れを惜しみなさらないのですか。そうしてこそ、人心地もつこうものよ」<BR>⏎ | 154 | 「不思議と、気苦労の絶えないわが身であるよ。少しの間でもつらい。どこか。どうして,一緒に出て来て、別れを惜しみなさらないのですか。そうしてこそ、人心地もつこうものよ」<BR>⏎ |
| c1 | 180 | かえって、物思いに悩んで伏せっていたので、急には起き上がることができない。あまりに貴婦人ぶっているとお思いになった。女房たちも気を揉んでいるので、しぶしぶといざり出て、几帳の蔭に隠れている横顔、たいそう優美で気品があり、しなやかな感じ、皇女といっても十分である。<BR>⏎ | 156 | かえって,物思いに悩んで伏せっていたので、急には起き上がることができない。あまりに貴婦人ぶっているとお思いになった。女房たちも気を揉んでいるので、しぶしぶといざり出て、几帳の蔭に隠れている横顔、たいそう優美で気品があり、しなやかな感じ、皇女といっても十分である。<BR>⏎ |
| c1 | 183 | あの、解任されていた蔵人も、復官していたのであった。靭負尉になって、今年五位に叙されたのであった。昔とは違って、得意気なふうで、御佩刀を取りに近くにやって来た。人影を見つけて、<BR>⏎ | 159 | あの,解任されていた蔵人も、復官していたのであった。靭負尉になって、今年五位に叙されたのであった。昔とは違って、得意気なふうで、御佩刀を取りに近くにやって来た。人影を見つけて、<BR>⏎ |
| c1 | 185 | と、意味ありげに言うので、<BR>⏎ | 161 | と,意味ありげに言うので、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 189-192 | などと、興ざめな思いがするが、<BR>⏎ 「いずれ、改めて」<BR>⏎ と、きっぱり言って、参上した。<BR>⏎ <P>⏎ | 165-167 | などと,興ざめな思いがするが、<BR>⏎ 「いずれ,改めて」<BR>⏎ と,きっぱり言って、参上した。<BR>⏎ |
| version18 | 193 | <A NAME="in32">[第二段 桂院に到着、饗宴始まる]</A><BR> | 168 | |
| c2 | 196-197 | と、ひどくお困りのふうでいっらっしゃる。<BR>⏎ 「昨夜の月には、残念にもお供に遅れてしまったと存じましたので、今朝は、霧の中を参ったのでございます。山の紅葉は、まだのようでございます。野辺の色は、盛りでございました。某の朝臣が、小鷹狩にかかわって遅れてしまいましたが、どうなったことでしょう」<BR>⏎ | 171-172 | と,ひどくお困りのふうでいっらっしゃる。<BR>⏎ 「昨夜の月には、残念にもお供に遅れてしまったと存じましたので、今朝は、霧の中を参ったのでございます。山の紅葉は、まだのようでございます。野辺の色は、盛りでございました。某の朝臣が、小鷹狩にかかわって 遅れてしまいましたが、どうなったことでしょう」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 200-202 | 野原に夜明かしした公達は、小鳥を体裁ばかりに付けた荻の枝など、土産にして参上した。⏎ お杯が何度も廻って、川の近くなので危なっかしいので、酔いに紛れて一日お過ごしになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 175 | 野原に夜明かしした公達は、小鳥を体裁ばかりに付けた荻の枝など、土産にして参上した。お杯が何度も廻って、川の近くなので危なっかしいので、酔いに紛れて一日お過ごしになった。<BR>⏎ |
| version18 | 203 | <A NAME="in33">[第三段 饗宴の最中に勅使来訪]</A><BR> | 176 | |
| c1 | 205 | 弾楽器は、琵琶、和琴ぐらいで、笛は上手な人だけで、季節にふさわしい調子を吹き立てるほどに、川風が吹き合わせて風雅なところに、月が高く上り、何もかもが澄んで感じられる夜がやや更けていったころに、殿上人が、四、五人ほど連れだって参上した。<BR>⏎ | 178 | 弾楽器は、琵琶、和琴ぐらいで、笛は上手な人だけで、季節にふさわしい調子を吹き立てるほどに、川風が吹き合わせて風雅なところに、月が高く上り、何もかもが澄んで感じられる夜がやや更けていったころに、殿上人が、四,五人ほど連れだって参上した。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 208-210 | と仰せになったところ、ここに、このようにご滞留になった由をお聞きあそばして、お手紙があったのであった。お使いは蔵人弁であった。<BR>⏎ 「月が澄んで見える桂川の向こうの里なので<BR>⏎ 月の光をゆっくりと眺められることであろう<BR>⏎ | 181-182 | と仰せになったところ、ここに,このようにご滞留になった由をお聞きあそばして、お手紙があったのであった。お使いは蔵人弁であった。<BR>⏎ 「月が澄んで見える桂川の向こうの里なので<BR> 月の光をゆっくりと眺められることであろう<BR>⏎ |
| cd5:3 | 216-220 | 「桂の里といえば月に近いように思われますが<BR>⏎ それは名ばかりで朝夕霧も晴れない山里です」<BR>⏎ 行幸をお待ち申し上げるお気持ちなのであろう。「月の中に生えている」と朗誦なさる時に、あの淡路島をお思い出しになって、躬恒が「場所柄からであろうか」といぶかしがったという話などを、おっしゃり出したので、しみじみとした酔い泣きする者もいるのであろう。<BR>⏎ 「都に帰って来て手に取るばかり近くに見える月は<BR>⏎ あの淡路島を臨んで遥か遠くに眺めた月と同じ月なのだろうか」<BR>⏎ | 188-190 | 「桂の里といえば月に近いように思われますが<BR> それは名ばかりで朝夕霧も晴れない山里です」<BR>⏎ 行幸をお待ち申し上げるお気持ちなのであろう。「月の中に生えている」と 朗誦なさる時に、あの淡路島をお思い出しになって、躬恒が「場所柄からであろうか」といぶかしがったという話などを、おっしゃり出したので、しみじみとした酔い泣きする者もいるのであろう。<BR>⏎ 「都に帰って来て手に取るばかり近くに見える月は<BR> あの淡路島を臨んで遥か遠くに眺めた月と同じ月なのだろうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 222-223 | 「浮雲に少しの間隠れていた月の光も<BR>⏎ 今は澄みきっているようにいつまでものどかでありましょう」<BR>⏎ | 192 | 「浮雲に少しの間隠れていた月の光も<BR> 今は澄みきっているようにいつまでものどかでありましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 225-226 | 「まだまだご健在であるはずの故院はどこの谷間に<BR>⏎ お姿をお隠しあそばしてしまわれたのだろう」<BR>⏎ | 194 | 「まだまだご健在であるはずの故院はどこの谷間に<BR> お姿をお隠しあそばしてしまわれたのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 231 | <P>⏎ | ||
| version18 | 232 | <H4>第四章 紫の君の物語 嫉妬と姫君への関心</H4> | 199 | |
| version18 | 233 | <A NAME="in41">[第一段 二条院に帰邸]</A><BR> | 200 | |
| c1 | 236 | と言って、お寝みになった。例によって、不機嫌のようでいらしたが、気づかないないふりをして、<BR>⏎ | 203 | と言って,お寝みになった。例によって、不機嫌のようでいらしたが、気づかないないふりをして、<BR>⏎ |
| c1 | 238 | と、お教え申し上げなさる。<BR>⏎ | 205 | と,お教え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 240 | <P>⏎ | ||
| version18 | 241 | <A NAME="in42">[第二段 源氏、紫の君に姫君を養女とする件を相談]</A><BR> | 207 | |
| c5 | 242-246 | その夜は、宮中にご宿直の予定であったが、直らなかったご機嫌を取るために、夜が更けたが退出なさった。先ほどのお返事を持って参った。お隠しになることができず、御覧になる。特別に憎むような点も見えないので、<BR>⏎ 「これ、破り捨ててください。厄介なことだ。このような手紙が散らかっているのも、今では不似合いな年頃になってしまったよ」<BR>⏎ と言って、御脇息に寄り掛かりなさって、お心の中では、実にしみじみといとしく思わずにはいられないので、燈火をふと御覧になって、特に何もおっしゃらない。手紙は広げたままあるが、女君、御覧にならないようなので、<BR>⏎ 「無理して、見て見ぬふりをなさる眼つきが、やっかいですよ」<BR>⏎ と言って、微笑みなさる魅力、あたり一面にこぼれるほどである。<BR>⏎ | 208-212 | その夜は、宮中にご宿直の予定であったが、直らなかったご機嫌を取るために、夜が更けたが 退出なさった。先ほどのお返事を持って参った。お隠しになることができず、御覧になる。特別に憎むような点も見えないので、<BR>⏎ 「これ,破り捨ててください。厄介なことだ。このような手紙が散らかっているのも、今では不似合いな年頃になってしまったよ」<BR>⏎ と言って,御脇息に寄り掛かりなさって、お心の中では、実にしみじみといとしく思わずにはいられないので、燈火をふと御覧になって、特に何もおっしゃらない。手紙は広げたままあるが、女君、御覧にならないようなので、<BR>⏎ 「無理して,見て見ぬふりをなさる眼つきが、やっかいですよ」<BR>⏎ と言って,微笑みなさる魅力、あたり一面にこぼれるほどである。<BR>⏎ |
| c1 | 251 | と言って、少し微笑みなさった。子どもをひどくかわいがるご性格なので、「引き取ってお育てしたい」とお思いになる。<BR>⏎ | 217 | と言って,少し微笑みなさった。子どもをひどくかわいがるご性格なので、「引き取ってお育てしたい」とお思いになる。<BR>⏎ |
| d2 | 253-254 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 261 | ⏎ | ||
| i0 | 229 | |||
| diff | src/original/version19.html | src/modified/version19.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version19 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 54 | <P>⏎ | ||
| version19 | 55 | <H4>第一章 明石の物語 母子の雪の別れ</H4> | 51 | |
| version19 | 56 | <A NAME="in11">[第一段 明石、姫君の養女問題に苦慮する]</A><BR> | 52 | |
| c4 | 58-61 | 「やはり、このまま過すことは、できまい。あの、邸に近い所に移ることを決心なさい」<BR>⏎ と、お勧めになるが、「冷淡な気持ちを多くすっかり見てしまうのも、未練も残らないことになるだろうから、何と恨みを言ったらよいものだろうか」などというように思い悩んでいた。<BR>⏎ 「それでは、この若君を。こうしてばかりいては、不都合なことです。将来に期するところもあるので、恐れ多いことです。対の君も耳にして、いつも見たがっているのですが、しばらくの間馴染ませて、袴着の祝いなども、ひっそりとではなく催そうと思う」<BR>⏎ と、真剣にご相談になる。「きっとそのようにおっしゃるだろう」とかねて思っていたことなので、ますます胸がつぶれる思いがした。<BR>⏎ | 54-57 | 「やはり,このまま過すことは、できまい。あの,邸に近い所に移ることを決心なさい」<BR>⏎ と,お勧めになるが、「冷淡な気持ちを多くすっかり見てしまうのも、未練も残らないことになるだろうから、何と恨みを言ったらよいものだろうか」などというように思い悩んでいた。<BR>⏎ 「それでは,この若君を。こうしてばかりいては、不都合なことです。将来に期するところもあるので、恐れ多いことです。対の君も耳にして、いつも見たがっているのですが、しばらくの間馴染ませて、袴着の祝いなども、ひっそりとではなく催そうと思う」<BR>⏎ と,真剣にご相談になる。「きっとそのようにおっしゃるだろう」とかねて思っていたことなので、ますます胸がつぶれる思いがした。<BR>⏎ |
| cd6:5 | 63-68 | と言って、手放しがたく思っているのは、もっともなことではあるが、<BR>⏎ 「安心できない取り扱いを受けやしまいかなどと、決してお疑いなさいますな。あちらには、何年にもなるのに、このような子どももいないのが、淋しい気がするので、前斎宮の大きくおなりでいらしゃるのをさえ、無理に親代わりのお世話申しているようなので、まして、このようにあどけない年頃の人を、いいかげんなお世話はしない性格です」<BR>⏎ などと、女君のご様子が申し分ないことをお話になる。<BR>⏎ 「ほんとに、昔は、どれほどの方に落ち着かれるのだろうかと、噂にちらっと聞いたご好色心がすっかりお静まりになったのは、並大抵のご宿縁ではなく、お人柄のご様子もおおぜいの方々の中でも優れていらっしゃるからこそだろう」と想像されて、「一人前でもない者がご一緒させていただける扱いでもないのに、それにもかかわらず、さし出たら、あの方も身の程知らずなと、お思いになるやも知れぬ。自分の身は、どうなっても同じこと。将来のある姫君のお身の上も、ゆくゆくは、あの方のお心次第であろう。そうとならば、なるほどこのように無邪気な間にお譲り申し上げようかしら」と思う。<BR>⏎ また一方では、「手放したら、不安でたまらないだろうこと。所在ない気持ちを慰めるすべもなくなっては、どのようにして毎日を暮らしてゆけようか。何を目当てとして、たまさかのお立ち寄りがあるだろうか」などと、さまざまに思い悩むにつけ、身の上のつらいこと、際限がない。<BR>⏎ <P>⏎ | 59-63 | と言って,手放しがたく思っているのは、もっともなことではあるが、<BR>⏎ 「安心できない取り扱いを受けやしまいかなどと、決してお疑いなさいますな。あちらには、何年にもなるのに、このような子どももいないのが、淋しい気がするので、前斎宮の大きくおなりでいらしゃるのをさえ、無理に親代わりのお世話申しているようなので、まして,このようにあどけない年頃の人を、いいかげんなお世話はしない性格です」<BR>⏎ などと,女君のご様子が申し分ないことをお話になる。<BR>⏎ 「ほんとに,昔は、どれほどの方に落ち着かれるのだろうかと、噂にちらっと聞いたご好色心が すっかりお静まりになったのは、並大抵のご宿縁ではなく、お人柄のご様子も おおぜいの方々の中でも優れていらっしゃるからこそだろう」と想像されて、「一人前でもない者がご一緒させていただける扱いでもないのに、それにもかかわらず,さし出たら、あの方も身の程知らずなと、お思いになるやも知れぬ。自分の身は、どうなっても同じこと。将来のある姫君のお身の上も、ゆくゆくは、あの方のお心次第であろう。そうとならば、なるほどこのように無邪気な間にお譲り申し上げようかしら」と思う。<BR>⏎ また一方では,「手放したら、不安でたまらないだろうこと。所在ない気持ちを慰めるすべもなくなっては、どのようにして毎日を暮らしてゆけようか。何を目当てとして、たまさかのお立ち寄りがあるだろうか」などと、さまざまに思い悩むにつけ、身の上のつらいこと、際限がない。<BR>⏎ |
| version19 | 69 | <A NAME="in12">[第二段 尼君、姫君を養女に出すことを勧める]</A><BR> | 64 | |
| ci1:2 | 71 | 「つまりません。お目にかかれないことは、とても胸の痛いことにちがいありませんが、結局は、姫君の御ためによいことだろうことを考えなさい。浅いお考えでおっしゃることではあるまい。ただご信頼申し上げて、お渡し申されよ。母方の身分によって、帝の御子もそれぞれに差がおありになるようです。この大臣の君が、世に二人といない素晴らしいご様子でありながら、朝廷にお仕えなさっているのは、故大納言が、いま一段劣っていらっしゃって、更衣腹と言われなさった、その違いなのでいらっしゃるようです。ましてや、臣下の場合では、比較することもできません。また、親王方、大臣の御腹といっても、やはり正妻の劣っているところよりは、世間も軽視し、父親のご待遇も、同等にできないものなのです。まして、この姫君は、身分の高い女君方にこのような姫君が、お生まれになったら、すっかり忘れ去られてしまうでしょう。身分相応につけ、父親にひとかどに大切にされた人こそは、そのまま軽んぜられないもととなるのです。御袴着の祝いも、どんなに一生懸命におこなっても、このような人里離れた所では、何の見栄えがありましょう。ただお任せ申し上げなさって、そのおもてなしくださるご様子を、見ていらっしゃい」<BR>⏎ | 66-67 | 「つまりません。お目にかかれないことは、とても胸の痛いことにちがいありませんが、結局は,姫君の御ためによいことだろうことを考えなさい。浅いお考えでおっしゃることではあるまい。ただご信頼申し上げて、お渡し申されよ。母方の身分によって、帝の御子もそれぞれに差がおありになるようです。この大臣の君が、世に二人といない素晴らしいご様子でありながら、朝廷にお仕えなさっているのは、故大納言が、いま一段劣っていらっしゃって、更衣腹と言われなさった、その違いなのでいらっしゃるようです。ましてや,臣下の場合では,比較することもできません。<BR>⏎ また,親王方、大臣の御腹といっても、やはり正妻の劣っているところよりは、世間も軽視し、父親のご待遇も、同等にできないものなのです。まして,この姫君は、身分の高い女君方にこのような姫君が、お生まれになったら、すっかり忘れ去られてしまうでしょう。身分相応につけ、父親にひとかどに大切にされた人こそは、そのまま軽んぜられないもととなるのです。御袴着の祝いも、どんなに一生懸命におこなっても、このような人里離れた所では、何の見栄えがありましょう。ただお任せ申し上げなさって、そのおもてなしくださるご様子を、見ていらっしゃい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 83-84 | などと、泣き泣き日を過ごしているうちに、十二月にもなってしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 79 | などと,泣き泣き日を過ごしているうちに、十二月にもなってしまった。<BR>⏎ |
| version19 | 85 | <A NAME="in13">[第三段 明石と乳母、和歌を唱和]</A><BR> | 80 | |
| cd2:1 | 89-90 | 「雪が深いので奥深い山里への道は通れなくなろうとも<BR>⏎ どうか手紙だけはください、跡の絶えないように」<BR>⏎ | 84 | 「雪が深いので奥深い山里への道は通れなくなろうとも<BR> どうか手紙だけはください、跡の絶えないように」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 92-93 | 「雪の消える間もない吉野の山奥であろうとも必ず訪ねて行って<BR>⏎ 心の通う手紙を絶やすことは決してしません」<BR>⏎ | 86 | 「雪の消える間もない吉野の山奥であろうとも必ず訪ねて行って<BR> 心の通う手紙を絶やすことは決してしません」<BR>⏎ |
| d1 | 95 | <P>⏎ | ||
| version19 | 96 | <A NAME="in14">[第四段 明石の母子の雪の別れ]</A><BR> | 88 | |
| c1 | 98 | 「自分の一存によるのだわ。お断り申し上げたら無理はなさるまい。つまらないことを」と思わずにはいられないが、「軽率なようなことだわ」と、無理に思い返す。<BR>⏎ | 90 | 「自分の一存によるのだわ。お断り申し上げたら無理はなさるまい. つまらないことを」と思わずにはいられないが、「軽率なようなことだわ」と、無理に思い返す。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 105-106 | 「幼い姫君にお別れしていつになったら<BR>⏎ 立派に成長した姿を見ることができるのでしょう」<BR>⏎ | 97 | 「幼い姫君にお別れしていつになったら<BR> 立派に成長した姿を見ることができるのでしょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 108-110 | 「無理もない。ああ、気の毒な」とお思いになって、<BR>⏎ 「生まれてきた因縁も深いのだから<BR>⏎ いづれ一緒に暮らせるようになりましょう<BR>⏎ | 99-100 | 「無理もない。ああ,気の毒な」とお思いになって、<BR>⏎ 「生まれてきた因縁も深いのだから<BR> いづれ一緒に暮らせるようになりましょう<BR>⏎ |
| c1 | 112 | と、慰めなさる。そうなることとは思って気持ちを落ち着けるが、とても堪えきれないのであった。乳母の少将と言った、気品のある女房だけが、御佩刀、天児のような物を持って乗る。お供の車には見苦しくない若い女房、童女などを乗せて、お見送りに行かせた。<BR>⏎ | 102 | と,慰めなさる。そうなることとは思って気持ちを落ち着けるが、とても堪えきれないのであった。乳母の少将と言った、気品のある女房だけが、御佩刀、天児のような物を持って乗る。お供の車には見苦しくない若い女房、童女などを乗せて、お見送りに行かせた。<BR>⏎ |
| d1 | 114 | <P>⏎ | ||
| version19 | 115 | <A NAME="in15">[第五段 姫君、二条院へ到着]</A><BR> | 104 | |
| c1 | 116 | 暗くなってお着きになって、お車を寄せるや、華やかな感じ格別なので、田舎暮らしに慣れた人々の心地には、「さぞや、きまりの悪い奉公をすることになろうか」と思ったが、西面の部屋を特別に用意させなさって、数々の小さいお道具類をかわいらしげに準備させておありになった。乳母の部屋には、西の渡殿の北側に当たる所を用意させておありになった。<BR>⏎ | 105 | 暗くなってお着きになって、お車を寄せるや、華やかな感じ格別なので、田舎暮らしに慣れた人々の心地には、「さぞや,きまりの悪い奉公をすることになろうか」と思ったが、西面の部屋を特別に用意させなさって、数々の小さいお道具類を かわいらしげに準備させておありになった。乳母の部屋には、西の渡殿の 北側に当たる所を用意させておありになった。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 120-123 | と、残念にお思いになる。<BR>⏎ しばらくの間は、女房たちを探して泣いたりなどなさったが、だいたいが素直でかわいらしい性質なので、上にたいそうよく懐いてお慕いになるので、「とてもかわいらしい子を得た」とお思いになった。余念もなく抱いたり、あやしなさったりして、乳母も、自然とお側近くにお仕えするように慣れてしまった。また、身分の高い人で乳の出る人を、加えてお仕えなさる。<BR>⏎ 御袴着のお祝いは、どれほども特別にご準備なさることもないが、その儀式は格別である。お飾り付けは、雛遊びを思わせる感じでかわいらしく見える。参上なさったお客たち、常日頃からも来客で賑わっているので、特に目立つこともなかった。ただ、姫君が襷を掛けていらっしゃる胸元が、かわいらしさが加わってお見えになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 109-111 | と,残念にお思いになる。<BR>⏎ しばらくの間は、女房たちを探して泣いたりなどなさったが、だいたいが素直でかわいらしい性質なので、上にたいそうよく懐いてお慕いになるので、「とてもかわいらしい子を得た」とお思いになった。余念もなく抱いたり、あやしなさったりして、乳母も、自然とお側近くにお仕えするように慣れてしまった。また,身分の高い人で乳の出る人を、加えてお仕えなさる。<BR>⏎ 御袴着のお祝いは、どれほども特別にご準備なさることもないが、その儀式は格別である。お飾り付けは、雛遊びを思わせる感じでかわいらしく見える。参上なさったお客たち、常日頃からも来客で賑わっているので、特に目立つこともなかった。ただ,姫君が襷を掛けていらっしゃる胸元が、かわいらしさが加わってお見えになった。<BR>⏎ |
| version19 | 124 | <A NAME="in16">[第六段 歳末の大堰の明石]</A><BR> | 112 | |
| c2 | 125-126 | 大堰では、いつまでも恋しく思われるにつけ、わが身のつたなさを嘆き加えていた。そうは言ったものの、尼君もひとしお涙もろくなっているが、このように大切にされていらっしゃるのを聞くのは嬉しかった。いったい、どんなことを、なまじお見舞い申し上げなされようか、ただ、お付きの人々に、乳母をはじめとして、非常に立派な色合いの装束を思い立って、準備してお贈り申し上げなさるのであった。<BR>⏎ 「訪れが間遠になるのも、ますます、思ったとおりだ」と思うだろうと、気の毒なので、年の内にこっそりとおいでになった。<BR>⏎ | 113-114 | 大堰では、いつまでも恋しく思われるにつけ、わが身のつたなさを嘆き加えていた。そうは言ったものの、尼君もひとしお涙もろくなっているが、このように大切にされていらっしゃるのを聞くのは嬉しかった。いったい,どんなことを、なまじお見舞い申し上げなされようか、ただ,お付きの人々に、乳母をはじめとして、非常に立派な色合いの装束を思い立って、準備してお贈り申し上げなさるのであった。<BR>⏎ 「訪れが間遠になるのも、ますます,思ったとおりだ」と思うだろうと、気の毒なので、年の内にこっそりとおいでになった。<BR>⏎ |
| d1 | 129 | <P>⏎ | ||
| version19 | 130 | <H4>第二章 源氏の女君たちの物語 新春の女君たちの生活</H4> | 117 | |
| version19 | 131 | <A NAME="in21">[第一段 東の院の花散里]</A><BR> | 118 | |
| cd2:1 | 135-136 | ただ、ご性質がおおようでおっとりとして、「このような運命であった身の上なのだろう」としいて思い込み、めったにないくらい安心でゆったりしていらっしゃるので、季節折ごとのお心配りなども、こちらのご様子にひどく劣るような差別はなくご待遇なさって、軽んじ申し上げるようなことはないので、同じように人々が大勢お仕え申して、別当連中も勤務を怠ることなく、かえって、秩序立っていて、感じのよいご様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 122 | ただ,ご性質がおおようでおっとりとして、「このような運命であった身の上なのだろう」としいて思い込み、めったにないくらい安心でゆったりしていらっしゃるので、季節折ごとのお心配りなども、こちらのご様子にひどく劣るような差別はなくご待遇なさって、軽んじ申し上げるようなことはないので、同じように人々が大勢お仕え申して、別当連中も勤務を怠ることなく、かえって、秩序立っていて、感じのよいご様子である。<BR>⏎ |
| version19 | 137 | <A NAME="in22">[第二段 源氏、大堰山荘訪問を思いつく]</A><BR> | 123 | |
| c1 | 138 | 山里の寂しさを絶えず心配なさっているので、公私に忙しい時期を過ごして、お出かけになろうとして、いつもより特別にお粧いなさって、桜のお直衣に、何ともいえない素晴らしい御衣を重ねて、香をたきしめ、身繕いなさって、お出かけのご挨拶をなさる様子、隈なく射し込んでいる夕日に、ますます美しくお見えになるのを、女君、おだやかならぬ気持ちでお見送り申し上げなさる。<BR>⏎ | 124 | 山里の寂しさを絶えず心配なさっているので、公私に忙しい時期を過ごして、お出かけになろうとして、いつもより特別にお粧いなさって、桜のお直衣に、何ともいえない素晴らしい御衣を重ねて、香をたきしめ、身繕いなさって、お出かけのご挨拶をなさる様子、隈なく射し込んでいる夕日に、ますます美しくお見えになる。女君、おだやかならぬ気持ちでお見送り申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 140-141 | 「あなたをお引き止めするあちらの方がいらっしゃらないのなら<BR>⏎ 明日帰ってくるあなたと思ってお待ちいたしましょうが」<BR>⏎ | 126 | 「あなたをお引き止めするあちらの方がいらっしゃらないのなら<BR> 明日帰ってくるあなたと思ってお待ちいたしましょうが」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 143-144 | 「ちょっと行ってみて明日にはすぐに帰ってこよう<BR>⏎ かえってあちらが機嫌を悪くしようとも」<BR>⏎ | 128 | 「ちょっと行ってみて明日にはすぐに帰ってこよう<BR> かえってあちらが機嫌を悪くしようとも」<BR>⏎ |
| c2 | 147-148 | と、じっと見守りながら、ふところに入れて、かわいらしいお乳房をお含ませながら、あやしていらっしゃるご様子、どこから見ても素晴らしい。お側に仕える女房たちは、<BR>⏎ 「どうしてかしら。同じお生まれになるなら」<BR>⏎ | 131-132 | と,じっと見守りながら、ふところに入れて、かわいらしいお乳房をお含ませながら、あやしていらっしゃるご様子、どこから見ても素晴らしい。お側に仕える女房たちは、<BR>⏎ 「どうしてかしら.同じお生まれになるなら」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 150-151 | などと、話し合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 134 | などと,話し合っていた。<BR>⏎ |
| version19 | 152 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、大堰山荘から嵯峨野の御堂、桂院に回る]</A><BR> | 135 | |
| cd6:5 | 154-159 | 「ただ、普通の評判で目立たないなら、そのような例はいないでもないと思ってもよいのだが、世にもまれな偏屈者だという父親の評判など、それが困ったものだ。人柄などは、十分であるが」⏎ などとお思いになる。<BR>⏎ ほんのわずかの逢瀬で、物足りないくらいだからであろうか、あわただしくお帰りになるのも気の毒なので、「夢の中の浮橋か」とばかり、ついお嘆きになられて、箏の琴があるのを引き寄せて、あの明石で、夜更けての音色も、いつもどおりに自然と思い出されるので、琵琶を是非にとお勧めになると、少し掻き合わせたのが、「どうして、これほど上手に何でもお弾きになれたのだろう」と思わずにはいらっしゃれない。若君の御事など、こまごまとお話しになってお過ごしになる。<BR>⏎ ここは、このような山里であるが、このようにお泊まりになる時々があるので、ちょっとした果物や、強飯ぐらいはお召し上がりになる時もある。近くの御寺、桂殿などにお出かけになるふうに装い装いして、一途にのめり込みなさらないが、また一方、まことにはっきりと中途半端な普通の相手としてはお扱いなさらないなどは、愛情も格別深く見えるようである。<BR>⏎ 女も、このようなお心をお知り申し上げて、出過ぎているとお思いになるようなことはせず、また、ひどく低姿勢になることなどもせず、お心づもりに背くこともなく、たいそう無難な態度でいたのであった。<BR>⏎ 並々でない高貴な婦人方の所でさえ、これほど気をお許しになることもなく、礼儀正しいお振る舞いであることを、聞いていたので、<BR>⏎ | 137-141 | 「ただ,普通の評判で目立たないなら、そのような例はいないでもないと思ってもよいのだが、世にもまれな偏屈者だという父親の評判など、それが困ったものだ。人柄などは、十分であるが」などとお思いになる。<BR>⏎ ほんのわずかの逢瀬で、物足りないくらいだからであろうか、あわただしくお帰りになるのも気の毒なので、「夢の中の浮橋か」とばかり、ついお嘆きになられて、箏の琴があるのを引き寄せて、あの明石で、夜更けての音色も、いつもどおりに自然と思い出されるので、琵琶を是非にとお勧めになると、少し掻き合わせたのが、「どうして,これほど上手に何でもお弾きになれたのだろう」と思わずにはいらっしゃれない。若君の御事など、こまごまとお話しになってお過ごしになる。<BR>⏎ ここは,このような山里であるが、このようにお泊まりになる時々があるので、ちょっとした果物や、強飯ぐらいはお召し上がりになる時もある。近くの御寺、桂殿などにお出かけになるふうに装い装いして、一途にのめり込みなさらないが、また一方,まことにはっきりと中途半端な 普通の相手としてはお扱いなさらないなどは、愛情も格別深く見えるようである。<BR>⏎ 女も、このようなお心をお知り申し上げて、出過ぎているとお思いになるようなことはせず、また,ひどく低姿勢になることなどもせず、お心づもりに背くこともなく、たいそう無難な態度でいたのであった。<BR>⏎ 並々でない高貴な婦人方の所でさえ、これほど気をお許しになることもなく、礼儀正しいお振る舞いであることを,聞いていたので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 162-163 | 明石でも、ああは言ったが、このお心づもりや、様子を知りたくて、気がかりでないように、使者を行き来させて、胸をどきりとさせることもあったり、また、面目に思うことも多くあったりするのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 144 | 明石でも、ああは言ったが、このお心づもりや、様子を知りたくて、気がかりでないように、使者を行き来させて、胸をどきりとさせることもあったり、また,面目に思うことも多くあったりするのであった。<BR>⏎ |
| version19 | 164 | <H4>第三章 藤壷の物語 藤壷女院の崩御</H4> | 145 | |
| version19 | 165 | <A NAME="in31">[第一段 太政大臣薨去と天変地異]</A><BR> | 146 | |
| c2 | 166-167 | そのころ、太政大臣がお亡くなりになった。世の重鎮としていらっしゃった方なので、帝におかせられてもお嘆きになる。しばらくの間、籠もっていらっしゃった間でさえ、天下の騷ぎであったので、その時以上に、悲しむ人々が多かった。源氏の大臣も、たいそう残念に、万事の政務、お譲り申し上げてこそ、お暇もあったのだが、心細く政務も忙しく思われなさって、嘆いていっらっしゃる。<BR>⏎ 帝は、お年よりはこの上なく大人らしく御成人あそばして、天下の政治も心配申し上げなさるような必要はないのだが、また特別にご後見なさる適当な方もいないので、「誰に譲って静かに出家の本意をかなえられようか」とお思いになると、まことに残念でならない。<BR>⏎ | 147-148 | そのころ、太政大臣がお亡くなりになった。世の重鎮としていらっしゃった方なので、帝におかせられてもお嘆きになる。しばらくの間,籠もっていらっしゃった間でさえ、天下の騷ぎであったので、その時以上に,悲しむ人々が多かった。源氏の大臣も、たいそう残念に、万事の政務、お譲り申し上げてこそ、お暇もあったのだが、心細く 政務も忙しく思われなさって、嘆いていっらっしゃる。<BR>⏎ 帝は、お年よりはこの上なく大人らしく御成人あそばして、天下の政治も 心配申し上げなさるような必要はないのだが、また特別にご後見なさる適当な方もいないので、「誰に譲って静かに出家の本意をかなえられようか」とお思いになると、まことに残念でならない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 171-172 | とばかり言って、世間の人の驚くことが多くて、それぞれの道の勘文を差し上げた中にも、不思議で世に尋常でない事柄が混じっていた。内大臣だけは、ご心中に、厄介にそれとお分りになることがあるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 152 | とばかり言って,世間の人の驚くことが多くて、それぞれの道の勘文を差し上げた中にも、不思議で世に尋常でない事柄が混じっていた。内大臣だけは、ご心中に、厄介にそれとお分りになることがあるのであった。<BR>⏎ |
| version19 | 173 | <A NAME="in32">[第二段 藤壷入道宮の病臥]</A><BR> | 153 | |
| c2 | 177-178 | と、たいそう弱々しくお申し上げなさる。<BR>⏎ 三十七歳でいらっしゃるのであった。けれども、とてもお若く盛りでいらっしゃるご様子を、惜しく悲しく拝し上げあそばす。<BR>⏎ | 157-158 | と,たいそう弱々しくお申し上げなさる。<BR>⏎ 三十七歳でいらっしゃるのであった。けれども,とてもお若く盛りでいらっしゃるご様子を、惜しく悲しく拝し上げあそばす。<BR>⏎ |
| c1 | 180 | と、ひどく悲しくお思いであった。つい最近に、気づいて、いろいろなご祈祷をおさせあそばす。今までは、いつものご病気とばかり油断していたのだが、源氏の大臣も深くご心配になっていた。一定のきまりがあるので、間もなくお帰りあそばすのも、悲しいことが多かった。<BR>⏎ | 160 | と,ひどく悲しくお思いであった。つい最近に、気づいて、いろいろなご祈祷をおさせあそばす。今までは、いつものご病気とばかり油断していたのだが、源氏の大臣も深くご心配になっていた。一定のきまりがあるので、間もなくお帰りあそばすのも、悲しいことが多かった。<BR>⏎ |
| d1 | 182 | <P>⏎ | ||
| version19 | 183 | <A NAME="in33">[第三段 藤壷入道宮の崩御]</A><BR> | 162 | |
| c1 | 184 | 大臣は、朝廷の立場からしても、こうした高貴な方々ばかりが、引き続いてお亡くなりになることをお嘆きになる。人には知られない思慕は、それはまた、限りないほどで、ご祈祷などお気づきにならないことはない。長年思い絶っていたことさえ、もう一度申し上げられなくなってしまったのが、ひどく残念に思われなさるので、近くの御几帳の側に寄って、ご容態など、しかるべき女房たちにお尋ねになると、親しい女房だけがお付きしていて詳しく申し上げる。<BR>⏎ | 163 | 大臣は、朝廷の立場からしても、こうした高貴な方々ばかりが、引き続いてお亡くなりになることをお嘆きになる。人には知られない思慕は、それはまた,限りないほどで、ご祈祷などお気づきにならないことはない。長年思い絶っていたことさえ、もう一度申し上げられなくなってしまったのが、ひどく残念に思われなさるので、近くの御几帳の側に寄って、ご容態など、しかるべき女房たちにお尋ねになると、親しい女房だけがお付きしていて 詳しく申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 186 | と言って、泣き嘆き悲しんでいる女房たちが多かった。<BR>⏎ | 165 | と言って,泣き嘆き悲しんでいる女房たちが多かった。<BR>⏎ |
| c2 | 188-189 | と、かすかに仰せになるのも、ほのかに聞こえるので、お返事も十分に申し上げられず、お泣きになる様子、実においたわしい。「どうしてこうも気が弱い状態で」と、人目を憚ってお気を取り直しなさるが、昔からのご様子を、世間一般から見ても、もったいなく惜しいご様子のお方を、思いどおりにならないことなので、お引き止め申すすべもなく、何とも言いようもなく悲しいこと限りない。<BR>⏎ 「取るに足りないわが身ですが、昔から、ご後見申し上げねばならないことは、気のつく限り、一生懸命に存じておりましたが、太政大臣がお亡くなりになったことだけでも、この世の、無常迅速が存じられてなりませんのに、さらにまた、このようにいらっしゃいますと、何から何まで心が乱れまして、生きていることも、残り少ない気が致します」<BR>⏎ | 167-168 | と,かすかに仰せになるのも、ほのかに聞こえるので、お返事も十分に申し上げられず、お泣きになる様子、実においたわしい。「どうしてこうも気が弱い状態で」と、人目を憚ってお気を取り直しなさるが、昔からのご様子を、世間一般から見ても、もったいなく惜しいご様子のお方を、思いどおりにならないことなので、お引き止め申すすべもなく、何とも言いようもなく悲しいこと限りない。<BR>⏎ 「取るに足りないわが身ですが、昔から、ご後見申し上げねばならないことは、気のつく限り、一生懸命に存じておりましたが、太政大臣がお亡くなりになったことだけでも、この世の、無常迅速が存じられてなりませんのに、さらにまた,このようにいらっしゃいますと、何から何まで心が乱れまして、生きていることも、残り少ない気が致します」<BR>⏎ |
| d1 | 191 | <P>⏎ | ||
| version19 | 192 | <A NAME="in34">[第四段 源氏、藤壷を哀悼]</A><BR> | 170 | |
| cd4:3 | 194-197 | 功徳の方面でも、人の勧めに従いなさって、荘厳に珍しいくらい立派になさる人なども、昔の聖代には皆あったのだが、この后宮は、そのようなこともなく、ただもとからの財産、頂戴なさるはずの年官、年爵、御封のしかるべき収入だけで、ほんとうに真心のこもった供養の最善をしておかれになったので、物のわけも分からない山伏などまでが惜しみ申し上げる。<BR>⏎ ご葬送の時にも、世を挙げての騷ぎで、悲しいと思わない人はいない。殿上人など、すべて黒一色の喪服で、何の華やかさもない晩春である。二条院のお庭先の桜を御覧になるにつけても、花の宴の時などをお思い出しになる。「今年ぐらいは」と独り口ずさみなさって、他人が変に思うに違いないので、御念誦堂にお籠もりなさって、一日中泣き暮らしなさる。夕日が明るく射して、山際の梢がくっきりと見えるところに、雲が薄くたなびいているのが、鈍色なのを、何ごともお目に止まらないころなのだが、たいそう悲しく思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「入日が射している峰の上にたなびいている薄雲は<BR>⏎ 悲しんでいるわたしの喪服の袖の色に似せたのだろうか」<BR>⏎ | 172-174 | 功徳の方面でも、人の勧めに従いなさって、荘厳に珍しいくらい立派になさる人なども、昔の聖代には皆あったのだが、この后宮は,そのようなこともなく、ただもとからの財産、頂戴なさるはずの年官、年爵、御封のしかるべき収入だけで、ほんとうに真心のこもった供養の最善をしておかれになったので、物のわけも分からない山伏などまでが惜しみ申し上げる。<BR>⏎ ご葬送の時にも、世を挙げての騷ぎで、悲しいと思わない人はいない。殿上人など、すべて黒一色の喪服で、何の華やかさもない晩春である。二条院のお庭先の桜を御覧になるにつけても、花の宴の時などをお思い出しになる。「今年ぐらいは」と 独り口ずさみなさって、他人が変に思うに違いないので、御念誦堂にお籠もりなさって、一日中泣き暮らしなさる。夕日が明るく射して、山際の梢がくっきりと見えるところに、雲が薄くたなびいているのが、鈍色なのを、何ごともお目に止まらないころなのだが、たいそう悲しく思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「入日が射している峰の上にたなびいている薄雲は<BR> 悲しんでいるわたしの喪服の袖の色に似せたのだろうか」<BR>⏎ |
| d1 | 199 | <P>⏎ | ||
| version19 | 200 | <H4>第四章 冷泉帝の物語 出生の秘密と譲位ほのめかし</H4> | 176 | |
| version19 | 201 | <A NAME="in41">[第一段 夜居僧都、帝に密奏]</A><BR> | 177 | |
| c1 | 202 | ご法事なども終わって、諸々の事柄も落ち着いて、帝、何となく心細くお思いであった。この入道の宮の母后の御代から伝わって、代々のご祈祷の僧としてお仕えしてきた僧都、故宮におかれてもたいそう尊敬なさって信頼していらっしゃったが、帝におかせられても御信任厚くて、重大な御勅願をいくつもお立てになって、実にすぐれた僧侶であったが、年は七十歳ほどで、今は自分の後生を願うための勤行をしようと思って籠もっていたのだが、宮の御事のために出て来ていたのを、宮中からお召しがあって、いつも伺候させてお置きになる。<BR>⏎ | 178 | ご法事なども終わって、諸々の事柄も落ち着いて、帝,何となく心細くお思いであった。この入道の宮の母后の御代から伝わって、代々のご祈祷の僧としてお仕えしてきた僧都、故宮におかれてもたいそう尊敬なさって信頼していらっしゃったが、帝におかせられても御信任厚くて、重大な御勅願をいくつもお立てになって、実にすぐれた僧侶であったが、年は七十歳ほどで、今は自分の後生を願うための勤行をしようと思って籠もっていたのだが、宮の御事のために出て来ていたのを、宮中からお召しがあって、いつも伺候させてお置きになる。<BR>⏎ |
| c1 | 205 | と言って、お仕えしたが、静かな暁に、誰もお側近くにいないで、ある人は里に退出などしていた折に、老人っぽく咳をしながら、世の中の事どもを奏上なさるついでに、<BR>⏎ | 181 | と言って,お仕えしたが、静かな暁に、誰もお側近くにいないで、ある人は里に退出などしていた折に、老人っぽく咳をしながら、世の中の事どもを奏上なさるついでに、<BR>⏎ |
| d1 | 208 | <P>⏎ | ||
| version19 | 209 | <A NAME="in42">[第二段 冷泉帝、出生の秘密を知る]</A><BR> | 184 | |
| c2 | 213-214 | 「ああ恐れ多い。少しも、仏の禁じて秘密になさる真言の深い道でさえ、隠しとどめることなくご伝授申し上げております。まして、心に隠していることは、何がございましょうか。<BR>⏎ これは、過去来世にわたる重大事でございますが、お隠れあそばしました院、后の宮、現在政治をお執りになっている大臣の御ために、すべて、かえってよくないこととして漏れ出すことがありはしまいか。このような老法師の身には、たとい災いがありましょうとも、何の悔いもありません。仏天のお告げがあることによって申し上げるのでございます。<BR>⏎ | 188-189 | 「ああ恐れ多い。少しも,仏の禁じて秘密になさる真言の深い道でさえ、隠しとどめることなくご伝授申し上げております。まして,心に隠していることは、何がございましょうか。<BR>⏎ これは,過去来世にわたる重大事でございますが、お隠れあそばしました院、后の宮、現在政治をお執りになっている大臣の御ために、すべて,かえってよくないこととして漏れ出すことがありはしまいか。このような老法師の身には、たとい災いがありましょうとも、何の悔いもありません。仏天のお告げがあることによって申し上げるのでございます。<BR>⏎ |
| c1 | 217 | と言って、詳しく奏上するのをお聞きあそばすと、驚くほどめったにないことで、恐ろしくも悲しくも、さまざまにお心がお乱れになった。<BR>⏎ | 192 | と言って,詳しく奏上するのをお聞きあそばすと、驚くほどめったにないことで、恐ろしくも悲しくも、さまざまにお心がお乱れになった。<BR>⏎ |
| c2 | 221-222 | 「いえまったく、拙僧と王命婦以外の人は、この事の様子を知っている者はございません。それだから、実に恐ろしいのでございます。天変地異がしきりに現れ、世の中が平穏でないのは、このせいです。御幼少で、物の道理を御分別おできになれなかった間はよろしうございましたが、だんだんと御年齢が加わっていらっしゃいまして、何事も御分別あそばせるころになったので、咎を示すのです。万事、親の御代より始まるもののようでございます。何の罪とも御存知あそばさないのが恐ろしいので、忘れ去ろうとしていたことを、あえて申し上げた次第です」<BR>⏎ と、泣く泣く申し上げるうちに、夜がすっかり明けてしまったので、退出した。<BR>⏎ | 196-197 | 「いえまったく,拙僧と王命婦以外の人は、この事の様子を知っている者はございません。それだから、実に恐ろしいのでございます。天変地異がしきりに現れ、世の中が平穏でないのは、このせいです。御幼少で、物の道理を御分別おできになれなかった間はよろしうございましたが、だんだんと御年齢が加わっていらっしゃいまして、何事も御分別あそばせるころになったので、咎を示すのです。万事、親の御代より始まるもののようでございます。何の罪とも御存知あそばさないのが恐ろしいので、忘れ去ろうとしていたことを、あえて申し上げた次第です」<BR>⏎ と,泣く泣く申し上げるうちに、夜がすっかり明けてしまったので、退出した。<BR>⏎ |
| d1 | 228 | <P>⏎ | ||
| c1 | 229 | <A NAME="in43">[第三段 帝、譲位の考えを漏らす]</A><BR>⏎ | 203 | <A NAME="in43">[第三段 帝,譲位の考えを漏らす]</A><BR>⏎ |
| c1 | 232 | 「わが寿命は終わってしまうのであろうか、何となく心細くいつもと違った心地がします上に、世の中もこのように穏やかでないので、万事落ち着かない気がします。故宮がご心配なさるからと思って、帝位のことも遠慮しておりましたが、今では安楽な状態で世を過ごしたく思っています」<BR>⏎ | 206 | 「わが寿命は終わってしまうのであろうか。何となく心細くいつもと違った心地がします上に、世の中もこのように穏やかでないので、万事落ち着かない気がします。故宮がご心配なさるからと思って、帝位のことも遠慮しておりましたが、今では安楽な状態で世を過ごしたく思っています」<BR>⏎ |
| c3 | 234-236 | 「まったくとんでもないお考えです。世の中が静かでないことは、必ずしも政道が真っ直ぐ、また曲がっていることによるのではございません。すぐれた世でも、よくないことどもはございました。聖の帝の御世にも、横ざまの乱れが出てきたこと、唐土にもございました。わが国でもそうでございます。まして、当然の年齢の方々が寿命の至るのも、お嘆きになることではございません」<BR>⏎ などと、なにかにつけたくさんのことがらを申し上げなさる。その一部分を語り伝えるのも、とても気がひける。<BR>⏎ いつもより黒いお召し物で、喪に服していらっしゃるご容貌、違うところがない。主上も、いく年もお鏡を御覧になるにつけ、お気づきなっていることであるが、お聞きあそばしたことの後は、またしげしげとお顔を御覧になりながら、格別にいっそうしみじみとお思いなされるので、「何とかして、このことをちらっと申し上げたい」とお思いになるが、何といってもやはり、きまりが悪くお思いになるに違いないことなので、お若い心地から遠慮されて、すぐにお話申し上げられないあいだは、世間一般の話をいつもより特に親密にお話し申し上げあそばす。<BR>⏎ | 208-210 | 「まったくとんでもないお考えです。世の中が静かでないことは、必ずしも政道が真っ直ぐ、また曲がっていることによるのではございません。すぐれた世でも、よくないことどもはございました。聖の帝の御世にも、横ざまの乱れが出てきたこと、唐土にもございました。わが国でもそうでございます。まして,当然の年齢の方々が 寿命の至るのも、お嘆きになることではございません」<BR>⏎ などと,なにかにつけたくさんのことがらを申し上げなさる。その一部分を語り伝えるのも、とても気がひける。<BR>⏎ いつもより黒いお召し物で、喪に服していらっしゃるご容貌、違うところがない。主上も、いく年もお鏡を御覧になるにつけ、お気づきなっていることであるが、お聞きあそばしたことの後は、またしげしげとお顔を御覧になりながら、格別にいっそうしみじみとお思いなされるので、「何とかして,このことをちらっと申し上げたい」とお思いになるが、何といってもやはり、きまりが悪くお思いになるに違いないことなので、お若い心地から遠慮されて、すぐにお話申し上げられないあいだは、世間一般の話を いつもより特に親密にお話し申し上げあそばす。<BR>⏎ |
| d1 | 238 | <P>⏎ | ||
| c1 | 239 | <A NAME="in44">[第四段 帝、源氏への譲位を思う]</A><BR>⏎ | 212 | <A NAME="in44">[第四段 帝,源氏への譲位を思う]</A><BR>⏎ |
| c1 | 241 | 「今さら、そのようにお隠しになっていらっしゃったことを知ってしまったと、あの人にも思われまい。ただ、大臣に何とかそれとなくお尋ね申し上げて、昔にもこのような例はあったろうかと聞いてみたい」<BR>⏎ | 214 | 「今さら、そのようにお隠しになっていらっしゃったことを知ってしまったと、あの人にも思われまい。ただ,大臣に何とかそれとなくお尋ね申し上げて、昔にもこのような例はあったろうかと聞いてみたい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 244-245 | などと、いろいろお考えになったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 217 | などと,いろいろお考えになったのであった。<BR>⏎ |
| version19 | 246 | <A NAME="in45">[第五段 源氏、帝の意向を峻絶]</A><BR> | 218 | |
| c5 | 247-251 | 秋の司召で、太政大臣におなりになるようなことを、内々にお定め申しなさる機会に、帝が、かねてお考えの意向を、お洩らし申し上げられたので、大臣、とても目も上げられず、恐ろしくお思いになって、決してあってはならないことである趣旨のご辞退を申し上げなさる。<BR>⏎ 「故院のお志、多数の親王たちの中で、特別に御寵愛くださりながら、御位をお譲りあそばすことをお考えあそばしませんでした。どうして、その御遺志に背いて、及びもつかない位につけましょうか。ただ、もとのお考えどおりに、朝廷にお仕えして、もう少し年を重ねたならば、のんびりとした仏道にひき籠もりましょうと存じております」<BR>⏎ と、いつものお言葉と変わらずに奏上なさるので、まことに残念にお思いになった。<BR>⏎ 太政大臣におなりになるよう決定があるが、今しばらく、とお考えになるところがあって、ただ位階が一つ昇進して、牛車を聴されて、参内や退出をなさるのを、帝、もの足りなく、もったいないこととお思い申し上げなさって、やはり親王におなりになるよう仰せになるが、<BR>⏎ 「政治のご後見をおできになる人がいない。権中納言が、大納言になって右大将を兼任していらっしゃるが、もう一段昇進したならば、何ごとも譲ろう。その後に、どうなるにせよ、静かに暮らそう」<BR>⏎ | 219-223 | 秋の司召で、太政大臣におなりになるようなことを、内々にお定め申しなさる機会に、帝が,かねてお考えの意向を、お洩らし申し上げられたので、大臣、とても目も上げられず、恐ろしくお思いになって、決してあってはならないことである趣旨のご辞退を申し上げなさる。<BR>⏎ 「故院のお志、多数の親王たちの中で、特別に御寵愛くださりながら、御位をお譲りあそばすことをお考えあそばしませんでした。どうして,その御遺志に背いて、及びもつかない位につけましょうか。ただ,もとのお考えどおりに、朝廷にお仕えして、もう少し年を重ねたならば、のんびりとした仏道にひき籠もりましょうと存じております」<BR>⏎ と,いつものお言葉と変わらずに奏上なさるので、まことに残念にお思いになった。<BR>⏎ 太政大臣におなりになるよう決定があるが、今しばらく,とお考えになるところがあって、ただ位階が一つ昇進して、牛車を聴されて,参内や退出をなさるのを、帝,もの足りなく、もったいないこととお思い申し上げなさって、やはり親王におなりになるよう仰せになるが、<BR>⏎ 「政治のご後見をおできになる人がいない。権中納言が、大納言になって 右大将を兼任していらっしゃるが、もう一段昇進したならば、何ごとも譲ろう。その後に、どうなるにせよ、静かに暮らそう」<BR>⏎ |
| c1 | 254 | と、不思議に思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 226 | と,不思議に思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| c1 | 256 | 「このことを、もしや、何かの機会に、少しでも洩らしお耳に入れ申されたことはありましたか」<BR>⏎ | 228 | 「このことを、もしや,何かの機会に、少しでも洩らしお耳に入れ申されたことはありましたか」<BR>⏎ |
| c1 | 258 | 「けっして。少しでも帝のお耳に入りますことを、大変だと思し召しで、しかしまた一方では、罪を得ることではないかと、主上の御身の上を、やはりお案じあそばして嘆いていらっしゃいました」<BR>⏎ | 230 | 「けっして。少しでも帝のお耳に入りますことを、大変だと思し召しで、しかしまた一方では,罪を得ることではないかと、主上の御身の上を、やはりお案じあそばして嘆いていらっしゃいました」<BR>⏎ |
| d1 | 260 | <P>⏎ | ||
| version19 | 261 | <H4>第五章 光る源氏の物語 春秋優劣論と六条院造営の計画</H4> | 232 | |
| version19 | 262 | <A NAME="in51">[第一段 斎宮女御、二条院に里下がり]</A><BR> | 233 | |
| d1 | 266 | <P>⏎ | ||
| version19 | 267 | <A NAME="in52">[第二段 源氏、女御と往時を語る]</A><BR> | 237 | |
| c1 | 270 | と言って、柱に寄りかかっていらっしゃる夕映えのお姿、たいそう見事である。昔のお話、あの野宮をさまよった朝の話などを、お話し申し上げなさる。まことにしみじみとお思いになった。<BR>⏎ | 240 | と言って,柱に寄りかかっていらっしゃる夕映えのお姿、たいそう見事である。昔のお話、あの野宮をさまよった朝の話などを、お話し申し上げなさる。まことにしみじみとお思いになった。<BR>⏎ |
| c1 | 274 | とおっしゃって、もう一つは話されずに終わった。<BR>⏎ | 244 | とおっしゃって,もう一つは話されずに終わった。<BR>⏎ |
| c3 | 278-280 | 「やはり、そうですか。ああ情けない」<BR>⏎ と言って、他の話題に転じて紛らしておしまいになった。<BR>⏎ 「今では、何とか心安らかに、生きている間は心残りがないように、来世のためのお勤めを思う存分に、籠もって過ごしたいと思っておりますが、この世の思い出にできることがございませんのが、何といっても残念なことでございます。きっと、幼い姫君がおりますが、将来が待ち遠しいことですよ、恐れ多いことですが、何といっても、この家を繁栄させなさって、わたしが亡くなりました後も、お見捨てなさらないでください」<BR>⏎ | 248-250 | 「やはり,そうですか。ああ情けない」<BR>⏎ と言って,他の話題に転じて紛らしておしまいになった。<BR>⏎ 「今では、何とか心安らかに、生きている間は 心残りがないように、来世のためのお勤めを思う存分に、籠もって過ごしたいと思っておりますが、この世の思い出にできることがございませんのが、何といっても残念なことでございます。きっと,幼い姫君がおりますが、将来が待ち遠しいことですよ。恐れ多いことですが、何といっても,この家を繁栄させなさって、わたしが亡くなりました後も、お見捨てなさらないでください」<BR>⏎ |
| d1 | 283 | <P>⏎ | ||
| version19 | 284 | <A NAME="in53">[第三段 女御に春秋の好みを問う]</A><BR> | 253 | |
| cd4:3 | 289-292 | 「まして、どうして優劣を弁えることができましょうか。おっしゃるとおり、どちらも素晴らしいですが、いつとても恋しくないことはない中で、不思議にと聞いた秋の夕べが、はかなくお亡くなりになった露の縁につけて、自然と好ましく存じられます」<BR>⏎ と、とりつくろわないようにおっしゃって言いさしなさるのが、実にかわいらしいので、堪えることがおできになれず、<BR>⏎ 「あなたもそれでは情趣を交わしてください、誰にも知られず<BR>⏎ 自分ひとりでしみじみと身にしみて感じている秋の夕風ですから<BR>⏎ | 258-260 | 「まして,どうして優劣を弁えることができましょうか。おっしゃるとおり,どちらも素晴らしいですが,いつとても恋しくないことはない中で、不思議にと聞いた秋の夕べが、はかなくお亡くなりになった露の縁につけて、自然と好ましく存じられます」<BR>⏎ と,とりつくろわないようにおっしゃって言いさしなさるのが、実にかわいらしいので、堪えることがおできになれず、<BR>⏎ 「あなたもそれでは情趣を交わしてください、誰にも知られず<BR> 自分ひとりでしみじみと身にしみて感じている秋の夕風ですから<BR>⏎ |
| c2 | 294-295 | と申し上げなさると、「どのようなお返事ができよう、分かりません」とお思いのご様子である。この機会に、抑えきれずに、お恨み申し上げなさることがあるにちがいない。<BR>⏎ もう少しで、間違いもしでかしなさるところであるが、とてもいやだとお思いでいるのも、もっともなので、またご自分でも「若々しく良くないことだ」とお思い返しなさって、お嘆きになっていらっしゃる様子が、思慮深く優美なのも、気にくわなくお思いになった。<BR>⏎ | 262-263 | と申し上げなさると、「どのようなお返事ができよう。分かりません」とお思いのご様子である。この機会に、抑えきれずに、お恨み申し上げなさることがあるにちがいない。<BR>⏎ もう少しで、間違いもしでかしなさるところであるが、とてもいやだとお思いでいるのも、もっともなので、またご自分でも 「若々しく良くないことだ」とお思い返しなさって、お嘆きになっていらっしゃる様子が、思慮深く優美なのも、気にくわなくお思いになった。<BR>⏎ |
| c2 | 297-298 | 「驚くほどお嫌いになるのですね。ほんとうに情愛の深い人は、このようにはしないものと言います。よし、今からは、お憎みにならないでください。つらいことでしょう」<BR>⏎ とおっしゃって、お渡りになった。<BR>⏎ | 265-266 | 「驚くほどお嫌いになるのですね。ほんとうに情愛の深い人は、このようにはしないものと言います。よし,今からは、お憎みにならないでください。つらいことでしょう」<BR>⏎ とおっしゃって,お渡りになった。<BR>⏎ |
| d1 | 304 | <P>⏎ | ||
| version19 | 305 | <A NAME="in54">[第四段 源氏、紫の君と語らう]</A><BR> | 272 | |
| c2 | 308-309 | と、自分自身反省せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「これはまことに相応しくないことだ。恐ろしく罪深いことは多くあったろうが、昔の好色は、思慮の浅いころの過ちであったから、仏や神もお許しになったことだろう」と、心をお鎮めになるにつけても、「やはり、この恋の道は、危なげなく思慮深さが増してきたものだな」<BR>⏎ | 275-276 | と,自分自身反省せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 「これはまことに相応しくないことだ。恐ろしく罪深いことは多くあったろうが、昔の好色は、思慮の浅いころの過ちであったから、仏や神もお許しになったことだろう」と、心をお鎮めになるにつけても、「やはり,この恋の道は、危なげなく思慮深さが増してきたものだな」<BR>⏎ |
| c1 | 313 | 「女御が、秋に心を寄せていらっしゃるのも感心されますし、あなたが、春の曙に心を寄せていらっしゃるのももっともです。季節折々に咲く木や草の花を鑑賞しがてら、あなたのお気に入るような催し事などをしてみたいものだと、公私ともに忙しい身には相応しくないが、何とかして望みを遂げたいものですと、ただ、あなたにとって寂しくないだろうかと思うのが、気の毒なのです」<BR>⏎ | 280 | 「女御が、秋に心を寄せていらっしゃるのも感心されますし、あなたが、春の曙に心を寄せていらっしゃるのももっともです。季節折々に咲く木や草の花を鑑賞しがてら、あなたのお気に入るような催し事などをしてみたいものだと、公私ともに忙しい身には相応しくないが、何とかして望みを遂げたいものですと、ただ,あなたにとって寂しくないだろうかと思うのが、気の毒なのです」<BR>⏎ |
| d1 | 315 | <P>⏎ | ||
| version19 | 316 | <A NAME="in55">[第五段 源氏、大堰の明石を訪う]</A><BR> | 282 | |
| c2 | 318-319 | 「夫婦仲をつまらなくつらいと思っている様子だが、どうしてそのように考える必要があろう。気安く出て来て、並々の生活はするまいと思っている」が、「思い上がった考えだ」とはお思いになる一方で、不憫に思って、いつもの、不断の御念仏にかこつけて、お出向きになった。<BR>⏎ 住み馴れていくにしたがって、とてももの寂しい場所の様子なので、たいして深い事情がない人でさえ、きっと悲哀を増すであろう。まして、お逢い申し上げるにつけても、つらかった宿縁の、とはいえ、浅くないのを思うと、かえって慰めがたい様子なので、なだめかねなさる。<BR>⏎ | 284-285 | 「夫婦仲をつまらなくつらいと思っている様子だが、どうしてそのように考える必要があろう。気安く出て来て、並々の生活はするまいと思っている」が、「思い上がった考えだ」とはお思いになる一方で、不憫に思って、いつもの、不断の御念仏にかこつけて,お出向きになった。<BR>⏎ 住み馴れていくにしたがって、とてももの寂しい場所の様子なので、たいして深い事情がない人でさえ、きっと悲哀を増すであろう。まして,お逢い申し上げるにつけても、つらかった宿縁の、とはいえ、浅くないのを思うと、かえって慰めがたい様子なので、なだめかねなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 323-324 | 「あの明石の浦の漁り火が思い出されますのは<BR>⏎ わが身の憂さを追ってここまでやって来たのでしょうか<BR>⏎ | 289 | 「あの明石の浦の漁り火が思い出されますのは<BR> わが身の憂さを追ってここまでやって来たのでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 327-328 | 「わたしの深い気持ちを御存知ないからでしょうか<BR>⏎ 今でも篝火のようにゆらゆらと心が揺れ動くのでしょう<BR>⏎ | 292 | 「わたしの深い気持ちを御存知ないからでしょうか<BR> 今でも篝火のようにゆらゆらと心が揺れ動くのでしょう<BR>⏎ |
| c1 | 330 | と、逆にお恨みになっていらっしゃる。<BR>⏎ | 294 | と,逆にお恨みになっていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d2 | 332-333 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 340 | ⏎ | ||
| i0 | 306 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version20 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version20 | 40 | <H4>第一章 朝顔姫君の物語 昔の恋の再燃</H4> | 36 | |
| version20 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 九月、故桃園式部卿宮邸を訪問]</A><BR> | 37 | |
| c1 | 43 | 九月になって、桃園宮にお移りになったのを聞いて、女五の宮がそこにいらっしゃるので、その方のお見舞にかこつけて参上なさる。故院が、この内親王方を特別に大切にお思い申し上げていらっしゃったので、今でも親しくそれからそれへと交際なさっていらっしゃるようである。同じ寝殿の西と東とにお住みになっていらっしゃるのであった。早くも荒廃してしまった心地がして、しみじみともの寂しげな感じである。<BR>⏎ | 39 | 九月になって、桃園宮にお移りになったのを聞いて、女五の宮がそこにいらっしゃるので、その方のお見舞にかこつけて参上なさる。故院が、この内親王方を 特別に大切にお思い申し上げていらっしゃったので、今でも親しくそれからそれへと交際なさっていらっしゃるようである。同じ寝殿の西と東とにお住みになっていらっしゃるのであった。早くも荒廃してしまった心地がして、しみじみともの寂しげな感じである。<BR>⏎ |
| c4 | 50-53 | 「とてもとても驚くほどの、どれをとってみても定めない世の中を、同じような状態で過ごしてまいりました寿命の長いことの恨めしく思われることが多くございますが、こうして、政界にご復帰なさったお喜びを、あの時代を拝見したままで死んでしまったら、どんなにか残念であったであろうかと思われました」<BR>⏎ と、声をお震わせになって、<BR>⏎ 「まことに美しくご成人なさいましたね。子どもでいらっしゃったころに、初めてお目にかかった時、真実にこんなにも美しい人がお生まれになったと驚かずにはいられませんでしたが、時々お目にかかるたびに、不吉なまでに思われました。今上の帝が、とてもよく似ていらっしゃると、人々が申しますが、いくら何でも見劣りあそばすだろうと、推察いたします」<BR>⏎ と、くどくどと申し上げなさるので、<BR>⏎ | 46-49 | 「とてもとても驚くほどの、どれをとってみても定めない世の中を、同じような状態で過ごしてまいりました寿命の長いことの恨めしく思われることが多くございますが、こうして,政界にご復帰なさったお喜びを、あの時代を拝見したままで死んでしまったら、どんなにか残念であったであろうかと思われました」<BR>⏎ と,声をお震わせになって、<BR>⏎ 「まことに美しくご成人なさいましたね。子どもでいらっしゃったころに,初めてお目にかかった時、真実にこんなにも美しい人がお生まれになったと驚かずにはいられませんでしたが、時々お目にかかるたびに、不吉なまでに思われました。今上の帝が、とてもよく似ていらっしゃると、人々が申しますが、いくら何でも見劣りあそばすだろうと、推察いたします」<BR>⏎ と,くどくどと申し上げなさるので、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 61-63 | 「そういうふうにも、親しくお付き合いさせていただけたならば、今も嬉しいことでございましたでしょうに。すっかり見限りなさいまして」<BR>⏎ と、恨めしそうに様子ぶって申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 57-58 | 「そういうふうにも,親しくお付き合いさせていただけたならば、今も嬉しいことでございましたでしょうに。すっかり見限りなさいまして」<BR>⏎ と,恨めしそうに様子ぶって申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version20 | 64 | <A NAME="in12">[第二段 朝顔姫君と対話]</A><BR> | 59 | |
| c1 | 67 | と言って、そのまま簀子からお渡りになる。<BR>⏎ | 62 | と言って,そのまま簀子からお渡りになる。<BR>⏎ |
| c1 | 71 | と言って、物足りなくお思いでいらっしゃる。<BR>⏎ | 66 | と言って,物足りなくお思いでいらっしゃる。<BR>⏎ |
| cd6:4 | 74-79 | 「誰にも知られず神の許しを待っていた間に<BR>⏎ 長年つらい世を過ごしてきたことよ<BR>⏎ 今は、どのような戒めにか、かこつけなさろうとするのでしょう。総じて、世の中に厄介なことまでがございました後、いろいろとつらい思いをするところがございました。せめてその一部なりとも」<BR>⏎ と、たって申し上げなさる、そのお心づかいなども、昔よりもう一段と優美さまでが増していらっしゃった。その一方で、とてもたいそうお年も召していらっしゃるが、ご身分には相応しくないようである。<BR>⏎ 「一通りのお見舞いの挨拶をするだけでも<BR>⏎ 誓ったことに背くと神が戒めるでしょう」<BR>⏎ | 69-72 | 「誰にも知られず神の許しを待っていた間に<BR> 長年つらい世を過ごしてきたことよ<BR>⏎ 今は、どのような戒めにか、かこつけなさろうとするのでしょう。総じて,世の中に厄介なことまでがございました後、いろいろとつらい思いをするところがございました。せめてその一部なりとも」<BR>⏎ と,たって申し上げなさる、そのお心づかいなども、昔よりもう一段と優美さまでが増していらっしゃった。その一方で,とてもたいそうお年も召していらっしゃるが、ご身分には相応しくないようである。<BR>⏎ 「一通りのお見舞いの挨拶をするだけでも<BR> 誓ったことに背くと神が戒めるでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 81 | 「ああ、情けない。あの当時の罪は、みな科戸の風にまかせて吹き払ってしまったのに」<BR>⏎ | 74 | 「ああ,情けない。あの当時の罪は、みな科戸の風にまかせて吹き払ってしまったのに」<BR>⏎ |
| c1 | 84 | などと、ちょっとしたことを申し上げるのも、まじめな話、とても気が気でない。結婚しようとなさらないご態度は、年月とともに強く、ますます引っ込み思案になりなさって、お返事もなさらないのを、困ったことと拝するようである。<BR>⏎ | 77 | などと,ちょっとしたことを申し上げるのも、まじめな話、とても気が気でない。結婚しようとなさらないご態度は、年月とともに強く、ますます引っ込み思案になりなさって、お返事もなさらないのを、困ったことと拝するようである。<BR>⏎ |
| c1 | 86 | などと、深く嘆息してお立ちになる。<BR>⏎ | 79 | などと,深く嘆息してお立ちになる。<BR>⏎ |
| c1 | 88 | と言って、お出になった後は、うるさいまでに、例によってお噂申し上げていた。<BR>⏎ | 81 | と言って,お出になった後は、うるさいまでに、例によってお噂申し上げていた。<BR>⏎ |
| d1 | 90 | <P>⏎ | ||
| version20 | 91 | <A NAME="in13">[第三段 帰邸後に和歌を贈答しあう]</A><BR> | 83 | |
| c1 | 92 | お気持ちの収まらないままお帰りになったので、以前にもまして、夜も眠れずにお思い続けになる。早く御格子を上げさせなさって、朝霧を眺めなさる。枯れたいくつもの花の中に、朝顔があちこちにはいまつわって、あるかなきかに花をつけて、色艶も格別に変わっているのを、折らせなさってお贈りになる。<BR>⏎ | 84 | お気持ちの収まらないままお帰りになったので、以前にもまして,夜も眠れずにお思い続けになる。早く御格子を上げさせなさって、朝霧を眺めなさる。枯れたいくつもの花の中に、朝顔があちこちにはいまつわって、あるかなきかに花をつけて、色艶も格別に変わっているのを、折らせなさってお贈りになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 94-95 | 昔拝見したあなたがどうしても忘れられません<BR>⏎ その朝顔の花は盛りを過ぎてしまったのでしょうか<BR>⏎ | 86 | 昔拝見したあなたがどうしても忘れられません<BR> その朝顔の花は盛りを過ぎてしまったのでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 98-99 | 「秋は終わって霧の立ち込める垣根にしぼんで<BR>⏎ 今にも枯れそうな朝顔の花のようなわたしです<BR>⏎ | 89 | 「秋は終わって霧の立ち込める垣根にしぼんで<BR> 今にも枯れそうな朝顔の花のようなわたしです<BR>⏎ |
| cd2:1 | 102-103 | 昔に帰って、今さら若々しい恋文書きなども似つかわしくないこと、とお思いになるが、やはりこのように昔から離れぬでもないご様子でありながら、不本意なままに過ぎてしまったことを思いながら、とてもお諦めになることができず、若返って、真剣になって文を差し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 92 | 昔に帰って、今さら若々しい恋文書きなども 似つかわしくないこと、とお思いになるが、やはりこのように昔から離れぬでもないご様子でありながら、不本意なままに過ぎてしまったことを思いながら、とてもお諦めになることができず、若返って、真剣になって文を差し上げなさる。<BR>⏎ |
| version20 | 104 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、執拗に朝顔姫君を恋う]</A><BR> | 93 | |
| c1 | 105 | 東の対に独り離れていらっしゃって、宣旨を呼び寄せ呼び寄せしてはご相談なさる。宮に伺候する女房たちで、それほどでない身分の男にさえ、すぐになびいてしまいそうな者は、間違いも起こしかねないほど、お褒め申し上げるが、宮は、その昔でさえきっぱりとお考えにもならなかったのに、今となっては、昔以上に、どちらも色恋に相応しくないお年、ご身分であるので、「ちょっとした木や草につけてのお返事などの、折々の興趣を見過さずにいるのも、軽率だと、受け取られようか」などと、人の噂を憚り憚りなさっては、心をうちとけなさるご様子もないので、昔のままで同じようなお気持ちを、世間の女性とは違って、珍しくまた妬ましくもお思い申し上げなさる。<BR>⏎ | 94 | 東の対に独り離れていらっしゃって、宣旨を呼び寄せ呼び寄せしてはご相談なさる。宮に伺候する女房たちで、それほどでない身分の男にさえ、すぐになびいてしまいそうな者は、間違いも起こしかねないほど、お褒め申し上げるが、宮は、その昔でさえきっぱりとお考えにもならなかったのに、今となっては,昔以上に,どちらも色恋に相応しくないお年、ご身分であるので、「ちょっとした木や草につけてのお返事などの、折々の興趣を見過さずにいるのも、軽率だと、受け取られようか」などと、人の噂を憚り憚りなさっては、心をうちとけなさるご様子もないので、昔のままで同じようなお気持ちを、世間の女性とは違って、珍しくまた妬ましくもお思い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 112 | などと、人知れず嘆かずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 101 | などと,人知れず嘆かずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 114-118 | など、あれこれと思い乱れなさるが、それほどでもないことなら、嫉妬などもご愛嬌に申し上げなさるが、心底つらいとお思いなので、顔色にもお出しにならない。<BR>⏎ 端近くに物思いに耽りがちで、宮中にお泊まりになることが多くなり、仕事と言えば、お手紙をお書きになることで、<BR>⏎ 「なるほど、世間の噂は嘘ではないようだ。せめて、ほんの一言おっしゃってくださればよいのに」<BR>⏎ と、いやなお方だとばかりお思い申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 103-106 | など,あれこれと思い乱れなさるが、それほどでもないことなら、嫉妬などもご愛嬌に申し上げなさるが、心底つらいとお思いなので、顔色にもお出しにならない。<BR>⏎ 端近くに物思いに耽りがちで、宮中にお泊まりになることが多くなり、仕事と言えば,お手紙をお書きになることで、<BR>⏎ 「なるほど,世間の噂は嘘ではないようだ。せめて,ほんの一言おっしゃってくださればよいのに」<BR>⏎ と,いやなお方だとばかりお思い申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version20 | 119 | <H4>第二章 朝顔姫君の物語 老いてなお旧りせぬ好色心</H4> | 107 | |
| version20 | 120 | <A NAME="in21">[第一段 朝顔姫君訪問の道中]</A><BR> | 108 | |
| c2 | 123-124 | と言って、軽く膝をおつきになるが、振り向きもなさらず、若君をあやして、さりげなくいらっしゃる横顔が、ただならぬ様子なので、<BR>⏎ 「不思議と、ご機嫌の悪くなったこのごろですね。罪もありませんね。塩焼き衣のように、あまりなれなれしくなって、珍しくなくお思いかと思って、家を空けていましたが、またどのようにお考えになってか」<BR>⏎ | 111-112 | と言って,軽く膝をおつきになるが、振り向きもなさらず、若君をあやして、さりげなくいらっしゃる横顔が、ただならぬ様子なので、<BR>⏎ 「不思議と、ご機嫌の悪くなったこのごろですね。罪もありませんね。塩焼き衣のように,あまりなれなれしくなって、珍しくなくお思いかと思って、家を空けていましたが、またどのようにお考えになってか」<BR>⏎ |
| c1 | 126 | 「馴じんで行くのは、おっしゃるとおり、いやなことが多いものですね」<BR>⏎ | 114 | 「馴じんで行くのは、おっしゃるとおり,いやなことが多いものですね」<BR>⏎ |
| c1 | 131 | と、堪えきれないお気持ちになる。<BR>⏎ | 119 | と,堪えきれないお気持ちになる。<BR>⏎ |
| c1 | 134 | などと、人々にもしいておっしゃるが、<BR>⏎ | 122 | などと,人々にもしいておっしゃるが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 137-138 | などと、呟き合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 125 | などと,呟き合っていた。<BR>⏎ |
| version20 | 139 | <A NAME="in22">[第二段 宮邸に到着して門を入る]</A><BR> | 126 | |
| cd2:1 | 145-146 | 「いつの間にこの邸は蓬がおい茂り<BR>⏎ 雪に埋もれたふる里となってしまったのだろう」<BR>⏎ | 132 | 「いつの間にこの邸は蓬がおい茂り<BR> 雪に埋もれたふる里となってしまったのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 148 | <P>⏎ | ||
| version20 | 149 | <A NAME="in23">[第三段 宮邸で源典侍と出会う]</A><BR> | 134 | |
| c1 | 154 | などと、名乗り出したので、お思い出しになった。<BR>⏎ | 139 | などと,名乗り出したので、お思い出しになった。<BR>⏎ |
| c1 | 157 | と言って、物に寄りかかっていらっしゃるご様子に、ますます昔のことを思い出して、相変わらずなまめかしいしなをつくって、たいそうすぼんだ口の恰好、想像される声だが、それでもやはり、甘ったるい言い方で戯れかかろうと今も思っている。<BR>⏎ | 142 | と言って,物に寄りかかっていらっしゃるご様子に、ますます昔のことを思い出して、相変わらずなまめかしいしなをつくって、たいそうすぼんだ口の恰好、想像される声だが、それでもやはり、甘ったるい言い方で戯れかかろうと今も思っている。<BR>⏎ |
| c1 | 159 | 「その女盛りのころに、寵愛を競い合いなさった女御、更衣、ある方はお亡くなりになり、またある方は見るかげもなく、はかないこの世に落ちぶれていらっしゃる方もあるようだ。入道の宮などの御寿命の短さよ。あきれるばかりの世の中の無常に、年からいっても余命残り少なそうで、心構えなども、頼りなさそうに見えた人が、生き残って、静かに勤行をして過ごしていたのは、やはりすべて定めない世のありさまなのだ」<BR>⏎ | 144 | 「その女盛りのころに,寵愛を競い合いなさった女御,更衣、ある方はお亡くなりになり、またある方は見るかげもなく、はかないこの世に落ちぶれていらっしゃる方もあるようだ。入道の宮などの御寿命の短さよ。あきれるばかりの世の中の無常に、年からいっても余命残り少なそうで、心構えなども、頼りなさそうに見えた人が、生き残って、静かに勤行をして過ごしていたのは、やはりすべて定めない世のありさまなのだ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 161-162 | 「何年たってもあなたとのご縁が忘れられません<BR>⏎ 親の親とかおっしゃった一言がございますもの」<BR>⏎ | 146 | 「何年たってもあなたとのご縁が忘れられません<BR> 親の親とかおっしゃった一言がございますもの」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 164-165 | 「来世に生まれ変わった後まで待って見てください<BR>⏎ この世で子が親を忘れる例があるかどうかと<BR>⏎ | 148 | 「来世に生まれ変わった後まで待って見てください<BR> この世で子が親を忘れる例があるかどうかと<BR>⏎ |
| cd2:1 | 167-168 | とおっしゃって、お立ちになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 150 | とおっしゃって,お立ちになった。<BR>⏎ |
| version20 | 169 | <A NAME="in24">[第四段 朝顔姫君と和歌を詠み交わす]</A><BR> | 151 | |
| c2 | 173-174 | と、身を入れて強くお訴えになるが、<BR>⏎ 「昔、自分も相手も若くて、過ちが許されたころでさえ、亡き父宮などが好感を持っていらっしゃったのを、やはりとんでもなく気がひけることだとお思い申して終わったのに、晩年になり、盛りも過ぎ、似つかわしくない今頃になって、その一言をお聞かせするのも気恥ずかしいことだろう」<BR>⏎ | 155-156 | と,身を入れて強くお訴えになるが、<BR>⏎ 「昔,自分も相手も若くて、過ちが許されたころでさえ、亡き父宮などが好感を持っていらっしゃったのを、やはりとんでもなく気がひけることだとお思い申して終わったのに、晩年になり、盛りも過ぎ、似つかわしくない今頃になって、その一言をお聞かせするのも気恥ずかしいことだろう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 177-178 | 「昔のつれない仕打ちに懲りもしないわたしの心までが<BR>⏎ あなたがつらく思う心に加わってつらく思われるのです<BR>⏎ | 159 | 「昔のつれない仕打ちに懲りもしないわたしの心までが<BR> あなたがつらく思う心に加わってつらく思われるのです<BR>⏎ |
| cd3:2 | 183-185 | と、女房たちは、例によって、申し上げる。<BR>⏎ 「今さらどうして気持ちを変えたりしましょう<BR>⏎ 他人ではそのようなことがあると聞きました心変わりを<BR>⏎ | 164-165 | と,女房たちは、例によって、申し上げる。<BR>⏎ 「今さらどうして気持ちを変えたりしましょう<BR> 他人ではそのようなことがあると聞きました心変わりを<BR>⏎ |
| d1 | 188 | <P>⏎ | ||
| version20 | 189 | <A NAME="in25">[第五段 朝顔姫君、源氏の求愛を拒む]</A><BR> | 168 | |
| c1 | 192 | と言って、しきりにひそひそ話しかけていらっしゃるが、何のお話であろうか。女房たちも、<BR>⏎ | 171 | と言って,しきりにひそひそ話しかけていらっしゃるが、何のお話であろうか。女房たちも、<BR>⏎ |
| c2 | 196-197 | なるほど、君のお人柄の、素晴らしいのも、慕わしいのも、お分かりにならないのではないが、<BR>⏎ 「ものの情理をわきまえた人のように見ていただいたとしても、世間一般の人がお褒め申すのとひとしなみに思われるだろう。また一方では、至らぬ心のほどもきっとお見通しになるに違いなく、気のひけるほど立派なお方だから」とお思いになると、「親しそうな気持ちをお見せしても、何にもならない。さし障りのないお返事などは、引き続き、御無沙汰にならないくらいに差し上げなさって、人を介してのお返事、失礼のないようにしていこう。長年、仏事に無縁であった罪が消えるように仏道の勤行をしよう」とは決意はなさるが、「急にこのようなご関係を、断ち切ったようにするのも、かえって思わせぶりに見えもし聞こえもして、人が噂しはしまいか」と、世間の人の口さがないのをご存知なので、一方では、伺候する女房たちにも気をお許しにならず、たいそうご用心なさりながら、だんだんとご勤行一途になって行かれる。<BR>⏎ | 175-176 | なるほど,君のお人柄の、素晴らしいのも、慕わしいのも、お分かりにならないのではないが、<BR>⏎ 「ものの情理をわきまえた人のように見ていただいたとしても、世間一般の人がお褒め申すのとひとしなみに思われるだろう。また一方では,至らぬ心のほどもきっとお見通しになるに違いなく、気のひけるほど立派なお方だから」とお思いになると、「親しそうな気持ちをお見せしても、何にもならない。さし障りのないお返事などは、引き続き、御無沙汰にならないくらいに差し上げなさって、人を介してのお返事、失礼のないようにしていこう。長年、仏事に無縁であった罪が消えるように仏道の勤行をしよう」とは決意はなさるが、「急にこのようなご関係を、断ち切ったようにするのも、かえって思わせぶりに見えもし聞こえもして、人が噂しはしまいか」と、世間の人の口さがないのをご存知なので、一方では,伺候する女房たちにも気をお許しにならず、たいそうご用心なさりながら、だんだんとご勤行一途になって行かれる。<BR>⏎ |
| d1 | 199 | <P>⏎ | ||
| version20 | 200 | <H4>第三章 紫の君の物語 冬の雪の夜の孤影</H4> | 178 | |
| version20 | 201 | <A NAME="in31">[第一段 紫の君、嫉妬す]</A><BR> | 179 | |
| c1 | 204 | と、お心が騒いで、二条院にお帰りにならない夜がお続きになるのを、女君は、冗談でなく恋しいとばかりお思いになる。我慢していらっしゃるが、どうして涙がこぼれる時がないであろうか。<BR>⏎ | 182 | と,お心が騒いで、二条院にお帰りにならない夜がお続きになるのを、女君は、冗談でなく恋しいとばかりお思いになる。我慢していらっしゃるが、どうして涙がこぼれる時がないであろうか。<BR>⏎ |
| c1 | 206 | と言って、お髪をかき撫でながら、おいたわしいと思っていらっしゃる様子も、絵に描きたいようなお間柄である。<BR>⏎ | 184 | と言って,お髪をかき撫でながら、おいたわしいと思っていらっしゃる様子も、絵に描きたいようなお間柄である。<BR>⏎ |
| c1 | 208 | などと言って、涙でもつれている額髪、おつくろいになるが、ますます横を向いて何とも申し上げなさらない。<BR>⏎ | 186 | などと言って,涙でもつれている額髪、おつくろいになるが、ますます横を向いて何とも申し上げなさらない。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 210-213 | と言って、「無常の世に、こうまで隔てられるのもつまらないことだ」と、一方では物思いに耽っていらっしゃる。<BR>⏎ 「斎院にとりとめのない文を差し上げたのを、もしや誤解なさっていることがありませんか。それは、大変な見当違いのことですよ。自然とお分かりになるでしょう。昔からまったくよそよそしいお気持ちなので、もの寂しい時々に、恋文めいたものを差し上げて困らせたところ、あちらも所在なくお過ごしのところなので、まれに返事などなさるが、本気ではないので、こういうことですと、不平をこぼさなければならないようなことでしょうか。不安なことは何もあるまいと、お思い直しなさい」<BR>⏎ などと、一日中お慰め申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 188-190 | と言って,「無常の世に、こうまで隔てられるのもつまらないことだ」と、一方では物思いに耽っていらっしゃる。<BR>⏎ 「斎院にとりとめのない文を差し上げたのを、もしや誤解なさっていることがありませんか。それは,大変な見当違いのことですよ。自然とお分かりになるでしょう。昔からまったくよそよそしいお気持ちなので、もの寂しい時々に、恋文めいたものを差し上げて困らせたところ、あちらも所在なくお過ごしのところなので、まれに返事などなさるが、本気ではないので、こういうことですと、不平をこぼさなければならないようなことでしょうか。不安なことは何もあるまいと、お思い直しなさい」<BR>⏎ などと,一日中お慰め申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version20 | 214 | <A NAME="in32">[第二段 夜の庭の雪まろばし]</A><BR> | 191 | |
| c1 | 217 | と言って、御簾を巻き上げさせなさる。<BR>⏎ | 194 | と言って,御簾を巻き上げさせなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 222 | <P>⏎ | ||
| version20 | 223 | <A NAME="in33">[第三段 源氏、往古の女性を語る]</A><BR> | 199 | |
| c1 | 225 | とても隔てを置いていらして、詳しいご様子は拝したことはございませんでしたが、宮中生活の中で、心安い相談相手としては、お考えくださいました。<BR>⏎ | 201 | とても隔てを置いていらして、詳しいご様子は拝したことはございませんでしたが、宮中生活の中で、心安い相談相手としては,お考えくださいました。<BR>⏎ |
| cd6:5 | 232-237 | 「そうですね。優美で器量のよい女性の例としては、やはり引き合いに出さなければならない方ですね。そう思うと、お気の毒で悔やまれることが多いのですね。まして、浮気っぽい好色な人が、年をとるにつれて、どんなにか後悔されることが多いことでしょう。誰よりもはるかにおとなしい、と思っていましたわたしでさえですから」<BR>⏎ などと、お口になさって、尚侍の君の御事にも、涙を少しはお落としなった。<BR>⏎ 「あの、人数にも入らないほどさげすんでいらっしゃる山里の女は、身分にはやや過ぎて、物の道理をわきまえているようですが、他の人とは同列に扱えない人ですから、気位を高くもっているのも、見ないようにしております。お話にもならない身分の人はまだ知りません。人というものは、すぐれた人というのはめったにいないものですね。<BR>⏎ 東の院に寂しく暮らしている人の気立ては、昔に変わらず可憐なものがあります。あのように、はとてもできないものですが。その方面につけての気立てのよさで、世話するようになって以来、同じように夫婦仲を遠慮深げな態度で過ごしてきましたよ。今はもう、互いに別れられそうなく、心からいとしいと思っております」<BR>⏎ などと、昔の話や今の話などに夜が更けてゆく。<BR>⏎ <P>⏎ | 208-212 | 「そうですね。優美で器量のよい女性の例としては、やはり引き合いに出さなければならない方ですね。そう思うと、お気の毒で悔やまれることが多いのですね。まして,浮気っぽい好色な人が、年をとるにつれて、どんなにか後悔されることが多いことでしょう。誰よりもはるかにおとなしい、と思っていましたわたしでさえですから」<BR>⏎ などと,お口になさって、尚侍の君の御事にも、涙を少しはお落としなった。<BR>⏎ 「あの,人数にも入らないほどさげすんでいらっしゃる山里の女は、身分にはやや過ぎて、物の道理をわきまえているようですが、他の人とは同列に扱えない人ですから、気位を高くもっているのも、見ないようにしております。お話にもならない身分の人はまだ知りません。人というものは、すぐれた人というのは めったにいないものですね。<BR>⏎ 東の院に寂しく暮らしている人の気立ては、昔に変わらず可憐なものがあります。あのようには,とてもできないものですが、その方面につけての気立てのよさで、世話するようになって以来、同じように夫婦仲を遠慮深げな態度で過ごしてきましたよ。今はもう、互いに別れられそうなく、心からいとしいと思っております」<BR>⏎ などと,昔の話や今の話などに夜が更けてゆく。<BR>⏎ |
| version20 | 238 | <A NAME="in34">[第四段 藤壷、源氏の夢枕に立つ]</A><BR> | 213 | |
| cd2:1 | 240-241 | 「氷に閉じこめられた石間の遣水は流れかねているが<BR>⏎ 空に澄む月の光はとどこおりなく西へ流れて行く」<BR>⏎ | 215 | 「氷に閉じこめられた石間の遣水は流れかねているが<BR> 空に澄む月の光はとどこおりなく西へ流れて行く」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 243-244 | 「何もかも昔のことが恋しく思われる雪の夜に<BR>⏎ いっそうしみじみと思い出させる鴛鴦の鳴き声であることよ」<BR>⏎ | 217 | 「何もかも昔のことが恋しく思われる雪の夜に<BR> いっそうしみじみと思い出させる鴛鴦の鳴き声であることよ」<BR>⏎ |
| c1 | 248 | 「これは、どうなさいました、このように」<BR>⏎ | 221 | 「これは,どうなさいました、このように」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 251-253 | 「安らかに眠られずふと寝覚めた寂しい冬の夜に<BR>⏎ 見た夢の短かかったことよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 224 | 「安らかに眠られずふと寝覚めた寂しい冬の夜に<BR> 見た夢の短かかったことよ」<BR>⏎ |
| version20 | 254 | <A NAME="in35">[第五段 源氏、藤壷を供養す]</A><BR> | 225 | |
| c1 | 255 | <かえって心満たされず、悲しくお思いになって、早くお起きになって、それとは言わず、所々の寺々に御誦経などをおさせになる。<BR>⏎ | 226 | かえって心満たされず、悲しくお思いになって、早くお起きになって、それとは言わず、所々の寺々に御誦経などをおさせになる。<BR>⏎ |
| c1 | 257 | と、ものの道理を深くおたどりになると、ひどく悲しくて、<BR>⏎ | 228 | と,ものの道理を深くおたどりになると、ひどく悲しくて、<BR>⏎ |
| c1 | 259 | などと、つくづくとお思いになる。<BR>⏎ | 230 | などと,つくづくとお思いになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 261-263 | と、気がねなさるので、阿弥陀仏を心に浮かべてお念じ申し上げなさる。「同じ蓮の上に」と思って、<BR>⏎ 「亡くなった方を恋慕う心にまかせてお尋ねしても<BR>⏎ その姿も見えない三途の川のほとりで迷うことであろうか」<BR>⏎ | 232-233 | と,気がねなさるので、阿弥陀仏を心に浮かべてお念じ申し上げなさる。「同じ蓮の上に」と思って、<BR>⏎ 「亡くなった方を恋慕う心にまかせてお尋ねしても<BR> その姿も見えない三途の川のほとりで迷うことであろうか」<BR>⏎ |
| d2 | 265-266 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 273 | ⏎ | ||
| i0 | 245 | |||
| diff | src/original/version21.html | src/modified/version21.html | ||
| c1 | 6 | <TITLE>少女(大島本)</TITLE>⏎ | 6 | <TITLE>乙女(大島本)</TITLE>⏎ |
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version21 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| cd2:1 | 12-13 | <H3>少女</H3>⏎ <P>⏎ | 11 | <H3>乙女</H3>⏎ |
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 72 | <P>⏎ | ||
| version21 | 73 | <H4>第一章 朝顔姫君の物語 藤壷代償の恋の諦め</H4> | 69 | |
| version21 | 74 | <A NAME="in11">[第一段 故藤壷の一周忌明ける]</A><BR> | 70 | |
| c1 | 77 | と、お見舞い申し上げなさった。<BR>⏎ | 73 | と,お見舞い申し上げなさった。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 79-83 | 思いもかけませんでした<BR>⏎ 再びあなたが禊をなさろうとは」<BR>⏎ 紫色の紙、立て文にきちんとして、藤の花におつけになっていた。季節柄、感動をおぼえて、お返事がある。<BR>⏎ 「喪服を着たのはつい昨日のことと思っておりましたのに<BR>⏎ もう今日はそれを脱ぐ禊をするとは、何と移り変わりの早い世の中ですこと<BR>⏎ | 75-77 | 思いもかけませんでした<BR> 再びあなたが禊をなさろうとは」<BR>⏎ 紫色の紙、立て文にきちんとして、藤の花におつけになっていた。季節柄,感動をおぼえて、お返事がある。<BR>⏎ 「喪服を着たのはつい昨日のことと思っておりましたのに<BR> もう今日はそれを脱ぐ禊をするとは、何と移り変わりの早い世の中ですこと<BR>⏎ |
| cd2:1 | 88-89 | と、困っているようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 82 | と,困っているようである。<BR>⏎ |
| version21 | 90 | <A NAME="in12">[第二段 源氏、朝顔姫君を諦める]</A><BR> | 83 | |
| c1 | 93 | とお褒め申し上げるのを、若い女房たちは苦笑申し上げる。<BR>⏎ | 86 | と,お褒め申し上げるのを、若い女房たちは苦笑申し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 96-97 | けれども、故大殿の姫君がいらっしゃった間は、三の宮がお気になさるのが気の毒さに、あれこれと言葉を添えることもなかったのです。今では、そのれっきとした奥方でいらした方まで、お亡くなりになってしまったので、ほんとに、どうしてご意向どおりになられたとしても悪くはあるまいと思われますにつけても、昔に戻ってこのように熱心におっしゃていただけるのも、そうなるはずであったのだろうと存じます」<BR>⏎ などと、いかにも古風に申し上げなさるのを、気にそまぬとお思いになって、<BR>⏎ | 89-90 | けれども,故大殿の姫君がいらっしゃった間は、三の宮がお気になさるのが気の毒さに、あれこれと言葉を添えることもなかったのです。今では、そのれっきとした奥方でいらした方まで、お亡くなりになってしまったので、ほんとに、どうしてご意向どおりになられたとしても悪くはあるまいと思われますにつけても、昔に戻ってこのように熱心におっしゃていただけるのも、そうなるはずであったのだろうと存じます」<BR>⏎ などと,いかにも古風に申し上げなさるのを、気にそまぬとお思いになって、<BR>⏎ |
| d1 | 101 | <P>⏎ | ||
| version21 | 102 | <H4>第二章 夕霧の物語 光る源氏の子息教育の物語</H4> | 94 | |
| version21 | 103 | <A NAME="in21">[第一段 子息夕霧の元服と教育論]</A><BR> | 95 | |
| c1 | 105 | 右大将をはじめとして、御伯父の殿方は、みな上達部で高貴なご信望厚い方々ばかりでいらっしゃるので、主人方でも、我も我もとしかるべき事柄は、競い合ってそれぞれがお仕え申し上げなさる。だいたい世間でも大騒ぎをして、大変な準備のしようである。<BR>⏎ | 97 | 右大将をはじめとして、御伯父の殿方は、みな上達部で高貴なご信望厚い方々ばかりでいらっしゃるので、主人方でも、我も我もと しかるべき事柄は、競い合ってそれぞれがお仕え申し上げなさる。だいたい世間でも大騒ぎをして、大変な準備のしようである。<BR>⏎ |
| c1 | 109 | 浅葱の服で殿上の間にお戻りになるのを、大宮は、ご不満でとんでもないこととお思いになったのは、無理もなく、お気の毒なことであった。<BR>⏎ | 101 | 浅葱の服で殿上の間にお戻りになるのを、大宮は、ご不満でとんでもないこととお思いになったのは、無理もなく,お気の毒なことであった。<BR>⏎ |
| c7 | 111-117 | 「今のうちは、このように無理をしてまで、まだ若年なので大人扱いする必要はございませんが、考えていることがございまして、大学の道に暫くの間勉強させようという希望がございますゆえ、もう二、三年間を無駄に過ごしたと思って、いずれ朝廷にもお仕え申せるようになりましたら、そのうちに、一人前になりましょう。<BR>⏎ 自分は、宮中に成長致しまして、世の中の様子を存じませんで、昼夜、御帝の前に伺候致して、ほんのちょっと学問を習いました。ただ、畏れ多くも直接に教えていただきましたのさえ、どのようなことも広い知識を知らないうちは、詩文を勉強するにも、琴や笛の調べにしても、音色が十分でなく、及ばないところが多いものでございました。<BR>⏎ つまらない親に、賢い子が勝るという話は、とても難しいことでございますので、まして、次々と子孫に伝わっていき、離れてゆく先は、とても不安に思えますので、決めましたことでございます。<BR>⏎ 高貴な家の子弟として、官位爵位が心にかない、世の中の栄華におごる癖がついてしまいますと、学問などで苦労するようなことは、とても縁遠いことのように思うようです。遊び事や音楽ばかりを好んで、思いのままの官爵に昇ってしまうと、時勢に従う世の人が、内心ではばかにしながら、追従し、機嫌をとりながら従っているうちは、自然とひとかどの人物らしく立派なようですが、時勢が移り、頼む人に先立たれて、運勢が衰えた末には、人に軽んじらればかにされて、取り柄とするところがないものでございます。<BR>⏎ やはり、学問を基礎にしてこそ、政治家としての心の働きが世間に認められるところもしっかりしたものでございましょう。当分の間は、不安なようでございますが、将来の世の重鎮となるべき心構えを学んだならば、わたしが亡くなった後も、安心できようと存じてです。ただ今のところは、ぱっとしなくても、このように育てていきましたら、貧乏な大学生だといって、ばかにして笑う者もけっしてありますまいと存じます」<BR>⏎ などと、わけをお話し申し上げになると、ほっと吐息をおつきになって、<BR>⏎ 「なるほど、そこまでお考えになって当然でしたことを。ここの大将なども、あまりに例に外れたご処置だと、不審がっておりましたようですが、この子供心にも、とても残念がって、大将や、左衛門督の子どもなどを、自分よりは身分が下だと見くびっていたのさえ、皆それぞれ位が上がり上がりし、一人前になったのに、浅葱をとてもつらいと思っていられるので、気の毒なのでございます」<BR>⏎ | 103-109 | 「今のうちは、このように無理をしてまで、まだ若年なので大人扱いする必要はございませんが、考えていることがございまして、大学の道に暫くの間勉強させようという希望がございますゆえ、もう二,三年間を無駄に過ごしたと思って、いずれ朝廷にもお仕え申せるようになりましたら、そのうちに、一人前になりましょう。<BR>⏎ 自分は、宮中に成長致しまして、世の中の様子を存じませんで、昼夜、御帝の前に伺候致して、ほんのちょっと学問を習いました。ただ,畏れ多くも直接に教えていただきましたのさえ、どのようなことも広い知識を知らないうちは、詩文を勉強するにも、琴や笛の調べにしても、音色が十分でなく、及ばないところが多いものでございました。<BR>⏎ つまらない親に、賢い子が勝るという話は、とても難しいことでございますので、まして,次々と子孫に伝わっていき、離れてゆく先は、とても不安に思えますので、決めましたことでございます。<BR>⏎ 高貴な家の子弟として、官位爵位が心にかない、世の中の栄華におごる癖がついてしまいますと、学問などで苦労するようなことは、とても縁遠いことのように思うようです。遊び事や音楽ばかりを好んで、思いのままの官爵に昇ってしまうと、時勢に従う世の人が、内心ではばかにしながら、追従し、機嫌をとりながら従っているうちは、自然とひとかどの人物らしく 立派なようですが、時勢が移り、頼む人に先立たれて、運勢が衰えた末には、人に軽んじらればかにされて、取り柄とするところがないものでございます。<BR>⏎ やはり,学問を基礎にしてこそ、政治家としての心の働きが世間に認められるところもしっかりしたものでございましょう。当分の間は、不安なようでございますが、将来の世の重鎮となるべき心構えを学んだならば、わたしが亡くなった後も、安心できようと存じてです。ただ今のところは、ぱっとしなくても、このように育てていきましたら、貧乏な大学生だといって、ばかにして笑う者もけっしてありますまいと存じます」<BR>⏎ などと,わけをお話し申し上げになると、ほっと吐息をおつきになって、<BR>⏎ 「なるほど,そこまでお考えになって当然でしたことを。ここの大将なども、あまりに例に外れたご処置だと、不審がっておりましたようですが、この子供心にも、とても残念がって、大将や、左衛門督の子どもなどを、自分よりは身分が下だと見くびっていたのさえ、皆それぞれ位が上がり上がりし、一人前になったのに、浅葱をとてもつらいと思っていられるので、気の毒なのでございます」<BR>⏎ |
| c1 | 120 | と言って、とてもかわいいとお思いであった。<BR>⏎ | 112 | と言って,とてもかわいいとお思いであった。<BR>⏎ |
| d1 | 123 | <P>⏎ | ||
| version21 | 124 | <A NAME="in22">[第二段 大学寮入学の準備]</A><BR> | 115 | |
| c2 | 128-129 | 若い君達は、我慢しきれず笑ってしまった。一方では、笑ったりなどしないような、年もいった落ち着いた人だけをと、選び出して、お酌などもおさせになるが、いつもと違った席なので、右大将や、民部卿などが、一所懸命に杯をお持ちになっているのを、あきれるばかり文句を言い言い叱りつける。<BR>⏎ 「おおよそ、宴席の相伴役は、はなはだ不作法でござる。これほど著名な誰それを知らなくて、朝廷にはお仕えしている。はなはだばかである」<BR>⏎ | 119-120 | 若い君達は、我慢しきれず笑ってしまった。一方では,笑ったりなどしないような、年もいった落ち着いた人だけをと、選び出して、お酌などもおさせになるが、いつもと違った席なので、右大将や、民部卿などが、一所懸命に杯をお持ちになっているのを、あきれるばかり文句を言い言い叱りつける。<BR>⏎ 「おおよそ,宴席の相伴役は、はなはだ不作法でござる。これほど著名な誰それを知らなくて、朝廷にはお仕えしている。はなはだばかである」<BR>⏎ |
| c1 | 132 | などと、脅して言うのも、まことにおかしい。<BR>⏎ | 123 | などと,脅して言うのも、まことにおかしい。<BR>⏎ |
| d1 | 139 | <P>⏎ | ||
| version21 | 140 | <A NAME="in23">[第三段 響宴と詩作の会]</A><BR> | 130 | |
| d1 | 144 | <P>⏎ | ||
| version21 | 145 | <A NAME="in24">[第四段 夕霧の勉学生活]</A><BR> | 134 | |
| c1 | 146 | 引き続いて、入学の礼ということをおさせになって、そのまま、この院の中にお部屋を設けて、本当に造詣の深い先生にお預け申されて、学問をおさせ申し上げなさった。<BR>⏎ | 135 | 引き続いて、入学の礼ということをおさせになって、そのまま,この院の中にお部屋を設けて、本当に造詣の深い先生にお預け申されて、学問をおさせ申し上げなさった。<BR>⏎ |
| c1 | 149 | と、お許し申し上げなさのであった。<BR>⏎ | 138 | と,お許し申し上げなさのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 154-155 | と思って、わずか四、五か月のうちに、『史記』などという書物、読み了えておしまいになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 143 | と思って、わずか四,五か月のうちに、『史記』などという書物、読み了えておしまいになった。<BR>⏎ |
| version21 | 156 | <A NAME="in25">[第五段 大学寮試験の予備試験]</A><BR> | 144 | |
| c1 | 160 | と、皆が皆、涙を流しなさる。大将は、誰にもまして、<BR>⏎ | 148 | と,皆が皆、涙を流しなさる。大将は、誰にもまして、<BR>⏎ |
| c1 | 162 | と、口に出されて、お泣きになる。殿も、我慢がおできになれず、<BR>⏎ | 150 | と,口に出されて、お泣きになる。殿も、我慢がおできになれず、<BR>⏎ |
| d1 | 168 | <P>⏎ | ||
| version21 | 169 | <A NAME="in26">[第六段 試験の当日]</A><BR> | 156 | |
| c1 | 170 | 大学寮に参上なさる日は、寮の門前に、上達部のお車が数知れないくらい集まっていた。おおよそ世間にこれを見ないで残っている人はあるまいと思われたが、この上なく大切に扱われて、労られながら入ってこられる冠者の君のご様子、なるほど、このような生活には耐えられないくらい上品でかわいらしい感じである。<BR>⏎ | 157 | 大学寮に参上なさる日は、寮の門前に、上達部のお車が数知れないくらい集まっていた。おおよそ世間にこれを見ないで残っている人はあるまいと思われたが、この上なく大切に扱われて、労られながら入ってこられる冠者の君のご様子、なるほど,このような生活には耐えられないくらい 上品でかわいらしい感じである。<BR>⏎ |
| c1 | 173 | 昔が思い出される大学の盛んな時代なので、上中下の人は、我も我もと、この道を志望し集まってくるので、ますます、世の中に、学問があり有能な人が多くなったのであった。擬文章生などとかいう試験をはじめとして、すらすらと合格なさったので、ひたすら学問に心を入れて、先生も弟子も、いっそうお励みになる。<BR>⏎ | 160 | 昔が思い出される大学の盛んな時代なので、上中下の人は、我も我もと、この道を志望し集まってくるので、ますます,世の中に、学問があり有能な人が多くなったのであった。擬文章生などとかいう試験をはじめとして、すらすらと合格なさったので、ひたすら学問に心を入れて、先生も弟子も、いっそうお励みになる。<BR>⏎ |
| d1 | 175 | <P>⏎ | ||
| version21 | 176 | <H4>第三章 光る源氏周辺の人々の物語 内大臣家の物語</H4> | 162 | |
| version21 | 177 | <A NAME="in31">[第一段 斎宮女御の立后と光る源氏の太政大臣就任]</A><BR> | 163 | |
| c1 | 180 | と、大臣もご遺志にかこつけて主張なさる。皇族出身から引き続き后にお立ちになることを、世間の人は賛成申し上げない。<BR>⏎ | 166 | と,大臣もご遺志にかこつけて主張なさる。皇族出身から引き続き后にお立ちになることを、世間の人は賛成申し上げない。<BR>⏎ |
| c1 | 182 | などと、内々に、こちら側あちら側につく人々は、心配申し上げている。<BR>⏎ | 168 | などと,内々に、こちら側あちら側につく人々は、心配申し上げている。<BR>⏎ |
| d1 | 188 | <P>⏎ | ||
| version21 | 189 | <A NAME="in32">[第二段 夕霧と雲居雁の幼恋]</A><BR> | 174 | |
| c1 | 192 | と、父大臣が訓戒なさって、離れて暮らすようになっていたが、子供心に慕わしく思うことなきにしもあらずなので、ちょっとした折々の花や紅葉につけても、また雛遊びのご機嫌とりにつけても、熱心にくっついてまわって、真心をお見せ申されるので、深い情愛を交わし合いなさって、きっぱりと今でも恥ずかしがりなさらない。<BR>⏎ | 177 | と,父大臣が訓戒なさって、離れて暮らすようになっていたが、子供心に慕わしく思うことなきにしもあらずなので、ちょっとした折々の花や紅葉につけても、また雛遊びのご機嫌とりにつけても、熱心にくっついてまわって、真心をお見せ申されるので、深い情愛を交わし合いなさって、きっぱりと今でも恥ずかしがりなさらない。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 195-197 | と思っていると、女君は何の考えもなくいらっしゃるが、男君は、あんなにも子どものように見えても、だいそれたどんな仲だったのであろうか、離れ離れになってからは、逢えないことを気が気でなく思うのである。<BR>⏎ まだ未熟ながら将来の思われるかわいらしい筆跡で、書き交わしなさった手紙が、不用意さから、自然と落としているときもあるのを、姫君の女房たちは、うすうす知っている者もいたのだが、「どうして、こんな関係である」と、どなたに申し上げられようか。知っていながら隠しているのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 180-181 | と思っていると、女君は何の考えもなくいらっしゃるが、男君は、あんなにも子どものように見えても、だいそれた どんな仲だったのであろうか、離れ離れになってからは、逢えないことを気が気でなく思うのである。<BR>⏎ まだ未熟ながら将来の思われるかわいらしい筆跡で、書き交わしなさった手紙が、不用意さから、自然と落としているときもあるのを、姫君の女房たちは、うすうす知っている者もいたのだが、「どうして,こんな関係である」と、どなたに申し上げられようか。知っていながら隠しているのであろう。<BR>⏎ |
| version21 | 198 | <A NAME="in33">[第三段 内大臣、大宮邸に参上]</A><BR> | 182 | |
| c1 | 200 | 「琵琶は、女性が弾くには見にくいようだが、いかにも達者な感じがするものです。今の世に、正しく弾き伝えている人は、めったにいなくなってしまいました。何々親王、何々の源氏とか」<BR>⏎ | 184 | 「琵琶は、女性が弾くには見にくいようだが、いかにも達者な感じがするものです。今の世に,正しく弾き伝えている人は、めったにいなくなってしまいました。何々親王、何々の源氏とか」<BR>⏎ |
| c1 | 202 | 「女性の中では、太政大臣が山里に隠しおいていらっしゃる人が、たいそう上手だと聞いております。音楽の名人の血筋ではありますが、子孫の代になって、田舎生活を長年していた人が、どうしてそのように上手に弾けたのでしょう。あの大臣が、ことの他上手な人だと思っておっしゃったことがありました。他の芸とは違って、音楽の才能はやはり広くいろんな人と合奏をし、あれこれの楽器に調べを合わせてこそ、立派になるものですが、独りで学んで、上手になったというのは珍しいことです」<BR>⏎ | 186 | 「女性の中では、太政大臣が 山里に隠しおいていらっしゃる人が、たいそう上手だと聞いております。音楽の名人の血筋ではありますが、子孫の代になって、田舎生活を長年していた人が、どうしてそのように上手に弾けたのでしょう。あの大臣が、ことの他上手な人だと思っておっしゃったことがありました。他の芸とは違って、音楽の才能はやはり広くいろんな人と合奏をし、あれこれの楽器に調べを合わせてこそ、立派になるものですが、独りで学んで、上手になったというのは 珍しいことです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 207-208 | などと、一方ではお話し申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 191 | などと,一方ではお話し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version21 | 209 | <A NAME="in34">[第四段 弘徽殿女御の失意]</A><BR> | 192 | |
| c1 | 211 | などと、他人の身の上についてお話し出されて、<BR>⏎ | 194 | などと,他人の身の上についてお話し出されて、<BR>⏎ |
| c2 | 214-215 | 「どうして、そのようなことがありましょうか。この家にもそのような人がいないで終わってしまうようなことはあるまいと、亡くなった大臣が思っていらっしゃって、女御の御ことも、熱心に奔走なさったのでしたが。生きていらっしゃったならば、このように筋道の通らぬこともなかったでしょうに」<BR>⏎ などと、あの一件では、太政大臣を恨めしくお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 197-198 | 「どうして,そのようなことがありましょうか。この家にもそのような人がいないで終わってしまうようなことはあるまいと、亡くなった大臣が思っていらっしゃって、女御の御ことも、熱心に奔走なさったのでしたが。生きていらっしゃったならば、このように筋道の通らぬこともなかったでしょうに」<BR>⏎ などと,あの一件では、太政大臣を恨めしくお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 217 | <P>⏎ | ||
| version21 | 218 | <A NAME="in35">[第五段 夕霧、内大臣と対面]</A><BR> | 200 | |
| c3 | 221-223 | と、朗誦なさって、<BR>⏎ 「琴のせいではないが、不思議としみじみとした夕べですね。もっと、弾きましょうよ」<BR>⏎ とおっしゃって、「秋風楽」に調子を整えて、唱歌なさる声、とても素晴らしいので、みなそれぞれに、内大臣をも見事であるとお思い申し上げになっていらっしゃると、それをいっそう喜ばせようというのであろうか、冠者の君が参上なさった。<BR>⏎ | 203-205 | と,朗誦なさって、<BR>⏎ 「琴のせいではないが、不思議としみじみとした夕べですね。もっと,弾きましょうよ」<BR>⏎ とおっしゃって,「秋風楽」に調子を整えて、唱歌なさる声、とても素晴らしいので、みなそれぞれに、内大臣をも見事であるとお思い申し上げになっていらっしゃると、それをいっそう喜ばせようというのであろうか、冠者の君が参上なさった。<BR>⏎ |
| c1 | 232 | 「大殿も、このような管弦の遊びにご熱心で、忙しいご政務からはお逃げになるのでした。なるほど、つまらない人生ですから、満足のゆくことをして、過ごしたいものでございますね」<BR>⏎ | 214 | 「大殿も、このような管弦の遊びにご熱心で、忙しいご政務からはお逃げになるのでした。なるほど,つまらない人生ですから、満足のゆくことをして、過ごしたいものでございますね」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 236-237 | と、お側近くお仕え申している大宮づきの年輩の女房たちは、ひそひそ話しているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 218 | と,お側近くお仕え申している大宮づきの年輩の女房たちは、ひそひそ話しているのであった。<BR>⏎ |
| version21 | 238 | <A NAME="in36">[第六段 内大臣、雲居雁の噂を立ち聞く]</A><BR> | 219 | |
| c1 | 240 | 「えらそうにしていらっしゃるが、人の親ですよ。いずれ、ばかばかしく後悔することが起こるでしょう」<BR>⏎ | 221 | 「えらそうにしていらっしゃるが、人の親ですよ。いずれ,ばかばかしく後悔することが起こるでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 242 | などと、こそこそと噂し合う。<BR>⏎ | 223 | などと,こそこそと噂し合う。<BR>⏎ |
| c1 | 244 | と、ことの子細をつぶさに了解なさったが、音も立てずにお出になった。<BR>⏎ | 225 | と,ことの子細をつぶさに了解なさったが、音も立てずにお出になった。<BR>⏎ |
| c2 | 251-252 | 「まあ、いやだわ。陰口をお聞きになったかしら。厄介なご気性だから」<BR>⏎ と、皆困り合っていた。<BR>⏎ | 232-233 | 「まあ,いやだわ。陰口をお聞きになったかしら。厄介なご気性だから」<BR>⏎ と,皆困り合っていた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 257-258 | と、女房たちが言っていた様子を、いまいましいとお思いになると、お心が穏やかでなくなって、少し男らしく事をはっきりさせたがるご気性にとっては、抑えがたい。<BR>⏎ <P>⏎ | 238 | と,女房たちが言っていた様子を、いまいましいとお思いになると、お心が穏やかでなくなって、少し男らしく事をはっきりさせたがるご気性にとっては、抑えがたい。<BR>⏎ |
| version21 | 259 | <H4>第四章 内大臣家の物語 雲居雁の養育をめぐる物語</H4> | 239 | |
| version21 | 260 | <A NAME="in41">[第一段 内大臣、母大宮の養育を恨む]</A><BR> | 240 | |
| c1 | 265 | と、涙をお拭いなさるので、大宮は、お化粧なさっていた顔色も変わって、お目を大きく見張られた。<BR>⏎ | 245 | と,涙をお拭いなさるので、大宮は、お化粧なさっていた顔色も変わって、お目を大きく見張られた。<BR>⏎ |
| c1 | 272 | 「なるほど、そうおっしゃるのもごもっともなことですが、ぜんぜんこの二人の気持ちを存じませんでした。なるほど、とても残念なことは、こちらこそあなた以上に嘆きたいくらいです。子どもたちと一緒にわたしを非難なさるのは、恨めしいことです。<BR>⏎ | 252 | 「なるほど,そうおっしゃるのもごもっともなことですが、ぜんぜんこの二人の気持ちを存じませんでした。なるほど,とても残念なことは、こちらこそあなた以上に嘆きたいくらいです。子どもたちと一緒にわたしを非難なさるのは、恨めしいことです。<BR>⏎ |
| c2 | 276-277 | 「どうして、根も葉もないことでございましょうか。仕えている女房たちも、陰ではみな笑っているようですのに、とても悔しく、面白くなく存じられるのですよ」<BR>⏎ とおっしゃって、お立ちになった。<BR>⏎ | 256-257 | 「どうして,根も葉もないことでございましょうか。仕えている女房たちも、陰ではみな笑っているようですのに、とても悔しく、面白くなく存じられるのですよ」<BR>⏎ とおっしゃって,お立ちになった。<BR>⏎ |
| d1 | 279 | <P>⏎ | ||
| version21 | 280 | <A NAME="in42">[第二段 内大臣、乳母らを非難する]</A><BR> | 259 | |
| c1 | 283 | とおっしゃって、御乳母たちをお責めになるが、お返事の申しようもない。<BR>⏎ | 262 | とおっしゃって,御乳母たちをお責めになるが、お返事の申しようもない。<BR>⏎ |
| c3 | 285-287 | 「この二人は、朝夕ご一緒に長年過ごしていらっしゃったので、どうして、お小さい二人を、大宮様のお扱いをさし越えてお引き離し申すことができましょうと、安心して過ごして参りましたが、一昨年ごろからは、はっきり二人を隔てるお扱いに変わりましたようなので、若い人と言っても、人目をごまかして、どういうものにか、ませた真似をする人もいらっしゃるようですが、けっして色めいたところもなくいらっしゃるようなので、ちっとも思いもかけませんでした」<BR>⏎ と、お互いに嘆く。<BR>⏎ 「よし、暫くの間、このことは人に言うまい。隠しきれないことだが、よく注意して、せめて事実無根だともみ消しなさい。今からは自分の所に引き取ろう。大宮のお扱いが恨めしい。お前たちは、いくらなんでも、こうなって欲しいとは思わなかっただろう」<BR>⏎ | 264-266 | 「この二人は、朝夕ご一緒に長年過ごしていらっしゃったので、どうして,お小さい二人を、大宮様のお扱いをさし越えて お引き離し申すことができましょうと、安心して過ごして参りましたが、一昨年ごろからは、はっきり二人を隔てるお扱いに変わりましたようなので、若い人と言っても、人目をごまかして、どういうものにか、ませた真似をする人もいらっしゃるようですが、けっして色めいたところもなくいらっしゃるようなので、ちっとも思いもかけませんでした」<BR>⏎ と,お互いに嘆く。<BR>⏎ 「よし,暫くの間、このことは人に言うまい。隠しきれないことだが、よく注意して、せめて事実無根だともみ消しなさい。今からは自分の所に引き取ろう。大宮のお扱いが恨めしい。お前たちは、いくらなんでも、こうなって欲しいとは 思わなかっただろう」<BR>⏎ |
| c1 | 289 | 「まあ、とんでもありません。按察大納言殿のお耳に入ることをも考えますと、立派な人ではあっても、臣下の人であっては、何を結構なことと考えて望んだり致しましょう」<BR>⏎ | 268 | 「まあ,とんでもありません。按察大納言殿のお耳に入ることをも考えますと、立派な人ではあっても、臣下の人であっては、何を結構なことと考えて望んだり致しましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 293-294 | と、こっそりと頼れる乳母たちとご相談なさって、大宮だけをお恨み申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 272 | と,こっそりと頼れる乳母たちとご相談なさって、大宮だけをお恨み申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version21 | 295 | <A NAME="in43">[第三段 大宮、内大臣を恨む]</A><BR> | 273 | |
| cd2:1 | 298-299 | と、ご自分の愛情が男君の方に傾くせいからであろうか、内大臣を恨めしくお思い申し上げなさる。もしもお心の中をお見せ申したら、どんなにかお恨み申し上げになることであろうか。<BR>⏎ <P>⏎ | 276 | と,ご自分の愛情が男君の方に傾くせいからであろうか、内大臣を恨めしくお思い申し上げなさる。もしもお心の中をお見せ申したら、どんなにかお恨み申し上げになることであろうか。<BR>⏎ |
| version21 | 300 | <A NAME="in44">[第四段 大宮、夕霧に忠告]</A><BR> | 277 | |
| c1 | 306 | と言って、とても恥ずかしがっている様子を、かわいくも気の毒に思って、<BR>⏎ | 283 | と言って,とても恥ずかしがっている様子を、かわいくも気の毒に思って、<BR>⏎ |
| d1 | 309 | <P>⏎ | ||
| version21 | 310 | <H4>第五章 夕霧の物語 幼恋の物語</H4> | 286 | |
| version21 | 311 | <A NAME="in51">[第一段 夕霧と雲居雁の恋の煩悶]</A><BR> | 287 | |
| c1 | 314 | と、独り言をおっしゃる様子、若々しくかわいらしい。<BR>⏎ | 290 | と,独り言をおっしゃる様子、若々しくかわいらしい。<BR>⏎ |
| c1 | 316 | 「ここを、お開け下さい。小侍従はおりますか」<BR>⏎ | 292 | 「ここを,お開け下さい。小侍従はおりますか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 318-319 | 「真夜中に友を呼びながら飛んでいく雁の声に<BR>⏎ さらに悲しく吹き加わる荻の上を吹く風よ」<BR>⏎ | 294 | 「真夜中に友を呼びながら飛んでいく雁の声に<BR> さらに悲しく吹き加わる荻の上を吹く風よ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 323-324 | また、このように騒がれねばならないことともお思いでなかったのを、御後見人たちがひどく注意するので、文通をすることもおできになれない。大人であったら、しかるべき機会を作るであろうが、男君も、まだ少々頼りない年頃なので、ただたいそう残念だとばかり思っている。<BR>⏎ <P>⏎ | 298 | また,このように騒がれねばならないことともお思いでなかったのを、御後見人たちがひどく注意するので、文通をすることもおできになれない。大人であったら、しかるべき機会を作るであろうが、男君も、まだ少々頼りない年頃なので、ただたいそう残念だとばかり思っている。<BR>⏎ |
| version21 | 325 | <A NAME="in52">[第二段 内大臣、弘徽殿女御を退出させる]</A><BR> | 299 | |
| c1 | 334 | 「心中に不満に存じられますことは、そのように存じられますと申し上げただけでございます。深く隔意もってお思い申し上げることはどうしていたしましょう。<BR>⏎ | 308 | 「心中に不満に存じられますことは、そのように存じられますと申し上げただけでございます。深く隔意もってお思い申し上げることは どうしていたしましょう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 338-339 | と、泣きながらおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 312 | と,泣きながらおっしゃる。<BR>⏎ |
| version21 | 340 | <A NAME="in53">[第三段 夕霧、大宮邸に参上]</A><BR> | 313 | |
| c1 | 347 | と言って、お出になった。<BR>⏎ | 320 | と言って,お出になった。<BR>⏎ |
| d1 | 350 | <P>⏎ | ||
| version21 | 351 | <A NAME="in54">[第四段 夕霧と雲居雁のわずかの逢瀬]</A><BR> | 323 | |
| c1 | 358 | などと、ひそひそと申し上げると、いっそう恥ずかしくお思いになって、何ともおっしゃらない。<BR>⏎ | 330 | などと,ひそひそと申し上げると、いっそう恥ずかしくお思いになって、何ともおっしゃらない。<BR>⏎ |
| c1 | 362 | と、癪にさわるのにまかせて言う。<BR>⏎ | 334 | と,癪にさわるのにまかせて言う。<BR>⏎ |
| c1 | 365 | 「内大臣のお気持ちがとてもつらいので、ままよ、いっそ諦めようと思いますが、恋しくいらっしゃてたまらないです。どうして、少しお逢いできそうな折々があったころは、離れて過ごしていたのでしょう」<BR>⏎ | 337 | 「内大臣のお気持ちがとてもつらいので、ままよ,いっそ諦めようと思いますが、恋しくいらっしゃてたまらないです。どうして,少しお逢いできそうな折々があったころは、離れて過ごしていたのでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 371 | <P>⏎ | ||
| version21 | 372 | <A NAME="in55">[第五段 乳母、夕霧の六位を蔑む]</A><BR> | 343 | |
| c1 | 376 | 「まあ、いやだわ。なるほど、大宮は御存知ないことではなかったのだわ」<BR>⏎ | 347 | 「まあ,いやだわ。なるほど,大宮は御存知ないことではなかったのだわ」<BR>⏎ |
| c2 | 379-380 | と、つぶやいているのがかすかに聞こえる。ちょうどこの屏風のすぐ背後に捜しに来て、嘆くのであった。<BR>⏎ 男君は、「自分のことを位がないと軽蔑しているのだ」とお思いになると、こんな二人の仲がたまらなくなって、愛情も少しさめる感じがして、許しがたい。<BR>⏎ | 350-351 | と,つぶやいているのがかすかに聞こえる。ちょうどこの屏風のすぐ背後に捜しに来て、嘆くのであった。<BR>⏎ 男君は、「自分のことを位がないと 軽蔑しているのだ」とお思いになると、こんな二人の仲がたまらなくなって、愛情も少しさめる感じがして、許しがたい。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 382-383 | 真っ赤な血の涙を流して恋い慕っているわたしを<BR>⏎ 浅緑の袖の色だと言ってけなしてよいものでしょうか<BR>⏎ | 353 | 真っ赤な血の涙を流して恋い慕っているわたしを<BR> 浅緑の袖の色だと言ってけなしてよいものでしょうか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 386-388 | 「色々とわが身の不運が思い知らされますのは<BR>⏎ どのような因縁の二人なのでしょう」<BR>⏎ と、言い終わらないうちに、殿がお入りになっていらしたので、しかたなくお戻りになった。<BR>⏎ | 356-357 | 「色々とわが身の不運が思い知らされますのは<BR> どのような因縁の二人なのでしょう」<BR>⏎ と,言い終わらないうちに、殿がお入りになっていらしたので、しかたなくお戻りになった。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 393-395 | 「霜や氷が嫌に張り詰めた明け方の<BR>⏎ 空を真暗にして降る涙の雨だなあ」<BR>⏎ <P>⏎ | 362 | 「霜や氷が嫌に張り詰めた明け方の<BR> 空を真暗にして降る涙の雨だなあ」<BR>⏎ |
| version21 | 396 | <H4>第六章 夕霧の物語 五節舞姫への恋</H4> | 363 | |
| version21 | 397 | <A NAME="in61">[第一段 惟光の娘、五節舞姫となる]</A><BR> | 364 | |
| c1 | 404 | とお責めになるので、困って、いっそのこと宮仕えをそのままさせようと考えていた。<BR>⏎ | 371 | とお責めになるので、困って,いっそのこと宮仕えをそのままさせようと考えていた。<BR>⏎ |
| d1 | 410 | <P>⏎ | ||
| version21 | 411 | <A NAME="in62">[第二段 夕霧、五節舞姫を恋慕]</A><BR> | 377 | |
| c1 | 413 | 姿態、器量は立派で美しくて、落ち着いて優美でいらっしゃるので、若い女房などは、とても素晴らしいと拝見している。<BR>⏎ | 379 | 姿態,器量は立派で美しくて、落ち着いて優美でいらっしゃるので、若い女房などは、とても素晴らしいと拝見している。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 416-418 | ちょうど、あの姫君と同じくらいに見えて、もう少し背丈がすらっとしていて、姿つきなどが一段と風情があって、美しい点では勝ってさえ見える。暗いので、詳しくは見えないが、全体の感じがたいそうよく似ている様子なので、心が移るというのではないが、気持ちを抑えかねて、裾を引いてさらさらと音を立てさせなさると、何か分からず、変だと思っていると、<BR>⏎ 「天にいらっしゃる豊岡姫に仕える宮人も<BR>⏎ わたしのものと思う気持ちを忘れないでください<BR>⏎ | 382-383 | ちょうど,あの姫君と同じくらいに見えて、もう少し背丈がすらっとしていて、姿つきなどが一段と風情があって、美しい点では勝ってさえ見える。暗いので、詳しくは見えないが、全体の感じがたいそうよく似ている様子なので、心が移るというのではないが、気持ちを抑えかねて、裾を引いてさらさらと音を立てさせなさると、何か分からず、変だと思っていると、<BR>⏎ 「天にいらっしゃる豊岡姫に仕える宮人も<BR> わたしのものと思う気持ちを忘れないでください<BR>⏎ |
| d1 | 422 | <P>⏎ | ||
| version21 | 423 | <A NAME="in63">[第三段 宮中における五節の儀]</A><BR> | 387 | |
| c1 | 425 | 五節の参内する儀式は、いずれ劣らず、それぞれがこの上なく立派になさっているが、「舞姫の器量は、大殿と大納言のとは素晴らしい」という大評判である。なるほど、とてもきれいであるが、おっとりとして可憐なさまは、やはり大殿のには、かないそうもなかった。<BR>⏎ | 389 | 五節の参内する儀式は、いずれ劣らず、それぞれがこの上なく立派になさっているが、「舞姫の器量は、大殿と大納言のとは素晴らしい」という大評判である。なるほど,とてもきれいであるが、おっとりとして可憐なさまは、やはり大殿のには、かないそうもなかった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 428-429 | 「少女だったあなたも神さびたことでしょう<BR>⏎ 天の羽衣を着て舞った昔の友も長い年月を経たので」<BR>⏎ | 392 | 「少女だったあなたも神さびたことでしょう<BR> 天の羽衣を着て舞った昔の友も長い年月を経たので」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 431-432 | 「五節のことを言いますと、昔のことが今日のことのように思われます<BR>⏎ 日蔭のかずらを懸けて舞い、お情けを頂戴したことが」<BR>⏎ | 394 | 「五節のことを言いますと、昔のことが今日のことのように思われます<BR> 日蔭のかずらを懸けて舞い、お情けを頂戴したことが」<BR>⏎ |
| d1 | 435 | <P>⏎ | ||
| version21 | 436 | <A NAME="in64">[第四段 夕霧、舞姫の弟に恋文を託す]</A><BR> | 397 | |
| c1 | 440 | と、特別強く執心しているのではないが、あの姫君のことに加えて涙がこぼれる時々がある。<BR>⏎ | 401 | と,特別強く執心しているのではないが、あの姫君のことに加えて涙がこぼれる時々がある。<BR>⏎ |
| c1 | 448 | 「どうしてそのようなことができましょうか。思うように会えないのでございます。男兄弟だといって、近くに寄せませんので、まして、あなた様にはどうしてお会わせ申すことができましょうか」<BR>⏎ | 409 | 「どうしてそのようなことができましょうか。思うように会えないのでございます。男兄弟だといって、近くに寄せませんので、まして,あなた様にはどうしてお会わせ申すことができましょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 450 | 「それでは、せめて手紙だけでも」<BR>⏎ | 411 | 「それでは,せめて手紙だけでも」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 453-454 | 「日の光にはっきりとおわかりになったでしょう<BR>⏎ あなたが天の羽衣も翻して舞う姿に思いをかけたわたしのことを」<BR>⏎ | 414 | 「日の光にはっきりとおわかりになったでしょう<BR> あなたが天の羽衣も翻して舞う姿に思いをかけたわたしのことを」<BR>⏎ |
| c1 | 466 | 「大殿の公達が、すこしでも一人前にお考えになってくださるならば、宮仕えよりは、差し上げようものを。大殿のご配慮を見ると、一度見初めた女性を、お忘れにならないのがたいそう頼もしい。明石の入道の例になるだろうか」<BR>⏎ | 426 | 「大殿の公達が、すこしでも一人前にお考えになってくださるならば、宮仕えよりは、差し上げようものを。大殿のご配慮を見ると、一度見初めた女性を、お忘れにならないのが たいそう頼もしい。明石の入道の例になるだろうか」<BR>⏎ |
| d1 | 468 | <P>⏎ | ||
| version21 | 469 | <A NAME="in65">[第五段 花散里、夕霧の母代となる]</A><BR> | 428 | |
| c1 | 470 | あの若君は、手紙をやることさえおできになれず、一段と恋い焦がれる方のことが心にかかって、月日がたつにつれて、無性に恋しい面影に再び会えないのではないかとばかり思っている。大宮のお側へも、何となく気乗りがせず参上なさらない。いらっしゃったお部屋や長年一所に遊んだ所ばかりが、ますます思い出されるので、里邸までが疎ましくお思いになられて、籠もっていらっしゃった。<BR>⏎ | 429 | あの若君は、手紙をやることさえおできになれず、一段と恋い焦がれる方のことが心にかかって、月日がたつにつれて、無性に恋しい面影に再び会えないのではないかとばかり思っている。大宮のお側へも、何となく気乗りがせず参上なさらない。いらっしゃったお部屋や 長年一所に遊んだ所ばかりが、ますます思い出されるので、里邸までが疎ましくお思いになられて、籠もっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 475 | 「器量はさほどすぐれていないな。このような方をも、父はお捨てにならなかったのだ」などと、「自分は、無性に、つらい人のご器量を心にかけて恋しいと思うのもつまらないことだ。気立てがこのように柔和な方をこそ愛し合いたいものだ」<BR>⏎ | 434 | 「器量はさほどすぐれていないな。このような方をも、父はお捨てにならなかったのだ」などと、「自分は,無性に、つらい人のご器量を心にかけて恋しいと思うのもつまらないことだ。気立てがこのように柔和な方をこそ愛し合いたいものだ」<BR>⏎ |
| d1 | 480 | <P>⏎ | ||
| version21 | 481 | <A NAME="in66">[第六段 歳末、夕霧の衣装を準備]</A><BR> | 439 | |
| c1 | 482 | 年の暮には、正月のご装束などを、大宮はただこの冠君の君の一人だけの事を、余念なく準備なさる。いく組も、たいそう立派に仕立てなさったのを見るのも、億劫にばかり思われるので、<BR>⏎ | 440 | 年の暮には、正月のご装束などを、大宮はただ この冠君の君の一人だけの事を、余念なく準備なさる。いく組も、たいそう立派に仕立てなさったのを見るのも、億劫にばかり思われるので、<BR>⏎ |
| c1 | 485 | 「どうして、そのようなことがあってよいでしょうか。年をとってすっかり気落ちした人のようなことをおっしゃいますね」<BR>⏎ | 443 | 「どうして,そのようなことがあってよいでしょうか。年をとってすっかり気落ちした人のようなことをおっしゃいますね」<BR>⏎ |
| c1 | 490 | 「男は、取るに足りない身分の人でさえ、気位を高く持つものです。あまり沈んで、こうしていてはなりません。どうして、こんなにくよくよ思い詰めることがありましょうか。縁起でもありません」<BR>⏎ | 448 | 「男は、取るに足りない身分の人でさえ、気位を高く持つものです。あまり沈んで、こうしていてはなりません。どうして,こんなにくよくよ思い詰めることがありましょうか。縁起でもありません」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 493-496 | と言って、涙が落ちるのを隠していらっしゃる様子、たいそう気の毒なので、大宮は、ますますほろほろとお泣きになって、<BR>⏎ 「母親に先立たれた人は、身分の高いにつけ低いにつけて、そのように気の毒なことなのですが、自然とそれぞれの前世からの宿縁で、成人してしまえば、誰も軽蔑する者はいなくなるものですから、思い詰めないでいらっしゃい。亡くなった太政大臣がせめてもう少しだけ長生きをしてくれればよかったのに。絶大な庇護者としては、同じようにご信頼申し上げてはいますが、思いどおりに行かないことが多いですね。内大臣の性質も、普通の人とは違って立派だと世間の人も褒めて言うようですが、昔と違う事ばかりが多くなって行くので、長生きも恨めしい上に、生い先の長いあなたにまで、このようなちょっとしたことにせよ、身の上を悲観していらっしゃるので、とてもいろいろと恨めしいこの世です」<BR>⏎ と言って、泣いていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 451-453 | と言って,涙が落ちるのを隠していらっしゃる様子、たいそう気の毒なので、大宮は、ますますほろほろとお泣きになって、<BR>⏎ 「母親に先立たれた人は、身分の高いにつけ低いにつけて、そのように気の毒なことなのですが、自然とそれぞれの前世からの宿縁で、成人してしまえば、誰も軽蔑する者はいなくなるものですから、思い詰めないでいらっしゃい。亡くなった太政大臣がせめてもう少しだけ長生きをしてくれればよかったのに。絶大な庇護者としては、同じようにご信頼申し上げてはいますが、思いどおりに行かないことが多いですね。内大臣の性質も、普通の人とは違って立派だと 世間の人も褒めて言うようですが、昔と違う事ばかりが多くなって行くので、長生きも恨めしい上に、生い先の長いあなたにまで、このようなちょっとしたことにせよ、身の上を悲観していらっしゃるので、とてもいろいろと恨めしいこの世です」<BR>⏎ と言って,泣いていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version21 | 497 | <H4>第七章 光る源氏の物語 六条院造営</H4> | 454 | |
| version21 | 498 | <A NAME="in71">[第一段 二月二十日過ぎ、朱雀院へ行幸]</A><BR> | 455 | |
| c1 | 502 | 今日は、専門の文人もお呼びにならず、ただ漢詩を作る才能の高いという評判のある学生十人をお呼びになる。式部省の試験の題になぞらえて、勅題を賜る。大殿のご長男の試験をお受けなさるようである。臆しがちな者たちは、ぼおっとしてしまって、繋いでない舟に乗って、池に一人一人漕ぎ出して、実に途方に暮れているようである。<BR>⏎ | 459 | 今日は、専門の文人もお呼びにならず、ただ漢詩を作る才能の高いという評判のある学生十人をお呼びになる。式部省の試験の題になぞらえて、勅題を賜る。大殿のご長男の試験をお受けなさるようである。臆しがちな者たちは、ぼおっとしてしまって、繋いでない舟に乗って,池に一人一人漕ぎ出して、実に途方に暮れているようである。<BR>⏎ |
| c1 | 505 | と、世の中を恨めしく思っていらっしゃった。<BR>⏎ | 462 | と,世の中を恨めしく思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 509-510 | 「鴬の囀る声は昔のままですが<BR>⏎ 馴れ親しんだあの頃とはすっかり時勢が変わってしまいました」<BR>⏎ | 466 | 「鴬の囀る声は昔のままですが<BR> 馴れ親しんだあの頃とはすっかり時勢が変わってしまいました」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 512-513 | 「宮中から遠く離れた仙洞御所にも<BR>⏎ 春が来たと鴬の声が聞こえてきます」<BR>⏎ | 468 | 「宮中から遠く離れた仙洞御所にも<BR> 春が来たと鴬の声が聞こえてきます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 515-516 | 「昔の音色そのままの笛の音に<BR>⏎ さらに鴬の囀る声までもちっとも変わっていません」<BR>⏎ | 470 | 「昔の音色そのままの笛の音に<BR> さらに鴬の囀る声までもちっとも変わっていません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 518-519 | 「鴬が昔を慕って木から木へと飛び移って囀っていますのは<BR>⏎ 今の木の花の色が悪くなっているからでしょうか」<BR>⏎ | 472 | 「鴬が昔を慕って木から木へと飛び移って囀っていますのは<BR> 今の木の花の色が悪くなっているからでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 521-522 | 楽所が遠くてはっきり聞こえないので、御前にお琴をお召しになる。兵部卿宮は、琵琶。内大臣は和琴。箏のお琴は、院のお前に差し上げて、琴の琴は、例によって太政大臣が頂戴なさる。お勧め申し上げなさる。このような素晴らしい方たちによる優れた演奏で、秘術を尽くした楽の音色は、何ともたとえようがない。唱歌の殿上人が多数伺候している。「安名尊」を演奏して、次に「桜人」。月が朧ろにさし出して美しいころに、中島のあたりにあちこちに篝火をいくつも灯して、この御遊は終わった。<BR>⏎ <P>⏎ | 474 | 楽所が遠くてはっきり聞こえないので、御前にお琴をお召しになる。兵部卿宮は,琵琶。内大臣は和琴。箏のお琴は、院のお前に差し上げて、琴の琴は、例によって太政大臣が頂戴なさる。お勧め申し上げなさる。このような素晴らしい方たちによる優れた演奏で、秘術を尽くした楽の音色は、何ともたとえようがない。唱歌の殿上人が多数伺候している。「安名尊」を演奏して、次に「桜人」。月が朧ろにさし出して美しいころに、中島のあたりに あちこちに篝火をいくつも灯して、この御遊は終わった。<BR>⏎ |
| version21 | 523 | <A NAME="in72">[第二段 弘徽殿大后を見舞う]</A><BR> | 475 | |
| c1 | 527 | と、お泣きになる。<BR>⏎ | 479 | と,お泣きになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 531-533 | と、申し上げなさる。<BR>⏎ ゆっくりなさらずにお帰りあそばすご威勢につけても、大后は、やはりお胸が静まらず、<BR>⏎ 「どのように思い出していられるのだろう。結局、政権をお執りになるというご運勢は、押しつぶせなかったのだ」<BR>⏎ | 483-484 | と,申し上げなさる。ゆっくりなさらずにお帰りあそばすご威勢につけても、大后は、やはりお胸が静まらず、<BR>⏎ 「どのように思い出していられるのだろう。結局,政権をお執りになるというご運勢は、押しつぶせなかったのだ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 538-540 | さて、大学の君は、その日の漢詩を見事にお作りになって、進士におなりになった。長い年月修業した優れた者たちをお選びになったが、及第した人は、わずかに三人だけであった。<BR>⏎ 秋の司召に、五位に叙されて、侍従におなりになった。あの人のことを、忘れる時はないが、内大臣が熱心に監視申していらっしゃるのも恨めしいので、無理をしてまでもお目にかかることはなさらない。ただお手紙だけを適当な機会に差し上げて、お互いに気の毒なお仲である。<BR>⏎ <P>⏎ | 489-490 | さて,大学の君は、その日の漢詩を見事にお作りになって、進士におなりになった。長い年月修業した優れた者たちをお選びになったが、及第した人は、わずかに三人だけであった。<BR>⏎ 秋の司召に、五位に叙されて、侍従におなりになった。あの人のことを、忘れる時はないが、内大臣が熱心に監視申していらっしゃるのも恨めしいので、無理をしてまでもお目にかかることはなさらない。ただお手紙だけを 適当な機会に差し上げて、お互いに気の毒なお仲である。<BR>⏎ |
| version21 | 541 | <A NAME="in73">[第三段 源氏、六条院造営を企図す]</A><BR> | 491 | |
| c1 | 543 | 式部卿宮が、明年五十歳におなりになる御賀のことを、対の上がお考えなので、大臣も、「なるほど、見過ごすわけにはいかない」とお思いになって、「そのようなご準備も、同じことなら新しい邸で」と、用意させなさる。<BR>⏎ | 493 | 式部卿宮が、明年五十歳におなりになる御賀のことを、対の上がお考えなので、大臣も、「なるほど,見過ごすわけにはいかない」とお思いになって、「そのようなご準備も、同じことなら新しい邸で」と、用意させなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 548 | と、お気の毒にもまたつらくもお思いであったが、このように数多くの女性関係の中で、特別のご寵愛があって、まことに奥ゆかしく結構な方として、大切にされていらっしゃるご運命を、自分の家までは及んで来ないが、名誉にお思いになると、また、<BR>⏎ | 498 | と,お気の毒にもまたつらくもお思いであったが、このように数多くの女性関係の中で、特別のご寵愛があって、まことに奥ゆかしく結構な方として、大切にされていらっしゃるご運命を、自分の家までは及んで来ないが、名誉にお思いになると、また,<BR>⏎ |
| cd2:1 | 550-551 | と、お喜びになるのを、北の方は、「おもしろくなく、不愉快だ」とばかりお思いであった。王女御の、ご入内の折などにも、大臣のご配慮がなかったようなのを、ますます恨めしいと思い込んでいらっしゃるのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 500 | と,お喜びになるのを、北の方は、「おもしろくなく、不愉快だ」とばかりお思いであった。王女御の、ご入内の折などにも、大臣のご配慮がなかったようなのを、ますます恨めしいと思い込んでいらっしゃるのであろう。<BR>⏎ |
| version21 | 552 | <A NAME="in74">[第四段 秋八月に六条院完成]</A><BR> | 501 | |
| c1 | 553 | 八月に、六条院が完成してお引っ越しなさる。未申の町は中宮の御旧邸なので、そのままお住まいになる予定である。辰巳は、殿のいらっしゃる予定の区画である。丑寅は、東の院にいらっしゃる対の御方、戌亥の区画は、明石の御方とお考えになって造営なさった。もとからあった池や山を、不都合な所にあるものは造り変えて、水の情緒や、山の風情を改めて、いろいろと、それぞれの御方々のご希望どおりにお造りになった。<BR>⏎ | 502 | 八月に、六条院が完成してお引っ越しなさる。未申の町は 中宮の御旧邸なので、そのままお住まいになる予定である。辰巳は、殿のいらっしゃる予定の区画である。丑寅は、東の院にいらっしゃる対の御方、戌亥の区画は、明石の御方とお考えになって造営なさった。もとからあった池や山を、不都合な所にあるものは造り変えて、水の情緒や、山の風情を改めて、いろいろと、それぞれの御方々のご希望どおりにお造りになった。<BR>⏎ |
| d1 | 558 | <P>⏎ | ||
| version21 | 559 | <A NAME="in75">[第五段 秋の彼岸の頃に引っ越し始まる]</A><BR> | 507 | |
| c1 | 564 | 五、六日過ぎて、中宮が御退出あそばす。その御様子はそれは、簡略とはいっても、まことに大層なものである。御幸運の素晴らしいことは申すまでもなく、お人柄が奥ゆかしく重々しくいらっしゃるので、世間から重んじられていらっしゃることは、格別でおいであそばした。<BR>⏎ | 512 | 五,六日過ぎて、中宮が御退出あそばす。その御様子はそれは、簡略とはいっても、まことに大層なものである。御幸運の素晴らしいことは申すまでもなく、お人柄が奥ゆかしく重々しくいらっしゃるので、世間から重んじられていらっしゃることは、格別でおいであそばした。<BR>⏎ |
| d1 | 566 | <P>⏎ | ||
| version21 | 567 | <A NAME="in76">[第六段 九月、中宮と紫の上和歌を贈答]</A><BR> | 514 | |
| cd2:1 | 570-571 | 「お好みで春をお待ちのお庭では、せめてわたしの方の<BR>⏎ 紅葉を風のたよりにでも御覧あそばせ」<BR>⏎ | 517 | 「お好みで春をお待ちのお庭では、せめてわたしの方の<BR> 紅葉を風のたよりにでも御覧あそばせ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 574-575 | 「風に散ってしまう紅葉は心軽いものです、春の変わらない色を<BR>⏎ この岩にどっしりと根をはった松の常磐の緑を御覧になってほしいものです」<BR>⏎ | 520 | 「風に散ってしまう紅葉は心軽いものです、春の変わらない色を<BR> この岩にどっしりと根をはった松の常磐の緑を御覧になってほしいものです」<BR>⏎ |
| d2 | 580-581 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 588 | ⏎ | ||
| i0 | 535 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version22 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-3)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 61 | <P>⏎ | ||
| version22 | 62 | <H4>第一章 玉鬘の物語 筑紫流離の物語</H4> | 58 | |
| version22 | 63 | <A NAME="in11">[第一段 源氏と右近、夕顔を回想]</A><BR> | 59 | |
| c2 | 65-66 | 右近は、物の数にも入らないが、やはり、その形見と御覧になって、お目を掛けていらっしゃたので、古参の女房の一人として長くお仕えしていた。須磨へのご退去の折に、対の上に女房たちを皆お仕え申させなさったとき以来、あちらでお仕えしている。気立てのよく控え目な女房だと、女君もお思いになっていたが、心の底では、<BR>⏎ 「亡くなったご主人が生きていられたならば、明石の御方くらいのご寵愛に負けはしなかったろうに。それほど深く愛していられなかった女性でさえ、お見捨てにならず、めんどうを見られるお心の変わらないお方だったのだから、まして、身分の高い人たちと同列とはならないが、この度のご入居者の数のうちには加わっていたであろうに」<BR>⏎ | 61-62 | 右近は、物の数にも入らないが、やはり,その形見と御覧になって、お目を掛けていらっしゃるので、古参の女房の一人として長くお仕えしていた。須磨へのご退去の折に、対の上に女房たちを 皆お仕え申させなさったとき以来、あちらでお仕えしている。気立てのよく控え目な女房だと、女君もお思いになっていたが、心の底では、<BR>⏎ 「亡くなったご主人が生きていられたならば、明石の御方くらいのご寵愛に負けはしなかったろうに。それほど深く愛していられなかった女性でさえ、お見捨てにならず、めんどうを見られるお心の変わらないお方だったのだから、まして,身分の高い人たちと同列とはならないが、この度のご入居者の数のうちには加わっていたであろうに」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 68-69 | あの西の京に残っていた若君の行方をすら知らず、ひたすら世をはばかり、又、「今更いっても始まらないことだから、しゃべってうっかり私の名を世間に漏らすな」と、口止めなさったことにご遠慮申して、安否をお尋ね申さずにいたうちに、若君の乳母の夫が、大宰少弍になって、赴任したので、下ってしまった。あの若君が四歳になる年に、筑紫へは行ったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 64 | あの西の京に残っていた若君の行方をすら知らず、ひたすら世をはばかり、又,「今更いっても始まらないことだから、しゃべってうっかり私の名を世間に漏らすな」と、口止めなさったことにご遠慮申して、安否をお尋ね申さずにいたうちに、若君の乳母の夫が、大宰少弍になって、赴任したので、下ってしまった。あの若君が四歳になる年に、筑紫へは行ったのであった。<BR>⏎ |
| version22 | 70 | <A NAME="in12">[第二段 玉鬘一行、筑紫へ下向]</A><BR> | 65 | |
| c1 | 72 | 「それではどうしようもない。せめて若君だけでも、母君のお形見としてお世話申しそう。鄙の道にお連れ申して、遠い道中をおいでになることもおいたわしいこと。やはり、父君にそれとなくお話し申し上げよう」<BR>⏎ | 67 | 「それではどうしようもない。せめて若君だけでも、母君のお形見としてお世話申しそう。鄙の道にお連れ申して、遠い道中をおいでになることもおいたわしいこと。やはり,父君にそれとなくお話し申し上げよう」<BR>⏎ |
| c3 | 75-77 | 「まだ、十分に見慣れていられないのに、幼い姫君をお手許にお引き取り申すされるのも、やはり不安でしょう」<BR>⏎ 「お知りになりながら、またやはり、筑紫へ連れて下ってよいとは、お許しになるはずもありますまい」<BR>⏎ などと、お互いに相談し合って、とてもかわいらしく、今から既に気品があってお美しいご器量を、格別の設備もない舟に乗せて漕ぎ出す時は、とても哀れに思われた。<BR>⏎ | 70-72 | 「まだ,十分に見慣れていられないのに、幼い姫君をお手許にお引き取り申すされるのも、やはり不安でしょう」<BR>⏎ 「お知りになりながら、またやはり,筑紫へ連れて下ってよいとは,お許しになるはずもありますまい」<BR>⏎ などと,お互いに相談し合って、とてもかわいらしく、今から既に気品があってお美しいご器量を、格別の設備もない舟に乗せて漕ぎ出す時は、とても哀れに思われた。<BR>⏎ |
| c1 | 80 | とお尋ねになるにつけて、涙の止まる時がなく、娘たちも思い焦がれているが、「舟路に不吉だ」と、泣く一方では制ちのであった。<BR>⏎ | 75 | とお尋ねになるにつけて、涙の止まる時がなく、娘たちも思い焦がれているが、「舟路に不吉だ」と、泣く一方では制すのであった。<BR>⏎ |
| c2 | 83-84 | 「いいえ、いらっしゃいましたら、私たちは下ることもなかったでしょうに」<BR>⏎ と、都の方ばかり思いやられて、寄せては返す波も羨ましく、かつ心細く思っている時に、舟子たちが荒々しい声で、<BR>⏎ | 78-79 | 「いいえ,いらっしゃいましたら、私たちは下ることもなかったでしょうに」<BR>⏎ と,都の方ばかり思いやられて、寄せては返す波も羨ましく、かつ心細く思っている時に、舟子たちが荒々しい声で、<BR>⏎ |
| cd4:2 | 87-90 | 「舟人も誰を恋い慕ってか大島の浦に<BR>⏎ 悲しい声が聞こえます」<BR>⏎ 「来た方角もこれから進む方角も分からない沖に出て<BR>⏎ ああどちらを向いて女君を恋い求めたらよいのでしょう」<BR>⏎ | 82-83 | 「舟人も誰を恋い慕ってか大島の浦に<BR> 悲しい声が聞こえます」<BR>⏎ 「来た方角もこれから進む方角も分からない沖に出て<BR> ああどちらを向いて女君を恋い求めたらよいのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 94 | 「やはり、亡くなられたのだろう」<BR>⏎ | 87 | 「やはり,亡くなられたのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 96 | <P>⏎ | ||
| version22 | 97 | <A NAME="in13">[第三段 乳母の夫の遺言]</A><BR> | 89 | |
| c1 | 98 | 少弍は、任期が終わって上京などするのに、遠い旅路である上に、格別の財力もない人では、ぐずぐずしたまま思い切って旅立ちしないでいるうちに、重い病に罹って、死にそうな気持ちでいた時にも、姫君が十歳ほどにおなりになった様子が、不吉なまでに美しいのを拝見して、<BR>⏎ | 90 | 少弍は、任期が終わって上京などするのに、遠い旅路である上に、格別の財力もない人では、ぐずぐずしたまま 思い切って旅立ちしないでいるうちに、重い病に罹って、死にそうな気持ちでいた時にも、姫君が十歳ほどにおなりになった様子が、不吉なまでに美しいのを拝見して、<BR>⏎ |
| c1 | 100 | と、心配している。男の子が三人いるので、<BR>⏎ | 92 | と,心配している。男の子が三人いるので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 103-104 | どなたのお子であるとは、館の人たちにも知らせず、ひたすら「孫で大切にしなければならない訳のある子だ」とだけ言いつくろっていたので、誰にも見せ簡いで、大切にお世話申しているうちに、急に亡くなってしまったので、悲しく心細くて、ひたすら都へ出立しようとしたが、亡くなった少弍と仲が悪かった国の人々が多くいて、何やかやと、恐ろしく気遅れしていて、不本意にも年を越しているうちに、この君は、成人して立派になられていくにつれて、母君よりも勝れて美しく、父大臣のお血筋まで引いているためであろか、上品でかわいらしげである。気立てもおっとりとしていて申し分なくいらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 95 | どなたのお子であるとは、館の人たちにも知らせず、ひたすら「孫で大切にしなければならない訳のある子だ」とだけ言いつくろっていたので、誰にも見せないで、大切にお世話申しているうちに、急に亡くなってしまったので、悲しく心細くて、ひたすら都へ出立しようとしたが、亡くなった少弍と仲が悪かった国の人々が多くいて、何やかやと、恐ろしく気遅れしていて、不本意にも年を越しているうちに、この君は、成人して立派になられていくにつれて、母君よりも勝れて美しく、父大臣のお血筋まで引いているためであろか、上品でかわいらしげである。気立てもおっとりとしていて申し分なくいらっしゃる。<BR>⏎ |
| version22 | 105 | <A NAME="in14">[第四段 玉鬘への求婚]</A><BR> | 96 | |
| c1 | 111 | と、人々が言っているらしいのを聞くのも忌まわしく、<BR>⏎ | 102 | と,人々が言っているらしいのを聞くのも忌まわしく、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 115-116 | 姫君の住んでいる所は、肥前の国と言った。その周辺で少しばかり風流な人は、まずこの少弍の孫娘の様子を聞き伝えて、断られても断られても、なおも絶えずやって来る者がいるのは、とても大変なもので、うるさいほどである。<BR>⏎ <P>⏎ | 106 | 姫君の住んでいる所は、肥前の国と言った。その周辺で少しばかり風流な人は、まずこの少弍の孫娘の様子を聞き伝えて、断られても断られても,なおも絶えずやって来る者がいるのは、とても大変なもので、うるさいほどである。<BR>⏎ |
| version22 | 117 | <H4>第二章 玉鬘の物語 大夫監の求婚と筑紫脱出</H4> | 107 | |
| version22 | 118 | <A NAME="in21">[第一段 大夫の監の求婚]</A><BR> | 108 | |
| c1 | 119 | 大夫の監といって、肥後の国に一族が広くいて、その地方では名声があって、勢い盛んな武士がいた。恐ろしい無骨者だがわずかに好色な心が混じっていて、美しい女性をたくさん集めて妻にしようと思っていた。この姫君の噂を聞きつけて、<BR>⏎ | 109 | 大夫の監といって、肥後の国に一族が広くいて、その地方では名声があって、勢い盛んな武士がいた。恐ろしい無骨者だが わずかに好色な心が混じっていて、美しい女性をたくさん集めて妻にしようと思っていた。この姫君の噂を聞きつけて、<BR>⏎ |
| c3 | 121-123 | と、熱心に言い寄って来たが、とても恐ろしく思って、<BR>⏎ 「どうかして、このようなお話には耳をかさないで、尼になってしまおうとするのに」<BR>⏎ と、言わせたところが、ますます気が気でなくなって、強引にこの国まで国境を越えてやって来た。<BR>⏎ | 111-113 | と,熱心に言い寄って来たが、とても恐ろしく思って、<BR>⏎ 「どうかして,このようなお話には耳をかさないで、尼になってしまおうとするのに」<BR>⏎ と,言わせたところが、ますます気が気でなくなって、強引にこの国まで国境を越えてやって来た。<BR>⏎ |
| c1 | 132 | 「やはり、とても不都合な、口惜しいことだ。故少弍殿がご遺言されていたこともある。あれこれと手段を講じて、都へお上らせ申そう」<BR>⏎ | 122 | 「やはり,とても不都合な、口惜しいことだ。故少弍殿がご遺言されていたこともある。あれこれと手段を講じて、都へお上らせ申そう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 136-137 | と言って嘆いているのも知らないで、「自分は大変に偉い人物と言われている身だ」と思って、懸想文などを書いてよこす。筆跡などは小奇麗に書いて、唐の色紙で香ばしい香を何度も何度も焚きしめた紙に、上手に書いたと思っている言葉が、いかにも田舎訛がまる出しなのであった。自分自身でも、この次男を仲間に引き入れて、連れ立ってやって来た。<BR>⏎ <P>⏎ | 126 | と言って嘆いているのも知らないで、「自分は大変に偉い人物と言われている身だ」と思って、懸想文などを書いてよこす。筆跡などは小奇麗に書いて、唐の色紙で 香ばしい香を何度も何度も焚きしめた紙に、上手に書いたと思っている言葉が、いかにも田舎訛がまる出しなのであった。自分自身でも、この次男を仲間に引き入れて、連れ立ってやって来た。<BR>⏎ |
| version22 | 138 | <A NAME="in22">[第二段 大夫の監の訪問]</A><BR> | 127 | |
| c3 | 141-143 | 「故少弍殿がとても風雅の嗜み深くご立派な方でいらしたので、是非とも親しくお付き合いいただきたいと存じておりましたが、そうした気持ちもお見せ申さないうちに、たいそうお気の毒なことに、亡くなられてしまったが、その代わりにひたむきにお仕え致そうと、気を奮い立てて、今日はまことにご無礼ながら、あえて参ったのです。<BR>⏎ こちらにいらっしゃるという姫君、格別高貴な血筋のお方と承っておりますので、とてももったいないことでございます。ただ、私めのご主君とお思い申し上げて、頭上高く崇め奉りましょうぞ。祖母殿がお気が進まないでいられるのは、良くない妻妾たちを大勢かかえていますのをお聞きになって嫌がられるのでございましょう。しかしながら、そんなやつらを、同じように扱いましょうか。わが姫君をば、后の地位にもお劣り申させない所存でありますものを」<BR>⏎ などと、とても良い話のように言い続ける。<BR>⏎ | 130-132 | 「故少弍殿がとても風雅の嗜み深く ご立派な方でいらしたので、是非とも親しくお付き合いいただきたいと存じておりましたが、そうした気持ちもお見せ申さないうちに、たいそうお気の毒なことに、亡くなられてしまったが、その代わりに ひたむきにお仕え致そうと、気を奮い立てて、今日はまことにご無礼ながら、あえて参ったのです。<BR>⏎ こちらにいらっしゃるという姫君、格別高貴な血筋のお方と承っておりますので、とてももったいないことでございます。ただ,私めのご主君とお思い申し上げて、頭上高く崇め奉りましょうぞ。祖母殿がお気が進まないでいられるのは、良くない妻妾たちを大勢かかえていますのをお聞きになって嫌がられるのでございましょう。しかしながら、そんなやつらを、同じように扱いましょうか。わが姫君をば、后の地位にもお劣り申させない所存でありますものを」<BR>⏎ などと,とても良い話のように言い続ける。<BR>⏎ |
| c1 | 147 | などと、大きなことを言っていた。<BR>⏎ | 136 | などと,大きなことを言っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 149 | <P>⏎ | ||
| version22 | 150 | <A NAME="in23">[第三段 大夫の監、和歌を詠み贈る]</A><BR> | 138 | |
| cd2:1 | 152-153 | 「姫君のお心に万が一違うようなことがあったら、どのような罰も受けましょうと<BR>⏎ 松浦に鎮座まします鏡の神に掛けて誓います<BR>⏎ | 140 | 「姫君のお心に万が一違うようなことがあったら、どのような罰も受けましょうと<BR> 松浦に鎮座まします鏡の神に掛けて誓います<BR>⏎ |
| c1 | 155 | と言って、微笑んでいるのも、不慣れで幼稚な歌であるよ。気が気ではなく、返歌をするどころではなく、娘たちに詠ませたが、<BR>⏎ | 142 | と言って,微笑んでいるのも、不慣れで幼稚な歌であるよ。気が気ではなく、返歌をするどころではなく、娘たちに詠ませたが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 158-159 | 「長年祈ってきましたことと違ったならば<BR>⏎ 鏡の神を薄情な神様だとお思い申しましょう」<BR>⏎ | 145 | 「長年祈ってきましたことと違ったならば<BR> 鏡の神を薄情な神様だとお思い申しましょう」<BR>⏎ |
| c2 | 162-163 | と、不意に近寄って来た様子に、怖くなって、乳母殿は、血の気を失った。娘たちは、さすがに、気丈に笑って、<BR>⏎ 「姫君が、普通でない身体でいらっしゃるのを、せっかくのお気持ちに背きましたらなら、悔いることになりましょうものを、やはり、耄碌した人のことですから、神のお名前まで出して、うまくお答え申し上げ損ねられたのでしょう」<BR>⏎ | 148-149 | と,不意に近寄って来た様子に、怖くなって、乳母殿は,血の気を失った。娘たちは、さすがに、気丈に笑って、<BR>⏎ 「姫君が、普通でない身体でいらっしゃるのを、せっかくのお気持ちに背きましたらなら、悔いることになりましょうものを、やはり,耄碌した人のことですから、神のお名前まで出して、うまくお答え申し上げ損ねられたのでしょう」<BR>⏎ |
| c3 | 165-167 | 「おお、そうか、そうか」とうなづいて、「なかなか素晴らしい詠みぶりであるよ。手前らは、田舎者だという評判こそござろうが、詰まらない民百姓どもではござりませぬ。都の人だからといって、何ということがあろうか。皆先刻承知でござる。けっして馬鹿にしてはなりませぬぞよ」<BR>⏎ と言って、もう一度、和歌を詠もうとしたが、とてもできなかったのであろうか、行ってしまったようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 151-153 | 「おお,そうか、そうか」とうなづいて、<BR>⏎ 「なかなか素晴らしい詠みぶりであるよ。手前らは、田舎者だという評判こそござろうが、詰まらない民百姓どもではござりませぬ。都の人だからといって、何ということがあろうか。皆先刻承知でござる。けっして馬鹿にしてはなりませぬぞよ」<BR>⏎ と言って,もう一度,和歌を詠もうとしたが、とてもできなかったのであろうか、行ってしまったようである。<BR>⏎ |
| version22 | 168 | <A NAME="in24">[第四段 玉鬘、筑紫を脱出]</A><BR> | 154 | |
| c2 | 170-171 | 「さてどのようにして差し上げたらよいのだろうか。相談できる相手もいない。たった二人しかの弟たちは、その監に味方しないと言って仲違いしてしまっている。この監に睨まれては、ちょっとした身の動きも、思うに任せられまい。かえって酷い目に遭うことだろう」<BR>⏎ と、考えあぐんでいたが、姫君が人知れず思い悩んでいられるのが、とても痛々しくて、生きていたくないとまで思い沈んでいられるのが、ごもっともだと思われたので、思いきった覚悟をめぐらして上京する。妹たちも、長年過ごしてきた縁者を捨てて、このお供して出立する。<BR>⏎ | 156-157 | 「さてどのようにして差し上げたらよいのだろうか。相談できる相手もいない。たった二人しかの弟たちは、その監に味方しないと言って 仲違いしてしまっている。この監に睨まれては、ちょっとした身の動きも、思うに任せられまい。かえって酷い目に遭うことだろう」<BR>⏎ と,考えあぐんでいたが、姫君が人知れず思い悩んでいられるのが、とても痛々しくて、生きていたくないとまで思い沈んでいられるのが、ごもっともだと思われたので、思いきった覚悟をめぐらして上京する。妹たちも、長年過ごしてきた縁者を捨てて、このお供して出立する。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 173-177 | 姉のおもとは、家族が多くなって、出立することができない。お互いに別れを惜しんで、再会することの難しいことを思うが、長年過ごした土地だからと言っても、格別去り難くもない。ただ、松浦の宮の前の渚と、姉おもとと別れるのが、後髪引かれる思いがして、悲しく思われるのであった。<BR>⏎ 「浮き島のように思われたこの地を漕ぎ離れて行きますけれど<BR>⏎ どこが落ち着き先ともわからない身の上ですこと」<BR>⏎ 「行く先もわからない波路に舟出して<BR>⏎ 風まかせの身の上こそ頼りないことです」<BR>⏎ | 159-161 | 姉のおもとは、家族が多くなって、出立することができない。お互いに別れを惜しんで、再会することの難しいことを思うが、長年過ごした土地だからと言っても、格別去り難くもない。ただ,松浦の宮の前の渚と、姉おもとと別れるのが、後髪引かれる思いがして、悲しく思われるのであった。<BR>⏎ 「浮き島のように思われたこの地を漕ぎ離れて行きますけれど<BR> どこが落ち着き先ともわからない身の上ですこと」<BR>⏎ 「行く先もわからない波路に舟出して<BR> 風まかせの身の上こそ頼りないことです」<BR>⏎ |
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| version22 | 180 | <A NAME="in25">[第五段 都に帰着]</A><BR> | 163 | |
| c1 | 181 | 「このように、逃げ出したことが、自然と人の口の端に上って知れたら、負けぬ気を起こして、後を追って来るだろう」と思うと、気もそぞろになって、早舟といって、特別の舟を用意して置いたので、その上あつらえ向きの風までが吹いたので、危ないくらい速くかけ上った。響灘も平穏無事に通過した。<BR>⏎ | 164 | 「このように,逃げ出したことが、自然と人の口の端に上って知れたら、負けぬ気を起こして、後を追って来るだろう」と思うと、気もそぞろになって、早舟といって、特別の舟を用意して置いたので、その上あつらえ向きの風までが吹いたので、危ないくらい速くかけ上った。響灘も平穏無事に通過した。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 184-185 | 「嫌なことに胸がどきどきしてばかりいたので<BR>⏎ それに比べれば響の灘も名前ばかりでした」<BR>⏎ | 167 | 「嫌なことに胸がどきどきしてばかりいたので<BR> それに比べれば響の灘も名前ばかりでした」<BR>⏎ |
| c2 | 193-194 | 「なるほど、舟唄のとおり、皆、家族を置いて来たのだ。どうなったことだろうか。しっかりした役に立つと思われる家来たちは、皆連れて来てしまった。私のことを憎いと思って、妻子たちを放逐して、どんな目に遭わせるだろう」と思うと、「浅はかにも、後先のことも考えず、飛び出してしまったことよ」<BR>⏎ と、少し心が落ち着いて初めて、とんでもないことをしたことを後悔されて、気弱に泣き出してしまった。<BR>⏎ | 175-176 | 「なるほど,舟唄のとおり、皆,家族を置いて来たのだ。どうなったことだろうか。しっかりした役に立つと思われる家来たちは、皆連れて来てしまった。私のことを憎いと思って、妻子たちを放逐して、どんな目に遭わせるだろう」と思うと、「浅はかにも、後先のことも考えず、飛び出してしまったことよ」<BR>⏎ と,少し心が落ち着いて初めて、とんでもないことをしたことを後悔されて、気弱に泣き出してしまった。<BR>⏎ |
| c1 | 198 | と、さまざまに思わずにはいられない。<BR>⏎ | 180 | と,さまざまに思わずにはいられない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 200-201 | と、途方に暮れているが、「今さら管うすることもできない」と思って、急いで京に入った。<BR>⏎ <P>⏎ | 182 | と,途方に暮れているが、「今さらどうすることもできない」と思って、急いで京に入った。<BR>⏎ |
| version22 | 202 | <H4>第三章 玉鬘の物語 玉鬘、右近と椿市で邂逅</H4> | 183 | |
| version22 | 203 | <A NAME="in31">[第一段 岩清水八幡宮へ参詣]</A><BR> | 184 | |
| cd3:2 | 209-211 | 「神仏は、しかるべき方向にお導き申しなさるでしょう。この近い所に、八幡宮と申す神は、あちらにおいても参詣し、お祈り申していらした松浦、箱崎と、同じ社です。あの国を離れ去るときも、たくさんの願をお掛け申されました。今、都に帰ってきて、このように御加護を得て無事に上洛することができましたと、早くお礼申し上げなさい」<BR>⏎ と言って、岩清水八幡宮に御参詣させ申し上げる。その辺の事情をよく知っている者に問い尋ねて、五師といって、以前に亡き父親が懇意にしていた社僧で残っていたのを呼び寄せて、御参詣させ申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 190-191 | 「神仏は、しかるべき方向にお導き申しなさるでしょう。この近い所に、八幡宮と申す神は、あちらにおいても参詣し,お祈り申していらした松浦,箱崎と、同じ社です。あの国を離れ去るときも、たくさんの願をお掛け申されました。今、都に帰ってきて、このように御加護を得て無事に上洛することができましたと、早くお礼申し上げなさい」<BR>⏎ と言って,岩清水八幡宮に御参詣させ申し上げる。その辺の事情をよく知っている者に問い尋ねて、五師といって、以前に亡き父親が懇意にしていた社僧で残っていたのを呼び寄せて、御参詣させ申し上げる。<BR>⏎ |
| version22 | 212 | <A NAME="in32">[第二段 初瀬の観音へ参詣]</A><BR> | 192 | |
| c5 | 213-217 | 「次いでは、仏様の中では、初瀬に、日本でも霊験あらたかでいらっしゃると、唐土でも評判の高いといいます。まして、わが国の中で、遠い地方といっても、長年お住みになったのだから、姫君には、なおさら御利益があるでしょう」<BR>⏎ と言って、出発させ申し上げる。わざと徒歩で参詣することにした。慣れないこととて、とても辛く苦しいけれど、人の言うのにしたがって、無我夢中で歩いて行かれる。<BR>⏎ 「どのような前世の罪業深い身であったために、このような流浪の日を送るのだろう。わたしの母親が、既にお亡くなりになっていらっしゃろうとも、わたしをかわいそうだとお思いになってくださるなら、いらっしゃるところへお連れください。もし、この世に生きていらっしゃるならば、お顔をお見せください」<BR>⏎ と、仏に願いながら、生きていらしたときの面影をすら知らないので、ただ、「母親が生きていらしたら」と、ばかりの一途な悲しい思いを、嘆き続けていらっしゃったので、こうして今、慣れない徒歩の旅で、辛くて堪らないうちに、また改めて悲しい思いをかみしめながら、やっとのことで、椿市という所に、四日目の巳の刻ごろに、生きた心地もしないで、お着きになった。<BR>⏎ 歩くともいえないありさまで、あれこれとどうにかやって来たが、もう一歩も歩くこともできず、辛いので、どうすることもできずお休みになる。この一行の頼りとする豊後介、弓矢を持たせている者が二人、その他には下衆と童たち三、四人、女性たちはすべてで三人、壷装束姿で、樋洗童女らしい者と老婆の下衆女房とが二人ほどいた。<BR>⏎ | 193-197 | 「次いでは、仏様の中では、初瀬に、日本でも 霊験あらたかでいらっしゃると、唐土でも評判の高いといいます。まして,わが国の中で、遠い地方といっても、長年お住みになったのだから、姫君には、なおさら御利益があるでしょう」<BR>⏎ と言って,出発させ申し上げる。わざと徒歩で参詣することにした。慣れないこととて、とても辛く苦しいけれど、人の言うのにしたがって、無我夢中で歩いて行かれる。<BR>⏎ 「どのような前世の罪業深い身であったために、このような流浪の日を送るのだろう。わたしの母親が、既にお亡くなりになっていらっしゃろうとも、わたしをかわいそうだとお思いになってくださるなら、いらっしゃるところへお連れください。もし,この世に生きていらっしゃるならば、お顔をお見せください」<BR>⏎ と,仏に願いながら、生きていらしたときの面影をすら知らないので、ただ,「母親が生きていらしたら」と、ばかりの一途な悲しい思いを、嘆き続けていらっしゃったので、こうして今、慣れない徒歩の旅で,辛くて堪らないうちに、また改めて悲しい思いをかみしめながら、やっとのことで、椿市という所に、四日目の巳の刻ごろに、生きた心地もしないで、お着きになった。<BR>⏎ 歩くともいえないありさまで、あれこれとどうにかやって来たが、もう一歩も歩くこともできず、辛いので、どうすることもできずお休みになる。この一行の頼りとする豊後介、弓矢を持たせている者が二人、その他には下衆と童たち三,四人、女性たちはすべてで三人、壷装束姿で、樋洗童女らしい者と 老婆の下衆女房とが二人ほどいた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 220-221 | と不平を言うのを、失礼なと思って聞いているうちに、なるほど、その人々が来た。<BR>⏎ <P>⏎ | 200 | と不平を言うのを、失礼なと思って聞いているうちに、なるほど,その人々が来た。<BR>⏎ |
| version22 | 222 | <A NAME="in33">[第三段 右近も初瀬へ参詣]</A><BR> | 201 | |
| c2 | 223-224 | この一行も徒歩でのようである。身分の良い女性が二人、下人どもは、男女らが、大勢のようである。馬を四、五頭牽かせたりして、たいそうひっそりと人目に立たないようにしていたが、こざっぱりとした男性たちが従っている。<BR>⏎ 法師は、無理してもこの一行を泊まらせたく思って、頭を掻きながらうろうろしている。気の毒であるが、また一方、宿を取り替えるのも体裁が悪くめんどうだったので、人々は奥の方に入り、下衆たちは目に付かないようなところに隠して、他の人たちは片端に寄った。幕などを間に引いていらっしゃる。<BR>⏎ | 202-203 | この一行も徒歩でのようである。身分の良い女性が二人、下人どもは、男女らが、大勢のようである。馬を四,五頭牽かせたりして、たいそうひっそりと人目に立たないようにしていたが、こざっぱりとした男性たちが従っている。<BR>⏎ 法師は、無理してもこの一行を泊まらせたく思って、頭を掻きながらうろうろしている。気の毒であるが、また一方,宿を取り替えるのも体裁が悪くめんどうだったので、人々は奥の方に入り、下衆たちは目に付かないようなところに隠して、他の人たちは片端に寄った。幕などを間に引いていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 228 | 「これは、御主人様に差し上げてください。お膳などが整わなくて、たいそう恐れ多いことですが」<BR>⏎ | 207 | 「これは,御主人様に差し上げてください。お膳などが整わなくて、たいそう恐れ多いことですが」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 235-236 | と思い及ぶと、とても気もそぞろになって、この中仕切りの所にいる三条を呼ばせたが、食事に夢中になっていて、すぐには来ない。ひどく憎らしく思われるのも、せっかちというものである。<BR>⏎ <P>⏎ | 214 | と思い及ぶと、とても気もそぞろになって、この中仕切りの所にいる三条を呼ばせたが、食事に夢中になっていて、すぐには来ない. ひどく憎らしく思われるのも、せっかちというものである。<BR>⏎ |
| version22 | 237 | <A NAME="in34">[第四段 右近、玉鬘に再会す]</A><BR> | 215 | |
| c1 | 240 | と言って、近寄って来た。田舎者めいた掻練の上に衣などを着て、とてもたいそう太っていた。自分の年もますます思い知らされて、恥ずかしかったが、<BR>⏎ | 218 | と言って,近寄って来た。田舎者めいた掻練の上に衣などを着て、とてもたいそう太っていた。自分の年もますます思い知らされて、恥ずかしかったが、<BR>⏎ |
| c6 | 242-247 | と言って、顔を差し出した。この女は手を打って、<BR>⏎ 「あなた様でいらしたのですね。ああ、何とも嬉しいことよ。どこから参りなさったのですか。ご主人様はいらっしゃいますか」<BR>⏎ と言って、とてもおおげさに泣く。まだ若いころを見慣れていたのを思い出すと、今まで過ぎてきた年月の長さが数えられて、とても感慨深いものがある。<BR>⏎ 「まずは、乳母殿はいらっしゃいますか。若君は、どうおなりになりましたか。あてきと言った人は」<BR>⏎ と言って、ご主人のお身の上のことは、言い出さない。<BR>⏎ 「皆さんいらっしゃいます。姫君も大きくおなりです。まずは、乳母殿に、これこれと申し上げましょう」<BR>⏎ | 220-225 | と言って,顔を差し出した。この女は手を打って、<BR>⏎ 「あなた様でいらしたのですね。ああ,何とも嬉しいことよ。どこから参りなさったのですか。ご主人様はいらっしゃいますか」<BR>⏎ と言って,とてもおおげさに泣く。まだ若いころを見慣れていたのを思い出すと、今まで過ぎてきた年月の長さが数えられて、とても感慨深いものがある。<BR>⏎ 「まずは,乳母殿はいらっしゃいますか。若君は、どうおなりになりましたか。あてきと言った人は」<BR>⏎ と言って,ご主人のお身の上のことは、言い出さない。<BR>⏎ 「皆さんいらっしゃいます。姫君も大きくおなりです。まずは,乳母殿に、これこれと申し上げましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 249 | 皆、驚いて、<BR>⏎ | 227 | 皆,驚いて、<BR>⏎ |
| c3 | 251-253 | 「とても辛く何とも言いようのないとお思い申していた人に、とうとう逢えるのだなんて」<BR>⏎ と言って、この中仕切りに近寄って来た。よそよそしく隔てていた屏風のような物を、すっかり払い除けて、何とも言葉にも出されず、お互いに泣き合う。年老いた乳母が、ほんのわずかに、<BR>⏎ 「ご主人様は、どうなさいましたか。長年、夢の中でもいらっしゃるところを見たいと大願を立てましたが、都から遠い筑紫にいたために、風の便りにも噂を伝え聞くことができませんでしたのを、たいそう悲しく思うと、老いた身でこの世に生きながらえていますのも、とてもつらいのですが、お残し申された若君が、いじらしく気の毒でいらっしゃったのを、冥途の障りになろうかとお世話に困ったままで、まだ目を瞑れないでおります」<BR>⏎ | 229-231 | 「とても辛く 何とも言いようのないとお思い申していた人に、とうとう逢えるのだなんて」<BR>⏎ と言って,この中仕切りに近寄って来た。よそよそしく隔てていた屏風のような物を、すっかり払い除けて、何とも言葉にも出されず,お互いに泣き合う。年老いた乳母が、ほんのわずかに、<BR>⏎ 「ご主人様は、どうなさいましたか。長年、夢の中でもいらっしゃるところを見たいと 大願を立てましたが、都から遠い筑紫にいたために、風の便りにも噂を伝え聞くことができませんでしたのを、たいそう悲しく思うと、老いた身でこの世に生きながらえていますのも、とてもつらいのですが、お残し申された若君が、いじらしく気の毒でいらっしゃったのを、冥途の障りになろうかとお世話に困ったままで、まだ目を瞑れないでおります」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 256-257 | と言うなり、二、三人皆涙が込み上げてきて、とてもどうすることもできず、涙を抑えかねていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 234 | と言うなり、二,三人皆涙が込み上げてきて、とてもどうすることもできず、涙を抑えかねていた。<BR>⏎ |
| version22 | 258 | <A NAME="in35">[第五段 右近、初瀬観音に感謝]</A><BR> | 235 | |
| c2 | 259-260 | 日が暮れてしまうと、急ぎだして、御灯明の用意を済ませて、急がせるので、かえって落ち着かない気がして別れる。「ご一緒にいらっしゃいませんか」と言うが、お互いに供の人々が不思議に思うに違いないので、この豊後介にも事情を説明することさえしない。自分も相手も格別気を遣うこともなく、皆外へ出た。<BR>⏎ 右近は、こっそりと注意して見ると、一行の中にかわいらしい後ろ姿をして、とてもひどく身を忍んだ旅姿で、四月ころの単衣のようなものの中に着込めていらっしゃる髪が、透き通って見えるのが、とてももったいなく立派に見える。おいたわしくかわいそうにと拝する。<BR>⏎ | 236-237 | 日が暮れてしまうと、急ぎだして、御灯明の用意を済ませて、急がせるので、かえって落ち着かない気がして別れる。「ご一緒にいらっしゃいませんか」と言うが、お互いに供の人々が不思議に思うに違いないので、この豊後介にも 事情を説明することさえしない。自分も相手も格別気を遣うこともなく、皆外へ出た。<BR>⏎ 右近は、こっそりと注意して見ると、一行の中にかわいらしい後ろ姿をして、とてもひどく身を忍んだ旅姿で、四月ころの単衣のようなものの中に着込めていらっしゃる髪が,透き通って見えるのが、とてももったいなく立派に見える。おいたわしくかわいそうにと拝する。<BR>⏎ |
| c2 | 262-263 | 「もっと、こちらにいらっしゃいませ」<BR>⏎ と、探し合って言ったので、男たちはそこに置いて、豊後介にこれこれしかじかでと説明して、こちらにお移し申し上げる。<BR>⏎ | 239-240 | 「もっと,こちらにいらっしゃいませ」<BR>⏎ と,探し合って言ったので、男たちはそこに置いて、豊後介にこれこれしかじかでと説明して、こちらにお移し申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 265 | と言って、話をもっとしたく思ったが、仰々しい勤行の声に紛れ、騒がしさに引き込まれて、仏を拝み申し上げる。右近は、心の中で、<BR>⏎ | 242 | と言って,話をもっとしたく思ったが、仰々しい勤行の声に紛れ、騒がしさに引き込まれて、仏を拝み申し上げる。右近は、心の中で、<BR>⏎ |
| d1 | 268 | <P>⏎ | ||
| version22 | 269 | <A NAME="in36">[第六段 三条、初瀬観音に祈願]</A><BR> | 245 | |
| c2 | 272-273 | と、額に手を当てて念じている。右近は、「ひどく縁起でもないことを言うわ」と聞いて、<BR>⏎ 「とても、ひどく田舎じみてしまったのね。頭の中将殿は、当時のご信任でさえどんなでもいらしゃいました。まして、今では天下をお心のままに動かしていらっしゃる大臣で、どんなにか立派なお間柄であるのに、このお方が、受領の妻として、お定まりになるものですか」<BR>⏎ | 248-249 | と,額に手を当てて念じている。右近は、「ひどく縁起でもないことを言うわ」と聞いて、<BR>⏎ 「とても,ひどく田舎じみてしまったのね。頭の中将殿は、当時のご信任でさえどんなでもいらしゃいました。まして,今では天下をお心のままに動かしていらっしゃる大臣で、どんなにか立派なお間柄であるのに、このお方が、受領の妻として、お定まりになるものですか」<BR>⏎ |
| c2 | 275-276 | 「お静かに。言わせて頂戴。大臣とやらの話もちょっと待って。大弍のお館の奥方様が、清水のお寺や、観世音寺に参詣なさった時の勢いは、帝の行幸に劣っていましょうか。まあ、いやだこと」<BR>⏎ と言って、ますます手を額から離さず、一心に拝んでいた。<BR>⏎ | 251-252 | 「お静かに。言わせて頂戴。大臣とやらの話もちょっと待って。大弍のお館の奥方様が、清水のお寺や、観世音寺に参詣なさった時の勢いは、帝の行幸に劣っていましょうか。まあ,いやだこと」<BR>⏎ と言って,ますます手を額から離さず、一心に拝んでいた。<BR>⏎ |
| d1 | 282 | <P>⏎ | ||
| version22 | 283 | <A NAME="in37">[第七段 右近、主人の光る源氏について語る]</A><BR> | 258 | |
| c4 | 284-287 | 夜が明けたので、知っている大徳の坊に下がった。話を、心おきなくというのであろう。姫君がひどく質素にしていらっしゃるのを恥ずかしそうに思っていらっしゃる様子が、たいそう立派に見える。<BR>⏎ 「思いもかけない高貴な方にお仕えして、大勢の方々を見てきましたが、殿の上様のご器量に並ぶ方はいらっしゃらないと、長年拝見しておりましたが、また一方に、ご成長されてゆく姫君のご器量も、当然のことながら優れていらっしゃいます。大切にお育て申し上げなさる様子も、又とないくらいですが、このように質素にしていらっしゃる姫君が、お劣りにならないくらいにお見えになりますのは、めったにないお美しさであります。<BR>⏎ 大臣の君は、御父帝の御時代から、多数の女御や、后をはじめ、それより以下の女は残るところなくご存知でいらしたお目には、今上帝の御母后と申し上げた方と、この姫君のご器量とを、『美人とはこのような方をいうのであろうかと思われる』とお口にしていらっしゃいます。<BR>⏎ 拝見して比べますに、あの后の宮は存じません。姫君はおきれいでいらっしゃいますが、まだ、お小さくて、これから先どんなにお美しくなられることかと思いやられます。<BR>⏎ | 259-262 | 夜が明けたので、知っている大徳の坊に下がった。話を、心おきなくというのであろう。姫君がひどく質素にしていらっしゃるのを 恥ずかしそうに思っていらっしゃる様子が、たいそう立派に見える。<BR>⏎ 「思いもかけない高貴な方にお仕えして、大勢の方々を見てきましたが、殿の上様のご器量に並ぶ方はいらっしゃらないと、長年拝見しておりましたが、また一方に,ご成長されてゆく姫君のご器量も、当然のことながら優れていらっしゃいます。大切にお育て申し上げなさる様子も、又とないくらいですが、このように質素にしていらっしゃる姫君が、お劣りにならないくらいにお見えになりますのは、めったにないお美しさであります。<BR>⏎ 大臣の君は、御父帝の御時代から、多数の女御や,后をはじめ、それより以下の女は残るところなくご存知でいらしたお目には、今上帝の御母后と申し上げた方と、この姫君のご器量とを、『美人とはこのような方をいうのであろうかと思われる』とお口にしていらっしゃいます。<BR>⏎ 拝見して比べますに、あの后の宮は存じません. 姫君はおきれいでいらっしゃいますが、まだ,お小さくて、これから先どんなにお美しくなられることかと思いやられます。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 289-291 | 拝見すると、寿命が延びるお二方のご様子を、また他にそのような例がいらっしゃるだろうかと、思っておりましたが、どこが劣ったところがございましょうか。物には限度というものがありますから、どんなに優れていらっしゃろうとも、頭上から光をお放ちになるようなことはありません。ただ、こういう方をこそ、お美しいと申し上げるべきでしょう」<BR>⏎ と、微笑んで拝見するので、老人も嬉しく思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 264-265 | 拝見すると、寿命が延びるお二方のご様子を、また他にそのような例がいらっしゃるだろうかと,思っておりましたが、どこが劣ったところがございましょうか。物には限度というものがありますから、どんなに優れていらっしゃろうとも、頭上から光をお放ちになるようなことはありません。ただ,こういう方をこそ、お美しいと申し上げるべきでしょう」<BR>⏎ と,微笑んで拝見するので、老人も嬉しく思う。<BR>⏎ |
| version22 | 292 | <A NAME="in38">[第八段 乳母、右近に依頼]</A><BR> | 266 | |
| c1 | 296 | 「いやもう、わたしはとるにたりない身の上ですけれども、殿も御前近くにお使いになってくださいますので、何かの時毎に、『どうおなりあそばしたことでしょう』と口に出し申し上げたのを、お心にお掛けになっていらして、『わたしも何とかお捜し申したいと思うが、もしお聞き出し申したら』と、仰せになっています」<BR>⏎ | 270 | 「いやもう,わたしはとるにたりない身の上ですけれども、殿も御前近くにお使いになってくださいますので、何かの時毎に、『どうおなりあそばしたことでしょう』と口に出し申し上げたのを、お心にお掛けになっていらして、『わたしも何とかお捜し申したいと思うが、もしお聞き出し申したら』と、仰せになっています」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 302-304 | そうはいっても、姫君は、あの昔の夕顔の五条の家にお残し申されたものと思っていました。ああ、何ともったいない。田舎者におなりになってしまうところでしたねえ」<BR>⏎ などと、お話しながら、一日中、昔話や、念誦などして。<BR>⏎ <P>⏎ | 276-277 | そうはいっても、姫君は、あの昔の夕顔の五条の家にお残し申されたものと思っていました。ああ,何ともったいない。田舎者におなりになってしまうところでしたねえ」<BR>⏎ などと,お話しながら、一日中、昔話や、念誦などして。<BR>⏎ |
| version22 | 305 | <A NAME="in39">[第九段 右近、玉鬘一行と約束して別れる]</A><BR> | 278 | |
| cd2:1 | 307-308 | 「二本の杉の立っている長谷寺に参詣しなかったなら<BR>⏎ 古い川の近くで姫君にお逢いできたでしょうか<BR>⏎ | 280 | 「二本の杉の立っている長谷寺に参詣しなかったなら<BR> 古い川の近くで姫君にお逢いできたでしょうか<BR>⏎ |
| cd6:5 | 311-316 | 「昔のことは知りませんが、今日お逢いできた<BR>⏎ 嬉し涙でこの身まで流れてしまいそうです」<BR>⏎ とお詠みになって、泣いていらっしゃる様子、とても好感がもてる。<BR>⏎ 「ご器量はとてもこのように素晴らしく美しくいらしても、田舎人めいて、ごつごつしていらっしゃったら、どんなにか玉の瑕になったことであろうに。いやもう、立派に、どうしてこのようにご成長されたのであろう」<BR>⏎ と、乳母殿に感謝する。<BR>⏎ 母君は、ただたいそう若々しくおっとりしていて、なよなよと、しなやかでいらした。この姫君は気品が高く、動作などもこちらが恥ずかしくなるくらいに、優雅でいらっしゃる。筑紫の地を奥ゆかしく思ってみるが、皆、他の人々は田舎人めいてしまったのも、合点が行かない。<BR>⏎ | 283-287 | 「昔のことは知りませんが、今日お逢いできた<BR> 嬉し涙でこの身まで流れてしまいそうです」<BR>⏎ とお詠みになって,泣いていらっしゃる様子、とても好感がもてる。<BR>⏎ 「ご器量はとてもこのように素晴らしく美しくいらしても、田舎人めいて、ごつごつしていらっしゃったら、どんなにか玉の瑕になったことであろうに。いやもう,立派に、どうしてこのようにご成長されたのであろう」<BR>⏎ と,乳母殿に感謝する。<BR>⏎ 母君は、ただたいそう若々しくおっとりしていて、なよなよと、しなやかでいらした。この姫君は気品が高く、動作などもこちらが恥ずかしくなるくらいに、優雅でいらっしゃる。筑紫の地を奥ゆかしく思ってみるが、皆,他の人々は田舎人めいてしまったのも、合点が行かない。<BR>⏎ |
| c1 | 318 | 秋風が、谷から遥かに吹き上がってきて、とても肌寒く感じられる上に、感慨無量の人々にとっては、それからそれへと連想されて、人並みになるようなことも難しいことと沈みこんでいたが、この右近の話の中に、父内大臣のご様子、他のたいしたことのない方々が生んだご子息たちも、皆一人前になさっていることを聞くと、このような日陰者も頼もしく、お思いになるのであった。<BR>⏎ | 289 | 秋風が、谷から遥かに吹き上がってきて、とても肌寒く感じられる上に、感慨無量の人々にとっては、それからそれへと連想されて、人並みになるようなことも難しいことと沈みこんでいたが、この右近の話の中に、父内大臣のご様子、他のたいしたことのない方々が生んだご子息たちも、皆一人前になさっていることを聞くと、このような日陰者も頼もしく,お思いになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 320 | <P>⏎ | ||
| version22 | 321 | <H4>第四章 光る源氏の物語 玉鬘を養女とする物語</H4> | 291 | |
| version22 | 322 | <A NAME="in41">[第一段 右近、六条院に帰参する]</A><BR> | 292 | |
| c2 | 325-326 | 「どうして、里住みを長くしていたのだ。めずらしく寡婦が、うって変わって、若変ったようなことでもしたのでしょうか。きっとおもしろいことがあったのでしょう」<BR>⏎ などと、例によって、返事に困るような、冗談をおっしゃる。<BR>⏎ | 295-296 | 「どうして,里住みを長くしていたのだ。めずらしく 寡婦が、うって変わって、若変ったようなことでもしたのでしょうか。きっとおもしろいことがあったのでしょう」<BR>⏎ などと,例によって、返事に困るような、冗談をおっしゃる。<BR>⏎ |
| c2 | 331-332 | と言って、女房たちが参上したので、中断した。<BR>⏎ 大殿油などを点灯して、うちとけて並んでいらっしゃるご様子、たいそう見ごたえがあった。女君は、二十七、八歳におなりになったであろう、今を盛りといよいよ美しく成人されていらっしゃる。少し日をおいて拝見すると、「また、この間にも美しさがお加わりになった」とお見えになる。<BR>⏎ | 301-302 | と言って,女房たちが参上したので、中断した。<BR>⏎ 大殿油などを点灯して、うちとけて並んでいらっしゃるご様子、たいそう見ごたえがあった。女君は、二十七,八歳におなりになったであろう、今を盛りといよいよ美しく成人されていらっしゃる。少し日をおいて拝見すると、「また,この間にも 美しさがお加わりになった」とお見えになる。<BR>⏎ |
| d1 | 334 | <P>⏎ | ||
| version22 | 335 | <A NAME="in42">[第二段 右近、源氏に玉鬘との邂逅を語る]</A><BR> | 304 | |
| c2 | 342-343 | 「紫の上も、年とった者どうしが仲よくし過ぎると、それはやはり、ご機嫌を悪くされるだろうと思うよ。そのようなこともなさそうなお心とは見えないから、危険なものです」<BR>⏎ などと、右近に話してお笑いになる。たいそう愛嬌があって、冗談をおっしゃるところまでがお加わりになっていらっしゃる。<BR>⏎ | 311-312 | 「紫の上も、年とった者どうしが仲よくし過ぎると、それはやはり,ご機嫌を悪くされるだろうと思うよ。そのようなこともなさそうなお心とは見えないから、危険なものです」<BR>⏎ などと,右近に話してお笑いになる。たいそう愛嬌があって、冗談をおっしゃるところまでがお加わりになっていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 347 | 「まあ、人聞きの悪いことを。はかなくお亡くなりになった夕顔の露の縁のある人を、お見つけ申したのです」<BR>⏎ | 316 | 「まあ,人聞きの悪いことを。はかなくお亡くなりになった夕顔の露の縁のある人を、お見つけ申したのです」<BR>⏎ |
| c1 | 353 | 「よし、事情をご存知でない方の前だから」<BR>⏎ | 322 | 「よし,事情をご存知でない方の前だから」<BR>⏎ |
| c2 | 355-356 | 「まあ、やっかいなお話ですこと。眠たいので、耳に入るはずもありませんのに」<BR>⏎ とおっしゃって、お袖で耳をお塞ぎになった。<BR>⏎ | 324-325 | 「まあ,やっかいなお話ですこと。眠たいので、耳に入るはずもありませんのに」<BR>⏎ とおっしゃって,お袖で耳をお塞ぎになった。<BR>⏎ |
| c1 | 363 | 「どうして、それほどまでは」<BR>⏎ | 332 | 「どうして,それほどまでは」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 366-367 | と、実の親のようにおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 335 | と,実の親のようにおっしゃる。<BR>⏎ |
| version22 | 368 | <A NAME="in43">[第三段 源氏、玉鬘を六条院へ迎える]</A><BR> | 336 | |
| c1 | 370 | 「それでは、その人を、ここにお迎え申そう。長年、何かの折ごとに、残念にも行く方がわからなくなったことを思い出していたが、とても嬉しく聞き出しながら、今まで会わないでいるのも、つまらなことだ。<BR>⏎ | 338 | 「それでは,その人を、ここにお迎え申そう。長年、何かの折ごとに、残念にも行く方がわからなくなったことを思い出していたが、とても嬉しく聞き出しながら、今まで会わないでいるのも、つまらなことだ。<BR>⏎ |
| c1 | 376 | と、苦笑いしながら、涙ぐんでいらっしゃる。<BR>⏎ | 344 | と,苦笑いしながら、涙ぐんでいらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 378 | と言って、お手紙を差し上げなさる。あの末摘花の何とも言いようもなかったのをお思い出しになると、そのように落ちぶれた境遇で育ったような人の様子が不安になって、まずは、手紙の様子がどんなものかと思わずにはいらっしゃれないのであった。きまじめに、それにふさわしくお認めになって、端の方に、<BR>⏎ | 346 | と言って,お手紙を差し上げなさる。あの末摘花の何とも言いようもなかったのをお思い出しになると、そのように落ちぶれた境遇で育ったような人の様子が不安になって、まずは,手紙の様子がどんなものかと思わずにはいらっしゃれないのであった。きまじめに、それにふさわしくお認めになって、端の方に、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 380-381 | 今はご存知なくともやがて聞けばおわかりになりましょう<BR>⏎ 三島江に生えている三稜のようにわたしとあなたは縁のある関係なのですから」<BR>⏎ | 348 | 今はご存知なくともやがて聞けばおわかりになりましょう<BR> 三島江に生えている三稜のようにわたしとあなたは縁のある関係なのですから」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 383-384 | お手紙は、右近みずから持参して、おっしゃる様子などを申し上げる。ご装束、女房たちの物などいろいろとある。紫の上にもご相談申し上げられたのであろう、御匣殿などでも、用意してある品物を取り集めて、色あいや、出来具合などのよい物をと、選ばせなさったので、田舎じみた人々の目には、ひとしお目を見張るほどに思ったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 350 | お手紙は、右近みずから持参して、おっしゃる様子などを申し上げる。ご装束、女房たちの物などいろいろとある。紫の上にもご相談申し上げられたのであろう、御匣殿などでも、用意してある品物を取り集めて、色あいや,出来具合などの よい物をと、選ばせなさったので、田舎じみた人々の目には、ひとしお目を見張るほどに思ったのであった。<BR>⏎ |
| version22 | 385 | <A NAME="in44">[第四段 玉鬘、源氏に和歌を返す]</A><BR> | 351 | |
| c2 | 387-388 | 「ほんの申し訳程度でも、実の親のお気持ちならば、どんなにか嬉しいであろう。どうして知らない方の所に出て行けよう」<BR>⏎ と、ほのめかして、苦しそうに悩んでいたが、とるべき態度を、右近が申し上げ教え、女房たちも、<BR>⏎ | 353-354 | 「ほんの申し訳程度でも、実の親のお気持ちならば,どんなにか嬉しいであろう. どうして知らない方の所に出て行けよう」<BR>⏎ と,ほのめかして、苦しそうに悩んでいたが、とるべき態度を、右近が申し上げ教え、女房たちも、<BR>⏎ |
| c3 | 390-392 | 「右近が、物の数ではございませんが、ぜひともお目にかかりたいと念じておりましたのさえ、仏神のお導きがございませんでしたか。まして、どなたもどなたも無事でさえいらしたら」<BR>⏎ と、皆がお慰め申し上げる。<BR>⏎ 「まずは、お返事を」と、無理にお書かせ申し上げる。<BR>⏎ | 356-358 | 「右近が、物の数ではございませんが、ぜひともお目にかかりたいと念じておりましたのさえ、仏神のお導きがございませんでしたか。まして,どなたもどなたも無事でさえいらしたら」<BR>⏎ と,皆がお慰め申し上げる。<BR>⏎ 「まずは,お返事を」と、無理にお書かせ申し上げる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 395-397 | 「物の数でもないこの身はどうして<BR>⏎ 三稜のようにこの世に生まれて来たのでしょう」<BR>⏎ とだけ、墨付き薄く書いてある。筆跡は、かぼそげにたどたどしいが、上品で見苦しくないので、ご安心なさった。<BR>⏎ | 361-362 | 「物の数でもないこの身はどうして<BR> 三稜のようにこの世に生まれて来たのでしょう」<BR>⏎ とだけ,墨付き薄く書いてある。筆跡は,かぼそげにたどたどしいが、上品で見苦しくないので、ご安心なさった。<BR>⏎ |
| c1 | 399 | 「南の町には、空いている対の屋などはない。威勢も特別でいっぱいに使っていらっしゃるので、目立つし人目も多いことだろう。中宮のいらっしゃる町は、このような人が住むのに適してのんびりしているが、そうするとそこにお仕えする女房と同じように思われるだろう」とお考えになって、「少し埋もれた感じだが、丑寅の町の西の対が、文殿になっているのを、他の場所に移して」とお考えになる。<BR>⏎ | 364 | 「南の町には、空いている対の屋などはない。威勢も特別でいっぱいに使っていらっしゃるので、目立つし人目も多いことだろう。中宮のいらっしゃる町は、このような人が住むのに適して のんびりしているが、そうするとそこにお仕えする女房と同じように思われるだろう」とお考えになって、「少し埋もれた感じだが、丑寅の町の西の対が、文殿になっているのを、他の場所に移して」とお考えになる。<BR>⏎ |
| d1 | 402 | <P>⏎ | ||
| version22 | 403 | <A NAME="in45">[第五段 源氏、紫の上に夕顔について語る]</A><BR> | 367 | |
| c3 | 405-407 | 「困ったことですね。生きている人の身の上でも、問わず語りは申したりしましょうか。このような時に、隠さず申し上げるのは、他の人以上にあなたを愛しているからです」<BR>⏎ と言って、とてもしみじみとお思い出しになっていた。<BR>⏎ 「他人の身の上として大勢見て来たが、ほれほどにも思わなかった中でも、女性というものの愛執の深さを多数見たり聞いたりしてきましたので、少しも浮気心はつかうまいと思っていたが、いつの間にかそうあってはならなかった女を多数相手にした中で、しみじみとひたすらかわいらしく思えた方では、他に例がなく思い出されます。生きていたならば、北の町におられる人と同じくらいには、世話しないことはなかったでしょう。人の有様は、いろいろですね。才気があり趣味の深い点では劣っていたが、上品でかわいらしかったなあ」<BR>⏎ | 369-371 | 「困ったことですね。生きている人の身の上でも、問わず語りは申したりしましょうか。このような時に,隠さず申し上げるのは、他の人以上にあなたを愛しているからです」<BR>⏎ と言って,とてもしみじみとお思い出しになっていた。<BR>⏎ 「他人の身の上として大勢見て来たが、ほれほどにも思わなかった中でも、女性というものの愛執の深さを多数見たり聞いたりしてきましたので、少しも浮気心はつかうまいと思っていたが、いつの間にかそうあってはならなかった女を多数相手にした中で、しみじみとひたすらかわいらしく思えた方では、他に例がなく思い出されます。生きていたならば、北の町におられる人と同じくらいには、世話しないことはなかったでしょう。人の有様は、いろいろですね。才気があり 趣味の深い点では劣っていたが、上品でかわいらしかったなあ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 410-411 | とおっしゃる。やはり、北の殿の御方を、気にさわる者とお思いであった。姫君が、とてもかわいらしげに何心もなく聞いていらっしゃるのが、いじらしいので、また一方では、「もっともなことだわ」と思い返しなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 374 | とおっしゃる。やはり,北の殿の御方を、気にさわる者とお思いであった。姫君が、とてもかわいらしげに何心もなく聞いていらっしゃるのが、いじらしいので、また一方では、「もっともなことだわ」と思い返しなさる。<BR>⏎ |
| version22 | 412 | <A NAME="in46">[第六段 玉鬘、六条院に入る]</A><BR> | 375 | |
| c4 | 416-419 | 「いとしいと思っていた女が、気落ちして、たよりない山里に隠れ住んでいたのだが、幼い子がいたので、長年人に知らせず捜しておりましたが、聞き出すことが出来ませんで、年頃の女性になるまで過ぎてしまったが、思いがけない方面から、聞きつけた時には、せめてと思って、お引き取りするのでございます」と言って、「母も亡くなってしまったのです。中将をお預け申し上げましたが、不都合ありませんね。同じようにお世話なさってください。山家育ちのように成長してきたので、田舎めいたことが多くございましょう。しかるべく、機会にふれて教えてやってください」<BR>⏎ と、とても丁寧にお頼み申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど、そのような人がいらっしゃるのを、存じませんでしたわ。姫君がお一人いらっしゃるのは寂しいので、よいことですわ」<BR>⏎ と、おおようにおっしゃる。<BR>⏎ | 379-382 | 「いとしいと思っていた女が、気落ちして、たよりない山里に隠れ住んでいたのだが、幼い子がいたので、長年人に知らせず捜しておりましたが、聞き出すことが出来ませんで、年頃の女性になるまで過ぎてしまったが、思いがけない方面から、聞きつけた時には,せめてと思って、お引き取りするのでございます」と言って、「母も亡くなってしまったのです。中将をお預け申し上げましたが、不都合ありませんね。同じようにお世話なさってください。山家育ちのように成長してきたので、田舎めいたことが多くございましょう。しかるべく、機会にふれて教えてやってください」<BR>⏎ と,とても丁寧にお頼み申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど,そのような人がいらっしゃるのを、存じませんでしたわ。姫君がお一人いらっしゃるのは寂しいので、よいことですわ」<BR>⏎ と,おおようにおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 429 | <P>⏎ | ||
| version22 | 430 | <A NAME="in47">[第七段 源氏、玉鬘に対面する]</A><BR> | 392 | |
| c1 | 431 | その夜、さっそく大臣の君がお渡りになった。その昔、光る源氏などといった評判は、始終お聞き知り申し上げていたが、長年都の生活に縁がなかったので、それほどともお思い申していなかったが、かすかな大殿油の光に、御几帳の隙間からわずかに拝見すると、ますます恐ろしいまでに思われるお美しさであるよ。<BR>⏎ | 393 | その夜、さっそく大臣の君がお渡りになった。その昔,光る源氏などといった評判は、始終お聞き知り申し上げていたが、長年都の生活に縁がなかったので、それほどともお思い申していなかったが、かすかな大殿油の光に、御几帳の隙間からわずかに拝見すると、ますます恐ろしいまでに思われるお美しさであるよ。<BR>⏎ |
| c1 | 436 | と言って、几帳を少し押しやりなさる。たまらなく恥ずかしいので、横を向いていらっしゃる姿態など、たいそう難なく見えるので、嬉しくて、<BR>⏎ | 398 | と言って,几帳を少し押しやりなさる。たまらなく恥ずかしいので、横を向いていらっしゃる姿態など、たいそう難なく見えるので、嬉しくて、<BR>⏎ |
| c1 | 442 | と言って、お目をお拭いになる。ほんとうに悲しく思い出さずにはいられない。お年のほど、お数えになって、<BR>⏎ | 404 | と言って,お目をお拭いになる。ほんとうに悲しく思い出さずにはいられない。お年のほど、お数えになって、<BR>⏎ |
| c1 | 446 | と、かすかに申し上げなさるお声が、亡くなった母にたいそうよく似て若々しい感じであった。微笑して、<BR>⏎ | 408 | と,かすかに申し上げなさるお声が、亡くなった母にたいそうよく似て若々しい感じであった。微笑して、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 448-449 | と言って、嗜みのほどは悪くはないとお思いになる。右近に、しかるべき事柄をお命じになって、出て行かれた。<BR>⏎ <P>⏎ | 410 | と言って,嗜みのほどは悪くはないとお思いになる。右近に、しかるべき事柄をお命じになって、出て行かれた。<BR>⏎ |
| version22 | 450 | <A NAME="in48">[第八段 源氏、玉鬘の人物に満足する]</A><BR> | 411 | |
| cd6:4 | 457-462 | と言って、お笑いになると、顔を赤くしていらっしゃる、とても若く美しい様子である。硯を引き寄せなさって、手習いに、<BR>⏎ 「ずっと恋い慕っていたわが身は同じであるが<BR>⏎ その娘はどのような縁でここに来たのであろうか<BR>⏎ ああ、奇縁だ」<BR>⏎ と、そのまま独り言をおっしゃっるので、「なるほど、深くお愛しになった女の忘れ形見なのだろう」と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 418-421 | と言って,お笑いになると、顔を赤くしていらっしゃる、とても若く美しい様子である。硯を引き寄せなさって、手習いに、<BR>⏎ 「ずっと恋い慕っていたわが身は同じであるが<BR> その娘はどのような縁でここに来たのであろうか<BR>⏎ ああ,奇縁だ」<BR>⏎ と,そのまま独り言をおっしゃっるので、「なるほど,深くお愛しになった女の忘れ形見なのだろう」と御覧になる。<BR>⏎ |
| version22 | 463 | <A NAME="in49">[第九段 玉鬘の六条院生活始まる]</A><BR> | 422 | |
| cd5:4 | 468-472 | と、たいそう実直にお申し上げになるので、側で聞いているのもきまりが悪いくらいに、事情を知っている女房たちは思う。<BR>⏎ 思う存分に数奇を凝らしたお住まいではあったが、あきれるくらい田舎びていたのが、何とも比べようもなく思われるよ。お部屋のしつらいをはじめとして、当世風で上品で、親、姉弟として親しくお付き合いさせていただいていらっしゃるご様子、容貌をはじめ、目もくらむほどに思われるので、今になって、三条も大弍を軽々しく思うのであった。まして、大夫の監の鼻息や態度は、思い出すのも忌ま忌ましいことこの上ない。<BR>⏎ 豊後介の心根を立派なものだと姫君もご理解なさりになり、右近もそう思って口にする。「いい加減にしていたのでは不行き届きも生じるだろう」と考えて、こちら方の家司たちを任命して、しかるべき事柄を決めさせなさる。豊後介も家司になった。<BR>⏎ 長年田舎に沈淪していた心地には、急にすっかり変わり、どうして、仮にも自分のような者が出入りできる縁さえないと思っていた大殿の内を、朝な夕なに出入りし、人を従えて、事務を行う身」となることができたのは、たいそう面目に思った。大臣の君のお心配りが、細かに行き届いて世にまたとないほどでいらっしゃることは、たいそうもったいない。<BR>⏎ <P>⏎ | 427-430 | と,たいそう実直にお申し上げになるので、側で聞いているのもきまりが悪いくらいに、事情を知っている女房たちは思う。<BR>⏎ 思う存分に数奇を凝らしたお住まいではあったが、あきれるくらい田舎びていたのが、何とも比べようもなく思われるよ。お部屋のしつらいをはじめとして、当世風で上品で、親、姉弟として親しくお付き合いさせていただいていらっしゃるご様子、容貌をはじめ、目もくらむほどに思われるので、今になって、三条も大弍を軽々しく思うのであった。まして,大夫の監の鼻息や態度は、思い出すのも忌ま忌ましいことこの上ない。<BR>⏎ 豊後介の心根を立派なものだと姫君もご理解なさりになり、右近もそう思って口にする。「いい加減にしていたのでは 不行き届きも生じるだろう」と考えて、こちら方の家司たちを任命して、しかるべき事柄を決めさせなさる。豊後介も家司になった。<BR>⏎ 長年田舎に沈淪していた心地には、急にすっかり変わり、どうして,仮にも自分のような者が出入りできる縁さえないと思っていた大殿の内を、朝な夕なに出入りし、人を従えて、事務を行う身」となることができたのは、たいそう面目に思った。大臣の君のお心配りが、細かに行き届いて世にまたとないほどでいらっしゃることは、たいそうもったいない。<BR>⏎ |
| version22 | 473 | <H4>第五章 光る源氏の物語 末摘花の物語と和歌論</H4> | 431 | |
| version22 | 474 | <A NAME="in51">[第一段 歳末の衣配り]</A><BR> | 432 | |
| c1 | 477 | と、紫の上にお申し上げなさると、御匣殿でお仕立て申したのも、こちらでお仕立てさせなさったのも、みな取り出させなさっていた。<BR>⏎ | 435 | と,紫の上にお申し上げなさると、御匣殿でお仕立て申したのも、こちらでお仕立てさせなさったのも、みな取り出させなさっていた。<BR>⏎ |
| c1 | 479 | あちらこちらの擣殿から進上したいくつもの擣物をご比較なさって、濃い紫や赤色などを、さまざまお選びになっては、いくつもの御衣櫃や、衣箱に入れさせなさって、年配の上臈の女房たちが伺候して、「これは、あれは」と取り揃えて入れる。紫の上も御覧になって、<BR>⏎ | 437 | あちらこちらの擣殿から進上したいくつもの擣物をご比較なさって、濃い紫や赤色などを、さまざまお選びになっては、いくつもの御衣櫃や、衣箱に入れさせなさって、年配の上臈の女房たちが伺候して、「これは,あれは」と取り揃えて入れる。紫の上も御覧になって、<BR>⏎ |
| c1 | 482 | 「それとなく、他の人たちのご器量を想像しようというおつもりのようですね。では、あなたはどれをご自分のにとお思いですか」<BR>⏎ | 440 | 「それとなく、他の人たちのご器量を想像しようというおつもりのようですね。では,あなたはどれをご自分のにとお思いですか」<BR>⏎ |
| c1 | 485 | と、そうは言ったものの恥ずかしがっていらっしゃる。<BR>⏎ | 443 | と,そうは言ったものの恥ずかしがっていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c2 | 489-490 | 「いや、この器量比べは、当人の腹を立てるに違いないことだ。よいものだといっても、物の色には限りがあり、人の器量というものは、劣っていても、また一方でやはり奥底のあるものだから」<BR>⏎ と言って、あの末摘花の御料に、柳の織物で、由緒ある唐草模様を乱れ織りにしたのも、とても優美なので、人知れず苦笑されなさる。<BR>⏎ | 447-448 | 「いや,この器量比べは、当人の腹を立てるに違いないことだ。よいものだといっても、物の色には限りがあり、人の器量というものは、劣っていても、また一方でやはり奥底のあるものだから」<BR>⏎ と言って,あの末摘花の御料に、柳の織物で、由緒ある唐草模様を乱れ織りにしたのも、とても優美なので、人知れず苦笑されなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 492-493 | 空蝉の尼君に、青鈍色の織物、たいそう気の利いたのを見つけなさって、御料にある梔子色の御衣で、聴し色なのをお添えになって、同じ元日にお召しになるようにとお手紙をもれなくお回しになる。なるほど、似合っているのを見ようというお心なのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 450 | 空蝉の尼君に、青鈍色の織物、たいそう気の利いたのを見つけなさって、御料にある梔子色の御衣で、聴し色なのをお添えになって、同じ元日にお召しになるようにとお手紙をもれなくお回しになる。なるほど,似合っているのを見ようというお心なのであった。<BR>⏎ |
| version22 | 494 | <A NAME="in52">[第二段 末摘花の返歌]</A><BR> | 451 | |
| cd4:3 | 495-498 | すべて、お返事は並大抵ではない。お使いへの禄も、それぞれに気をつかっていたが、末摘花は、東院にいらっしゃるので、もう少し違って、一趣向あってしかるべきなのに、几帳面でいらっしゃる人柄で、定まった形式は違えなさらず、山吹の袿で、袖口がたいそう煤けているのを、下に衣も重ねずにお与えになった。お手紙には、とても香ばしい陸奥国紙で、少し古くなって厚く黄ばんでいる紙に、<BR>⏎ 「どうも、戴くのは、かえって恨めしゅうございまして。<BR>⏎ 着てみると恨めしく思われます、この唐衣は<BR>⏎ お返ししましょう、涙で袖を濡らして」<BR>⏎ | 452-454 | すべて,お返事は並大抵ではない。お使いへの禄も、それぞれに気をつかっていたが、末摘花は、東院にいらっしゃるので、もう少し違って、一趣向あってしかるべきなのに、几帳面でいらっしゃる人柄で、定まった形式は違えなさらず、山吹の袿で、袖口がたいそう煤けているのを、下に衣も重ねずにお与えになった。お手紙には、とても香ばしい陸奥国紙で、少し古くなって 厚く黄ばんでいる紙に、<BR>⏎ 「どうも,戴くのは、かえって恨めしゅうございまして。<BR>⏎ 着てみると恨めしく思われます、この唐衣は<BR> お返ししましょう、涙で袖を濡らして」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 500-501 | お使いに取らせた物が、とてもみすぼらしく体裁が悪いとお思いになって、ご機嫌が悪かったので、御前をこっそり退出した。ひどく、ささやき合って笑うのであった。このようにむやみに古風に体裁の悪いところがおありになる振る舞いに、手を焼くのだとお思いになる。気恥ずかしくなる目もとである。<BR>⏎ <P>⏎ | 456 | お使いに取らせた物が、とてもみすぼらしく体裁が悪いとお思いになって、ご機嫌が悪かったので、御前をこっそり退出した。ひどく,ささやき合って笑うのであった。このようにむやみに古風に 体裁の悪いところがおありになる振る舞いに、手を焼くのだとお思いになる。気恥ずかしくなる目もとである。<BR>⏎ |
| version22 | 502 | <A NAME="in53">[第三段 源氏の和歌論]</A><BR> | 457 | |
| c1 | 503 | 「昔風の歌詠みは、『唐衣』、『袂濡るる』といった恨み言が抜けないですね。自分も、同じですが。まったく一つの型に凝り固まって、当世風の詠み方に変えなさらないのが、ご立派と言えばご立派なものです。人々が集まっている中にいることを、何かの折ふしに、御前などにおける特別の歌を詠む時には『まとゐ』が欠かせぬ三文字なのですよ。昔の恋のやりとりは、『あだ人--』という五文字を、休め所の第三句に置いて、言葉の続き具合が落ち着くような感じがするようです」<BR>⏎ | 458 | 「昔風の歌詠みは、『唐衣』、『袂濡るる』といった恨み言が抜けないですね。自分も、同じですが。まったく一つの型に凝り固まって、当世風の詠み方に変えなさらないのが、ご立派と言えばご立派なものです。人々が集まっている中にいることを、何かの折ふしに、御前などにおける特別の歌を詠む時には 『まとゐ』が欠かせぬ三文字なのですよ。昔の恋のやりとりは、『あだ人--』という五文字を、休め所の第三句に置いて、言葉の続き具合が落ち着くような感じがするようです」<BR>⏎ |
| c1 | 507 | とおっしゃって、おもしろがっていらっしゃる様子、お気の毒なことである。<BR>⏎ | 462 | とおっしゃって,おもしろがっていらっしゃる様子、お気の毒なことである。<BR>⏎ |
| c1 | 509 | 「どうして、お返しになったのですか。書き写して、姫君にもお見せなさるべきでしたのに。私の手もとにも、何かの中にあったのも、虫がみな食ってしまいましたので。まだ見てない人は、やはり特に心得が足りないのです」<BR>⏎ | 464 | 「どうして,お返しになったのですか。書き写して、姫君にもお見せなさるべきでしたのに。私の手もとにも、何かの中にあったのも、虫がみな食ってしまいましたので。まだ見てない人は、やはり特に心得が足りないのです」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 514-516 | と、お勧め申し上げなさる。思いやりのあるお心なので、お書きになる。とても気安いふうである。<BR>⏎ 「お返ししましょうとおっしゃるにつけても<BR>⏎ 独り寝のあなたをお察しいたします<BR>⏎ | 469-470 | と,お勧め申し上げなさる。思いやりのあるお心なので、お書きになる。とても気安いふうである。<BR>⏎ 「お返ししましょうとおっしゃるにつけても<BR> 独り寝のあなたをお察しいたします<BR>⏎ |
| d2 | 519-520 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 527 | ⏎ | ||
| i0 | 483 | |||
| diff | src/original/version23.html | src/modified/version23.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version23 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 35 | <P>⏎ | ||
| version23 | 36 | <H4>第一章 光る源氏の物語 新春の六条院の女性たち</H4> | 32 | |
| version23 | 37 | <A NAME="in11">[第一段 春の御殿の紫の上の周辺]</A><BR> | 33 | |
| c2 | 38-39 | 年が改まった元日の朝の空の様子、一点の曇りもないうららかさには、つまらない者の家でさえ、雪の間の草が若々しく色づき初め、早くも立ちそめた霞の中に、木の芽も萌え出し、自然と人の気持ちものびのびと見えるものである。まして、いっそう玉を敷いた御殿の、庭をはじめとして見所が多く、一段と美しく着飾ったご夫人方の様子は、語り伝えるにも言葉が足りそうにない。<BR>⏎ 春の御殿のお庭は、特別で、梅の香りも御簾の中の薫物の匂いと吹き混じり合って、この世の極楽浄土と思われる。何といってもゆったりと、落ち着いてお住まいになっていらっしゃる。お仕えしている女房たちも、若くて勝れている者は、姫君の御方にとお選びになって、少し年輩の女房ばかりで、かえって風情があって、装束や様子などをはじめとして、見苦しくなく取り繕って、あちらこちらに寄り合っては、歯固めの祝いをして、鏡餅まで取り加えて、千歳の栄えも明らかな新年の祝い言を唱えて、戯れ合っているところに、大臣の君がお顔出しになったので、懐手を直し直しして、「まあ、恥ずかしいこと」と、きまり悪がっていた。<BR>⏎ | 34-35 | 年が改まった元日の朝の空の様子、一点の曇りもないうららかさには、つまらない者の家でさえ、雪の間の草が若々しく色づき初め、早くも立ちそめた霞の中に、木の芽も萌え出し、自然と人の気持ちものびのびと見えるものである。まして,いっそう玉を敷いた御殿の、庭をはじめとして見所が多く、一段と美しく着飾ったご夫人方の様子は、語り伝えるにも言葉が足りそうにない。<BR>⏎ 春の御殿のお庭は、特別で、梅の香りも御簾の中の薫物の匂いと吹き混じり合って、この世の極楽浄土と思われる。何といってもゆったりと、落ち着いてお住まいになっていらっしゃる。お仕えしている女房たちも、若くて勝れている者は、姫君の御方にとお選びになって、少し年輩の女房ばかりで、かえって風情があって、装束や様子などをはじめとして、見苦しくなく取り繕って、あちらこちらに寄り合っては、歯固めの祝いをして、鏡餅まで取り加えて、千歳の栄えも明らかな新年の祝い言を唱えて、戯れ合っているところに、大臣の君がお顔出しになったので、懐手を直し直しして、「まあ,恥ずかしいこと」と、きまり悪がっていた。<BR>⏎ |
| cd8:5 | 46-53 | とおっしゃって、ご冗談なども少し交えては、お祝い申し上げなさる。<BR>⏎ 「薄い氷も解けた池の鏡のような面には<BR>⏎ 世にまたとない二人の影が並んで映っています」<BR>⏎ なるほど、素晴らしいお二人のご夫婦仲である。<BR>⏎ 「一点の曇りのない池の鏡に幾久しくここに<BR>⏎ 住んで行くわたしたちの影がはっきりと映っています」<BR>⏎ 何事につけても、幾久しいご夫婦の縁を、申し分なく詠み交わしなさる。今日は子の日なのであった。なるほど、千歳の春を子の日にかけて祝うには、ふさわしい日である。<BR>⏎ <P>⏎ | 42-46 | とおっしゃって,ご冗談なども少し交えては、お祝い申し上げなさる。<BR>⏎ 「薄い氷も解けた池の鏡のような面には<BR> 世にまたとない二人の影が並んで映っています」<BR>⏎ なるほど,素晴らしいお二人のご夫婦仲である。<BR>⏎ 「一点の曇りのない池の鏡に幾久しくここに<BR> 住んで行くわたしたちの影がはっきりと映っています」<BR>⏎ 何事につけても、幾久しいご夫婦の縁を、申し分なく詠み交わしなさる。今日は子の日なのであった。なるほど,千歳の春を子の日にかけて祝うには、ふさわしい日である。<BR>⏎ |
| version23 | 54 | <A NAME="in12">[第二段 明石姫君、実母と和歌を贈答]</A><BR> | 47 | |
| cd2:1 | 56-57 | 「長い年月を子どもの成長を待ち続けていました<BR>⏎ わたしに今日はその初音を聞かせてください<BR>⏎ | 49 | 「長い年月を子どもの成長を待ち続けていました<BR> わたしに今日はその初音を聞かせてください<BR>⏎ |
| c1 | 59 | とお申し上げになったのを、「なるほど、ほんとうに」とお感じになる。縁起でもない涙をも堪えきれない様子である。<BR>⏎ | 51 | とお申し上げになったのを、「なるほど,ほんとうに」とお感じになる。縁起でもない涙をも堪えきれない様子である。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 61-63 | とおっしゃって、御硯を用意なさって、お書かせ申し上げなさる。たいそうかわいらしくて、朝な夕なに拝見する人でさえ、いつまでも見飽きないとお思い申すお姿を、今まで会わせないで年月が過ぎてしまったのも、「罪作りで、気の毒なことであった」とお思いになる。<BR>⏎ 「別れて何年も経ちましたがわたしは<BR>⏎ 生みの母君を忘れましょうか」<BR>⏎ | 53-54 | とおっしゃって,御硯を用意なさって、お書かせ申し上げなさる。たいそうかわいらしくて、朝な夕なに拝見する人でさえ、いつまでも見飽きないとお思い申すお姿を、今まで会わせないで年月が過ぎてしまったのも、「罪作りで、気の毒なことであった」とお思いになる。<BR>⏎ 「別れて何年も経ちましたがわたしは<BR> 生みの母君を忘れましょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 65 | <P>⏎ | ||
| version23 | 66 | <A NAME="in13">[第三段 夏の御殿の花散里を訪問]</A><BR> | 56 | |
| c1 | 69 | 「縹色のお召物は、なるほど、はなやかでない色合いで、お髪などもたいそう盛りを過ぎてしまった。優美でないと、かもじを使ってお手入れをなさっているのだろう。わたし以外の人だったら、愛想づかしをするに違いないご様子を、こうしてお世話することは嬉しく本望なことだ。考えの浅い女と同じように、わたしから離れておしまいになったら」などと、お会いなさる時々には、まずは、「わたしの変わらない愛情も、相手の重々しいご性格をも、嬉しく、理想的だ」<BR>⏎ | 59 | 「縹色のお召物は、なるほど,はなやかでない色合いで、お髪などもたいそう盛りを過ぎてしまった。優美でないと、かもじを使ってお手入れをなさっているのだろう。わたし以外の人だったら、愛想づかしをするに違いないご様子を、こうしてお世話することは嬉しく本望なことだ。考えの浅い女と同じように、わたしから離れておしまいになったら」などと、お会いなさる時々には、まずは,「わたしの変わらない愛情も、相手の重々しいご性格をも、嬉しく、理想的だ」<BR>⏎ |
| d1 | 71 | <P>⏎ | ||
| version23 | 72 | <A NAME="in14">[第四段 続いて玉鬘を訪問]</A><BR> | 61 | |
| d1 | 80 | <P>⏎ | ||
| version23 | 81 | <A NAME="in15">[第五段 冬の御殿の明石御方に泊まる]</A><BR> | 69 | |
| cd2:1 | 84-85 | 「何と珍しいことか、花の御殿に住んでいる鴬が<BR>⏎ 谷の古巣を訪ねてくれたとは<BR>⏎ | 72 | 「何と珍しいことか、花の御殿に住んでいる鴬が<BR> 谷の古巣を訪ねてくれたとは<BR>⏎ |
| c3 | 89-91 | などと、思い返して心慰めている文句などが書き混ぜてあるのを、手に取って御覧になりながら微笑んでいらっしゃるのは、気がひけるほど立派である。<BR>⏎ 筆をちょっと濡らして書き戯れていらっしゃるところに、いざり出て来て、そうはいっても自分自身の振る舞いは、慎み深くて、程よい心がけなのを、「やはり、他の女性とは違うな」とお思いになる。白い小袿に、くっきりと映える髪のかかり具合が、少しはらりとする程度に薄くなっていたのも、いっそう優美さが加わって慕わしいので、「新年早々に騒がれることになろうか」と、気にかかるが、こちらにお泊まりになった。「やはり、ご寵愛は格別なのだ」と、他の方々は面白からずお思いになる。<BR>⏎ 南の御殿では、それ以上にけしからぬと思う女房たちがいる。まだ暁のうちにお帰りになった。そんなに急ぐこともないまだ暗いうちなのに、と思うと、送り出した後も気持ちが落ち着かず、寂しい気がする。<BR>⏎ | 76-78 | などと,思い返して心慰めている文句などが書き混ぜてあるのを、手に取って御覧になりながら微笑んでいらっしゃるのは、気がひけるほど立派である。<BR>⏎ 筆をちょっと濡らして書き戯れていらっしゃるところに、いざり出て来て、そうはいっても自分自身の振る舞いは、慎み深くて、程よい心がけなのを、「やはり,他の女性とは違うな」とお思いになる。白い小袿に、くっきりと映える髪のかかり具合が、少しはらりとする程度に薄くなっていたのも、いっそう優美さが加わって 慕わしいので、「新年早々に騒がれることになろうか」と、気にかかるが、こちらにお泊まりになった。「やはり,ご寵愛は格別なのだ」と、他の方々は面白からずお思いになる。<BR>⏎ 南の御殿では、それ以上にけしからぬと思う女房たちがいる。まだ暁のうちにお帰りになった。そんなに急ぐこともないまだ暗いうちなのに,と思うと、送り出した後も気持ちが落ち着かず、寂しい気がする。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 94-95 | と、ご機嫌をおとりになるのも面白く見える。特にお返事もないので、厄介なことだと、狸寝入りをしながら、日が高くなってからお起きになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 81 | と,ご機嫌をおとりになるのも面白く見える。特にお返事もないので、厄介なことだと、狸寝入りをしながら、日が高くなってからお起きになった。<BR>⏎ |
| version23 | 96 | <A NAME="in16">[第六段 六条院の正月二日の臨時客]</A><BR> | 82 | |
| c1 | 97 | 今日は、臨時の客にかこつけて、顔を合わせないようにしていらっしゃる。上達部や、親王たちなどが、例によって、残らず参上なさった。管弦のお遊びがあって、引出物や、禄など、またとなく素晴らしい。大勢お集りの方々が、どなたも人に負けまいと振る舞っていらっしゃる中でも、少しも肩を並べられる方もお見えにならないことよ。一人一人を見れば、才学のある人が多くいらっしゃるころなのだが、御前に出ると圧倒されておしまいになる、困ったことである。ものの数にも入らぬ下人たちでさえ、この院に参上するには、気の配りようが格別なのであった。ましてや若々しい上達部などは、心中に思うところがおありになって、むやみに緊張なさっては、例年よりは格別である。<BR>⏎ | 83 | 今日は、臨時の客にかこつけて、顔を合わせないようにしていらっしゃる。上達部や,親王たちなどが、例によって,残らず参上なさった。管弦のお遊びがあって、引出物や、禄など、またとなく素晴らしい。大勢お集りの方々が、どなたも人に負けまいと振る舞っていらっしゃる中でも、少しも肩を並べられる方もお見えにならないことよ。一人一人を見れば、才学のある人が多くいらっしゃるころなのだが、御前に出ると圧倒されておしまいになる、困ったことである。ものの数にも入らぬ下人たちでさえ、この院に参上するには、気の配りようが格別なのであった。ましてや若々しい上達部などは、心中に思うところがおありになって、むやみに緊張なさっては、例年よりは格別である。<BR>⏎ |
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| version23 | 100 | <H4>第二章 光る源氏の物語 二条東院の女性たちの物語</H4> | 85 | |
| version23 | 101 | <A NAME="in21">[第一段 二条東院の末摘花を訪問]</A><BR> | 86 | |
| c2 | 102-103 | このように雑踏する馬や車の音をも、遠く離れてお聞きになる御方々は、極楽浄土の蓮の中の世界で、まだ開かないで待っている心地もこのようなものかと、心穏やかではない様子である。それ以上に、二条東の院に離れていらっしゃる御方々は、年月とともに、所在ない思いばかりが募るが、「世の嫌な思いがない山路」に思いなぞらえて、薄情な方のお心を、何と言ってお咎め申せよう。その他の不安で寂しいことは何もないので、仏道修行の方面の人は、それ以外のことに気を散らさず励み、仮名文字のさまざまの書物の学問に、ご熱心な方は、またその願いどおりになさり、生活面でもしっかりとした基盤があって、まったく希望どおりの生活である。忙しい数日を過ごしてからお越しになった。<BR>⏎ 常陸宮の御方は、ご身分があるので、気の毒にお思いになって、人目に立派に見えるように、たいそう行き届いたお扱いをなさる。若いころ、盛りに見えた御若髪も、年とともに衰えて行き、それ以上に、滝の淀みに引けをとらない白髪の御横顔などを、気の毒とお思いになると、面と向かって対座なさらない。<BR>⏎ | 87-88 | このように雑踏する馬や車の音をも、遠く離れてお聞きになる御方々は、極楽浄土の蓮の中の世界で、まだ開かないで待っている心地もこのようなものかと、心穏やかではない様子である。それ以上に,二条東の院に離れていらっしゃる御方々は、年月とともに、所在ない思いばかりが募るが、「世の嫌な思いがない山路」に思いなぞらえて、薄情な方のお心を、何と言ってお咎め申せよう. その他の不安で寂しいことは何もないので、仏道修行の方面の人は、それ以外のことに気を散らさず励み、仮名文字のさまざまの書物の学問に、ご熱心な方は、またその願いどおりになさり、生活面でもしっかりとした基盤があって、まったく希望どおりの生活である。忙しい数日を過ごしてからお越しになった。<BR>⏎ 常陸宮の御方は、ご身分があるので、気の毒にお思いになって、人目に立派に見えるように、たいそう行き届いたお扱いをなさる。若いころ,盛りに見えた御若髪も、年とともに衰えて行き、それ以上に,滝の淀みに引けをとらない白髪の御横顔などを、気の毒とお思いになると、面と向かって対座なさらない。<BR>⏎ |
| c1 | 106 | このような面でも、普通の身分の人とは違って、気の毒で悲しいお身の上の方、とお思いになると、かわいそうで、せめてわたしだけでもと、お心にかけていらっしゃるのも、めったにないことである。お声なども、たいそう寒そうに、ふるえながらお話し申し上げなさる。見かねなさって、<BR>⏎ | 91 | このような面でも、普通の身分の人とは違って、気の毒で悲しいお身の上の方,とお思いになると、かわいそうで、せめてわたしだけでもと、お心にかけていらっしゃるのも、めったにないことである。お声なども、たいそう寒そうに、ふるえながらお話し申し上げなさる。見かねなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 111 | 「皮衣はそれでよい。山伏の蓑代衣にお譲りになってよいでしょう。そうして、この大切にする必要もない白妙の衣は、七枚襲にでも、どうして重ね着なさらないのですか。必要な物がある時々には、忘れていることでもおっしゃってください。もともと愚か者で気がききません性分ですから。まして方々への忙しさに紛れて、ついうっかりしまして」<BR>⏎ | 96 | 「皮衣はそれでよい。山伏の蓑代衣にお譲りになってよいでしょう。そうして,この大切にする必要もない白妙の衣は、七枚襲にでも、どうして重ね着なさらないのですか。必要な物がある時々には、忘れていることでもおっしゃってください。もともと愚か者で気がききません性分ですから。まして方々への忙しさに紛れて、ついうっかりしまして」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 114-115 | 「昔の邸の春の梢を訪ねて来てみたら<BR>⏎ 世にも珍しい紅梅の花が咲いていたことよ」<BR>⏎ | 99 | 「昔の邸の春の梢を訪ねて来てみたら<BR> 世にも珍しい紅梅の花が咲いていたことよ」<BR>⏎ |
| d1 | 117 | <P>⏎ | ||
| version23 | 118 | <A NAME="in22">[第二段 続いて空蝉を訪問]</A><BR> | 101 | |
| c1 | 128 | と言って、心の底から泣いてしまった。昔よりもいっそうどことなく思慮深く気が引けるようなところがまさって、このような出家の身を守っているのだ、とお思いになると、見放しがたく思わずにはいらっしゃれないが、ちょっとした色めいた冗談も話しかけるべきではないので、普通の昔や今の話をなさって、「せめてこの程度の話相手であってほしいものよ」と、あちらの方を御覧になる。<BR>⏎ | 111 | と言って,心の底から泣いてしまった。昔よりもいっそうどことなく思慮深く気が引けるようなところがまさって、このような出家の身を守っているのだ、とお思いになると、見放しがたく思わずにはいらっしゃれないが、ちょっとした色めいた冗談も話しかけるべきではないので、普通の昔や今の話をなさって、「せめてこの程度の話相手であってほしいものよ」と、あちらの方を御覧になる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 131-132 | などと、やさしくおっしゃる。どの人をも、身分相応につけて愛情を持っていらっしゃった。自分こそはと気位高く構えてもよさそうなご身分の方であるが、そのように尊大にはお振る舞いにはならず、場所柄につけ、また相手の身分につけては、どなたにもやさしくいらっしゃるので、ただこのようなお心配りをよりどころとして、多くの婦人方が年月を送っているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 114 | などと,やさしくおっしゃる。どの人をも、身分相応につけて愛情を持っていらっしゃった。自分こそはと気位高く構えてもよさそうなご身分の方であるが、そのように尊大にはお振る舞いにはならず、場所柄につけ、また相手の身分につけては、どなたにもやさしくいらっしゃるので、ただこのようなお心配りをよりどころとして、多くの婦人方が年月を送っているのであった。<BR>⏎ |
| version23 | 133 | <H4>第三章 光る源氏の物語 男踏歌</H4> | 115 | |
| version23 | 134 | <A NAME="in31">[第一段 男踏歌、六条院に回り来る]</A><BR> | 116 | |
| c1 | 141 | ほのぼのと明けて行くころ、雪が少し散らついて、何となく寒く感じられるころに、「竹河」を謡って寄り添い舞う姿、思いをそそる声々が、絵に描き止められないのが残念である。<BR>⏎ | 123 | ほのぼのと明けて行くころ、雪が少し散らついて、何となく寒く感じられるころに、「竹河」を謡って 寄り添い舞う姿、思いをそそる声々が、絵に描き止められないのが残念である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 143-144 | 一方では、高巾子の憂世離れした様子、寿詞の騒々しい、滑稽なことも、大仰に取り扱って、かえって何ほどの面白いはずの曲節も聞こえなかったのだが。例によって、綿を一同頂戴して退出した。<BR>⏎ <P>⏎ | 125 | 一方では,高巾子の憂世離れした様子、寿詞の騒々しい、滑稽なことも、大仰に取り扱って、かえって何ほどの面白いはずの曲節も聞こえなかったのだが。例によって、綿を一同頂戴して退出した。<BR>⏎ |
| version23 | 145 | <A NAME="in32">[第二段 源氏、踏歌の後宴を計画す]</A><BR> | 126 | |
| c1 | 147 | 「中将の君は、弁少将に比べて少しも劣っていないようだったな。不思議と諸道に優れた者たちが出現する時代だ。昔の人は、本格的な学問では優れた人も多かったが、風雅の方面では、最近の人に勝っているわけでもないようだ。中将などは、生真面目な官僚に育てようと思っていて、自分のようなとても風流に偏った融通のなさを真似させまいと思っていたが、やはり心の中は多少の風流心も持っていなければならない。沈着で、真面目な表向きだけでは、けむたいことだろう」<BR>⏎ | 128 | 「中将の君は、弁少将に比べて少しも劣っていないようだったな。不思議と諸道に優れた者たちが出現する時代だ。昔の人は、本格的な学問では優れた人も多かったが、風雅の方面では、最近の人に勝っているわけでもないようだ。中将などは、生真面目な官僚に育てようと思っていて、自分のようなとても風流に偏った融通のなさを 真似させまいと思っていたが、やはり心の中は多少の風流心も持っていなければならない。沈着で、真面目な表向きだけでは、けむたいことだろう」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 150-152 | とおっしゃって、弦楽器などが、いくつもの美しい袋に入れて秘蔵なさっていたのを、皆取り出して埃を払って、緩んでいる絃を、調律させたりなどなさる。御婦人方は、たいそう気をつかったりして、緊張をしつくされていることであろう。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 131 | とおっしゃって、弦楽器などが、いくつもの美しい袋に入れて秘蔵なさっていたのを、皆取り出して 埃を払って、緩んでいる絃を、調律させたりなどなさる。御婦人方は、たいそう気をつかったりして、緊張をしつくされていることであろう。<BR>⏎ |
| d1 | 159 | ⏎ | ||
| i0 | 142 | |||
| diff | src/original/version24.html | src/modified/version24.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version24 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 40 | <P>⏎ | ||
| version24 | 41 | <H4>第一章 光る源氏の物語 春の町の船楽と季の御読経</H4> | 37 | |
| version24 | 42 | <A NAME="in11">[第一段 三月二十日頃の春の町の船楽]</A><BR> | 38 | |
| c1 | 43 | 三月の二十日過ぎのころ、春の御殿のお庭先の景色は、例年より殊に盛りを極めて照り映える花の色、鳥の声は、他の町の方々では、まだ盛りを過ぎないのかしらと、珍しく見えもし聞こえもする。築山の木立、中島の辺り、色を増した苔の風情など、若い女房たちがわずかしか見られないのをもどかしく思っているようなので、唐風に仕立てた舟をお造らせになっていたのを、急いで装備させなさって、初めて池に下ろさせなさる日は、雅楽寮の人をお召しになって、舟楽をなさる。親王方、上達部など、大勢参上なさっていた。<BR>⏎ | 39 | 三月の二十日過ぎのころ、春の御殿のお庭先の景色は、例年より殊に盛りを極めて照り映える花の色、鳥の声は、他の町の方々では、まだ盛りを過ぎないのかしらと、珍しく見えもし聞こえもする。築山の木立、中島の辺り、色を増した苔の風情など、若い女房たちがわずかしか見られないのをもどかしく思っているようなので、唐風に仕立てた舟をお造らせになっていたのを、急いで装備させなさって、初めて池に下ろさせなさる日は、雅楽寮の人をお召しになって、舟楽をなさる。親王方,上達部など、大勢参上なさっていた。<BR>⏎ |
| cd8:4 | 47-54 | 「風が吹くと波の花までが色を映して見えますが<BR>⏎ これが有名な山吹の崎でしょうか」<BR>⏎ 「春の御殿の池は井手の川瀬まで通じているのでしょうか<BR>⏎ 岸の山吹が水底にまで咲いて見えますこと」<BR>⏎ 「蓬莱山まで訪ねて行く必要もありません<BR>⏎ この舟の中で不老の名を残しましょう」<BR>⏎ 「春の日のうららかな中を漕いで行く舟は<BR>⏎ 棹のしずくも花となって散ります」<BR>⏎ | 43-46 | 「風が吹くと波の花までが色を映して見えますが<BR> これが有名な山吹の崎でしょうか」<BR>⏎ 「春の御殿の池は井手の川瀬まで通じているのでしょうか<BR> 岸の山吹が水底にまで咲いて見えますこと」<BR>⏎ 「蓬莱山まで訪ねて行く必要もありません<BR> この舟の中で不老の名を残しましょう」<BR>⏎ 「春の日のうららかな中を漕いで行く舟は<BR> 棹のしずくも花となって散ります」<BR>⏎ |
| d1 | 56 | <P>⏎ | ||
| version24 | 57 | <A NAME="in12">[第二段 船楽、夜もすがら催される]</A><BR> | 48 | |
| c1 | 59 | 夜になったので、たいそうまだ飽き足りない心地がして、御前の庭に篝火を燈して、御階のもとの苔の上に、楽人を召して、上達部、親王たちも、皆それぞれの弦楽器や、管楽器などをお得意の演奏をなさる。<BR>⏎ | 50 | 夜になったので、たいそうまだ飽き足りない心地がして、御前の庭に篝火を燈して、御階のもとの苔の上に、楽人を召して、上達部,親王たちも、皆それぞれの弦楽器や、管楽器などをお得意の演奏をなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 62 | <P>⏎ | ||
| version24 | 63 | <A NAME="in13">[第三段 蛍兵部卿宮、玉鬘を思う]</A><BR> | 53 | |
| c1 | 64 | 夜も明けてしまった。朝ぼらけの鳥の囀りを、中宮は築山を隔てて、悔しくお聞きあそばすのであった。いつも春の光がいっぱいに満ちている六条院であるが、思いを寄せる姫君のいないのが残念なことにお思いになる方々もいたが、西の対の姫君、何一つ欠点のないご器量を、大臣の君も、特別に大事にしていらっしゃるご様子など、すっかり世間の評判となって、ご予想どおりに心をお寄せになる人々が多いようである。<BR>⏎ | 54 | 夜も明けてしまった。朝ぼらけの鳥の囀りを、中宮は築山を隔てて、悔しくお聞きあそばすのであった。いつも春の光がいっぱいに満ちている六条院であるが、思いを寄せる姫君のいないのが 残念なことにお思いになる方々もいたが、西の対の姫君、何一つ欠点のないご器量を、大臣の君も、特別に大事にしていらっしゃるご様子など、すっかり世間の評判となって、ご予想どおりに 心をお寄せになる人々が多いようである。<BR>⏎ |
| c1 | 66 | 兵部卿宮は宮で、長年お連れ添いになった北の方もお亡くなりになって、ここ三年ばかり独身で淋しがっていらっしゃったので、気兼ねなく今は求婚なさる。<BR>⏎ | 56 | 兵部卿宮は宮で、長年お連れ添いになった北の方もお亡くなりになって、ここ三年ばかり 独身で淋しがっていらっしゃったので、気兼ねなく今は求婚なさる。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 71-75 | 「ゆかりのある方に思いを懸けていますので<BR>⏎ 淵に身を投げても名誉は惜しくもありません」<BR>⏎ と詠んで、大臣の君に、同じ藤の插頭を差し上げなさる。とてもたいそうほほ笑みなさって、<BR>⏎ 「淵に身を投げるだけの価値があるかどうか<BR>⏎ この春の花の近くを離れないでよく御覧なさい」<BR>⏎ | 61-63 | 「ゆかりのある方に思いを懸けていますので<BR> 淵に身を投げても名誉は惜しくもありません」<BR>⏎ と詠んで,大臣の君に、同じ藤の插頭を差し上げなさる。とてもたいそうほほ笑みなさって、<BR>⏎ 「淵に身を投げるだけの価値があるかどうか<BR> この春の花の近くを離れないでよく御覧なさい」<BR>⏎ |
| d1 | 77 | <P>⏎ | ||
| version24 | 78 | <A NAME="in14">[第四段 中宮、春の季の御読経主催す]</A><BR> | 65 | |
| d1 | 84 | <P>⏎ | ||
| version24 | 85 | <A NAME="in15">[第五段 紫の上と中宮和歌を贈答]</A><BR> | 71 | |
| cd2:1 | 87-88 | 「花園の胡蝶までを下草に隠れて<BR>⏎ 秋を待っている松虫はつまらないと思うのでしょうか」<BR>⏎ | 73 | 「花園の胡蝶までを下草に隠れて<BR> 秋を待っている松虫はつまらないと思うのでしょうか」<BR>⏎ |
| c2 | 90-91 | 「なるほど、春の美しさは、とてもお負かせになれないわ」<BR>⏎ と、花にうっとりして口々に申し上げていた。鴬のうららかな声に、「鳥の楽」がはなやかに響きわたって、池の水鳥もあちこちとなく囀りわたっているうちに、「急」になって終わる時、名残惜しく面白い。「蝶の楽」は、「鳥の楽」以上にひらひらと舞い上がって、山吹の籬のもとに咲きこぼれている花の蔭から舞い出る。<BR>⏎ | 75-76 | 「なるほど,春の美しさは、とてもお負かせになれないわ」<BR>⏎ と,花にうっとりして口々に申し上げていた。鴬のうららかな声に、「鳥の楽」がはなやかに響きわたって、池の水鳥もあちこちとなく囀りわたっているうちに、「急」になって終わる時、名残惜しく面白い。「蝶の楽」は、「鳥の楽」以上にひらひらと舞い上がって、山吹の籬のもとに 咲きこぼれている花の蔭から舞い出る。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 94-95 | 胡蝶にもつい誘われたいくらいでした<BR>⏎ 八重山吹の隔てがありませんでしたら」<BR>⏎ | 79 | 胡蝶にもつい誘われたいくらいでした<BR> 八重山吹の隔てがありませんでしたら」<BR>⏎ |
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| version24 | 100 | <H4>第二章 玉鬘の物語 初夏の六条院に求婚者たち多く集まる</H4> | 83 | |
| version24 | 101 | <A NAME="in21">[第一段 玉鬘に恋人多く集まる]</A><BR> | 84 | |
| c1 | 103 | 言い寄るお方も大勢いらっしゃる。けれども、大臣は、簡単にはお決めになれそうにもなく、ご自身でもちゃんと父親らしく通すことができないようなお気持ちもあるのだろうか、「実の父大臣にも知らせてしまおうかしら」などと、お考えになる時々もある。<BR>⏎ | 86 | 言い寄るお方も大勢いらっしゃる。けれども,大臣は、簡単にはお決めになれそうにもなく、ご自身でも ちゃんと父親らしく通すことができないようなお気持ちもあるのだろうか、「実の父大臣にも知らせてしまおうかしら」などと、お考えになる時々もある。<BR>⏎ |
| d1 | 106 | <P>⏎ | ||
| version24 | 107 | <A NAME="in22">[第二段 玉鬘へ求婚者たちの恋文]</A><BR> | 89 | |
| c2 | 110-111 | 「子供のころから分け隔てなく、大勢の親王たちの中で、この君とは、特に互いに親密に思ってきたのだが、ただこのような恋愛の事だけは、ひどく隠し通してきてしまったのだが、この年になって、このような風流な心を見るのが、面白くもあり感に耐えないことでもあるよ。やはり、お返事など差し上げなさい。少しでもわきまえのあるような女性で、あの親王以外に、また歌のやりとりのできる人がいるとは思えません。とても優雅なところのあるお人柄ですよ」<BR>⏎ と、若い女性は夢中になってしまいそうにお聞かせになるが、恥ずかしがってばかりいらっしゃった。<BR>⏎ | 92-93 | 「子供のころから分け隔てなく、大勢の親王たちの中で、この君とは、特に互いに親密に思ってきたのだが、ただこのような恋愛の事だけは、ひどく隠し通してきてしまったのだが、この年になって、このような風流な心を見るのが、面白くもあり感に耐えないことでもあるよ。やはり,お返事など差し上げなさい。少しでもわきまえのあるような女性で、あの親王以外に、また歌のやりとりのできる人がいるとは思えません。とても優雅なところのあるお人柄ですよ」<BR>⏎ と,若い女性は夢中になってしまいそうにお聞かせになるが、恥ずかしがってばかりいらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 113-116 | 「これは、どういう理由で、このように結んだままなのですか」<BR>⏎ と言って、お開きになった。筆跡はとても見事で、<BR>⏎ 「こんなに恋い焦がれていてもあなたはご存知ないでしょうね<BR>⏎ 湧きかえって岩間から溢れる水には色がありませんから」<BR>⏎ | 95-97 | 「これは,どういう理由で、このように結んだままなのですか」<BR>⏎ と言って,お開きになった。筆跡はとても見事で、<BR>⏎ 「こんなに恋い焦がれていてもあなたはご存知ないでしょうね<BR> 湧きかえって岩間から溢れる水には色がありませんから」<BR>⏎ |
| d1 | 120 | <P>⏎ | ||
| version24 | 121 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、玉鬘の女房に教訓す]</A><BR> | 101 | |
| c2 | 124-125 | 自分の経験から言っても、ああ何と薄情な、恨めしいと、その時は、情趣を解さない女なのか、もしくは身の程をわきまえない生意気な女だと思ったが、特に深い思いではなく、花や蝶に寄せての便りには、男を悔しがらせるように返事をしないのは、かえって熱心にさせるものです。また、それで男の方がそのまま忘れてしまうのは、女に何の罪がありましょうか。<BR>⏎ 何かの折にふと思いついたようないいかげんな恋文に、すばやく返事をするものと心得ているのも、そうしなくてもよいことで、後々に難を招く種となるものです。総じて、女が遠慮せず、気持ちのままに、ものの情趣を分かったような顔をして、興あることを知っているというのも、その結果よからぬことに終わるものですが、宮や、大将は、見境なくいいかげんなことをおっしゃるような方ではないし、また、あまり情を解さないようなのも、あなたに相応しくないことです。<BR>⏎ | 104-105 | 自分の経験から言っても、ああ何と薄情な、恨めしいと、その時は、情趣を解さない女なのか、もしくは身の程をわきまえない生意気な女だと思ったが、特に深い思いではなく、花や蝶に寄せての便りには、男を悔しがらせるように返事をしないのは、かえって熱心にさせるものです。また,それで男の方がそのまま忘れてしまうのは、女に何の罪がありましょうか。<BR>⏎ 何かの折にふと思いついたようないいかげんな恋文に、すばやく返事をするものと心得ているのも、そうしなくてもよいことで、後々に難を招く種となるものです。総じて,女が遠慮せず、気持ちのままに、ものの情趣を分かったような顔をして、興あることを知っているというのも、その結果よからぬことに終わるものですが、宮や、大将は、見境なくいいかげんなことをおっしゃるような方ではないし、また,あまり情を解さないようなのも、あなたに相応しくないことです。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 127-128 | などと申し上げなさるので、姫君は横を向いていらっしゃる、その横顔がとても美しい。撫子の細長に、この季節の花の色の御小袿、色合いが親しみやすく現代的で、物腰などもそうはいっても、田舎くさいところが残っていたころは、ただ素朴で、おっとりとしたふうにばかりお見えであったが、御方々の有様を見てお分かりになっていくにつれて、とても姿つきもよく、しとやかに、化粧なども気をつけてなさっているので、ますます足らないところもなく、はなやかでかわいらしげである。他人の妻とするのは、まことに残念に思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 107 | などと申し上げなさるので、姫君は横を向いていらっしゃる、その横顔がとても美しい。撫子の細長に、この季節の花の色の御小袿、色合いが親しみやすく現代的で、物腰などもそうはいっても、田舎くさいところが残っていたころは、ただ素朴で、おっとりとしたふうにばかりお見えであったが、御方々の有様を見てお分かりになっていくにつれて、とても姿つきもよく、しとやかに、化粧なども 気をつけてなさっているので、ますます足らないところもなく、はなやかでかわいらしげである。他人の妻とするのは、まことに残念に思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| version24 | 129 | <A NAME="in24">[第四段 右近の感想]</A><BR> | 108 | |
| c1 | 131 | 「けっして殿方のお手紙などは、お取り次ぎ申したことはございません。以前からご存知で御覧になった三、四通の手紙は、突き返して、失礼申し上げてもどうかと思って、お手紙だけは受け取ったりなど致しておりますようですが、お返事は一向に。お勧めあそばす時だけでございます。それだけでさえ、つらいことに思っていらっしゃいます」<BR>⏎ | 110 | 「けっして殿方のお手紙などは、お取り次ぎ申したことはございません。以前からご存知で御覧になった三,四通の手紙は、突き返して、失礼申し上げてもどうかと思って、お手紙だけは受け取ったりなど致しておりますようですが、お返事は一向に。お勧めあそばす時だけでございます。それだけでさえ、つらいことに思っていらっしゃいます」<BR>⏎ |
| c3 | 133-135 | 「ところで、この若々しく結んであるのは誰のだ。たいそう綿々と書いてあるようだな」<BR>⏎ と、にっこりして御覧になると、<BR>⏎ 「あれは、しつこく言って置いて帰ったものです。内の大殿の中将が、ここに仕えているみるこを、以前からご存知だった、その伝てでことずかったのでございます。また他には目を止めるような人はございませんでした」<BR>⏎ | 112-114 | 「ところで,この若々しく結んであるのは誰のだ。たいそう綿々と書いてあるようだな」<BR>⏎ と,にっこりして御覧になると、<BR>⏎ 「あれは,しつこく言って置いて帰ったものです。内の大殿の中将が、ここに仕えているみるこを、以前からご存知だった、その伝てでことずかったのでございます。また他には目を止めるような人はございませんでした」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 138-139 | などと、すぐには下にお置きにならない。<BR>⏎ <P>⏎ | 117 | などと,すぐには下にお置きにならない。<BR>⏎ |
| version24 | 140 | <A NAME="in25">[第五段 源氏、求婚者たちを批評]</A><BR> | 118 | |
| c2 | 145-146 | このような問題は、親などにも、はっきりと、自分の考えはこうこうだといって、話し出しにくいことであるが、それ程のお年でもない。今は、何事でもご自分で判断がおできになれましょう。わたしを、亡くなった方と同様に思って、母君とお思いになって下さい。お気持に添わないことは、お気の毒で」<BR>⏎ などと、たいそう真面目にお申し上げになるので、困ってしまって、お返事申し上げようというお気持ちにもなれない。あまり子供っぽいのも愛嬌がないと思われて、<BR>⏎ | 123-124 | このような問題は、親などにも、はっきりと、自分の考えはこうこうだといって、話し出しにくいことであるが、それ程のお年でもない。今は、何事でもご自分で判断がおできになれましょう。わたしを,亡くなった方と同様に思って、母君とお思いになって下さい。お気持に添わないことは、お気の毒で」<BR>⏎ などと,たいそう真面目にお申し上げになるので、困ってしまって、お返事申し上げようというお気持ちにもなれない。あまり子供っぽいのも愛嬌がないと思われて、<BR>⏎ |
| c1 | 148 | と、お答えなさる様子がとてもおおようなので、なるほどとお思いになって、<BR>⏎ | 126 | と,お答えなさる様子がとてもおおようなので、なるほどとお思いになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 150-151 | などと、こまごまとお話になる。心の底にお思いになることは、きまりが悪いので、口にはお出しにならない。意味ありげな言葉は時々おっしゃるが、気づかない様子なので、わけもなく嘆息されてお帰りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 128 | などと,こまごまとお話になる。心の底にお思いになることは、きまりが悪いので、口にはお出しにならない。意味ありげな言葉は時々おっしゃるが、気づかない様子なので、わけもなく嘆息されてお帰りになる。<BR>⏎ |
| version24 | 152 | <H4>第三章 玉鬘の物語 夏の雨と養父の恋慕の物語</H4> | 129 | |
| version24 | 153 | <A NAME="in31">[第一段 源氏、玉鬘と和歌を贈答]</A><BR> | 130 | |
| cd2:1 | 155-156 | 「邸の奥で大切に育てた娘も<BR>⏎ それぞれ結婚して出て行くわけか<BR>⏎ | 132 | 「邸の奥で大切に育てた娘も<BR> それぞれ結婚して出て行くわけか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 158-160 | と、御簾を引き上げて申し上げなさると、膝行して出て来て、<BR>⏎ 「今さらどんな場合にわたしの<BR>⏎ 実の親を探したりしましょうか<BR>⏎ | 134-135 | と,御簾を引き上げて申し上げなさると、膝行して出て来て、<BR>⏎ 「今さらどんな場合にわたしの<BR> 実の親を探したりしましょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 164-165 | と、昔物語をお読みになっても、だんだんと人の様子や、世間の有様がお分かりになって来ると、たいそう気がねして、自分から進んで実の親に知っていただくことは難しいだろう、とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 139 | と,昔物語をお読みになっても、だんだんと人の様子や、世間の有様がお分かりになって来ると、たいそう気がねして、自分から進んで実の親に知っていただくことは難しいだろう、とお思いになる。<BR>⏎ |
| version24 | 166 | <A NAME="in32">[第二段 源氏、紫の上に玉鬘を語る]</A><BR> | 140 | |
| c1 | 169 | などと、お褒めになる。ただではすみそうにないお癖をご存知でいらっしゃるので、思い当たりなさって、<BR>⏎ | 143 | などと,お褒めになる。ただではすみそうにないお癖をご存知でいらっしゃるので、思い当たりなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 172 | 「どうして、頼りにならないことがありましょうか」<BR>⏎ | 146 | 「どうして,頼りにならないことがありましょうか」<BR>⏎ |
| c2 | 174-175 | 「さあどうでしょうか、わたしでさえも、堪えきれずに、悩んだ折々があったお心が、思い出される節々がないではございませんでした」<BR>⏎ と、微笑して申し上げなさると、「まあ、察しの早いことよ」と思われなさって、<BR>⏎ | 148-149 | 「さあどうでしょうか,わたしでさえも、堪えきれずに、悩んだ折々があったお心が、思い出される節々がないではございませんでした」<BR>⏎ と,微笑して申し上げなさると、「まあ,察しの早いことよ」と思われなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 177 | と言って、厄介なので、言いさしなさって、心の中で、「上がこのように推量なさるのも、どうしたらよいものだろうか」とお悩みになり、また一方では、道に外れたよからぬ自分の心の程も、お分かりになるのであった。<BR>⏎ | 151 | と言って,厄介なので、言いさしなさって、心の中で、「上がこのように推量なさるのも、どうしたらよいものだろうか」とお悩みになり、また一方では,道に外れたよからぬ自分の心の程も、お分かりになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| version24 | 180 | <A NAME="in33">[第三段 源氏、玉鬘を訪問し恋情を訴える]</A><BR> | 153 | |
| c1 | 183 | とお口ずさみなさって、まずは、この姫君のご様子の、つややかな美しさをお思い出しになられて、いつものように、ひっそりとお越しになった。<BR>⏎ | 156 | とお口ずさみなさって、まずは,この姫君のご様子の、つややかな美しさをお思い出しになられて、いつものように、ひっそりとお越しになった。<BR>⏎ |
| cd7:5 | 186-192 | とおっしゃって、涙ぐんでいらっしゃった。箱の蓋にある果物の中に、橘の実があるのをいじりながら、<BR>⏎ 「あなたを昔懐かしい母君と比べてみますと<BR>⏎ とても別の人とは思われません<BR>⏎ いつになっても心の中から忘れられないので、慰めることなくて過ごしてきた歳月だが、こうしてお世話できるのは夢かとばかり思ってみますが、やはり堪えることができません。お嫌いにならないでくださいよ」<BR>⏎ と言って、お手を握りなさるので、女は、このようなことに経験がおありではなかったので、とても不愉快に思われたが、おっとりとした態度でいらっしゃる。<BR>⏎ 「懐かしい母君とそっくりだと思っていただくと<BR>⏎ わたしの身までが同じようにはかなくなってしまうかも知れません」<BR>⏎ | 159-163 | とおっしゃって,涙ぐんでいらっしゃった。箱の蓋にある果物の中に、橘の実があるのをいじりながら、<BR>⏎ 「あなたを昔懐かしい母君と比べてみますと<BR> とても別の人とは思われません<BR>⏎ いつになっても心の中から忘れられないので、慰めることなくて過ごしてきた歳月だが、こうしてお世話できるのは 夢かとばかり思ってみますが、やはり堪えることができません。お嫌いにならないでくださいよ」<BR>⏎ と言って,お手を握りなさるので、女は、このようなことに経験がおありではなかったので、とても不愉快に思われたが、おっとりとした態度でいらっしゃる。<BR>⏎ 「懐かしい母君とそっくりだと思っていただくと<BR> わたしの身までが同じようにはかなくなってしまうかも知れません」<BR>⏎ |
| c1 | 195 | 「どうして、そんなにお嫌いになるのですか。うまくうわべをつくろって、誰にも非難されないように配慮しているのですよ。何でもないようにお振る舞いなさい。いいかげんにはお思い申していません思いの上に、さらに新たな思いが加わりそうなので、世に類のないような心地がしますのに、この懸想文を差し上げる人々よりも、軽くお見下しになってよいものでしょうか。とてもこんなに深い愛情がある人は、世間にはいないはずなので、気がかりでなりません」<BR>⏎ | 166 | 「どうして,そんなにお嫌いになるのですか。うまくうわべをつくろって、誰にも非難されないように配慮しているのですよ。何でもないようにお振る舞いなさい。いいかげんにはお思い申していません思いの上に、さらに新たな思いが加わりそうなので、世に類のないような心地がしますのに、この懸想文を差し上げる人々よりも、軽くお見下しになってよいものでしょうか。とてもこんなに深い愛情がある人は、世間にはいないはずなので、気がかりでなりません」<BR>⏎ |
| d1 | 197 | <P>⏎ | ||
| version24 | 198 | <A NAME="in34">[第四段 源氏、自制して帰る]</A><BR> | 168 | |
| c1 | 203 | と言って、しみじみとやさしくお話し申し上げなさることが多かった。まして、このような時の気持ちは、まるで昔の時と同じ心地がして、たいそう感慨無量である。<BR>⏎ | 173 | と言って,しみじみとやさしくお話し申し上げなさることが多かった。まして,このような時の気持ちは、まるで昔の時と同じ心地がして、たいそう感慨無量である。<BR>⏎ |
| c1 | 206 | と、たいそう情愛深く申し上げなさるが、度を失ったような状態で、とてもとてもつらいとお思いになっていたので、<BR>⏎ | 176 | と,たいそう情愛深く申し上げなさるが、度を失ったような状態で、とてもとてもつらいとお思いになっていたので、<BR>⏎ |
| c1 | 210 | とおっしゃって、お帰りになった。<BR>⏎ | 180 | とおっしゃって,お帰りになった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 213-214 | などと、兵部なども、そっと申し上げるにつけても、ますます心外で、不愉快なお心の程を、すっかり疎ましくお思いなさるにつけても、わが身の上が情けなく思われるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 183 | などと,兵部なども、そっと申し上げるにつけても、ますます心外で、不愉快なお心の程を、すっかり疎ましくお思いなさるにつけても、わが身の上が情けなく思われるのであった。<BR>⏎ |
| version24 | 215 | <A NAME="in35">[第五段 苦悩する玉鬘]</A><BR> | 184 | |
| cd2:1 | 218-219 | 気を許しあって共寝をしたのでもないのに<BR>⏎ どうしてあなたは意味ありげな顔をして思い悩んでいらっしゃるのでしょう<BR>⏎ | 187 | 気を許しあって共寝をしたのでもないのに<BR> どうしてあなたは意味ありげな顔をして思い悩んでいらっしゃるのでしょう<BR>⏎ |
| c1 | 221 | と、それでも親めいたお言葉づかいも、とても憎らしいと御覧になって、お返事を差し上げないようなのも、傍目に不審がろうから、厚ぼったい陸奥紙に、ただ、<BR>⏎ | 189 | と,それでも親めいたお言葉づかいも、とても憎らしいと御覧になって、お返事を差し上げないようなのも、傍目に不審がろうから、厚ぼったい陸奥紙に、ただ,<BR>⏎ |
| c1 | 225 | こうして、真相を知っている人は少なくて、他人も身内も、まったく実の親のようにお思い申し上げているので、<BR>⏎ | 193 | こうして,真相を知っている人は少なくて、他人も身内も、まったく実の親のようにお思い申し上げているので、<BR>⏎ |
| c1 | 227 | と、いろいろと心配になりお悩みになる。<BR>⏎ | 195 | と,いろいろと心配になりお悩みになる。<BR>⏎ |
| d2 | 229-230 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 237 | ⏎ | ||
| i0 | 207 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version25 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version25 | 40 | <H4>第一章 玉鬘の物語 蛍の光によって姿を見られる</H4> | 36 | |
| version25 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 玉鬘、養父の恋に悩む]</A><BR> | 37 | |
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| version25 | 48 | <A NAME="in12">[第二段 兵部卿宮、六条院に来訪]</A><BR> | 43 | |
| c1 | 51 | と、申し上げになさるのを、殿が御覧になって、<BR>⏎ | 46 | と,申し上げになさるのを、殿が御覧になって、<BR>⏎ |
| c3 | 53-55 | とおっしゃって、教えてお書かせ申し上げなさるが、ますます不愉快なことに思われなさるので、「気分が悪い」と言って、お書きにならない。<BR>⏎ 女房たちも、特に家柄がよく声望の高い者などもほとんどいない。ただ一人、母君の叔父君であった、宰相程度の人の娘で、嗜みなどさほど悪くはなく、世に落ちぶれていたのを、探し出されたのが、宰相の君と言って、筆跡などもまあまあに書いて、だいたいがしっかりした人なので、しかるべき折々のお返事などをお書かせになっていたのを、召し出して、文言などをおっしゃって、お書かせになる。<BR>⏎ お口説きになる様子を御覧になりたいのであろう。<BR>⏎ | 48-50 | とおっしゃって,教えてお書かせ申し上げなさるが、ますます不愉快なことに思われなさるので、「気分が悪い」と言って、お書きにならない。<BR>⏎ 女房たちも、特に家柄がよく声望の高い者なども ほとんどいない。ただ一人,母君の叔父君であった、宰相程度の人の娘で、嗜みなどさほど悪くはなく、世に落ちぶれていたのを、探し出されたのが、宰相の君と言って、筆跡などもまあまあに書いて、だいたいがしっかりした人なので、しかるべき折々のお返事などをお書かせになっていたのを、召し出して、文言などをおっしゃって,お書かせになる。<BR>⏎ お口説きになる様子を 御覧になりたいのであろう。<BR>⏎ |
| c1 | 58 | 妻戸の間にお敷物を差し上げて、御几帳だけを間に隔てとした近い場所である。<BR>⏎ | 53 | 妻戸の間にお敷物を差し上げて、御几帳だけを間に隔てとした 近い場所である。<BR>⏎ |
| d1 | 60 | <P>⏎ | ||
| version25 | 61 | <A NAME="in13">[第三段 玉鬘、夕闇時に母屋の端に出る]</A><BR> | 55 | |
| cd2:1 | 66-67 | などと、ご忠告申し上げなさるが、とても困って、注意するのにかこつけて中に入っておいでになりかねないお方なので、どちらにしても身の置き所もないので、そっとにじり出て、母屋との境にある御几帳の側に横になっていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 60 | などと,ご忠告申し上げなさるが、とても困って、注意するのにかこつけて中に入っておいでになりかねないお方なので、どちらにしても身の置き所もないので、そっとにじり出て、母屋との境にある御几帳の側に 横になっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version25 | 68 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、宮に蛍を放って玉鬘の姿を見せる]</A><BR> | 61 | |
| c1 | 73 | と、企んであれこれなさるのだった。ほんとうの自分の娘ならば、このようなことをして、大騷ぎをなさるまいに、困ったお心であるよ。<BR>⏎ | 66 | と,企んであれこれなさるのだった。ほんとうの自分の娘ならば、このようなことをして、大騷ぎをなさるまいに、困ったお心であるよ。<BR>⏎ |
| d1 | 75 | <P>⏎ | ||
| version25 | 76 | <A NAME="in15">[第五段 兵部卿宮、玉鬘にますます執心す]</A><BR> | 68 | |
| cd3:2 | 78-80 | 間もなく見えないように取り隠した。けれどもほのかな光は、風流な恋のきっかけにもなりそうに見える。かすかであるが、すらりとした身を横にしていらっしゃる姿が美しかったのを、心残りにお思いになって、なるほど、この趣向はお心に深くとまったのであった。<BR>⏎ 「鳴く声も聞こえない螢の火でさえ<BR>⏎ 人が消そうとして消えるものでしょうか<BR>⏎ | 70-71 | 間もなく見えないように取り隠した。けれどもほのかな光は、風流な恋のきっかけにもなりそうに見える。かすかであるが、すらりとした身を横にしていらっしゃる姿が美しかったのを、心残りにお思いになって、なるほど,この趣向はお心に深くとまったのであった。<BR>⏎ 「鳴く声も聞こえない螢の火でさえ<BR> 人が消そうとして消えるものでしょうか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 83-85 | 「声には出さずひたすら身を焦がしている螢の方が<BR>⏎ 口に出すよりもっと深い思いでいるでしょう」<BR>⏎ などと、さりげなくお答え申して、ご自身はお入りになってしまったので、とても疎々しくおあしらいなさるつらさを、ひどくお恨み申し上げなさる。<BR>⏎ | 74-75 | 「声には出さずひたすら身を焦がしている螢の方が<BR> 口に出すよりもっと深い思いでいるでしょう」<BR>⏎ などと,さりげなくお答え申して、ご自身はお入りになってしまったので、とても疎々しくおあしらいなさるつらさを、ひどくお恨み申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 88 | <P>⏎ | ||
| version25 | 89 | <A NAME="in16">[第六段 源氏、玉鬘への恋慕の情を自制す]</A><BR> | 78 | |
| c2 | 92-93 | と、寝ても起きてもお悩みになる。一方では、「ほんとに世間にありふれたような悪い扱いにしてしまうまい」と、大臣はお思いになるのだった。が、やはり、そのような困ったご性癖があるので、中宮などにも、とてもきれいにお思い申し上げていられようか、何かにつけては、穏やかならぬ申しようで気を引いてみたりなどなさるが、高貴なご身分で、及びもつかない事面倒なので、身を入れてお口説き申すことはなさらないが、この姫君は、お人柄も、親しみやすく現代的なので、つい気持ちが抑えがたくて、時々、人が拝見したらきっと疑いを持たれるにちがいないお振る舞いなどは、あることはあるが、他人が真似のできないくらいよく思い返し思い返しては、危なっかしい仲なのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 81-82 | と,寝ても起きてもお悩みになる。<BR>⏎ 一方では,「ほんとに世間にありふれたような悪い扱いにしてしまうまい」と、大臣はお思いになるのだった。が,やはり,そのような困ったご性癖があるので、中宮などにも、とてもきれいにお思い申し上げていられようか、何かにつけては、穏やかならぬ申しようで気を引いてみたりなどなさるが、高貴なご身分で、及びもつかない事面倒なので、身を入れてお口説き申すことはなさらないが、この姫君は、お人柄も、親しみやすく現代的なので、つい気持ちが抑えがたくて、時々、人が拝見したらきっと疑いを持たれるにちがいないお振る舞いなどは、あることはあるが、他人が真似のできないくらいよく思い返し思い返しては、危なっかしい仲なのであった。<BR>⏎ |
| version25 | 94 | <H4>第二章 光る源氏の物語 夏の町の物語</H4> | 83 | |
| version25 | 95 | <A NAME="in21">[第一段 五月五日端午の節句、源氏、玉鬘を訪問]</A><BR> | 84 | |
| c1 | 98 | などと、誉めたりけなしたりしながら注意していらっしゃるご様子は、どこまでも若々しく美しくお見えになる。光沢も色彩もこぼれるほどの御衣に、お直衣が無造作に重ね着されている色合いも、どこに普通と違う美しさがあるのであろうか、この世の人が染め出したものとも見えず、普通の直衣の色模様も、今日は特に珍しく見事に見え、素晴らしく思われる薫りなども、「物思いがなければ、どんなに素晴らしく思われるにちがいないお姿だろう」と姫君はお思いになる。<BR>⏎ | 87 | などと,誉めたりけなしたりしながら注意していらっしゃるご様子は、どこまでも若々しく美しくお見えになる。光沢も色彩もこぼれるほどの御衣に、お直衣が無造作に重ね着されている色合いも、どこに普通と違う美しさがあるのであろうか、この世の人が染め出したものとも見えず、普通の直衣の色模様も、今日は特に珍しく見事に見え、素晴らしく思われる薫りなども、「物思いがなければ、どんなに素晴らしく思われるにちがいないお姿だろう」と姫君はお思いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 100-101 | 「今日までも引く人もない水の中に隠れて生えている菖蒲の根のように<BR>⏎ 相手にされないわたしはただ声を上げて泣くだけなのでしょうか」<BR>⏎ | 89 | 「今日までも引く人もない水の中に隠れて生えている菖蒲の根のように<BR> 相手にされないわたしはただ声を上げて泣くだけなのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 103-104 | 「きれいに見せていただきましてますます浅く見えました<BR>⏎ わけもなく泣かれるとおっしゃるあなたのお気持ちは<BR>⏎ | 91 | 「きれいに見せていただきましてますます浅く見えました<BR> わけもなく泣かれるとおっしゃるあなたのお気持ちは<BR>⏎ |
| c1 | 106 | とだけ、薄墨で書いてあるようである。「筆跡がもう少し立派だったら」と、宮は風流好みのお心から、少しもの足りないことと御覧になったことであろうよ。<BR>⏎ | 93 | とだけ,薄墨で書いてあるようである。「筆跡がもう少し立派だったら」と、宮は風流好みのお心から、少しもの足りないことと御覧になったことであろうよ。<BR>⏎ |
| d1 | 108 | <P>⏎ | ||
| version25 | 109 | <A NAME="in22">[第二段 六条院馬場殿の騎射]</A><BR> | 95 | |
| c2 | 119-120 | 若い殿上人などは、目をつけては流し目を送る。未の刻に、馬場殿にお出になると、なるほど親王たちがお集まりになっていた。競技も公式のそれとは趣が異なって、中将少将たちが連れ立って参加して、風変りに派手な趣向を凝らして、一日中お遊びになる。<BR>⏎ 女性には、何も分からないことであるが、舎人連中までが優美な装束を着飾って、懸命に競技をしている姿などを見るのはおもしろいことであった。<BR>⏎ | 105-106 | 若い殿上人などは、目をつけては流し目を送る。未の刻に、馬場殿にお出になると、なるほど親王たちがお集まりになっていた。競技も公式のそれとは趣が異なって、中将少将たちが連れ立って参加して、風変りに派手な趣向を凝らして,一日中お遊びになる。<BR>⏎ 女性には、何も分からないことであるが、舎人連中までが優美な装束を着飾って、懸命に競技をしている姿などを見るのは おもしろいことであった。<BR>⏎ |
| d1 | 122 | <P>⏎ | ||
| version25 | 123 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、花散里のもとに泊まる]</A><BR> | 108 | |
| c1 | 131 | と、お思いだが、口に出してはおっしゃらない。<BR>⏎ | 116 | と,お思いだが、口に出してはおっしゃらない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 133-134 | 「馬も食べない草として有名な水際の菖蒲のようなわたしを<BR>⏎ 今日は節句なので、引き立てて下さったのでしょうか」<BR>⏎ | 118 | 「馬も食べない草として有名な水際の菖蒲のようなわたしを<BR> 今日は節句なので、引き立てて下さったのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 136-137 | 「鳰鳥のようにいつも一緒にいる若駒のわたしは<BR>⏎ いつ菖蒲のあなたに別れたりしましょうか」<BR>⏎ | 120 | 「鳰鳥のようにいつも一緒にいる若駒のわたしは<BR> いつ菖蒲のあなたに別れたりしましょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 140 | と、冗談を言うが、のんびりとしていらっしゃるお人柄なので、しんみりとした口ぶりで申し上げなさる。<BR>⏎ | 123 | と,冗談を言うが、のんびりとしていらっしゃるお人柄なので、しんみりとした口ぶりで申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 142 | <P>⏎ | ||
| version25 | 143 | <H4>第三章 光る源氏の物語 光る源氏の物語論</H4> | 125 | |
| version25 | 144 | <A NAME="in31">[第一段 玉鬘ら六条院の女性たち、物語に熱中]</A><BR> | 126 | |
| c4 | 149-152 | 「ああ、困ったものだ。女性というものは、面倒がりもせず、人にだまされようとして生まれついたものですね。たくさんの中にも真実は少ないだろうに、そうとは知りながら、このようなつまらない話にうつつをぬかし、だまされなさって、蒸し暑い五月雨の、髪の乱れるのも気にしないで、お写しになることよ」<BR>⏎ と言って、お笑いになる一方で、また、<BR>⏎ 「このような古物語でなくては、なるほど、どうして気の紛らしようのない退屈さを慰めることができようか。それにしても、この虚構の物語の中に、なるほどそうもあろうかと人情を見せ、もっともらしく書き綴ったのは、それはそれで、たわいもないこととは知りながらも、無性に興をそそられて、かわいらしい姫君が物思いに沈んでいるのを見ると、何程か心引かれるものです。<BR>⏎ また、けっしてありそうにないことだと思いながらも、大げさに誇張して書いてあるところに目を見張る思いがして、落ち着いて再び聞く時には、憎らしく思うが、とっさには面白いところなどがきっとあるのでしょう。<BR>⏎ | 131-134 | 「ああ,困ったものだ。女性というものは、面倒がりもせず、人にだまされようとして生まれついたものですね。たくさんの中にも真実は少ないだろうに、そうとは知りながら、このようなつまらない話にうつつをぬかし、だまされなさって、蒸し暑い五月雨の、髪の乱れるのも気にしないで、お写しになることよ」<BR>⏎ と言って,お笑いになる一方で、また,<BR>⏎ 「このような古物語でなくては、なるほど,どうして気の紛らしようのない退屈さを慰めることができようか。それにしても,この虚構の物語の中に、なるほどそうもあろうかと人情を見せ、もっともらしく書き綴ったのは、それはそれで,たわいもないこととは知りながらも、無性に興をそそられて、かわいらしい姫君が物思いに沈んでいるのを見ると、何程か心引かれるものです。<BR>⏎ また,けっしてありそうにないことだと思いながらも、大げさに誇張して書いてあるところに目を見張る思いがして、落ち着いて再び聞く時には、憎らしく思うが、とっさには面白いところなどがきっとあるのでしょう。<BR>⏎ |
| c2 | 155-156 | 「おっしゃるとおり、嘘をつくことに馴れた人は、いろいろとそのようにご想像なさるでしょう。ただどうしても真実のことと思われるのです」<BR>⏎ と言って、硯を押しやりなさるので、<BR>⏎ | 137-138 | 「おっしゃるとおり,嘘をつくことに馴れた人は、いろいろとそのようにご想像なさるでしょう。ただどうしても真実のことと思われるのです」<BR>⏎ と言って,硯を押しやりなさるので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 158-159 | と言って、お笑いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 140 | と言って,お笑いになる。<BR>⏎ |
| version25 | 160 | <A NAME="in32">[第二段 源氏、玉鬘に物語について論じる]</A><BR> | 141 | |
| c1 | 161 | 「誰それの話といって、事実どおりに物語ることはありません。善いことも悪いことも、この世に生きている人のことで、見飽きず、聞き流せないことを、後世に語り伝えたい事柄を、心の中に籠めておくことができず、語り伝え初めたものです。善いように言おうとするあまりには、善いことばかりを選び出して、読者におもねろうとしては、また悪いことでありそうにもないことを書き連ねているのは、皆それぞれのことで、この世の他のことではないのですよ。<BR>⏎ | 142 | 「誰それの話といって、事実どおりに物語ることはありません. 善いことも悪いことも、この世に生きている人のことで、見飽きず、聞き流せないことを、後世に語り伝えたい事柄を、心の中に籠めておくことができず、語り伝え初めたものです。善いように言おうとするあまりには、善いことばかりを選び出して、読者におもねろうとしては、また悪いことでありそうにもないことを書き連ねているのは、皆それぞれのことで、この世の他のことではないのですよ。<BR>⏎ |
| c1 | 163 | 仏教で、まことに立派なお心で説きおかれた御法文も、方便ということがあって、分からない者は、あちこちで矛盾するという疑問を持つに違いありません。『方等経』の中に多いが、詮じつめていくと、同一の主旨に落ち着いて、菩提と煩悩との相違とは、物語の、善人と悪人との相違程度に過ぎません。<BR>⏎ | 144 | 仏教で、まことに立派なお心で説きおかれた御法文も、方便ということがあって、分からない者は、あちこちで矛盾するという疑問を持つに違いありません。『方等経』の中に多いが、詮じつめていくと、同一の主旨に落ち着いて、菩提と煩悩との相違とは、物語の,善人と悪人との相違程度に過ぎません。<BR>⏎ |
| c3 | 165-167 | と、物語を実にことさらに大したもののようにおっしゃった。<BR>⏎ 「ところで、このような昔物語の中に、わたしのような律儀な愚か者の物語はありませんか。ひどく親しみにくい物語の姫君も、あなたのお心のように冷淡で、そらとぼけている人はまたとありますまいな。さあ、二人の仲を世にも珍しい物語にして、世間に語り伝えさせましょう」<BR>⏎ と、近づいて申し上げなさるので、顔を引き入れて、<BR>⏎ | 146-148 | と,物語を実にことさらに大したもののようにおっしゃった。<BR>⏎ 「ところで,このような昔物語の中に、わたしのような律儀な愚か者の物語はありませんか。ひどく親しみにくい物語の姫君も、あなたのお心のように冷淡で、そらとぼけている人はまたとありますまいな。さあ,二人の仲を世にも珍しい物語にして、世間に語り伝えさせましょう」<BR>⏎ と,近づいて申し上げなさるので、顔を引き入れて、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 170-173 | 「珍しくお思いですか。なるほど、またとない気持ちがします」<BR>⏎ と言って、寄り添っていらっしゃる態度は、たいそうふざけている。<BR>⏎ 「思いあまって昔の本を捜してみましたが<BR>⏎ 親に背いた子供の例はありませんでしたよ<BR>⏎ | 151-153 | 「珍しくお思いですか。なるほど,またとない気持ちがします」<BR>⏎ と言って,寄り添っていらっしゃる態度は、たいそうふざけている。<BR>⏎ 「思いあまって昔の本を捜してみましたが<BR> 親に背いた子供の例はありませんでしたよ<BR>⏎ |
| cd2:1 | 176-177 | 「昔の本を捜して読んでみましたが、おっしゃるとおり<BR>⏎ ありませんでした。この世にこのような親心の人は」<BR>⏎ | 156 | 「昔の本を捜して読んでみましたが、おっしゃるとおりありませんでした。<BR> この世にこのような親心の人は」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 179-180 | こうして、どうなって行くお二方の仲なのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 158 | こうして,どうなって行くお二方の仲なのであろう。<BR>⏎ |
| version25 | 181 | <A NAME="in33">[第三段 源氏、紫の上に物語について述べる]</A><BR> | 159 | |
| c1 | 186 | と申し上げなさる。なるほど、世間に例の多くない恋愛を、数々なさってこられたことよ。<BR>⏎ | 164 | と申し上げなさる。なるほど,世間に例の多くない恋愛を、数々なさってこられたことよ。<BR>⏎ |
| c1 | 191 | と、おっしゃると、<BR>⏎ | 169 | と,おっしゃると、<BR>⏎ |
| c3 | 193-195 | なるほど、そうは言っても、身分にふさわしい感じがすると思えるのは、育てがいもあり、名誉なことです。口をきわめて気恥ずかしいほど誉めていたのに、しでかしたことや、口に出した言葉の中に、なるほどと見えたり聞こえたりすることがないのは、まことに見劣りがするものです。<BR>⏎ だいたい、つまらない人には、どうか娘を誉めさせたくないものです」<BR>⏎ などと、ひたすら「この姫君が非難されないように」と、あれやこれやといろいろ考えておっしゃる。<BR>⏎ | 171-173 | なるほど,そうは言っても、身分にふさわしい感じがすると思えるのは、育てがいもあり、名誉なことです。口をきわめて気恥ずかしいほど誉めていたのに、しでかしたことや、口に出した言葉の中に、なるほどと見えたり聞こえたりすることがないのは、まことに見劣りがするものです。<BR>⏎ だいたい,つまらない人には、どうか娘を誉めさせたくないものです」<BR>⏎ などと,ひたすら「この姫君が 非難されないように」と、あれやこれやといろいろ考えておっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 197 | <P>⏎ | ||
| version25 | 198 | <A NAME="in34">[第四段 源氏、子息夕霧を思う]</A><BR> | 175 | |
| c1 | 199 | 中将の君を、こちらにはお近づけ申さないようにしていらっしゃったが、姫君の御方には、そんなにも遠ざけ申しなさらず、親しくさせていらっしゃる。<BR>⏎ | 176 | 中将の君を、こちらにはお近づけ申さないようにしていらっしゃったが、姫君の御方には、そんなにも遠ざけ申しなさらず,親しくさせていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 208 | <P>⏎ | ||
| version25 | 209 | <A NAME="in35">[第五段 内大臣、娘たちを思う]</A><BR> | 185 | |
| c3 | 213-215 | と、しみじみとずっと思い続けていらっしゃる。ご子息たちにも、<BR>⏎ 「もし、そのように名乗り出る人があったら、聞き逃すな。気紛れから、感心できない女性関係も多かった中で、あの人は、とても並々の愛人程度とは思われなかった人で、ちょっとした愛想づかしをして、このように少なかった娘一人を、行方不明にしてしまったことの残念なことよ」<BR>⏎ と、いつもお口に出される。ひところなどは、そんなにでもなく、ついお忘れになっていたが、他人が、さまざまに娘を大切になさっている例が多いので、ご自分のお思いどおりにならないのが、とても情けなく、残念にお思いになるのであった。<BR>⏎ | 189-191 | と,しみじみとずっと思い続けていらっしゃる。ご子息たちにも、<BR>⏎ 「もし,そのように名乗り出る人があったら、聞き逃すな。気紛れから、感心できない女性関係も多かった中で、あの人は,とても並々の愛人程度とは思われなかった人で、ちょっとした愛想づかしをして、このように少なかった娘一人を、行方不明にしてしまったことの残念なことよ」<BR>⏎ と,いつもお口に出される。ひところなどは、そんなにでもなく、ついお忘れになっていたが、他人が、さまざまに娘を大切になさっている例が多いので、ご自分のお思いどおりにならないのが、とても情けなく、残念にお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 217 | 「もしや、長年あなた様に知られずにいらっしゃるお子様を、他人の子として、お耳にあそばすことはございませんか」<BR>⏎ | 193 | 「もしや,長年あなた様に知られずにいらっしゃるお子様を、他人の子として、お耳にあそばすことはございませんか」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 220-222 | などと、このころになって、お考えになったりおっしゃっているようである。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 196 | などと,このころになって、お考えになったりおっしゃっているようである。<BR>⏎ |
| d1 | 228 | ⏎ | ||
| i0 | 206 | |||
| diff | src/original/version26.html | src/modified/version26.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version26 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 36 | <P>⏎ | ||
| version26 | 37 | <H4>第一章 玉鬘の物語 養父と養女の禁忌の恋物語</H4> | 33 | |
| version26 | 38 | <A NAME="in11">[第一段 六条院釣殿の納涼]</A><BR> | 34 | |
| c1 | 41 | とおっしゃって、御酒を召し上がり、氷水をお取り寄せになって、水飯などを、それぞれにぎやかに召し上がる。<BR>⏎ | 37 | とおっしゃって,御酒を召し上がり、氷水をお取り寄せになって、水飯などを、それぞれにぎやかに召し上がる。<BR>⏎ |
| c1 | 44 | とおっしゃって、物に寄りかかって横におなりになった。<BR>⏎ | 40 | とおっしゃって,物に寄りかかって横におなりになった。<BR>⏎ |
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| version26 | 48 | <A NAME="in12">[第二段 近江君の噂]</A><BR> | 43 | |
| c2 | 50-51 | と、弁少将にお尋ねになると、<BR>⏎ 「仰々しく、そんなに言うほどのことではございませんでしたが。今年の春のころ、夢をお話をなさったところ、ちらっと人伝てに聞いた女が、『自分には聞いてもらうべき子細がある』と、名乗り出ましたのを、中将の朝臣が耳にして、『本当にそのように言ってよい証拠があるのか』と、尋ねてやりました。詳しい事情は、知ることができません。おっしゃるように、最近珍しい噂話に、世間の人々もしているようでございます。このようなことは、父にとって、自然と家の不面目となることでございます」<BR>⏎ | 45-46 | と,弁少将にお尋ねになると、<BR>⏎ 「仰々しく、そんなに言うほどのことではございませんでしたが。今年の春のころ、夢をお話をなさったところ、ちらっと人伝てに聞いた女が、『自分には聞いてもらうべき子細がある』と、名乗り出ましたのを、中将の朝臣が耳にして、『本当にそのように言ってよい証拠があるのか』と、尋ねてやりました。詳しい事情は、知ることができません。おっしゃるように,最近珍しい噂話に、世間の人々もしているようでございます。このようなことは、父にとって、自然と家の不面目となることでございます」<BR>⏎ |
| c3 | 54-56 | と、ほほ笑んでおっしゃる。中将君も、詳しくお聞きになっていることなので、とても真面目な顔はできない。少将と藤侍従とは、とてもつらいと思っていた。<BR>⏎ 「朝臣よ。せめてそのような落し胤でももらったらどうだね。体裁の悪い評判を残すよりは、同じ姉妹と結婚して我慢するが、何の悪いことがあろうか」<BR>⏎ と、おからかいになるようである。このようなこととなると、表面はたいそう仲の良いお二方が、やはり昔からそれでもしっくりしないところがあるのであった。その上、中将をひどく恥ずかしい目にあわせて、嘆かせていらっしゃるつらさを腹に据えかねて、「悔しいとでも、人伝てに聞きなさったらよい」と、お思いになるのだった。<BR>⏎ | 49-51 | と,ほほ笑んでおっしゃる。中将君も、詳しくお聞きになっていることなので、とても真面目な顔はできない。少将と藤侍従とは、とてもつらいと思っていた。<BR>⏎ 「朝臣よ. せめてそのような落し胤でももらったらどうだね。体裁の悪い評判を残すよりは、同じ姉妹と結婚して我慢するが、何の悪いことがあろうか」<BR>⏎ と,おからかいになるようである。このようなこととなると、表面はたいそう仲の良いお二方が、やはり昔からそれでもしっくりしないところがあるのであった。その上,中将をひどく恥ずかしい目にあわせて、嘆かせていらっしゃるつらさを腹に据えかねて、「悔しいとでも、人伝てに聞きなさったらよい」と、お思いになるのだった。<BR>⏎ |
| d1 | 59 | <P>⏎ | ||
| version26 | 60 | <A NAME="in13">[第三段 源氏、玉鬘を訪う]</A><BR> | 54 | |
| c1 | 63 | と言って、西の対にお渡りになるので、公達、皆お送りにお供なさる。<BR>⏎ | 57 | と言って,西の対にお渡りになるので、公達、皆お送りにお供なさる。<BR>⏎ |
| c3 | 66-68 | と言って、こっそりと、<BR>⏎ 「少将や、侍従などを連れて参りました。ひどく飛んで来たいほどに思っていたのを、中将が、まこと真面目一方の人なので、連れて来なかったのは、思いやりがないようでした。<BR>⏎ この人々は、皆気がないでもない。つまらない身分の女でさえ、深窓に養われている間は、身分相応に気を引かれるものらしいから、わが家の評判は内幕のくだくだしい割には、たいそう実際以上に、大げさに言ったり思ったりしているようです。他にも女性方々がいらっしゃるのですが、やはり男性が恋をしかけるには相応しくない。<BR>⏎ | 60-62 | と言って,こっそりと、<BR>⏎ 「少将や、侍従などを連れて参りました。ひどく飛んで来たいほどに思っていたのを、中将が、まこと真面目一方の人なので,連れて来なかったのは、思いやりがないようでした。<BR>⏎ この人々は、皆気がないでもない。つまらない身分の女でさえ、深窓に養われている間は、身分相応に 気を引かれるものらしいから、わが家の評判は 内幕のくだくだしい割には、たいそう実際以上に、大げさに言ったり思ったりしているようです。他にも女性方々がいらっしゃるのですが、やはり男性が恋をしかけるには相応しくない。<BR>⏎ |
| c2 | 70-71 | などと、ひそひそと申し上げなさる。<BR>⏎ お庭先には、雑多な前栽などは植えさせなさらず、撫子の花を美しく整えた、唐撫子、大和撫子の、垣をたいそうやさしい感じに造って、その咲き乱れている夕映え、たいそう美しく見える。皆、立ち寄って、思いのままに手折ることができないのを、残念に思って佇んでいる。<BR>⏎ | 64-65 | などと,ひそひそと申し上げなさる。<BR>⏎ お庭先には、雑多な前栽などは植えさせなさらず、撫子の花を美しく整えた、唐撫子、大和撫子の、垣をたいそうやさしい感じに造って、その咲き乱れている夕映え、たいそう美しく見える。皆,立ち寄って、思いのままに手折ることができないのを、残念に思って佇んでいる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 79-81 | 「いや、そんな大事に持てなされることは望んでいません。ただ、幼い者同士が契り合った胸の思いが晴れないまま、長い年月、仲を裂いていらっしゃった大臣のやりかたがひどいのです。まだ身分が低い、外聞が悪いとお思いならば、知らない顔で、こちらに任せて下されたとしても、何の心配がありましょうか」<BR>⏎ などと、不平をおっしゃる。「では、このようなお心のしっくりいってないお間柄だったのだわ」とお聞きになるにつけても、親に知っていただけるのがいつか分からないのは、しみじみと悲しく胸の塞がる思いがなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 73-74 | 「いや,そんな大事に持てなされることは望んでいません。ただ,幼い者同士が契り合った胸の思いが晴れないまま、長い年月、仲を裂いていらっしゃった大臣のやりかたがひどいのです。まだ身分が低い、外聞が悪いとお思いならば、知らない顔で、こちらに任せて下されたとしても、何の心配がありましょうか」<BR>⏎ などと,不平をおっしゃる。「では,このようなお心のしっくりいってないお間柄だったのだわ」とお聞きになるにつけても、親に知っていただけるのがいつか分からないのは、しみじみと悲しく胸の塞がる思いがなさる。<BR>⏎ |
| version26 | 82 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、玉鬘と和琴について語る]</A><BR> | 75 | |
| c2 | 84-85 | 「やはり、近すぎて暑苦しいな。篝火がよいなあ」<BR>⏎ とおっしゃって、人を呼んで、<BR>⏎ | 77-78 | 「やはり,近すぎて暑苦しいな。篝火がよいなあ」<BR>⏎ とおっしゃって,人を呼んで、<BR>⏎ |
| c1 | 88 | 「このようなことはお好きでない方面かと、今まで大したことはないとお思い申していました。秋の夜の、月の光が涼しいころ、奥深い所ではなくて、虫の声に合わせて弾いたりするのには、親しみのあるはなやかな感じのする楽器です。改まった演奏は、役割がしっかりと決まりませんね。<BR>⏎ | 81 | 「このようなことはお好きでない方面かと、今まで大したことはないとお思い申していました。秋の夜の,月の光が涼しいころ、奥深い所ではなくて、虫の声に合わせて弾いたりするのには、親しみのあるはなやかな感じのする楽器です。改まった演奏は、役割がしっかりと決まりませんね。<BR>⏎ |
| c2 | 93-94 | 「こちらで、適当な管弦のお遊びがあります折などに、聞くことができましょうか。賤しい田舎者の中でも、習う者が大勢おりますと言うことですから、総じて気楽に弾けるものかと存じておりました。では、お上手な方は、まるで違っているのでしょうか」<BR>⏎ と、さも聞きたそうに、熱心に気を入れていらっしゃるので、<BR>⏎ | 86-87 | 「こちらで、適当な管弦のお遊びがあります折などに、聞くことができましょうか。賤しい田舎者の中でも、習う者が大勢おりますと言うことですから、総じて気楽に弾けるものかと存じておりました。では,お上手な方は、まるで違っているのでしょうか」<BR>⏎ と,さも聞きたそうに、熱心に気を入れていらっしゃるので、<BR>⏎ |
| c1 | 98 | とおっしゃって、楽曲を少しお弾きになる。和琴を弾く姿はとても素晴らしく、はなやかで趣がある。「これよりも優れた音色が出るのだろうか」と、親にお会いしたい気持ちが加わって、和琴のことにつけてまでも、「いつになったら、こんなふうにくつろいでお弾きになるところを聞くことができるのだろうか」などと、思っていらっしゃった。<BR>⏎ | 91 | とおっしゃって,楽曲を少しお弾きになる。和琴を弾く姿はとても素晴らしく、はなやかで趣がある。「これよりも優れた音色が出るのだろうか」と、親にお会いしたい気持ちが加わって、和琴のことにつけてまでも、「いつになったら、こんなふうにくつろいでお弾きになるところを聞くことができるのだろうか」などと、思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c2 | 100-101 | 「さあ、お弾きなさい。芸事は人前を恥ずかしがっていてはいけません。「想夫恋」だけは、心中に秘めて、弾かない人があったようだが、遠慮なく、誰彼となく合奏したほうがよいのです」<BR>⏎ と、しきりにお勧めになるが、あの辺鄙な田舎で、何やら京人と名乗った皇孫筋の老女がお教え申したので、誤りもあろうかと遠慮して、手をお触れにならない。<BR>⏎ | 93-94 | 「さあ,お弾きなさい。芸事は人前を恥ずかしがっていてはいけません。「想夫恋」だけは、心中に秘めて、弾かない人があったようだが、遠慮なく、誰彼となく合奏したほうがよいのです」<BR>⏎ と,しきりにお勧めになるが、あの辺鄙な田舎で、何やら京人と名乗った 皇孫筋の老女がお教え申したので、誤りもあろうかと遠慮して、手をお触れにならない。<BR>⏎ |
| c1 | 104 | と言って、耳を傾けていらっしゃる様子、燈の光に映えてたいそうかわいらしげである。お笑いになって、<BR>⏎ | 97 | と言って,耳を傾けていらっしゃる様子、燈の光に映えてたいそうかわいらしげである。お笑いになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 106-107 | と言って、和琴を押しやりなさる。何とも迷惑なことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 99 | と言って,和琴を押しやりなさる。何とも迷惑なことである。<BR>⏎ |
| version26 | 108 | <A NAME="in15">[第五段 源氏、玉鬘と和歌を唱和]</A><BR> | 100 | |
| cd4:3 | 110-113 | 「撫子を十分に鑑賞もせずに、あの人たちは立ち去ってしまったな。何とかして、内大臣にも、この花園をお見せ申したいものだ。人の命はいつまでも続くものでないと思うと、昔も、何かの時にお話しになったことが、まるで昨日今日のことのように思われます」<BR>⏎ とおっしゃって、少しお口になさったのにつけても、たいそう感慨無量である。<BR>⏎ 「撫子の花の色のようにいつ見ても美しいあなたを見ると<BR>⏎ 母親の行く方を内大臣は尋ねられることだろうな<BR>⏎ | 102-104 | 「撫子を十分に鑑賞もせずに、あの人たちは立ち去ってしまったな。何とかして,内大臣にも、この花園をお見せ申したいものだ。人の命はいつまでも続くものでないと思うと、昔も、何かの時にお話しになったことが、まるで昨日今日のことのように思われます」<BR>⏎ とおっしゃって,少しお口になさったのにつけても、たいそう感慨無量である。<BR>⏎ 「撫子の花の色のようにいつ見ても美しいあなたを見ると<BR> 母親の行く方を内大臣は尋ねられることだろうな<BR>⏎ |
| cd2:1 | 116-117 | 「山家の賤しい垣根に生えた撫子のような<BR>⏎ わたしの母親など誰が尋ねたりしましょうか」<BR>⏎ | 107 | 「山家の賤しい垣根に生えた撫子のような<BR> わたしの母親など誰が尋ねたりしましょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 121 | <P>⏎ | ||
| version26 | 122 | <A NAME="in16">[第六段 源氏、玉鬘への恋慕に苦悩]</A><BR> | 111 | |
| c6 | 123-128 | お渡りになることも、あまり度重なって、女房が不審にお思い申しそうな時は、気が咎め自制なさって、しかるべきご用を作り出して、お手紙の通わない時はない。ただこのお事だけがいつもお心に掛かっていた。<BR>⏎ 「どうして、このような不相応な恋をして、心の休まらない物思いをするのだろう。そんな苦しい物思いはするまいとして、心の赴くままにしたら、世間の人の非難を受ける軽々しさを、自分への悪評はそれはそれとして、この姫君のためにもお気の毒なことだろう。際限もなく愛しているからと言っても、春の上のご寵愛に並ぶほどには、わが心ながらありえまい」と思っていらっしゃった。「さて、そうしたわけで、それ以下の待遇では、どれほどのことがあろうか。自分だけは、誰よりも立派だが、世話する女君が大勢いる中で、あくせくするような末席にいたのでは、何の大したことがあろう。格別大したこともない大納言くらいの身分で、ただ姫君一人を妻とするのには、きっと及ばないことだろう」<BR>⏎ と、ご自身お分りなので、たいそうお気の毒で、「いっそ、兵部卿宮か、大将などに許してしまおうか。そうして自分も離れ、姫君も連れて行かれたら、諦めもつくだろうか。言っても始まらないことだが、そうもしてみようか」とお思いになる時もある。<BR>⏎ しかし、お渡りになって、ご器量を御覧になり、今ではお琴をお教え申し上げなさることまで口実にして、近くに常に寄り添っていらっしゃる。<BR>⏎ 姫君も、初めのうちこそ気味悪く嫌だとお思いであったが、「このようになさっても、穏やかなので、心配なお気持ちはないのだ」と、だんだん馴れてきて、そうひどくお嫌い申されず、何かの折のお返事も、親し過ぎない程度に取り交わし申し上げなどして、御覧になるにしたがってとても可愛らしさが増し、はなやかな美しさがお加わりになるので、やはり結婚させてすませられないとお思い返しなさる。<BR>⏎ 「それならばまた、結婚させて、ここに置いたまま大切にお世話して、適当な折々に、こっそりと会い、お話申して心を慰めることにしようか。このようにまだ結婚していないうちに、口説くことは面倒で、お気の毒であるが、自然と夫が手強くとも、男女の情が分るようになり、こちらがかわいそうだと思う気持ちがなくて、熱心に口説いたならば、いくら人目が多くても差し障りはあるまい」とお考えになる、実にけしからぬ考えである。<BR>⏎ | 112-117 | お渡りになることも、あまり度重なって、女房が不審にお思い申しそうな時は、気が咎め自制なさって、しかるべきご用を作り出して、お手紙の通わない時はない。ただこのお事だけが いつもお心に掛かっていた。<BR>⏎ 「どうして,このような不相応な恋をして、心の休まらない物思いをするのだろう。そんな苦しい物思いはするまいとして、心の赴くままにしたら、世間の人の非難を受ける軽々しさを、自分への悪評はそれはそれとして、この姫君のためにもお気の毒なことだろう。際限もなく愛しているからと言っても、春の上のご寵愛に並ぶほどには、わが心ながらありえまい」と思っていらっしゃった。「さて,そうしたわけで,それ以下の待遇では、どれほどのことがあろうか。自分だけは、誰よりも立派だが、世話する女君が大勢いる中で、あくせくするような末席にいたのでは、何の大したことがあろう。格別大したこともない大納言くらいの身分で、ただ姫君一人を妻とするのには、きっと及ばないことだろう」<BR>⏎ と,ご自身お分りなので、たいそうお気の毒で、「いっそ,兵部卿宮か、大将などに許してしまおうか。そうして自分も離れ、姫君も連れて行かれたら、諦めもつくだろうか。言っても始まらないことだが、そうもしてみようか」とお思いになる時もある。<BR>⏎ しかし,お渡りになって、ご器量を御覧になり、今ではお琴をお教え申し上げなさることまで口実にして、近くに常に寄り添っていらっしゃる。<BR>⏎ 姫君も、初めのうちこそ気味悪く 嫌だとお思いであったが、「このようになさっても、穏やかなので、心配なお気持ちはないのだ」と、だんだん馴れてきて、そうひどくお嫌い申されず、何かの折のお返事も、親し過ぎない程度に取り交わし申し上げなどして、御覧になるにしたがってとても可愛らしさが増し、はなやかな美しさがお加わりになるので、やはり結婚させてすませられないとお思い返しなさる。<BR>⏎ 「それならばまた,結婚させて、ここに置いたまま大切にお世話して、適当な折々に、こっそりと会い、お話申して心を慰めることにしようか。このようにまだ結婚していないうちに、口説くことは面倒で、お気の毒であるが、自然と夫が手強くとも、男女の情が分るようになり、こちらがかわいそうだと思う気持ちがなくて、熱心に口説いたならば、いくら人目が多くても差し障りはあるまい」とお考えになる、実にけしからぬ考えである。<BR>⏎ |
| d1 | 130 | <P>⏎ | ||
| version26 | 131 | <A NAME="in17">[第七段 玉鬘の噂]</A><BR> | 119 | |
| c1 | 133 | 「いかにも。あちらでこそ、長年、噂にも立たなかった賤しい娘を迎え取って、大切にしているのだ。めったに人の悪口をおっしゃらない大臣が、わたしの家のことは、聞き耳を立てて悪口をおっしゃるよ。それで、面目を施して晴れがましい気がする」<BR>⏎ | 121 | 「いかにも。あちらでこそ、長年、噂にも立たなかった賤しい娘を迎え取って、大切にしているのだ。めったに人の悪口をおっしゃらない大臣が、わたしの家のことは、聞き耳を立てて悪口をおっしゃるよ。それで,面目を施して晴れがましい気がする」<BR>⏎ |
| c2 | 136-137 | と、お申し上げになると、<BR>⏎ 「さあ、それは、あの大臣の御姫君と思う程度の評判の高さだ。人の心は、皆そういうもののようだ。必ずしもそんなに優れてはいないだろう。人並みの身分であったら、今までに評判になっていよう。<BR>⏎ | 124-125 | と,お申し上げになると、<BR>⏎ 「さあ,それは、あの大臣の御姫君と思う程度の評判の高さだ。人の心は、皆そういうもののようだ。必ずしもそんなに優れてはいないだろう。人並みの身分であったら、今までに評判になっていよう。<BR>⏎ |
| c1 | 139 | だいたい子供の数が少なくて、きっと心細いことだろうよ。妾腹であるが、明石の御許が生んだ娘は、あの通りまたとない運命に恵まれて、将来にきっと頼もしかろうと思われる。<BR>⏎ | 127 | だいたい 子供の数が少なくて、きっと心細いことだろうよ。妾腹であるが、明石の御許が生んだ娘は、あの通りまたとない運命に恵まれて、将来にきっと頼もしかろうと思われる。<BR>⏎ |
| c3 | 141-143 | と、悪口をおっしゃる。<BR>⏎ 「ところで、どのようにお決めになったのか。親王がうまく靡かせて自分のものになさるだろう。もともと格別にお仲がよいし、人物もご立派で婿君に相応しい間柄であろうよ」<BR>⏎ などとおっしゃっては、やはり、姫君のことが、残念でたまらない。「あのように、勿体らしく扱って、どういうふうになさる気かなどと、やきもきさせてやりたかったものを」と癪なので、位が相当になったと見えない限りは、結婚を許せないようにお思いになるのであった。<BR>⏎ | 129-131 | と,悪口をおっしゃる。<BR>⏎ 「ところで,どのようにお決めになったのか。親王がうまく靡かせて自分のものになさるだろう。もともと格別にお仲がよいし、人物もご立派で婿君に相応しい間柄であろうよ」<BR>⏎ などとおっしゃっては、やはり,姫君のことが、残念でたまらない。「あのように、勿体らしく扱って、どういうふうになさる気かなどと、やきもきさせてやりたかったものを」と癪なので、位が相当になったと見えない限りは、結婚を許せないようにお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 145 | <P>⏎ | ||
| version26 | 146 | <A NAME="in18">[第八段 内大臣、雲井雁を訪う]</A><BR> | 133 | |
| c1 | 150 | 「うたた寝はいけないと注意申していたのに。どうして、ひどく無用心な恰好で寝ていらっしゃったのか。女房たちも近く伺候させないで、どうしたことか。<BR>⏎ | 137 | 「うたた寝はいけないと注意申していたのに。どうして,ひどく無用心な恰好で寝ていらっしゃったのか。女房たちも近く伺候させないで、どうしたことか。<BR>⏎ |
| c1 | 154 | なるほど、もっともなことですが、人というものは、考えにも行動にも、特に好き好む方面はどうしてもあるものだから、ご成長なさった後に特徴も現れるでしょう。あの姫君が一人前になって、入内させなさる時の様子が、とても見たいものだ」<BR>⏎ | 141 | なるほど,もっともなことですが、人というものは、考えにも行動にも、特に好き好む方面はどうしてもあるものだから、ご成長なさった後に特徴も現れるでしょう。あの姫君が一人前になって、入内させなさる時の様子が、とても見たいものだ」<BR>⏎ |
| c1 | 158 | などと、たいそうかわいく思いながら申し上げなさる。<BR>⏎ | 145 | などと,たいそうかわいく思いながら申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 161 | <P>⏎ | ||
| version26 | 162 | <H4>第二章 近江君の物語 娘の処遇に苦慮する内大臣の物語</H4> | 148 | |
| version26 | 163 | <A NAME="in21">[第一段 内大臣、近江君の処遇に苦慮]</A><BR> | 149 | |
| c3 | 168-170 | と、笑いながら申し上げなさる。<BR>⏎ 「どうして、そんなひどいことがございましょう。中将などが、たいそうまたとなく素晴らしいと吹聴したらしい前触れに及ばないというだけございましょう。このようにお騒ぎになるので、きまり悪くお思いになるにつけ、一つには気後れしているのでございましょう」<BR>⏎ と、たいそうこちらが気恥ずかしくなるような面持ちで申し上げなさる。この女御のご様子は、何もかも整っていて美しいというのではなくて、たいそう上品で澄ましていらっしゃるが、やさしさがあって、美しい梅の花が咲き初めた朝のような感じがして、おっしゃりたいことも差し控えて微笑んでいらっしゃるのが、人とは違う、と拝見なさる。<BR>⏎ | 154-156 | と,笑いながら申し上げなさる。<BR>⏎ 「どうして,そんなひどいことがございましょう。中将などが、たいそうまたとなく素晴らしいと吹聴したらしい前触れに及ばないというだけございましょう。このようにお騒ぎになるので、きまり悪くお思いになるにつけ、一つには気後れしているのでございましょう」<BR>⏎ と,たいそうこちらが気恥ずかしくなるような面持ちで申し上げなさる。この女御のご様子は、何もかも整っていて美しいというのではなくて、たいそう上品で澄ましていらっしゃるが、やさしさがあって、美しい梅の花が咲き初めた朝のような感じがして、おっしゃりたいことも差し控えて微笑んでいらっしゃるのが、人とは違う、と拝見なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 173 | <P>⏎ | ||
| version26 | 174 | <A NAME="in22">[第二段 内大臣、近江君を訪う]</A><BR> | 159 | |
| c1 | 175 | そのまま、この女御の御方を訪ねたついでに、ぶらぶらお歩きになって、お覗きになると、簾を高く押し出して、五節の君といって、気の利いた若い女房がいるのと、双六を打っていらっしゃる。手をしきりに揉んで、<BR>⏎ | 160 | そのまま,この女御の御方を訪ねたついでに、ぶらぶらお歩きになって、お覗きになると、簾を高く押し出して、五節の君といって、気の利いた若い女房がいるのと、双六を打っていらっしゃる。手をしきりに揉んで、<BR>⏎ |
| c2 | 177-178 | と祈る声は、とても早口であるよ。「ああ、情ない」とお思いになって、お供の人が先払いするのをも、手で制しなさって、やはり、妻戸の細い隙間から、襖の開いているところをお覗き込みなさる。<BR>⏎ この従姉妹も、同じく、興奮していて、<BR>⏎ | 162-163 | と祈る声は、とても早口であるよ。「ああ,情ない」とお思いになって、お供の人が先払いするのをも、手で制しなさって、やはり,妻戸の細い隙間から、襖の開いているところをお覗き込みなさる。<BR>⏎ この従姉妹も、同じく,興奮していて、<BR>⏎ |
| c1 | 180 | と、筒をひねり回して、なかなか振り出さない。心中に思っていることはあるのかも知れないが、たいそう軽薄な振舞をしている。<BR>⏎ | 165 | と,筒をひねり回して、なかなか振り出さない。心中に思っていることはあるのかも知れないが、たいそう軽薄な振舞をしている。<BR>⏎ |
| c1 | 184 | 「こうして伺候しておりますのは、何の心配がございましょうか。長年、どんなお方かとお会いしたいとお思い申し上げておりましたお顔を、常に拝見できないのだけが、よい手を打たぬ時のようなじれったい気が致します」<BR>⏎ | 169 | 「こうして伺候しておりますのは、何の心配がございましょうか。長年、どんなお方かと お会いしたいとお思い申し上げておりましたお顔を、常に拝見できないのだけが、よい手を打たぬ時のようなじれったい気が致します」<BR>⏎ |
| c1 | 186 | 「なるほど、身近に使う人もあまりいないので、側に置いていつも拝見していようと、以前は思っていましたが、そうもできかねることでした。普通の宮仕人であれば、どうあろうとも、自然と立ち混じって、誰の目にも耳にも、必ずしもつかないものですから、安心していられましょう。それであってさえ、誰それの娘、何がしの子と知られる身分となると、親兄弟の面目を潰す例が多いようだ。ましてや」<BR>⏎ | 171 | 「なるほど,身近に使う人もあまりいないので、側に置いていつも拝見していようと、以前は思っていましたが、そうもできかねることでした。普通の宮仕人であれば、どうあろうとも、自然と立ち混じって、誰の目にも耳にも、必ずしもつかないものですから、安心していられましょう。それであってさえ、誰それの娘、何がしの子と知られる身分となると、親兄弟の面目を潰す例が多いようだ。ましてや」<BR>⏎ |
| c1 | 188 | 「いえいえ、それは、大層に思いなさって宮仕え致しましたら、窮屈でしょう。大御大壷の係なりともお仕え致しましょう」<BR>⏎ | 173 | 「いえいえ、それは,大層に思いなさって宮仕え致しましたら、窮屈でしょう。大御大壷の係なりとも お仕え致しましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 191-192 | と、おどけたところのある大臣なので、苦笑しながらおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 176 | と,おどけたところのある大臣なので、苦笑しながらおっしゃる。<BR>⏎ |
| version26 | 193 | <A NAME="in23">[第三段 近江君の性情]</A><BR> | 177 | |
| c2 | 196-197 | 「その、側近くまで入り込んだ大徳こそ、困ったものです。ただその人の前世で犯した罪の報いなのでしょう。唖とどもりは、法華経を悪く言った罪の中にも、数えているよ」<BR>⏎ とおっしゃって、「わが子ながらも気の引けるほどの御方に、お目に掛けるのは気が引ける。どのよう考えて、こんな変な人を調べもせずに迎え取ったのだろう」とお思いになって、「女房たちが次々と見ては言い触らすだろう」と、考え直しなさるが、<BR>⏎ | 180-181 | 「その,側近くまで入り込んだ大徳こそ、困ったものです。ただその人の前世で犯した罪の報いなのでしょう。唖とどもりは、法華経を悪く言った罪の中にも、数えているよ」<BR>⏎ とおっしゃって、「わが子ながらも気の引けるほどの御方に、お目に掛けるのは気が引ける。どのよう考えて、こんな変な人を調べもせずに迎え取ったのだろう」とお思いになって、「女房たちが次々と見ては 言い触らすだろう」と、考え直しなさるが、<BR>⏎ |
| c2 | 200-201 | 「とても嬉しいことでございますわ。ただただ、何としてでも、皆様方にお認めいただくことばかりを、寝ても覚めても、長年この願い以外のことは思ってもいませんでした。お許しさえあれば、水を汲んで頭上に乗せて運びましても、お仕え致しましょう」<BR>⏎ と、たいそういい気になって、一段と早口にしゃべるので、どうしようもないとお思いになって、<BR>⏎ | 184-185 | 「とても嬉しいことでございますわ。ただただ,何としてでも、皆様方にお認めいただくことばかりを、寝ても覚めても、長年この願い以外のことは思ってもいませんでした。お許しさえあれば、水を汲んで頭上に乗せて運びましても、お仕え致しましょう」<BR>⏎ と,たいそういい気になって、一段と早口にしゃべるので、どうしようもないとお思いになって、<BR>⏎ |
| c2 | 203-204 | と、冗談事に紛らわしておしまいになるのも気づかずに、同じ大臣と申し上げる中でも、たいそう美しく堂々として、きらびやかな感じがして、並々の人では顔を合わせにくい程立派な方とも分からずに、<BR>⏎ 「それでは、いつ女御殿の許に参上するといたしましょう」<BR>⏎ | 187-188 | と,冗談事に紛らわしておしまいになるのも気づかずに、同じ大臣と申し上げる中でも、たいそう美しく堂々として、きらびやかな感じがして、並々の人では顔を合わせにくい程立派な方とも分からずに、<BR>⏎ 「それでは,いつ女御殿の許に参上するといたしましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 207-208 | と、お言い捨てになって、お渡りになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 191 | と,お言い捨てになって、お渡りになった。<BR>⏎ |
| version26 | 209 | <A NAME="in24">[第四段 近江君、血筋を誇りに思う]</A><BR> | 192 | |
| c1 | 211 | 「何と、まあ、ご立派なお父様ですわ。このような方の子供でありながら、賤しい小さい家で育ったこととは」<BR>⏎ | 194 | 「何と、まあ,ご立派なお父様ですわ。このような方の子供でありながら、賤しい小さい家で育ったこととは」<BR>⏎ |
| c2 | 216-217 | と、腹をお立てになる顔つきが、親しみがあり、かわいらしくて、ふざけたところは、それなりに美しく大目に見られた。<BR>⏎ ただひどい田舎で、賤しい下人の中でお育ちになっていたので、物の言い方も知らない。大したことのない話でも、声をゆっくりと静かな調子で言い出したのは、ふと聞く耳でも、格別に思われ、おもしろくない歌語りをするのも、声の調子がしっくりしていて、先が聞きたくなり、歌の初めと終わりとをはっきり聞こえないように口ずさむのは、深い内容までは理解しないまでもの、ちょっと聞いたところでは、おもしろそうだと、聞き耳を立てるものである。<BR>⏎ | 199-200 | と,腹をお立てになる顔つきが、親しみがあり、かわいらしくて、ふざけたところは、それなりに美しく大目に見られた。<BR>⏎ ただひどい田舎で、賤しい下人の中でお育ちになっていたので、物の言い方も知らない。大したことのない話でも、声をゆっくりと静かな調子で言い出したのは、ふと聞く耳でも、格別に思われ、おもしろくない歌語りをするのも、声の調子がしっくりしていて、先が聞きたくなり、歌の初めと終わりとをはっきり聞こえないように口ずさむのは、深い内容までは理解しないまでもの,ちょっと聞いたところでは、おもしろそうだと、聞き耳を立てるものである。<BR>⏎ |
| d1 | 220 | <P>⏎ | ||
| version26 | 221 | <A NAME="in25">[第五段 近江君の手紙]</A><BR> | 203 | |
| c1 | 222 | 「ところで、女御様に参上せよとおっしゃったのを、しぶるように見えたら、不快にお思いになるでしょう。夜になったら参上しましょう。大臣の君が、世界一大切に思ってくださっても、ご姉妹の方々が冷たくなさったら、お邸の中には居られましょうか」<BR>⏎ | 204 | 「ところで,女御様に参上せよとおっしゃったのを、しぶるように見えたら、不快にお思いになるでしょう。夜になったら参上しましょう。大臣の君が、世界一大切に思ってくださっても、ご姉妹の方々が冷たくなさったら、お邸の中には居られましょうか」<BR>⏎ |
| cd6:5 | 225-230 | 「お側近くにおりながら、今までお伺いする幸せを得ませんのは、来るなと関所をお設けになったのでしょうか。お目にかかってはいませんのに、お血続きの者ですと申し上げるのは、恐れ多いことですが。まことに失礼ながら、失礼ながら」<BR>⏎ と、点ばかり多い書き方で、その裏には、<BR>⏎ 「実は、今晩にも参上しようと存じますのは、お厭いになるとかえって思いが募るのでしょうか。いいえ、いいえ、見苦しい字は大目に見ていただきたく」<BR>⏎ とあって、また端の方に、このように、<BR>⏎ 「未熟者ですが、いかがでしょうかと<BR>⏎ 何とかしてお目にかかりとうございます<BR>⏎ | 207-211 | 「お側近くにおりながら、今までお伺いする幸せを得ませんのは、来るなと関所をお設けになったのでしょうか。お目にかかってはいませんのに、お血続きの者ですと申し上げるのは,恐れ多いことですが。まことに失礼ながら、失礼ながら」<BR>⏎ と,点ばかり多い書き方で、その裏には、<BR>⏎ 「実は、今晩にも参上しようと存じますのは、お厭いになるとかえって思いが募るのでしょうか。いいえ,いいえ、見苦しい字は大目に見ていただきたく」<BR>⏎ とあって,また端の方に、このように,<BR>⏎ 「未熟者ですが、いかがでしょうかと<BR> 何とかしてお目にかかりとうございます<BR>⏎ |
| cd2:1 | 232-233 | と、青い色紙一重ねに、たいそう草仮名がちの、角張った筆跡で、誰の書風を継ぐとも分からない、ふらふらした書き方も下長で、むやみに気取っているようである。行の具合は、端に行くほど曲がって来て、倒れそうに見えるのを、にっこりしながら見て、それでもたいそう細く小さく巻き結んで、撫子の花に付けてあった。<BR>⏎ <P>⏎ | 213 | と,青い色紙一重ねに、たいそう草仮名がちの、角張った筆跡で、誰の書風を継ぐとも分からない、ふらふらした書き方も下長で、むやみに気取っているようである。行の具合は、端に行くほど曲がって来て、倒れそうに見えるのを、にっこりしながら見て、それでもたいそう細く小さく巻き結んで、撫子の花に付けてあった。<BR>⏎ |
| version26 | 234 | <A NAME="in26">[第六段 女御の返事]</A><BR> | 214 | |
| c1 | 239 | と言って、お手紙を受け取る。大輔の君というのが、持参して、開いて御覧に入れる。<BR>⏎ | 219 | と言って,お手紙を受け取る。大輔の君というのが、持参して、開いて御覧に入れる。<BR>⏎ |
| c1 | 242 | と、見たそうにしているので、<BR>⏎ | 222 | と,見たそうにしているので、<BR>⏎ |
| c1 | 244 | とおっしゃって、お下しになった。<BR>⏎ | 224 | とおっしゃって,お下しになった。<BR>⏎ |
| c1 | 246 | と、お任せになる。そう露骨に現しはしないが、若い女房たちは、何ともおかしくて、皆笑ってしまった。お返事を催促するので、<BR>⏎ | 226 | と,お任せになる。そう露骨に現しはしないが、若い女房たちは、何ともおかしくて、皆笑ってしまった。お返事を催促するので、<BR>⏎ |
| c1 | 248 | と言って、まるで、女御のご筆跡のように書く。<BR>⏎ | 228 | と言って,まるで、女御のご筆跡のように書く。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 250-251 | 常陸にある駿河の海の須磨の浦に<BR>⏎ お出かけくだい、箱崎の松が待っています」<BR>⏎ | 230 | 常陸にある駿河の海の須磨の浦に<BR> お出かけください、箱崎の松が待っています」<BR>⏎ |
| c2 | 253-254 | 「まあ、困りますわ。ほんとうにわたしが書いたのだと言ったらどうしましょう」<BR>⏎ と、迷惑そうに思っていらっしゃったが、<BR>⏎ | 232-233 | 「まあ,困りますわ。ほんとうにわたしが書いたのだと言ったらどうしましょう」<BR>⏎ と,迷惑そうに思っていらっしゃったが、<BR>⏎ |
| c1 | 256 | と言って、紙に包んで使いにやった。<BR>⏎ | 235 | と言って,紙に包んで使いにやった。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 259-261 | と言って、たいそう甘ったるい薫物の香を、何度も何度も着物にた焚きしめていらっしゃった。紅というものを、たいそう赤く付けて、髪を梳いて化粧なさったのは、それなりに派手で愛嬌があった。ご対面の時、さぞ出過ぎたこともあったであろう。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 238 | と言って,たいそう甘ったるい薫物の香を、何度も何度も着物にた焚きしめていらっしゃった。紅というものを、たいそう赤く付けて、髪を梳いて化粧なさったのは、それなりに派手で 愛嬌があった。ご対面の時、さぞ出過ぎたこともあったであろう。<BR>⏎ |
| d1 | 268 | ⏎ | ||
| i0 | 249 | |||
| diff | src/original/version27.html | src/modified/version27.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version27 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 22 | <P>⏎ | ||
| version27 | 23 | <H4>第一章 玉鬘の物語 養父と養女の禁忌の恋物語</H4> | 19 | |
| version27 | 24 | <A NAME="in11">[第一段 近江君の世間の噂]</A><BR> | 20 | |
| c1 | 26 | 「何はともあれ、人目につくはずもなく家に籠もっていたような女の子を、少々の口実はあったにせよ、あれほど仰々しく引き取った上で、このように、女房として人前に出して、噂されたりするのは納得できないことだ。たいそう物事にけじめをつけすぎなさるあまりに、深い事情も調べずに、お気に入らないとなると、このような体裁の悪い扱いになるのだろう。何事も、やり方一つで、穏やかにすむものなのだ」<BR>⏎ | 22 | 「何はともあれ、人目につくはずもなく家に籠もっていたような女の子を、少々の口実はあったにせよ、あれほど仰々しく引き取った上で、このように,女房として人前に出して、噂されたりするのは 納得できないことだ。たいそう物事にけじめをつけすぎなさるあまりに、深い事情も調べずに、お気に入らないとなると、このような体裁の悪い扱いになるのだろう。何事も、やり方一つで、穏やかにすむものなのだ」<BR>⏎ |
| d1 | 30 | <P>⏎ | ||
| version27 | 31 | <A NAME="in12">[第二段 初秋の夜、源氏、玉鬘と語らう]</A><BR> | 26 | |
| c1 | 33 | 五、六日の夕月夜はすぐに沈んで、少し雲に隠れた様子、荻の葉音もだんだんしみじみと感じられるころになった。お琴を枕にして、一緒に横になっていらっしゃる。このような例があろうかと、溜息をもらしながら夜更かしなさるのも、女房が変だと思い申すだろうことをお思いになって、お渡りになろうとして、御前の篝火が少し消えかかっているのを、お供の右近の大夫を召して、点灯させなさる。<BR>⏎ | 28 | 五,六日の夕月夜はすぐに沈んで、少し雲に隠れた様子、荻の葉音もだんだんしみじみと感じられるころになった。お琴を枕にして、一緒に横になっていらっしゃる。このような例があろうかと、溜息をもらしながら夜更かしなさるのも、女房が変だと思い申すだろうことをお思いになって、お渡りになろうとして、御前の篝火が少し消えかかっているのを、お供の右近の大夫を召して、点灯させなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 37-38 | 「篝火とともに立ち上る恋の煙は<BR>⏎ 永遠に消えることのないわたしの思いなのです<BR>⏎ | 32 | 「篝火とともに立ち上る恋の煙は<BR> 永遠に消えることのないわたしの思いなのです<BR>⏎ |
| cd2:1 | 41-42 | 「果てしない空に消して下さいませ<BR>⏎ 篝火とともに立ち上る煙とおっしゃるならば<BR>⏎ | 35 | 「果てしない空に消して下さいませ<BR> 篝火とともに立ち上る煙とおっしゃるならば<BR>⏎ |
| c1 | 44 | とお困りになるので、「さあて」と言って、お出になると、東の対の方に美しい笛の音が、箏と合奏していた。<BR>⏎ | 37 | とお困りになるので、「さあて」と言って、お出になると、東の対の方に 美しい笛の音が、箏と合奏していた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 46-47 | と言って、お立ち止まりなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 39 | と言って,お立ち止まりなさる。<BR>⏎ |
| version27 | 48 | <A NAME="in13">[第三段 柏木、玉鬘の前で和琴を演奏]</A><BR> | 40 | |
| c1 | 52 | と言って、お琴を取り出して、やさしい感じにお弾きになる。源中将は、「盤渉調」にたいそう美しく吹いた。頭中将は、気をつかって歌いにくそうにしている。「遅い」というので、弁少将が、拍子を打って、静かに歌う声は、鈴虫かと思うほどである。二度ほど歌わせなさって、お琴は中将にお譲りあそばした。まことに、あの父大臣のお弾きになる音色に、少しも劣らず、派手で素晴らしい。<BR>⏎ | 44 | と言って,お琴を取り出して、やさしい感じにお弾きになる。源中将は、「盤渉調」にたいそう美しく吹いた。頭中将は、気をつかって歌いにくそうにしている。「遅い」というので、弁少将が、拍子を打って、静かに歌う声は、鈴虫かと思うほどである。二度ほど歌わせなさって、お琴は中将にお譲りあそばした。まことに,あの父大臣のお弾きになる音色に、少しも劣らず、派手で素晴らしい。<BR>⏎ |
| d2 | 56-57 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 63 | ⏎ | ||
| i0 | 57 | |||
| diff | src/original/version28.html | src/modified/version28.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version28 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version28 | 40 | <H4>第一章 夕霧の物語 継母垣間見の物語</H4> | 36 | |
| version28 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 八月野分の襲来]</A><BR> | 37 | |
| c1 | 42 | 中宮のお庭先に、秋の花をお植えあそばしていらっしゃることは、例年よりも見る価値が多くあって、ありとあらゆる種類の花を植えて、風情のある皮のある木と皮をはいだ木との籬垣を結い混ぜて、同じ花の枝ぶりや、姿は、朝夕の露の光も世間のと違って、玉かと輝いて、お造りになった野辺の色彩を見ると、一方では、春の山もつい忘れられて、さわやかで気分が晴々するようで、心も浮き立つほどである。<BR>⏎ | 38 | 中宮のお庭先に、秋の花をお植えあそばしていらっしゃることは、例年よりも見る価値が多くあって、ありとあらゆる種類の花を植えて、風情のある皮のある木と皮をはいだ木との籬垣を結い混ぜて、同じ花の枝ぶりや,姿は、朝夕の露の光も世間のと違って、玉かと輝いて,お造りになった野辺の色彩を見ると、一方では,春の山もつい忘れられて、さわやかで気分が晴々するようで、心も浮き立つほどである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 45-46 | いろいろの花が萎れるのを、それほどにも思わない人でさえも、まあ、困ったことと心を痛めるのに、まして、草むらの露の玉が乱れるにつれて、お気もどうにかなってしまいそうにご心配あそばしていらっしゃった。大空を覆うほどの袖は、秋の空にこそ欲しい感じがした。日が暮れて行くにつれて、何も見えないほど吹き荒れて、たいそう気味が悪いなので、御格子などをお下ろしになったが、不安でたまらないと花の身をご心配あそばす。<BR>⏎ <P>⏎ | 41 | いろいろの花が萎れるのを、それほどにも思わない人でさえも、まあ,困ったことと心を痛めるのに、まして,草むらの露の玉が乱れるにつれて、お気もどうにかなってしまいそうにご心配あそばしていらっしゃった。大空を覆うほどの袖は、秋の空にこそ欲しい感じがした。日が暮れて行くにつれて、何も見えないほど吹き荒れて、たいそう気味が悪いなので、御格子などをお下ろしになったが、不安でたまらないと 花の身をご心配あそばす。<BR>⏎ |
| version28 | 47 | <A NAME="in12">[第二段 夕霧、紫の上を垣間見る]</A><BR> | 42 | |
| c2 | 52-53 | 「大臣がたいそう遠ざけていらっしゃるのは、このように見る人が心を動かさずにはいられないお美しさなので、用心深いご性質から、万一、このようなことがあってはいけないと、ご懸念になっていたのだ」<BR>⏎ と思うと、何となく恐ろしい気がして、立ち去ろうとする、その時、西のお部屋から、内の御障子を引き開けてお越しになる。<BR>⏎ | 47-48 | 「大臣がたいそう遠ざけていらっしゃるのは、このように見る人が心を動かさずにはいられないお美しさなので、用心深いご性質から、万一,このようなことがあってはいけないと、ご懸念になっていたのだ」<BR>⏎ と思うと、何となく恐ろしい気がして、立ち去ろうとする,その時、西のお部屋から、内の御障子を引き開けてお越しになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 56-57 | 女もすっかり成人なさって、何一つ不足のないお二方のご様子であるのを、身にしみて美しく感じられるが、この渡殿の格子も風が吹き放って、立っている所が丸見えになったので、恐ろしくなって立ち退いた。⏎ 今ちょうど参上したように咳払いして、簀子の方に歩き出しなさると、<BR>⏎ | 51 | 女もすっかり成人なさって、何一つ不足のないお二方のご様子であるのを、身にしみて美しく感じられるが、この渡殿の格子も風が吹き放って、立っている所が丸見えになったので、恐ろしくなって立ち退いた。今ちょうど参上したように咳払いして、簀子の方に歩き出しなさると、<BR>⏎ |
| c1 | 59 | とおっしゃって、「あの妻戸が開いていたことよ」と、今見てお気づきになる。<BR>⏎ | 53 | とおっしゃって,「あの妻戸が開いていたことよ」と、今見てお気づきになる。<BR>⏎ |
| d1 | 61 | <P>⏎ | ||
| version28 | 62 | <A NAME="in13">[第三段 夕霧、三条宮邸へ赴く]</A><BR> | 55 | |
| c1 | 64 | 「たいそうひどい勢いになりそうでございます。丑寅の方角から吹いて来ますので、こちらのお庭先は静かなのです。馬場殿や南の釣殿などは危なそうです」<BR>⏎ | 57 | 「たいそうひどい勢いになりそうでございます。丑寅の方角から吹いて来ますので、こちらのお庭先は静かなのです。馬場殿や南の釣殿などは 危なそうです」<BR>⏎ |
| c1 | 67 | 「三条宮におりましたが、『風が激しくなるだろう』と、人々が申しましたので、気がかりで参上いたしました。あちらでは、ここ以上に心細く、風の音も、今ではかえって幼い子供のように恐がっていらっしゃるようなので。おいたわしいので、失礼いたします」<BR>⏎ | 60 | 「三条宮におりましたが、『風が激しくなるだろう』と、人々が申しましたので、気がかりで参上いたしました。あちらでは、ここ以上に心細く、風の音も、今ではかえって 幼い子供のように恐がっていらっしゃるようなので。おいたわしいので、失礼いたします」<BR>⏎ |
| c2 | 69-70 | 「なるほど、早く、行って上げなさい。年をとるにつれて、再び子供のようになることは、まったく考えられないことだが、なるほど、老人はそうしたものだ」<BR>⏎ などと、ご同情申し上げなさって、<BR>⏎ | 62-63 | 「なるほど,早く、行って上げなさい。年をとるにつれて、再び子供のようになることは、まったく考えられないことだが、なるほど,老人はそうしたものだ」<BR>⏎ などと,ご同情申し上げなさって、<BR>⏎ |
| c3 | 72-74 | と、お手紙をお託しになる。<BR>⏎ 道中、激しく吹き荒れる風だが、几帳面でいらっしゃる君なので、三条宮と六条院とに参上して、お目通りなさらない日はない。内裏の御物忌みなどで、どうしてもやむを得ず宿直しなければならない日以外は、忙しい公事や、節会などの、時間がかかり、用事が多い時に重なっても、真っ先にこの院に参上して、三条宮からご出仕なさったので、まして今日は、このような空模様によって、風より先に立ってあちこち動き回るのは、孝心深そうに見える。<BR>⏎ 大宮は、たいそう嬉しく頼もしくお待ち受けになって、<BR>⏎ | 65-67 | と,お手紙をお託しになる。<BR>⏎ 道中,激しく吹き荒れる風だが、几帳面でいらっしゃる君なので、三条宮と六条院とに参上して、お目通りなさらない日はない。内裏の御物忌みなどで、どうしてもやむを得ず宿直しなければならない日以外は、忙しい公事や,節会などの、時間がかかり、用事が多い時に重なっても、真っ先にこの院に参上して、三条宮からご出仕なさったので、まして今日は、このような空模様によって、風より先に立ってあちこち動き回るのは,孝心深そうに見える。<BR>⏎ 大宮は、たいそう嬉しく 頼もしくお待ち受けになって、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 76-79 | と、ただ震えに震えてばかりいらっしゃる。<BR>⏎ 大きな木の枝などが折れる音も、たいそう気味が悪い。御殿の瓦まで残らず吹き飛ばすので、<BR>⏎ 「よくぞおいで下さいましたこと」<BR>⏎ と、脅えながらも挨拶なさる。あれほど盛んだったご威勢も今はひっそりとして、この君一人を頼りに思っていらっしゃるのは、無常な世の中である。今でも世間一般のご声望が衰えていらっしゃることはないけれども、内の大殿のご態度は、親子であるのにかえって疎遠のようであったのだ。<BR>⏎ | 69-71 | と,ただ震えに震えてばかりいらっしゃる。<BR>⏎ 大きな木の枝などが折れる音も、たいそう気味が悪い。御殿の瓦まで残らず吹き飛ばすので、「よくぞおいで下さいましたこと」<BR>⏎ と,脅えながらも挨拶なさる。あれほど盛んだったご威勢も今はひっそりとして、この君一人を頼りに思っていらっしゃるのは、無常な世の中である。今でも世間一般のご声望が衰えていらっしゃることはないけれども、内の大殿のご態度は、親子であるのにかえって疎遠のようであったのだ。<BR>⏎ |
| c4 | 81-84 | 「これは、どうしたことだろう。だいそれた料簡を持ったら大変だ。とても恐ろしいことだ」<BR>⏎ と、自分自身で気を紛らわして、他の事に考えを移したが、やはり、思わず御面影がちらついては、<BR>⏎ 「過去にも将来にも、めったにいない素晴らしい方でいらっしゃったなあ。このような素晴らしいご夫婦仲に、どうして東の御方が、夫人の一人として肩を並べなさったのだろうか。比べようもないことだな。ああ、お気の毒な」<BR>⏎ とつい思わずにはいられない。大臣のお気持ちをご立派だとお分かりになる。<BR>⏎ | 73-76 | 「これは,どうしたことだろう。だいそれた料簡を持ったら大変だ。とても恐ろしいことだ」<BR>⏎ と,自分自身で気を紛らわして、他の事に考えを移したが、やはり,思わず御面影がちらついては、<BR>⏎ 「過去にも将来にも、めったにいない素晴らしい方でいらっしゃったなあ。このような素晴らしいご夫婦仲に、どうして東の御方が、夫人の一人として肩を並べなさったのだろうか。比べようもないことだな。ああ,お気の毒な」<BR>⏎ とつい思わずにはいられない。大臣のお気持ちを ご立派だとお分かりになる。<BR>⏎ |
| d1 | 86 | <P>⏎ | ||
| version28 | 87 | <A NAME="in14">[第四段 夕霧、暁方に六条院へ戻る]</A><BR> | 78 | |
| c2 | 94-95 | 「どうしたことか。更に自分の心に物思いが加わったことよ」と思い出すと、「まことに似つかわしくないことでであるよ。ああ、気違いじみている」<BR>⏎ と、あれやこれやと思いながら、東の御方にまず参上なさると、脅えきっていらっしゃったところなるので、いろいろとお慰め申して、人を呼んで、あちこち修繕すべきことを命じ置いて、南の御殿に参上なさると、まだ御格子も上げていない。<BR>⏎ | 85-86 | 「どうしたことか。更に自分の心に物思いが加わったことよ」と思い出すと、「まことに似つかわしくないことでであるよ。ああ,気違いじみている」<BR>⏎ と,あれやこれやと思いながら、東の御方に まず参上なさると、脅えきっていらっしゃったところなるので、いろいろとお慰め申して、人を呼んで、あちこち修繕すべきことを命じ置いて、南の御殿に参上なさると、まだ御格子も上げていない。<BR>⏎ |
| c1 | 99 | とおっしゃって、お起きになる様子である。何事であろうか、お話し申し上げなさる声はしないで、大臣がお笑いになって、<BR>⏎ | 90 | とおっしゃって,お起きになる様子である。何事であろうか、お話し申し上げなさる声はしないで、大臣がお笑いになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 101-102 | とおっしゃって、しばらくの間仲睦まじくお語らいになっていらっしゃるお二方のご様子は、たいそう優雅である。女のお返事は聞こえないが、かすかながら、このように冗談を申し上げなさる言葉の様子から、「水も漏らさないご夫婦仲だな」と、聞いていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 92 | とおっしゃって,しばらくの間仲睦まじくお語らいになっていらっしゃるお二方のご様子は、たいそう優雅である。女のお返事は聞こえないが、かすかながら、このように冗談を申し上げなさる言葉の様子から、「水も漏らさないご夫婦仲だな」と、聞いていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version28 | 103 | <A NAME="in15">[第五段 源氏、夕霧と語る]</A><BR> | 93 | |
| c1 | 111 | とおっしゃって、この中将の君を使者として、お見舞を差し上げなさる。<BR>⏎ | 101 | とおっしゃって,この中将の君を使者として、お見舞を差し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 114 | <P>⏎ | ||
| version28 | 115 | <A NAME="in16">[第六段 夕霧、中宮を見舞う]</A><BR> | 104 | |
| c1 | 118 | 童女を庭にお下ろしになって、いくつもの虫籠に露をおやりになっていらっしゃるのであった。紫苑、撫子、濃い薄い色の袙の上に、女郎花の汗衫などのような、季節にふさわしい衣装で、四、五人連れ立って、あちらこちらの草むらに近づいて、色とりどりの虫籠をいくつも持ち歩いて、撫子などの、たいそう可憐な枝をいく本も取って参上する、その霧の中に見え隠れする姿は、たいそう優艷に見えるのであった。<BR>⏎ | 107 | 童女を庭にお下ろしになって、いくつもの虫籠に露をおやりになっていらっしゃるのであった。紫苑、撫子、濃い薄い色の袙の上に、女郎花の汗衫などのような、季節にふさわしい衣装で、四,五人連れ立って、あちらこちらの草むらに近づいて、色とりどりの虫籠をいくつも持ち歩いて、撫子などの、たいそう可憐な枝をいく本も取って参上する、その霧の中に見え隠れする姿は、たいそう優艷に見えるのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 120-121 | 御入内されたころなどは、子供だったので、御簾の中によくお入りなにっていたので、女房なども、たいしてよそよそしくはない。お見舞いを言上させなさって、宰相の君や、内侍などのいる様子がするので、私事も小声でお話しになる。こちらはこちらで、何といっても、気品高く暮らしていらっしゃる様子を見るにつけ、さまざまなことが思い出される。<BR>⏎ <P>⏎ | 109 | 御入内されたころなどは、子供だったので、御簾の中によくお入りなにっていたので、女房なども、たいしてよそよそしくはない。お見舞いを言上させなさって、宰相の君や,内侍などのいる様子がするので、私事も小声でお話しになる。こちらはこちらで、何といっても、気品高く暮らしていらっしゃる様子を見るにつけ、さまざまなことが思い出される。<BR>⏎ |
| version28 | 122 | <H4>第二章 光源氏の物語 六条院の女方を見舞う物語</H4> | 110 | |
| version28 | 123 | <A NAME="in21">[第一段 源氏、中宮を見舞う]</A><BR> | 111 | |
| c2 | 127-128 | 「妙に気が弱くいらっしゃる宮だ。女ばかりでは、空恐ろしくお思いであったに違いない昨夜の様子だったから、おっしゃる通り、不親切だとお思いになったことであろう」<BR>⏎ とおっしゃって、すぐに参上なさる。御直衣などをお召しになろうとして、御簾を引き上げてお入りになる時、「低い御几帳を引き寄せて、わずかに見えたお袖口は、きっとあの方であろう」と思うと、胸がどきどきと高鳴る気がするのも、いやな感じので、他の方へ視線をそらした。<BR>⏎ | 115-116 | 「妙に気が弱くいらっしゃる宮だ。女ばかりでは、空恐ろしくお思いであったに違いない昨夜の様子だったから、おっしゃる通り,不親切だとお思いになったことであろう」<BR>⏎ とおっしゃって,すぐに参上なさる。御直衣などをお召しになろうとして、御簾を引き上げてお入りになる時、「低い御几帳を引き寄せて、わずかに見えたお袖口は、きっとあの方であろう」と思うと、胸がどきどきと高鳴る気がするのも、いやな感じので、他の方へ視線をそらした。<BR>⏎ |
| c1 | 131 | と言って、ご自分のお顔は、年を取らず美しいと御覧のようです。とてもたいそう気をおつかいになって、<BR>⏎ | 119 | と言って,ご自分のお顔は、年を取らず美しいと御覧のようです。とてもたいそう気をおつかいになって、<BR>⏎ |
| c1 | 133 | とおっしゃって、外にお出になると、中将は物思いに耽って、すぐにはお気づきにならない様子で座っていらっしゃったので、察しのよい人のお目にはどのようにお映りになったことか、引き返してきて、女君に、<BR>⏎ | 121 | とおっしゃって,外にお出になると、中将は物思いに耽って、すぐにはお気づきにならない様子で座っていらっしゃったので、察しのよい人のお目にはどのようにお映りになったことか、引き返してきて、女君に、<BR>⏎ |
| c1 | 136 | 「どうして、そのようなことがございましょう。渡殿の方には、人の物音もしませんでしたもの」<BR>⏎ | 124 | 「どうして,そのようなことがございましょう。渡殿の方には、人の物音もしませんでしたもの」<BR>⏎ |
| c1 | 138 | 「やはり、変だ」と独り言をおっしゃって、お渡りになりった。<BR>⏎ | 126 | 「やはり,変だ」と独り言をおっしゃって、お渡りになりった。<BR>⏎ |
| d1 | 140 | <P>⏎ | ||
| version28 | 141 | <A NAME="in22">[第二段 源氏、明石御方を見舞う]</A><BR> | 128 | |
| c1 | 142 | こちらから、そのまま北の町に抜けて、明石の御方をお見舞いになると、これといった家司らしい人なども見えず、もの馴れた下女どもが、草の中を分け歩いている。童女などは、美しい衵姿にくつろいで、心をこめて特別にお植えになった龍胆や、朝顔の蔓が這いまつわっている籬垣も、みな散り乱れているのを、あれこれと引き出して、元の姿を求めているのであろう。⏎ | 129 | こちらから、そのまま北の町に抜けて、明石の御方をお見舞いになると、これといった家司らしい人なども見えず、もの馴れた下女どもが、草の中を分け歩いている。童女などは、美しい衵姿にくつろいで、心をこめて特別にお植えになった龍胆や,朝顔の蔓が這いまつわっている籬垣も、みな散り乱れているのを、あれこれと引き出して,元の姿を求めているのであろう。⏎ |
| cd2:1 | 144-145 | 「ただ普通に荻の葉の上を通り過ぎて行く風の音も<BR>⏎ つらいわが身だけにはしみいるような気がして」<BR>⏎ | 131 | 「ただ普通に荻の葉の上を通り過ぎて行く風の音も<BR> つらいわが身だけにはしみいるような気がして」<BR>⏎ |
| d1 | 147 | <P>⏎ | ||
| version28 | 148 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、玉鬘を見舞う]</A><BR> | 133 | |
| c1 | 151 | とおっしゃるので、特に音も立てないでお入りになる。屏風などもみな畳んで隅に寄せ、乱雑にしてあったところに、日がぱあっと照らし出した時、くっきりとした美しい様子をして座っていらっしゃった。その近くにお座りになって、いつものように、風の見舞いにかこつけても同じように、厄介な冗談を申し上げなさるので、たまらなく嫌だわと思って、<BR>⏎ | 136 | とおっしゃるので、特に音も立てないでお入りになる。屏風などもみな畳んで隅に寄せ、乱雑にしてあったところに、日がぱあっと照らし出した時、くっきりとした 美しい様子をして座っていらっしゃった。その近くにお座りになって、いつものように、風の見舞いにかこつけても同じように、厄介な冗談を申し上げなさるので、たまらなく嫌だわと思って、<BR>⏎ |
| c1 | 153 | と、御機嫌を悪くなさると、たいそうおもしろそうにお笑いになって、<BR>⏎ | 138 | と,御機嫌を悪くなさると、たいそうおもしろそうにお笑いになって、<BR>⏎ |
| c1 | 156 | 「なるほど、ふと思ったままに申し上げてしまったわ」<BR>⏎ | 141 | 「なるほど,ふと思ったままに申し上げてしまったわ」<BR>⏎ |
| d1 | 158 | <P>⏎ | ||
| version28 | 159 | <A NAME="in24">[第四段 夕霧、源氏と玉鬘を垣間見る]</A><BR> | 143 | |
| c3 | 163-165 | 「すっかり親密な仲になっているらしい。いやはや、ああひどい。どうしたことであろうか。抜け目なくいらっしゃるご性分だから、最初からお育てにならなかった娘には、このようなお思いも加わるのだろう。もっともなことだが。ああ、嫌だ」<BR>⏎ と思う自分自身までが気恥ずかしい。「女のご様子は、なるほど、姉弟といっても、少し縁遠くて、異母姉弟なのだ」などと思うと、「どうして、心得違いを起こさないだろうか」と思われる。<BR>⏎ 昨日拝見した方のご様子には、どこか劣って見えるが、一目見ればにっこりしてしまうところは、肩も並べられそうに見える。八重山吹の花が咲き乱れた盛りに、露の置いた夕映えのようだと、ふと思い浮かべずにはいられない。季節に合わないたとえだが、やはり、そのように思われるのであるよ。花は美しいといっても限りがあり、ばらばらになった蘂などが混じっていることもあるが、姫君のお姿の美しさは、たとえようもないものなのであった。<BR>⏎ | 147-149 | 「すっかり親密な仲になっているらしい。いやはや,ああひどい。どうしたことであろうか。抜け目なくいらっしゃるご性分だから、最初からお育てにならなかった娘には、このようなお思いも加わるのだろう。もっともなことだが。ああ,嫌だ」<BR>⏎ と思う自分自身までが気恥ずかしい。「女のご様子は、なるほど,姉弟といっても、少し縁遠くて、異母姉弟なのだ」などと思うと、「どうして,心得違いを起こさないだろうか」と思われる。<BR>⏎ 昨日拝見した方のご様子には、どこか劣って見えるが、一目見ればにっこりしてしまうところは、肩も並べられそうに見える。八重山吹の花が咲き乱れた盛りに、露の置いた夕映えのようだと、ふと思い浮かべずにはいられない。季節に合わないたとえだが、やはり,そのように思われるのであるよ。花は美しいといっても限りがあり、ばらばらになった蘂などが混じっていることもあるが、姫君のお姿の美しさは、たとえようもないものなのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 167-168 | 「吹き乱す風のせいで女郎花は<BR>⏎ 萎れてしまいそうな気持ちがいたします」<BR>⏎ | 151 | 「吹き乱す風のせいで女郎花は<BR> 萎れてしまいそうな気持ちがいたします」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 171-172 | 「下葉の露になびいたならば<BR>⏎ 女郎花は荒い風には萎れないでしょうに<BR>⏎ | 154 | 「下葉の露になびいたならば<BR> 女郎花は荒い風には萎れないでしょうに<BR>⏎ |
| cd2:1 | 174-175 | などと、聞き間違いであろうか、あまり聞きよい歌ではない。<BR>⏎ <P>⏎ | 156 | などと,聞き間違いであろうか、あまり聞きよい歌ではない。<BR>⏎ |
| version28 | 176 | <A NAME="in25">[第五段 源氏、花散里を見舞う]</A><BR> | 157 | |
| c1 | 177 | 東の御方へ、ここからお渡りになる。今朝の寒さのせいで内輪の仕事であろうか、裁縫などをする老女房たちが御前に大勢いて、細櫃らしい物に、真綿をひっかけて延ばしている若い女房たちもいる。とても美しい朽葉色の羅や、流行色でみごとに艶出ししたのなどを、ひき散らかしていらっしゃった。<BR>⏎ | 158 | 東の御方へ、ここからお渡りになる。今朝の寒さのせいで内輪の仕事であろうか、裁縫などをする老女房たちが 御前に大勢いて、細櫃らしい物に、真綿をひっかけて延ばしている若い女房たちもいる。とても美しい朽葉色の羅や、流行色でみごとに艶出ししたのなどを、ひき散らかしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 179 | などとおっしゃって、何の着物であろうか、さまざまな衣装の色が、とても美しいので、「このような技術は南の上にも負けない」とお思いになる。御直衣、花文綾を、近頃摘んできた花で、薄く染め出しなさったのは、たいそう申し分ない色をしていた。<BR>⏎ | 160 | などとおっしゃって、何の着物であろうか、さまざまな衣装の色が、とても美しいので、「このような技術は 南の上にも負けない」とお思いになる。御直衣、花文綾を、近頃摘んできた花で、薄く染め出しなさったのは、たいそう申し分ない色をしていた。<BR>⏎ |
| d1 | 182 | <P>⏎ | ||
| version28 | 183 | <H4>第三章 夕霧の物語 幼恋の物語</H4> | 163 | |
| version28 | 184 | <A NAME="in31">[第一段 夕霧、雲井雁に手紙を書く]</A><BR> | 164 | |
| c1 | 187 | と、御乳母が申し上げる。<BR>⏎ | 167 | と,御乳母が申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 193 | 「いや、これは恐れ多い」<BR>⏎ | 173 | 「いや,これは恐れ多い」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 195-197 | 紫の薄様の紙であった。墨は、ていねいにすって、筆先を見い見いして、念を入れて書きながら筆を休めていらっしゃるのが、とても素晴らしい。けれども、妙に型にはまって、感心しない詠みぶりでいらっしゃった。<BR>⏎ 「風が騒いでむら雲が乱れる夕べにも<BR>⏎ 片時の間もなく忘れることのできないあなたです」<BR>⏎ | 175-176 | 紫の薄様の紙であった。墨は、ていねいにすって、筆先を見い見いして、念を入れて書きながら筆を休めていらっしゃるのが、とても素晴らしい。けれども,妙に型にはまって、感心しない詠みぶりでいらっしゃった。<BR>⏎ 「風が騒いでむら雲が乱れる夕べにも<BR> 片時の間もなく忘れることのできないあなたです」<BR>⏎ |
| c1 | 201 | などと、このような女房たちにも、言葉少なに応対して、気を許すふうもなく、とてもきまじめで気品がある。<BR>⏎ | 180 | などと,このような女房たちにも、言葉少なに応対して、気を許すふうもなく、とてもきまじめで気品がある。<BR>⏎ |
| d1 | 203 | <P>⏎ | ||
| version28 | 204 | <A NAME="in32">[第二段 夕霧、明石姫君を垣間見る]</A><BR> | 182 | |
| c1 | 206 | 女房が大勢行ったり来たりするので、はっきりわからないほどなので、たいそうじれったい。薄紫色のお召物に、髪がまだ背丈には届いていない末の広がったような感じで、たいそう細く小さい身体つきが可憐でいじらしい。<BR>⏎ | 184 | 女房が大勢行ったり来たりするので、はっきりわからないほどなので、たいそうじれったい。薄紫色のお召物に、髪がまだ背丈には届いていない末の 広がったような感じで、たいそう細く小さい身体つきが 可憐でいじらしい。<BR>⏎ |
| d1 | 208 | <P>⏎ | ||
| version28 | 209 | <A NAME="in33">[第三段 内大臣、大宮を訪う]</A><BR> | 186 | |
| c1 | 213 | とおっしゃって、ただひたすらお泣きになる。<BR>⏎ | 190 | とおっしゃって,ただひたすらお泣きになる。<BR>⏎ |
| c1 | 215 | などと、依然として不快にこだわっている様子でおっしゃるので、情けなくて、ぜひにともお申し上げなさらない。その話の折に、<BR>⏎ | 192 | などと,依然として不快にこだわっている様子でおっしゃるので、情けなくて、ぜひにともお申し上げなさらない。その話の折に、<BR>⏎ |
| c2 | 217-218 | と、愚痴をおこぼしになって、にが笑いなさる。宮、<BR>⏎ 「まあ、変ですこと。あなたの娘という以上、出来の悪いことがありましょうか」<BR>⏎ | 194-195 | と,愚痴をおこぼしになって、にが笑いなさる。宮、<BR>⏎ 「まあ,変ですこと。あなたの娘という以上、出来の悪いことがありましょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 220 | 「それが体裁の悪いことなのでございます。ぜひ、御覧に入れたいものです」<BR>⏎ | 197 | 「それが体裁の悪いことなのでございます。ぜひ,御覧に入れたいものです」<BR>⏎ |
| d2 | 222-223 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 230 | ⏎ | ||
| i0 | 209 | |||
| diff | src/original/version29.html | src/modified/version29.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version29 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 44 | <P>⏎ | ||
| version29 | 45 | <H4>第一章 玉鬘の物語 冷泉帝の大原野行幸</H4> | 41 | |
| version29 | 46 | <A NAME="in11">[第一段 大原野行幸]</A><BR> | 42 | |
| c1 | 48 | その年の十二月に、大原野の行幸とあって、世の中の人は一人残らず見物に騒ぐのを、六条院からも御夫人方が引き連ねて御覧になる。卯の刻に御出発になって、朱雀大路から五条大路を西の方に折れなさる。桂川の所まで、見物の車がびっしり続いている。<BR>⏎ | 44 | その年の十二月に、大原野の行幸とあって、世の中の人は一人残らず見物に騒ぐのを、六条院からも 御夫人方が引き連ねて御覧になる。卯の刻に御出発になって、朱雀大路から五条大路を 西の方に折れなさる。桂川の所まで、見物の車がびっしり続いている。<BR>⏎ |
| c2 | 50-51 | 雪がほんの少し降って、道中の空までが優美に見えた。親王たち、上達部なども、鷹狩に携わっていらっしゃる方は、見事な狩のご装束類を用意なさっている。近衛の鷹飼どもは、それ以上に見たことのない摺衣を思い思いに着て、その様子は格別である。素晴らしく美しい見物をと競って出て来ては、大した身分でもなく、お粗末な脚の弱い車など、車輪を押しつぶされて、気の毒なのもある。舟橋の辺りなどにも優美にあちこちする立派な車が多かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 46-47 | 雪がほんの少し降って、道中の空までが優美に見えた。親王たち、上達部なども、鷹狩に携わっていらっしゃる方は、見事な狩のご装束類を用意なさっている。近衛の鷹飼どもは、それ以上に見たことのない摺衣を思い思いに着て、その様子は格別である。<BR>⏎ 素晴らしく美しい見物をと競って出て来ては、大した身分でもなく、お粗末な脚の弱い車など、車輪を押しつぶされて、気の毒なのもある。舟橋の辺りなどにも 優美にあちこちする立派な車が多かった。<BR>⏎ |
| version29 | 52 | <A NAME="in12">[第二段 玉鬘、行幸を見物]</A><BR> | 48 | |
| c1 | 55 | ましてや、美男だとか、素敵な方よなどと、若い女房たちが死ぬほど慕っている中将、少将、何とかいう殿上人などの人は、何ほどのこともなく眼中にないのは、まったく群を抜いていらっしゃるからなのであった。源氏の太政大臣のお顔の様子は、別人とはお見えにならないが、気のせいかもう少し威厳があって、恐れ多く立派である。<BR>⏎ | 51 | ましてや,美男だとか、素敵な方よなどと、若い女房たちが死ぬほど慕っている中将,少将、何とかいう殿上人などの人は、何ほどのこともなく眼中にないのは、まったく群を抜いていらっしゃるからなのであった。源氏の太政大臣のお顔の様子は、別人とはお見えにならないが、気のせいかもう少し威厳があって、恐れ多く立派である。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 57-59 | 兵部卿宮もいらっしゃる。右大将が、あれほど重々しく気取っているのも、今日の衣装がたいそう優美で、やなぐいなどを背負って供奉なさっていた。色黒く鬚が多い感じに見えて、とても好感がもてない。どうして、女性の化粧した顔の色に男が似たりしようか。とても無理なことを、お若い方の考えとて、軽蔑なさったのであった。<BR>⏎ 大臣の君がお考えになっておっしゃっることを、「どうしたものか、宮仕えは、不本意なことで見苦しいことではないかしら」と躊躇していらっしゃったが、「帝の寵愛ということを離れて、一般の宮仕えしてお目通りするならば、きっと結構なことであろう」という、お気持ちになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 53-54 | 兵部卿宮もいらっしゃる。右大将が、あれほど重々しく気取っているのも、今日の衣装がたいそう優美で、やなぐいなどを背負って 供奉なさっていた。色黒く鬚が多い感じに見えて、とても好感がもてない。どうして,女性の化粧した顔の色に男が似たりしようか。とても無理なことを、お若い方の考えとて、軽蔑なさったのであった。<BR>⏎ 大臣の君がお考えになっておっしゃっることを、「どうしたものか、宮仕えは、不本意なことで 見苦しいことではないかしら」と躊躇していらっしゃったが、「帝の寵愛ということを離れて、一般の宮仕えしてお目通りするならば、きっと結構なことであろう」という、お気持ちになった。<BR>⏎ |
| version29 | 60 | <A NAME="in13">[第三段 行幸、大原野に到着]</A><BR> | 55 | |
| c1 | 61 | こうして、大原野に御到着あそばして、御輿を止め、上達部の平張の中で食事を召し上がり、御衣装を直衣や、狩衣の装束に改めたりなさる時に、六条院からお酒やお菓子類などが献上された。今日供奉なさる予定だと、前もってご沙汰があったのだが、御物忌の理由を奏上なさったのであった。<BR>⏎ | 56 | こうして,大原野に御到着あそばして、御輿を止め、上達部の平張の中で食事を召し上がり、御衣装を直衣や,狩衣の装束に改めたりなさる時に、六条院からお酒やお菓子類などが献上された。今日供奉なさる予定だと、前もってご沙汰があったのだが、御物忌の理由を奏上なさったのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 63-64 | 「雪の深い小塩山に飛び立つ雉のように<BR>⏎ 古例に従って今日はいらっしゃればよかったのに」<BR>⏎ | 58 | 「雪の深い小塩山に飛び立つ雉のように<BR> 古例に従って今日はいらっしゃればよかったのに」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 66-69 | 「小塩山に深雪が積もった松原に<BR>⏎ 今日ほどの盛儀は先例がないでしょう」<BR>⏎ と、その当時に伝え聞いたことで、ところどころ思い出されるのは、聞き間違いがあるかもしれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 60-61 | 「小塩山に深雪が積もった松原に<BR> 今日ほどの盛儀は先例がないでしょう」<BR>⏎ と,その当時に伝え聞いたことで、ところどころ思い出されるのは、聞き間違いがあるかもしれない。<BR>⏎ |
| version29 | 70 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、玉鬘に宮仕えを勧める]</A><BR> | 62 | |
| cd2:1 | 77-78 | 雪が散らついて朝の間の行幸では<BR>⏎ はっきりと日の光は見えませんでした<BR>⏎ | 69 | 雪が散らついて朝の間の行幸では<BR> はっきりと日の光は見えませんでした<BR>⏎ |
| c1 | 81 | 「しかじかのことを勧めたのですが、中宮がああしていらっしゃるし、わたしの娘という扱いのままでは不都合であろう。あの内大臣に知られても、弘徽殿の女御がまたあのようにいらっしゃるのだからなどと、思い悩んでいたことです。若い女性で、そのように親しくお仕えするのに、何も遠慮する必要がないのは、主上をちらとでも拝見して、宮仕えを考えない者はないでしょう」<BR>⏎ | 72 | 「しかじかのことを勧めたのですが、中宮がああしていらっしゃるし、わたしの娘という扱いのままでは 不都合であろう。あの内大臣に知られても、弘徽殿の女御がまたあのようにいらっしゃるのだからなどと、思い悩んでいたことです。若い女性で、そのように親しくお仕えするのに、何も遠慮する必要がないのは、主上をちらとでも拝見して、宮仕えを考えない者はないでしょう」<BR>⏎ |
| c3 | 83-85 | 「あら、嫌ですわ。いくら御立派だと拝見しても、自分から進んで宮仕えを考えるなんて、とても出過ぎた考えでしょう」<BR>⏎ と言って、お笑いになる。<BR>⏎ 「さあ、そういうあなたこそ、きっと熱心になることでしょう」<BR>⏎ | 74-76 | 「あら,嫌ですわ。いくら御立派だと拝見しても、自分から進んで宮仕えを考えるなんて、とても出過ぎた考えでしょう」<BR>⏎ と言って,お笑いになる。<BR>⏎ 「さあ,そういうあなたこそ、きっと熱心になることでしょう」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 87-91 | 「日の光は曇りなく輝いていましたのに<BR>⏎ どうして行幸の日に雪のために目を曇らせたのでしょう<BR>⏎ やはり、ご決心なさい」<BR>⏎ などと、ひっきりなしにお勧めになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 78-80 | 「日の光は曇りなく輝いていましたのに<BR> どうして行幸の日に雪のために目を曇らせたのでしょう<BR>⏎ やはり,ご決心なさい」<BR>⏎ などと,ひっきりなしにお勧めになる。<BR>⏎ |
| version29 | 92 | <A NAME="in15">[第五段 玉鬘、裳着の準備]</A><BR> | 81 | |
| c2 | 93-94 | 「何はともあれ、まずは御裳着の儀式を」とお思いになって、そのご用意の御調度類の、精巧で立派な品々をお加えになり、どういった儀式であれ、ご自分では大して考えていらっしゃらないことでも、自然と大げさに立派になるのを、まして、「内大臣にも、このまま儀式の機会にお知らせ申そうか」とお考え寄りになったので、たいそう立派である。「年が明けて、二月に」とお考えになる。<BR>⏎ 「女性というものは、評判が高く、名をお隠しできる年頃ではなくとも、誰かの姫君として、深窓にこもっていらっしゃる間は、必ずしも氏神への参詣なども、表立ってしないので、今までは分からないように過ごしていらっしゃったが、この、もし今考えていることが実現したら、春日明神の御心に背いてしまうし、結局は隠しおおせるものではないから、つまらないことに、格別の計略があったことのように後々まで取り沙汰されては、おもしろからぬことだろう。並の人の身分なら、当世ふうとしては、氏を改めることも簡単なものだが」などとご思案なさるが、「親子のご縁は、絶えるようなことはないものだ。同じことなら、こちらから進んで、お知らせ申そう」<BR>⏎ | 82-83 | 「何はともあれ、まずは御裳着の儀式を」とお思いになって、そのご用意の御調度類の、精巧で立派な品々をお加えになり、どういった儀式であれ、ご自分では大して考えていらっしゃらないことでも、自然と大げさに立派になるのを、まして,「内大臣にも、このまま儀式の機会にお知らせ申そうか」とお考え寄りになったので、たいそう立派である。「年が明けて、二月に」とお考えになる。<BR>⏎ 「女性というものは,評判が高く、名をお隠しできる年頃ではなくとも、誰かの姫君として、深窓にこもっていらっしゃる間は、必ずしも氏神への参詣なども、表立ってしないので、今までは分からないように過ごしていらっしゃったが、この,もし今考えていることが実現したら、春日明神の御心に背いてしまうし、結局は隠しおおせるものではないから、つまらないことに、格別の計略があったことのように後々まで取り沙汰されては、おもしろからぬことだろう。並の人の身分なら、当世ふうとしては、氏を改めることも簡単なものだが」などとご思案なさるが、「親子のご縁は、絶えるようなことはないものだ。同じことなら、こちらから進んで、お知らせ申そう」<BR>⏎ |
| c1 | 96 | 中将の君も、昼夜、三条宮邸に伺候なさっていて、心に余裕もなくいらっしゃるので、時機が悪いのを、どうしたものか、とお考えになる。<BR>⏎ | 85 | 中将の君も、昼夜、三条宮邸に伺候なさっていて、心に余裕もなくいらっしゃるので、時機が悪いのを、どうしたものか,とお考えになる。<BR>⏎ |
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| version29 | 100 | <H4>第二章 光源氏の物語 大宮に玉鬘の事を語る</H4> | 88 | |
| version29 | 101 | <A NAME="in21">[第一段 源氏、三条宮を訪問]</A><BR> | 89 | |
| cd2:1 | 106-107 | と、ただお泣きになるばかりで、お声が震えているのも、ばかばかしく思うが、無理のないことなので、まことにお気の毒なことである。<BR>⏎ <P>⏎ | 94 | と,ただお泣きになるばかりで、お声が震えているのも、ばかばかしく思うが、無理のないことなので、まことにお気の毒なことである。<BR>⏎ |
| version29 | 108 | <A NAME="in22">[第二段 源氏と大宮との対話]</A><BR> | 95 | |
| c1 | 113 | と、この中将のこととお思いになっておっしゃるので、にっこりなさって、<BR>⏎ | 100 | と,この中将のこととお思いになっておっしゃるので、にっこりなさって、<BR>⏎ |
| d1 | 117 | <P>⏎ | ||
| version29 | 118 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、大宮に玉鬘を語る]</A><BR> | 104 | |
| c4 | 119-122 | 「実は、あの方がお世話なさるはずの人を、思い違いがございまして、思いがけず捜し出しましたが、その時は、そうした間違いだとも言ってくれなかったものでしたから、しいて事情を詮索することもしませんで、ただそのような子どもが少ないので、口実であっても、何かまうものかと大目に見まして、少しも親身な世話もしませんで、年月が過ぎましたが、どのようにしてお聞きあそばしたのでしょうか、帝から仰せになることがございました。<BR>⏎ 尚侍として、宮仕えする者がいなくては、あの役所の仕事は取り締まれず、女官なども公務を勤めるのに頼り所がなく、事務が滞るようであったが、現在、帝付きの老齢の典侍二人や、また他に適当な人々が、それぞれに申し出ているが、立派な人をお選びあそばそうとするのに、その適任者がいない。<BR>⏎ やはり、家柄も高く、世間の評判も軽くはなく、家の生活の心配のない人が、昔からなってきている。仕事ができて賢い人という点での選考ならば、そういった人でなくとも、長年の功労によって昇任する例もあるが、それに当たる者もいないとなると、せめて世間一般の評判によってでもお選びあそばそうと、内々に仰せられましたが、似つかわしくないことだと、どうしてお思いになるでしょう。<BR>⏎ 宮仕えというものは、帝の恩顧を期待して、身分の高い者も低い者も出仕するというのが、理想が高いというものです。一般職の役職に就いて、そうした所の役所を取り仕切り、公事に関する事務を処理するようなことは、何でもない、重々しくないように思われていますが、どうしてまたそのようなことがありましょうか。ただ、自分自身の心がけ次第で、万事決まるようでございましょうというふうに、気持ちが傾いてきましたところです。<BR>⏎ | 105-108 | 「実は,あの方がお世話なさるはずの人を、思い違いがございまして、思いがけず捜し出しましたが、その時は、そうした間違いだとも言ってくれなかったものでしたから、しいて事情を詮索することもしませんで、ただそのような子どもが少ないので、口実であっても、何かまうものかと大目に見まして、少しも親身な世話もしませんで、年月が過ぎましたが、どのようにしてお聞きあそばしたのでしょうか、帝から仰せになることがございました。<BR>⏎ 尚侍として、宮仕えする者がいなくては、あの役所の仕事は取り締まれず、女官なども公務を勤めるのに頼り所がなく、事務が滞るようであったが、現在,帝付きの老齢の典侍二人や、また他に適当な人々が、それぞれに申し出ているが、立派な人をお選びあそばそうとするのに、その適任者がいない。<BR>⏎ やはり,家柄も高く、世間の評判も軽くはなく、家の生活の心配のない人が、昔からなってきている。仕事ができて賢い人という点での選考ならば、そういった人でなくとも、長年の功労によって昇任する例もあるが、それに当たる者もいないとなると、せめて世間一般の評判によってでもお選びあそばそうと、内々に仰せられましたが、似つかわしくないことだと、どうしてお思いになるでしょう。<BR>⏎ 宮仕えというものは、帝の恩顧を期待して、身分の高い者も低い者も出仕するというのが、理想が高いというものです。一般職の役職に就いて、そうした所の役所を取り仕切り、公事に関する事務を処理するようなことは、何でもない、重々しくないように思われていますが、どうしてまたそのようなことがありましょうか。ただ,自分自身の心がけ次第で、万事決まるようでございましょうというふうに、気持ちが傾いてきましたところです。<BR>⏎ |
| c1 | 124 | なるほど、時期も悪いと思い止まっていたのですが、ご病気もよろしくいらっしゃるようですから、やはり、このように考え出しました機会にと存じております。そのようにお伝え下さいませ」<BR>⏎ | 110 | なるほど,時期も悪いと思い止まっていたのですが、ご病気もよろしくいらっしゃるようですから、やはり,このように考え出しました機会にと存じております。そのようにお伝え下さいませ」<BR>⏎ |
| c2 | 126-127 | 「それは、それは、一体どうしたことでございましょうか。あちらでは、いろいろとこのような名乗って出て来る人を、かまわずに迎え取っているようですが、どのような考えで、このように間違えて申し出たのでしょう。近年になってから、お噂を伺って、お子になったのでしょうか」<BR>⏎ と、お尋ねなさるので、<BR>⏎ | 112-113 | 「それは,それは、一体どうしたことでございましょうか。あちらでは、いろいろとこのような名乗って出て来る人を、かまわずに迎え取っているようですが、どのような考えで、このように間違えて申し出たのでしょう。近年になってから、お噂を伺って、お子になったのでしょうか」<BR>⏎ と,お尋ねなさるので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 129-130 | と、お口止め申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 115 | と,お口止め申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version29 | 131 | <A NAME="in24">[第四段 大宮、内大臣を招く]</A><BR> | 116 | |
| c2 | 133-134 | 「どんなに人少なの状態で、威勢の盛んな御方をお迎え申されているのだろう。御前駆どもを接待し、お座席を、整える女房も、きっと気の利いた者はいないだろう。中将は、お供をなさっていることだろう」<BR>⏎ などと、驚きなさって、ご子息の公達や、親しく出入りしているしかるべき廷臣たちを、差し向けなさる。<BR>⏎ | 118-119 | 「どんなに人少なの状態で、威勢の盛んな御方をお迎え申されているのだろう。御前駆どもを接待し、お座席を,整える女房も、きっと気の利いた者はいないだろう。中将は、お供をなさっていることだろう」<BR>⏎ などと,驚きなさって、ご子息の公達や、親しく出入りしているしかるべき廷臣たちを、差し向けなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 137-138 | 「六条の大臣がお見舞いにいらっしゃっているが、人少なな感じが致しますので、人目も体裁も悪く、もったいなくもあるので、仰々しくこのように申し上げたようにではなく、お越しになりませんか。お目にかかって申し上げたいそうなこともあるそうです」<BR>⏎ と、お申し上げなさった。<BR>⏎ | 122-123 | 「六条の大臣がお見舞いにいらっしゃっているが、人少なな感じが致しますので、人目も体裁も悪く、もったいなくもあるので、仰々しく このように申し上げたようにではなく、お越しになりませんか。お目にかかって申し上げたいそうなこともあるそうです」<BR>⏎ と,お申し上げなさった。<BR>⏎ |
| c1 | 140 | 「お二人が心を合わせておっしゃろうとすることだな」とお思いになると、「ますます反対のしようのないことだが、また、どうしてすぐに承知する必要があろうか」と躊躇されるのは、じつによからぬあいにくなご性分である。「しかし、宮がこのようにおっしゃり、大臣も会おうとお待ちになっているとか、どちらに対しても恐れ多い。参上してからご意向に従おう」<BR>⏎ | 125 | 「お二人が心を合わせておっしゃろうとすることだな」とお思いになると、「ますます反対のしようのないことだが、また,どうしてすぐに承知する必要があろうか」と躊躇されるのは、じつによからぬあいにくなご性分である。「しかし,宮がこのようにおっしゃり、大臣も会おうとお待ちになっているとか、どちらに対しても恐れ多い。参上してから ご意向に従おう」<BR>⏎ |
| d1 | 142 | <P>⏎ | ||
| version29 | 143 | <A NAME="in25">[第五段 内大臣、三条宮邸に参上]</A><BR> | 127 | |
| d1 | 147 | <P>⏎ | ||
| version29 | 148 | <A NAME="in26">[第六段 源氏、内大臣と対面]</A><BR> | 131 | |
| c1 | 153 | などと、意味ありげにおっしゃると、あの姫君のことだろうかとお思いになって、厄介なことだと、恐縮した態度でいらっしゃる。<BR>⏎ | 136 | などと,意味ありげにおっしゃると、あの姫君のことだろうかとお思いになって、厄介なことだと、恐縮した態度でいらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 155 | それ以外のことでは、まったく変わるところはありません。特に何ということもなく年をとって行くにつれて、昔のことが懐しくなったのに、お目にかかることもほとんどなくなって行くばかりですので、身分柄きまりがあって、威儀あるお振る舞いをしなければとは存じながらも、親しい間柄では、そのご威勢もお控え下さって、お訪ね下さったらよいのにと、恨めしく思うことが度々ございます」<BR>⏎ | 138 | それ以外のことでは、まったく変わるところはありません。特に何ということもなく年をとって行くにつれて、昔のことが懐しくなったのに、お目にかかることもほとんどなくなって行くばかりですので、身分柄きまりがあって、威儀あるお振る舞いをしなければとは存じながらも、親しい間柄では、そのご威勢も お控え下さって、お訪ね下さったらよいのにと、恨めしく思うことが度々ございます」<BR>⏎ |
| c1 | 158 | などと、お詫びを申し上げなさる。<BR>⏎ | 141 | などと,お詫びを申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 160 | 「まことに感慨深く、またとなく珍しいことでございますね」と、何よりも先お泣きになって、「その当時からどうしてしまったのだろうと捜しておりましたことは、何の機会でございましたでしょうか、悲しさに我慢できず、お話しお耳に入れましたような気が致します。今このように、少しは一人前にもなりまして、つまらない子供たちが、それぞれの縁故を頼ってうろうろ致しておりますのを、体裁が悪く、みっともないと思っておりますにつけても、またそれはそれとして、数々いる子供の中では、不憫だと思われる時々につけても、真っ先に思い出されるのです」<BR>⏎ | 143 | 「まことに感慨深く、またとなく珍しいことでございますね」と、何よりも先お泣きになって、「その当時から どうしてしまったのだろうと捜しておりましたことは、何の機会でございましたでしょうか、悲しさに我慢できず、お話しお耳に入れましたような気が致します。今このように、少しは一人前にもなりまして、つまらない子供たちが、それぞれの縁故を頼ってうろうろ致しておりますのを、体裁が悪く、みっともないと思っておりますにつけても、またそれはそれとして、数々いる子供の中では、不憫だと思われる時々につけても、真っ先に思い出されるのです」<BR>⏎ |
| d1 | 162 | <P>⏎ | ||
| version29 | 163 | <A NAME="in27">[第七段 源氏、内大臣、三条宮邸を辞去]</A><BR> | 145 | |
| c3 | 165-167 | 「このように参上してご一緒しては、まったく、古くなってしまった昔の事が、自然と思い出されて、懐しい気持ちが抑えきれずに、帰る気も致しません」<BR>⏎ とおっしゃって、決して気弱くはいらっしゃらない六条殿も、酔い泣きなのか、涙をお流しになる。宮は宮で言うまでもなく、姫君のお身の上をお思い出しになって、昔に優るご立派な様子、ご威勢を拝見なさると、悲しみが尽きないで、涙をとどめることができず、しおしおとお泣きになる尼姿は、なるほど格別な風情であった。<BR>⏎ このようなよい機会であるが、中将のおんことは、お口に出さずに終わってしまった。一ふし思いやりがないとお思いであったので、口に出すことも体裁悪くお考えやめになり、あの内大臣はまた内大臣で、お言葉もないのに出過ぎることができずに、そうはいうものの胸の晴れない気持ちがなさるのであった。<BR>⏎ | 147-149 | 「このように参上してご一緒しては、まったく,古くなってしまった昔の事が、自然と思い出されて、懐しい気持ちが抑えきれずに、帰る気も致しません」<BR>⏎ とおっしゃって,決して気弱くはいらっしゃらない六条殿も、酔い泣きなのか、涙をお流しになる。宮は宮で言うまでもなく、姫君のお身の上をお思い出しになって、昔に優るご立派な様子、ご威勢を拝見なさると、悲しみが尽きないで、涙をとどめることができず、しおしおとお泣きになる尼姿は、なるほど格別な風情であった。<BR>⏎ このようなよい機会であるが、中将のおんことは、お口に出さずに終わってしまった。一ふし思いやりがないとお思いであったので、口に出すことも体裁悪くお考えやめになり、あの内大臣はまた内大臣で,お言葉もないのに出過ぎることができずに、そうはいうものの胸の晴れない気持ちがなさるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 170 | 「それでは、こちらのご病気もよろしいようにお見えになるので、きっと申し上げた日をお間違えにならず、お出で下さるように」とのこと、お約束なさる。<BR>⏎ | 152 | 「それでは,こちらのご病気もよろしいようにお見えになるので、きっと申し上げた日をお間違えにならず、お出で下さるように」とのこと、お約束なさる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 173-175 | 「また、どのようなご譲与があったのだろうか」<BR>⏎ などと、勘違いをして、このようなこととは思いもかけなかったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 155-156 | 「また,どのようなご譲与があったのだろうか」<BR>⏎ などと,勘違いをして、このようなこととは思いもかけなかったのであった。<BR>⏎ |
| version29 | 176 | <H4>第三章 玉鬘の物語 裳着の物語</H4> | 157 | |
| version29 | 177 | <A NAME="in31">[第一段 内大臣、源氏の意向に従う]</A><BR> | 158 | |
| c1 | 179 | 「さっと、そのように迎え取って、親らしくするのも不都合だろう。捜し出して手にお入れになった当初のことを想像すると、きっと潔白なまま放っておかれることはあるまい。れっきとした夫人方の手前を遠慮して、はっきりと愛人としては扱わず、そうはいっても面倒なことで、世間の評判を思って、このように打ち明けたのだろう」<BR>⏎ | 160 | 「さっと,そのように迎え取って、親らしくするのも不都合だろう。捜し出して手にお入れになった当初のことを想像すると、きっと潔白なまま放っておかれることはあるまい。れっきとした夫人方の手前を遠慮して、はっきりと愛人としては扱わず、そうはいっても面倒なことで、世間の評判を思って、このように打ち明けたのだろう」<BR>⏎ |
| c3 | 181-183 | 「そのことを瑕としなくてはならないことだろうか。こちらから進んで、あちらのお側に差し上げたとしても、どうして評判の悪いことがあろうか。宮仕えなさるようなことになったら、女御などがどうお思いになることも、おもしろくないことだ」とお考えになるが、「どちらにせよ、ご決定されおっしゃったことに背くことができようか」<BR>⏎ と、いろいろとお考えになるのであった。<BR>⏎ このようなお話があったのは、二月上旬のことであった。十六日が彼岸の入りで、たいそう吉い日であった。近くにまた吉い日はないと占い申した上に、宮も少しおよろしかったので、急いでご準備なさって、いつものようにお越しになっても、内大臣にお打ち明けになった様子などを、たいそう詳細に、当日の心得などをお教え申し上げなさると、<BR>⏎ | 162-164 | 「そのことを瑕としなくてはならないことだろうか。こちらから進んで、あちらのお側に差し上げたとしても、どうして評判の悪いことがあろうか。宮仕えなさるようなことになったら、女御などがどうお思いになることも,おもしろくないことだ」とお考えになるが、「どちらにせよ、ご決定されおっしゃったことに背くことができようか」<BR>⏎ と,いろいろとお考えになるのであった。<BR>⏎ このようなお話があったのは、二月上旬のことであった。十六日が彼岸の入りで、たいそう吉い日であった。近くにまた吉い日はないと占い申した上に、宮も少しおよろしかったので、急いでご準備なさって、いつものようにお越しになっても、内大臣にお打ち明けになった様子などを、たいそう詳細に,当日の心得などをお教え申し上げなさると、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 188-189 | と、合点のゆくことがあるが、あの冷淡な姫君のご様子よりも、さらにたまらなく思い出されて、「思いも寄らないことだった」と、ばかばかしい気がする。けれども、「あってはならないこと。筋違いなことだ」と、反省することは、珍しいくらいの誠実さのようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 169 | と,合点のゆくことがあるが、あの冷淡な姫君のご様子よりも、さらにたまらなく思い出されて、「思いも寄らないことだった」と、ばかばかしい気がする。けれども,「あってはならないこと,筋違いなことだ」と、反省することは、珍しいくらいの誠実さのようである。<BR>⏎ |
| version29 | 190 | <A NAME="in32">[第二段 二月十六日、玉鬘の裳着の儀]</A><BR> | 170 | |
| cd3:2 | 193-195 | どちらの方から言いましてもあなたはわたしにとって<BR>⏎ 切っても切れない孫に当たる方なのですね」<BR>⏎ と、たいそう古風に震えてお書きになっているのを、殿もこちらにいらっしゃって、準備をお命じになっている時なので、御覧になって、<BR>⏎ | 173-174 | どちらの方から言いましてもあなたはわたしにとって<BR> 切っても切れない孫に当たる方なのですね」<BR>⏎ と,たいそう古風に震えてお書きになっているのを、殿もこちらにいらっしゃって、準備をお命じになっている時なので、御覧になって、<BR>⏎ |
| c1 | 197 | などと、繰り返し御覧になって、<BR>⏎ | 176 | などと,繰り返し御覧になって、<BR>⏎ |
| d1 | 200 | <P>⏎ | ||
| version29 | 201 | <A NAME="in33">[第三段 玉鬘の裳着への祝儀の品々]</A><BR> | 179 | |
| c2 | 206-207 | 「お見知り戴くような数にも入らない者でございませんので、遠慮致しておりましたが、このような時は知らないふりもできにくうございまして。これは、とてもつまらない物ですが、女房たちにでもお与え下さい」<BR>⏎ と、おっとり書いてある。殿が、御覧になって、たいそうあきれて、例によって、とお思いになると、お顔が赤くなった。<BR>⏎ | 184-185 | 「お見知り戴くような数にも入らない者でございませんので、遠慮致しておりましたが、このような時は知らないふりもできにくうございまして。これは,とてもつまらない物ですが、女房たちにでもお与え下さい」<BR>⏎ と,おっとり書いてある。殿が、御覧になって、たいそうあきれて、例によって、とお思いになると、お顔が赤くなった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 210-211 | 「わたし自身が恨めしく思われます<BR>⏎ あなたのお側にいつもいることができないと思いますと」<BR>⏎ | 188 | 「わたし自身が恨めしく思われます<BR> あなたのお側にいつもいることができないと思いますと」<BR>⏎ |
| c3 | 214-216 | と、お気の毒にお思いになる。<BR>⏎ 「どれ、この返事は、忙しくても、わたしがしよう」<BR>⏎ とおっしゃって、<BR>⏎ | 191-193 | と,お気の毒にお思いになる。<BR>⏎ 「どれ,この返事は、忙しくても、わたしがしよう」<BR>⏎ とおっしゃって,<BR>⏎ |
| cd3:2 | 218-220 | と、憎らしさのあまりにお書きになって、<BR>⏎ 「唐衣、また唐衣、唐衣<BR>⏎ いつもいつも唐衣とおっしゃいますね」<BR>⏎ | 195-196 | と,憎らしさのあまりにお書きになって、<BR>⏎ 「唐衣、また唐衣、唐衣<BR> いつもいつも唐衣とおっしゃいますね」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 223-226 | と言って、お見せなさると、姫君は、たいそう顔を赤らめてお笑いになって、<BR>⏎ 「まあ、お気の毒なこと。からかったように見えますわ」<BR>⏎ と、気の毒がりなさる。つまらない話が多かったことよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 199-201 | と言って,お見せなさると、姫君は、たいそう顔を赤らめてお笑いになって、<BR>⏎ 「まあ,お気の毒なこと。からかったように見えますわ」<BR>⏎ と,気の毒がりなさる。つまらない話が多かったことよ。<BR>⏎ |
| version29 | 227 | <A NAME="in34">[第四段 内大臣、腰結に役を勤める]</A><BR> | 202 | |
| c1 | 235 | 「おっしゃる通り、まったく何とも申し上げようもございません」<BR>⏎ | 210 | 「おっしゃる通り,まったく何とも申し上げようもございません」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 239-243 | 「恨めしいことですよ。玉裳を着る<BR>⏎ 今日まで隠れていた人の心が」<BR>⏎ と言って、やはり隠し切れず涙をお流しになる。姫君は、とても立派なお二方が集まっており、気恥ずかしさに、お答え申し上げることがおできになれないので、殿が、<BR>⏎ 「寄る辺がないので、このようなわたしの所に身を寄せて<BR>⏎ 誰にも捜してもらえない気の毒な子だと思っておりました<BR>⏎ | 214-216 | 「恨めしいことですよ.玉裳を着る<BR> 今日まで隠れていた人の心が」<BR>⏎ と言って,やはり隠し切れず涙をお流しになる。姫君は、とても立派なお二方が集まっており、気恥ずかしさに、お答え申し上げることがおできになれないので、殿が、<BR>⏎ 「寄る辺がないので、このようなわたしの所に身を寄せて<BR> 誰にも捜してもらえない気の毒な子だと思っておりました<BR>⏎ |
| c1 | 245 | と、お答え申し上げなさると、<BR>⏎ | 218 | と,お答え申し上げなさると、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 247-248 | と、それ以上申し上げる言葉もなくて、退出なさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 220 | と,それ以上申し上げる言葉もなくて、退出なさった。<BR>⏎ |
| version29 | 249 | <A NAME="in35">[第五段 祝賀者、多数参上]</A><BR> | 221 | |
| c2 | 250-251 | 親王たちや、次々の、人々が残らずお祝いに参上なさった。思いを寄せている方々も大勢混じっていらっしゃったので、この内大臣が、このように中にお入りになって暫く時間がたつので、どうしたことか、とお疑いになっていた。<BR>⏎ あの殿のご子息の中将や、弁の君だけは、かすかにご存知だったのであった。密かに思いを懸けていたことを、辛いこととも、また嬉しいこととも、お思いになる。弁の君は、<BR>⏎ | 222-223 | 親王たちや、次々の、人々が残らずお祝いに参上なさった。思いを寄せている方々も大勢混じっていらっしゃったので、この内大臣が、このように中にお入りになって暫く時間がたつので、どうしたことか,とお疑いになっていた。<BR>⏎ あの殿のご子息の中将や,弁の君だけは、かすかにご存知だったのであった。密かに思いを懸けていたことを、辛いこととも,また嬉しいこととも,お思いになる。弁の君は、<BR>⏎ |
| c2 | 253-254 | などと、めいめい言っているのをお聞きになるが、<BR>⏎ 「やはり、暫くの間はご注意なさって、世間から非難されないようにお扱い下さい。何事も、気楽な身分の人には、みだらなことがままあるでしょうが、こちらもそちらも、いろいろな人が噂して悩まされようなことがあっては、普通の身分の人よりも困ることですから、穏やかに、だんだんと世間の目が馴れて行くようにするのが、良いことでございましょう」<BR>⏎ | 225-226 | などと,めいめい言っているのをお聞きになるが、<BR>⏎ 「やはり,暫くの間はご注意なさって、世間から非難されないようにお扱い下さい。何事も、気楽な身分の人には、みだらなことがままあるでしょうが、こちらもそちらも、いろいろな人が噂して悩まされようなことがあっては、普通の身分の人よりも困ることですから、穏やかに、だんだんと世間の目が馴れて行くようにするのが、良いことでございましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 261 | と、身を入れてお願い申し上げなさるが、<BR>⏎ | 233 | と,身を入れてお願い申し上げなさるが、<BR>⏎ |
| c1 | 266 | などと、かえって焦れったく恋しく思い申し上げなさる。<BR>⏎ | 238 | などと,かえって焦れったく恋しく思い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 268 | <P>⏎ | ||
| version29 | 269 | <A NAME="in36">[第六段 近江の君、玉鬘を羨む]</A><BR> | 240 | |
| c4 | 270-273 | 世間の人の口の端のために、「暫くの間はこのことを上らないように」と、特にお隠しになっていたが、おしゃべりなのは世間の人であった。自然と噂が流れ流れて、だんだんと評判になって来たのを、あの困り者の姫君が聞いて、女御の御前に、中将や、少将が伺候していらっしゃる所に出て来て、<BR>⏎ 「殿は、姫君をお迎えあそばすそうですね。まあ、おめでたいこと。どのような方が、お二方に大切にされるのでしょう。聞けば、その人も賤しいお生まれですね」<BR>⏎ と、無遠慮におっしゃるので、女御は、はらはらなさって、何ともおっしゃらない。中将が、<BR>⏎ 「そのように、大切にされるわけがおありなのでしょう。それにしても、誰が言ったことを、このように唐突におっしゃるのですか。口うるさい女房たちが、耳にしたらたいへんだ」<BR>⏎ | 241-244 | 世間の人の口の端のために、「暫くの間はこのことを上らないように」と、特にお隠しになっていたが、おしゃべりなのは世間の人であった。自然と噂が流れ流れて、だんだんと評判になって来たのを、あの困り者の姫君が聞いて、女御の御前に、中将や,少将が伺候していらっしゃる所に出て来て、<BR>⏎ 「殿は、姫君をお迎えあそばすそうですね。まあ,おめでたいこと。どのような方が、お二方に大切にされるのでしょう。聞けば、その人も賤しいお生まれですね」<BR>⏎ と,無遠慮におっしゃるので、女御は、はらはらなさって、何ともおっしゃらない。中将が、<BR>⏎ 「そのように、大切にされるわけがおありなのでしょう。それにしても,誰が言ったことを、このように唐突におっしゃるのですか。口うるさい女房たちが、耳にしたらたいへんだ」<BR>⏎ |
| c1 | 276 | と、恨み言をいうので、みなにやにやして、<BR>⏎ | 247 | と,恨み言をいうので、みなにやにやして、<BR>⏎ |
| c2 | 279-280 | 「立派なご兄姉の中に、人数にも入らない者は、仲間入りすべきではなかったのだわ。中将の君はひどくていらっしゃる。自分からかってにお迎えになって、軽蔑し馬鹿になさる。普通の人では、とても住んでいられない御殿の中ですわ。ああ、恐い。ああ、恐い」<BR>⏎ と、後ろの方へいざり下がって、睨んでいらっしゃる。憎らしくもないが、たいそう意地悪そうに目尻をつり上げている。<BR>⏎ | 250-251 | 「立派なご兄姉の中に、人数にも入らない者は、仲間入りすべきではなかったのだわ。中将の君はひどくていらっしゃる。自分からかってにお迎えになって、軽蔑し馬鹿になさる。普通の人では、とても住んでいられない御殿の中ですわ。ああ,恐い。ああ,恐い」<BR>⏎ と,後ろの方へいざり下がって、睨んでいらっしゃる。憎らしくもないが、たいそう意地悪そうに目尻をつり上げている。<BR>⏎ |
| c1 | 283 | と、にやにやして言っていらっしゃる。中将も、<BR>⏎ | 254 | と,にやにやして言っていらっしゃる。中将も、<BR>⏎ |
| c1 | 285 | と言って、立ってしまったので、ぽろぽろと涙をこぼして、<BR>⏎ | 256 | と言って,立ってしまったので、ぽろぽろと涙をこぼして、<BR>⏎ |
| c2 | 287-288 | と言って、とても簡単に、精を出して、下働きの女房や童女などが行き届かない雑用などをも、走り回り、気軽にあちこち歩き回っては、真心をこめて宮仕えして、<BR>⏎ 「尚侍に、わたしを、推薦して下さい」<BR>⏎ | 258-259 | と言って,とても簡単に、精を出して、下働きの女房や童女などが行き届かない雑用などをも、走り回り、気軽にあちこち歩き回っては、真心をこめて宮仕えして、<BR>⏎ 「尚侍に、わたしを,推薦して下さい」<BR>⏎ |
| d1 | 290 | <P>⏎ | ||
| version29 | 291 | <A NAME="in37">[第七段 内大臣、近江の君を愚弄]</A><BR> | 261 | |
| c1 | 293 | 「どこですか、これ、近江の君。こちらに」<BR>⏎ | 263 | 「どこですか、これ,近江の君。こちらに」<BR>⏎ |
| c4 | 296-299 | と、とてもはっきりと答えて、出て来た。<BR>⏎ 「たいそう、よくお仕えしているご様子は、お役人としても、なるほどどんなにか適任であろう。尚侍のことは、どうして、わたしに早く言わなかったのですか」<BR>⏎ と、たいそう真面目な態度でおっしゃるので、とても嬉しく思って、<BR>⏎ 「そのように、ご内意をいただきとうございましたが、こちらの女御様が、自然とお伝え申し上げなさるだろうと、精一杯期待しておりましたのに、なる予定の人がいらっしゃるようにうかがいましたので、夢の中で金持になったような気がしまして、胸に手を置いたようでございます」<BR>⏎ | 266-269 | と,とてもはっきりと答えて、出て来た。<BR>⏎ 「たいそう,よくお仕えしているご様子は、お役人としても、なるほどどんなにか適任であろう。尚侍のことは、どうして,わたしに早く言わなかったのですか」<BR>⏎ と,たいそう真面目な態度でおっしゃるので、とても嬉しく思って、<BR>⏎ 「そのように,ご内意をいただきとうございましたが、こちらの女御様が、自然とお伝え申し上げなさるだろうと、精一杯期待しておりましたのに、なる予定の人がいらっしゃるようにうかがいましたので、夢の中で金持になったような気がしまして、胸に手を置いたようでございます」<BR>⏎ |
| c1 | 302 | などと、たいそううまくおだましになる。人の親らしくない、見苦しいことであるよ。<BR>⏎ | 272 | などと,たいそううまくおだましになる。人の親らしくない、見苦しいことであるよ。<BR>⏎ |
| c1 | 304 | と言って、両手を擦り合わせて申し上げていた。御几帳の後ろなどにいて聞いている女房は、死にそうなほどおかしく思う。おかしさに我慢できない者は、すべり出して、ほっと息をつくのであった。女御もお顔が赤くなって、とても見苦しいと思っておいでであった。殿も、<BR>⏎ | 274 | と言って,両手を擦り合わせて申し上げていた。御几帳の後ろなどにいて聞いている女房は、死にそうなほどおかしく思う。おかしさに我慢できない者は、すべり出して、ほっと息をつくのであった。女御もお顔が赤くなって、とても見苦しいと思っておいでであった。殿も、<BR>⏎ |
| c1 | 306 | と言って、ただ笑い者にしていらっしゃるが、世間の人は、<BR>⏎ | 276 | と言って,ただ笑い者にしていらっしゃるが、世間の人は、<BR>⏎ |
| cd3:1 | 308-310 | などと、いろいろと言うのであった。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 278 | などと,いろいろと言うのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 317 | ⏎ | ||
| i0 | 289 | |||
| diff | src/original/version30.html | src/modified/version30.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version30 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 36 | <P>⏎ | ||
| version30 | 37 | <H4>第一章 玉鬘の物語 玉鬘と夕霧との新関係</H4> | 33 | |
| version30 | 38 | <A NAME="in11">[第一段 玉鬘、内侍出仕前の不安]</A><BR> | 34 | |
| cd2:1 | 40-41 | 「どうしたものだろうか。親とお思い申し上げる方のお気持ちでさえ、気を許すことのできない世の中なので、ましてそのような宮仕えにつけて、思いがけない不都合なことが生じたら、中宮にも女御にも、それぞれ気まずい思いをお持ちになったら、立つ瀬がなくなるだろうから、自分の身の上はこのように頼りない状態で、どちらの親からも深く愛していただける縁もなく、世間からも軽く見られているので、いろいろと取り沙汰されたり、何とか物笑いの種にしようと呪っている人々も多く、何かにつけて、嫌なことばかりあるにちがいない」<BR>⏎ からと、分別のないお年頃でもないから、いろいろとお思い悩んで、独り嘆いていらっしゃる。<BR>⏎ | 36 | 「どうしたものだろうか。親とお思い申し上げる方のお気持ちでさえ、気を許すことのできない世の中なので、ましてそのような宮仕えにつけて、思いがけない不都合なことが生じたら、中宮にも女御にも、それぞれ気まずい思いをお持ちになったら、立つ瀬がなくなるだろうから、自分の身の上はこのように頼りない状態で、どちらの親からも深く愛していただける縁もなく、世間からも軽く見られているので、いろいろと取り沙汰されたり、何とか物笑いの種にしようと呪っている人々も多く、何かにつけて、嫌なことばかりあるにちがいない」からと、分別のないお年頃でもないから、いろいろとお思い悩んで、独り嘆いていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 44 | と、かえって実の親をお捜し当てなさった後は、とくに遠慮なさるご様子もない大臣の君のお扱いを加え加えして、独り嘆いているのであった。<BR>⏎ | 39 | と,かえって実の親をお捜し当てなさった後は、とくに遠慮なさるご様子もない大臣の君のお扱いを加え加えして、独り嘆いているのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 46 | <P>⏎ | ||
| version30 | 47 | <A NAME="in12">[第二段 夕霧、源氏の使者として玉鬘を訪問]</A><BR> | 41 | |
| c1 | 50 | お返事は、おっとりとしたものの、たいそう難のなくお答え申し上げなさる態度が、いかにも才気があって女性らしいのにつけても、あの野分の朝のお顔が心にかかって恋しいので、いやなことだと思ったが、真相を聞き知ってから後は、やはり平静ではいられない気持ちが加わって、<BR>⏎ | 44 | お返事は、おっとりとしたものの、たいそう難のなくお答え申し上げなさる態度が、いかにも才気があって女性らしいのにつけても、あの野分の朝のお顔が 心にかかって恋しいので、いやなことだと思ったが、真相を聞き知ってから後は、やはり平静ではいられない気持ちが加わって、<BR>⏎ |
| d1 | 55 | <P>⏎ | ||
| version30 | 56 | <A NAME="in13">[第三段 夕霧、玉鬘に言い寄る]</A><BR> | 49 | |
| c1 | 62 | 「世間の人に知られまいと、隠していらっしゃるのが、たいそう情ないのです。恋しくてたまらなく存じました方の形見なので、脱いでしまいますのも、たいそう辛うございますのに。それにしても、不思議にご縁のありますことが、また腑に落ちないのでございます。この喪服の色を着ていなかったら、とても分からなかったことでしょう」<BR>⏎ | 55 | 「世間の人に知られまいと、隠していらっしゃるのが、たいそう情ないのです。恋しくてたまらなく存じました方の形見なので、脱いでしまいますのも、たいそう辛うございますのに。それにしても,不思議にご縁のありますことが、また腑に落ちないのでございます。この喪服の色を着ていなかったら、とても分からなかったことでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 65-66 | と言って、いつもよりしんみりしたご様子、たいそう可憐で美しい。<BR>⏎ <P>⏎ | 58 | と言って,いつもよりしんみりしたご様子、たいそう可憐で美しい。<BR>⏎ |
| version30 | 67 | <A NAME="in14">[第四段 夕霧、玉鬘と和歌を詠み交す]</A><BR> | 59 | |
| cd3:2 | 70-72 | と言って、すぐには手放さないで持っていらっしゃったので、全然気づかないで、お取りになろうとするお袖を引いた。<BR>⏎ 「あなたと同じ野の露に濡れて萎れている藤袴です<BR>⏎ やさしい言葉をかけて下さい、ほんの申し訳にでも」<BR>⏎ | 62-63 | と言って,すぐには手放さないで持っていらっしゃったので、全然気づかないで、お取りになろうとするお袖を引いた。<BR>⏎ 「あなたと同じ野の露に濡れて萎れている藤袴です<BR> やさしい言葉をかけて下さい、ほんの申し訳にでも」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 74-75 | 「尋ねてみて遥かに遠い野辺の露だったならば<BR>⏎ 薄紫のご縁とは言いがかりでしょう<BR>⏎ | 65 | 「尋ねてみて遥かに遠い野辺の露だったならば<BR> 薄紫のご縁とは言いがかりでしょう<BR>⏎ |
| c2 | 79-80 | 頭中将の気持ちはご存知でしたか。他人事のように、どうして思ったのでございましょう。自分の身になってみて、たいそう愚かなことだと、その一方でよく分りました。かえってあの君は落ち着いていて、結局、ご姉弟の縁の切れないことをあてにして、思い慰めている様子などを拝見致しますのも、たいそう羨ましく憎らしいので、せめてかわいそうだとでもお心に留めてやってください」<BR>⏎ などと、こまごまと申し上げなさることが多かったが、どうかと思われるので書かないのである。<BR>⏎ | 69-70 | 頭中将の気持ちはご存知でしたか。他人事のように、どうして思ったのでございましょう。自分の身になってみて、たいそう愚かなことだと、その一方でよく分りました。かえって、あの君は落ち着いていて、結局,ご姉弟の縁の切れないことをあてにして、思い慰めている様子などを拝見致しますのも、たいそう羨ましく憎らしいので、せめてかわいそうだとでもお心に留めてやってください」<BR>⏎ などと,こまごまと申し上げなさることが多かったが、どうかと思われるので書かないのである。<BR>⏎ |
| c1 | 83 | と言って、このような機会に、もう少し打ち明けたいのだが、<BR>⏎ | 73 | と言って,このような機会に、もう少し打ち明けたいのだが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 85-86 | と言って、すっかり入っておしまいになったので、とてもひどくお嘆きになってお立ちになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 75 | と言って,すっかり入っておしまいになったので、とてもひどくお嘆きになってお立ちになった。<BR>⏎ |
| version30 | 87 | <A NAME="in15">[第五段 夕霧、源氏に復命]</A><BR> | 76 | |
| c1 | 88 | 「言わないでもよいことを言ってしまった」と、悔やまれるにつけても、あの、もう少し身にしみて恋しく思われた御方のご様子を、このような几帳越しにでも、「せめてかすかにお声だけでも、どのような機会に聞くことができようか」と、穏やかならず思いながら、殿の御前に参上なさると、お出ましになったので、ご報告など申し上げなさる。<BR>⏎ | 77 | 「言わないでもよいことを言ってしまった」と、悔やまれるにつけても、あの,もう少し身にしみて恋しく思われた御方のご様子を、このような几帳越しにでも、「せめてかすかにお声だけでも、どのような機会に聞くことができようか」と、穏やかならず思いながら、殿の御前に参上なさると、お出ましになったので、ご報告など申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 90 | けれども、大原野の行幸に、主上を拝見なさってからは、たいそうご立派な方でいらっしゃったと、思っておいでであった。若い人は、ちらっとでも拝見しては、とても宮仕えのことを思い切れまい。そのように思って、このこともこうしたのだ」<BR>⏎ | 79 | けれども,大原野の行幸に、主上を拝見なさってからは、たいそうご立派な方でいらっしゃったと、思っておいでであった。若い人は、ちらっとでも拝見しては、とても宮仕えのことを思い切れまい。そのように思って、このこともこうしたのだ」<BR>⏎ |
| c2 | 92-93 | 「それにしても、お人柄は、どちらの方とご一緒になっても、相応しくいらっしゃるでしょう。中宮が、このように並ぶ者もない地位でいらっしゃいますし、また、弘徽殿女御も、立派な家柄で、ご寵愛も格別でいらっしゃるので、たいそうご寵愛を受けても、肩をお並べなさることは、難しいことでございましょう。<BR>⏎ 兵部卿宮は、たいそう熱心にお思いでいらっしゃるようですが、特別に、そうした筋合の宮仕えでなくても、無視されたようにお思い置かれなさるのも、ご兄弟の間柄では、たいそうお気の毒に存じられます」<BR>⏎ | 81-82 | 「それにしても,お人柄は、どちらの方とご一緒になっても、相応しくいらっしゃるでしょう。中宮が、このように並ぶ者もない地位でいらっしゃいますし、また,弘徽殿女御も、立派な家柄で、ご寵愛も格別でいらっしゃるので、たいそうご寵愛を受けても、肩をお並べなさることは、難しいことでございましょう。<BR>⏎ 兵部卿宮は、たいそう熱心にお思いでいらっしゃるようですが、特別に,そうした筋合の宮仕えでなくても、無視されたようにお思い置かれなさるのも、ご兄弟の間柄では、たいそうお気の毒に存じられます」<BR>⏎ |
| d1 | 95 | <P>⏎ | ||
| version30 | 96 | <A NAME="in16">[第六段 源氏の考え方]</A><BR> | 84 | |
| c3 | 97-99 | 「難しいことだ。自分の思いのままに行く人のことではないので、大将までが、わたしを恨んでいるそうだ。何事も、このような気の毒なことは見ていられないので、わけもなく人の恨みを負うのは、かえって軽率なことであった。あの母君が、しみじみと遺言したことを忘れなかったので、寂しい山里になどと聞いたが、あの内大臣は、やはり、お聞きになるはずもあるまいと訴えたので、気の毒に思って、このように引き取ることにしたのだ。わたしがこう大切にしていると聞いて、あの大臣も人並みの扱いをなさるようだ」<BR>⏎ と、もっともらしくおっしゃる。<BR>⏎ 「人柄は、宮の夫人としてたいそう適任であろう。今風な感じで、たいそう優美な感じがして、それでいて賢明で、間違いなどしそうになくて、夫婦仲もうまく行くだろう。そしてまた、宮仕えにも十分適しているだろう。器量もよく才気あるようだが、公務などにも暗いところがなく、てきぱきと処理して、主上がいつもお望みあそばすお考えには、外れないだろう」<BR>⏎ | 85-87 | 「難しいことだ。自分の思いのままに行く人のことではないので、大将までが、わたしを恨んでいるそうだ。何事も,このような気の毒なことは見ていられないので、わけもなく人の恨みを負うのは、かえって軽率なことであった。あの母君が、しみじみと遺言したことを忘れなかったので、寂しい山里になどと聞いたが、あの内大臣は、やはり,お聞きになるはずもあるまいと訴えたので、気の毒に思って、このように引き取ることにしたのだ。わたしがこう大切にしていると聞いて、あの大臣も人並みの扱いをなさるようだ」<BR>⏎ と,もっともらしくおっしゃる。<BR>⏎ 「人柄は、宮の夫人としてたいそう適任であろう。今風な感じで、たいそう優美な感じがして、それでいて賢明で、間違いなどしそうになくて、夫婦仲もうまく行くだろう。そしてまた、宮仕えにも 十分適しているだろう。器量もよく 才気あるようだが、公務などにも暗いところがなく、てきぱきと処理して、主上がいつもお望みあそばすお考えには、外れないだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 101 | 「長年このようにお育てなさったお気持ちを、変なふうに世間の人は噂申しているようです。あの大臣もそのように思って、大将が、あちらに伝を頼って申し込んできた時にも、答えました」<BR>⏎ | 89 | 「長年このようにお育てなさったお気持ちを、変なふうに世間の人は噂申しているようです。あの大臣も そのように思って、大将が、あちらに伝を頼って申し込んできた時にも、答えました」<BR>⏎ |
| c1 | 103 | 「それもこれもまったく違っていることだな。やはり、宮仕えでも、お許しがあって、そのようにとお考えになることに従うのがよいだろう。女は三つのことに従うものだというが、順序を取り違えて、わたしの考えにまかせることは、とんでもないことだ」<BR>⏎ | 91 | 「それもこれもまったく違っていることだな。やはり,宮仕えでも、お許しがあって、そのようにとお考えになることに従うのがよいだろう。女は三つのことに従うものだというが、順序を取り違えて、わたしの考えにまかせることは、とんでもないことだ」<BR>⏎ |
| d1 | 105 | <P>⏎ | ||
| version30 | 106 | <A NAME="in17">[第七段 玉鬘の出仕を十月と決定]</A><BR> | 93 | |
| c1 | 108 | と、たいそう改まった態度でお話し申し上げなさるので、「なるほど、そのようにお考えなのだろう」とお思いになると、気の毒になって、<BR>⏎ | 95 | と,たいそう改まった態度でお話し申し上げなさるので、「なるほど,そのようにお考えなのだろう」とお思いになると、気の毒になって、<BR>⏎ |
| c3 | 110-112 | とお笑いになる。ご様子はきっぱりしているが、やはり、疑問は残る。大臣も、<BR>⏎ 「やはりそうか。このように人は推量するのに、その思惑どおりのことがあったら、まことに残念でひねくれたようだろうに。あの内大臣に、何とかして、このような身の潔白なさまをお知らせ申したいものだ」<BR>⏎ とお思いになると、「なるほど、宮仕えということにして、はっきりと分からないようにごまかした懸想を、よくもお見抜きになったものだ」と、気味悪いほどに思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 97-99 | とお笑いになる。ご様子はきっぱりしているが、やはり,疑問は残る。大臣も、<BR>⏎ 「やはりそうか。このように人は推量するのに、その思惑どおりのことがあったら、まことに残念でひねくれたようだろうに。あの内大臣に、何とかして,このような身の潔白なさまをお知らせ申したいものだ」<BR>⏎ とお思いになると、「なるほど,宮仕えということにして、はっきりと分からないようにごまかした懸想を、よくもお見抜きになったものだ」と、気味悪いほどに思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| c1 | 117 | と、それぞれ返事をする。<BR>⏎ | 104 | と,それぞれ返事をする。<BR>⏎ |
| d1 | 119 | <P>⏎ | ||
| version30 | 120 | <H4>第二章 玉鬘の物語 玉鬘と柏木との新関係</H4> | 106 | |
| version30 | 121 | <A NAME="in21">[第一段 柏木、内大臣の使者として玉鬘を訪問]</A><BR> | 107 | |
| cd6:5 | 126-131 | と言って、おもしろくなく思っていらっしゃった。<BR>⏎ 「お言葉通り、これまでの積もる話なども加えて、申し上げたいのですが、ここのところ妙に気分がすぐれませんので、起き上がることなどもできずにおります。こんなにまでお責めになるのも、かえって疎ましい気持ちが致しますわ」<BR>⏎ と、たいそう真面目に申し上げさせなさった。<BR>⏎ 「ご気分がすぐれないとおっしゃる御几帳の側に、入れさせて下さいませんか。よいよい。なるほど、このようなことを申し上げるのも、気の利かないことだな」<BR>⏎ と言って、大臣のご伝言の数々をひっそりと申し上げなさる態度など、誰にも引けをおとりにならず、まことに結構である。<BR>⏎ <P>⏎ | 112-116 | と言って,おもしろくなく思っていらっしゃった。<BR>⏎ 「お言葉通り,これまでの積もる話なども加えて、申し上げたいのですが、ここのところ妙に気分がすぐれませんので、起き上がることなどもできずにおります。こんなにまでお責めになるのも、かえって疎ましい気持ちが致しますわ」<BR>⏎ と,たいそう真面目に申し上げさせなさった。<BR>⏎ 「ご気分がすぐれないとおっしゃる御几帳の側に、入れさせて下さいませんか。よいよい。なるほど,このようなことを申し上げるのも、気の利かないことだな」<BR>⏎ と言って,大臣のご伝言の数々をひっそりと申し上げなさる態度など、誰にも引けをおとりにならず、まことに結構である。<BR>⏎ |
| version30 | 132 | <A NAME="in22">[第二段 柏木、玉鬘と和歌を詠み交す]</A><BR> | 117 | |
| cd7:6 | 134-140 | などと、お話し申し上げるついでに、<BR>⏎ 「いやはや、馬鹿らしい手紙も、差し上げられないことです。どちらにしても、わたしの気持ちを知らないふりをなさってよいものかと、ますます恨めしい気持ちが増してくることです。まずは、今夜などの、このお扱いぶりですよ。奥向きといったようなお部屋に招き入れて、あなたたちはお嫌いになるでしょうが、せめて下女のような人たちとだけでも、話をしてみたいものですね。他ではこのような扱いはあるまい。いろいろと不思議な間柄ですね」<BR>⏎ と、首を傾けながら、恨みを言い続けているのもおもしろいので、これこれと申し上げる。<BR>⏎ 「おっしゃるとおり、他人の手前、急な変わりようだと言われはしまいかと気にしておりましたところ、長年の引き籠もっていた苦しさを、晴らしませんのは、かえってとてもつらいことが多うございます」<BR>⏎ と、ただ素っ気なくお答え申されるので、きまり悪くて、何も申し上げられずにいた。<BR>⏎ 「実の姉弟という関係を知らずに<BR>⏎ 遂げられない恋の道に踏み迷って文を贈ったことです」<BR>⏎ | 119-124 | などと,お話し申し上げるついでに、<BR>⏎ 「いやはや,馬鹿らしい手紙も、差し上げられないことです。どちらにしても、わたしの気持ちを知らないふりをなさってよいものかと、ますます恨めしい気持ちが増してくることです。まずは,今夜などの、このお扱いぶりですよ。奥向きといったようなお部屋に招き入れて、あなたたちはお嫌いになるでしょうが、せめて下女のような人たちとだけでも、話をしてみたいものですね。他ではこのような扱いはあるまい。いろいろと不思議な間柄ですね」<BR>⏎ と,首を傾けながら、恨みを言い続けているのもおもしろいので、これこれと申し上げる。<BR>⏎ 「おっしゃるとおり,他人の手前、急な変わりようだと言われはしまいかと気にしておりましたところ、長年の引き籠もっていた苦しさを、晴らしませんのは、かえってとてもつらいことが多うございます」<BR>⏎ と,ただ素っ気なくお答え申されるので、きまり悪くて、何も申し上げられずにいた。<BR>⏎ 「実の姉弟という関係を知らずに<BR> 遂げられない恋の道に踏み迷って文を贈ったことです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 143-144 | 「事情をご存知なかったとは知らず<BR>⏎ どうしてよいか分からないお手紙を拝見しました」<BR>⏎ | 127 | 「事情をご存知なかったとは知らず<BR> どうしてよいか分からないお手紙を拝見しました」<BR>⏎ |
| c2 | 147-148 | 「いや、長居をしますのも、時期尚早の感じだ。だんだんお役にたってから、恨み言も」<BR>⏎ とおっしゃって、お立ちになる。<BR>⏎ | 130-131 | 「いや,長居をしますのも、時期尚早の感じだ。だんだんお役にたってから、恨み言も」<BR>⏎ とおっしゃって,お立ちになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 150-151 | 宰相中将の感じや、容姿には、並ぶことはおできになれないが、こちらも立派に見えるのは、「どうしてこう揃いも揃って美しいご一族なのだろう」と、若い女房たちは、例によって、さほどでもないことをもとり立ててほめ合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 133 | 宰相中将の感じや,容姿には、並ぶことはおできになれないが、こちらも立派に見えるのは、「どうしてこう揃いも揃って美しいご一族なのだろう」と、若い女房たちは、例によって,さほどでもないことをもとり立ててほめ合っていた。<BR>⏎ |
| version30 | 152 | <H4>第三章 玉鬘の物語 玉鬘と鬚黒大将</H4> | 134 | |
| version30 | 153 | <A NAME="in31">[第一段 鬚黒大将、熱心に言い寄る]</A><BR> | 135 | |
| c1 | 154 | 大将は、この中将は同じ右近衛の次官なので、いつも呼んでは熱心に相談し、内大臣にも申し上げさせなさった。人柄もたいそうよく、朝廷の御後見となるはずの地盤も築いているので、「何の難があろうか」とお思いになる一方で、「あの大臣がこうお決めになったことを、どのように反対申し上げられようか。それにはそれだけの理由があるのだろう」と、合点なさることまであるので、お任せ申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 136 | 大将は、この中将は同じ右近衛の次官なので、いつも呼んでは 熱心に相談し、内大臣にも申し上げさせなさった。人柄もたいそうよく、朝廷の御後見となるはずの地盤も築いているので、「何の難があろうか」とお思いになる一方で、「あの大臣がこうお決めになったことを、どのように反対申し上げられようか。それにはそれだけの理由があるのだろう」と、合点なさることまであるので、お任せ申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 156 | 北の方は、紫の上の姉君である。式部卿宮の大君であるよ。年が三、四歳年長なのは、これといった欠点ではないが、人柄がどうでいらっしゃったのか、「おばあさん」と呼んで大事にもせず、何とかして離縁したい思っていた。<BR>⏎ | 138 | 北の方は、紫の上の姉君である。式部卿宮の大君であるよ。年が三,四歳年長なのは、これといった欠点ではないが、人柄がどうでいらっしゃったのか、「おばあさん」と呼んで大事にもせず、何とかして離縁したい思っていた。<BR>⏎ |
| c1 | 158 | 「あの大臣も、全く問題外だとお考えでないようだ。女は、宮仕えを億劫に思っていらっしゃるらしい」と、内々の様子も、しかるべき詳しいつてがあるので漏れ聞いて、<BR>⏎ | 140 | 「あの大臣も、全く問題外だとお考えでないようだ。女は、宮仕えを億劫に思っていらっしゃるらしい」と、内々の様子も、しかるべき詳しいつてがあるので 漏れ聞いて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 160-161 | と、この弁の御許にも催促なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 142 | と,この弁の御許にも催促なさる。<BR>⏎ |
| version30 | 162 | <A NAME="in32">[第二段 九月、多数の恋文が集まる]</A><BR> | 143 | |
| cd2:1 | 165-166 | 人並みであったら嫌いもしましょうに、九月を<BR>⏎ 頼みにしているとは、何とはかない身の上なのでしょう」<BR>⏎ | 146 | 人並みであったら嫌いもしましょうに、九月を<BR> 頼みにしているとは、何とはかない身の上なのでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 170-171 | 朝日さす帝の御寵愛を受けられたとしても<BR>⏎ 霜のようにはかないわたしのことを忘れないでください<BR>⏎ | 150 | 朝日さす帝の御寵愛を受けられたとしても<BR> 霜のようにはかないわたしのことを忘れないでください<BR>⏎ |
| c1 | 173 | とあって、たいそう萎れて折れた笹の下枝の霜も落とさず持参した使者までが、似つかわしい感じであるよ。<BR>⏎ | 152 | とあって,たいそう萎れて折れた笹の下枝の霜も落とさず持参した使者までが、似つかわしい感じであるよ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 175-176 | 「忘れようと思う一方でそれがまた悲しいのを<BR>⏎ どのようにしてどのようにしたらよいものでしょうか」<BR>⏎ | 154 | 「忘れようと思う一方でそれがまた悲しいのを<BR> どのようにしてどのようにしたらよいものでしょうか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 181-183 | 「自分から光に向かう葵でさえ<BR>⏎ 朝置いた霜を自分から消しましょうか」<BR>⏎ とうっすらと書いてあるのを、たいそう珍しく御覧になって、姫自身は宮の愛情を感じているに違いないご様子でいらっしゃるので、わずかであるがたいそう嬉しいのであった。<BR>⏎ | 159-160 | 「自分から光に向かう葵でさえ<BR> 朝置いた霜を自分から消しましょうか」<BR>⏎ とうっすらと書いてあるのを、たいそう珍しく御覧になって、姫自身は宮の愛情を感じているに違いないご様子でいらっしゃるので、わずかであるが たいそう嬉しいのであった。<BR>⏎ |
| d2 | 186-187 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 194 | ⏎ | ||
| i0 | 173 | |||
| diff | src/original/version31.html | src/modified/version31.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version31 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 60 | <P>⏎ | ||
| version31 | 61 | <H4>第一章 玉鬘の物語 玉鬘、鬚黒大将と結婚</H4> | 57 | |
| version31 | 62 | <A NAME="in11">[第一段 鬚黒、玉鬘を得る]</A><BR> | 58 | |
| c2 | 64-65 | 見れば見るほどにご立派で、理想的なご器量、様子を、「他人のものにしてしまうところであったよ」と思うだけでも胸がどきどきして、石山寺の観音も、弁の御許も並べて拝みたく思うが、女君がほんとうに不愉快だと嫌ったので、出仕もせずに自宅に引き籠もっているのであった。<BR>⏎ なるほど、たくさんお気の毒な例を、いろいろと見て来たが、思慮の浅い人のために、お寺の霊験が現れたのであった。<BR>⏎ | 60-61 | 見れば見るほどにご立派で、理想的なご器量,様子を、「他人のものにしてしまうところであったよ」と思うだけでも胸がどきどきして、石山寺の観音も、弁の御許も 並べて拝みたく思うが、女君がほんとうに不愉快だと嫌ったので、出仕もせずに自宅に引き籠もっているのであった。<BR>⏎ なるほど,たくさんお気の毒な例を、いろいろと見て来たが、思慮の浅い人のために、お寺の霊験が現れたのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 68 | 「やはり、ゆっくりと、波風を立てないようにして、騒がれないで、どこからも人の非難や妬みを受けないよう、お振る舞いなさい」<BR>⏎ | 64 | 「やはり,ゆっくりと、波風を立てないようにして、騒がれないで、どこからも人の非難や妬みを受けないよう、お振る舞いなさい」<BR>⏎ |
| d1 | 70 | <P>⏎ | ||
| version31 | 71 | <A NAME="in12">[第二段 内大臣、源氏に感謝]</A><BR> | 66 | |
| c1 | 74 | などと、内々におっしゃっているのであった。なるほど、帝だと申しても、人より軽くおぼし召し、時たまお目にかかりなさって、堂々としたお扱いをなさらなかったら、軽率な出仕ということになりかねないのであった。<BR>⏎ | 69 | などと,内々におっしゃっているのであった。なるほど,帝だと申しても、人より軽くおぼし召し、時たまお目にかかりなさって、堂々としたお扱いをなさらなかったら、軽率な出仕ということになりかねないのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 79 | <P>⏎ | ||
| version31 | 80 | <A NAME="in13">[第三段 玉鬘、宮仕えと結婚の新生活]</A><BR> | 74 | |
| c2 | 81-82 | 十一月になった。神事などが多く、内侍所にも仕事の多いころなので、女官連中、内侍連中が参上しては、はなやかに騒々しいので、大将殿は、昼もたいそう隠れたようにして籠もっていらっしゃるのを、たいそう気にくわなく、尚侍の君はお思いになっていた。<BR>⏎ 兵部卿宮などは、それ以上に残念にお思いになる。兵衛督は、妹の北の方の事までを外聞が悪いと嘆いて、重ね重ね憂鬱であったが、「馬鹿らしく、恨んでみても今はどうにもならない」と考え直す。<BR>⏎ | 75-76 | 十一月になった。神事などが多く、内侍所にも仕事の多いころなので、女官連中,内侍連中が参上しては、はなやかに騒々しいので、大将殿は、昼もたいそう隠れたようにして 籠もっていらっしゃるのを、たいそう気にくわなく、尚侍の君はお思いになっていた。<BR>⏎ 兵部卿宮などは、それ以上に残念にお思いになる。兵衛督は、妹の北の方の事までを 外聞が悪いと嘆いて、重ね重ね憂鬱であったが、「馬鹿らしく,恨んでみても 今はどうにもならない」と考え直す。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 84-85 | 女は、陽気にはなやかにお振る舞いなさるご性分も表に出さず、とてもひどくふさぎ込んで、自分から求めて一緒になったのでないことは誰の目からも明らかであるが、「大臣がどうお思いであろうか、兵部卿宮のお気持ちの深くやさしくいらっしゃったこと」などを思い出しなさると、「恥ずかしく、残念だ」とばかりお思いになると、何かと気に入らないご様子が絶えない。<BR>⏎ <P>⏎ | 78 | 女は,陽気にはなやかにお振る舞いなさるご性分も表に出さず、とてもひどくふさぎ込んで、自分から求めて一緒になったのでないことは誰の目からも明らかであるが、「大臣がどうお思いであろうか、兵部卿宮のお気持ちの深くやさしくいらっしゃったこと」などを思い出しなさると、「恥ずかしく、残念だ」とばかりお思いになると、何かと気に入らないご様子が絶えない。<BR>⏎ |
| version31 | 86 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、玉鬘と和歌を詠み交す]</A><BR> | 79 | |
| c1 | 89 | などと申し上げなさる。「今さら、厄介な癖が出ても困る」とお思いになる一方で、何かたまらなくお思いになった時、「いっそ自分の物にしてしまおうか」と、お考えになったこともあるので、やはりご愛情も切れない。<BR>⏎ | 82 | などと申し上げなさる。「今さら,厄介な癖が出ても困る」とお思いになる一方で、何かたまらなくお思いになった時、「いっそ自分の物にしてしまおうか」と、お考えになったこともあるので、やはりご愛情も切れない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 93-94 | 「あなたと立ち入った深い関係はありませんでしたが、三途の川を渡る時、<BR>⏎ 他の男に背負われて渡るようにはお約束しなかったはずなのに<BR>⏎ | 86 | 「あなたと立ち入った深い関係はありませんでしたが、三途の川を渡る時、<BR> 他の男に背負われて渡るようにはお約束しなかったはずなのに<BR>⏎ |
| c1 | 96 | と言って、鼻をおかみになる様子、やさしく心を打つ風情である。<BR>⏎ | 88 | と言って,鼻をおかみになる様子、やさしく心を打つ風情である。<BR>⏎ |
| c3 | 98-100 | 「三途の川を渡らない前に何とかしてやはり<BR>⏎ 涙の流れに浮かぶ泡のように消えてしまいたいものです」<BR>⏎ 「幼稚なお考えですね。それにしても、あの三途の川の瀬は避けることのできない道だそうですから、お手先だけは、引いてお助け申しましょうか」と、ほほ笑みなさって、「真面目な話、お分かりになることもあるでしょう。世間にまたといない馬鹿さ加減も、また一方で安心できるのも、この世に類のないくらいなのを、いくら何でもと、頼もしく思っています」<BR>⏎ | 90-92 | 「三途の川を渡らない前に何とかしてやはり<BR> 涙の流れに浮かぶ泡のように消えてしまいたいものです」<BR>⏎ 「幼稚なお考えですね。それにしても,あの三途の川の瀬は避けることのできない道だそうですから、お手先だけは、引いてお助け申しましょうか」と、ほほ笑みなさって、<BR>⏎ 「真面目な話、お分かりになることもあるでしょう。世間にまたといない馬鹿さ加減も、また一方で安心できるのも、この世に類のないくらいなのを、いくら何でもと、頼もしく思っています」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 102-104 | 「帝が仰せになることがお気の毒なので、やはり、ちょっとでも出仕おさせ申しましょう。自分の物と家の中に閉じ込めてしまってからでは、そのようなお勤めもできにくいお身の上となりましょう。当初の考えとは違ったかっこうですが、二条の大臣は、ご満足のようなので、安心です」<BR>⏎ などと、こまごまとお話し申し上げなさる。ありがたくも気恥ずかしくもお聞きになることが多いけれど、ただ涙に濡れていらっしゃる。たいそうこんなにまで悩んでおいでの様子がお気の毒なので、お思いのままに無体な振る舞いはなさらず、ただ、心得や、ご注意をお教え申し上げなさる。あちらにお移りになることを、直ぐにはお許し申し上げなさらないご様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 94-95 | 「帝が仰せになることがお気の毒なので、やはり,ちょっとでも出仕おさせ申しましょう。自分の物と家の中に閉じ込めてしまってからでは、そのようなお勤めもできにくいお身の上となりましょう。当初の考えとは違ったかっこうですが、二条の大臣は、ご満足のようなので、安心です」<BR>⏎ などと,こまごまとお話し申し上げなさる。ありがたくも気恥ずかしくもお聞きになることが多いけれど、ただ涙に濡れていらっしゃる。たいそうこんなにまで悩んでおいでの様子がお気の毒なので、お思いのままに無体な振る舞いはなさらず、ただ,心得や、ご注意をお教え申し上げなさる。あちらにお移りになることを、直ぐにはお許し申し上げなさらないご様子である。<BR>⏎ |
| version31 | 105 | <H4>第二章 鬚黒大将家の物語 北の方、乱心騒動</H4> | 96 | |
| version31 | 106 | <A NAME="in21">[第一段 鬚黒の北の方の嘆き]</A><BR> | 97 | |
| c1 | 109 | 女君は、人にひけをお取りになるようなところはない。お人柄も、あのような高貴な父親王がたいそう大切にお育て申された世間の評判、けっして軽々しくなく、ご器量なども、たいそう素晴らしくいらっしゃったが、妙に、しつこい物の怪をお患いになって、ここ数年来、普通の人とはお変わりになって、正気のない時々が多くおありになって、ご夫婦仲も疎遠になって長くなったが、れっきとした本妻としては、また並ぶ人もなくお思い申し上げていらっしゃったが、珍しくお心惹かれる方が、一通りどころの方でなく、人より勝れていらっしゃるご様子よりも、あの疑いを持って皆が想像していたことさえ、潔白の身でお過ごしになっていらしたことなどを、めったにない立派な態度だと、ますます深くお思い申し上げなさるのも、もっともなことである。<BR>⏎ | 100 | 女君は、人にひけをお取りになるようなところはない。お人柄も、あのような高貴な父親王が たいそう大切にお育て申された世間の評判、けっして軽々しくなく、ご器量なども、たいそう素晴らしくいらっしゃったが、妙に,しつこい物の怪をお患いになって、ここ数年来、普通の人とはお変わりになって、正気のない時々が多くおありになって、ご夫婦仲も疎遠になって長くなったが、れっきとした本妻としては、また並ぶ人もなくお思い申し上げていらっしゃったが、珍しくお心惹かれる方が、一通りどころの方でなく、人より勝れていらっしゃるご様子よりも、あの疑いを持って 皆が想像していたことさえ、潔白の身でお過ごしになっていらしたことなどを、めったにない立派な態度だと、ますます深くお思い申し上げなさるのも、もっともなことである。<BR>⏎ |
| c1 | 112 | とおっしゃって、宮邸の東の対を掃除し整えて、「お迎え申そう」とお考えになっておっしゃるのを、「親の御家と言っても、夫に捨てられた身の上で、再び実家に戻ってお顔を合わせ申すのも」と、思い悩みなさると、ますますご気分も悪くなって、ずっと病床にお臥せりになる。<BR>⏎ | 103 | とおっしゃって,宮邸の東の対を掃除し整えて、「お迎え申そう」とお考えになっておっしゃるのを、「親の御家と言っても、夫に捨てられた身の上で、再び実家に戻ってお顔を合わせ申すのも」と、思い悩みなさると、ますますご気分も悪くなって、ずっと病床にお臥せりになる。<BR>⏎ |
| d1 | 114 | <P>⏎ | ||
| version31 | 115 | <A NAME="in22">[第二段 鬚黒、北の方を慰める(1)]</A><BR> | 105 | |
| cd2:1 | 121-122 | と、ちょっと笑っておっしゃる、たいそう憎らしくおもしろくない。<BR>⏎ <P>⏎ | 111 | と,ちょっと笑っておっしゃる、たいそう憎らしくおもしろくない。<BR>⏎ |
| version31 | 123 | <A NAME="in23">[第三段 鬚黒、北の方を慰める(2)]</A><BR> | 112 | |
| c2 | 125-126 | 「わたしを、惚けている、僻んでいる、とおっしゃって、馬鹿にするのは、けっこうなことです。父宮のことまでを引き合いに出しておっしゃるのは、もし、お耳に入ったらお気の毒だし、つたないわが身の縁から軽々しいようです。耳馴れていますから、今さら何とも思いません」<BR>⏎ と言って、横を向いていらっしゃる、いじらしい。<BR>⏎ | 114-115 | 「わたしを、惚けている,僻んでいる、とおっしゃって、馬鹿にするのは、けっこうなことです。父宮のことまでを引き合いに出しておっしゃるのは、もし,お耳に入ったらお気の毒だし、つたないわが身の縁から軽々しいようです。耳馴れていますから、今さら何とも思いません」<BR>⏎ と言って,横を向いていらっしゃる、いじらしい。<BR>⏎ |
| c1 | 133 | と、とりなし申し上げなさると、<BR>⏎ | 122 | と,とりなし申し上げなさると、<BR>⏎ |
| c1 | 135 | 大殿の北の方と申し上げる方も、他人でいらっしゃいましょうか。あの方は、知らない状態で成長なさった方で、後になって、このように人の親のように振る舞っていらっしゃる辛さを考えて、お口になさるようですが、わたしの方では何とも思っていませんわ。なさりよう見ているばかりです」<BR>⏎ | 124 | 大殿の北の方と申し上げる方も、他人でいらっしゃいましょうか。あの方は,知らない状態で成長なさった方で、後になって、このように人の親のように振る舞っていらっしゃる辛さを考えて、お口になさるようですが、わたしの方では何とも思っていませんわ。なさりよう見ているばかりです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 138-139 | などと、一日中お側で、お慰め申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 127 | などと,一日中お側で、お慰め申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version31 | 140 | <A NAME="in24">[第四段 鬚黒、玉鬘のもとへ出かけようとする]</A><BR> | 128 | |
| c1 | 141 | 日が暮れたので、気もそぞろになって、何とか出かけたいとお思いになるが、雪がまっくらにして降っている。このような天候にあえて出かけるのも、人目に立ってお気の毒であるし、このご様子も憎らしく嫉妬して恨みなどなさるならば、かえってそれを口実にして、自分も対抗して出て行くのだが、たいそうおっとりと、気にかけていらっしゃらない様子が、たいそうお気の毒なので、どうしようか、と迷いながら、格子なども上げたまま、端近くに物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ | 129 | 日が暮れたので、気もそぞろになって、何とか出かけたいとお思いになるが、雪がまっくらにして降っている。このような天候にあえて出かけるのも、人目に立ってお気の毒であるし、このご様子も 憎らしく嫉妬して恨みなどなさるならば、かえってそれを口実にして、自分も対抗して出て行くのだが、たいそうおっとりと、気にかけていらっしゃらない様子が、たいそうお気の毒なので、どうしようか、と迷いながら、格子なども上げたまま、端近くに物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c2 | 147-148 | 「やはり、ここ当分の間だけは。わたしの気持ちを知らないで、何かと人が噂し、大臣たちもあれこれとお耳になさろうことを憚って、途絶えを置くのは気の毒です。落ち着いて、やはりわたしの気持ちをお見届けください。こちらになど迎えたら、気がねもなくなるでしょう。このように普通のご様子をしていらっしゃる時は、他の女に心を移すこともなくなって、いとおしくお思い申し上げます」<BR>⏎ などと、お慰めなさると、<BR>⏎ | 135-136 | 「やはり,ここ当分の間だけは。わたしの気持ちを知らないで、何かと人が噂し、大臣たちもあれこれとお耳になさろうことを憚って、途絶えを置くのは気の毒です。落ち着いて、やはりわたしの気持ちをお見届けください。こちらになど迎えたら、気がねもなくなるでしょう。このように普通のご様子をしていらっしゃる時は、他の女に心を移すこともなくなって、いとおしくお思い申し上げます」<BR>⏎ などと,お慰めなさると、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 150-151 | などと、穏やかにおっしゃっていられる。<BR>⏎ <P>⏎ | 138 | などと,穏やかにおっしゃっていられる。<BR>⏎ |
| version31 | 152 | <A NAME="in25">[第五段 北の方、鬚黒に香炉の灰を浴びせ掛ける]</A><BR> | 139 | |
| c1 | 158 | などと、それでもあらわには言わないで、お促し申して、咳払いをし合っている。<BR>⏎ | 145 | などと,それでもあらわには言わないで、お促し申して、咳払いをし合っている。<BR>⏎ |
| c2 | 163-164 | と、お側の女房たちもお気の毒に拝し上げる。<BR>⏎ 大騒ぎになって、お召物をお召し替えなどするが、たくさんの灰が鬢のあたりにも舞い上がり、すべての所にいっぱいの気がするので、善美を尽くしていらっしゃる所に、このまま参上なさることはできない。<BR>⏎ | 150-151 | と,お側の女房たちも お気の毒に拝し上げる。<BR>⏎ 大騒ぎになって、お召物をお召し替えなどするが、たくさんの灰が 鬢のあたりにも舞い上がり、すべての所にいっぱいの気がするので、善美を尽くしていらっしゃる所に、このまま参上なさることはできない。<BR>⏎ |
| d1 | 166 | <P>⏎ | ||
| version31 | 167 | <A NAME="in26">[第六段 鬚黒、玉鬘に手紙だけを贈る]</A><BR> | 153 | |
| cd3:2 | 170-172 | と、生真面目にお書きになっている。<BR>⏎ 「心までが中空に思い乱れましたこの雪に<BR>⏎ 独り冷たい片袖を敷いて寝ました<BR>⏎ | 156-157 | と,生真面目にお書きになっている。<BR>⏎ 「心までが中空に思い乱れましたこの雪に<BR> 独り冷たい片袖を敷いて寝ました<BR>⏎ |
| c1 | 174 | と、白い薄様に、重々しくお書きになっているが、格別風情のあるところもない。筆跡はたいそうみごとである。漢学の才能は高くいらっしゃるのであった。<BR>⏎ | 159 | と,白い薄様に、重々しくお書きになっているが、格別風情のあるところもない。筆跡はたいそうみごとである。漢学の才能は高くいらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 177 | <P>⏎ | ||
| version31 | 178 | <A NAME="in27">[第七段 翌日、鬚黒、玉鬘を訪う]</A><BR> | 162 | |
| c1 | 179 | 日が暮れると、いつものように急いでお出かけになる。お召物のことなども、体裁よく整えなさらず、まことに奇妙で身にそぐわないとばかり不機嫌でいらっしゃるが、立派な御直衣などは、間に合わせることがおできになれず、たいそう見苦しい。<BR>⏎ | 163 | 日が暮れると、いつものように急いでお出かけになる。お召物のことなども、体裁よく整えなさらず、まことに奇妙で 身にそぐわないとばかり不機嫌でいらっしゃるが、立派な御直衣などは、間に合わせることがおできになれず、たいそう見苦しい。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 182-183 | 「北の方が独り残されて、思い焦がれる胸の苦しさが<BR>⏎ 思い余って炎となったその跡と拝見しました<BR>⏎ | 166 | 「北の方が独り残されて、思い焦がれる胸の苦しさが<BR> 思い余って炎となったその跡と拝見しました<BR>⏎ |
| cd3:2 | 185-187 | と、口もとをおおっている、目もとは、たいそう魅力的である。けれども、「どのような気持ちからこのような女に情けをかけたのだろう」などとだけ思われなさるのであった。薄情なことであるよ。<BR>⏎ 「嫌なことを思って心が騒ぐので、あれこれと<BR>⏎ 後悔の炎がますます立つのだ<BR>⏎ | 168-169 | と,口もとをおおっている、目もとは,たいそう魅力的である。けれども、「どのような気持ちからこのような女に情けをかけたのだろう」などとだけ思われなさるのであった。薄情なことであるよ。<BR>⏎ 「嫌なことを思って心が騒ぐので、あれこれと<BR> 後悔の炎がますます立つのだ<BR>⏎ |
| c1 | 189 | と、溜息ついてお出かけになった。<BR>⏎ | 171 | と,溜息ついてお出かけになった。<BR>⏎ |
| d1 | 191 | <P>⏎ | ||
| version31 | 192 | <H4>第三章 鬚黒大将家の物語 北の方、子供たちを連れて実家に帰る</H4> | 173 | |
| version31 | 193 | <A NAME="in31">[第一段 式部卿宮、北の方を迎えに来る]</A><BR> | 174 | |
| cd2:1 | 195-196 | 邸にお帰りになる時も、別の部屋に離れていらして、子どもたちだけを呼び出してお会い申しなさる。⏎ 女の子が一人、十二、三歳ほどで、またその下に、男の子が二人いらっしゃるのであった。最近になって、ご夫婦仲も離れがちでいらっしゃるが、れっきとした方として、肩を並べる人もなくて暮らして来られたので、「いよいよ最後だ」とお考えになると、お仕えしている女房たちも「ひどく悲しい」と思う。<BR>⏎ | 176 | 邸にお帰りになる時も、別の部屋に離れていらして、子どもたちだけを呼び出してお会い申しなさる。女の子が一人、十二,三歳ほどで、またその下に、男の子が二人いらっしゃるのであった。最近になって、ご夫婦仲も離れがちでいらっしゃるが、れっきとした方として、肩を並べる人もなくて暮らして来られたので、「いよいよ最後だ」とお考えになると、お仕えしている女房たちも 「ひどく悲しい」と思う。<BR>⏎ |
| c1 | 198 | 「今は、あのように別居して、はっきりした態度をとっておいでだというのに、それにしても、辛抱していらっしゃる、たいそう不面目な物笑いなことだ。自分が生きている間は、そう一途に、どうして相手の言いなりに従っていらっしゃることがあろうか」<BR>⏎ | 178 | 「今は、あのように別居して、はっきりした態度をとっておいでだというのに、それにしても,辛抱していらっしゃる、たいそう不面目な物笑いなことだ。自分が生きている間は、そう一途に、どうして相手の言いなりに従っていらっしゃることがあろうか」<BR>⏎ |
| c2 | 202-203 | などと、ご決心なさる。<BR>⏎ ご兄弟の公達、兵衛督は、上達部でいらっしゃるので、仰々しいというので、中将、侍従、民部大輔など、お車三台程でいらっしゃった。「きっとそうなるだろう」と、以前から思っていたことであるが、目の前に、今日がその終わりと思うと、仕えている女房たちも、ぽろぽろと涙をこぼし泣き合っていた。<BR>⏎ | 182-183 | などと,ご決心なさる。<BR>⏎ ご兄弟の公達、兵衛督は、上達部でいらっしゃるので、仰々しいというので、中将、侍従、民部大輔など、お車三台程でいらっしゃった。「きっとそうなるだろう」と、以前から思っていたことであるが、目の前に,今日がその終わりと思うと、仕えている女房たちも、ぽろぽろと涙をこぼし泣き合っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| version31 | 207 | <A NAME="in32">[第二段 母君、子供たちを諭す]</A><BR> | 186 | |
| c1 | 209 | 「わたしは、このようにつらい運命を、今は見届けてしまったので、この世に生き続ける気もありません。どうなりとなって行くことでしょう。将来があるのに、何といっても、散り散りになって行かれる様子が、悲しいことです。<BR>⏎ | 188 | 「わたしは、このようにつらい運命を、今は見届けてしまったので、この世に生き続ける気もありません. どうなりとなって行くことでしょう。将来があるのに、何といっても、散り散りになって行かれる様子が、悲しいことです。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 212-215 | とお泣きになると、皆、深い事情は分からないが、べそをかいて泣いていらっしゃる。<BR>⏎ 「昔物語などを見ても、世間並の愛情深い親でさえ、時勢に流され、人の言うままになって、冷たくなって行くものです。まして、形だけの親のようで、見ている前でさえすっかり変わってしまったお心では、頼りになるようなお扱いをなさるまい」<BR>⏎ と、乳母たちも集まって、おっしゃり嘆く。<BR>⏎ <P>⏎ | 191-193 | とお泣きになると、皆,深い事情は分からないが、べそをかいて泣いていらっしゃる。<BR>⏎ 「昔物語などを見ても、世間並の愛情深い親でさえ、時勢に流され、人の言うままになって、冷たくなって行くものです。まして,形だけの親のようで、見ている前でさえすっかり変わってしまったお心では、頼りになるようなお扱いをなさるまい」<BR>⏎ と,乳母たちも集まって、おっしゃり嘆く。<BR>⏎ |
| version31 | 216 | <A NAME="in33">[第三段 姫君、柱の隙間に和歌を残す]</A><BR> | 194 | |
| c1 | 219 | と、お迎えの公達はお促し申し上げるが、お目を拭いながら物思いに沈んでいらっしゃる。姫君は、殿がたいそうかわいがって、懐いていらっしゃっるので、<BR>⏎ | 197 | と,お迎えの公達はお促し申し上げるが、お目を拭いながら物思いに沈んでいらっしゃる。姫君は、殿がたいそうかわいがって,懐いていらっしゃっるので、<BR>⏎ |
| c1 | 223 | などと、おなだめ申し上げなさる。「今すぐにも、お父様がお帰りになってほしい」とお待ち申し上げなさるが、このように日が暮れようとする時、あちらをお動きなさろうか。<BR>⏎ | 201 | などと,おなだめ申し上げなさる。「今すぐにも、お父様がお帰りになってほしい」とお待ち申し上げなさるが、このように日が暮れようとする時、あちらをお動きなさろうか。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 225-229 | 「今はもうこの家を離れて行きますが、わたしが馴れ親しんだ<BR>⏎ 真木の柱はわたしを忘れないでね」<BR>⏎ 最後まで書き終わることもできずお泣きになる。母君、「いえ、なんの」と言って、<BR>⏎ 「長年馴れ親しんで来た真木柱だと思い出しても<BR>⏎ どうしてここに止まっていられましょうか」<BR>⏎ | 203-205 | 「今はもうこの家を離れて行きますが、わたしが馴れ親しんだ<BR> 真木の柱はわたしを忘れないでね」<BR>⏎ 最後まで書き終わることもできずお泣きになる。母君、「いえ,なんの」と言って、<BR>⏎ 「長年馴れ親しんで来た真木柱だと思い出しても<BR> どうしてここに止まっていられましょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 232-233 | 「浅い関係のあなたが残って、邸を守るはずの北の方様が<BR>⏎ 出て行かれることがあってよいものでしょうか<BR>⏎ | 208 | 「浅い関係のあなたが残って、邸を守るはずの北の方様が<BR> 出て行かれることがあってよいものでしょうか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 236-238 | 「どのように言われても、わたしの心は悲しみに閉ざされて<BR>⏎ いつまでここに居られますことやら<BR>⏎ いや、そのような」<BR>⏎ | 211-212 | 「どのように言われても、わたしの心は悲しみに閉ざされて<BR> いつまでここに居られますことやら<BR>⏎ いや,そのような」<BR>⏎ |
| d1 | 241 | <P>⏎ | ||
| version31 | 242 | <A NAME="in34">[第四段 式部卿宮家の悲憤慷慨]</A><BR> | 215 | |
| c4 | 245-248 | 女御にも、何かにつけて、冷淡なお仕打ちをなさったが、それは、お二人の間の恨み事が解けなかったころ、思い知れということであったであろうと、思ったりおっしゃったりもし、世間の人もそう言っていたのでさえ、やはり、そあってよいことでしょうか。<BR>⏎ 一人を大切になさるのであれば、その周辺までもお蔭を蒙るという例はあるものだと、納得行きませんでしたが、まして、このような晩年になって、わけの分からない継子の世話をして、自分が飽きたのを気の毒に思って、律儀者で浮気しそうのない人をと思って、婿に迎えて大切になさるのは、どうして辛くないことでしょうか」<BR>⏎ と、大声で言い続けなさるので、宮は、<BR>⏎ 「ああ、聞き苦しい。世間から非難されることのおありでない大臣を、口から出任せに悪くおっしゃるものではありませんよ。賢明な方は、かねてから考えていて、このような報復をしようと、思うことがおありだったのだろう。そのように思われるわが身の不幸なのだろう。<BR>⏎ | 218-221 | 女御にも、何かにつけて、冷淡なお仕打ちをなさったが、それは,お二人の間の恨み事が解けなかったころ、思い知れということであったであろうと,思ったりおっしゃったりもし、世間の人もそう言っていたのでさえ、やはり,そあってよいことでしょうか。<BR>⏎ 一人を大切になさるのであれば、その周辺までもお蔭を蒙るという例はあるものだと、納得行きませんでしたが、まして,このような晩年になって、わけの分からない継子の世話をして、自分が飽きたのを気の毒に思って、律儀者で浮気しそうのない人をと思って、婿に迎えて大切になさるのは、どうして辛くないことでしょうか」<BR>⏎ と,大声で言い続けなさるので、宮は、<BR>⏎ 「ああ,聞き苦しい。世間から非難されることのおありでない大臣を、口から出任せに悪くおっしゃるものではありませんよ。賢明な方は、かねてから考えていて、このような報復をしようと、思うことがおありだったのだろう。そのように思われるわが身の不幸なのだろう。<BR>⏎ |
| c1 | 255 | と言って、お出になる。<BR>⏎ | 228 | と言って,お出になる。<BR>⏎ |
| d1 | 257 | <P>⏎ | ||
| version31 | 258 | <A NAME="in35">[第五段 鬚黒、式部卿宮家を訪問]</A><BR> | 230 | |
| c4 | 259-262 | 宮に苦情を申し上げようと思って、参上なさるついでに、先に、自邸にいらっしゃると、木工の君などが出てきて、その時の様子をお話し申し上げる。姫君のご様子をお聞きになって、男らしく堪えていらっしゃるが、ぽろぽろと涙がこぼれるご様子、たいそうお気の毒である。<BR>⏎ 「それにしても、世間の人と違い、おかしな振る舞いの数々を大目に見てきた長年の気持ちを、ご理解なさらなかったのかな。ひどくわがままな人は、今までも一緒にいただろうか。まあよい、あの本人は、どうなったところで、廃人にお見えになるから、同じことだ。子どもたちも、どうなさろうというのだろうか」<BR>⏎ と、嘆息しながら、あの真木の柱を御覧になると、筆跡も幼稚だが、気立てがしみじみといじらしくて、道すがら、涙を押し拭い押し拭い参上なさると、お会いになれるはずもない。<BR>⏎ 「何の。ただ時勢におもねる心が、今初めてお変わりになったのではない。年来うつつを抜かしていらっしゃる様子を、長いこと聞いてはいたが、いつを再び改心する時かと待てようか。ますます、奇妙な姿を現すばかりで終わることにおなりになろう」<BR>⏎ | 231-234 | 宮に苦情を申し上げようと思って、参上なさるついでに、先に,自邸にいらっしゃると、木工の君などが出てきて、その時の様子をお話し申し上げる。姫君のご様子をお聞きになって、男らしく堪えていらっしゃるが、ぽろぽろと涙がこぼれるご様子、たいそうお気の毒である。<BR>⏎ 「それにしても,世間の人と違い、おかしな振る舞いの数々を大目に見てきた長年の気持ちを、ご理解なさらなかったのかな。ひどくわがままな人は、今までも一緒にいただろうか。まあよい,あの本人は、どうなったところで、廃人にお見えになるから、同じことだ。子どもたちも、どうなさろうというのだろうか」<BR>⏎ と,嘆息しながら、あの真木の柱を御覧になると、筆跡も幼稚だが、気立てがしみじみといじらしくて、道すがら,涙を押し拭い押し拭い参上なさると、お会いになれるはずもない。<BR>⏎ 「何の。ただ時勢におもねる心が、今初めてお変わりになったのではない。年来うつつを抜かしていらっしゃる様子を、長いこと聞いてはいたが、いつを再び改心する時かと待てようか。ますます,奇妙な姿を現すばかりで終わることにおなりになろう」<BR>⏎ |
| c2 | 264-265 | 「まったく、大人げない気がしますな。お見捨てになるはずもない子供たちもいますのでと、のんきに構えておりましたわたしの不行届を、繰り返しお詫び申しても、お詫びの申しようがありません。今はただ、穏便に大目に見て下さって、罪は免れがたく、世間の人にも分からせた上で、このようにもなさるのがよい」<BR>⏎ などと、説得申すのに苦慮していらっしゃる。「せめて姫君にだけでもお会いしたい」と申し上げなさっているが、お出し申すはずもない。<BR>⏎ | 236-237 | 「まったく,大人げない気がしますな。お見捨てになるはずもない子供たちもいますのでと、のんきに構えておりましたわたしの不行届を、繰り返しお詫び申しても,お詫びの申しようがありません。今はただ、穏便に大目に見て下さって、罪は免れがたく、世間の人にも分からせた上で、このようにもなさるのがよい」<BR>⏎ などと,説得申すのに苦慮していらっしゃる。「せめて姫君にだけでもお会いしたい」と申し上げなさっているが、お出し申すはずもない。<BR>⏎ |
| c1 | 269 | などと、涙を流してお話しなさる。宮にも、ご内意を伺ったが、<BR>⏎ | 241 | などと,涙を流してお話しなさる。宮にも、ご内意を伺ったが、<BR>⏎ |
| d1 | 272 | <P>⏎ | ||
| version31 | 273 | <A NAME="in36">[第六段 鬚黒、男子二人を連れ帰る]</A><BR> | 244 | |
| c2 | 274-275 | 幼い男の子たちを車に乗せて、親しく話しながらお帰りになる。六条殿には連れて行くことがおできになれないので、邸に残して、<BR>⏎ 「やはり、ここにいなさい。会いに来るのにも安心して来られるであろうから」<BR>⏎ | 245-246 | 幼い男の子たちを車に乗せて、親しく話しながらお帰りになる。六条殿には 連れて行くことがおできになれないので、邸に残して、<BR>⏎ 「やはり,ここにいなさい。会いに来るのにも安心して来られるであろうから」<BR>⏎ |
| c1 | 281 | 「難しいことだ。自分の一存だけではどうすることもできない人の関係で、帝におかせられても、こだわりをお持ちになっていらっしゃるようだ。兵部卿宮なども、お恨みになっていらっしゃると聞いたが、そうは言っても、思慮深くいらっしゃる方なので、事情を知って、恨みもお解けになったようだ。自然と、男女の関係は、人目を忍んでいると思っても、隠すことのできないものだから、そんなに苦にするほどの責任もない、と思っております」<BR>⏎ | 252 | 「難しいことだ。自分の一存だけではどうすることもできない人の関係で、帝におかせられても,こだわりをお持ちになっていらっしゃるようだ。兵部卿宮なども、お恨みになっていらっしゃると聞いたが、そうは言っても、思慮深くいらっしゃる方なので、事情を知って、恨みもお解けになったようだ。自然と,男女の関係は、人目を忍んでいると思っても、隠すことのできないものだから、そんなに苦にするほどの責任もない、と思っております」<BR>⏎ |
| d1 | 283 | <P>⏎ | ||
| version31 | 284 | <H4>第四章 玉鬘の物語 宮中出仕から鬚黒邸へ</H4> | 254 | |
| version31 | 285 | <A NAME="in41">[第一段 玉鬘、新年になって参内]</A><BR> | 255 | |
| cd2:1 | 291-292 | 中宮、弘徽殿女御、この宮の王女御、左大臣の女御などが伺候していらっしゃる。その他には、中納言、宰相の御息女が二人ほどが伺候していらっしゃるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 261 | 中宮、弘徽殿女御、この宮の王女御、左大臣の女御などが伺候していらっしゃる。その他には,中納言、宰相の御息女が二人ほどが伺候していらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| version31 | 293 | <A NAME="in42">[第二段 男踏歌、貴顕の邸を回る]</A><BR> | 262 | |
| c1 | 296 | ほのぼのと美しい夜明けに、たいそう酔い乱れた恰好をして、「竹河」を謡っているところを見ると、内大臣家の御子息が、四、五人ほど、殿上人の中で、声が優れ、器量も美しくて、うち揃っていらっしゃるのが、たいそう素晴らしい。<BR>⏎ | 265 | ほのぼのと美しい夜明けに、たいそう酔い乱れた恰好をして、「竹河」を謡っているところを見ると、内大臣家の御子息が、四,五人ほど、殿上人の中で、声が優れ、器量も美しくて、うち揃っていらっしゃるのが、たいそう素晴らしい。<BR>⏎ |
| d1 | 300 | <P>⏎ | ||
| version31 | 301 | <A NAME="in43">[第三段 玉鬘の宮中生活]</A><BR> | 269 | |
| c1 | 304 | とばかり、同じことをご催促申し上げなさるが、お返事はない。伺候している女房たちが、<BR>⏎ | 272 | とばかり,同じことをご催促申し上げなさるが、お返事はない。伺候している女房たちが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 310-311 | 「深山木と仲よくしていらっしゃる鳥が<BR>⏎ またなく疎ましく思われる春ですねえ<BR>⏎ | 278 | 「深山木と仲よくしていらっしゃる鳥が<BR> またなく疎ましく思われる春ですねえ<BR>⏎ |
| d1 | 314 | <P>⏎ | ||
| c2 | 315-316 | <A NAME="in44">[第四段 帝、玉鬘のもとを訪う]</A><BR>⏎ 月が明るいので、ご容貌は言いようもなくお美しくて、まるで、あの大臣のご様子に違うところなくいらっしゃる。「このような方が二人もいらっしゃったのだ」と、拝見なさる。あの方のお気持ちは浅くはないが、嫌な物思いをしたけれど、こちらは、どうしてそのように思わせなさろう。たいそうやさしそうに、期待していたことと違ってしまった恨み事を仰せられるので、顔のやり場もないほどにお思いなさるよ。顔を袖で隠して、お返事も申し上げなさらないので、<BR>⏎ | 281-282 | <A NAME="in44">[第四段 帝,玉鬘のもとを訪う]</A><BR>⏎ 月が明るいので、ご容貌は言いようもなくお美しくて、まるで,あの大臣のご様子に違うところなくいらっしゃる。「このような方が二人もいらっしゃったのだ」と、拝見なさる。あの方のお気持ちは浅くはないが、嫌な物思いをしたけれど、こちらは,どうしてそのように思わせなさろう。たいそうやさしそうに、期待していたことと違ってしまった恨み事を仰せられるので、顔のやり場もないほどにお思いなさるよ。顔を袖で隠して、お返事も申し上げなさらないので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 319-320 | 「どうしてこう一緒になりがたいあなたを<BR>⏎ 深く思い染めてしまったのでしょう<BR>⏎ | 285 | 「どうしてこう一緒になりがたいあなたを<BR> 深く思い染めてしまったのでしょう<BR>⏎ |
| cd2:1 | 323-324 | 「どのようなお気持ちからとも存じませんでした<BR>⏎ この紫の色は、深いお情けから下さったものなのですね<BR>⏎ | 288 | 「どのようなお気持ちからとも存じませんでした<BR> この紫の色は、深いお情けから下さったものなのですね<BR>⏎ |
| cd3:2 | 327-329 | 「その、今から思って下さろうとしても、何の役にも立たないことです。訴えを聞いてくれる人があったら、その判断を聞いてみたいものです」<BR>⏎ と、たいそうお恨みあそばす御様子が、真面目で厄介なので、「とても嫌だわ」と思われて、「愛想の良い態度をお見せ申すまい、男の方の困った癖だわ」と思うと、真面目になって伺候していらっしゃるので、お思い通りの冗談も仰せになれずに、「だんだんと親しみ馴れて行くことだろう」とお思いあそばすのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 291-292 | 「その,今から思って下さろうとしても、何の役にも立たないことです。訴えを聞いてくれる人があったら、その判断を聞いてみたいものです」<BR>⏎ と,たいそうお恨みあそばす御様子が、真面目で厄介なので、「とても嫌だわ」と思われて、「愛想の良い態度をお見せ申すまい、男の方の困った癖だわ」と思うと、真面目になって伺候していらっしゃるので、お思い通りの冗談も仰せになれずに、「だんだんと親しみ馴れて行くことだろう」とお思いあそばすのであった。<BR>⏎ |
| version31 | 330 | <A NAME="in45">[第五段 玉鬘、帝と和歌を詠み交す]</A><BR> | 293 | |
| c2 | 335-336 | けれども、まったく出来心からと、疎んじられまいとして、たいそう愛情深い程度にお約束なさって、親しみなさるのも、恐れ多く、「わたしは、わたしだわ、と思っているのに」とお思いになる。<BR>⏎ 御輦車を寄せて、こちら方、あちら方の、お世話役の人々が待ち遠しがって、大将も、たいそううるさいほどお側を離れず、世話をお焼きになる時まで、お離れあそばされない。<BR>⏎ | 298-299 | けれども,まったく出来心からと、疎んじられまいとして、たいそう愛情深い程度にお約束なさって、親しみなさるのも、恐れ多く、「わたしは,わたしだわ、と思っているのに」とお思いになる。<BR>⏎ 御輦車を寄せて、こちら方,あちら方の、お世話役の人々が待ち遠しがって、大将も、たいそううるさいほどお側を離れず、世話をお焼きになる時まで、お離れあそばされない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 339-340 | 「幾重にも霞が隔てたならば、梅の花の香は<BR>⏎ 宮中まで匂って来ないのだろうか」<BR>⏎ | 302 | 「幾重にも霞が隔てたならば、梅の花の香は<BR> 宮中まで匂って来ないのだろうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 344-345 | 「香りだけは風におことづけください<BR>⏎ 美しい花の枝に並ぶべくもないわたしですが」<BR>⏎ | 306 | 「香りだけは風におことづけください<BR> 美しい花の枝に並ぶべくもないわたしですが」<BR>⏎ |
| d1 | 347 | <P>⏎ | ||
| version31 | 348 | <A NAME="in46">[第六段 玉鬘、鬚黒邸に退出]</A><BR> | 308 | |
| c1 | 351 | と、穏やかに申し上げなさって、そのままお移し申し上げなさる。<BR>⏎ | 311 | と,穏やかに申し上げなさって、そのままお移し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 354 | と、申し上げなさるのであった。<BR>⏎ | 314 | と,申し上げなさるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 356 | あの、お入りあそばしたことを、たいそう嫉妬申し上げなさるのも、不愉快で、やはりつまらない人のような気がして、夫婦仲は疎々しい態度で、ますます機嫌が悪い。<BR>⏎ | 316 | あの,お入りあそばしたことを、たいそう嫉妬申し上げなさるのも、不愉快で、やはりつまらない人のような気がして、夫婦仲は疎々しい態度で、ますます機嫌が悪い。<BR>⏎ |
| d1 | 358 | <P>⏎ | ||
| version31 | 359 | <A NAME="in47">[第七段 二月、源氏、玉鬘へ手紙を贈る]</A><BR> | 318 | |
| cd2:1 | 361-362 | 「それにしても、無愛想な仕打ちだ。まったくこのようにきっぱりと自分のものにしようとは思いもかけないで、油断させられたのが悔しい」<BR>⏎ と、体裁悪く、何から何までお気にならない時とてなく、恋しく思い出さずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 320 | 「それにしても、無愛想な仕打ちだ。まったくこのようにきっぱりと自分のものにしようとは思いもかけないで、油断させられたのが悔しい」、と,体裁悪く、何から何までお気にならない時とてなく、恋しく思い出さずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| c1 | 364 | と、寝ても起きても幻のようにまぶたにお見えになる。<BR>⏎ | 322 | と,寝ても起きても幻のようにまぶたにお見えになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 366-368 | 右近のもとにこっそりと差し出すのも、一方では、それをどのように思うかとお思いになると、詳しくは書き綴ることがおできになれず、ただ相手の推察に任せた書きぶりなのであった。<BR>⏎ 「降りこめられてのどやかな春雨のころ<BR>⏎ 昔馴染みのわたしをどう思っていらっしゃいますか<BR>⏎ | 324-325 | 右近のもとにこっそりと差し出すのも、一方では,それをどのように思うかとお思いになると、詳しくは書き綴ることがおできになれず、ただ相手の推察に任せた書きぶりなのであった。<BR>⏎ 「降りこめられてのどやかな春雨のころ<BR> 昔馴染みのわたしをどう思っていらっしゃいますか<BR>⏎ |
| c2 | 371-372 | 人のいない間にこっそりとお見せ申し上げると、ほろっと泣いて、自分の心でも、月日のたつにつれて、思い出さずにはいらっしゃれないご様子を、正面きって、「恋しい、何とかしてお目にかかりたい」などとは、おっしゃることのできない親なので、「おっしゃるとおり、どうしてお会いすることができようか」と、もの悲しい。<BR>⏎ 時々、厄介であったご様子を、気にくわなくお思い申し上げたことなどは、この人にもお知らせになっていないことなので、自分ひとりでお思い続けていらっしゃるが、右近は、うすうす感じ取っていたのであった。実際、どんな仲であったのだろうと、今でも納得が行かず思っていたのであった。<BR>⏎ | 328-329 | 人のいない間にこっそりとお見せ申し上げると、ほろっと泣いて、自分の心でも、月日のたつにつれて,思い出さずにはいらっしゃれないご様子を、正面きって,「恋しい、何とかしてお目にかかりたい」などとは、おっしゃることのできない親なので、「おっしゃるとおり,どうしてお会いすることができようか」と、もの悲しい。<BR>⏎ 時々、厄介であったご様子を、気にくわなくお思い申し上げたことなどは、この人にもお知らせになっていないことなので、自分ひとりでお思い続けていらっしゃるが、右近は、うすうす感じ取っていたのであった。実際,どんな仲であったのだろうと、今でも納得が行かず思っていたのであった。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 374-378 | 「物思いに耽りながら軒の雫に袖を濡らして<BR>⏎ どうしてあなた様のことを思わずにいられましょうか<BR>⏎ 時がたつと、おっしゃるとおり、格別な所在なさも募りますこと。あなかしこ」<BR>⏎ と、恭しくお書きになっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 331-333 | 「物思いに耽りながら軒の雫に袖を濡らして<BR> どうしてあなた様のことを思わずにいられましょうか<BR>⏎ 時がたつと、おっしゃるとおり,格別な所在なさも募りますこと。あなかしこ」<BR>⏎ と,恭しくお書きになっていた。<BR>⏎ |
| version31 | 379 | <A NAME="in48">[第八段 源氏、玉鬘の返書を読む]</A><BR> | 334 | |
| c1 | 380 | 手紙を広げて、玉水がこぼれるように思わずにはいらっしゃれないが、「人が見たら、体裁悪いことだろう」と、平静を装っていらっしゃるが、胸が一杯になる思いがして、あの昔の、尚侍の君を朱雀院の母后が無理に逢わせまいとなさった時のことなどをお思い出しになるが、目前のことだからであろうか、こちらは普通と変わって、しみじみと心うつのであった。<BR>⏎ | 335 | 手紙を広げて、玉水がこぼれるように思わずにはいらっしゃれないが、「人が見たら、体裁悪いことだろう」と、平静を装っていらっしゃるが、胸が一杯になる思いがして、あの昔の、尚侍の君を朱雀院の母后が無理に逢わせまいとなさった時のことなどをお思い出しになるが、目前のことだからであろうか、こちらは普通と変わって,しみじみと心うつのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 382 | と、冷静になるのに困って、お琴を掻き鳴らして、やさしくしいてお弾きになった爪音が、思い出さずにはいらっしゃれない。和琴の調べを、すが掻きにして、<BR>⏎ | 337 | と,冷静になるのに困って、お琴を掻き鳴らして、やさしくしいてお弾きになった爪音が、思い出さずにはいらっしゃれない。和琴の調べを、すが掻きにして、<BR>⏎ |
| c1 | 384 | と、謡い興じていらっしゃるのも、恋しい人に見せたならば、感動せずにはいられないご様子である。<BR>⏎ | 339 | と,謡い興じていらっしゃるのも、恋しい人に見せたならば、感動せずにはいられないご様子である。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 387-389 | と、耳馴れない古歌であるが、お口癖になさって、物思いに耽っておいであそばすのであった。お手紙は、そっと時々あるのであった。わが身を不運な境遇と思い込みなさって、このような軽い気持ちのお手紙のやりとりも、似合わなくお思いになるので、うち解けたお返事も申し上げなさらない。<BR>⏎ やはり、あの、またとないほどであったお心配りを、何かにつけて深くありがたく思い込んでいらっしゃるお気持ちが、忘れられないのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 342-343 | と,耳馴れない古歌であるが、お口癖になさって、物思いに耽っておいであそばすのであった。お手紙は、そっと時々あるのであった。わが身を不運な境遇と思い込みなさって、このような軽い気持ちのお手紙のやりとりも、似合わなくお思いになるので、うち解けたお返事も申し上げなさらない。<BR>⏎ やはり,あの,またとないほどであったお心配りを、何かにつけて深くありがたく思い込んでいらっしゃるお気持ちが、忘れられないのであった。<BR>⏎ |
| version31 | 390 | <A NAME="in49">[第九段 三月、源氏、玉鬘を思う]</A><BR> | 344 | |
| cd2:1 | 395-396 | 「思いがけずに二人の仲は隔てられてしまったが<BR>⏎ 心の中では恋い慕っている山吹の花よ<BR>⏎ | 349 | 「思いがけずに二人の仲は隔てられてしまったが<BR> 心の中では恋い慕っている山吹の花よ<BR>⏎ |
| c1 | 398 | などとおっしゃっても、聞く人もいない。このように、さすがに諦めていることは、今になってお分かりになるのであった。なるほど、妙なおたわむれの心であるよ。<BR>⏎ | 351 | などとおっしゃっても、聞く人もいない。このように,さすがに諦めていることは、今になってお分かりになるのであった。なるほど,妙なおたわむれの心であるよ。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 401-404 | などと、親めいてお書きになって、<BR>⏎ 「せっかくわたしの所でかえった雛が見えませんね<BR>⏎ どんな人が手に握っているのでしょう<BR>⏎ どうして、こんなにまでもなどと、おもしろくなくて」<BR>⏎ | 354-356 | などと,親めいてお書きになって、<BR>⏎ 「せっかくわたしの所でかえった雛が見えませんね<BR> どんな人が手に握っているのでしょう<BR>⏎ どうして,こんなにまでもなどと、おもしろくなくて」<BR>⏎ |
| c2 | 406-407 | 「女性は、実の親の所にも、簡単に行ってお会いなさることは、適当な機会がなくてはなさるべきではない。まして、どうして、この大臣は、度々諦めずに、恨み言をおっしゃるのだろう」<BR>⏎ と、ぶつぶつ言うのも、憎らしいとお聞きになる。<BR>⏎ | 358-359 | 「女性は、実の親の所にも、簡単に行ってお会いなさることは、適当な機会がなくてはなさるべきではない。まして,どうして,この大臣は、度々諦めずに、恨み言をおっしゃるのだろう」<BR>⏎ と,ぶつぶつ言うのも、憎らしいとお聞きになる。<BR>⏎ |
| c1 | 409 | と、書きにくくお思いになっているので、<BR>⏎ | 361 | と,書きにくくお思いになっているので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 412-413 | 「巣の片隅に隠れて子供の数にも入らない雁の子を<BR>⏎ どちらの方に取り隠そうとおっしゃるのでしょうか<BR>⏎ | 364 | 「巣の片隅に隠れて子供の数にも入らない雁の子を<BR> どちらの方に取り隠そうとおっしゃるのでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 417-418 | と言って、お笑いになる。心中では、このように一人占めにしているのを、とても憎いとお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 368 | と言って,お笑いになる。心中では、このように一人占めにしているのを、とても憎いとお思いになる。<BR>⏎ |
| version31 | 419 | <H4>第五章 鬚黒大将家と内大臣家の物語 玉鬘と近江の君</H4> | 369 | |
| version31 | 420 | <A NAME="in51">[第一段 北の方、病状進む]</A><BR> | 370 | |
| c1 | 421 | あの、もとの北の方は、月日のたつにしたがって、あまりな仕打ちだと、物思いに沈んで、ますます気が変になっていらっしゃる。大将殿の一通りのお世話、どんなことでも細かくご配慮なさって、男の子たちは、変わらずかわいがっていらっしゃるので、すっかり縁を切っておしまいにならず、生活上の頼りだけは、同様にしていらっしゃるのであった。<BR>⏎ | 371 | あの,もとの北の方は、月日のたつにしたがって、あまりな仕打ちだと、物思いに沈んで、ますます気が変になっていらっしゃる。大将殿の一通りのお世話、どんなことでも細かくご配慮なさって、男の子たちは、変わらずかわいがっていらっしゃるので、すっかり縁を切っておしまいにならず、生活上の頼りだけは、同様にしていらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 425 | <P>⏎ | ||
| version31 | 426 | <A NAME="in52">[第二段 十一月に玉鬘、男子を出産]</A><BR> | 375 | |
| c1 | 430 | と、この若君のかわいらしさにつけても、<BR>⏎ | 379 | と,この若君のかわいらしさにつけても、<BR>⏎ |
| c1 | 432 | と、あまりに身勝手なことを思っておっしゃる。<BR>⏎ | 381 | と,あまりに身勝手なことを思っておっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 434 | <P>⏎ | ||
| version31 | 435 | <A NAME="in53">[第三段 近江の君、活発に振る舞う]</A><BR> | 383 | |
| c1 | 436 | そうそう、あの内の大殿のご息女で、尚侍を望んでいた女君も、ああした類の人の癖として、色気まで加わって、そわそわし出して、持て余していらっしゃる。女御も、「今に、軽率なことが、この君はきっとしでかすだろう」と、何かにつけ、はらはらしていらっしゃるが、大臣が、<BR>⏎ | 384 | そうそう、あの内の大殿のご息女で、尚侍を望んでいた女君も、ああした類の人の癖として、色気まで加わって、そわそわし出して、持て余していらっしゃる。女御も、「今に,軽率なことが、この君はきっとしでかすだろう」と、何かにつけ、はらはらしていらっしゃるが、大臣が、<BR>⏎ |
| c3 | 438-440 | と、戒めておっしゃるのさえ聞き入れず、人中に出て仕えていらっしゃる。<BR>⏎ どのような時であったろうか、殿上人が大勢、立派な方々ばかりが、この女御の御方に参上して、いろいろな楽器を奏して、くつろいだ感じの拍子を打って遊んでいる。秋の夕方の、どことなく風情のあるところに、宰相中将もお寄りになって、いつもと違ってふざけて冗談をおっしゃるのを、女房たちは珍しく思って、<BR>⏎ 「やはり、どの人よりも格別だわ」<BR>⏎ | 386-388 | と,戒めておっしゃるのさえ聞き入れず、人中に出て仕えていらっしゃる。<BR>⏎ どのような時であったろうか、殿上人が大勢、立派な方々ばかりが、この女御の御方に参上して、いろいろな楽器を奏して、くつろいだ感じの拍子を打って遊んでいる。秋の夕方の,どことなく風情のあるところに、宰相中将もお寄りになって、いつもと違ってふざけて冗談をおっしゃるのを、女房たちは珍しく思って、<BR>⏎ 「やはり,どの人よりも格別だわ」<BR>⏎ |
| c1 | 442 | 「あら、嫌だわ。これはどうなさるおつもり」<BR>⏎ | 390 | 「あら,嫌だわ。これはどうなさるおつもり」<BR>⏎ |
| c1 | 445 | と、お互いにつつき合っていると、この世にも珍しい真面目な方を、<BR>⏎ | 393 | と,お互いにつつき合っていると、この世にも珍しい真面目な方を、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 448-450 | 「沖の舟さん。寄る所がなくて波に漂っているなら<BR>⏎ わたしが棹さして近づいて行きますから、行く場所を教えてください<BR>⏎ 棚なし小舟みたいに、いつまでも一人の方ばかり思い続けていらっしゃるのね。あら、ごめんなさい」<BR>⏎ | 396-397 | 「沖の舟さん.寄る所がなくて波に漂っているなら<BR> わたしが棹さして近づいて行きますから、行く場所を教えてください<BR>⏎ 棚なし小舟みたいに、いつまでも一人の方ばかり思い続けていらっしゃるのね。あら,ごめんなさい」<BR>⏎ |
| cd7:4 | 452-458 | 「こちらの御方には、このようなぶしつけなこと、聞かないのに」と思いめぐらすと、「あの噂の姫君であったのか」<BR>⏎ と、おもしろく思って、<BR>⏎ 「寄る所がなく風がもてあそんでいる舟人でも<BR>⏎ 思ってもいない所には磯伝いしません」<BR>⏎ とおっしゃったので、引っ込みがつかなかったであろう、とか。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 399-402 | 「こちらの御方には、このようなぶしつけなこと,聞かないのに」と思いめぐらすと、「あの噂の姫君であったのか」<BR>⏎ と,おもしろく思って、<BR>⏎ 「寄る所がなく風がもてあそんでいる舟人でも<BR> 思ってもいない所には磯伝いしません」<BR>⏎ とおっしゃったので,引っ込みがつかなかったであろう、とか。<BR>⏎ |
| d1 | 465 | ⏎ | ||
| i0 | 413 | |||
| diff | src/original/version32.html | src/modified/version32.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version32 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version32 | 40 | <H4>第一章 光る源氏の物語 薫物合せ</H4> | 36 | |
| version32 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 六条院の薫物合せの準備]</A><BR> | 37 | |
| c1 | 43 | 正月の月末なので、公私ともにのんびりとした頃に、薫物合わせをなさる。大宰大弐が献上したいくつもの香を御覧になると、「やはり、昔の香には劣っていようか」とお思いになって、二条院の御倉を開けさせなさって、唐の品々を取り寄せなさって、ご比較なさると、<BR>⏎ | 39 | 正月の月末なので、公私ともにのんびりとした頃に、薫物合わせをなさる。大宰大弐が献上したいくつもの香を御覧になると、「やはり,昔の香には劣っていようか」とお思いになって、二条院の御倉を開けさせなさって、唐の品々を取り寄せなさって、ご比較なさると、<BR>⏎ |
| c1 | 45 | とおっしゃって、身近な調度類の、物の覆いや、敷物、座蒲団などの端々に、故院の御代の初め頃、高麗人が献上した綾や、緋金錦類など、今の世の物には比べ物にならず、さらにいろいろとご鑑定なさっては、今回の綾、羅などは、女房たちにご下賜なさる。<BR>⏎ | 41 | とおっしゃって,身近な調度類の、物の覆いや、敷物、座蒲団などの端々に、故院の御代の初め頃、高麗人が献上した綾や、緋金錦類など、今の世の物には比べ物にならず、さらにいろいろとご鑑定なさっては、今回の綾、羅などは、女房たちにご下賜なさる。<BR>⏎ |
| c1 | 48 | と、お願い申し上げさせなさった。贈物や、上達部への禄など、世にまたとないほどに、内にも外にも、お忙しくお作りなさるに加えて、それぞれに材料を選び準備して、鉄臼の音が喧しく聞こえる頃である。<BR>⏎ | 44 | と,お願い申し上げさせなさった。贈物や、上達部への禄など、世にまたとないほどに、内にも外にも、お忙しくお作りなさるに加えて、それぞれに材料を選び準備して、鉄臼の音が喧しく聞こえる頃である。<BR>⏎ |
| d1 | 54 | <P>⏎ | ||
| version32 | 55 | <A NAME="in12">[第二段 二月十日、薫物合せ]</A><BR> | 50 | |
| c1 | 58 | とおっしゃって、興味をお持ちになっているので、にっこりして、<BR>⏎ | 53 | とおっしゃって,興味をお持ちになっているので、にっこりして、<BR>⏎ |
| c1 | 60 | とおっしゃって、お手紙はお隠しになった。<BR>⏎ | 55 | とおっしゃって,お手紙はお隠しになった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 63-65 | とおっしゃって、お目を止めなさると、<BR>⏎ 「花の香りは散ってしまった枝には残っていませんが、<BR>⏎ 香を焚きしめた袖には深く残るでしょう」<BR>⏎ | 58-59 | とおっしゃって,お目を止めなさると、<BR>⏎ 「花の香りは散ってしまった枝には残っていませんが、<BR> 香を焚きしめた袖には深く残るでしょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 72-74 | とおっしゃって、御筆のついでに、<BR>⏎ 「花の枝にますます心を惹かれることよ<BR>⏎ 人が咎めるだろうと隠しているが」<BR>⏎ | 66-67 | とおっしゃって,御筆のついでに、<BR>⏎ 「花の枝にますます心を惹かれることよ<BR> 人が咎めるだろうと隠しているが」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 77-80 | などと、申し上げなさる。<BR>⏎ 「あやかるためにも、おっしゃるとおり、きっとお考えになるはずのことなのでしたね」<BR>⏎ と、ご判断申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 70-72 | などと,申し上げなさる。<BR>⏎ 「あやかるためにも、おっしゃるとおり,きっとお考えになるはずのことなのでしたね」<BR>⏎ と,ご判断申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version32 | 81 | <A NAME="in13">[第三段 御方々の薫物]</A><BR> | 73 | |
| c2 | 91-92 | と、お困りになる。同じのは、どこにでも伝わって広がっているようだが、それぞれの好みで調合なさった、深さ浅さを、聞き分けて御覧になると、とても興味深いものが数多かった。<BR>⏎ まったくどれと言えない香の中で、斎院の御黒方、そうは言っても、奥ゆかしく落ち着いた匂い、格別である。侍従の香は、大臣のその御香は、優れて優美でやさしい香りである、とご判定になさる。<BR>⏎ | 83-84 | と,お困りになる。同じのは、どこにでも伝わって広がっているようだが、それぞれの好みで調合なさった、深さ浅さを、聞き分けて御覧になると、とても興味深いものが数多かった。<BR>⏎ まったくどれと言えない香の中で、斎院の御黒方、そうは言っても、奥ゆかしく落ち着いた匂い、格別である。侍従の香は、大臣のその御香は、優れて優美でやさしい香りである,とご判定になさる。<BR>⏎ |
| c2 | 96-97 | 夏の御方におかれては、このようにご夫人方が思い思いに競争なさっている中で、人並みにもなるまいと、煙にさえお考えにならないご気性で、ただ荷葉の香を一種調合なさった。一風変わって、しっとりした香りで、しみじみと心惹かれる。<BR>⏎ 冬の御方におかれても、季節季節に基づいた香が決まっているから、負けるのもつまらないとお考えになって、薫衣香の調合法の素晴らしいのは、前の朱雀院のをお学びなさって、源公忠朝臣が、特別にお選び申した百歩の方などを思いついて、世間にない優美さを調合した、その考えが素晴らしいと、どれも悪い所がないように判定なさるのを、<BR>⏎ | 88-89 | 夏の御方におかれては、このようにご夫人方が思い思いに競争なさっている中で、人並みにもなるまいと、煙にさえお考えにならないご気性で、ただ荷葉の香を一種調合なさった。一風変わって,しっとりした香りで、しみじみと心惹かれる。<BR>⏎ 冬の御方におかれても、季節季節に基づいた香が決まっているから,負けるのもつまらないとお考えになって、薫衣香の調合法の素晴らしいのは、前の朱雀院のをお学びなさって、源公忠朝臣が、特別にお選び申した百歩の方などを思いついて、世間にない優美さを調合した、その考えが素晴らしいと、どれも悪い所がないように判定なさるのを、<BR>⏎ |
| d1 | 100 | <P>⏎ | ||
| version32 | 101 | <A NAME="in14">[第四段 薫物合せ後の饗宴]</A><BR> | 92 | |
| cd2:1 | 107-108 | 「鴬の声にますます魂が抜け出しそうです<BR>⏎ 心を惹かれた花の所では、<BR>⏎ | 98 | 「鴬の声にますます魂が抜け出しそうです<BR> 心を惹かれた花の所では、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 111-112 | 「色艶も香りも移り染まるほどに、今年の春は<BR>⏎ 花の咲くわたしの家を絶えず訪れて下さい」<BR>⏎ | 101 | 「色艶も香りも移り染まるほどに、今年の春は<BR> 花の咲くわたしの家を絶えず訪れて下さい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 114-115 | 「鴬のねぐらの枝もたわむほど<BR>⏎ 夜通し笛の音を吹き澄まして下さい」<BR>⏎ | 103 | 「鴬のねぐらの枝もたわむほど<BR> 夜通し笛の音を吹き澄まして下さい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 117-118 | 「気づかって風が避けて吹くらしい梅の花の木に<BR>⏎ むやみに近づいて笛を吹いてよいものでしょうか<BR>⏎ | 105 | 「気づかって風が避けて吹くらしい梅の花の木に<BR> むやみに近づいて笛を吹いてよいものでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 121-122 | 「霞でさえ月と花とを隔てなければ<BR>⏎ ねぐらに帰る鳥も鳴き出すことでしょう」<BR>⏎ | 108 | 「霞でさえ月と花とを隔てなければ<BR> ねぐらに帰る鳥も鳴き出すことでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 124-125 | 「この花の香りを素晴らしい袖に移して帰ったら<BR>⏎ 女と過ちを犯したのではないかと妻が咎めるでしょう」<BR>⏎ | 110 | 「この花の香りを素晴らしい袖に移して帰ったら<BR> 女と過ちを犯したのではないかと妻が咎めるでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 129-130 | 「珍しいと家の人も待ち受けて見ましょう<BR>⏎ この花の錦を着て帰るあなたを<BR>⏎ | 114 | 「珍しいと家の人も待ち受けて見ましょう<BR> この花の錦を着て帰るあなたを<BR>⏎ |
| d1 | 133 | <P>⏎ | ||
| version32 | 134 | <H4>第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の裳着</H4> | 117 | |
| version32 | 135 | <A NAME="in21">[第一段 明石の姫君の裳着]</A><BR> | 118 | |
| c1 | 136 | こうして、西の御殿に、戌の刻にお渡りになる。中宮のいらっしゃる西の放出を整備して、御髪上の内侍なども、そのままこちらに参上した。紫の上も、この機会に、中宮にご対面なさる。お二方の女房たちが、一緒に来合わせているのが、数えきれないほど見えた。<BR>⏎ | 119 | こうして,西の御殿に、戌の刻にお渡りになる。中宮のいらっしゃる西の放出を整備して、御髪上の内侍なども、そのままこちらに参上した。紫の上も、この機会に、中宮にご対面なさる。お二方の女房たちが、一緒に来合わせているのが、数えきれないほど見えた。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 141-143 | と、否定しておっしゃる御様子、とても若々しく愛嬌があるので、大臣も、理想通りに立派なご様子の婦人方が、集まっていらっしゃるのを、お互いの間柄も素晴らしいとお思いになる。母君が、このような機会でさえお目にかかれないのを、たいそう辛い事と思っているのも気の毒なので、参列させようかしらと、お考えになるが、世間の悪口を慮って、見送った。<BR>⏎ このような邸での儀式は、まあまあのものでさえ、とても煩雑で面倒なのだが、一部分だけでも、例によってまとまりなくお伝えするのも、かえってどうかと思い、詳細には書かない。<BR>⏎ <P>⏎ | 124-125 | と,否定しておっしゃる御様子、とても若々しく愛嬌があるので、大臣も、理想通りに立派なご様子の婦人方が、集まっていらっしゃるのを、お互いの間柄も素晴らしいとお思いになる。母君が、このような機会でさえお目にかかれないのを、たいそう辛い事と思っているのも気の毒なので、参列させようかしらと,お考えになるが、世間の悪口を慮って、見送った。<BR>⏎ このような邸での儀式は、まあまあのものでさえ、とても煩雑で面倒なのだが、一部分だけでも、例によってまとまりなくお伝えするのも,かえってどうかと思い、詳細には書かない。<BR>⏎ |
| version32 | 144 | <A NAME="in22">[第二段 明石の姫君の入内準備]</A><BR> | 126 | |
| d1 | 150 | <P>⏎ | ||
| version32 | 151 | <A NAME="in23">[第三段 源氏の仮名論議]</A><BR> | 132 | |
| c1 | 153 | 見事で上手なものは、近頃になって書ける人が出て来たが、平仮名を熱心に習っていた最中に、特に難点のない手本を数多く集めていた中で、中宮の母御息所が何気なくさらさらとお書きになった一行ほどの、無造作な筆跡を手に入れて、格段に優れていると感じたものです。<BR>⏎ | 134 | 見事で上手なものは、近頃になって書ける人が出て来たが、平仮名を熱心に習っていた最中に、特に難点のない手本を数多く集めていた中で、中宮の母御息所が 何気なくさらさらとお書きになった一行ほどの、無造作な筆跡を手に入れて、格段に優れていると感じたものです。<BR>⏎ |
| c1 | 156 | と、ひそひそと申し上げなさる。<BR>⏎ | 137 | と,ひそひそと申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 159 | と、お認め申し上げなさるので、<BR>⏎ | 140 | と,お認め申し上げなさるので、<BR>⏎ |
| c1 | 163 | とおっしゃって、まだ書写してない冊子類を作り加えて、表紙や、紐など、たいへん立派にお作らせになる。<BR>⏎ | 144 | とおっしゃって,まだ書写してない冊子類を作り加えて、表紙や,紐など,たいへん立派にお作らせになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 165-166 | と、自賛なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 146 | と,自賛なさる。<BR>⏎ |
| version32 | 167 | <A NAME="in24">[第四段 草子執筆の依頼]</A><BR> | 147 | |
| c2 | 169-170 | 「あの、風流好みの若い人たちを、試してみよう」<BR>⏎ とおっしゃって、宰相中将、式部卿宮の兵衛督、内の大殿の頭中将などに、<BR>⏎ | 149-150 | 「あの,風流好みの若い人たちを、試してみよう」<BR>⏎ とおっしゃって,宰相中将、式部卿宮の兵衛督、内の大殿の頭中将などに、<BR>⏎ |
| c1 | 174 | 御前に人は多くいず、女房が二、三人ほどで、墨などをお擦らせになって、由緒ある古い歌集の歌など、どんなものだろうかなどと、選び出しなさるので、相談相手になれる人だけが伺候している。<BR>⏎ | 154 | 御前に人は多くいず、女房が二,三人ほどで、墨などをお擦らせになって、由緒ある古い歌集の歌など、どんなものだろうかなどと,選び出しなさるので、相談相手になれる人だけが伺候している。<BR>⏎ |
| d1 | 176 | <P>⏎ | ||
| version32 | 177 | <A NAME="in25">[第五段 兵部卿宮、草子を持参]</A><BR> | 156 | |
| c1 | 180 | と、歓迎申し上げなさる。あの御依頼の冊子を持たせてお越しになったのであった。その場で御覧になると、たいして上手でもないご筆跡を、ただ一本調子に、たいそう垢抜けした感じにお書きになってある。和歌も、技巧を凝らして、風変わりな古歌を選んで、わずか三行ほどに、文字を少なくして好ましく書いていらっしゃった。大臣、御覧になって驚いた。<BR>⏎ | 159 | と,歓迎申し上げなさる。あの御依頼の冊子を持たせてお越しになったのであった。その場で御覧になると、たいして上手でもないご筆跡を、ただ一本調子に、たいそう垢抜けした感じにお書きになってある。和歌も、技巧を凝らして、風変わりな古歌を選んで、わずか三行ほどに、文字を少なくして好ましく書いていらっしゃった。大臣、御覧になって驚いた。<BR>⏎ |
| c1 | 182 | と、悔しがりなさる。<BR>⏎ | 161 | と,悔しがりなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 184 | などと、冗談をおっしゃる。<BR>⏎ | 163 | などと,冗談をおっしゃる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 186-188 | 唐の紙で、たいそう堅い材質に、草仮名をお書きになっている、まことに結構であると、御覧になると、高麗の紙で、きめが細かで柔らかく優しい感じで、色彩などは派手でなく、優美な感じのする紙に、おっとりした女手で、整然と心を配って、お書きになっている、喩えようもない。<BR>⏎ 御覧になる方の涙までが、筆跡に沿って流れるような感じがして、見飽きることのなさそうなところへ、さらに、わが国の紙屋院の色紙の、色合いが派手なのに、乱れ書きの草仮名の和歌を、筆にまかせて散らし書きになさったのは、見るべき点が尽きないほどである。型にとらわれず自在に愛嬌があって、ずっと見ていたい気がしたので、他の物にはまったく目もおやりにならない。<BR>⏎ <P>⏎ | 165-166 | 唐の紙で、たいそう堅い材質に、草仮名をお書きになっている、まことに結構であると,御覧になると、高麗の紙で、きめが細かで柔らかく優しい感じで、色彩などは派手でなく、優美な感じのする紙に、おっとりした女手で、整然と心を配って,お書きになっている、喩えようもない。<BR>⏎ 御覧になる方の涙までが、筆跡に沿って流れるような感じがして、見飽きることのなさそうなところへ、さらに,わが国の紙屋院の色紙の、色合いが派手なのに、乱れ書きの草仮名の和歌を、筆にまかせて散らし書きになさったのは、見るべき点が尽きないほどである。型にとらわれず自在に愛嬌があって、ずっと見ていたい気がしたので、他の物にはまったく目もおやりにならない。<BR>⏎ |
| version32 | 189 | <A NAME="in26">[第六段 他の人々持参の草子]</A><BR> | 167 | |
| c1 | 192 | 宰相中将のは、水の勢いを豊富に書いて、乱れ生えている葦の様子など、難波の浦に似ていて、あちこちに入り混じって、たいそうすっきりした所がある。また、たいそう大仰に趣を変えて、字体、石などの様子、風流にお書きになった紙もあるようだ。<BR>⏎ | 170 | 宰相中将のは、水の勢いを豊富に書いて、乱れ生えている葦の様子など、難波の浦に似ていて、あちこちに入り混じって、たいそうすっきりした所がある。また,たいそう大仰に趣を変えて、字体,石などの様子、風流にお書きになった紙もあるようだ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 194-195 | と、興味深くお誉めになる。どのようなことにも趣味を持って、風流がりなさる親王なので、とてもたいそうお誉め申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 172 | と,興味深くお誉めになる。どのようなことにも趣味を持って、風流がりなさる親王なので、とてもたいそうお誉め申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version32 | 196 | <A NAME="in27">[第七段 古万葉集と古今和歌集]</A><BR> | 173 | |
| c1 | 198 | 嵯峨の帝が、『古万葉集』を選んでお書かせあそばした四巻。延喜の帝が、『古今和歌集』を、唐の浅縹の紙を継いで、同じ色の濃い紋様の綺の表紙、同じ玉の軸、だんだら染に組んだ唐風の組紐など、優美で、巻ごとに御筆跡の書風を変えながら、あらん限りの書の美をお書き尽くしあそばしたのを、大殿油を低い台に燈して御覧になると、<BR>⏎ | 175 | 嵯峨の帝が、『古万葉集』を選んでお書かせあそばした四巻. 延喜の帝が、『古今和歌集』を、唐の浅縹の紙を継いで、同じ色の濃い紋様の綺の表紙、同じ玉の軸、だんだら染に組んだ唐風の組紐など、優美で、巻ごとに御筆跡の書風を変えながら、あらん限りの書の美をお書き尽くしあそばしたのを、大殿油を低い台に燈して御覧になると、<BR>⏎ |
| c2 | 200-201 | などと、お誉めになる。そのままこれらはこちらに献上なさる。<BR>⏎ 「女の子などを持っていましたにしても、たいして見る目を持たない者には、伝えたくないのですが、まして、埋もれてしまいますから」<BR>⏎ | 177-178 | などと,お誉めになる。そのままこれらはこちらに献上なさる。<BR>⏎ 「女の子などを持っていましたにしても、たいして見る目を持たない者には,伝えたくないのですが、まして,埋もれてしまいますから」<BR>⏎ |
| c1 | 203 | またこの頃は、ひたすら仮名の論評をなさって、世間で能書家だと聞こえた、上中下の人々にも、ふさわしい内容のものを見計らって、探し出してお書かせになる。この御箱には、身分の低い者のはお入れにならず、特別に、その人の家柄や、地位を区別なさりなさり、冊子、巻物、すべてお書かせ申し上げなさる。<BR>⏎ | 180 | またこの頃は、ひたすら仮名の論評をなさって、世間で能書家だと聞こえた、上中下の人々にも、ふさわしい内容のものを見計らって、探し出してお書かせになる。この御箱には、身分の低い者のはお入れにならず、特別に,その人の家柄や、地位を区別なさりなさり、冊子,巻物、すべてお書かせ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 205 | <P>⏎ | ||
| version32 | 206 | <H4>第三章 内大臣家の物語 夕霧と雲居雁の物語</H4> | 182 | |
| version32 | 207 | <A NAME="in31">[第一段 内大臣家の近況]</A><BR> | 183 | |
| c1 | 208 | 内大臣は、この入内の御準備を、他人事としてお聞きになるが、たいそう気が気でなく、つまらないとお思いになる。姫君のご様子、女盛りに成長して、もったいないほどにかわいらしい。所在なげに塞ぎ込んでいらっしゃる様子は、たいへんなお嘆きの種であるが、あの方のご様子は、どうかといえば、いつも変わらず平気なので、「弱気になってこちらから歩み寄るようなのも、体裁が悪いし、相手が夢中だった時に、言うことを聞いていたら」などと、一人お嘆きになって、一途に悪いと責めることもおできになれない。<BR>⏎ | 184 | 内大臣は、この入内の御準備を、他人事としてお聞きになるが、たいそう気が気でなく、つまらないとお思いになる。姫君のご様子、女盛りに成長して、もったいないほどにかわいらしい。所在なげに塞ぎ込んでいらっしゃる様子は、たいへんなお嘆きの種であるが、あの方のご様子は、どうかといえば,いつも変わらず平気なので、「弱気になってこちらから歩み寄るようなのも、体裁が悪いし、相手が夢中だった時に、言うことを聞いていたら」などと、一人お嘆きになって、一途に悪いと責めることもおできになれない。<BR>⏎ |
| d1 | 210 | <P>⏎ | ||
| version32 | 211 | <A NAME="in32">[第二段 源氏、夕霧に結婚の教訓]</A><BR> | 186 | |
| c1 | 213 | 「あちらの姫君のこと、思い切ってしまったら、右大臣、中務宮などが娘を縁づけたいご意向であるらしいから、どちらなりともお決めなさい」<BR>⏎ | 188 | 「あちらの姫君のこと、思い切ってしまったら、右大臣,中務宮などが 娘を縁づけたいご意向であるらしいから、どちらなりともお決めなさい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 220-221 | などと、のんびりとした所在のない時は、このような心づかいをしきりにお教えになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 195 | などと,のんびりとした所在のない時は、このような心づかいをしきりにお教えになる。<BR>⏎ |
| version32 | 222 | <A NAME="in33">[第三段 夕霧と雲居の雁の仲]</A><BR> | 196 | |
| c1 | 228 | などと、涙を浮かべておっしゃるので、姫君、とても顔も向けられない思いでいるにも、何とはなしに涙がこぼれるので、体裁悪く思って後ろを向いていらっしゃる、そのかわいらしさ、この上もない。<BR>⏎ | 202 | などと,涙を浮かべておっしゃるので、姫君,とても顔も向けられない思いでいるにも、何とはなしに涙がこぼれるので、体裁悪く思って後ろを向いていらっしゃる、そのかわいらしさ,この上もない。<BR>⏎ |
| c1 | 230 | などと、お気持ちも迷ってお立ちになった後も、そのまま端近くに物思いに沈んでいらっしゃる。<BR>⏎ | 204 | などと,お気持ちも迷ってお立ちになった後も、そのまま端近くに物思いに沈んでいらっしゃる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 232-234 | などと、あれこれと思案なさっているところに、お手紙がある。それでもやはり御覧になる。愛情のこもったお手紙で、<BR>⏎ 「あなたの冷たいお心は、つらいこの世の習性となって行きますが<BR>⏎ それでも忘れないわたしは世間の人と違っているのでしょうか」<BR>⏎ | 206-207 | などと,あれこれと思案なさっているところに、お手紙がある。それでもやはり御覧になる。愛情のこもったお手紙で、<BR>⏎ 「あなたの冷たいお心は、つらいこの世の習性となって行きますが<BR> それでも忘れないわたしは世間の人と違っているのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 236-237 | 「もうこれまでだと、忘れないとおっしゃるわたしのことを忘れるのは<BR>⏎ あなたのお心もこの世の習性の人心なのでしょう」<BR>⏎ | 209 | 「もうこれまでだと、忘れないとおっしゃるわたしのことを忘れるのは<BR> あなたのお心もこの世の習性の人心なのでしょう」<BR>⏎ |
| d2 | 239-240 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 247 | ⏎ | ||
| i0 | 221 | |||
| diff | src/original/version33.html | src/modified/version33.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version33 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 43 | <P>⏎ | ||
| version33 | 44 | <H4>第一章 夕霧の物語 雲居雁との筒井筒の恋実る</H4> | 40 | |
| version33 | 45 | <A NAME="in11">[第一段 夕霧と雲居雁の相思相愛の恋]</A><BR> | 41 | |
| c2 | 46-47 | 御入内の準備の最中にも、宰相中将は物思いに沈みがちで、ぼんやりした感じがするが、「一方では、不思議な感じで、自分ながら執念深いことだ。むやみにこんなに恋しいことならば、関守が、目をつぶって許そうというほどに気弱におなりだという噂を聞きながら、同じことなら、体裁の悪くないよう最後まで通そう」と我慢するにつけても、苦しく思い悩んでいらっしゃる。<BR>⏎ 女君も、大臣がちらっとおっしゃった縁談のお話を、「もしも、そうなったら、わたしのことをすっかり忘れてしまうだろう」と嘆かわしくて、不思議と背を向けあった関係ながら、そうはいっても相思相愛の仲である。<BR>⏎ | 42-43 | 御入内の準備の最中にも、宰相中将は物思いに沈みがちで、ぼんやりした感じがするが、「一方では,不思議な感じで、自分ながら執念深いことだ。むやみにこんなに恋しいことならば、関守が、目をつぶって許そうというほどに気弱におなりだという噂を聞きながら、同じことなら、体裁の悪くないよう最後まで通そう」と我慢するにつけても、苦しく思い悩んでいらっしゃる。<BR>⏎ 女君も、大臣がちらっとおっしゃった縁談のお話を、「もしも,そうなったら、わたしのことをすっかり忘れてしまうだろう」と嘆かわしくて、不思議と背を向けあった関係ながら、そうはいっても相思相愛の仲である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 49-50 | 表面上は何気ないが、恨みの解けないご関係なので、「きっかけもなく言い出すのはどんなものか」と、ご躊躇なさって、「改まって申し出るのも、世間の人が思うところも馬鹿馬鹿しい。どのような機会にそれとなく切り出したらよかろう」などと、お考えだったところ、三月二十日が、大殿の大宮の御忌日なので、極楽寺に参詣なさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 45 | 表面上は何気ないが、恨みの解けないご関係なので、「きっかけもなく言い出すのはどんなものか」と、ご躊躇なさって、「改まって申し出るのも、世間の人が思うところも馬鹿馬鹿しい。どのような機会にそれとなく切り出したらよかろう」などと,お考えだったところ、三月二十日が、大殿の大宮の御忌日なので、極楽寺に参詣なさった。<BR>⏎ |
| version33 | 51 | <A NAME="in12">[第二段 三月二十日、極楽寺に詣でる]</A><BR> | 46 | |
| c1 | 53 | この大臣を、ひどいとお思い申し上げなさってから、お目にかかるのも、つい気が張って、とてもひどく気をつかって、取り澄ましていらっしゃるのを、大臣も、いつもよりは注目なさっている。御誦経など、六条院からもおさせになった。宰相の君は、誰にもまして、万端のことを引き受けて、真心をこめて奉仕していらっしゃる。<BR>⏎ | 48 | この大臣を、ひどいとお思い申し上げなさってから、お目にかかるのも、つい気が張って、とてもひどく気をつかって、取り澄ましていらっしゃるのを、大臣も、いつもよりは注目なさっている。御誦経など、六条院からもおさせになった。宰相の君は、誰にもまして,万端のことを引き受けて、真心をこめて奉仕していらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 55 | 「どうして、そんなにひどく怒っておいでなのか。今日の御法要の縁故をお考えになれば、不行届きはお許し下さいよ。余命少なくなってゆく老いの身に、お見限りなさるのも、お恨み申し上げたい」<BR>⏎ | 50 | 「どうして,そんなにひどく怒っておいでなのか。今日の御法要の縁故をお考えになれば、不行届きはお許し下さいよ。余命少なくなってゆく老いの身に、お見限りなさるのも、お恨み申し上げたい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 59-60 | 気ぜわしい雨風に、皆ばらばらに急いでお帰りになった。宰相の君は、「どのようにお考えになって、いつもとは違って、あのようなことをおっしゃったのだろうか」などと、絶えず気にかけていらっしゃる内大臣家のことなので、ちょっとしたことであるが、耳が止まって、ああかこうかと、考えながら夜をお明かしになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 54 | 気ぜわしい雨風に、皆ばらばらに急いでお帰りになった。宰相の君は、「どのようにお考えになって、いつもとは違って,あのようなことをおっしゃったのだろうか」などと、絶えず気にかけていらっしゃる内大臣家のことなので,ちょっとしたことであるが、耳が止まって、ああかこうかと、考えながら夜をお明かしになる。<BR>⏎ |
| version33 | 61 | <A NAME="in13">[第三段 内大臣、夕霧を自邸に招待]</A><BR> | 55 | |
| cd5:3 | 65-69 | 「わたしの家の藤の花の色が濃い夕方に<BR>⏎ 訪ねていらっしゃいませんか、逝く春の名残を惜しみに」<BR>⏎ おっしゃる通り、たいそう美しい枝に付けていらっしゃった。心待ちしていらっしゃったのにつけても、心がどきどきして、恐縮してお返事を差し上げなさる。<BR>⏎ 「かえって藤の花を折るのにまごつくのではないでしょうか<BR>⏎ 夕方時のはっきりしないころでは」<BR>⏎ | 59-61 | 「わたしの家の藤の花の色が濃い夕方に<BR> 訪ねていらっしゃいませんか、逝く春の名残を惜しみに」<BR>⏎ おっしゃる通り,たいそう美しい枝に付けていらっしゃった。心待ちしていらっしゃったのにつけても、心がどきどきして、恐縮してお返事を差し上げなさる。<BR>⏎ 「かえって藤の花を折るのにまごつくのではないでしょうか<BR> 夕方時のはっきりしないころでは」<BR>⏎ |
| c2 | 76-77 | と言って、お帰しになった。<BR>⏎ 大臣の御前に、これこれしかじかです、と言って、御覧にお入れになる。<BR>⏎ | 68-69 | と言って,お帰しになった。<BR>⏎ 大臣の御前に、これこれしかじかです、と言って,御覧にお入れになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 85-86 | とおっしゃって、ご自分のお召し物の格別見事なのに、何ともいえないほど素晴らしい御下着類を揃えて、お供に持たせて差し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 77 | とおっしゃって,ご自分のお召し物の格別見事なのに、何ともいえないほど素晴らしい御下着類を揃えて、お供に持たせて差し上げなさる。<BR>⏎ |
| version33 | 87 | <A NAME="in14">[第四段 夕霧、内大臣邸を訪問]</A><BR> | 78 | |
| c1 | 88 | ご自分のお部屋で、念入りにおめかしなさって、黄昏時も過ぎ、じれったく思うころに参上なさった。主人のご子息たち、中将をはじめとして、七、八人うち揃ってお出迎えなさる。どの方となくいずれも美しい器量の方々だが、やはり、その人々以上に、水際立って美しい一方、優しく、優雅で、犯しがたい気品がある。<BR>⏎ | 79 | ご自分のお部屋で、念入りにおめかしなさって、黄昏時も過ぎ、じれったく思うころに参上なさった。主人のご子息たち、中将をはじめとして、七,八人うち揃ってお出迎えなさる。どの方となくいずれも美しい器量の方々だが、やはり,その人々以上に、水際立って美しい一方、優しく、優雅で、犯しがたい気品がある。<BR>⏎ |
| c2 | 91-92 | あの方は、ただ非常に優美で愛嬌があって、見るとついほほ笑みたくなり、世の中の憂さを忘れるような気持ちにおさせになる。政治の面では、多少柔らかさ過ぎて、謹厳さに欠けるところがあったのは、もっともなことだ。<BR>⏎ この方は、学問の才能も優れ、心構えも男らしく、しっかりしていて申し分ないと、世間の評判のようだ」<BR>⏎ | 82-83 | あの方は,ただ非常に優美で愛嬌があって、見るとついほほ笑みたくなり、世の中の憂さを忘れるような気持ちにおさせになる。政治の面では、多少柔らかさ過ぎて、謹厳さに欠けるところがあったのは、もっともなことだ。<BR>⏎ この方は,学問の才能も優れ、心構えも男らしく、しっかりしていて申し分ないと、世間の評判のようだ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 94-96 | 「春の花、どれもこれも皆咲き出す色ごとに、目を驚かさない物はないが、気ぜわしく人の気も構わず散ってしまうのが、恨めしく思われるころに、この藤の花だけがひとり遅れて、夏に咲きかかるのが、妙に奥ゆかしくしみじみと思われます。色も色で、懐しい由縁の物といえましょう」<BR>⏎ と言って、ちょっとほほ笑んでいらっしゃる、風格があって、つややかでお美しい。<BR>⏎ <P>⏎ | 85-86 | 「春の花、どれもこれも 皆咲き出す色ごとに、目を驚かさない物はないが、気ぜわしく人の気も構わず散ってしまうのが、恨めしく思われるころに、この藤の花だけがひとり遅れて、夏に咲きかかるのが、妙に奥ゆかしくしみじみと思われます。色も色で、懐しい由縁の物といえましょう」<BR>⏎ と言って,ちょっとほほ笑んでいらっしゃる、風格があって、つややかでお美しい。<BR>⏎ |
| version33 | 97 | <A NAME="in15">[第五段 藤花の宴 結婚を許される]</A><BR> | 87 | |
| c1 | 102 | と、恐縮して申し上げなさる。頃合いを見計らって、はやし立てて、<BR>⏎ | 92 | と,恐縮して申し上げなさる。頃合いを見計らって、はやし立てて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 105-106 | 「紫色のせいにしましょう、藤の花の<BR>⏎ 待ち過ぎてしまって恨めしいことだが」<BR>⏎ | 95 | 「紫色のせいにしましょう、藤の花の<BR> 待ち過ぎてしまって恨めしいことだが」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 108-109 | 「幾度も湿っぽい春を過ごして来ましたが<BR>⏎ 今日初めて花の開くお許しを得ることができました」<BR>⏎ | 97 | 「幾度も湿っぽい春を過ごして来ましたが<BR> 今日初めて花の開くお許しを得ることができました」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 111-112 | 「うら若い女性の袖に見違える藤の花は<BR>⏎ 見る人の立派なためかいっそう美しさを増すことでしょう」<BR>⏎ | 99 | 「うら若い女性の袖に見違える藤の花は<BR> 見る人の立派なためかいっそう美しさを増すことでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 114 | <P>⏎ | ||
| version33 | 115 | <A NAME="in16">[第六段 夕霧、雲居雁の部屋を訪う]</A><BR> | 101 | |
| c2 | 116-117 | 七日の夕月夜、月の光は微かであるのに、池の水が鏡のように静かに澄み渡っている。なるほど、まだ茂らない梢が、物足りないころなので、たいそう気取って横たわっている松の、木高くないのに、咲き掛かっている藤の花の様子、世になく美しい。<BR>⏎ 例によって、弁少将が、声をたいそう優しく「葦垣」を謡う。大臣、<BR>⏎ | 102-103 | 七日の夕月夜、月の光は微かであるのに、池の水が鏡のように静かに澄み渡っている。なるほど,まだ茂らない梢が、物足りないころなので、たいそう気取って横たわっている松の、木高くないのに、咲き掛かっている藤の花の様子、世になく美しい。<BR>⏎ 例によって,弁少将が、声をたいそう優しく 「葦垣」を謡う。大臣、<BR>⏎ |
| c1 | 119 | と、冗談をおっしゃって、<BR>⏎ | 105 | と,冗談をおっしゃって、<BR>⏎ |
| c1 | 121 | と、お添えになるお声、誠に素晴らしい。興趣ある中に冗談も混じった管弦のお遊びで、気持ちのこだわりもすっかり解けてしまったようである。<BR>⏎ | 107 | と,お添えになるお声、誠に素晴らしい。興趣ある中に冗談も混じった管弦のお遊びで、気持ちのこだわりもすっかり解けてしまったようである。<BR>⏎ |
| c1 | 124 | と、頭中将に訴えなさる。大臣が、<BR>⏎ | 110 | と,頭中将に訴えなさる。大臣が、<BR>⏎ |
| c1 | 134 | と、お恨み申し上げなさる。<BR>⏎ | 120 | と,お恨み申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 137-138 | 「軽々しい浮名を流したあなたの口は<BR>⏎ どうしてお漏らしになったのですか<BR>⏎ | 123 | 「軽々しい浮名を流したあなたの口は<BR> どうしてお漏らしになったのですか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 141-142 | 「浮名が漏れたのはあなたの父大臣のせいでもありますのに<BR>⏎ わたしのせいばかりになさらないで下さい<BR>⏎ | 126 | 「浮名が漏れたのはあなたの父大臣のせいでもありますのに<BR> わたしのせいばかりになさらないで下さい<BR>⏎ |
| c1 | 144 | と、酔いのせいにして、苦しそうに振る舞って、夜の明けて行くのも知らないふうである。女房たちが、起こしかねているのを、大臣が、<BR>⏎ | 128 | と,酔いのせいにして、苦しそうに振る舞って、夜の明けて行くのも知らないふうである。女房たちが、起こしかねているのを、大臣が、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 146-147 | と、文句をおっしゃる。けれども、すっかり夜が明け果てないうちにお帰りになる。その寝乱れ髪の朝のお顔は、見がいのあったことだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 130 | と,文句をおっしゃる。けれども、すっかり夜が明け果てないうちにお帰りになる。その寝乱れ髪の朝のお顔は、見がいのあったことだ。<BR>⏎ |
| version33 | 148 | <A NAME="in17">[第七段 後朝の文を贈る]</A><BR> | 131 | |
| cd3:2 | 151-153 | お咎め下さいますな、人目を忍んで絞る手も力なく<BR>⏎ 今日は人目にもつきそうな袖の涙のしずくを」<BR>⏎ などと、たいそう馴れ馴れしい詠みぶりである。微笑んで、<BR>⏎ | 134-135 | お咎め下さいますな、人目を忍んで絞る手も力なく<BR> 今日は人目にもつきそうな袖の涙のしずくを」<BR>⏎ などと,たいそう馴れ馴れしい詠みぶりである。微笑んで、<BR>⏎ |
| c1 | 158 | 六条の大臣も、これこれとお聞き知りになったのであった。宰相中将、いつもより美しさが増して、参上なさったので、じっと御覧になって、<BR>⏎ | 140 | 六条の大臣も、これこれとお聞き知りになったのであった。宰相中将、いつもより美しさが増して,参上なさったので、じっと御覧になって、<BR>⏎ |
| c1 | 162 | などと、例によってご教訓申し上げなさる。釣り合いもよく、恰好のご夫婦だ、とお思いになる。<BR>⏎ | 144 | などと,例によってご教訓申し上げなさる。釣り合いもよく、恰好のご夫婦だ、とお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 166 | <P>⏎ | ||
| version33 | 167 | <A NAME="in18">[第八段 夕霧と雲居雁の固い夫婦仲]</A><BR> | 148 | |
| d1 | 172 | <P>⏎ | ||
| version33 | 173 | <H4>第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の入内</H4> | 153 | |
| version33 | 174 | <A NAME="in21">[第一段 紫の上、賀茂の御阿礼に参詣]</A><BR> | 154 | |
| c1 | 175 | こうして、六条院の御入内の儀は、四月二十日のころであった。対の上、賀茂の御阿礼に参詣なさろうとして、例によって御方々をお誘い申し上げなさったが、なまじ、そのように後に付いて行くのもおもしろくないのをお思いになって、どなたもどなたもお残りになって、仰々しいほどでなく、お車二十台ほどで、御前駆なども、ごたごたするほどの人数でなく、簡略になさったのが、かえって素晴らしい。<BR>⏎ | 155 | こうして,六条院の御入内の儀は、四月二十日のころであった。対の上、賀茂の御阿礼に参詣なさろうとして、例によって御方々をお誘い申し上げなさったが、なまじ,そのように後に付いて行くのもおもしろくないのをお思いになって、どなたもどなたもお残りになって、仰々しいほどでなく、お車二十台ほどで、御前駆なども、ごたごたするほどの人数でなく、簡略になさったのが、かえって素晴らしい。<BR>⏎ |
| c1 | 179 | と、そこのあたりは言葉をお濁しになって、<BR>⏎ | 159 | と,そこのあたりは言葉をお濁しになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 181-182 | と、親しくお話しなさって、上達部などもお桟敷に参集なさったので、そちらにお出ましになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 161 | と,親しくお話しなさって、上達部などもお桟敷に参集なさったので、そちらにお出ましになった。<BR>⏎ |
| version33 | 183 | <A NAME="in22">[第二段 柏木や夕霧たちの雄姿]</A><BR> | 162 | |
| c1 | 184 | 近衛府の使者は、頭中将であった。あの大殿邸を、出立する所から人々は参上なさったのであった。藤典侍も使者であった。格別に評判がよくて、帝、春宮をお初めとして、六条院などからも、御祝儀の数々が置き所もないほど、ご贔屓ぶりは実に素晴らしい。<BR>⏎ | 163 | 近衛府の使者は、頭中将であった。あの大殿邸を、出立する所から人々は参上なさったのであった。藤典侍も使者であった。格別に評判がよくて、帝,春宮をお初めとして、六条院などからも、御祝儀の数々が置き所もないほど、ご贔屓ぶりは実に素晴らしい。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 186-187 | 「何と言ったのか、今日のこの插頭は、目の前に見ていながら<BR>⏎ 思い出せなくなるまでになってしまったことよ<BR>⏎ | 165 | 「何と言ったのか、今日のこの插頭は、目の前に見ていながら<BR> 思い出せなくなるまでになってしまったことよ<BR>⏎ |
| cd2:1 | 190-191 | 「頭に插頭してもなおはっきりと思い出せない草の名は<BR>⏎ 桂を折られたあなたはご存知でしょう<BR>⏎ | 168 | 「頭に插頭してもなおはっきりと思い出せない草の名は<BR> 桂を折られたあなたはご存知でしょう<BR>⏎ |
| cd2:1 | 193-194 | と申し上げた。つまらない歌であるが、悔しい返歌だとお思いになる。やはり、この典侍を、忘れられず、こっそりお会いなさるのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 170 | と申し上げた。つまらない歌であるが、悔しい返歌だとお思いになる。やはり,この典侍を、忘れられず、こっそりお会いなさるのであろう。<BR>⏎ |
| version33 | 195 | <A NAME="in23">[第三段 四月二十日過ぎ、明石姫君、東宮に入内]</A><BR> | 171 | |
| c1 | 196 | こうして、御入内には北の方がお付き添いになるものだが、「いつまでも長々とお付き添い申していらっしゃることはできまい。このような機会に、あの実の親をご後見役に付けようか」とお考えになる。<BR>⏎ | 172 | こうして,御入内には北の方がお付き添いになるものだが、「いつまでも長々とお付き添い申していらっしゃることはできまい。このような機会に、あの実の親をご後見役に付けようか」とお考えになる。<BR>⏎ |
| c1 | 201 | その夜は、対の上が付き添って参内なさるが、その際、輦車にも一段下がって歩いて行くなど、体裁の悪いことだが、自分は構わないが、ただ、このように大事に磨き申し上げなさった姫君の玉の瑕となって、自分がこのように長生きをしているのを、一方ではひどく心苦しく思う。<BR>⏎ | 177 | その夜は、対の上が付き添って参内なさるが、その際、輦車にも一段下がって歩いて行くなど、体裁の悪いことだが、自分は構わないが、ただ,このように大事に磨き申し上げなさった姫君の玉の瑕となって、自分がこのように長生きをしているのを、一方ではひどく心苦しく思う。<BR>⏎ |
| d1 | 203 | <P>⏎ | ||
| version33 | 204 | <A NAME="in24">[第四段 紫の上、明石御方と対面する]</A><BR> | 179 | |
| c2 | 207-208 | と、やさしくおっしゃって、お話などなさる。このことも仲好くなった初めのようである。お話などなさる態度に、なるほどもっともだと、目を見張る思いで御覧になる。<BR>⏎ また、実に気品高く女盛りでいらっしゃるご様子を、お互いに素晴らしいと認めて、「大勢の御方々の中でも優れたご寵愛で、並ぶ方がいない地位を占めていらっしゃったのを、まことにもっともなことだ」と理解されると、「こんなにまで出世し、肩をお並べ申すことができた前世の約束、いいかげんなものでない」と思う一方で、ご退出になる儀式が実に格別に盛大で、御輦車などを許されなさって、女御のご様子と異ならないのを、思い比べると、やはり身分の相違というものを感じずにはいられないのである。<BR>⏎ | 182-183 | と,やさしくおっしゃって、お話などなさる。このことも仲好くなった初めのようである。お話などなさる態度に、「なるほどもっともだ」と、目を見張る思いで御覧になる。<BR>⏎ また,実に気品高く女盛りでいらっしゃるご様子を、お互いに素晴らしいと認めて、「大勢の御方々の中でも優れたご寵愛で、並ぶ方がいない地位を占めていらっしゃったのを、まことにもっともなことだ」と理解されると、「こんなにまで出世し,肩をお並べ申すことができた前世の約束、いいかげんなものでない」と思う一方で、ご退出になる儀式が 実に格別に盛大で、御輦車などを許されなさって、女御のご様子と異ならないのを、思い比べると、やはり身分の相違というものを感じずにはいられないのである。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 210-213 | 思う通りにお世話申し上げて、行き届かないこと、それは、まったくない方の利発さなので、世人一般の人気、声望をはじめとして、並々ならぬご容姿ご器量なので、東宮も、お若い心で、たいそう格別にお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ 競争なさっている御方々の女房などは、この母君がこうして伺候していらっしゃるのを、欠点に言ったりなどするが、それに負けるはずがない。当世風で、並ぶ者がないことは、言うまでもなく、奥ゆかしく上品なご様子を、ちょっとしたことにつけても、理想的に引き立ててお上げになるので、殿上人なども、珍しい風流の才を競う所として、それぞれに伺候する女房たちも、心寄せている女房の、心構え態度までが、実に立派なのを揃えていらっしゃった。<BR>⏎ 対の上も、しかるべき機会には参内なさる。お二方の仲は理想的に睦まじくなって行くが、そうかといって出過ぎたり馴れ馴れしくならず、軽く見られるような態度、言うまでもなく、まったくなく、不思議なほど理想的な方の態度、心構えである。<BR>⏎ <P>⏎ | 185-187 | 思う通りにお世話申し上げて、行き届かないこと、それは,まったくない方の利発さなので、世人一般の人気、声望をはじめとして、並々ならぬご容姿ご器量なので、東宮も、お若い心で、たいそう格別にお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ 競争なさっている御方々の女房などは、この母君が こうして伺候していらっしゃるのを、欠点に言ったりなどするが、それに負けるはずがない。当世風で、並ぶ者がないことは、言うまでもなく、奥ゆかしく上品なご様子を、ちょっとしたことにつけても、理想的に引き立ててお上げになるので、殿上人なども、珍しい風流の才を競う所として、それぞれに伺候する女房たちも、心寄せている女房の、心構え態度までが、実に立派なのを揃えていらっしゃった。<BR>⏎ 対の上も、しかるべき機会には参内なさる。お二方の仲は理想的に睦まじくなって行くが、そうかといって出過ぎたり馴れ馴れしくならず、軽く見られるような態度、言うまでもなく,まったくなく、不思議なほど理想的な方の態度、心構えである。<BR>⏎ |
| version33 | 214 | <H4>第三章 光る源氏の物語 准太上天皇となる</H4> | 188 | |
| version33 | 215 | <A NAME="in31">[第一段 源氏、秋に准太上天皇の待遇を得る]</A><BR> | 189 | |
| cd2:1 | 224-225 | 「浅緑色をした若葉の菊を<BR>⏎ 濃い紫の花が咲こうとは夢にも思わなかっただろう<BR>⏎ | 198 | 「浅緑色をした若葉の菊を<BR> 濃い紫の花が咲こうとは夢にも思わなかっただろう<BR>⏎ |
| cd3:2 | 227-229 | と、たいそう美しくほほ笑んでお与えになった。恥ずかしく、お気の毒なことをしたと思う一方で、いとしくも、お思い申し上げる。<BR>⏎ 「二葉の時から名門の園に育つ菊ですから<BR>⏎ 浅い色をしていると差別する者など誰もございませんでした<BR>⏎ | 200-201 | と,たいそう美しくほほ笑んでお与えになった。恥ずかしく,お気の毒なことをしたと思う一方で,いとしくも,お思い申し上げる。<BR>⏎ 「二葉の時から名門の園に育つ菊ですから<BR> 浅い色をしていると差別する者など誰もございませんでした<BR>⏎ |
| cd2:1 | 231-232 | と、いかにも物馴れた様子に言い訳をする。<BR>⏎ <P>⏎ | 203 | と,いかにも物馴れた様子に言い訳をする。<BR>⏎ |
| version33 | 233 | <A NAME="in32">[第二段 夕霧夫妻、三条殿に移る]</A><BR> | 204 | |
| c1 | 234 | ご威勢が増して、このようなお住まいでは手狭なので、三条殿にお移りになった。少し荒れていたのをたいそう立派に修理して、大宮がいらっしゃったお部屋を修繕してお住まいになる。昔が思い出されて、懐しく心にかなったお部屋である。<BR>⏎ | 205 | ご威勢が増して、このようなお住まいでは手狭なので、三条殿にお移りになった。少し荒れていたのを たいそう立派に修理して、大宮がいらっしゃったお部屋を修繕してお住まいになる。昔が思い出されて、懐しく心にかなったお部屋である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 238-239 | 「おまえこそはこの家を守っている主人だ、お世話になった人の<BR>⏎ 行方は知っているか、邸の真清水よ」<BR>⏎ | 209 | 「おまえこそはこの家を守っている主人だ、お世話になった人の<BR> 行方は知っているか、邸の真清水よ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 241-242 | 「亡き人の姿さえ映さず知らない顔で<BR>⏎ 心地よげに流れている浅い清水ね」<BR>⏎ | 211 | 「亡き人の姿さえ映さず知らない顔で<BR> 心地よげに流れている浅い清水ね」<BR>⏎ |
| d1 | 244 | <P>⏎ | ||
| version33 | 245 | <A NAME="in33">[第三段 内大臣、三条殿を訪問]</A><BR> | 213 | |
| cd2:1 | 250-251 | 「その昔の老木はなるほど朽ちてしまうのも当然だろう<BR>⏎ 植えた小松にも苔が生えたほどだから」<BR>⏎ | 218 | 「その昔の老木はなるほど朽ちてしまうのも当然だろう<BR> 植えた小松にも苔が生えたほどだから」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 253-254 | 「どちら様をも蔭と頼みにしております、二葉の時から<BR>⏎ 互いに仲好く大きくおなりになった二本の松でいらっしゃいますから」<BR>⏎ | 220 | 「どちら様をも蔭と頼みにしております、二葉の時から<BR> 互いに仲好く大きくおなりになった二本の松でいらっしゃいますから」<BR>⏎ |
| d1 | 256 | <P>⏎ | ||
| version33 | 257 | <A NAME="in34">[第四段 十月二十日過ぎ、六条院行幸]</A><BR> | 222 | |
| c1 | 259 | 巳の時に行幸があって、まず、馬場殿に左右の馬寮の御馬を牽き並べて、左右近衛府の官人が立ち並んだ儀式、五月の節句に違わずよく似ていた。未の刻を過ぎたころ、南の寝殿にお移りあそばす。途中の反橋、渡殿には錦を敷き、よそから見えるにちがいない所には軟障を引き、厳めしくおしつらわせなさった。<BR>⏎ | 224 | 巳の時に行幸があって、まず,馬場殿に左右の馬寮の御馬を牽き並べて、左右近衛府の官人が立ち並んだ儀式、五月の節句に違わずよく似ていた。未の刻を過ぎたころ、南の寝殿にお移りあそばす。途中の反橋、渡殿には錦を敷き、よそから見えるにちがいない所には軟障を引き、厳めしくおしつらわせなさった。<BR>⏎ |
| d1 | 264 | <P>⏎ | ||
| version33 | 265 | <A NAME="in35">[第五段 六条院行幸の饗宴]</A><BR> | 229 | |
| cd2:1 | 268-269 | 「色濃くなった籬の菊も折にふれて<BR>⏎ 袖をうち掛けて昔の秋を思い出すことだろう」<BR>⏎ | 232 | 「色濃くなった籬の菊も折にふれて<BR> 袖をうち掛けて昔の秋を思い出すことだろう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 271-272 | 「紫の雲と似ている菊の花は<BR>⏎ 濁りのない世の中の星かと思います<BR>⏎ | 234 | 「紫の雲と似ている菊の花は<BR> 濁りのない世の中の星かと思います<BR>⏎ |
| d1 | 275 | <P>⏎ | ||
| version33 | 276 | <A NAME="in36">[第六段 朱雀院と冷泉帝の和歌]</A><BR> | 237 | |
| cd2:1 | 279-280 | 「幾たびの秋を経て、時雨と共に年老いた里人でも<BR>⏎ このように美しい紅葉の時節を見たことがない」<BR>⏎ | 240 | 「幾たびの秋を経て、時雨と共に年老いた里人でも<BR> このように美しい紅葉の時節を見たことがない」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 282-284 | 「世の常の紅葉と思って御覧になるのでしょうか<BR>⏎ 昔の先例に倣った今日の宴の紅葉の錦ですのに」<BR>⏎ と、おとりなし申し上げあそばす。御器量は一段と御立派におなりになって、まるでそっくりにお見えあそばすのを、中納言が控えていらっしゃるが、また別々のお顔と見えないのには、目を見張らされる。気品があって素晴らしい感じは、思いなしか優劣がつけられようか、目の覚めるような美しい点は、加わっているように見える。<BR>⏎ | 242-243 | 「世の常の紅葉と思って御覧になるのでしょうか<BR> 昔の先例に倣った今日の宴の紅葉の錦ですのに」<BR>⏎ と,おとりなし申し上げあそばす。御器量は一段と御立派におなりになって、まるでそっくりにお見えあそばすのを、中納言が控えていらっしゃるが、また別々のお顔と見えないのには、目を見張らされる。気品があって素晴らしい感じは、思いなしか優劣がつけられようか、目の覚めるような美しい点は、加わっているように見える。<BR>⏎ |
| d2 | 286-287 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 294 | ⏎ | ||
| i0 | 255 | |||
| diff | src/original/version34.html | src/modified/version34.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version34 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 75 | <LI>源氏、朧月夜に今なお執心---<A HREF="#in71">いよいよこれまでと、女御、更衣たちなど、それぞれお別れ</A>⏎ | 72 | <LI>源氏、朧月夜に今なお執心---<A HREF="#in71">いよいよこれまでと、女御,更衣たちなど、それぞれお別れ</A>⏎ |
| c1 | 137 | <LI>夕霧、女三の宮を他の女性と比較---<A HREF="#in132">このようなことを、大将の君も、「なるほど、立派な方は</A>⏎ | 134 | <LI>夕霧、女三の宮を他の女性と比較---<A HREF="#in132">このようなことを、大将の君も、「なるほど,立派な方は</A>⏎ |
| d1 | 154 | <P>⏎ | ||
| version34 | 155 | <H4>第一章 朱雀院の物語 女三の宮の婿選び</H4> | 151 | |
| version34 | 156 | <A NAME="in11">[第一段 朱雀院、女三の宮の将来を案じる]</A><BR> | 152 | |
| c1 | 161 | まだ東宮と申し上げた時代に入内なさって、高い地位にもおつきになるはずであった方が、これと言ったご後見役もいらっしゃらず、母方も名門の家柄でなく、微力の更衣腹でいらっしゃったので、ご交際ぶりも頼りなさそうで、大后が尚侍の君をお入れ申し上げなさって、側に競争相手がいないほど重くお扱い申し上げなさったりしたので、圧倒されて、帝も御心中に、お気の毒にはお思い申し上げあそばしながら、御譲位あそばしたので、入内した甲斐もなく残念で、世の中を恨むような有様でお亡くなりになった。<BR>⏎ | 157 | まだ東宮と申し上げた時代に入内なさって、高い地位にもおつきになるはずであった方が、これと言ったご後見役もいらっしゃらず、母方も名門の家柄でなく、微力の更衣腹でいらっしゃったので、ご交際ぶりも頼りなさそうで、大后が 尚侍の君をお入れ申し上げなさって、側に競争相手がいないほど重くお扱い申し上げなさったりしたので、圧倒されて、帝も御心中に、お気の毒にはお思い申し上げあそばしながら、御譲位あそばしたので、入内した甲斐もなく残念で、世の中を恨むような有様でお亡くなりになった。<BR>⏎ |
| c1 | 163 | その当時、お年、十三、四歳ほどでいらっしゃる。<BR>⏎ | 159 | その当時、お年、十三,四歳ほどでいらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 165 | と、ただこの御方のことだけが気がかりにお嘆きになる。<BR>⏎ | 161 | と,ただこの御方のことだけが気がかりにお嘆きになる。<BR>⏎ |
| d1 | 168 | <P>⏎ | ||
| version34 | 169 | <A NAME="in12">[第二段 東宮、父朱雀院を見舞う]</A><BR> | 164 | |
| c3 | 175-177 | と、お目を拭いながら、お聞かせ申し上げあそばす。<BR>⏎ 女御にも、やさしくして下さるようお頼み申し上げあそばす。けれども、母女御が、他の人よりは優れて御寵愛が厚かったために、皆が競争なさい合ったころ、お妃方の御仲も、あまりよろしくできなかったので、その影響で、「なるほど、今では特に憎いなどとは思わなくても、本当に心にかけてお世話しようとまではお思いでなかろう」と推量されるのである。<BR>⏎ 朝な夕なに、この方の御事を御心配なさる。年が暮れてゆくにつれて、御病気がほんとうに重くおなりあそばして、御簾の外にもお出ましにならない。御物の怪で、時々お悩みになったことはあったが、とてもこのようにいつまでもお悪いことはあり続けなかったが、「今度は、やはり、最期だ」とお思いでいらっしゃった。<BR>⏎ | 170-172 | と,お目を拭いながら、お聞かせ申し上げあそばす。<BR>⏎ 女御にも、やさしくして下さるようお頼み申し上げあそばす。けれども、母女御が、他の人よりは優れて御寵愛が厚かったために、皆が競争なさい合ったころ、お妃方の御仲も、あまりよろしくできなかったので、その影響で、「なるほど,今では特に憎いなどとは思わなくても、本当に心にかけてお世話しようとまではお思いでなかろう」と推量されるのである。<BR>⏎ 朝な夕なに、この方の御事を御心配なさる。年が暮れてゆくにつれて、御病気がほんとうに重くおなりあそばして、御簾の外にもお出ましにならない。御物の怪で、時々お悩みになったことはあったが、とてもこのようにいつまでもお悪いことはあり続けなかったが、「今度は、やはり,最期だ」とお思いでいらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| version34 | 180 | <A NAME="in13">[第三段 源氏の使者夕霧、朱雀院を見舞う]</A><BR> | 174 | |
| c1 | 183 | 「故院の帝が、御臨終の際に、多くの御遺言があった中で、この院の御事と今上の帝の御事を、特別に仰せになったが、皇位に即くと、何かと自由にならないもので、心の中の好意は、変わらないものの、ちょっとした事の行き違いから、お恨まれ申されることもあっただろうと思うが、長年何かにつけて、その時の恨みが残っていらっしゃるご様子をお見せにならない。<BR>⏎ | 177 | 「故院の帝が、御臨終の際に、多くの御遺言があった中で、この院の御事と 今上の帝の御事を、特別に仰せになったが、皇位に即くと、何かと自由にならないもので、心の中の好意は、変わらないものの、ちょっとした事の行き違いから、お恨まれ申されることもあっただろうと思うが、長年何かにつけて、その時の恨みが残っていらっしゃるご様子をお見せにならない。<BR>⏎ |
| c1 | 185 | どのような時にか、お恨みの心が漏れ出ることだろうかと、世間の人々もその気で疑っていたが、とうとう辛抱なさって、東宮などにもご好意をお寄せ申されていらっしゃる。今では、またとなく親しい姻戚関係になって交際していらっしゃるのも、この上なく有り難く心の中では思いながら、生来の愚かさに加えて、子を思う親心で目がくらみ、見苦しいことではないかと思って、かえってよそ事のようにお任せ申している有様でございます。<BR>⏎ | 179 | どのような時にか、お恨みの心が漏れ出ることだろうかと、世間の人々もその気で疑っていたが、とうとう辛抱なさって、東宮などにもご好意をお寄せ申されていらっしゃる。今では、またとなく親しい姻戚関係になって 交際していらっしゃるのも、この上なく有り難く心の中では思いながら、生来の愚かさに加えて、子を思う親心で目がくらみ、見苦しいことではないかと思って、かえってよそ事のようにお任せ申している有様でございます。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 188-189 | などと、涙ぐみながら仰せになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 182 | などと,涙ぐみながら仰せになる。<BR>⏎ |
| version34 | 190 | <A NAME="in14">[第四段 夕霧、源氏の言葉を言上す]</A><BR> | 183 | |
| c2 | 194-195 | と、時々お嘆き申していらっしゃいます」<BR>⏎ などと、奏上なさる。<BR>⏎ | 187-188 | と,時々お嘆き申していらっしゃいます」<BR>⏎ などと,奏上なさる。<BR>⏎ |
| c1 | 198 | と仰せになる御様子を、「何を仰せになろうとするのかしら」と、不思議に思って考えてみると、「こちらの姫宮をこのように御心配なさって、適当な人がいたら、頼んで、気楽に俗世を離れたい、とお思いになって仰せになるのだろう」と、自然と漏れ聞きなさる伝もあったので、「そのようなことではないか」とは思ったが、すぐさま分かったような顔をして、どうしてお答え申し上げられよう。ただ、<BR>⏎ | 191 | と仰せになる御様子を、「何を仰せになろうとするのかしら」と、不思議に思って考えてみると、「こちらの姫宮をこのように御心配なさって、適当な人がいたら、頼んで、気楽に俗世を離れたい、とお思いになって仰せになるのだろう」と、自然と漏れ聞きなさる伝もあったので、「そのようなことではないか」とは思ったが、すぐさま分かったような顔をして、どうしてお答え申し上げられよう。ただ,<BR>⏎ |
| d1 | 201 | <P>⏎ | ||
| version34 | 202 | <A NAME="in15">[第五段 朱雀院の夕霧評]</A><BR> | 194 | |
| c5 | 205-209 | 「ああ、素晴らしい」<BR>⏎ などと、集まってお噂申し上げているのを、年輩の女房は、<BR>⏎ 「さあ、どうかしら、そうは言っても、あの院がこれぐらいお年でいらっしゃった時のご様子には、とてもお比べ申し上げることはおできになれません。実に眩しいほどお美しくいらっしゃいました」<BR>⏎ などと、言い合うのをお耳にあそばして、<BR>⏎ 「本当に、あの方は特別の人であった。今はまた、あの当時以上に立派になって、光り輝くとはこれを言うべきなのかと見える輝きが、一段と加わっている。威儀を正して、公事に携わっているところを見ると、堂々として鮮やかで、目も眩ゆい気がするが、また一方に、うちくつろいで、冗談を言ってふざけるところは、その方面では、またとないほど愛嬌があって、親しみやすく愛らしいこと、この上ないのは、めったにいない人だ。何事につけても前世の果報が思いやられて、類稀な人柄だ。<BR>⏎ | 197-201 | 「ああ,素晴らしい」<BR>⏎ などと,集まってお噂申し上げているのを、年輩の女房は、<BR>⏎ 「さあ,どうかしら,そうは言っても、あの院がこれぐらいお年でいらっしゃった時のご様子には、とてもお比べ申し上げることはおできになれません。実に眩しいほどお美しくいらっしゃいました」<BR>⏎ などと,言い合うのをお耳にあそばして、<BR>⏎ 「本当に、あの方は特別の人であった。今はまた、あの当時以上に立派になって、光り輝くとはこれを言うべきなのかと見える輝きが、一段と加わっている。威儀を正して、公事に携わっているところを見ると、堂々として鮮やかで、目も眩ゆい気がするが、また一方に,うちくつろいで、冗談を言ってふざけるところは、その方面では、またとないほど愛嬌があって、親しみやすく愛らしいこと、この上ないのは、めったにいない人だ。何事につけても前世の果報が思いやられて、類稀な人柄だ。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 211-213 | それに比べて、こちらはこの上なく昇進しているのは、親から子へと次第に声望が高まっていくのであろう。本当に公事に関する才能、心構えなどは、こちらも決して父親に劣らず、たとい間違っても、年々老成してきたという評判は、たいそう格別なようだ」<BR>⏎ などと、お誉めあそばす。<BR>⏎ <P>⏎ | 203-204 | それに比べて,こちらはこの上なく昇進しているのは、親から子へと次第に声望が高まっていくのであろう。本当に公事に関する才能、心構えなどは、こちらも決して父親に劣らず、たとい間違っても、年々老成してきたという評判は、たいそう格別なようだ」<BR>⏎ などと,お誉めあそばす。<BR>⏎ |
| version34 | 214 | <A NAME="in16">[第六段 女三の宮の乳母、源氏を推薦]</A><BR> | 205 | |
| c1 | 225 | 「いや、その変わらない好色心が、たいそう心配だ」<BR>⏎ | 216 | 「いや,その変わらない好色心が、たいそう心配だ」<BR>⏎ |
| c1 | 227 | 「なるほど、大勢の婦人方の中に混じって、不愉快な思いをすることがあったとしても、やはり親代わりと決めたことにして、そのようにお譲り申そうか」<BR>⏎ | 218 | 「なるほど,大勢の婦人方の中に混じって、不愉快な思いをすることがあったとしても、やはり親代わりと決めたことにして、そのようにお譲り申そうか」<BR>⏎ |
| c1 | 230 | わたしが女だったら、同じ姉弟ではあっても、きっと睦まじい仲になっていただろう。若かった時など、そのように思った。ましてや、女がだまされたりするようなのは、まことに、もっともなことだ」<BR>⏎ | 221 | わたしが女だったら、同じ姉弟ではあっても、きっと睦まじい仲になっていただろう。若かった時など、そのように思った。ましてや,女がだまされたりするようなのは、まことに,もっともなことだ」<BR>⏎ |
| d1 | 232 | <P>⏎ | ||
| version34 | 233 | <H4>第二章 朱雀院の物語 女三の宮との結婚を承諾</H4> | 223 | |
| version34 | 234 | <A NAME="in21">[第一段 乳母と兄左中弁との相談]</A><BR> | 224 | |
| c4 | 240-243 | 「どのような御事なのでしょうか。院は、不思議なまでお心の変わらない方で、いったんご寵愛なさった女性は、お気に入った方も、またさほど深くなかった方をも、それぞれにつけてお引き取りになっては、大勢お集め申していらっしゃるが、大切にお思いなさる方は、限りがあって、お一方のようなので、そちらに片寄って、寂しい暮らしをしていらっしゃる方々が多いようですが、御宿縁があって、もし、そのようにあそばされるようなことがありましたら、どんなに大切な方と申しても、張り合って押して来られるようなことは、とてもできますまいと想像されますが、やはり、どのようなものかと案じられることがあるように存じられます。<BR>⏎ とはいえ、『この世での栄誉は、末世には過ぎて、身の上に不足はないが、女性関係では、人の非難を受け、自分自身の意に満たないところもある』と、いつも内々の閑談にお気持ちを漏らされるそうです。<BR>⏎ なるほど、わたくしどもが拝見致しても、そのようでいらっしゃいます。それぞれの御縁で、お世話なさっている方は、みな素姓の分からぬような卑しい身分ではいらっしゃいませんが、たかだか知れた臣下の身分ばかりで、院のご様子に並び得る声望のある方はいらっしゃるだろうか。<BR>⏎ それに、同じ事なら、御意向通りに御降嫁あそばしたら、どんなにお似合いのご夫婦となることでしょう」<BR>⏎ | 230-233 | 「どのような御事なのでしょうか。院は、不思議なまでお心の変わらない方で、いったんご寵愛なさった女性は、お気に入った方も、またさほど深くなかった方をも、それぞれにつけてお引き取りになっては、大勢お集め申していらっしゃるが、大切にお思いなさる方は、限りがあって、お一方のようなので、そちらに片寄って、寂しい暮らしをしていらっしゃる方々が多いようですが、御宿縁があって、もし,そのようにあそばされるようなことがありましたら、どんなに大切な方と申しても、張り合って押して来られるようなことは、とてもできますまいと想像されますが、やはり,どのようなものかと案じられることがあるように存じられます。<BR>⏎ とはいえ,『この世での栄誉は、末世には過ぎて、身の上に不足はないが、女性関係では、人の非難を受け、自分自身の意に満たないところもある』と、いつも内々の閑談にお気持ちを漏らされるそうです。<BR>⏎ なるほど,わたくしどもが拝見致しても、そのようでいらっしゃいます。それぞれの御縁で、お世話なさっている方は、みな素姓の分からぬような卑しい身分ではいらっしゃいませんが、たかだか知れた臣下の身分ばかりで、院のご様子に並び得る声望のある方はいらっしゃるだろうか。<BR>⏎ それに,同じ事なら、御意向通りに御降嫁あそばしたら、どんなにお似合いのご夫婦となることでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 245 | <P>⏎ | ||
| version34 | 246 | <A NAME="in22">[第二段 乳母、左中弁の意見を朱雀院に言上]</A><BR> | 235 | |
| c1 | 248 | 「これこれしかじかの事を、某朝臣にそれとなく話しましたところ、『あちらの院では、きっとご承諾申し上げなさるでしょう。長年のご宿願が叶うとお思いになるはずのことですし、こちらの院の御許可が本当にあるのでしたらお伝え申し上げましょう』と申しておりましたが、どのように致しましょうか。<BR>⏎ | 237 | 「これこれしかじかの事を、某朝臣にそれとなく話しましたところ、『あちらの院では、きっとご承諾申し上げなさるでしょう。長年のご宿願が叶うとお思いになるはずのことですし、こちらの院の御許可が本当にあるのでしたら お伝え申し上げましょう』と申しておりましたが、どのように致しましょうか。<BR>⏎ |
| d1 | 253 | <P>⏎ | ||
| version34 | 254 | <A NAME="in23">[第三段 朱雀院、内親王の結婚を苦慮]</A><BR> | 242 | |
| c1 | 255 | 「そのように考えるからなのだ。皇女たちが結婚している様子は、見苦しく軽薄なようでもあり、また高貴な身分といっても、女は男との結婚によって、悔やまれることも、しゃくに障る思いも、自然と生じるもののようだと、一方では不憫に思い悩むが、また一方で、頼りとする人に先立たれて、頼る人々に別れた後、自分の意志通りに世の中を生きて行くことも、昔は、人の心も穏やかで、世間から許されない身分違いのことは、考えもしないことであったろうが、今の世では、好色で淫らなことも、縁者を頼って聞こえてくるようだ。<BR>⏎ | 243 | 「そのように考えるからなのだ。皇女たちが結婚している様子は、見苦しく軽薄なようでもあり、また高貴な身分といっても、女は男との結婚によって、悔やまれることも、しゃくに障る思いも、自然と生じるもののようだと、一方では不憫に思い悩むが、また一方で,頼りとする人に先立たれて、頼る人々に別れた後、自分の意志通りに世の中を生きて行くことも、昔は、人の心も穏やかで、世間から許されない身分違いのことは、考えもしないことであったろうが、今の世では、好色で淫らなことも、縁者を頼って聞こえてくるようだ。<BR>⏎ |
| c2 | 257-258 | 身分身分に応じて、宿世などということは、知りがたいことなので、万事が不安である。総じて、良くも悪くも、しかるべき人が指図しておいたようにして世の中を過ごして行くのは、それぞれの宿世であって、晩年に衰えることがあっても、自分自身の間違いにはならない。<BR>⏎ 後になって、この上ない幸福がきて、見苦しからぬことになった時には、それでもかまわなかったと見えるが、やはり、その当座いきなり耳にした時には、親にも内緒だし、しかるべき保護者も許さないのに、自分勝手の秘事をしでかしたのは、女の身の上にはこれ以上ない欠点だと思われることだ。<BR>⏎ | 245-246 | 身分身分に応じて、宿世などということは、知りがたいことなので、万事が不安である。総じて,良くも悪くも、しかるべき人が指図しておいたようにして世の中を過ごして行くのは、それぞれの宿世であって、晩年に衰えることがあっても、自分自身の間違いにはならない。<BR>⏎ 後になって、この上ない幸福がきて、見苦しからぬことになった時には、それでもかまわなかったと見えるが、やはり,その当座いきなり耳にした時には、親にも内緒だし、しかるべき保護者も許さないのに、自分勝手の秘事をしでかしたのは、女の身の上にはこれ以上ない欠点だと思われることだ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 261-262 | などと、お残し申されて御出家あそばされる後のことを、不安にお思い申し上げていらっしゃるので、ますます厄介なことと思い合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 249 | などと,お残し申されて御出家あそばされる後のことを、不安にお思い申し上げていらっしゃるので、ますます厄介なことと思い合っていた。<BR>⏎ |
| version34 | 263 | <A NAME="in24">[第四段 朱雀院、婿候補者を批評]</A><BR> | 250 | |
| c4 | 264-267 | 「もう少し分別がおできになるまで世話してあげようとは、長年辛抱してきたが、深い出家の本懐も遂げずになってしまいそうな気がするので、つい気が急かされるものだ。<BR>⏎ あの六条の大殿は、なるほど、そうはいっても万事心得ていて、安心な点ではこの上ないが、あちこちに大勢いらっしゃるご夫人たちを考慮する必要もあるまい。何といっても、当人の心次第である。ゆったりと落ち着いていて、広く世の模範であり、信頼できる点では並ぶ者がなくおいでになる方である。この人以外で適当な人は誰がいようか。<BR>⏎ 兵部卿宮、性質は好ましい。同じ皇族で、他人扱いして軽んじるべきではないが、あまりにひどく弱々しく風流めいていて、重々しいところが足りなくて、少し軽薄な感じが過ぎていよう。やはり、そのような人はたいそう頼りなさそうな気がする。<BR>⏎ また、大納言の朝臣が家司を望んでいるというのは、そうした点では、忠実に勤めるにちがいないだろうが、それでもどんなものか。その程度の世間一般の身分の者では、やはりとんでもない不釣合であろう。<BR>⏎ | 251-254 | 「もう少し分別がおできになるまで世話してあげようとは、長年辛抱してきたが、深い出家の本懐も遂げずになってしまいそうな気がするので,つい気が急かされるものだ。<BR>⏎ あの六条の大殿は、なるほど,そうはいっても万事心得ていて、安心な点ではこの上ないが、あちこちに大勢いらっしゃるご夫人たちを考慮する必要もあるまい。何といっても、当人の心次第である。ゆったりと落ち着いていて、広く世の模範であり、信頼できる点では並ぶ者がなくおいでになる方である。この人以外で適当な人は 誰がいようか。<BR>⏎ 兵部卿宮、性質は好ましい。同じ皇族で、他人扱いして軽んじるべきではないが、あまりにひどく弱々しく風流めいていて、重々しいところが足りなくて、少し軽薄な感じが過ぎていよう。やはり,そのような人はたいそう頼りなさそうな気がする。<BR>⏎ また,大納言の朝臣が家司を望んでいるというのは、そうした点では、忠実に勤めるにちがいないだろうが、それでもどんなものか。その程度の世間一般の身分の者では、やはりとんでもない不釣合であろう。<BR>⏎ |
| c1 | 271 | と、いろいろとお考え悩んでいらっしゃった。<BR>⏎ | 258 | と,いろいろとお考え悩んでいらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 273 | <P>⏎ | ||
| version34 | 274 | <A NAME="in25">[第五段 婿候補者たちの動静]</A><BR> | 260 | |
| c2 | 276-277 | 「この右衛門督が、今まで独身でいて、内親王でなければ妻としないと思っているのを、このような御詮議が問題になっているという機会に、そのようにお願い申し上げて、召し寄せられたならば、どんなにか自分にとっても名誉なことで、嬉しいだろう」<BR>⏎ と、お思いになりおっしゃりもなさって、尚侍の君には、その姉の北の方を通じて、お伝え申し上げるのであった。あらん限りの言葉を尽くして奏上させて、御内意をお伺いになる。<BR>⏎ | 262-263 | 「この右衛門督が、今まで独身でいて、内親王でなければ妻としないと思っているのを、このような御詮議が問題になっているという機会に、そのようにお願い申し上げて、召し寄せられたならば、どんなにか自分にとっても名誉なことで,嬉しいだろう」<BR>⏎ と,お思いになりおっしゃりもなさって、尚侍の君には、その姉の北の方を通じて、お伝え申し上げるのであった。あらん限りの言葉を尽くして奏上させて、御内意をお伺いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 280 | <P>⏎ | ||
| version34 | 281 | <A NAME="in26">[第六段 夕霧の心中]</A><BR> | 266 | |
| cd4:3 | 284-287 | と、心をときめかしたにちがいなかろうが、<BR>⏎ 「女君が、今はもう大丈夫と心から頼りにしていらっしゃるのを、長年、辛い仕打ちを口実に浮気しようと思えば出来た時でさえ、他の女への心変わりもなく過ごしてきたのに、無分別にも、今になって昔に戻って、急に心配をおかけできようか。並々ならぬ高貴なお方に関係したならば、どのようなことも思うようにならず、左右に気を使っては、自分も苦しいことだろう」<BR>⏎ などと、本来好色でない性格なので、心を抑えながら外には出さないが、やはり他人に決定してしまうのも、どんなことかと思わずにはいられず、聞き耳を立てるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 269-271 | と,心をときめかしたにちがいなかろうが、<BR>⏎ 「女君が,今はもう大丈夫と心から頼りにしていらっしゃるのを、長年、辛い仕打ちを口実に浮気しようと思えば出来た時でさえ、他の女への心変わりもなく過ごしてきたのに、無分別にも、今になって昔に戻って、急に心配をおかけできようか。並々ならぬ高貴なお方に関係したならば、どのようなことも思うようにならず、左右に気を使っては、自分も苦しいことだろう」<BR>⏎ などと,本来好色でない性格なので、心を抑えながら外には出さないが、やはり他人に決定してしまうのも、どんなことかと思わずにはいられず、聞き耳を立てるのであった。<BR>⏎ |
| version34 | 288 | <A NAME="in27">[第七段 朱雀院、使者を源氏のもとに遣わす]</A><BR> | 272 | |
| cd5:4 | 290-294 | 「差し当たっての現在のことよりも、後の世の例となるべきのことですから、よくよくお考えあそばさなければならないことです。人柄がまあまあ良いといっても、臣下では限界があるので、やはり、そのようにお考えになられるならば、あの六条院にこそ、親代わりとしてお譲り申し上げあそばしませ」<BR>⏎ と、特別のお手紙というのではないが、御内意があったのを、お待ち受けお聞きあそばしても、<BR>⏎ 「なるほど、おっしゃる通りだ。たいそうよく考えておっしゃったことだ」<BR>⏎ と、ますます御決心をお固めあそばして、まずは、あの弁を使者として、とりあえず事情をお伝え申し上げさせあそばすのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 274-277 | 「差し当たっての現在のことよりも、後の世の例となるべきのことですから、よくよくお考えあそばさなければならないことです。人柄がまあまあ良いといっても、臣下では限界があるので、やはり,そのようにお考えになられるならば、あの六条院にこそ、親代わりとしてお譲り申し上げあそばしませ」<BR>⏎ と,特別のお手紙というのではないが、御内意があったのを、お待ち受けお聞きあそばしても、<BR>⏎ 「なるほど,おっしゃる通りだ。たいそうよく考えておっしゃったことだ」<BR>⏎ と,ますます御決心をお固めあそばして、まずは,あの弁を使者として、とりあえず事情をお伝え申し上げさせあそばすのであった。<BR>⏎ |
| version34 | 295 | <A NAME="in28">[第八段 源氏、承諾の意向を示す]</A><BR> | 278 | |
| c1 | 297 | 「お気の毒なことですね。そうはいっても、院の御寿命が短いといっても、わたしとてまた、どれほど生き残り申せると思ってか、姫の御後見のことをお引き受け申すことができようか。なるほど、年の順を間違わずに、もう暫くの間長生きできたら、大体の関係からいって、どの内親王たちをも、他人扱い申すはずもないが、またこのように特別に御心配の旨をお伺いしてしまったような方を、特別に御後見致そうと思うが、それさえも無常な世の中の定めなさということだ」<BR>⏎ | 280 | 「お気の毒なことですね。そうはいっても、院の御寿命が短いといっても、わたしとてまた、どれほど生き残り申せると思ってか、姫の御後見のことをお引き受け申すことができようか。なるほど,年の順を間違わずに、もう暫くの間長生きできたら、大体の関係からいって、どの内親王たちをも、他人扱い申すはずもないが、またこのように特別に御心配の旨をお伺いしてしまったような方を、特別に御後見致そうと思うが、それさえも無常な世の中の定めなさということだ」<BR>⏎ |
| c1 | 299 | 「それにもまして、一途に頼みにして戴くような者として、お親しみ申すことは、とてもかえって、引き続いて世を去るような時がおいたわしくて、自分自身にとっても容易ならぬ障りとなるにちがいなかろう。<BR>⏎ | 282 | 「それにもまして,一途に頼みにして戴くような者として、お親しみ申すことは、とてもかえって、引き続いて世を去るような時がおいたわしくて、自分自身にとっても容易ならぬ障りとなるにちがいなかろう。<BR>⏎ |
| c1 | 301 | しかし、とてもたいそう生真面目で、思う人を妻にしたようなので、それに御遠慮あそばすのだろうか」<BR>⏎ | 284 | しかし,とてもたいそう生真面目で、思う人を妻にしたようなので、それに御遠慮あそばすのだろうか」<BR>⏎ |
| c1 | 303 | 「とても大切にかわいがっていらっしゃる内親王のようなので、ひとえに過去や将来のことを深く考えたのだろうな。ただ、帝に差し上げなさるがよいであろう。れっきとした前からの人々がいらっしゃるということは、理由のないことである。そのことに支障の生じることではない。必ず、後から入内するからといって、後の人が疎略にされるものでない。<BR>⏎ | 286 | 「とても大切にかわいがっていらっしゃる内親王のようなので、ひとえに過去や将来のことを深く考えたのだろうな。ただ,帝に差し上げなさるがよいであろう。れっきとした前からの人々がいらっしゃるということは、理由のないことである。そのことに支障の生じることではない。必ず,後から入内するからといって、後の人が疎略にされるものでない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 306-307 | などと、興味深くお思い申し上げていらっしゃるのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 289 | などと,興味深くお思い申し上げていらっしゃるのであろう。<BR>⏎ |
| version34 | 308 | <H4>第三章 朱雀院の物語 女三の宮の裳着と朱雀院の出家</H4> | 290 | |
| version34 | 309 | <A NAME="in31">[第一段 歳末、女三の宮の裳着催す]</A><BR> | 291 | |
| c1 | 314 | 院の御催事も、今回が最後であろうと、帝、東宮をおはじめ申して、お気の毒にお思いあそばされて、蔵人所、納殿の舶来品を、数多く献上させなさった。<BR>⏎ | 296 | 院の御催事も、今回が最後であろうと、帝,東宮をおはじめ申して、お気の毒にお思いあそばされて、蔵人所、納殿の舶来品を、数多く献上させなさった。<BR>⏎ |
| d1 | 316 | <P>⏎ | ||
| version34 | 317 | <A NAME="in32">[第二段 秋好中宮、櫛を贈る]</A><BR> | 298 | |
| cd6:4 | 318-323 | 中宮からも、御装束、櫛の箱を、特別にお作らせになって、あの昔の御髪上の道具、趣のあるように手を加えて、それでいて元の感じも失わず、それと分かるようにして、その日の夕方、献上させなさった。中宮の権亮で、院の殿上にも伺候している人を御使者として、姫宮の御方に献上させるべく仰せになったが、このような歌が中にあったのである。<BR>⏎ 「挿したまま昔から今に至りましたので<BR>⏎ 玉の小櫛は古くなってしまいました」<BR>⏎ 院が、御覧になって、しみじみとお思い出されることがあるのであった。あやかり物として悪くはないとお譲り申し上げなさるだが、なるほど、名誉な櫛なので、お返事も、昔の感情はさておいて、<BR>⏎ 「あなたに引き続いて姫宮の幸福を見たいものです<BR>⏎ 千秋万歳を告げる黄楊の小櫛が古くなるまで」<BR>⏎ | 299-302 | 中宮からも、御装束、櫛の箱を、特別にお作らせになって、あの昔の御髪上の道具、趣のあるように手を加えて、それでいて元の感じも失わず、それと分かるようにして、その日の夕方、献上させなさった。中宮の権亮で、院の殿上にも伺候している人を御使者として、姫宮の御方に献上させるべく仰せになったが、このような歌が 中にあったのである。<BR>⏎ 「挿したまま昔から今に至りましたので<BR> 玉の小櫛は古くなってしまいました」<BR>⏎ 院が、御覧になって、しみじみとお思い出されることがあるのであった。あやかり物として悪くはないとお譲り申し上げなさるだが、なるほど,名誉な櫛なので、お返事も、昔の感情はさておいて、<BR>⏎ 「あなたに引き続いて姫宮の幸福を見たいものです<BR> 千秋万歳を告げる黄楊の小櫛が古くなるまで」<BR>⏎ |
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| version34 | 326 | <A NAME="in33">[第三段 朱雀院、出家す]</A><BR> | 304 | |
| c1 | 327 | 御気分のたいそう苦しいのを我慢なさりながら、元気をお出しになって、この御儀式がすっかり終わったので、三日過ぎて、とうとう御髪をお下ろしになる。普通の身分の者でさえ、今は最後と姿が変わるのは悲しいことなので、まして、お気の毒な御様子に、御妃方もお悲しみに暮れる。<BR>⏎ | 305 | 御気分のたいそう苦しいのを我慢なさりながら、元気をお出しになって、この御儀式がすっかり終わったので、三日過ぎて、とうとう御髪をお下ろしになる。普通の身分の者でさえ、今は最後と姿が変わるのは悲しいことなので、まして,お気の毒な御様子に,御妃方もお悲しみに暮れる。<BR>⏎ |
| c2 | 330-331 | といって、御決心が鈍ってしまいそうだが、無理に御脇息に寄りかかりなさって、山の座主をはじめとして、御授戒の阿闍梨三人が伺候して、法服などをお召しになるとき、この世をお別れなさる御儀式、堪らなく悲しい。<BR>⏎ 今日は、人の世を悟りきった僧たちなどでさえ、涙を堪えかねるのだから、まして女宮たち、女御、更衣、おおぜいの男女たち、身分の上下の者たち、皆どよめいて泣き悲しむので、何とも心が落ち着かず、こうしたふうにでなく、静かな所に、そのまま籠もろうとお心づもりなさっていた本意と違って思われなさるのも、「ただもう、この幼い姫宮に引かれて」と仰せられる。<BR>⏎ | 308-309 | といって,御決心が鈍ってしまいそうだが、無理に御脇息に寄りかかりなさって、山の座主をはじめとして、御授戒の阿闍梨三人が伺候して、法服などをお召しになるとき、この世をお別れなさる御儀式、堪らなく悲しい。<BR>⏎ 今日は、人の世を悟りきった僧たちなどでさえ、涙を堪えかねるのだから、まして女宮たち、女御,更衣、おおぜいの男女たち、身分の上下の者たち,皆どよめいて泣き悲しむので、何とも心が落ち着かず、こうしたふうにでなく、静かな所に、そのまま籠もろうとお心づもりなさっていた本意と違って思われなさるのも、「ただもう,この幼い姫宮に引かれて」と仰せられる。<BR>⏎ |
| d1 | 333 | <P>⏎ | ||
| version34 | 334 | <A NAME="in34">[第四段 源氏、朱雀院を見舞う]</A><BR> | 311 | |
| c1 | 336 | 院におかれては、たいそうお待ちかねしてお喜び申し上げあそばして、苦しい御気分をしいて我慢なさって御対面なさる。格式ばらずに、ただ常の御座所に新たにお席を設けて、お入れ申し上げなさる。<BR>⏎ | 313 | 院におかれては、たいそうお待ちかねしてお喜び申し上げあそばして、苦しい御気分をしいて我慢なさって 御対面なさる。格式ばらずに、ただ常の御座所に 新たにお席を設けて、お入れ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 340-341 | と、心を静められないお思いでいらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 317 | と,心を静められないお思いでいらっしゃった。<BR>⏎ |
| version34 | 342 | <A NAME="in35">[第五段 朱雀院と源氏、親しく語り合う]</A><BR> | 318 | |
| c1 | 343 | 院も、何となく心細くお思いになられて、我慢おできになれず、涙をお流しになりながら、昔、今のお話、たいそう弱々そうにお話しあそばされて、<BR>⏎ | 319 | 院も、何となく心細くお思いになられて、我慢おできになれず、涙をお流しになりながら、昔,今のお話、たいそう弱々そうにお話しあそばされて、<BR>⏎ |
| c1 | 346 | とおっしゃって、考えていたことなどを、詳しく仰せになる機会に、<BR>⏎ | 322 | とおっしゃって,考えていたことなどを、詳しく仰せになる機会に、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 348-349 | とおっしゃって、はっきりとは仰せにならない御様子を、お気の毒と拝し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 324 | とおっしゃって,はっきりとは仰せにならない御様子を、お気の毒と拝し上げなさる。<BR>⏎ |
| version34 | 350 | <A NAME="in36">[第六段 内親王の結婚の必要性を説く]</A><BR> | 325 | |
| cd5:4 | 352-356 | 「仰せのとおり、尋常の臣下の者以上に、こういうご身分の方には、内々のご後見役がいないのは、いかにも残念なことでございますね。東宮がこうしてご立派にいらっしゃいますので、まことに末世には過ぎた畏れ多い儲けの君として、天下の頼り所として仰ぎ見申し上げておりますよ。<BR>⏎ まして、これこれのことは是非にと仰せおきなさることは、一事としていい加減に軽んじ申し上げなさるはずのことはございませんので、全然将来のことをお悩みになることはございませんが、なるほど、物事には限りがあるので、即位なさり、世の中の政治もお心のままにお執りなるとは言っても、姫宮の御ためには、どれほどのはっきりとしたお力添えができるものでもございません。<BR>⏎ 総じて、内親王の御ためには、いろいろとほんとうのご後見に当たる者は、やはりしかるべき夫婦の契りを交わし、当然の役目として、お世話申し上げる御保護者のいますのが、安心なことでございましょうが、やはり、どうしても将来にご不安が残りそうでしたら、適当な人物をお選びになって、内々に、しかるべきお引き受け手をお決めおきあそばすのがよいことでしょう」<BR>⏎ と、奏上なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 327-330 | 「仰せのとおり,尋常の臣下の者以上に、こういうご身分の方には、内々のご後見役がいないのは、いかにも残念なことでございますね。東宮がこうしてご立派にいらっしゃいますので、まことに末世には過ぎた畏れ多い儲けの君として、天下の頼り所として仰ぎ見申し上げておりますよ。<BR>⏎ まして,これこれのことは是非にと仰せおきなさることは、一事としていい加減に軽んじ申し上げなさるはずのことはございませんので、全然将来のことをお悩みになることはございませんが、なるほど,物事には限りがあるので、即位なさり、世の中の政治もお心のままにお執りなるとは言っても、姫宮の御ためには、どれほどのはっきりとしたお力添えができるものでもございません。<BR>⏎ 総じて,内親王の御ためには、いろいろとほんとうのご後見に当たる者は、やはりしかるべき夫婦の契りを交わし、当然の役目として、お世話申し上げる御保護者のいますのが、安心なことでございましょうが、やはり,どうしても将来にご不安が残りそうでしたら、適当な人物をお選びになって、内々に、しかるべきお引き受け手をお決めおきあそばすのがよいことでしょう」<BR>⏎ と,奏上なさる。<BR>⏎ |
| version34 | 357 | <A NAME="in37">[第七段 源氏、結婚を承諾]</A><BR> | 331 | |
| c1 | 359 | ましてこのように、これが最後とこの世を離れる時になって、仰々しく思い悩むこともないのですが、また一方、世を捨てた中にも、捨て去り難いことがあって、いろいろと思い悩んでいましたうちに、病気は重くなってゆく。再び取り戻すことのできない月日も過ぎて行くので、気が急いてなりません。<BR>⏎ | 333 | ましてこのように、これが最後とこの世を離れる時になって、仰々しく思い悩むこともないのですが、また一方,世を捨てた中にも、捨て去り難いことがあって、いろいろと思い悩んでいましたうちに、病気は重くなってゆく。再び取り戻すことのできない月日も過ぎて行くので、気が急いてなりません。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 365-366 | と言って、お引き受け申し上げなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 339 | と言って,お引き受け申し上げなさった。<BR>⏎ |
| version34 | 367 | <A NAME="in38">[第八段 朱雀院の饗宴]</A><BR> | 340 | |
| d1 | 370 | <P>⏎ | ||
| version34 | 371 | <H4>第四章 光る源氏の物語 紫の上に打ち明ける</H4><BR> | 343 | |
| version34 | 372 | <A NAME="in41">[第一段 源氏、結婚承諾を煩悶す]</A><BR> | 344 | |
| c1 | 375 | 「決してそのようなことはあるまい。前斎院を熱心に言い寄っていらっしゃるようだったが、ことさら思いを遂げようとはなさらなかったのだから」<BR>⏎ | 347 | 「決してそのようなことはあるまい。前斎院を 熱心に言い寄っていらっしゃるようだったが、ことさら思いを遂げようとはなさらなかったのだから」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 378-380 | などと、気がかりにお思いになる。<BR>⏎ 長の年月を経たこのごろでは、ましてお互いに心を隔て置き申し上げることもなく、しっくりしたご夫婦仲なので、一時でも心に隔てを残しているようなことがあるのも気が重いのだが、その晩はそのまま寝んで、夜を明かしなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 350-351 | などと,気がかりにお思いになる。<BR>⏎ 長の年月を経たこのごろでは、ましてお互いに心を隔て置き申し上げることもなく、しっくりしたご夫婦仲なので、一時でも心に隔てを残しているようなことがあるのも気が重いのだが、その晩はそのまま寝んで,夜を明かしなさった。<BR>⏎ |
| version34 | 381 | <A NAME="in42">[第二段 源氏、紫の上に打ち明ける]</A><BR> | 352 | |
| c1 | 384 | 今は、そのようなことも気恥ずかしく、関心も持てなくなってきたので、人を通してそれとなく仰せになった時には、何とか逃げ申したが、対面した時に、あわれ深い親心をおっしゃり続けたのには、すげなくご辞退申し上げることができませんでした。<BR>⏎ | 355 | 今は、そのようなことも気恥ずかしく、関心も持てなくなってきたので、人を通してそれとなく仰せになった時には、何とか逃げ申したが、対面した時に、あわれ深い親心を おっしゃり続けたのには、すげなくご辞退申し上げることができませんでした。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 390-394 | と、謙遜なさるのを、<BR>⏎ 「あまり、こんなに、快くお許しくださるのも、どうしてかと、不安に思われます。ほんとうは、せめてそのように大目に見てくださって、自分もあちらの方も事情を分かりあって、穏やかに暮らしてくださるなら、一層ありがたいことです。<BR>⏎ 根も葉もない噂などをする人の話は、信じなさるな。総じて、世間の人の口というものは、誰が言い出したということもなく、自然と他人の夫婦仲などを、事実とは違えて、意外な話が出て来るもののようですが、自分一人の心におさめて、成り行きに従うのが良い。早まって騷ぎ出して、つまらない嫉妬をなさるな」<BR>⏎ と、たいそう良くお教え申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 361-364 | と,謙遜なさるのを、<BR>⏎ 「あまり,こんなに,快くお許しくださるのも、どうしてかと、不安に思われます。ほんとうは、せめてそのように大目に見てくださって、自分もあちらの方も事情を分かりあって、穏やかに暮らしてくださるなら、一層ありがたいことです。<BR>⏎ 根も葉もない噂などをする人の話は、信じなさるな。総じて,世間の人の口というものは、誰が言い出したということもなく、自然と他人の夫婦仲などを、事実とは違えて、意外な話が出て来るもののようですが、自分一人の心におさめて、成り行きに従うのが良い。早まって騷ぎ出して、つまらない嫉妬をなさるな」<BR>⏎ と,たいそう良くお教え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version34 | 395 | <A NAME="in43">[第三段 紫の上の心中]</A><BR> | 365 | |
| cd2:1 | 399-400 | などと、おっとりしたご性分とはいえ、どうしてこの程度の邪推をなさらないことがあろうか。今はもう大丈夫とばかり、わが身の上を気位を高く持って、気兼ねなく過ごして来た夫婦仲が、物笑いになろうことを、心の中では思い続けなさるが、表面はとても穏やかにばかり振る舞っていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 369 | などと,おっとりしたご性分とはいえ、どうしてこの程度の邪推をなさらないことがあろうか。今はもう大丈夫とばかり、わが身の上を気位を高く持って、気兼ねなく過ごして来た夫婦仲が、物笑いになろうことを、心の中では思い続けなさるが、表面はとても穏やかにばかり振る舞っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version34 | 401 | <H4>第五章 光る源氏の物語 玉鬘、源氏の四十の賀を祝う</H4><BR> | 370 | |
| version34 | 402 | <A NAME="in51">[第一段 玉鬘、源氏に若菜を献ず]</A><BR> | 371 | |
| c1 | 404 | それはそれとして実は、今年四十歳におなりになったので、その御賀のこと、朝廷でもお聞き流しなさらず、世を挙げての行事として、早くから評判であったが、いろいろと煩わしいことが多い厳めしい儀式は、昔からお嫌いなご性分であるから、皆ご辞退申し上げなさる。<BR>⏎ | 373 | それはそれとして実は,今年四十歳におなりになったので、その御賀のこと、朝廷でもお聞き流しなさらず、世を挙げての行事として、早くから評判であったが、いろいろと煩わしいことが多い厳めしい儀式は、昔からお嫌いなご性分であるから、皆ご辞退申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 409 | <P>⏎ | ||
| version34 | 410 | <A NAME="in52">[第二段 源氏、玉鬘と対面]</A><BR> | 378 | |
| c1 | 413 | 幼い君も、とてもかわいらしくいらっしゃる。尚侍の君は、続いて二人もお目にかけたくないとおっしゃったが、大将が、せめてこのような機会に御覧に入れようと言って、二人同じように、振り分け髪で、無邪気な童直衣姿でいらっしゃる。<BR>⏎ | 381 | 幼い君も、とてもかわいらしくいらっしゃる。尚侍の君は、続いて二人もお目にかけたくないとおっしゃったが、大将が、せめてこのような機会に御覧に入れようと言って、二人同じように、振り分け髪で,無邪気な童直衣姿でいらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 417 | <P>⏎ | ||
| version34 | 418 | <A NAME="in53">[第三段 源氏、玉鬘と和歌を唱和]</A><BR> | 385 | |
| cd5:3 | 420-424 | 「若葉が芽ぐむ野辺の小松を引き連れて<BR>⏎ 育てて下さった元の岩根を祝う今日の子の日ですこと」<BR>⏎ と、強いて母親らしく申し上げなさる。沈の折敷を四つ用意して、御若菜を御祝儀ばかりに献上なさった。御杯をお取りになって、<BR>⏎ 「小松原の将来のある齢にあやかって<BR>⏎ 野辺の若菜も長生きするでしょう」<BR>⏎ | 387-389 | 「若葉が芽ぐむ野辺の小松を引き連れて<BR> 育てて下さった元の岩根を祝う今日の子の日ですこと」<BR>⏎ と,強いて母親らしく申し上げなさる。沈の折敷を四つ用意して、御若菜を御祝儀ばかりに献上なさった。御杯をお取りになって、<BR>⏎ 「小松原の将来のある齢にあやかって<BR> 野辺の若菜も長生きするでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 427-428 | 大将が得意顔で、このようなお間柄ゆえ、すべて取り仕切っていらっしゃるのも、いかにも癪に障ることのようであるが、御孫の君たちは、どちらからも縁続きゆえに、骨身を惜しまず、雑用をなさっている。籠物四十枝、折櫃物四十。中納言をおはじめ申して、相当な方々ばかりが、次々に受け取って献上なさっていた。お杯が下されて、若菜の御羹をお召し上がりになる。御前には、沈の懸盤四つ、御坏類も好ましく現代風に作られていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 392 | 大将が得意顔で、このようなお間柄ゆえ、すべて取り仕切っていらっしゃるのも、いかにも癪に障ることのようであるが、御孫の君たちは、どちらからも縁続きゆえに、骨身を惜しまず,雑用をなさっている。籠物四十枝、折櫃物四十。中納言をおはじめ申して、相当な方々ばかりが,次々に受け取って献上なさっていた。お杯が下されて、若菜の御羹をお召し上がりになる。御前には、沈の懸盤四つ、御坏類も好ましく 現代風に作られていた。<BR>⏎ |
| version34 | 429 | <A NAME="in54">[第四段 管弦の遊び催す]</A><BR> | 393 | |
| c1 | 432 | とおっしゃって、優れた楽器ばかりを、以前からご準備なさっていたので、内輪の方々で音楽のお遊びが催される。<BR>⏎ | 396 | とおっしゃって,優れた楽器ばかりを、以前からご準備なさっていたので、内輪の方々で音楽のお遊びが催される。<BR>⏎ |
| c1 | 435 | 父大臣は、琴の緒をとても緩く張って、たいそう低い調子で調べ、余韻を多く響かせて掻き鳴らしなさる。こちらは、たいそう明るく高い調子で、親しみのある朗らかなので、「とてもこんなにまでとは知らなかった」と、親王たちはびっくりなさる。<BR>⏎ | 399 | 父大臣は、琴の緒をとても緩く張って、たいそう低い調子で調べ、余韻を多く響かせて掻き鳴らしなさる。こちらは,たいそう明るく高い調子で、親しみのある朗らかなので、「とてもこんなにまでとは知らなかった」と、親王たちはびっくりなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 438-439 | 唱歌の人々を御階に召して、美しい声ばかりで歌わせて、返り声に転じて行く。夜が更けて行くにつれて、楽器の調子など、親しみやすく変わって、「青柳」を演奏なさるころに、なるほど、ねぐらの鴬が目を覚ますに違いないほど、大変に素晴らしい。私的な催しの形式になさって、禄など、たいそう見事な物を用意なさっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 402 | 唱歌の人々を御階に召して、美しい声ばかりで歌わせて、返り声に転じて行く。夜が更けて行くにつれて、楽器の調子など、親しみやすく変わって、「青柳」を演奏なさるころに、なるほど,ねぐらの鴬が目を覚ますに違いないほど、大変に素晴らしい。私的な催しの形式になさって、禄など、たいそう見事な物を用意なさっていた。<BR>⏎ |
| version34 | 440 | <A NAME="in55">[第五段 暁に玉鬘帰る]</A><BR> | 403 | |
| d1 | 446 | <P>⏎ | ||
| version34 | 447 | <H4>第六章 光る源氏の物語 女三の宮の六条院降嫁</H4><BR> | 409 | |
| version34 | 448 | <A NAME="in61">[第一段 女三の宮、六条院に降嫁]</A><BR> | 410 | |
| c1 | 449 | こうして、二月の十日過ぎに、朱雀院の姫宮、六条院へお輿入れになる。こちらの院におかれても、ご準備は並々でない。若菜を召し上がった西の放出に御帳台を設けて、そちらの西の第一、第二の対、渡殿にかけて、女房の局々に至るまで、念入りに整え飾らせなさっていた。宮中に入内なさる姫君の儀式に似せて、あちらの院からも御調度類が運ばれて来る。お移りになる儀式の盛大さは、今さら言うまでもない。<BR>⏎ | 411 | こうして,二月の十日過ぎに、朱雀院の姫宮、六条院へお輿入れになる。こちらの院におかれても、ご準備は並々でない。若菜を召し上がった西の放出に御帳台を設けて、そちらの西の第一,第二の対、渡殿にかけて、女房の局々に至るまで、念入りに整え飾らせなさっていた。宮中に入内なさる姫君の儀式に似せて、あちらの院からも御調度類が運ばれて来る。お移りになる儀式の盛大さは、今さら言うまでもない。<BR>⏎ |
| d1 | 452 | <P>⏎ | ||
| version34 | 453 | <A NAME="in62">[第二段 結婚の儀盛大に催さる]</A><BR> | 414 | |
| c2 | 455-456 | 対の上も何かにつけて、平静ではいらっしゃれないお身の回りである。なるほど、このようなことになったからと言って、すっかりあちらに負けて影が薄くなってしまうこともあるまいけれど、また一方でこれまで揺ぎない地位にいらしたのに、華やかでお年も若く、侮りがたい勢いでお輿入れになったので、何となく居心地が悪くお思いになるが、何気ないふうにばかり装って、お輿入れの時も、ご一緒に細々とした事までお世話なさって、まことにかいがいしいご様子を、ますます得がたい人だとお思い申し上げなさる。<BR>⏎ 姫宮は、なるほど、まだとても小さく、大人になっていらっしゃらないうえ、まことにあどけない様子で、まるきり子供でいらっしゃった。<BR>⏎ | 416-417 | 対の上も何かにつけて、平静ではいらっしゃれないお身の回りである。なるほど,このようなことになったからと言って、すっかりあちらに負けて影が薄くなってしまうこともあるまいけれど、また一方でこれまで揺ぎない地位にいらしたのに、華やかでお年も若く、侮りがたい勢いでお輿入れになったので、何となく居心地が悪くお思いになるが、何気ないふうにばかり装って、お輿入れの時も、ご一緒に細々とした事までお世話なさって、まことにかいがいしいご様子を、ますます得がたい人だとお思い申し上げなさる。<BR>⏎ 姫宮は、なるほど,まだとても小さく、大人になっていらっしゃらないうえ、まことにあどけない様子で、まるきり子供でいらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 458-459 | 「あちらは気が利いていて手ごたえがあったが、こちらはまことに幼くだけお見えでいらっしゃるので、⏎ まあ、よかろう。憎らしく強気に出ることなどもあるまい」<BR>⏎ | 419 | 「あちらは気が利いていて手ごたえがあったが、こちらはまことに幼くだけお見えでいらっしゃるので、まあ,よかろう。憎らしく強気に出ることなどもあるまい」<BR>⏎ |
| d1 | 461 | <P>⏎ | ||
| version34 | 462 | <A NAME="in63">[第三段 源氏、結婚を後悔]</A><BR> | 421 | |
| c4 | 464-467 | 「どうして、どんな事情があるにもせよ、他に妻を迎える必要があったのだろうか。浮気っぽく、気弱になっていた自分の失態から、このような事も出てきたのだ。若いけれど、中納言をお考えに入れずじまいだったようなのに」<BR>⏎ と、自分ながら情けなくお思い続けられて、つい涙ぐんで、<BR>⏎ 「今夜だけは、無理もないこととお許しくださいな。これから後に来ない夜があったら、我ながら愛想が尽きるだろう。だが、とは言っても、あちらの院には何とお聞きになろうやら」<BR>⏎ と言って、思い悩んでいらっしゃるご心中、苦しそうである。少しほほ笑んで、<BR>⏎ | 423-426 | 「どうして,どんな事情があるにもせよ、他に妻を迎える必要があったのだろうか。浮気っぽく、気弱になっていた自分の失態から、このような事も出てきたのだ。若いけれど、中納言をお考えに入れずじまいだったようなのに」<BR>⏎ と,自分ながら情けなくお思い続けられて、つい涙ぐんで、<BR>⏎ 「今夜だけは、無理もないこととお許しくださいな。これから後に来ない夜があったら、我ながら愛想が尽きるだろう。だが,とは言っても、あちらの院には何とお聞きになろうやら」<BR>⏎ と言って,思い悩んでいらっしゃるご心中、苦しそうである。少しほほ笑んで、<BR>⏎ |
| cd6:4 | 469-474 | と、取りつく島もないように話を逸らされるので、恥ずかしいまでに思われなさって、頬杖をおつきになって、寄り臥していらっしゃると、硯を引き寄せて、<BR>⏎ 「眼のあたりに変われば変わる二人の仲でしたのに<BR>⏎ 行く末長くとあてにしていましたとは」<BR>⏎ 古歌などを書き交えていらっしゃるのを、取って御覧になって、何でもない歌であるが、いかにもと、道理に思って、<BR>⏎ 「命は尽きることがあってもしかたのないことだが<BR>⏎ 無常なこの世とは違う変わらない二人の仲なのだ」<BR>⏎ | 428-431 | と,取りつく島もないように話を逸らされるので、恥ずかしいまでに思われなさって、頬杖をおつきになって、寄り臥していらっしゃると、硯を引き寄せて、<BR>⏎ 「眼のあたりに変われば変わる二人の仲でしたのに<BR> 行く末長くとあてにしていましたとは」<BR>⏎ 古歌などを書き交えていらっしゃるのを、取って御覧になって、何でもない歌であるが、いかにもと,道理に思って、<BR>⏎ 「命は尽きることがあってもしかたのないことだが<BR> 無常なこの世とは違う変わらない二人の仲なのだ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 477-478 | と、お促し申し上げなさると、柔らかで優美なお召し物に、たいそうよい匂いをさせてお出かけになるのを、お見送りなさるのも、まことに平気ではいられないだろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 434 | と,お促し申し上げなさると、柔らかで優美なお召し物に、たいそうよい匂いをさせてお出かけになるのを、お見送りなさるのも、まことに平気ではいられないだろう。<BR>⏎ |
| version34 | 479 | <A NAME="in64">[第四段 紫の上、眠れぬ夜を過ごす]</A><BR> | 435 | |
| c1 | 480 | 長い間には、もしかしたらと思っていたいろいろな事も、今は終わりとすっかりお絶ちになって、ではこれで大丈夫と、安心なさるようになった今頃になって、とどのつまり、このような世間に外聞の悪い事が出て来るとは。安心できる二人の仲ではなかったのだから、これから先も不安にお思いになるのであった。<BR>⏎ | 436 | 長い間には、もしかしたらと思っていたいろいろな事も、今は終わりとすっかりお絶ちになって、ではこれで大丈夫と,安心なさるようになった今頃になって、とどのつまり、このような世間に外聞の悪い事が出て来るとは。安心できる二人の仲ではなかったのだから、これから先も不安にお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 483-485 | 「でも、それはそれとして、ちょっとした事でも、穏やかならぬことがいろいろと起こったら、きっと面倒な事が持ち上がって来ましょうよ」<BR>⏎ などと、朋輩同士話し合って嘆いているふうなのを、少しも知らないふうに、まことに感じも優雅にお話などをなさりながら、夜が更けるまで起きていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 439-440 | 「でも,それはそれとして、ちょっとした事でも、穏やかならぬことがいろいろと起こったら、きっと面倒な事が持ち上がって来ましょうよ」<BR>⏎ などと,朋輩同士話し合って嘆いているふうなのを、少しも知らないふうに、まことに感じも優雅にお話などをなさりながら、夜が更けるまで起きていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version34 | 486 | <A NAME="in65">[第五段 六条院の女たち、紫の上に同情]</A><BR> | 441 | |
| c2 | 488-489 | 「このように、だれかれと大勢いらっしゃるようですが、お気持ちにかなった、華やかな高い身分ではないと、目馴れて物足りなくお思いになっていたところに、この宮がこのようにお輿入れなさったことは、本当に結構なことです。<BR>⏎ まだ、子供心が抜けないのでしょうか、わたしもお親しくさせていただきたいのですが、困ったことにこちらに隔て心があるかのように皆が考えようとするのかしら。同じ程度の人とか、劣っていると思う人に対しては、黙って聞き流すわけに行かないことも、ついつい起こるものですが、恐れ多く、お気の毒な御事情がおありらしいので、何とか親しくさせていただきたいと思っています」<BR>⏎ | 443-444 | 「このように,だれかれと大勢いらっしゃるようですが、お気持ちにかなった、華やかな高い身分ではないと、目馴れて物足りなくお思いになっていたところに、この宮がこのようにお輿入れなさったことは、本当に結構なことです。<BR>⏎ まだ,子供心が抜けないのでしょうか、わたしもお親しくさせていただきたいのですが、困ったことにこちらに隔て心があるかのように皆が考えようとするのかしら。同じ程度の人とか、劣っていると思う人に対しては、黙って聞き流すわけに行かないことも、ついつい起こるものですが、恐れ多く、お気の毒な御事情がおありらしいので、何とか親しくさせていただきたいと思っています」<BR>⏎ |
| c1 | 492 | などと、きっと言っているであろう。昔は、普通の女房よりは親しく使っていらした女房たちであるが、ここ何年かはこちらの御方にお仕えして、皆お味方申しているようである。<BR>⏎ | 447 | などと,きっと言っているであろう。昔は、普通の女房よりは親しく使っていらした女房たちであるが、ここ何年かはこちらの御方にお仕えして、皆お味方申しているようである。<BR>⏎ |
| c1 | 495 | などと、こちらの気を引きながら、お慰め申される方もあるが、<BR>⏎ | 450 | などと,こちらの気を引きながら、お慰め申される方もあるが、<BR>⏎ |
| c2 | 498-499 | あまり遅くまで起きているのも、いつにないことと、皆が変に思うだろうと気が咎めて、お入りになったので、御衾をお掛けしたが、なるほど独り寝の寂しい夜々を過ごしてきたのも、やはり、穏やかならぬ気持ちがするが、あの須磨のお別れの時などをお思い出しになると、<BR>⏎ 「もう最後だと、お離れになっても、ただ同じこの世に無事でいらっしゃるとお聞き申すのであったらと、自分の身の上までのことはさておいて、惜しみ悲しく思ったことだわ。あのまま、あの騷ぎの中に、自分も殿も死んでしまったならば、お話にもならない二人の仲であったろうに」<BR>⏎ | 453-454 | あまり遅くまで起きているのも、いつにないことと、皆が変に思うだろうと気が咎めて、お入りになったので、御衾をお掛けしたが、なるほど独り寝の寂しい夜々を過ごしてきたのも、やはり,穏やかならぬ気持ちがするが、あの須磨のお別れの時などをお思い出しになると、<BR>⏎ 「もう最後だと、お離れになっても、ただ同じこの世に無事でいらっしゃるとお聞き申すのであったらと、自分の身の上までのことはさておいて、惜しみ悲しく思ったことだわ。あのまま,あの騷ぎの中に、自分も殿も死んでしまったならば、お話にもならない二人の仲であったろうに」<BR>⏎ |
| d1 | 502 | <P>⏎ | ||
| version34 | 503 | <A NAME="in66">[第六段 源氏、夢に紫の上を見る]</A><BR> | 457 | |
| c1 | 512 | と言って、御衾を引きのけなどなさると、少し涙に濡れた御単衣の袖を引き隠して、素直でやさしいものの、仲直りしようとはなさらないお気持ちなど、とてもこちらが恥ずかしくなるくらい立派である。<BR>⏎ | 466 | と言って,御衾を引きのけなどなさると、少し涙に濡れた御単衣の袖を引き隠して、素直でやさしいものの、仲直りしようとはなさらないお気持ちなど、とてもこちらが恥ずかしくなるくらい立派である。<BR>⏎ |
| c1 | 514 | と、ついお比べにならずにはいられない。<BR>⏎ | 468 | と,ついお比べにならずにはいられない。<BR>⏎ |
| ci1:2 | 519 | とだけ、口上で申し上げた。「そっけないお返事だ」とお思いになる。「院がお耳にあそばすこともおいたわしい、しばらくの間は人前を取り繕う」とお思いになるが、そうもできないので、「それは思ったとおりだった。ああ困ったことだ」と、ご自身お思い続けなさる。<BR>⏎ | 473-474 | とだけ,口上で申し上げた。<BR>⏎ 「そっけないお返事だ」とお思いになる。「院がお耳にあそばすこともおいたわしい。しばらくの間は人前を取り繕う」とお思いになるが、そうもできないので、「それは思ったとおりだった。ああ困ったことだ」と、ご自身お思い続けなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 521 | <P>⏎ | ||
| version34 | 522 | <A NAME="in67">[第七段 源氏、女三の宮と和歌を贈答]</A><BR> | 476 | |
| cd2:1 | 524-525 | 「わたしたちの仲を邪魔するほどではありませんが<BR>⏎ 降り乱れる今朝の淡雪にわたしの心も乱れています」<BR>⏎ | 478 | 「わたしたちの仲を邪魔するほどではありませんが<BR> 降り乱れる今朝の淡雪にわたしの心も乱れています」<BR>⏎ |
| c1 | 530 | と花を手で隠して、御簾を押し上げて眺めていらっしゃる様子は、少しも、このような人の親で重い地位のお方とはお見えでなく、若々しく優美なご様子である。<BR>⏎ | 483 | と花を手で隠して、御簾を押し上げて眺めていらっしゃる様子は、少しも、このような人の親で 重い地位のお方とはお見えでなく、若々しく優美なご様子である。<BR>⏎ |
| c1 | 534 | 「この花も、多くの花に目移りしないうちに咲くから、人目を引くのであろうか。桜の花の盛りに比べてみたいものだ」<BR>⏎ | 487 | 「この花も,多くの花に目移りしないうちに咲くから、人目を引くのであろうか。桜の花の盛りに比べてみたいものだ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 537-539 | とお思いになると、お隠しになるというのもきっと気を悪くするだろうから、片端を広げていらっしゃるのを、横目で御覧になりながら、物に寄り臥していらっしゃった。<BR>⏎ 「頼りなくて中空に消えてしまいそうです<BR>⏎ 風に漂う春の淡雪のように」<BR>⏎ | 490-491 | とお思いになると、お隠しになるというのもきっと気を悪くするだろうから、片端を広げていらっしゃるのを、横目で御覧になりながら,物に寄り臥していらっしゃった。<BR>⏎ 「頼りなくて中空に消えてしまいそうです<BR> 風に漂う春の淡雪のように」<BR>⏎ |
| c1 | 541 | 他人のことならば、「こんなに下手な」などとは、こっそり申し上げなさるにちがいないのだが、気の毒で、ただ、<BR>⏎ | 493 | 他人のことならば、「こんなに下手な」などとは、こっそり申し上げなさるにちがいないのだが、気の毒で、ただ,<BR>⏎ |
| d1 | 544 | <P>⏎ | ||
| version34 | 545 | <A NAME="in68">[第八段 源氏、昼に宮の方に出向く]</A><BR> | 496 | |
| c4 | 547-550 | 「さあ、どうでしょう。このお一方はご立派ですが、癪にさわるようなことがきっと起こることでしょう」<BR>⏎ と、嬉しいなかにも心配する者もいるのだった。<BR>⏎ 女宮は、たいそうかわいらしげに子供っぽい様子で、お部屋飾りなどが仰々しく。堂々と整然としているが、ご自身は無心に、頼りないご様子で、まったくお召し物に埋まって、身体もないかのように、か弱くいらっしゃる。特に恥ずかしがりもなさらず、まるで子供が人見知りしないような感じがして、気の張らないかわいい感じでいらっしゃった。<BR>⏎ 「院の帝は、男らしく理屈っぽい方面のご学問などは、しっかりしていらっしゃらないと、世間の人は思っていたようだが、趣味の方面では、優美で風雅なことでは、人一倍勝れていらっしゃったのに、どうして、このようにおっとりとお育てになったのだろう。とはいえ、たいそうお心にとめていらっしゃった内親王と聞いたのだが」<BR>⏎ | 498-501 | 「さあ,どうでしょう。このお一方はご立派ですが、癪にさわるようなことがきっと起こることでしょう」<BR>⏎ と,嬉しいなかにも心配する者もいるのだった。<BR>⏎ 女宮は、たいそうかわいらしげに子供っぽい様子で、お部屋飾りなどが仰々しく、堂々と整然としているが、ご自身は無心に、頼りないご様子で、まったくお召し物に埋まって、身体もないかのように、か弱くいらっしゃる。特に恥ずかしがりもなさらず、まるで子供が人見知りしないような感じがして、気の張らないかわいい感じでいらっしゃった。<BR>⏎ 「院の帝は、男らしく理屈っぽい方面のご学問などは、しっかりしていらっしゃらないと、世間の人は思っていたようだが、趣味の方面では、優美で風雅なことでは、人一倍勝れていらっしゃったのに、どうして,このようにおっとりとお育てになったのだろう。とはいえ、たいそうお心にとめていらっしゃった内親王と聞いたのだが」<BR>⏎ |
| d1 | 556 | <P>⏎ | ||
| version34 | 557 | <A NAME="in69">[第九段 朱雀院、紫の上に手紙を贈る]</A><BR> | 507 | |
| c1 | 559 | 気を遣って、どのように思うかなどと、遠慮なさることもなく、どうなりと、ただお心次第にお世話くださいますように、度々お申し上げなさるのであった。けれども、身にしみて後ろ髪引かれる思いで、幼くていらっしゃるのを御心配申し上げなさるのでもあった。<BR>⏎ | 509 | 気を遣って、どのように思うかなどと、遠慮なさることもなく、どうなりと、ただお心次第にお世話くださいますように、度々お申し上げなさるのであった。けれども,身にしみて後ろ髪引かれる思いで、幼くていらっしゃるのを御心配申し上げなさるのでもあった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 562-563 | 捨て去ったこの世に残る子を思う心が<BR>⏎ 山に入るわたしの妨げなのです<BR>⏎ | 512 | 捨て去ったこの世に残る子を思う心が<BR> 山に入るわたしの妨げなのです<BR>⏎ |
| cd3:2 | 567-569 | とおっしゃって、お使いにも、女房を通じて、杯をさし出させなさって、何杯もお勧めになる。「お返事はどのように」などと、申し上げにくくお思いになったが、仰々しく風流めかすべき時のことでないので、ただ心のままを書いて、<BR>⏎ 「お捨て去りになったこの世が御心配ならば<BR>⏎ 離れがたいお方を無理に離れたりなさいますな」<BR>⏎ | 516-517 | とおっしゃって,お使いにも、女房を通じて、杯をさし出させなさって、何杯もお勧めになる。「お返事はどのように」などと、申し上げにくくお思いになったが、仰々しく風流めかすべき時のことでないので、ただ心のままを書いて、<BR>⏎ 「お捨て去りになったこの世が御心配ならば<BR> 離れがたいお方を無理に離れたりなさいますな」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 571-572 | 女の装束に、細長を添えてお与えになる。ご筆跡などがとても立派なのを、院が御覧になって、万事気後れするほど立派なような所で、幼稚にお見えになるだろうこと、まことにお気の毒に、お思いになっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 519 | 女の装束に、細長を添えてお与えになる。ご筆跡などがとても立派なのを、院が御覧になって、万事気後れするほど立派なような所で、幼稚にお見えになるだろうこと、まことにお気の毒に,お思いになっていた。<BR>⏎ |
| version34 | 573 | <H4>第七章 朧月夜の物語 こりずまの恋</H4><BR> | 520 | |
| version34 | 574 | <A NAME="in71">[第一段 源氏、朧月夜に今なお執心]</A><BR> | 521 | |
| c1 | 575 | いよいよこれまでと、女御、更衣たちなど、それぞれお別れなさるのも、しみじみと悲しいことが多かった。<BR>⏎ | 522 | いよいよこれまでと、女御,更衣たちなど、それぞれお別れなさるのも、しみじみと悲しいことが多かった。<BR>⏎ |
| c1 | 578 | と、お止めになって、だんだんと仏道の御事などをご準備おさせになる。<BR>⏎ | 525 | と,お止めになって、だんだんと仏道の御事などをご準備おさせになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 580-581 | 「どのような時に会えるだろう。もう一度お会いして、その当時の事もお話申し上げたい」<BR>⏎ と、ばかりお思い続けていらっしゃったが、お互いに世間の噂も遠慮なさらねばならないご身分であるし、お気の毒に思った当時の騷動なども、お思い出さずにはいらっしゃれないので、何事も心に秘めてお過ごしになったが、このようにのんびりとしたお身になられて、世の中を静かに御覧になっていらっしゃるこのごろのご様子を、ますますお会いしたく、気になってならないので、あってはならないこととはお思いになりながら、通例のお見舞いにかこつけて、心をこめた書きぶりで始終お便りを差し上げなさる。<BR>⏎ | 527 | 「どのような時に会えるだろう。もう一度お会いして、その当時の事もお話申し上げたい」と,ばかりお思い続けていらっしゃったが、お互いに世間の噂も遠慮なさらねばならないご身分であるし、お気の毒に思った当時の騷動なども,お思い出さずにはいらっしゃれないので、何事も心に秘めてお過ごしになったが、このようにのんびりとしたお身になられて、世の中を静かに御覧になっていらっしゃるこのごろのご様子を、ますますお会いしたく、気になってならないので、あってはならないこととはお思いになりながら、通例のお見舞いにかこつけて、心をこめた書きぶりで始終お便りを差し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 583 | <P>⏎ | ||
| version34 | 584 | <A NAME="in72">[第二段 和泉前司に手引きを依頼]</A><BR> | 529 | |
| c1 | 587 | 今は、そのような忍び歩きも、窮屈な身分で、並々ならず秘密のことなので、そなたも他の人にはお漏らしなさるまいと思うゆえ、お互いに安心だ」<BR>⏎ | 532 | 今は、そのような忍び歩きも,窮屈な身分で、並々ならず秘密のことなので、そなたも他の人にはお漏らしなさるまいと思うゆえ、お互いに安心だ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 590-592 | なるほど、他人は漏れ聞かないようにしたところで、良心に聞かれたら恥ずかしい気がするに違いない」<BR>⏎ と嘆息をなさりながら、やはり、会うことはできない旨だけを申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 535-536 | なるほど,他人は漏れ聞かないようにしたところで、良心に聞かれたら恥ずかしい気がするに違いない」<BR>⏎ と嘆息をなさりながら、やはり,会うことはできない旨だけを申し上げる。<BR>⏎ |
| version34 | 593 | <A NAME="in73">[第三段 紫の上に虚偽を言って出かける]</A><BR> | 537 | |
| cd5:4 | 594-598 | 「昔、逢瀬も難しかった時でさえ、お心をお通わしなさらないでもなかったものを。なるほど、ご出家なさったお方に対しては後ろ暗い気はするが、昔なかった事でもないのだから、今になって綺麗に潔白ぶっても、立ってしまった自分の浮名は、今さらお取り消しになることができるものでもあるまい」<BR>⏎ と、お思い起こして、この信太の森の和泉前司を道案内にしてお出かけになる。女君には、<BR>⏎ 「東の院にいらっしゃる常陸の君が、このところ久しく患っていましたのに、何かと忙しさに取り紛れて、お見舞いもしなかったので、お気の毒に思っております。昼間など、人目に立って出かけるのも不都合なので、夜の間にこっそりと、思っております。誰にもそうとは知らせまい」<BR>⏎ と申し上げなさって、とてもたいそう改まった気持ちでいらっしゃるのを、いつもはそれほどまでにはお思いでない方を、妙だ、と御覧になって、お思い当たりなさることもあるが、姫宮の御事の後は、どのような事も、まったく昔のようにではなく、少し隔て心がついて、見知らないようにしていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 538-541 | 「昔,逢瀬も難しかった時でさえ、お心をお通わしなさらないでもなかったものを。なるほど,ご出家なさったお方に対しては後ろ暗い気はするが、昔なかった事でもないのだから、今になって綺麗に潔白ぶっても、立ってしまった自分の浮名は、今さらお取り消しになることができるものでもあるまい」<BR>⏎ と,お思い起こして、この信太の森の和泉前司を道案内にしてお出かけになる。女君には、<BR>⏎ 「東の院にいらっしゃる常陸の君が、このところ久しく患っていましたのに、何かと忙しさに取り紛れて,お見舞いもしなかったので、お気の毒に思っております。昼間など、人目に立って出かけるのも不都合なので、夜の間にこっそりと、思っております。誰にもそうとは知らせまい」<BR>⏎ と申し上げなさって、とてもたいそう改まった気持ちでいらっしゃるのを、いつもはそれほどまでにはお思いでない方を、妙だ,と御覧になって、お思い当たりなさることもあるが、姫宮の御事の後は、どのような事も、まったく昔のようにではなく、少し隔て心がついて、見知らないようにしていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version34 | 599 | <A NAME="in74">[第四段 源氏、朧月夜を訪問]</A><BR> | 542 | |
| c1 | 601 | 宵が過ぎるのを待って、親しい者ばかり、四、五人ほどで、網代車の、昔を思い出させる粗末なふうで、お出かけになる。和泉守を遣わして、ご挨拶を申し上げなさる。このようにいらっしゃった旨、小声で申し上げると、驚きなさって、<BR>⏎ | 544 | 宵が過ぎるのを待って、親しい者ばかり、四,五人ほどで、網代車の、昔を思い出させる粗末なふうで,お出かけになる。和泉守を遣わして、ご挨拶を申し上げなさる。このようにいらっしゃった旨、小声で申し上げると、驚きなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 605 | と言って、無理に工夫をめぐらして、お入れ申し上げる。お見舞いの言葉などを申し上げなさって、<BR>⏎ | 548 | と言って,無理に工夫をめぐらして、お入れ申し上げる。お見舞いの言葉などを申し上げなさって、<BR>⏎ |
| c3 | 607-609 | と、切々と訴え申し上げなさるので、ひどく溜息をつきながらいざり出ていらっしゃった。<BR>⏎ 「案の定だ。やはり、すぐに靡くところは」<BR>⏎ と、一方ではお思いになる。お互いに、知らないではない相手の身動きなので、感慨も浅からぬものがある。東の対だったのだ。辰巳の方の廂の間にお座りいただいて、御障子の端だけは固くとめてあるので、<BR>⏎ | 550-552 | と,切々と訴え申し上げなさるので、ひどく溜息をつきながらいざり出ていらっしゃった。<BR>⏎ 「案の定だ。やはり,すぐに靡くところは」<BR>⏎ と,一方ではお思いになる。お互いに、知らないではない相手の身動きなので、感慨も浅からぬものがある。東の対だったのだ。辰巳の方の廂の間にお座りいただいて、御障子の端だけは固くとめてあるので、<BR>⏎ |
| d1 | 612 | <P>⏎ | ||
| version34 | 613 | <A NAME="in75">[第五段 朧月夜と一夜を過ごす]</A><BR> | 555 | |
| cd2:1 | 615-616 | 「長の年月を隔ててやっとお逢いできたのに<BR>⏎ このような関があっては堰き止めがたく涙が落ちます」<BR>⏎ | 557 | 「長の年月を隔ててやっとお逢いできたのに<BR> このような関があっては堰き止めがたく涙が落ちます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 618-619 | 「涙だけは関の清水のように堰き止めがたくあふれても<BR>⏎ お逢いする道はとっくに絶え果てました」<BR>⏎ | 559 | 「涙だけは関の清水のように堰き止めがたくあふれても<BR> お逢いする道はとっくに絶え果てました」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 621-624 | 「誰のせいで、あのような大変なことが起こり世の騷ぎもあったのか、この自分のせいではなかったか」とお思い出しなさると、「なるほど、もう一度会ってもいい事だ」<BR>⏎ と、気弱におなりになるのも、もともと重々しい所がおありでなかった方で、この何年かは、あれこれと愛情の問題も分かるようになり、過去を悔やまれて、公事につけ私事につけ、数えきれないほど物思いが重なって、とてもたいそう自重してお過ごしなさって来たのだが、昔が思い出されるご対面に、その当時の事もそう遠くない心地がして、いつまでも気強い態度をおとりになれない。<BR>⏎ 昔に変わらず、洗練されて、若々しく魅力的で、並々でない世間への遠慮も思慕も、思い乱れて、溜息がちでいらっしゃるご様子など、今初めて逢った以上に新鮮で心が動いて、夜が明けて行くのもまことに残念に思われて、お帰りになる気もしない。<BR>⏎ <P>⏎ | 561-563 | 「誰のせいで、あのような大変なことが起こり世の騷ぎもあったのか,この自分のせいではなかったか」とお思い出しなさると、「なるほど,もう一度会ってもいい事だ」<BR>⏎ と,気弱におなりになるのも、もともと重々しい所がおありでなかった方で、この何年かは、あれこれと愛情の問題も分かるようになり、過去を悔やまれて、公事につけ私事につけ、数えきれないほど物思いが重なって、とてもたいそう自重してお過ごしなさって来たのだが、昔が思い出されるご対面に、その当時の事もそう遠くない心地がして、いつまでも気強い態度をおとりになれない。<BR>⏎ 昔に変わらず,洗練されて、若々しく魅力的で、並々でない世間への遠慮も思慕も、思い乱れて、溜息がちでいらっしゃるご様子など、今初めて逢った以上に新鮮で心が動いて、夜が明けて行くのもまことに残念に思われて、お帰りになる気もしない。<BR>⏎ |
| version34 | 625 | <A NAME="in76">[第六段 源氏、和歌を詠み交して出る]</A><BR> | 564 | |
| c1 | 626 | 朝ぼらけの美しい空に、百千鳥の声がとてもうららかに囀っている。花はみな散り終わって、その後に霞のかかった梢が浅緑の木立に、「昔、藤の宴をなさったのは、今頃の季節であったな」とお思い出される、あれからずいぶん歳月の過ぎ去った事も、その当時の事も、次から次へとしみじみと思い出される。<BR>⏎ | 565 | 朝ぼらけの美しい空に、百千鳥の声がとてもうららかに囀っている。花はみな散り終わって、その後に霞のかかった梢が浅緑の木立に、「昔,藤の宴をなさったのは、今頃の季節であったな」とお思い出される、あれからずいぶん歳月の過ぎ去った事も、その当時の事も、次から次へとしみじみと思い出される。<BR>⏎ |
| c2 | 628-629 | 「この藤の花よ。どうしてこのように美しく染め出して咲いているのか。やはり、何とも言えない風情のある色あいだな。どうして、この花蔭を離れることができようか」<BR>⏎ と、どうしても帰りにくそうにためらっていらっしゃった。<BR>⏎ | 567-568 | 「この藤の花よ。どうしてこのように美しく染め出して咲いているのか。やはり,何とも言えない風情のある色あいだな。どうして,この花蔭を離れることができようか」<BR>⏎ と,どうしても帰りにくそうにためらっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 631 | 「ご一緒になって、どうしてお暮らしにならなかったのだろうか。御宮仕えにも限度があって、特別のご身分になられることもなかったのに。故宮が、万事にお心を尽くしなさって、けしからぬ世の騷ぎが起こって、軽々しいお噂まで立って、それきりになってしまったことだわ」<BR>⏎ | 570 | 「ご一緒になって、どうしてお暮らしにならなかったのだろうか。御宮仕えにも限度があって、特別のご身分になられることもなかったのに。故宮が、万事にお心を尽くしなさって、けしからぬ世の騷ぎが起こって、軽々しいお噂まで立って,それきりになってしまったことだわ」<BR>⏎ |
| cd6:3 | 634-639 | 「須磨に沈んで暮らしていたことを忘れないが<BR>⏎ また懲りもせずにこの家の藤の花に、淵に身を投げてしまいたい」<BR>⏎ とてもひどく思い悩んでいらっしゃって、物に寄り掛かっていらっしゃるのを、お気の毒に拝し上げる。⏎ 女君も、今さらにとても遠慮されて、いろいろと思い乱れていらっしゃるが、藤の花は、やはり慕わしくて、<BR>⏎ 「身を投げようとおっしゃる淵も本当の淵ではないのですから<BR>⏎ 性懲りもなくそんな偽りの波に誘われたりしません」<BR>⏎ | 573-575 | 「須磨に沈んで暮らしていたことを忘れないが<BR> また懲りもせずにこの家の藤の花に、淵に身を投げてしまいたい」<BR>⏎ とてもひどく思い悩んでいらっしゃって、物に寄り掛かっていらっしゃるのを、お気の毒に拝し上げる。女君も、今さらにとても遠慮されて、いろいろと思い乱れていらっしゃるが、藤の花は、やはり慕わしくて、<BR>⏎ 「身を投げようとおっしゃる淵も本当の淵ではないのですから<BR> 性懲りもなくそんな偽りの波に誘われたりしません」<BR>⏎ |
| d1 | 642 | <P>⏎ | ||
| version34 | 643 | <A NAME="in77">[第七段 源氏、自邸に帰る]</A><BR> | 578 | |
| c1 | 644 | たいそう人目を忍んで入って来られたその寝乱れ髪の様子を待ち受けて、女君、そんなことだろうと、お悟りになっていたが、気づかないふりをしていらっしゃる。なまじやきもちを焼いたりなどなさるよりも、お気の毒で、「どうして、このように見放していられるのだろうか」と思わずにはいらっしゃれないので、以前よりもいっそう強い愛情を、永遠に変わらないことをお誓い申し上げなさる。<BR>⏎ | 579 | たいそう人目を忍んで入って来られたその寝乱れ髪の様子を待ち受けて、女君、そんなことだろうと,お悟りになっていたが、気づかないふりをしていらっしゃる。なまじやきもちを焼いたりなどなさるよりも、お気の毒で、「どうして,このように見放していられるのだろうか」と思わずにはいらっしゃれないので、以前よりもいっそう強い愛情を、永遠に変わらないことをお誓い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 647 | と、打ち明けて申し上げなさる。軽く笑って、<BR>⏎ | 582 | と,打ち明けて申し上げなさる。軽く笑って、<BR>⏎ |
| c1 | 649 | とおっしゃって、そうはいうものの涙ぐんでいらっしゃる目もとが、とてもおいたわしく見えるので、<BR>⏎ | 584 | とおっしゃって,そうはいうものの涙ぐんでいらっしゃる目もとが、とてもおいたわしく見えるので、<BR>⏎ |
| c1 | 651 | とおっしゃって、いろいろとご機嫌をお取りになるうちに、何もかも残らず白状なさってしまったようである。<BR>⏎ | 586 | とおっしゃって,いろいろとご機嫌をお取りになるうちに、何もかも残らず白状なさってしまったようである。<BR>⏎ |
| d1 | 653 | <P>⏎ | ||
| version34 | 654 | <H4>第八章 紫の上の物語 紫の上の境遇と絶望感</H4><BR> | 588 | |
| version34 | 655 | <A NAME="in81">[第一段 明石姫君、懐妊して退出]</A><BR> | 589 | |
| d1 | 659 | <P>⏎ | ||
| version34 | 660 | <A NAME="in82">[第二段 紫の上、女三の宮に挨拶を申し出る]</A><BR> | 593 | |
| c3 | 661-663 | 対の上が、こちらにおいでになって、お会いなさるついでに、<BR>⏎ 「姫宮にも、中の戸を開けてご挨拶申し上げましょう。前々からそのように思っていましたが、機会がなくては遠慮されますが、このような機会にご挨拶申し上げ、お近づきになれましたら、気が楽になるでしょう」<BR>⏎ と、大殿に申し上げると、ほほ笑んで、<BR>⏎ | 594-596 | 対の上が、こちらにおいでになって,お会いなさるついでに、<BR>⏎ 「姫宮にも、中の戸を開けてご挨拶申し上げましょう。前々からそのように思っていましたが、機会がなくては遠慮されますが、このような機会にご挨拶申し上げ,お近づきになれましたら、気が楽になるでしょう」<BR>⏎ と,大殿に申し上げると、ほほ笑んで、<BR>⏎ |
| c1 | 665 | と、お許し申し上げなさる。姫宮よりも、明石の君が気の張る様子で控えているだろうことをお思いになると、御髪を洗い身づくろいしていらっしゃる、世にまたとあるまいとお見えになった。<BR>⏎ | 598 | と,お許し申し上げなさる。姫宮よりも、明石の君が気の張る様子で控えているだろうことをお思いになると、御髪を洗い身づくろいしていらっしゃる、世にまたとあるまいとお見えになった。<BR>⏎ |
| c1 | 668 | などと、申し上げなさる。<BR>⏎ | 601 | などと,申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 670 | と、おっとりとおっしゃる。<BR>⏎ | 603 | と,おっとりとおっしゃる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 672-674 | と、こまごまとお教え申し上げなさる。「二人が仲好くきちんとお暮らしになって欲しい」とお思いになる。<BR>⏎ あまりに無邪気なご様子を見られてしまっても、き含り悪く面白くないが、あのようにおっしゃるお気持ちを、「止めだてするのも感心しない」と、お思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 605-606 | と,こまごまとお教え申し上げなさる。「二人が仲好くきちんとお暮らしになって欲しい」とお思いになる。<BR>⏎ あまりに無邪気なご様子を見られてしまっても、きまり悪く面白くないが、あのようにおっしゃるお気持ちを、「止めだてするのも感心しない」と、お思いになるのであった。<BR>⏎ |
| version34 | 675 | <A NAME="in83">[第三段 紫の上の手習い歌]</A><BR> | 607 | |
| c2 | 678-679 | などと、つい思い続けずにはいらっしゃれなくて、物思いに沈んでいらっしゃる。手習いなどをするにも、自然と古歌も、物思いの歌だけが筆先に出てくるので、「それでは、わたしには思い悩むことがあったのだわ」と、自分ながら気づかされる。<BR>⏎ 院、お渡りになって、宮、女御の君などのご様子などを、「かわいらしくていらっしゃるものだ」と、それぞれを拝見なさったそのお目で御覧になると、長年連れ添っていらした人が、世間並の器量であったなら、とてもこうも驚くはずもないのに、「やはり、二人といない方だ」と御覧になる。世間にありそうもないお美しさである。<BR>⏎ | 610-611 | などと,つい思い続けずにはいらっしゃれなくて、物思いに沈んでいらっしゃる。手習いなどをするにも、自然と古歌も、物思いの歌だけが筆先に出てくるので、「それでは,わたしには思い悩むことがあったのだわ」と、自分ながら気づかされる。<BR>⏎ 院、お渡りになって、宮、女御の君などのご様子などを、「かわいらしくていらっしゃるものだ」と、それぞれを拝見なさったそのお目で御覧になると、長年連れ添っていらした人が、世間並の器量であったなら、とてもこうも驚くはずもないのに、「やはり,二人といない方だ」と御覧になる。世間にありそうもないお美しさである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 682-683 | 「身近に秋が来たのかしら、見ているうちに<BR>⏎ 青葉の山のあなたも心の色が変わってきたことです」<BR>⏎ | 614 | 「身近に秋が来たのかしら、見ているうちに<BR> 青葉の山のあなたも心の色が変わってきたことです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 685-686 | 「水鳥の青い羽のわたしの心の色は変わらないのに<BR>⏎ 萩の下葉のあなたの様子は変わっています」<BR>⏎ | 616 | 「水鳥の青い羽のわたしの心の色は変わらないのに<BR> 萩の下葉のあなたの様子は変わっています」<BR>⏎ |
| d1 | 689 | <P>⏎ | ||
| version34 | 690 | <A NAME="in84">[第四段 紫の上、女三の宮と対面]</A><BR> | 619 | |
| cd2:1 | 699-700 | と、穏やかに大人びた様子で、宮にも、お気に入りなさるように、絵などのこと、お人形遊びの楽しいことを、若々しく申し上げなさるので、「なるほど、ほんとうに若々しく気立てのよい方だわ」と、子供心にうちとけなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 628 | と,穏やかに大人びた様子で、宮にも、お気に入りなさるように、絵などのこと、お人形遊びの楽しいことを、若々しく申し上げなさるので、「なるほど,ほんとうに若々しく気立てのよい方だわ」と、子供心にうちとけなさった。<BR>⏎ |
| version34 | 701 | <A NAME="in85">[第五段 世間の噂、静まる]</A><BR> | 629 | |
| d1 | 705 | <P>⏎ | ||
| version34 | 706 | <H4>第九章 光る源氏の物語 紫の上と秋好中宮、源氏の四十賀を祝う</H4><BR> | 633 | |
| version34 | 707 | <A NAME="in91">[第一段 紫の上、薬師仏供養]</A><BR> | 634 | |
| d1 | 712 | <P>⏎ | ||
| version34 | 713 | <A NAME="in92">[第二段 精進落としの宴]</A><BR> | 639 | |
| c1 | 714 | 二十三日を御精進落しの日として、こちらの院は、このように隙間もなく大勢集っていらっしゃるので、ご自分の私的邸宅とお思いの二条院で、そのご用意をおさせになる。ご装束をはじめとして、一般の事柄もすべてこちらでばかりなさる。他の御方々も適当な事を分担しいしい、進んでお仕えなさる。<BR>⏎ | 640 | 二十三日を御精進落しの日として、こちらの院は、このように隙間もなく大勢集っていらっしゃるので、ご自分の私的邸宅とお思いの二条院で、そのご用意をおさせになる。ご装束をはじめとして、一般の事柄も すべてこちらでばかりなさる。他の御方々も適当な事を分担しいしい、進んでお仕えなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 716 | 寝殿の放出を例のように飾って、螺鈿の椅子を立ててある。<BR>⏎ | 642 | 寝殿の放出を 例のように飾って、螺鈿の椅子を立ててある。<BR>⏎ |
| c1 | 718 | 御前に置物の机を二脚、唐の地の裾濃の覆いをしてある。挿頭の台は沈の花足、黄金の鳥が、銀の枝に止まっている工夫など、淑景舎のご担当で、明石の御方がお作らせになったものだが、趣味深くて格別である。<BR>⏎ | 644 | 御前に置物の机を二脚、唐の地の裾濃の覆いをしてある。挿頭の台は 沈の花足、黄金の鳥が、銀の枝に止まっている工夫など、淑景舎のご担当で、明石の御方がお作らせになったものだが、趣味深くて格別である。<BR>⏎ |
| d1 | 721 | <P>⏎ | ||
| version34 | 722 | <A NAME="in93">[第三段 舞楽を演奏す]</A><BR> | 647 | |
| c2 | 723-724 | 未の刻ごろに楽人が参る。「万歳楽」、「皇じょう」などを舞って、日が暮れるころ、高麗楽の乱声をして、「落蹲」が舞い出たところは、やはり常には見ない舞の様子なので、舞い終わるころに、権中納言や、衛門督が庭に下りて、「入綾」を少し舞って、紅葉の蔭に入ったその後の気持ちは、いつまでも面白いとご一同お思いである。<BR>⏎ 昔の朱雀院の行幸に、「青海波」が見事であった夕べ、お思い出しになる方々は、権中納言と、衛門督とが、また負けず跡をお継ぎになっていらっしゃるのが、代々の世評や様子、器量、態度なども少しも負けず、官位は少し昇進さえしていらっしゃるなどと、年齢まで数えて、「やはり、前世の因縁で、昔からこのように代々並び合うご両家の間柄なのだ」と、素晴らしく思う。<BR>⏎ | 648-649 | 未の刻ごろに楽人が参る。「万歳楽」、「皇じょう」などを舞って、日が暮れるころ、高麗楽の乱声をして、「落蹲」が舞い出たところは、やはり常には見ない舞の様子なので、舞い終わるころに、権中納言や,衛門督が庭に下りて、「入綾」を少し舞って、紅葉の蔭に入ったその後の気持ちは、いつまでも面白いとご一同お思いである。<BR>⏎ 昔の朱雀院の行幸に、「青海波」が見事であった夕べ、お思い出しになる方々は、権中納言と、衛門督とが、また負けず跡をお継ぎになっていらっしゃるのが、代々の世評や様子、器量、態度なども少しも負けず、官位は少し昇進さえしていらっしゃるなどと、年齢まで数えて、「やはり,前世の因縁で、昔からこのように代々並び合うご両家の間柄なのだ」と、素晴らしく思う。<BR>⏎ |
| d1 | 726 | <P>⏎ | ||
| version34 | 727 | <A NAME="in94">[第四段 宴の後の寂寥]</A><BR> | 651 | |
| c1 | 731 | と、ただただ恨めしく残念にばかりお思い申し上げなさる。<BR>⏎ | 655 | と,ただただ恨めしく残念にばかりお思い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 735 | <P>⏎ | ||
| version34 | 736 | <A NAME="in95">[第五段 秋好中宮の奈良・京の御寺に祈祷]</A><BR> | 659 | |
| c1 | 739 | 「四十の賀ということは、先例を聞きましても、残りの寿命が長い例が少なかったが、今回は、やはり、世間の騷ぎになることをお止めあそばして、ほんとうに後に寿命を保った時に祝ってください」<BR>⏎ | 662 | 「四十の賀ということは、先例を聞きましても、残りの寿命が長い例が少なかったが、今回は、やはり,世間の騷ぎになることをお止めあそばして、ほんとうに後に寿命を保った時に祝ってください」<BR>⏎ |
| d1 | 741 | <P>⏎ | ||
| version34 | 742 | <A NAME="in96">[第六段 中宮主催の饗宴]</A><BR> | 664 | |
| d1 | 745 | <P>⏎ | ||
| version34 | 746 | <A NAME="in97">[第七段 勅命による夕霧の饗宴]</A><BR> | 667 | |
| c1 | 749 | 「とても、このような、急に身に余る昇進は、早すぎる気が致します」<BR>⏎ | 670 | 「とても,このような,急に身に余る昇進は、早すぎる気が致します」<BR>⏎ |
| d1 | 757 | <P>⏎ | ||
| version34 | 758 | <A NAME="in98">[第八段 舞楽を演奏す]</A><BR> | 678 | |
| c1 | 759 | 例によって、「万歳楽」「賀皇恩」などという舞、形ばかり舞って、太政大臣がおいでになっているので、珍しく湧き立った管弦の御遊に、参会者一同、熱中して演奏していらっしゃった。琵琶は、例によって兵部卿宮、どのような事でも世にも稀な名人でいらっしゃって、二人といない出来である。院の御前に琴の御琴。太政大臣、和琴をお弾きになる。<BR>⏎ | 679 | 例によって、「万歳楽」 「賀皇恩」などという舞、形ばかり舞って、太政大臣がおいでになっているので、珍しく湧き立った管弦の御遊に、参会者一同、熱中して演奏していらっしゃった。琵琶は、例によって兵部卿宮、どのような事でも世にも稀な名人でいらっしゃって、二人といない出来である。院の御前に琴の御琴。太政大臣、和琴をお弾きになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 762-764 | 御贈り物として見事な和琴を一つ、お好きでいらっしゃる高麗笛を加えて。紫檀の箱一具に、唐の手本とわが国の草仮名の手本などを入れて。お車まで追いかけて差し上げなさる。御馬を受け取って、右馬寮の官人たちが、高麗の楽を演奏して、大声を上げる。六衛府の官人の禄など、大将がお与えになる。<BR>⏎ ご意向から簡素になさって、仰々しいことは、今回はご中止なさったが、帝、東宮、一の院、后の宮、次から次へと御縁者の堂々たることは、筆舌に尽くしがたいことなので、やはりこのような晴れの賀宴の折には、素晴らしく思われるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 682-683 | 御贈り物として 見事な和琴を一つ、お好きでいらっしゃる高麗笛を加えて。紫檀の箱一具に、唐の手本と わが国の草仮名の手本などを入れて。お車まで追いかけて差し上げなさる。御馬を受け取って、右馬寮の官人たちが、高麗の楽を演奏して、大声を上げる。六衛府の官人の禄など、大将がお与えになる。<BR>⏎ ご意向から簡素になさって、仰々しいことは、今回はご中止なさったが、帝,東宮,一の院,后の宮、次から次へと御縁者の堂々たることは、筆舌に尽くしがたいことなので、やはりこのような晴れの賀宴の折には、素晴らしく思われるのであった。<BR>⏎ |
| version34 | 765 | <A NAME="in99">[第九段 饗宴の後の感懐]</A><BR> | 684 | |
| d1 | 768 | <P>⏎ | ||
| version34 | 769 | <H4>第十章 明石の物語 男御子誕生</H4><BR> | 687 | |
| version34 | 770 | <A NAME="in101">[第一段 明石女御、産期近づく]</A><BR> | 688 | |
| d1 | 774 | <P>⏎ | ||
| version34 | 775 | <A NAME="in102">[第二段 大尼君、孫の女御に昔を語る]</A><BR> | 692 | |
| c1 | 777 | 今まで、この母君はこのようにお付き添いなさっていたが、昔のことなどは、まともにお聞かせ申し上げなかったが、この尼君、喜びを抑えることができず、参上しては、たいそう涙っぽく、大昔のことどもを震え声を出しては度々お話し申し上げる。<BR>⏎ | 694 | 今まで、この母君はこのようにお付き添いなさっていたが、昔のことなどは、まともにお聞かせ申し上げなかったが、この尼君、喜びを抑えることができず、参上しては、たいそう涙っぽく、大昔のことどもを 震え声を出しては度々お話し申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 782 | 「なるほど、大変であった当時のことを、このように聞かせてくださらなかったら、知らずに過ごしてしまったにちがいないことだわ」<BR>⏎ | 699 | 「なるほど,大変であった当時のことを、このように聞かせてくださらなかったら、知らずに過ごしてしまったにちがいないことだわ」<BR>⏎ |
| c1 | 785 | などと、すっかりお分りになった。<BR>⏎ | 702 | などと,すっかりお分りになった。<BR>⏎ |
| d1 | 788 | <P>⏎ | ||
| version34 | 789 | <A NAME="in103">[第三段 明石御方、母尼君をたしなめる]</A><BR> | 705 | |
| c5 | 791-795 | 「まあ、見苦しいこと。短い御几帳をお側に置いてこそ、お付きなさいませ。風などが強くて、自然と隙間もできましょうに。医師のようにして。ほんとうに盛りを過ぎていらっしゃること」<BR>⏎ などと、はらはらしていらっしゃった。十分気を付けて振る舞っていると、思っているらしいけれども、老いぼれて耳もよく聞こえなかったので、「ああ」と、首をかしげていた。<BR>⏎ 実際、そう言うほどの年齢でもない。六十五、六歳ぐらいである。尼姿、たいそうこざっぱりと、気品がある様子で、目がきらきらと涙で泣きはらした様子が、妙に昔を思い出しているようなので、胸がどきりとして、<BR>⏎ 「古めかしいわけのわからないお話でも、ございましたのでしょう。よく、この世にはありそうもない記憶違いのことを交えては、妙な昔話もあれこれとお話し申し上げたことでしょうよ。夢のような心地がします」<BR>⏎ と、ちょっと苦笑して拝見なさると、たいそう優雅でお美しくて、いつもよりひどく落ち着いていらして、物思いに沈んでいるようにお見えになる。自分が生んだ子ともお見えにならないほど、恐れ多い方なので、<BR>⏎ | 707-711 | 「まあ,見苦しいこと。短い御几帳をお側に置いてこそ、お付きなさいませ。風などが強くて、自然と隙間もできましょうに。医師のようにして。ほんとうに盛りを過ぎていらっしゃること」<BR>⏎ などと,はらはらしていらっしゃった。十分気を付けて振る舞っていると、思っているらしいけれども、老いぼれて耳もよく聞こえなかったので、「ああ」と、首をかしげていた。<BR>⏎ 実際、そう言うほどの年齢でもない。六十五,六歳ぐらいである。尼姿、たいそうこざっぱりと、気品がある様子で、目がきらきらと涙で泣きはらした様子が、妙に昔を思い出しているようなので、胸がどきりとして、<BR>⏎ 「古めかしいわけのわからないお話でも、ございましたのでしょう。よく,この世にはありそうもない記憶違いのことを交えては、妙な昔話もあれこれとお話し申し上げたことでしょうよ。夢のような心地がします」<BR>⏎ と,ちょっと苦笑して拝見なさると、たいそう優雅でお美しくて、いつもよりひどく落ち着いていらして、物思いに沈んでいるようにお見えになる。自分が生んだ子ともお見えにならないほど、恐れ多い方なので、<BR>⏎ |
| d1 | 798 | <P>⏎ | ||
| version34 | 799 | <A NAME="in104">[第四段 明石女三代の和歌唱和]</A><BR> | 714 | |
| cd4:3 | 802-805 | 「まあ、みっともない」<BR>⏎ と、目くばせするが、かまいつけない。<BR>⏎ 「長生きした甲斐があると嬉し涙に泣いているからと言って<BR>⏎ 誰が出家した老人のわたしを咎めたりしましょうか<BR>⏎ | 717-719 | 「まあ,みっともない」<BR>⏎ と,目くばせするが、かまいつけない。<BR>⏎ 「長生きした甲斐があると嬉し涙に泣いているからと言って<BR> 誰が出家した老人のわたしを咎めたりしましょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 808-809 | 「泣いていらっしゃる尼君に道案内しいただいて<BR>⏎ 訪ねてみたいものです、生まれ故郷の浜辺を」<BR>⏎ | 722 | 「泣いていらっしゃる尼君に道案内しいただいて<BR> 訪ねてみたいものです、生まれ故郷の浜辺を」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 811-812 | 「出家して明石の浦に住んでいる父入道も<BR>⏎ 子を思う心の闇は晴れることもないでしょう」<BR>⏎ | 724 | 「出家して明石の浦に住んでいる父入道も<BR> 子を思う心の闇は晴れることもないでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 814 | <P>⏎ | ||
| version34 | 815 | <A NAME="in105">[第五段 三月十日過ぎに男御子誕生]</A><BR> | 726 | |
| c1 | 820 | 「少しでも欠点があれば、お気の毒であったろうに、驚くほど気品があり、なるほど、このような前世からの約束事があったお方なのだわ」<BR>⏎ | 731 | 「少しでも欠点があれば、お気の毒であったろうに、驚くほど気品があり、なるほど,このような前世からの約束事があったお方なのだわ」<BR>⏎ |
| d1 | 822 | <P>⏎ | ||
| version34 | 823 | <A NAME="in106">[第六段 帝の七夜の産養]</A><BR> | 733 | |
| c1 | 826 | 大殿の君も、この時の儀式はいつものように簡略になさらずに、世に例のないほど大仰な騷ぎで、内輪の優美で繊細な優雅さの、そのままお伝えしなければならない点は、目も止まらずに終わってしまったのであった。大殿の君も、若宮をすぐにお抱き申し上げなさって、<BR>⏎ | 736 | 大殿の君も、この時の儀式は いつものように簡略になさらずに、世に例のないほど大仰な騷ぎで、内輪の優美で繊細な優雅さの、そのままお伝えしなければならない点は、目も止まらずに終わってしまったのであった。大殿の君も、若宮をすぐにお抱き申し上げなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 828 | と、おかわいがり申し上げなさるのは、無理もないことであるよ。<BR>⏎ | 738 | と,おかわいがり申し上げなさるのは、無理もないことであるよ。<BR>⏎ |
| d1 | 830 | <P>⏎ | ||
| version34 | 831 | <A NAME="in107">[第七段 紫の上と明石御方の仲]</A><BR> | 740 | |
| d1 | 835 | <P>⏎ | ||
| version34 | 836 | <H4>第十一章 明石の物語 入道の手紙</H4><BR> | 744 | |
| version34 | 837 | <A NAME="in111">[第一段 明石入道、手紙を贈る]</A><BR> | 745 | |
| d1 | 842 | <P>⏎ | ||
| version34 | 843 | <A NAME="in112">[第二段 入道の手紙]</A><BR> | 750 | |
| c1 | 848 | 『自分は須弥山を右手に捧げ持っていた。その山の左右から、月の光と日の光とが明るくさし出して世の中を照らす。自分自身は山の下の蔭に隠れて、その光に当たらない。山を広い海の上に浮かべ置いて、小さい舟に乗って、西の方角を指して漕いで行く』<BR>⏎ | 755 | 『自分は須弥山を 右手に捧げ持っていた。その山の左右から、月の光と日の光とが明るくさし出して世の中を照らす。自分自身は山の下の蔭に隠れて、その光に当たらない。山を広い海の上に浮かべ置いて、小さい舟に乗って、西の方角を指して漕いで行く』<BR>⏎ |
| c1 | 851 | するとまた、この国で沈淪しまして、老の身で都に二度と帰るまいと諦めをつけて、この浦に何年もおりましたその間も、あなたに期待をおかけ申していましたので、自分一人で数多くの願を立てました。そのお礼参りが、無事にできるような願いどおりの運勢に巡り合われたのです。<BR>⏎ | 758 | するとまた,この国で沈淪しまして、老の身で都に二度と帰るまいと諦めをつけて、この浦に何年もおりましたその間も、あなたに期待をおかけ申していましたので、自分一人で数多くの願を立てました。そのお礼参りが、無事にできるような願いどおりの運勢に巡り合われたのです。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 854-855 | 日の出近い暁となったことよ<BR>⏎ 今初めて昔見た夢の話をするのです」<BR>⏎ | 761 | 日の出近い暁となったことよ<BR> 今初めて昔見た夢の話をするのです」<BR>⏎ |
| d1 | 857 | <P>⏎ | ||
| version34 | 858 | <A NAME="in113">[第三段 手紙の追伸]</A><BR> | 763 | |
| c2 | 861-862 | そして、あの社に立てた多くの願文類を、大きな沈の文箱に、しっかり封をして差し上げなさっていた。<BR>⏎ 尼君には、別に改めて書いてなく、ただ、<BR>⏎ | 766-767 | そして,あの社に立てた多くの願文類を、大きな沈の文箱に、しっかり封をして差し上げなさっていた。<BR>⏎ 尼君には、別に改めて書いてなく、ただ,<BR>⏎ |
| d1 | 865 | <P>⏎ | ||
| version34 | 866 | <A NAME="in114">[第四段 使者の話]</A><BR> | 770 | |
| c1 | 868 | 「このお手紙をお書きになって、三日目という日に、あの人跡絶えた山奥にお移りになりました。拙僧らも、そのお見送りに、麓までは参りましたが、皆お帰しになって、僧一人と、童二人をお供にお連れなさいました。今は最後とご出家なさった時に、悲しみの極みと存じましたが、さらに悲しいことが残っておりました。<BR>⏎ | 772 | 「このお手紙をお書きになって、三日目という日に、あの人跡絶えた山奥にお移りになりました。拙僧らも、そのお見送りに、麓までは参りましたが、皆お帰しになって、僧一人と、童二人を お供にお連れなさいました。今は最後とご出家なさった時に、悲しみの極みと存じましたが、さらに悲しいことが残っておりました。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 870-872 | 今は最後と引き籠もり、あの遥かな山の雲霞の中にお入りになってしまわれたので、空っぽのお跡に残されて悲しく思う人々は多くございます」<BR>⏎ などと、この大徳も、子供の時に都から下った人で、老僧となって残っているのだが、まことにしみじみと心細く思っていた。仏の御弟子の偉い聖僧でさえ、霊鷲山を十分に信じていながら、それでもやはり釈迦入滅の時の悲しみは深いものであったが、まして尼君の悲しいと思っていらっしゃることは際限がない。<BR>⏎ <P>⏎ | 774-775 | 今は最後と引き籠もり、あの遥かな山の雲霞の中にお入りになってしまわれたので、空っぽのお跡に残されて 悲しく思う人々は多くございます」<BR>⏎ などと,この大徳も、子供の時に都から下った人で、老僧となって残っているのだが、まことにしみじみと心細く思っていた。仏の御弟子の偉い聖僧でさえ、霊鷲山を十分に信じていながら、それでもやはり釈迦入滅の時の悲しみは深いものであったが、まして尼君の悲しいと思っていらっしゃることは際限がない。<BR>⏎ |
| version34 | 873 | <A NAME="in115">[第五段 明石御方、手紙を見る]</A><BR> | 776 | |
| cd6:5 | 874-879 | 明石御方は、南の御殿にいらっしゃったが、「このようなお手紙がありました」と、伝えて来たので、人目に立たないようにしてお越しになった。重々しく振る舞って、さしたる用件がなければ、行き来しあいなさることは難しいのだが、「悲しいことがある」と聞いて、気がかりなので、こっそりといらっしゃったところ、とてもたいそう悲しそうな様子で座っていらっしゃった。<BR>⏎ 灯火を近くに引き寄せて、この手紙を御覧になると、なるほど涙を堰き止めることができなかった。他人ならば、何とも感じないことが、まず、昔から今までのことを思い出して、恋しいとお思い続けていなさるお心には、「二度と会えずに終わってしまうのだ」と、思って御覧になると、ひどく何とも言いようがない。<BR>⏎ 涙をお止めになることもできない。この夢物語を一方では将来頼もしく思われ、<BR>⏎ 「それでは、偏屈な考えで、わたしをあんなにもとんでもない身にして不安にさまよわせなさると、一時は気持ちが迷ったこともあるが、それは、このような当てにならない夢に望みをかけて、高い理想を持っていらしたのだ」<BR>⏎ と、やっとお分りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 777-781 | 明石御方は、南の御殿にいらっしゃったが、「このようなお手紙がありました」と,伝えて来たので、人目に立たないようにしてお越しになった。重々しく振る舞って、さしたる用件がなければ、行き来しあいなさることは難しいのだが、「悲しいことがある」と聞いて、気がかりなので、こっそりといらっしゃったところ、とてもたいそう悲しそうな様子で座っていらっしゃった。<BR>⏎ 灯火を近くに引き寄せて、この手紙を御覧になると、なるほど涙を堰き止めることができなかった。他人ならば、何とも感じないことが、まず,昔から今までのことを思い出して、恋しいとお思い続けていなさるお心には、「二度と会えずに終わってしまうのだ」と、思って御覧になると、ひどく何とも言いようがない。<BR>⏎ 涙をお止めになることもできない. この夢物語を 一方では将来頼もしく思われ、<BR>⏎ 「それでは,偏屈な考えで、わたしをあんなにもとんでもない身にして不安にさまよわせなさると、一時は気持ちが迷ったこともあるが、それは,このような当てにならない夢に望みをかけて、高い理想を持っていらしたのだ」<BR>⏎ と,やっとお分りになる。<BR>⏎ |
| version34 | 880 | <A NAME="in116">[第六段 尼君と御方の感懐]</A><BR> | 782 | |
| c1 | 882 | 「あなたのお蔭で、嬉しく光栄なことも、身に余るほどに又とない運勢だと思っております。でも、悲しく胸の晴れない思いも、人一倍多くございました。<BR>⏎ | 784 | 「あなたのお蔭で、嬉しく光栄なことも、身に余るほどに又とない運勢だと思っております。でも,悲しく胸の晴れない思いも、人一倍多くございました。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 888-889 | と言って、一晩中、しみじみとしたお話をし合って夜を明かしなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 790 | と言って,一晩中、しみじみとしたお話をし合って夜を明かしなさる。<BR>⏎ |
| version34 | 890 | <A NAME="in117">[第七段 御方、部屋に戻る]</A><BR> | 791 | |
| c1 | 892 | と言って、暗いうちにお帰りになった。<BR>⏎ | 793 | と言って,暗いうちにお帰りになった。<BR>⏎ |
| c1 | 897 | 「さあ、それだからこそ、喜びも悲しみもまたと例のない運命なのです」<BR>⏎ | 798 | 「さあ,それだからこそ、喜びも悲しみもまたと例のない運命なのです」<BR>⏎ |
| d1 | 899 | <P>⏎ | ||
| version34 | 900 | <H4>第十二章 明石の物語 一族の宿世</H4><BR> | 800 | |
| version34 | 901 | <A NAME="in121">[第一段 東宮からのお召しの催促]</A><BR> | 801 | |
| c1 | 904 | と、紫の上もおっしゃって、若宮をこっそりと参上させようとご準備なさる。<BR>⏎ | 804 | と,紫の上もおっしゃって、若宮をこっそりと参上させようとご準備なさる。<BR>⏎ |
| c2 | 906-907 | 「このような、まだおやつれになっていらっしゃるのですから、もう少し静養なさってからでは」<BR>⏎ などと、御方などはお気の毒にお思い申し上げなさるが、大殿は、<BR>⏎ | 806-807 | 「このような,まだおやつれになっていらっしゃるのですから、もう少し静養なさってからでは」<BR>⏎ などと,御方などはお気の毒にお思い申し上げなさるが、大殿は、<BR>⏎ |
| d1 | 910 | <P>⏎ | ||
| version34 | 911 | <A NAME="in122">[第二段 明石女御、手紙を見る]</A><BR> | 810 | |
| c1 | 913 | 「望み通りにおなりあそばすまでは、隠して置くべきことでございますが、この世は無常ですので、気がかりに思いまして。何事もご自分のお考えで一つ一つご判断のおできになります前に、何にせよ、わたしが亡くなるようなことがございましたら、必ずしも臨終の際に、お見取りいただける身分ではございませんので、やはり、しっかりしているうちに、ちょっとした事柄でも、お耳に入れて置いたほうがよい、と存じまして。<BR>⏎ | 812 | 「望み通りにおなりあそばすまでは、隠して置くべきことでございますが、この世は無常ですので、気がかりに思いまして。何事もご自分のお考えで一つ一つご判断のおできになります前に、何にせよ、わたしが亡くなるようなことがございましたら、必ずしも臨終の際に、お見取りいただける身分ではございませんので、やはり,しっかりしているうちに、ちょっとした事柄でも、お耳に入れて置いたほうがよい、と存じまして。<BR>⏎ |
| c1 | 918 | などと、とても数多く申し上げなさる。涙ぐんで聞いていらっしゃる。このように親しくしてもよい御前でも、いつも礼儀正しい態度をなさって、無闇に遠慮している様子である。この手紙の文句、たいそう固苦しく無愛想な感じであるが、陸奥国紙で年数が経っているので、黄ばんで厚くなった五、六枚に、そうは言っても香をたいそう深く染み込ませたのにお書きになっていた。<BR>⏎ | 817 | などと,とても数多く申し上げなさる。涙ぐんで聞いていらっしゃる。このように親しくしてもよい御前でも、いつも礼儀正しい態度をなさって、無闇に遠慮している様子である。この手紙の文句、たいそう固苦しく 無愛想な感じであるが、陸奥国紙で 年数が経っているので、黄ばんで厚くなった五,六枚に、そうは言っても香をたいそう深く染み込ませたのにお書きになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 920 | <P>⏎ | ||
| version34 | 921 | <A NAME="in123">[第三段 源氏、女御の部屋に来る]</A><BR> | 819 | |
| c1 | 929 | 「まあ、いやな。思いやりのないお言葉ですこと。女宮でいらっしゃっても、あちらでお育て申し上げなさるのがよいことでございましょう。まして男宮は、どれほど尊いご身分と申し上げても、ご自由と存じ上げておりますのに。ご冗談にも、そのような分け隔てをするようなことを、変に知ったふうに申されなさいますな」<BR>⏎ | 827 | 「まあ,いやな。思いやりのないお言葉ですこと。女宮でいらっしゃっても、あちらでお育て申し上げなさるのがよいことでございましょう。まして男宮は、どれほど尊いご身分と申し上げても、ご自由と存じ上げておりますのに。ご冗談にも、そのような分け隔てをするようなことを、変に知ったふうに申されなさいますな」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 931-933 | 「お二人にお任せして、お構い申さないのがよいというのですね。分け隔てをして、このごろは、誰も彼もが除け者にして、でしゃばりだなどとおっしゃるのは、考えが足りないことです。第一、そのようにこそこそ隠れて、冷たくこき下ろしなさるようだ」<BR>⏎ と言って、御几帳を引きのけなさると、母屋の柱に寄り掛かって、たいそう綺麗に、気が引けるほど立派な様子をしていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 829-830 | 「お二人にお任せして、お構い申さないのがよいというのですね。分け隔てをして,このごろは、誰も彼もが除け者にして、でしゃばりだなどとおっしゃるのは,考えが足りないことです。第一,そのようにこそこそ隠れて、冷たくこき下ろしなさるようだ」<BR>⏎ と言って,御几帳を引きのけなさると、母屋の柱に寄り掛かって、たいそう綺麗に、気が引けるほど立派な様子をしていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version34 | 934 | <A NAME="in124">[第四段 源氏、手紙を見る]</A><BR> | 831 | |
| c4 | 938-941 | 「まあ、いやですわ。今風に若返りなさったようなお癖で、合点のゆかないようなご冗談が、時々出て来ますこと」<BR>⏎ と言って、ほほ笑んでいらっしゃるが、しみじみとしたご様子がはっきりと感じられるので、妙だと首を傾けていらっしゃる様子なので、厄介に思って、<BR>⏎ 「あの明石の岩屋から、内々で致しましたご祈祷の巻数、また、まだ願解きをしていないのがございましたのを、殿にもお知らせ申し上げるべき適当な機会があったら、御覧になって戴いたほうがよいのではないかと送って来たのでございますが、只今は、その時でもございませんので、何のお開けあそばすこともございますまい」<BR>⏎ と申し上げなさると、「なるほど、泣くのも無理はない」とお思いになって、<BR>⏎ | 835-838 | 「まあ,いやですわ。今風に若返りなさったようなお癖で、合点のゆかないようなご冗談が、時々出て来ますこと」<BR>⏎ と言って,ほほ笑んでいらっしゃるが、しみじみとしたご様子がはっきりと感じられるので、妙だと首を傾けていらっしゃる様子なので、厄介に思って、<BR>⏎ 「あの明石の岩屋から、内々で致しましたご祈祷の巻数、また,まだ願解きをしていないのがございましたのを、殿にもお知らせ申し上げるべき適当な機会があったら、御覧になって戴いたほうがよいのではないかと送って来たのでございますが、只今は、その時でもございませんので、何のお開けあそばすこともございますまい」<BR>⏎ と申し上げなさると、「なるほど,泣くのも無理はない」とお思いになって、<BR>⏎ |
| c1 | 944 | まして、今では気にかかる係累もなく、解脱しきっているだろう。気楽に動ける身ならば、こっそりと行って、ぜひにも会いたいものだが」<BR>⏎ | 841 | まして,今では気にかかる係累もなく、解脱しきっているだろう。気楽に動ける身ならば、こっそりと行って、ぜひにも会いたいものだが」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 948-950 | 「それでは、その遺言なのですね。お手紙はやりとりなさっていますか。尼君、どんなにお思いだろうか。親子の仲よりも、また夫婦の仲は、格別に悲しみも深かろう」<BR>⏎ とおっしゃって、涙ぐみなさっていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 845-846 | 「それでは,その遺言なのですね。お手紙はやりとりなさっていますか。尼君、どんなにお思いだろうか。親子の仲よりも、また夫婦の仲は、格別に悲しみも深かろう」<BR>⏎ とおっしゃって,涙ぐみなさっていた。<BR>⏎ |
| version34 | 951 | <A NAME="in125">[第五段 源氏の感想]</A><BR> | 847 | |
| c2 | 954-955 | 「たいそう変な梵字とか言うような筆跡ではございますが、お目に止まるようなこともございましょうかと存じまして。これが最後と思って別れたのでしたが、やはり、愛着は残るものでございました」<BR>⏎ と言って、見苦しからぬ体でお泣きになる。側に寄りなさって、<BR>⏎ | 850-851 | 「たいそう変な梵字とか言うような筆跡ではございますが、お目に止まるようなこともございましょうかと存じまして。これが最後と思って別れたのでしたが、やはり,愛着は残るものでございました」<BR>⏎ と言って,見苦しからぬ体でお泣きになる。側に寄りなさって、<BR>⏎ |
| c2 | 958-959 | などと、涙をお拭いになりながら、あの夢物語のあたりにお目を止めなさる。<BR>⏎ 「変に偏屈者で、無闇に大それた望みを持っていると人も非難し、また自分ながらも、よろしからぬ結婚をかりそめにもしたことよ、と思ったのは、この姫君がお生まれになった時に、前世からの宿縁だと深く理解したが、目の前に見えない遠い先のことは、どういうものかよく分からぬとずっと思い続けていたのだが、それでは、このような期待があって、無理やり婿に望んだのだったな。<BR>⏎ | 854-855 | などと,涙をお拭いになりながら、あの夢物語のあたりにお目を止めなさる。<BR>⏎ 「変に偏屈者で、無闇に大それた望みを持っていると人も非難し、また自分ながらも、よろしからぬ結婚を かりそめにもしたことよ、と思ったのは、この姫君がお生まれになった時に、前世からの宿縁だと深く理解したが、目の前に見えない遠い先のことは、どういうものかよく分からぬとずっと思い続けていたのだが、それでは,このような期待があって、無理やり婿に望んだのだったな。<BR>⏎ |
| d1 | 962 | <P>⏎ | ||
| version34 | 963 | <A NAME="in126">[第六段 源氏、紫の上の恩を説く]</A><BR> | 858 | |
| c3 | 965-967 | と、女御には申し上げなさる。その折に、<BR>⏎ 「今は、このように、昔のことをだいぶお分りになったのだが、あちらのご好意を、いい加減にはお思いなさいますな。もともと親しいはずの夫婦仲や、切っても切れない親兄弟の親しみよりも、血の繋がらない他人がかりそめの情けをかけ、一言の好意でも寄せてくれるのは、並大抵のことではありません。<BR>⏎ まして、ここに始終お付きしていらっしゃるのを見ながら、最初の気持ちも変わらず、深くご好意をお寄せ申しているのですから。<BR>⏎ | 860-862 | と,女御には申し上げなさる。その折に、<BR>⏎ 「今は、このように,昔のことをだいぶお分りになったのだが、あちらのご好意を、いい加減にはお思いなさいますな。もともと親しいはずの夫婦仲や、切っても切れない親兄弟の親しみよりも、血の繋がらない他人がかりそめの情けをかけ、一言の好意でも寄せてくれるのは、並大抵のことではありません。<BR>⏎ まして,ここに始終お付きしていらっしゃるのを見ながら、最初の気持ちも変わらず、深くご好意をお寄せ申しているのですから。<BR>⏎ |
| c1 | 970 | 多くはありませんが、人の心の、あれこれとある様子を見ると、嗜み教養といい、それぞれにしっかりした程度の心得は持っているようです。皆それぞれ長所があって、取柄がないでもないが、かと言って、特別に、わが妻にと思って、真剣に選ぼうとすれば、なかなか見当たらないものです。<BR>⏎ | 865 | 多くはありませんが、人の心の、あれこれとある様子を見ると、嗜み教養といい、それぞれにしっかりした程度の心得は持っているようです。皆それぞれ長所があって、取柄がないでもないが、かと言って,特別に、わが妻にと思って、真剣に選ぼうとすれば、なかなか見当たらないものです。<BR>⏎ |
| d1 | 973 | <P>⏎ | ||
| version34 | 974 | <A NAME="in127">[第七段 明石御方、卑下す]</A><BR> | 868 | |
| c1 | 976 | などと、声をひそめておっしゃる。<BR>⏎ | 870 | などと,声をひそめておっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 980 | 「あなたのためには、特にご好意があるのではないでしょう。ただ、この姫君のご様子を始終付き添ってお世話申し上げられないのが心配で、お任せ申されるのでしょう。それもまた、一人で取り仕切って、特に目立つようにお振る舞いにならないので、何事も穏やかで体裁よく運ぶので、まことに嬉しく思っています。<BR>⏎ | 874 | 「あなたのためには、特にご好意があるのではないでしょう。ただ,この姫君のご様子を 始終付き添ってお世話申し上げられないのが心配で、お任せ申されるのでしょう。それもまた、一人で取り仕切って、特に目立つようにお振る舞いにならないので、何事も穏やかで体裁よく運ぶので、まことに嬉しく思っています。<BR>⏎ |
| c1 | 983 | 「やっぱりだわ。よくここまで謙遜して来たこと」<BR>⏎ | 877 | 「やっぱりだわ.よくここまで謙遜して来たこと」<BR>⏎ |
| d1 | 985 | <P>⏎ | ||
| version34 | 986 | <A NAME="in128">[第八段 明石御方、宿世を思う]</A><BR> | 879 | |
| cd3:2 | 990-992 | 「高貴な方でさえ、思い通りにならないらしいご夫婦仲なのに、ましてお仲間入りできるような身分でもないのだから、何もかも今は、恨めしく思うことはない。ただ、あの世を捨てて籠もった深山生活を思いやるだけが悲しく心配だわ」<BR>⏎ 尼君も、ただ、「福地の園に種を蒔いて」といったような一言を頼みにして、後世の事を考え考え物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 883-884 | 「高貴な方でさえ、思い通りにならないらしいご夫婦仲なのに、ましてお仲間入りできるような身分でもないのだから、何もかも今は、恨めしく思うことはない。ただ,あの世を捨てて籠もった深山生活を思いやるだけが 悲しく心配だわ」<BR>⏎ 尼君も、ただ,「福地の園に種を蒔いて」といったような一言を頼みにして、後世の事を考え考え物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version34 | 993 | <H4>第十三章 女三の宮の物語 柏木、女三の宮を垣間見る</H4><BR> | 885 | |
| version34 | 994 | <A NAME="in131">[第一段 夕霧の女三の宮への思い]</A><BR> | 886 | |
| d1 | 998 | <P>⏎ | ||
| version34 | 999 | <A NAME="in132">[第二段 夕霧、女三の宮を他の女性と比較]</A><BR> | 890 | |
| c2 | 1001-1002 | 「なるほど、立派な方はなかなかいないものだな。紫の上のお心がけ、態度は、長年たったけれども、何かと噂に出て見えたり聞こえたりするところはなく、もの静かな点を第一として、何と言っても、心やさしく、人をないがしろにせず、自分自身も気品高く、奥ゆかしくしていらっしゃることよ」<BR>⏎ と、垣間見した面影を忘れ難くばかり思い出されるのであった。<BR>⏎ | 892-893 | 「なるほど,立派な方はなかなかいないものだな。紫の上のお心がけ、態度は、長年たったけれども、何かと噂に出て見えたり聞こえたりするところはなく、もの静かな点を第一として、何と言っても、心やさしく、人をないがしろにせず、自分自身も気品高く、奥ゆかしくしていらっしゃることよ」<BR>⏎ と,垣間見した面影を忘れ難くばかり思い出されるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 1005 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1006 | <A NAME="in133">[第三段 柏木、女三の宮に執心]</A><BR> | 896 | |
| c2 | 1010-1011 | 「恐れ多いことだが、そのような辛い思いはおさせ申さなかったろうに。いかにも、そのような高いご身分の相手には、相応しくないだろうが」<BR>⏎ と、いつもこの小侍従という御乳母子を責めたてて、<BR>⏎ | 900-901 | 「恐れ多いことだが、そのような辛い思いはおさせ申さなかったろうに。いかにも,そのような高いご身分の相手には、相応しくないだろうが」<BR>⏎ と,いつもこの小侍従という御乳母子を責めたてて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 1013-1014 | と、怠りなく思い続けていらっしゃるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 903 | と,怠りなく思い続けていらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| version34 | 1015 | <A NAME="in134">[第四段 柏木ら東町に集い遊ぶ]</A><BR> | 904 | |
| cd4:3 | 1020-1023 | と、お尋ねさせなさる。<BR>⏎ 「大将の君は、丑寅の町で、人々と大勢して、蹴鞠をさせて御覧になっていらっしゃる」<BR>⏎ とお聞きになって、<BR>⏎ 「無作法な遊びだが、それでも派手で気の利いた遊びだ。どれ、こちらで」<BR>⏎ | 909-911 | と,お尋ねさせなさる。<BR>⏎ 「大将の君は、丑寅の町で、人々と大勢して、蹴鞠をさせて御覧になっていらっしゃる」とお聞きになって、<BR>⏎ 「無作法な遊びだが、それでも派手で気の利いた遊びだ。どれ,こちらで」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 1029-1030 | とおっしゃって、寝殿の東面は、桐壷の女御は若宮をお連れ申し上げていらっしゃっている折なので、こちらはひっそりしていた。遣水などの合流する所が広々としていて、趣のある場所を探しに出て行く。太政大臣の公達の、頭弁、兵衛佐、大夫の君などの、年輩者も、また若い者も、それぞれに、他の人より立派な方ばかりでいらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 917 | とおっしゃって,寝殿の東面は、桐壷の女御は若宮をお連れ申し上げていらっしゃっている折なので、こちらはひっそりしていた。遣水などの合流する所が広々としていて、趣のある場所を探しに出て行く。太政大臣の公達の、頭弁、兵衛佐、大夫の君などの、年輩者も、また若い者も、それぞれに、他の人より立派な方ばかりでいらっしゃる。<BR>⏎ |
| version34 | 1031 | <A NAME="in135">[第五段 南町で蹴鞠を催す]</A><BR> | 918 | |
| c1 | 1034 | などとおっしゃると、大将も督君も、みなお下りになって、何ともいえない美しい桜の花の蔭で、あちこち動きなさる夕映えの姿、たいそう美しい。決して体裁よくなく、騒々しく落ち着きのない遊びのようだが、場所柄により人柄によるものであった。<BR>⏎ | 921 | などとおっしゃると、大将も督君も、みなお下りになって、何ともいえない美しい桜の花の蔭で,あちこち動きなさる夕映えの姿、たいそう美しい。決して体裁よくなく、騒々しく落ち着きのない遊びのようだが、場所柄により人柄によるものであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 1036-1038 | 器量もたいそう美しく優雅な物腰の人が、心づかいを十分して、それでいて活発なのは見事である。<BR>⏎ 御階の柱間に面した桜の木蔭に移って、人々が、花のことも忘れて熱中しているのを、大殿も兵部卿宮も隅の高欄に出て御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 923-924 | 器量もたいそう美しく優雅な物腰の人が、心づかいを十分して、それでいて活発なのは 見事である。<BR>⏎ 御階の柱間に面した桜の木蔭に移って、人々が、花のことも忘れて熱中しているのを、大殿も兵部卿宮も 隅の高欄に出て御覧になる。<BR>⏎ |
| version34 | 1039 | <A NAME="in136">[第六段 女三の宮たちも見物す]</A><BR> | 925 | |
| d1 | 1044 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1045 | <A NAME="in137">[第七段 唐猫、御簾を引き開ける]</A><BR> | 930 | |
| cd2:1 | 1047-1048 | 猫は、まだよく人に馴れていないのであろうか、綱がたいそう長く付けてあったが、物に引っかけまつわりついてしまったので、逃げようとして引っぱるうちに、御簾の端がたいそうはっきりと中が見えるほど引き開けられたのを、すぐに直す女房もいない。この柱の側にいた人々も慌てているらしい様子で、誰も手が出ないでいるのである。<BR>⏎ <P>⏎ | 932 | 猫は、まだよく人に馴れていないのであろうか、綱がたいそう長く付けてあったが、物に引っかけまつわりついてしまったので、逃げようとして引っぱるうちに、御簾の端がたいそうはっきりと中が見えるほど引き開けられたのを、すぐに直す女房もいない。この柱の側にいた人々も 慌てているらしい様子で、誰も手が出ないでいるのである。<BR>⏎ |
| version34 | 1049 | <A NAME="in138">[第八段 柏木、女三の宮を垣間見る]</A><BR> | 933 | |
| c1 | 1051 | 紅梅襲であろうか、濃い色薄い色を、次々と、何枚も重ねた色の変化、派手で、草子の小口のように見えて、桜襲の織物の細長なのであろう。お髪が裾までくっきりと見えるところは、糸を縒りかけたように靡いて、裾がふさふさと切り揃えられているのは、とてもかわいい感じで、七、八寸ほど身丈に余っていらっしゃる。お召し物の裾が長く余って、とても細く小柄で、姿つき、髪のふりかかっていらっしゃる横顔は、何とも言いようがないほど気高くかわいらしげである。夕日の光なので、はっきり見えず、奥暗い感じがするのも、とても物足りなく残念である。<BR>⏎ | 935 | 紅梅襲であろうか、濃い色薄い色を、次々と、何枚も重ねた色の変化、派手で、草子の小口のように見えて、桜襲の織物の細長なのであろう。お髪が裾までくっきりと見えるところは、糸を縒りかけたように靡いて、裾がふさふさと切り揃えられているのは、とてもかわいい感じで、七,八寸ほど身丈に余っていらっしゃる。お召し物の裾が長く余って、とても細く小柄で、姿つき、髪のふりかかっていらっしゃる横顔は、何とも言いようがないほど気高くかわいらしげである。夕日の光なので、はっきり見えず、奥暗い感じがするのも、とても物足りなく残念である。<BR>⏎ |
| d1 | 1053 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1054 | <A NAME="in139">[第九段 夕霧、事態を憂慮す]</A><BR> | 937 | |
| c2 | 1055-1056 | 大将は、たいそうはらはらしていたが、近寄るのもかえって身分に相応しくないので、ただ気づかせようと、咳ばらいなさったので、すっとお入りになる。実の所、自分ながらも、とても残念な気持ちがなさったが、猫の綱を放したので、溜息をもらさずにはいられない。<BR>⏎ それ以上に、あれほど夢中になっていた衛門督は、胸がいっぱいになって、他の誰でもない、大勢の中ではっきりと目立つ袿姿からも、他人と間違いようもなかったご様子など、心に忘れられなく思われる。<BR>⏎ | 938-939 | 大将は、たいそうはらはらしていたが、近寄るのもかえって身分に相応しくないので、ただ気づかせようと、咳ばらいなさったので、すっとお入りになる。実の所,自分ながらも、とても残念な気持ちがなさったが、猫の綱を放したので、溜息をもらさずにはいられない。<BR>⏎ それ以上に,あれほど夢中になっていた衛門督は、胸がいっぱいになって、他の誰でもない、大勢の中ではっきりと目立つ袿姿からも、他人と間違いようもなかったご様子など、心に忘れられなく思われる。<BR>⏎ |
| d1 | 1058 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1059 | <H4>第十四章 女三の宮の物語 蹴鞠の後宴</H4><BR> | 941 | |
| version34 | 1060 | <A NAME="in141">[第一段 蹴鞠の後の酒宴]</A><BR> | 942 | |
| c1 | 1063 | とおっしゃって、東の対の南面の間にお入りになったので、皆そちらの方にお上りになった。兵部卿宮も席をお改めになって、お話をなさる。<BR>⏎ | 945 | とおっしゃって,東の対の南面の間にお入りになったので、皆そちらの方にお上りになった。兵部卿宮も席をお改めになって、お話をなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 1068-1069 | 「やはり、他人に対しても自分に対しても、不用心で、幼いのは、かわいらしいようだが不安なものだ」<BR>⏎ と、軽んじられる。<BR>⏎ | 950-951 | 「やはり,他人に対しても自分に対しても、不用心で、幼いのは、かわいらしいようだが不安なものだ」<BR>⏎ と,軽んじられる。<BR>⏎ |
| d1 | 1071 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1072 | <A NAME="in142">[第二段 源氏の昔語り]</A><BR> | 953 | |
| cd4:3 | 1079-1082 | などと、おからかいになるご様子が、つやつやとして美しいのを拝見するにつけても、<BR>⏎ 「このような方と一緒にいては、どれほどのことに心を移す人がいらっしゃるだろうか。いったい、どうしたら、かわいそうにとお認め下さるほどにでも、気持ちをお動かし申し上げることができようか」<BR>⏎ と、あれこれ思案すると、ますますこの上なく、お側には近づきがたい身分の程が自然と思い知らされるので、ただもう胸の塞がる思いで退出なさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 960-962 | などと,おからかいになるご様子が、つやつやとして美しいのを拝見するにつけても、<BR>⏎ 「このような方と一緒にいては、どれほどのことに心を移す人がいらっしゃるだろうか。いったい,どうしたら、かわいそうにとお認め下さるほどにでも、気持ちをお動かし申し上げることができようか」<BR>⏎ と,あれこれ思案すると、ますますこの上なく、お側には近づきがたい身分の程が自然と思い知らされるので、ただもう胸の塞がる思いで退出なさった。<BR>⏎ |
| version34 | 1083 | <A NAME="in143">[第三段 柏木と夕霧、同車して帰る]</A><BR> | 963 | |
| c1 | 1085 | 「やはり、今ごろの退屈な時には、こちらの院に参上して、気晴らしすべきだ」<BR>⏎ | 965 | 「やはり,今ごろの退屈な時には、こちらの院に参上して、気晴らしすべきだ」<BR>⏎ |
| c1 | 1089 | と、よけいな事を言うので、<BR>⏎ | 969 | と,よけいな事を言うので、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 1092-1095 | 「いや、黙って下さい。すっかり聞いております。とてもお気の毒な時がよくあるというではありませんか。実のところ、並々ならぬ御寵愛の宮ですのに。考えられないお扱いではないですか」<BR>⏎ と、お気の毒がる。<BR>⏎ 「どうして、花から花へと飛び移る鴬は<BR>⏎ 桜を別扱いしてねぐらとしないのでしょう<BR>⏎ | 972-974 | 「いや,黙って下さい。すっかり聞いております。とてもお気の毒な時がよくあるというではありませんか。実のところ、並々ならぬ御寵愛の宮ですのに。考えられないお扱いではないですか」<BR>⏎ と,お気の毒がる。<BR>⏎ 「どうして,花から花へと飛び移る鴬は<BR> 桜を別扱いしてねぐらとしないのでしょう<BR>⏎ |
| cd4:3 | 1097-1100 | と、口ずさみに言うので、<BR>⏎ 「何と、つまらないおせっかいだ。やっぱり思った通りだな」と思う。<BR>⏎ 「深山の木にねぐらを決めているはこ鳥も<BR>⏎ どうして美しい花の色を嫌がりましょうか<BR>⏎ | 976-978 | と,口ずさみに言うので、<BR>⏎ 「何と,つまらないおせっかいだ. やっぱり思った通りだな」と思う。<BR>⏎ 「深山の木にねぐらを決めているはこ鳥も<BR> どうして美しい花の色を嫌がりましょうか<BR>⏎ |
| d1 | 1103 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1104 | <A NAME="in144">[第四段 柏木、小侍従に手紙を送る]</A><BR> | 981 | |
| c1 | 1107 | と、ばかり自負しているが、この夕方からひどく気持ちが塞ぎ、物思いに沈み込んで、<BR>⏎ | 984 | と,ばかり自負しているが、この夕方からひどく気持ちが塞ぎ、物思いに沈み込んで、<BR>⏎ |
| c1 | 1109 | などと、思いを晴らすすべもなく、<BR>⏎ | 986 | などと,思いを晴らすすべもなく、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 1114-1115 | 「よそながら見るばかりで手折ることのできない悲しみは深いけれども<BR>⏎ あの夕方見た花の美しさはいつまでも恋しく思われます」<BR>⏎ | 991 | 「よそながら見るばかりで手折ることのできない悲しみは深いけれども<BR> あの夕方見た花の美しさはいつまでも恋しく思われます」<BR>⏎ |
| d1 | 1117 | <P>⏎ | ||
| version34 | 1118 | <A NAME="in145">[第五段 女三の宮、柏木の手紙を見る]</A><BR> | 993 | |
| c1 | 1121 | と、にっこりして申し上げると、<BR>⏎ | 996 | と,にっこりして申し上げると、<BR>⏎ |
| c1 | 1123 | と、無邪気におっしゃって、手紙を広げたのを御覧になる。<BR>⏎ | 998 | と,無邪気におっしゃって、手紙を広げたのを御覧になる。<BR>⏎ |
| c1 | 1126 | と、ご注意申し上げなさっていたのをお思い出しになると、<BR>⏎ | 1001 | と,ご注意申し上げなさっていたのをお思い出しになると、<BR>⏎ |
| c1 | 1128 | と、人が拝見なさったことをお考えにならないで、まずは、叱られることを恐がり申されるお考えとは、なんと幼稚な方よ。<BR>⏎ | 1003 | と,人が拝見なさったことをお考えにならないで、まずは,叱られることを恐がり申されるお考えとは,なんと幼稚な方よ。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 1130-1133 | 「先日は、知らない顔をなさっていましたね。失礼なことだとお許し申し上げませんでしたのに、『見ないでもなかった』とは何ですか。まあ、嫌らしい」<BR>⏎ と、さらさらと走り書きして、<BR>⏎ 「今さらお顔の色にお出しなさいますな<BR>⏎ 手の届きそうもない桜の枝に思いを掛けたなどと<BR>⏎ | 1005-1007 | 「先日は、知らない顔をなさっていましたね。失礼なことだとお許し申し上げませんでしたのに、『見ないでもなかった』とは何ですか。まあ,嫌らしい」<BR>⏎ と,さらさらと走り書きして、<BR>⏎ 「今さらお顔の色にお出しなさいますな<BR> 手の届きそうもない桜の枝に思いを掛けたなどと<BR>⏎ |
| d2 | 1136-1137 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 1145 | ⏎ | ||
| i0 | 1021 | |||
| diff | src/original/version35.html | src/modified/version35.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version35 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 129 | <P>⏎ | ||
| version35 | 130 | <H4>第一章 柏木の物語 女三の宮の結婚後</H4> | 126 | |
| version35 | 131 | <A NAME="in11">[第一段 六条院の競射]</A><BR> | 127 | |
| ci1:2 | 132 | もっともだとは思うけれども、「いまいましい言い方だな。いや、しかし、なんでこのような通り一遍の返事だけを慰めとしては、どうして過ごせようか。このような人を介してではなく、一言でも直接おっしゃってくださり、また申し上げたりする時があるだろうか」<BR>⏎ | 128-129 | もっともだとは思うけれども、<BR>⏎ 「いまいましい言い方だな。いや,しかし、なんでこのような通り一遍の返事だけを慰めとしては、どうして過ごせようか。このような人を介してではなく、一言でも直接おっしゃってくださり,また申し上げたりする時があるだろうか」<BR>⏎ |
| c2 | 139-140 | 「やはり、様子が変だ。厄介な事が引き起こるのだろうか」<BR>⏎ と、自分までが悩みに取りつかれたような心地がする。この君たち、お仲が大変に良い。従兄弟同士という中でも、気心が通じ合って親密なので、ちょっとした事でも、物思いに悩んで屈託しているところがあろうものなら、お気の毒にお思いになる。<BR>⏎ | 136-137 | 「やはり,様子が変だ。厄介な事が引き起こるのだろうか」<BR>⏎ と,自分までが悩みに取りつかれたような心地がする。この君たち、お仲が大変に良い。従兄弟同士という中でも、気心が通じ合って親密なので、ちょっとした事でも、物思いに悩んで屈託しているところがあろうものなら、お気の毒にお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 146 | <P>⏎ | ||
| version35 | 147 | <A NAME="in12">[第二段 柏木、女三の宮の猫を預る]</A><BR> | 143 | |
| c2 | 154-155 | などと、興味をお持ちになるように、特にお話し申し上げなさる。<BR>⏎ お耳にお止めあそばして、桐壷の御方を介してご所望なさったので、差し上げなさった。「なるほど、たいそうかわいらしげな猫だ」と、人々が面白がるので、衛門督は、「手に入れようとお思いであった」と、お顔色で察していたので、数日して参上なさった。<BR>⏎ | 150-151 | などと,興味をお持ちになるように、特にお話し申し上げなさる。<BR>⏎ お耳にお止めあそばして、桐壷の御方を介してご所望なさったので、差し上げなさった。「なるほど,たいそうかわいらしげな猫だ」と、人々が面白がるので、衛門督は、「手に入れようとお思いであった」と、お顔色で察していたので、数日して参上なさった。<BR>⏎ |
| c1 | 159 | 「なるほど、かわいい恰好をしているね。性質が、まだなつかないのは、人見知りをするのだろうか。ここにいる猫たちも、大して負けないがね」<BR>⏎ | 155 | 「なるほど,かわいい恰好をしているね。性質が、まだなつかないのは、人見知りをするのだろうか。ここにいる猫たちも、大して負けないがね」<BR>⏎ |
| c1 | 161 | 「猫というものは、そのような人見知りは、普通しないものでございますが、その中でも賢い猫は、自然と性根がございますのでしょう」などとお答え申し上げて、「これより勝れている猫が何匹もございますようですから、これは暫くお預かり申しましょう」<BR>⏎ | 157 | 「猫というものは,そのような人見知りは、普通しないものでございますが、その中でも賢い猫は、自然と性根がございますのでしょう」などとお答え申し上げて、「これより勝れている猫が何匹もございますようですから、これは暫くお預かり申しましょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 163-165 | 夜が明ければ、猫の世話をして、撫でて食事をさせなさる。人になつかなかった性質も、とてもよく馴れて、ともすれば、衣服の裾にまつわりついて、側に寝そべって甘えるのを、心からかわいいと思う。とてもひどく物思いに耽って、端近くに寄り臥していらっしゃると、やって来て、「ねよう、ねよう」と、とてもかわいらしげに鳴くので、撫でて、「いやに、積極的だな」と、思わず苦笑される。<BR>⏎ 「恋いわびている人のよすがと思ってかわいがっていると<BR>⏎ どういうつもりでそんな鳴き声を立てるのか<BR>⏎ | 159-160 | 夜が明ければ、猫の世話をして、撫でて食事をさせなさる。人になつかなかった性質も、とてもよく馴れて、ともすれば、衣服の裾にまつわりついて、側に寝そべって甘えるのを、心からかわいいと思う。とてもひどく物思いに耽って、端近くに寄り臥していらっしゃると、やって来て,「ねよう,ねよう」と、とてもかわいらしげに鳴くので、撫でて、「いやに,積極的だな」と、思わず苦笑される。<BR>⏎ 「恋いわびている人のよすがと思ってかわいがっていると<BR> どういうつもりでそんな鳴き声を立てるのか<BR>⏎ |
| c1 | 167 | と、顔を見ながらおっしゃると、ますますかわいらしく鳴くので、懐に入れて物思いに耽っていらっしゃる。御達などは、<BR>⏎ | 162 | と,顔を見ながらおっしゃると、ますますかわいらしく鳴くので、懐に入れて物思いに耽っていらっしゃる。御達などは、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 169-170 | と、不審がるのだった。宮から返すようにとご催促があってもお返し申さず、独り占めして、この猫を話相手にしていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 164 | と,不審がるのだった。宮から返すようにとご催促があってもお返し申さず、独り占めして、この猫を話相手にしていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version35 | 171 | <A NAME="in13">[第三段 柏木、真木柱姫君には無関心]</A><BR> | 165 | |
| c2 | 176-177 | 親王のご声望はたいそう高く、帝におかせられても、この宮への御信頼は、並々ならぬものがあって、こうと奏上なさることはお断りになることができず、お気づかい申していらっしゃる。だいたいのお人柄も現代的でいらっしゃる宮で、こちらの院、大殿にお次ぎ申して、人々もお仕え申し、世間の人々も重々しく申し上げているのであった。<BR>⏎ 左大将も、将来の国家の重鎮とおなりになるはずの有力者であるから、姫君のご評判、どうして軽いことがあろうか。求婚する人々、何かにつけて大勢いるが、ご決定なさらない。衛門督を、「そのような、態度を見せたら」とお思いのようだが、猫ほどにはお思いにならないのであろうか、まったく考えもしないのは、残念なことであった。<BR>⏎ | 170-171 | 親王のご声望はたいそう高く、帝におかせられても、この宮への御信頼は、並々ならぬものがあって、こうと奏上なさることは お断りになることができず、お気づかい申していらっしゃる。だいたいのお人柄も現代的でいらっしゃる宮で、こちらの院、大殿にお次ぎ申して、人々もお仕え申し、世間の人々も重々しく申し上げているのであった。<BR>⏎ 左大将も、将来の国家の重鎮とおなりになるはずの有力者であるから、姫君のご評判、どうして軽いことがあろうか。求婚する人々、何かにつけて大勢いるが、ご決定なさらない。衛門督を、「そのような,態度を見せたら」とお思いのようだが、猫ほどにはお思いにならないのであろうか、まったく考えもしないのは、残念なことであった。<BR>⏎ |
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| version35 | 180 | <A NAME="in14">[第四段 真木柱、兵部卿宮と結婚]</A><BR> | 173 | |
| cd3:2 | 186-188 | 「いろいろと何かにつけ嘆きの種が多いので、懲り懲りしたと思いたいところだが、やはりこの君のことが放っておけなく思えてね。母君は、奇妙な変人に年とともになって行かれる。大将は大将で、自分の言う通りにしないからと言って、いい加減に見放ちなされたようだから、まことに気の毒である」<BR>⏎ と言って、お部屋の飾り付けも、立ったり座ったり、ご自身でお世話なさり、すべてにもったいなくも熱心でいらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 179-180 | 「いろいろと何かにつけ嘆きの種が多いので、懲り懲りしたと思いたいところだが、やはりこの君のことが放っておけなく思えてね。母君は、奇妙な変人に 年とともになって行かれる。大将は大将で、自分の言う通りにしないからと言って、いい加減に見放ちなされたようだから、まことに気の毒である」<BR>⏎ と言って,お部屋の飾り付けも、立ったり座ったり、ご自身でお世話なさり、すべてにもったいなくも熱心でいらっしゃった。<BR>⏎ |
| version35 | 189 | <A NAME="in15">[第五段 兵部卿宮と真木柱の不幸な結婚生活]</A><BR> | 181 | |
| c1 | 190 | 宮は、お亡くなりになった北の方を、それ以来ずっと恋い慕い申し上げなさって、「ただ、亡くなった北の方の面影にお似申し上げたような方と結婚しよう」とお思いになっていたが、「悪くはないが、違った感じでいらっしゃる」とお思いになると、残念であったのか、お通いになる様子は、まこと億劫そうである。<BR>⏎ | 182 | 宮は、お亡くなりになった北の方を、それ以来ずっと恋い慕い申し上げなさって、「ただ,亡くなった北の方の面影にお似申し上げたような方と結婚しよう」とお思いになっていたが、「悪くはないが、違った感じでいらっしゃる」とお思いになると、残念であったのか、お通いになる様子は、まこと億劫そうである。<BR>⏎ |
| c1 | 194 | 「あの当時も、結婚しようとは、考えてもいなかったのだ。ただ、いかにも優しく、情愛深くお言葉をかけ続けてくださったのに、張り合いなく軽率なように、お見下しになったであろうか」と、とても恥ずかしく、今までもお思い続けていらっしゃることなので、「あのような近いところで、わたしの噂をお聞きになることも、気をつかわねばならない」などとお思いになる。<BR>⏎ | 186 | 「あの当時も、結婚しようとは、考えてもいなかったのだ。ただ,いかにも優しく、情愛深くお言葉をかけ続けてくださったのに、張り合いなく軽率なように、お見下しになったであろうか」と、とても恥ずかしく、今までもお思い続けていらっしゃることなので、「あのような近いところで、わたしの噂をお聞きになることも、気をつかわねばならない」などとお思いになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 197-199 | とぶつぶつおっしゃるのを、宮も漏れお聞きなさっては、「まったく変な話だ。昔、とてもいとしく思っていた人を差し置いても、やはり、ちょっとした浮気はいつもしていたが、こう厳しい恨み言は、なかったものを」<BR>⏎ と、気にくわなく、ますます故人をお慕いなさりながら、自邸に物思いに耽りがちでいらっしゃる。そうは言いながらも、二年ほどになったので、こうした事にも馴れて、ただ、そのような夫婦仲としてお過ごしになっていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 189-190 | とぶつぶつおっしゃるのを、宮も漏れお聞きなさっては、「まったく変な話だ。昔,とてもいとしく思っていた人を差し置いても、やはり,ちょっとした浮気はいつもしていたが、こう厳しい恨み言は、なかったものを」<BR>⏎ と,気にくわなく、ますます故人をお慕いなさりながら、自邸に物思いに耽りがちでいらっしゃる。そうは言いながらも、二年ほどになったので、こうした事にも馴れて、ただ,そのような夫婦仲としてお過ごしになっていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version35 | 200 | <H4>第二章 光る源氏の物語 住吉参詣</H4> | 191 | |
| version35 | 201 | <A NAME="in21">[第一段 冷泉帝の退位]</A><BR> | 192 | |
| c1 | 202 | これという事もなくて、年月が過ぎて行き、今上の帝、御即位なさってから十八年におなりあそばした。<BR>⏎ | 193 | これという事もなくて、年月が過ぎて行き、今上の帝、御即位なさってから 十八年におなりあそばした。<BR>⏎ |
| c2 | 204-205 | と、長年お思いになりおっしゃりもしていたが、最近たいそう重くお悩みあそばすことがあって、急に御退位あそばした。世間の人は、「惜しい盛りのお年を、このようにお退きになること」と、惜しみ嘆いたが、東宮もご成人あそばしているので、お嗣ぎになって、世の中の政治など、特別に変わることもなかった。<BR>⏎ 太政大臣は致仕の表を奉って、ご引退なさった。<BR>⏎ | 195-196 | と,長年お思いになりおっしゃりもしていたが、最近たいそう重くお悩みあそばすことがあって、急に御退位あそばした。世間の人は、「惜しい盛りのお年を、このようにお退きになること」と惜しみ嘆いたが、東宮もご成人あそばしているので、お嗣ぎになって、世の中の政治など、特別に変わることもなかった。<BR>⏎ 太政大臣は 致仕の表を奉って、ご引退なさった。<BR>⏎ |
| d1 | 212 | <P>⏎ | ||
| version35 | 213 | <A NAME="in22">[第二段 六条院の女方の動静]</A><BR> | 203 | |
| c1 | 214 | 姫宮の御事は、帝が、御配慮になってお気をつけて差し上げなさる。世間の人々からも、広く重んじられていらっしゃるが、対の上のご威勢には、勝ることがおできになれない。年月がたつにつれて、ご夫婦仲は互いにたいそうしっくりと睦まじくいらして、少しも不満なところなく、よそよそしさもお見えでないが、<BR>⏎ | 204 | 姫宮の御事は、帝が,御配慮になってお気をつけて差し上げなさる。世間の人々からも、広く重んじられていらっしゃるが、対の上のご威勢には、勝ることがおできになれない。年月がたつにつれて、ご夫婦仲は互いにたいそうしっくりと睦まじくいらして、少しも不満なところなく、よそよそしさもお見えでないが、<BR>⏎ |
| c1 | 216 | と、真剣に申し上げなさることが度々あるが、<BR>⏎ | 206 | と,真剣に申し上げなさることが度々あるが、<BR>⏎ |
| c1 | 219 | 女御の君、ひたすらこちらを、本当の母親のようにお仕え申し上げなさって、御方は蔭のお世話役として、謙遜していらっしゃるのが、かえって、将来頼もしげで、立派な感じであった。<BR>⏎ | 209 | 女御の君、ひたすらこちらを、本当の母親のようにお仕え申し上げなさって、御方は蔭のお世話役として、謙遜していらっしゃるのが、かえって、将来頼もしげで,立派な感じであった。<BR>⏎ |
| d1 | 221 | <P>⏎ | ||
| version35 | 222 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、住吉に参詣]</A><BR> | 211 | |
| c1 | 224 | 毎年の春秋に奏する神楽に、必ず子孫の永遠の繁栄を祈願した願文類が、なるほど、このようなご威勢でなければ果たすことがおできになれないように考えていたのであった。ただ走り書きしたような文面で、学識が見え論旨も通り、仏神もお聞き入れになるはずの文意が明瞭である。<BR>⏎ | 213 | 毎年の春秋に奏する神楽に、必ず子孫の永遠の繁栄を祈願した願文類が、なるほど,このようなご威勢でなければ 果たすことがおできになれないように考えていたのであった。ただ走り書きしたような文面で、学識が見え論旨も通り、仏神もお聞き入れになるはずの文意が明瞭である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 226-227 | 今回は、この趣旨は表にお立てにならず、ただ、院の物詣でとしてご出立なさる。浦から浦へと流離した事変の当時の数多くの御願は、すっかりお果たしなさったが、やはりこの世にこうお栄えになっていらっしゃって、このようないろいろな栄華を御覧になるにつけても、神の御加護は忘れることができず、対の上もご一緒申し上げなさって、ご参詣あそばす、その評判、大変なものである。たいそう儀式を簡略にして、世間に迷惑があってはならないように、と省略なさるが、仕来りがあることゆえ、またとない立派さであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 215 | 今回は、この趣旨は表にお立てにならず、ただ,院の物詣でとしてご出立なさる。浦から浦へと流離した事変の当時の数多くの御願は、すっかりお果たしなさったが、やはりこの世にこうお栄えになっていらっしゃって、このようないろいろな栄華を御覧になるにつけても、神の御加護は忘れることができず、対の上もご一緒申し上げなさって、ご参詣あそばす、その評判、大変なものである。たいそう儀式を簡略にして、世間に迷惑があってはならないように、と省略なさるが、仕来りがあることゆえ、またとない立派さであった。<BR>⏎ |
| version35 | 228 | <A NAME="in24">[第四段 住吉参詣の一行]</A><BR> | 216 | |
| c1 | 229 | 上達部も、大臣お二方をお除き申しては、皆お供奉申し上げなさる。舞人は、近衛府の中将たちで器量が良くて、背丈の同じ者ばかりをお選びあそばす。この選に漏れたことを恥として、悲しみ嘆いている芸熱心の者たちもいるのだった。<BR>⏎ | 217 | 上達部も、大臣お二方をお除き申しては、皆お供奉申し上げなさる。舞人は、近衛府の中将たちで 器量が良くて、背丈の同じ者ばかりをお選びあそばす。この選に漏れたことを恥として、悲しみ嘆いている芸熱心の者たちもいるのだった。<BR>⏎ |
| c1 | 231 | 御神楽の方には、たいそう数多くの人々がお供申していた。帝、東宮、院の殿上人、それぞれに分かれて、進んで御用をお勤めになる。その数も知れず、いろいろと善美を尽くした上達部の御馬、鞍、馬添、随身、小舎人童、それ以下の舎人などまで、飾り揃えた見事さは、またとないほどである。<BR>⏎ | 219 | 御神楽の方には、たいそう数多くの人々がお供申していた。帝,東宮,院の殿上人、それぞれに分かれて、進んで御用をお勤めになる。その数も知れず、いろいろと善美を尽くした上達部の御馬,鞍,馬添,随身,小舎人童、それ以下の舎人などまで、飾り揃えた見事さは、またとないほどである。<BR>⏎ |
| c1 | 234 | と、院はおっしゃったが、<BR>⏎ | 222 | と,院はおっしゃったが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 236-237 | と、御方はお抑えなさったが、余命が心配で、もう一方では見たくて、付いていらっしゃったのであった。前世からの因縁で、もともとこのようにお栄えになるお身の上の方々よりも、まことに素晴らしい幸運が、はっきり分かるご様子の方である。<BR>⏎ <P>⏎ | 224 | と,御方はお抑えなさったが、余命が心配で、もう一方では見たくて、付いていらっしゃったのであった。前世からの因縁で、もともとこのようにお栄えになるお身の上の方々よりも、まことに素晴らしい幸運が、はっきり分かるご様子の方である。<BR>⏎ |
| version35 | 238 | <A NAME="in25">[第五段 住吉社頭の東遊び]</A><BR> | 225 | |
| c1 | 241 | 「求子」が終わった後に、若い上達部は、肩脱ぎしてお下りになる。光沢のない黒の袍衣から、蘇芳襲で、葡萄染の袖を急に引き出したところ、紅の濃い袙の袂が、はらはらと降りかかる時雨にちょっとばかり濡れたのは、松原であることを忘れて、紅葉が散ったのかと思われる。<BR>⏎ | 228 | 「求子」が終わった後に、若い上達部は、肩脱ぎしてお下りになる。光沢のない黒の袍衣から、蘇芳襲で、葡萄染の袖を 急に引き出したところ、紅の濃い袙の袂が、はらはらと降りかかる時雨にちょっとばかり濡れたのは、松原であることを忘れて、紅葉が散ったのかと思われる。<BR>⏎ |
| d1 | 243 | <P>⏎ | ||
| version35 | 244 | <A NAME="in26">[第六段 源氏、往時を回想]</A><BR> | 230 | |
| cd2:1 | 247-248 | 「わたしの外に誰がまた昔の事情を知って住吉の<BR>⏎ 神代からの松に話しかけたりしましょうか」<BR>⏎ | 233 | 「わたしの外に誰がまた昔の事情を知って住吉の<BR> 神代からの松に話しかけたりしましょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 250-251 | 「住吉の浜を生きていた甲斐がある渚だと<BR>⏎ 年とった尼も今日知ることでしょう」<BR>⏎ | 235 | 「住吉の浜を生きていた甲斐がある渚だと<BR> 年とった尼も今日知ることでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 253-254 | 「昔の事が何よりも忘れられない<BR>⏎ 住吉の神の霊験を目の当たりにするにつけても」<BR>⏎ | 237 | 「昔の事が何よりも忘れられない<BR> 住吉の神の霊験を目の当たりにするにつけても」<BR>⏎ |
| d1 | 256 | <P>⏎ | ||
| version35 | 257 | <A NAME="in27">[第七段 終夜、神楽を奏す]</A><BR> | 239 | |
| cd2:1 | 260-261 | 「住吉の浜の松に夜深く置く霜は<BR>⏎ 神様が掛けた木綿鬘でしょうか」<BR>⏎ | 242 | 「住吉の浜の松に夜深く置く霜は<BR> 神様が掛けた木綿鬘でしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 263-264 | 「神主が手に持った榊の葉に<BR>⏎ 木綿を掛け添えた深い夜の霜ですこと」<BR>⏎ | 244 | 「神主が手に持った榊の葉に<BR> 木綿を掛け添えた深い夜の霜ですこと」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 266-267 | 「神に仕える人々の木綿鬘と見間違えるほどに置く霜は<BR>⏎ 仰せのとおり神の御霊験の証でございましょう」<BR>⏎ | 246 | 「神に仕える人々の木綿鬘と見間違えるほどに置く霜は<BR> 仰せのとおり神の御霊験の証でございましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 269 | <P>⏎ | ||
| version35 | 270 | <A NAME="in28">[第八段 明石一族の幸い]</A><BR> | 248 | |
| c1 | 271 | 夜がほのぼのと明けて行くと、霜はいよいよ深く、本方と末方とがその分担もはっきりしなくなるほど、酔い過ぎた神楽面が、自分の顔がどんなになっているか知らないで、面白いことに夢中になって、庭燎も消えかかっているのに、依然として、「万歳、万歳」と、榊の葉を取り直し取り直して、お祝い申し上げる御末々の栄えを、想像するだけでもいよいよめでたい限りである。<BR>⏎ | 249 | 夜がほのぼのと明けて行くと、霜はいよいよ深く、本方と末方とがその分担もはっきりしなくなるほど、酔い過ぎた神楽面が、自分の顔がどんなになっているか知らないで、面白いことに夢中になって、庭燎も消えかかっているのに、依然として,「万歳,万歳」と、榊の葉を取り直し取り直して、お祝い申し上げる御末々の栄えを、想像するだけでもいよいよめでたい限りである。<BR>⏎ |
| cd4:1 | 276-279 | このようなご様子をも、あの入道が、聞こえないまた見えない山奥に離れ去ってしまわれたことだけが、不満に思われた。それも難しいことだろう、出てくるのは見苦しいことであろうよ。世の中の人は、これを例として、高望みがはやりそうな時勢のようである。万事につけて、誉め驚き、世間話の種として、「明石の尼君」と、幸福な人の例に言ったのであった。あの致仕の大殿の近江の君は、双六を打つ時の言葉にも、<BR>⏎ 「明石の尼君、明石の尼君」<BR>⏎ と言って賽を祈ったのである。<BR>⏎ <P>⏎ | 254 | このようなご様子をも、あの入道が、聞こえないまた見えない山奥に離れ去ってしまわれたことだけが、不満に思われた。それも難しいことだろう、出てくるのは見苦しいことであろうよ。世の中の人は、これを例として、高望みがはやりそうな時勢のようである。万事につけて、誉め驚き、世間話の種として、「明石の尼君」と、幸福な人の例に言ったのであった。あの致仕の大殿の近江の君は、双六を打つ時の言葉にも、「明石の尼君、明石の尼君」と言って、賽を祈ったのである。<BR>⏎ |
| version35 | 280 | <H4>第三章 朱雀院の物語 朱雀院の五十賀の計画</H4> | 255 | |
| version35 | 281 | <A NAME="in31">[第一段 女三の宮と紫の上]</A><BR> | 256 | |
| c1 | 283 | 対の上は、このように年月とともに何かにつけてまさって行かれるご声望に比べて、<BR>⏎ | 258 | 対の上は、このように年月とともに 何かにつけてまさって行かれるご声望に比べて、<BR>⏎ |
| c1 | 285 | と、ずっと思い続けていらっしゃるが、生意気なようにお思いになるだろうと遠慮されて、はっきりとはお申し上げになることができない。今上帝までが、御配慮を特別にして上げていらっしゃるので、疎略なと、お耳にあそばすことがあったらお気の毒なので、お通いになることがだんだんと同等になってなって行く。<BR>⏎ | 260 | と,ずっと思い続けていらっしゃるが、生意気なようにお思いになるだろうと遠慮されて、はっきりとはお申し上げになることができない。今上帝までが、御配慮を特別にして上げていらっしゃるので、疎略なと、お耳にあそばすことがあったらお気の毒なので、お通いになることがだんだんと同等になってなって行く。<BR>⏎ |
| d1 | 287 | <P>⏎ | ||
| version35 | 288 | <A NAME="in32">[第二段 花散里と玉鬘]</A><BR> | 262 | |
| d1 | 292 | <P>⏎ | ||
| version35 | 293 | <A NAME="in33">[第三段 朱雀院の五十賀の計画]</A><BR> | 266 | |
| c3 | 296-298 | と、お便り申し上げなさったので、大殿も、<BR>⏎ 「なるほど、仰せの通りだ。このような御内意が仮になくてさえ、こちらから進んで参上なさるべきことだ。なおさらのこと、このようにお待ちになっていらっしゃるとは、おいたわしいことだ」<BR>⏎ と、ご訪問なさるべきことをご準備なさる。<BR>⏎ | 269-271 | と,お便り申し上げなさったので、大殿も、<BR>⏎ 「なるほど,仰せの通りだ。このような御内意が仮になくてさえ、こちらから進んで参上なさるべきことだ。なおさらのこと,このようにお待ちになっていらっしゃるとは、おいたわしいことだ」<BR>⏎ と,ご訪問なさるべきことをご準備なさる。<BR>⏎ |
| c2 | 300-301 | と、ご思案なさる。<BR>⏎ 「来年ちょうどにお達しになる年に、若菜などを調進してお祝い申し上げようか」と、お考えになって、いろいろな御法服のこと、精進料理のご準備、何やかやと勝手が違うことなので、ご夫人方のお智恵も取り入れてお考えになる。<BR>⏎ | 273-274 | と,ご思案なさる。<BR>⏎ 「来年ちょうどにお達しになる年に、若菜などを調進してお祝い申し上げようか」と,お考えになって、いろいろな御法服のこと、精進料理のご準備、何やかやと勝手が違うことなので、ご夫人方のお智恵も取り入れて お考えになる。<BR>⏎ |
| d1 | 304 | <P>⏎ | ||
| version35 | 305 | <A NAME="in34">[第四段 女三の宮に琴を伝授]</A><BR> | 277 | |
| c2 | 308-309 | と、陰で申されなさったのを、帝におかせられてもお耳にあそばして、<BR>⏎ 「仰せの通り、何と言っても、格別のご上達でしょう。院の御前で、奥義をお弾きなさる機会に、参上して聞きたいものだ」<BR>⏎ | 280-281 | と,陰で申されなさったのを、帝におかせられてもお耳にあそばして、<BR>⏎ 「仰せの通り,何と言っても、格別のご上達でしょう。院の御前で、奥義をお弾きなさる機会に、参上して聞きたいものだ」<BR>⏎ |
| c1 | 312 | と、気の毒にお思いになって、ここのところご熱心にお教え申し上げなさる。<BR>⏎ | 284 | と,気の毒にお思いになって、ここのところご熱心にお教え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 315-316 | と言って、対の上にも、そのころはお暇申されて、朝から晩までお教え申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 287 | と言って,対の上にも、そのころはお暇申されて、朝から晩までお教え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version35 | 317 | <A NAME="in35">[第五段 明石女御、懐妊して里下り]</A><BR> | 288 | |
| d1 | 324 | <P>⏎ | ||
| version35 | 325 | <A NAME="in36">[第六段 朱雀院の御賀を二月十日過ぎと決定]</A><BR> | 295 | |
| c2 | 328-329 | きちんと伝授を受けたことは、ほとんどありませんが、どのようなことでも、何とかして知らないことがないようにと、子供の時に思ったので、世間にいる道々の師匠は全部、また高貴な家々の、しかるべき人の伝えをも残さず受けてみた中で、とても造詣が深くてこちらが恥じ入るように思われた人はいませんでした。<BR>⏎ その当時から、また最近の若い人々が、風流で気取り過ぎているので、全く浅薄になったのでしょう。琴の琴は、琴の琴で、他の楽器以上に全然稽古する人がなくなってしまったとか。あなたの御琴の音色ほどにさえも習い伝えている人は、ほとんどありますまい」<BR>⏎ | 298-299 | きちんと伝授を受けたことは、ほとんどありませんが、どのようなことでも、何とかして知らないことがないようにと、子供の時に思ったので、世間にいる道々の師匠は全部、また高貴な家々の、しかるべき人の伝えをも 残さず受けてみた中で、とても造詣が深くてこちらが恥じ入るように思われた人はいませんでした。<BR>⏎ その当時から、また最近の若い人々が、風流で気取り過ぎているので、全く浅薄になったのでしょう。琴の琴は,琴の琴で,他の楽器以上に 全然稽古する人がなくなってしまったとか。あなたの御琴の音色ほどにさえも習い伝えている人は、ほとんどありますまい」<BR>⏎ |
| c1 | 331 | 二十一、二歳ほどにおなりになりだが、まだとても幼げで、未熟な感じがして、ほっそりと弱々しく、ただかわいらしくばかりお見えになる。<BR>⏎ | 301 | 二十一,二歳ほどにおなりになりだが、まだとても幼げで、未熟な感じがして、ほっそりと弱々しく,ただかわいらしくばかりお見えになる。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 333-336 | と、何かの機会につけてお教え申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど、このようなご後見役がいなくては、まして幼そうにいらっしゃいますご様子、隠れようもなかろう」<BR>⏎ と、女房たちも拝見する。<BR>⏎ <P>⏎ | 303-305 | と,何かの機会につけてお教え申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど,このようなご後見役がいなくては、まして幼そうにいらっしゃいますご様子、隠れようもなかろう」<BR>⏎ と,女房たちも拝見する。<BR>⏎ |
| version35 | 337 | <H4>第四章 光る源氏の物語 六条院の女楽</H4> | 306 | |
| version35 | 338 | <A NAME="in41">[第一段 六条院の女楽]</A><BR> | 307 | |
| c1 | 341 | とおっしゃって、寝殿にお迎え申し上げなさる。<BR>⏎ | 310 | とおっしゃって,寝殿にお迎え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 343 | 女童は、器量の良い四人、赤色の表着に桜襲の汗衫、薄紫色の織紋様の袙、浮紋の上の袴に、紅の打ってある衣装で、容姿、態度などのすぐれている者たちだけをお召しになっていた。女御の御方にも、お部屋の飾り付けなど、常より一層に改めたころの明るさなので、それぞれ競争し合って、華美を尽くしている衣装、鮮やかなこと、またとない。<BR>⏎ | 312 | 女童は、器量の良い四人、赤色の表着に桜襲の汗衫、薄紫色の織紋様の袙、浮紋の上の袴に、紅の打ってある衣装で,容姿、態度などのすぐれている者たちだけをお召しになっていた。女御の御方にも、お部屋の飾り付けなど、常より一層に改めたころの明るさなので、それぞれ競争し合って、華美を尽くしている衣装、鮮やかなこと,またとない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 345-346 | 宮の御方でも、このようにお集まりになるとお聞きになって、女童の容姿だけは特別に整えさせていらっしゃった。青丹の表着に柳襲の汗衫、葡萄染の袙など、格別趣向を凝らして目新しい様子ではないが、全体の雰囲気が、立派で気品があることまでが、まことに並ぶものがない。<BR>⏎ <P>⏎ | 314 | 宮の御方でも、このようにお集まりになるとお聞きになって、女童の容姿だけは 特別に整えさせていらっしゃった。青丹の表着に柳襲の汗衫、葡萄染の袙など、格別趣向を凝らして目新しい様子ではないが、全体の雰囲気が、立派で気品があることまでが、まことに並ぶものがない。<BR>⏎ |
| version35 | 347 | <A NAME="in42">[第二段 孫君たちと夕霧を召す]</A><BR> | 315 | |
| c3 | 348-350 | 廂の中の御障子を取り外して、あちらとこちらと御几帳だけを境にして、中の間には、院がお座りになるための御座所を設けてあった。今日の拍子合わせの役には、子供を召そうとして、右の大殿の三郎君、尚侍の君の御腹の兄君、笙の笛、左大将の御太郎君、横笛と吹かせて、簀子に伺候させなさる。<BR>⏎ 内側には御褥をいくつも並べて、お琴を御方々に差し上げる。秘蔵の御琴類を、いくつもの立派な紺地の袋に入れてあるのを取り出して、明石の御方に琵琶、紫の上に和琴、女御の君に箏のお琴、宮には、このような仰々しい琴はまだお弾きになれないかと、心配なので、いつもの手馴れていらっしゃる琴を調絃して差し上げなさる。<BR>⏎ 「箏のお琴は、弛むというわけではないが、やはり、このように合奏する時の調子によって、琴柱の位置がずれるものだ。よくその点を考慮すべきだが、女性の力ではしっかりと張ることはできまい。やはり、大将を呼んだ方がよさそうだ。この笛吹く人たちも、まだ幼いようで、拍子を合わせるには頼りにならない」<BR>⏎ | 316-318 | 廂の中の御障子を取り外して、あちらとこちらと御几帳だけを境にして、中の間には、院がお座りになるための御座所を設けてあった。今日の拍子合わせの役には,子供を召そうとして、右の大殿の三郎君、尚侍の君の御腹の兄君、笙の笛、左大将の御太郎君、横笛と吹かせて、簀子に伺候させなさる。<BR>⏎ 内側には 御褥をいくつも並べて、お琴を御方々に差し上げる。秘蔵の御琴類を、いくつもの立派な紺地の袋に入れてあるのを取り出して、明石の御方に琵琶、紫の上に和琴、女御の君に箏のお琴、宮には、このような仰々しい琴はまだお弾きになれないかと、心配なので、いつもの手馴れていらっしゃる琴を 調絃して差し上げなさる。<BR>⏎ 「箏のお琴は、弛むというわけではないが、やはり,このように合奏する時の調子によって、琴柱の位置がずれるものだ。よくその点を考慮すべきだが、女性の力ではしっかりと張ることはできまい。やはり,大将を呼んだ方がよさそうだ。この笛吹く人たちも、まだ幼いようで、拍子を合わせるには頼りにならない」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 355-356 | と、何となく気がかりにお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 323 | と,何となく気がかりにお思いになる。<BR>⏎ |
| version35 | 357 | <A NAME="in43">[第三段 夕霧、箏を調絃す]</A><BR> | 324 | |
| c1 | 359 | 趣深い夕暮の空に、花は去年の古雪を思い出されて、枝も撓むほどに咲き乱れている。緩やかに吹く風に、何とも言えず素晴らしく匂っている御簾の内側の薫りも一緒に漂って、鴬を誘い出すしるべにできそうな、たいそう素晴らしい御殿近辺の匂いである。御簾の下から箏のお琴の裾、少しさし出して、<BR>⏎ | 326 | 趣深い夕暮の空に、花は去年の古雪を思い出されて、枝も撓むほどに咲き乱れている。緩やかに吹く風に、何とも言えず素晴らしく匂っている御簾の内側の薫りも一緒に漂って、鴬を誘い出すしるべにできそうな、たいそう素晴らしい御殿近辺の匂いである。御簾の下から 箏のお琴の裾、少しさし出して、<BR>⏎ |
| c1 | 362 | 「やはり、調子合わせの曲ぐらいは、一曲、興をそがない程度に」<BR>⏎ | 329 | 「やはり,調子合わせの曲ぐらいは、一曲、興をそがない程度に」<BR>⏎ |
| c2 | 364-365 | 「まったく、今日の演奏会のお相手に、仲間入りできるような腕前では、ございませんから」<BR>⏎ と、思わせぶりな態度をなさる。<BR>⏎ | 331-332 | 「まったく,今日の演奏会のお相手に、仲間入りできるような腕前では、ございませんから」<BR>⏎ と,思わせぶりな態度をなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 369 | <P>⏎ | ||
| version35 | 370 | <A NAME="in44">[第四段 女四人による合奏]</A><BR> | 336 | |
| cd2:1 | 374-375 | 琴の琴は、やはり未熟ではあるが、習っていらっしゃる最中なので、あぶなげなく、たいそう良く他の楽器の音色に響き合って、「随分と上手になったお琴の音色だな」と、大将はお聞きになる。拍子をとって唱歌なさる。院も、時々扇を打ち鳴らして、一緒に唱歌なさるお声、昔よりもはるかに美しく、少し声が太く堂々とした感じが加わって聞こえる。大将も、声はたいそう勝れていらっしゃる方で、夜が静かになって行くにつれて、何とも言いようのない優雅な夜の音楽会である。<BR>⏎ <P>⏎ | 340 | 琴の琴は、やはり未熟ではあるが、習っていらっしゃる最中なので、あぶなげなく、たいそう良く他の楽器の音色に響き合って、「随分と上手になったお琴の音色だな」と、大将はお聞きになる。拍子をとって唱歌なさる。院も、時々扇を打ち鳴らして、一緒に唱歌なさるお声、昔よりもはるかに美しく、少し声が太く 堂々とした感じが加わって聞こえる。大将も、声はたいそう勝れていらっしゃる方で、夜が静かになって行くにつれて、何とも言いようのない優雅な夜の音楽会である。<BR>⏎ |
| version35 | 376 | <A NAME="in45">[第五段 女四人を花に喩える]</A><BR> | 341 | |
| c1 | 381 | とは言え、とてもふっくらとしたころにおなりになって、ご気分もすぐれない時期でいらっしゃったので、お琴も押しやって、脇息に寄りかかっていらっしゃった。小柄なお身体でなよなよとしていらっしゃるが、ご脇息は並の大きさなので、無理に背伸びしている感じで、特別に小さく作って上げたいと見えるのが、とてもおかわいらしげにお見えになるのであった。<BR>⏎ | 346 | とは言え,とてもふっくらとしたころにおなりになって、ご気分もすぐれない時期でいらっしゃったので、お琴も押しやって、脇息に寄りかかっていらっしゃった。小柄なお身体でなよなよとしていらっしゃるが、ご脇息は並の大きさなので、無理に背伸びしている感じで、特別に小さく作って上げたいと見えるのが、とてもおかわいらしげにお見えになるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 384 | 柳の織物の細長に、萌黄であろうか、小袿を着て、羅の裳の目立たないのを付けて、特に卑下していたが、その様子、そうと思うせいもあって、立派で軽んじられない。<BR>⏎ | 349 | 柳の織物の細長に、萌黄であろうか、小袿を着て、羅の裳の目立たないのを付けて、特に卑下していたが、その様子,そうと思うせいもあって、立派で軽んじられない。<BR>⏎ |
| d1 | 386 | <P>⏎ | ||
| version35 | 387 | <A NAME="in46">[第六段 夕霧の感想]</A><BR> | 351 | |
| d1 | 391 | <P>⏎ | ||
| version35 | 392 | <H4>第五章 光る源氏の物語 源氏の音楽論</H4> | 355 | |
| version35 | 393 | <A NAME="in51">[第一段 音楽の春秋論]</A><BR> | 356 | |
| c1 | 395 | 「おぼつかない光だね、春の朧月夜は。秋の情趣は、やはりまた、このような楽器の音色に、虫の声を合わせたのが、何とも言えず、この上ない響きが深まるような気がするものだ」<BR>⏎ | 358 | 「おぼつかない光だね、春の朧月夜は。秋の情趣は,やはりまた、このような楽器の音色に、虫の声を合わせたのが、何とも言えず、この上ない響きが深まるような気がするものだ」<BR>⏎ |
| c1 | 399 | 女性は春をあわれぶと、昔の人が言っておりました。なるほど、そのようでございます。やさしく音色が調和する点では、春の夕暮が格別でございます」<BR>⏎ | 362 | 女性は春をあわれぶと、昔の人が言っておりました。なるほど,そのようでございます。やさしく音色が調和する点では、春の夕暮が格別でございます」<BR>⏎ |
| c1 | 401 | 「いや、この議論だがね。昔から皆が判断しかねた事を、末の世の劣った者には、決定しがたいことであろう。楽器の調べや、曲目などは、なるほど律を二の次にしているが、そのようなことであろう」<BR>⏎ | 364 | 「いや,この議論だがね。昔から皆が判断しかねた事を、末の世の劣った者には、決定しがたいことであろう。楽器の調べや、曲目などは、なるほど律を二の次にしているが、そのようなことであろう」<BR>⏎ |
| c1 | 404 | 何年もこのように引き籠もって過ごしていると、鑑賞力も少し変になったのだろうか、残念なことだ。妙に、人々の才能は、ちょっと習い覚えた芸事でも、見栄えがして他より勝れているところである。あの、御前の管弦の御遊などに、一流の名手として選ばれた人々の、誰それと比較したらどうであろうか」<BR>⏎ | 367 | 何年もこのように引き籠もって過ごしていると、鑑賞力も少し変になったのだろうか、残念なことだ。妙に、人々の才能は、ちょっと習い覚えた芸事でも、見栄えがして他より勝れているところである。あの,御前の管弦の御遊などに、一流の名手として選ばれた人々の、誰それと比較したらどうであろうか」<BR>⏎ |
| c1 | 407 | なるほど、又とない演奏者ですが、今夜お聞き致しました楽の音色は、皆同じように耳を驚かしました。やはり、このように特別のことでもない御催しと、かねがね思って油断しておりました気持ちが不意をつかれて騒ぐのでしょう。唱歌など、とてもお付き合いしにくうございました。<BR>⏎ | 370 | なるほど,又とない演奏者ですが、今夜お聞き致しました楽の音色は、皆同じように耳を驚かしました。やはり,このように特別のことでもない御催しと、かねがね思って油断しておりました気持ちが不意をつかれて騒ぐのでしょう。唱歌など、とてもお付き合いしにくうございました。<BR>⏎ |
| cd6:5 | 409-414 | と、お誉め申し上げなさる。<BR>⏎ 「いや、それほど大した弾き方ではないが、特別に立派なようにお誉めになるね」<BR>⏎ とおっしゃって、得意顔に微笑んでいらっしゃる。<BR>⏎ 「なるほど、悪くはない弟子たちである。琵琶は、わたしが口出しするようなことは何もないが、そうは言っても、どことなく違うはずだ。思いがけない所で初めて聞いた時、珍しい楽の音色だと思われたが、その時からは、又格段上達しているからな」<BR>⏎ と、強引に自分の手柄のように自慢なさるので、女房たちは、そっとつつきあう。<BR>⏎ <P>⏎ | 372-376 | と,お誉め申し上げなさる。<BR>⏎ 「いや,それほど大した弾き方ではないが、特別に立派なようにお誉めになるね」<BR>⏎ とおっしゃって,得意顔に微笑んでいらっしゃる。<BR>⏎ 「なるほど,悪くはない弟子たちである。琵琶は、わたしが口出しするようなことは何もないが、そうは言っても、どことなく違うはずだ。思いがけない所で初めて聞いた時、珍しい楽の音色だと思われたが、その時からは、又格段上達しているからな」<BR>⏎ と,強引に自分の手柄のように自慢なさるので、女房たちは、そっとつつきあう。<BR>⏎ |
| version35 | 415 | <A NAME="in52">[第二段 琴の論]</A><BR> | 377 | |
| c1 | 416 | 「何事も、その道その道の稽古をすれば、才能というもの、どれも際限ないとだんだんと思われてくるもので、自分の気持ちに満足する限度はなく、習得することは実に難しいことだが、いや、どうして、その奥義を究めた人が、今の世に少しもいないので、一部分だけでも無難に習得したような人は、その一面で満足してもよいのだが、琴の琴は、やはり面倒で、手の触れにくいものである。<BR>⏎ | 378 | 「何事も、その道その道の稽古をすれば、才能というもの、どれも際限ないとだんだんと思われてくるもので、自分の気持ちに満足する限度はなく、習得することは実に難しいことだが、いや,どうして、その奥義を究めた人が、今の世に少しもいないので、一部分だけでも無難に習得したような人は、その一面で満足してもよいのだが、琴の琴は、やはり面倒で、手の触れにくいものである。<BR>⏎ |
| c3 | 419-421 | このように限りない楽器で、その伝法どおりに習得する人がめったになく、末世だからであろうか、どこにその当時の一部分が伝わっているのだろうか。けれども、やはり、あの鬼神が耳を止め、傾聴した始まりの事のある琴だからであろうか、なまじ稽古して、思いどおりにならなかったという例があってから後は、これを弾く人、禍があるとか言う難癖をつけて、面倒なままに、今ではめったに弾き伝える人がいないとか。実に残念なことである。<BR>⏎ 琴の音以外では、どの絃楽器をもって音律を調える基準とできようか。なるほど、すべての事が衰えて行く様子は、たやすくなって行く世の中で、一人故国を離れて、志を立てて、唐土、高麗と、この世をさまよい歩き、親子と別れることは、世の中の変わり者となってしまうことだろう。<BR>⏎ どうして、それほどまでせずとも、やはりこの道をだいたい知る程度の一端だけでも、知らないでいられようか。一つの調べを弾きこなす事さえ、量り知れない難しいものであるという。いわんや、多くの調べ、面倒な曲目が多いので、熱中していた盛りには、この世にあらん限りの、わが国に伝わっている楽譜という楽譜のすべてを広く見比べて、しまいには、師匠とすべき人もなくなるまで、好んで習得したが、やはり昔の名人には、かないそうにない。まして、これから後というと、伝授すべき子孫がいないのが、何とも心寂しいことだ」<BR>⏎ | 381-383 | このように限りない楽器で、その伝法どおりに習得する人がめったになく、末世だからであろうか、どこにその当時の一部分が伝わっているのだろうか。けれども,やはり、あの鬼神が耳を止め、傾聴した始まりの事のある琴だからであろうか、なまじ稽古して、思いどおりにならなかったという例があってから後は、これを弾く人、禍があるとか言う難癖をつけて、面倒なままに、今ではめったに弾き伝える人がいないとか。実に残念なことである。<BR>⏎ 琴の音以外では、どの絃楽器をもって音律を調える基準とできようか。なるほど,すべての事が衰えて行く様子は、たやすくなって行く世の中で、一人故国を離れて、志を立てて、唐土、高麗と、この世をさまよい歩き、親子と別れることは、世の中の変わり者となってしまうことだろう。<BR>⏎ どうして,それほどまでせずとも、やはりこの道をだいたい知る程度の一端だけでも、知らないでいられようか。一つの調べを弾きこなす事さえ、量り知れない難しいものであるという。いわんや、多くの調べ、面倒な曲目が多いので、熱中していた盛りには、この世にあらん限りの、わが国に伝わっている楽譜という楽譜のすべてを広く見比べて、しまいには、師匠とすべき人もなくなるまで、好んで習得したが、やはり昔の名人には、かないそうにない。まして,これから後というと、伝授すべき子孫がいないのが、何とも心寂しいことだ」<BR>⏎ |
| d1 | 425 | <P>⏎ | ||
| version35 | 426 | <A NAME="in53">[第三段 源氏、葛城を謡う]</A><BR> | 387 | |
| c1 | 429 | 返り声に、すべて調子が変わって、律の合奏の数々が、親しみやすく華やかな中にも、琴の琴は、五箇の調べを、たくさんある弾き方の中で、注意して必ずお弾きにならなければならない五、六の発刺を、たいそう見事に澄んでお弾きになる。まったくおかしなところはなく、たいそうよく澄んで聞こえる。<BR>⏎ | 390 | 返り声に、すべて調子が変わって、律の合奏の数々が、親しみやすく華やかな中にも、琴の琴は、五箇の調べを、たくさんある弾き方の中で、注意して必ずお弾きにならなければならない五,六の発刺を、たいそう見事に澄んでお弾きになる。まったくおかしなところはなく、たいそうよく澄んで聞こえる。<BR>⏎ |
| d1 | 431 | <P>⏎ | ||
| version35 | 432 | <A NAME="in54">[第四段 女楽終了、禄を賜う]</A><BR> | 392 | |
| c1 | 435 | と言って、笙の笛を吹く君に、杯をお差しになって、お召物を脱いでお与えになる。横笛の君には、こちらから、織物の細長に、袴などの仰々しくないふうに、形ばかりにして、大将の君には、宮の御方から、杯を差し出して、宮のご装束を一領をお与え申し上げなさるのを、大殿は、<BR>⏎ | 395 | と言って,笙の笛を吹く君に、杯をお差しになって、お召物を脱いでお与えになる。横笛の君には、こちらから、織物の細長に、袴などの仰々しくないふうに、形ばかりにして、大将の君には、宮の御方から、杯を差し出して、宮のご装束を一領をお与え申し上げなさるのを、大殿は、<BR>⏎ |
| d1 | 438 | <P>⏎ | ||
| version35 | 439 | <A NAME="in55">[第五段 夕霧、わが妻を比較して思う]</A><BR> | 398 | |
| d1 | 442 | <P>⏎ | ||
| version35 | 443 | <H4>第六章 紫の上の物語 出家願望と発病</H4> | 401 | |
| version35 | 444 | <A NAME="in61">[第一段 源氏、紫の上と語る]</A><BR> | 402 | |
| c1 | 448 | 「初めの方は、あちらでちらっと聞いた時には、どんなものかしらと思いましたが、とてもこの上なく上手になりましたわ。どうして、あのように専心してお教え申し上げになったのですから」<BR>⏎ | 406 | 「初めの方は、あちらでちらっと聞いた時には、どんなものかしらと思いましたが、とてもこの上なく上手になりましたわ。どうして,あのように専心してお教え申し上げになったのですから」<BR>⏎ |
| c1 | 450 | 「そうなのだ。手を取り取りの、たいした師匠なんだよ。他のどなたにも、厄介で、面倒なことなので、お教え申さないが、院にも帝にも、琴の琴はいくらなんでもお教え申しているだろうとおっしゃると、耳にするのがおいたわしくて、そうは言っても、せめてその程度のことだけはと、このように特別なご後見にとお預けになった甲斐にはと、思い立ってね」<BR>⏎ | 408 | 「そうなのだ。手を取り取りの、たいした師匠なんだよ。他のどなたにも、厄介で,面倒なことなので、お教え申さないが、院にも帝にも、琴の琴はいくらなんでもお教え申しているだろうとおっしゃると、耳にするのがおいたわしくて、そうは言っても、せめてその程度のことだけはと、このように特別なご後見にとお預けになった甲斐にはと、思い立ってね」<BR>⏎ |
| c1 | 452 | 「昔、まだ幼かったころ、お世話したものだが、当時は暇がなくて、ゆっくりと特別にお教え申し上げることなどもなく、近頃になっても、何となく次から次へと、とり紛れては日を送り、聞いて上げなかったお琴の音色が、素晴らしい出来映えだったのも、晴れがましいことで、大将が、たいそう耳を傾け感嘆していた様子も、思いどおりで嬉しいことであった」<BR>⏎ | 410 | 「昔,まだ幼かったころ、お世話したものだが、当時は暇がなくて、ゆっくりと特別にお教え申し上げることなどもなく、近頃になっても、何となく次から次へと、とり紛れては日を送り、聞いて上げなかったお琴の音色が、素晴らしい出来映えだったのも、晴れがましいことで、大将が、たいそう耳を傾け感嘆していた様子も、思いどおりで嬉しいことであった」<BR>⏎ |
| d1 | 454 | <P>⏎ | ||
| version35 | 455 | <A NAME="in62">[第二段 紫の上、三十七歳の厄年]</A><BR> | 412 | |
| c1 | 458 | 「しかるべきご祈祷など、いつもの年よりも特別にして、今年はご用心なさい。何かと忙しくばかりあって、考えつかないことがあるだろうから、やはり、あれこれとお思いめぐらしになって、大がかりな仏事を催しなさるなら、わたしの方でさせていただこう。僧都が亡くなってしまわれたことが、たいそう残念なことだ。一通りのお願いをするのにつけても、たいそう立派な方であったのに」<BR>⏎ | 415 | 「しかるべきご祈祷など、いつもの年よりも特別にして、今年はご用心なさい。何かと忙しくばかりあって、考えつかないことがあるだろうから、やはり,あれこれとお思いめぐらしになって、大がかりな仏事を催しなさるなら、わたしの方でさせていただこう。僧都が亡くなってしまわれたことが、たいそう残念なことだ。一通りのお願いをするのにつけても、たいそう立派な方であったのに」<BR>⏎ |
| d1 | 460 | <P>⏎ | ||
| version35 | 461 | <A NAME="in63">[第三段 源氏、半生を語る]</A><BR> | 417 | |
| c2 | 462-463 | 「わたしは、幼い時から、人とは違ったふうに、大層な育ち方をして来て、現在の世の評判や有様、過去にも類例が少ないものであった。けれども、また一方で、大変に悲しいめに遭ったことでも、人並み以上であったことです。<BR>⏎ まず第一に、愛する方々に次々と先立たれ、とり残された晩年になっても、意に満たず悲しいと思う事が多く、不本意にも感心しないことにかかわったにつけても、妙に物思いが絶えず、心に満足のゆかず思われる事が身につきまとって過ごして来てしまったので、その代わりとででもいうのか、思っていたわりに、今まで生き永らえているのだろうと、思わずにはいられません。<BR>⏎ | 418-419 | 「わたしは、幼い時から、人とは違ったふうに、大層な育ち方をして来て、現在の世の評判や有様、過去にも類例が少ないものであった。けれども,また一方で、大変に悲しいめに遭ったことでも、人並み以上であったことです。<BR>⏎ まず第一に,愛する方々に次々と先立たれ、とり残された晩年になっても、意に満たず悲しいと思う事が多く、不本意にも感心しないことにかかわったにつけても、妙に物思いが絶えず、心に満足のゆかず思われる事が身につきまとって過ごして来てしまったので、その代わりとででもいうのか、思っていたわりに、今まで生き永らえているのだろうと、思わずにはいられません。<BR>⏎ |
| c1 | 469 | と言って、多く言い残したような様子は、奥ゆかしそうである。<BR>⏎ | 425 | と言って,多く言い残したような様子は、奥ゆかしそうである。<BR>⏎ |
| c1 | 472 | 「それは、とんでもないことだ。そうして、離れておしまいになった後に残ったわたしは、何の生き甲斐があろう。ただこのように何ということもなく過ぎて行く月日だが、朝に晩に顔を合わせる嬉しさだけで、これ以上の事はないと思われるのです。やはりあなたを人とは違って思う気持ちがどれほど深いものであるか最後まで見届けてください」<BR>⏎ | 428 | 「それは,とんでもないことだ。そうして,離れておしまいになった後に残ったわたしは、何の生き甲斐があろう。ただこのように何ということもなく過ぎて行く月日だが、朝に晩に顔を合わせる嬉しさだけで、これ以上の事はないと思われるのです。やはりあなたを人とは違って思う気持ちがどれほど深いものであるか最後まで見届けてください」<BR>⏎ |
| d1 | 474 | <P>⏎ | ||
| version35 | 475 | <A NAME="in64">[第四段 源氏、関わった女方を語る]</A><BR> | 430 | |
| c1 | 478 | しかしまた、わたし一人の罪ばかりではなかったのだと、自分の胸一つに思い出される。きちんとして重々しくて、どの点が不満だと思われることもなかった。ただ、あまりにくつろいだところがなく、几帳面すぎて、少しできすぎた人であったと言うべきであろうかと、離れて思うには信頼が置けて、一緒に生活するには面倒な人柄であった。<BR>⏎ | 433 | しかしまた,わたし一人の罪ばかりではなかったのだと、自分の胸一つに思い出される。きちんとして重々しくて、どの点が不満だと思われることもなかった。ただ,あまりにくつろいだところがなく、几帳面すぎて、少しできすぎた人であったと言うべきであろうかと、離れて思うには信頼が置けて、一緒に生活するには面倒な人柄であった。<BR>⏎ |
| c1 | 482 | と、亡くなったご夫人方について少しずつおっしゃり出して、<BR>⏎ | 437 | と,亡くなったご夫人方について 少しずつおっしゃり出して、<BR>⏎ |
| c1 | 485 | 「他の方は会ったことがないので知りませんが、この方は、はっきりとではないが、自然と様子を見る機会も何度かあったので、とても馴れ馴れしくできず、気の置ける嗜みがはっきりと分かりますにつけても、とても途方もない単純なわたしを、どのように御覧になっているだろうと、気の引けるところですが、女御は、自然と大目に見て下さるだろうとばかり思っています」<BR>⏎ | 440 | 「他の方は会ったことがないので知りませんが、この方は,はっきりとではないが、自然と様子を見る機会も何度かあったので、とても馴れ馴れしくできず、気の置ける嗜みがはっきりと分かりますにつけても、とても途方もない単純なわたしを、どのように御覧になっているだろうと、気の引けるところですが、女御は、自然と大目に見て下さるだろうとばかり思っています」<BR>⏎ |
| c1 | 489 | と、ほほ笑んで申し上げなさる。<BR>⏎ | 444 | と,ほほ笑んで申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 491-494 | と言って、夕方お渡りになった。自分に気兼ねする人があろうかともお考えにもならず、とてもたいそう若々しくて、一途に御琴に熱中していらっしゃる。<BR>⏎ 「もう、お暇を下さって休ませていただきたいものです。師匠は満足させてこそです。とても辛かった日頃の成果があって、安心出来るほどお上手になりになりました」<BR>⏎ と言って、お琴類は押しやって、お寝みになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 446-448 | と言って,夕方お渡りになった。自分に気兼ねする人があろうかともお考えにもならず、とてもたいそう若々しくて、一途に御琴に熱中していらっしゃる。<BR>⏎ 「もう,お暇を下さって休ませていただきたいものです。師匠は満足させてこそです。とても辛かった日頃の成果があって、安心出来るほどお上手になりになりました」<BR>⏎ と言って,お琴類は押しやって、お寝みになった。<BR>⏎ |
| version35 | 495 | <A NAME="in65">[第五段 紫の上、発病す]</A><BR> | 449 | |
| c1 | 497 | 「このように、世間で例に引き集めた昔語りにも、不誠実な男、色好み、二心ある男に関係した女、このようなことを語り集めた中にも、結局は頼る男に落ち着くようだ。どうしたことか、浮いたまま過してきたことだわ。確かにおっしゃったように、人並み勝れた運勢であったわが身の上だが、世間の人が我慢できず満足ゆかないこととする悩みが身にまといついて終わろうとするのだろうか。つまらない事よ」<BR>⏎ | 451 | 「このように,世間で例に引き集めた昔語りにも、不誠実な男、色好み、二心ある男に関係した女、このようなことを語り集めた中にも、結局は頼る男に落ち着くようだ。どうしたことか、浮いたまま過してきたことだわ。確かにおっしゃったように、人並み勝れた運勢であったわが身の上だが、世間の人が我慢できず満足ゆかないこととする悩みが身にまといついて終わろうとするのだろうか。つまらない事よ」<BR>⏎ |
| d1 | 503 | <P>⏎ | ||
| version35 | 504 | <A NAME="in66">[第六段 朱雀院の五十賀、延期される]</A><BR> | 457 | |
| d1 | 513 | <P>⏎ | ||
| version35 | 514 | <A NAME="in67">[第七段 紫の上、二条院に転地療養]</A><BR> | 466 | |
| c1 | 519 | とだけお恨み申し上げなさるが、寿命が尽きてお別れなさるよりも、目の前でご自分の意志で出家なさるご様子を見ては、まったく少しの間でも耐えられず、惜しく悲しい気がしないではいられないので、<BR>⏎ | 471 | とだけお恨み申し上げなさるが、寿命が尽きてお別れなさるよりも、目の前で ご自分の意志で出家なさるご様子を見ては、まったく少しの間でも耐えられず、惜しく悲しい気がしないではいられないので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 521-522 | とばかり、惜しみ申し上げなさるが、本当にとても頼りなさそうに弱々しく、もうこれきりかとお見えになる時々が多かったが、どのようにしようとお迷いになっては、宮のお部屋には、ちょっとの間もお出掛けにならない。御琴類にも興が乗らず、みなしまいこまれて、院の内の人々は、すっかりみな二条院にお集まりになって、こちらの院では、火を消したようになって、ただ女君たちばかりがおいでになって、お一方の御威勢であったかと見える。<BR>⏎ <P>⏎ | 473 | とばかり,惜しみ申し上げなさるが、本当にとても頼りなさそうに弱々しく、もうこれきりかとお見えになる時々が多かったが、どのようにしようとお迷いになっては、宮のお部屋には、ちょっとの間もお出掛けにならない。御琴類にも興が乗らず、みなしまいこまれて、院の内の人々は、すっかりみな二条院にお集まりになって、こちらの院では、火を消したようになって、ただ女君たちばかりがおいでになって、お一方の御威勢であったかと見える。<BR>⏎ |
| version35 | 523 | <A NAME="in68">[第八段 明石女御、看護のため里下り]</A><BR> | 474 | |
| c1 | 526 | と、苦しいご気分ながらも申し上げなさる。若宮が、とてもかわいらしくていらっしゃるのを拝見なさっても、ひどくお泣きになって、<BR>⏎ | 477 | と,苦しいご気分ながらも申し上げなさる。若宮が、とてもかわいらしくていらっしゃるのを拝見なさっても、ひどくお泣きになって、<BR>⏎ |
| c2 | 530-531 | などと、仏神にも、この方のご性質が又とないほど立派で、罪障の軽い事を詳しくご説明申し上げなさる。<BR>⏎ 御修法の阿闍梨たち、夜居などでも、お側近く伺候する高僧たちは皆、たいそうこんなにまで途方に暮れていらっしゃるご様子を聞くと、何ともおいたわしいので、心を奮い起こしてお祈り申し上げる。少しよろしいようにお見えになる日が五、六日続いては、再び重くお悩みになること、いつまでということなく続いて、月日をお過ごしになるので、「やはり、どのようにおなりになるのだろうか。治らないご病気なのかしら」と、お悲しみになる。<BR>⏎ | 481-482 | などと,仏神にも、この方のご性質が又とないほど立派で、罪障の軽い事を詳しくご説明申し上げなさる。<BR>⏎ 御修法の阿闍梨たち、夜居などでも、お側近く伺候する高僧たちは皆、たいそうこんなにまで途方に暮れていらっしゃるご様子を聞くと、何ともおいたわしいので、心を奮い起こしてお祈り申し上げる。少しよろしいようにお見えになる日が五,六日続いては、再び重くお悩みになること、いつまでということなく続いて、月日をお過ごしになるので、「やはり,どのようにおなりになるのだろうか。治らないご病気なのかしら」と、お悲しみになる。<BR>⏎ |
| d1 | 533 | <P>⏎ | ||
| version35 | 534 | <H4>第七章 柏木の物語 女三の宮密通の物語</H4> | 484 | |
| version35 | 535 | <A NAME="in71">[第一段 柏木、女二の宮と結婚]</A><BR> | 485 | |
| cd2:1 | 538-539 | 今なお、あの内心の思いを忘れることができず、小侍従という相談相手は、宮の御侍従の乳母の娘だった。その乳母の姉があの衛門督の君の御乳母だったので、早くから親しくご様子を伺っていて、まだ宮が幼くいらっしゃった時から、とてもお美しくいらっしゃるとか、帝が大事にしていらっしゃるご様子など、お聞き申していて、このような思いもついたのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 488 | 今なお,あの内心の思いを忘れることができず、小侍従という相談相手は、宮の御侍従の乳母の娘だった。その乳母の姉が あの衛門督の君の御乳母だったので、早くから親しくご様子を伺っていて、まだ宮が幼くいらっしゃった時から、とてもお美しくいらっしゃるとか、帝が大事にしていらっしゃるご様子など、お聞き申していて、このような思いもついたのであった。<BR>⏎ |
| version35 | 540 | <A NAME="in72">[第二段 柏木、小侍従を語らう]</A><BR> | 489 | |
| c1 | 541 | こうして、院も離れていらっしゃる時、人目が少なくひっそりした時を推量して、小侍従を度々迎えては、懸命に相談をもちかける。<BR>⏎ | 490 | こうして,院も離れていらっしゃる時、人目が少なくひっそりした時を推量して、小侍従を度々迎えては、懸命に相談をもちかける。<BR>⏎ |
| c5 | 544-548 | 『同じ降嫁させるなら、臣下で安心な後見を決めるには、誠実にお仕えするような人を決めるべきであった』と、仰せになって、『女二の宮が、かえって安心で、将来長く幸福にお暮らしなさるようだ』<BR>⏎ と、仰せになったのを伝え聞いたが。お気の毒にも、残念にも、どんなに思い悩んだことだろうか。<BR>⏎ なるほど、同じご姉妹を頂戴したが、それはそれで別のことに思えるのだ」<BR>⏎ と、思わず溜息をお漏らしになるので、小侍従は、<BR>⏎ 「まあ、何と、大それたことを。その方を別事とお置き申し上げなさって、さらにまた、なんと途方もないお考えをお持ちなのでしょう」<BR>⏎ | 493-497 | 『同じ降嫁させるなら、臣下で安心な後見を決めるには、誠実にお仕えするような人を 決めるべきであった』と、仰せになって、『女二の宮が、かえって安心で、将来長く幸福にお暮らしなさるようだ』<BR>⏎ と,仰せになったのを伝え聞いたが。お気の毒にも、残念にも、どんなに思い悩んだことだろうか。<BR>⏎ なるほど,同じご姉妹を頂戴したが、それはそれで別のことに思えるのだ」<BR>⏎ と,思わず溜息をお漏らしになるので、小侍従は、<BR>⏎ 「まあ,何と、大それたことを。その方を別事とお置き申し上げなさって、さらにまた,なんと途方もないお考えをお持ちなのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 550 | 「そうではあった。宮に恐れ多くも求婚申し上げたことは、院にも帝にもお耳にあそばしていらっしゃるのだ。どうして、そうとして相応しからぬことがあろうと、何かの機会に仰せになったのだ。いやなに、ただ、もう少しご慈悲を掛けて下さったならば」<BR>⏎ | 499 | 「そうではあった。宮に恐れ多くも求婚申し上げたことは、院にも帝にもお耳にあそばしていらっしゃるのだ。どうして,そうとして相応しからぬことがあろうと、何かの機会に仰せになったのだ。いやなに、ただ,もう少しご慈悲を掛けて下さったならば」<BR>⏎ |
| c1 | 554 | 「今はもうよい。過ぎたことは申し上げまい。ただ、このようにめったにない人目のない機会に、お側近くで、わたしの心の中に思っていることを、少しでも申し上げられるようにとり計らって下さい。大それた考えは、まったく、まあ見て下さい、たいそう恐ろしいので、思ってもおりません」<BR>⏎ | 503 | 「今はもうよい。過ぎたことは申し上げまい。ただ,このようにめったにない人目のない機会に、お側近くで、わたしの心の中に思っていることを、少しでも申し上げられるようにとり計らって下さい。大それた考えは、まったく,まあ見て下さい、たいそう恐ろしいので、思ってもおりません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 557-558 | と、口を尖らせる。<BR>⏎ <P>⏎ | 506 | と,口を尖らせる。<BR>⏎ |
| version35 | 559 | <A NAME="in73">[第三段 小侍従、手引きを承諾]</A><BR> | 507 | |
| c1 | 560 | 「まあ、何と、聞きにくいことを。あまり大げさな物の言い方をなさるというものだ。男女の縁は分からないものだから、女御、后と申しても、事情がって、情を交わすことがないわけではあるまい。まして、その宮のご様子よ。思えば、たいそう又となく立派であるが、内情は面白くないことが多くあることだろう。<BR>⏎ | 508 | 「まあ,何と、聞きにくいことを。あまり大げさな物の言い方をなさるというものだ。男女の縁は分からないものだから、女御、后と申しても、事情がって、情を交わすことがないわけではあるまい。まして,その宮のご様子よ。思えば、たいそう又となく立派であるが、内情は面白くないことが多くあることだろう。<BR>⏎ |
| c2 | 563-564 | 「他の人から負かされていらっしゃるご境遇だからと言って、今さら別の結構な縁組をなさるというわけにも行きますまい。このご結婚は世間一般の結婚ではございませんでしょう。ただ、ご後見がなくて頼りなくお暮らしになるよりは、親代わりになって頂こう、というお譲り申し上げなさったご結婚なので、お互いにそのように思い合っていらっしゃるようです。つまらない悪口をおっしゃるものです」<BR>⏎ と、しまいには腹を立てるが、いろいろと言いなだめて、<BR>⏎ | 511-512 | 「他の人から負かされていらっしゃるご境遇だからと言って、今さら別の結構な縁組をなさるというわけにも行きますまい。このご結婚は世間一般の結婚ではございませんでしょう。ただ,ご後見がなくて頼りなくお暮らしになるよりは、親代わりになって頂こう、というお譲り申し上げなさったご結婚なので、お互いにそのように思い合っていらっしゃるようです。つまらない悪口をおっしゃるものです」<BR>⏎ と,しまいには腹を立てるが、いろいろと言いなだめて、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 566-569 | と、大変な誓言を繰り返しおっしゃるので、暫くの間は、まったくとんでもないことだと断っていたが、思慮の足りない若い女は、男がこのように命に代えてたいそう熱心にお頼みになるので、断り切れずに、<BR>⏎ 「もし、適当な機会があったら、手立ていたしましょう。院がいらっしゃらない夜は、御帳台の回りに女房が大勢仕えていて、お寝みになる所には、しかるべき人が必ず伺候していらっしゃるので、どのような機会に、隙を見つけたらよいのだろう」<BR>⏎ と、困りながら帰参した。<BR>⏎ <P>⏎ | 514-516 | と,大変な誓言を繰り返しおっしゃるので、暫くの間は、まったくとんでもないことだと断っていたが、思慮の足りない若い女は、男がこのように命に代えてたいそう熱心にお頼みになるので、断り切れずに、<BR>⏎ 「もし,適当な機会があったら、手立ていたしましょう。院がいらっしゃらない夜は、御帳台の回りに女房が大勢仕えていて、お寝みになる所には、しかるべき人が必ず伺候していらっしゃるので、どのような機会に、隙を見つけたらよいのだろう」<BR>⏎ と,困りながら帰参した。<BR>⏎ |
| version35 | 570 | <A NAME="in74">[第四段 小侍従、柏木を導き入れる]</A><BR> | 517 | |
| c2 | 571-572 | どうなのか、どうなのかと、毎日催促され困って、適当な機会を見つけ出して、手紙をよこした。喜びながら、ひどく粗末で目立たない姿でいらっしゃった。<BR>⏎ 本当に、自分ながらまことに善くないことなので、お側近くに参って、かえって煩悶が勝ることまでは、考えもしないで、ただ、<BR>⏎ | 518-519 | どうなのか,どうなのかと、毎日催促され困って、適当な機会を見つけ出して、手紙をよこした。喜びながら、ひどく粗末で目立たない姿でいらっしゃった。<BR>⏎ 本当に、自分ながらまことに善くないことなので、お側近くに参って、かえって煩悶が勝ることまでは、考えもしないで、ただ,<BR>⏎ |
| d1 | 577 | <P>⏎ | ||
| version35 | 578 | <A NAME="in75">[第五段 柏木、女三の宮をかき抱く]</A><BR> | 524 | |
| c1 | 582 | 昔から身分不相応の思いがございましたが、一途に秘めたままにしておきましたら、心の中に朽ちて過ぎてしまったでしょうが、かえって、少し願いを申し上げさせていただいたところ、院におかせられても御承知おきあそばされましたが、まったく問題にならないように仰せにはならなかったので、望みを繋ぎ始めまして、身分が一段劣っていたがために、誰よりも深くお慕いしていた気持ちを無駄なものにしてしまったことと、残念に思うようになりました気持ちが、すべて今では取り返しのつかないことと思い返しはいたしますが、どれほど深く取りついてしまったことなのか、年月と共に、残念にも、辛いとも、気味悪くも、悲しくも、いろいろと深く思いがつのることに、堪えかねて、このように大それた振る舞いをお目にかけてしまいましたのも、一方では、まことに思慮浅く恥ずかしいので、これ以上大それた罪を重ねようという気持ちはまったくございません」<BR>⏎ | 528 | 昔から身分不相応の思いがございましたが、一途に秘めたままにしておきましたら、心の中に朽ちて過ぎてしまったでしょうが、かえって、少し願いを申し上げさせていただいたところ、院におかせられても御承知おきあそばされましたが、まったく問題にならないように仰せにはならなかったので、望みを繋ぎ始めまして、身分が一段劣っていたがために、誰よりも深くお慕いしていた気持ちを無駄なものにしてしまったことと、残念に思うようになりました気持ちが、すべて今では取り返しのつかないことと思い返しはいたしますが、どれほど深く取りついてしまったことなのか、年月と共に、残念にも、辛いとも、気味悪くも、悲しくも、いろいろと深く思いがつのることに、堪えかねて、このように大それた振る舞いをお目にかけてしまいましたのも、一方では,まことに思慮浅く恥ずかしいので、これ以上大それた罪を重ねようという気持ちはまったくございません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 585-586 | と、さまざまに申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 531 | と,さまざまに申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version35 | 587 | <A NAME="in76">[第六段 柏木、猫の夢を見る]</A><BR> | 532 | |
| c1 | 590 | ただちょっとまどろんだとも思われない夢の中に、あの手なずけた猫がとてもかわいらしく鳴いてやって来たのを、この宮にお返し申し上げようとして、自分が連れて来たように思われたが、どうしてお返し申し上げようとしたのだろうと思っているうちに、目が覚めて、どうしてあんな夢を見たのだろう、と思う。<BR>⏎ | 535 | ただちょっとまどろんだとも思われない夢の中に、あの手なずけた猫が とてもかわいらしく鳴いてやって来たのを、この宮にお返し申し上げようとして、自分が連れて来たように思われたが、どうしてお返し申し上げようとしたのだろうと思っているうちに、目が覚めて、どうしてあんな夢を見たのだろう、と思う。<BR>⏎ |
| c1 | 592 | 「やはり、このように逃れられないご宿縁が、浅くなかったのだとお思い下さい。自分ながらも、分別心をなくしたように、思われます」<BR>⏎ | 537 | 「やはり,このように逃れられないご宿縁が、浅くなかったのだとお思い下さい。自分ながらも、分別心をなくしたように、思われます」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 594-596 | 「なるほど、そうであったことなのか」<BR>⏎ と、残念に、前世からの宿縁が辛い御身の上なのであった。「院にも、今はどうしてお目にかかることができようか」と、悲しく心細くて、まるで子供のようにお泣きになるのを、まことに恐れ多く、いとしく拝見して、相手のお涙までを拭う袖は、ますます露けさがまさるばかりである。<BR>⏎ <P>⏎ | 539-540 | 「なるほど,そうであったことなのか」<BR>⏎ と,残念に、前世からの宿縁が辛い御身の上なのであった。「院にも、今はどうしてお目にかかることができようか」と、悲しく心細くて、まるで子供のようにお泣きになるのを、まことに恐れ多く、いとしく拝見して、相手のお涙までを拭う袖は、ますます露けさがまさるばかりである。<BR>⏎ |
| version35 | 597 | <A NAME="in77">[第七段 きぬぎぬの別れ]</A><BR> | 541 | |
| c1 | 600 | と、さまざまに申し上げて困らせるのも、煩わしく情けなくて、何もまったくおしゃれないので、<BR>⏎ | 544 | と,さまざまに申し上げて困らせるのも、煩わしく情けなくて、何もまったくおしゃれないので、<BR>⏎ |
| c1 | 602 | と、まことに辛いとお思い申し上げて、<BR>⏎ | 546 | と,まことに辛いとお思い申し上げて、<BR>⏎ |
| c1 | 604 | と言って、抱いて外へ出るので、しまいにはどうするのだろうと、呆然としていらっしゃる。<BR>⏎ | 548 | と言って,抱いて外へ出るので、しまいにはどうするのだろうと、呆然としていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c2 | 606-607 | 「このように、まことに辛い無情なお仕打ちなので、正気も消え失せてしまいました。少しでも気持ちを落ち着けるようにとお思いならば、せめて一言かわいそうにとおっしゃって下さい」<BR>⏎ と、脅して申し上げると、とんでもないとお思いになって、何かおっしゃろうとなさったが、震えるばかりで、ほんとうに子供っぽいご様子である。<BR>⏎ | 550-551 | 「このように,まことに辛い無情なお仕打ちなので、正気も消え失せてしまいました。少しでも気持ちを落ち着けるようにとお思いならば、せめて一言かわいそうにとおっしゃって下さい」<BR>⏎ と,脅して申し上げると、とんでもないとお思いになって、何かおっしゃろうとなさったが、震えるばかりで、ほんとうに子供っぽいご様子である。<BR>⏎ |
| cd8:5 | 610-617 | と言って、気ぜわしく出て行く明けぐれ、秋の空よりも物思いをさせるのである。<BR>⏎ 「起きて帰って行く先も分からない明けぐれに<BR>⏎ どこから露がかかって袖が濡れるのでしょう」<BR>⏎ と、袖を引き出して訴え申し上げるので、帰って行くのだろうと、少しほっとなさって、<BR>⏎ 「明けぐれの空にこの身は消えてしまいたいものです<BR>⏎ 夢であったと思って済まされるように」<BR>⏎ と、力弱くおっしゃる声が、若々しくかわいらしいのを、聞きも果てないようにして出てしまった魂は、ほんとうに身を離れて後に残った気がする。<BR>⏎ <P>⏎ | 554-558 | と言って,気ぜわしく出て行く明けぐれ、秋の空よりも物思いをさせるのである。<BR>⏎ 「起きて帰って行く先も分からない明けぐれに<BR> どこから露がかかって袖が濡れるのでしょう」<BR>⏎ と,袖を引き出して訴え申し上げるので、帰って行くのだろうと、少しほっとなさって、<BR>⏎ 「明けぐれの空にこの身は消えてしまいたいものです<BR> 夢であったと思って済まされるように」<BR>⏎ と,力弱くおっしゃる声が、若々しくかわいらしいのを、聞きも果てないようにして出てしまった魂は、ほんとうに身を離れて後に残った気がする。<BR>⏎ |
| version35 | 618 | <A NAME="in78">[第八段 柏木と女三の宮の罪の恐れ]</A><BR> | 559 | |
| c3 | 621-623 | と、恐ろしく何となく身もすくむ思いがして、外歩きなどもなさらない。女のお身の上は言うまでもなく、自分を考えてもまことにけしからぬ事という中でも、恐ろしく思われるので、気ままに出歩くことはとてもできない。<BR>⏎ 帝のお妃との間に間違いを起こして、それが評判になったような時に、これほど苦しい思いをするなら、そのために死ぬことも、苦しくないことだろう。それほど、ひどい罪に当たらなくても、この院に睨まれ申すことは、まことに恐ろしく目も合わせられない気がする。<BR>⏎ この上ない高貴な身分の女性とは申し上げても、少し夫婦馴れした所もあって、表面は優雅でおっとりしていても、心中はそうでもない所があるのは、あれやこれやの男の言葉に靡いて、情けをお交わしなさる例もあるのだが、この方は深い思慮もおありでないが、ひたすら恐がりなさるご性質なので、もう今にも誰かが見つけたり聞きつけたりしたかのように、目も上げられず、後ろめたくお思いなさるので、明るい所へいざり出なさることさえおできになれない。まことに情けないわが身の上だと、自分自身お分りになるのであろう。<BR>⏎ | 562-564 | と,恐ろしく何となく身もすくむ思いがして、外歩きなどもなさらない。女のお身の上は言うまでもなく、自分を考えてもまことにけしからぬ事という中でも、恐ろしく思われるので、気ままに出歩くことはとてもできない。<BR>⏎ 帝のお妃との間に間違いを起こして、それが評判になったような時に、これほど苦しい思いをするなら、そのために死ぬことも、苦しくないことだろう。それほど,ひどい罪に当たらなくても、この院に睨まれ申すことは、まことに恐ろしく目も合わせられない気がする。<BR>⏎ この上ない高貴な身分の女性とは申し上げても、少し夫婦馴れした所もあって、表面は優雅でおっとりしていても、心中はそうでもない所があるのは、あれやこれやの男の言葉に靡いて、情けをお交わしなさる例もあるのだが、この方は深い思慮もおありでないが、ひたすら恐がりなさるご性質なので、もう今にも 誰かが見つけたり聞きつけたりしたかのように、目も上げられず、後ろめたくお思いなさるので、明るい所へいざり出なさることさえおできになれない。まことに情けないわが身の上だと、自分自身お分りになるのであろう。<BR>⏎ |
| c1 | 626 | 「もう最期かも知れません。今になって薄情な態度だと思われまいと思いましてね。幼いころからお世話して来て、放って置けないので、このように幾月も何もかもうち忘れて看病して来たのですよ。いつか、この時期が過ぎたら、きっとお見直し頂けるでしょう」<BR>⏎ | 567 | 「もう最期かも知れません。今になって薄情な態度だと思われまいと思いましてね。幼いころからお世話して来て、放って置けないので、このように幾月も何もかもうち忘れて看病して来たのですよ。いつか,この時期が過ぎたら、きっとお見直し頂けるでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 628 | <P>⏎ | ||
| version35 | 629 | <A NAME="in79">[第九段 柏木と女二の宮の夫婦仲]</A><BR> | 569 | |
| c1 | 630 | 督の君は、宮以上に、かえって苦しさがまさって、寝ても起きても明けても暮れても日を暮らしかねていらっしゃる。祭の日などは、見物に先を争って行く公達が連れ立って誘うが、悩ましそうにして物思いに沈んで横になっていらっしゃった。<BR>⏎ | 570 | 督の君は、宮以上に,かえって苦しさがまさって、寝ても起きても明けても暮れても日を暮らしかねていらっしゃる。祭の日などは、見物に先を争って行く公達が連れ立って誘うが、悩ましそうにして 物思いに沈んで横になっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 632-633 | 「悔しい事に罪を犯してしまったことよ<BR>⏎ 神が許した仲ではないのに」<BR>⏎ | 572 | 「悔しい事に罪を犯してしまったことよ<BR> 神が許した仲ではないのに」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 637-639 | 女房などは、見物に皆出かけて、人少なでのんびりしているので、物思いに耽って、箏の琴をやさしく弾くともなしに弾いていらっしゃるご様子も、内親王だけあって高貴で優雅であるが、「同じ皇女を頂くなら、もう一段及ばなかった運命よ」と、今なお思われる。<BR>⏎ 「劣った落葉のような方をどうして娶ったのだろう<BR>⏎ 同じ院のご姉妹ではあるが」<BR>⏎ | 576-577 | 女房などは、見物に皆出かけて、人少なでのんびりしているので、物思いに耽って、箏の琴をやさしく弾くともなしに弾いていらっしゃるご様子も、内親王だけあって高貴で優雅であるが、「同じ皇女を頂くなら,もう一段及ばなかった運命よ」と、今なお思われる。<BR>⏎ 「劣った落葉のような方をどうして娶ったのだろう<BR> 同じ院のご姉妹ではあるが」<BR>⏎ |
| d1 | 641 | <P>⏎ | ||
| version35 | 642 | <H4>第八章 紫の上の物語 死と蘇生</H4> | 579 | |
| version35 | 643 | <A NAME="in81">[第一段 紫の上、絶命す]</A><BR> | 580 | |
| c1 | 646 | と言って、使者が参上したので、まったく何を考えることもおできになれず、お心も真暗になってお帰りになる。その道中気が気でないところ、なるほどあちらの院は、周囲の大路まで人が騷ぎ立っていた。邸の中の泣きわめいている様子、まことに不吉である。無我夢中で中にお入りになると、<BR>⏎ | 583 | と言って,使者が参上したので、まったく何を考えることもおできになれず、お心も真暗になってお帰りになる。その道中気が気でないところ、なるほどあちらの院は、周囲の大路まで人が騷ぎ立っていた。邸の中の泣きわめいている様子、まことに不吉である。無我夢中で中にお入りになると、<BR>⏎ |
| c1 | 648 | と言って、控えている女房たちは皆、自分も後を追おうと、うろうろしている者たちが、数限りない。いく壇もの御修法の壇を壊して、僧たちも残るべき人は残っているが、ばらばらと立ち騒ぐのを御覧になると、「それではもう最期なのだ」とお思い切りなさるその情けなさに、他にどのような比べるものがあろうか。<BR>⏎ | 585 | と言って,控えている女房たちは皆、自分も後を追おうと、うろうろしている者たちが、数限りない。いく壇もの御修法の壇を壊して、僧たちも 残るべき人は残っているが、ばらばらと立ち騒ぐのを御覧になると、「それではもう最期なのだ」とお思い切りなさるその情けなさに、他にどのような比べるものがあろうか。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 651-655 | 「有限なご寿命であるから、この世でのご寿命が終わったとしても、ただ、もう暫く延ばして下さい。不動尊の御本の誓いがあります。せめてその日数だけでも、この世にお引き止め申して下さい」<BR>⏎ と、頭から本当に黒い煙を立てて、大変な熱心さでご加持申し上げる。院も、<BR>⏎ 「ただ、もう一度目と目を見合わせて下さい。まったくあっけなく臨終の時をさえ、会わずじまいであったことが、悔しく悲しいのですよ」<BR>⏎ と取り乱している様子は、生き残っていらっしゃることができそうにないのを、拝見する心地は、ただ想像できよう。大変なご悲痛を、仏も御照覧申されたのであろうか、このいく月もまったく現れなかった物の怪が小さい童に乗り移って、大声でわめくうちに、だんだんと生き返っていらっしゃって、嬉しくも不吉にもお心が騒がずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 588-591 | 「有限なご寿命であるから、この世でのご寿命が終わったとしても、ただ,もう暫く延ばして下さい。不動尊の御本の誓いがあります。せめてその日数だけでも、この世にお引き止め申して下さい」<BR>⏎ と,頭から本当に黒い煙を立てて、大変な熱心さでご加持申し上げる。院も、<BR>⏎ 「ただ,もう一度目と目を見合わせて下さい。まったくあっけなく臨終の時をさえ、会わずじまいであったことが、悔しく悲しいのですよ」<BR>⏎ と取り乱している様子は、生き残っていらっしゃることができそうにないのを、拝見する心地は、ただ想像できよう。大変なご悲痛を、仏も御照覧申されたのであろうか、このいく月もまったく現れなかった物の怪が 小さい童に乗り移って、大声でわめくうちに、だんだんと生き返っていらっしゃって、嬉しくも不吉にもお心が騒がずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| version35 | 656 | <A NAME="in82">[第二段 六条御息所の死霊出現]</A><BR> | 592 | |
| c2 | 658-659 | 「他の人は皆去りなさい。院お一人方のお耳に申し上げたい。自分をこのいく月も調伏し困らせなさるのが薄情で辛いので、同じことならお知らせしようと思ったが、そうは言っても命が耐えられないほど、身を粉にして悲嘆に暮れていらっしゃるご様子を拝見すると、今でこそ、このようなあさましい姿に変わっているが、昔の愛執が残っていればこそ、このように参上したので、お気の毒な様子を放って置くことができなくて、とうとう現れ出てしまったのです。決して知られまいと思っていたのに」<BR>⏎ と言って、髪を振り掛けて泣く様子は、まったく昔御覧になった物の怪の恰好と見えた。こんなことがこの世にあろうか、恐ろしいことだと、心底お思い込みになったことが相変わらず忌まわしいことなので、この童女の手を捉えて、じっとさせて、体裁の悪いようにはおさせにならない。<BR>⏎ | 594-595 | 「他の人は皆去りなさい。院お一人方のお耳に申し上げたい。自分をこのいく月も調伏し困らせなさるのが 薄情で辛いので、同じことならお知らせしようと思ったが、そうは言っても命が耐えられないほど、身を粉にして悲嘆に暮れていらっしゃるご様子を拝見すると、今でこそ、このようなあさましい姿に変わっているが、昔の愛執が残っていればこそ、このように参上したので、お気の毒な様子を放って置くことができなくて、とうとう現れ出てしまったのです。決して知られまいと思っていたのに」<BR>⏎ と言って,髪を振り掛けて泣く様子は、まったく昔御覧になった物の怪の恰好と見えた。こんなことがこの世にあろうか、恐ろしいことだと、心底お思い込みになったことが相変わらず忌まわしいことなので、この童女の手を捉えて、じっとさせて、体裁の悪いようにはおさせにならない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 662-663 | 「わたしはこんな変わりはてた身の上となってしまったが<BR>⏎ 知らないふりをするあなたは昔のままですね<BR>⏎ | 598 | 「わたしはこんな変わりはてた身の上となってしまったが<BR> 知らないふりをするあなたは昔のままですね<BR>⏎ |
| c1 | 666 | 「中宮の御事につけても、大変に嬉しく有り難いことだと、魂が天翔りながら拝見していますが、明幽境を異にしてしまったので、子の身の上までも深く思われないのでしょうか、やはり、自分自身がひどい方だとお思い申し上げた方への愛執が残るのでした。<BR>⏎ | 601 | 「中宮の御事につけても、大変に嬉しく有り難いことだと、魂が天翔りながら拝見していますが、明幽境を異にしてしまったので、子の身の上までも深く思われないのでしょうか、やはり,自分自身がひどい方だとお思い申し上げた方への愛執が 残るのでした。<BR>⏎ |
| c1 | 669 | よし、今はもう、この罪障を軽めることをなさって下さい。修法や読経の大声を立てることも、わが身には苦しく情けない炎となってまつわりつくばかりで、まったく尊いお経の声も聞こえないので、まことに悲しい気がします。<BR>⏎ | 604 | よし,今はもう、この罪障を軽めることをなさって下さい。修法や読経の大声を立てることも、わが身には苦しく情けない炎となってまつわりつくばかりで、まったく尊いお経の声も聞こえないので、まことに悲しい気がします。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 671-672 | などと、言い続けるが、物の怪に向かってお話なさることも、気が引けることなので、物の怪を封じ込めて、紫の上を、別の部屋に、こっそりお移し申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 606 | などと,言い続けるが、物の怪に向かってお話なさることも、気が引けることなので、物の怪を封じ込めて、紫の上を、別の部屋に、こっそりお移し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version35 | 673 | <A NAME="in83">[第三段 紫の上、死去の噂流れる]</A><BR> | 607 | |
| c1 | 676 | と、思いつきの発言をなさる方もいる。また、<BR>⏎ | 610 | と,思いつきの発言をなさる方もいる。また,<BR>⏎ |
| c1 | 678 | などと、ひそひそ噂するのであった。<BR>⏎ | 612 | などと,ひそひそ噂するのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 681 | と、独り口ずさんで、あちらの院に皆で参上なさる。不確かなことなので縁起でもないことを言っては、と思って、ただ普通のお見舞いの形で参上したところ、このように人が泣き叫んでいるので、本当だったのだなと、驚きなさった。<BR>⏎ | 615 | と,独り口ずさんで、あちらの院に皆で参上なさる。不確かなことなので縁起でもないことを言っては、と思って,ただ普通のお見舞いの形で参上したところ、このように人が泣き叫んでいるので、本当だったのだなと、驚きなさった。<BR>⏎ |
| c2 | 686-687 | と言って、本当にひどくお泣きになるご様子である。目も少し腫れている。衛門督は、自分のけしからぬ気持ちに照らしてか、この君が、大して親しい関係でもない継母のご病気を、ひどく悲嘆していらっしゃるなと、目を止める。<BR>⏎ このように、いろいろな方々がお見舞いに参上なさった旨をお聞きになって、<BR>⏎ | 620-621 | と言って,本当にひどくお泣きになるご様子である。目も少し腫れている。衛門督は、自分のけしからぬ気持ちに照らしてか、『この君が、大して親しい関係でもない継母のご病気を、ひどく悲嘆していらっしゃるな』と、目を止める。<BR>⏎ このように,いろいろな方々がお見舞いに参上なさった旨をお聞きになって、<BR>⏎ |
| d1 | 690 | <P>⏎ | ||
| version35 | 691 | <A NAME="in84">[第四段 紫の上、蘇生後に五戒を受く]</A><BR> | 624 | |
| c2 | 693-694 | 生きていた時の人でさえ、嫌な気がしたご様子の方が、まして死後に、異形のものに姿を変えていらっしゃるのだろうことをご想像なさると、まことに気味が悪いので、中宮をお世話申し上げなさることまでが、この際は億劫になり、せんじつめれば、女性の身は、皆同様に罪障の深いものだと、すべての男女関係が嫌になって、あの、他人は聞かなかったお二人の睦言に、少しお話し出しになったことを言い出したので、確かにそうだとお思い出しになると、まことに厄介なことに思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 御髪を下ろしたいと切望なさっているので、持戒による功徳もあろうかと考えて、頭の頂を形式的に挟みを入れて、五戒だけをお受けさせ申し上げなさる。御戒の師が、持戒のすぐれている旨を仏に申すにつけても、しみじみと尊い文句が混じっていて、体裁が悪いまでお側にお付きなさって、涙をお拭いになりながら、仏を一緒にお念じ申し上げなさる様子は、この世に又となく立派でいらっしゃる方も、まことにこのようにご心痛になる非常時に当たっては、冷静ではいらっしゃれないものなのであった。<BR>⏎ | 626-627 | 生きていた時の人でさえ、嫌な気がしたご様子の方が、まして死後に、異形のものに姿を変えていらっしゃるのだろうことをご想像なさると、まことに気味が悪いので、中宮をお世話申し上げなさることまでが、この際は億劫になり、せんじつめれば、女性の身は、皆同様に罪障の深いものだと、すべての男女関係が嫌になって、あの,他人は聞かなかったお二人の睦言に、少しお話し出しになったことを言い出したので、確かにそうだとお思い出しになると、まことに厄介なことに思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ 御髪を下ろしたいと切望なさっているので、持戒による功徳もあろうかと考えて、頭の頂を形式的に挟みを入れて、五戒だけをお受けさせ申し上げなさる。御戒の師が、持戒のすぐれている旨を 仏に申すにつけても、しみじみと尊い文句が混じっていて、体裁が悪いまでお側にお付きなさって、涙をお拭いになりながら、仏を一緒にお念じ申し上げなさる様子は、この世に又となく立派でいらっしゃる方も、まことにこのようにご心痛になる非常時に当たっては、冷静ではいらっしゃれないものなのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 696 | <P>⏎ | ||
| version35 | 697 | <A NAME="in85">[第五段 紫の上、小康を得る]</A><BR> | 629 | |
| c1 | 698 | 五月などは、これまで以上に、晴々しくない空模様で、すっきりした気分におなりになれないが、以前よりは少し良い状態である。けれども、やはりずっと絶えることなくお悩みになっている。<BR>⏎ | 630 | 五月などは、これまで以上に,s晴々しくない空模様で、すっきりした気分におなりになれないが、以前よりは少し良い状態である。けれども、やはりずっと絶えることなくお悩みになっている。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 702-703 | と、気力を奮い起こして、お薬湯などを少し召し上がったせいか、六月になってからは、時々頭を枕からお上げになった。珍しいことと拝見なさるにつけても、やはり、とても危なそうなので、六条院にはわずかの間でもお出向きになることができない。<BR>⏎ <P>⏎ | 634 | と,気力を奮い起こして、お薬湯などを少し召し上がったせいか、六月になってからは、時々頭を枕からお上げになった。珍しいことと拝見なさるにつけても、やはり,とても危なそうなので、六条院にはわずかの間でもお出向きになることができない。<BR>⏎ |
| version35 | 704 | <H4>第九章 女三の宮の物語 懐妊と密通の露見</H4> | 635 | |
| version35 | 705 | <A NAME="in91">[第一段 女三の宮懐妊す]</A><BR> | 636 | |
| d1 | 711 | <P>⏎ | ||
| version35 | 712 | <A NAME="in92">[第二段 源氏、紫の上と和歌を唱和す]</A><BR> | 642 | |
| c1 | 716 | 「このように拝見するのさえ、夢のような気がします。ひどく、自分自身までが終わりかと思われた時がありましたよ」<BR>⏎ | 646 | 「このように拝見するのさえ、夢のような気がします。ひどく,自分自身までが終わりかと思われた時がありましたよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 718-719 | 「露が消え残っている間だけでも生きられましょうか<BR>⏎ たまたま蓮の露がこうしてあるほどの命ですから」<BR>⏎ | 648 | 「露が消え残っている間だけでも生きられましょうか<BR> たまたま蓮の露がこうしてあるほどの命ですから」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 721-722 | 「お約束して置きましょう、この世ばかりでなく来世に蓮の葉の上に<BR>⏎ 玉と置く露のようにいささかも心の隔てを置きなさいますな」<BR>⏎ | 650 | 「お約束して置きましょう、この世ばかりでなく来世に蓮の葉の上に<BR> 玉と置く露のようにいささかも心の隔てを置きなさいますな」<BR>⏎ |
| d1 | 724 | <P>⏎ | ||
| version35 | 725 | <A NAME="in93">[第三段 源氏、女三の宮を見舞う]</A><BR> | 652 | |
| c1 | 728 | と、ご気分のすぐれないご様子を申し上げる。<BR>⏎ | 655 | と,ご気分のすぐれないご様子を申し上げる。<BR>⏎ |
| ci6:7 | 730-735 | とだけおっしゃって、ご心中には、「長年連れ添った妻たちでさえそのようなことはなかったのに、不確かなことなので、どうなのか」<BR>⏎ とお思いなさるので、特にあれこれとおっしゃらずに、ただ、お苦しみでいらっしゃる様子がとても痛々しげなのを、いたわしく拝見なさる。<BR>⏎ やっとのことでお思い立ちになってお越しになったので、すぐにはお帰りになることはできず、二、三日いらっしゃる間、「どうしているだろうか、どうしているだろうか」と気がかりにお思いになるので、お手紙ばかりをこまごまとお書きになる。<BR>⏎ 「いつの間にたくさんお言葉が溜るのでしょう。まあ、何と、心配でならないこと」<BR>⏎ と、若君の御過ちを知らない女房は言う。侍従だけは、このようなことにつけても胸騷ぎがするのであった。<BR>⏎ あの人も、このようにお越しになっていると聞くと、大それた考え違いを起こして、大層な訴え事を書き綴っておよこしになった。対の屋にちょっとお渡りになっている間に、人少なであったので、こっそりとお見せ申し上げる。<BR>⏎ | 657-663 | とだけおっしゃって、ご心中には、<BR>⏎ 「長年連れ添った妻たちでさえそのようなことはなかったのに、不確かなことなので,どうなのか」<BR>⏎ とお思いなさるので、特にあれこれとおっしゃらずに、ただ,お苦しみでいらっしゃる様子がとても痛々しげなのを、いたわしく拝見なさる。<BR>⏎ やっとのことでお思い立ちになってお越しになったので、すぐにはお帰りになることはできず、二,三日いらっしゃる間、「どうしているだろうか,どうしているだろうか」と気がかりにお思いになるので、お手紙ばかりをこまごまとお書きになる。<BR>⏎ 「いつの間にたくさんお言葉が溜るのでしょう。まあ,何と、心配でならないこと」<BR>⏎ と,若君の御過ちを知らない女房は言う。侍従だけは、このようなことにつけても胸騷ぎがするのであった。<BR>⏎ あの人も、このようにお越しになっていると聞くと、大それた考え違いを起こして、大層な訴え事を書き綴って およこしになった。対の屋にちょっとお渡りになっている間に、人少なであったので、こっそりとお見せ申し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 738-739 | 「でも、ただ、このはしがきが、お気の毒な気がいたしますよ」<BR>⏎ と言って、広げたところへ誰か参ったので、まこと困って、御几帳を引き寄せて出て行った。<BR>⏎ | 666-667 | 「でも,ただ,このはしがきが、お気の毒な気がいたしますよ」<BR>⏎ と言って,広げたところへ 誰か参ったので、まこと困って、御几帳を引き寄せて出て行った。<BR>⏎ |
| d1 | 741 | <P>⏎ | ||
| version35 | 742 | <A NAME="in94">[第四段 源氏、女三の宮と和歌を唱和す]</A><BR> | 669 | |
| c2 | 747-748 | 「それでは、道が暗くならない間に」<BR>⏎ と言って、お召し物などをお召し替えになる。<BR>⏎ | 674-675 | 「それでは,道が暗くならない間に」<BR>⏎ と言って,お召し物などをお召し替えになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 750-752 | と、若々しい様子でおっしゃるのはとてもいじらしい。「その間でも、とお思いなのだろうか」と、いじらしくお思いになって、お立ち止まりになる。<BR>⏎ 「夕露に袖を濡らせというつもりで、ひぐらしが鳴くのを<BR>⏎ 聞きながら起きて行かれるのでしょうか」<BR>⏎ | 677-678 | と,若々しい様子でおっしゃるのはとてもいじらしい。「その間でも、とお思いなのだろうか」と、いじらしくお思いになって、お立ち止まりになる。<BR>⏎ 「夕露に袖を濡らせというつもりで、ひぐらしが鳴くのを<BR> 聞きながら起きて行かれるのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 754-757 | 「ああ、困りましたこと」<BR>⏎ と、溜息をおつきになる。<BR>⏎ 「わたしを待っているほうでもどのように聞いているでしょうか<BR>⏎ それぞれに心を騒がすひぐらしの声ですね」<BR>⏎ | 680-682 | 「ああ,困りましたこと」<BR>⏎ と,溜息をおつきになる。<BR>⏎ 「わたしを待っているほうでもどのように聞いているでしょうか<BR> それぞれに心を騒がすひぐらしの声ですね」<BR>⏎ |
| d1 | 759 | <P>⏎ | ||
| version35 | 760 | <A NAME="in95">[第五段 源氏、柏木の手紙を発見]</A><BR> | 684 | |
| c2 | 762-763 | 「昨夜の扇を落として。これでは風がなま温いな」<BR>⏎ と言って、御桧扇をお置きになって、昨日うたた寝なさった御座所の近辺を、立ち止まってお探しになると、御褥の少し乱れている端から、浅緑の薄様の手紙で、押し巻いてある端が見えるのを、何気なく引き出して御覧になると、男性の筆跡である。紙の香りなどはとても優美で、気取った書きぶりである。二枚にこまごまと書いてあるのを御覧になると、「紛れようもなく、あの人の筆跡である」と御覧になった。<BR>⏎ | 686-687 | 「昨夜の扇を落として、これでは風がなま温いな」<BR>⏎ と言って,御桧扇をお置きになって、昨日うたた寝なさった御座所の近辺を、立ち止まってお探しになると、御褥の少し乱れている端から、浅緑の薄様の手紙で、押し巻いてある端が見えるのを、何気なく引き出して御覧になると、男性の筆跡である。紙の香りなどはとても優美で、気取った書きぶりである。二枚にこまごまと書いてあるのを御覧になると、「紛れようもなく、あの人の筆跡である」と御覧になった。<BR>⏎ |
| c1 | 765 | 「いいえ、いくら何でも、それはあるまい。本当に大変で、そのようなことがあろうか。きっとお隠しになったことだろう」<BR>⏎ | 689 | 「いいえ,いくら何でも、それはあるまい。本当に大変で、そのようなことがあろうか。きっとお隠しになったことだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 767 | 宮は、無心にまだお寝みになっていらっしゃった。<BR>⏎ | 691 | 宮は、無心にま だお寝みになっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 772 | <P>⏎ | ||
| version35 | 773 | <A NAME="in96">[第六段 小侍従、女三の宮を責める]</A><BR> | 696 | |
| c1 | 777 | 「どこに、お置きあそばしましたか。女房たちが参ったので、子細ありげに近くに控えておりまいと、ちょっとしたぐらいの用心でさえ、気が咎めますので慎重にしておりましたのに。お入りあそばしました時には、少し間がございましたが、お隠しあそばただろうと、存じておりました」<BR>⏎ | 700 | 「どこに,お置きあそばしましたか。女房たちが参ったので、子細ありげに近くに控えておりまいと、ちょっとしたぐらいの用心でさえ、気が咎めますので慎重にしておりましたのに。お入りあそばしました時には、少し間がございましたが、お隠しあそばただろうと、存じておりました」<BR>⏎ |
| c1 | 779 | 「いいえ、それがね。見ていた時にお入りになったので、すぐに起き上がることもできないで、褥に差し挟んで置いたのを、忘れてしまったの」<BR>⏎ | 702 | 「いいえ,それがね。見ていた時にお入りになったので、すぐに起き上がることもできないで、褥に差し挟んで置いたのを、忘れてしまったの」<BR>⏎ |
| c2 | 781-782 | 「まあ、大変。かの君も、とてもひどく恐れ憚って、素振りにもお聞かせ申されるようなことがあったら大変と、恐縮申していられたものを。まだいくらもたたないのに、もうこのような事になってしまってよ。全体、子供っぽいご様子でいらして、人にお姿をお見せあそばしたので、長年あれほどまで忘れることができず、ずっと恨み言を言い続けていらっしゃったが、こうまでなるとは存じませんでした事ですわ。どちら様のためにも、お気の毒な事でございますわ」<BR>⏎ と、遠慮もなく申し上げる。気安く子供っぽくいらっしゃるので、ずけずけと申し上げたのであろう。お答えもなさらず、ただ泣いてばかりいらっしゃる。とても苦しそうで、まったく何もお召し上がりにならないので、<BR>⏎ | 704-705 | 「まあ,大変。かの君も、とてもひどく恐れ憚って、素振りにもお聞かせ申されるようなことがあったら大変と、恐縮申していられたものを。まだいくらもたたないのに、もうこのような事になってしまってよ。全体,子供っぽいご様子でいらして、人にお姿をお見せあそばしたので、長年あれほどまで忘れることができず、ずっと恨み言を言い続けていらっしゃったが、こうまでなるとは存じませんでした事ですわ。どちら様のためにも、お気の毒な事でございますわ」<BR>⏎ と,遠慮もなく申し上げる。気安く子供っぽくいらっしゃるので、ずけずけと申し上げたのであろう。お答えもなさらず、ただ泣いてばかりいらっしゃる。とても苦しそうで、まったく何もお召し上がりにならないので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 784-785 | と、薄情に思って言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 707 | と,薄情に思って言う。<BR>⏎ |
| version35 | 786 | <A NAME="in97">[第七段 源氏、手紙を読み返す]</A><BR> | 708 | |
| cd3:2 | 788-790 | 「長年慕い続けてきたことが、偶然に念願が叶って、心にかかってならないといった事を書き尽くした言葉は、まことに見所があって感心するが、本当に、こんなにまではっきりと書いてよいものだろうか。惜しいことに、あれほどの人が、思慮もなく手紙を書いたものだ。人目に触れることがあってはいけないと思ったので、昔、このようにこまごまと書きたい時も、言葉を簡略に簡略にして書き紛らわしたものだ。人が用心するということは難しいことなのだ」<BR>⏎ と、その人の心までお見下しなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 710-711 | 「長年慕い続けてきたことが、偶然に念願が叶って、心にかかってならないといった事を書き尽くした言葉は、まことに見所があって感心するが、本当に,こんなにまではっきりと書いてよいものだろうか。惜しいことに,あれほどの人が,思慮もなく手紙を書いたものだ。人目に触れることがあってはいけないと思ったので、昔,このようにこまごまと書きたい時も、言葉を簡略に簡略にして書き紛らわしたものだ。人が用心するということは難しいことなのだ」<BR>⏎ と,その人の心までお見下しなさった。<BR>⏎ |
| version35 | 791 | <A NAME="in98">[第八段 源氏、妻の密通を思う]</A><BR> | 712 | |
| c2 | 792-793 | 「それにしても、この宮をどのようにお扱いしたら良いものだろうか。おめでたいことのご懐妊も、このようなことのせいだったのだ。ああ、何と、厭わしいことだ。このような、目の当たりに嫌な事を知りながら、今までどおりにお世話申し上げるのだろうか」<BR>⏎ と、自分のお心ながらも、とても思い直すことはできないとお思いになるが、<BR>⏎ | 713-714 | 「それにしても、この宮をどのようにお扱いしたら良いものだろうか。おめでたいことのご懐妊も、このようなことのせいだったのだ。ああ,何と、厭わしいことだ。このような,目の当たりに嫌な事を知りながら、今までどおりにお世話申し上げるのだろうか」<BR>⏎ と,自分のお心ながらも、とても思い直すことはできないとお思いになるが、<BR>⏎ |
| c1 | 796 | 女御、更衣と言っても、あれこれいろいろあって、どうかと思われる人もおり、嗜みが必ずしも深いとは言えない人も混じっていて、意外なことも起こるが、重大な確かな過ちと分からないうちは、そのままで宮仕えを続けて行くようなこともあるから、すぐには分からない過ちもきっとあることだろう。<BR>⏎ | 717 | 女御,更衣と言っても、あれこれいろいろあって、どうかと思われる人もおり、嗜みが必ずしも深いとは言えない人も混じっていて、意外なことも起こるが、重大な確かな過ちと分からないうちは、そのままで宮仕えを続けて行くようなこともあるから、すぐには分からない過ちもきっとあることだろう。<BR>⏎ |
| c1 | 798 | と、つい非難せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 719 | と,つい非難せずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| c1 | 800 | と、まことに不愉快ではあるが、また「顔色に出すべきことではない」などと、ご煩悶なさるにつけても、<BR>⏎ | 721 | と,まことに不愉快ではあるが、また「顔色に出すべきことではない」などと、ご煩悶なさるにつけても、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 802-803 | と、身近な例をお思いになると、恋の山路は、非難できないというお気持ちもなさるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 723 | と,身近な例をお思いになると、恋の山路は、非難できないというお気持ちもなさるのであった。<BR>⏎ |
| version35 | 804 | <H4>第十章 光る源氏の物語 密通露見後</H4> | 724 | |
| version35 | 805 | <A NAME="in101">[第一段 紫の上、女三の宮を気づかう]</A><BR> | 725 | |
| c1 | 810 | と言って、嘆息なさると、<BR>⏎ | 730 | と言って,嘆息なさると、<BR>⏎ |
| c2 | 813-814 | 「なるほど、おっしゃるとおり、ひたすら愛しく思っているあなたには、厄介な縁者はいないが、いろいろと思慮を廻らすことといったら、あれやこれやと、一般の人が思うような事まで考えを廻らされますが、わたしのただ、国王が御機嫌を損ねないかという事だけを気にしているのは、考えの浅いことだな」<BR>⏎ と、苦笑して言い紛らわしなさる。お帰りになることは、<BR>⏎ | 733-734 | 「なるほど,おっしゃるとおり,ひたすら愛しく思っているあなたには、厄介な縁者はいないが、いろいろと思慮を廻らすことといったら、あれやこれやと、一般の人が思うような事まで考えを廻らされますが、わたしのただ、国王が御機嫌を損ねないかという事だけを気にしているのは、考えの浅いことだな」<BR>⏎ と,苦笑して言い紛らわしなさる。お帰りになることは、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 818-819 | と、話し合っていらっしゃるうちに、数日が過ぎた。<BR>⏎ <P>⏎ | 738 | と,話し合っていらっしゃるうちに、数日が過ぎた。<BR>⏎ |
| version35 | 820 | <A NAME="in102">[第二段 柏木と女三の宮、密通露見におののく]</A><BR> | 739 | |
| cd5:4 | 825-829 | 「長年、公事でも遊び事でも、お呼び下さり親しくお伺いしていたものを。誰よりもこまごまとお心を懸けて下さったお気持ちが、しみじみと身にしみて思われるので、あきれはてた大それた者と不快の念を抱かれ申したら、どうして目をお合わせ申し上げることができようか。そうかと言って、ふっつりと参上しなくなるのも、人が変だと思うだろうし、あちらでもやはりそうであったかと、お思い合わせになろう、それが堪らない」<BR>⏎ などと、気が気でない思いでいるうちに、気分もとても苦しくなって、内裏へも参内なさらない。それほど重い罪に当たるはずではないが、身も破滅してしまいそうな気がするので、「やっぱり懸念していたとおりだ」と、一方では自分ながら、まことに辛く思われる。<BR>⏎ 「考えて見れば、落ち着いた嗜み深いご様子がお見えでない方であった。まず第一に、あの御簾の隙間の事も、あっていいことだろうか。軽率だと、大将が思っていらした様子に見えた事だ」<BR>⏎ などと、今になって気がつくのである。無理してこの思いを冷まそうとするあまり、むやみに非難つけお思い申し上げたいのであろうか。<BR>⏎ <P>⏎ | 744-747 | 「長年、公事でも遊び事でも、お呼び下さり親しくお伺いしていたものを。誰よりもこまごまとお心を懸けて下さったお気持ちが、しみじみと身にしみて思われるので、あきれはてた大それた者と不快の念を抱かれ申したら、どうして目をお合わせ申し上げることができようか。そうかと言って、ふっつりと参上しなくなるのも、人が変だと思うだろうし、あちらでもやはりそうであったかと,お思い合わせになろう,それが堪らない」<BR>⏎ などと,気が気でない思いでいるうちに、気分もとても苦しくなって、内裏へも参内なさらない。それほど重い罪に当たるはずではないが、身も破滅してしまいそうな気がするので、「やっぱり懸念していたとおりだ」と、一方では自分ながら、まことに辛く思われる。<BR>⏎ 「考えて見れば、落ち着いた嗜み深いご様子がお見えでない方であった。まず第一に,あの御簾の隙間の事も、あっていいことだろうか。軽率だと、大将が思っていらした様子に見えた事だ」<BR>⏎ などと,今になって気がつくのである。無理してこの思いを冷まそうとするあまり、むやみに非難つけお思い申し上げたいのであろうか。<BR>⏎ |
| version35 | 830 | <A NAME="in103">[第三段 源氏、女三の宮の幼さを非難]</A><BR> | 748 | |
| c2 | 831-832 | 「良いことだからと言って、あまり一途におっとりし過ぎている高貴な人は、世間の事もご存知なく、一方では、伺候している女房に用心なさることもなくて、このようにおいたわしいご自身にとっても、また相手にとっても、大変な事になるのだ」<BR>⏎ と、あのお方をお気の毒だと思う気持ちも、お捨てになることができない。<BR>⏎ | 749-750 | 「良いことだからと言って、あまり一途におっとりし過ぎている高貴な人は、世間の事もご存知なく、一方では,伺候している女房に用心なさることもなくて、このようにおいたわしいご自身にとっても、また相手にとっても、大変な事になるのだ」<BR>⏎ と,あのお方をお気の毒だと思う気持ちも、お捨てになることができない。<BR>⏎ |
| c1 | 835 | そうした手紙を見たともはっきり申し上げなさらないのに、ご自分でとてもむやみに苦しみ悩んでいらっしゃるのも子供っぽいことである。<BR>⏎ | 753 | そうした手紙を見たともはっきり申し上げなさらないのに、ご自分でとてもむやみに苦しみ悩んでいらっしゃるのも 子供っぽいことである。<BR>⏎ |
| d1 | 840 | <P>⏎ | ||
| version35 | 841 | <A NAME="in104">[第四段 源氏、玉鬘の賢さを思う]</A><BR> | 758 | |
| cd3:1 | 843-845 | 宿縁の深い仲であったので、長くこうして連れ添ってゆくことは、その初めがどのような事情からであったにせよ、同じような事であったろうが、自分の意志でしたのだと、世間の人も思い出したら、少しは軽率な感じが加わろうが、本当に上手に身を処したことだ」<BR>⏎ とお思い出しになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 760 | 宿縁の深い仲であったので、長くこうして連れ添ってゆくことは、その初めがどのような事情からであったにせよ、同じような事であったろうが、自分の意志でしたのだと、世間の人も思い出したら、少しは軽率な感じが加わろうが、本当に上手に身を処したことだ」とお思い出しになる。<BR>⏎ |
| version35 | 846 | <A NAME="in105">[第五段 朧月夜、出家す]</A><BR> | 761 | |
| cd2:1 | 849-850 | 「出家されたことを他人事して聞き流していられましょうか<BR>⏎ わたしが須磨の浦で涙に沈んでいたのは誰ならぬあなたのせいなのですから<BR>⏎ | 764 | 「出家されたことを他人事して聞き流していられましょうか<BR> わたしが須磨の浦で涙に沈んでいたのは誰ならぬあなたのせいなのですから<BR>⏎ |
| c2 | 852-853 | などと、たくさんお書き申し上げなさった。<BR>⏎ 早くからご決意なさった事であるが、この方のご反対に引っ張られて、誰にもそのようにはお表しなさらなかった事だが、心中ではしみじみと昔からの恨めしいご縁を、何と言っても浅くはお思いになれない事など、あれやこれやとお思い出さずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 766-767 | などと,たくさんお書き申し上げなさった。<BR>⏎ 早くからご決意なさった事であるが、この方のご反対に引っ張られて、誰にもそのようにはお表しなさらなかった事だが、心中ではしみじみと 昔からの恨めしいご縁を、何と言っても浅くはお思いになれない事など、あれやこれやとお思い出さずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 855-857 | 「無常の世とはわが身一つだけと思っておりましたが、先を越されてしまったとの仰せを思いますと、おっしゃるとおり、<BR>⏎ 尼になったわたしにどうして遅れをおとりになったのでしょう<BR>⏎ 明石の浦に海人のようなお暮らしをなさっていたあなたが<BR>⏎ | 769-770 | 「無常の世とはわが身一つだけと思っておりましたが、先を越されてしまったとの仰せを思いますと、おっしゃるとおり,<BR>⏎ 尼になったわたしにどうして遅れをおとりになったのでしょう<BR> 明石の浦に海人のようなお暮らしをなさっていたあなたが<BR>⏎ |
| d1 | 860 | <P>⏎ | ||
| version35 | 861 | <A NAME="in106">[第六段 源氏、朧月夜と朝顔を語る]</A><BR> | 773 | |
| c2 | 864-865 | やはり、大勢の女性の様子を見たり聞いたりした中で、思慮深い人柄で、それでいて心やさしい点では、あの方にご匹敵する人はいなかったなあ。女の子を育てることは、まことに難しいことだ。<BR>⏎ 宿世などと言うものは、目に見えないことなので、親の心のままにならない。成長して行く際の注意は、やはり力を入れねばならないようです。よくぞまあ、大勢の女の子に心配しなくてもよい運命であった。まだそれほど年を取らなかったころは、もの足りないことだ、何人もいたらと嘆かわしく思ったことも度々あった。<BR>⏎ | 776-777 | やはり,大勢の女性の様子を見たり聞いたりした中で、思慮深い人柄で、それでいて心やさしい点では、あの方にご匹敵する人はいなかったなあ。女の子を育てることは、まことに難しいことだ。<BR>⏎ 宿世などと言うものは、目に見えないことなので、親の心のままにならない。成長して行く際の注意は、やはり力を入れねばならないようです。よくぞまあ、大勢の女の子に心配しなくてもよい運命であった。まだそれほど年を取らなかったころは、もの足りないことだ、何人もいたらと 嘆かわしく思ったことも度々あった。<BR>⏎ |
| c1 | 869 | と言って、やはり何か心細そうで、このように思いどおりに、仏のお勤めを差し障りなくなさっている方々を、羨ましくお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 781 | と言って,やはり何か心細そうで、このように思いどおりに、仏のお勤めを差し障りなくなさっている方々を、羨ましくお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 872-873 | 青鈍の一領を、こちらではお作らせになる。宮中の作物所の人を呼んで、内々に、尼のお道具類で、しかるべき物をはじめとしてご下命なさる。御褥、上蓆、屏風、几帳などのことも、たいそう目立たないようにして、特別念を入れてご準備なさったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 784 | 青鈍の一領を、こちらではお作らせになる。宮中の作物所の人を呼んで、内々に、尼のお道具類で,しかるべき物をはじめとしてご下命なさる。御褥、上蓆、屏風、几帳などのことも、たいそう目立たないようにして、特別念を入れてご準備なさったのであった。<BR>⏎ |
| version35 | 874 | <H4>第十一章 朱雀院の物語 五十賀の延引</H4> | 785 | |
| version35 | 875 | <A NAME="in111">[第一段 女二の宮、院の五十の賀を祝う]</A><BR> | 786 | |
| c2 | 876-877 | こうして、山の帝の御賀も延期になって、秋にとあったが、八月は大将の御忌月で、楽所を取り仕切られるのには、不都合であろう。九月は、院の大后がお崩れになった月なので、十月にとご予定を立てたが、姫宮がひどくお悩みになったので、再び延期になった。<BR>⏎ 衛門督がお引き受けになっている宮が、その月には御賀に参上なさったのだった。太政大臣が奔走して、盛大にかつこまごまと気を配って、儀式の美々しさ、作法の格式の限りをお尽くしなさっていた。督の君も、その機会には、気力を出してご出席なさったのだった。やはり、気分がすぐれず、普通と違って病人のように日を送ってばかりいらっしゃる。<BR>⏎ | 787-788 | こうして,山の帝の御賀も延期になって、秋にとあったが、八月は大将の御忌月で、楽所を取り仕切られるのには、不都合であろう。九月は、院の大后がお崩れになった月なので、十月にとご予定を立てたが、姫宮がひどくお悩みになったので、再び延期になった。<BR>⏎ 衛門督がお引き受けになっている宮が、その月には御賀に参上なさったのだった。太政大臣が奔走して、盛大にかつこまごまと気を配って、儀式の美々しさ、作法の格式の限りをお尽くしなさっていた。督の君も、その機会には、気力を出してご出席なさったのだった。やはり,気分がすぐれず、普通と違って病人のように日を送ってばかりいらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 879 | <P>⏎ | ||
| version35 | 880 | <A NAME="in112">[第二段 朱雀院、女三の宮へ手紙]</A><BR> | 790 | |
| c1 | 885 | などと、お教え申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 795 | などと,お教え申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 889 | <P>⏎ | ||
| version35 | 890 | <A NAME="in113">[第三段 源氏、女三の宮を諭す]</A><BR> | 799 | |
| c1 | 892 | 思慮が浅く、ただ、人が申し上げるままにばかりお従いになるようなあなたとしては、ただ冷淡で薄情だとばかりお思いで、また、今ではわたしのすっかり年老いた様子も、軽蔑し飽き飽きしてばかりお思いになっていられるらしいのも、それもこれも残念にも忌ま忌ましくも思われますが、院の御存命中は、やはり我慢して、あちらのお考えもあったことでしょうから、この年寄をも、同じようにお考え下さって、ひどく軽蔑なさいますな。<BR>⏎ | 801 | 思慮が浅く、ただ,人が申し上げるままにばかりお従いになるようなあなたとしては、ただ冷淡で薄情だとばかりお思いで、また,今ではわたしのすっかり年老いた様子も、軽蔑し飽き飽きしてばかりお思いになっていられるらしいのも、それもこれも残念にも忌ま忌ましくも思われますが、院の御存命中は、やはり我慢して、あちらのお考えもあったことでしょうから、この年寄をも、同じようにお考え下さって、ひどく軽蔑なさいますな。<BR>⏎ |
| c3 | 894-896 | 気にかかっていた人々も、今では出家の妨げとなるほどの者もおりません。女御も、あのようにして、将来の事は分かりませんが、皇子方がいく人もいらっしゃるようなので、わたしの存命中だけでもご無事であればと安心してよいでしょう。その他の事は、誰も彼も、状況に従って、一緒に出家するのも、惜しくはない年齢になっているのを、だんだんと気持ちも楽になっております。<BR>⏎ 院の御寿命もそう長くはいらっしゃらないでしょう。とても御病気がちにますますなられて、何となく心細げにばかりお思いでいられるから、今さら感心しないお噂を院のお耳にお入れ申して、お心を乱したりなさらないように。現世はまことに気にかけることはありません。どうということもありません。が、来世の御成仏の妨げになるようなのは、罪障がとても恐ろしいでしょう」<BR>⏎ などと、はっきりとその事とはお明かしにならないが、しみじみとお話し続けなさるので、涙ばかりがこぼれては、正体もない様子で悲しみに沈んでいらっしゃるので、ご自分もお泣きになって、<BR>⏎ | 803-805 | 気にかかっていた人々も、今では出家の妨げとなるほどの者もおりません。女御も、あのようにして,将来の事は分かりませんが、皇子方がいく人もいらっしゃるようなので、わたしの存命中だけでもご無事であればと安心してよいでしょう。その他の事は、誰も彼も、状況に従って、一緒に出家するのも、惜しくはない年齢になっているのを、だんだんと気持ちも楽になっております。<BR>⏎ 院の御寿命もそう長くはいらっしゃらないでしょう。とても御病気がちにますますなられて、何となく心細げにばかりお思いでいられるから、今さら感心しないお噂を院のお耳にお入れ申して、お心を乱したりなさらないように。現世はまことに気にかけることはありません。どうということもありません。が,来世の御成仏の妨げになるようなのは、罪障がとても恐ろしいでしょう」<BR>⏎ などと,はっきりとその事とはお明かしにならないが、しみじみとお話し続けなさるので、涙ばかりがこぼれては、正体もない様子で悲しみに沈んでいらっしゃるので、ご自分もお泣きになって、<BR>⏎ |
| c1 | 898 | と、お恥になりながら、御硯を引き寄せなさって、自分で墨を擦り、紙を整えて、お返事をお書かせ申し上げなさるが、お手も震えて、お書きになることができない。<BR>⏎ | 807 | と,お恥になりながら、御硯を引き寄せなさって、自分で墨を擦り、紙を整えて、お返事をお書かせ申し上げなさるが、お手も震えて、お書きになることができない。<BR>⏎ |
| d1 | 900 | <P>⏎ | ||
| version35 | 901 | <A NAME="in114">[第四段 朱雀院の御賀、十二月に延引]</A><BR> | 809 | |
| c3 | 903-905 | 「十一月はわたしの忌月です。年の終わりは歳末で、とても騒々しい。また、ますますこのお姿も体裁悪く、お待ち受けあそばす院はいかが御覧になろうと思いますが、そうかと言って、そんなにも延期することはでません。くよくよとお思いあそばさず、明るくお振る舞いになって、このひどくやつれていらっしゃるのを、お直しなさい」<BR>⏎ などと、とてもおいたわしいと、それでもお思い申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ 衛門督をどのような事でも、風雅な催しの折には、必ず特別に親しくお召しになっては、ご相談相手になさっていたのが、全然そのようなお便りはない。皆が変だと思うだろうとお思いになるが、「顔を見るにつけても、ますます自分の間抜けさが恥ずかしくて、顔を見てはまた自分の気持ちも平静を失うのではないか」と思い返され思い返されて、そのままいく月も参上なさらないのにもお咎めはない。<BR>⏎ | 811-813 | 「十一月はわたしの忌月です。年の終わりは歳末で、とても騒々しい。また,ますますこのお姿も体裁悪く、お待ち受けあそばす院はいかが御覧になろうと思いますが、そうかと言って、そんなにも延期することはでません。くよくよとお思いあそばさず、明るくお振る舞いになって、このひどくやつれていらっしゃるのを、お直しなさい」<BR>⏎ などと,とてもおいたわしいと、それでもお思い申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ 衛門督を どのような事でも、風雅な催しの折には、必ず特別に親しくお召しになっては、ご相談相手になさっていたのが、全然そのようなお便りはない。皆が変だと思うだろうとお思いになるが、「顔を見るにつけても、ますます自分の間抜けさが恥ずかしくて、顔を見てはまた自分の気持ちも平静を失うのではないか」と思い返され思い返されて、そのままいく月も参上なさらないのにもお咎めはない。<BR>⏎ |
| d1 | 907 | <P>⏎ | ||
| version35 | 908 | <A NAME="in115">[第五段 源氏、柏木を六条院に召す]</A><BR> | 815 | |
| c1 | 912 | しかし、どこがどうと苦しい病気でもないようなのに、自分に遠慮してのことかと、気の毒にお思いになって、特別にお手紙をお遣わしになる。父の大臣も、<BR>⏎ | 819 | しかし,どこがどうと苦しい病気でもないようなのに、自分に遠慮してのことかと、気の毒にお思いになって、特別にお手紙をお遣わしになる。父の大臣も、<BR>⏎ |
| d1 | 915 | <P>⏎ | ||
| version35 | 916 | <A NAME="in116">[第六段 源氏、柏木と対面す]</A><BR> | 822 | |
| c2 | 917-918 | まだ上達部なども参上なさっていない時分であった。いつものようにお側近くの御簾の中に招き入れなさって、母屋の御簾を下ろしていらっしゃる。なるほど、実にひどく痩せて蒼い顔をしていて、いつもの陽気で派手な振る舞いは、弟の君たちに気圧されて、いかにも嗜みありげに落ち着いた態度でいるのが格別であるのを、いつもより一層静かに控えていらっしゃる様子は、「どうして内親王たちのお側に夫として並んでも、全然遜色はあるまいが、ただ今度の一件については、どちらもまことに思慮のない点に、ほんとうに罪は許せないのだ」などと、お目が止まりなさるが、平静を装って、とてもやさしく、<BR>⏎ 「特別の用件もなくて、お会いすることも久し振りになってしまった。ここいく月は、あちこちの病人を看病して、気持ちの余裕もなかった間に、院の御賀のために、こちらにいらっしゃる内親王が、御法事をして差し上げなさる予定になっていたが、次々と支障が続出して、このように年もおし迫ったので、思うとおりにもできず、型通りに精進料理を差し上げる予定だが、御賀などと言うと、仰々しいようだが、わが家に生まれた子供たちの数が多くなったのを御覧に入れようと、舞などを習わせ始めたが、その事だけでも予定どおり執り行おうと思って。調子をきちんと合わせることは、誰にお願いできようかと思案に窮していたが、いく月もお顔を見せにならなかった恨みも捨てました」<BR>⏎ | 823-824 | まだ上達部なども参上なさっていない時分であった。いつものようにお側近くの御簾の中に招き入れなさって、母屋の御簾を下ろしていらっしゃる。なるほど,実にひどく痩せて蒼い顔をしていて、いつもの陽気で派手な振る舞いは、弟の君たちに気圧されて、いかにも嗜みありげに落ち着いた態度でいるのが格別であるのを、いつもより一層静かに控えていらっしゃる様子は、「どうして内親王たちのお側に夫として並んでも、全然遜色はあるまいが、ただ今度の一件については、どちらもまことに思慮のない点に、ほんとうに罪は許せないのだ」などと、お目が止まりなさるが、平静を装って、とてもやさしく、<BR>⏎ 「特別の用件もなくて、お会いすることも久し振りになってしまった。ここいく月は、あちこちの病人を看病して、気持ちの余裕もなかった間に、院の御賀のために、こちらにいらっしゃる内親王が、御法事をして差し上げなさる予定になっていたが、次々と支障が続出して、このように年もおし迫ったので、思うとおりにもできず、型通りに 精進料理を差し上げる予定だが、御賀などと言うと、仰々しいようだが、わが家に生まれた子供たちの数が多くなったのを御覧に入れようと、舞などを習わせ始めたが、その事だけでも予定どおり執り行おうと思って。調子をきちんと合わせることは、誰にお願いできようかと思案に窮していたが、いく月もお顔を見せにならなかった恨みも捨てました」<BR>⏎ |
| d1 | 920 | <P>⏎ | ||
| version35 | 921 | <A NAME="in117">[第七段 柏木と御賀について打ち合わせる]</A><BR> | 826 | |
| c1 | 923 | 院のお年がちょうどにおなりあそばす年であり、誰よりも人一倍しっかりしたお祝いをして差し上げるよう、致仕の大臣も思って申されましたが、『冠を挂け、車を惜しまず捨てて官職を退いた身で、進み出てお祝い申し上げるようなのも身の置き所がない。なるほど、そなたは身分が低いと言っても、自分と同じように麓い気持ちは持っていよう。その気持ちを御覧に入れなさい』と、催促申されることがございましたので、重病をあれこれ押して、参上いたしました。<BR>⏎ | 828 | 院のお年がちょうどにおなりあそばす年であり、誰よりも人一倍しっかりしたお祝いをして差し上げるよう、致仕の大臣も思って申されましたが、『冠を挂け、車を惜しまず捨てて官職を退いた身で、進み出てお祝い申し上げるようなのも 身の置き所がない。なるほど,そなたは身分が低いと言っても、自分と同じように深い気持ちは持っていよう。その気持ちを御覧に入れなさい』と、催促申されることがございましたので、重病をあれこれ押して、参上いたしました。<BR>⏎ |
| c2 | 927-928 | あちらの院は、どのような事でもお心得のないことは、ほとんどない中でも、音楽の方面には御熱心で、まことに御立派に精通していらっしゃるから、そのように世をお捨てになっているようだが、静かにお心を澄まして音楽をお聞きになることは、このような時にこそ気づかいすべきでしょう。あの大将と一緒に面倒を見て、舞の子供たちの心構えや、嗜みをよく教えてやって下さい。音楽の師匠などというものは、ただ自分の専門についてはともかくも、他はまったくどうしようもないものです」<BR>⏎ などと、たいそうやさしくお頼みになるので、嬉しく思う一方で、辛く身の縮む思いがして、口数少なくこの御前を早く去りたいと思うので、いつものようにこまごまと申し上げず、やっとの思いで下がりになった。<BR>⏎ | 832-833 | あちらの院は、どのような事でもお心得のないことは、ほとんどない中でも、音楽の方面には御熱心で、まことに御立派に精通していらっしゃるから、そのように世をお捨てになっているようだが、静かにお心を澄まして音楽をお聞きになることは、このような時にこそ気づかいすべきでしょう。あの大将と一緒に面倒を見て、舞の子供たちの心構えや,嗜みを よく教えてやって下さい。音楽の師匠などというものは、ただ自分の専門についてはともかくも、他はまったくどうしようもないものです」<BR>⏎ などと,たいそうやさしくお頼みになるので、嬉しく思う一方で、辛く身の縮む思いがして、口数少なく この御前を早く去りたいと思うので、いつものようにこまごまと申し上げず、やっとの思いで下がりになった。<BR>⏎ |
| d1 | 930 | <P>⏎ | ||
| version35 | 931 | <H4>第十二章 柏木の物語 源氏から睨まれる</H4> | 835 | |
| version35 | 932 | <A NAME="in121">[第一段 御賀の試楽の当日]</A><BR> | 836 | |
| c1 | 933 | 今日は、このような試楽の日であるが、ご夫人方が見物なさるので、見がいのないようにはしまいと思って、あの御賀の日は、赤い白橡に葡萄染の下襲を着るのであろう、今日は、青色に蘇芳襲の下襲を着て、楽人三十人は、今日は白襲を着ているが、東南の方の釣殿に続いている廊を楽所にして、山の南の側から御前に出る所で、「仙遊霞」という楽を奏して、雪がほんのわずか散らついたので、春の隣に近い、梅の花の様子が見栄えがしてほころびかけていた。<BR>⏎ | 837 | 今日は、このような試楽の日であるが、ご夫人方が見物なさるので、見がいのないようにはしまいと思って、あの御賀の日は、赤い白橡に 葡萄染の下襲を着るのであろう、今日は、青色に蘇芳襲の下襲を着て、楽人三十人は、今日は白襲を着ているが、東南の方の釣殿に続いている廊を楽所にして、山の南の側から御前に出る所で、「仙遊霞」という楽を奏して、雪がほんのわずか散らついたので、春の隣に近い、梅の花の様子が見栄えがしてほころびかけていた。<BR>⏎ |
| c1 | 936 | また、大将の典侍がお生みになった二郎君と、式部卿宮の兵衛督と言った人で、今では源中納言になっている方の御子は「皇じょう」。右の大殿の三郎君は、「陵王」。大将殿の太郎は、「落蹲」。その他では「太平楽」、「喜春楽」などと言ういくつもの舞を、同じ一族の子供たちや大人たちなどが舞ったのであった。<BR>⏎ | 840 | また,大将の典侍がお生みになった二郎君と、式部卿宮の兵衛督と言った人で、今では源中納言になっている方の御子は「皇じょう」。右の大殿の三郎君は、「陵王」。大将殿の太郎は、「落蹲」。その他では「太平楽」、「喜春楽」などと言ういくつもの舞を、同じ一族の子供たちや 大人たちなどが舞ったのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 938 | <P>⏎ | ||
| version35 | 939 | <A NAME="in122">[第二段 源氏、柏木に皮肉を言う]</A><BR> | 842 | |
| c2 | 941-942 | 「寄る年波とともに、酔泣きの癖は止められないものだな。衛門督が目を止めてほほ笑んでいるのは、まことに恥ずかしくなるよ。そうは言っても、もう暫くの間だろう。さかさまには進まない年月さ。老いは逃れることのできないものだよ」<BR>⏎ と言って、ちらっと御覧やりなさると、誰よりも一段とかしこまって塞ぎ込んで、真実に気分もたいそう悪いので、試楽の素晴らしさも目に入らない気分でいる人をつかまえて、わざと名指しで、酔ったふりをしながらこのようにおっしゃる。冗談のようであるが、ますます胸が痛くなって、杯が回って来るのも頭が痛く思われるので、真似事だけでごまかすのを、お見咎めなさって、杯をお持ちになりながら何度も無理にお勧めなさるので、いたたまれない思いで、困っている様子、普通の人と違って優雅である。<BR>⏎ | 844-845 | 「寄る年波とともに、酔泣きの癖は止められないものだな。衛門督が 目を止めてほほ笑んでいるのは、まことに恥ずかしくなるよ。そうは言っても、もう暫くの間だろう。さかさまには進まない年月さ。老いは逃れることのできないものだよ」<BR>⏎ と言って,ちらっと御覧やりなさると、誰よりも一段とかしこまって塞ぎ込んで、真実に気分もたいそう悪いので、試楽の素晴らしさも目に入らない気分でいる人をつかまえて、わざと名指しで、酔ったふりをしながらこのようにおっしゃる。冗談のようであるが、ますます胸が痛くなって、杯が回って来るのも頭が痛く思われるので、真似事だけでごまかすのを、お見咎めなさって、杯をお持ちになりながら何度も無理にお勧めなさるので、いたたまれない思いで、困っている様子、普通の人と違って優雅である。<BR>⏎ |
| d1 | 947 | <P>⏎ | ||
| version35 | 948 | <A NAME="in123">[第三段 柏木、女二の宮邸を出る]</A><BR> | 850 | |
| c5 | 951-955 | と、お側に御几帳だけを間に置いてご看病なさる。<BR>⏎ 「ごもっともなことです。取るに足りない身の上で、及びもつかないご結婚を、なまじお許し頂きまして、こうしてお側におりますその感謝には、長生きをしまして、つまらない身の上も、もう少し人並みとなるところを御覧に入れたいと存じておりましたが、とてもひどく、このようにまでなってしまいましたので、せめて深い愛情だけでも御覧になって頂けずに終わってしまうのではないか存じられまして、生き永らえられそうにない気がするにつけても、まこと安心してあの世に行けそうにも存じられません」<BR>⏎ などと、お互いにお泣きになって、すぐにもお移りにならないので、再び母北の方が、気がかりにお思いになって、<BR>⏎ 「どうして、まずは顔を見せようとはお思いになさらないのだろうか。わたしは、少しでも気分のいつもと違って心細い時は、大勢の子らの中で、まず第一に会いたくなり頼りに思っているのです。このように大変に気がかりなこと」<BR>⏎ とお恨み申し上げなさるのも、これもまた、もっともなことである。<BR>⏎ | 853-857 | と,お側に御几帳だけを間に置いてご看病なさる。<BR>⏎ 「ごもっともなことです。取るに足りない身の上で、及びもつかないご結婚を、なまじお許し頂きまして、こうしてお側におりますその感謝には、長生きをしまして、つまらない身の上も、もう少し人並みとなるところを御覧に入れたい と存じておりましたが、とてもひどく、このようにまでなってしまいましたので、せめて深い愛情だけでも御覧になって頂けずに終わってしまうのではないか存じられまして、生き永らえられそうにない気がするにつけても、まこと安心してあの世に行けそうにも存じられません」<BR>⏎ などと,お互いにお泣きになって、すぐにもお移りにならないので、再び母北の方が、気がかりにお思いになって、<BR>⏎ 「どうして,まずは顔を見せようとはお思いになさらないのだろうか。わたしは,少しでも気分のいつもと違って心細い時は、大勢の子らの中で、まず第一に会いたくなり頼りに思っているのです。このように大変に気がかりなこと」<BR>⏎ とお恨み申し上げなさるのも、これもまた,もっともなことである。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 957-959 | 今はいよいよ危崙とお聞きあそばしたら、たいそうこっそりお越しになってお会い下さい。必ず再びお会いしましょう。妙に気がつかないふつつかな性分で、何かにつけて疎略な扱いであったとお思いになることがおありだったでしょうと、後悔されます。このような寿命とは知らないで、将来末長くご一緒にとばかり思っておりました」<BR>⏎ と言って、泣き泣きお移りになった。宮はお残りになって、何とも言いようもなく恋い焦がれなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 859-860 | 今はいよいよ危篤とお聞きあそばしたら、たいそうこっそりお越しになってお会い下さい。必ず再びお会いしましょう。妙に気がつかないふつつかな性分で、何かにつけて疎略な扱いであったとお思いになることがおありだったでしょうと、後悔されます。このような寿命とは知らないで、将来末長くご一緒にとばかり思っておりました」<BR>⏎ と言って,泣き泣きお移りになった。宮はお残りになって、何とも言いようもなく恋い焦がれなさった。<BR>⏎ |
| version35 | 960 | <A NAME="in124">[第四段 柏木の病、さらに重くなる]</A><BR> | 861 | |
| c1 | 961 | 大殿ではお待ち受け申し上げなさって、いろいろと大騒ぎをなさる。そうはいえ、急変するようなご病気の様子でもなく、ここいく月も食べ物などをまったくお召し上がりにならなかったが、ますますちょっとした柑子などでさえお手を触れにならず、ただ、冥界に引き込まれていくようにお見えになる。<BR>⏎ | 862 | 大殿ではお待ち受け申し上げなさって、いろいろと大騒ぎをなさる。そうはいえ,急変するようなご病気の様子でもなく、ここいく月も食べ物などをまったくお召し上がりにならなかったが、ますますちょっとした柑子などでさえお手を触れにならず、ただ,冥界に引き込まれていくようにお見えになる。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 965-967 | 例によって、五十寺の御誦経、それから、あちらのおいでになる御寺でも、摩訶毘廬遮那の御誦経が。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 866 | 例によって、五十寺の御誦経、それから,あちらのおいでになる御寺でも、摩訶毘廬遮那の御誦経が。<BR>⏎ |
| d1 | 975 | ⏎ | ||
| i0 | 878 | |||
| diff | src/original/version36.html | src/modified/version36.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version36 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 49 | <LI>夕霧、一条宮邸を訪問---<A HREF="#in51">一条宮におかれては、それ以上に、お目にかかれぬままご逝去</A>⏎ | 46 | <LI>夕霧、一条宮邸を訪問---<A HREF="#in51">一条宮におかれては、それ以上に,お目にかかれぬままご逝去</A>⏎ |
| d1 | 56 | <P>⏎ | ||
| version36 | 57 | <H4>第一章 柏木の物語 女三の宮、薫を出産</H4> | 53 | |
| version36 | 58 | <A NAME="in11">[第一段 柏木、病気のまま新年となる]</A><BR> | 54 | |
| c3 | 60-62 | 「無理して死のうと思う命、その甲斐もなく、罪障のきっと重いだろうことを思う、その考えは考えとして、また一方で、むやみに、この世から出離しがたく、惜しんで留めて置きたい身の上であろうか。幼かったときから、思う考えは格別で、どのようなことでも、人にはいま一段抜きんでたいと、公事私事につけて、並々ならず気位高く持していたが、その望みも叶いがたかった」<BR>⏎ と、一つ二つのつまずき事に、わが身に自信をなくして以来、大方の世の中がおもしろくなく思うようになって、来世の修業に心深く惹かれたのだが、両親のご悲嘆を思うと、山野にもさまよい込む道の強い障害ともなるにちがいなく思われたので、あれやこれやと紛らわし紛らわし過ごしてきたのだが、とうとう、<BR>⏎ 「やはり、世の中には生きていけそうにも思われない悩みが、並々ならず身に付き纏っているのは、自分より外に誰を恨めようか、自分の料簡違いから破滅を招いたのだろう」<BR>⏎ | 56-58 | 「無理して死のうと思う命、その甲斐もなく、罪障のきっと重いだろうことを思う、その考えは考えとして、また一方で,むやみに,この世から出離しがたく、惜しんで留めて置きたい身の上であろうか。幼かったときから、思う考えは格別で、どのようなことでも、人にはいま一段抜きんでたいと、公事私事につけて、並々ならず気位高く持していたが、その望みも叶いがたかった」<BR>⏎ と,一つ二つのつまずき事に、わが身に自信をなくして以来、大方の世の中がおもしろくなく思うようになって、来世の修業に心深く惹かれたのだが、両親のご悲嘆を思うと、山野にもさまよい込む道の強い障害ともなるにちがいなく思われたので、あれやこれやと紛らわし紛らわし過ごしてきたのだが、とうとう、<BR>⏎ 「やはり,世の中には生きていけそうにも思われない悩みが、並々ならず身に付き纏っているのは、自分より外に誰を恨めようか、自分の料簡違いから破滅を招いたのだろう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 64-67 | 「神、仏にも不平の訴えようがないのは、これは皆前世からの因縁なのであろう。誰も千年を生きる松ではない一生は、結局いつまでも生きていられるものではないから、このように、あの人からも、少しは思い出してもらえるようなところで、かりそめの憐れみなりともかけて下さる方があろうということを、一筋の思いに燃え尽きたしるしとはしよう。<BR>⏎ 無理に生き永られていれば、自然ととんでもない噂もたち、自分にも相手にも、容易ならぬ面倒なことが出て来るようになるよりは、不届き者よと、ご不快に思われた方にも、いくら何でもお許しになろう。何もかものこと、臨終の折には、一切帳消しになるものである。また、これ以外の過失はほんとないので、長年何かの催しの機会には、いつも親しくお召し下さったことからの憐れみも生じて来よう」<BR>⏎ などと、所在なく思い続けるが、いくら考えてみても、実にどうしようもない。<BR>⏎ <P>⏎ | 60-62 | 「神、仏にも不平の訴えようがないのは、これは皆前世からの因縁なのであろう。誰も千年を生きる松ではない一生は、結局いつまでも生きていられるものではないから、このように,あの人からも、少しは思い出してもらえるようなところで、かりそめの憐れみなりともかけて下さる方があろうということを、一筋の思いに燃え尽きたしるしとはしよう。<BR>⏎ 無理に生き永られていれば、自然ととんでもない噂もたち、自分にも相手にも、容易ならぬ面倒なことが出て来るようになるよりは、不届き者よと、ご不快に思われた方にも、いくら何でもお許しになろう。何もかものこと、臨終の折には、一切帳消しになるものである。また,これ以外の過失はほんとないので、長年何かの催しの機会には、いつも親しくお召し下さったことからの憐れみも生じて来よう」<BR>⏎ などと,所在なく思い続けるが、いくら考えてみても、実にどうしようもない。<BR>⏎ |
| version36 | 68 | <A NAME="in12">[第二段 柏木、女三の宮へ手紙]</A><BR> | 63 | |
| cd2:1 | 72-73 | 「もうこれが最期と燃えるわたしの荼毘の煙もくすぶって<BR>⏎ 空に上らずあなたへの諦め切れない思いがなおもこの世に残ることでしょう<BR>⏎ | 67 | 「もうこれが最期と燃えるわたしの荼毘の煙もくすぶって<BR> 空に上らずあなたへの諦め切れない思いがなおもこの世に残ることでしょう<BR>⏎ |
| c1 | 79 | 「やはり、このお返事。本当にこれが最後でございましょう」<BR>⏎ | 73 | 「やはり,このお返事。本当にこれが最後でございましょう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 81-84 | 「わたしも、今日か明日かの心地がして、何となく心細いので、人の死は悲しいものと思いますが、まことに嫌な事であったと懲り懲りしてしまったので、とてもその気になれません」<BR>⏎ とおっしゃって、どうしてもお書きにならない。<BR>⏎ ご性質が、しっかりしていて重々しいというのではないが、気の置ける方のご機嫌が時々良くないのが、とても恐く辛く思われるのであろう。けれども、御硯などを用意して是非にとお促し申し上げるので、しぶしぶとお書きになる。受け取って、こっそりと宵闇に紛れて、あちらに持って上がった。<BR>⏎ <P>⏎ | 75-77 | 「わたしも,今日か明日かの心地がして、何となく心細いので、人の死は悲しいものと思いますが、まことに嫌な事であったと懲り懲りしてしまったので、とてもその気になれません」<BR>⏎ とおっしゃって,どうしてもお書きにならない。<BR>⏎ ご性質が、しっかりしていて重々しいというのではないが、気の置ける方のご機嫌が 時々良くないのが、とても恐く辛く思われるのであろう。けれども,御硯などを用意して是非にとお促し申し上げるので、しぶしぶとお書きになる。受け取って、こっそりと宵闇に紛れて、あちらに持って上がった。<BR>⏎ |
| version36 | 85 | <A NAME="in13">[第三段 柏木、侍従を招いて語る]</A><BR> | 78 | |
| c2 | 89-90 | 「ええ、嫌なことだ。罪障の深い身だからであろうか、陀羅尼の大声が聞こえて来るのは、まことに恐ろしくて、ますます死んでしまいそうな気がする」<BR>⏎ と言って、そっと病床を抜け出して、この侍従とお話し合いになる。<BR>⏎ | 82-83 | 「ええ,嫌なことだ。罪障の深い身だからであろうか、陀羅尼の大声が聞こえて来るのは、まことに恐ろしくて、ますます死んでしまいそうな気がする」<BR>⏎ と言って,そっと病床を抜け出して、この侍従とお話し合いになる。<BR>⏎ |
| c2 | 93-94 | などと、心からお頼みなさるのも、まことにいたいたしい。<BR>⏎ 「あれをお聞きなさい。何の罪咎ともご存じならないのに。占い当てたという女の霊、本当にそのようなあの方のご執念がわたしの身に取りついているならば、愛想の尽きたこの身もうって変わって、大切なものとなるだろう。<BR>⏎ | 86-87 | などと,心からお頼みなさるのも、まことにいたいたしい。<BR>⏎ 「あれをお聞きなさい。何の罪咎ともご存じならないのに、占い当てたという女の霊、本当にそのようなあの方のご執念がわたしの身に取りついているならば、愛想の尽きたこの身もうって変わって、大切なものとなるだろう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 97-98 | などと、とても弱々しく、脱殻のような様子で、泣いたり笑ったりしてお話しになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 90 | などと,とても弱々しく、脱殻のような様子で、泣いたり笑ったりしてお話しになる。<BR>⏎ |
| version36 | 99 | <A NAME="in14">[第四段 女三の宮の返歌を見る]</A><BR> | 91 | |
| c1 | 102 | などと、あれこれと思い詰めていらっしゃる執着の深いことを、一方では嫌で恐ろしく思うが、おいたわしい気持ちは、抑え難く、この人もひどく泣く。<BR>⏎ | 94 | などと,あれこれと思い詰めていらっしゃる執着の深いことを、一方では嫌で恐ろしく思うが、おいたわしい気持ちは、抑え難く、この人もひどく泣く。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 105-106 | わたしも一緒に煙となって消えてしまいたいほどです<BR>⏎ 辛いことを思い嘆く悩みの競いに<BR>⏎ | 97 | わたしも一緒に煙となって消えてしまいたいほどです<BR> 辛いことを思い嘆く悩みの競いに<BR>⏎ |
| cd4:3 | 109-112 | 「いやもう、この煙だけが、この世の思い出であろう。はかないことであったな」<BR>⏎ と、ますますお泣きになって、お返事、横に臥せりながら、筆を置き置きしてお書きになる。文句の続きもおぼつかなく、筆跡も妙な鳥の脚跡のようになって、<BR>⏎ 「行く方もない空の煙となったとしても<BR>⏎ 思うお方のあたりは離れまいと思う<BR>⏎ | 100-102 | 「いやもう,この煙だけが、この世の思い出であろう。はかないことであったな」<BR>⏎ と,ますますお泣きになって、お返事、横に臥せりながら、筆を置き置きしてお書きになる。文句の続きもおぼつかなく、筆跡も妙な鳥の脚跡のようになって、<BR>⏎ 「行く方もない空の煙となったとしても<BR> 思うお方のあたりは離れまいと思う<BR>⏎ |
| c1 | 116 | と、泣き泣きいざってお入りになったので、いつもはいつまでも前に座らせて、とりとめもない話までをおさせになりたくなさっていたのに、お言葉の数も少ない、と思うと悲しくてならないので、帰ることも出来ない。ご様子を乳母も話して、ひどく泣きうろたえる。大臣などがご心配された有様は大変なことであるよ。<BR>⏎ | 106 | と,泣き泣きいざってお入りになったので、いつもはいつまでも前に座らせて、とりとめもない話までをおさせになりたくなさっていたのに、お言葉の数も少ない、と思うと悲しくてならないので、帰ることも出来ない。ご様子を乳母も話して、ひどく泣きうろたえる。大臣などがご心配された有様は大変なことであるよ。<BR>⏎ |
| d1 | 121 | <P>⏎ | ||
| version36 | 122 | <A NAME="in15">[第五段 女三の宮、男子を出産]</A><BR> | 111 | |
| c1 | 124 | 「ああ、残念なことよ。疑わしい点もなくてお世話申すのであったら、おめでたく喜ばしい事であろうに」<BR>⏎ | 113 | 「ああ,残念なことよ。疑わしい点もなくてお世話申すのであったら、おめでたく喜ばしい事であろうに」<BR>⏎ |
| c1 | 129 | 「このように、つらい疑いがつきまとっていては、世話のいらない男子でいらしたのも良かったことだ。それにしても、不思議なことだなあ。自分が一生涯恐ろしいと思っていた事の報いのようだ。この世で、このような思いもかけなかった応報を受けたのだから、来世での罪も、少しは軽くなったろうか」<BR>⏎ | 118 | 「このように,つらい疑いがつきまとっていては、世話のいらない男子でいらしたのも良かったことだ。それにしても、不思議なことだなあ。自分が一生涯恐ろしいと思っていた事の報いのようだ。この世で、このような思いもかけなかった応報を受けたのだから、来世での罪も、少しは軽くなったろうか」<BR>⏎ |
| c1 | 133 | 五日の夜、中宮の御方から、御産婦のお召し上がり物、女房の中にも、身分相応の饗応の物を、公式のお祝いとして盛大に調えさせなさった。御粥、屯食を五十具、あちらこちらの饗応は、六条院の下部、院庁の召次所の下々の者たちまで、堂々としたなさり方であった。中宮の宮司、大夫をはじめとして、冷泉院の殿上人が、皆参上した。<BR>⏎ | 122 | 五日の夜、中宮の御方から、御産婦のお召し上がり物、女房の中にも、身分相応の饗応の物を、公式のお祝いとして盛大に調えさせなさった。御粥,屯食を五十具、あちらこちらの饗応は、六条院の下部、院庁の召次所の下々の者たちまで、堂々としたなさり方であった。中宮の宮司、大夫をはじめとして、冷泉院の殿上人が、皆参上した。<BR>⏎ |
| d1 | 136 | <P>⏎ | ||
| version36 | 137 | <A NAME="in16">[第六段 女三の宮、出家を決意]</A><BR> | 125 | |
| c1 | 138 | 宮は、あれほどか弱いご様子で、とても気味の悪い、初めてのご出産で、恐く思われなさったので、御薬湯などもお召し上がりにならず、わが身の辛い運命を、こうしたことにつけても心底お悲しみになって、<BR>⏎ | 126 | 宮は、あれほどか弱いご様子で、とても気味の悪い、初めてのご出産で,恐く思われなさったので、御薬湯などもお召し上がりにならず、わが身の辛い運命を、こうしたことにつけても心底お悲しみになって、<BR>⏎ |
| c1 | 142 | と、おいとしみ申し上げるので、小耳におはさみなさって、<BR>⏎ | 130 | と,おいとしみ申し上げるので、小耳におはさみなさって、<BR>⏎ |
| c5 | 146-150 | 「世の中の無常な有様を見ていると、この先も短く、何となく頼りなくて、勤行に励むことが多くなっておりますので、このようなご出産の後は騒がしい気がするので、参りませんが、いかがですか、ご気分はさわやかになりましたか。おいたわしいことです」<BR>⏎ と言って、御几帳の側からお覗き込みになった。御髪をお上げになって、<BR>⏎ 「やはり、生きていられない気が致しますが、こうしたわたしは罪障も重いことです。尼になって、もしやそのために生き残れるかどうか試してみて、また死んだとしても、罪障をなくすことができるかと存じます」<BR>⏎ と、いつものご様子よりは、とても大人らしく申し上げなさるので、<BR>⏎ 「まことに嫌な、縁起でもないお言葉です。どうして、そんなにまでお考えになるのですか。このようなことは、そのように恐ろしい事でしょうが、それだからと言って命が永らえないというなら別ですが」<BR>⏎ | 134-138 | 「世の中の無常な有様を見ていると、この先も短く、何となく頼りなくて、勤行に励むことが多くなっておりますので、このようなご出産の後は騒がしい気がするので、参りませんが、いかがですか,ご気分はさわやかになりましたか。おいたわしいことです」<BR>⏎ と言って,御几帳の側からお覗き込みになった。御髪をお上げになって、<BR>⏎ 「やはり,生きていられない気が致しますが、こうしたわたしは罪障も重いことです。尼になって、もしやそのために生き残れるかどうか試してみて、また死んだとしても、罪障をなくすことができるかと存じます」<BR>⏎ と,いつものご様子よりは、とても大人らしく申し上げなさるので、<BR>⏎ 「まことに嫌な、縁起でもないお言葉です。どうして,そんなにまでお考えになるのですか。このようなことは、そのように恐ろしい事でしょうが、それだからと言って命が永らえないというなら別ですが」<BR>⏎ |
| c1 | 154 | 「やはり、気をしっかりお持ちなさい。心配なさることはありますまい。最期かと思われた人も、平癒した例が身近にあるので、やはり頼みになる世の中です」<BR>⏎ | 142 | 「やはり,気をしっかりお持ちなさい。心配なさることはありますまい。最期かと思われた人も、平癒した例が身近にあるので、やはり頼みになる世の中です」<BR>⏎ |
| d1 | 158 | <P>⏎ | ||
| version36 | 159 | <H4>第二章 女三の宮の物語 女三の宮の出家</H4> | 146 | |
| version36 | 160 | <A NAME="in21">[第一段 朱雀院、夜闇に六条院へ参上]</A><BR> | 147 | |
| c1 | 163 | と、御勤行も乱れて御心配あそばすのであった。<BR>⏎ | 150 | と,御勤行も乱れて御心配あそばすのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 166 | と、ひどくお泣きになる。このように申し上げなさるご様子、しかるべき人からお伝え申し上げさせなさったので、とても我慢できず悲しくお思いになって、あってはならないこととはお思いになりながら、夜の闇に隠れてお出ましになった。<BR>⏎ | 153 | と,ひどくお泣きになる。このように申し上げなさるご様子、しかるべき人からお伝え申し上げさせなさったので、とても我慢できず悲しくお思いになって、あってはならないこととはお思いになりながら、夜の闇に隠れてお出ましになった。<BR>⏎ |
| d1 | 172 | <P>⏎ | ||
| version36 | 173 | <A NAME="in22">[第二段 朱雀院、女三の宮の希望を入れる]</A><BR> | 159 | |
| c1 | 175 | と言って、御帳台の前に、御褥を差し上げてお入れ申し上げなさる。宮を、あれこれと女房たちが身なりをお整い申して、浜床の下方にお下ろし申し上げる。御几帳を少し押し除けさせなさって、<BR>⏎ | 161 | と言って,御帳台の前に、御褥を差し上げてお入れ申し上げなさる。宮を、あれこれと女房たちが身なりをお整い申して、浜床の下方にお下ろし申し上げる。御几帳を少し押し除けさせなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 177 | とおっしゃって、お目をお拭いあそばす。宮も、とても弱々しくお泣きになって、<BR>⏎ | 163 | とおっしゃって,お目をお拭いあそばす。宮も、とても弱々しくお泣きになって、<BR>⏎ |
| d1 | 188 | <P>⏎ | ||
| version36 | 189 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、女三の宮の出家に狼狽]</A><BR> | 174 | |
| c1 | 192 | 自分の生きている間に、そのようにしてでも、不安がないようにしておき、またあの大殿も、そうは言っても、冷淡には決してお見捨てなさるまい。その気持ちも見届けよう」<BR>⏎ | 177 | 自分の生きている間に、そのようにしてでも、不安がないようにしておき、またあの大殿も、そうは言っても、冷淡には決してお見捨てなさるまい. その気持ちも見届けよう」<BR>⏎ |
| c1 | 194 | 「それでは、このように参った機会に、せめて出家の戒をお受けになることだけでもして、仏縁を結ぶことにしよう」<BR>⏎ | 179 | 「それでは,このように参った機会に、せめて出家の戒をお受けになることだけでもして、仏縁を結ぶことにしよう」<BR>⏎ |
| c1 | 197 | 「どうしてか、そう長くはないわたしを捨てて、そのようにお考えになったのですか。やはり、もう暫く心を落ち着けなさって、御薬湯を上がり、食べ物を召し上がりなさい。尊い事ではあるが、お身体が弱くては、勤行もおできになれようか。ともかくも、養生なさってから」<BR>⏎ | 182 | 「どうしてか,そう長くはないわたしを捨てて、そのようにお考えになったのですか。やはり,もう暫く心を落ち着けなさって、御薬湯を上がり、食べ物を召し上がりなさい。尊い事ではあるが、お身体が弱くては、勤行もおできになれようか。ともかくも、養生なさってから」<BR>⏎ |
| d1 | 199 | <P>⏎ | ||
| version36 | 200 | <A NAME="in24">[第四段 朱雀院、夜明け方に山へ帰る]</A><BR> | 184 | |
| c1 | 208 | 「わたしの寿命も、今日か明日かと思われました時に、また他に面倒を見る人もなくて、寄るべもなく暮らすことが、気の毒で放っておけないように思われましたので、あなたの本意ではなかったでしょうが、このようにお願い申して、今まではずっと安心しておりましたが、もしも宮が命を取り留めましたら、普通とは変わった尼姿で、人の大勢いる中で生活するのは不都合でしょうが、適当な山里などに離れ住む様子も、またそうはいっても心細いことでしょう。尼の身の上相応に、やはり、今まで通りお見捨てなさらずに」<BR>⏎ | 192 | 「わたしの寿命も、今日か明日かと思われました時に、また他に面倒を見る人もなくて、寄るべもなく暮らすことが、気の毒で放っておけないように思われましたので、あなたの本意ではなかったでしょうが、このようにお願い申して、今まではずっと安心しておりましたが、もしも宮が命を取り留めましたら、普通とは変わった尼姿で、人の大勢いる中で生活するのは不都合でしょうが、適当な山里などに離れ住む様子も、またそうはいっても心細いことでしょう。尼の身の上相応に、やはり,今まで通りお見捨てなさらずに」<BR>⏎ |
| c1 | 211 | と答えて、なるほど、とても辛そうに思っていらっしゃった。<BR>⏎ | 195 | と答えて、なるほど,とても辛そうに思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c2 | 214-215 | と言って、ちょっと笑う。まことに驚きあきれて、<BR>⏎ 「それでは、この物の怪がここにも、離れずにいたのか」<BR>⏎ | 198-199 | と言って,ちょっと笑う。まことに驚きあきれて、<BR>⏎ 「それでは,この物の怪がここにも、離れずにいたのか」<BR>⏎ |
| d1 | 217 | <P>⏎ | ||
| version36 | 218 | <H4>第三章 柏木の物語 夕霧の見舞いと死去</H4> | 201 | |
| version36 | 219 | <A NAME="in31">[第一段 柏木、権大納言となる]</A><BR> | 202 | |
| c1 | 220 | あの衛門督は、このような御事をお聞きになって、ますます死んでしまいそうな気がなさって、まるきり回復の見込みもなさそうになってしまわれた。女宮がしみじみと思われなさるので、こちらにお越しになることは、今さら軽々しいようにも思われますが、母上も大臣もこのようにぴったり付き添っていらっしゃるので、何かの折にうっかりお顔を拝見なさるようなことがあっては、困るとお思いになって、<BR>⏎ | 203 | あの衛門督は、このような御事をお聞きになって、ますます死んでしまいそうな気がなさって、まるきり回復の見込みもなさそうになってしまわれた。女宮がしみじみと思われなさるので、こちらにお越しになることは、今さら軽々しいようにも思われますが、母上も大臣も このようにぴったり付き添っていらっしゃるので、何かの折にうっかりお顔を拝見なさるようなことがあっては、困るとお思いになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 222-223 | とおっしゃるが、まったくお許し申し上げなさらない。<BR>⏎ 皆にも、この宮の御事をお頼みなさる。最初から母御息所は、あまりお気が進みでなかったのだが、この大臣自身が奔走して熱心に懇請申し上げなさって、そのお気持ちの深いことにお折れになって、院におかれても、しかたないとお許しになったのだが、二品の宮の御事にお心をお痛めになっていた折に、<BR>⏎ | 205 | とおっしゃるが、まったくお許し申し上げなさらない。皆にも、この宮の御事をお頼みなさる。最初から母御息所は、あまりお気が進みでなかったのだが、この大臣自身が奔走して熱心に懇請申し上げなさって、そのお気持ちの深いことにお折れになって、院におかれても、しかたないとお許しになったのだが、二品の宮の御事にお心をお痛めになっていた折に、<BR>⏎ |
| c5 | 225-229 | と、仰せられたとお聞きになったのを、恐れ多いことだと思い出す。<BR>⏎ 「こうして、後にお残し申し上げてしまうようだと思うにつけても、いろいろとお気の毒だが、思う通りには行かない命なので、添い遂げられない夫婦の仲が恨めしくて、お嘆きになるだろうことがお気の毒なこと。どうか気をつけてお世話してさし上げて下さい」<BR>⏎ と、母上にもお頼み申し上げなさる。<BR>⏎ 「まあ、何と縁起でもないことを。あなたに先立たれては、どれほど生きていられるわたしだと思って、こうまで先々の事をおっしゃるの」<BR>⏎ と言って、ただもうお泣きになるばかりなので、十分にお頼み申し上げになることができない。右大弁の君に、一通りの事は詳しくお頼み申し上げなさる。<BR>⏎ | 207-211 | と,仰せられたとお聞きになったのを、恐れ多いことだと思い出す。<BR>⏎ 「こうして,後にお残し申し上げてしまうようだと思うにつけても、いろいろとお気の毒だが、思う通りには行かない命なので、添い遂げられない夫婦の仲が恨めしくて、お嘆きになるだろうことが お気の毒なこと。どうか気をつけてお世話してさし上げて下さい」<BR>⏎ と,母上にもお頼み申し上げなさる。<BR>⏎ 「まあ,何と縁起でもないことを。あなたに先立たれては、どれほど生きていられるわたしだと思って、こうまで先々の事をおっしゃるの」<BR>⏎ と言って,ただもうお泣きになるばかりなので、十分にお頼み申し上げになることができない。右大弁の君に、一通りの事は詳しくお頼み申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 232 | <P>⏎ | ||
| version36 | 233 | <A NAME="in32">[第二段 夕霧、柏木を見舞う]</A><BR> | 214 | |
| c2 | 235-236 | 「どうぞ、こちらへお入り下さい。まことに失礼な恰好でおりますご無礼は、何とぞお許し下さい」<BR>⏎ と言って、臥せっていらっしゃる枕元に、僧たちを暫く外にお出しになって、お入れ申し上げなさる。<BR>⏎ | 216-217 | 「どうぞ,こちらへお入り下さい。まことに失礼な恰好でおりますご無礼は、何とぞお許し下さい」<BR>⏎ と言って,臥せっていらっしゃる枕元に、僧たちを暫く外にお出しになって、お入れ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 239 | と言って、几帳の端を引き上げなさったところ、<BR>⏎ | 220 | と言って,几帳の端を引き上げなさったところ、<BR>⏎ |
| c1 | 241 | と言って、烏帽子だけを押し入れるように被って、少し起き上がろうとなさるが、とても苦しそうである。白い着物で、柔らかそうなのをたくさん重ね着して、衾を引き掛けて臥していらっしゃる。御座所の辺りをこぎれいにしていて、あたりに香が薫っていて、奥ゆかしい感じにお過ごしになっていた。<BR>⏎ | 222 | と言って,烏帽子だけを押し入れるように被って、少し起き上がろうとなさるが、とても苦しそうである。白い着物で、柔らかそうなのをたくさん重ね着して、衾を引き掛けて臥していらっしゃる。御座所の辺りをこぎれいにしていて、あたりに香が薫っていて、奥ゆかしい感じにお過ごしになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 243 | <P>⏎ | ||
| version36 | 244 | <A NAME="in33">[第三段 柏木、夕霧に遺言]</A><BR> | 224 | |
| c2 | 251-252 | そうは言うものの、この世の別れに、捨て難いことが数多くあります。親にも孝行を十分せずに、今になって両親にご心配をおかけし、主君にお仕えすることも中途半端な有様で、わが身の立身出世を顧みると、また、なおさら大したこともない恨みを残すような世間一般の嘆きは、それはそれとして。<BR>⏎ また、心中に思い悩んでおりますことがございますが、このような臨終の時になって、どうして口に出そうかと思っておりましたが、やはり堪えきれないことを、あなたの他に誰に訴えられましょう。誰彼と兄弟は多くいますが、いろいろと事情があって、まったく仄めかしたところで、何にもなりません。<BR>⏎ | 231-232 | そうは言うものの,この世の別れに、捨て難いことが 数多くあります。親にも孝行を十分せずに、今になって両親にご心配をおかけし、主君にお仕えすることも中途半端な有様で、わが身の立身出世を顧みると、また,なおさら大したこともない恨みを残すような世間一般の嘆きは、それはそれとして。<BR>⏎ また,心中に思い悩んでおりますことがございますが、このような臨終の時になって、どうして口に出そうかと思っておりましたが、やはり堪えきれないことを、あなたの他に誰に訴えられましょう。誰彼と兄弟は多くいますが、いろいろと事情があって、まったく仄めかしたところで、何にもなりません。<BR>⏎ |
| c3 | 257-259 | 「どのような良心の呵責なのでしょうか。全然、そのようなご様子もなく、このように重態になられた由を聞いて驚きお嘆きになっていること、この上もなく残念がり申されていたようでした。どうして、このようにお悩みになることがあって、今まで打ち明けて下さらなかったのでしょうか。こちらとあちらとの間に立って弁解して差し上げられたでしょうに。今となってはどうしようもありません」<BR>⏎ と言って、昔を今に取り戻したくお思いになる。<BR>⏎ 「おっしゃる通り、少しでも具合の良い時に、申し上げてご意見を承るべきでございました。けれども、ほんとうに今日か明日かの命になろうとは、自分ながら分からない寿命のことを、悠長に考えておりましたのも、はかないことでした。このことは、決してあなた以外にお漏らしなさらないで下さい。適当な機会がございました折には、ご配慮戴きたいと申し上げて置くのです。<BR>⏎ | 237-239 | 「どのような良心の呵責なのでしょうか。全然,そのようなご様子もなく、このように重態になられた由を聞いて驚きお嘆きになっていること、この上もなく残念がり申されていたようでした。どうして,このようにお悩みになることがあって、今まで打ち明けて下さらなかったのでしょうか。こちらとあちらとの間に立って弁解して差し上げられたでしょうに。今となってはどうしようもありません」<BR>⏎ と言って,昔を今に取り戻したくお思いになる。<BR>⏎ 「おっしゃる通り,少しでも具合の良い時に、申し上げてご意見を承るべきでございました。けれども,ほんとうに今日か明日かの命になろうとは、自分ながら分からない寿命のことを、悠長に考えておりましたのも,はかないことでした。このことは、決してあなた以外にお漏らしなさらないで下さい。適当な機会がございました折には、ご配慮戴きたいと 申し上げて置くのです。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 263-264 | と、手真似で申し上げなさる。加持を致す僧たちが近くに参って、母上、大臣などがお集まりになって、女房たちも立ち騒ぐので、泣く泣くお立ちになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 243 | と,手真似で申し上げなさる。加持を致す僧たちが近くに参って、母上、大臣などがお集まりになって、女房たちも立ち騒ぐので、泣く泣くお立ちになった。<BR>⏎ |
| version36 | 265 | <A NAME="in34">[第四段 柏木、泡の消えるように死去]</A><BR> | 244 | |
| c2 | 266-267 | 女御は申し上げるまでもなく、この大将の御方などもひどくお嘆きになる。思ひやりが、誰に対しても兄としての面倒見がよくていらっしゃったので、右の大殿の北の方も、この君だけを親しい人とお思い申し上げていらしたので、万事にお嘆きになって、ご祈祷などを特別におさせになったが、薬では治らない病気なので、何の役にも立たないことであった。女宮にも、とうとうお目にかかることがおできになれないで、泡が消えるようにしてお亡くなりになった。<BR>⏎ 長年の間、心底から真心こめて愛していたのではなかったが、表面的には、まことに申し分なく大事にお世話申し上げて、素振りもお優しく、気立てもよく、礼節をわきまえてお過ごしになられたので、辛いと思った事も特にない。ただ、<BR>⏎ | 245-246 | 女御は申し上げるまでもなく、この大将の御方などもひどくお嘆きになる。思ひやりが、誰に対しても兄としての面倒見がよくていらっしゃったので、右の大殿の北の方も、この君だけを 親しい人とお思い申し上げていらしたので、万事にお嘆きになって、ご祈祷などを特別におさせになったが、薬では治らない病気なので、何の役にも立たないことであった。女宮にも、とうとうお目にかかることがおできになれないで、泡が消えるようにしてお亡くなりになった。<BR>⏎ 長年の間、心底から真心こめて愛していたのではなかったが、表面的には、まことに申し分なく大事にお世話申し上げて、素振りもお優しく、気立てもよく、礼節をわきまえてお過ごしになられたので、辛いと思った事も特にない。ただ,<BR>⏎ |
| cd2:1 | 275-276 | 「若君のご誕生を、自分の子だと思っていたのも、なるほど、こうなるはずの運命であってか、思いがけない辛い事もあったのだろう」とお考えいたると、あれこれと心細い気がして、お泣きになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 254 | 「若君のご誕生を、自分の子だと思っていたのも、なるほど,こうなるはずの運命であってか、思いがけない辛い事もあったのだろう」とお考えいたると、あれこれと心細い気がして、お泣きになった。<BR>⏎ |
| version36 | 277 | <H4>第四章 光る源氏の物語 若君の五十日の祝い</H4> | 255 | |
| version36 | 278 | <A NAME="in41">[第一段 三月、若君の五十日の祝い]</A><BR> | 256 | |
| c1 | 281 | と、涙ぐんでお恨み申し上げなさる。毎日お越しになって、今になって、この上なく大切にお世話申し上げなさる。<BR>⏎ | 259 | と,涙ぐんでお恨み申し上げなさる。毎日お越しになって、今になって、この上なく大切にお世話申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 284-285 | と言って、南面に小さい御座所などを設定して、差し上げなさる。御乳母は、とても派手に衣装を着飾って、御前の物、色々な色彩を尽くした籠物、桧破子の趣向の数々を、御簾の中でも外でも、本当の事は知らないことなので、とり散らかして、無心にお祝いしているのを、「まことに辛く目を背けたい」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 262 | と言って,南面に小さい御座所などを設定して、差し上げなさる。御乳母は、とても派手に衣装を着飾って、御前の物、色々な色彩を尽くした籠物、桧破子の趣向の数々を、御簾の中でも外でも、本当の事は知らないことなので、とり散らかして、無心にお祝いしているのを、「まことに辛く目を背けたい」とお思いになる。<BR>⏎ |
| version36 | 286 | <A NAME="in42">[第二段 源氏と女三の宮の夫婦の会話]</A><BR> | 263 | |
| c1 | 289 | 「まあ、何と情けない。墨染の衣は、やはり、まことに目の前が暗くなる色だな。このようになられても、お目にかかることは変わるまいと、心を慰めておりますが、相変わらず抑え難い心地がする涙もろい体裁の悪さを、実にこのように見捨てられ申したわたしの悪い点として思ってみますにつけても、いろいろば胸が痛く残念です。昔を今に取り返すことができたらな」<BR>⏎ | 266 | 「まあ,何と情けない。墨染の衣は、やはり,まことに目の前が暗くなる色だな。このようになられても、お目にかかることは 変わるまいと、心を慰めておりますが、相変わらず抑え難い心地がする涙もろい体裁の悪さを、実にこのように見捨てられ申したわたしの悪い点として思ってみますにつけても、いろいろと胸が痛く残念です。昔を今に取り返すことができたらな」<BR>⏎ |
| c1 | 291 | 「もうこれっきりとお見限りなさるならば、本当に本心からお捨てになったのだと、顔向けもできず情けなく思われることです。やはり、いとしい者と思って下さい」<BR>⏎ | 268 | 「もうこれっきりとお見限りなさるならば、本当に本心からお捨てになったのだと、顔向けもできず情けなく思われることです。やはり,いとしい者と思って下さい」<BR>⏎ |
| d1 | 297 | <P>⏎ | ||
| version36 | 298 | <A NAME="in43">[第三段 源氏、老後の感懐]</A><BR> | 274 | |
| c3 | 300-302 | 「ああかわいそうに、残り少ない晩年に、ご成人して行くのだな」<BR>⏎ と言って、お抱きになると、とても人見知りせずに笑って、まるまると太っていて色白でかわいらしい。大将などが幼い時の様子、かすかにお思い出しなさるのには似ていらっしゃらない。明石女御の宮たちは、それはそれで、父帝のお血筋を引いて、皇族らしく高貴ではいらっしゃるが、特別優れて美しいというわけでもいらっしゃらない。<BR>⏎ この若君、とても上品な上に加えて、かわいらしく、目もとがほんのりとして、笑顔がちでいるのなどを、とてもかわいらしいと御覧になる。気のせいか、やはり、とてもよく似ていた。もう今から、まなざしが穏やかで人に優れた感じも、普通の人とは違って、匂い立つような美しいお顔である。<BR>⏎ | 276-278 | 「ああかわいそうに,残り少ない晩年に、ご成人して行くのだな」<BR>⏎ と言って,お抱きになると、とても人見知りせずに笑って、まるまると太っていて色白でかわいらしい。大将などが幼い時の様子、かすかにお思い出しなさるのには似ていらっしゃらない。明石女御の宮たちは、それはそれで,父帝のお血筋を引いて、皇族らしく高貴ではいらっしゃるが、特別優れて美しいというわけでもいらっしゃらない。<BR>⏎ この若君、とても上品な上に加えて、かわいらしく、目もとがほんのりとして、笑顔がちでいるのなどを、とてもかわいらしいと御覧になる。気のせいか、やはり,とてもよく似ていた。もう今から、まなざしが穏やかで人に優れた感じも、普通の人とは違って、匂い立つような美しいお顔である。<BR>⏎ |
| c1 | 304 | 「ああ、はかない運命の人であったな」<BR>⏎ | 280 | 「ああ,はかない運命の人であったな」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 307-308 | と、朗誦なさる。五十八から十とったお年齢だが、晩年になった心地がなさって、まことにしみじみとお感じになる。「おまえの父親に似るな」とでも、お諌めなさりたかったのであろうよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 283 | と,朗誦なさる。五十八から十とったお年齢だが、晩年になった心地がなさって、まことにしみじみとお感じになる。「おまえの父親に似るな」とでも、お諌めなさりたかったのであろうよ。<BR>⏎ |
| version36 | 309 | <A NAME="in44">[第四段 源氏、女三の宮に嫌味を言う]</A><BR> | 284 | |
| c2 | 311-312 | などとお思いになって、顔色にもお出しにならない。とても無邪気にしゃべって笑っていらっしゃる目もとや、口もとのかわいらしさも、「事情を知らない人はどう思うだろう。やはり、父親にとてもよく似ている」、と御覧になると、「ご両親が、せめて子供だけでも残してくれていたらと、お泣きになっていようにも、見せることもできず、誰にも知られずはかない形見だけを残して、あれほど高い望みをもって、優れていた身を、自分から滅ぼしてしまったことよ」<BR>⏎ と、しみじみと惜しまれるので、けしからぬと思う気持ちも思い直されて、つい涙がおこぼれになった。<BR>⏎ | 286-287 | などとお思いになって、顔色にもお出しにならない。とても無邪気にしゃべって笑っていらっしゃる目もとや、口もとのかわいらしさも、「事情を知らない人はどう思うだろう。やはり,父親にとてもよく似ている」,と御覧になると、「ご両親が、せめて子供だけでも残してくれていたらと、お泣きになっていようにも、見せることもできず、誰にも知られずはかない形見だけを残して、あれほど高い望みをもって、優れていた身を、自分から滅ぼしてしまったことよ」<BR>⏎ と,しみじみと惜しまれるので、けしからぬと思う気持ちも思い直されて、つい涙がおこぼれになった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 315-317 | と、ご注意をお引き申し上げなさると、顔を赤くしていらっしゃる。<BR>⏎ 「いったい誰が種を蒔いたのでしょうと人が尋ねたら<BR>⏎ 誰と答えてよいのでしょう、岩根の松は<BR>⏎ | 290-291 | と,ご注意をお引き申し上げなさると、顔を赤くしていらっしゃる。<BR>⏎ 「いったい誰が種を蒔いたのでしょうと人が尋ねたら<BR> 誰と答えてよいのでしょう、岩根の松は<BR>⏎ |
| c1 | 319 | などと、そっと申し上げなさると、お返事もなくて、うつ臥しておしまいになった。もっともなことだとお思いになるので、無理に催促申し上げなさらない。<BR>⏎ | 293 | などと,そっと申し上げなさると、お返事もなくて、うつ臥しておしまいになった。もっともなことだとお思いになるので、無理に催促申し上げなさらない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 321-322 | と、ご推察申し上げなさるのも、とてもおいたわしい思いである。<BR>⏎ <P>⏎ | 295 | と,ご推察申し上げなさるのも、とてもおいたわしい思いである。<BR>⏎ |
| version36 | 323 | <A NAME="in45">[第五段 夕霧、事の真相に関心]</A><BR> | 296 | |
| c2 | 326-327 | と、その面影が忘れることができなくて、兄弟の君たちよりも、特に悲しく思っていらっしゃった。<BR>⏎ 「女宮がこのように出家なさった様子、大したご病気でもなくて、きれいさっぱりとご決心なさったものよ。また、そうだからといって、お許し申し上げなさってよいことだろうか。<BR>⏎ | 299-300 | と,その面影が忘れることができなくて、兄弟の君たちよりも、特に悲しく思っていらっしゃった。<BR>⏎ 「女宮がこのように出家なさった様子、大したご病気でもなくて、きれいさっぱりとご決心なさったものよ。また,そうだからといって、お許し申し上げなさってよいことだろうか。<BR>⏎ |
| c2 | 329-330 | などと、あれこれと思案をこらしてみると、<BR>⏎ 「やはり、昔からずっと抱き続けていた気持ちが、抑え切れない時々があったのだ。とてもよく静かに落ち着いた表面は、誰よりもほんとうに嗜みがあり、穏やかで、どのようなことをこの人は考えているのだろうかと、周囲の人も気づまりなほどであったが、少し感情に溺れやすいところがあって、もの柔らか過ぎたためだ。<BR>⏎ | 302-303 | などと,あれこれと思案をこらしてみると、<BR>⏎ 「やはり,昔からずっと抱き続けていた気持ちが、抑え切れない時々があったのだ。とてもよく静かに落ち着いた表面は、誰よりもほんとうに嗜みがあり、穏やかで、どのようなことをこの人は考えているのだろうかと、周囲の人も気づまりなほどであったが、少し感情に溺れやすいところがあって、もの柔らか過ぎたためだ。<BR>⏎ |
| c2 | 332-333 | などと、自分独りで思うが、女君にさえ申し上げなさらない。適当な機会がなくて、院にもまだ申し上げることができなかった。とはいえ、このようなことを小耳にはさみました、と申し出て、ご様子も窺って見てみたい気持ちでもあった。<BR>⏎ 父大臣と、母北の方は、涙の乾かぬ間なく悲しみにお沈みになって、いつの間にか過ぎて行く日数をもお分かりにならず、ご法要の法服、ご衣装、何やかやの準備も、弟の君たち、姉妹の方々が、それぞれ準備なさるのであった。<BR>⏎ | 305-306 | などと,自分独りで思うが、女君にさえ申し上げなさらない。適当な機会がなくて、院にもまだ申し上げることができなかった。とはいえ,このようなことを小耳にはさみました、と申し出て、ご様子も窺って見てみたい気持ちでもあった。<BR>⏎ 父大臣と、母北の方は、涙の乾かぬ間なく悲しみにお沈みになって、いつの間にか過ぎて行く日数をもお分かりにならず、ご法要の法服,ご衣装、何やかやの準備も、弟の君たち,姉妹の方々が、それぞれ準備なさるのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 336-337 | と言って、死んだ人のようにぼんやりしていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 309 | と言って,死んだ人のようにぼんやりしていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version36 | 338 | <H4>第五章 夕霧の物語 柏木哀惜</H4> | 310 | |
| version36 | 339 | <A NAME="in51">[第一段 夕霧、一条宮邸を訪問]</A><BR> | 311 | |
| c1 | 340 | 一条宮におかれては、それ以上に、お目にかかれぬままご逝去なさった心残りまでが加わって、日数が過ぎるにつれて、広い宮の邸内も、人数少なく心細げになって、親しく使い馴らしていらした人は、やはりお見舞いに参上する。<BR>⏎ | 312 | 一条宮におかれては、それ以上に,お目にかかれぬままご逝去なさった心残りまでが加わって、日数が過ぎるにつれて、広い宮の邸内も、人数少なく心細げになって、親しく使い馴らしていらした人は、やはりお見舞いに参上する。<BR>⏎ |
| c2 | 343-344 | 「ああ、亡くなられた殿のおいでかと、ついうっかり思ってしまいました」<BR>⏎ と言って、泣く者もいる。大将殿がいらっしゃったのであった。ご案内を申し入れなさった。いつものように弁の君や、宰相などがいらっしゃったものかとお思いになったが、たいそう気おくれのするほど立派な美しい物腰でお入りになった。<BR>⏎ | 315-316 | 「ああ,亡くなられた殿のおいでかと、ついうっかり思ってしまいました」<BR>⏎ と言って,泣く者もいる。大将殿がいらっしゃったのであった。ご案内を申し入れなさった。いつものように弁の君や、宰相などがいらっしゃったものかとお思いになったが、たいそう気おくれのするほど立派な美しい物腰でお入りになった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 349-350 | と言って、しばしば涙を拭って、鼻をおかみになる。きわだって気高い一方で、親しみが感じられ優雅な物腰である。<BR>⏎ <P>⏎ | 321 | と言って,しばしば涙を拭って、鼻をおかみになる。きわだって気高い一方で、親しみが感じられ優雅な物腰である。<BR>⏎ |
| version36 | 351 | <A NAME="in52">[第二段 母御息所の嘆き]</A><BR> | 322 | |
| cd4:3 | 354-357 | 自然と親しいお間柄ゆえで、お聞き及んでいらっしゃるようなこともございましたでしょう。最初のころから、なかなかご承知申し上げなかったご縁組でしたが、大臣のご意向もおいたわしく、院におかれても結構な縁組のようにお考えであった御様子などがございましたので、それではわたしの考えが至らなかったのだと、自ら思い込ませまして、お迎え申し上げたのですが、このように夢のような出来事を目に致しまして、考え会わせてみますと、自分の考えを、同じことなら強く押し通し反対申せばよかったものを、と思いますと、やはりとても残念で。それは、こんなに早くとは思いも寄りませんでした。<BR>⏎ 内親王たちは、並大抵のことでは、よかれあしかれ、このように結婚なさることは、感心しないことだと、老人の考えでは思っていましたが、結婚するしないにかかわらず、中途半端な中空にさまよった辛い運命のお方であったので、いっそのこと、このような時にでも後をお慕い申したところで、このお方にとって外聞などは、特に気にしないでよろしいでしょうが、そうかといっても、そのようにあっさりとも、諦め切れず、悲しく拝し上げておりますが、まことに嬉しいことに、懇ろなお見舞いを重ね重ね頂戴しましたようで、有り難いこととお礼申し上げますが、それでは、あのお方とのお約束があったゆえと、願っていたようには見えなかったお気持ちでしたが、今はの際に、誰彼にお頼みなさったご遺言が、身にしみまして、辛い中にも嬉しいことはあるものでございました」<BR>⏎ と言って、とてもひどくお泣きになる様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 325-327 | 自然と親しいお間柄ゆえで、お聞き及んでいらっしゃるようなこともございましたでしょう。最初のころから、なかなかご承知申し上げなかったご縁組でしたが、大臣のご意向もおいたわしく、院におかれても結構な縁組のようにお考えであった御様子などがございましたので、それではわたしの考えが至らなかったのだと、自ら思い込ませまして、お迎え申し上げたのですが、このように夢のような出来事を目に致しまして、考え会わせてみますと、自分の考えを、同じことなら強く押し通し反対申せばよかったものを、と思いますと、やはりとても残念で。それは,こんなに早くとは思いも寄りませんでした。<BR>⏎ 内親王たちは、並大抵のことでは、よかれあしかれ、このように結婚なさることは、感心しないことだと、老人の考えでは思っていましたが、結婚するしないにかかわらず、中途半端な中空にさまよった辛い運命のお方であったので、いっそのこと、このような時にでも後をお慕い申したところで、このお方にとって外聞などは、特に気にしないでよろしいでしょうが、そうかといっても、そのようにあっさりとも、諦め切れず、悲しく拝し上げておりますが、まことに嬉しいことに、懇ろなお見舞いを重ね重ね頂戴しましたようで、有り難いこととお礼申し上げますが、それでは,あのお方とのお約束があったゆえと、願っていたようには見えなかったお気持ちでしたが、今はの際に、誰彼にお頼みなさったご遺言が、身にしみまして、辛い中にも嬉しいことはあるものでございました」<BR>⏎ と言って,とてもひどくお泣きになる様子である。<BR>⏎ |
| version36 | 358 | <A NAME="in53">[第三段 夕霧、御息所と和歌を詠み交わす]</A><BR> | 328 | |
| c3 | 360-362 | 「どうしたわけか、実に申し分なく老成していらっしゃった方が、このようになる運命だったからでしょうか、ここ二、三年の間、ひどく沈み込んで、どことなく心細げにお見えになったので、あまりに世の無常を知り、考え深くなった人が、悟りすまし過ぎて、このような例で、心が素直でなくなり、かえって逆に、てきぱきしたところがないように人に思われるものだと、いつも至らない自分ながらお諌め申していたので、思慮が浅いとお思いのようでした。何事にもまして、人に優れて、おっしゃる通り、宮のお悲しみのご心中、恐れ多いことですが、まことにおいたわしゅうございます」<BR>⏎ などと、優しく情愛こまやかに申し上げなさって、やや長居してお帰りになる。<BR>⏎ あの方は、五、六歳くらい年上であったが、それでも、とても若々しく、優雅で、人なつっこいところがおありであった。この方は、実にきまじめで重々しく、男性的な感じがして、お顔だけがとても若々しく美しいことは、誰にも勝っていらっしゃった。若い女房たちは、もの悲しい気持ちも少し紛れてお見送り申し上げる。<BR>⏎ | 330-332 | 「どうしたわけか、実に申し分なく老成していらっしゃった方が、このようになる運命だったからでしょうか、ここ二,三年の間、ひどく沈み込んで、どことなく心細げにお見えになったので、あまりに世の無常を知り、考え深くなった人が、悟りすまし過ぎて、このような例で、心が素直でなくなり、かえって逆に、てきぱきしたところがないように人に思われるものだと、いつも至らない自分ながらお諌め申していたので、思慮が浅いとお思いのようでした。何事にもまして、人に優れて、おっしゃる通り,宮のお悲しみのご心中、恐れ多いことですが、まことにおいたわしゅうございます」<BR>⏎ などと,優しく情愛こまやかに申し上げなさって、やや長居してお帰りになる。<BR>⏎ あの方は,五,六歳くらい年上であったが、それでも、とても若々しく、優雅で、人なつっこいところがおありであった。この方は,実にきまじめで重々しく、男性的な感じがして、お顔だけがとても若々しく美しいことは、誰にも勝っていらっしゃった。若い女房たちは、もの悲しい気持ちも少し紛れてお見送り申し上げる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 366-367 | 「季節が廻って来たので変わらない色に咲きました<BR>⏎ 片方の枝は枯れてしまったこの桜の木にも」<BR>⏎ | 336 | 「季節が廻って来たので変わらない色に咲きました<BR> 片方の枝は枯れてしまったこの桜の木にも」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 369-372 | 「今年の春は柳の芽に露の玉が貫いているように泣いております<BR>⏎ 咲いて散る桜の花の行く方も知りませんので」<BR>⏎ と申し上げなさる。格別深い情趣があるわけではないが、当世風で、才能があると言われていらした更衣だったのである。「なるほど、無難なお心づかいのようだ」と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 338-339 | 「今年の春は柳の芽に露の玉が貫いているように泣いております<BR> 咲いて散る桜の花の行く方も知りませんので」<BR>⏎ と申し上げなさる。格別深い情趣があるわけではないが、当世風で、才能があると言われていらした更衣だったのである。「なるほど,無難なお心づかいのようだ」と御覧になる。<BR>⏎ |
| version36 | 373 | <A NAME="in54">[第四段 夕霧、太政大臣邸を訪問]</A><BR> | 340 | |
| c1 | 376 | と言うので、大臣の御客間の方にお入りになった。悲しみを抑えてご対面なさった。いつまでも若く美しいご容貌、ひどく痩せ衰えて、お髭などもお手入れなさらないので、いっぱい生えて、親の喪に服するよりも憔悴していらっしゃった。お会いなさるや、とても堪え切れないので、「あまりだらしなくこぼす涙は体裁が悪い」と思うので、無理にお隠しになる。<BR>⏎ | 343 | と言うので、大臣の御客間の方にお入りになった。悲しみを抑えてご対面なさった。いつまでも若く美しいご容貌、ひどく痩せ衰えて、お髭などもお手入れなさらないので、いっぱい生えて、親の喪に服するよりも 憔悴していらっしゃった。お会いなさるや、とても堪え切れないので、「あまりだらしなくこぼす涙は 体裁が悪い」と思うので、無理にお隠しになる。<BR>⏎ |
| c1 | 379 | 泣き顔をして御覧になるご様子、いつもは気丈できっぱりして、自信たっぷりのご様子もすっかり消えて、体裁が悪い。実のところ、特別良い歌ではないようだが、この「玉が貫く」とあるところが、なるほどと思わずにはいらっしゃれないので、心が乱れて、暫くの間、涙を堪えることができない。<BR>⏎ | 346 | 泣き顔をして御覧になるご様子、いつもは気丈できっぱりして、自信たっぷりのご様子もすっかり消えて、体裁が悪い。実のところ,特別良い歌ではないようだが、この「玉が貫く」とあるところが、なるほどと思わずにはいらっしゃれないので、心が乱れて、暫くの間,涙を堪えることができない。<BR>⏎ |
| c1 | 383 | と言って、空を仰いで物思いに耽っていらっしゃる。<BR>⏎ | 350 | と言って,空を仰いで物思いに耽っていらっしゃる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 385-386 | 「木の下の雫に濡れて逆様に<BR>⏎ 親が子の喪に服している春です」<BR>⏎ | 352 | 「木の下の雫に濡れて逆様に<BR> 親が子の喪に服している春です」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 388-389 | 「亡くなった人も思わなかったことでしょう<BR>⏎ 親に先立って父君に喪服を着て戴こうとは」<BR>⏎ | 354 | 「亡くなった人も思わなかったことでしょう<BR> 親に先立って父君に喪服を着て戴こうとは」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 391-394 | 「恨めしいことよ、墨染の衣を誰が着ようと思って<BR>⏎ 春より先に花は散ってしまったのでしょう」<BR>⏎ ご法要などは、世間並でなく、立派に催されたのであった。大将殿の北の方はもちろんのこと、殿は特別に、誦経なども手厚くご趣向をお加えなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 356-357 | 「恨めしいことよ、墨染の衣を誰が着ようと思って<BR> 春より先に花は散ってしまったのでしょう」<BR>⏎ ご法要などは、世間並でなく、立派に催されたのであった。大将殿の北の方はもちろんのこと、殿は特別に、誦経なども 手厚くご趣向をお加えなさる。<BR>⏎ |
| version36 | 395 | <A NAME="in55">[第五段 四月、夕霧の一条宮邸を訪問]</A><BR> | 358 | |
| c1 | 396 | あの一条宮邸にも、常にお見舞い申し上げなさる。四月ごろの卯の花は、どこそことなく心地よく、一面新緑に覆われた四方の木々の梢が美しく見わたされるが、物思いに沈んでいる家は、何につけてもひっそりと心細く、暮らしかねていらっしゃるところに、いつものように、お越しになった。<BR>⏎ | 359 | あの一条宮邸にも、常にお見舞い申し上げなさる。四月ごろの卯の花は、どこそことなく心地よく、一面新緑に覆われた四方の木々の梢が美しく見わたされるが、物思いに沈んでいる家は、何につけてもひっそりと心細く、暮らしかねていらっしゃるところに、いつものように,お越しになった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 403-404 | 「同じことならばこの連理の枝のように親しくして下さい<BR>⏎ 葉守の神の亡き方のお許があったのですからと<BR>⏎ | 366 | 「同じことならばこの連理の枝のように親しくして下さい<BR> 葉守の神の亡き方のお許があったのですからと<BR>⏎ |
| c1 | 406 | と言って、長押に寄りかかっていらっしゃった。<BR>⏎ | 368 | と言って,長押に寄りかかっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 408-410 | と、お互いにつつき合っている。お相手を申し上げる少将の君という人を使って、<BR>⏎ 「柏木に葉守の神はいらっしゃらなくても<BR>⏎ みだりに人を近づけてよい梢でしょうか<BR>⏎ | 370-371 | と,お互いにつつき合っている。お相手を申し上げる少将の君という人を使って、<BR>⏎ 「柏木に葉守の神はいらっしゃらなくても<BR> みだりに人を近づけてよい梢でしょうか<BR>⏎ |
| d1 | 413 | <P>⏎ | ||
| version36 | 414 | <A NAME="in56">[第六段 夕霧、御息所と対話]</A><BR> | 374 | |
| c1 | 417 | と言って、本当に苦しそうなご様子である。<BR>⏎ | 377 | と言って,本当に苦しそうなご様子である。<BR>⏎ |
| c2 | 419-420 | と、お慰め申し上げなさる。<BR>⏎ 「この宮は、聞いていたよりも奥ゆかしいところがお見えになるが、お気の毒に、なるほど、どんなにか外聞の悪い事を加えてお嘆きになっていられることだろう」<BR>⏎ | 379-380 | と,お慰め申し上げなさる。<BR>⏎ 「この宮は、聞いていたよりも奥ゆかしいところがお見えになるが、お気の毒に,なるほど、どんなにか外聞の悪い事を加えてお嘆きになっていられることだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 422 | 「器量などはとても十人並でいらっしゃるまいけれども、ひどくみっともなくて見ていられない程でなければ、どうして、見た目が悪いといって相手を嫌いになったり、また、大それたことに心を迷わすことがあってよいものか。みっともないことだ。ただ、気立てだけが、結局は、大切なのだ」とお考えになる。<BR>⏎ | 382 | 「器量などはとても十人並でいらっしゃるまいけれども、ひどくみっともなくて見ていられない程でなければ、どうして,見た目が悪いといって相手を嫌いになったり、また,大それたことに心を迷わすことがあってよいものか。みっともないことだ。ただ,気立てだけが、結局は、大切なのだ」とお考えになる。<BR>⏎ |
| c1 | 424 | などと、特に色めいたおっしゃりようではないが、心を込めて気のある申し上げ方をなさる。直衣姿がとても鮮やかで、背丈も堂々と、すらりと高くお見えであった。<BR>⏎ | 384 | などと,特に色めいたおっしゃりようではないが、心を込めて気のある申し上げ方をなさる。直衣姿がとても鮮やかで、背丈も堂々と、すらりと高くお見えであった。<BR>⏎ |
| c2 | 426-427 | 「こちらは、男性的で派手で、何と美しいのだろうと、直ぐにお見えになる美しさは、ずば抜けています」<BR>⏎ と、ささやいて、<BR>⏎ | 386-387 | 「こちらは,男性的で派手で、何と美しいのだろうと、直ぐにお見えになる美しさは、ずば抜けています」<BR>⏎ と,ささやいて、<BR>⏎ |
| c1 | 429 | などと、女房たちは言っているようである。<BR>⏎ | 389 | などと,女房たちは言っているようである。<BR>⏎ |
| c2 | 431-432 | と口ずさんで、それも最近の事だったので、あれこれと近頃も昔も、人の心を悲しませるような世の中の出来事に、身分の高い人も低い人も、惜しみ残念がらない者がないのも、もっともらしく格式ばった事柄はそれとして、不思議と人情の厚い方でいらっしゃったので、大したこともない役人、女房などの年取った者たちまでが、恋い悲しみ申し上げた。それ以上に、主上におかせられては、管弦の御遊などの折毎に、まっさきにお思い出しになって、お偲びあそばされた。<BR>⏎ 「ああ、衛門督よ」<BR>⏎ | 391-392 | と口ずさんで、それも最近の事だったので、あれこれと近頃も昔も、人の心を悲しませるような世の中の出来事に、身分の高い人も低い人も、惜しみ残念がらない者がないのも、もっともらしく格式ばった事柄はそれとして、不思議と人情の厚い方でいらっしゃったので、大したこともない役人、女房などの年取った者たちまでが、恋い悲しみ申し上げた。それ以上に,主上におかせられては、管弦の御遊などの折毎に、まっさきにお思い出しになって、お偲びあそばされた。<BR>⏎ 「ああ,衛門督よ」<BR>⏎ |
| d2 | 435-436 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 445 | ⏎ | ||
| i0 | 407 | |||
| diff | src/original/version37.html | src/modified/version37.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version37 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version37 | 40 | <H4>第一章 光る源氏の物語 薫の成長</H4> | 36 | |
| version37 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 柏木一周忌の法要]</A><BR> | 37 | |
| c1 | 42 | 故権大納言があっけなくお亡くなりになった悲しさを、いつまでも残念なことに、恋い偲びなさる方々が多かった。六条院におかれても、特別の関係がなくてさえ、世間に人望のある人が亡くなるのは、惜しみなさるご性分なので、なおさらのこと、この人は、朝夕に親しくいつも参上しいしい、誰よりもお心を掛けていらしたので、どうにもけしからぬと、お思い出しなさることはありながら、哀悼の気持ちは強く、何かにつけてお思い出しになる。<BR>⏎ | 38 | 故権大納言があっけなくお亡くなりになった悲しさを、いつまでも残念なことに、恋い偲びなさる方々が多かった。六条院におかれても、特別の関係がなくてさえ、世間に人望のある人が亡くなるのは、惜しみなさるご性分なので、なおさらのこと,この人は、朝夕に親しくいつも参上しいしい、誰よりもお心を掛けていらしたので、どうにもけしからぬと、お思い出しなさることはありながら、哀悼の気持ちは強く、何かにつけてお思い出しになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 44-45 | 大将の君も、供養をたくさんなさり、ご自身も熱心に法要のお世話をなさる。あの一条宮に対しても、一周忌に当たってのお心遣いも深くお見舞い申し上げなさる。兄弟の君たちよりも優れたお気持ちのほどを、とてもこんなにまでとはお思い申さなかったと、大臣、母上もお喜び申し上げなさる。亡くなった後にも、世間の評判の高くていらっしゃったことが分かるので、ひどく残念がり、いつまでも恋い焦がれること、限りがない。<BR>⏎ <P>⏎ | 40 | 大将の君も、供養をたくさんなさり、ご自身も熱心に法要のお世話をなさる。あの一条宮に対しても、一周忌に当たってのお心遣いも深くお見舞い申し上げなさる。兄弟の君たちよりも優れたお気持ちのほどを、とてもこんなにまでとはお思い申さなかったと、大臣,母上も お喜び申し上げなさる。亡くなった後にも、世間の評判の高くていらっしゃったことが分かるので、ひどく残念がり、いつまでも恋い焦がれること、限りがない。<BR>⏎ |
| version37 | 46 | <A NAME="in12">[第二段 朱雀院、女三の宮へ山菜を贈る]</A><BR> | 41 | |
| cd2:1 | 50-51 | この世を捨ててお入りになった道はわたしより遅くとも<BR>⏎ 同じ極楽浄土をあなたも求めて来て下さい<BR>⏎ | 45 | この世を捨ててお入りになった道はわたしより遅くとも<BR> 同じ極楽浄土をあなたも求めて来て下さい<BR>⏎ |
| c1 | 53 | とお便り申し上げなさったのを、涙ぐんで御覧になっているところに、大殿の君がお越しになった。いつもと違って、御前近くに櫑子がいくつもあるので、「何だろう、おかしいな」と御覧になると、院からのお手紙なのであった。御覧になると、とても胸の詰まる思いがする。<BR>⏎ | 47 | とお便り申し上げなさったのを、涙ぐんで御覧になっているところに、大殿の君がお越しになった。いつもと違って、御前近くに櫑子がいくつもあるので、「何だろう,おかしいな」と御覧になると、院からのお手紙なのであった。御覧になると、とても胸の詰まる思いがする。<BR>⏎ |
| c1 | 55 | などと、情愛こまやかにお書きあそばしていらっしゃった。この「同じ極楽浄土」へ御一緒にとのお歌を、特別に趣があるものではない、僧侶らしい言葉遣いであるが、「いかにも、そのようにお思いのことだろう。自分までが疎略にお世話しているというふうをお目に入れ申して、ますます御心配あそばされることになろうことを、おいたわしい」とお思いになる。<BR>⏎ | 49 | などと,情愛こまやかにお書きあそばしていらっしゃった。この「同じ極楽浄土」へ御一緒にとのお歌を、特別に趣があるものではない、僧侶らしい言葉遣いであるが、「いかにも,そのようにお思いのことだろう。自分までが疎略にお世話しているというふうをお目に入れ申して、ますます御心配あそばされることになろうことを、おいたわしい」とお思いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 57-58 | 「こんな辛い世の中とは違う所に住みたくて<BR>⏎ わたしも父上と同じ山寺に入りとうございます」<BR>⏎ | 51 | 「こんな辛い世の中とは違う所に住みたくて<BR> わたしも父上と同じ山寺に入りとうございます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 61-62 | 今では、まともにお顔をお合わせ申されず、とても美しくかわいらしいお額髪、お顔の美しさ、まるで子供のようにお見えになって、たいそういじらしいのを拝見なさるにつけては、「どうして、このようになってしまったことか」と、罪悪感をお感じになるので、御几帳だけを隔てて、また一方でたいそう隔たった感じで、他人行儀にならない程度に、お扱い申し上げていらっしゃるのだった。<BR>⏎ <P>⏎ | 54 | 今では、まともにお顔をお合わせ申されず、とても美しくかわいらしいお額髪、お顔の美しさ、まるで子供のようにお見えになって、たいそういじらしいのを拝見なさるにつけては、「どうして,このようになってしまったことか」と、罪悪感をお感じになるので、御几帳だけを隔てて、また一方でたいそう隔たった感じで、他人行儀にならない程度に、お扱い申し上げていらっしゃるのだった。<BR>⏎ |
| version37 | 63 | <A NAME="in13">[第三段 若君、竹の子を噛る]</A><BR> | 55 | |
| c1 | 67 | 「あの人は、とてもこのようにきわだった美しさはなかったが、どうしてこんなに美しいのだろう。母宮にもお似申さず、今から気品があり立派で、格別にお見えになる様子などは、自分が鏡に映った姿にも似てはいないこともないな」というお気持ちになる。<BR>⏎ | 59 | 「あの人は,とてもこのようにきわだった美しさはなかったが、どうしてこんなに美しいのだろう。母宮にもお似申さず、今から気品があり立派で、格別にお見えになる様子などは、自分が鏡に映った姿にも似てはいないこともないな」というお気持ちになる。<BR>⏎ |
| c2 | 69-70 | 「まあ、お行儀の悪い。いけません。あれを片づけなさい。食べ物に目がなくていらっしゃると、口の悪い女房が言うといけない」<BR>⏎ と言って、お笑いになる。お抱き寄せになって、<BR>⏎ | 61-62 | 「まあ,お行儀の悪い。いけません。あれを片づけなさい。食べ物に目がなくていらっしゃると、口の悪い女房が言うといけない」<BR>⏎ と言って,お笑いになる。お抱き寄せになって、<BR>⏎ |
| c2 | 72-73 | ああ、この人たちが育って行く先までは、見届けることができようか。花の盛りにめぐり逢うことは、寿命あってのことだ」<BR>⏎ と言って、じっとお見つめ申していらっしゃる。<BR>⏎ | 64-65 | ああ,この人たちが育って行く先までは、見届けることができようか。花の盛りにめぐり逢うことは、寿命あってのことだ」<BR>⏎ と言って,じっとお見つめ申していらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 75 | と、女房たちは申し上げる。<BR>⏎ | 67 | と,女房たちは申し上げる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 78-80 | 「いやなことは忘れられないがこの子は<BR>⏎ かわいくて捨て難く思われることだ」<BR>⏎ と、引き離して連れて来て、お話しかけになるが、にこにことしていて、何とも分からず、とてもそそくさと、這い下りて動き回っていらっしゃる。<BR>⏎ | 70-71 | 「いやなことは忘れられないがこの子は<BR> かわいくて捨て難く思われることだ」<BR>⏎ と,引き離して連れて来て、お話しかけになるが、にこにことしていて、何とも分からず、とてもそそくさと、這い下りて動き回っていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 83 | と、少しはお考えが改まる。ご自身の運命にもやはり不満のところが多かった。<BR>⏎ | 74 | と,少しはお考えが改まる。ご自身の運命にも やはり不満のところが多かった。<BR>⏎ |
| d1 | 86 | <P>⏎ | ||
| version37 | 87 | <H4>第二章 夕霧の物語 柏木遺愛の笛</H4> | 77 | |
| version37 | 88 | <A NAME="in21">[第一段 夕霧、一条宮邸を訪問]</A><BR> | 78 | |
| cd4:3 | 89-92 | 大将の君は、あの臨終の際に言い遺した一言を、心ひそかに思い出し思い出ししては、「どういうことであったのか」と、とてもお尋ね申し上げたく、お顔色も伺いたいのだが、うすうす思い当たられる節もあるので、かえって口に出して申し上げるのも具合が悪くて、「どのような機会に、この事の詳しい事情をはっきりさせ、また、あの人の思いつめていた様子をお耳に入れようか」と、思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ 秋の夕方の心寂しいころに、一条の宮をどうしていられるかとご心配申し上げなさって、お越しになった。くつろいで、ひっそりとお琴などを弾いていらっしゃったところなのであろう。奥へ片づけることもできず、そのままその南の廂間にお入れ申し上げなさった。端の方にいた人たちが、いざって入って行く様子がはっきり分かって、衣ずれの音や、あたりに漂う香の匂いも薫り高く、奥ゆかしい感じである。<BR>⏎ いつものように、御息所がお相手なさって、昔話をあれこれと交わし合いなさる。ご自分の御殿は、明け暮れ人が大勢出入りして、もの騒がしく、幼い子供たちが、大勢寄って騒々しくしていらっしゃるのにお馴れになっているので、とても静かで心寂しい感じがする。ちょっと手入れも行き届いてない感じがするが、上品に気高くお暮らしになって、前栽の花々、虫の音のたくさん聞こえる野原のように咲き乱れている夕映えを、見渡しなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 79-81 | 大将の君は、あの臨終の際に言い遺した一言を、心ひそかに思い出し思い出ししては、「どういうことであったのか」と、とてもお尋ね申し上げたく、お顔色も伺いたいのだが、うすうす思い当たられる節もあるので、かえって口に出して申し上げるのも具合が悪くて、「どのような機会に、この事の詳しい事情をはっきりさせ、また,あの人の思いつめていた様子をお耳に入れようか」と、思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ 秋の夕方の心寂しいころに、一条の宮をどうしていられるかとご心配申し上げなさって、お越しになった。くつろいで,ひっそりと お琴などを弾いていらっしゃったところなのであろう。奥へ片づけることもできず、そのままその南の廂間にお入れ申し上げなさった。端の方にいた人たちが、いざって入って行く様子がはっきり分かって、衣ずれの音や、あたりに漂う香の匂いも薫り高く、奥ゆかしい感じである。<BR>⏎ いつものように、御息所が お相手なさって、昔話をあれこれと交わし合いなさる。ご自分の御殿は、明け暮れ人が大勢出入りして、もの騒がしく、幼い子供たちが、大勢寄って騒々しくしていらっしゃるのにお馴れになっているので、とても静かで心寂しい感じがする。ちょっと手入れも行き届いてない感じがするが、上品に気高くお暮らしになって、前栽の花々、虫の音のたくさん聞こえる野原のように咲き乱れている夕映えを、見渡しなさる。<BR>⏎ |
| version37 | 93 | <A NAME="in22">[第二段 柏木遺愛の琴を弾く]</A><BR> | 82 | |
| c1 | 96 | などと、思い続けながら、お弾きになる。<BR>⏎ | 85 | などと,思い続けながら、お弾きになる。<BR>⏎ |
| c1 | 98 | 「ああ、まことにめったにない素晴らしい音色をお弾きになったものだがな。このお琴にも故人の名残が籠もっておりましょう。お聞かせ願いたいものだ」<BR>⏎ | 87 | 「ああ,まことにめったにない素晴らしい音色をお弾きになったものだがな。このお琴にも故人の名残が籠もっておりましょう。お聞かせ願いたいものだ」<BR>⏎ |
| c2 | 103-104 | と、物思いに沈んで、琴は押しやりなさったので、<BR>⏎ 「あの琴を、やはりそういうことなら、音色の中に伝わることもあろうかと、聞いて分かるように弾いて下さい。何やら気も晴れずに物思いに沈み込んでいる耳だけでも、せめてさっぱりさせましょう」<BR>⏎ | 92-93 | と,物思いに沈んで、琴は押しやりなさったので、<BR>⏎ 「あの琴を,やはりそういうことなら、音色の中に伝わることもあろうかと、聞いて分かるように弾いて下さい。何やら気も晴れずに物思いに沈み込んでいる耳だけでも、せめてさっぱりさせましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 107-108 | とおっしゃって、御簾の側近くに和琴を押し寄せなさるが、すぐにはお引き受けなさるはずもないことなので、無理にお願いなさらない。<BR>⏎ <P>⏎ | 96 | とおっしゃって,御簾の側近くに和琴を押し寄せなさるが、すぐにはお引き受けなさるはずもないことなので、無理にお願いなさらない。<BR>⏎ |
| version37 | 109 | <A NAME="in23">[第三段 夕霧、想夫恋を弾く]</A><BR> | 97 | |
| cd5:4 | 110-114 | 月が出て雲もない空に、羽をうち交わして飛ぶ雁も、列を離れないのを、羨ましくお聞きになっているのであろう。風が肌寒く感じられ、何となく寂しさに心動かされて、箏の琴をたいそうかすかにお弾きになっているのも、深みのある音色なので、ますます心を引きつけられてしまって、かえって物足りない思いがするので、琵琶を取り寄せて、とても優しい音色に「想夫恋」をお弾きになる。<BR>⏎ 「お気持ちを察してのようなのは、恐縮ですが、この曲目なら、何かおっしゃって下さるかと思いまして」<BR>⏎ とおっしゃって、しきりに御簾の中に向かって催促申し上げなさるが、和琴を所望された以上に、気が引けるお相手なので、宮はただ悲しいとばかりお思い続けていらっしゃるので、<BR>⏎ 「言葉に出しておっしゃらないのも、おっしゃる以上に<BR>⏎ 深いお気持ちなのだと、慎み深い態度からよく分かります」<BR>⏎ | 98-101 | 月が出て雲もない空に、羽をうち交わして飛ぶ雁も、列を離れないのを、羨ましくお聞きになっているのであろう。風が肌寒く感じられ、何となく寂しさに心動かされて、箏の琴をたいそうかすかにお弾きになっているのも、深みのある音色なので、ますます心を引きつけられてしまって、かえって物足りない思いがするので、琵琶を取り寄せて、とても優しい音色に 「想夫恋」をお弾きになる。<BR>⏎ 「お気持ちを察してのようなのは、恐縮ですが、この曲目なら,何かおっしゃって下さるかと思いまして」<BR>⏎ とおっしゃって,しきりに御簾の中に向かって催促申し上げなさるが、和琴を所望された以上に,気が引けるお相手なので、宮はただ悲しいとばかりお思い続けていらっしゃるので、<BR>⏎ 「言葉に出しておっしゃらないのも、おっしゃる以上に<BR> 深いお気持ちなのだと、慎み深い態度からよく分かります」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 116-117 | 「趣深い秋の夜の情趣はぞんじておりますが、<BR>⏎ 靡き顔に琴をお弾き申したでしょうか」<BR>⏎ | 103 | 「趣深い秋の夜の情趣はぞんじておりますが、<BR> 靡き顔に琴をお弾き申したでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 120-121 | などと、あらわにではないが、心の内をほのめかしてお帰りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 106 | などと,あらわにではないが、心の内をほのめかしてお帰りになる。<BR>⏎ |
| version37 | 122 | <A NAME="in24">[第四段 御息所、夕霧に横笛を贈る]</A><BR> | 107 | |
| c1 | 124 | と言って、御贈り物に笛を添えて差し上げなさる。<BR>⏎ | 109 | と言って,御贈り物に笛を添えて差し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 128 | とおっしゃって、御覧になると、この笛もなるほど肌身離さず愛玩しては、<BR>⏎ | 113 | とおっしゃって,御覧になると、この笛もなるほど肌身離さず愛玩しては、<BR>⏎ |
| c1 | 130 | と、柏木が時々愚痴をこぼしていらっしゃったのをお思い出しなさると、さらに悲しみが胸に迫って、試みに吹いてみる。盤渉調の半分ばかりでお止めになって、<BR>⏎ | 115 | と,柏木が時々愚痴をこぼしていらっしゃったのをお思い出しなさると、さらに悲しみが胸に迫って、試みに吹いてみる。盤渉調の半分ばかりでお止めになって、<BR>⏎ |
| cd6:4 | 132-137 | と言って、お出になるので、<BR>⏎ 「涙にくれていますこの荒れた家に昔の<BR>⏎ 秋と変わらない笛の音を聞かせて戴きました」<BR>⏎ と、内側から申し上げなさった。<BR>⏎ 「横笛の音色は特別昔と変わりませんが<BR>⏎ 亡くなった人を悼む泣き声は尽きません」<BR>⏎ | 117-120 | と言って,お出になるので、<BR>⏎ 「涙にくれていますこの荒れた家に昔の<BR> 秋と変わらない笛の音を聞かせて戴きました」<BR>⏎ と,内側から申し上げなさった。<BR>⏎ 「横笛の音色は特別昔と変わりませんが<BR> 亡くなった人を悼む泣き声は尽きません」<BR>⏎ |
| d1 | 139 | <P>⏎ | ||
| version37 | 140 | <A NAME="in25">[第五段 帰宅して、故人を想う]</A><BR> | 122 | |
| c1 | 143 | などと、誰かがご報告したので、このように夜更けまで外出なさるのも憎らしくて、お入りになったのも知っていながら、眠ったふりをしていらっしゃるのであろう。<BR>⏎ | 125 | などと,誰かがご報告したので、このように夜更けまで外出なさるのも憎らしくて、お入りになったのも知っていながら、眠ったふりをしていらっしゃるのであろう。<BR>⏎ |
| c3 | 145-147 | と、声はとても美しく独り歌って、<BR>⏎ 「これは、またどうして、こう固く鍵を閉めているのだ。何とまあ、うっとうしいことよ。今夜の月を見ない所もあるのだなあ」<BR>⏎ と、不満げにおっしゃる。格子を上げさせなさって、御簾を巻き上げなどなさって、端近くに横におなりになった。<BR>⏎ | 127-129 | と,声はとても美しく 独り歌って、<BR>⏎ 「これは,またどうして、こう固く鍵を閉めているのだ。何とまあ、うっとうしいことよ。今夜の月を見ない所もあるのだなあ」<BR>⏎ と,不満げにおっしゃる。格子を上げさせなさって、御簾を巻き上げなどなさって、端近くに横におなりになった。<BR>⏎ |
| c4 | 151-154 | 「どのように、わたしが立ち去った後でも、物思いに耽っていらっしゃることだろう。お琴の合奏は、調子を変えずなさっていらっしゃるのだろう。御息所も、和琴の名手であった」<BR>⏎ などと、思いをはせて臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ 「どうして、故君は、ただ表向きの気配りは、大切にお扱い申し上げていながら、大して深い愛情はなかったのだろう」<BR>⏎ と、考えるにつけても、大変いぶかしく思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 133-136 | 「どのように,わたしが立ち去った後でも、物思いに耽っていらっしゃることだろう。お琴の合奏は、調子を変えずなさっていらっしゃるのだろう。御息所も、和琴の名手であった」<BR>⏎ などと,思いをはせて臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ 「どうして,故君は、ただ表向きの気配りは、大切にお扱い申し上げていながら、大して深い愛情はなかったのだろう」<BR>⏎ と,考えるにつけても、大変いぶかしく思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| d1 | 157 | <P>⏎ | ||
| version37 | 158 | <A NAME="in26">[第六段 夢に柏木現れ出る]</A><BR> | 139 | |
| cd2:1 | 160-161 | 「この笛の音に吹き寄る風は同じことなら<BR>⏎ わたしの子孫に伝えて欲しいものだ<BR>⏎ | 141 | 「この笛の音に吹き寄る風は同じことなら<BR> わたしの子孫に伝えて欲しいものだ<BR>⏎ |
| c1 | 167 | などと、とても若く美しい顔をして、恨み言をおっしゃるので、にっこりして、<BR>⏎ | 147 | などと,とても若く美しい顔をして、恨み言をおっしゃるので、にっこりして、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 169-172 | と言って、ちらりと御覧になる目つきが、たいそう気後れするほど立派なので、それ以上は何ともおっしゃらず、<BR>⏎ 「さあ、もうお止めなさいまし。みっともない恰好ですから」<BR>⏎ と言って、明るい灯火を、さすがに恥ずかしがっていらっしゃる様子も憎くない。ほんとうに、この若君は苦しがって、一晩中泣きむずかって夜をお明かしになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 149-151 | と言って,ちらりと御覧になる目つきが、たいそう気後れするほど立派なので、それ以上は何ともおっしゃらず、<BR>⏎ 「さあ,もうお止めなさいまし。みっともない恰好ですから」<BR>⏎ と言って,明るい灯火を、さすがに恥ずかしがっていらっしゃる様子も憎くない。ほんとうに、この若君は苦しがって、一晩中泣きむずかって夜をお明かしになった。<BR>⏎ |
| version37 | 173 | <H4>第三章 夕霧の物語 匂宮と薫</H4> | 152 | |
| version37 | 174 | <A NAME="in31">[第一段 夕霧、六条院を訪問]</A><BR> | 153 | |
| c1 | 177 | などと、お考え続けなさって、愛宕で誦経をおさせになる。また、故人が帰依していた寺にもおさせになって、<BR>⏎ | 156 | などと,お考え続けなさって、愛宕で誦経をおさせになる。また,故人が帰依していた寺にもおさせになって、<BR>⏎ |
| c1 | 182 | と、自分に敬語をつけて、とても甘えておっしゃるので、ほほ笑んで、<BR>⏎ | 161 | と,自分に敬語をつけて、とても甘えておっしゃるので、ほほ笑んで、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 184-187 | と言って、お抱き申してお座りになると、<BR>⏎ 「誰も見ていません。わたしが、顔を隠そう。さあさあ」<BR>⏎ と言って、お袖で顔をお隠しになるので、とてもかわいらしいので、お連れ申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 163-165 | と言って,お抱き申してお座りになると、<BR>⏎ 「誰も見ていません。わたしが,顔を隠そう。さあさあ」<BR>⏎ と言って,お袖で顔をお隠しになるので、とてもかわいらしいので、お連れ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version37 | 188 | <A NAME="in32">[第二段 源氏の孫君たち、夕霧を奪い合う]</A><BR> | 166 | |
| c1 | 193 | と言って、お放しにならない。院も御覧になって、<BR>⏎ | 171 | と言って,お放しにならない。院も御覧になって、<BR>⏎ |
| c1 | 195 | と、おたしなめ申して仲裁なさる。大将も笑って、<BR>⏎ | 173 | と,おたしなめ申して仲裁なさる。大将も笑って、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 199-200 | とおっしゃって、お渡りになろうとすると、宮たちがまとわりついて、まったくお離れにならない。宮の若君は、宮たちとご同列に扱うべきではないと、ご心中にはお考えになるが、かえってそのお気持ちを、母宮が、心にとがめて気を回されることだろうと、これもまたご性分で、お気の毒に思われなさるので、とても大切にお扱い申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 177 | とおっしゃって,お渡りになろうとすると、宮たちがまとわりついて、まったくお離れにならない。宮の若君は、宮たちとご同列に扱うべきではないと、ご心中にはお考えになるが、かえってそのお気持ちを、母宮が、心にとがめて気を回されることだろうと、これもまたご性分で、お気の毒に思われなさるので、とても大切にお扱い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version37 | 201 | <A NAME="in33">[第三段 夕霧、薫をしみじみと見る]</A><BR> | 178 | |
| cd3:2 | 208-210 | と、泣き焦がれていらしたのに、お知らせ申し上げないのも罪なことではないか」などと思うが、「いや、どうしてそんなことがありえよう」<BR>⏎ と、やはり納得がゆかず、推測のしようもない。気立てまでが優しくおとなしくて、じゃれていらっしゃるので、とてもかわいらしく思われる。<BR>⏎ <P>⏎ | 185-186 | と,泣き焦がれていらしたのに、お知らせ申し上げないのも罪なことではないか」などと思うが、「いや,どうしてそんなことがありえよう」<BR>⏎ と,やはり納得がゆかず、推測のしようもない。気立てまでが優しくおとなしくて、じゃれていらっしゃるので、とてもかわいらしく思われる。<BR>⏎ |
| version37 | 211 | <A NAME="in34">[第四段 夕霧、源氏と対話す]</A><BR> | 187 | |
| c1 | 213 | 「あの想夫恋を弾いた気持ちは、なるほど、昔の風流の例として引き合いに出してもよさそうなところであるが、女は、やはり、男が心を動かす程度の風流があっても、いい加減なことでは表わすべきではないことだと、考えさせられることが多いな。<BR>⏎ | 189 | 「あの想夫恋を弾いた気持ちは、なるほど,昔の風流の例として引き合いに出してもよさそうなところであるが、女は、やはり,男が心を動かす程度の風流があっても、いい加減なことでは表わすべきではないことだと、考えさせられることが多いな。<BR>⏎ |
| c3 | 216-218 | 「何の間違いがございましょう。やはり、無常の世の同情から世話をするようになりました方々に、当座だけのいたわりで終わったら、かえって世間にありふれた疑いを受けましょうと思ってです。<BR>⏎ 想夫恋は、ご自分の方から弾き出しなさったのなら、非難されることにもなりましょうが、ことのついでに、ちょっとお弾きになったのは、あの時にふさわしい感じがして、興趣がございました。<BR>⏎ 何事も、人次第、事柄次第の事でございましょう。年齢なども、だんだんと、若々しいお振る舞いが相応しいお年頃ではいらっしゃいませんし、また、冗談を言って、好色がましい態度を見せることに、馴れておりませんので、お気を許されるでしょうか。大体が優しく無難なお方のご様子でいらっしゃいました」<BR>⏎ | 192-194 | 「何の間違いがございましょう。やはり,無常の世の同情から世話をするようになりました方々に、当座だけのいたわりで終わったら、かえって世間にありふれた疑いを受けましょうと思ってです。<BR>⏎ 想夫恋は、ご自分の方から弾き出しなさったのなら、非難されることにもなりましょうが、ことのついでに,ちょっとお弾きになったのは、あの時にふさわしい感じがして、興趣がございました。<BR>⏎ 何事も、人次第、事柄次第の事でございましょう。年齢なども、だんだんと,若々しいお振る舞いが相応しいお年頃ではいらっしゃいませんし、また,冗談を言って、好色がましい態度を見せることに、馴れておりませんので、お気を許されるでしょうか。大体が優しく無難なお方のご様子でいらっしゃいました」<BR>⏎ |
| d1 | 220 | <P>⏎ | ||
| version37 | 221 | <A NAME="in35">[第五段 笛を源氏に預ける]</A><BR> | 196 | |
| c1 | 222 | 「その笛は、わたしが預からねばならない理由がある物だ。それは陽成院の御笛だ。それを故式部卿宮が大事になさっていたが、あの衛門督は、子供の時から大変上手に笛を吹いたのに感心して、故式部卿宮が萩の宴を催された日、贈り物にお与えになったものだ。女の考えで深い由緒もよく知らず、そのように与えたのだろう」<BR>⏎ | 197 | 「その笛は、わたしが預からねばならない理由がある物だ。それは陽成院の御笛だ。それを故式部卿宮が 大事になさっていたが、あの衛門督は、子供の時から大変上手に笛を吹いたのに感心して、故式部卿宮が萩の宴を催された日、贈り物にお与えになったものだ。女の考えで深い由緒もよく知らず、そのように与えたのだろう」<BR>⏎ |
| c2 | 226-227 | 「臨終となった折にも、お見舞いに参上いたしましたところ、亡くなった後の事を遺言されました中に、これこれしかじかと、深く恐縮申している旨を、繰り返し言いましたので、どのようなことでしょうか、今に至までその理由が分かりませんので、気に掛かっているのでございます」<BR>⏎ と、いかにも腑に落ちないように申し上げなさるので、<BR>⏎ | 201-202 | 「臨終となった折にも、お見舞いに参上いたしましたところ、亡くなった後の事を遺言されました中に、これこれしかじかと,深く恐縮申している旨を、繰り返し言いましたので、どのようなことでしょうか、今に至までその理由が分かりませんので、気に掛かっているのでございます」<BR>⏎ と,いかにも腑に落ちないように申し上げなさるので、<BR>⏎ |
| c2 | 229-230 | とお思いになるが、どうして、そのような事柄をお口にすべきではないので、暫くは分からないふりをして、<BR>⏎ 「そのような、人に恨まれるような事は、いつしただろうかと、自分自身でも思い出す事ができないな。それはそれとして、そのうちゆっくり、あの夢の事は考えがついてからお話し申そう。夜には夢の話はしないものだとか、女房たちが言い伝えているようだ」<BR>⏎ | 204-205 | とお思いになるが、どうして,そのような事柄をお口にすべきではないので、暫くは分からないふりをして、<BR>⏎ 「そのような,人に恨まれるような事は、いつしただろうかと、自分自身でも思い出す事ができないな。それはそれとして,そのうちゆっくり、あの夢の事は考えがついてからお話し申そう。夜には夢の話はしないものだとか、女房たちが言い伝えているようだ」<BR>⏎ |
| d2 | 232-233 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 240 | ⏎ | ||
| i0 | 217 | |||
| diff | src/original/version38.html | src/modified/version38.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version38 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 37 | <P>⏎ | ||
| version38 | 38 | <H4>第一章 女三の宮の物語 持仏開眼供養</H4> | 34 | |
| version38 | 39 | <A NAME="in11">[第一段 持仏開眼供養の準備]</A><BR> | 35 | |
| c2 | 44-45 | 経は、六道の衆生のために六部お書きあそばして、ご自身の御持経は、院がご自身でお書きあそばしたのであった。せめてこれだけでも、この世の結縁として、互いに極楽浄土に導き合いなさるようにとの旨を願文にお作りあそばした。<BR>⏎ その他には、阿彌陀経、唐の紙はもろいので、朝夕のご使用にはどのようなものかしらと考えて、紙屋院の官人を召して、特別にご命令を下して、格別美しく漉かせなさった紙に、この春頃から、お心を込めて急いでお書きあそばしたかいがあって、その片端を御覧になった方々、目も眩むほどに驚いていらっしゃる。<BR>⏎ | 40-41 | 経は、六道の衆生のために六部お書きあそばして、ご自身の御持経は、院がご自身でお書きあそばしたのであった。せめてこれだけでも、この世の結縁として、互いに極楽浄土に導き合いなさるようにとの旨を 願文にお作りあそばした。<BR>⏎ その他には,阿彌陀経、唐の紙はもろいので、朝夕のご使用にはどのようなものかしらと考えて、紙屋院の官人を召して、特別にご命令を下して、格別美しく漉かせなさった紙に、この春頃から、お心を込めて急いでお書きあそばしたかいがあって、その片端を御覧になった方々、目も眩むほどに驚いていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| version38 | 48 | <A NAME="in12">[第二段 源氏と女三の宮、和歌を詠み交わす]</A><BR> | 43 | |
| c1 | 49 | お堂を飾り終わって、講師が壇上して、行道の人々も参集なさったので、院もそちらに出ようとなさって、宮のいらっしゃる西の廂の間にお立ち寄りなさると、狭い感じのする仮の御座所に、窮屈そうに暑苦しいほどに、仰々しく装束をした女房たちが五、六十人ほど集まっていた。<BR>⏎ | 44 | お堂を飾り終わって、講師が壇上して、行道の人々も参集なさったので、院もそちらに出ようとなさって、宮のいらっしゃる西の廂の間にお立ち寄りなさると、狭い感じのする仮の御座所に、窮屈そうに暑苦しいほどに、仰々しく装束をした女房たちが 五,六十人ほど集まっていた。<BR>⏎ |
| c1 | 52 | などと、いつものとおり、思慮の足りない若い女房たちの心用意をお教えになる。宮は、人気に圧倒されなさって、とても小柄で美しい感じに臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ | 47 | などと,いつものとおり、思慮の足りない若い女房たちの心用意をお教えになる。宮は、人気に圧倒されなさって、とても小柄で美しい感じに 臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd7:5 | 56-62 | 「このような仏事の御供養を、ご一緒にしようとは思いもしなかったことだ。まあ、しかたない。せめて来世では、あの蓮の花の中の宿を、一緒に仲好くしよう、と思って下さい」<BR>⏎ とおっしゃって、お泣きになった。<BR>⏎ 「来世は同じ蓮の花の中でと約束したが<BR>⏎ その葉に置く露のように別々でいる今日が悲しい」<BR>⏎ と、御硯に筆を濡らして、香染の御扇にお書き付けになった。宮は、<BR>⏎ 「蓮の花の宿を一緒に仲好くしようと約束なさっても<BR>⏎ あなたの本心は悟り澄まして一緒にとは思っていないでしょう」<BR>⏎ | 51-55 | 「このような仏事の御供養を、ご一緒にしようとは思いもしなかったことだ。まあ,しかたない.せめて来世では、あの蓮の花の中の宿を、一緒に仲好くしよう、と思って下さい」<BR>⏎ とおっしゃって,お泣きになった。<BR>⏎ 「来世は同じ蓮の花の中でと約束したが<BR> その葉に置く露のように別々でいる今日が悲しい」<BR>⏎ と,御硯に筆を濡らして、香染の御扇にお書き付けになった。宮は、<BR>⏎ 「蓮の花の宿を一緒に仲好くしようと約束なさっても<BR> あなたの本心は悟り澄まして一緒にとは思っていないでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 65-66 | と、苦笑しながらも、やはりしみじみと感に堪えないご様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 58 | と,苦笑しながらも、やはりしみじみと感に堪えないご様子である。<BR>⏎ |
| version38 | 67 | <A NAME="in13">[第三段 持仏開眼供養執り行われる]</A><BR> | 59 | |
| cd3:2 | 70-72 | この持仏開眼供養は、ただこっそりと、御念誦堂の開き初めとお考えになったことだが、帝におかせられても、また山の帝もお耳にあそばして、いずれもお使者があった。御誦経のお布施など、大変置ききれないほど、急に大げさになったのであった。<BR>⏎ 院でご準備あそばしたことも、簡略にとはお思いになったが、それでも並々ではなかったのだが、それ以上に、華やかなお布施が加わったので、夕方のお寺に置き場もないほど沢山になって、僧たちは帰って行ったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 62-63 | この持仏開眼供養は,ただこっそりと、御念誦堂の開き初めとお考えになったことだが、帝におかせられても、また山の帝もお耳にあそばして、いずれもお使者があった。御誦経のお布施など、大変置ききれないほど、急に大げさになったのであった。<BR>⏎ 院でご準備あそばしたことも、簡略にとはお思いになったが、それでも並々ではなかったのだが、それ以上に,華やかなお布施が加わったので、夕方のお寺に置き場もないほど沢山になって、僧たちは帰って行ったのであった。<BR>⏎ |
| version38 | 73 | <A NAME="in14">[第四段 三条宮邸を整備]</A><BR> | 64 | |
| c2 | 75-76 | 「離れ離れでいては、気掛かりであろう。毎日お世話申し上げて、こちらから申し上げたり用向きを承ることができないようでは、本意に外れることであろう。なるほど、いつまでも生きていられない世であるが、やはり生きている限りはお世話したい気持ちだけはなくしたくない」<BR>⏎ と申し上げ申し上げなさっては、あちらの宮も大変念入りに美しくご改築させなさって、御封の収入、国々の荘園、牧場などからの献上物で、これはと思われる物は、全てあちらの三条宮の御倉に納めさせなさる。さらに又、増築させて、いろいろな御宝物類、院の御遺産相続の時に無数にお譲り受けなさった物など、宮の関係の品物は、全てあちらの宮に運び移して、念を入れて厳重に保管させなさる。<BR>⏎ | 66-67 | 「離れ離れでいては、気掛かりであろう。毎日お世話申し上げて、こちらから申し上げたり用向きを承ることができないようでは、本意に外れることであろう。なるほど,いつまでも生きていられない世であるが、やはり生きている限りはお世話したい気持ちだけはなくしたくない」<BR>⏎ と申し上げ申し上げなさっては、あちらの宮も大変念入りに美しくご改築させなさって、御封の収入、国々の荘園、牧場などからの献上物で、これはと思われる物は、全てあちらの三条宮の御倉に納めさせなさる。さらに又,増築させて、いろいろな御宝物類、院の御遺産相続の時に無数にお譲り受けなさった物など、宮の関係の品物は、全てあちらの宮に運び移して、念を入れて厳重に保管させなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 78 | <P>⏎ | ||
| version38 | 79 | <H4>第二章 光る源氏の物語 六条院と冷泉院の中秋の宴</H4> | 69 | |
| version38 | 80 | <A NAME="in21">[第一段 女三の宮の前栽に虫を放つ]</A><BR> | 70 | |
| c1 | 85 | とお諌めになって、十何人かだけが尼姿になってお付きしている。<BR>⏎ | 75 | とお諌めになって、十何人かだけが 尼姿になってお付きしている。<BR>⏎ |
| c1 | 88 | と、一途に厄介なことにお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 78 | と,一途に厄介なことにお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 90 | 「やはり、このように」<BR>⏎ | 80 | 「やはり,このように」<BR>⏎ |
| d1 | 92 | <P>⏎ | ||
| version38 | 93 | <A NAME="in22">[第二段 八月十五夜、秋の虫の論]</A><BR> | 82 | |
| c1 | 94 | 十五夜の夕暮に、仏の御前に宮はいらっしゃって、端近くに物思いに耽りながら念誦なさる。若い尼君たち二、三人が花を奉ろうとして鳴らす閼伽、坏の音、水の感じなどが聞こえるのは、今までとは違った仕事に、忙しく働いているが、まことに感慨無量なので、いつものようにお越しになって、<BR>⏎ | 83 | 十五夜の夕暮に、仏の御前に宮はいらっしゃって、端近くに物思いに耽りながら念誦なさる。若い尼君たち二,三人が花を奉ろうとして鳴らす閼伽、坏の音、水の感じなどが聞こえるのは、今までとは違った仕事に、忙しく働いているが、まことに感慨無量なので、いつものようにお越しになって、<BR>⏎ |
| c1 | 96 | と言って、自分もひっそりと朗誦なさる阿彌陀経の大呪が、たいそう尊くかすかに聞こえる。いかにも、虫の音がいろいろ聞こえる中で、鈴虫が声を立てているところは、華やかで趣きがある。<BR>⏎ | 85 | と言って,自分もひっそりと朗誦なさる阿彌陀経の大呪が、たいそう尊くかすかに聞こえる。いかにも,虫の音がいろいろ聞こえる中で、鈴虫が声を立てているところは、華やかで趣きがある。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 100-101 | 「秋という季節はつらいものと分かっておりますが<BR>⏎ やはり鈴虫の声だけは飽きずに聴き続けていたいものです」<BR>⏎ | 89 | 「秋という季節はつらいものと分かっておりますが<BR> やはり鈴虫の声だけは飽きずに聴き続けていたいものです」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 103-105 | 「何とおしゃいましたか。いやはや、思いがけないお言葉ですね」と言って、<BR>⏎ 「ご自分からこの家をお捨てになったのですが<BR>⏎ やはりお声は鈴虫と同じように今も変わりません」<BR>⏎ | 91-92 | 「何とおしゃいましたか。いやはや,思いがけないお言葉ですね」と言って、<BR>⏎ 「ご自分からこの家をお捨てになったのですが<BR> やはりお声は鈴虫と同じように今も変わりません」<BR>⏎ |
| d1 | 108 | <P>⏎ | ||
| version38 | 109 | <A NAME="in23">[第三段 六条院の鈴虫の宴]</A><BR> | 95 | |
| c1 | 112 | とおっしゃって、宮にも、こちらに御座所を設けてお入れ申し上げなさる。宮中の御前で、今夜は月の宴が催される予定であったが、中止になって物足りない気がしたので、こちらの院に方々が参上なさると伝え聞いて、誰や彼やと上達部なども参上なさった。虫の音の批評をなさる。<BR>⏎ | 98 | とおっしゃって,宮にも、こちらに御座所を設けてお入れ申し上げなさる。宮中の御前で、今夜は月の宴が催される予定であったが、中止になって物足りない気がしたので、こちらの院に方々が参上なさると伝え聞いて、誰や彼やと上達部なども参上なさった。虫の音の批評をなさる。<BR>⏎ |
| c2 | 114-115 | 「月を見る夜は、いつでももののあわれを誘わないことはない中でも、今夜の新しい月の色には、なるほどやはり、この世の後の世界までが、いろいろと想像されるよ。故大納言が、いつの折にも、亡くなったことにつけて、一層思い出されることが多く、公、私、共に何かある機会に物の栄えがなくなった感じがする。花や鳥の色にも音にも、美をわきまえ、話相手として、大変に優れていたのだったが」<BR>⏎ などとお口に出されて、ご自身でも合奏なさる琴の音につけても、お袖を濡らしなさった。御簾の中でも耳を止めてお聴きになって入るだろうと、片一方のお心ではお思いになりながら、このような管弦のお遊びの折には、まずは恋しく、帝におかせられてもお思い出しになられるのであった。<BR>⏎ | 100-101 | 「月を見る夜は、いつでももののあわれを誘わないことはない中でも、今夜の新しい月の色には、なるほどやはり、この世の後の世界までが、いろいろと想像されるよ。故大納言が、いつの折にも、亡くなったことにつけて,一層思い出されることが多く、公,私,共に 何かある機会に物の栄えがなくなった感じがする。花や鳥の色にも音にも、美をわきまえ、話相手として、大変に優れていたのだったが」<BR>⏎ などとお口に出されて、ご自身でも合奏なさる琴の音につけても、お袖を濡らしなさった。御簾の中でも 耳を止めてお聴きになって入るだろうと、片一方のお心ではお思いになりながら、このような管弦のお遊びの折には、まずは恋しく、帝におかせられてもお思い出しになられるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 118 | <P>⏎ | ||
| version38 | 119 | <A NAME="in24">[第四段 冷泉院より招請の和歌]</A><BR> | 104 | |
| cd2:1 | 121-122 | 「宮中から遠く離れて住んでいる仙洞御所にも<BR>⏎ 忘れもせず秋の月は照っています<BR>⏎ | 106 | 「宮中から遠く離れて住んでいる仙洞御所にも<BR> 忘れもせず秋の月は照っています<BR>⏎ |
| cd3:2 | 126-128 | とおっしゃって、急な事のようだが、参上なさろうとする。<BR>⏎ 「月の光は昔と同じく照っていますが<BR>⏎ わたしの方がすっかり変わってしまいました」<BR>⏎ | 110-111 | とおっしゃって,急な事のようだが、参上なさろうとする。<BR>⏎ 「月の光は昔と同じく照っていますが<BR> わたしの方がすっかり変わってしまいました」<BR>⏎ |
| d1 | 130 | <P>⏎ | ||
| version38 | 131 | <A NAME="in25">[第五段 冷泉院の月の宴]</A><BR> | 113 | |
| c1 | 134 | 改まった公式の儀式の折には、仰々しく厳めしい威儀の限りを尽くして、お互いにご対面なさり、また一方で、昔の臣下時代に戻った気持ちで、今夜は手軽な恰好で、急にこのように参上なさったので、大変にお驚きになり、お喜び申し上げあそばす。<BR>⏎ | 116 | 改まった公式の儀式の折には、仰々しく厳めしい威儀の限りを尽くして、お互いにご対面なさり、また一方で,昔の臣下時代に戻った気持ちで、今夜は手軽な恰好で、急にこのように参上なさったので、大変にお驚きになり、お喜び申し上げあそばす。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 136-137 | その夜の詩歌は、漢詩も和歌も共に、趣深く素晴らしいものばかりである。例によって、一端を言葉足らずにお伝えするのも気が引けて。明け方に漢詩などを披露して、早々に方々はご退出なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 118 | その夜の詩歌は、漢詩も和歌も共に、趣深く素晴らしいものばかりである。例によって,一端を言葉足らずにお伝えするのも気が引けて。明け方に漢詩などを披露して、早々に方々はご退出なさる。<BR>⏎ |
| version38 | 138 | <H4>第三章 秋好中宮の物語 出家と母の罪を思う</H4> | 119 | |
| version38 | 139 | <A NAME="in31">[第一段 秋好中宮、出家を思う]</A><BR> | 120 | |
| c1 | 143 | などと、方々の生活面のことについてお願い申し上げなさる。<BR>⏎ | 124 | などと,方々の生活面のことについてお願い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 147 | 「おっしゃる通り、宮中にいらっしゃった時には、決まりに従った折々のお里下がりも、ほんとうにお待ち申し上げておりましたが、今は何を理由として、御自由にお出であそばすことがございましょうか。無常な世の習いとは言いながらも、特に世を厭う理由のない人が、きっぱりと出家することも難しいことで、容易に出家できそうな身分の人でさえ、自然とかかわり合う係累ができて世を背くことが出来ませんのに、どうして、そんな人真似をして負けずに出家なさろうとするのは、かえって変なお心掛けとご推量申し上げる者があっては困ります。絶対にあってはならない御事でございます」<BR>⏎ | 128 | 「おっしゃる通り,宮中にいらっしゃった時には、決まりに従った折々のお里下がりも、ほんとうにお待ち申し上げておりましたが、今は何を理由として、御自由にお出であそばすことがございましょうか。無常な世の習いとは言いながらも、特に世を厭う理由のない人が、きっぱりと出家することも難しいことで、容易に出家できそうな身分の人でさえ、自然とかかわり合う係累ができて世を背くことが出来ませんのに、どうして,そんな人真似をして負けずに出家なさろうとするのは、かえって変なお心掛けとご推量申し上げる者があっては困ります。絶対にあってはならない御事でございます」<BR>⏎ |
| d1 | 149 | <P>⏎ | ||
| version38 | 150 | <A NAME="in32">[第二段 母御息所の罪を思う]</A><BR> | 130 | |
| c4 | 151-154 | 母御息所が、ご自身お苦しみになっていらっしゃろう様子、どのような業火の中で迷っていらっしゃるのだろう様子、亡くなった後までも、人から疎まれ申される物の怪となって名乗り出たことは、あちらの院では大変に隠していらっしゃったが、自然と人の口は煩しいもので、伝え聞いた後は、とても悲しく辛くて、何もかもが厭わしくお思いになって、たとい憑坐にのり移った言葉にせよ、そのおっしゃった内容を詳しく聞きたいのだが、まともには申し上げかねなさって、ただ、<BR>⏎ 「亡くなった母上のあの世でのご様子が、罪障の軽くない様子と、かすかに聞くことがございましたので、そのような証拠がはっきりしているのでなくとも、推し量らねばならないことでしたのに、先立たれた時の悲しみばかりを忘れずにおりまして、あの世での苦しみを想像しなかった至らなさを、何とかして、ちゃんと教えてくれる人の勧めを聞きまして、せめてわたしでも、その業火の炎を薄らげて上げたいと、だんだんと年をとるにつれて、考えられるようになったことでございます」<BR>⏎ などと、それとなしにおっしゃる。<BR>⏎ 「なるほど、そのようにお考えになるのももっともなことだ」と、お気の毒に拝し上げなさって、<BR>⏎ | 131-134 | 母御息所が、ご自身お苦しみになっていらっしゃろう様子、どのような業火の中で迷っていらっしゃるのだろう様子、亡くなった後までも、人から疎まれ申される物の怪となって名乗り出たことは、あちらの院では大変に隠していらっしゃったが、自然と人の口は煩しいもので、伝え聞いた後は、とても悲しく辛くて、何もかもが厭わしくお思いになって、たとい憑坐にのり移った言葉にせよ、そのおっしゃった内容を詳しく聞きたいのだが、まともには申し上げかねなさって、ただ,<BR>⏎ 「亡くなった母上のあの世でのご様子が、罪障の軽くない様子と、かすかに聞くことがございましたので、そのような証拠がはっきりしているのでなくとも、推し量らねばならないことでしたのに、先立たれた時の悲しみばかりを忘れずにおりまして、あの世での苦しみを想像しなかった至らなさを、何とかして,ちゃんと教えてくれる人の勧めを聞きまして、せめてわたしでも、その業火の炎を薄らげて上げたいと、だんだんと年をとるにつれて、考えられるようになったことでございます」<BR>⏎ などと,それとなしにおっしゃる。<BR>⏎ 「なるほど,そのようにお考えになるのももっともなことだ」と、お気の毒に拝し上げなさって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 157-158 | などと、世の中の事が何もかも無常であり、出家したいことをお互いに話し合いなさるが、やはり、出家することは難しいお二方の身の上である。<BR>⏎ <P>⏎ | 137 | などと,世の中の事が何もかも無常であり、出家したいことをお互いに話し合いなさるが、やはり,出家することは難しいお二方の身の上である。<BR>⏎ |
| version38 | 159 | <A NAME="in33">[第三段 秋好中宮の仏道生活]</A><BR> | 138 | |
| c1 | 161 | 春宮の女御のご様子、他に並ぶ方がなく、大切にお世話申し上げなさっているだけのことは十分あり、大将がまた大変に格別に優れているご様子をも、どちらも安心だとお思いになるが、やはり、この冷泉院をお思い申し上げるお気持ちは、特に深くいとしくお思いなさる。院もいつも気に掛けていらっしゃったが、ご対面がめったになく気掛かりにお思いだったため、気がせかれなさって、このように気楽なご境遇にとお考えになったのであった。<BR>⏎ | 140 | 春宮の女御のご様子、他に並ぶ方がなく、大切にお世話申し上げなさっているだけのことは十分あり、大将がまた大変に格別に優れているご様子をも、どちらも安心だとお思いになるが、やはり,この冷泉院をお思い申し上げるお気持ちは、特に深くいとしくお思いなさる。院もいつも気に掛けていらっしゃったが、ご対面がめったになく気掛かりにお思いだったため、気がせかれなさって、このように気楽なご境遇にとお考えになったのであった。<BR>⏎ |
| d2 | 163-164 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 171 | ⏎ | ||
| i0 | 152 | |||
| diff | src/original/version39.html | src/modified/version39.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version39 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 82 | <P>⏎ | ||
| version39 | 83 | <H4>第一章 夕霧の物語 小野山荘訪問</H4> | 79 | |
| version39 | 84 | <A NAME="in11">[第一段 一条御息所と落葉宮、小野山荘に移る]</A><BR> | 80 | |
| c1 | 91 | と、お考えになっていたところ、御息所が、物の怪にひどくお患いになって、小野という辺りに、山里を持っていらっしゃった所にお移りになった。早くから御祈祷師として、物の怪などを追い払っていた律師が、山籠もりして里には出まいと誓願を立てていたのを、麓近くなので、下山して頂くためなのであった。<BR>⏎ | 87 | と,お考えになっていたところ、御息所が、物の怪にひどくお患いになって、小野という辺りに、山里を持っていらっしゃった所にお移りになった。早くから御祈祷師として、物の怪などを追い払っていた律師が、山籠もりして里には出まいと誓願を立てていたのを、麓近くなので、下山して頂くためなのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 93 | 弁の君、彼は彼で、気がないわけでもなくて、素振りを匂わせたのだが、思ってもみない程のおあしらいだったので、無理に参上してお世話なさることもできなくなっていた。<BR>⏎ | 89 | 弁の君、彼は彼で,気がないわけでもなくて、素振りを匂わせたのだが、思ってもみない程のおあしらいだったので、無理に参上してお世話なさることもできなくなっていた。<BR>⏎ |
| c1 | 96 | と、女房たちが申し上げるので、宮がお返事をさし上げなさる。<BR>⏎ | 92 | と,女房たちが申し上げるので、宮がお返事をさし上げなさる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 98-100 | 「やはり、いつかは事の起こるに違いないご関係のようだ」<BR>⏎ と、北の方は様子を察していられたので、めんどうに思って、訪問したいとはお思いになるが、すぐにはお出かけになることができない。<BR>⏎ <P>⏎ | 94-95 | 「やはり,いつかは事の起こるに違いないご関係のようだ」<BR>⏎ と,北の方は様子を察していられたので、めんどうに思って、訪問したいとはお思いになるが、すぐにはお出かけになることができない。<BR>⏎ |
| version39 | 101 | <A NAME="in12">[第二段 八月二十日頃、夕霧、小野山荘を訪問]</A><BR> | 96 | |
| c1 | 104 | と、さりげない用件のように申し上げてお出かけになる。御前駆、大げさにせず、親しい者だけ五、六人ほどが、狩衣姿で従う。特別深い山道ではないが、松が崎の小山の色なども、それほどの岩山ではないが、秋らしい様子になって、都で又となく善美を尽くした住居より、やはり、情趣も風情も立ち勝って見えることであるよ。<BR>⏎ | 99 | と,さりげない用件のように申し上げてお出かけになる。御前駆、大げさにせず、親しい者だけ五,六人ほどが、狩衣姿で従う。特別深い山道ではないが、松が崎の小山の色なども、それほどの岩山ではないが、秋らしい様子になって、都で又となく善美を尽くした住居より、やはり,情趣も風情も立ち勝って見えることであるよ。<BR>⏎ |
| c1 | 109 | と、奥から申し上げなさった。<BR>⏎ | 104 | と,奥から申し上げなさった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 111-112 | などと、申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 106 | などと,申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version39 | 113 | <A NAME="in13">[第三段 夕霧、落葉宮に面談を申し入れる]</A><BR> | 107 | |
| c2 | 117-118 | 年齢も若く身分も低かったころに、多少とも色めいたことに経験が豊かであったら、こんな恥ずかしい思いはしなかったろうに。まったく、このように生真面目で、愚かしく年を過ごして来た人は、他にいないだろう」<BR>⏎ とおっしゃる。なるほど、まことに軽々しくお扱いできないご様子でいらっしゃるので、やはりそうであったかと、<BR>⏎ | 111-112 | 年齢も若く身分も低かったころに、多少とも色めいたことに経験が豊かであったら、こんな恥ずかしい思いはしなかったろうに。まったく,このように生真面目で、愚かしく年を過ごして来た人は、他にいないだろう」<BR>⏎ とおっしゃる。なるほど,まことに軽々しくお扱いできないご様子でいらっしゃるので、やはりそうであったかと、<BR>⏎ |
| c1 | 122 | と、宮に申し上げると、<BR>⏎ | 116 | と,宮に申し上げると、<BR>⏎ |
| c1 | 125 | 「これは、宮のお返事ですか」と居ずまいを正して、「お気の毒なご病気を、わが身に代えてもとご心配申し上げておりましたのも、他ならぬあなたのためです。恐れ多いことですが、物事のご判断がお出来になるご様子などを、ご快復を御覧になられるまでは、平穏にお過ごしになられるのが、どなたにとっても心強いことでございましょうと、ご推察申し上げるのです。ただ母上様へのご心配ばかりとお考えになって、積もる思いをご理解下さらないのは、不本意でございます」<BR>⏎ | 119 | 「これは,宮のお返事ですか」と居ずまいを正して、「お気の毒なご病気を、わが身に代えてもとご心配申し上げておりましたのも、他ならぬあなたのためです。恐れ多いことですが、物事のご判断がお出来になるご様子などを、ご快復を御覧になられるまでは、平穏にお過ごしになられるのが、どなたにとっても心強いことでございましょうと、ご推察申し上げるのです。ただ母上様へのご心配ばかりとお考えになって、積もる思いをご理解下さらないのは、不本意でございます」<BR>⏎ |
| d1 | 127 | <P>⏎ | ||
| version39 | 128 | <A NAME="in14">[第四段 夕霧、山荘に一晩逗留を決意]</A><BR> | 121 | |
| cd2:1 | 134-135 | 「山里の物寂しい気持ちを添える夕霧のために<BR>⏎ 帰って行く気持ちにもなれずおります」<BR>⏎ | 127 | 「山里の物寂しい気持ちを添える夕霧のために<BR> 帰って行く気持ちにもなれずおります」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 137-138 | 「山里の垣根に立ち籠めた霧も<BR>⏎ 気持ちのない人は引き止めません」<BR>⏎ | 129 | 「山里の垣根に立ち籠めた霧も<BR> 気持ちのない人は引き止めません」<BR>⏎ |
| c1 | 141 | などとためらって、これ以上堪えられない思いをほのめかして申し上げなさると、今までも全然ご存知でなかったわけではないが、知らない顔でばかり通して来なさったので、このように言葉に出されてお恨み申し上げなさるのを、面倒に思って、ますますお返事もないので、たいそう嘆きながら、心の中で、「再び、このような機会があるだろうか」と、思案をめぐらしなさる。<BR>⏎ | 132 | などとためらって、これ以上堪えられない思いをほのめかして申し上げなさると、今までも全然ご存知でなかったわけではないが、知らない顔でばかり通して来なさったので、このように言葉に出されてお恨み申し上げなさるのを、面倒に思って、ますますお返事もないので、たいそう嘆きながら、心の中で、「再び,このような機会があるだろうか」と、思案をめぐらしなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 146 | <P>⏎ | ||
| version39 | 147 | <A NAME="in15">[第五段 夕霧、落葉宮の部屋に忍び込む]</A><BR> | 137 | |
| c1 | 150 | などと、さりげなくおっしゃる。いつもは、このように長居して、くだけた態度もお見せなさらないのに、「嫌なことだわ」と、宮はお思いになるが、わざとらしくして、さっさとあちらにお移りになるのは、人の体裁の悪い気がなさって、ただ音を立てずにいらっしゃると、何かと申し上げて、お言葉をお伝えに入って行く女房の後ろに付いて、御簾の中に入っておしまいになった。<BR>⏎ | 140 | などと,さりげなくおっしゃる。いつもは、このように長居して、くだけた態度もお見せなさらないのに、「嫌なことだわ」と、宮はお思いになるが、わざとらしくして、さっさとあちらにお移りになるのは、人の体裁の悪い気がなさって、ただ音を立てずにいらっしゃると、何かと申し上げて、お言葉をお伝えに入って行く女房の後ろに付いて、御簾の中に入っておしまいになった。<BR>⏎ |
| c1 | 155 | と、今にも泣き出しそうに申し上げるが、<BR>⏎ | 145 | と,今にも泣き出しそうに申し上げるが、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 157-158 | とおっしゃって、とても静かに体裁よく落ち着いた態度で、心の中をお話し申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 147 | とおっしゃって,とても静かに体裁よく落ち着いた態度で、心の中をお話し申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version39 | 159 | <A NAME="in16">[第六段 夕霧、落葉宮をかき口説く]</A><BR> | 148 | |
| c2 | 160-161 | お聞き入れになるはずもなく、悔しい、こんな事にまでと、お思いになることばかりが、心を去らないので、返事のお言葉はまったく思い浮かびなさらない。<BR>⏎ 「まことに情けなく、子供みたいなお振る舞いですね。人知れない胸の中に思いあまった色めいた罪ぐらいはございましょうが、これ以上馴れ馴れし過ぎる態度は、まったくお許しがなければ致しません。どんなにか、千々に乱れて悲しみに堪え兼ねていますことか。<BR>⏎ | 149-150 | お聞き入れになるはずもなく、悔しい、こんな事にまでと,お思いになることばかりが、心を去らないので、返事のお言葉はまったく思い浮かびなさらない。<BR>⏎ 「まことに情けなく、子供みたいなお振る舞いですね。人知れない胸の中に思いあまった色めいた罪ぐらいはございましょうが、これ以上馴れ馴れし過ぎる態度は、まったくお許しがなければ致しません。どんなにか,千々に乱れて悲しみに堪え兼ねていますことか。<BR>⏎ |
| c1 | 163 | と言って、努めて思いやり深く、気をつかっていらっしゃった。<BR>⏎ | 152 | と言って,努めて思いやり深く、気をつかっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 166-167 | と、ついお笑いになって、思いやりのない振る舞いはしない。宮のご様子の、優しく上品で優美でいらっしゃること、何と言っても格別に思える。ずっと物思いに沈んでいらっしゃったせいか、痩せてか細い感じがして、普段着のままでいらっしゃるお袖の辺りもしなやかで、親しみやすく焚き込めた香の匂いなども、何もかもがかわいらしく、なよなよとした感じがしていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 155 | と,ついお笑いになって、思いやりのない振る舞いはしない。宮のご様子の、優しく上品で優美でいらっしゃること、何と言っても格別に思える。ずっと物思いに沈んでいらっしゃったせいか、痩せてか細い感じがして、普段着のままでいらっしゃるお袖の辺りもしなやかで、親しみやすく焚き込めた香の匂いなども、何もかもがかわいらしく、なよなよとした感じがしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version39 | 168 | <A NAME="in17">[第七段 迫りながらも明け方近くなる]</A><BR> | 156 | |
| c1 | 170 | 「やはり、このようにお分かりになって頂けないご様子は、かえって浅薄なお心底と思われます。このような世間知らずなまで愚かしく心配のいらないところなども、他にいないだろうと思われますが、どのようなことでも手軽にできる身分の人は、このような振る舞いを愚か者だと笑って、同情のない心をするものです。<BR>⏎ | 158 | 「やはり,このようにお分かりになって頂けないご様子は、かえって浅薄なお心底と思われます。このような世間知らずなまで愚かしく心配のいらないところなども、他にいないだろうと思われますが、どのようなことでも手軽にできる身分の人は、このような振る舞いを愚か者だと笑って、同情のない心をするものです。<BR>⏎ |
| c2 | 172-173 | と、いろいろと言い迫られなさって、どのようにお答えしたらよいものかと、困り切って思案なさる。<BR>⏎ 結婚した経験があるから気安いように、時々口にされるのも、不愉快で、「なるほど、又とない身の不運だわ」と、お思い続けていらっしゃると、死んでしまいそうに思われなさって、<BR>⏎ | 160-161 | と,いろいろと言い迫られなさって、どのようにお答えしたらよいものかと、困り切って思案なさる。<BR>⏎ 結婚した経験があるから気安いように、時々口にされるのも、不愉快で、「なるほど,又とない身の不運だわ」と、お思い続けていらっしゃると、死んでしまいそうに思われなさって、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 175-177 | と、とてもかすかに、悲しそうにお泣きになって、<BR>⏎ 「わたしだけが不幸な結婚をした女の例として<BR>⏎ さらに涙の袖を濡らして悪い評判を受けなければならないのでしょうか」<BR>⏎ | 163-164 | と,とてもかすかに、悲しそうにお泣きになって、<BR>⏎ 「わたしだけが不幸な結婚をした女の例として<BR> さらに涙の袖を濡らして悪い評判を受けなければならないのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 179-182 | 「おっしゃるとおり、悪い事を申しましたね」<BR>⏎ などと、微笑んでいらっしゃるご様子で、<BR>⏎ 「だいたいがわたしがあなたに悲しい思いをさせなくても<BR>⏎ 既に立ってしまった悪い評判はもう隠れるものではありません<BR>⏎ | 166-168 | 「おっしゃるとおり,悪い事を申しましたね」<BR>⏎ などと,微笑んでいらっしゃるご様子で、<BR>⏎ 「だいたいがわたしがあなたに悲しい思いをさせなくても<BR> 既に立ってしまった悪い評判はもう隠れるものではありません<BR>⏎ |
| cd4:3 | 184-187 | と言って、月の明るい方にお誘い申し上げるのも、心外な、とお思いになる。気強く応対なさるが、たやすくお引き寄せ申して、<BR>⏎ 「これほど例のない厚い愛情をお分かり下さって、お気を楽になさって下さい。お許しがなくては、けっして、けっして」<BR>⏎ と、たいそうはっきりと申し上げなさっているうちに、明け方近くなってしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 170-172 | と言って,月の明るい方にお誘い申し上げるのも、心外な、とお思いになる。気強く応対なさるが、たやすくお引き寄せ申して、<BR>⏎ 「これほど例のない厚い愛情をお分かり下さって、お気を楽になさって下さい。お許しがなくては、けっして,けっして」<BR>⏎ と,たいそうはっきりと申し上げなさっているうちに、明け方近くなってしまった。<BR>⏎ |
| version39 | 188 | <A NAME="in18">[第八段 夕霧、和歌を詠み交わして帰る]</A><BR> | 173 | |
| c2 | 191-192 | 「かの亡き君は、位などもまだ十分ではなかったのに、誰も彼もがお許しになったので、自然と成り行きに従って、結婚なさったのだが、それでさえ冷淡になって行ったお心の有様は、ましてこのようなとんでもないことに、まったくの他人というわけでさえないが、大殿などがお聞きになってどうお思いになることか。世間一般の非難は言うまでもなく、父の院におかれてもどのようにお聞きあそばしお思いあそばされることだろうか」<BR>⏎ などと、ご縁者のあちらこちらの方々のお心をお考えなさると、とても残念で、自分の考え一つに、<BR>⏎ | 176-177 | 「かの亡き君は,位などもまだ十分ではなかったのに、誰も彼もがお許しになったので、自然と成り行きに従って、結婚なさったのだが、それでさえ冷淡になって行ったお心の有様は、ましてこのようなとんでもないことに、まったくの他人というわけでさえないが、大殿などがお聞きになってどうお思いになることか。世間一般の非難は言うまでもなく、父の院におかれてもどのようにお聞きあそばしお思いあそばされることだろうか」<BR>⏎ などと,ご縁者のあちらこちらの方々のお心をお考えなさると、とても残念で、自分の考え一つに、<BR>⏎ |
| cd5:4 | 195-199 | と、せき立て申し上げなさるより他ない。<BR>⏎ 「驚いたことですね。意味ありげに踏み分けて帰る朝露が変に思うでしょうよ。やはり、それならばお考え下さい。愚かな姿をお見せ申して、うまく言いくるめて帰したとお見限り考えなさるようなら、その時はこの心もおとなしくしていられない、今までに致した事もない、不埒な事どもを仕出かすようなことになりそうに存じられます」<BR>⏎ と言って、とても後が気がかりで、中途半端な逢瀬であったが、いきなり色めいた態度に出ることが、ほんとうに馴れていないお人柄なので、「お気の毒で、ご自身でも見下げたくならないか」などとお思いになって、どちらにとっても、人目につきにくい時分の霧に紛れてお帰りになるのは、心も上の空である。<BR>⏎ 「荻原の軒葉の荻の露に濡れながら幾重にも<BR>⏎ 立ち籠めた霧の中を帰って行かねばならないのでしょう<BR>⏎ | 180-183 | と,せき立て申し上げなさるより他ない。<BR>⏎ 「驚いたことですね。意味ありげに踏み分けて帰る朝露が変に思うでしょうよ。やはり,それならばお考え下さい。愚かな姿をお見せ申して、うまく言いくるめて帰したとお見限り考えなさるようなら、その時はこの心もおとなしくしていられない、今までに致した事もない、不埒な事どもを仕出かすようなことになりそうに存じられます」<BR>⏎ と言って,とても後が気がかりで、中途半端な逢瀬であったが、いきなり色めいた態度に出ることが、ほんとうに馴れていないお人柄なので、「お気の毒で、ご自身でも見下げたくならないか」などとお思いになって、どちらにとっても、人目につきにくい時分の霧に紛れてお帰りになるのは、心も上の空である。<BR>⏎ 「荻原の軒葉の荻の露に濡れながら幾重にも<BR> 立ち籠めた霧の中を帰って行かねばならないのでしょう<BR>⏎ |
| cd3:2 | 201-203 | と申し上げなさる。なるほど、ご自分の評判が聞きにくく伝わるに違いないが、「せめて自分の心に問われた時だけでも、潔白だと答えよう」とお思いになると、ひどくよそよそしいお返事をなさる。<BR>⏎ 「帰って行かれる草葉の露に濡れるのを言いがかりにして<BR>⏎ わたしに濡れ衣を着せようとお思いなのですか<BR>⏎ | 185-186 | と申し上げなさる。なるほど,ご自分の評判が聞きにくく伝わるに違いないが、「せめて自分の心に問われた時だけでも、潔白だと答えよう」とお思いになると、ひどくよそよそしいお返事をなさる。<BR>⏎ 「帰って行かれる草葉の露に濡れるのを言いがかりにして<BR> わたしに濡れ衣を着せようとお思いなのですか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 205-206 | と、お咎めになるご様子、とても風情があり気品がある。長年、人とは違った人情家になって、いろいろと思いやりのあるところをお見せ申していたのに、それとうって変わって、油断させ、好色がましいのが、おいたわしく、気恥ずかしいので、少なからず反省し反省しては、「このように無理をしてお従い申したとしても、後になって馬鹿らしく思われないか」と、あれこれと思い乱れながらお帰りになる。帰り道の露っぽさも、まことにいっぱいある。<BR>⏎ <P>⏎ | 188 | と,お咎めになるご様子、とても風情があり気品がある。長年、人とは違った人情家になって、いろいろと思いやりのあるところをお見せ申していたのに、それとうって変わって、油断させ、好色がましいのが、おいたわしく、気恥ずかしいので、少なからず反省し反省しては、「このように無理をしてお従い申したとしても、後になって馬鹿らしく思われないか」と、あれこれと思い乱れながらお帰りになる。帰り道の露っぽさも、まことにいっぱいある。<BR>⏎ |
| version39 | 207 | <H4>第二章 落葉宮の物語 律師の告げ口</H4> | 189 | |
| version39 | 208 | <A NAME="in21">[第一段 夕霧の後朝の文]</A><BR> | 190 | |
| c1 | 211 | と、女房たちはささやき合う。暫くお休みになってから、お召し物を着替えなさる。いつでも夏服冬服と大変きれいに用意していらっしゃるので、香を入れた御唐櫃から取り出して差し上げなさる。お粥など召し上がって、院の御前に参上なさる。<BR>⏎ | 193 | と,女房たちはささやき合う。暫くお休みになってから、お召し物を着替えなさる。いつでも夏服冬服と大変きれいに用意していらっしゃるので、香を入れた御唐櫃から取り出して差し上げなさる。お粥など召し上がって、院の御前に参上なさる。<BR>⏎ |
| c1 | 217 | 「やはり、全然お返事をなさらないのも、不安だし、子供っぽいようでございましょう」<BR>⏎ | 199 | 「やはり,全然お返事をなさらないのも、不安だし、子供っぽいようでございましょう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 220-223 | と、もってのほかだと、横におなりあそばした。<BR>⏎ 実のところは、憎い様子もなく、とても心をこめてお書きになって、<BR>⏎ 「魂をつれないあなたの所に置いてきて<BR>⏎ 自分ながらどうしてよいか分かりません<BR>⏎ | 202-204 | と,もってのほかだと、横におなりあそばした。<BR>⏎ 実のところは,憎い様子もなく、とても心をこめてお書きになって、<BR>⏎ 「魂をつれないあなたの所に置いてきて<BR> 自分ながらどうしてよいか分かりません<BR>⏎ |
| c1 | 225 | などと、とても多く書いてあるようだが、女房はよく見ることができない。通常の後朝の手紙ではないようであるが、やはりすっきりとしない。女房たちは、ご様子もお気の毒なので、心を痛めて拝見しながら、<BR>⏎ | 206 | などと,とても多く書いてあるようだが、女房はよく見ることができない。通常の後朝の手紙ではないようであるが、やはりすっきりとしない。女房たちは、ご様子もお気の毒なので、心を痛めて拝見しながら、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 228-229 | などと、親しく伺候している者だけは、皆それぞれ心配している。御息所もまったく御存知でない。<BR>⏎ <P>⏎ | 209 | などと,親しく伺候している者だけは、皆それぞれ心配している。御息所もまったく御存知でない。<BR>⏎ |
| version39 | 230 | <A NAME="in22">[第二段 律師、御息所に告げ口]</A><BR> | 210 | |
| c2 | 232-233 | 「大日如来は嘘をおっしゃいません。どうして、このような拙僧が心をこめて奉仕するご修法に、験のないことがありましょうか。悪霊は執念深いようですが、業障につきまとわれた弱いものである」<BR>⏎ と、声はしわがれて荒々しくいらっしゃる。たいそう俗世離れした一本気な律師なので、だしぬけに、<BR>⏎ | 212-213 | 「大日如来は嘘をおっしゃいません。どうして,このような拙僧が心をこめて奉仕するご修法に、験のないことがありましょうか。悪霊は執念深いようですが、業障につきまとわれた弱いものである」<BR>⏎ と,声はしわがれて荒々しくいらっしゃる。たいそう俗世離れした 一本気な律師なので、だしぬけに、<BR>⏎ |
| c5 | 238-242 | 「いや、何とおかしい。拙僧にお隠しになることもありますまい。今朝、後夜の勤めに参上した時に、あの西の妻戸から、たいそう立派な男性がお出になったのを、霧が深くて、拙僧にはお見分け申すことができませんでしたが、この法師どもが、『大将殿がお出なさるのだ』と、『昨夜もお車を帰してお泊りになったのだ』と、口々に申していた。<BR>⏎ なるほど、まことに香ばしい薫りが満ちていて、頭が痛くなるほどであったので、なるほどそうであったのかと、合点がいったのでござった。いつもまことに香ばしくいらっしゃる君である。このことは、決して望ましいことではあるまい。相手はまことに立派な方でいらっしゃる。<BR>⏎ 拙僧らも、子供でいらっしゃったころから、あの君の御為の事には、修法を、亡くなられた大宮が仰せつけになったので、もっぱらしかるべき事は、今でも承っているところであるが、まことに無益である。本妻は勢いが強くていらっしゃる。ああした、今を時めく一族の方で、まことに重々しい。若君たちは七、八人におなりになった。<BR>⏎ 皇女の君とて圧倒できまい。また、女人という罪障深い身を受け、無明長夜の闇に迷うのは、ただこのような罪によって、そのようなひどい報いを受けるものである。本妻のお怒りが生じたら、長く成仏の障りとなろう。全く賛成できぬ」<BR>⏎ と、頭を振って、ずけずけと思い通りに言うので、<BR>⏎ | 218-222 | 「いや,何とおかしい。拙僧にお隠しになることもありますまい。今朝、後夜の勤めに参上した時に、あの西の妻戸から、たいそう立派な男性がお出になったのを、霧が深くて、拙僧にはお見分け申すことができませんでしたが、この法師どもが、『大将殿がお出なさるのだ』と、『昨夜もお車を帰してお泊りになったのだ』と、口々に申していた。<BR>⏎ なるほど,まことに香ばしい薫りが満ちていて、頭が痛くなるほどであったので、なるほどそうであったのかと、合点がいったのでござった。いつもまことに香ばしくいらっしゃる君である。このことは、決して望ましいことではあるまい。相手はまことに立派な方でいらっしゃる。<BR>⏎ 拙僧らも、子供でいらっしゃったころから、あの君の御為の事には、修法を、亡くなられた大宮が仰せつけになったので、もっぱらしかるべき事は、今でも承っているところであるが、まことに無益である。本妻は勢いが強くていらっしゃる。ああした,今を時めく一族の方で、まことに重々しい。若君たちは 七,八人におなりになった。<BR>⏎ 皇女の君とて圧倒できまい。また,女人という罪障深い身を受け、無明長夜の闇に迷うのは、ただこのような罪によって、そのようなひどい報いを受けるものである。本妻のお怒りが生じたら、長く成仏の障りとなろう。全く賛成できぬ」<BR>⏎ と,頭を振って、ずけずけと思い通りに言うので、<BR>⏎ |
| c1 | 244 | と、不審がりなさりながら、心の中では、<BR>⏎ | 224 | と,不審がりなさりながら、心の中では、<BR>⏎ |
| d1 | 246 | <P>⏎ | ||
| version39 | 247 | <A NAME="in23">[第三段 御息所、小少将君に問い質す]</A><BR> | 226 | |
| c1 | 249 | 「これこれの事を聞きました。どうした事ですか。どうしてわたしには、これこれ、しかじかの事があったとお聞かせ下さらなかったのですか。そんな事はあるまいと思いますが」<BR>⏎ | 228 | 「これこれの事を聞きました。どうした事ですか。どうしてわたしには、これこれ,しかじかの事があったとお聞かせ下さらなかったのですか。そんな事はあるまいと思いますが」<BR>⏎ |
| c1 | 252 | 律師とは思いもよらず、こっそりと女房が申し上げたものと思っている。何もおっしゃらず、とても残念だとお思いになると、涙がぽろぽろとこぼれなさった。拝見するのも、まことにお気の毒で、「どうして、ありのままを申し上げてしまったのだろう。苦しいご気分を、ますますお胸を痛めていらっしゃるだろう」と後悔していた。<BR>⏎ | 231 | 律師とは思いもよらず、こっそりと女房が申し上げたものと思っている。何もおっしゃらず、とても残念だとお思いになると、涙がぽろぽろとこぼれなさった。拝見するのも、まことにお気の毒で、「どうして,ありのままを申し上げてしまったのだろう。苦しいご気分を、ますますお胸を痛めていらっしゃるだろう」と後悔していた。<BR>⏎ |
| c2 | 254-255 | 「どうあったにせよ、そのように近々と、何の用心もなく、軽々しく人とお会いになったことが、とんでもないのです。内心のお気持ちが潔白でいらっしゃっても、こうまで言った法師たちや、口さがない童などは、まさに言いふらさずには置くまい。世間の人には、どのように抗弁をし、何もなかった事と言うことができましょうか。皆、思慮の足りない者ばかりがここにお仕えしていて」<BR>⏎ と、最後までおっしゃれない。とても苦しそうなご容態の上に、心を痛めてびっくりなさったので、まことにお気の毒である。品高くお扱い申そうとお思いになっていたのに、色恋事の、軽々しい浮名がお立ちになるに違いないのを、並々ならずお嘆きにならずにはいられない。<BR>⏎ | 233-234 | 「どうあったにせよ、そのように近々と、何の用心もなく、軽々しく人とお会いになったことが、とんでもないのです。内心のお気持ちが潔白でいらっしゃっても、こうまで言った法師たちや、口さがない童などは、まさに言いふらさずには置くまい。世間の人には、どのように抗弁をし、何もなかった事と言うことができましょうか。皆,思慮の足りない者ばかりが ここにお仕えしていて」<BR>⏎ と,最後までおっしゃれない。とても苦しそうなご容態の上に、心を痛めてびっくりなさったので、まことにお気の毒である。品高くお扱い申そうとお思いになっていたのに、色恋事の、軽々しい浮名がお立ちになるに違いないのを、並々ならずお嘆きにならずにはいられない。<BR>⏎ |
| c1 | 257 | と、涙を浮かべておっしゃる。参上して、<BR>⏎ | 236 | と,涙を浮かべておっしゃる。参上して、<BR>⏎ |
| d1 | 260 | <P>⏎ | ||
| version39 | 261 | <A NAME="in24">[第四段 落葉宮、母御息所のもとに参る]</A><BR> | 239 | |
| c1 | 266 | と、脚を指圧させなさる。心配事をとてもつらく、あれこれ気にしていらっしゃる時には、気が上がるのであった。<BR>⏎ | 244 | と,脚を指圧させなさる。心配事をとてもつらく、あれこれ気にしていらっしゃる時には、気が上がるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 268 | 「母上に、あの御事をそれとなく申し上げた人がいたようでございます。どのような事であったのかと、お尋ねあそばしたので、ありのままに申し上げて、御襖障子の掛金の点だけを、少し誇張して、はっきりと申し上げました。もし、そのように何かお尋ねなさいましたら、同じように申し上げなさいまし」<BR>⏎ | 246 | 「母上に、あの御事をそれとなく申し上げた人がいたようでございます。どのような事であったのかと、お尋ねあそばしたので、ありのままに申し上げて、御襖障子の掛金の点だけを、少し誇張して、はっきりと申し上げました。もし,そのように何かお尋ねなさいましたら、同じように申し上げなさいまし」<BR>⏎ |
| c1 | 270 | お嘆きでいらっしゃる様子は申し上げない。「やはりそうであったか」と、とても悲しくて、何もおっしゃらない御枕もとから涙の雫がこぼれる。<BR>⏎ | 248 | お嘆きでいらっしゃる様子は申し上げない。「やはりそうであったか」と、とても悲しくて、何もおっしゃらない御枕もとから 涙の雫がこぼれる。<BR>⏎ |
| c3 | 272-274 | と、生きている甲斐もなくお思い続けなさって、「この方は、このまま引き下がることはなく、何かと言い寄ってくることも、厄介で聞き苦しいだろう」と、いろいろとお悩みになる。「まして、言いようもなく、相手の言葉に従ったらどんなに評判を落とすことになるだろう」<BR>⏎ などと、多少はお気持ちの慰められる面もあるが、「内親王ほどにもなった高貴な人が、こんなにまでも、うかうかと男と会ってよいものであろうか」と、わが身の不運を悲しんで、夕方に、<BR>⏎ 「やはり、お出で下さい」<BR>⏎ | 250-252 | と,生きている甲斐もなくお思い続けなさって、「この方は,このまま引き下がることはなく、何かと言い寄ってくることも、厄介で聞き苦しいだろう」と、いろいろとお悩みになる。「まして,言いようもなく、相手の言葉に従ったら どんなに評判を落とすことになるだろう」<BR>⏎ などと,多少はお気持ちの慰められる面もあるが、「内親王ほどにもなった高貴な人が、こんなにまでも、うかうかと男と会ってよいものであろうか」と、わが身の不運を悲しんで、夕方に、<BR>⏎ 「やはり,お出で下さい」<BR>⏎ |
| d1 | 276 | <P>⏎ | ||
| version39 | 277 | <A NAME="in25">[第五段 御息所の嘆き]</A><BR> | 254 | |
| c1 | 279 | 「とても見苦しい有様でおりますので、お越し頂くにもお気の毒に存じます。ここ二、三日ほど、拝見しませんでした期間が、年月がたったような気がし、また一方では心細い気がします。後の世で、必ずしもお会いできるとも限らないもののようでございます。再びこの世に生まれて参っても、何にもならないことでございましょう。<BR>⏎ | 256 | 「とても見苦しい有様でおりますので、お越し頂くにもお気の毒に存じます。ここ二,三日ほど,拝見しませんでした期間が、年月がたったような気がし、また一方では心細い気がします。後の世で,必ずしも お会いできるとも限らないもののようでございます。再びこの世に生まれて参っても、何にもならないことでございましょう。<BR>⏎ |
| d1 | 284 | <P>⏎ | ||
| version39 | 285 | <H4>第三章 一条御息所の物語 行き違いの不幸</H4> | 261 | |
| version39 | 286 | <A NAME="in31">[第一段 御息所、夕霧に返書]</A><BR> | 262 | |
| c3 | 291-293 | と、やはりお尋ねになる。人知れず弱気な考えも起こって、内心はお待ち申し上げていらしたのに、いらっしゃらないようだとお思いになると、胸騷ぎがして、<BR>⏎ 「さあ、そのお手紙には、やはりお返事をなさい。失礼ですよ。一度立った噂を良いほうに言い直してくれる人はいないものです。あなただけ潔白だとお思いになっても、そのまま信用してくれる人は少ないものです。素直にお手紙のやりとりをなさって、やはり以前と同様なのが良いことでしょう。いいかげんな馴れ過ぎた態度というものでしょう」<BR>⏎ とおっしゃって、取り寄せなさる。辛いけれども差し上げた。<BR>⏎ | 267-269 | と,やはりお尋ねになる。人知れず弱気な考えも起こって、内心はお待ち申し上げていらしたのに、いらっしゃらないようだとお思いになると、胸騷ぎがして、<BR>⏎ 「さあ,そのお手紙には、やはりお返事をなさい。失礼ですよ。一度立った噂を良いほうに言い直してくれる人はいないものです。あなただけ潔白だとお思いになっても、そのまま信用してくれる人は少ないものです。素直にお手紙のやりとりをなさって、やはり以前と同様なのが良いことでしょう。いいかげんな馴れ過ぎた態度というものでしょう」<BR>⏎ とおっしゃって,取り寄せなさる。辛いけれども差し上げた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 295-296 | 拒むゆえに浅いお心が見えましょう<BR>⏎ 山川の流れのように浮名は包みきれませんから」<BR>⏎ | 271 | 拒むゆえに浅いお心が見えましょう<BR> 山川の流れのように浮名は包みきれませんから」<BR>⏎ |
| c1 | 299 | 「故衛門督君が心外に思われた時、とても情けないと思ったが、表向きの待遇は、またとなく大事に扱われたので、こちらに権威のある気がして慰めていたのでさえ、満足ではなかったのに。ああ、何ということであろう。大殿のあたりでどうお思いになりおっしゃっていることだろうか」<BR>⏎ | 274 | 「故衛門督君が心外に思われた時、とても情けないと思ったが、表向きの待遇は、またとなく大事に扱われたので、こちらに権威のある気がして慰めていたのでさえ、満足ではなかったのに。ああ,何ということであろう。大殿のあたりでどうお思いになりおっしゃっていることだろうか」<BR>⏎ |
| c1 | 301 | 「やはり、どのようにおっしゃるかと、せめて様子を窺ってみよう」と、気分がひどく悪く涙でかき曇ったような目、おし開けて、見にくい鳥の足跡のような字でお書きになる。<BR>⏎ | 276 | 「やはり,どのようにおっしゃるかと、せめて様子を窺ってみよう」と、気分がひどく悪く涙でかき曇ったような目、おし開けて、見にくい鳥の足跡のような字でお書きになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 303-305 | 女郎花が萎れている野辺をどういうおつもりで<BR>⏎ 一夜だけの宿をお借りになったのでしょう」<BR>⏎ と、ただ途中まで書いて、捻り文にしてお出しなさって、臥せっておしまいになったまま、とてもお苦しがりなさる。御物の怪が油断させていたのかと、女房たちは騒ぐ。<BR>⏎ | 278-279 | 女郎花が萎れている野辺をどういうおつもりで<BR> 一夜だけの宿をお借りになったのでしょう」<BR>⏎ と,ただ途中まで書いて、捻り文にしてお出しなさって、臥せっておしまいになったまま、とてもお苦しがりなさる。御物の怪が油断させていたのかと、女房たちは騒ぐ。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 307-309 | 「やはり、あちらにお移りあそばせ」<BR>⏎ と、女房たちが申し上げるが、ご自身が辛く思うと同時に、後れ申すまいとお思いなので、ぴったりと付き添っていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 281-282 | 「やはり,あちらにお移りあそばせ」<BR>⏎ と,女房たちが申し上げるが、ご自身が辛く思うと同時に、後れ申すまいとお思いなので、ぴったりと付き添っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version39 | 310 | <A NAME="in32">[第二段 雲居雁、手紙を奪う]</A><BR> | 283 | |
| c1 | 314 | 「あきれたことを。これは、何をなさるのですか。何と、けしからん。六条の東の上様のお手紙です。今朝、風邪をひいて苦しそうでいらっしゃったが、院の御前におりまして、帰る時に、もう一度伺わないままになってしまったので、お気の毒に思って、ただ今の加減はいかかがですかと、申し上げたのです。御覧なさい。恋文めいた手紙の様子ですか。それにしても、はしたないなさりようです。年月とともに、ひどく馬鹿になさるのが情けないことです。どう思うか、全く気になさらないのですね」<BR>⏎ | 287 | 「あきれたことを。これは,何をなさるのですか。何と、けしからん。六条の東の上様のお手紙です。今朝、風邪をひいて苦しそうでいらっしゃったが、院の御前におりまして、帰る時に、もう一度伺わないままになってしまったので、お気の毒に思って、ただ今の加減はいかかがですかと、申し上げたのです。御覧なさい. 恋文めいた手紙の様子ですか。それにしても、はしたないなさりようです。年月とともに、ひどく馬鹿になさるのが情けないことです。どう思うか、全く気になさらないのですね」<BR>⏎ |
| c2 | 317-318 | とだけ、このように泰然としていらっしゃる態度に気後れして、若々しくかわいらしい顔つきでおっしゃるので、ふとお笑いになって、<BR>⏎ 「それは、どちらでも良いことでしょう。夫婦とはそのようなものです。二人といないでしょうね、相当な地位に上った男が、このように気を紛らすことなく、一人の妻を守り続けて、びくびくしている雄鷹のような者はね。どんなに人が笑っているでしょう。そのような愚か者に守られていらっしゃるのは、あなたにとっても名誉なことではありますまい。<BR>⏎ | 290-291 | とだけ,このように泰然としていらっしゃる態度に気後れして、若々しくかわいらしい顔つきでおっしゃるので、ふとお笑いになって、<BR>⏎ 「それは,どちらでも良いことでしょう。夫婦とはそのようなものです。二人といないでしょうね、相当な地位に上った男が、このように気を紛らすことなく、一人の妻を守り続けて、びくびくしている雄鷹のような者はね。どんなに人が笑っているでしょう。そのような愚か者に守られていらっしゃるのは、あなたにとっても名誉なことではありますまい。<BR>⏎ |
| c1 | 320 | と、そうはいっても、この手紙を欲しそうな態度を見せずにだまし取ろうとのつもりで、嘘を申し上げると、とても高かにお笑いになって、<BR>⏎ | 293 | と,そうはいっても、この手紙を欲しそうな態度を見せずにだまし取ろうとのつもりで、嘘を申し上げると、とても高かにお笑いになって、<BR>⏎ |
| c1 | 323 | 「急にとお考えになる程に、どこが変わって見えるのでしょう。とても嫌なお心の隔てですね。良くないことを申し上げる女房がいるのでしょう。不思議と、昔からわたしのことを良く思っていないのです。依然として、あの緑の六位の袍の名残で、軽蔑しやすいことにつけて、あなたをうまく操ろうと思っているのではないでしょうか。いろいろと聞きにくいことをほのめかしているらしい。関わりのない方にとっても、お気の毒です」<BR>⏎ | 296 | 「急にとお考えになる程に、どこが変わって見えるのでしょう。とても嫌なお心の隔てですね。良くないことを申し上げる女房がいるのでしょう。不思議と、昔からわたしのことを良く思っていないのです。依然として,あの緑の六位の袍の名残で、軽蔑しやすいことにつけて、あなたをうまく操ろうと思っているのではないでしょうか。いろいろと聞きにくいことをほのめかしているらしい。関わりのない方にとっても、お気の毒です」<BR>⏎ |
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| version39 | 326 | <A NAME="in33">[第三段 手紙を見ぬまま朝になる]</A><BR> | 298 | |
| c1 | 329 | 女君は、若君たちに起こされて、いざり出ていらっしゃったので、自分も今お起きになったようにして、あちこちとお探しになるが、見つけることがおできになれない。妻は、このように探そうとお思いなさらないので、「なるほど、恋文ではないお手紙であったのだ」と、気にもかけていないので、若君たちが騒がしく遊びあって、人形を作って、立て並べて遊んでいらっしゃり、漢籍を読んだり、習字をしたりなど、いろいろと雑然としていて、小さい稚児が這ってきて裾を引っ張るので、奪い取った手紙のこともお思い出しにならない。<BR>⏎ | 301 | 女君は、若君たちに起こされて、いざり出ていらっしゃったので、自分も今お起きになったようにして、あちこちとお探しになるが、見つけることがおできになれない。妻は、このように探そうとお思いなさらないので、「なるほど,恋文ではないお手紙であったのだ」と、気にもかけていないので、若君たちが騒がしく遊びあって、人形を作って、立て並べて遊んでいらっしゃり、漢籍を読んだり、習字をしたりなど、いろいろと雑然としていて、小さい稚児が這ってきて裾を引っ張るので、奪い取った手紙のこともお思い出しにならない。<BR>⏎ |
| c2 | 336-337 | 「さあ、そんな冗談、いつまでもおっしゃいませんな。何の風流なことがあろうか。世間の人と一緒になさるのは、かえって気が引けます。ここの女房たちも、一方では不思議なほどの堅物を、このようにおっしゃると、笑っていることでしょうよ」<BR>⏎ と、冗談に言いなして、<BR>⏎ | 308-309 | 「さあ,そんな冗談、いつまでもおっしゃいませんな。何の風流なことがあろうか。世間の人と一緒になさるのは、かえって気が引けます。ここの女房たちも、一方では不思議なほどの堅物を、このようにおっしゃると、笑っていることでしょうよ」<BR>⏎ と,冗談に言いなして、<BR>⏎ |
| d1 | 340 | <P>⏎ | ||
| version39 | 341 | <A NAME="in34">[第四段 夕霧、手紙を見る]</A><BR> | 312 | |
| c1 | 345 | と、何とも言いようなく思われる。とても苦しそうに、言いようもなく、書き紛らしていらっしゃる様子で、<BR>⏎ | 316 | と,何とも言いようなく思われる。とても苦しそうに、言いようもなく、書き紛らしていらっしゃる様子で、<BR>⏎ |
| c2 | 347-348 | と、申し上げる言葉もないので、女君が、まことに辛く恨めしい。<BR>⏎ 「いいかげんな、あなようなことをして、悪ふざけに隠すとは。いやはや、自分がこのようにしつけたのだ」と、あれこれとわが身が情けなくなって、全く泣き出したい気がなさる。<BR>⏎ | 318-319 | と,申し上げる言葉もないので、女君が、まことに辛く恨めしい。<BR>⏎ 「いいかげんな、あなようなことをして,悪ふざけに隠すとは。いやはや,自分がこのようにしつけたのだ」と、あれこれとわが身が情けなくなって、全く泣き出したい気がなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 351 | と、几帳面な性格から判断なさって、まずは、このお返事を差し上げなさる。<BR>⏎ | 322 | と,几帳面な性格から判断なさって、まずは,このお返事を差し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 353-354 | 秋の野の草の茂みを踏み分けてお伺い致しましたが<BR>⏎ 仮初の夜の枕に契りを結ぶようなことを致しましょうか<BR>⏎ | 324 | 秋の野の草の茂みを踏み分けてお伺い致しましたが<BR> 仮初の夜の枕に契りを結ぶようなことを致しましょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 358-359 | と言って、言うべきさま、ひそひそとお教えになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 328 | と言って,言うべきさま、ひそひそとお教えになる。<BR>⏎ |
| version39 | 360 | <A NAME="in35">[第五段 御息所の嘆き]</A><BR> | 329 | |
| c1 | 361 | あちらでは、昨夜も薄情なとお見えになったご様子を、我慢することができないで、後のちの評判をもはばからず恨み申し上げなさったが、そのお返事さえ来ずに、今日がすっかり暮れてしまったのを、どれ程のお気持ちかと、愛想が尽きて、驚きあきれて、心も千々に乱れて、すこしは好ろしかったご気分も、再びたいそうひどくお苦しみになる。<BR>⏎ | 330 | あちらでは、昨夜も薄情なとお見えになったご様子を、我慢することができないで、後のちの評判をもはばからず恨み申し上げなさったが、そのお返事さえ来ずに、今日がすっかり暮れてしまったのを、どれ程のお気持ちかと、愛想が尽きて,驚きあきれて、心も千々に乱れて、すこしは好ろしかったご気分も、再びたいそうひどくお苦しみになる。<BR>⏎ |
| c1 | 363 | 「今さら厄介なことは申し上げまいと思いますが、やはり、ご運命とは言いながらも、案外に思慮が甘くて、人から非難されなさることでしょうが。それを元に戻れるものではありませんが、今からは、やはり慎重になさいませ。<BR>⏎ | 332 | 「今さら厄介なことは申し上げまいと思いますが、やはり,ご運命とは言いながらも、案外に思慮が甘くて、人から非難されなさることでしょうが。それを元に戻れるものではありませんが、今からは、やはり慎重になさいませ。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 366-368 | 院をお始め申して、御賛成なさり、この父大臣にもお許しなさろうとの御内意があったのに、わたし一人が反対を申し上げても、どんなものかと思いよりましたことですが、のちのちまで面白からぬお身の上を、あなたご自身の過ちではないので、天命を恨んでお世話してまいりましたが、とてもこのような相手にとってもあなたにとっても、いろいろと聞きにくい噂が加わって来ましょうが、そうなっても、世間の噂を知らない顔をして、せめて世間並のご夫婦としてお暮らしになれるのでしたら、自然と月日が過ぎて行くうちに、心の安まる時が来ようかと、思う気持ちにもなりましたが、この上ない薄情なお心の方でございますね」<BR>⏎ と、ほろほろとお泣きになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 335-336 | 院をお始め申して、御賛成なさり、この父大臣にもお許しなさろうとの御内意があったのに、わたし一人が反対を申し上げても、どんなものかと思いよりましたことですが、のちのちまで面白からぬお身の上を、あなたご自身の過ちではないので、天命を恨んでお世話してまいりましたが、とてもこのような相手にとってもあなたにとっても、いろいろと聞きにくい噂が加わって来ましょうが、そうなっても,世間の噂を知らない顔をして、せめて世間並のご夫婦としてお暮らしになれるのでしたら、自然と月日が過ぎて行くうちに、心の安まる時が来ようかと、思う気持ちにもなりましたが、この上ない薄情なお心の方でございますね」<BR>⏎ と,ほろほろとお泣きになる。<BR>⏎ |
| version39 | 369 | <A NAME="in36">[第六段 御息所死去す]</A><BR> | 337 | |
| c1 | 371 | 「ああ、どこが、人に劣っていらっしゃろうか。どのようなご運命で、心も安まらず、物思いなさらなければならない因縁が深かったのでしょう」<BR>⏎ | 339 | 「ああ,どこが、人に劣っていらっしゃろうか。どのようなご運命で、心も安まらず、物思いなさらなければならない因縁が深かったのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 376 | と、あれこれとお思い出しなさると、そのまま息絶えてしまわれた。あっけなく情けないことだと言っても言い足りない。昔から、物の怪には時々お患いになさる。最期と見えた時々もあったので、「いつものように物の怪が取り入ったのだろう」と考えて、加持をして大声で祈ったが、臨終の様子は、明らかであったのだ。<BR>⏎ | 344 | と,あれこれとお思い出しなさると、そのまま息絶えてしまわれた。あっけなく情けないことだと言っても言い足りない。昔から、物の怪には時々お患いになさる。最期と見えた時々もあったので、「いつものように物の怪が取り入ったのだろう」と考えて、加持をして大声で祈ったが、臨終の様子は、明らかであったのだ。<BR>⏎ |
| c2 | 378-379 | 「もう、何ともしかたありません。まことこのようにお悲しみになっても、定められた運命の道は、引き返すことはできるものでありません。お慕い申されようとも、どうしてお思いどおりになりましょう」<BR>⏎ と、言うまでもない道理を申し上げて、<BR>⏎ | 346-347 | 「もう,何ともしかたありません。まことこのようにお悲しみになっても、定められた運命の道は、引き返すことはできるものでありません。お慕い申されようとも、どうしてお思いどおりになりましょう」<BR>⏎ と,言うまでもない道理を申し上げて、<BR>⏎ |
| c1 | 381 | と、引き動かし申し上げるが、身体もこわばったようで、何もお分かりにならない。<BR>⏎ | 349 | と,引き動かし申し上げるが、身体もこわばったようで、何もお分かりにならない。<BR>⏎ |
| d1 | 383 | <P>⏎ | ||
| version39 | 384 | <A NAME="in37">[第七段 朱雀院の弔問の手紙]</A><BR> | 351 | |
| c1 | 391 | などと、人前ではおっしゃって、とても悲しくしみじみと、宮がお悲しみであろうことをご推察申し上げなさって、<BR>⏎ | 358 | などと,人前ではおっしゃって、とても悲しくしみじみと、宮がお悲しみであろうことをご推察申し上げなさって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 393-394 | と、女房たちがお引き止め申したが、無理にいらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 360 | と,女房たちがお引き止め申したが、無理にいらっしゃった。<BR>⏎ |
| version39 | 395 | <A NAME="in38">[第八段 夕霧の弔問]</A><BR> | 361 | |
| c3 | 402-404 | と、口々に申し上げるので、<BR>⏎ 「ただ、よいように返事せよ。わたしはどう言ってよいか分かりません」<BR>⏎ とおっしゃって、臥せっていらっしゃるのも道理なので、<BR>⏎ | 368-370 | と,口々に申し上げるので、<BR>⏎ 「ただ,よいように返事せよ。わたしはどう言ってよいか分かりません」<BR>⏎ とおっしゃって,臥せっていらっしゃるのも道理なので、<BR>⏎ |
| c1 | 407 | 「お慰め申し上げようもありませんが。もう少し、私自身も気が静まって、またお静まりになったころに、参りましょう。どうしてこのように急にと、そのご様子が知りたい」<BR>⏎ | 373 | 「お慰め申し上げようもありませんが。もう少し,私自身も気が静まって、またお静まりになったころに、参りましょう。どうしてこのように急にと、そのご様子が知りたい」<BR>⏎ |
| c3 | 409-411 | 「恨み言を申し上げるようなことに、きっとなりましょう。今日は、いっそう取り乱したみなの気持ちのせいで、間違ったことを申し上げることもございましょう。それゆえ、このようにお悲しみに暮れていらっしゃるご気分も、きりのあるはずのことで、少しお静まりあそばしたころに、お話を申し上げ承りましょう」<BR>⏎ と言って、正気もない様子なので、おっしゃる言葉も口に出ず、<BR>⏎ 「なるほど、闇に迷った気がします。やはり、お慰め申し上げなさって、わずかのお返事でもありましたら」<BR>⏎ | 375-377 | 「恨み言を申し上げるようなことに、きっとなりましょう。今日は、いっそう取り乱したみなの気持ちのせいで、間違ったことを申し上げることもございましょう。それゆえ,このようにお悲しみに暮れていらっしゃるご気分も、きりのあるはずのことで、少しお静まりあそばしたころに、お話を申し上げ承りましょう」<BR>⏎ と言って,正気もない様子なので、おっしゃる言葉も口に出ず、<BR>⏎ 「なるほど,闇に迷った気がします。やはり,お慰め申し上げなさって、わずかのお返事でもありましたら」<BR>⏎ |
| d1 | 413 | <P>⏎ | ||
| version39 | 414 | <A NAME="in39">[第九段 御息所の葬儀]</A><BR> | 379 | |
| c1 | 417 | などと、喜んでお礼申し上げる。「跡形もなくあっけないこと」と、宮は身をよじってお悲しみになるが、どうすることもできない。親と申し上げても、まことにこのように仲睦まじくするものではないのだった。拝見する女房たちも、このご悲嘆を、また不吉だと嘆き申し上げる。大和守は、後始末をして、<BR>⏎ | 382 | などと,喜んでお礼申し上げる。「跡形もなくあっけないこと」と、宮は身をよじってお悲しみになるが、どうすることもできない。親と申し上げても、まことにこのように仲睦まじくするものではないのだった。拝見する女房たちも、このご悲嘆を、また不吉だと嘆き申し上げる。大和守は、後始末をして、<BR>⏎ |
| c1 | 419 | などと申し上げるが、やはり、せめて峰の煙だけでも、側近くお思い出し申そうと、この山里で一生を終わろうとお考えになっていた。<BR>⏎ | 384 | などと申し上げるが、やはり,せめて峰の煙だけでも、側近くお思い出し申そうと、この山里で一生を終わろうとお考えになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 421 | <P>⏎ | ||
| version39 | 422 | <H4>第四章 夕霧の物語 落葉宮に心あくがれる夕霧</H4> | 386 | |
| version39 | 423 | <A NAME="in41">[第一段 夕霧、返事を得られず]</A><BR> | 387 | |
| c1 | 425 | 大将殿は、毎日お見舞いの手紙を差し上げなさる。心細げな念仏の僧などが、気の紛れるように、いろいろな物をお与えになりお見舞いなさり、宮の御前には、しみじみと心をこめた言葉の限りを尽くしてお恨み申し上げ、一方では、限りなくお慰め申し上げなさるが、手に取って御覧になることさえなく、思いもしなかったあきれた事を、弱っていらしたご病状に、疑う余地なく信じこんで、お亡くなりになったことをお思い出しになると、「ご成仏の妨げになりはしまいか」と、胸が一杯になる心地がして、この方のお噂だけでもお耳になさるのは、ますます恨めしく情けない涙が込み上げてくる思いが自然となさる。女房たちもお困り申し上げていた。<BR>⏎ | 389 | 大将殿は、毎日お見舞いの手紙を差し上げなさる。心細げな念仏の僧などが、気の紛れるように、いろいろな物をお与えになりお見舞いなさり、宮の御前には、しみじみと心をこめた言葉の限りを尽くしてお恨み申し上げ、一方では,限りなくお慰め申し上げなさるが、手に取って御覧になることさえなく、思いもしなかったあきれた事を、弱っていらしたご病状に、疑う余地なく信じこんで、お亡くなりになったことをお思い出しになると、「ご成仏の妨げになりはしまいか」と、胸が一杯になる心地がして、この方のお噂だけでもお耳になさるのは、ますます恨めしく情けない涙が込み上げてくる思いが自然となさる。女房たちもお困り申し上げていた。<BR>⏎ |
| c1 | 427 | 「悲しい事でも限度があるのに。どうして、こんなに、あまりにお分かりにならないことがあろうか。言いようもなく子供のようで」と恨めしく、「これとは筋違いに、花や蝶だのと書いたのならともかく、自分の気持ちに同情してくれ、悲しんでいる状態を、いかがですかと尋ねる人は、親しみを感じうれしく思うものだ。<BR>⏎ | 391 | 「悲しい事でも限度があるのに。どうして,こんなに、あまりにお分かりにならないことがあろうか。言いようもなく子供のようで」と恨めしく、「これとは筋違いに、花や蝶だのと書いたのならともかく、自分の気持ちに同情してくれ、悲しんでいる状態を、いかがですかと尋ねる人は、親しみを感じうれしく思うものだ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 430-431 | などと、所在なく物思いに耽るばかりで、毎日をお過ごしになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 394 | などと,所在なく物思いに耽るばかりで、毎日をお過ごしになる。<BR>⏎ |
| version39 | 432 | <A NAME="in42">[第二段 雲居雁の嘆きの歌]</A><BR> | 395 | |
| cd2:1 | 436-437 | 「お悲しみを何が原因と知ってお慰めしたらよいものか<BR>⏎ 生きている方が恋しいのか、亡くなった方が悲しいのか<BR>⏎ | 399 | 「お悲しみを何が原因と知ってお慰めしたらよいものか<BR> 生きている方が恋しいのか、亡くなった方が悲しいのか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 441-443 | とお思いになる。ますます、何気ないふうに、<BR>⏎ 「特に何がといって悲しんでいるのではありません<BR>⏎ 消えてしまう露も草葉の上だけでないこの世ですから<BR>⏎ | 403-404 | とお思いになる。ますます,何気ないふうに、<BR>⏎ 「特に何がといって悲しんでいるのではありません<BR> 消えてしまう露も草葉の上だけでないこの世ですから<BR>⏎ |
| c2 | 445-446 | とお書きになっていた。「やはり、このように隔て心を持っていらっしゃること」と、露の世の悲しさは二の次のこととして、並々ならず胸を痛めていらっしゃる。<BR>⏎ やはり、このように気がかりでたまらなくなって、改めてお越しになった。「御忌中などが明けてからゆっくり訪ねよう」と、気持ちを抑えていらっしゃったが、そこまでは我慢がおできになれず、<BR>⏎ | 406-407 | とお書きになっていた。「やはり,このように隔て心を持っていらっしゃること」と、露の世の悲しさは二の次のこととして、並々ならず胸を痛めていらっしゃる。<BR>⏎ やはり,このように気がかりでたまらなくなって、改めてお越しになった。「御忌中などが明けてからゆっくり訪ねよう」と、気持ちを抑えていらっしゃったが、そこまでは我慢がおできになれず、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 448-450 | と、ご計画なさったので、北の方のご想像を、無理に打ち消そうとなさらない。<BR>⏎ ご本人はきっぱりとお気持ちがなくても、あの「一夜ばかりの宿を」といった恨みのお手紙を理由に訴えて、「潔白を言い張ることは、おできになれまい」と、心強くお思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 409-410 | と,ご計画なさったので、北の方のご想像を、無理に打ち消そうとなさらない。<BR>⏎ ご本人はきっぱりとお気持ちがなくても、あの「一夜ばかりの宿を」といった恨みのお手紙を理由に訴えて、「潔白を言い張ることは,おできになれまい」と、心強くお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| version39 | 451 | <A NAME="in43">[第三段 九月十日過ぎ、小野山荘を訪問]</A><BR> | 411 | |
| c1 | 457 | と言って、特に見るでもないふりをして、山の方を眺めて、「もっと近く、もっと近く」としきりにおっしゃるので、鈍色の几帳を、簾の端から少し外に押し出して、裾を引き繕って横向きに座わっている。大和守の妹なので、お近い血縁の上に、幼い時からお育てになったので、着物の色がとても濃い鈍色で、橡の喪服一襲に、小袿を着ていた。<BR>⏎ | 417 | と言って,特に見るでもないふりをして、山の方を眺めて、「もっと近く,もっと近く」としきりにおっしゃるので、鈍色の几帳を、簾の端から少し外に押し出して、裾を引き繕って横向きに座わっている。大和守の妹なので、お近い血縁の上に、幼い時からお育てになったので、着物の色がとても濃い鈍色で、橡の喪服一襲に、小袿を着ていた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 459-460 | と、とても多く恨み続けなさる。あの最期の折のお手紙の様子もお口にされて、ひどくお泣きになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 419 | と,とても多く恨み続けなさる。あの最期の折のお手紙の様子もお口にされて、ひどくお泣きになる。<BR>⏎ |
| version39 | 461 | <A NAME="in44">[第四段 板ばさみの小少将君]</A><BR> | 420 | |
| c1 | 465 | などと、涙を止めがたそうに悲しみながら、はきはきとせず申し上げる。<BR>⏎ | 424 | などと,涙を止めがたそうに悲しみながら、はきはきとせず申し上げる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 468-470 | などと、いろいろと多くおっしゃるが、お返事申し上げる言葉もなくて、ただ溜息をつきながら座っていた。鹿がとても悲しそうに鳴くのを、「自分も鹿に劣ろうか」と思って、<BR>⏎ 「人里が遠いので小野の篠原を踏み分けて来たが<BR>⏎ わたしも鹿のように声も惜しまず泣いています」<BR>⏎ | 427-428 | などと,いろいろと多くおっしゃるが、お返事申し上げる言葉もなくて、ただ溜息をつきながら座っていた。鹿がとても悲しそうに鳴くのを、「自分も鹿に劣ろうか」と思って、<BR>⏎ 「人里が遠いので小野の篠原を踏み分けて来たが<BR> わたしも鹿のように声も惜しまず泣いています」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 472-473 | 「喪服も涙でしめっぽい秋の山里人は<BR>⏎ 鹿の鳴く音に声を添えて泣いています」<BR>⏎ | 430 | 「喪服も涙でしめっぽい秋の山里人は<BR> 鹿の鳴く音に声を添えて泣いています」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 477-478 | とだけ、素っ気なく言わせなさる。「ひどく何とも言いようのないお心だ」と、嘆きながらお帰りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 434 | とだけ,素っ気なく言わせなさる。「ひどく何とも言いようのないお心だ」と、嘆きながらお帰りになる。<BR>⏎ |
| version39 | 479 | <A NAME="in45">[第五段 夕霧、一条宮邸の側を通って帰宅]</A><BR> | 435 | |
| cd2:1 | 482-483 | 「あの人がもう住んでいないこの邸の池の水に<BR>⏎ 独り宿守りしている秋の夜の月よ」<BR>⏎ | 438 | 「あの人がもう住んでいないこの邸の池の水に<BR> 独り宿守りしている秋の夜の月よ」<BR>⏎ |
| c1 | 486 | と、おもだった女房たちも憎らしがっていた。北の方は、真実嫌な気がして、<BR>⏎ | 441 | と,おもだった女房たちも憎らしがっていた。北の方は、真実嫌な気がして、<BR>⏎ |
| c1 | 488 | などと、とてもひどく嘆いていらっしゃった。<BR>⏎ | 443 | などと,とてもひどく嘆いていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 490-491 | 「いつになったらお訪ねしたらよいのでしょうか<BR>⏎ 明けない夜の夢が覚めたらとおっしゃったことは<BR>⏎ | 445 | 「いつになったらお訪ねしたらよいのでしょうか<BR> 明けない夜の夢が覚めたらとおっしゃったことは<BR>⏎ |
| cd2:1 | 493-494 | とでもお書きになったのであろうか、手紙を包んで、その後も、「どうしたらよかろう」などと口ずさんでいらっしゃった。人を召してお渡しになった。「せめてお返事だけでも見たいものだわ。やはり、本当はどうなのかしら」と、様子を窺いたくお思いになっている。<BR>⏎ <P>⏎ | 447 | とでもお書きになったのであろうか、手紙を包んで、その後も、「どうしたらよかろう」などと口ずさんでいらっしゃった。人を召してお渡しになった。「せめてお返事だけでも見たいものだわ。やはり,本当はどうなのかしら」と、様子を窺いたくお思いになっている。<BR>⏎ |
| version39 | 495 | <A NAME="in46">[第六段 落葉宮の返歌が届く]</A><BR> | 448 | |
| cd5:4 | 498-502 | とあって、中に破いて入っていたが、「御覧になったのだ」と、お思いになるだけで嬉しいとは、とても体裁の悪い話である。とりとめもなくお書きになっているのを、見続けていらっしゃると、<BR>⏎ 「朝な夕なに声を立てて泣いている小野山では<BR>⏎ ひっきりなしに流れる涙は音無の滝になるのだろうか」<BR>⏎ とか、読むのであろうか、古歌などを、悩ましそうに書き乱れていらっしゃる、ご筆跡なども見所がある。<BR>⏎ 「他人の事などで、このような浮気沙汰に心焦がれているのは、はがゆくもあり、正気の沙汰でもないように見たり聞いたりしていたが、自分の事となると、なるほどまことに我慢できないものであるなあ。不思議だ。どうして、こんなにもいらいらするのだろう」<BR>⏎ | 451-454 | とあって,中に破いて入っていたが、「御覧になったのだ」と、お思いになるだけで嬉しいとは、とても体裁の悪い話である。とりとめもなくお書きになっているのを、見続けていらっしゃると、<BR>⏎ 「朝な夕なに声を立てて泣いている小野山では<BR> ひっきりなしに流れる涙は音無の滝になるのだろうか」<BR>⏎ とか,読むのであろうか、古歌などを、悩ましそうに書き乱れていらっしゃる、ご筆跡なども見所がある。<BR>⏎ 「他人の事などで、このような浮気沙汰に心焦がれているのは、はがゆくもあり、正気の沙汰でもないように見たり聞いたりしていたが、自分の事となると、なるほどまことに我慢できないものであるなあ。不思議だ。どうして,こんなにもいらいらするのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 504 | <P>⏎ | ||
| version39 | 505 | <H4>第五章 落葉宮の物語 夕霧執拗に迫る</H4> | 456 | |
| version39 | 506 | <A NAME="in51">[第一段 源氏や紫の上らの心配]</A><BR> | 457 | |
| c1 | 510 | 紫の上に対しても、今までのことや将来のことをお考えになりながら、このような噂を聞くにつけても、亡くなった後、不安にお思い申し上げる様子をおっしゃると、お顔をぽっと赤らめて、「情けないこと。そんなに長く後にお残しなさるおつもりか」とお思いになっていた。<BR>⏎ | 461 | 紫の上に対しても、今までのことや将来のことをお考えになりながら、このような噂を聞くにつけても、亡くなった後、不安にお思い申し上げる様子をおっしゃると、お顔をぽっと赤らめて、「情けないこと. そんなに長く後にお残しなさるおつもりか」とお思いになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 515 | <P>⏎ | ||
| version39 | 516 | <A NAME="in52">[第二段 夕霧、源氏に対面]</A><BR> | 466 | |
| c1 | 518 | 「御息所の忌中は明けたのだろうね。昨日今日と思っているうちに、三年以上の昔になる世の中なのだ。ああ、悲しく味気ないものだ。夕方の露がかかっている間の寿命を貪っているとは。何とかこの髪を剃って、何もかも捨て去ろうと思うが、なんといつまでものんびりと過ごしていることか。まことに悪いことだ」<BR>⏎ | 468 | 「御息所の忌中は明けたのだろうね。昨日今日と思っているうちに、三年以上の昔になる世の中なのだ。ああ,悲しく味気ないものだ。夕方の露がかかっている間の寿命を貪っているとは。何とかこの髪を剃って、何もかも捨て去ろうと思うが、なんといつまでものんびりと過ごしていることか。まことに悪いことだ」<BR>⏎ |
| c2 | 520-521 | 「ほんとうに、惜しくない人でさえ、めいめい離れがたく思っている人の世でございましょう」などと申し上げて、「御息所の四十九日の法事など、大和守某朝臣が、独りでお世話致しますのは、とてもお気の毒なことです。しっかりした縁者がいない方は、生きている間だけのことで、このような死後は、悲しゅうございます」<BR>⏎ と、お申し上げになる。<BR>⏎ | 470-471 | 「ほんとうに,惜しくない人でさえ、めいめい離れがたく思っている人の世でございましょう」などと申し上げて、「御息所の四十九日の法事など、大和守某朝臣が、独りでお世話致しますのは、とてもお気の毒なことです。しっかりした縁者がいない方は、生きている間だけのことで、このような死後は、悲しゅうございます」<BR>⏎ と,お申し上げになる。<BR>⏎ |
| d1 | 529 | <P>⏎ | ||
| version39 | 530 | <A NAME="in53">[第三段 父朱雀院、出家希望を諌める]</A><BR> | 479 | |
| c1 | 531 | こうしてご法事に、万端を取り仕切っておさせなさる。その評判は、自然に知れることなので、大殿などにおかれてもお聞きになって、「そんなことがあって良いことか」などと、妻方が思慮が浅いようにお考えになるのは、困ったことである。あの故人とのご縁もあるので、ご子息たちも。ご法要に参集なさる。<BR>⏎ | 480 | こうしてご法事に、万端を取り仕切っておさせなさる。その評判は、自然に知れることなので、大殿などにおかれてもお聞きになって、「そんなことがあって良いことか」などと、妻方が思慮が浅いようにお考えになるのは、困ったことである。あの故人とのご縁もあるので、ご子息たちも、ご法要に参集なさる。<BR>⏎ |
| c1 | 534 | 「それはとんでもないことです。なるほど、何人とも、あれこれと身の関わりをお持ちになることは良いことではないが、後見のない人は、なまじ尼姿になってから、けしからぬ噂がたち、罪を得るような時、現世も来世も、どっちつかずの非難されるというものです。<BR>⏎ | 483 | 「それはとんでもないことです。なるほど,何人とも、あれこれと身の関わりをお持ちになることは良いことではないが、後見のない人は、なまじ尼姿になってから、けしからぬ噂がたち、罪を得るような時、現世も来世も、どっちつかずの非難されるというものです。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 537-538 | と度々申し上げなさった。この浮いたお噂をお耳にあそばしたのであろう。「噂のようなことが思うとおりに行かないので世をお厭いになった」と言われなさることを御心配なさったのであった。そうかといって、また、「公然と再婚なさるのも軽薄で、感心しないこと」と、お思いになりながら、恥ずかしいとお思いになるのもお気の毒なので、「どうして、自分までが噂を聞いて口出ししたりしようか」とお思いになって、このことは、全然一言もお出し申し上げなさらないのだった。<BR>⏎ <P>⏎ | 486 | と度々申し上げなさった。この浮いたお噂をお耳にあそばしたのであろう。「噂のようなことが思うとおりに行かないので世をお厭いになった」と言われなさることを御心配なさったのであった。そうかといって、また,「公然と再婚なさるのも軽薄で、感心しないこと」と、お思いになりながら、恥ずかしいとお思いになるのもお気の毒なので、「どうして,自分までが噂を聞いて口出ししたりしようか」とお思いになって、このことは、全然一言もお出し申し上げなさらないのだった。<BR>⏎ |
| version39 | 539 | <A NAME="in54">[第四段 夕霧、宮の帰邸を差配]</A><BR> | 487 | |
| cd5:4 | 545-549 | 今は、任国の公務もございますし、下向しなければなりません。お邸内のことも任せられる人もございません。まことに不行届なことで、どうしたものかと心配いたしておりますが、このように万事お世話なさいますのを、なるほど、ご結婚ということを考えてみますと、必ずしも今すぐに移転するのが良いというのではないお身の上ですが、そのように、昔もお心のままにならなかった例は、多くございます。<BR>⏎ あなたお一方だけが、世間の非難をお受けになることでしょうか。とても幼稚なお考えです。いくら強がっても、女一人のご分別で、ご自分の身の振りをきちんとなさり、お気をつけなさることがどうしてできましょうか。やはり、男性から大事にお世話なされるのに助けられて、初めて深いお考えによる立派なご方針も、それに依存するものなのです。<BR>⏎ あなた方がよくお教え申し上げなさらないのです。一方では、けしからぬことをも、ご自分たちの判断でかってにお取り計らい申し上げなさって」<BR>⏎ と、言い続けて、左近の君や、小少将の君を責める。<BR>⏎ <P>⏎ | 493-496 | 今は、任国の公務もございますし、下向しなければなりません。お邸内のことも 任せられる人もございません。まことに不行届なことで、どうしたものかと心配いたしておりますが、このように万事お世話なさいますのを、なるほど,ご結婚ということを考えてみますと、必ずしも今すぐに移転するのが良いというのではないお身の上ですが、そのように、昔もお心のままにならなかった例は、多くございます。<BR>⏎ あなたお一方だけが、世間の非難をお受けになることでしょうか。とても幼稚なお考えです。いくら強がっても、女一人のご分別で、ご自分の身の振りをきちんとなさり、お気をつけなさることがどうしてできましょうか。やはり,男性から大事にお世話なされるのに助けられて、初めて深いお考えによる立派なご方針も、それに依存するものなのです。<BR>⏎ あなた方がよくお教え申し上げなさらないのです。一方では,けしからぬことをも、ご自分たちの判断でかってにお取り計らい申し上げなさって」<BR>⏎ と,言い続けて、左近の君や、小少将の君を責める。<BR>⏎ |
| version39 | 550 | <A NAME="in55">[第五段 落葉宮、自邸へ向かう]</A><BR> | 497 | |
| c1 | 551 | 寄ってたかって説得申し上げるので、とても困りきって、色鮮やかなお召し物を、女房たちがお召し替え申し上げるにも、夢心地で、やはり、とても一途に削き落としたく思われなさる御髪を、掻き出して御覧になると、六尺ほどあって、少し細くなったが、女房たちは不完全だとは拝見せず、ご自身のお気持ちでは、<BR>⏎ | 498 | 寄ってたかって説得申し上げるので、とても困りきって、色鮮やかなお召し物を、女房たちがお召し替え申し上げるにも、夢心地で、やはり,とても一途に削き落としたく思われなさる御髪を、掻き出して御覧になると、六尺ほどあって、少し細くなったが、女房たちは不完全だとは拝見せず、ご自身のお気持ちでは、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 555-557 | と、皆が騷ぐ。時雨がとても心急かせるように風に吹き乱れて、何事にもつけ悲しいので、<BR>⏎ 「母君が上っていった峰の煙と一緒になって<BR>⏎ 思ってもいない方角にはなびかずにいたいものだわ」<BR>⏎ | 502-503 | と,皆が騷ぐ。時雨がとても心急かせるように風に吹き乱れて、何事にもつけ悲しいので、<BR>⏎ 「母君が上っていった峰の煙と一緒になって<BR> 思ってもいない方角にはなびかずにいたいものだわ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 562-563 | 「恋しさを慰められない形見の品として<BR>⏎ 涙に曇る玉の箱ですこと」<BR>⏎ | 508 | 「恋しさを慰められない形見の品として<BR> 涙に曇る玉の箱ですこと」<BR>⏎ |
| d1 | 565 | <P>⏎ | ||
| version39 | 566 | <A NAME="in56">[第六段 夕霧、主人顔して待ち構える]</A><BR> | 510 | |
| c1 | 567 | ご到着なさると、邸内は悲しそうな様子もなく、人の気配が多くて、様子が違っている。お車を寄せてお降りになるに、全然、以前に住んでいた所とは思われず、よそよそしく嫌な気がなさるので、すぐにはお降りにならない。とてもおかしな子供っぽいお振る舞いですわと、女房たちも拝見し困っている。殿は、東の対の南面を、自分のお部屋として、仮に設けて、主人気取りでいらっしゃる。三条殿では、女房たちが、<BR>⏎ | 511 | ご到着なさると、邸内は悲しそうな様子もなく、人の気配が多くて、様子が違っている。お車を寄せてお降りになるに、全然,以前に住んでいた所とは思われず、よそよそしく嫌な気がなさるので、すぐにはお降りにならない。とてもおかしな 子供っぽいお振る舞いですわと、女房たちも拝見し困っている。殿は、東の対の南面を、自分のお部屋として、仮に設けて、主人気取りでいらっしゃる。三条殿では、女房たちが、<BR>⏎ |
| c3 | 569-571 | とあきれるのだった。色めいた風流事を、お好きでなくお思いになる方は、このように突然な事がおありになるのだった。けれども、何年も前からあった事を、噂にもならず素振り知られずにお過ごしになって来られたのだ、とばかりに思い込んで、このように、女のお気持ちは不承知であると、気づく人もいない。いずれにしても宮の御ためにはお気の毒なことである。<BR>⏎ お調度類なども普段と変わって、新婚としては縁起が悪いが、お食事を差し上げたりした後、皆が寝静まったころにお渡りになって、少将の君をひどくお責めになる。<BR>⏎ 「ご愛情が本当に末長くとお思いでしたら、今日明日を過ぎてから申し上げて下さいませ。お帰りになって、かえって、悲しみに沈み込んで、亡くなった方のようにお臥せりになってしまわれました。おとりなし申し上げても、辛いとばかりお思いでいらっしゃるので、何事もわが身あってでございますもの。まことに困って、申し上げにくうございます」<BR>⏎ | 513-515 | とあきれるのだった。色めいた風流事を、お好きでなくお思いになる方は、このように突然な事がおありになるのだった。けれども,何年も前からあった事を、噂にもならず素振り知られずにお過ごしになって来られたのだ、とばかりに思い込んで、このように,女のお気持ちは不承知であると、気づく人もいない。いずれにしても 宮の御ためにはお気の毒なことである。<BR>⏎ お調度類なども普段と変わって、新婚としては縁起が悪いが、お食事を差し上げたりした後、皆が寝静まったころに お渡りになって、少将の君をひどくお責めになる。<BR>⏎ 「ご愛情が本当に末長くとお思いでしたら、今日明日を過ぎてから申し上げて下さいませ。お帰りになって,かえって,悲しみに沈み込んで、亡くなった方のようにお臥せりになってしまわれました。おとりなし申し上げても、辛いとばかりお思いでいらっしゃるので、何事もわが身あってでございますもの。まことに困って、申し上げにくうございます」<BR>⏎ |
| c2 | 574-575 | とおっしゃって、考えていらっしゃる処遇は、宮の御ためにも、自分のためにも、世間の非難のないようにおっしゃり続けるので、<BR>⏎ 「いえもう、ただ今は、またもお亡くし申し上げてしまうのではないかと、気が気ではなく取り乱しておりますので、万事判断がつきません。お願いでございます、あれこれと無理押しなさって、乱暴なことはなさいませぬように」<BR>⏎ | 518-519 | とおっしゃって,考えていらっしゃる処遇は、宮の御ためにも、自分のためにも、世間の非難のないようにおっしゃり続けるので、<BR>⏎ 「いえもう,ただ今は、またもお亡くし申し上げてしまうのではないかと、気が気ではなく取り乱しておりますので、万事判断がつきません。お願いでございます、あれこれと無理押しなさって、乱暴なことはなさいませぬように」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 578-581 | と、言いようもないとお思いになっておっしゃるので、やはりお気の毒でもあり、<BR>⏎ 「まだ知らないとおっしゃるのは、なるほど恋愛経験の少ないお人柄だからでしょうと、道理は、仰せのとおり、どちら様を正しいと申す人がございますでしょうか」<BR>⏎ と、少しほほ笑んだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 522-524 | と,言いようもないとお思いになっておっしゃるので、やはりお気の毒でもあり、<BR>⏎ 「まだ知らないとおっしゃるのは、なるほど恋愛経験の少ないお人柄だからでしょうと、道理は、仰せのとおり,どちら様を正しいと申す人がございますでしょうか」<BR>⏎ と,少しほほ笑んだ。<BR>⏎ |
| version39 | 582 | <A NAME="in57">[第七段 落葉宮、塗籠に籠る]</A><BR> | 525 | |
| c1 | 584 | 宮は、「まことに嫌でたまらない、思いやりのない浅薄な心の方だった」と、悔しく辛いので、「大人げないようだと言われようとも」とご決意なさって、塗籠にご座所を一つ敷かせなさって、内側から施錠して、お寝みになってしまった。「これもいつまで続くことであろうか。これほどに浮き足立っている女房たちの気持ちは、何と悲しく残念なことか」とお思いなさる。<BR>⏎ | 527 | 宮は、「まことに嫌でたまらない、思いやりのない浅薄な心の方だった」と、悔しく辛いので、「大人げないようだと言われようとも」とご決意なさって、塗籠にご座所を一つ敷かせなさって、内側から施錠して,お寝みになってしまった。「これもいつまで続くことであろうか。これほどに浮き足立っている女房たちの気持ちは、何と悲しく残念なことか」とお思いなさる。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 586-589 | 「ただ、少しの隙間だけでも」<BR>⏎ と、しきりにお頼み申し上げなさるが、まったくお返事がない。<BR>⏎ 「怨んでも怨みきれません、胸の思いを晴らすことのできない冬の夜に<BR>⏎ そのうえ鎖された関所のような岩の門です<BR>⏎ | 529-531 | 「ただ,少しの隙間だけでも」<BR>⏎ と,しきりにお頼み申し上げなさるが、まったくお返事がない。<BR>⏎ 「怨んでも怨みきれません、胸の思いを晴らすことのできない冬の夜に<BR> そのうえ鎖された関所のような岩の門です<BR>⏎ |
| cd2:1 | 591-592 | と、泣く泣くお出になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 533 | と,泣く泣くお出になる。<BR>⏎ |
| version39 | 593 | <H4>第六章 夕霧の物語 雲居雁と落葉宮の間に苦慮</H4> | 534 | |
| version39 | 594 | <A NAME="in61">[第一段 夕霧、花散里へ弁明]</A><BR> | 535 | |
| c1 | 597 | と、とてもおっとりとお尋ねになる。御几帳を添えているが、端からちらちらと、それでも顔をお見せ申し上げなさる。<BR>⏎ | 538 | と,とてもおっとりとお尋ねになる。御几帳を添えているが、端からちらちらと、それでも顔をお見せ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c4 | 599-602 | と、ほほ笑みながら、<BR>⏎ 「あのご本人の宮は、もう普通の暮らしはするまいと深く決心なさって、尼になってしまいたいと思い詰めていらっしゃるようなので、どうしてどうして。あちら方こちら方に聞きずらいことでもございますが、そのように嫌疑を招かぬことになったとしても、また一方で、あの遺言に背くまいと存じまして、ただこのようにお世話申しているのでございます。<BR>⏎ 院がお渡りあそばしたような時に、よい機会がございましたら、このようにわたしの申したとおりに申し上げてください。この年になって、感心しない浮気心を起こしたと、お思いになりおっしゃりもするだろうと気にいたしておりますが、なるほど、このようなことには、人の意見にも、自分の心にも従えないものだということが分かりました」<BR>⏎ と、声を小さくして申し上げなさる。<BR>⏎ | 540-543 | と,ほほ笑みながら、<BR>⏎ 「あのご本人の宮は、もう普通の暮らしはするまいと深く決心なさって、尼になってしまいたいと思い詰めていらっしゃるようなので、どうしてどうして。あちら方こちら方に聞きずらいことでもございますが、そのように嫌疑を招かぬことになったとしても、また一方で,あの遺言に背くまいと存じまして、ただこのようにお世話申しているのでございます。<BR>⏎ 院がお渡りあそばしたような時に、よい機会がございましたら、このようにわたしの申したとおりに申し上げてください。この年になって、感心しない浮気心を起こしたと、お思いになりおっしゃりもするだろうと気にいたしておりますが、なるほど,このようなことには、人の意見にも、自分の心にも従えないものだということが分かりました」<BR>⏎ と,声を小さくして申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 605 | 「かわいらしくおっしゃいますね、姫君とはね。まるで鬼のようでございます性悪な者を」とおっしゃって、「どうして、その人をいい加減に扱っておりましょうか。恐れ多いですが、こちらのご夫人方のご様子からご推量ください。<BR>⏎ | 546 | 「かわいらしくおっしゃいますね、姫君とはね。まるで鬼のようでございます性悪な者を」とおっしゃって、「どうして,その人をいい加減に扱っておりましょうか。恐れ多いですが、こちらのご夫人方のご様子から ご推量ください。<BR>⏎ |
| c2 | 607-608 | やはり、南の殿の上のお心遣いこそが、いろいろとまたとないことで、それに次いではこちらのお気立てなどが、素晴らしいものとして、拝見するようになりました」<BR>⏎ などと、お誉め申し上げなさると、お笑いになって、<BR>⏎ | 548-549 | やはり,南の殿の上のお心遣いこそが、いろいろとまたとないことで、それに次いではこちらのお気立てなどが、素晴らしいものとして、拝見するようになりました」<BR>⏎ などと,お誉め申し上げなさると、お笑いになって、<BR>⏎ |
| c1 | 610 | ところで、おかしなことは、院が、ご自分の女癖を誰も知らないように、ちょっとした好色めいたお心遣いを、重大事とお思いになって、お諌め申し上げなさる。陰口をも申し上げなさっているらしいのは、賢ぶっている人が、自分のことは知らないでいるように思われます」<BR>⏎ | 551 | ところで,おかしなことは、院が、ご自分の女癖を誰も知らないように、ちょっとした好色めいたお心遣いを、重大事とお思いになって、お諌め申し上げなさる。陰口をも申し上げなさっているらしいのは、賢ぶっている人が、自分のことは知らないでいるように思われます」<BR>⏎ |
| ci3:4 | 612-614 | 「さように、いつも女性の事では厳しくお仰せになります。しかし、恐れ多い教えを戴かなくても、自分で十分に気をつけておりますのに」<BR>⏎ とおっしゃって、なるほどおかしいと思っていらっしゃった。<BR>⏎ 御前に参上なさると、あの事件はお聞きあそばしていらしたが、どうして知っている顔をしていられようかとお思いになって、ただじっと顔を窺っていらっしゃると、「実に素晴らしく美しくて、最近特に男盛りになったようだ。そのような浮気事をなさっても、人が非難すべきご様子もなさっていない。鬼神も罪を許すに違いなく、鮮やかでどことなく清らかで、若々しく今を盛りに生気溌剌としていらっしゃる。<BR>⏎ | 553-556 | 「さように、いつも女性の事では厳しくお仰せになります。しかし,恐れ多い教えを戴かなくても、自分で十分に気をつけておりますのに」<BR>⏎ とおっしゃって,なるほどおかしいと思っていらっしゃった。<BR>⏎ 御前に参上なさると、あの事件はお聞きあそばしていらしたが、どうして知っている顔をしていられようかとお思いになって、ただじっと顔を窺っていらっしゃると、<BR>⏎ 「実に素晴らしく美しくて、最近特に男盛りになったようだ。そのような浮気事をなさっても、人が非難すべきご様子もなさっていない。鬼神も罪を許すに違いなく、鮮やかでどことなく清らかで、若々しく今を盛りに生気溌剌としていらっしゃる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 616-617 | と、ご自分のお子ながらも、そうお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 558 | と,ご自分のお子ながらも、そうお思いになる。<BR>⏎ |
| version39 | 618 | <A NAME="in62">[第二段 雲居雁、嫉妬に荒れ狂う]</A><BR> | 559 | |
| c1 | 624 | と、何くわぬ顔でおっしゃるのも、癪にさわって、<BR>⏎ | 565 | と,何くわぬ顔でおっしゃるのも、癪にさわって、<BR>⏎ |
| c1 | 626 | と言って、起き上がりなさった様子は、たいそう愛嬌があって、つやつやとして赤くなった顔、実に美しい。<BR>⏎ | 567 | と言って,起き上がりなさった様子は、たいそう愛嬌があって、つやつやとして赤くなった顔、実に美しい。<BR>⏎ |
| c1 | 628 | と、冗談事におっしゃるが、<BR>⏎ | 569 | と,冗談事におっしゃるが、<BR>⏎ |
| c3 | 631-633 | 「近くで御覧にならなくても、よそながらどうして噂をお聞きにならないわけには行きますまい。そうして、夫婦の縁の深いことを分からせようとのおつもりのようですね。急に続くような冥土への旅立ちは、そのようにお約束申したからね」<BR>⏎ と、まこと素っ気なく言って、何やかやと宥めすかし申し慰めなさると、とても若々しく素直で、かわいらしいお心の持ち主でいらっしゃる方なので、口からの出まかせの言葉とはお思いになりながら、自然と和らいでいらっしゃるのを、とても愛しい人だとお思いになる一方で、心はうわの空で、<BR>⏎ 「あの方も、とても我を張って、強く頑固な人の様子にはお見えではないが、もしやはり不本意なことと思って、尼などになっておしまいになったら、馬鹿らしくもあるな」<BR>⏎ | 572-574 | 「近くで御覧にならなくても、よそながらどうして噂をお聞きにならないわけには行きますまい。そうして,夫婦の縁の深いことを分からせようとのおつもりのようですね。急に続くような冥土への旅立ちは、そのようにお約束申したからね」<BR>⏎ と,まこと素っ気なく言って、何やかやと宥めすかし申し慰めなさると、とても若々しく素直で、かわいらしいお心の持ち主でいらっしゃる方なので、口からの出まかせの言葉とはお思いになりながら、自然と和らいでいらっしゃるのを、とても愛しい人だとお思いになる一方で、心はうわの空で、<BR>⏎ 「あの方も,とても我を張って、強く頑固な人の様子にはお見えではないが、もしやはり不本意なことと思って、尼などになっておしまいになったら、馬鹿らしくもあるな」<BR>⏎ |
| d1 | 635 | <P>⏎ | ||
| version39 | 636 | <A NAME="in63">[第三段 雲居雁、夕霧と和歌を詠み交す]</A><BR> | 576 | |
| c2 | 639-640 | 今思うにつけても、どうしてそうであったのかと、自分ながらも、昔でさえ重々しかったと反省されるが、今は、このようにお憎みになっても、お捨てになることのできない子供たちが、とても辺りせましと数増えたようなので、あなたのお気持ち一つで出てお行きになることはできません。また、まあ見ていてくださいよ。寿命とは分からないのがこの世の常です」<BR>⏎ と言って、お泣きになったりすることもある。女も、往時を思い出しなさると、<BR>⏎ | 579-580 | 今思うにつけても、どうしてそうであったのかと、自分ながらも、昔でさえ重々しかったと反省されるが、今は、このようにお憎みになっても、お捨てになることのできない子供たちが、とても辺りせましと数増えたようなので、あなたのお気持ち一つで出てお行きになることはできません。また,まあ見ていてくださいよ。寿命とは分からないのがこの世の常です」<BR>⏎ と言って,お泣きになったりすることもある。女も、往時を思い出しなさると、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 642-644 | と、お思い出しなさる。柔らかくなったお召し物をお脱ぎになって、新調の素晴らしいのを重ねて香をたきしめなさり、立派に身繕いし化粧してお出かけになるのを、灯火の光で見送って、堪えがたく涙が込み上げて来るので、脱ぎ置きなさった単衣の袖を引き寄せなさって、<BR>⏎ 「長年連れ添って古びたこの身を恨んだりするよりも<BR>⏎ いっそ尼衣に着替えてしまおうかしら<BR>⏎ | 582-583 | と,お思い出しなさる。柔らかくなったお召し物をお脱ぎになって、新調の素晴らしいのを重ねて香をたきしめなさり、立派に身繕いし化粧してお出かけになるのを、灯火の光で見送って、堪えがたく涙が込み上げて来るので、脱ぎ置きなさった単衣の袖を引き寄せなさって、<BR>⏎ 「長年連れ添って古びたこの身を恨んだりするよりも<BR> いっそ尼衣に着替えてしまおうかしら<BR>⏎ |
| c1 | 646 | と、独言としておっしゃるのを、立ち止まって、<BR>⏎ | 585 | と,独言としておっしゃるのを、立ち止まって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 648-649 | いくら長年連れ添ったからといって、わたしを見限って<BR>⏎ 尼になったという噂が立ってよいものでしょうか」<BR>⏎ | 587 | いくら長年連れ添ったからといって、わたしを見限って<BR> 尼になったという噂が立ってよいものでしょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 651 | <P>⏎ | ||
| version39 | 652 | <A NAME="in64">[第四段 塗籠の落葉宮を口説く]</A><BR> | 589 | |
| c1 | 655 | などと、いろいろと申し上げたので、もっともなことだとお思いになりながら、今から以後の世間での噂も、自分のどのようなお気持ちで過ごして来たかも、気にくわなく、恨めしかった方のせいだとお考えになって、その夜もお会いなさらない。「冗談ではなく、変わった方だ」と、言葉を尽くして恨みのたけを申し上げなさる。女房もお気の毒だと拝す。<BR>⏎ | 592 | などと,いろいろと申し上げたので、もっともなことだとお思いになりながら、今から以後の世間での噂も、自分のどのようなお気持ちで過ごして来たかも、気にくわなく、恨めしかった方のせいだとお考えになって、その夜もお会いなさらない。「冗談ではなく、変わった方だ」と、言葉を尽くして恨みのたけを申し上げなさる。女房もお気の毒だと拝す。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 659-662 | などと、どこまでも申し上げなさるが、<BR>⏎ 「やはり、このような喪中の心の乱れに加えて、無理をおっしゃるお心がひどく辛い。他人が聞いて想像することも、すべていい加減なことで済まされないわが身の辛さは、それはそれとして措いても、格別に情けないお心づもりです」<BR>⏎ と、重ねて拒否してお恨みになりながら、つき放してお相手していらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 596-598 | などと,どこまでも申し上げなさるが、<BR>⏎ 「やはり,このような喪中の心の乱れに加えて、無理をおっしゃるお心がひどく辛い。他人が聞いて想像することも、すべていい加減なことで済まされないわが身の辛さは、それはそれとして措いても、格別に情けないお心づもりです」<BR>⏎ と,重ねて拒否してお恨みになりながら、つき放してお相手していらっしゃった。<BR>⏎ |
| version39 | 663 | <A NAME="in65">[第五段 夕霧、塗籠に入って行く]</A><BR> | 599 | |
| c2 | 665-666 | 「内々のお気づかいは、このおっしゃることに適っても、暫くの間はお気持ちに逆らわないでいよう。夫婦らしからぬ様子が、とても嫌である。また、こうだからといって、まったく参らなくなったら、あなたのご評判がどんなにかおいたわしいことでしょうか。一方的にお考えになって、大人げないのが困ったことです」<BR>⏎ など、この女房をお責めになるので、なるほどと思って、拝するのも今はお気の毒になって、恐れ多くも思われる様子なので、女房を出入りさせなさる塗籠の北の口から、お入れ申し上げてしまった。<BR>⏎ | 601-602 | 「内々のお気づかいは、このおっしゃることに適っても、暫くの間はお気持ちに逆らわないでいよう。夫婦らしからぬ様子が、とても嫌である。また,こうだからといって、まったく参らなくなったら、あなたのご評判がどんなにかおいたわしいことでしょうか。一方的にお考えになって、大人げないのが困ったことです」<BR>⏎ など,この女房をお責めになるので、なるほどと思って、拝するのも今はお気の毒になって、恐れ多くも思われる様子なので、女房を出入りさせなさる塗籠の北の口から、お入れ申し上げてしまった。<BR>⏎ |
| c1 | 669 | 「まったく、このように、何とも言いようもない者に思われなさった身のほどは、例のないくらい恥ずかしいので、あってはならない考えがつき始まったのも、迂闊にも悔しく思われますが、昔に戻ることのできない関係で、何の立派なご評判がございましょうか。もう仕方のないこととお諦めください。<BR>⏎ | 605 | 「まったく,このように,何とも言いようもない者に思われなさった身のほどは、例のないくらい恥ずかしいので、あってはならない考えがつき始まったのも、迂闊にも悔しく思われますが、昔に戻ることのできない関係で、何の立派なご評判がございましょうか。もう仕方のないこととお諦めください。<BR>⏎ |
| d1 | 674 | <P>⏎ | ||
| version39 | 675 | <A NAME="in66">[第六段 夕霧と落葉宮、遂に契りを結ぶ]</A><BR> | 610 | |
| c1 | 676 | こうしてばかり馬鹿らしく出入りするのもみっともないので、今日は泊まって、ゆっくりとしていらっしゃる。こんなにまで一途なのを、あきれたことと宮はお思いになって、ますます疎んずる態度が増してくるのを、愚かしい意地の張りようだと、思う一方で、情けなくもおいたわしい。<BR>⏎ | 611 | こうしてばかり馬鹿らしく出入りするのもみっともないので、今日は泊まって、ゆっくりとしていらっしゃる。こんなにまで一途なのを、あきれたことと宮はお思いになって、ますます疎んずる態度が増してくるのを、愚かしい意地の張りようだと、思う一方で,情けなくもおいたわしい。<BR>⏎ |
| c1 | 679 | 「亡き夫君が特別すぐれた容貌というわけでなかったが、その彼でさえ、すっかり気位高く持って、ご器量がお美しくないと、何かの折に思っていたらしい様子をお思い出しになると、それ以上に、このようにひどく衰えた様子を、少しの間でも我慢できようか」と思うのも、ひどく恥ずかしく、あれやこれやと思案しながら、自分のお気持ちを納得させなさる。<BR>⏎ | 614 | 「亡き夫君が特別すぐれた容貌というわけでなかったが,その彼でさえ、すっかり気位高く持って、ご器量がお美しくないと、何かの折に思っていたらしい様子をお思い出しになると、それ以上に,このようにひどく衰えた様子を、少しの間でも我慢できようか」と思うのも、ひどく恥ずかしく、あれやこれやと思案しながら、自分のお気持ちを納得させなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 684 | <P>⏎ | ||
| version39 | 685 | <H4>第七章 雲居雁の物語 夕霧の妻たちの物語</H4> | 619 | |
| version39 | 686 | <A NAME="in71">[第一段 雲居雁、実家へ帰る]</A><BR> | 620 | |
| c1 | 689 | と、夫婦の仲を見届けてしまった感じがして、「どうにしてこの侮辱を味わっていようか」とお思いになったので、大殿邸へ、方違えしようと思って、お移りになったところ、弘徽殿の女御が里にいらっしゃる時でもあり、お会いなさって、少し悩みが晴れることとお思いになって、いつものように急いでお帰りにならない。<BR>⏎ | 623 | と,夫婦の仲を見届けてしまった感じがして、「どうにしてこの侮辱を味わっていようか」とお思いになったので、大殿邸へ、方違えしようと思って、お移りになったところ、弘徽殿の女御が里にいらっしゃる時でもあり、お会いなさって、少し悩みが晴れることとお思いになって、いつものように急いでお帰りにならない。<BR>⏎ |
| c2 | 691-692 | 「やはりそうであったか。まことせかっちでいらっしゃる性格だ。この大殿の方も、また、年輩者らしくゆったりと落ち着いているところが、何といってもなく、実に性急で派手でいらっしゃる方々だから、気にくわない、見るものか、聞くものかなどと、不都合なことをおっしゃり出すかも知れない」<BR>⏎ と、驚きなさって、三条殿にお帰りになると、子供たちも、半ばは残っていらっしゃって、姫君たちと、それからとても幼い子は連れていらっしゃっていたのだが、見つけて喜んで纏わりつき、ある者は母上を恋い慕い申して、悲しんで泣いていらっしゃるのを、かわいそうにとお思いになる。<BR>⏎ | 625-626 | 「やはりそうであったか。まことせかっちでいらっしゃる性格だ。この大殿の方も、また,年輩者らしくゆったりと落ち着いているところが、何といってもなく、実に性急で派手でいらっしゃる方々だから、気にくわない、見るものか、聞くものかなどと、不都合なことをおっしゃり出すかも知れない」<BR>⏎ と,驚きなさって、三条殿にお帰りになると、子供たちも、半ばは残っていらっしゃって、姫君たちと、それからとても幼い子は連れていらっしゃっていたのだが、見つけて喜んで纏わりつき、ある者は母上を恋い慕い申して、悲しんで泣いていらっしゃるのを、かわいそうにとお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 694 | <P>⏎ | ||
| version39 | 695 | <A NAME="in72">[第二段 夕霧、雲居雁の実家へ行く]</A><BR> | 628 | |
| c1 | 698 | と、ひどく非難しお恨み申し上げなさると、<BR>⏎ | 631 | と,ひどく非難しお恨み申し上げなさると、<BR>⏎ |
| c1 | 702 | と言って、無理にお帰りになりなさいとも言わずに、その夜は独りでお寝みになった。<BR>⏎ | 635 | と言って,無理にお帰りになりなさいとも言わずに、その夜は独りでお寝みになった。<BR>⏎ |
| c2 | 706-707 | と、脅し申し上げなさると、いかにもきっぱりしたご性格なので、この子供たちまで、知らない所へお連れなさるのだろうか、と心配になる。姫君を、<BR>⏎ 「さあ、いらっしゃい。お目にかかるために、このように参上するのも体裁が悪いので、いつも参上できません。あちらにも子供たちがかわいいので、せめて同じ所でお世話申そう」<BR>⏎ | 639-640 | と,脅し申し上げなさると、いかにもきっぱりしたご性格なので、この子供たちまで、知らない所へお連れなさるのだろうか、と心配になる。姫君を、<BR>⏎ 「さあ,いらっしゃい。お目にかかるために、このように参上するのも体裁が悪いので、いつも参上できません。あちらにも子供たちがかわいいので、せめて同じ所でお世話申そう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 710-711 | と、お教え申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 643 | と,お教え申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version39 | 712 | <A NAME="in73">[第三段 蔵人少将、落葉宮邸へ使者]</A><BR> | 644 | |
| c1 | 714 | 「もう少しの間、そのまま様子を見ていらっしゃらないで。自然と反省するところも生じてこようものを。女がこのように性急であるのも、かえって軽く思われるものだ。仕方ない、このように言い出したからには、どうして間抜け顔をして、おめおめとお帰りになれよう。自然と相手の様子や考えが分かるだろう」<BR>⏎ | 646 | 「もう少しの間、そのまま様子を見ていらっしゃらないで。自然と反省するところも生じてこようものを。女がこのように性急であるのも、かえって軽く思われるものだ。仕方ない,このように言い出したからには、どうして間抜け顔をして、おめおめとお帰りになれよう。自然と相手の様子や考えが分かるだろう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 716-718 | 「前世からの因縁があってか、あなたのことを<BR>⏎ お気の毒にと思う一方で、恨めしい方だと聞いております<BR>⏎ やはり、お忘れにはなれないでしょう」<BR>⏎ | 648-649 | 「前世からの因縁があってか、あなたのことを<BR> お気の毒にと思う一方で、恨めしい方だと聞いております<BR>⏎ やはり,お忘れにはなれないでしょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 730-732 | 「どういうわけで、世の中で人数にも入らないわたしのような身を<BR>⏎ 辛いとも思い愛しいともお聞きになるのでしょう」<BR>⏎ とだけ、お心にうかんだままに、終わりまで書かなかったような書きぶりで、ざっと包んでお出しになった。少将は、女房と話して、<BR>⏎ | 661-662 | 「どういうわけで、世の中で人数にも入らないわたしのような身を<BR> 辛いとも思い愛しいともお聞きになるのでしょう」<BR>⏎ とだけ,お心にうかんだままに、終わりまで書かなかったような書きぶりで、ざっと包んでお出しになった。少将は、女房と話して、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 734-735 | などと、思わせぶりな態度を見せてお帰りになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 664 | などと,思わせぶりな態度を見せてお帰りになった。<BR>⏎ |
| version39 | 736 | <A NAME="in74">[第四段 藤典侍、雲居雁を慰める]</A><BR> | 665 | |
| cd2:1 | 740-741 | 「わたしが人数にも入る女でしたら夫婦仲の悲しみを思い知られましょうが<BR>⏎ あなたのために涙で袖をぬらしております」<BR>⏎ | 669 | 「わたしが人数にも入る女でしたら夫婦仲の悲しみを思い知られましょうが<BR> あなたのために涙で袖をぬらしております」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 743-744 | 「他人の夫婦仲の辛さをかわいそうにと思って見てきたが<BR>⏎ わが身のこととまでは思いませんでした」<BR>⏎ | 671 | 「他人の夫婦仲の辛さをかわいそうにと思って見てきたが<BR> わが身のこととまでは思いませんでした」<BR>⏎ |
| c1 | 746 | あの、昔、二人のお仲が遠ざけられていた期間は、この典侍だけを、密かにお目をかけていらっしゃったのだが、事情が変わってから後は、とてもたまさかに、冷たくおなりになるばかりであったが、そうは言っても、子供たちは大勢になったのであった。<BR>⏎ | 673 | あの,昔、二人のお仲が遠ざけられていた期間は、この典侍だけを、密かにお目をかけていらっしゃったのだが、事情が変わってから後は、とてもたまさかに、冷たくおなりになるばかりであったが、そうは言っても,子供たちは大勢になったのであった。<BR>⏎ |
| d2 | 750-751 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 758 | ⏎ | ||
| i0 | 687 | |||
| diff | src/original/version40.html | src/modified/version40.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version40 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 39 | <P>⏎ | ||
| version40 | 40 | <H4>第一章 紫の上の物語 死期間近き春から夏の物語</H4> | 36 | |
| version40 | 41 | <A NAME="in11">[第一段 紫の上、出家を願うが許されず]</A><BR> | 37 | |
| c1 | 44 | そうは言うものの、ご自分のお気持ちにも、そのようにご決心なさっていることなので、このように熱心に思っていらっしゃる機会に促されて、一緒に出家生活に入ろうとお思いになるが、一度、出家をなさったらば、仮にもこの世の事を顧みようとはお思いにならず、来世では、一つの蓮の座を分け合おうと、お約束申し上げなさって、頼りにしていらっしゃるご夫婦仲であるが、この世のままで勤行なさる間は、同じ奥山であっても、峰を隔てて、お互いに顔を会わせない住まいで離れて生活することばかりをお考えになっていたので、このようにとても頼りない状態で病が篤くなってゆかれるので、とてもお気の毒なご様子を、いよいよ出家しようという時機には捨てることができず、かえって、山水の清い生活も濁ってしまいそうで、ぐずぐずしていらっしゃるうちに、ほんの浅い考えで、思うまま出家心を起こす人々に比べて、すっかり後れを取っておしまいになりそうである。<BR>⏎ | 40 | そうは言うものの,ご自分のお気持ちにも、そのようにご決心なさっていることなので、このように熱心に思っていらっしゃる機会に促されて、一緒に出家生活に入ろうとお思いになるが、一度、出家をなさったらば、仮にもこの世の事を顧みようとはお思いにならず、来世では、一つの蓮の座を分け合おうと、お約束申し上げなさって、頼りにしていらっしゃるご夫婦仲であるが、この世のままで勤行なさる間は、同じ奥山であっても、峰を隔てて、お互いに顔を会わせない住まいで離れて生活することばかりをお考えになっていたので、このようにとても頼りない状態で病が篤くなってゆかれるので、とてもお気の毒なご様子を、いよいよ出家しようという時機には捨てることができず、かえって、山水の清い生活も濁ってしまいそうで、ぐずぐずしていらっしゃるうちに、ほんの浅い考えで、思うまま出家心を起こす人々に比べて、すっかり後れを取っておしまいになりそうである。<BR>⏎ |
| d1 | 46 | <P>⏎ | ||
| version40 | 47 | <A NAME="in12">[第二段 二条院の法華経供養]</A><BR> | 42 | |
| c2 | 49-50 | 大層な催しには致されなかったので、詳細な事柄はお教えなさらなかったのに、女性のお指図としては行き届いており、仏道にまで通じていらっしゃるお心のほどなどを、院はまことにこの上ない方だと感心なさって、ただ大体のお飾り、何やかのことだけを、お世話なさるのであった。楽人、舞人などのことは、大将の君が特別にお世話を申し上げなさる。<BR>⏎ 帝、春宮、后宮たちをおはじめ申して、ご夫人方が、それぞれ御誦経、捧げ物など程度のことをご寄進なさるのでさえ所狭しなのに、それ以上に、その当時は、このご準備のご用をお務めしない人がないので、たいそう物々しいことがあれこれとある。「いつのまに、とてもこのようにいろいろとご用意なさったのであろう。なるほど、古い昔からの御願であろうか」と見えた。<BR>⏎ | 44-45 | 大層な催しには致されなかったので、詳細な事柄はお教えなさらなかったのに、女性のお指図としては行き届いており、仏道にまで通じていらっしゃるお心のほどなどを、院はまことにこの上ない方だと感心なさって、ただ大体のお飾り、何やかのことだけを、お世話なさるのであった。楽人、舞人などのことは、大将の君が 特別にお世話を申し上げなさる。<BR>⏎ 帝,春宮,后宮たちをおはじめ申して、ご夫人方が、それぞれ御誦経、捧げ物など程度のことをご寄進なさるのでさえ所狭しなのに、それ以上に,その当時は、このご準備のご用をお務めしない人がないので、たいそう物々しいことがあれこれとある。「いつのまに、とてもこのようにいろいろとご用意なさったのであろう。なるほど,古い昔からの御願であろうか」と見えた。<BR>⏎ |
| d1 | 52 | <P>⏎ | ||
| version40 | 53 | <A NAME="in13">[第三段 紫の上、明石御方と和歌を贈答]</A><BR> | 47 | |
| cd3:2 | 54-56 | 三月の十日なので、花盛りで、空の様子なども、うららかで興趣あり、仏のいらっしゃる極楽浄土の有様が、身近に想像されて、格別である。信心のない人までが、罪障がなくなりそうである。薪こる行道の声も、大勢集い響き、あたりをゆるがすが、声が中断して静かになった時でさえしみじみ寂しく思わずにはいらっしゃれないのに、それ以上に、最近になっては、何につけても、心細くばかりお感じになられる。明石の御方に、三の宮を使いにして、申し上げなさる。<BR>⏎ 「惜しくもないこの身ですが、これを最後として<BR>⏎ 薪の尽きることを思うと悲しうございます」<BR>⏎ | 48-49 | 三月の十日なので、花盛りで、空の様子なども、うららかで興趣あり、仏のいらっしゃる極楽浄土の有様が、身近に想像されて、格別である。信心のない人までが、罪障がなくなりそうである。薪こる行道の声も、大勢集い響き、あたりをゆるがすが、声が中断して静かになった時でさえしみじみ寂しく思わずにはいらっしゃれないのに、それ以上に,最近になっては、何につけても、心細くばかりお感じになられる。明石の御方に、三の宮を使いにして、申し上げなさる。<BR>⏎ 「惜しくもないこの身ですが、これを最後として<BR> 薪の尽きることを思うと悲しうございます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 58-59 | 「仏道へのお思いは今日を初めの日として<BR>⏎ この世で願う仏法のために千年も祈り続けられることでしょう」<BR>⏎ | 51 | 「仏道へのお思いは今日を初めの日として<BR> この世で願う仏法のために千年も祈り続けられることでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 62 | <P>⏎ | ||
| version40 | 63 | <A NAME="in14">[第四段 紫の上、花散里と和歌を贈答]</A><BR> | 54 | |
| c1 | 65 | それ以上に、夏冬の四季折々の音楽会や遊びなどにも、何となく張り合う気持ちは、自然と沸き起こって来るようであるが、やはりお互いに親しくしあっていらっしゃる御方々は、誰もみな永久に生きていらっしゃれる世の中ではないが、まず自分独りが先立って行くのをお考え続けなさると、ひどく悲しいのである。<BR>⏎ | 56 | それ以上に,夏冬の四季折々の音楽会や遊びなどにも、何となく張り合う気持ちは、自然と沸き起こって来るようであるが、やはりお互いに親しくしあっていらっしゃる御方々は、誰もみな永久に生きていらっしゃれる世の中ではないが、まず自分独りが先立って行くのをお考え続けなさると、ひどく悲しいのである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 67-68 | 「これが最後と思われます法会ですが、頼もしく思われます<BR>⏎ 生々世々にかけてと結んだあなたとの縁を」<BR>⏎ | 58 | 「これが最後と思われます法会ですが、頼もしく思われます<BR> 生々世々にかけてと結んだあなたとの縁を」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 70-73 | 「あなた様と御法会で結んだ御縁は未来永劫に続くでしょう<BR>⏎ 普通の人には残り少ない命とて、多くは催せない法会でしょうとも」<BR>⏎ 引き続き、この機会に、不断の読経や、懺法などを、怠りなく、尊い仏事の数々をおさせになる。御修法は、格別の効験も現れないで時が過ぎたので、いつものことになって、引き続いてしかるべきあちらこちら、寺々においておさせになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 60-61 | 「あなた様と御法会で結んだ御縁は未来永劫に続くでしょう<BR> 普通の人には残り少ない命とて、多くは催せない法会でしょうとも」<BR>⏎ 引き続き,この機会に、不断の読経や、懺法などを、怠りなく、尊い仏事の数々をおさせになる。御修法は、格別の効験も現れないで時が過ぎたので、いつものことになって、引き続いてしかるべきあちらこちら、寺々においておさせになった。<BR>⏎ |
| version40 | 74 | <A NAME="in15">[第五段 紫の上、明石中宮と対面]</A><BR> | 62 | |
| c2 | 76-77 | こうした状態ばかりでいらっしゃるので、中宮が、この二条院に御退出あそばされる。東の対に御滞在あそばす予定なので、こちらでお待ち申し上げていらっしゃる。儀式など、いつもと変わらないが、この世の作法もこれが見納めだろうなどとばかりお思いになると、何かにつけても悲しい。名対面をお聞きになっても、あれは誰、これは誰などと、耳を止めてついお聞きになる。<BR>⏎ 上達部なども大勢供奉なさっていた。久しく御対面なさらなかったので、珍しくお思いになって、お話をこまごまと申し上げなさる。院がお入りになって、<BR>⏎ | 64-65 | こうした状態ばかりでいらっしゃるので、中宮が、この二条院に御退出あそばされる。東の対に御滞在あそばす予定なので、こちらでお待ち申し上げていらっしゃる。儀式など、いつもと変わらないが、この世の作法もこれが見納めだろうなどとばかりお思いになると、何かにつけても悲しい。名対面をお聞きになっても、あれは誰、これは誰などと、耳を止めてついお聞きになる。上達部なども 大勢供奉なさっていた。<BR>⏎ 久しく御対面なさらなかったので、珍しくお思いになって、お話をこまごまと申し上げなさる。院がお入りになって、<BR>⏎ |
| c1 | 79 | と言って、お帰りになってしまった。起きていらっしゃるのを、嬉しいとお思いになるのも、まことにはかないお慰めである。<BR>⏎ | 67 | と言って,お帰りになってしまった。起きていらっしゃるのを、嬉しいとお思いになるのも、まことにはかないお慰めである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 81-82 | と言って、暫くの間はこちらにいらっしゃるので、明石の御方もお越しになって、心のこもった静かなお話などをお取り交わしなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 69 | と言って,暫くの間はこちらにいらっしゃるので、明石の御方もお越しになって、心のこもった静かなお話などをお取り交わしなさる。<BR>⏎ |
| version40 | 83 | <A NAME="in16">[第六段 紫の上、匂宮に別れの言葉]</A><BR> | 70 | |
| c1 | 84 | 紫の上は、ご心中にお考えになっていらっしゃることがいろいろと多くあるが、利口そうに、亡くなった後はなどと、お口にされることもない。ただ世間一般の世の無常な有様を、おっとりと言葉少なでありながらも、並々ではないおっしゃりようをなさるご様子などを、言葉にお出しになるよりも、しみじみと何か心細いご様子は、はっきりと見えるのであった。宮たちを拝見なさっても、<BR>⏎ | 71 | 紫の上は、ご心中にお考えになっていらっしゃることがいろいろと多くあるが、利口そうに、亡くなった後はなどと,お口にされることもない。ただ世間一般の世の無常な有様を、おっとりと言葉少なでありながらも、並々ではないおっしゃりようをなさるご様子などを、言葉にお出しになるよりも、しみじみと何か心細いご様子は、はっきりと見えるのであった。宮たちを拝見なさっても、<BR>⏎ |
| c1 | 86 | と言って、涙ぐんでいらっしゃるお顔の美しさ、素晴らしく見事である。「どうしてこんなふうにばかりお思いでいらっしゃるのだろう」とお思いになると、中宮は、思わずお泣きになってしまった。縁起でもない申し上げようはなさらず、お話のついでなどに、長年お仕えし親しんできた女房たちで、特別の身寄りがなく気の毒そうな、この人、あの人を、<BR>⏎ | 73 | と言って,涙ぐんでいらっしゃるお顔の美しさ、素晴らしく見事である。「どうしてこんなふうにばかりお思いでいらっしゃるのだろう」とお思いになると、中宮は、思わずお泣きになってしまった。縁起でもない申し上げようはなさらず、お話のついでなどに、長年お仕えし親しんできた女房たちで、特別の身寄りがなく気の毒そうな、この人、あの人を、<BR>⏎ |
| c2 | 92-93 | 「きっととても恋しいことでしょう。わたしは、御所の父上よりも母宮よりも、祖母様を誰よりもお慕い申し上げていますので、いらっしゃらなくなったら、機嫌が悪くなりますよ」<BR>⏎ と言って、目を拭ってごまかしていらっしゃる様子、いじらしいので、ほほ笑みながらも涙は落ちた。<BR>⏎ | 79-80 | 「きっととても恋しいことでしょう。わたしは,御所の父上よりも母宮よりも、祖母様を誰よりもお慕い申し上げていますので、いらっしゃらなくなったら、機嫌が悪くなりますよ」<BR>⏎ と言って,目を拭ってごまかしていらっしゃる様子、いじらしいので、ほほ笑みながらも涙は落ちた。<BR>⏎ |
| d1 | 96 | <P>⏎ | ||
| version40 | 97 | <H4>第二章 紫の上の物語 紫の上の死と葬儀</H4> | 83 | |
| version40 | 98 | <A NAME="in21">[第一段 紫の上の部屋に明石中宮の御座所を設ける]</A><BR> | 84 | |
| c1 | 99 | ようやく待っていた秋になって、世の中が少し涼しくなってからは、ご気分も少しはさわやかになったようであるが、やはりどうかすると、何かにつけ悪くなることがある。といっても、身にしみるほどに思われなさる秋風ではないが、涙でしめりがちな日々をお過ごしになる。<BR>⏎ | 85 | ようやく待っていた秋になって、世の中が少し涼しくなってからは、ご気分も少しはさわやかになったようであるが、やはりどうかすると、何かにつけ悪くなることがある。といっても,身にしみるほどに思われなさる秋風ではないが、涙でしめりがちな日々をお過ごしになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 101-102 | 恐れ多いことであるが、いかにもお目にかからずには張り合いがないということで、こちらに御座所を特別に設えさせなさる。「すっかり痩せ細っていらっしゃるが、こうしても、高貴で優美でいらっしゃることの限りなさも一段と素晴らしく見事である」と、今まで匂い満ちて華やかでいらっしゃった女盛りは、かえってこの世の花の香にも喩えられていらっしゃったが、この上もなく可憐で美しいご様子で、まことにかりそめの世と思っていらっしゃる様子、他に似るものもなくおいたわしく、何となく物悲しい。<BR>⏎ <P>⏎ | 87 | 恐れ多いことであるが、いかにもお目にかからずには張り合いがないということで、こちらに御座所を特別に設えさせなさる。「すっかり痩せ細っていらっしゃるが、こうしても、高貴で優美でいらっしゃることの限りなさも一段と素晴らしく見事である」と、今まで匂い満ちて 華やかでいらっしゃった女盛りは、かえってこの世の花の香にも喩えられていらっしゃったが、この上もなく可憐で美しいご様子で、まことにかりそめの世と思っていらっしゃる様子、他に似るものもなくおいたわしく、何となく物悲しい。<BR>⏎ |
| version40 | 103 | <A NAME="in22">[第二段 明石中宮に看取られ紫の上、死去す]</A><BR> | 88 | |
| cd9:6 | 106-114 | と申し上げなさる。この程度の気分の好い時があるのをも、まことに嬉しいとお思い申し上げていらっしゃるご様子を御覧になるのも、おいたわしく、「とうとう最期となった時、どんなにお嘆きになるだろう」と思うと、しみじみ悲しいので、<BR>⏎ 「起きていると見えますのも暫くの間のこと<BR>⏎ ややもすれば風に吹き乱れる萩の上露のようなわたしの命です」<BR>⏎ なるほど、風にひるがえってこぼれそうなのが、よそえられたのさえ我慢できないので、お覗きになっても、<BR>⏎ 「どうかすると先を争って消えてゆく露のようにはかない人の世に<BR>⏎ せめて後れたり先立ったりせずに一緒に消えたいものです」<BR>⏎ と言って、お涙もお拭いになることができない。中宮、<BR>⏎ 「秋風に暫くの間も止まらず散ってしまう露の命を<BR>⏎ 誰が草葉の上の露だけと思うでしょうか」<BR>⏎ | 91-96 | と申し上げなさる。この程度の気分の好い時があるのをも、まことに嬉しいとお思い申し上げていらっしゃるご様子を御覧になるのも、おいたわしく、「とうとう最期となった時,どんなにお嘆きになるだろう」と思うと、しみじみ悲しいので、<BR>⏎ 「起きていると見えますのも暫くの間のこと<BR> ややもすれば風に吹き乱れる萩の上露のようなわたしの命です」<BR>⏎ なるほど,風にひるがえってこぼれそうなのが、よそえられたのさえ我慢できないので、お覗きになっても、<BR>⏎ 「どうかすると先を争って消えてゆく露のようにはかない人の世に<BR> せめて後れたり先立ったりせずに一緒に消えたいものです」<BR>⏎ と言って,お涙もお拭いになることができない。中宮、<BR>⏎ 「秋風に暫くの間も止まらず散ってしまう露の命を<BR> 誰が草葉の上の露だけと思うでしょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 117 | と言って、御几帳引き寄せてお臥せりになった様子が、いつもより頼りなさそうにお見えなので、<BR>⏎ | 99 | と言って,御几帳引き寄せてお臥せりになった様子が、いつもより頼りなさそうにお見えなので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 119-120 | とおっしゃって、中宮は、お手をお取り申して泣きながら拝し上げなさると、本当に消えてゆく露のような感じがして、今が最期とお見えなので、御誦経の使者たちが、数えきれないほど騷ぎだした。以前にもこうして生き返りなさったことがあったのと同じように、御物の怪のしわざかと疑いなさって、一晩中いろいろな加持祈祷のあらん限りをし尽くしなさったが、その甲斐もなく、夜の明けきるころにお亡くなりになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 101 | とおっしゃって,中宮は、お手をお取り申して 泣きながら拝し上げなさると、本当に消えてゆく露のような感じがして、今が最期とお見えなので、御誦経の使者たちが、数えきれないほど騷ぎだした。以前にも こうして生き返りなさったことがあったのと同じように、御物の怪のしわざかと疑いなさって、一晩中いろいろな加持祈祷のあらん限りをし尽くしなさったが、その甲斐もなく、夜の明けきるころにお亡くなりになった。<BR>⏎ |
| version40 | 121 | <A NAME="in23">[第三段 源氏、紫の上の落飾のことを諮る]</A><BR> | 102 | |
| c1 | 124 | 「このように今はもうご臨終のようなので、長年願っていたこと、このような際にその願いを果たせずに終わってしまうことがかわいそうだ。御加持を勤める大徳たち、読経の僧なども、皆声を止めて帰ったようだが、そうはいっても、まだ残っている僧たちもいるだろう。この現世のためには何の役にも立たないような気がするが、仏の御利益は、今はせめて冥途の道案内としてでもお頼み申さねばならないゆえ、剃髪するよう計らいなさい。適当な僧で、誰が残っているか」<BR>⏎ | 105 | 「このように今はもうご臨終のようなので、長年願っていたこと、このような際に その願いを果たせずに終わってしまうことがかわいそうだ。御加持を勤める大徳たち、読経の僧なども、皆声を止めて帰ったようだが、そうはいっても、まだ残っている僧たちもいるだろう。この現世のためには何の役にも立たないような気がするが、仏の御利益は、今はせめて冥途の道案内としてでもお頼み申さねばならないゆえ、剃髪するよう計らいなさい。適当な僧で、誰が残っているか」<BR>⏎ |
| c1 | 126 | 「御物の怪などが、今度も、この方のお心を悩まそうとして、このようなことになるもののようでございますから、そのようなことでいらっしゃいましょう。それならば、いずれにせよ、御念願のことは、結構なことでございます。一日一夜でも戒をお守りになりましたら、その効は必ずあるものと聞いております。本当に息絶えてしまわれて、後から御髪だけをお下ろしなさっても、特に後世の御功徳とはおなりではないでしょうから、目の前の悲しみだけが増えるようで、いかがなものでございましょうか」<BR>⏎ | 107 | 「御物の怪などが、今度も,この方のお心を悩まそうとして、このようなことになるもののようでございますから、そのようなことでいらっしゃいましょう。それならば,いずれにせよ、御念願のことは、結構なことでございます。一日一夜でも戒をお守りになりましたら、その効は必ずあるものと聞いております。本当に息絶えてしまわれて、後から御髪だけをお下ろしなさっても、特に後世の御功徳とはおなりではないでしょうから、目の前の悲しみだけが増えるようで、いかがなものでございましょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 128 | <P>⏎ | ||
| version40 | 129 | <A NAME="in24">[第四段 夕霧、紫の上の死に顔を見る]</A><BR> | 109 | |
| c1 | 131 | 「静かに。暫く」<BR>⏎ | 111 | 「静かに.暫く」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 134-136 | と言って、お袖を顔におし当てていらっしゃる時、大将の君も、涙にくれて、目も見えなさらないのを、無理に涙を絞り出すように目を開いて拝見すると、かえって悲しみが増してたとえようもなく、本当に心もかき乱れてしまいそうである。御髪が無造作に枕許にうちやられていらっしゃる様子、ふさふさと美しくて、一筋も乱れた様子はなく、つやつやと美しそうな様子、この上ない。<BR>⏎ 灯火がたいそう明るいので、お顔色はとても白く光るようで、何かと身づくろいをしていらっしゃった、生前のご様子よりも、今さら嘆いても嘆くかいのない、正体のない状態で無心に臥せっていらっしゃるご様子が、一点の非の打ちどころもないと言うのも、ことさらめいたことである。並一通りの美しさどころか、類のない美しさを拝見すると、「死に入ろうとする魂がそのままこの御亡骸に止まっていてほしい」と思われるのも、無理というものであるよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 114-115 | と言って,お袖を顔におし当てていらっしゃる時、大将の君も、涙にくれて、目も見えなさらないのを、無理に涙を絞り出すように目を開いて拝見すると、かえって悲しみが増してたとえようもなく、本当に心もかき乱れてしまいそうである。御髪が無造作に枕許にうちやられていらっしゃる様子、ふさふさと美しくて、一筋も乱れた様子はなく、つやつやと美しそうな様子,この上ない。<BR>⏎ 灯火がたいそう明るいので、お顔色はとても白く光るようで、何かと身づくろいをしていらっしゃった、生前のご様子よりも、今さら嘆いても嘆くかいのない、正体のない状態で無心に臥せっていらっしゃるご様子が、一点の非の打ちどころもないと言うのも,ことさらめいたことである。並一通りの美しさどころか、類のない美しさを拝見すると、「死に入ろうとする魂が そのままこの御亡骸に止まっていてほしい」と思われるのも、無理というものであるよ。<BR>⏎ |
| version40 | 137 | <A NAME="in25">[第五段 紫の上の葬儀]</A><BR> | 116 | |
| c3 | 139-141 | そのまま、その当日に、あれこれしてご葬儀をお営み申し上げる。所定の作法があることなので、亡骸を見ながらお過しになるということもできないのが、情けない人の世なのであった。広々とした広い野原に、いっぱいに人が立ち込めて、この上もなく厳めしい葬儀であるが、まことにあっけない煙となって、はかなく上っていっておしまいになったのも、常のことであるが、あっけなく何とも悲しい。<BR>⏎ 地に足が付かない感じで、人に支えられてお出ましになったのを、拝し上げる人も、「あれほど威厳のあるお方が」と、わけも分からない下衆まで泣かない者はいなかった。ご葬送の女房は、それ以上に夢路に迷ったような気がして、車から転び落ちてしまいそうになるのに、手を焼くのであった。<BR>⏎ 昔、大将の君の御母君がお亡くなりになった時の暁のことをお思い出しになっても、あの時は、やはりまだ物事の分別ができたのであろうか、月の顔が明るく見えたが、今宵はただもう真暗闇で何も分からないお気持ちでいらっしゃった。<BR>⏎ | 118-120 | そのまま,その当日に、あれこれしてご葬儀をお営み申し上げる。所定の作法があることなので、亡骸を見ながらお過しになるということもできないのが、情けない人の世なのであった。広々とした広い野原に、いっぱいに人が立ち込めて、この上もなく厳めしい葬儀であるが、まことにあっけない煙となって、はかなく上っていっておしまいになったのも、常のことであるが、あっけなく何とも悲しい。<BR>⏎ 地に足が付かない感じで、人に支えられてお出ましになったのを、拝し上げる人も、「あれほど威厳のあるお方が」と、わけも分からない下衆まで 泣かない者はいなかった。ご葬送の女房は、それ以上に夢路に迷ったような気がして、車から転び落ちてしまいそうになるのに、手を焼くのであった。<BR>⏎ 昔,大将の君の御母君がお亡くなりになった時の暁のことをお思い出しになっても、あの時は,やはりまだ物事の分別ができたのであろうか、月の顔が明るく見えたが、今宵はただもう真暗闇で何も分からないお気持ちでいらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 143 | <P>⏎ | ||
| version40 | 144 | <H4>第三章 光る源氏の物語 源氏の悲嘆と弔問客たち</H4> | 122 | |
| version40 | 145 | <A NAME="in31">[第一段 源氏の悲嘆と弔問客]</A><BR> | 123 | |
| c1 | 147 | 野分めいて吹く夕暮時に、昔のことをお思い出しになって、「かすかに拝見したことがあったことよ」と、恋しく思われなさると、また「最期の時が夢のような気がした」など、心の中で思い続けなさると、我慢できなく悲しいので、他人にはそのようには見られまいと隠して、<BR>⏎ | 125 | 野分めいて吹く夕暮時に、昔のことをお思い出しになって、「かすかに拝見したことがあったことよ」と、恋しく思われなさると、また「最期の時が夢のような気がした」など、心の中で思い続けなさると、我慢できなく悲しいので、他人にはそのようには見られまい と隠して、<BR>⏎ |
| cd5:4 | 150-154 | 「昔お姿を拝した秋の夕暮が恋しいのにつけても<BR>⏎ 御臨終の薄暗がりの中でお顔を見たのが夢のような気がする」<BR>⏎ のが、その名残までがつらいのであった。尊い僧たちを伺候させなさって、決められた念仏はいうまでもなく、法華経など読経させなさる。あれこれとまた実に悲しい。<BR>⏎ 寝ても起きても、涙の乾く時もなく、涙に塞がって毎日をお送りになる。昔からご自身の様子をお思い続けると、<BR>⏎ 「鏡に映る姿をはじめとして、普通の人とは異なったわが身ながら、幼い時から、悲しく無常なわが人生を悟るべく、仏などがお勧めになったわが身なのに、強情に過ごしてきて、とうとう過去にも未来にも類があるまいと思われる悲しみに遭ったことだ。今はもう、この世に気がかりなこともなくなった。ひたすら仏道に赴くに支障もないのだが、まことにこのように静めようもない惑乱状態では、願っている仏の道に入れないないのでは」<BR>⏎ | 128-131 | 「昔お姿を拝した秋の夕暮が恋しいのにつけても<BR> 御臨終の薄暗がりの中でお顔を見たのが夢のような気がする」<BR>⏎ のが,その名残までがつらいのであった。尊い僧たちを伺候させなさって、決められた念仏はいうまでもなく、法華経など読経させなさる。あれこれとまた実に悲しい。<BR>⏎ 寝ても起きても,涙の乾く時もなく、涙に塞がって毎日をお送りになる。昔からご自身の様子をお思い続けると、<BR>⏎ 「鏡に映る姿をはじめとして、普通の人とは異なったわが身ながら、幼い時から、悲しく無常なわが人生を悟るべく、仏などがお勧めになったわが身なのに、強情に過ごしてきて、とうとう過去にも未来にも類があるまいと思われる悲しみに遭ったことだ。今はもう、この世に気がかりなこともなくなった。ひたすら仏道に赴くに 支障もないのだが、まことにこのように静めようもない惑乱状態では、願っている仏の道に入れないないのでは」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 157-160 | と、阿彌陀仏をお念じ申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ <A NAME="in32">[第二段 帝、致仕大臣の弔問]</A><BR>⏎ あちらこちらからのご弔問は、朝廷をはじめ奉り、型通りの作法だけでなく、たいそう数多く申し上げなさる。ご決意なさっているお気持ちとしては、まったく何事も目にも耳にも止まらず、心に掛りなさること、ないはずであるが、「人から惚けた様子に見られまい。今さらわが晩年に、愚かしく心弱い惑乱から出家をした」と、後世まで語り伝えられる名をお考えになるので、思うに任せない嘆きまでがお加わりなっていらっしゃるのであった。<BR>⏎ | 134-136 | と,阿彌陀仏をお念じ申し上げなさる。<BR>⏎ <A NAME="in32">[第二段 帝,致仕大臣の弔問]</A><BR>⏎ あちらこちらからのご弔問は、朝廷をはじめ奉り、型通りの作法だけでなく、たいそう数多く申し上げなさる。ご決意なさっているお気持ちとしては、まったく何事も目にも耳にも止まらず、心に掛りなさること、ないはずであるが、「人から惚けた様子に見られまい。今さらわが晩年に、愚かしく心弱い惑乱から 出家をした」と、後世まで語り伝えられる名をお考えになるので、思うに任せない嘆きまでがお加わりなっていらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 162 | 「昔、大将の御母堂がお亡くなりになったのも、ちょうどこの頃のことであった」とお思い出しになると、とても何となく悲しくて、<BR>⏎ | 138 | 「昔,大将の御母堂がお亡くなりになったのも、ちょうどこの頃のことであった」とお思い出しになると、とても何となく悲しくて、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 164-166 | などと、ひっそりとした夕暮に物思いに耽っていらっしゃる。空の様子も哀れを催し顔なので、ご子息の蔵人少将を使いとして差し上げなさる。しみじみとした思いを心をこめてお書き申されて、その端に、<BR>⏎ 「昔の秋までが今のような気がして<BR>⏎ 涙に濡れた袖の上にまた涙を落としています」<BR>⏎ | 140-141 | などと,ひっそりとした夕暮に物思いに耽っていらっしゃる。空の様子も哀れを催し顔なので、ご子息の蔵人少将を使いとして差し上げなさる。しみじみとした思いを 心をこめてお書き申されて、その端に、<BR>⏎ 「昔の秋までが今のような気がして<BR> 涙に濡れた袖の上にまた涙を落としています」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 168-169 | 「涙に濡れていますことは昔も今もどちらも同じです<BR>⏎ だいたい秋の夜というのが堪らない思いがするのです」<BR>⏎ | 143 | 「涙に濡れていますことは昔も今もどちらも同じです<BR> だいたい秋の夜というのが堪らない思いがするのです」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 173-175 | 「薄墨衣」とお詠みになった時よりも、もう少し濃い喪服をお召しになっていらっしゃった。世の中に幸い人で結構な方も、困ったことに一般の世間の人から妬まれ、身分が高いにつけ、この上なくおごり高ぶって、他人を困らせる人もあるのだが、不思議なまで、無縁な人々からも人望があり、ちょっとなさることにも、どのようなことでも、世間から誉められ、奥ゆかしく、その折々につけて行き届いており、めったにいらっしゃらないご性格の方であった。<BR>⏎ さほど縁のなさそうな世間一般の人でさえ、その当時は、風の音、虫の声につけて、涙を落とさない人はいない。まして、ちょっとでも拝した人では、悲しみの晴れる時がない。長年親しくお仕え馴れてきた人々、寿命が少しでも生き残っている命が、恨めしいことを嘆き嘆き、尼になり、この世を離れた山寺に入ることなどを思い立つ者もいるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 147-148 | 「薄墨衣」とお詠みになった時よりも、もう少し濃い喪服をお召しになっていらっしゃった。世の中に幸い人で結構な方も、困ったことに一般の世間の人から妬まれ、身分が高いにつけ、この上なくおごり高ぶって、他人を困らせる人もあるのだが、不思議なまで、無縁な人々からも人望があり、ちょっとなさることにも、どのようなことでも、世間から誉められ、奥ゆかしく、その折々につけて 行き届いており、めったにいらっしゃらないご性格の方であった。<BR>⏎ さほど縁のなさそうな世間一般の人でさえ、その当時は、風の音,虫の声につけて、涙を落とさない人はいない。まして,ちょっとでも拝した人では、悲しみの晴れる時がない。長年親しくお仕え馴れてきた人々、寿命が少しでも生き残っている命が、恨めしいことを嘆き嘆き、尼になり、この世を離れた山寺に入ることなどを思い立つ者もいるのであった。<BR>⏎ |
| version40 | 176 | <A NAME="in33">[第三段 秋好中宮の弔問]</A><BR> | 149 | |
| cd2:1 | 178-179 | 「枯れ果てた野辺を嫌ってか、亡くなられたお方は<BR>⏎ 秋をお好きにならなかったのでしょうか<BR>⏎ | 151 | 「枯れ果てた野辺を嫌ってか、亡くなられたお方は<BR> 秋をお好きにならなかったのでしょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 182-183 | 「煙となって昇っていった雲居からも振り返って欲しい<BR>⏎ わたしはこの無常の世にすっかり飽きてしまいました」<BR>⏎ | 154 | 「煙となって昇っていった雲居からも振り返って欲しい<BR> わたしはこの無常の世にすっかり飽きてしまいました」<BR>⏎ |
| c1 | 186 | 仏の御前に女房をあまり多くなくお召しになって、心静かにお勤めになる。千年も一緒にとお思いになったが、限りのある別れが実に残念なことであった。今は、極楽往生の願いが他のことに紛れないように、来世をと、一途にお思い立ちになられる気持ち、揺ぎもない。けれども、外聞を憚っていらっしゃるのは、つまらないことであった。<BR>⏎ | 157 | 仏の御前に女房をあまり多くなくお召しになって、心静かにお勤めになる。千年も一緒にとお思いになったが、限りのある別れが実に残念なことであった。今は、極楽往生の願いが他のことに紛れないように、来世をと、一途にお思い立ちになられる気持ち、揺ぎもない。けれども,外聞を憚っていらっしゃるのは、つまらないことであった。<BR>⏎ |
| d2 | 188-189 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 196 | ⏎ | ||
| i0 | 169 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version41 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 41 | <P>⏎ | ||
| version41 | 42 | <H4>第一章 光る源氏の物語 紫の上追悼の春の物語</H4> | 38 | |
| version41 | 43 | <A NAME="in11">[第一段 紫の上のいない春を迎える]</A><BR> | 39 | |
| cd2:1 | 45-46 | 「わたしの家には花を喜ぶ人もいませんのに<BR>⏎ どうして春が訪ねて来たのでしょう」<BR>⏎ | 41 | 「わたしの家には花を喜ぶ人もいませんのに<BR> どうして春が訪ねて来たのでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 48-49 | 「梅の香を求めて来たかいもなく<BR>⏎ ありきたりの花見とおっしゃるのですか」<BR>⏎ | 43 | 「梅の香を求めて来たかいもなく<BR> ありきたりの花見とおっしゃるのですか」<BR>⏎ |
| d1 | 52 | <P>⏎ | ||
| version41 | 53 | <A NAME="in12">[第二段 雪の朝帰りの思い出]</A><BR> | 46 | |
| c1 | 55 | 「どうして、一時の戯れであるにせよ、また真実おいたわしかったことにつけても、あのような心をお見せ申したのだろう。どのようなことにもよく練られたお方であったので、自分の心底もとてもよくご存知でありながら、心底お恨みになることはなかったが、それぞれ一通りは、どのようになるのだろう」<BR>⏎ | 48 | 「どうして,一時の戯れであるにせよ、また真実おいたわしかったことにつけても、あのような心をお見せ申したのだろう。どのようなことにもよく練られたお方であったので、自分の心底もとてもよくご存知でありながら、心底お恨みになることはなかったが、それぞれ一通りは、どのようになるのだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 58 | 夜明けに、折も折、曹司に下りる女房であろう、<BR>⏎ | 51 | 夜明けに,折も折、曹司に下りる女房であろう、<BR>⏎ |
| cd3:1 | 61-63 | 「つらいこの世からは姿を消してしまいたいと思いながらも<BR>⏎ 心外にもまだ月日を送っていることだ」<BR>⏎ <P>⏎ | 54 | 「つらいこの世からは姿を消してしまいたいと思いながらも<BR> 心外にもまだ月日を送っていることだ」<BR>⏎ |
| version41 | 64 | <A NAME="in13">[第三段 中納言の君らを相手に述懐]</A><BR> | 55 | |
| c3 | 67-69 | と、物思いに沈みこみなさる。「自分までが出家したら、この女房たちが、ますます嘆き悲しむだろうことが、いじらしくかわいそうだろう」などと思って、見渡しなさる。ひっそりと勤行をしながら、経などを読んでいらっしゃるお声を、並一通り聞く時でさえ涙がとまらないのに、まして今は、袖のしがらみも止めかねるほど悲しくて、朝晩拝し上げる女房たちの気持ちは、限りなく悲しくお思い申し上げる。<BR>⏎ 「現世の果報という点では、物足りなく思うことは、全然なく、高い身分には生まれたが、また誰よりも格別に、残念な運命であったなあ、と思うことがしょっちゅうだ。世の中のはかなくつらさを悟らせるべく、仏などがそういう運命をお授けになった身の上なのだろう。それを無理して知らない顔をして生き永らえて来たので、このように人生の終焉近くに、大変な悲しみの極みにあったのだから、宿世のつたなさも、自分の限界もすっかり残らず見届けてしまった、その安心感から、今は全然心残りもなくなったが、あの人この人、こうして、以前から親しくなった女房たちが、今を限りに別れ別れになってしまうことが、もう一段と心が乱れるに違いないだろう。まことにはかないことだ。諦めの悪い心だな」<BR>⏎ と言って、お涙を拭い隠しなさるが、ごまかしきれず、そのままこぼれるお涙を、拝する女房たちは、それ以上に止めようもない。そうして、お見捨てられ申すだろうことのつらさを、それぞれ口に出したく思うが、そのように申すことはできず、涙に咽んでしまった。<BR>⏎ | 58-60 | と,物思いに沈みこみなさる。「自分までが出家したら、この女房たちが、ますます嘆き悲しむだろうことが、いじらしくかわいそうだろう」などと思って、見渡しなさる。ひっそりと勤行をしながら、経などを読んでいらっしゃるお声を、並一通り聞く時でさえ涙がとまらないのに、まして今は,袖のしがらみも止めかねるほど悲しくて、朝晩拝し上げる女房たちの気持ちは、限りなく悲しくお思い申し上げる。<BR>⏎ 「現世の果報という点では、物足りなく思うことは、全然なく、高い身分には生まれたが、また誰よりも格別に、残念な運命であったなあ、と思うことがしょっちゅうだ。世の中のはかなくつらさを悟らせるべく、仏などがそういう運命をお授けになった身の上なのだろう。それを無理して知らない顔をして生き永らえて来たので、このように人生の終焉近くに、大変な悲しみの極みにあったのだから、宿世のつたなさも、自分の限界も すっかり残らず見届けてしまった、その安心感から、今は全然心残りもなくなったが、あの人この人、こうして,以前から親しくなった女房たちが、今を限りに別れ別れになってしまうことが、もう一段と心が乱れるに違いないだろう。まことにはかないことだ。諦めの悪い心だな」<BR>⏎ と言って,お涙を拭い隠しなさるが、ごまかしきれず、そのままこぼれるお涙を、拝する女房たちは、それ以上に止めようもない。そうして,お見捨てられ申すだろうことのつらさを、それぞれ口に出したく思うが、そのように申すことはできず、涙に咽んでしまった。<BR>⏎ |
| d1 | 72 | <P>⏎ | ||
| version41 | 73 | <A NAME="in14">[第四段 源氏、面会謝絶して独居]</A><BR> | 63 | |
| c3 | 75-77 | 「人に会う時だけは、しっかりと落ち着いて冷静にいようと思っても、幾月も茫然としている身の有様、愚かな間違い事があったりして、晩年が他人から迷惑がられるのでは、死後の評判までが嫌なことであろう。惚けて人前に出ないらしい、と言われるようなことも、同じことだが、やはり噂を聞いて想像することの不十分さよりも、見苦しいことが目に入るのは、この上なく格段にばからしいことだ」<BR>⏎ とお思いになると、大将の君などに対してでさえ、御簾を隔ててお会いになるのであった。このように、人柄が変わりなさったようだと、人が噂するにちがいない時期だけでもじっと心を静めていなければと、我慢して過ごしていらっしゃる一方で、憂き世をお捨てになりきれない。ご夫人方にまれにちょっとお顔出しなさるにつけても、まっさきに止めどなく涙ばかりが一層こぼれるので、まことに具合が悪くて、どの方にも御無沙汰がちにお過ごしになる。<BR>⏎ 后の宮は、内裏にお帰りあそばして、三の宮を、寂しさのお慰めとしてお置きあそばしていらっしゃるのであった。<BR>⏎ | 65-67 | 「人に会う時だけは、しっかりと落ち着いて 冷静にいようと思っても、幾月も茫然としている身の有様、愚かな間違い事があったりして、晩年が他人から迷惑がられるのでは、死後の評判までが嫌なことであろう。惚けて人前に出ないらしい、と言われるようなことも、同じことだが、やはり噂を聞いて想像することの不十分さよりも、見苦しいことが目に入るのは、この上なく格段にばからしいことだ」<BR>⏎ とお思いになると、大将の君などに対してでさえ、御簾を隔ててお会いになるのであった。このように,人柄が変わりなさったようだと、人が噂するにちがいない時期だけでもじっと心を静めていなければと、我慢して過ごしていらっしゃる一方で、憂き世をお捨てになりきれない。ご夫人方にまれにちょっとお顔出しなさるにつけても、まっさきに止めどなく涙ばかりが一層こぼれるので、まことに具合が悪くて、どの方にも御無沙汰がちにお過ごしになる。<BR>⏎ 后の宮は、内裏にお帰りあそばして、三の宮を、寂しさのお慰めとして お置きあそばしていらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 79 | と言って、対の前の紅梅は、特別大事にお世話なさっているのも、とてもしみじみと拝見なさる。<BR>⏎ | 69 | と言って,対の前の紅梅は、特別大事にお世話なさっているのも、とてもしみじみと拝見なさる。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 81-84 | 「植えて眺めた花の主人もいない宿に<BR>⏎ 知らない顔をして来て鳴いている鴬よ」<BR>⏎ と、口ずさみながらお歩きなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 71-72 | 「植えて眺めた花の主人もいない宿に<BR> 知らない顔をして来て鳴いている鴬よ」<BR>⏎ と,口ずさみながらお歩きなさる。<BR>⏎ |
| version41 | 85 | <A NAME="in15">[第五段 春深まりゆく寂しさ]</A><BR> | 73 | |
| c1 | 89 | と、よいことを考えた、と思っておっしゃる顔がとてもかわいらしいので、ふとほほ笑まれなさった。<BR>⏎ | 77 | と,よいことを考えた、と思っておっしゃる顔がとてもかわいらしいので、ふとほほ笑まれなさった。<BR>⏎ |
| c1 | 92 | とおっしゃって、いつものように、涙ぐみなさると、とても嫌だとお思いになって、<BR>⏎ | 80 | とおっしゃって,いつものように、涙ぐみなさると、とても嫌だとお思いになって、<BR>⏎ |
| c2 | 94-95 | と言って、伏目になって、お召し物の袖をもてあそびなどしながら、紛らしていらっしゃる。<BR>⏎ 隅の間の高欄に寄りかかって、御前の庭を、また御簾の中をも、見渡して物思いに沈んでいらっしゃる。女房なども、あの御形見の喪服の色を変えない者もおり、通常の色合いの者も、綾などは派手なのではない。ご自身のお直衣も、色は普通の物であるが、特別に質素にして、無紋をお召しになっていた。お部屋飾りなどもたいそう簡略に省いて、寂しく何となく頼りなさそうにひっそりとしているので、<BR>⏎ | 82-83 | と言って,伏目になって、お召し物の袖をもてあそびなどしながら、紛らしていらっしゃる。<BR>⏎ 隅の間の高欄に寄りかかって、御前の庭を、また御簾の中をも、見渡して物思いに沈んでいらっしゃる。女房なども、あの御形見の喪服の色を変えない者もおり、通常の色合いの者も、綾などは派手なのではない。ご自身のお直衣も、色は普通の物であるが、特別に質素にして、無紋をお召しになっていた。お部屋飾りなども たいそう簡略に省いて、寂しく何となく頼りなさそうにひっそりとしているので、<BR>⏎ |
| d1 | 99 | <P>⏎ | ||
| version41 | 100 | <A NAME="in16">[第六段 女三の宮の方に出かける]</A><BR> | 87 | |
| cd2:1 | 107-108 | と、何気なく申し上げなさるのを、「他に言いようもあろうに、不愉快な」とお思いなさるにつけても、「まずは、このようなちょっとしたことにおいては、これこれのことではそうではなくあってほしい、と思うことに、反したことはついぞなかったな」と、幼かった時からのご様子を、「いったい、何の不足があったろうか」とお思い出しになると、まず、あの時この時の、才気があり行き届いていて、奥ゆかしく情味豊かな人柄、態度、言葉づかいばかりが自然と思い出されなさると、いつもの涙もろさのこととて、ついこぼれ出すのもとてもつらい。<BR>⏎ <P>⏎ | 94 | と,何気なく申し上げなさるのを、「他に言いようもあろうに、不愉快な」とお思いなさるにつけても、「まずは,このようなちょっとしたことにおいては、これこれのことではそうではなくあってほしい、と思うことに、反したことはついぞなかったな」と、幼かった時からのご様子を、「いったい,何の不足があったろうか」とお思い出しになると、まず,あの時この時の、才気があり行き届いていて、奥ゆかしく情味豊かな人柄、態度、言葉づかいばかりが自然と思い出されなさると、いつもの涙もろさのこととて、ついこぼれ出すのもとてもつらい。<BR>⏎ |
| version41 | 109 | <A NAME="in17">[第七段 明石の御方に立ち寄る]</A><BR> | 95 | |
| c1 | 112 | などと、それと名指して一人の悲しみばかりにはおっしゃらないが、お胸の内はさぞかしとお気の毒なので、おいたわしく拝して、<BR>⏎ | 98 | などと,それと名指して一人の悲しみばかりにはおっしゃらないが、お胸の内はさぞかしとお気の毒なので、おいたわしく拝して、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 114-116 | 昔の例などをお聞きいたしますにつけても、心が動揺したり、思いのままにならないことがあって、世を厭うきっかけになったとか。それはやはりよくないことと申します。やはり、もう暫くごゆっくりあそばして、宮たちなどがご成人あそばして、ほんとうにゆるぎない地位を拝見あそばされるまでは、変わったことがございませんのが、安心で嬉しうもございましょう」<BR>⏎ などと、とても思慮深く申し上げた様子、本当に申し分がない。<BR>⏎ <P>⏎ | 100-101 | 昔の例などをお聞きいたしますにつけても、心が動揺したり、思いのままにならないことがあって、世を厭うきっかけになったとか。それはやはりよくないことと申します。やはり,もう暫くごゆっくりあそばして、宮たちなどがご成人あそばして、ほんとうにゆるぎない地位を 拝見あそばされるまでは、変わったことがございませんのが、安心で 嬉しうもございましょう」<BR>⏎ などと,とても思慮深く申し上げた様子、本当に申し分がない。<BR>⏎ |
| version41 | 117 | <A NAME="in18">[第八段 明石の御方に悲しみを語る]</A><BR> | 102 | |
| c3 | 120-122 | 「故后の宮が御崩御なさった春が、花の美しさを見ても、本当に、花に心があったならばと思われました。そのわけは、世間一般につけて、誰が見ても素晴らしかったご様子を、幼い時から拝見し続けてきたので、そういうご臨終の悲しさも、誰より格別に思われたのです。<BR>⏎ 自分が特別に愛情をもったための、悲しみとは限らないものです。長年連れ添った人に先立たれて、諦めようもなく忘れられないのも、ただこのような夫婦仲の悲しさだけではありません。幼い時から育て上げた様子や、一緒に年老いた晩年に先立たれて、自分の身の上も相手の身の上も、次々と思い出が浮かんでくる悲しさが、堪えられないのです。すべて、心を打つ感動も、意味あることも、風流な面も、広く思い出すところの、あれこれが多く加わっていくのが、悲しみを深めるものなのでした」<BR>⏎ などと、夜が更けるまで、昔や今のお話で、こ「うして明かしてもよい夜だ」とお思いになりながらも、お帰りになるのを、女も物悲しく思うことであろう。ご自身でも、「不思議なふうになってしまった心だな」と、思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 105-107 | 「故后の宮が御崩御なさった春が、花の美しさを見ても、本当に,花に心があったならばと思われました。そのわけは,世間一般につけて、誰が見ても素晴らしかったご様子を、幼い時から拝見し続けてきたので、そういうご臨終の悲しさも、誰より格別に思われたのです。<BR>⏎ 自分が特別に愛情をもったための、悲しみとは限らないものです。長年連れ添った人に先立たれて、諦めようもなく忘れられないのも、ただこのような夫婦仲の悲しさだけではありません。幼い時から育て上げた様子や、一緒に年老いた晩年に先立たれて、自分の身の上も相手の身の上も、次々と思い出が浮かんでくる悲しさが、堪えられないのです。すべて,心を打つ感動も、意味あることも、風流な面も、広く思い出すところの、あれこれが多く加わっていくのが、悲しみを深めるものなのでした」<BR>⏎ などと,夜が更けるまで、昔や今のお話で、こ「うして明かしてもよい夜だ」とお思いになりながらも、お帰りになるのを、女も物悲しく思うことであろう。ご自身でも、「不思議なふうになってしまった心だな」と、思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 124-125 | 「泣きながら帰ってきたことです、この仮の世は<BR>⏎ どこもかしこも永遠の住まいではないので」<BR>⏎ | 109 | 「泣きながら帰ってきたことです、この仮の世は<BR> どこもかしこも永遠の住まいではないので」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 127-128 | 「雁がいた苗代水がなくなってからは<BR>⏎ そこに映っていた花の影さえ見ることができません」<BR>⏎ | 111 | 「雁がいた苗代水がなくなってからは<BR> そこに映っていた花の影さえ見ることができません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 130-131 | たまらなく寂しい時には、このようにただ一通りに、お顔をお見せになることもある。昔のご様子とはすっかり変わってしまったのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 113 | たまらなく寂しい時には、このようにただ一通りに、お顔をお見せになることもある。昔のご様子とは すっかり変わってしまったのであろう。<BR>⏎ |
| version41 | 132 | <H4>第二章 光る源氏の物語 紫の上追悼の夏の物語</H4> | 114 | |
| version41 | 133 | <A NAME="in21">[第一段 花散里や中将の君らと和歌を詠み交わす]</A><BR> | 115 | |
| cd2:1 | 135-136 | 「夏の衣に着替えた今日だけは<BR>⏎ 昔の思いも思い出しませんでしょうか」<BR>⏎ | 117 | 「夏の衣に着替えた今日だけは<BR> 昔の思いも思い出しませんでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 138-139 | 「羽衣のように薄い着物に変わる今日からは<BR>⏎ はかない世の中がますます悲しく思われます」<BR>⏎ | 119 | 「羽衣のように薄い着物に変わる今日からは<BR> はかない世の中がますます悲しく思われます」<BR>⏎ |
| c1 | 142 | 中将の君が、東表の間でうたた寝しているのを、歩いていらっしゃって御覧になると、とても小柄で美しい様子で起き上がった。顔の表情は明るくて、美しい顔をちょっと隠して、少しほつれた髪のかかっている具合など、見事である。紅の黄色味を帯びた袴に、萱草色の単衣、たいそう濃い鈍色の袿に黒い表着など、きちんとではなく重着して、裳や、唐衣も脱いでいたが、あれこれ着掛けなどするが、葵を側に置いてあったのを側によってお取りになって、<BR>⏎ | 122 | 中将の君が、東表の間でうたた寝しているのを、歩いていらっしゃって御覧になると、とても小柄で美しい様子で 起き上がった。顔の表情は明るくて、美しい顔をちょっと隠して、少しほつれた髪のかかっている具合など、見事である。紅の黄色味を帯びた袴に、萱草色の単衣、たいそう濃い鈍色の袿に黒い表着など、きちんとではなく重着して、裳や、唐衣も脱いでいたが、あれこれ着掛けなどするが、葵を側に置いてあったのを側によってお取りになって、<BR>⏎ |
| cd7:4 | 144-150 | 「いかにもよるべの水も古くなって水草が生えていましょう<BR>⏎ 今日の插頭の名前さえ忘れておしまいになるとは」<BR>⏎ と、恥じらいながら申し上げる。なるほどと、お気の毒なので、<BR>⏎ 「だいたいは執着を捨ててしまったこの世ではあるが<BR>⏎ この葵はやはり摘んでしまいそうだ」<BR>⏎ などと、一人だけはお思い捨てにならない様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 124-127 | 「いかにもよるべの水も古くなって水草が生えていましょう<BR> 今日の插頭の名前さえ忘れておしまいになるとは」<BR>⏎ と,恥じらいながら申し上げる。なるほどと、お気の毒なので、<BR>⏎ 「だいたいは執着を捨ててしまったこの世ではあるが<BR> この葵はやはり摘んでしまいそうだ」<BR>⏎ などと,一人だけはお思い捨てにならない様子である。<BR>⏎ |
| version41 | 151 | <A NAME="in22">[第二段 五月雨の夜、夕霧来訪]</A><BR> | 128 | |
| c2 | 153-154 | 花橘が、月光にたいそうくっきりと見える薫りも、その追い風がやさしい感じなので、花橘にほととぎすの千年も馴れ親しんでいる声を聞かせて欲しい、と待っているうちに、急にたち出た村雲の様子が、まったくあいにくなことで、とてもざあざあ降ってくる雨に加わって、さっと吹く風に燈籠も吹き消して、空も暗い感じがするので、「窓を打つ声」などと、珍しくもない古詩を口ずさみなさるのも、折からか、妻の家に聞かせてやりたいようなお声である。<BR>⏎ 「独り住みは、格別に変わったことはないが、妙に物寂しい感じがする。深い山住みをするにも、こうして身を馴らすのは、この上なく心が澄みきることであった」などとおっしゃって、「女房よ、こちらに、お菓子などを差し上げよ。男たちを召し寄せるのも大げさな感じである」などとおっしゃる。<BR>⏎ | 130-131 | 花橘が、月光にたいそうくっきりと見える薫りも、その追い風がやさしい感じなので、花橘にほととぎすの千年も馴れ親しんでいる声を聞かせて欲しい、と待っているうちに、急にたち出た村雲の様子が、まったくあいにくなことで、とてもざあざあ降ってくる雨に加わって、さっと吹く風に燈籠も吹き消して、空も暗い感じがするので、「窓を打つ声」などと、珍しくもない古詩を 口ずさみなさるのも、折からか、妻の家に聞かせてやりたいようなお声である。<BR>⏎ 「独り住みは、格別に変わったことはないが、妙に物寂しい感じがする。深い山住みをするにも、こうして身を馴らすのは、この上なく心が澄みきることであった」などとおっしゃって、「女房よ、こちらに,お菓子などを差し上げよ。男たちを召し寄せるのも大げさな感じである」などとおっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 156 | <P>⏎ | ||
| version41 | 157 | <A NAME="in23">[第三段 ほととぎすの鳴き声に故人を偲ぶ]</A><BR> | 133 | |
| c1 | 163 | 「それは、縁浅からず、寿命の長い人びとでも、そのようなことはだいたいが少なかった。自分自身の拙さなのだ。そなたこそ、家門を広げなさい」などとおっしゃる。<BR>⏎ | 139 | 「それは,縁浅からず、寿命の長い人びとでも、そのようなことはだいたいが少なかった。自分自身の拙さなのだ。そなたこそ、家門を広げなさい」などとおっしゃる。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 165-169 | 「亡き人を偲ぶ今宵の村雨に<BR>⏎ 濡れて来たのか、山時鳥よ」<BR>⏎ と言って、ますます空を眺めなさる。大将、<BR>⏎ 「時鳥よ、あなたに言伝てしたい<BR>⏎ 古里の橘の花は今が盛りですよと」<BR>⏎ | 141-143 | 「亡き人を偲ぶ今宵の村雨に<BR> 濡れて来たのか、山時鳥よ」<BR>⏎ と言って,ますます空を眺めなさる。大将、<BR>⏎ 「時鳥よ、あなたに言伝てしたい<BR> 古里の橘の花は今が盛りですよと」<BR>⏎ |
| d1 | 171 | <P>⏎ | ||
| version41 | 172 | <A NAME="in24">[第四段 蛍の飛ぶ姿に故人を偲ぶ]</A><BR> | 145 | |
| cd2:1 | 174-175 | 「することもなく涙とともに日を送っている夏の日を<BR>⏎ わたしのせいみたいに鳴いている蜩の声だ」<BR>⏎ | 147 | 「することもなく涙とともに日を送っている夏の日を<BR> わたしのせいみたいに鳴いている蜩の声だ」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 177-179 | 「夜になったことを知って光る螢を見ても悲しいのは<BR>⏎ 昼夜となく燃える亡き人を恋うる思いであった」<BR>⏎ <P>⏎ | 149 | 「夜になったことを知って光る螢を見ても悲しいのは<BR> 昼夜となく燃える亡き人を恋うる思いであった」<BR>⏎ |
| version41 | 180 | <H4>第三章 光る源氏の物語 紫の上追悼の秋冬の物語</H4> | 150 | |
| version41 | 181 | <A NAME="in31">[第一段 紫の上の一周忌法要]</A><BR> | 151 | |
| cd2:1 | 183-184 | 「七夕の逢瀬は雲の上の別世界のことと見て<BR>⏎ その後朝の別れの庭の露に悲しみの涙を添えることよ」<BR>⏎ | 153 | 「七夕の逢瀬は雲の上の別世界のことと見て<BR> その後朝の別れの庭の露に悲しみの涙を添えることよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 187-188 | 「ご主人様を慕う涙は際限もないものですが<BR>⏎ 今日は何の果ての日と言うのでしょう」<BR>⏎ | 156 | 「ご主人様を慕う涙は際限もないものですが<BR> 今日は何の果ての日と言うのでしょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 190-192 | 「人を恋い慕うわが余命も少なくなったが<BR>⏎ 残り多い涙であることよ」<BR>⏎ と、書き加えなさる。<BR>⏎ | 158-159 | 「人を恋い慕うわが余命も少なくなったが<BR> 残り多い涙であることよ」<BR>⏎ と,書き加えなさる。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 194-196 | 「一緒に起きて置いた菊のきせ綿の朝露も<BR>⏎ 今年の秋はわたし独りの袂にかかることだ」<BR>⏎ <P>⏎ | 161 | 「一緒に起きて置いた菊のきせ綿の朝露も<BR> 今年の秋はわたし独りの袂にかかることだ」<BR>⏎ |
| version41 | 197 | <A NAME="in32">[第二段 源氏、出家を決意]</A><BR> | 162 | |
| cd2:1 | 199-200 | 「大空を飛びゆく幻術士よ、夢の中にさえ<BR>⏎ 現れない亡き人の魂の行く方を探してくれ」<BR>⏎ | 164 | 「大空を飛びゆく幻術士よ、夢の中にさえ<BR> 現れない亡き人の魂の行く方を探してくれ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 202-204 | 五節などといって、世の中がどことなくはなやかに浮き立っているころ、大将殿のご子息たち、童殿上なさって参上なさった。同じくらいの年齢で、二人とてもかわいらしい姿である。御叔父の頭中将や、蔵人少将などは、小忌衣で、青摺の姿がさっぱりして感じよくて、みな引き続いて、お世話しながら一緒に参上なさる。何の物思いもなさそうな様子を御覧になると、昔、心ときめくことのあった五節の折、何といってもお思い出されるであろう。<BR>⏎ 「宮人が豊明の節会に夢中になっている今日<BR>⏎ わたしは日の光も知らないで暮らしてしまったな」<BR>⏎ | 166-167 | 五節などといって、世の中がどことなくはなやかに浮き立っているころ、大将殿のご子息たち、童殿上なさって参上なさった。同じくらいの年齢で、二人とてもかわいらしい姿である。御叔父の頭中将や、蔵人少将などは、小忌衣で、青摺の姿が さっぱりして感じよくて、みな引き続いて、お世話しながら 一緒に参上なさる。何の物思いもなさそうな様子を御覧になると、昔,心ときめくことのあった五節の折、何といってもお思い出されるであろう。<BR>⏎ 「宮人が豊明の節会に夢中になっている今日<BR> わたしは日の光も知らないで暮らしてしまったな」<BR>⏎ |
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| version41 | 207 | <A NAME="in33">[第三段 源氏、手紙を焼く]</A><BR> | 169 | |
| cd4:3 | 209-212 | ご自身でなさっておいたことだが、「遠い昔のことになった」とお思いになるが、たった今書いたような墨跡などが、「なるほど千年の形見にできそうだが、見ることもなくなってしまうものよ」とお思いになると、何にもならないので、気心の知れた女房、二、三人ほどに、御前で破らせなさる。<BR>⏎ ほんとうに、このようなことでなくさえ、亡くなった人の筆跡と思うと胸が痛くなるのに、ましてますます涙にくれて、どれがどれとも見分けられないほど、流れ出るお涙の跡が文字の上を流れるのを、女房もあまりに意気地がないと拝見するにちがいないのが、見ていられなく体裁悪いので、手紙を押しやりなさって、<BR>⏎ 「死出の山を越えてしまった人を恋い慕って行こうとして<BR>⏎ その跡を見ながらもやはり悲しみにくれまどうことだ」<BR>⏎ | 171-173 | ご自身でなさっておいたことだが、「遠い昔のことになった」とお思いになるが、たった今書いたような墨跡などが、「なるほど千年の形見にできそうだが、見ることもなくなってしまうものよ」とお思いになると、何にもならないので、気心の知れた女房、二,三人ほどに、御前で破らせなさる。<BR>⏎ ほんとうに,このようなことでなくさえ、亡くなった人の筆跡と思うと胸が痛くなるのに、ましてますます涙にくれて、どれがどれとも見分けられないほど、流れ出るお涙の跡が文字の上を流れるのを、女房もあまりに意気地がないと拝見するにちがいないのが、見ていられなく体裁悪いので、手紙を押しやりなさって、<BR>⏎ 「死出の山を越えてしまった人を恋い慕って行こうとして<BR> その跡を見ながらもやはり悲しみにくれまどうことだ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 214-215 | 「かき集めて見るのも甲斐がない、この手紙も<BR>⏎ 本人と同じく雲居の煙となりなさい」<BR>⏎ | 175 | 「かき集めて見るのも甲斐がない、この手紙も<BR> 本人と同じく雲居の煙となりなさい」<BR>⏎ |
| d1 | 217 | <P>⏎ | ||
| version41 | 218 | <A NAME="in34">[第四段 源氏、出家の準備]</A><BR> | 177 | |
| cd2:1 | 223-224 | 「春までの命もあるかどうか分からないから<BR>⏎ 雪の中に色づいた紅梅を今日は插頭にしよう」<BR>⏎ | 182 | 「春までの命もあるかどうか分からないから<BR> 雪の中に色づいた紅梅を今日は插頭にしよう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 226-227 | 「千代の春を見るべくあなたの長寿を祈りおきましたが<BR>⏎ わが身は降る雪とともに年ふりました」<BR>⏎ | 184 | 「千代の春を見るべくあなたの長寿を祈りおきましたが<BR> わが身は降る雪とともに年ふりました」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 232-234 | と言って、走り回っていらっしゃるのも、「かわいいご様子を見なくなることだ」と、何につけ堪えがたい。<BR>⏎ 「物思いしながら過ごし月日のたつのも知らない間に<BR>⏎ 今年も自分の寿命も今日が最後になったか」<BR>⏎ | 189-190 | と言って,走り回っていらっしゃるのも、「かわいいご様子を見なくなることだ」と、何につけ堪えがたい。<BR>⏎ 「物思いしながら過ごし月日のたつのも知らない間に<BR> 今年も自分の寿命も今日が最後になったか」<BR>⏎ |
| d2 | 236-237 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 244 | ⏎ | ||
| i0 | 202 | |||
| diff | src/original/version42.html | src/modified/version42.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version42 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 32 | <P>⏎ | ||
| version42 | 33 | <H4>第一章 光る源氏没後の物語 光る源氏の縁者たちのその後</H4> | 29 | |
| version42 | 34 | <A NAME="in11">[第一段 匂宮と薫の評判]</A><BR> | 30 | |
| c1 | 35 | 光源氏がお隠れになって後、あのお輝きをお継ぎになるような方、大勢のご子孫方の中にもいらっしゃらないのであった。御譲位された帝をどうこう申し上げるのは恐れ多いことである。今上帝の三の宮、その同じお邸でお生まれになった宮の若君と、このお二方がそれぞれに美しいとのご評判をお取りになって、なるほど、実に並大抵でないお二方のご器量であるが、ほんとうに輝くほどではいらっしゃらないであろう。<BR>⏎ | 31 | 光源氏がお隠れになって後、あのお輝きをお継ぎになるような方、大勢のご子孫方の中にもいらっしゃらないのであった。御譲位された帝をどうこう申し上げるのは恐れ多いことである。今上帝の三の宮、その同じお邸でお生まれになった宮の若君と、このお二方が それぞれに美しいとのご評判をお取りになって、なるほど,実に並大抵でないお二方のご器量であるが、ほんとうに輝くほどではいらっしゃらないであろう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 37-38 | 紫の上が、格別におかわいがりになってお育て申し上げたゆえに、三の宮は、二条院にいらっしゃる。春宮は、そのような重い方として特別扱い申し上げなさって、帝、后が、大変におかわいがり申し上げになり、大切にお世話申し上げになっている宮なので、宮中生活をおさせ申し上げなさるが、やはり気楽な里邸を、住みよくお思いでいらっしゃるのであった。ご元服なさってからは、兵部卿と申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 33 | 紫の上が、格別におかわいがりになってお育て申し上げたゆえに、三の宮は、二条院にいらっしゃる。春宮は、そのような重い方として特別扱い申し上げなさって、帝,后が、大変におかわいがり申し上げになり、大切にお世話申し上げになっている宮なので、宮中生活をおさせ申し上げなさるが、やはり気楽な里邸を、住みよくお思いでいらっしゃるのであった。ご元服なさってからは、兵部卿と申し上げる。<BR>⏎ |
| version42 | 39 | <A NAME="in12">[第二段 今上の女一宮と夕霧の姫君たち]</A><BR> | 34 | |
| cd2:1 | 42-43 | 大臣も、「何の、同じようにと、そのようにばかりきちんきちんとすることはない」と落ち着いていらっしゃるが、また一方で、そのようなご意向があるなら、お断りはしないという顔つきで、とても大切にお世話申し上げていらっしゃる。六の君は、その当時の、少し自分こそはと自尊心高くいらっしゃる親王方、上達部の、お心を夢中にさせる種でいらっしゃるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 37 | 大臣も、「何の、同じようにと、そのようにばかりきちんきちんとすることはない」と落ち着いていらっしゃるが、また一方で,そのようなご意向があるなら、お断りはしないという顔つきで、とても大切にお世話申し上げていらっしゃる。六の君は、その当時の、少し自分こそはと自尊心高くいらっしゃる親王方、上達部の、お心を夢中にさせる種でいらっしゃるのであった。<BR>⏎ |
| version42 | 44 | <A NAME="in13">[第三段 光る源氏の夫人たちのその後]</A><BR> | 38 | |
| cd4:3 | 48-51 | と、お思いになりおっしゃって、丑寅の町に、あの一条宮をお移し申し上げなさって、三条殿と、一晩置きに十五日ずつ、きちんとお通いになっていらっしゃるのであった。<BR>⏎ 二条院と言って、磨き造り上げ、六条院の春の御殿と言って、世間に評判であった玉の御殿も、ただお一方の将来のためであったと思えて、明石の御方は、大勢の宮たちのご後見をしながら、お世話申し上げていらっしゃった。大殿は、どの方の御事も、故人のおとりきめ通りに、改変することなく、別け隔てなく親切にお仕えなさっているにつけても、「対の上が、このように生きていらっしゃったならば、どんなに誠意を尽くしてお仕え申し御覧に入れたことであろうか。とうとう、多少なりとも特別に、自分が好意を寄せているとお分かりになっていただける機会もなくて、お亡くなりになってしまったこと」を、残念に物足りなく悲しく思い出し申し上げなさる。<BR>⏎ 天下の人は、院を恋い慕い申し上げない者はなく、あれこれにつけても、世はまるで火を消したように、何事につけてもはりあいのない嘆きを漏らさない折はなかった。まして、殿の内の女房たち、ご夫人方、宮様方などは、改めて申し上げるまでもなく、限りないお嘆きの事はもちろんのこととして、またあの紫の上のご様子を心に忘れず、いろいろのことにつけて、お思い出し申し上げなさらない時の間もない。春の花の盛りは、なるほど、長くないことによって、かえって大事にされるというものである。<BR>⏎ <P>⏎ | 42-44 | と,お思いになりおっしゃって、丑寅の町に、あの一条宮をお移し申し上げなさって、三条殿と、一晩置きに十五日ずつ、きちんとお通いになっていらっしゃるのであった。<BR>⏎ 二条院と言って、磨き造り上げ、六条院の春の御殿と言って、世間に評判であった玉の御殿も、ただお一方の将来のためであったと思えて、明石の御方は、大勢の宮たちのご後見をしながら、お世話申し上げていらっしゃった。大殿は、どの方の御事も、故人のおとりきめ通りに、改変することなく、別け隔てなく親切にお仕えなさっているにつけても、「対の上が、このように生きていらっしゃったならば、どんなに誠意を尽くしてお仕え申し御覧に入れたことであろうか。とうとう,多少なりとも特別に、自分が好意を寄せているとお分かりになっていただける機会もなくて、お亡くなりになってしまったこと」を、残念に物足りなく悲しく思い出し申し上げなさる。<BR>⏎ 天下の人は、院を恋い慕い申し上げない者はなく、あれこれにつけても、世はまるで火を消したように、何事につけてもはりあいのない嘆きを漏らさない折はなかった。まして,殿の内の女房たち、ご夫人方、宮様方などは、改めて申し上げるまでもなく、限りないお嘆きの事はもちろんのこととして、またあの紫の上のご様子を心に忘れず、いろいろのことにつけて、お思い出し申し上げなさらない時の間もない。春の花の盛りは、なるほど,長くないことによって、かえって大事にされるというものである。<BR>⏎ |
| version42 | 52 | <H4>第二章 薫中将の物語 薫の厭世観と恋愛に消極的な人生</H4> | 45 | |
| version42 | 53 | <A NAME="in21">[第一段 薫、冷泉院から寵遇される]</A><BR> | 46 | |
| c1 | 56 | 院の上におかれても中宮におかれても、伺候している女房の中でも、器量がよく、上品で難がない者は、みなお移しなさりなさりして、院の中を気に入って、住みよく生活しよく思うようにとばかり、特別にお世話しようとお思いなっていらっしゃった。故致仕の大殿の女御と申し上げたお方に、女宮がただお一方いらっしゃったのを、この上なく大切にお育てなさっているのに負けないほど、后の宮の御寵愛が、年月とともに厚くなってゆく感じなのであろうが、どうして、そんなにまですることがあろう、と思われるほどである。<BR>⏎ | 49 | 院の上におかれても中宮におかれても、伺候している女房の中でも、器量がよく、上品で難がない者は、みなお移しなさりなさりして、院の中を気に入って、住みよく生活しよく思うようにとばかり、特別にお世話しようとお思いなっていらっしゃった。故致仕の大殿の女御と申し上げたお方に、女宮がただお一方いらっしゃったのを、この上なく大切にお育てなさっているのに負けないほど、后の宮の御寵愛が、年月とともに厚くなってゆく感じなのであろうが、どうして,そんなにまですることがあろう、と思われるほどである。<BR>⏎ |
| d1 | 58 | <P>⏎ | ||
| version42 | 59 | <A NAME="in22">[第二段 薫、出生の秘密に悩む]</A><BR> | 51 | |
| c1 | 60 | 子供心にかすかにお聞きになったことが、時々気にかかり、どうしたことかとずっと思い続けていたが、尋ねるべき人もいない。宮には、事の一端なりとも知ってしまったと思われなさるのは、具合の悪い筋合なので、それ以来心から離れることなくて、<BR>⏎ | 52 | 子供心にかすかにお聞きになったことが、時々気にかかり、どうしたことかとずっと思い続けていたが、尋ねるべき人もいない。宮には、事の一端なりとも 知ってしまったと思われなさるのは、具合の悪い筋合なので、それ以来心から離れることなくて、<BR>⏎ |
| cd5:3 | 62-66 | 「はっきりしないことだ、誰に尋ねたらよいものか<BR>⏎ どうして初めも終わりも分からない身の上なのだろう」<BR>⏎ 答えることのできる人はいない。何かにつけて、自分自身に悪いところのある感じがするのも、気持ちが落ち着かず、何か物思いばかりがされ、あれこれ思案して、「母宮もこのような盛りのお姿を尼姿になさって、どのような御道心でからか、急に出家されたのだろう。このように、不本意な過ちがもとで、きっと世の中が嫌になることがあったのだろう。世間の人も漏れ聞いて、知らないはずがあろうか。やはり、隠しておかなければならないことのために、わたしには事情を知らせる人がいないようだ」と思う。<BR>⏎ 「朝晩、勤行なさっているようだが、とりとめもなくおっとりしていらっしゃる女のお悟りの状態では、蓮の露も明らかなように、玉と磨きなさることも難しい。五つの障害も、やはり不安だが、わたしが、このお志を、同じことならせめて来世を」と思う。「あの亡くなったという方も、辛い思いに迷いが解けないでいるのではないか」などと推量するが、生まれ変わってでもお会いしたい気がして、元服は気がお進みにならなかったが、辞退しきれず、自然と世間から大事にされて、眩しいほど華やかなご身辺も、一向に気に染まず、ひっこみ思案でいらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 54-56 | 「はっきりしないことだ、誰に尋ねたらよいものか<BR> どうして初めも終わりも分からない身の上なのだろう」<BR>⏎ 答えることのできる人はいない。何かにつけて、自分自身に悪いところのある感じがするのも、気持ちが落ち着かず、何か物思いばかりがされ、あれこれ思案して、「母宮もこのような盛りのお姿を尼姿になさって、どのような御道心でからか、急に出家されたのだろう。このように,不本意な過ちがもとで、きっと世の中が嫌になることがあったのだろう。世間の人も漏れ聞いて、知らないはずがあろうか。やはり,隠しておかなければならないことのために、わたしには事情を知らせる人がいないようだ」と思う。<BR>⏎ 「朝晩、勤行なさっているようだが、とりとめもなくおっとりしていらっしゃる女のお悟りの状態では、蓮の露も明らかなように、玉と磨きなさることも難しい。五つの障害も、やはり不安だが、わたしが,このお志を、同じことならせめて来世を」と思う。「あの亡くなったという方も、辛い思いに迷いが解けないでいるのではないか」などと推量するが、生まれ変わってでもお会いしたい気がして、元服は気がお進みにならなかったが、辞退しきれず、自然と世間から大事にされて、眩しいほど華やかなご身辺も、一向に気に染まず、ひっこみ思案でいらっしゃった。<BR>⏎ |
| version42 | 67 | <A NAME="in23">[第三段 薫、目覚ましい栄達]</A><BR> | 57 | |
| c1 | 68 | 帝におかせられましても、母宮の御縁続きの御好意が厚くて、大変にかわいい者としてお思いあさばされ、后の宮も、また、もともと同じ邸で、宮方と一緒にお育ちになり、お遊びなさったころの御待遇を、すこしもお改めにならず、「晩年にお生まれになって、気の毒で、大きくなるまで見届けることができないこと」と、院がおっしゃっていたのを、お思い出し申し上げなさっては、並々ならずお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ | 58 | 帝におかせられましても、母宮の御縁続きの御好意が厚くて、大変にかわいい者としてお思いあさばされ、后の宮も、また,もともと同じ邸で、宮方と一緒にお育ちになり、お遊びなさったころの御待遇を、すこしもお改めにならず、「晩年にお生まれになって、気の毒で、大きくなるまで見届けることができないこと」と、院がおっしゃっていたのを、お思い出し申し上げなさっては、並々ならずお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c2 | 70-71 | 昔、光君と申し上げた方は、あのような比類ない帝の御寵愛であったが、お憎みなさる方があって、母方のご後見がなかったりなどしたが、ご性質も思慮深く、世間の事を穏やかにお考えになったので、比類ないご威光を、目立たないように抑えなさり、ついに大変な天下の騷ぎになりかねない事件も、無事にお過ごしになって、来世のご勤行も時期を遅らせなさらず、万事目立たないようにして、遠く先をみて穏やかなご性格の方であったが、この君は、まだ若いうちに、世間の評判が大変に過ぎて、自負心を高く持っていることは、この上なくいらっしゃる。<BR>⏎ なるほど、そうあるはずのように、とてもこの世の人としてできているのではない、人間の姿を借りて宿ったのかと思えることがお加わりであった。お顔の器量も、はっきりそれと、どこが素晴らしい、ああ美しい、と見えるところもないが、ただたいそう優美で気品高げで、心の奥底が深いような感じが、誰にも似ていないのであった。<BR>⏎ | 60-61 | 昔,光君と申し上げた方は、あのような比類ない帝の御寵愛であったが、お憎みなさる方があって、母方のご後見がなかったりなどしたが、ご性質も思慮深く、世間の事を穏やかにお考えになったので、比類ないご威光を、目立たないように抑えなさり、ついに大変な天下の騷ぎになりかねない事件も、無事にお過ごしになって、来世のご勤行も時期を遅らせなさらず、万事目立たないようにして、遠く先をみて穏やかなご性格の方であったが、この君は、まだ若いうちに、世間の評判が大変に過ぎて、自負心を高く持っていることは、この上なくいらっしゃる。<BR>⏎ なるほど,そうあるはずのように、とてもこの世の人としてできているのではない、人間の姿を借りて宿ったのかと思えることがお加わりであった。お顔の器量も、はっきりそれと、どこが素晴らしい、ああ美しい、と見えるところもないが、ただたいそう優美で気品高げで、心の奥底が深いような感じが、誰にも似ていないのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 73 | <P>⏎ | ||
| version42 | 74 | <A NAME="in24">[第四段 匂兵部卿宮、薫中将に競い合う]</A><BR> | 63 | |
| c2 | 75-76 | このように、まことに不思議なまで人が気のつく薫りに染まっていらっしゃるのを、兵部卿宮は、他のことよりも競争心をお持ちになって、それは、特別にいろいろの優れたのをたきしめなさり、朝夕の仕事として香を合わせるのに熱心で、お庭先の植え込みでも、春は梅の花園を眺めなさり、秋は世間の人が愛する女郎花や、小牡鹿が妻とするような萩の露にも、少しもお心を移しなさらず、老を忘れる菊に、衰えゆく藤袴、何の取柄もないわれもこうなどは、とても見るに堪えない霜枯れのころまでお忘れにならないなどというふうに、ことさらめいて、香を愛する思いを、取り立てて好んでいらっしゃるのであった。<BR>⏎ こうしていることに、少し弱く優し過ぎて、風流な方面に傾いていらしゃると、世間の人はお思い申していた。昔の源氏は、総じて、このように一つに事を取り立てて、異様なふうに、熱中なさることはなかったものである。<BR>⏎ | 64-65 | このように,まことに不思議なまで人が気のつく薫りに染まっていらっしゃるのを、兵部卿宮は、他のことよりも競争心をお持ちになって、それは,特別にいろいろの優れたのをたきしめなさり、朝夕の仕事として香を合わせるのに熱心で、お庭先の植え込みでも、春は梅の花園を眺めなさり、秋は世間の人が愛する女郎花や、小牡鹿が妻とするような萩の露にも、少しもお心を移しなさらず、老を忘れる菊に、衰えゆく藤袴、何の取柄もないわれもこうなどは、とても見るに堪えない霜枯れのころまでお忘れにならないなどというふうに、ことさらめいて、香を愛する思いを、取り立てて好んでいらっしゃるのであった。<BR>⏎ こうしていることに、少し弱く優し過ぎて、風流な方面に傾いていらしゃると、世間の人はお思い申していた。昔の源氏は、総じて,このように一つに事を取り立てて、異様なふうに、熱中なさることはなかったものである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 78-79 | 「冷泉院の女一の宮を、結婚して一緒に暮らしてみたいものだ。きっとその甲斐はあるだろう」とお思いになっているのは、母女御もとても重々しくて、奥ゆかしくいらっしゃる所であり、姫宮のご様子は、なるほどと、めったにないくらい素晴らしくて、世間の評判も高くいらっしゃるうえに、それ以上に、少し近くに伺候し馴れている女房などが、詳しいご様子などを、何かの機会にふれてお耳に入れることなどもあるので、ますます我慢できなくお思いのようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 67 | 「冷泉院の女一の宮を、結婚して一緒に暮らしてみたいものだ。きっとその甲斐はあるだろう」とお思いになっているのは、母女御もとても重々しくて、奥ゆかしくいらっしゃる所であり、姫宮のご様子は、なるほどと,めったにないくらい素晴らしくて、世間の評判も高くいらっしゃるうえに、それ以上に,少し近くに伺候し馴れている女房などが、詳しいご様子などを、何かの機会にふれてお耳に入れることなどもあるので、ますます我慢できなくお思いのようである。<BR>⏎ |
| version42 | 80 | <A NAME="in25">[第五段 薫の厭世観と恋愛に消極的な性格]</A><BR> | 68 | |
| c3 | 82-84 | 十九歳におなりの年、三位宰相になって、やはり中将を辞めていない。帝、后の御待遇で、臣下であっては、遠慮のない幸い人のご人望でいらっしゃるが、心の中ではわが身の上について思い知るところがあって、もの悲しい気持ちなどがあったので、勝手気ままな浮いた好色事、まったく好きでなく、万事控え目に振る舞っては、自然と老成した性格を、人からも知られていらっしゃった。<BR>⏎ 三の宮が、年齢とともに熱心でいらっしゃるらしい、院の姫宮のご様子を見るにつけても、同じ院の内に、朝に夕に一緒にお暮らしなので、何かの機会にふれても、姫のご様子を聞いたり拝見したりするので、「なるほど、たいそう並々でない。奥ゆかしく嗜み深いお振る舞いはこの上ないので、同じことならば、ほんとうにこのような人と結婚するのこそ、生涯楽しく暮らせる糸口となることだろう」とは思うものの、普通の事は分け隔てなくお扱いでいらっしゃるが、姫宮の御事の方面の隔ては、この上なくよそよそしく習慣づけていらっしゃるのも、もっともなことに厄介な事なので、無理に近づこうとはしない。「もし、思いも寄らない気持ちが起こったら、自分も相手もまことに悪い事だ」と分別して、馴れ馴れしく近づき寄ることはなかったのであった。<BR>⏎ 自分が、このように、人から誉められるように生まれついていらっしゃる有様なので、ちょっと何気ない言葉をおかけになる相手の女性も、まったく相手にしない気持ちはなく、靡きやすい程度なので、自然とたいして気の染まない通い所も多くになるが、相手に対して、大仰な待遇はせず、たいそううまく紛らわして、どことなく愛情がないでもない程度で、かえって気がもめるので、情けを寄せる女は、気が引かれ引かれして、三条宮に参集する者が大勢いる。<BR>⏎ | 70-72 | 十九歳におなりの年、三位宰相になって、やはり中将を辞めていない。帝,后の御待遇で、臣下であっては、遠慮のない幸い人のご人望でいらっしゃるが、心の中ではわが身の上について思い知るところがあって、もの悲しい気持ちなどがあったので、勝手気ままな 浮いた好色事、まったく好きでなく、万事控え目に振る舞っては、自然と老成した性格を、人からも知られていらっしゃった。<BR>⏎ 三の宮が、年齢とともに熱心でいらっしゃるらしい、院の姫宮のご様子を見るにつけても、同じ院の内に、朝に夕に一緒にお暮らしなので、何かの機会にふれても、姫のご様子を聞いたり拝見したりするので、「なるほど,たいそう並々でない。奥ゆかしく嗜み深いお振る舞いはこの上ないので、同じことならば、ほんとうにこのような人と結婚するのこそ、生涯楽しく暮らせる糸口となることだろう」とは思うものの、普通の事は分け隔てなくお扱いでいらっしゃるが、姫宮の御事の方面の隔ては、この上なくよそよそしく習慣づけていらっしゃるのも、もっともなことに厄介な事なので、無理に近づこうとはしない。「もし,思いも寄らない気持ちが起こったら、自分も相手もまことに悪い事だ」と分別して、馴れ馴れしく近づき寄ることはなかったのであった。<BR>⏎ 自分が、このように,人から誉められるように生まれついていらっしゃる有様なので、ちょっと何気ない言葉をおかけになる相手の女性も、まったく相手にしない気持ちはなく、靡きやすい程度なので、自然とたいして気の染まない通い所も多くになるが、相手に対して、大仰な待遇はせず、たいそううまく紛らわして、どことなく愛情がないでもない程度で、かえって気がもめるので、情けを寄せる女は、気が引かれ引かれして、三条宮に参集する者が大勢いる。<BR>⏎ |
| d1 | 86 | <P>⏎ | ||
| version42 | 87 | <A NAME="in26">[第六段 夕霧の六の君の評判]</A><BR> | 74 | |
| c1 | 88 | 「母宮が生きていらっしゃるうちは、朝夕にお側を離れずお目にかかり、お仕え申し上げることを、せめてもの孝養に」<BR>⏎ | 75 | 「母宮が生きていらっしゃるうちは、朝夕にお側を離れずお目にかかり、お仕え申し上げることを,せめてもの孝養に」<BR>⏎ |
| d1 | 92 | <P>⏎ | ||
| version42 | 93 | <A NAME="in27">[第七段 六条院の賭弓の還饗]</A><BR> | 79 | |
| c3 | 98-100 | と、退出をおし止めなさって、ご子息の衛門督を、権中納言、右大弁など、それ以外の上達部が大勢、あれこれの車に乗り合って、誘い合って、六条院へいらっしゃる。<BR>⏎ 道中やや時間のかかるうちに、雪が少し降って、優艶な黄昏時である。笛の音色を美しく吹き立てながらお入りなると、「なるほど、ここを措いて、どのような仏の国が、このような時の楽しみ場所を求めることができようか」と見えた。<BR>⏎ 寝殿の南の廂間に、いつものように南向きに、中将少将がずらりと着座し、北向きに対座して、垣下の親王方、上達部のお座席がある。お盃の事などが始まって、何となく座がはずんでくると、「求子」を舞って、翻る袖の数々をあおる羽風に、お庭先の梅がすっかり満開になっている薫りが、さっと一面に漂って来ると、いつものように、中将の薫りが、ますます素晴らしく引き立てられて、何とも言えないほど優美である。わずかに覗いている女房なども、「闇ははっきりせず、見たいものだが、あの薫りは、なるほど他に似たものがありませんね」と、誉め合っていた。<BR>⏎ | 84-86 | と,退出をおし止めなさって、ご子息の衛門督を、権中納言、右大弁など、それ以外の上達部が大勢、あれこれの車に乗り合って、誘い合って、六条院へいらっしゃる。<BR>⏎ 道中やや時間のかかるうちに、雪が少し降って、優艶な黄昏時である。笛の音色を美しく吹き立てながらお入りなると、「なるほど,ここを措いて、どのような仏の国が、このような時の楽しみ場所を求めることができようか」と見えた。<BR>⏎ 寝殿の南の廂間に、いつものように南向きに、中将少将がずらりと着座し、北向きに対座して、垣下の親王方、上達部のお座席がある。お盃の事などが始まって、何となく座がはずんでくると、「求子」を舞って、翻る袖の数々をあおる羽風に、お庭先の梅が すっかり満開になっている薫りが、さっと一面に漂って来ると、いつものように、中将の薫りが、ますます素晴らしく引き立てられて、何とも言えないほど優美である。わずかに覗いている女房なども、「闇ははっきりせず、見たいものだが、あの薫りは、なるほど他に似たものがありませんね」と、誉め合っていた。<BR>⏎ |
| d2 | 104-105 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 112 | ⏎ | ||
| i0 | 100 | |||
| diff | src/original/version43.html | src/modified/version43.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version43 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 31 | <P>⏎ | ||
| version43 | 32 | <H4>第一章 紅梅大納言家の物語 娘たちの結婚を思案</H4> | 28 | |
| version43 | 33 | <A NAME="in11">[第一段 按察使大納言家の家族]</A><BR> | 29 | |
| cd2:1 | 36-37 | お子様は、亡くなった北の方に、二人だけいらっしゃったので、寂しいと思って、神仏に祈って、今の北の方に、男君を一人お儲けになっていた。故宮との間に、女君がお一人いらっしゃる。分け隔てをせず、どちらも同じようにかわいがり申し上げなさっているが、それぞれの御方の女房などは、きれい事には行かない気持ちも交じって、厄介なもめ事も出てくる時があるが、北の方が、とても明朗で現代的な人で、無難にとりなし、ご自分に辛いようなことも、穏やかに聞き入れ、よく解釈し直していらっしゃるので、世間に聞き苦しい事なく無難に過ごしているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 32 | お子様は、亡くなった北の方に、二人だけいらっしゃったので、寂しいと思って、神仏に祈って、今の北の方に、男君を一人お儲けになっていた。故宮との間に、女君がお一人いらっしゃる。分け隔てをせず、どちらも同じように かわいがり申し上げなさっているが、それぞれの御方の女房などは、きれい事には行かない気持ちも交じって、厄介なもめ事も出てくる時があるが、北の方が、とても明朗で現代的な人で、無難にとりなし、ご自分に辛いようなことも、穏やかに聞き入れ、よく解釈し直していらっしゃるので、世間に聞き苦しい事なく無難に過ごしているのであった。<BR>⏎ |
| version43 | 38 | <A NAME="in12">[第二段 按察使大納言家の三姫君]</A><BR> | 33 | |
| c1 | 39 | 姫君は、同じ年頃で、次々と大きくおなりになったので、御裳着などお着せ申し上げなさる。七間の寝殿を、広く大きく造って、南面に、大納言殿と大君、西面に中の君、東面に宮の御方と、お住ませ申し上げなさるのであった。<BR>⏎ | 34 | 姫君は、同じ年頃で、次々と大きくおなりになったので、御裳着などお着せ申し上げなさる。七間の寝殿を、広く大きく造って、南面に,大納言殿と大君、西面に中の君、東面に宮の御方と、お住ませ申し上げなさるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 41 | 例によって、このように大切になさっているという評判が立って、次々と申し込みなさる方が多く、「帝や、春宮からも御内意はあるが、帝には中宮がいらっしゃる。どれほどの方が、あのお方にご比肩申せよう。そうかといって、及ばないと諦めて卑下するのも、宮仕えする甲斐がないだろう。春宮には、右大臣殿の女御が、並ぶ人がないように伺候していらっしゃるのは、競い合いにくいが、そうとばかり言っていられようか。人よりすぐれているだろうと思う姫君を、宮仕えに出すことを諦めてしまっては、何の望みがあろうか」とご決意なさって、入内させ申し上げなさる。十七、八歳のほどで、かわいらしく、派手やかな器量をしていらっしゃった。<BR>⏎ | 36 | 例によって、このように大切になさっているという評判が立って、次々と申し込みなさる方が多く、「帝や、春宮からも御内意はあるが、帝には中宮がいらっしゃる。どれほどの方が、あのお方にご比肩申せよう。そうかといって,及ばないと諦めて卑下するのも、宮仕えする甲斐がないだろう。春宮には、右大臣殿の女御が、並ぶ人がないように伺候していらっしゃるのは、競い合いにくいが、そうとばかり言っていられようか。人よりすぐれているだろうと思う姫君を、宮仕えに出すことを諦めてしまっては、何の望みがあろうか」とご決意なさって、入内させ申し上げなさる。十七,八歳のほどで、かわいらしく、派手やかな器量をしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 45 | とおっしゃりながら、まず、春宮への御入内の事をお急ぎになって、「春日の神の御神託も、わが世にもしや現れ出て、故大臣が、院の女御の御事を、無念にお思いのまま亡くなってしまったお心を慰めることがあってほしい」と、心中に祈って、入内させなさった。たいそう御寵愛である由を、人びとはお噂申す。<BR>⏎ | 40 | とおっしゃりながら、まず,春宮への御入内の事をお急ぎになって、「春日の神の御神託も、わが世にもしや現れ出て、故大臣が、院の女御の御事を、無念にお思いのまま亡くなってしまったお心を慰めることがあってほしい」と、心中に祈って、入内させなさった。たいそう御寵愛である由を、人びとはお噂申す。<BR>⏎ |
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| version43 | 48 | <A NAME="in13">[第三段 宮の御方の魅力]</A><BR> | 42 | |
| c2 | 50-51 | 人見知りを世間の人以上になさって、母北の方にさえ、ちゃんとお顔をお見せ申し上げることもなさらず、おかしなほど控え目でいらっしゃる一方で、気立てや雰囲気が陰気なところはなく、愛嬌がおありであることは、それは、誰よりも優れていらっしゃった。<BR>⏎ このように、春宮への入内や何やかやと、ご自分の姫君のことばかり考えてご準備するのも、お気の毒だとお思いになって、<BR>⏎ | 44-45 | 人見知りを世間の人以上になさって、母北の方にさえ、ちゃんとお顔をお見せ申し上げることもなさらず、おかしなほど控え目でいらっしゃる一方で、気立てや雰囲気が陰気なところはなく、愛嬌がおありであることは、それは,誰よりも優れていらっしゃった。<BR>⏎ このように,春宮への入内や何やかやと、ご自分の姫君のことばかり考えてご準備するのも、お気の毒だとお思いになって、<BR>⏎ |
| c1 | 53 | と、母君にも申し上げなさったが、<BR>⏎ | 47 | と,母君にも申し上げなさったが、<BR>⏎ |
| c2 | 55-56 | などと、ちょっと泣いて、宮のご性質が立派なことを申し上げなさる。<BR>⏎ どの娘も分け隔てなく親らしくなさるが、ご器量を見たいと心動かされて、「お顔をお見せにならないのが辛いことだ」と恨んで、「こっそりと、お見えにならないか」と、覗いて回りなさるが、全然ちらりとさえお見せにならない。<BR>⏎ | 49-50 | などと,ちょっと泣いて、宮のご性質が立派なことを申し上げなさる。<BR>⏎ どの娘も分け隔てなく親らしくなさるが、ご器量を見たいと心動かされて、「お顔をお見せにならないのが辛いことだ」と恨んで、「こっそりと、お見えにならないか」と、覗いて回りなさるが、全然ちらりとさえ お見せにならない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 58-59 | などと申し上げて、御簾の前にお座りになるので、お返事などを、かすかに申し上げなさる。お声、様子など、上品で美しく、容姿や器量が想像されて、立派だと感じられるご様子の人である。ご自分の姫君たちを、誰にも負けないだろうと自慢に思っているが、「この姫君には、とても勝てないだろうか。こうだからこそ、世間付き合いの広い宮中は厄介なのだ。二人といまいと思うのに、それ以上の方も自然といることだろう」などと、ますます気がかりにお思い申し上げになさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 52 | などと申し上げて、御簾の前にお座りになるので、お返事などを、かすかに申し上げなさる。お声,様子など、上品で美しく、容姿や器量が想像されて、立派だと感じられるご様子の人である。ご自分の姫君たちを、誰にも負けないだろうと自慢に思っているが、「この姫君には、とても勝てないだろうか。こうだからこそ、世間付き合いの広い宮中は厄介なのだ。二人といまいと思うのに、それ以上の方も 自然といることだろう」などと、ますます気がかりにお思い申し上げになさる。<BR>⏎ |
| version43 | 60 | <A NAME="in14">[第四段 按察使大納言の音楽談義]</A><BR> | 53 | |
| c1 | 64 | 琵琶は、押し手を静かにするのを上手とする都言いますが、柱を据えた時、撥の音の様子が変わって、優美に聞こえるのが、女性のお琴としては、かえって結構なものです。さあ、合奏なさいませんか。お琴を持って参れ」<BR>⏎ | 57 | 琵琶は、押し手を静かにするのを上手とする都言いますが、柱を据えた時、撥の音の様子が変わって、優美に聞こえるのが、女性のお琴としては、かえって結構なものです。さあ,合奏なさいませんか。お琴を持って参れ」<BR>⏎ |
| d1 | 66 | <P>⏎ | ||
| version43 | 67 | <H4>第二章 匂兵部卿の物語 宮の御方に執心</H4> | 59 | |
| version43 | 68 | <A NAME="in21">[第一段 按察使大納言、匂宮に和歌を贈る]</A><BR> | 60 | |
| c1 | 72 | 「まままあになって行くのは、この辺りで、何かの折りに合奏するからであろう。ぜひ、お琴をお弾き合わせ頂きたい」<BR>⏎ | 64 | 「まままあになって行くのは、この辺りで、何かの折りに合奏するからであろう。ぜひ,お琴をお弾き合わせ頂きたい」<BR>⏎ |
| c1 | 74 | 「お庭先の梅が、風情あるように見える。兵部卿宮は、宮中にいらっしゃるそうだ。一枝折って差し上げよ。知る人は知っている」と言って、「ああ、光る源氏、といわれたお盛りの大将などでいらしたころ、子供で、このようにしてお仕え馴れ申したのが、年とともに恋しいことです。<BR>⏎ | 66 | 「お庭先の梅が、風情あるように見える。兵部卿宮は、宮中にいらっしゃるそうだ。一枝折って差し上げよ。知る人は知っている」と言って、「ああ,光る源氏、といわれたお盛りの大将などでいらしたころ、子供で、このようにしてお仕え馴れ申したのが、年とともに恋しいことです。<BR>⏎ |
| c1 | 77 | などと、申し上げなさって、しみじみと索漠とした子持ちで回想し沈んでいらっしゃる。<BR>⏎ | 69 | などと,申し上げなさって、しみじみと索漠とした子持ちで回想し沈んでいらっしゃる。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 80-83 | 「考えがあって風が匂わす園の梅に<BR>⏎ さっそく鴬が来ないことがありましょうか」<BR>⏎ と、紅の紙に若々しく書いて、この君の懐紙にまぜて、押したたんでお出しになるのを、子供心に、とてもお親しくしたいと思うので、急いで参上なさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 72-73 | 「考えがあって風が匂わす園の梅に<BR> さっそく鴬が来ないことがありましょうか」<BR>⏎ と,紅の紙に若々しく書いて、この君の懐紙にまぜて、押したたんでお出しになるのを、子供心に、とてもお親しくしたいと思うので、急いで参上なさった。<BR>⏎ |
| version43 | 84 | <A NAME="in22">[第二段 匂宮、若君と語る]</A><BR> | 74 | |
| c1 | 88 | と、子供らしいものの、なれなれしく申し上げる。<BR>⏎ | 78 | と,子供らしいものの、なれなれしく申し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 94-95 | と、途中まで申し上げて座っているので、<BR>⏎ 「わたしを、一人前でないと敬遠しているのだな。もっともだ。けれどおもしろくないな。古くさい同じ血筋で、東の御方と申し上げる方は、わたしと思い合ってくださろうかと、こっそりとよく申し上げてくれ」<BR>⏎ | 84-85 | と,途中まで申し上げて座っているので、<BR>⏎ 「わたしを,一人前でないと敬遠しているのだな。もっともだ。けれどおもしろくないな。古くさい同じ血筋で、東の御方と申し上げる方は、わたしと思い合ってくださろうかと、こっそりとよく申し上げてくれ」<BR>⏎ |
| c1 | 98 | とおっしゃって、下にも置かず御覧になる。枝の様子や、花ぶさが、色も香も普通のとは違っている。<BR>⏎ | 88 | とおっしゃって,下にも置かず御覧になる。枝の様子や、花ぶさが、色も香も普通のとは違っている。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 100-101 | とおっしゃって、お心をとめていらっしゃる花なので、効があって、ご賞美なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 90 | とおっしゃって,お心をとめていらっしゃる花なので、効があって、ご賞美なさる。<BR>⏎ |
| version43 | 102 | <A NAME="in23">[第三段 匂宮、宮の御方を思う]</A><BR> | 91 | |
| c1 | 104 | と、呼んだままお離しにならないので、春宮にも参上できず、花も恥ずかしく思うくらい香ばしい匂いで、お側近くに寝かせなさったので、子供心に、またとなく嬉しく慕わしくお思い申し上げる。<BR>⏎ | 93 | と,呼んだままお離しにならないので、春宮にも参上できず、花も恥ずかしく思うくらい香ばしい匂いで、お側近くに寝かせなさったので、子供心に、またとなく嬉しく慕わしくお思い申し上げる。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 109-113 | 「花の香に誘われそうな身であったら<BR>⏎ 風の便りをそのまま黙っていましょうか」<BR>⏎ そうして、「やはり今は、老人たちに出しゃばらせずに、こっそりと」と、繰り返しおっしゃって、この君も、東の御方を、大切に親しく思う気持ちが増した。<BR>⏎ かえって他の姫君たちは、お顔をお見せになったりして、普通の姉弟みたいな様子であるが、子供心に、とても重々しく理想的でいらっしゃるご性質を、「お世話しがいのある方と結婚させてあげたいものだ」と日頃思っていたが、春宮の御方が、たいそう華やかなお暮らしでいらっしゃるのにつけて、同じ嬉しいこととは思うものの、とてもたまらなく残念なので、「せめてこの宮だけでも身近に拝見したいものだ」と思ってうろうろしている時に、嬉しい花の便りのきっかけである。<BR>⏎ <P>⏎ | 98-100 | 「花の香に誘われそうな身であったら<BR> 風の便りをそのまま黙っていましょうか」<BR>⏎ そうして,「やはり今は、老人たちに出しゃばらせずに、こっそりと」と、繰り返しおっしゃって、この君も、東の御方を、大切に親しく思う気持ちが増した。<BR>⏎ かえって他の姫君たちは、お顔をお見せになったりして、普通の姉弟みたいな様子であるが、子供心に、とても重々しく理想的でいらっしゃるご性質を、「お世話しがいのある方と結婚させてあげたいものだ」と日頃思っていたが、春宮の御方が、たいそう華やかなお暮らしでいらっしゃるのにつけて、同じ嬉しいこととは思うものの、とてもたまらなく残念なので、「せめてこの宮だけでも 身近に拝見したいものだ」と思ってうろうろしている時に、嬉しい花の便りのきっかけである。<BR>⏎ |
| version43 | 114 | <A NAME="in24">[第四段 按察使大納言と匂宮、和歌を贈答]</A><BR> | 101 | |
| c1 | 115 | これは、昨日のお返事なのでお見せ申し上げる。<BR>⏎ | 102 | これは,昨日のお返事なのでお見せ申し上げる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 117-119 | などと、悪口を言って、今日も参らせなさる折に、また、<BR>⏎ 「もともとの香りが匂っていらっしゃるあなたが袖を振ると<BR>⏎ 花も素晴らしい評判を得ることでしょう<BR>⏎ | 104-105 | などと,悪口を言って、今日も参らせなさる折に、また,<BR>⏎ 「もともとの香りが匂っていらっしゃるあなたが袖を振ると<BR> 花も素晴らしい評判を得ることでしょう<BR>⏎ |
| cd4:3 | 121-124 | と、本気にお申し込みになった。本当に結婚させようと考えているところがあるのだろうかと、そうはいってもお心をときめかしなさって、<BR>⏎ 「花の香を匂わしていらっしゃる宿に訪ねていったら<BR>⏎ 好色な人だと人が咎めるのではないでしょうか」<BR>⏎ など、やはり胸の内を明かさないでお答えなさるので、憎らしいと思っていらっしゃった。<BR>⏎ | 107-109 | と,本気にお申し込みになった。本当に結婚させようと考えているところがあるのだろうかと、そうはいってもお心をときめかしなさって、<BR>⏎ 「花の香を匂わしていらっしゃる宿に訪ねていったら<BR> 好色な人だと人が咎めるのではないでしょうか」<BR>⏎ など,やはり胸の内を明かさないでお答えなさるので、憎らしいと思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 126 | 「若君が、先夜、宿直をして、退出した時の匂いが、とても素晴らしかったので、人は普通の香と思ったが、東宮が、よくお気づきなさって、『兵部卿宮にお近づき申したのだ。なるほど、わたしを嫌ったわけだ』と、様子を理解して、恨んでいらっしゃった。こちらに、お手紙がありましたか。そのようにも見えませんでしたが」<BR>⏎ | 111 | 「若君が、先夜、宿直をして、退出した時の匂いが、とても素晴らしかったので、人は普通の香と思ったが、東宮が、よくお気づきなさって、『兵部卿宮にお近づき申したのだ。なるほど,わたしを嫌ったわけだ』と、様子を理解して、恨んでいらっしゃった。こちらに、お手紙がありましたか。そのようにも見えませんでしたが」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 131-132 | などと、花にかこつけて、まずはお噂申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 116 | などと,花にかこつけて、まずはお噂申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version43 | 133 | <A NAME="in25">[第五段 匂宮、宮の御方に執心]</A><BR> | 117 | |
| cd5:3 | 137-141 | 「予想に反して、このように結婚を考えてもいない方に、かりそめにせよ、お手紙をたくさんくださるが、効のなさそうなこと」<BR>⏎ と、北の方もお思いになりおっしゃる。<BR>⏎ ちょっとしたお返事などもないので、負けてたまるかとのお考えも加わって、お諦めになることもおできになれない。「何の遠慮がいるものか、宮のお人柄に何の不足があろう、そのように結婚させてお世話申し上げたい、将来有望にお見えになるのだから」など、北の方はお思いになることも時々あるが、とてもたいそう好色人でいらして、お通いになる所がたくさんあって、八の宮の姫君にも、お気持ちが並々でなく、たいそう足しげくお通いになっている。頼りがいのないお心で、浮気っぽさなども、ますます躊躇されるので、本気になってはお考えになっていないが、恐れ多いばかりに、こっそりと、母君が時折さし出てお返事申し上げなさる。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 121-123 | 「予想に反して、このように結婚を考えてもいない方に、かりそめにせよ,お手紙をたくさんくださるが、効のなさそうなこと」<BR>⏎ と,北の方もお思いになりおっしゃる。<BR>⏎ ちょっとしたお返事などもないので、負けてたまるかとのお考えも加わって、お諦めになることもおできになれない。「何の遠慮がいるものか,宮のお人柄に何の不足があろう、そのように結婚させてお世話申し上げたい、将来有望にお見えになるのだから」など、北の方はお思いになることも時々あるが、とてもたいそう好色人でいらして、お通いになる所がたくさんあって、八の宮の姫君にも、お気持ちが並々でなく、たいそう足しげくお通いになっている。頼りがいのないお心で、浮気っぽさなども、ますます躊躇されるので、本気になってはお考えになっていないが、恐れ多いばかりに、こっそりと、母君が 時折さし出てお返事申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 148 | ⏎ | ||
| i0 | 134 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version44 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 61 | <P>⏎ | ||
| version44 | 62 | <H4>第一章 鬚黒一族の物語 玉鬘と姫君たち</H4> | 58 | |
| version44 | 63 | <A NAME="in11">[第一段 鬚黒没後の玉鬘と子女たち]</A><BR> | 59 | |
| c1 | 64 | これは、源氏のご一族からも離れていらっしゃった、後の大殿あたりにいたおしゃべりな女房たちで、死なずに生き残った者が、問わず語りに話しておいたのは、紫の物語にも似ないようであるが、あの女どもが言ったことは、「源氏のご子孫について、間違った事柄が交じって伝えられているのは、自分よりも年輩で、耄碌した人のでたらめかしら」などと不審がったが、どちらが本当であろうか。<BR>⏎ | 60 | これは,源氏のご一族からも離れていらっしゃった、後の大殿あたりにいたおしゃべりな女房たちで、死なずに生き残った者が、問わず語りに話しておいたのは、紫の物語にも似ないようであるが、あの女どもが言ったことは、「源氏のご子孫について、間違った事柄が交じって伝えられているのは、自分よりも年輩で、耄碌した人のでたらめかしら」などと不審がったが、どちらが本当であろうか。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 68-69 | 六条院におかれては、総じて、やはり昔と変わらず娘分としてお扱い申されて、お亡くなりになった後のことも、お書き残しなさったご相続の文書などにも、中宮のお次にお加え申されていたので、右の大殿などは、かえってその気持ちがあって、しかるべき折々にはご訪問申される。<BR>⏎ <P>⏎ | 64 | 六条院におかれては、総じて,やはり昔と変わらず娘分としてお扱い申されて、お亡くなりになった後のことも、お書き残しなさったご相続の文書などにも、中宮のお次にお加え申されていたので、右の大殿などは、かえってその気持ちがあって、しかるべき折々にはご訪問申される。<BR>⏎ |
| version44 | 70 | <A NAME="in12">[第二段 玉鬘の姫君たちへの縁談]</A><BR> | 65 | |
| c2 | 72-73 | 帝におかれても、是非とも宮仕えの願いが深い旨を、大臣が奏上なさっていたので、成人なさったであろう年月を御推察あそばして、入内の仰せ言がしきりにあるが、中宮が、ますます並ぶ人のいないようになって行かれる御様子に圧倒されて、誰も彼も無用の人のようでいらっしゃる末席に入内して、遠くから睨まれ申すのも厄介で、また人より劣って、数にも入らない様子なのを世話するのも、はたまた、気苦労であろうことを思案なさっている。<BR>⏎ 冷泉院から、たいそう御懇切に御所望あそばして、尚侍の君が、昔、念願叶わずに今までお過ごしになって来た辛さまでを、思い出してお恨み申し上げられて、<BR>⏎ | 67-68 | 帝におかれても、是非とも宮仕えの願いが深い旨を、大臣が奏上なさっていたので、成人なさったであろう年月を御推察あそばして、入内の仰せ言がしきりにあるが、中宮が、ますます並ぶ人のいないようになって行かれる御様子に圧倒されて、誰も彼も無用の人のようでいらっしゃる末席に入内して、遠くから睨まれ申すのも厄介で、また人より劣って、数にも入らない様子なのを世話するのも、はたまた,気苦労であろうことを思案なさっている。<BR>⏎ 冷泉院から、たいそう御懇切に御所望あそばして、尚侍の君が、昔,念願叶わずに今までお過ごしになって来た辛さまでを、思い出してお恨み申し上げられて、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 75-76 | と、たいそう真面目に申し上げなさったので、「どうしたらよいことだろう。自分自身のまことに残念な運命で、思いの外に気にくわないとお思いあそばされたのが、恥ずかしく恐れ多いことだが、この晩年に御機嫌を直していただけようか」などと決心しかねていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 70 | と,たいそう真面目に申し上げなさったので、「どうしたらよいことだろう。自分自身のまことに残念な運命で、思いの外に気にくわないとお思いあそばされたのが、恥ずかしく恐れ多いことだが、この晩年に御機嫌を直していただけようか」などと決心しかねていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version44 | 77 | <A NAME="in13">[第三段 夕霧の息子蔵人少将の求婚]</A><BR> | 71 | |
| cd2:1 | 81-82 | 姫君を、まったく臣下に縁づけようとはなさらず、中の君を、もう少し世間の評判が軽くなくなったら、そうとも考えようか、とお思いでいらっしゃるのだった。お許しにならなかったら、盗み取ってしまおうと、気持ち悪いまで思っていた。不釣合な縁談だとはお思いにならないが、女のほうで承知しない間違いが起こるのは、世間に聞こえても軽率なことなので、取り次ぐ女房に対しても、「ゆめゆめ、間違いを起こすな」などとおっしゃるので、気がひけて、億劫がるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 75 | 姫君を、まったく臣下に縁づけようとはなさらず、中の君を、もう少し世間の評判が軽くなくなったら、そうとも考えようか,とお思いでいらっしゃるのだった。お許しにならなかったら、盗み取ってしまおうと、気持ち悪いまで思っていた。不釣合な縁談だとはお思いにならないが、女のほうで承知しない間違いが起こるのは、世間に聞こえても軽率なことなので、取り次ぐ女房に対しても、「ゆめゆめ、間違いを起こすな」などとおっしゃるので、気がひけて、億劫がるのであった。<BR>⏎ |
| version44 | 83 | <A NAME="in14">[第四段 薫君、玉鬘邸に出入りす]</A><BR> | 76 | |
| c1 | 84 | 六条院のご晩年に、朱雀院の姫宮からお生まれになった君、冷泉院におかれて、お子様のように大切にされている四位の侍従は、そのころ十四、五歳ほどになって、とても幼い子供の年の割合には、心構えも大人のようで、好ましく、人より優れた将来性がはっきりお見えになるので、尚侍の君は、婿として世話したくお思いになっていた。<BR>⏎ | 77 | 六条院のご晩年に、朱雀院の姫宮からお生まれになった君、冷泉院におかれて、お子様のように大切にされている四位の侍従は、そのころ十四,五歳ほどになって、とても幼い子供の年の割合には、心構えも大人のようで、好ましく、人より優れた将来性がはっきりお見えになるので、尚侍の君は、婿として世話したくお思いになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 89 | <P>⏎ | ||
| version44 | 90 | <H4>第二章 玉鬘邸の物語 梅と桜の季節の物語</H4> | 82 | |
| version44 | 91 | <A NAME="in21">[第一段 正月、夕霧、玉鬘邸に年賀に参上]</A><BR> | 83 | |
| c1 | 93 | ご子息たちも、それぞれとても美しくて、年齢の割合には、官位も進んで、きっと何の物思いもなく見えたであろう。いつも、蔵人の君は、大切にされていることは格別であるが、ふさぎ込んで悩み事のある顔をしている。<BR>⏎ | 85 | ご子息たちも、それぞれとても美しくて、年齢の割合には、官位も進んで、きっと何の物思いもなく見えたであろう。いつも,蔵人の君は、大切にされていることは格別であるが、ふさぎ込んで悩み事のある顔をしている。<BR>⏎ |
| c1 | 97 | 「今では、このように、世間の人数にも入らぬ者のようになって行く有様を、お心に掛けてくださるので、亡くなった方のことも、ますます忘れ難く存じられるます」<BR>⏎ | 89 | 「今では、このように,世間の人数にも入らぬ者のようになって行く有様を、お心に掛けてくださるので、亡くなった方のことも、ますます忘れ難く存じられるます」<BR>⏎ |
| c1 | 101 | 「帝にも仰せられることがあるようにお聞きいたしておりましたが、どちらにお決めなさるべきでしょうか。院は、なるほど、お位を退かれあそばしました点では、盛りの過ぎた感じもしますが、世に二人といない御様子は、いっこうに変わらずにいらっしゃるようですので、人並みに成人した娘がおりましたらと、存じておりますが、立派な方々のお仲間入りできる者がございませんで、残念に存じております。<BR>⏎ | 93 | 「帝にも仰せられることがあるようにお聞きいたしておりましたが、どちらにお決めなさるべきでしょうか。院は、なるほど,お位を退かれあそばしました点では、盛りの過ぎた感じもしますが、世に二人といない御様子は、いっこうに変わらずにいらっしゃるようですので、人並みに成人した娘がおりましたらと、存じておりますが、立派な方々のお仲間入りできる者がございませんで、残念に存じております。<BR>⏎ |
| d1 | 107 | <P>⏎ | ||
| version44 | 108 | <A NAME="in22">[第二段 薫君、玉鬘邸に年賀に参上]</A><BR> | 99 | |
| c1 | 109 | 夕方になって、四位侍従が参上なさった。大勢の成人した若公達も、みなそれぞれに、どの人が劣っていようか。みな感じのよい方の中で、ひと足後れてこの君がお姿をお見せになったのが、たいそう際立って目に止まった感じがして、例によって、熱中しやすい若い女房たちは、「やはり、格別だわ」などと言う。<BR>⏎ | 100 | 夕方になって、四位侍従が参上なさった。大勢の成人した若公達も、みなそれぞれに、どの人が劣っていようか。みな感じのよい方の中で、ひと足後れてこの君がお姿をお見せになったのが、たいそう際立って目に止まった感じがして、例によって、熱中しやすい若い女房たちは、「やはり,格別だわ」などと言う。<BR>⏎ |
| c1 | 111 | と、聞きにくいことを言う。なるほど、実に若く優美な姿態をして、振る舞っていらっしゃる匂い香など、尋常のものでない。「姫君と申し上げても、物ごとのお分りになる方は、本当に人よりは優れているようだと、ご納得なさるに違いない」と思われる。<BR>⏎ | 102 | と,聞きにくいことを言う。なるほど,実に若く優美な姿態をして、振る舞っていらっしゃる匂い香など、尋常のものでない。「姫君と申し上げても、物ごとのお分りになる方は、本当に人よりは優れているようだと、ご納得なさるに違いない」と思われる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 113-114 | 「手折ってみたらますます匂いも勝ろうかと<BR>⏎ もう少し色づいてみてはどうですか、梅の初花」<BR>⏎ | 104 | 「手折ってみたらますます匂いも勝ろうかと<BR> もう少し色づいてみてはどうですか、梅の初花」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 116-117 | 「傍目には枯木だと決めていましょうが<BR>⏎ 心の中は咲き匂っていつ梅の初花ですよ<BR>⏎ | 106 | 「傍目には枯木だと決めていましょうが<BR> 心の中は咲き匂っていつ梅の初花ですよ<BR>⏎ |
| cd2:1 | 119-120 | 「本当は色よりも」<BR>⏎ と、口々に、袖を引っ張らんばかりに付きまとう。<BR>⏎ | 108 | 「本当は色よりも」と、口々に、袖を引っ張らんばかりに付きまとう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 125-126 | となどと、お思い出し申し上げなさって、しんみりとしていらっしゃる。後に残った香の薫りまでを、女房たちは誉めちぎっている。<BR>⏎ <P>⏎ | 113 | となどと,お思い出し申し上げなさって、しんみりとしていらっしゃる。後に残った香の薫りまでを、女房たちは誉めちぎっている。<BR>⏎ |
| version44 | 127 | <A NAME="in23">[第三段 梅の花盛りに、薫君、玉鬘邸を訪問]</A><BR> | 114 | |
| c2 | 131-132 | 「さあ、案内して下さい。わたしは、とても不案内です」<BR>⏎ と言って、伴って、西の渡殿の前にある紅梅の木の側で、「梅が枝」を口ずさんで立ち寄った様子が、花の香よりもはっきりと、さっと匂ったので、妻戸を押し開けて、女房たちが、和琴をとてもよく合奏していた。女の琴なので、呂の調子の歌は、こうまでうまく合わせられないものなのに、大したものだと思って、もう一度、繰り返して謡うが、琵琶も又となく華やかである。<BR>⏎ | 118-119 | 「さあ,案内して下さい。わたしは、とても不案内です」<BR>⏎ と言って,伴って、西の渡殿の前にある紅梅の木の側で、「梅が枝」を口ずさんで立ち寄った様子が、花の香よりもはっきりと、さっと匂ったので、妻戸を押し開けて、女房たちが、和琴をとてもよく合奏していた。女の琴なので、呂の調子の歌は、こうまでうまく合わせられないものなのに、大したものだと思って、もう一度、繰り返して謡うが、琵琶も又となく華やかである。<BR>⏎ |
| c1 | 136 | と、おっしゃたので、「照れて爪をかんでいる場合でもない」と思って、あまり気乗りもせずに掻き鳴らしなさる様子、たいそう響きが多く聞こえる。<BR>⏎ | 123 | と,おっしゃたので、「照れて爪をかんでいる場合でもない」と思って、あまり気乗りもせずに掻き鳴らしなさる様子、たいそう響きが多く聞こえる。<BR>⏎ |
| c1 | 138 | だいたい、この君は、不思議と故大納言のご様子に、とてもよく似て、琴の音色など、まるでその人かと思われます」<BR>⏎ | 125 | だいたい,この君は、不思議と故大納言のご様子に、とてもよく似て、琴の音色など、まるでその人かと思われます」<BR>⏎ |
| d1 | 140 | <P>⏎ | ||
| version44 | 141 | <A NAME="in24">[第四段 得意の薫君と嘆きの蔵人少将]</A><BR> | 127 | |
| c1 | 142 | 少将も、声がとても美しくて、「さき草」を謡う。おせっかいな分別者で、出過ぎた女房もいないので、自然とお互いに気がはずんで合奏なさるが、この家の侍従は、故大臣にお似通い申しているのであろうか、このような方面は苦手で、盃ばかり傾けているので、「せめて祝い歌ぐらい謡えよ」と、文句を言われて、「竹河」を一緒に声を出して、まだ若いけれど美しく謡う。御簾の内側から盃を差し出す。<BR>⏎ | 128 | 少将も、声がとても美しくて、「さき草」を謡う。おせっかいな分別者で、出過ぎた女房もいないので、自然とお互いに気がはずんで合奏なさるが、この家の侍従は、故大臣にお似通い申しているのであろうか、このような方面は苦手で、盃ばかり傾けているので、「せめて祝い歌ぐらい謡えよ」と、文句を言われて、「竹河」を一緒に声を出して、まだ若いけれど 美しく謡う。御簾の内側から盃を差し出す。<BR>⏎ |
| c1 | 144 | と、すぐには手にしない。小袿の重なった細長で、人の香がやさしく染みているのを、あり合わせのままに、お与えになる。「これはどういうおつもりですか」などとはしゃいで、侍従は、お邸の君に与えて出て行った。ひき止めて与えたが、「水駅で夜が更けてしまいました」と言って、逃げて行ってしまった。<BR>⏎ | 130 | と,すぐには手にしない。小袿の重なった細長で、人の香がやさしく染みているのを、あり合わせのままに、お与えになる。「これはどういうおつもりですか」などとはしゃいで、侍従は、お邸の君に与えて出て行った。ひき止めて与えたが、「水駅で夜が更けてしまいました」と言って、逃げて行ってしまった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 146-147 | 「人はみな花に心を寄せているのでしょうが<BR>⏎ わたし一人は迷っております、春の夜の闇の中で」<BR>⏎ | 132 | 「人はみな花に心を寄せているのでしょうが<BR> わたし一人は迷っております、春の夜の闇の中で」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 149-150 | 「時と場合によって心を寄せるものです<BR>⏎ ただ梅の花の香りだけにこうも引かれるものではありませんよ」<BR>⏎ | 134 | 「時と場合によって心を寄せるものです<BR> ただ梅の花の香りだけにこうも引かれるものではありませんよ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 153-155 | と、御覧下さいとのおつもりで、仮名がちに書いて、<BR>⏎ 「竹河の歌を謡ったあの文句の一端から<BR>⏎ わたしの深い心のうちを知っていただけましたか」<BR>⏎ | 137-138 | と,御覧下さいとのおつもりで、仮名がちに書いて、<BR>⏎ 「竹河の歌を謡ったあの文句の一端から<BR> わたしの深い心のうちを知っていただけましたか」<BR>⏎ |
| c1 | 158 | と言って、尚侍の君は、自分の子供たちの、字などが下手なことをお叱りになる。返事は、なるほど、たいそう未熟な字で、<BR>⏎ | 141 | と言って,尚侍の君は、自分の子供たちの、字などが下手なことをお叱りになる。返事は、なるほど,たいそう未熟な字で、<BR>⏎ |
| cd4:2 | 160-163 | 竹河を謡って夜を更かすまいと急いでいらっしゃったのも<BR>⏎ どのようなことを心に止めておけばよいのでしょう」<BR>⏎ なるほど、この事件をきっかけとして、この君のお部屋にいらっしゃって、気のある態度で振る舞う。少将が予想していた通り、誰もが好意を寄せていた。侍従の君も、子供心に、近い縁者として、明け暮れ親しくしたいと思うのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 143-144 | 竹河を謡って夜を更かすまいと急いでいらっしゃったのも<BR> どのようなことを心に止めておけばよいのでしょう」<BR>⏎ なるほど,この事件をきっかけとして、この君のお部屋にいらっしゃって、気のある態度で振る舞う。少将が予想していた通り、誰もが好意を寄せていた。侍従の君も、子供心に、近い縁者として、明け暮れ親しくしたいと思うのであった。<BR>⏎ |
| version44 | 164 | <A NAME="in25">[第五段 三月、花盛りの玉鬘邸の姫君たち]</A><BR> | 145 | |
| c2 | 166-167 | その当時、十八、九歳くらいでいらっしゃったろうか、ご器量も気立ても、それぞれに素晴らしい。姫君は、とても際立って気品があり、はなやかでいらして、なるほど、臣下の人に縁づけ申すのは、ふさわしくなくお見えである。<BR>⏎ 桜の細長に、山吹襲などで、季節にあった色合いがやさしい感じに重なっている裾まで、愛嬌があふれ出ているように見える、そのお振る舞いなども、洗練されて、気圧されるような感じまでが加わっていらっしゃった。<BR>⏎ | 147-148 | その当時、十八,九歳くらいでいらっしゃったろうか、ご器量も気立ても、それぞれに素晴らしい。姫君は、とても際立って気品があり、はなやかでいらして、なるほど,臣下の人に縁づけ申すのは、ふさわしくなくお見えである。<BR>⏎ 桜の細長に、山吹襲などで、季節にあった色合いが やさしい感じに重なっている裾まで、愛嬌があふれ出ているように見える、そのお振る舞いなども、洗練されて、気圧されるような感じまでが加わっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 171 | と言って、大人ぶった態度でお座りになったので、御前の女房たちは、あれこれ居ずまいを正す。中将が、<BR>⏎ | 152 | と言って,大人ぶった態度でお座りになったので、御前の女房たちは、あれこれ居ずまいを正す。中将が、<BR>⏎ |
| c1 | 174 | 「弁官は、それ以上に、家でのご奉公はお留守になってしまうからと、そうお見捨てではありますまい」<BR>⏎ | 155 | 「弁官は、それ以上に,家でのご奉公はお留守になってしまうからと、そうお見捨てではありますまい」<BR>⏎ |
| c1 | 177 | などと、涙ぐんで拝し上げなさる。二十七、八歳くらいでいらっしゃったので、とても恰幅よくて、姫君たちのご様子を、「何とかして、昔父君がお考えになっていた通りに、したいものだ」と思っていらっしゃった。<BR>⏎ | 158 | などと,涙ぐんで拝し上げなさる。二十七,八歳くらいでいらっしゃったので、とても恰幅よくて、姫君たちのご様子を、「何とかして,昔父君がお考えになっていた通りに、したいものだ」と思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 179-181 | 「お小さくいらした時、この花は、わたしのよ、わたしのよと、お争いになったが、故殿は、姫君のお花だとお決めになる。母上は、若君のお花だとお決めになったが、それをひどくそんなには泣き叫んだりしませんでしたが、おもしろくなく存じられましたよ」と言って、「この桜が老木になったにつけても、過ぎ去った歳月を思い出されますので、大勢の人に先立たれてしまった身の悲しみも、きりがございません」<BR>⏎ などと、泣いたり笑ったりしながら申し上げなさって、いつもよりはのんびりとしていらっしゃる。他の家の婿となって、ゆっくりとは今ではお見えにならないが、花に心を惹かれておいでである。<BR>⏎ <P>⏎ | 160-161 | 「お小さくいらした時、この花は、わたしのよ,わたしのよと、お争いになったが、故殿は、姫君のお花だとお決めになる。母上は,若君のお花だとお決めになったが、それをひどくそんなには泣き叫んだりしませんでしたが、おもしろくなく存じられましたよ」と言って、「この桜が老木になったにつけても、過ぎ去った歳月を思い出されますので、大勢の人に先立たれてしまった身の悲しみも、きりがございません」<BR>⏎ などと,泣いたり笑ったりしながら申し上げなさって、いつもよりはのんびりとしていらっしゃる。他の家の婿となって、ゆっくりとは今ではお見えにならないが、花に心を惹かれておいでである。<BR>⏎ |
| version44 | 182 | <A NAME="in26">[第六段 玉鬘の大君、冷泉院に参院の話]</A><BR> | 162 | |
| c1 | 184 | 「やはり、栄えない気がしましょう。万事が、時流に乗ってこそ、世間の人も認めましょう。なるほど、まことに拝したいお姿は、この世に類なくいらっしゃるようですが、盛りを過ぎた感じがしますね。琴や笛の調子、花や鳥の色や音色も、時期にかなってこそ、人の耳にも止まるものです。春宮は、どうでしょうか」<BR>⏎ | 164 | 「やはり,栄えない気がしましょう。万事が、時流に乗ってこそ、世間の人も認めましょう。なるほど,まことに拝したいお姿は、この世に類なくいらっしゃるようですが、盛りを過ぎた感じがしますね。琴や笛の調子、花や鳥の色や音色も、時期にかなってこそ、人の耳にも止まるものです。春宮は、どうでしょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 186 | 「さあ、どんなものかしら、最初から重々しい方が、並ぶ者がいないような勢いで、いらっしゃるようですからね。なまじっかの宮仕えは、胸を痛め物笑いになることもあろうかと、気が引けますので。殿が生きていらっしゃったならば、将来のご運は判らないが、この今は、張り合いのある状態になさっていたでしょうに」<BR>⏎ | 166 | 「さあ,どんなものかしら,最初から重々しい方が、並ぶ者がいないような勢いで、いらっしゃるようですからね。なまじっかの宮仕えは、胸を痛め物笑いになることもあろうかと、気が引けますので。殿が生きていらっしゃったならば、将来のご運は判らないが、この今は、張り合いのある状態になさっていたでしょうに」<BR>⏎ |
| d1 | 188 | <P>⏎ | ||
| version44 | 189 | <A NAME="in27">[第七段 蔵人少将、姫君たちを垣間見る]</A><BR> | 168 | |
| c2 | 192-193 | と、ふざけて申し合いなさる。暗くなったので、端近くで打ち終えなさる。御簾を巻き上げて、女房たちが皆競い合ってお祈り申し上げる。ちょうどその時、いつもの蔵人少将が、藤侍従の君のお部屋に来ていたのだが、兄弟連れ立ってお出になったので、だいたいが人の少ない上に、廊の戸が開いていたので、静かに近寄って覗き込んだ。<BR>⏎ このように、嬉しい機会を見つけたのは、仏などが姿を現しなさった時に出会ったような気がするのも、あわれな恋心というものである。夕暮の霞に隠れて、はっきりとはしないが、よくよく見ると、桜色の色目も、はっきりそれと分かった。なるほど、花の散った後の形見として見たく、美しさがいっぱいお見えなのを、ますますよそに嫁ぎなさることを、侘しく思いがまさる。若い女房たちのうちとけている姿、姿が、夕日に映えて美しく見える。右方がお勝ちあそばした。「高麗の乱声が、遅い」などと、はしゃいで言う女房もいる。<BR>⏎ | 171-172 | と,ふざけて申し合いなさる。暗くなったので、端近くで打ち終えなさる。御簾を巻き上げて、女房たちが皆競い合ってお祈り申し上げる。ちょうどその時,いつもの蔵人少将が、藤侍従の君のお部屋に来ていたのだが、兄弟連れ立ってお出になったので、だいたいが人の少ない上に、廊の戸が開いていたので、静かに近寄って覗き込んだ。<BR>⏎ このように,嬉しい機会を見つけたのは、仏などが姿を現しなさった時に出会ったような気がするのも、あわれな恋心というものである。夕暮の霞に隠れて、はっきりとはしないが、よくよく見ると、桜色の色目も、はっきりそれと分かった。なるほど,花の散った後の形見として見たく、美しさがいっぱいお見えなのを、ますますよそに嫁ぎなさることを、侘しく思いがまさる。若い女房たちのうちとけている姿,姿が、夕日に映えて美しく見える。右方がお勝ちあそばした。「高麗の乱声が、遅い」などと、はしゃいで言う女房もいる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 195-196 | と、右方は気持ちよさそうに応援申し上げる。どのような事情でと知りらないが、おもしろいと聞いて、返事もしたいが、「寛いでいらっしゃる時に、心ない態度では」と思って、邸をお出になった。「再び、このような機会はないか」と、物蔭に隠れて、窺い歩くのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 174 | と,右方は気持ちよさそうに応援申し上げる。どのような事情でと知りらないが、おもしろいと聞いて、返事もしたいが、「寛いでいらっしゃる時に、心ない態度では」と思って、邸をお出になった。「再び,このような機会はないか」と、物蔭に隠れて、窺い歩くのであった。<BR>⏎ |
| version44 | 197 | <A NAME="in28">[第八段 姫君たち、桜花を惜しむ和歌を詠む]</A><BR> | 175 | |
| cd2:1 | 199-200 | 「桜のせいで吹く風ごとに気が揉めます<BR>⏎ わたしを思ってくれない花だと思いながらも」<BR>⏎ | 177 | 「桜のせいで吹く風ごとに気が揉めます<BR> わたしを思ってくれない花だと思いながらも」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 202-203 | 「咲いたかと見ると一方では散ってしまう花なので<BR>⏎ 負けて木を取られたことを深く恨みません」<BR>⏎ | 179 | 「咲いたかと見ると一方では散ってしまう花なので<BR> 負けて木を取られたことを深く恨みません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 205-206 | 「風に散ることは世の常のことですが、枝ごとそっくり<BR>⏎ こちらの木になった花を平気で見ていられないでしょう」<BR>⏎ | 181 | 「風に散ることは世の常のことですが、枝ごとそっくり<BR> こちらの木になった花を平気で見ていられないでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 208-209 | 「こちらに味方して池の汀に散る花よ<BR>⏎ 水の泡となってもこちらに流れ寄っておくれ」<BR>⏎ | 183 | 「こちらに味方して池の汀に散る花よ<BR> 水の泡となってもこちらに流れ寄っておくれ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 211-212 | 「大空の風に散った桜の花を<BR>⏎ わたしのものと思って掻き集めて見ました」<BR>⏎ | 185 | 「大空の風に散った桜の花を<BR> わたしのものと思って掻き集めて見ました」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 214-215 | 「桜の花のはなやかな美しさを方々に散らすまいとしても<BR>⏎ 大空を覆うほど大きな袖がございましょうか<BR>⏎ | 187 | 「桜の花のはなやかな美しさを方々に散らすまいとしても<BR> 大空を覆うほど大きな袖がございましょうか<BR>⏎ |
| d1 | 217 | <P>⏎ | ||
| version44 | 218 | <H4>第三章 玉鬘の大君の物語 冷泉院に参院</H4> | 189 | |
| version44 | 219 | <A NAME="in31">[第一段 大君、冷泉院に参院決定]</A><BR> | 190 | |
| c1 | 222 | などと、たいそう懇切に申し上げなさる。「前世からの因縁でいらっしゃるのだろう。とてもこのように反対する立場の方がお勧め申すのも恐れ多い」などとお思いになった。<BR>⏎ | 193 | などと,たいそう懇切に申し上げなさる。「前世からの因縁でいらっしゃるのだろう。とてもこのように反対する立場の方がお勧め申すのも恐れ多い」などとお思いになった。<BR>⏎ |
| c1 | 225 | などと、不憫でならないように申し上げなさるが、「困ったことだわ」と、お嘆きになって、<BR>⏎ | 196 | などと,不憫でならないように申し上げなさるが、「困ったことだわ」と、お嘆きになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 227-228 | などと申し上げなさるのも、この院に参るのを過ごして、中の君をとお思いなのであろう。「時期を一緒にしては、あまりに得意顔に見えよう。まだ、位なども低いほどだから」などとお思いになると、男は、まったく気持ちを移せそうもなく、ちらっと拝見した後は、面影に立って恋しく、どのような機会にとばかり思っていたが、このように頼みの綱も切れてしまったのを、お嘆きになることはこの上もない。<BR>⏎ <P>⏎ | 198 | などと申し上げなさるのも、この院に参るのを過ごして、中の君をとお思いなのであろう。「時期を一緒にしては、あまりに得意顔に見えよう。まだ,位なども低いほどだから」などとお思いになると、男は、まったく気持ちを移せそうもなく、ちらっと拝見した後は、面影に立って恋しく、どのような機会にとばかり思っていたが、このように頼みの綱も切れてしまったのを、お嘆きになることはこの上もない。<BR>⏎ |
| version44 | 229 | <A NAME="in32">[第二段 蔵人少将、藤侍従を訪問]</A><BR> | 199 | |
| cd3:2 | 231-233 | 「わたしの気持ちを分かっていただけずに過ぎてゆく年月を数えていますと<BR>⏎ 恨めしくも春の暮になりました」<BR>⏎ 「他人はこのように、悠長に体裁よく恨んでいるようだが、自分のまことに物笑いになる焦りかたを、一つには馴れっこになって、軽んじられることになってしまったのだ」と思うのも、胸が痛むので、特に何も言うことができず、いつも、親しくしている中将のおもとのお部屋の方に行くが、例によって、効のないことだと、溜息をつきがちである。<BR>⏎ | 201-202 | 「わたしの気持ちを分かっていただけずに過ぎてゆく年月を数えていますと<BR> 恨めしくも春の暮になりました」<BR>⏎ 「他人はこのように、悠長に体裁よく恨んでいるようだが、自分のまことに物笑いになる焦りかたを、一つには馴れっこになって、軽んじられることになってしまったのだ」と思うのも、胸が痛むので、特に何も言うことができず、いつも,親しくしている中将のおもとのお部屋の方に行くが、例によって、効のないことだと、溜息をつきがちである。<BR>⏎ |
| c2 | 236-237 | 「あれくらいの夢でも、再び見たいものだなあ。ああ、何を頼みにして生きていよう。このように申し上げることも、寿命少なく思われますので、つれない仕打ちも懐かしい、ということは、本当ですね」<BR>⏎ と、実に真顔になって言う。「お気の毒だと言って、も慰めようもないことである。あのお慰め下さるというお話は、少しも嬉しいと思うような様子もないので、なるほど、あの夕暮のはっきりと見えたことに、ますますこのように無闇な思いが募ったのだろう」と、無理もないことに思って、<BR>⏎ | 205-206 | 「あれくらいの夢でも、再び見たいものだなあ。ああ,何を頼みにして生きていよう。このように申し上げることも、寿命少なく思われますので、つれない仕打ちも懐かしい、ということは、本当ですね」<BR>⏎ と,実に真顔になって言う。「お気の毒だと言って、も慰めようもないことである。あのお慰め下さるというお話は、少しも嬉しいと思うような様子もないので、なるほど,あの夕暮のはっきりと見えたことに、ますますこのように無闇な思いが募ったのだろう」と、無理もないことに思って、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 239-242 | と、反対に文句を言うと、<BR>⏎ 「ええい、どうともなれ。もうおしまいの身だから、何も恐くはなくなってしまった。それにしてもお負けになったことが、実にお気の毒であった。あっさりと招き入れてくれたら。目配せ申したら、絶対に勝ったろうものを」などと言って、<BR>⏎ 「いったい何ということか、物の数でもない身なのに<BR>⏎ かなえることができないのは負けじ魂だとは」<BR>⏎ | 208-210 | と,反対に文句を言うと、<BR>⏎ 「ええい,どうともなれ。もうおしまいの身だから、何も恐くはなくなってしまった。それにしてもお負けになったことが、実にお気の毒であった。あっさりと招き入れてくれたら。目配せ申したら、絶対に勝ったろうものを」などと言って、<BR>⏎ 「いったい何ということか、物の数でもない身なのに<BR> かなえることができないのは負けじ魂だとは」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 244-245 | 「無理なこと、強い方が勝つ勝負事を<BR>⏎ あなたのお心一つでどうなりましょう」<BR>⏎ | 212 | 「無理なこと、強い方が勝つ勝負事を<BR> あなたのお心一つでどうなりましょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 247-248 | 「かわいそうだと思って、姫君をわたしに許してください<BR>⏎ この先の生死はあなた次第のわが身と思われるならば」<BR>⏎ | 214 | 「かわいそうだと思って、姫君をわたしに許してください<BR> この先の生死はあなた次第のわが身と思われるならば」<BR>⏎ |
| d1 | 250 | <P>⏎ | ||
| version44 | 251 | <A NAME="in33">[第三段 四月一日、蔵人少将、玉鬘へ和歌を贈る]</A><BR> | 216 | |
| c1 | 253 | 「院がお耳にあそばすこともあろう。どうして、真剣に聞き入れてくれることがあろう、と思って、悔しいことに、お会いした時に申し上げずじまいだった。自分が無理を押して申し上げたら、いくらなんでもお断りになならなかっただろうに」<BR>⏎ | 218 | 「院がお耳にあそばすこともあろう。どうして,真剣に聞き入れてくれることがあろう、と思って、悔しいことに、お会いした時に申し上げずじまいだった。自分が無理を押して申し上げたら、いくらなんでもお断りになならなかっただろうに」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 255-256 | 「花を見て春は過ごしました。今日からは<BR>⏎ 茂った木の下で途方に暮れることでしょう」<BR>⏎ | 220 | 「花を見て春は過ごしました.今日からは<BR> 茂った木の下で途方に暮れることでしょう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 260-263 | などと申し上げると、尚侍の君も、不憫だとお聞きになる。大臣や、北の方のお考えにより、どうしても少将の恨みが深いのならばと、中の君を少将にと代わりをお考えになった上でのこのお参りを、邪魔しているように思っているのはけしからぬこと、この上ない身分の方でも、臣下であっては、絶対に許さないと、故殿がご遺言なさっていたものを、院に参りなさることでさえ、将来見栄えがしないものをとお思いになっていた、ちょうどその時に、このお手紙を受け取って気の毒がる。お返事は、<BR>⏎ 「今日こそ分かりました、空を眺めているようなふりをして<BR>⏎ 花に心を奪われていらしたのだと」<BR>⏎ 「まあ、お気の毒な。冗談事にしてしまうのですね」<BR>⏎ | 224-226 | などと申し上げると、尚侍の君も、不憫だとお聞きになる。大臣や,北の方のお考えにより、どうしても少将の恨みが深いのならばと、中の君を少将にと代わりをお考えになった上でのこのお参りを、邪魔しているように思っているのは けしからぬこと、この上ない身分の方でも、臣下であっては、絶対に許さないと、故殿がご遺言なさっていたものを、院に参りなさることでさえ、将来見栄えがしないものをとお思いになっていた、ちょうどその時に、このお手紙を受け取って気の毒がる。お返事は、<BR>⏎ 「今日こそ分かりました、空を眺めているようなふりをして<BR> 花に心を奪われていらしたのだと」<BR>⏎ 「まあ,お気の毒な。冗談事にしてしまうのですね」<BR>⏎ |
| d1 | 265 | <P>⏎ | ||
| version44 | 266 | <A NAME="in34">[第四段 四月九日、大君、冷泉院に参院]</A><BR> | 228 | |
| c1 | 271 | と言って、源少将、兵衛佐など、を差し上げなさった。「ご厚意ありがとうございます」と、お礼申し上げなさる。大納言殿からも、女房たちのお車を差し上げなさる。北の方は、故大臣の娘で、真木柱の姫君なので、どちらの関係から見ても、親しくご交際なさり合うはずでいらっしゃるが、そんなにでもない。<BR>⏎ | 233 | と言って,源少将、兵衛佐など、を差し上げなさった。「ご厚意ありがとうございます」と、お礼申し上げなさる。大納言殿からも、女房たちのお車を差し上げなさる。北の方は、故大臣の娘で、真木柱の姫君なので、どちらの関係から見ても、親しくご交際なさり合うはずでいらっしゃるが、そんなにでもない。<BR>⏎ |
| d1 | 273 | <P>⏎ | ||
| version44 | 274 | <A NAME="in35">[第五段 蔵人少将、大君と和歌を贈答]</A><BR> | 235 | |
| cd2:1 | 279-280 | 「あわれという一言も、この無常の世に<BR>⏎ いったいどなたに言い掛けたらよいのでしょう<BR>⏎ | 240 | 「あわれという一言も、この無常の世に<BR> いったいどなたに言い掛けたらよいのでしょう<BR>⏎ |
| cd2:1 | 284-285 | 「生きているこの世の生死は思う通りにならないので<BR>⏎ 聞かずに諦めきれましょうか、あなたのあわれという一言を<BR>⏎ | 244 | 「生きているこの世の生死は思う通りにならないので<BR> 聞かずに諦めきれましょうか、あなたのあわれという一言を<BR>⏎ |
| d1 | 288 | <P>⏎ | ||
| version44 | 289 | <A NAME="in36">[第六段 冷泉院における大君と薫君]</A><BR> | 247 | |
| c2 | 290-291 | 女房や、女童、無難な者だけを揃えられた。大方の儀式などは、帝に入内なさる時と、違った所がない。まず、女御の御方に参上なさって、尚侍の君は、ご挨拶など申し上げなさる。夜が更けてから院の御座所にお上がりになった。<BR>⏎ 后や、女御など、皆、長年、院にあって年配になっていらっしゃるので、とてもかわいらしく、女盛りで見所のある様子をお見せ申し上げなさっては、どうしていいかげんに思われよう。はなやかに御寵愛を受けられなさる。臣下のように、気安くお暮らしになっていらっしゃる様子が、なるほど、申し分なく立派なのであった。<BR>⏎ | 248-249 | 女房や、女童、無難な者だけを揃えられた。大方の儀式などは、帝に入内なさる時と、違った所がない。まず,女御の御方に参上なさって、尚侍の君は、ご挨拶など申し上げなさる。夜が更けてから 院の御座所にお上がりになった。<BR>⏎ 后や,女御など、皆,長年,院にあって年配になっていらっしゃるので、とてもかわいらしく、女盛りで見所のある様子をお見せ申し上げなさっては、どうしていいかげんに思われよう。はなやかに御寵愛を受けられなさる。臣下のように、気安くお暮らしになっていらっしゃる様子が、なるほど,申し分なく立派なのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 293 | 源侍従の君を、明け暮れ御前にお召しになって離さずにいられるので、なるほど、まるで昔の光る源氏がご成人なさった時に劣らない御寵愛ぶりである。院の内では、どの御方とも別け隔てなく、親しくお出入りしていらっしゃる。こちらの御方にも、好意を寄せているように振る舞って、内心では、どのように思っていらっしゃるのだろうという考えまでがおありであった。<BR>⏎ | 251 | 源侍従の君を、明け暮れ御前にお召しになって離さずにいられるので、なるほど,まるで昔の光る源氏がご成人なさった時に劣らない御寵愛ぶりである。院の内では、どの御方とも別け隔てなく、親しくお出入りしていらっしゃる。こちらの御方にも、好意を寄せているように振る舞って、内心では、どのように思っていらっしゃるのだろうという考えまでがおありであった。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 295-299 | 「手に取ることができるものなら、藤の花の<BR>⏎ 松の緑より勝れた色を空しく眺めていましょうか」<BR>⏎ と言って、花を見上げている様子など、妙に気の毒に思われるので、自分の本心からでないことにほのめかす。<BR>⏎ 「紫の色は同じだが、あの藤の花は<BR>⏎ わたしの思う通りにできなかったのです」<BR>⏎ | 253-255 | 「手に取ることができるものなら、藤の花の<BR> 松の緑より勝れた色を空しく眺めていましょうか」<BR>⏎ と言って,花を見上げている様子など、妙に気の毒に思われるので、自分の本心からでないことにほのめかす。<BR>⏎ 「紫の色は同じだが、あの藤の花は<BR> わたしの思う通りにできなかったのです」<BR>⏎ |
| d1 | 301 | <P>⏎ | ||
| version44 | 302 | <A NAME="in37">[第七段 失意の蔵人少将と大君のその後]</A><BR> | 257 | |
| c3 | 307-309 | と、とても不愉快に思って、尚侍の君をお責め申し上げなさる。<BR>⏎ 「さあね。たった今、このように、急に思いついたのではなかったのに。無理やりに、お気の毒なほど仰せになったので、後見のない宮仕えの宮中生活は、頼りないようですが、今では気楽な御生活のようなので、お預け申して、と思ったからです。誰も彼もが、不都合なことは、率直に注意なさらずに、今頃むし返して、右大臣殿も、間違っていたような、おっしゃりようをなさるので、辛いことです。これも前世からの因縁でしょうよ」<BR>⏎ と、穏やかにおっしゃって、動揺なさらない。<BR>⏎ | 262-264 | と,とても不愉快に思って、尚侍の君をお責め申し上げなさる。<BR>⏎ 「さあね。たった今、このように,急に思いついたのではなかったのに。無理やりに、お気の毒なほど仰せになったので、後見のない宮仕えの宮中生活は、頼りないようですが、今では気楽な御生活のようなので、お預け申して、と思ったからです。誰も彼もが、不都合なことは、率直に注意なさらずに、今頃むし返して、右大臣殿も、間違っていたような、おっしゃりようをなさるので、辛いことです。これも前世からの因縁でしょうよ」<BR>⏎ と,穏やかにおっしゃって、動揺なさらない。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 312-314 | などと、二人して申し上げなさるので、尚侍の君、とても辛くお思いになって、その一方では、この上ない御寵愛が、月日とともに深まって行く。<BR>⏎ 七月からご懐妊なさったのであった。「苦しそうにしていらっしゃる様子は、なるほど、男性たちがいろいろと求婚申して困らせたのも、もっともである。どうしてこのような方を、軽く見聞きしてそのまま放っていられようか」と思われる。毎日のように、管弦の御遊をなさっては、侍従もお側近くにお召しになるので、お琴の音などをお聞きになる。あの「梅が枝」に合奏した中将のおもとの和琴も、いつも召し出して弾かせなさるので、それと聞くにつけても、平静ではいられなかった。<BR>⏎ <P>⏎ | 267-268 | などと,二人して申し上げなさるので、尚侍の君、とても辛くお思いになって、その一方では,この上ない御寵愛が、月日とともに深まって行く。<BR>⏎ 七月からご懐妊なさったのであった。「苦しそうにしていらっしゃる様子は、なるほど,男性たちがいろいろと求婚申して困らせたのも、もっともである。どうしてこのような方を、軽く見聞きしてそのまま放っていられようか」と思われる。毎日のように、管弦の御遊をなさっては、侍従もお側近くにお召しになるので、お琴の音などをお聞きになる。あの「梅が枝」に合奏した中将のおもとの和琴も、いつも召し出して弾かせなさるので、それと聞くにつけても、平静ではいられなかった。<BR>⏎ |
| version44 | 315 | <H4>第四章 玉鬘の物語 玉鬘の姫君たちの物語</H4> | 269 | |
| version44 | 316 | <A NAME="in41">[第一段 正月、男踏歌、冷泉院に回る]</A><BR> | 270 | |
| c1 | 318 | 十四日の月が明るく雲がないので、御前を出発して、冷泉院に参る。女御も、この御息所も、院の御殿に上局を設けて御覧になる。上達部、親王たちが、連れ立って参上なさる。<BR>⏎ | 272 | 十四日の月が明るく雲がないので、御前を出発して、冷泉院に参る。女御も、この御息所も、院の御殿に上局を設けて御覧になる。上達部,親王たちが、連れ立って参上なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 322 | <P>⏎ | ||
| version44 | 323 | <A NAME="in42">[第二段 翌日、冷泉院、薫を召す]</A><BR> | 276 | |
| c1 | 324 | 一晩中、方々を歩いて、とても気分が苦しくて臥せっているところに、源侍従を、院から召されたので、「ああ、苦しい。もう暫く休みたいのに」と文句を言いながら参上なさった。宮中でのことなどをお尋ねあそばす。<BR>⏎ | 277 | 一晩中、方々を歩いて、とても気分が苦しくて臥せっているところに、源侍従を、院から召されたので、「ああ,苦しい。もう暫く休みたいのに」と文句を言いながら参上なさった。宮中でのことなどをお尋ねあそばす。<BR>⏎ |
| c1 | 326 | とおっしゃって、かわいいとお思いになっているようである。「万春楽」をお口ずさみなさりながら、御息所の御方にお渡りあそばすので、お供して参上なさる。見物に参った里方の人が多くて、いつもより華やかで、雰囲気が賑やかである。<BR>⏎ | 279 | とおっしゃって,かわいいとお思いになっているようである。「万春楽」をお口ずさみなさりながら、御息所の御方にお渡りあそばすので、お供して参上なさる。見物に参った里方の人が多くて、いつもより華やかで、雰囲気が賑やかである。<BR>⏎ |
| cd8:6 | 331-338 | 「竹河を謡ったあの夜のことは覚えていらっしゃいますか<BR>⏎ 思い出すほどの出来事はございませんが」<BR>⏎ と言う。ちょっとしたことだが、涙ぐまれるのも、「なるほど、浅いご思慕ではなかったのだ」と、自分ながら分かって来る。<BR>⏎ 「今までの期待も空しいとことと分かって<BR>⏎ 世の中は嫌なものだとつくづく思い知りました」<BR>⏎ しんみりした様子を、女房たちは面白がる。とはいえ、態度に現して少将のようには泣き言はおっしゃらなかったが、人柄がそうは言ってもお気の毒に見えるのである。<BR>⏎ 「おしゃべりし過ぎましては。では、失礼」<BR>⏎ と言って、立つところに、「こちらへ」とお召しがあったので、きまりの悪い思いがしたが、参上なさる。<BR>⏎ | 284-289 | 「竹河を謡ったあの夜のことは覚えていらっしゃいますか<BR> 思い出すほどの出来事はございませんが」<BR>⏎ と言う。ちょっとしたことだが、涙ぐまれるのも、「なるほど,浅いご思慕ではなかったのだ」と、自分ながら分かって来る。<BR>⏎ 「今までの期待も空しいとことと分かって<BR> 世の中は嫌なものだとつくづく思い知りました」<BR>⏎ しんみりした様子を、女房たちは面白がる。とはいえ,態度に現して少将のようには泣き言はおっしゃらなかったが、人柄がそうは言ってもお気の毒に見えるのである。<BR>⏎ 「おしゃべりし過ぎましては。では,失礼」<BR>⏎ と言って,立つところに、「こちらへ」とお召しがあったので、きまりの悪い思いがしたが、参上なさる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 340-342 | などとご想像なさって、お琴類を調子を合わせあそばして、箏は御息所、琵琶は侍従にお与えになる。和琴をお弾きあそばして、「この殿」などを演奏なさる。御息所のお琴の音色は、まだ未熟なところがあったが、とてもよくお教え申し上げなさったのであった。華やかで爪音がよくて、歌謡の伴奏と、楽曲などを上手にたいそうよくお弾きになる。どのようなことも、心配で、至らないところはおありでない方のようである。<BR>⏎ 器量は、もちろんまた、実に素晴らしいのだろうと、やはり心が惹かれる。このような機会は多いが、自然とうとうとしくなく、程度を越すことはなく、馴れ馴れしく恨み言を言わないが、折々にふれて、望みが叶わなかった残念さをほのめかすのも、どのようにお思いになったであろうか、よく分からない。<BR>⏎ <P>⏎ | 291-292 | などとご想像なさって、お琴類を調子を合わせあそばして、箏は御息所、琵琶は侍従にお与えになる。和琴をお弾きあそばして、「この殿」などを演奏なさる。御息所のお琴の音色は、まだ未熟なところがあったが、とてもよくお教え申し上げなさったのであった。華やかで爪音がよくて、歌謡の伴奏と,楽曲などを 上手にたいそうよくお弾きになる。どのようなことも、心配で、至らないところはおありでない方のようである。<BR>⏎ 器量は、もちろんまた,実に素晴らしいのだろうと、やはり心が惹かれる。このような機会は多いが、自然とうとうとしくなく、程度を越すことはなく、馴れ馴れしく恨み言を言わないが、折々にふれて、望みが叶わなかった残念さをほのめかすのも、どのようにお思いになったであろうか、よく分からない。<BR>⏎ |
| version44 | 343 | <A NAME="in43">[第三段 四月、大君に女宮誕生]</A><BR> | 293 | |
| d1 | 348 | <P>⏎ | ||
| version44 | 349 | <A NAME="in44">[第四段 玉鬘、夕霧へ手紙を贈る]</A><BR> | 298 | |
| c1 | 350 | 「こうして、気楽に宮中生活をなさってください」と、お思いになるが、「お気の毒に、少将のことを、母北の方がわざわざおっしゃったものを。お頼み申したようにほのめかしてくださったが、どのように思っていらっしゃるだろう」と気になさる。<BR>⏎ | 299 | 「こうして,気楽に宮中生活をなさってください」と、お思いになるが、「お気の毒に、少将のことを、母北の方がわざわざおっしゃったものを。お頼み申したようにほのめかしてくださったが、どのように思っていらっしゃるだろう」と気になさる。<BR>⏎ |
| c1 | 354 | 「帝の御不興は、お咎めがあるのも、ごもっともなことと拝します。公事に関しても、宮仕えなさらないのは、よくないことです。早く、ご決心なさい」<BR>⏎ | 303 | 「帝の御不興は、お咎めがあるのも、ごもっともなことと拝します。公事に関しても、宮仕えなさらないのは、よくないことです。早く,ご決心なさい」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 356-357 | また、今度は、中宮の御機嫌伺いして参内する。「大臣が生きていらっしゃったならば、どなたもないがしろになさりはしないだろうに」などと、しみじみと悲しい思いをする。姉君は、器量なども評判高く、美しいとお聞きあそばしていらしたが、代わりなさったので、ご不満のようであるが、こちらもとても気が利いていて、奥ゆかしく振る舞って伺候なさっている。<BR>⏎ <P>⏎ | 305 | また,今度は、中宮の御機嫌伺いして参内する。「大臣が生きていらっしゃったならば、どなたもないがしろになさりはしないだろうに」などと、しみじみと悲しい思いをする。姉君は、器量なども評判高く、美しいと お聞きあそばしていらしたが、代わりなさったので、ご不満のようであるが、こちらもとても気が利いていて、奥ゆかしく振る舞って伺候なさっている。<BR>⏎ |
| version44 | 358 | <A NAME="in45">[第五段 玉鬘、出家を断念]</A><BR> | 306 | |
| c1 | 361 | と、君たちが申し上げなさるので、思いお留まりなさって、宮中へは、時々こっそりと参内なさる時もある。院へは、厄介なお気持ちがなおも続いているので、参上なさるべき時にも、まったく参上なさらない。昔の事を思い出したが、そうは言っても、恐れ多く思われたお詫びに、誰も不賛成に思っていたことを、知らず顔に院に差し上げて、「自分自身までが、冗談にせよ、年がいもない浮名が世間に流れ出したら、とても目も当てられず恥ずかしいことだろう」とお思いになるが、そのような憚りがあるからとは、はたまた、御息所にも打ち明けて申し上げなさらないので、「わたしを、昔から、故大臣は特別にかわいがり、尚侍の君は、若君を、桜の木の争いや、ちょっとした時にも、味方なさった続きで、わたしをあまり思ってくださらないのだ」と、恨めしくお思い申し上げていらっしゃるのであった。院の上は、院の上でまた、それ以上に辛いとお思いになりお口にお出しあそばすのであった。<BR>⏎ | 309 | と,君たちが申し上げなさるので、思いお留まりなさって、宮中へは、時々こっそりと参内なさる時もある。院へは、厄介なお気持ちがなおも続いているので、参上なさるべき時にも、まったく参上なさらない。昔の事を思い出したが、そうは言っても、恐れ多く思われたお詫びに、誰も不賛成に思っていたことを、知らず顔に院に差し上げて、「自分自身までが、冗談にせよ、年がいもない浮名が世間に流れ出したら、とても目も当てられず恥ずかしいことだろう」とお思いになるが、そのような憚りがあるからとは、はたまた,御息所にも打ち明けて申し上げなさらないので、「わたしを,昔から、故大臣は特別にかわいがり、尚侍の君は、若君を、桜の木の争いや、ちょっとした時にも、味方なさった続きで、わたしをあまり思ってくださらないのだ」と、恨めしくお思い申し上げていらっしゃるのであった。院の上は,院の上でまた、それ以上に辛いとお思いになりお口にお出しあそばすのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 363-364 | と、お語らいになって、いとしく思われる気持ちはますます深まる。<BR>⏎ <P>⏎ | 311 | と,お語らいになって、いとしく思われる気持ちはますます深まる。<BR>⏎ |
| version44 | 365 | <A NAME="in46">[第六段 大君、男御子を出産]</A><BR> | 312 | |
| c1 | 370 | と、ますますお責めになる。心穏やかならず、聞き苦しいままに、<BR>⏎ | 317 | と,ますますお責めになる。心穏やかならず、聞き苦しいままに、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 372-373 | と、大上はお嘆きになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 319 | と,大上はお嘆きになる。<BR>⏎ |
| version44 | 374 | <A NAME="in47">[第七段 求婚者たちのその後]</A><BR> | 320 | |
| c1 | 375 | 求婚申し上げた人びとで、それぞれ立派に昇進して、結婚なさったしても、不似合いでない方は大勢いることよ。その中で、源侍従と言って、たいそう若く、ひ弱に見えた方は宰相中将になって、「匂うよ、薫よ」と、聞き苦しいほどもてはやされるが、なるほど、人柄も落ち着いて奥ゆかしいので、高貴な親王方、大臣が、娘を結婚させようとおっしゃるのなどにも、聞き入れないなどと聞くにつけても、「あの頃は、若く頼りないようであったが、立派に成人なさったようだ」などと、言っていらっしゃる。<BR>⏎ | 321 | 求婚申し上げた人びとで、それぞれ立派に昇進して、結婚なさったしても、不似合いでない方は大勢いることよ。その中で、源侍従と言って、たいそう若く、ひ弱に見えた方は 宰相中将になって、「匂うよ、薫よ」と、聞き苦しいほどもてはやされるが、なるほど,人柄も落ち着いて奥ゆかしいので、高貴な親王方,大臣が,娘を 結婚させようとおっしゃるのなどにも、聞き入れないなどと聞くにつけても、「あの頃は、若く頼りないようであったが、立派に成人なさったようだ」などと、言っていらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 378 | などと、意地悪な女房たちは、こっそりと、<BR>⏎ | 324 | などと,意地悪な女房たちは、こっそりと、<BR>⏎ |
| ci1:2 | 380 | などと言う者もいて、お気の毒に見えた。この中将は、依然として思い染めた気持ちがさめず、嫌で辛くも思いながら、左大臣の姫君を得たが、全然愛情を感じず、「道の果てなる常陸帯の」と、手習いにも口ぐせにもしているのは、どのように思ってのことであろうか。<BR>⏎ | 326-327 | などと言う者もいて、お気の毒に見えた。<BR>⏎ この中将は、依然として思い染めた気持ちがさめず、嫌で辛くも思いながら、左大臣の姫君を得たが、全然愛情を感じず、「道の果てなる常陸帯の」と、手習いにも口ぐせにもしているのは、どのように思ってのことであろうか。<BR>⏎ |
| d1 | 382 | <P>⏎ | ||
| version44 | 383 | <H4>第五章 薫君の物語 人びとの昇進後の物語</H4> | 329 | |
| version44 | 384 | <A NAME="in51">[第一段 薫、玉鬘邸に昇進の挨拶に参上]</A><BR> | 330 | |
| c1 | 385 | 左大臣がお亡くなりになって、右は左に、藤大納言は、左大将を兼官なさった右大臣におなりになる。順々下の人びとが昇進して、この薫中将は、中納言に、三位の君は宰相になって、ご昇進なさった方々は、これら一族以外に人もいないといった時勢であった。<BR>⏎ | 331 | 左大臣がお亡くなりになって、右は左に、藤大納言は、左大将を兼官なさった右大臣におなりになる。順々下の人びとが昇進して、この薫中将は、中納言に、三位の君は 宰相になって、ご昇進なさった方々は、これら一族以外に人もいないといった時勢であった。<BR>⏎ |
| c2 | 387-388 | 「このように、とても草深くなって行く葎の門を、お避けにならないお心使いに対して、まず昔の六条院の御事が思い出されまして」<BR>⏎ などと申し上げなさる、お声は、上品で愛嬌があって、耳に快く響く。「いつまでもお若くいらっしゃるな。これだから、院のお上はお恨みになるお心が褪せないのだ。そのうちきっと、事件をお起こしになるだろう」と思う。<BR>⏎ | 333-334 | 「このように,とても草深くなって行く葎の門を、お避けにならないお心使いに対して、まず昔の六条院の御事が思い出されまして」<BR>⏎ などと申し上げなさる、お声は、上品で愛嬌があって、耳に快く響く。「いつまでもお若くいらっしゃるな。これだから、院のお上は お恨みになるお心が褪せないのだ。そのうちきっと、事件をお起こしになるだろう」と思う。<BR>⏎ |
| c2 | 390-391 | 「今日は、老人の繰り言などを、申し上げるべき時ではないと、気がとがめますが、わざわざお立ち寄りになることは難しいので、お会いしなくては、また、いくらなんでもごたごたした話ですから。<BR>⏎ 院に伺候しておられるのが、とてもひどく宮仕えのことを思い悩んで、宙に浮いたような恰好でうろうろしていますが、女御をご信頼申して、また后の宮の御方にも、そうは言ってもお許し戴けるだろうと、存じておりましたのに、どちらにも礼儀知らずで堪忍できない者とお思いなされたそうなので、とても具合が悪くて、宮たちは、そのまま残しておいでになる。この、とても生活しにくそうな本人は、こうしてせめて気楽にぼんやりとお過ごしなさいと思って、退出させたのですが、それに対しても聞きにくい噂です。<BR>⏎ | 336-337 | 「今日は、老人の繰り言などを、申し上げるべき時ではないと、気がとがめますが、わざわざお立ち寄りになることは難しいので、お会いしなくては、また,いくらなんでもごたごたした話ですから。<BR>⏎ 院に伺候しておられるのが、とてもひどく宮仕えのことを思い悩んで、宙に浮いたような恰好でうろうろしていますが、女御をご信頼申して、また后の宮の御方にも、そうは言ってもお許し戴けるだろうと、存じておりましたのに、どちらにも礼儀知らずで堪忍できない者とお思いなされたそうなので、とても具合が悪くて、宮たちは、そのまま残しておいでになる。この,とても生活しにくそうな本人は、こうしてせめて気楽にぼんやりとお過ごしなさいと思って、退出させたのですが、それに対しても 聞きにくい噂です。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 393-394 | と、涙ぐみなさる様子である。<BR>⏎ <P>⏎ | 339 | と,涙ぐみなさる様子である。<BR>⏎ |
| version44 | 395 | <A NAME="in52">[第二段 薫、玉鬘と対面しての感想]</A><BR> | 340 | |
| c1 | 398 | と、たいそうそっけなく申し上げなさるので、<BR>⏎ | 343 | と,たいそうそっけなく申し上げなさるので、<BR>⏎ |
| c1 | 400 | と、笑っていらっしゃる、人の親として、てきぱきと事を処理していらっしゃる割には、とても若くおっとりとした感じがする。「御息所も、このようなふうでいらっしゃるのだろう。宇治の姫君が心にとまって思われるのも、このような様子に興味惹かれるからだ」と思って座っていらっしゃった。<BR>⏎ | 345 | と,笑っていらっしゃる、人の親として、てきぱきと事を処理していらっしゃる割には、とても若くおっとりとした感じがする。「御息所も、このようなふうでいらっしゃるのだろう。宇治の姫君が心にとまって思われるのも、このような様子に興味惹かれるからだ」と思って座っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 402 | <P>⏎ | ||
| version44 | 403 | <A NAME="in53">[第三段 右大臣家の大饗]</A><BR> | 347 | |
| c1 | 405 | 奥ゆかしく大切にお世話なさっている姫君たちを、一方では、特に気を配って、何とか婿君に、と思い申し上げなさっているようであるが、宮は、どうしたことであろうか、お心を止めにならなかった。源中納言が、ますます理想的に成長して、どのような事にも劣ったことがなくいらっしゃるのを、大臣も北の方も、お目を止めていらっしゃった。<BR>⏎ | 349 | 奥ゆかしく大切にお世話なさっている姫君たちを、一方では,特に気を配って、何とか婿君に,と思い申し上げなさっているようであるが、宮は、どうしたことであろうか、お心を止めにならなかった。源中納言が、ますます理想的に成長して、どのような事にも劣ったことがなくいらっしゃるのを、大臣も北の方も、お目を止めていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 407-408 | 「故宮がお亡くなりになって、間もなく、この大臣がお通いになったことを、まことに軽薄なように世間の人は非難したというが、愛情も薄れずにこのように暮らしておいでなのも、やはり無難なことであった。無常の世の中よ。どちらが良いものでしょうか」などとおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 351 | 「故宮がお亡くなりになって、間もなく、この大臣がお通いになったことを、まことに軽薄なように 世間の人は非難したというが、愛情も薄れずにこのように暮らしておいでなのも、やはり無難なことであった。無常の世の中よ。どちらが良いものでしょうか」などとおっしゃる。<BR>⏎ |
| version44 | 409 | <A NAME="in54">[第四段 宰相中将、玉鬘邸を訪問]</A><BR> | 352 | |
| c1 | 412 | と、涙を拭うのも、わざとらしい。二十七、八歳のほどで、とても男盛りで、華やかな容貌をしていらっしゃった。<BR>⏎ | 355 | と,涙を拭うのも、わざとらしい。二十七,八歳のほどで、とても男盛りで、華やかな容貌をしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 414-416 | とお泣きになる。右兵衛督や、右大弁になったが、皆非参議でいるのを嘆かわしいことと思っていた。侍従と言われていたらしい人は、この頃、頭中将と呼ばれているようである。年齢から言えば、不十分ではないが、人に後れたと嘆いていらっしゃった。宰相は、何やかやとうまいことを言って来て。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 357 | とお泣きになる。右兵衛督や、右大弁になったが、皆非参議でいるのを 嘆かわしいことと思っていた。侍従と言われていたらしい人は、この頃、頭中将と呼ばれているようである。年齢から言えば、不十分ではないが、人に後れたと嘆いていらっしゃった。宰相は、何やかやとうまいことを言って来て。<BR>⏎ |
| d1 | 423 | ⏎ | ||
| i0 | 368 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version45 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 37 | <LI>老女房の弁が応対---<A HREF="#in35">たとえようもなく出しゃばって、「まあ、恐れ多いこと</A>⏎ | 34 | <LI>老女房の弁が応対---<A HREF="#in35">たとえようもなく出しゃばって、「まあ,恐れ多いこと</A>⏎ |
| c1 | 45 | <LI>十月初旬、薫宇治へ赴く---<A HREF="#in41">十月になって、五、六日の間に、宇治へ参られる</A>⏎ | 42 | <LI>十月初旬、薫宇治へ赴く---<A HREF="#in41">十月になって、五,六日の間に、宇治へ参られる</A>⏎ |
| d1 | 52 | <P>⏎ | ||
| version45 | 53 | <H4>第一章 宇治八の宮の物語 隠遁者八の宮</H4> | 49 | |
| version45 | 54 | <A NAME="in11">[第一段 八の宮の家系と家族]</A><BR> | 50 | |
| d1 | 59 | <P>⏎ | ||
| version45 | 60 | <A NAME="in12">[第二段 八の宮と娘たちの生活]</A><BR> | 55 | |
| c3 | 63-65 | 後からお生まれになった姫君を、お仕えする女房たちも、「まあ、悪い時にお生まれになって」などと、ぶつぶつ呟いては、身を入れてお世話申し上げなかったが、臨終の床で、何お分りにならない時ながら、この子をとてもお気の毒にと思って、<BR>⏎ 「ただ、この姫君をわたしの形見とお思いになって、かわいがってください」<BR>⏎ とだけ、わずか一言、宮にご遺言申し上げなさったので、前世からの約束も辛い時だが、「そうなるはずの運命だったのだろうと、ご臨終と見えた時まで、とてもかわいそうにと思って、気がかりにおっしゃったことよ」と、お思い出しになりながら、この姫君を特に、とてもかわいがり申し上げなさる。器量は本当にとてもかわいらしく、不吉なまで美しくいらっしゃった。<BR>⏎ | 58-60 | 後からお生まれになった姫君を、お仕えする女房たちも、「まあ,悪い時にお生まれになって」などと、ぶつぶつ呟いては、身を入れてお世話申し上げなかったが、臨終の床で、何お分りにならない時ながら、この子をとてもお気の毒にと思って、<BR>⏎ 「ただ,この姫君をわたしの形見とお思いになって、かわいがってください」<BR>⏎ とだけ,わずか一言、宮にご遺言申し上げなさったので、前世からの約束も辛い時だが、「そうなるはずの運命だったのだろうと、ご臨終と見えた時まで、とてもかわいそうにと思って、気がかりにおっしゃったことよ」と、お思い出しになりながら、この姫君を特に、とてもかわいがり申し上げなさる。器量は本当にとてもかわいらしく、不吉なまで美しくいらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 68 | <P>⏎ | ||
| version45 | 69 | <A NAME="in13">[第三段 八の宮の仏道精進の生活]</A><BR> | 63 | |
| c3 | 72-74 | このような足手まといたちにかかずらっているのでさえ、心外で残念で、「自分ながらも思うに任せない運命であった」と思われるが、まして、「どうして、世間の人並みに今更再婚などを」とばかり、年月とともに、世の中をお離れになり、心だけはすっかり聖におなりになって、故君がお亡くなりになって以後は、普通の人のような気持ちなどは、冗談にもお思い出しならなかった。<BR>⏎ 「どうして、そんなにまで。死別の悲しみは、二つと世に例のないようにばかり、思われるようだが、時がたてば、そんなでばかりいられようか。やはり、普通の人と同じようなお心づかいをなさって、とてもこのような見苦しく、頼りない宮邸の内も、自然と整って行くこともあるかも知れません」<BR>⏎ と、人は非難申し上げて、何やかやと、もっともらしく申し上げることも、縁故をたどって多かったが、お聞き入れにならなかった。<BR>⏎ | 66-68 | このような足手まといたちにかかずらっているのでさえ、心外で残念で、「自分ながらも思うに任せない運命であった」と思われるが、まして,「どうして,世間の人並みに今更再婚などを」とばかり、年月とともに、世の中をお離れになり、心だけはすっかり聖におなりになって、故君がお亡くなりになって以後は、普通の人のような気持ちなどは、冗談にもお思い出しならなかった。<BR>⏎ 「どうして,そんなにまで。死別の悲しみは、二つと世に例のないようにばかり、思われるようだが、時がたてば、そんなでばかりいられようか。やはり,普通の人と同じようなお心づかいをなさって、とてもこのような見苦しく、頼りない宮邸の内も、自然と整って行くこともあるかも知れません」<BR>⏎ と,人は非難申し上げて、何やかやと、もっともらしく申し上げることも、縁故をたどって多かったが、お聞き入れにならなかった。<BR>⏎ |
| d1 | 76 | <P>⏎ | ||
| version45 | 77 | <A NAME="in14">[第四段 ある春の日の生活]</A><BR> | 70 | |
| cd2:1 | 79-80 | 「見捨てて去って行ったつがいでいた水鳥の雁は<BR>⏎ はかないこの世に子供を残して行ったのだろうか<BR>⏎ | 72 | 「見捨てて去って行ったつがいでいた水鳥の雁は<BR> はかないこの世に子供を残して行ったのだろうか<BR>⏎ |
| c1 | 82 | と、目を拭いなさる。容貌がとても美しくいらっしゃる宮である。長年のご勤行のために痩せ細りなさったが、それでも気品があって優美で、姫君たちをお世話なさるお気持ちから、直衣の柔らかくなったのをお召しになって、つくろわないご様子、とても恥ずかしくなるほど立派である。<BR>⏎ | 74 | と,目を拭いなさる。容貌がとても美しくいらっしゃる宮である。長年のご勤行のために痩せ細りなさったが、それでも気品があって優美で、姫君たちをお世話なさるお気持ちから、直衣の柔らかくなったのをお召しになって、つくろわないご様子、とても恥ずかしくなるほど立派である。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 85-87 | とおっしゃって、紙を差し上げなさると、恥じらってお書きになる。<BR>⏎ 「どうしてこのように大きくなったのだろうと思うにも<BR>⏎ 水鳥のような辛い運命が思い知られます」<BR>⏎ | 77-78 | とおっしゃって,紙を差し上げなさると、恥じらってお書きになる。<BR>⏎ 「どうしてこのように大きくなったのだろうと思うにも<BR> 水鳥のような辛い運命が思い知られます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 91-92 | 「泣きながらも羽を着せかけてくださるお父上がいらっしゃらなかったら<BR>⏎ わたしは大きくなることはできなかったでしょうに」<BR>⏎ | 82 | 「泣きながらも羽を着せかけてくださるお父上がいらっしゃらなかったら<BR> わたしは大きくなることはできなかったでしょうに」<BR>⏎ |
| d1 | 95 | <P>⏎ | ||
| version45 | 96 | <A NAME="in15">[第五段 八の宮の半生と宇治へ移住]</A><BR> | 85 | |
| c1 | 97 | 父帝にも母女御にも、早く先立たれなさって、しっかりしたご後見人が、取り立てていらっしゃらなかったので、学問なども深くお習いになることができず、まして、世の中に生きていくお心構えは、どうしてご存知でいらっしゃったであろうか。身分の高い人と申す中でも、あきれるくらい上品でおっとりした、女性のようでいらっしゃるので、古い世からのご宝物や、祖父大臣のご遺産や、何やかやと尽きないほどあったが、行方もなくあっけなく無くなってしまって、ご調度類などだけが、特別にきちんとして多くあった。<BR>⏎ | 86 | 父帝にも母女御にも、早く先立たれなさって、しっかりしたご後見人が、取り立てていらっしゃらなかったので、学問なども深くお習いになることができず、まして,世の中に生きていくお心構えは、どうしてご存知でいらっしゃったであろうか。身分の高い人と申す中でも、あきれるくらい上品でおっとりした、女性のようでいらっしゃるので、古い世からのご宝物や、祖父大臣のご遺産や、何やかやと尽きないほどあったが、行方もなくあっけなく無くなってしまって、ご調度類などだけが、特別にきちんとして多くあった。<BR>⏎ |
| c1 | 99 | 源氏の大殿の御弟君でいらっしゃったが、冷泉院が春宮でいらっしゃった時に、朱雀院の大后が、あるまじき企みをご計画になって、この宮を、帝位をお継ぎになるように、ご威勢の盛んな時、ご支援申し上げなさった騒動で、つまらなく、あちら方とのお付き合いからは、遠ざけられておしまいになったので、ますますあちら方のご子孫の御世となってしまった世の中では、交際することもお出来になれない。また、ここ数年、このような聖にすっかりなってしまって、今はこれまでと、万事をお諦めになっていた。<BR>⏎ | 88 | 源氏の大殿の御弟君でいらっしゃったが、冷泉院が春宮でいらっしゃった時に、朱雀院の大后が、あるまじき企みをご計画になって、この宮を、帝位をお継ぎになるように、ご威勢の盛んな時、ご支援申し上げなさった騒動で、つまらなく、あちら方とのお付き合いからは、遠ざけられておしまいになったので、ますますあちら方のご子孫の御世となってしまった世の中では、交際することもお出来になれない。また,ここ数年、このような聖にすっかりなってしまって、今はこれまでと、万事をお諦めになっていた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 102-103 | 「北の方も邸も煙となってしまったが<BR>⏎ どうしてわが身だけがこの世に生き残っているのだろう」<BR>⏎ | 91 | 「北の方も邸も煙となってしまったが<BR> どうしてわが身だけがこの世に生き残っているのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 105 | <P>⏎ | ||
| version45 | 106 | <H4>第二章 宇治八の宮の物語 薫、八の宮と親交を結ぶ</H4> | 93 | |
| version45 | 107 | <A NAME="in21">[第一段 八の宮、阿闍梨に師事]</A><BR> | 94 | |
| c1 | 108 | ますます、山また山を隔てたお住まいに、訪問する人もいない。賤しい下衆など、田舎びた山住みの者たちだけが、まれに親しくお仕え申し上げる。峰の朝霧が晴れる時の間もなくて、明かし暮らしなさっているが、この宇治山に、聖めいた阿闍梨が住んでいた。<BR>⏎ | 95 | ますます,山また山を隔てたお住まいに、訪問する人もいない。賤しい下衆など、田舎びた山住みの者たちだけが、まれに親しくお仕え申し上げる。峰の朝霧が晴れる時の間もなくて、明かし暮らしなさっているが、この宇治山に、聖めいた阿闍梨が住んでいた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 112-113 | などと、隔意なくお話なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 99 | などと,隔意なくお話なさる。<BR>⏎ |
| version45 | 114 | <A NAME="in22">[第二段 冷泉院にて阿闍梨と薫語る]</A><BR> | 100 | |
| cd5:4 | 121-125 | 「なるほど、また、この姫君たちが、琴を合奏なさって楽しんでいらっしゃるのが、川波と競って聞こえますのは、たいそう興趣あって、極楽もかくやと想像されますね」<BR>⏎ と、古風に誉めるので、院の帝はほほ笑みなさって、<BR>⏎ 「そのような聖の近くにお育ちになって、この世の方面のことは、暗かろうと想像されるが、興趣あることだね。気がかりで見捨てることができず、苦にしていらっしゃるだろうことが、もし、少しでも後に自分が生き残っているようであったら、後見役をお譲りなさらないだろうか」<BR>⏎ などと仰せになる。この院の帝は、第十の皇子でいらっしゃるのであった。朱雀院が、故六条院にお預け申し上げなさった入道宮のご先例をお思い出しになって、「あの姫君たちを欲しいものだ。所在ない遊び相手として」などとお思いになるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 107-110 | 「なるほど,また,この姫君たちが、琴を合奏なさって楽しんでいらっしゃるのが、川波と競って聞こえますのは、たいそう興趣あって、極楽もかくやと想像されますね」<BR>⏎ と,古風に誉めるので、院の帝はほほ笑みなさって、<BR>⏎ 「そのような聖の近くにお育ちになって、この世の方面のことは、暗かろうと想像されるが、興趣あることだね。気がかりで見捨てることができず、苦にしていらっしゃるだろうことが、もし,少しでも後に自分が生き残っているようであったら、後見役をお譲りなさらないだろうか」<BR>⏎ などと仰せになる。この院の帝は、第十の皇子でいらっしゃるのであった。朱雀院が、故六条院にお預け申し上げなさった 入道宮のご先例をお思い出しになって、「あの姫君たちを欲しいものだ。所在ない遊び相手として」などとお思いになるのであった。<BR>⏎ |
| version45 | 126 | <A NAME="in23">[第三段 阿闍梨、八の宮に薫を語る]</A><BR> | 111 | |
| cd2:1 | 131-132 | 「世を厭う気持ちは宇治山に通じておりますが<BR>⏎ 幾重にも雲であなたが隔てていらっしゃるのでしょうか」<BR>⏎ | 116 | 「世を厭う気持ちは宇治山に通じておりますが<BR> 幾重にも雲であなたが隔てていらっしゃるのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 134-136 | 「世を捨てて悟り澄ましているのではありませんが<BR>⏎ 世を辛いものと思い宇治山に暮らしております」<BR>⏎ 仏道修業の方面については謙遜して申し上げなさっていたので、「やはり、この世に恨みが残っていたな」と、いたわしく御覧になる。<BR>⏎ | 118-119 | 「世を捨てて悟り澄ましているのではありませんが<BR> 世を辛いものと思い宇治山に暮らしております」<BR>⏎ 仏道修業の方面については謙遜して申し上げなさっていたので、「やはり,この世に恨みが残っていたな」と、いたわしく御覧になる。<BR>⏎ |
| c1 | 138 | 「経文などの真意を会得したい希望が、幼い時から深く思いながら、やむをえず世にあるうちに、公私に忙しく日を過ごし、わざわざ部屋に閉じ籠もって経を読み習い、だいたいが大して役にも立たない身として、世の中に背き顔をしているのも、遠慮することではないが、自然と修業も怠って、俗事に紛れて過ごして来たが、たいそうご立派なご様子を承ってから、このように心にかけて、お頼み申し上げるのです、などと、熱心に申し上げなさいました」などとお話し申し上げる。<BR>⏎ | 121 | 「経文などの真意を会得したい希望が、幼い時から深く思いながら、やむをえず世にあるうちに、公私に忙しく日を過ごし、わざわざ部屋に閉じ籠もって経を読み習い、だいたいが大して役にも立たない身として、世の中に背き顔をしているのも、遠慮することではないが、自然と修業も怠って、俗事に紛れて過ごして来たが、たいそうご立派なご様子を承ってから、このように心にかけて、お頼み申し上げるのです、などと,熱心に申し上げなさいました」などとお話し申し上げる。<BR>⏎ |
| c1 | 140 | 「世の中を仮の世界と思い悟り、厭わしい心がつき始めたことも、自分自身に不幸がある時、大方の世も恨めしく思い知るきっかけがあって、道心も起こることのようですが、年若く、世の中も思い通りに行き、何事も満足しないことはないと思われる身分で、そのようにまた、来世までを、考えていらっしゃるのが立派です。<BR>⏎ | 123 | 「世の中を仮の世界と思い悟り、厭わしい心がつき始めたことも、自分自身に不幸がある時、大方の世も恨めしく思い知るきっかけがあって、道心も起こることのようですが、年若く、世の中も思い通りに行き、何事も満足しないことはないと思われる身分で、そのようにまた,来世までを、考えていらっしゃるのが立派です。<BR>⏎ |
| d1 | 143 | <P>⏎ | ||
| version45 | 144 | <A NAME="in24">[第四段 薫、八の宮と親交を結ぶ]</A><BR> | 126 | |
| c1 | 145 | なるほど、聞いていたよりもいたわしく、お暮らしになっている様子をはじめとして、まことに仮の粗末な庵で、そう思うせいか、簡素に見えた。同じ山里と言っても、それなりに興味惹かれそうな、のんびりとしたところもあるのだが、実に荒々しい水の音、波の響きに、物思いを忘れたり、夜などは、気を許して夢をさえ見る間もなさそうに、風がものすごく吹き払っていた。<BR>⏎ | 127 | なるほど,聞いていたよりもいたわしく、お暮らしになっている様子をはじめとして、まことに仮の粗末な庵で、そう思うせいか、簡素に見えた。同じ山里と言っても、それなりに興味惹かれそうな、のんびりとしたところもあるのだが、実に荒々しい水の音、波の響きに、物思いを忘れたり、夜などは、気を許して夢をさえ見る間もなさそうに、風がものすごく吹き払っていた。<BR>⏎ |
| c1 | 148 | けれども、「そのような方面を思い離れた願いで、山深くお尋ね申した目的もなく、好色がましいいいかげんなことを口に出してふざけるのも、主旨と違うのではないか」などと反省して、宮のご様子のまことにいたわしいのを、丁重にお見舞い申し上げなさり、度々参上しては、思っていたように、在俗のまま山に籠もり修業する深い意義、経文などを、特に賢ぶることなく、まことよくお聞かせになる。<BR>⏎ | 130 | けれども,「そのような方面を思い離れた願いで、山深くお尋ね申した目的もなく、好色がましいいいかげんなことを口に出してふざけるのも、主旨と違うのではないか」などと反省して、宮のご様子のまことにいたわしいのを、丁重にお見舞い申し上げなさり、度々参上しては、思っていたように、在俗のまま山に籠もり修業する深い意義、経文などを、特に賢ぶることなく、まことよくお聞かせになる。<BR>⏎ |
| c1 | 150 | また、これといったこともない仏の弟子で、戒律を守っているだけの尊さはあるが、雰囲気が賤しく言葉がなまって、不作法に馴れ馴れしいのは、とても不愉快で、昼は、公事に忙しくなどしながら、ひっそりとした宵のころに、側近くの枕許などに召し入れてお話しなさるにつけても、まことにやはりむさ苦しい感じばかりがするが、たいそう気品高く、いたいたしい感じで、おっしゃる言葉も、同じ仏のお教えも、分りやすい譬えをまぜて、たいそうこの上なく深いお悟りというわけではないが、身分の高い方は、物事の道理を悟りなさる方法が、特別でいらっしゃったので、だんだんとお親しみ申し上げなさる度毎に、いつもお目にかかっていたく思って、忙しくなどして日を過ごしている時は、恋しく思われなさる。<BR>⏎ | 132 | また,これといったこともない仏の弟子で、戒律を守っているだけの尊さはあるが、雰囲気が賤しく言葉がなまって、不作法に馴れ馴れしいのは、とても不愉快で、昼は、公事に忙しくなどしながら、ひっそりとした宵のころに、側近くの枕許などに召し入れてお話しなさるにつけても、まことにやはりむさ苦しい感じばかりがするが、たいそう気品高く、いたいたしい感じで、おっしゃる言葉も、同じ仏のお教えも、分りやすい譬えをまぜて、たいそうこの上なく深いお悟りというわけではないが、身分の高い方は、物事の道理を悟りなさる方法が、特別でいらっしゃったので、だんだんとお親しみ申し上げなさる度毎に、いつもお目にかかっていたく思って、忙しくなどして日を過ごしている時は、恋しく思われなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 152 | <P>⏎ | ||
| version45 | 153 | <H4>第三章 薫の物語 八の宮の娘たちを垣間見る</H4> | 134 | |
| version45 | 154 | <A NAME="in31">[第一段 晩秋に薫、宇治へ赴く]</A><BR> | 135 | |
| c1 | 155 | 秋の末方に、四季毎に当ててなさるお念仏を、この川辺では、網代の波も、このころは一段と耳うるさく静かでないので、と言って、あの阿闍梨が住む寺の堂にお移りになって、七日程度勤行なさる。姫君たちは、たいそう心細く、何もすることのない日が増えて物思いに耽っていらっしゃるころ、中将の君が、久しく参らなかったなと、お思い出し申されるままに、有明の月が、まだ夜深く差し出たころに出立して、たいそうこっそりと、お供に人などもなく、質素にしておいでになった。<BR>⏎ | 136 | 秋の末方に、四季毎に当ててなさるお念仏を、この川辺では、網代の波も、このころは一段と耳うるさく静かでないので、と言って,あの阿闍梨が住む寺の堂にお移りになって、七日程度勤行なさる。姫君たちは、たいそう心細く、何もすることのない日が増えて物思いに耽っていらっしゃるころ、中将の君が、久しく参らなかったなと、お思い出し申されるままに、有明の月が、まだ夜深く差し出たころに出立して、たいそうこっそりと、お供に人などもなく、質素にしておいでになった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 157-159 | 「山颪の風に堪えない木の葉の露よりも<BR>⏎ 妙にもろく流れるわたしの涙よ」<BR>⏎ 山賤が目を覚ますのも厄介だと思って、随身の声もおさせにならない。柴の籬を分けて、どことなく流れる水の流れを踏みつける馬の足音も、やはり、人目につかないようにと気をつけていらっしゃったのに、隠すことのできない御匂いが、風に漂って、どなたの香かと目を覚ます家々があるのであった。<BR>⏎ | 138-139 | 「山颪の風に堪えない木の葉の露よりも<BR> 妙にもろく流れるわたしの涙よ」<BR>⏎ 山賤が目を覚ますのも厄介だと思って、随身の声もおさせにならない。柴の籬を分けて、どことなく流れる水の流れを踏みつける馬の足音も、やはり,人目につかないようにと気をつけていらっしゃったのに、隠すことのできない御匂いが、風に漂って、どなたの香かと目を覚ます家々があるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 161 | <P>⏎ | ||
| version45 | 162 | <A NAME="in32">[第二段 宿直人、薫を招き入れる]</A><BR> | 141 | |
| c1 | 165 | 「なに、その必要はない。そのように日数を限った御勤行のところを、お邪魔申し上げるのもいけない。このように濡れながらわざわざ参って、むなしく帰る嘆きを、姫君の御方に申し上げて、お気の毒にとおっしゃっていただけたら、慰められるでしょう」<BR>⏎ | 144 | 「なに,その必要はない。そのように日数を限った御勤行のところを、お邪魔申し上げるのもいけない。このように濡れながらわざわざ参って、むなしく帰る嘆きを、姫君の御方に申し上げて、お気の毒にとおっしゃっていただけたら、慰められるでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 168-169 | 「ちょっと待て」と召し寄せて、<BR>⏎ 「長年、人伝てにばかり聞いて、聞きたく思っていたお琴の音を、嬉しい時だよ。暫くの間、少し隠れて聞くのに適当な物蔭はないか。不適切にも出過ぎて参上したりする間に、皆が琴をお止めになっては、まことに残念であろう」<BR>⏎ | 147 | 「ちょっと待て」と召し寄せて、「長年、人伝てにばかり聞いて、聞きたく思っていたお琴の音を、嬉しい時だよ。暫くの間,少し隠れて聞くのに適当な物蔭はないか。不適切にも出過ぎて参上したりする間に、皆が琴をお止めになっては、まことに残念であろう」<BR>⏎ |
| c1 | 173 | 「つまらないお隠しだてだ。そのようにお隠しになるというが、誰も皆、類まれな例として、聞き出すに違いないだろうに」とおっしゃって、「やはり、案内せよ。わたしは好色がましい心などは、持っていないのだ。こうしていらっしゃるご様子が、不思議で、なるほど、並々には思えないのだ」<BR>⏎ | 151 | 「つまらないお隠しだてだ。そのようにお隠しになるというが、誰も皆、類まれな例として、聞き出すに違いないだろうに」とおっしゃって、「やはり,案内せよ。わたしは好色がましい心などは、持っていないのだ。こうしていらっしゃるご様子が、不思議で、なるほど,並々には思えないのだ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 175-177 | 「ああ、恐れ多い。物をわきまえぬ奴と、後から言われることがありましょう」<BR>⏎ と言って、あちらのお庭先は、竹の透垣を立てめぐらして、すべて別の塀になっているのを、教えてご案内申し上げた。お供の人は、西の廊に呼び止めて、この宿直人が相手をする。<BR>⏎ <P>⏎ | 153-154 | 「ああ,恐れ多い。物をわきまえぬ奴と、後から言われることがありましょう」<BR>⏎ と言って,あちらのお庭先は、竹の透垣を立てめぐらして、すべて別の塀になっているのを、教えてご案内申し上げた。お供の人は、西の廊に呼び止めて、この宿直人が相手をする。<BR>⏎ |
| version45 | 178 | <A NAME="in33">[第三段 薫、姉妹を垣間見る]</A><BR> | 155 | |
| c1 | 181 | と言って、外を覗いている顔、たいそうかわいらしくつやつやしているのであろう。<BR>⏎ | 158 | と言って,外を覗いている顔、たいそうかわいらしくつやつやしているのであろう。<BR>⏎ |
| c1 | 184 | と言って、ちょっとほほ笑んでいる様子、もう少し落ち着いて優雅な感じがした。<BR>⏎ | 161 | と言って,ちょっとほほ笑んでいる様子、もう少し落ち着いて優雅な感じがした。<BR>⏎ |
| c3 | 186-188 | などと、とりとめもないことを、気を許して言い合っていらっしゃる二人の様子、まったく見ないで想像していたのとは違って、とても可憐で親しみが持て感じがよい。<BR>⏎ 「昔物語などに語り伝えて、若い女房などが読むのを聞くにも、必ずこのようなことを言っていたが、そのようなことはないだろう」と、想像していたのに、「なるほど、人の心を打つような隠れたことがある世の中だったのだな」と、心が惹かれて行きそうである。<BR>⏎ 霧が深いので、はっきりと見ることもできない。再び、月が出て欲しいとお思いになっていた時に、奥の方から、「お客様です」と申し上げた人がいたのであろうか、簾を下ろして皆入ってしまった。驚いたふうでもなく、ものやわらかに振る舞って、静かに隠れた方々の様子、衣擦れの音もせず、とても柔らかくなっておいたわしい感じで、ひどく上品で優雅なのを、しみじみとお思いなさる。<BR>⏎ | 163-165 | などと,とりとめもないことを、気を許して言い合っていらっしゃる二人の様子、まったく見ないで想像していたのとは違って、とても可憐で親しみが持て感じがよい。<BR>⏎ 「昔物語などに語り伝えて、若い女房などが読むのを聞くにも、必ずこのようなことを言っていたが、そのようなことはないだろう」と、想像していたのに、「なるほど,人の心を打つような隠れたことがある世の中だったのだな」と、心が惹かれて行きそうである。<BR>⏎ 霧が深いので、はっきりと見ることもできない。再び,月が出て欲しいとお思いになっていた時に、奥の方から、「お客様です」と申し上げた人がいたのであろうか、簾を下ろして皆入ってしまった。驚いたふうでもなく、ものやわらかに振る舞って、静かに隠れた方々の様子、衣擦れの音もせず、とても柔らかくなっておいたわしい感じで、ひどく上品で優雅なのを、しみじみとお思いなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 192 | <P>⏎ | ||
| version45 | 193 | <A NAME="in34">[第四段 薫、大君と御簾を隔てて対面]</A><BR> | 169 | |
| c1 | 198 | と、とてもまじめにおっしゃる。<BR>⏎ | 174 | と,とてもまじめにおっしゃる。<BR>⏎ |
| c3 | 200-202 | 「何事も存じませんわたくしどもで、知ったふうに、どうして、お答え申し上げられましょうか」<BR>⏎ と、たいそう優雅で、上品な声をして、引っ込みながらかすかにおっしゃる。<BR>⏎ 「実は分かっておいでなのに、辛さを知らないふりをするのも、世の習いと存じておりますが、ほかならぬあなたが、あまりにそらぞらしいおっしゃりようをなさるのは、残念に存じます。めったになく、何事につけ悟り澄ましていらっしゃるご生活などに、ご一緒申されておいでのご心中は、万事涼しく推量されますから、やはり、このように秘めきれない気持ちの深さ浅さも、お分かりいただけることは、効がございましょう。<BR>⏎ | 176-178 | 「何事も存じませんわたくしどもで、知ったふうに、どうして,お答え申し上げられましょうか」<BR>⏎ と,たいそう優雅で、上品な声をして、引っ込みながらかすかにおっしゃる。<BR>⏎ 「実は分かっておいでなのに、辛さを知らないふりをするのも、世の習いと存じておりますが、ほかならぬあなたが、あまりにそらぞらしいおっしゃりようをなさるのは、残念に存じます。めったになく、何事につけ悟り澄ましていらっしゃるご生活などに、ご一緒申されておいでのご心中は、万事涼しく推量されますから、やはり,このように秘めきれない気持ちの深さ浅さも、お分かりいただけることは、効がございましょう。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 204-206 | 自然とお聞き及びになることもございましょう。所在なくばかり過ごしております世間話も、聞いていただくお相手として頼み申し上げ、またこのように、世間から離れて、物思いあそばしていられるお心の気紛らわしには、そちらからそうと、話しかけてくださるほどに親しくさせていただけましたら、どんなにか嬉しいことでございましょう」<BR>⏎ などと、たくさんおっしゃると、遠慮されて、答えにくくて、起こした老人が出て来たので、お任せになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 180-181 | 自然とお聞き及びになることもございましょう。所在なくばかり過ごしております世間話も、聞いていただくお相手として頼み申し上げ、またこのように、世間から離れて、物思いあそばしていられるお心の気紛らわしには、そちらからそうと,話しかけてくださるほどに親しくさせていただけましたら、どんなにか嬉しいことでございましょう」<BR>⏎ などと,たくさんおっしゃると、遠慮されて、答えにくくて、起こした老人が出て来たので、お任せになる。<BR>⏎ |
| version45 | 207 | <A NAME="in35">[第五段 老女房の弁が応対]</A><BR> | 182 | |
| c2 | 209-210 | 「まあ、恐れ多いこと。失礼なご座所でございますこと。御簾の中にどうぞ。若い女房たちは、物の道理を知らないようでございます」<BR>⏎ などと、ずけずけと言う声が年寄じみているのも、きまり悪く姫君たちはお思いになる。<BR>⏎ | 184-185 | 「まあ,恐れ多いこと。失礼なご座所でございますこと。御簾の中にどうぞ。若い女房たちは、物の道理を知らないようでございます」<BR>⏎ などと,ずけずけと言う声が年寄じみているのも、きまり悪く姫君たちはお思いになる。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 212-215 | と、まことに遠慮なく馴れ馴れしいのも、小憎らしい一方で、感じはたいそうひとかどの人物らしく、教養のある声なので、<BR>⏎ 「まこと取りつく島もない気がしていたが、嬉しいおっしゃりようです。何事も、なるほど、ご存知であった頼もしさは、この上ないことです」<BR>⏎ とおっしゃって、寄り掛かって座っていらっしゃるのを、几帳の側から見ると、曙の、だんだん物の色が見えてくる中で、なるほど、質素にしていらっしゃると見える狩衣姿が、たいそう露に濡れて湿っているのが、「何と、この世以外の匂いか」と、不思議なまで薫り満ちていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 187-189 | と,まことに遠慮なく馴れ馴れしいのも、小憎らしい一方で、感じはたいそうひとかどの人物らしく、教養のある声なので、<BR>⏎ 「まこと取りつく島もない気がしていたが、嬉しいおっしゃりようです。何事も、なるほど,ご存知であった頼もしさは、この上ないことです」<BR>⏎ とおっしゃって,寄り掛かって座っていらっしゃるのを、几帳の側から見ると、曙の、だんだん物の色が見えてくる中で、なるほど,質素にしていらっしゃると見える狩衣姿が、たいそう露に濡れて湿っているのが、「何と,この世以外の匂いか」と、不思議なまで薫り満ちていた。<BR>⏎ |
| version45 | 216 | <A NAME="in36">[第六段 老女房の弁の昔語り]</A><BR> | 190 | |
| c1 | 219 | と、震えている様子、ほんとうにひどく悲しいと思っていた。<BR>⏎ | 193 | と,震えている様子、ほんとうにひどく悲しいと思っていた。<BR>⏎ |
| c3 | 221-223 | 「ここに、このように参ることは、度重なったが、このように物のあわれをご存知の方がいなくて、露っぽい道中で、一人だけ濡れました。嬉しい機会のようですので、すっかりおっしゃってください」とおっしゃると、<BR>⏎ 「このような機会は、ございますまい。また、ございましても、明日をも知らない寿命を、当てにできません。それでは、ただ、このような老人が、世の中におったとだけ、ご存知いただきたい。<BR>⏎ 三条の宮におりました小侍従、亡くなってしまったと、ちらっと聞きました。その昔、親しく存じておりました同じ年配の者は、多く亡くなりました晩年に、遠い田舎から縁故を頼って上京して来て、この五、六年のほど、ここにこのようにしてお仕えております。<BR>⏎ | 195-197 | 「ここに,このように参ることは、度重なったが、このように物のあわれをご存知の方がいなくて、露っぽい道中で、一人だけ濡れました。嬉しい機会のようですので、すっかりおっしゃってください」とおっしゃると、<BR>⏎ 「このような機会は、ございますまい。また,ございましても、明日をも知らない寿命を、当てにできません。それでは,ただ,このような老人が、世の中におったとだけ、ご存知いただきたい。<BR>⏎ 三条の宮におりました小侍従、亡くなってしまったと、ちらっと聞きました。その昔、親しく存じておりました同じ年配の者は、多く亡くなりました晩年に、遠い田舎から縁故を頼って上京して来て、この五,六年のほど、ここにこのようにしてお仕えております。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 227-231 | と言って、さすがに最後まで言わずに終わった。<BR>⏎ 不思議な、夢語り、巫女などのような者が、問わず語りをしているように、珍しい話と思わずにはいらっしゃれないが、しみじみと本当のことが知りたいと思い続けて来た方面のことを申し上げたので、ひどく先が知りたいが、なるほど、人目も多いし、不意に昔話にかかわって、夜を明かしてしまうのも、無作法であるから、<BR>⏎ 「はっきりと思い当たるふしは、ないものの、昔のことと聞きますのも、心をうちます。それでは、きっとこの続きをお聞かせください。霧が晴れていったら、見苦しいやつした姿を、無礼のお咎めを受けるに違いない姿なので、思っておりますように行かず、残念でなりません」<BR>⏎ とおっしゃって、お立ちになると、あのいらっしゃる寺の鐘の音が、かすかに聞こえて、霧がたいそう深く立ち込めていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 201-204 | と言って,さすがに最後まで言わずに終わった。<BR>⏎ 不思議な、夢語り、巫女などのような者が、問わず語りをしているように、珍しい話と思わずにはいらっしゃれないが、しみじみと本当のことが知りたいと思い続けて来た方面のことを申し上げたので、ひどく先が知りたいが、なるほど,人目も多いし、不意に昔話にかかわって、夜を明かしてしまうのも、無作法であるから、<BR>⏎ 「はっきりと思い当たるふしは、ないものの、昔のことと聞きますのも、心をうちます。それでは,きっとこの続きをお聞かせください。霧が晴れていったら、見苦しいやつした姿を、無礼のお咎めを受けるに違いない姿なので、思っておりますように行かず、残念でなりません」<BR>⏎ とおっしゃって,お立ちになると、あのいらっしゃる寺の鐘の音が、かすかに聞こえて、霧がたいそう深く立ち込めていた。<BR>⏎ |
| version45 | 232 | <A NAME="in37">[第七段 薫、大君と和歌を詠み交して帰京]</A><BR> | 205 | |
| cd3:2 | 233-235 | 峰の幾重にも重なった雲の、思いやるにも隔てが多く、心痛むが、やはり、この姫君たちのご心中もおいたわしく、「物思いのありたけを尽くしていられよう。あのように、とても引っ込みがちでいらっしゃるのも、もっともなことだ」などと思われる。<BR>⏎ 「夜も明けて行きますが帰る家路も見えません<BR>⏎ 尋ねて来た槙の尾山は霧が立ち込めていますので<BR>⏎ | 206-207 | 峰の幾重にも重なった雲の、思いやるにも隔てが多く、心痛むが、やはり,この姫君たちのご心中もおいたわしく、「物思いのありたけを尽くしていられよう。あのように,とても引っ込みがちでいらっしゃるのも、もっともなことだ」などと思われる。<BR>⏎ 「夜も明けて行きますが帰る家路も見えません<BR> 尋ねて来た槙の尾山は霧が立ち込めていますので<BR>⏎ |
| cd3:2 | 237-239 | と、引き返して立ち去りがたくしていらっしゃる様子を、都の人で見慣れた人でさえ、やはり、たいそう格別にお思い申し上げているのに、まして、どんなにか珍しく思わないことあろうか。お返事を申し上げにくそうに思っているので、いつものように、たいそう慎ましそうにして、<BR>⏎ 「雲のかかっている山路を秋霧が<BR>⏎ ますます隔てているこの頃です」<BR>⏎ | 209-210 | と,引き返して立ち去りがたくしていらっしゃる様子を、都の人で見慣れた人でさえ、やはり,たいそう格別にお思い申し上げているのに、まして,どんなにか珍しく思わないことあろうか。お返事を申し上げにくそうに思っているので、いつものように、たいそう慎ましそうにして、<BR>⏎ 「雲のかかっている山路を秋霧が<BR> ますます隔てているこの頃です」<BR>⏎ |
| c1 | 241 | 何ほども風情の見えない辺りだが、なるほど、おいたわしいことが多くある中にも、明るくなって行くと、いくら何でも直接顔を合わせる感じがして、<BR>⏎ | 212 | 何ほども風情の見えない辺りだが、なるほど,おいたわしいことが多くある中にも、明るくなって行くと、いくら何でも直接顔を合わせる感じがして、<BR>⏎ |
| c3 | 243-245 | と言って、宿直人が準備した西面にいらっしゃって、眺めなさる。<BR>⏎ 「網代では、人が騒いでいるようだ。けれど、氷魚も寄って来ないのだろうか。景気の悪そうな様子だ」<BR>⏎ と、お供の人々は見知っていて言う。<BR>⏎ | 214-216 | と言って,宿直人が準備した西面にいらっしゃって、眺めなさる。<BR>⏎ 「網代では、人が騒いでいるようだ。けれど,氷魚も寄って来ないのだろうか。景気の悪そうな様子だ」<BR>⏎ と,お供の人々は見知っていて言う。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 248-249 | 「姫君たちのお寂しい心をお察しして<BR>⏎ 浅瀬を漕ぐ舟の棹の、涙で袖が濡れました<BR>⏎ | 219 | 「姫君たちのお寂しい心をお察しして<BR> 浅瀬を漕ぐ舟の棹の、涙で袖が濡れました<BR>⏎ |
| cd3:2 | 251-253 | と言って、宿直人にお持たせになった。たいそう寒そうに、鳥肌の立つ顔して持って上る。お返事は、紙の香などが、いいかげんな物では恥ずかしいが、早いのだけをこのような場合は取柄としよう、と思って、<BR>⏎ 「棹さして何度も行き来する宇治川の渡し守は朝夕の雫に<BR>⏎ 濡れてすっかり袖を朽ちさせていることでしょう<BR>⏎ | 221-222 | と言って,宿直人にお持たせになった。たいそう寒そうに、鳥肌の立つ顔して持って上る。お返事は、紙の香などが、いいかげんな物では恥ずかしいが、早いのだけをこのような場合は取柄としよう、と思って、<BR>⏎ 「棹さして何度も行き来する宇治川の渡し守は朝夕の雫に<BR> 濡れてすっかり袖を朽ちさせていることでしょう<BR>⏎ |
| c1 | 255 | と、実に美しくお書きになっていらっしゃた。「申し分なく感じの良い方だ」と、心が惹かれたが、<BR>⏎ | 224 | と,実に美しくお書きになっていらっしゃた。「申し分なく感じの良い方だ」と、心が惹かれたが、<BR>⏎ |
| c1 | 257 | と、供人が騒がしく申し上げるので、宿直人だけを召し寄せて、<BR>⏎ | 226 | と,供人が騒がしく申し上げるので、宿直人だけを召し寄せて、<BR>⏎ |
| d1 | 260 | <P>⏎ | ||
| version45 | 261 | <A NAME="in38">[第八段 薫、宇治へ手紙を書く]</A><BR> | 229 | |
| c1 | 262 | 老人の話が、気にかかって思い出される。思っていたよりは、この上なく優れていて、立派だったご様子が、面影にちらついて、「やはり、思い離れがたいこの世だ」と、心弱く思い知らされる。<BR>⏎ | 230 | 老人の話が、気にかかって思い出される。思っていたよりは、この上なく優れていて、立派だったご様子が、面影にちらついて、「やはり,思い離れがたいこの世だ」と、心弱く思い知らされる。<BR>⏎ |
| c1 | 265 | などと、たいそう生真面目にお書きになっている。左近将監である人を、お使いとして、<BR>⏎ | 233 | などと,たいそう生真面目にお書きになっている。左近将監である人を、お使いとして、<BR>⏎ |
| d1 | 272 | <P>⏎ | ||
| version45 | 273 | <A NAME="in39">[第九段 薫、匂宮に宇治の姉妹を語る]</A><BR> | 240 | |
| c1 | 275 | 「いや、なに。懸想めいてお扱いなさるのも、かえって嫌なことであろう。普通の若い人に似ないご性格のようだから、亡くなった後もなどと、一言ほのめかしておいたので、そのような気持ちで、心にかけているのだろう」<BR>⏎ | 242 | 「いや,なに。懸想めいてお扱いなさるのも、かえって嫌なことであろう。普通の若い人に似ないご性格のようだから、亡くなった後もなどと、一言ほのめかしておいたので、そのような気持ちで、心にかけているのだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 279 | 「ところで、その来たお返事は、どうしてお見せ下さらなかったのですか。わたしだったなら」とお恨みになる。<BR>⏎ | 246 | 「ところで,その来たお返事は、どうしてお見せ下さらなかったのですか。わたしだったなら」とお恨みになる。<BR>⏎ |
| c1 | 282 | ほのかな月光の下で見た通りの器量であったら、十分なものでしょうよ。感じや態度は、それはまた、あの程度なのを、理想的な女とは、思うべきでしょう」<BR>⏎ | 249 | ほのかな月光の下で見た通りの器量であったら、十分なものでしょうよ。感じや態度は、それはまた,あの程度なのを、理想的な女とは、思うべきでしょう」<BR>⏎ |
| c3 | 285-287 | 「さらに、またまた、よく様子を探って下さい」<BR>⏎ と、相手を勧めなさって、制約あるご身分の高さを、疎ましいまでに、いらだたしく思っていらっしゃるので、おもしろくなって、<BR>⏎ 「いや、つまらないことでございます。暫くの間も、世の中に執着心を持つまい思っておりますこの身で、ほんの遊びの色恋沙汰も気が引けますが、我ながら抑えかねる気持ちが起こったら、大いに思惑違いのことも、起こりましょう」<BR>⏎ | 252-254 | 「さらに,またまた、よく様子を探って下さい」<BR>⏎ と,相手を勧めなさって、制約あるご身分の高さを、疎ましいまでに、いらだたしく思っていらっしゃるので、おもしろくなって、<BR>⏎ 「いや,つまらないことでございます。暫くの間も,世の中に執着心を持つまい思っておりますこの身で、ほんの遊びの色恋沙汰も気が引けますが、我ながら抑えかねる気持ちが起こったら、大いに思惑違いのことも、起こりましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 289 | 「いや、まあ、大げさな。例によって、物々しい修行者みたいな言葉を、最後まで見てみたいものだ」<BR>⏎ | 256 | 「いや,まあ、大げさな。例によって、物々しい修行者みたいな言葉を、最後まで見てみたいものだ」<BR>⏎ |
| d1 | 291 | <P>⏎ | ||
| version45 | 292 | <H4>第四章 薫の物語 薫、出生の秘密を知る</H4> | 258 | |
| version45 | 293 | <A NAME="in41">[第一段 十月初旬、薫宇治へ赴く]</A><BR> | 259 | |
| c1 | 294 | 十月になって、五、六日の間に、宇治へ参られる。<BR>⏎ | 260 | 十月になって、五,六日の間に、宇治へ参られる。<BR>⏎ |
| c2 | 296-297 | 「どうして、その蜉蝣とはかなさを争うような身で、網代の側に行こうか」<BR>⏎ と、お省きなさって、例によって、たいそうひっそりと出立なさる。気軽に網代車で、かとりの直衣指貫を仕立てさせて、ことさらお召しになっていた。<BR>⏎ | 262-263 | 「どうして,その蜉蝣とはかなさを争うような身で、網代の側に行こうか」<BR>⏎ と,お省きなさって、例によって、たいそうひっそりと出立なさる。気軽に網代車で、かとりの直衣指貫を仕立てさせて、ことさらお召しになっていた。<BR>⏎ |
| cd6:5 | 305-310 | と言って、琵琶を召して、客人にお勧めなさる。手に取って調子を合わせなさる。<BR>⏎ 「まったく、かすかに聞きましたものと同じ楽器とは思われません。お琴の響きからかと、存じられました」<BR>⏎ と言って、気を許してお弾きにならない。<BR>⏎ 「何と、まあ、口の悪い。そのようにお耳にとまるほどの弾き方などは、どこからここまで伝わって来ましょう。ありえない事です」<BR>⏎ と言って、琴を掻き鳴らしなさる、実にしみじみとぞっとする程である。一方では、峰の松風が引き立てるのであろう。たいそうおぼつかなく不確かなようにお弾きになって、趣きがある。曲目を一つだけでお止めになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 271-275 | と言って,琵琶を召して、客人にお勧めなさる。手に取って調子を合わせなさる。<BR>⏎ 「まったく,かすかに聞きましたものと同じ楽器とは思われません。お琴の響きからかと、存じられました」<BR>⏎ と言って,気を許してお弾きにならない。<BR>⏎ 「何と、まあ,口の悪い。そのようにお耳にとまるほどの弾き方などは、どこからここまで伝わって来ましょう。ありえない事です」<BR>⏎ と言って,琴を掻き鳴らしなさる、実にしみじみとぞっとする程である。一方では、峰の松風が引き立てるのであろう。たいそうおぼつかなく不確かなようにお弾きになって、趣きがある。曲目を一つだけでお止めになった。<BR>⏎ |
| version45 | 311 | <A NAME="in42">[第二段 薫、八の宮の娘たちの後見を承引]</A><BR> | 276 | |
| c1 | 313 | と、あちらに向かって申し上げなさるが、「思いもかけなかった独り琴を、お聞きになった方さえあるのを、とても未熟だろう」と言って引き籠もっては、すっかりお聞きにならない。何度もお勧め申し上げなさるが、何かと言い逃れなさって、終わってしまったようなので、とても残念に思われる。<BR>⏎ | 278 | と,あちらに向かって申し上げなさるが、「思いもかけなかった独り琴を、お聞きになった方さえあるのを、とても未熟だろう」と言って引き籠もっては、すっかりお聞きにならない。何度もお勧め申し上げなさるが、何かと言い逃れなさって、終わってしまったようなので、とても残念に思われる。<BR>⏎ |
| c2 | 315-316 | 「誰にも何とかして知らせまいと、育てて来たが、今日明日とも知れない寿命の残り少なさに、何といっても、将来長い二人が、落ちぶれて流浪すること、これだけが、なるほど、この世を離れる際の妨げです」<BR>⏎ と、お話しなさるので、おいたわしく拝見なさる。<BR>⏎ | 280-281 | 「誰にも何とかして知らせまいと、育てて来たが、今日明日とも知れない寿命の残り少なさに、何といっても、将来長い二人が、落ちぶれて流浪すること、これだけが、なるほど,この世を離れる際の妨げです」<BR>⏎ と,お話しなさるので、おいたわしく拝見なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 319 | <P>⏎ | ||
| version45 | 320 | <A NAME="in43">[第三段 薫、弁の君の昔語りの続きを聞く]</A><BR> | 284 | |
| c1 | 321 | そうして、払暁の、宮がご勤行をなさる時に、あの老女を召し出して、お会いになった。<BR>⏎ | 285 | そうして,払暁の、宮がご勤行をなさる時に、あの老女を召し出して、お会いになった。<BR>⏎ |
| c2 | 324-325 | 「なるほど、他人の身の上話として聞くのでさえ、しみじみとした昔話を、それ以上に、長年気がかりで、知りたく、どのようなことの始まりだったのかと、仏にも、このことをはっきりとお知らせ下さいと、祈って来た効があってか、このように夢のようなしみじみとした昔話を、思いがけない機会に聞き付けたのだろう」とお思いになると、涙を止めることができなかった。<BR>⏎ 「それにしても、このように、その当時の事情を知っている人が生き残っていらっしゃったよ。驚きもし恥ずかしくも思われる話について、やはり、このように伝え知っている人が、他にもいるだろうか。長年、少しも聞き及ばなかったが」とおっしゃると、<BR>⏎ | 288-289 | 「なるほど,他人の身の上話として聞くのでさえ、しみじみとした昔話を、それ以上に,長年気がかりで、知りたく、どのようなことの始まりだったのかと、仏にも、このことをはっきりとお知らせ下さいと、祈って来た効があってか、このように夢のようなしみじみとした昔話を、思いがけない機会に聞き付けたのだろう」とお思いになると、涙を止めることができなかった。<BR>⏎ 「それにしても、このように,その当時の事情を知っている人が生き残っていらっしゃったよ。驚きもし恥ずかしくも思われる話について、やはり,このように伝え知っている人が、他にもいるだろうか。長年、少しも聞き及ばなかったが」とおっしゃると、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 328-330 | 御覧入れたい物がございます。もう必要がない、いっそ、焼き捨ててしまいましょうか。このように朝夕の露のようにいつ消えてしまうかも分からない身の上で、放っておきましたら、他人の目にも触れようかと、とても気がかりに存じておりましたが、この邸辺りにも、時々、お立ち寄りになるのを、お待ち申し上げるようになりましてからは、少し頼もしく、このような機会もあろうかと、祈っておりました効が出て参りました。まったく、これは、この世だけの事ではございません」<BR>⏎ と、泣く泣く、こまごまと、お生まれになった時の事も、よく思い出しながら申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 292-293 | 御覧入れたい物がございます。もう必要がない,いっそ,焼き捨ててしまいましょうか。このように朝夕の露のようにいつ消えてしまうかも分からない身の上で、放っておきましたら、他人の目にも触れようかと、とても気がかりに存じておりましたが、この邸辺りにも、時々、お立ち寄りになるのを、お待ち申し上げるようになりましてからは、少し頼もしく、このような機会もあろうかと、祈っておりました効が出て参りました。まったく,これは、この世だけの事ではございません」<BR>⏎ と,泣く泣く、こまごまと、お生まれになった時の事も、よく思い出しながら申し上げる。<BR>⏎ |
| version45 | 331 | <A NAME="in44">[第四段 薫、父柏木の最期を聞く]</A><BR> | 294 | |
| c1 | 332 | 「お亡くなりになりました騷ぎで、母でございました者は、そのまま病気になって、まもなく亡くなってしまいましたので、ますますがっかり致し、喪服を重ね重ね着て、悲しい思いを致しておりましたところ、長年、大して身分の良くない男で思いを懸けておりました人が、わたしをだまして、西海の果てまで連れて行きましたので、京のことまでが分からなくなってしまって、その人もあちらで死んでしまいました後、十年余りたって、まるで別世界に来た心地で、上京致しましたが、こちらの宮は、父方の関係で、子供の時からお出入りした縁故がございましたので、今はこのように世間づきあいできる身分でもございませんが、冷泉院の女御様のお邸などは、昔、よくお噂をうかがっていた所で、参上すべく思いましたが、体裁悪く思われまして、参ることができず、深山奥深くの老木のようになってしまったのです。<BR>⏎ | 295 | 「お亡くなりになりました騷ぎで、母でございました者は、そのまま病気になって、まもなく亡くなってしまいましたので、ますますがっかり致し、喪服を重ね重ね着て、悲しい思いを致しておりましたところ、長年、大して身分の良くない男で思いを懸けておりました人が、わたしをだまして、西海の果てまで連れて行きましたので、京のことまでが分からなくなってしまって、その人もあちらで死んでしまいました後、十年余りたって、まるで別世界に来た心地で、上京致しましたが、こちらの宮は、父方の関係で、子供の時からお出入りした縁故がございましたので、今はこのように世間づきあいできる身分でもございませんが、冷泉院の女御様のお邸などは、昔,よくお噂をうかがっていた所で、参上すべく思いましたが、体裁悪く思われまして、参ることができず、深山奥深くの老木のようになってしまったのです。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 335-336 | 「もうよい、それでは、この昔語りは尽きないようだ。また、他人が聞いていない安心な所で聞こう。侍従と言った人は、かすかに覚えているのは、五、六歳の時であったろうか、急に胸を病んで亡くなったと聞いている。このような対面がなくては、罪障の重い身で終わるところであった」などとおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 298 | 「もうよい、それでは,この昔語りは尽きないようだ。また,他人が聞いていない安心な所で聞こう。侍従と言った人は、かすかに覚えているのは、五,六歳の時であったろうか、急に胸を病んで亡くなったと聞いている。このような対面がなくては、罪障の重い身で終わるところであった」などとおっしゃる。<BR>⏎ |
| version45 | 337 | <A NAME="in45">[第五段 薫、形見の手紙を得る]</A><BR> | 299 | |
| c1 | 339 | 「あなた様のお手でご処分なさいませ。『わたしは、もう生きていられそうもなくなった』と仰せになって、このお手紙を取り集めて、お下げ渡しになったので、小侍従に、再びお会いしました機会に、確かに差し上げてもらおう、と存じておりましたのに、そのまま別れてしまいましたのも、私事ながら、いつまでも悲しく存じられます」<BR>⏎ | 301 | 「あなた様のお手でご処分なさいませ。『わたしは,もう生きていられそうもなくなった』と仰せになって、このお手紙を取り集めて、お下げ渡しになったので、小侍従に、再びお会いしました機会に、確かに差し上げてもらおう、と存じておりましたのに、そのまま別れてしまいましたのも、私事ながら、いつまでも悲しく存じられます」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 343-345 | 「このように、しばしばお立ち寄り下さるお蔭で、山の隠居所も、少し明るくなった心地がします」<BR>⏎ などと、お礼を申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 305-306 | 「このように,しばしばお立ち寄り下さるお蔭で、山の隠居所も、少し明るくなった心地がします」<BR>⏎ などと,お礼を申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version45 | 346 | <A NAME="in46">[第六段 薫、父柏木の遺文を読む]</A><BR> | 307 | |
| cd4:3 | 348-351 | 色とりどりの紙で、たまに通わしたお手紙の返事が、五、六通ある。それには、あの方のご筆跡で、病が重く臨終になったので、再び短いお便りを差し上げることも難しくなってしまったが、会いたいと思う気持ちが増して、お姿もお変わりになったというのが、それぞれに悲しいことを、陸奥国紙五、六枚に、ぽつりぽつりと、奇妙な鳥の足跡のように書いて、<BR>⏎ 「目の前にこの世をお背きになるあなたよりも<BR>⏎ お目にかかれずに死んで行くわたしの魂のほうが悲しいのです」<BR>⏎ また、端のほうに、<BR>⏎ | 309-311 | 色とりどりの紙で、たまに通わしたお手紙の返事が、五,六通ある。それには,あの方のご筆跡で、病が重く臨終になったので、再び短いお便りを差し上げることも難しくなってしまったが、会いたいと思う気持ちが増して、お姿もお変わりになったというのが、それぞれに悲しいことを、陸奥国紙五,六枚に、ぽつりぽつりと、奇妙な鳥の足跡のように書いて、<BR>⏎ 「目の前にこの世をお背きになるあなたよりも<BR> お目にかかれずに死んで行くわたしの魂のほうが悲しいのです」<BR>⏎ また,端のほうに、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 353-354 | 生きていられたら、それをわが子だと見ましょうが<BR>⏎ 誰も知らない岩根に残した松の成長ぶりを」<BR>⏎ | 313 | 生きていられたら、それをわが子だと見ましょうが<BR> 誰も知らない岩根に残した松の成長ぶりを」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 356-359 | 紙魚という虫の棲み処になって、古くさく黴臭いけれど、筆跡は消えず、まるで今書いたものとも違わない言葉が、詳細で具体的に書いてあるのを御覧になると、「なるほど、人目に触れでもしたら大変だった」と、不安で、おいたわしい事どもなのである。<BR>⏎ 「このような事が、この世に二つとあるだろうか」と、胸一つにますます煩悶が広がって、内裏に参ろうとお思いになっていたが、お出かけになることができない。母宮の御前に参上なさると、まったく無心に、若々しいご様子で、読経していらっしゃったが、恥ずかしがって、身をお隠しになった。「どうして、秘密を知ってしまったと、お気づかせ申そう」などと、胸の中に秘めて、あれこれと考え込んでいらっしゃった。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 315-316 | 紙魚という虫の棲み処になって、古くさく黴臭いけれど、筆跡は消えず、まるで今書いたものとも違わない言葉が、詳細で具体的に書いてあるのを御覧になると、「なるほど,人目に触れでもしたら大変だった」と、不安で、おいたわしい事どもなのである。<BR>⏎ 「このような事が、この世に二つとあるだろうか」と、胸一つにますます煩悶が広がって、内裏に参ろうとお思いになっていたが、お出かけになることができない。母宮の御前に参上なさると、まったく無心に、若々しいご様子で、読経していらっしゃったが、恥ずかしがって、身をお隠しになった。「どうして,秘密を知ってしまったと、お気づかせ申そう」などと、胸の中に秘めて、あれこれと考え込んでいらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 367 | ⏎ | ||
| i0 | 328 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version46 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-3)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 60 | <P>⏎ | ||
| version46 | 61 | <H4>第一章 匂宮の物語 春、匂宮、宇治に立ち寄る</H4> | 57 | |
| version46 | 62 | <A NAME="in11">[第一段 匂宮、初瀬詣での帰途に宇治に立ち寄る]</A><BR> | 58 | |
| cd2:1 | 66-67 | ご子息の公達の、右大弁、侍従の宰相、権中将、頭少将、蔵人兵衛佐などは、みなお供なさる。帝、后も特別におかわいがり申されていらっしゃる宮なので、世間一般のご信望もたいそう限りなく、それ以上に六条院のご縁者方は、次々の人も、みな私的なご主君として、親身にお仕え申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 62 | ご子息の公達の、右大弁、侍従の宰相、権中将、頭少将、蔵人兵衛佐などは、みなお供なさる。帝,后も特別におかわいがり申されていらっしゃる宮なので、世間一般のご信望もたいそう限りなく、それ以上に六条院のご縁者方は、次々の人も、みな私的なご主君として、親身にお仕え申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version46 | 68 | <A NAME="in12">[第二段 匂宮と八の宮、和歌を詠み交す]</A><BR> | 63 | |
| c1 | 72 | 「ああ、何と昔になってしまったことよ。このような遊びもしないで、生きているともいえない状態で過ごしてきた年月が、それでも多く積もったとは、ふがいないことよ」<BR>⏎ | 67 | 「ああ,何と昔になってしまったことよ。このような遊びもしないで、生きているともいえない状態で過ごしてきた年月が、それでも多く積もったとは、ふがいないことよ」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 75-77 | 宰相は、「このような機会を逃さず、あの宮に伺いたい」とお思いになるが、「大勢の人目を避けて独り舟を漕ぎ出しなさるのも軽率ではないか」と躊躇していらっしゃるところに、あちらからお手紙がある。<BR>⏎ 「山風に乗って霞を吹き分ける笛の音は聞こえますが<BR>⏎ 隔てて見えますそちらの白波です」<BR>⏎ | 70-71 | 宰相は、「このような機会を逃さず、あの宮に伺いたい」とお思いになるが、「大勢の人目を避けて 独り舟を漕ぎ出しなさるのも軽率ではないか」と躊躇していらっしゃるところに、あちらからお手紙がある。<BR>⏎ 「山風に乗って霞を吹き分ける笛の音は聞こえますが<BR> 隔てて見えますそちらの白波です」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 79-81 | 「そちらとこちらの汀に波は隔てていても<BR>⏎ やはり吹き通いなさい宇治の川風よ」<BR>⏎ <P>⏎ | 73 | 「そちらとこちらの汀に波は隔てていても<BR> やはり吹き通いなさい宇治の川風よ」<BR>⏎ |
| version46 | 82 | <A NAME="in13">[第三段 薫、迎えに八の宮邸に来る]</A><BR> | 74 | |
| c1 | 85 | 主人の宮の、お琴をこのような機会にと、人びとはお思いになるが、箏の琴を、さりげなく、時々掻き鳴らしなさる。耳馴れないせいであろうか、「たいそう趣深く素晴らしい」と若い人たちは感じ入っていた。<BR>⏎ | 77 | 主人の宮の、お琴をこのような機会にと、人びとはお思いになるが、箏の琴を、さりげなく、時々掻き鳴らしなさる。耳馴れないせいであろうか、「たいそう趣深く素晴らしい」と 若い人たちは感じ入っていた。<BR>⏎ |
| d1 | 87 | <P>⏎ | ||
| version46 | 88 | <A NAME="in14">[第四段 匂宮と中の君、和歌を詠み交す]</A><BR> | 79 | |
| cd2:1 | 90-91 | 「山桜が美しく咲いている辺りにやって来て<BR>⏎ 同じこの地の美しい桜を插頭しに手折ったことです<BR>⏎ | 81 | 「山桜が美しく咲いている辺りにやって来て<BR> 同じこの地の美しい桜を插頭しに手折ったことです<BR>⏎ |
| cd3:2 | 95-97 | などと、老女房たちが申し上げるので、中の君にお書かせ申し上げなさる。<BR>⏎ 「插頭の花を手折るついでに、山里の家は<BR>⏎ 通り過ぎてしまう春の旅人なのでしょう<BR>⏎ | 85-86 | などと,老女房たちが申し上げるので、中の君にお書かせ申し上げなさる。<BR>⏎ 「插頭の花を手折るついでに、山里の家は<BR> 通り過ぎてしまう春の旅人なのでしょう<BR>⏎ |
| c2 | 99-100 | と、たいそう美しく、上手にお書きになっていた。<BR>⏎ なるほど、川風も隔て心をおかずに吹き通う楽の音を、面白く合奏なさる。お迎えに、藤大納言が、勅命によって参上なさった。人びとが大勢参集して、何かと騒がしくして先を争ってお帰りになる。若い人たちは、物足りなく、ついつい後を振り返ってばかりいた。宮は、「また何かの機会に」とお思いになる。<BR>⏎ | 88-89 | と,たいそう美しく、上手にお書きになっていた。<BR>⏎ なるほど,川風も隔て心をおかずに吹き通う楽の音を、面白く合奏なさる。お迎えに、藤大納言が、勅命によって参上なさった。人びとが大勢参集して、何かと騒がしくして先を争ってお帰りになる。若い人たちは、物足りなく,ついつい後を振り返ってばかりいた。宮は、「また何かの機会に」とお思いになる。<BR>⏎ |
| c2 | 103-104 | 「やはり、お返事は差し上げなさい。ことさら懸想文のようには扱うまい。かえって心をときめかさせることになってしまいましょう。たいそう好色の親王なので、このような姫がいる、とお聞きになると、放っておけないと思うだけの戯れ事なのでしょう」<BR>⏎ と、お促しなさる時々、中の君がお返事申し上げなさる。姫君は、このようなことは、冗談事にもご関心のないご思慮深さである。<BR>⏎ | 92-93 | 「やはり,お返事は差し上げなさい。ことさら懸想文のようには扱うまい。かえって心をときめかさせることになってしまいましょう。たいそう好色の親王なので、このような姫がいる、とお聞きになると、放っておけないと思うだけの戯れ事なのでしょう」<BR>⏎ と,お促しなさる時々、中の君がお返事申し上げなさる。姫君は、このようなことは、冗談事にもご関心のないご思慮深さである。<BR>⏎ |
| d1 | 107 | <P>⏎ | ||
| version46 | 108 | <A NAME="in15">[第五段 八の宮、娘たちへの心配]</A><BR> | 96 | |
| cd3:2 | 109-111 | 宮は、重く身を慎むべきお年なのであった。何となく心細くお思いになって、ご勤行を例年よりも弛みなくなさる。この世に執着なさっていないので、死出の旅立ちの用意ばかりをお考えなので、極楽往生も間違いないお方だが、ただこの姫君たちの事に、たいそうお気の毒で、この上ない道心の強さだが、「かならず、今が最期とお見捨てなさる時のお気持ちは、きっと乱れるだろう」と、拝する女房もご推察申し上げるが、お思いの通りではなくても、並に、それでも人聞きの悪くなく、世間から認めてもらえる身分の人で、真実に後見申し上げよう、などと、思ってくれる方がいたら、知らぬ顔をして黙認しよう、一人一人が人並みに結婚する縁があったら、その人に譲って安心もできようが、そこまで深い心で言い寄る人はいない。<BR>⏎ 時たまちょっとしたきっかけで、懸想めいたことを言う人は、まだ年若い人の遊び心で、物詣での中宿りや、その往来の慰み事に、それらしいことを言っても、やはり、このように落ちぶれた様子などを想像して、軽んじて扱うのは、心外なので、なおざりの返事をさえおさせにならない。三の宮は、やはりお会いしないではいられないとのお思いが深いのであった。前世からの約束事でいらしたのであろうか。<BR>⏎ <P>⏎ | 97-98 | 宮は、重く身を慎むべきお年なのであった。何となく心細くお思いになって、ご勤行を例年よりも弛みなくなさる。この世に執着なさっていないので、死出の旅立ちの用意ばかりをお考えなので、極楽往生も間違いないお方だが、ただこの姫君たちの事に、たいそうお気の毒で、この上ない道心の強さだが、「かならず、今が最期とお見捨てなさる時のお気持ちは、きっと乱れるだろう」と、拝する女房もご推察申し上げるが、お思いの通りではなくても、並に、それでも人聞きの悪くなく、世間から認めてもらえる身分の人で、真実に後見申し上げよう、などと,思ってくれる方がいたら、知らぬ顔をして黙認しよう、一人一人が人並みに結婚する縁があったら、その人に譲って安心もできようが、そこまで深い心で言い寄る人はいない。<BR>⏎ 時たまちょっとしたきっかけで、懸想めいたことを言う人は、まだ年若い人の遊び心で、物詣での中宿りや、その往来の慰み事に、それらしいことを言っても、やはり,このように落ちぶれた様子などを想像して、軽んじて扱うのは、心外なので、なおざりの返事をさえおさせにならない。三の宮は、やはりお会いしないではいられないとのお思いが深いのであった。前世からの約束事でいらしたのであろうか。<BR>⏎ |
| version46 | 112 | <H4>第二章 薫の物語 秋、八の宮死去す</H4> | 99 | |
| version46 | 113 | <A NAME="in21">[第一段 秋、薫、中納言に昇進し、宇治を訪問]</A><BR> | 100 | |
| c1 | 117 | などと、意中をそれとなく申し上げなさると、<BR>⏎ | 104 | などと,意中をそれとなく申し上げなさると、<BR>⏎ |
| d1 | 120 | <P>⏎ | ||
| version46 | 121 | <A NAME="in22">[第二段 薫、八の宮と昔語りをする]</A><BR> | 107 | |
| c4 | 123-126 | 「最近の世の中は、どのようになったのでしょうか。宮中などでは、このような秋の月の夜に、御前での管弦の御遊の時に伺候する人達の中で、楽器の名人と思われる人びとばかりが、それぞれ得意の楽器を合奏しあった調子などは、仰々しいのよりも、嗜みがあると評判の女御、更衣の御局々が、それぞれは張り合っていて、表面的な付き合いはしているようで、夜更けたころの辺りが静まった時分に、悩み深い風情に掻き調べ、かすかに流れ出た楽の音色などが、聞きどころのあるのが多かったな。<BR>⏎ 何事につけても、女性というのは、慰み事の相手にちょうどよく、何となく頼りないものの、人の心を動かす種であるのでしょう。それだから、罪が深いのでしょうか。子を思う道の闇を思いやるにも、男の子は、それほども親の心を乱さないであろうか。女の子は、運命があって、何とも言いようがないと諦めてしまうような場合でも、やはり、とても気にかかるもののようです」<BR>⏎ などと、一般論としておっしゃるが、どうしてそのようにお思いにならないことがあろうか、おいたわしく推察される宮のご心中である。<BR>⏎ 「すべて、ほんとうに、先程申し上げましたようにすべてこの世の事は執着を捨ててしまったせいでしょうか、自分自身のことは、どのようなこととも深く分かりませんが、なるほどつまらないことですが、音楽を愛する心だけは、捨てることができません。賢く修業する迦葉も、そうですから、立って舞ったのでございましょう」<BR>⏎ | 109-112 | 「最近の世の中は、どのようになったのでしょうか。宮中などでは、このような秋の月の夜に、御前での管弦の御遊の時に伺候する人達の中で、楽器の名人と思われる人びとばかりが、それぞれ得意の楽器を合奏しあった調子などは、仰々しいのよりも、嗜みがあると評判の女御,更衣の御局々が、それぞれは張り合っていて、表面的な付き合いはしているようで、夜更けたころの辺りが静まった時分に、悩み深い風情に掻き調べ、かすかに流れ出た楽の音色などが、聞きどころのあるのが多かったな。<BR>⏎ 何事につけても、女性というのは、慰み事の相手にちょうどよく、何となく頼りないものの、人の心を動かす種であるのでしょう。それだから,罪が深いのでしょうか。子を思う道の闇を思いやるにも、男の子は、それほども親の心を乱さないであろうか。女の子は、運命があって、何とも言いようがないと諦めてしまうような場合でも、やはり,とても気にかかるもののようです」<BR>⏎ などと,一般論としておっしゃるが、どうしてそのようにお思いにならないことがあろうか、おいたわしく推察される宮のご心中である。<BR>⏎ 「すべて,ほんとうに、先程申し上げましたようにすべてこの世の事は執着を捨ててしまったせいでしょうか、自分自身のことは、どのようなこととも深く分かりませんが、なるほどつまらないことですが、音楽を愛する心だけは、捨てることができません。賢く修業する迦葉も、そうですから、立って舞ったのでございましょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 129-131 | と言って、宮は仏の御前にお入りになった。<BR>⏎ 「わたしが亡くなって草の庵が荒れてしまっても<BR>⏎ この一言の約束だけは守ってくれようと存じます<BR>⏎ | 115-116 | と言って,宮は仏の御前にお入りになった。<BR>⏎ 「わたしが亡くなって草の庵が荒れてしまっても<BR> この一言の約束だけは守ってくれようと存じます<BR>⏎ |
| cd3:2 | 133-135 | と言って、お泣きになる。客人は、<BR>⏎ 「どのような世になりましても訪れなくなることはありません<BR>⏎ この末長く約束を結びました草の庵には<BR>⏎ | 118-119 | と言って,お泣きになる。客人は、<BR>⏎ 「どのような世になりましても訪れなくなることはありません<BR> この末長く約束を結びました草の庵には<BR>⏎ |
| d1 | 138 | <P>⏎ | ||
| version46 | 139 | <A NAME="in23">[第三段 薫、弁の君から昔語りを聞き、帰京]</A><BR> | 122 | |
| c1 | 141 | 「三の宮が、たいそうご執心でいられる」と、心中には思い出しながら、「自分ながら、やはり普通の人とは違っているぞ。あれほど宮ご自身がお許しになることを、それほどにも急ぐ気にもなれないことよ。が、結婚など思いもよらないことだとは、さすがに思われない。このようにして言葉を交わし、季節折々の花や紅葉につけて、感情や情趣を通じ合うのに、憎からず感じられる方でいらっしゃるので、自分と縁がなく、他人と結婚なさるのは」、やはり残念なことだろうと、自分のもののような気がするのであった。<BR>⏎ | 124 | 「三の宮が、たいそうご執心でいられる」と、心中には思い出しながら、「自分ながら、やはり普通の人とは違っているぞ。あれほど宮ご自身がお許しになることを、それほどにも急ぐ気にもなれないことよ。が,結婚など思いもよらないことだとは、さすがに思われない。このようにして言葉を交わし、季節折々の花や紅葉につけて、感情や情趣を通じ合うのに、憎からず感じられる方でいらっしゃるので、自分と縁がなく、他人と結婚なさるのは」、やはり残念なことだろうと、自分のもののような気がするのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 144 | <P>⏎ | ||
| version46 | 145 | <A NAME="in24">[第四段 八の宮、姫君たちに訓戒して山に入る]</A><BR> | 127 | |
| c2 | 149-150 | しっかりと頼りになる人以外には、相手の言葉に従って、この山里を離れなさるな。ただ、このように世間の人と違った運命の身とお思いになって、ここで一生を終わるのだとお悟りなさい。一途にその気になれば、何事もなく過ぎてしまう歳月なのである。まして、女性は、女らしくひっそりと閉じ籠もって、ひどくみっともない、世間からの非難を受けないのがよいでしょう」<BR>⏎ などとおっしゃる。どうなるかの将来の身の上のありようまでは、お考えも及ばず、ただ、「どのようにして、先立たれ申して後は、この世に片時も生きていられようか」とお思いになると、このように心細い状態を前もっておっしゃるので、何とも言いようもないお二方の嘆きである。心の中でこそ執着をお捨てになっていらしたようであるが、明け暮れお側に馴れ親しみなさって、急に別れなさるのは、冷淡な心からではないが、なるほど恨めしいに違いないご様子だったのである。<BR>⏎ | 131-132 | しっかりと頼りになる人以外には、相手の言葉に従って、この山里を離れなさるな。ただ,このように世間の人と違った運命の身とお思いになって、ここで一生を終わるのだとお悟りなさい。一途にその気になれば、何事もなく過ぎてしまう歳月なのである。まして,女性は、女らしくひっそりと閉じ籠もって、ひどくみっともない、世間からの非難を受けないのがよいでしょう」<BR>⏎ などとおっしゃる。どうなるかの将来の身の上のありようまでは、お考えも及ばず、ただ,「どのようにして、先立たれ申して後は、この世に片時も生きていられようか」とお思いになると、このように心細い状態を前もっておっしゃるので、何とも言いようもないお二方の嘆きである。心の中でこそ執着をお捨てになっていらしたようであるが、明け暮れお側に馴れ親しみなさって、急に別れなさるのは、冷淡な心からではないが、なるほど恨めしいに違いないご様子だったのである。<BR>⏎ |
| c1 | 158 | などと、振り返りながらお出になった。お二方は、ますます心細く物思いに閉ざされて、寝ても起きても語り合いながら、<BR>⏎ | 140 | などと,振り返りながらお出になった。お二方は、ますます心細く物思いに閉ざされて、寝ても起きても語り合いながら、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 161-162 | などと、泣いたり笑ったりしながら、冗談も真実も、同じ気持ちで慰め合いながらお過ごしになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 143 | などと,泣いたり笑ったりしながら、冗談も真実も、同じ気持ちで慰め合いながらお過ごしになる。<BR>⏎ |
| version46 | 163 | <A NAME="in25">[第五段 八月二十日、八の宮、山寺で死去]</A><BR> | 144 | |
| c3 | 166-168 | と申し上げなさっていた。胸がどきりとして、どのようなことでかとお嘆きになり、御法衣類に綿を厚くして、急いで準備させなさって、お届け申し上げなさる。二、三日良くおなりにならない。「どのようですか、どのようですか」と、使者を差し向けなさるが、<BR>⏎ 「特にひどく悪いというのではない。どことなく苦しいのです。もう少し良くなっら、じきに、我慢してでも帰ろう」<BR>⏎ などと、口上で申し上げなさる。阿闍梨がぴったりと付き添ってお世話申し上げているのであった。<BR>⏎ | 147-149 | と申し上げなさっていた。胸がどきりとして、どのようなことでかとお嘆きになり、御法衣類に綿を厚くして、急いで準備させなさって、お届け申し上げなさる。二,三日良くおなりにならない。「どのようですか,どのようですか」と、使者を差し向けなさるが、<BR>⏎ 「特にひどく悪いというのではない。どことなく苦しいのです。もう少し良くなっら、じきに,我慢してでも帰ろう」<BR>⏎ などと,口上で申し上げなさる。阿闍梨がぴったりと付き添ってお世話申し上げているのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 170 | と、ますます出離なさらねばならないことを申し上げ知らせながら、「いまさら下山なさいますな」と、ご忠告申し上げるのであった。<BR>⏎ | 151 | と,ますます出離なさらねばならないことを申し上げ知らせながら、「いまさら下山なさいますな」と、ご忠告申し上げるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 175 | <P>⏎ | ||
| version46 | 176 | <A NAME="in26">[第六段 阿闍梨による法事と薫の弔問]</A><BR> | 156 | |
| cd3:2 | 184-186 | 阿闍梨のもとにも、姫君たちのご弔問も、心をこめて差し上げなさる。このようなご弔問など、また他に誰も訪れる人さえいないご様子なのは、悲しみにくれている姫君たちにも、年来のご厚誼のありがたかったことをお分かりになる。<BR>⏎ 「世間普通の死別でさえ、その当座は、比類なく悲しいようにばかり、誰でも悲しみにくれるようなのに、まして気を慰めようもないお身の上では、どのようにお悲しみになっていられるだろう」と想像なさりながら、後のご法事など、しなければならないことを想像して、阿闍梨にも挨拶なさる。こちらにも、老女たちにかこつけて、御誦経などのことをご配慮なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 164-165 | 阿闍梨のもとにも、姫君たちのご弔問も、心をこめて差し上げなさる。このようなご弔問など、また他に誰も訪れる人さえいないご様子なのは、悲しみにくれている姫君たちにも、年来のご厚誼のありがたかったことを お分かりになる。<BR>⏎ 「世間普通の死別でさえ、その当座は、比類なく悲しいようにばかり、誰でも悲しみにくれるようなのに、まして気を慰めようもないお身の上では、どのようにお悲しみになっていられるだろう」と想像なさりながら、後のご法事など、しなければならないことを 想像して、阿闍梨にも挨拶なさる。こちらにも、老女たちにかこつけて、御誦経などのことをご配慮なさる。<BR>⏎ |
| version46 | 187 | <H4>第三章 宇治の姉妹の物語 晩秋の傷心の姫君たち</H4> | 166 | |
| version46 | 188 | <A NAME="in31">[第一段 九月、忌中の姫君たち]</A><BR> | 167 | |
| c1 | 189 | 夜の明けない心地のまま、九月になった。野山の様子、まして時雨が涙を誘いがちで、ややもすれば先を争って落ちる木の葉の音も、水の響きも、涙の滝も、一緒のように分からなくなって、「こうしていては、どうして、定めのあるご寿命も、しばらくの間もお保ちになれようか」と、お仕えする女房たちは、心細く、ひどくお慰め申し上げ、お慰め申し上げしつつ。<BR>⏎ | 168 | 夜の明けない心地のまま、九月になった。野山の様子、まして時雨が涙を誘いがちで、ややもすれば先を争って落ちる木の葉の音も、水の響きも、涙の滝も、一緒のように分からなくなって、「こうしていては、どうして,定めのあるご寿命も、しばらくの間もお保ちになれようか」と、お仕えする女房たちは、心細く、ひどくお慰め申し上げ、お慰め申し上げしつつ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 191-192 | 兵部卿宮からも、度々ご弔問申し上げなさる。そのようなお返事など、差し上げる気もなさらない。何の返事もないので、「中納言にはこうではないだろうに、自分をやはり疎んじていらっしゃるらしい」と、恨めしくお思いになる。紅葉の盛りに、詩文などを作らせなさろうとして、お出かけになるご予定だったが、こうしたことになって、この近辺のご逍遥は、不都合な折なのでご中止なさって、残念に思っていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 170 | 兵部卿宮からも、度々ご弔問申し上げなさる。そのようなお返事など、差し上げる気もなさらない。何の返事もないので、「中納言にはこうではないだろうに、自分をやはり疎んじていらっしゃるらしい」と、恨めしくお思いになる。紅葉の盛りに、詩文などを作らせなさろうとして、お出かけになるご予定だったが、こうしたことになって,この近辺のご逍遥は、不都合な折なのでご中止なさって、残念に思っていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version46 | 193 | <A NAME="in32">[第二段 匂宮からの弔問の手紙]</A><BR> | 171 | |
| cd2:1 | 195-196 | 「牡鹿の鳴く秋の山里はいかがお暮らしでしょうか<BR>⏎ 小萩に露のかかる夕暮時は<BR>⏎ | 173 | 「牡鹿の鳴く秋の山里はいかがお暮らしでしょうか<BR> 小萩に露のかかる夕暮時は<BR>⏎ |
| c2 | 199-200 | 「おしっしゃるとおり、とても情け知らずの有様で、何度にもなってしまいましたから、やはり、差し上げなさい」<BR>⏎ などと、中の宮を、いつものように、催促してお書かせ申し上げなさる。<BR>⏎ | 176-177 | 「おしっしゃるとおり,とても情け知らずの有様で、何度にもなってしまいましたから、やはり,差し上げなさい」<BR>⏎ などと,中の宮を、いつものように,催促して お書かせ申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 202-206 | 「やはり、書くことはできませんわ。だんだんこのように起きてはいられますが、なるほど、限りがあるのだわと思われますのも、疎ましく情けなくて」<BR>⏎ と、可憐な様子で泣きしおれていらっしゃるのも、まことにいたいたしい。<BR>⏎ 夕暮のころに出立したお使いが、宵が少し過ぎたころに着いた。「どうして、帰参することができましょう。今夜は泊まって行くように」と言わせなさるが、「すぐ引き返して、帰参します」と急ぐので、お気の毒で、自分は冷静に落ち着いていらっしゃるのではないが、見るに見かねなさって、<BR>⏎ 「涙ばかりで霧に塞がっている山里は<BR>⏎ 籬に鹿が声を揃えて鳴いております」<BR>⏎ | 179-182 | 「やはり,書くことはできませんわ。だんだんこのように起きてはいられますが、なるほど,限りがあるのだわと思われますのも、疎ましく情けなくて」<BR>⏎ と,可憐な様子で泣きしおれていらっしゃるのも、まことにいたいたしい。<BR>⏎ 夕暮のころに出立したお使いが、宵が少し過ぎたころに着いた。「どうして,帰参することができましょう。今夜は泊まって行くように」と言わせなさるが、「すぐ引き返して、帰参します」と急ぐので、お気の毒で、自分は冷静に落ち着いていらっしゃるのではないが、見るに見かねなさって、<BR>⏎ 「涙ばかりで霧に塞がっている山里は<BR> 籬に鹿が声を揃えて鳴いております」<BR>⏎ |
| d1 | 208 | <P>⏎ | ||
| version46 | 209 | <A NAME="in33">[第三段 匂宮の使者、帰邸]</A><BR> | 184 | |
| c1 | 214 | と、御前に仕える女房たちは、ささやき申して、お妬み申し上げる。眠たいからなのであろう。<BR>⏎ | 189 | と,御前に仕える女房たちは、ささやき申して、お妬み申し上げる。眠たいからなのであろう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 216-217 | 「朝霧に友を見失った鹿の声を<BR>⏎ ただ世間並にしみじみと悲しく聞いておりましょうか<BR>⏎ | 191 | 「朝霧に友を見失った鹿の声を<BR> ただ世間並にしみじみと悲しく聞いておりましょうか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 220-221 | この宮などを、軽薄な世間並の男性とはお思い申し上げていらっしゃらない。何でもない走り書きなさったご筆跡や言葉遣いも、風情があり優美でいらっしゃるご様子を、多くはご存知でないが、御覧になりながら、「その嗜み深く風情あるお手紙に、お返事申し上げるのも、似合わしくない二人の身の上なので、いっそ、ただ、このような山里人めいて過ごそう」とお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 194 | この宮などを、軽薄な世間並の男性とはお思い申し上げていらっしゃらない。何でもない走り書きなさったご筆跡や言葉遣いも、風情があり優美でいらっしゃるご様子を、多くはご存知でないが、御覧になりながら、「その嗜み深く風情あるお手紙に、お返事申し上げるのも、似合わしくない二人の身の上なので、いっそ,ただ、このような山里人めいて過ごそう」とお思いになる。<BR>⏎ |
| version46 | 222 | <A NAME="in34">[第四段 薫、宇治を訪問]</A><BR> | 195 | |
| d1 | 232 | <P>⏎ | ||
| version46 | 233 | <A NAME="in35">[第五段 薫、大君と和歌を詠み交す]</A><BR> | 205 | |
| c1 | 235 | お嘆きのご心中、またお約束なさったことなどを、たいそう親密に優しく言って、嫌な粗野な態度などはお現しにならない方なので、気味悪く居心地悪くなどはないが、関係ない人にこのように声をお聞かせ申し、何となく頼りにしていたことなどもあった日頃を思い出すのも、やはり辛くて、遠慮されるが、かすかに一言などお返事申し上げなさる様子が、なるほど、いろいろと悲しみにぼうっとした感じなので、まことにお気の毒にとお聞き申し上げなさる。<BR>⏎ | 207 | お嘆きのご心中、またお約束なさったことなどを、たいそう親密に優しく言って、嫌な粗野な態度などはお現しにならない方なので、気味悪く居心地悪くなどはないが、関係ない人にこのように声をお聞かせ申し、何となく頼りにしていたことなどもあった日頃を思い出すのも、やはり辛くて、遠慮されるが、かすかに一言などお返事申し上げなさる様子が、なるほど,いろいろと悲しみにぼうっとした感じなので、まことにお気の毒にとお聞き申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd5:3 | 237-241 | 「色の変わった浅茅を見るにつけても墨染に<BR>⏎ 身をやつしていらっしゃるお姿をお察しいたします」<BR>⏎ と、独り言のようにおっしゃると、<BR>⏎ 「喪服に色の変わった袖に露はおいていますが<BR>⏎ わが身はまったく置き所もありません<BR>⏎ | 209-211 | 「色の変わった浅茅を見るにつけても墨染に<BR> 身をやつしていらっしゃるお姿をお察しいたします」<BR>⏎ と,独り言のようにおっしゃると、<BR>⏎ 「喪服に色の変わった袖に露はおいていますが<BR> わが身はまったく置き所もありません<BR>⏎ |
| d1 | 244 | <P>⏎ | ||
| version46 | 245 | <A NAME="in36">[第六段 薫、弁の君と語る]</A><BR> | 214 | |
| c2 | 248-249 | ただ、このように静かなご生活などが、心にお適いになっていらっしゃったが、このようにあっけなく先立ち申されたので、ますますひどく、無常の世の中が思い知らされる心も、催されたが、おいたわしい境遇で、後に遺されたお二方の事が、妨げだなどと申し上げるようなのは、懸想めいたように聞こえますが、生き永らえても、あの遺言を違えずに、相談申し上げ承りたく思います。<BR>⏎ 実は、思いがけない昔話を聞いてからは、ますますこの世に跡を残そうなどとは思われなくなったのですよ」<BR>⏎ | 217-218 | ただ,このように静かなご生活などが、心にお適いになっていらっしゃったが、このようにあっけなく先立ち申されたので、ますますひどく、無常の世の中が思い知らされる心も、催されたが、おいたわしい境遇で、後に遺されたお二方の事が、妨げだなどと申し上げるようなのは、懸想めいたように聞こえますが、生き永らえても、あの遺言を違えずに、相談申し上げ承りたく思います。<BR>⏎ 実は,思いがけない昔話を聞いてからは、ますますこの世に跡を残そうなどとは思われなくなったのですよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 252-253 | 昔の事は、長年このように朝夕に拝し馴れて、隔意なく全部思い申し上げる姫君たちにも、一言も申し上げたこともなく、隠して来たけれど、中納言の君は、「老人の問わず語りは、皆、通例のことなので、誰彼なく軽率に言いふらしたりしないにしても、まことに気のおける姫君たちは、ご存知でいらっしゃるだろう」と自然と推量されるのが、忌まわしいとも困った事とも思われるので、「また疎遠にしてはおけない」と、言い寄るきっかけにもなるのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 221 | 昔の事は、長年このように朝夕に拝し馴れて、隔意なく全部思い申し上げる姫君たちにも、一言も申し上げたこともなく、隠して来たけれど、中納言の君は、「老人の問わず語りは、皆,通例のことなので、誰彼なく軽率に言いふらしたりしないにしても、まことに気のおける姫君たちは、ご存知でいらっしゃるだろう」と自然と推量されるのが、忌まわしいとも困った事とも思われるので、「また疎遠にしてはおけない」と、言い寄るきっかけにもなるのであろう。<BR>⏎ |
| version46 | 254 | <A NAME="in37">[第七段 薫、日暮れて帰京]</A><BR> | 222 | |
| c1 | 255 | 今は泊まるのも落ち着かない気がして、お帰りなさるにも、「これが最後か」などとおっしゃったが、「どうして、そのようなことがあろうか、と信頼して、再び拝しなくなった、秋は変わったろうか。多くの日数も経ていないのに、どこにいらしたのかも分からず、あっけないことだ。格別に普通の人のようなご装飾もなく、とても簡略になさっていたようだが、まことにどことなく清らかに手入れがしてあって、周囲が趣深くなさっていたお住まいも、大徳たちが出入りし、あちら側とこちら側と隔てなさって、御念誦の道具類なども変わらない様子であるが、『仏像は皆あちらのお寺にお移し申そうとする』」と申し上げるのを、お聞きなさるにつけても、このような様子の人影などまでが見えなくなってしまった時、後に残ってお悲しみになっているお二方の気持ちを推察申し上げなさるのも、まことに胸が痛く思い続けられずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ | 223 | 今は泊まるのも落ち着かない気がして、お帰りなさるにも、「これが最後か」などとおっしゃったが、「どうして,そのようなことがあろうか、と信頼して、再び拝しなくなった、秋は変わったろうか。多くの日数も経ていないのに、どこにいらしたのかも分からず、あっけないことだ。格別に普通の人のようなご装飾もなく、とても簡略になさっていたようだが、まことにどことなく清らかに手入れがしてあって、周囲が趣深くなさっていたお住まいも、大徳たちが出入りし、あちら側とこちら側と隔てなさって、御念誦の道具類なども 変わらない様子であるが、『仏像は皆あちらのお寺にお移し申そうとする』」と申し上げるのを、お聞きなさるにつけても、このような様子の人影などまでが見えなくなってしまった時、後に残ってお悲しみになっているお二方の気持ちを推察申し上げなさるのも、まことに胸が痛く思い続けられずにはいらっしゃれない。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 257-259 | 「秋霧の晴れない雲居でさらにいっそう<BR>⏎ この世を仮の世だと鳴いて知らせるのだろう」<BR>⏎ <P>⏎ | 225 | 「秋霧の晴れない雲居でさらにいっそう<BR> この世を仮の世だと鳴いて知らせるのだろう」<BR>⏎ |
| version46 | 260 | <A NAME="in38">[第八段 姫君たちの傷心]</A><BR> | 226 | |
| c1 | 263 | 「それにしても、思いのほかに過ぎ行くものは、月日ですわ。このように、頼りにしにくかったご寿命を、昨日今日とも思わず、ただ人生の大方の無常のはかなさばかりを、毎日のこととして見聞きしてきましたが、自分も父宮も後に遺されたり先立ったりすることに月日の隔たりがあろうか、などと思っていましたたよ」<BR>⏎ | 229 | 「それにしても,思いのほかに過ぎ行くものは、月日ですわ。このように,頼りにしにくかったご寿命を、昨日今日とも思わず、ただ人生の大方の無常のはかなさばかりを、毎日のこととして見聞きしてきましたが、自分も父宮も後に遺されたり先立ったりすることに月日の隔たりがあろうか、などと思っていましたたよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 265-266 | と、お二方で語り合いながら、涙の乾く間もなくて過ごしていらっしゃるうちに、年も暮れてしまった。<BR>⏎ <P>⏎ | 231 | と,お二方で語り合いながら、涙の乾く間もなくて過ごしていらっしゃるうちに、年も暮れてしまった。<BR>⏎ |
| version46 | 267 | <H4>第四章 宇治の姉妹の物語 歳末の宇治の姫君たち</H4> | 232 | |
| version46 | 268 | <A NAME="in41">[第一段 歳末の宇治の姫君たち]</A><BR> | 233 | |
| c2 | 270-271 | 「ああ、新しい年がやってきます。心細く悲しいこと。年の改まった春を待ちたいわ」<BR>⏎ と、気を落とさずに言う者もいる。「難しいことだわ」とお聞きになる。<BR>⏎ | 235-236 | 「ああ,新しい年がやってきます。心細く悲しいこと。年の改まった春を待ちたいわ」<BR>⏎ と,気を落とさずに言う者もいる。「難しいことだわ」とお聞きになる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 279-281 | などと、語り合っていらっしゃる。<BR>⏎ 「父上がお亡くなりになって岩の険しい山道も絶えてしまった今<BR>⏎ 松の雪を何と御覧になりますか」<BR>⏎ | 244-245 | などと,語り合っていらっしゃる。<BR>⏎ 「父上がお亡くなりになって岩の険しい山道も絶えてしまった今<BR> 松の雪を何と御覧になりますか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 283-284 | 「奥山の松葉に積もる雪とでも<BR>⏎ 亡くなった父上を思うことができたらうれしゅうございます」<BR>⏎ | 247 | 「奥山の松葉に積もる雪とでも<BR> 亡くなった父上を思うことができたらうれしゅうございます」<BR>⏎ |
| d1 | 286 | <P>⏎ | ||
| version46 | 287 | <A NAME="in42">[第二段 薫、歳末に宇治を訪問]</A><BR> | 249 | |
| cd2:1 | 290-291 | 気を許すというのではないが、以前よりは少し言葉数多く、ものをおっしゃる様子が、たいそうそつがなく、奥ゆかしい感じである。「こうしてばかりは、続けられそうにない」とお思いになるにつけても、「まことにあっさり変わってしまう心だな。やはり、恋心に変わってまう男女の仲なのだな」と思っていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 252 | 気を許すというのではないが、以前よりは少し言葉数多く、ものをおっしゃる様子が、たいそうそつがなく、奥ゆかしい感じである。「こうしてばかりは、続けられそうにない」とお思いになるにつけても、「まことにあっさり変わってしまう心だな。やはり,恋心に変わってまう男女の仲なのだな」と思っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version46 | 292 | <A NAME="in43">[第三段 薫、匂宮について語る]</A><BR> | 253 | |
| c1 | 293 | 「匂宮が、たいそう不思議とお恨みになることがございましたね。しみじみとしたご遺言を一言承りましたことなどを、何かのついでに、ちらっとお洩らし申し上げたことがあったのでしょうか。またとてもよく気の回るお方で、推量なさったのでしょうか、わたしに、うまく申し上げてくれるようにと頼むのに、冷淡なご様子なのは、うまくお取り持ち申さないからだと、度々お恨みになるので、心外なこととは存じますが、山里への案内役は、きっぱりとお断り申し上げることもできかねるのですが、なにも、そのようにおあしらい申し上げなさいますな。<BR>⏎ | 254 | 「匂宮が、たいそう不思議とお恨みになることがございましたね。しみじみとしたご遺言を一言承りましたことなどを、何かのついでに、ちらっとお洩らし申し上げたことがあったのでしょうか。またとてもよく気の回るお方で、推量なさったのでしょうか、わたしに、うまく申し上げてくれるようにと頼むのに、冷淡なご様子なのは、うまくお取り持ち申さないからだと、度々お恨みになるので、心外なこととは存じますが、山里への案内役は、きっぱりとお断り申し上げることもできかねるのですが、なにも,そのようにおあしらい申し上げなさいますな。<BR>⏎ |
| c1 | 295 | 壊れ始めては、龍田川が濁る名を汚し、言いようもなくすっかり破綻してしまうようなことなども、あるようです。心から深く愛着を覚えていらっしゃるらしいご性分にかない、特に御意に背くようなことが多くおありでない方には、全然、軽々しく、始めと終わりが違うような態度などを、お見せなさらないご性格です。<BR>⏎ | 256 | 壊れ始めては、龍田川が濁る名を汚し、言いようもなくすっかり破綻してしまうようなことなども、あるようです。心から深く愛着を覚えていらっしゃるらしいご性分にかない、特に御意に背くようなことが多くおありでない方には、全然,軽々しく、始めと終わりが違うような態度などを、お見せなさらないご性格です。<BR>⏎ |
| c1 | 297 | と、実に真面目に、おっしゃり続けなさるので、ご自身のことはお考えにもならず、「妹君の親代わりになって返事しよう」とご思案なさるが、やはりお答えすべき言葉も出ない気がして、<BR>⏎ | 258 | と,実に真面目に、おっしゃり続けなさるので、ご自身のことはお考えにもならず、「妹君の親代わりになって返事しよう」とご思案なさるが、やはりお答えすべき言葉も出ない気がして、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 299-300 | と、ほほ笑みなさるのが、おっとりとしている一方で、その感じが好ましく聞こえる。<BR>⏎ <P>⏎ | 260 | と,ほほ笑みなさるのが、おっとりとしている一方で、その感じが好ましく聞こえる。<BR>⏎ |
| version46 | 301 | <A NAME="in44">[第四段 薫と大君、和歌を詠み交す]</A><BR> | 261 | |
| cd4:3 | 302-305 | 「必ずしもご自身のこととしてお考えになることとも存じません。それは、雪を踏み分けて参った気持ちぐらいは、ご理解下さる姉君としてのお考えでいらっしゃって下さい。あの宮のご関心は、また別な方のほうにあるようでございます。わずかに文をお取り交わしなさることもございましたが、さあ、それも他人にはどちらかと判断申し上げにくいことです。お返事などは、どちらの方が差し上げなさるのですか」<BR>⏎ とお尋ね申し上げるので、「よくまあ、冗談にも差し上げなくてよかったことよ。何ということはないが、このようにおっしゃるにつけても、どんなに恥ずかしく胸が痛んだことだろう」と思うと、お返事もおできになれない。<BR>⏎ 「雪の深い山の懸け橋は、あなた以外に<BR>⏎ 誰も踏み分けて訪れる人はございません」<BR>⏎ | 262-264 | 「必ずしもご自身のこととしてお考えになることとも存じません。それは,雪を踏み分けて参った気持ちぐらいは、ご理解下さる姉君としてのお考えでいらっしゃって下さい。あの宮のご関心は、また別な方のほうにあるようでございます。わずかに文をお取り交わしなさることもございましたが、さあ,それも他人にはどちらかと判断申し上げにくいことです。お返事などは、どちらの方が差し上げなさるのですか」<BR>⏎ とお尋ね申し上げるので、「よくまあ,冗談にも差し上げなくてよかったことよ。何ということはないが、このようにおっしゃるにつけても、どんなに恥ずかしく胸が痛んだことだろう」と思うと、お返事もおできになれない。<BR>⏎ 「雪の深い山の懸け橋は、あなた以外に<BR> 誰も踏み分けて訪れる人はございません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 308-309 | 「氷に閉ざされて馬が踏み砕いて歩む山川を<BR>⏎ 宮の案内がてら、まずはわたしが渡りましょう<BR>⏎ | 267 | 「氷に閉ざされて馬が踏み砕いて歩む山川を<BR> 宮の案内がてら、まずはわたしが渡りましょう<BR>⏎ |
| d1 | 313 | <P>⏎ | ||
| version46 | 314 | <A NAME="in45">[第五段 薫、人びとを励まして帰京]</A><BR> | 271 | |
| c1 | 316 | と、お供の人びとが促すので、お帰りになろうとして、<BR>⏎ | 273 | と,お供の人びとが促すので、お帰りになろうとして、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 325-327 | 「立ち寄るべき蔭とお頼りしていた椎の本は<BR>⏎ 空しい床になってしまったな」<BR>⏎ といって、柱に寄り掛かっていらっしゃるのも、若い女房たちは、覗いてお誉め申し上げる。<BR>⏎ | 282-283 | 「立ち寄るべき蔭とお頼りしていた椎の本は<BR> 空しい床になってしまったな」<BR>⏎ といって,柱に寄り掛かっていらっしゃるのも、若い女房たちは、覗いてお誉め申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 329 | <P>⏎ | ||
| version46 | 330 | <H4>第五章 宇治の姉妹の物語 匂宮、薫らとの恋物語始まる</H4> | 285 | |
| version46 | 331 | <A NAME="in51">[第一段 新年、阿闍梨、姫君たちに山草を贈る]</A><BR> | 286 | |
| cd6:4 | 334-339 | などと、人びとが言うのを、「何の興趣深いことがあろうか」とお聞きになっている。<BR>⏎ 「父宮が摘んでくださった峰の蕨でしたら<BR>⏎ これを春が来たしるしだと知られましょうに」<BR>⏎ 「雪の深い汀の小芹も誰のために摘んで楽しみましょうか<BR>⏎ 親のないわたしたちですので」<BR>⏎ などと、とりとめのないことを語り合いながら、日をお暮らしになる。<BR>⏎ | 289-292 | などと,人びとが言うのを、「何の興趣深いことがあろうか」とお聞きになっている。<BR>⏎ 「父宮が摘んでくださった峰の蕨でしたら<BR> これを春が来たしるしだと知られましょうに」<BR>⏎ 「雪の深い汀の小芹も誰のために摘んで楽しみましょうか<BR> 親のないわたしたちですので」<BR>⏎ などと,とりとめのないことを語り合いながら、日をお暮らしになる。<BR>⏎ |
| d1 | 341 | <P>⏎ | ||
| version46 | 342 | <A NAME="in52">[第二段 花盛りの頃、匂宮、中の君と和歌を贈答]</A><BR> | 294 | |
| cd8:5 | 345-352 | などと、世の中一般のはかなさを口々に申し上げるので、たいそう興味深くお思いになるのであった。<BR>⏎ 「この前は、事のついでに眺めたあなたの桜を<BR>⏎ 今年の春は霞を隔てず手折ってかざしたい」<BR>⏎ と、気持ちのままおっしゃるのであった。「とんでもないことだわ」と御覧になりながら、とても所在ない折なので、素晴らしいお手紙の、表面だけでも無にすまいと思って、<BR>⏎ 「どこと尋ねて手折るのでしょう<BR>⏎ 墨染に霞み籠めているわたしの桜を」<BR>⏎ やはり、このように突き放して、素っ気ないお気持ちばかりが見えるので、ほんとうに恨めしいとお思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 297-301 | などと,世の中一般のはかなさを口々に申し上げるので、たいそう興味深くお思いになるのであった。<BR>⏎ 「この前は、事のついでに眺めたあなたの桜を<BR> 今年の春は霞を隔てず手折ってかざしたい」<BR>⏎ と,気持ちのままおっしゃるのであった。「とんでもないことだわ」と御覧になりながら、とても所在ない折なので、素晴らしいお手紙の、表面だけでも無にすまいと思って、<BR>⏎ 「どこと尋ねて手折るのでしょう<BR> 墨染に霞み籠めているわたしの桜を」<BR>⏎ やはり,このように突き放して、素っ気ないお気持ちばかりが見えるので、ほんとうに恨めしいとお思い続けていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version46 | 353 | <A NAME="in53">[第三段 その後の匂宮と薫]</A><BR> | 302 | |
| c1 | 356 | など、お咎め申し上げなさるので、宮もお気をつけなさるのであろう。<BR>⏎ | 305 | など,お咎め申し上げなさるので、宮もお気をつけなさるのであろう。<BR>⏎ |
| c1 | 358 | 大殿の六の君をお気にかけないことは、何となく恨めしそうに、大臣もお思いになっているのであった。けれど、<BR>⏎ | 307 | 大殿の六の君をお気にかけないことは、何となく恨めしそうに、大臣もお思いになっているのであった。けれど,<BR>⏎ |
| c1 | 360 | と、内々ではおっしゃって、嫌がっていらっしゃる。<BR>⏎ | 309 | と,内々ではおっしゃって、嫌がっていらっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 362 | <P>⏎ | ||
| version46 | 363 | <A NAME="in54">[第四段 夏、薫、宇治を訪問]</A><BR> | 311 | |
| c1 | 366 | こちらに几帳を立て添えてある、「ああ、残念な」と思って、引き返す、ちょうどその時、風が簾をたいそう高く吹き上げるようなので、<BR>⏎ | 314 | こちらに几帳を立て添えてある、「ああ,残念な」と思って、引き返す、ちょうどその時、風が簾をたいそう高く吹き上げるようなので、<BR>⏎ |
| d1 | 369 | <P>⏎ | ||
| version46 | 370 | <A NAME="in55">[第五段 障子の向こう側の様子]</A><BR> | 317 | |
| c1 | 371 | まず、一人が立って出て来て、几帳から覗いて、このお供の人びとが、あちこち行ったり来たりして、涼んでいるのを御覧になるのであった。濃い鈍色の単衣に、萱草の袴が引き立っていて、かえって様子が違って華やかであると見えるのは、着ていらっしゃる人のせいのようである。<BR>⏎ | 318 | まず,一人が立って出て来て、几帳から覗いて、このお供の人びとが、あちこち行ったり来たりして、涼んでいるのを御覧になるのであった。濃い鈍色の単衣に、萱草の袴が引き立っていて、かえって様子が違って華やかであると見えるのは、着ていらっしゃる人のせいのようである。<BR>⏎ |
| c1 | 375 | と、若い女房たちは、何気なしに言う者もいる。<BR>⏎ | 322 | と,若い女房たちは、何気なしに言う者もいる。<BR>⏎ |
| cd4:2 | 377-380 | と言って、不安そうにいざってお入りなるとき、気高く奥ゆかしい感じが加わって見える。黒い袷を一襲、同じような色合いを着ていらっしゃるが、これはやさしく優美で、しみじみと、おいたわしく思われる。<BR>⏎ 髪は、さっぱりした程度に抜け落ちているのであろう、末の方が少し細くなって、見事な色とでも言うのか、翡翠のようなとても美しそうで、より糸を垂らしたようである。紫の紙に書いてあるお経を片手に持っていらっしゃる手つきが、前の人よりほっそりとして、痩せ過ぎているのであろう。立っていた姫君も、障子口に座って、何であろうか、こちらを見て笑っていらっしゃるのが、とても愛嬌がある。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 324-325 | と言って,不安そうにいざってお入りなるとき、気高く奥ゆかしい感じが加わって見える。黒い袷を一襲、同じような色合いを着ていらっしゃるが、これはやさしく優美で、しみじみと、おいたわしく思われる。<BR>⏎ 髪は、さっぱりした程度に抜け落ちているのであろう、末の方が少し細くなって、見事な色とでも言うのか、翡翠のようなとても美しそうで、より糸を垂らしたようである。紫の紙に書いてあるお経を 片手に持っていらっしゃる手つきが、前の人よりほっそりとして、痩せ過ぎているのであろう。立っていた姫君も、障子口に座って、何であろうか、こちらを見て笑っていらっしゃるのが、とても愛嬌がある。<BR>⏎ |
| d1 | 387 | ⏎ | ||
| i0 | 336 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version47 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 63 | <LI>一行、和歌を唱和する---<A HREF="#in52">今日は、このままとお思いになるが、また、宮の大夫</A>⏎ | 60 | <LI>一行、和歌を唱和する---<A HREF="#in52">今日は、このままとお思いになるが、また,宮の大夫</A>⏎ |
| d1 | 91 | <P>⏎ | ||
| version47 | 92 | <H4>第一章 大君の物語 薫と大君の実事なき暁の別れ</H4> | 88 | |
| version47 | 93 | <A NAME="in11">[第一段 秋、八の宮の一周忌の準備]</A><BR> | 89 | |
| d1 | 96 | <P>⏎ | ||
| version47 | 97 | <A NAME="in12">[第二段 薫、大君に恋心を訴える]</A><BR> | 92 | |
| cd2:1 | 99-100 | 「総角に末長い契りを結びこめて<BR>⏎ 一緒になって会いたいものです」<BR>⏎ | 94 | 「総角に末長い契りを結びこめて<BR> 一緒になって会いたいものです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 102-103 | 「貫き止めることもできないもろい涙の玉の緒に<BR>⏎ 末長い契りをどうして結ぶことができましょう」<BR>⏎ | 96 | 「貫き止めることもできないもろい涙の玉の緒に<BR> 末長い契りをどうして結ぶことができましょう」<BR>⏎ |
| cd5:4 | 107-111 | 男女の仲の様子などを、ご存知でないようには拝見しませんのに、いやに、よそよそしくばかりおあしらいなさるので、これほど心から信頼申し上げている気持ちと違って、恨めしい気がします。どのようにお考えになっているのかなどを、はっきりとお聞き致したいものですね」<BR>⏎ と、たいそう真面目になって申し上げなさるので、<BR>⏎ 「お気持ちに背くまいとの気持ちなればこそ、こうしてまでおかしな世間の例にもなる状態で、隔てなくお相手しているのでございます。それをお分かりにならなかったことこそ、浅い気持ちがあるような気がします。おっしゃるように、このような住まいなどに、情けの深い人は、ありたけの物思いをし尽くすでしょうが、何事にも後れて育ちましたので、このおっしゃるような方面は、故人も、一向に何一つ、こういう場合にはああいう場合にはなどと、将来のことを予想して、おっしゃっておくこともなかったので、やはり、このような状態で、世間並みの生活を諦めるようお考え置きであった、と思い合わされますので、何ともお答え申し上げようがなくて。一方では、少し生い先長い年頃で、山奥暮らしはお気の毒にお見えになるお身の上を、まことにこのように枯木にはさせたくないものだと、人知れず面倒見ずにはいられなく思っているのですが、どのようになる縁なのでしょうか」<BR>⏎ と、嘆息して途方に暮れていらっしゃったときの様子、たいそうおいたわしく感じられる。<BR>⏎ <P>⏎ | 100-103 | 男女の仲の様子などを、ご存知でないようには拝見しませんのに、いやに,よそよそしくばかりおあしらいなさるので、これほど心から信頼申し上げている気持ちと違って、恨めしい気がします。どのようにお考えになっているのかなどを、はっきりとお聞き致したいものですね」<BR>⏎ と,たいそう真面目になって申し上げなさるので、<BR>⏎ 「お気持ちに背くまいとの気持ちなればこそ、こうしてまでおかしな世間の例にもなる状態で、隔てなくお相手しているのでございます。それをお分かりにならなかったことこそ、浅い気持ちがあるような気がします。おっしゃるように,このような住まいなどに、情けの深い人は、ありたけの物思いをし尽くすでしょうが、何事にも後れて育ちましたので、このおっしゃるような方面は、故人も、一向に何一つ、こういう場合にはああいう場合にはなどと、将来のことを予想して、おっしゃっておくこともなかったので、やはり,このような状態で、世間並みの生活を諦めるようお考え置きであった、と思い合わされますので、何ともお答え申し上げようがなくて。一方では,少し生い先長い年頃で、山奥暮らしはお気の毒にお見えになるお身の上を、まことにこのように枯木にはさせたくないものだと、人知れず面倒見ずにはいられなく思っているのですが、どのようになる縁なのでしょうか」<BR>⏎ と,嘆息して途方に暮れていらっしゃったときの様子、たいそうおいたわしく感じられる。<BR>⏎ |
| version47 | 112 | <A NAME="in13">[第三段 薫、弁を呼び出して語る]</A><BR> | 104 | |
| c1 | 115 | 自然とお聞き及びになっていることもありましょう。とても妙な性質で、世の中に執着することはなかったが、前世からの因縁でしょうか、こんなにまでお親しみ申したのでしょう。世間の人もだんだんと噂するらしくもあるから、同じことなら故人のご遺言にお背き申さず、わたしも姫君も、世間の普通の男女のように心をお交わし申したい、と思い寄りましたのは、不似合いなことであっても、そのような例もないわけではありません」<BR>⏎ | 107 | 自然とお聞き及びになっていることもありましょう。とても妙な性質で、世の中に執着することはなかったが、前世からの因縁でしょうか、こんなにまでお親しみ申したのでしょう。世間の人もだんだんと噂するらしくもあるから、同じことなら故人のご遺言にお背き申さず、わたしも姫君も,世間の普通の男女のように心をお交わし申したい、と思い寄りましたのは、不似合いなことであっても、そのような例もないわけではありません」<BR>⏎ |
| c1 | 117 | 「宮のお身の上を、このように申し上げるのに、不安でないと、気をお許しにならないご様子なのは、内々で、やはり他にお考えの人がいるのでしょうか。さあ、どうなのですか、どうなのですか」<BR>⏎ | 109 | 「宮のお身の上を、このように申し上げるのに、不安でないと、気をお許しにならないご様子なのは、内々で、やはり他にお考えの人がいるのでしょうか。さあ,どうなのですか、どうなのですか」<BR>⏎ |
| d1 | 119 | <P>⏎ | ||
| version47 | 120 | <A NAME="in14">[第四段 薫、弁を呼び出して語る(続き)]</A><BR> | 111 | |
| c3 | 121-123 | 「もともと、このように人と違っていらっしゃるお二方のご性格のせいでしょうか、どうしてもどうしても、世間の普通の人のように、何やかやと世間並みの結婚を、お考えになっていらっしゃるご様子でございません。<BR>⏎ こうして、仕えております誰彼も、今まででさえ、何の頼りになる庇護もございませんでした。身を捨てがたく思う者たちだけは、身分身分に応じて暇をもらって離れ去り、昔からの古い縁故の人も、多くはお見限り申した邸に、まして今では、立ち止まりがたそうに困り合っておりまして、ご在世中にこそ、格式もあって、不釣合なご結婚は、お気の毒だわなどと、昔気質の律儀さから、おためらいになっていました。<BR>⏎ 今では、このように、他に頼りのいないお身の上の方たちで、どのようにもどのようにも、成り行き次第に身を任せなさるのを、むやみに悪口を申し上げるような人は、かえって物の道理を知らず、言いようもないことでしょう。どのような人が、まことにこうして一生をお送りなさることができましょうか。<BR>⏎ | 112-114 | 「もともと、このように人と違っていらっしゃるお二方のご性格のせいでしょうか、どうしてもどうしても、世間の普通の人のように,何やかやと世間並みの結婚を、お考えになっていらっしゃるご様子でございません。<BR>⏎ こうして,仕えております誰彼も、今まででさえ、何の頼りになる庇護もございませんでした。身を捨てがたく思う者たちだけは、身分身分に応じて暇をもらって離れ去り、昔からの古い縁故の人も、多くはお見限り申した邸に、まして今では、立ち止まりがたそうに困り合っておりまして、ご在世中にこそ、格式もあって、不釣合なご結婚は、お気の毒だわなどと、昔気質の律儀さから、おためらいになっていました。<BR>⏎ 今では、このように,他に頼りのいないお身の上の方たちで、どのようにもどのようにも、成り行き次第に身を任せなさるのを、むやみに悪口を申し上げるような人は、かえって物の道理を知らず、言いようもないことでしょう。どのような人が、まことにこうして一生をお送りなさることができましょうか。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 132-133 | などとおっしゃっていた。老女は、老女で、これほど心細いので、理想的なご様子を、とても切に、そうして差し上げたいと思うが、どちらも気恥ずかしいご様子の方々なので、思いのままには申し上げられない。<BR>⏎ <P>⏎ | 123 | などとおっしゃっていた。老女は,老女で、これほど心細いので、理想的なご様子を、とても切に、そうして差し上げたいと思うが、どちらも気恥ずかしいご様子の方々なので、思いのままには申し上げられない。<BR>⏎ |
| version47 | 134 | <A NAME="in15">[第五段 薫、大君の寝所に迫る]</A><BR> | 124 | |
| c1 | 139 | 内側では、「女房たち、近くに」などとおっしゃっておいたが、「そんなにも、よそよそしくなさらないで欲しい」と思っているようなので、たいしてお守り申さず、尻ごみ尻ごみしながら、皆寄り臥して、仏の御燈明を明るくする人もいない。何となく気づまりで、こっそりと人をお呼びになるが、目を覚まさない。<BR>⏎ | 129 | 内側では、「女房たち、近くに」などとおっしゃっておいたが、「そんなにも,よそよそしくなさらないで欲しい」と思っているようなので、たいしてお守り申さず、尻ごみ尻ごみしながら、皆寄り臥して、仏の御燈明を明るくする人もいない。何となく気づまりで、こっそりと人をお呼びになるが、目を覚まさない。<BR>⏎ |
| c1 | 141 | と言って、お入りになろうとする様子である。<BR>⏎ | 131 | と言って,お入りになろうとする様子である。<BR>⏎ |
| c1 | 143 | と言って、屏風を静かに押し開けてお入りになった。たいそう気味悪くて、半分程お入りになったところ、引き止められて、ひどく悔しく気にくわないので、<BR>⏎ | 133 | と言って,屏風を静かに押し開けてお入りになった。たいそう気味悪くて、半分程お入りになったところ、引き止められて、ひどく悔しく気にくわないので、<BR>⏎ |
| c1 | 145 | と、非難なさる様子が、ますます魅力的なので、<BR>⏎ | 135 | と,非難なさる様子が、ますます魅力的なので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 147-148 | と言って、奥ゆかしいほどの火影で、御髪がこぼれかかっているのを、掻きやりながら御覧になると、姫君のご様子は、申し分なくつやつやと美しい。<BR>⏎ <P>⏎ | 137 | と言って,奥ゆかしいほどの火影で、御髪がこぼれかかっているのを、掻きやりながら御覧になると、姫君のご様子は、申し分なくつやつやと美しい。<BR>⏎ |
| version47 | 149 | <A NAME="in16">[第六段 薫、大君をかき口説く]</A><BR> | 138 | |
| c1 | 155 | と言って、あの琴の音を聴いた有明の月の光をはじめとして、季節折々の思う心の堪えがたくなってゆく有様を、たいそうたくさん申し上げなさると、「気恥ずかしいことだわ」と疎ましく思って、「このような気持ちでありながら何喰わぬ顔で真面目顔していらっしゃっのだわ」と、お聞きになることが多かった。<BR>⏎ | 144 | と言って,あの琴の音を聴いた有明の月の光をはじめとして、季節折々の思う心の堪えがたくなってゆく有様を、たいそうたくさん申し上げなさると、「気恥ずかしいことだわ」と疎ましく思って、「このような気持ちでありながら何喰わぬ顔で真面目顔していらっしゃっのだわ」と、お聞きになることが多かった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 158-159 | 父宮がご遺言なさったことなどをお思い出しなさると、「なるほど、生き永らえると、意外なこのようなとんでもない目に遭うものだわ」と、何もかも悲しくて、水の音に流れ添う心地がなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 147 | 父宮がご遺言なさったことなどをお思い出しなさると、「なるほど,生き永らえると、意外なこのようなとんでもない目に遭うものだわ」と、何もかも悲しくて、水の音に流れ添う心地がなさる。<BR>⏎ |
| version47 | 160 | <A NAME="in17">[第七段 実事なく朝を迎える]</A><BR> | 148 | |
| c1 | 163 | と、たいそう親しい感じでお語らい申されると、だんだんと恐ろしさも慰められて、<BR>⏎ | 151 | と,たいそう親しい感じでお語らい申されると、だんだんと恐ろしさも慰められて、<BR>⏎ |
| c2 | 167-168 | 「事あり顔に朝露を分けて帰ることはできません。また、人はどのように推量申し上げましょうか。いつものように穏便にお振る舞いになって、ただ世間一般と違った問題として、今から後も、ただこのようにしてくださいませ。まったく不安なことはないとお思いください。これほど一途に思い詰める心のうちを、いじらしいとお分かりくださらないのは効ないことです」<BR>⏎ と言って、お帰りなるような様子もない。あきれて、見苦しいことと思って、<BR>⏎ | 155-156 | 「事あり顔に朝露を分けて帰ることはできません。また,人はどのように推量申し上げましょうか。いつものように穏便にお振る舞いになって、ただ世間一般と違った問題として、今から後も、ただこのようにしてくださいませ。まったく不安なことはないとお思いください。これほど一途に思い詰める心のうちを、いじらしいとお分かりくださらないのは効ないことです」<BR>⏎ と言って,お帰りなるような様子もない。あきれて、見苦しいことと思って、<BR>⏎ |
| c2 | 170-171 | と言って、ほんとうに困ったとお思いなので、<BR>⏎ 「ああ、つらい。暁の別れだ。まだ経験のないことなので、なるほど、迷ってしまいそうだ」<BR>⏎ | 158-159 | と言って,ほんとうに困ったとお思いなので、<BR>⏎ 「ああ,つらい。暁の別れだ。まだ経験のないことなので、なるほど,迷ってしまいそうだ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 173-174 | 「山里の情趣が思い知られます鳥の声々に<BR>⏎ あれこれと思いがいっぱいになる朝け方ですね」<BR>⏎ | 161 | 「山里の情趣が思い知られます鳥の声々に<BR> あれこれと思いがいっぱいになる朝け方ですね」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 176-177 | 「鳥の声も聞こえない山里と思っていましたが<BR>⏎ 人の世の辛さは後を追って来るものですね」<BR>⏎ | 163 | 「鳥の声も聞こえない山里と思っていましたが<BR> 人の世の辛さは後を追って来るものですね」<BR>⏎ |
| d1 | 179 | <P>⏎ | ||
| version47 | 180 | <A NAME="in18">[第八段 大君、妹の中の君を薫にと思う]</A><BR> | 165 | |
| c1 | 190 | と、無理におせがみ申し上げなさるので、暗くなったのに紛れてお起きになって、一緒に結んだりなどなさる。中納言殿からお手紙があるが、<BR>⏎ | 175 | と,無理におせがみ申し上げなさるので、暗くなったのに紛れてお起きになって、一緒に結んだりなどなさる。中納言殿からお手紙があるが、<BR>⏎ |
| cd4:3 | 192-195 | と言って、人を介してお返事申し上げなさる。<BR>⏎ 「いかにも、見苦しく、子供っぽくいらっしゃいます」<BR>⏎ と、女房たちはぶつぶつ申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 177-179 | と言って,人を介してお返事申し上げなさる。<BR>⏎ 「いかにも,見苦しく、子供っぽくいらっしゃいます」<BR>⏎ と,女房たちはぶつぶつ申し上げる。<BR>⏎ |
| version47 | 196 | <H4>第二章 大君の物語 大君、中の君を残して逃れる</H4> | 180 | |
| version47 | 197 | <A NAME="in21">[第一段 一周忌終り、薫、宇治を訪問]</A><BR> | 181 | |
| c1 | 202 | と、お手紙で申し上げなさった。<BR>⏎ | 186 | と,お手紙で申し上げなさった。<BR>⏎ |
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| version47 | 207 | <A NAME="in22">[第二段 大君、妹の中の君に薫を勧める]</A><BR> | 190 | |
| c1 | 209 | 「せめて恨みが深いなら、この妹君を押し出そう。たとえ見劣りする相手でも、そのように見初めては、いい加減には扱わないお心のようだから、わたし以上に、少しでも見初めたらきっと慰むことであろう。言葉に表しては、どうして、急に乗り換える人があろうか。希望通りでないと、承知する様子のないらしいのは、一つには、こちらの思うことを、筋違いに浅い思慮ではないかなどと、遠慮なさるだろう」<BR>⏎ | 192 | 「せめて恨みが深いなら、この妹君を押し出そう。たとえ見劣りする相手でも、そのように見初めては、いい加減には扱わないお心のようだから、わたし以上に、少しでも見初めたらきっと慰むことであろう。言葉に表しては、どうして,急に乗り換える人があろうか。希望通りでないと、承知する様子のないらしいのは、一つには,こちらの思うことを、筋違いに浅い思慮ではないかなどと、遠慮なさるだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 212 | 女房の言うように、私と同じように独身でお過しになるのも、明け暮れの月日がたつにつけても、あなたのお身の上ばかりが、惜しくおいたわしく悲しい身の上とお思い申し上げていますが、せめてあなただけでも世間並みに結婚なさって、このようなわが身の有様も面目が立って、慰められるようお世話申し上げたい」<BR>⏎ | 195 | 女房の言うように,私と同じように独身でお過しになるのも、明け暮れの月日がたつにつけても、あなたのお身の上ばかりが、惜しくおいたわしく悲しい身の上とお思い申し上げていますが、せめてあなただけでも世間並みに結婚なさって、このようなわが身の有様も面目が立って、慰められるようお世話申し上げたい」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 215-218 | と、何やら恨めしそうに思っていらっしゃるので、なるほどと、お気の毒になって、<BR>⏎ 「やはり、誰も彼もが困った強情者のように言い思っているらしいのにつけても、途方に暮れておりますよ」<BR>⏎ と、言いかけてお止めになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 198-200 | と,何やら恨めしそうに思っていらっしゃるので、なるほどと,お気の毒になって、<BR>⏎ 「やはり,誰も彼もが困った強情者のように言い思っているらしいのにつけても、途方に暮れておりますよ」<BR>⏎ と,言いかけてお止めになった。<BR>⏎ |
| version47 | 219 | <A NAME="in23">[第三段 薫は帰らず、大君、苦悩す]</A><BR> | 201 | |
| c1 | 221 | 「どのように振る舞ったらよいものか。どちらかの親が生きていらっしゃったら、どうなるにせよ、親からお世話され申して、運命というものにつけても、思い通りにならない世の中なので、すべてよくあることとして、物笑いの非難も隠れるというもの。仕えている女房は皆年をとり、賢そうに自分自身では思いながら、いい気になって、お似合いのご縁だと言い聞かせるが、これが、しっかりしたことだろうか。一人前でもない考えで、ただ勝手に言っているばかりだ」<BR>⏎ | 203 | 「どのように振る舞ったらよいものか。どちらかの親が生きていらっしゃったら、どうなるにせよ、親からお世話され申して、運命というものにつけても、思い通りにならない世の中なので、すべてよくあることとして、物笑いの非難も隠れるというもの。仕えている女房は皆年をとり、賢そうに自分自身では思いながら、いい気になって、お似合いのご縁だと言い聞かせるが、これが,しっかりしたことだろうか。一人前でもない考えで、ただ勝手に言っているばかりだ」<BR>⏎ |
| c1 | 224 | などと、お勧め申し上げながら、皆、お目にかからせようという考えのようなので、あきれて、「なるほど、何の支障があるだろうか。手狭な所で、このようなご生活の仕方ない、山梨の花」、逃げることもできないのであった。<BR>⏎ | 206 | などと,お勧め申し上げながら、皆,お目にかからせようという考えのようなので、あきれて、「なるほど,何の支障があるだろうか。手狭な所で、このようなご生活の仕方ない、山梨の花」、逃げることもできないのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 228 | <P>⏎ | ||
| version47 | 229 | <A NAME="in24">[第四段 大君、弁と相談する]</A><BR> | 210 | |
| c3 | 232-234 | けれども、昔から思い捨てていた考えなので、とてもつらいことです。この妹君が盛りをお過ぎになるのも残念です。なるほど、このような住まいも、ただこの君のためにも不都合にばかり思われますが、ほんとうに亡き宮をお思い出し申し上げるお気持ちならば、同じようにお考えになってください。身を分けた妹に心の中はすべて譲って、お世話申し上げたい気がするのです。やはり、このようによろしく申し上げてくださいね」<BR>⏎ と、恥ずかしがっているが、望んでいることをおっしゃり続けたので、まことにおいたわしいと拝する。<BR>⏎ 「そのようにばかりは、以前にもご様子を拝見しておりますので、とてもよく申し上げましたが、そのようにはお考え改めることはできず、兵部卿宮のお恨みの、深さが増すようなので、またそれはそれで、とても十分にご後見申し上げたい、と申されています。それも願ってもないことです。ご両親がお揃いで、特別に、たいそうお心をこめてお育て申し上げなさるにしましても、とても、このようにめったにないご縁談ばかりも、続いて来ないでしょう。<BR>⏎ | 213-215 | けれども,昔から思い捨てていた考えなので、とてもつらいことです。この妹君が盛りをお過ぎになるのも残念です。なるほど,このような住まいも、ただこの君のためにも不都合にばかり思われますが、ほんとうに亡き宮をお思い出し申し上げるお気持ちならば、同じようにお考えになってください。身を分けた妹に心の中はすべて譲って、お世話申し上げたい気がするのです。やはり,このようによろしく申し上げてくださいね」<BR>⏎ と,恥ずかしがっているが、望んでいることをおっしゃり続けたので、まことにおいたわしいと拝する。<BR>⏎ 「そのようにばかりは、以前にもご様子を拝見しておりますので、とてもよく申し上げましたが、そのようにはお考え改めることはできず、兵部卿宮のお恨みの、深さが増すようなので、またそれはそれで、とても十分にご後見申し上げたい、と申されています。それも願ってもないことです。ご両親がお揃いで、特別に、たいそうお心をこめてお育て申し上げなさるにしましても、とても,このようにめったにないご縁談ばかりも、続いて来ないでしょう。<BR>⏎ |
| c1 | 236 | 故宮のご遺言に背くまいとお考えあそばすのはごもっともなことですが、それは、婿にふさわしい方がいらっしゃらず、身分の不釣合なことがおありだろうとお考えになって、ご忠告申し上げなさったようなのではございませんか。<BR>⏎ | 217 | 故宮のご遺言に背くまいとお考えあそばすのはごもっともなことですが、それは,婿にふさわしい方がいらっしゃらず、身分の不釣合なことがおありだろうとお考えになって、ご忠告申し上げなさったようなのではございませんか。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 238-240 | それはみな憂き世の常のようですので、非難する人もございません。まして、これほどに、特別に誂えたような方のご様子で、ご愛情も深くめったにないように求婚申し上げなさるのを、むやみに振り切りなさって、お考えおいていたように、出家の本願をお遂げなさったとしても、そうかといって雲や霞を食べて生きらえましょうか」<BR>⏎ などと、総じて言葉数多く申し上げ続けると、とても憎く気にくわないとお思いになって、うつ伏しておしまいになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 219-220 | それはみな憂き世の常のようですので、非難する人もございません。まして,これほどに、特別に誂えたような方のご様子で、ご愛情も深くめったにないように求婚申し上げなさるのを、むやみに振り切りなさって、お考えおいていたように、出家の本願をお遂げなさったとしても、そうかといって雲や霞を食べて生きらえましょうか」<BR>⏎ などと,総じて言葉数多く申し上げ続けると、とても憎く気にくわないとお思いになって、うつ伏しておしまいになった。<BR>⏎ |
| version47 | 241 | <A NAME="in25">[第五段 大君、中の君を残して逃れる]</A><BR> | 221 | |
| c3 | 242-244 | 中の宮も、ひとごとながらおいたわしいご様子だわと、拝見なさって、一緒にいつものようにお寝みになった。気がかりで、どのように対処しようか、と思われなさるが、わざとらしく引き籠もって身をお隠しになる物蔭さえないお住まいなので、柔らかく美しい御衣を、上にお掛け申し上げなさって、まだ暑いころなので、少し寝返りして臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ 弁は、おっしゃったことを客人に申し上げる。「どうして、ほんとにこのように結婚を思い断っていらっしゃるのだろう。聖めいていらした方の側にいて、無常をお悟りになったのか」とお思いになると、ますます自分の心と似通っていると思われるので、利口ぶった憎い女とも思われない。<BR>⏎ 「それでは、物越しに会うのでも、今はとんでもないこととお考えなのですね。今夜だけは、お寝みになっている所に、こっそりと手引きせよ」<BR>⏎ | 222-224 | 中の宮も、ひとごとながらおいたわしいご様子だわと、拝見なさって、一緒にいつものようにお寝みになった。気がかりで、どのように対処しようか、と思われなさるが、わざとらしく 引き籠もって身をお隠しになる物蔭さえないお住まいなので、柔らかく美しい御衣を、上にお掛け申し上げなさって、まだ暑いころなので、少し寝返りして臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ 弁は、おっしゃったことを客人に申し上げる。「どうして,ほんとにこのように結婚を思い断っていらっしゃるのだろう。聖めいていらした方の側にいて、無常をお悟りになったのか」とお思いになると、ますます自分の心と似通っていると思われるので、利口ぶった憎い女とも思われない。<BR>⏎ 「それでは,物越しに会うのでも、今はとんでもないこととお考えなのですね。今夜だけは、お寝みになっている所に、こっそりと手引きせよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 249-250 | 「将来の心積もりとして話しただけでも、つらいと思っていらっしゃったのを、まして、どんなに心外にお疎みになるだろう」と、とてもおいたわしく思うにつけても、すべてしっかりした後見もいなくて、落ちぶれている二人の身の上の悲しさを思い続けなさると、今を限りと山寺にお入りになった父宮の夕方のお姿などが、まるで今のような心地がして、ひどく恋しく悲しく思われなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 229 | 「将来の心積もりとして話しただけでも、つらいと思っていらっしゃったのを、まして,どんなに心外にお疎みになるだろう」と、とてもおいたわしく思うにつけても、すべてしっかりした後見もいなくて、落ちぶれている二人の身の上の悲しさを思い続けなさると、今を限りと山寺にお入りになった父宮の夕方のお姿などが、まるで今のような心地がして、ひどく恋しく悲しく思われなさる。<BR>⏎ |
| version47 | 251 | <A NAME="in26">[第六段 薫、相手を中の君と知る]</A><BR> | 230 | |
| c2 | 253-254 | 驚いてあきれていらっしゃるのを、「なるほど、事情を知らなかったのだ」と見えるので、とてもお気の毒でもあり、また思い返しては、隠れていらっしゃる方の冷淡さが、ほんとうに情けなく悔しいので、この人をも他人のものにはしたくないが、やはりもともとの気持ちと違ったのが、残念で、<BR>⏎ 「一時の浅い気持ちだったとは思われ申すまい。この場は、やはりこのまま過ごして、結局、運命から逃れられなかったら、こちらの宮と結ばれるのも、どうしてまったくの他人でもないし」<BR>⏎ | 232-233 | 驚いてあきれていらっしゃるのを、「なるほど,事情を知らなかったのだ」と見えるので、とてもお気の毒でもあり、また思い返しては、隠れていらっしゃる方の冷淡さが、ほんとうに情けなく悔しいので、この人をも他人のものにはしたくないが、やはりもともとの気持ちと違ったのが、残念で、<BR>⏎ 「一時の浅い気持ちだったとは思われ申すまい。この場は、やはりこのまま過ごして、結局,運命から逃れられなかったら、こちらの宮と結ばれるのも、どうしてまったくの他人でもないし」<BR>⏎ |
| c1 | 258 | と、探し合っていた。<BR>⏎ | 237 | と,探し合っていた。<BR>⏎ |
| c3 | 261-263 | 「総じていつも、拝見すると皺の延びる気がして、素晴らしく立派でいつまでも拝見していたいご器量や態度を、どうして、とてもよそよそしくお相手申し上げていらっしゃるのだろう。何ですか、これは世間の人が言うような、恐ろしい神様が、お憑き申しているのでしょうか」<BR>⏎ と、歯は抜けて、憎たらしく言う女房がいる。また、<BR>⏎ 「まあ、縁起でもない。どんな魔物がお憑きになっているものですか。ただ、世間離れして、お育ちになったようですから、このようなことでも、ふさわしくとりなして差し上げなさる人もなくていらっしゃるので、体裁悪く思わずにはいらっしゃれないのでしょう。そのうち自然と拝しお馴れなさったら、きっとお慕い申し上げなさるでしょう」<BR>⏎ | 240-242 | 「総じていつも、拝見すると皺の延びる気がして、素晴らしく立派でいつまでも拝見していたいご器量や態度を、どうして,とてもよそよそしくお相手申し上げていらっしゃるのだろう。何ですか、これは世間の人が言うような、恐ろしい神様が、お憑き申しているのでしょうか」<BR>⏎ と,歯は抜けて、憎たらしく言う女房がいる。また,<BR>⏎ 「まあ,縁起でもない。どんな魔物がお憑きになっているものですか。ただ,世間離れして、お育ちになったようですから、このようなことでも、ふさわしくとりなして差し上げなさる人もなくていらっしゃるので、体裁悪く思わずにはいらっしゃれないのでしょう。そのうち自然と拝しお馴れなさったら、きっとお慕い申し上げなさるでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 269-270 | などと、後の逢瀬を約束してお出になる。自分ながら妙に夢のように思われるが、やはり冷たい方のお気持ちを、もう一度見極めたいとの気で、気持ちを落ち着けながら、いつものように、出て来てお臥せりになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 248 | などと,後の逢瀬を約束してお出になる。自分ながら妙に夢のように思われるが、やはり冷たい方のお気持ちを、もう一度見極めたいとの気で、気持ちを落ち着けながら、いつものように、出て来てお臥せりになった。<BR>⏎ |
| version47 | 271 | <A NAME="in27">[第七段 翌朝、それぞれの思い]</A><BR> | 249 | |
| cd4:3 | 279-282 | 「今までのつらさは、まだ望みの持てる気がして、いろいろと慰めていたが、昨夜は、ほんとうに恥ずかしく、身を投げてしまいたい気がする。お見捨てがたい気持ちで遺していかれたおいたわしさをお察し申し上げるのは、また、一途に、わが身を捨てることもできません。好色がましい気持ちは、どちらにもお思い申していません。悲しさも苦しさも、それぞれお忘れになられたくなく思います。<BR>⏎ 宮などが、立派にお手紙を差し上げなさるようですが、同じことなら気位高く、という考えが別におありなのだろう、と納得がいきましたので、まことにごもっともで恥ずかしくて。再び参上して、あなた方にお目にかかることもしゃくでね。よし、このように馬鹿らしい身の上を、また他人にお漏らしなさいますな」<BR>⏎ と、恨み言をいって、いつもより急いでお出になった。「どなたにとってもお気の毒で」と、ささやき合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 257-259 | 「今までのつらさは、まだ望みの持てる気がして、いろいろと慰めていたが、昨夜は、ほんとうに恥ずかしく、身を投げてしまいたい気がする。お見捨てがたい気持ちで遺していかれたおいたわしさをお察し申し上げるのは、また,一途に、わが身を捨てることもできません。好色がましい気持ちは、どちらにもお思い申していません。悲しさも苦しさも、それぞれお忘れになられたくなく思います。<BR>⏎ 宮などが、立派にお手紙を差し上げなさるようですが、同じことなら気位高く、という考えが別におありなのだろう、と納得がいきましたので、まことにごもっともで恥ずかしくて。再び参上して、あなた方にお目にかかることもしゃくでね。よし,このように馬鹿らしい身の上を、また他人にお漏らしなさいますな」<BR>⏎ と,恨み言をいって、いつもより急いでお出になった。「どなたにとってもお気の毒で」と、ささやき合っていた。<BR>⏎ |
| version47 | 283 | <A NAME="in28">[第八段 薫と大君、和歌を詠み交す]</A><BR> | 260 | |
| cd3:2 | 284-286 | 姫君も、「どうしたことだ、もしいい加減な気持ちがおありだったら」と、胸が締めつけられるように苦しいので、何もかも、考えの違う女房のおせっかいを、憎らしいとお思いになる。いろいろとお考えになっているところに、お手紙がある。いつもより嬉しく思われなさるのも、一方ではおかしなことである。秋の様子も知らないふりして、青い枝で、片一方はたいそう色濃く紅葉したのを、<BR>⏎ 「同じ枝を分けて染めた山姫を<BR>⏎ どちらが深い色と尋ねましょうか」<BR>⏎ | 261-262 | 姫君も、「どうしたことだ、もしいい加減な気持ちがおありだったら」と、胸が締めつけられるように苦しいので、何もかも,考えの違う女房のおせっかいを、憎らしいとお思いになる。いろいろとお考えになっているところに、お手紙がある。いつもより嬉しく思われなさるのも、一方ではおかしなことである。秋の様子も知らないふりして、青い枝で、片一方はたいそう色濃く紅葉したのを、<BR>⏎ 「同じ枝を分けて染めた山姫を<BR> どちらが深い色と尋ねましょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 289-290 | 「山姫が染め分ける心はわかりませんが<BR>⏎ 色変わりしたほうに深い思いを寄せているのでしょう」<BR>⏎ | 265 | 「山姫が染め分ける心はわかりませんが<BR> 色変わりしたほうに深い思いを寄せているのでしょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 293-295 | あれこれと仲立ちなどするような老女が思うところも軽々しく、結局のところ思慕したことさえ後悔され、このような世の中を思い捨てようとの考えに、自分自身もかなわなかったことよと、体裁悪く思い知られるのに、それ以上に、世間にありふれた好色者の真似して、同じ人を繰り返し付きまとわるのも、まことに物笑いな棚無し小舟みたいだろう」<BR>⏎ などと、一晩中思いながら夜を明かしなさって、まだ有明の空も風情あるころに、兵部卿宮のお邸に参上なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 268-269 | あれこれと仲立ちなどするような老女が思うところも軽々しく、結局のところ思慕したことさえ後悔され、このような世の中を思い捨てようとの考えに、自分自身もかなわなかったことよと、体裁悪く思い知られるのに、それ以上に,世間にありふれた好色者の真似して、同じ人を繰り返し付きまとわるのも、まことに物笑いな棚無し小舟みたいだろう」<BR>⏎ などと,一晩中思いながら夜を明かしなさって、まだ有明の空も風情あるころに、兵部卿宮のお邸に参上なさる。<BR>⏎ |
| version47 | 296 | <H4>第三章 中の君の物語 中の君と匂宮との結婚</H4> | 270 | |
| version47 | 297 | <A NAME="in31">[第一段 薫、匂宮を訪問]</A><BR> | 271 | |
| c1 | 300 | 階を昇り終えず、かしこまりなさっていると、「どうぞ、上に」などともおっしゃらず、高欄に寄りかかりなさって、世間話をし合いなさる。あの辺りのことも、何かの機会にはお思い出しになって、「いろいろとお恨みになるのも無理な話である。自分自身の思いさえかないがたいのに」と思いながら、「そうなってくれればいい」と思うようなことがあるので、いつもよりは真面目に、打つべき手などを申し上げなさる。<BR>⏎ | 274 | 階を昇り終えず、かしこまりなさっていると、「どうぞ,上に」などともおっしゃらず、高欄に寄りかかりなさって、世間話をし合いなさる。あの辺りのことも、何かの機会にはお思い出しになって、「いろいろとお恨みになるのも 無理な話である。自分自身の思いさえかないがたいのに」と思いながら、「そうなってくれればいい」と思うようなことがあるので、いつもよりは真面目に、打つべき手などを申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 303-305 | とお頼みなさるのを、相変わらず、うるさがりそうにするので、<BR>⏎ 「女郎花が咲いている大野に人を入れまいと<BR>⏎ どうして心狭く縄を張り廻らしなさるのか」<BR>⏎ | 277-278 | とお頼みなさるのを、相変わらず,うるさがりそうにするので、<BR>⏎ 「女郎花が咲いている大野に人を入れまいと<BR> どうして心狭く縄を張り廻らしなさるのか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 307-308 | 「霧の深い朝の原の女郎花は<BR>⏎ 深い心を寄せて知る人だけが見るのです<BR>⏎ | 280 | 「霧の深い朝の原の女郎花は<BR> 深い心を寄せて知る人だけが見るのです<BR>⏎ |
| cd4:3 | 310-313 | などと、悔しがらせなさると、<BR>⏎ 「ああ、うるさいことだ」<BR>⏎ と、ついにはご立腹なさった。<BR>⏎ 長年このようにおっしゃるが、どのような方か気がかりに思っていたが、「器量などもがっかりなさることもないと推量されるが、気立てが思ったほどでないかも知れない」などと、ずっと心配に思っていたが、「何事も失望させるようなところはおありでないようだ」と思うと、あの、おいたわしくも、胸の中にお計らいになった様子と違うようなのも、思いやりがないようだが、そうかといって、そのようにまた考えを改めがたく思われるので、お譲り申し上げて、「どちらの恨みも負うまい」などと、心の底に思っている考えをご存知なくて、心狭いとおとりになるのも面白いけれど、<BR>⏎ | 282-284 | などと,悔しがらせなさると、<BR>⏎ 「ああ,うるさいことだ」と、ついにはご立腹なさった。<BR>⏎ 長年このようにおっしゃるが、どのような方か気がかりに思っていたが、「器量などもがっかりなさることもないと推量されるが、気立てが思ったほどでないかも知れない」などと、ずっと心配に思っていたが、「何事も失望させるようなところはおありでないようだ」と思うと、あの,おいたわしくも、胸の中にお計らいになった様子と違うようなのも、思いやりがないようだが、そうかといって、そのようにまた考えを改めがたく思われるので、お譲り申し上げて、「どちらの恨みも負うまい」などと、心の底に思っている考えをご存知なくて、心狭いとおとりになるのも面白いけれど、<BR>⏎ |
| c3 | 315-317 | などと、親代わりになって申し上げなさる。<BR>⏎ 「よし、御覧ください。これほど心にとまったことは、まだなかった」<BR>⏎ などと、実に真面目におっしゃるので、<BR>⏎ | 286-288 | などと,親代わりになって申し上げなさる。<BR>⏎ 「よし,御覧ください。これほど心にとまったことは、まだなかった」<BR>⏎ などと,実に真面目におっしゃるので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 319-320 | と言って、お出ましになる時の注意などを、こまごまと申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 290 | と言って,お出ましになる時の注意などを、こまごまと申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version47 | 321 | <A NAME="in32">[第二段 彼岸の果ての日、薫、匂宮を宇治に伴う]</A><BR> | 291 | |
| cd2:1 | 328-329 | などと、率直にお頼みになると、「どちらであっても同じことだから」などと思って参上した。<BR>⏎ <P>⏎ | 298 | などと,率直にお頼みになると、「どちらであっても同じことだから」などと思って参上した。<BR>⏎ |
| version47 | 330 | <A NAME="in33">[第三段 薫、中の君を匂宮にと企む]</A><BR> | 299 | |
| c1 | 335 | と言って、お開けにならない。「今はもう心が変わったのを、挨拶なしではと思って言うのであろうか。何の、今初めてお会いするのでもないし、不愛想に黙っていないで、夜を更かすまい」などと思って、そのもとまでお出になったが、障子の間からお袖を捉えて引き寄せて、ひどく恨むので、「ほんとに嫌なことだわ。どうして言うことを聞いたのだろう」と、悔やまれ厄介だが、「なだめすかして向こうへ行かせよう」とお考えになって、自分同様にお思いくださるように、それとなくお話なさる心配りなど、まことにいじらしい。<BR>⏎ | 304 | と言って,お開けにならない。「今はもう心が変わったのを、挨拶なしではと思って言うのであろうか。何の、今初めてお会いするのでもないし、不愛想に黙っていないで、夜を更かすまい」などと思って、そのもとまでお出になったが、障子の間からお袖を捉えて引き寄せて、ひどく恨むので、「ほんとに嫌なことだわ。どうして言うことを聞いたのだろう」と、悔やまれ厄介だが、「なだめすかして向こうへ行かせよう」とお考えになって、自分同様にお思いくださるように、それとなくお話なさる心配りなど、まことにいじらしい。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 340-342 | 「このように、万事変なことを企みなさるお方とも知らず、何ともいいようのない思慮の浅さをお見せ申してしまった至らなさから、馬鹿にしていらっしゃるのですね」<BR>⏎ と、何とも言いようもなく後悔していらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 309-310 | 「このように,万事変なことを企みなさるお方とも知らず、何ともいいようのない思慮の浅さをお見せ申してしまった至らなさから、馬鹿にしていらっしゃるのですね」<BR>⏎ と,何とも言いようもなく後悔していらっしゃった。<BR>⏎ |
| version47 | 343 | <A NAME="in34">[第四段 薫、大君の寝所に迫る]</A><BR> | 311 | |
| c2 | 345-346 | やはり、どうにもならぬこととお諦めください。この障子の錠ぐらいが、どんなに強くとも、ほんとうに潔癖であったと推察いたす人もございますまい。案内人としてお誘いになった方のご心中にも、ほんとうにこのように胸を詰まらせて、夜を明かしていようとは、お思いになるでしょうか」<BR>⏎ と言って、障子を引き破ってしまいそうな様子なので、何ともいいようもなく不愉快だが、なだめすかそうと落ち着いて、<BR>⏎ | 313-314 | やはり,どうにもならぬこととお諦めください。この障子の錠ぐらいが、どんなに強くとも、ほんとうに潔癖であったと推察いたす人もございますまい。案内人としてお誘いになった方のご心中にも、ほんとうにこのように胸を詰まらせて、夜を明かしていようとは、お思いになるでしょうか」<BR>⏎ と言って,障子を引き破ってしまいそうな様子なので、何ともいいようもなく不愉快だが、なだめすかそうと落ち着いて、<BR>⏎ |
| c4 | 348-351 | やはり、とてもこのように、恐ろしいほどの辛い思いを、たくさんさせてお迷わしなさいますな。思いの外に生き永らえたたら、少し気が落ち着いてからお相手申し上げましょう。気分も真暗な気になって、とても苦しいが、ここで少し休みます。お放しください」<BR>⏎ と、ひどく困っていらっしゃるので、それでも道理を尽くしておっしゃるのが、気恥ずかしくいたわしく思われて、<BR>⏎ 「あなた様、お気持ちに添うことを類なく思っているので、こんなにまで馬鹿者のようになっております。何とも言えないくらい憎み疎んじていらっしゃるようなので、申し上げようもありません。ますますこの世に跡を残すことも思われません」と言って、「それでは、物を隔てたままですが、申し上げさせていただきましょう。一途に、お捨てあそばしなさいますな」<BR>⏎ と言って、お放し申されたので、奥に這い入って、とはいっても、すっかりお入りになってしまうこともできないのを、まことにいたわしく思って、<BR>⏎ | 316-319 | やはり,とてもこのように、恐ろしいほどの辛い思いを、たくさんさせてお迷わしなさいますな。思いの外に生き永らえたたら、少し気が落ち着いてからお相手申し上げましょう。気分も真暗な気になって、とても苦しいが、ここで少し休みます。お放しください」<BR>⏎ と,ひどく困っていらっしゃるので、それでも道理を尽くしておっしゃるのが、気恥ずかしくいたわしく思われて、<BR>⏎ 「あなた様、お気持ちに添うことを類なく思っているので、こんなにまで馬鹿者のようになっております。何とも言えないくらい憎み疎んじていらっしゃるようなので、申し上げようもありません。ますますこの世に跡を残すことも思われません」と言って、「それでは,物を隔てたままですが、申し上げさせていただきましょう。一途に、お捨てあそばしなさいますな」<BR>⏎ と言って,お放し申されたので、奥に這い入って、とはいっても、すっかりお入りになってしまうこともできないのを、まことにいたわしく思って、<BR>⏎ |
| d1 | 354 | <P>⏎ | ||
| version47 | 355 | <A NAME="in35">[第五段 薫、再び実事なく夜を明かす]</A><BR> | 322 | |
| cd2:1 | 357-358 | 「道案内をしたわたしがかえって迷ってしまいそうです<BR>⏎ 満ち足りない気持ちで帰る明け方の暗い道を<BR>⏎ | 324 | 「道案内をしたわたしがかえって迷ってしまいそうです<BR> 満ち足りない気持ちで帰る明け方の暗い道を<BR>⏎ |
| cd5:4 | 361-365 | 「それぞれに思い悩むわたしの気持ちを思ってみてください<BR>⏎ 自分勝手に道にお迷いならば」<BR>⏎ と、かすかにおっしゃるのを、まことに物足りない気がするので、<BR>⏎ 「何とも、すっかり隔てられているようなので、まことに堪らない気持ちです」<BR>⏎ などと、いろいろと恨みながら、ほのぼのと明けてゆくころに、昨夜の方角からお出になる様子である。たいそう柔らかく振る舞っていらっしゃる所作など、色めかしいお心用意から、何ともいえないくらい香をたきこめていらっしゃった。老女連中は、まことに妙に合点がゆかず戸惑っていたが、「そうはいっても悪いようにはなさるまい」と慰めていた。<BR>⏎ | 327-330 | 「それぞれに思い悩むわたしの気持ちを思ってみてください<BR> 自分勝手に道にお迷いならば」<BR>⏎ と,かすかにおっしゃるのを、まことに物足りない気がするので、<BR>⏎ 「何とも,すっかり隔てられているようなので、まことに堪らない気持ちです」<BR>⏎ などと,いろいろと恨みながら、ほのぼのと明けてゆくころに、昨夜の方角からお出になる様子である。たいそう柔らかく振る舞っていらっしゃる所作など、色めかしいお心用意から、何ともいえないくらい香をたきこめていらっしゃった。老女連中は、まことに妙に合点がゆかず戸惑っていたが、「そうはいっても悪いようにはなさるまい」と慰めていた。<BR>⏎ |
| d1 | 369 | <P>⏎ | ||
| version47 | 370 | <A NAME="in36">[第六段 匂宮、中の君へ後朝の文を書く]</A><BR> | 334 | |
| cd2:1 | 373-374 | 「世にありふれたことと思っていらっしゃるのでしょうか<BR>⏎ 露の深い道の笹原を分けて来たのですが」<BR>⏎ | 337 | 「世にありふれたことと思っていらっしゃるのでしょうか<BR> 露の深い道の笹原を分けて来たのですが」<BR>⏎ |
| d1 | 377 | <P>⏎ | ||
| version47 | 378 | <A NAME="in37">[第七段 匂宮と中の君、結婚第二夜]</A><BR> | 340 | |
| c1 | 380 | 「仕方がない。願わなかった結婚だからといって、いい加減にできようか」とお思い弱りになって、お部屋飾りなど揃わない住居だが、それはそれとして風流に整えてお待ち申し上げなさるのであった。はるばるとご遠路を急いでいらっしゃったのも、嬉しいことであるが、また一方では不思議なこと。<BR>⏎ | 342 | 「仕方がない。願わなかった結婚だからといって、いい加減にできようか」とお思い弱りになって、お部屋飾りなど揃わない住居だが、それはそれとして風流に整えてお待ち申し上げなさるのであった。はるばるとご遠路を 急いでいらっしゃったのも、嬉しいことであるが、また一方では不思議なこと。<BR>⏎ |
| c3 | 382-384 | 「この世にいつまでも生きていられるとも思われませんので、明け暮れの考え事にも、ただあなたのお身の上だけがおいたわしくお思い申し上げていますが、この女房たちも、結構な縁組だと聞きにくいまで言っているようなので、年をとった女房の考えには、そうはいっても、世間の道理をも知っているだろう。<BR>⏎ はかばかしくもない私一人の我を張って、こうしてばかりして、お置き申してよいものか、と思うようなこともありましたが、今はすぐにも、このように思いもかけず、恥ずかしい思いで思い乱れようとは、全然思ってもおりませんでしたが、これは、なるほど、世間の人が言うように逃れ難いお約束事だったのでしょう。まことに、つらいことです。少しお気持ちがお慰みになったら、何も知らなかった事情も申し上げましょう。憎いと、お恨みなさいますな。罪をお作りになっては大変ですよ」<BR>⏎ と、御髪を撫でつくろいながら申し上げなさると、お返事もなさらないが、そうはいっても、このようにおっしゃることが、なるほど、心配で悪かれとはお考えであるまいから、物笑いに見苦しいことが加わって、お世話をおかけ申してはたいへんなことを、いろいろと考えていらっしゃった。<BR>⏎ | 344-346 | 「この世にいつまでも生きていられるとも思われませんので、明け暮れの考え事にも、ただあなたのお身の上だけがおいたわしくお思い申し上げていますが、この女房たちも、結構な縁組だと 聞きにくいまで言っているようなので、年をとった女房の考えには、そうはいっても、世間の道理をも知っているだろう。<BR>⏎ はかばかしくもない私一人の我を張って、こうしてばかりして、お置き申してよいものか、と思うようなこともありましたが、今はすぐにも、このように思いもかけず、恥ずかしい思いで思い乱れようとは、全然思ってもおりませんでしたが、これは,なるほど,世間の人が言うように逃れ難いお約束事だったのでしょう。まことに、つらいことです。少しお気持ちがお慰みになったら、何も知らなかった事情も申し上げましょう。憎いと、お恨みなさいますな。罪をお作りになっては大変ですよ」<BR>⏎ と,御髪を撫でつくろいながら申し上げなさると、お返事もなさらないが、そうはいっても、このようにおっしゃることが、なるほど,心配で悪かれとはお考えであるまいから、物笑いに見苦しいことが加わって、お世話をおかけ申してはたいへんなことを、いろいろと考えていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 387 | <P>⏎ | ||
| version47 | 388 | <A NAME="in38">[第八段 匂宮と中の君、結婚第三夜]</A><BR> | 349 | |
| cd4:3 | 393-396 | と、陸奥紙にきちんとお書きになって、準備の品々を、こまごまと、縫いなどしてない布地に、色とりどりに巻いたりして、御衣櫃をたくさん懸籠に入れて、老女のもとに、「女房たちの用に」といってお与えになった。宮の御方のもとにあった有り合わせの品々で、たいして多くはお集めになれなかったのであろうか、加工してない絹や綾などを、下に隠し入れて、お召し物とおぼしき二領。たいそう美しく加工してあるのを、単重の御衣の袖に古風な趣向であるが、<BR>⏎ 「小夜衣を着て親しくなったとは言いませんが<BR>⏎ いいがかりくらいはつけないでもありません」<BR>⏎ と、脅し申し上げなさった。<BR>⏎ | 354-356 | と,陸奥紙にきちんとお書きになって、準備の品々を、こまごまと、縫いなどしてない布地に、色とりどりに巻いたりして、御衣櫃をたくさん懸籠に入れて、老女のもとに、「女房たちの用に」といってお与えになった。宮の御方のもとにあった有り合わせの品々で、たいして多くはお集めになれなかったのであろうか、加工してない絹や綾などを、下に隠し入れて、お召し物とおぼしき二領。たいそう美しく加工してあるのを、単重の御衣の袖に 古風な趣向であるが、<BR>⏎ 「小夜衣を着て親しくなったとは言いませんが<BR> いいがかりくらいはつけないでもありません」<BR>⏎ と,脅し申し上げなさった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 398-399 | 「隔てない心だけは通い合いましょうとも<BR>⏎ 馴れ親しんだ仲などとはおっしゃらないでください」<BR>⏎ | 358 | 「隔てない心だけは通い合いましょうとも<BR> 馴れ親しんだ仲などとはおっしゃらないでください」<BR>⏎ |
| d1 | 401 | <P>⏎ | ||
| version47 | 402 | <H4>第四章 中の君の物語 匂宮と中の君、朝ぼらけの宇治川を見る</H4> | 360 | |
| version47 | 403 | <A NAME="in41">[第一段 明石中宮、匂宮の外出を諌める]</A><BR> | 361 | |
| c2 | 405-406 | 「依然として、このように独身でいらして、世間に、好色でいらっしゃるご評判がだんだんと聞こえてくるのは、やはり、とてもよくないことです。何事にも風流が過ぎて、評判を立てるようなことをなさいますな。主上も不安にお思いおっしゃっています」<BR>⏎ と、里住みがちでいらっしゃるのをお諌め申し上げなさると、まことに辛いとお思いになって、御宿直所にお出になって、お手紙を書いて差し上げなさったその後も、ひどく物思いに耽っていらっしゃるところに、中納言の君が参上なさった。<BR>⏎ | 363-364 | 「依然として,このように独身でいらして、世間に、好色でいらっしゃるご評判がだんだんと聞こえてくるのは、やはり,とてもよくないことです。何事にも風流が過ぎて、評判を立てるようなことをなさいますな。主上も不安にお思いおっしゃっています」<BR>⏎ と,里住みがちでいらっしゃるのをお諌め申し上げなさると、まことに辛いとお思いになって、御宿直所にお出になって、お手紙を書いて差し上げなさったその後も、ひどく物思いに耽っていらっしゃるところに、中納言の君が参上なさった。<BR>⏎ |
| c1 | 409 | と、嘆かしくお思いになっていた。「よくご本心をお確かめ申したい」とお思いになって、<BR>⏎ | 367 | と,嘆かしくお思いになっていた。「よくご本心をお確かめ申したい」とお思いになって、<BR>⏎ |
| c2 | 412-413 | 「まことに聞き憎いことをおっしゃいますね。多くは誰かが中傷するのでしょう。世間から非難を受けるような料簡は、どうして、起こそうか。窮屈なご身分など、かえってないほうがましだ」<BR>⏎ とおっしゃって、ほんとうに厭わしくさえお思いであった。<BR>⏎ | 370-371 | 「まことに聞き憎いことをおっしゃいますね。多くは誰かが中傷するのでしょう。世間から非難を受けるような料簡は、どうして,起こそうか。窮屈なご身分など、かえってないほうがましだ」<BR>⏎ とおっしゃって,ほんとうに厭わしくさえお思いであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 418-419 | と言って、この君は内裏にお残りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 376 | と言って,この君は内裏にお残りになる。<BR>⏎ |
| version47 | 420 | <A NAME="in42">[第二段 薫、明石中宮に対面]</A><BR> | 377 | |
| cd2:1 | 424-425 | 「女一の宮も、このように美しくいらっしゃるようである。どのような機会に、この程度にお側近く、お声だけでもお聞きいたしたい」と、しみじみと思われる。「好色な男が、けしからぬ料簡を起こすのも、このようなお間柄で、そうはいっても他人行儀でなく出入りして、思いどおりにできないときのことなのだろう。<BR>⏎ 自分のように、偏屈な性分は、他に世にいるだろうか。なのに、やはり心動かされた女は、思い切ることができないのだ」<BR>⏎ | 381 | 「女一の宮も、このように美しくいらっしゃるようである。どのような機会に、この程度にお側近く、お声だけでもお聞きいたしたい」と、しみじみと思われる。「好色な男が、けしからぬ料簡を起こすのも、このようなお間柄で、そうはいっても他人行儀でなく出入りして、思いどおりにできないときのことなのだろう。自分のように、偏屈な性分は、他に世にいるだろうか。なのに,やはり心動かされた女は、思い切ることができないのだ」<BR>⏎ |
| d1 | 428 | <P>⏎ | ||
| version47 | 429 | <A NAME="in43">[第三段 女房たちと大君の思い]</A><BR> | 384 | |
| cd2:1 | 437-438 | と不安で、外を眺めながら臥せっていらっしゃった。「気後れするような方と結婚することは、ますますみっともなく、もう一、二年したらいっそう衰えよう。頼りない身の上を」と、お腕が細っそりとして弱々しく、痛々しいのをさし出してみても、世の中を思い続けなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 392 | と不安で、外を眺めながら臥せっていらっしゃった。「気後れするような方と結婚することは、ますますみっともなく、もう一,二年したら いっそう衰えよう。頼りない身の上を」と、お腕が細っそりとして弱々しく、痛々しいのをさし出してみても、世の中を思い続けなさる。<BR>⏎ |
| version47 | 439 | <A NAME="in44">[第四段 匂宮と中の君、朝ぼらけの宇治川を見る]</A><BR> | 393 | |
| c1 | 440 | 匂宮は、めったにないお暇のほどをお考えになると、「やはり、気軽にできそうにないことだ」と、胸が塞がって思われなさるのであった。大宮がご注意申し上げなさったことなどをお話し申し上げなさって、<BR>⏎ | 394 | 匂宮は、めったにないお暇のほどをお考えになると、「やはり,気軽にできそうにないことだ」と、胸が塞がって思われなさるのであった。大宮がご注意申し上げなさったことなどをお話し申し上げなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 442 | と、とても心をこめて申し上げなさるが、「絶え間がきっとあるように思われなさるのは、噂に聞いたお心のほどが現れたのかしら」と疑われて、ご自身の頼りない様子を思うと、いろいろと悲しいのであった。<BR>⏎ | 396 | と,とても心をこめて申し上げなさるが、「絶え間がきっとあるように思われなさるのは、噂に聞いたお心のほどが現れたのかしら」と疑われて、ご自身の頼りない様子を思うと、いろいろと悲しいのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 447 | 「あの方は愛する方が別にいて、とてもたいそう澄ましていた様子が、会うのも気づまりであったが、お噂だけでお思い申し上げていた時は、いっそうこの上なく遠くに、一行お書きになるお返事でさえ。気後れしたが、久しく途絶えなさることは、心細いだろう」<BR>⏎ | 401 | 「あの方は愛する方が別にいて、とてもたいそう澄ましていた様子が、会うのも気づまりであったが、お噂だけでお思い申し上げていた時は、いっそうこの上なく遠くに、一行お書きになるお返事でさえ、気後れしたが、久しく途絶えなさることは、心細いだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 449 | <P>⏎ | ||
| version47 | 450 | <A NAME="in45">[第五段 匂宮と中の君和歌を詠み交して別れる]</A><BR> | 403 | |
| cd2:1 | 452-453 | 「中が切れようとするのでないのに<BR>⏎ あなたは独り敷く袖は夜半に濡らすことだろう」<BR>⏎ | 405 | 「中が切れようとするのでないのに<BR> あなたは独り敷く袖は夜半に濡らすことだろう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 455-456 | 「切れないようにとわたしは信じては<BR>⏎ 宇治橋の遥かな仲をずっとお待ち申しましょう」<BR>⏎ | 407 | 「切れないようにとわたしは信じては<BR> 宇治橋の遥かな仲をずっとお待ち申しましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 460 | などと、お誉め申し上げる。<BR>⏎ | 411 | などと,お誉め申し上げる。<BR>⏎ |
| d1 | 464 | <P>⏎ | ||
| version47 | 465 | <A NAME="in46">[第六段 九月十日、薫と匂宮、宇治へ行く]</A><BR> | 415 | |
| cd3:2 | 469-471 | 女房らは、日頃ぶつぶつ言っていたが、そのあとかたもなくにこにことして、ご座所を整えたりなどする。京に、しかるべき家々に散り散りになっていた娘連中や、姪のような人を、二、三人呼び寄せて仕えさせていた。長年軽蔑申し上げてきた思慮の浅い人びとは、珍しい客人と思って驚いていた。<BR>⏎ 姫宮も、ちょうどよい折柄と嬉しくお思い申し上げなさるが、利口ぶった方が一緒にいらっしゃるのが、気恥ずかしくもあり、何となく厄介にも思うが、人柄がゆったりと慎重でいらっしゃるので、「なるほど、宮はこのようではおいででない」とお見比べなさると、めったにない方だと思い知られる。<BR>⏎ <P>⏎ | 419-420 | 女房らは、日頃ぶつぶつ言っていたが、そのあとかたもなくにこにことして、ご座所を整えたりなどする。京に、しかるべき家々に散り散りになっていた娘連中や、姪のような人を、二,三人呼び寄せて仕えさせていた。長年軽蔑申し上げてきた思慮の浅い人びとは、珍しい客人と思って驚いていた。<BR>⏎ 姫宮も、ちょうどよい折柄と嬉しくお思い申し上げなさるが、利口ぶった方が一緒にいらっしゃるのが、気恥ずかしくもあり、何となく厄介にも思うが、人柄がゆったりと慎重でいらっしゃるので、「なるほど,宮はこのようではおいででない」とお見比べなさると、めったにない方だと思い知られる。<BR>⏎ |
| version47 | 472 | <A NAME="in47">[第七段 薫、大君に対面、実事なく朝を迎える]</A><BR> | 421 | |
| c1 | 475 | 「やはり、一途に、何とかこのようにはうちとけまい。うれしいと思う方のお気持ちも、きっとつらいと思うにちがいないことがあるだろう。自分も相手も幻滅したりせずに、もとの気持ちを失わずに、最後までいたいものだわ」<BR>⏎ | 424 | 「やはり,一途に、何とかこのようにはうちとけまい。うれしいと思う方のお気持ちも、きっとつらいと思うにちがいないことがあるだろう。自分も相手も幻滅したりせずに、もとの気持ちを失わずに,最後までいたいものだわ」<BR>⏎ |
| c1 | 479 | 「やはり、このように物思いの多いころを、もう少し気持ちが落ち着いてからお話し申し上げましょう」<BR>⏎ | 428 | 「やはり,このように物思いの多いころを、もう少し気持ちが落ち着いてからお話し申し上げましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 481 | 「ただ、とても頼りなく、物を隔てているのが、満足のゆかない気がしますよ。以前のようにお話し申し上げたい」<BR>⏎ | 430 | 「ただ,とても頼りなく、物を隔てているのが、満足のゆかない気がしますよ。以前のようにお話し申し上げたい」<BR>⏎ |
| c1 | 484 | と、かすかにほほ笑みなさった様子などは、不思議と慕わしく思われる。<BR>⏎ | 433 | と,かすかにほほ笑みなさった様子などは、不思議と慕わしく思われる。<BR>⏎ |
| d1 | 490 | <P>⏎ | ||
| version47 | 491 | <A NAME="in48">[第八段 匂宮、中の君を重んじる]</A><BR> | 439 | |
| c2 | 492-493 | 無理を押してお越しになって、長くもいずにお帰りになるのが、物足りなくつらいので、宮はひどくお悩みになっていた。お心の中をご存知ないので、女方には、「またどうなるのだろうか。物笑いになりはせぬか」と思ってお嘆きなると、「なるほど、心底からおつらそうな」と見える。<BR>⏎ 京にも、こっそりとお移しになる家もさすがに見当たらない。六条院には、左の大殿が、一画にお住みになって、あれほど何とかしたいとお考えの六の君の御事をお考えにならないので、何やら恨めしいとお思い申し上げていらっしゃるようである。好色がましいお振舞いだと、容赦なくご非難申し上げなさって、宮中あたりでもご愁訴申し上げていらっしゃるようなので、ますます、世間に知られない人をお囲いなさるのも、憚りがとても多かった。<BR>⏎ | 440-441 | 無理を押してお越しになって、長くもいずにお帰りになるのが、物足りなくつらいので、宮はひどくお悩みになっていた。お心の中をご存知ないので、女方には、「またどうなるのだろうか。物笑いになりはせぬか」と思ってお嘆きなると、「なるほど,心底からおつらそうな」と見える。<BR>⏎ 京にも、こっそりとお移しになる家もさすがに見当たらない。六条院には、左の大殿が、一画にお住みになって、あれほど何とかしたいとお考えの六の君の御事をお考えにならないので、何やら恨めしいとお思い申し上げていらっしゃるようである。好色がましいお振舞いだと、容赦なくご非難申し上げなさって、宮中あたりでもご愁訴申し上げていらっしゃるようなので、ますます,世間に知られない人をお囲いなさるのも、憚りがとても多かった。<BR>⏎ |
| c1 | 496 | なるほど、臣下は気楽なのであった。このようにたいそうお気の毒なご様子でありながら、気をつかってお忍びになるために、お互いに思い悩んでいらっしゃるようなのも、おいたわしくて、「人目を忍んでこのようにお通いになっている事情を、中宮などにもこっそりとお耳に入れあそばして、暫くの間のお騒がれは気の毒だが、女方のためには、非難されることもない。たいそうこのように夜をさえお明かしにならないつらさよ。うまさく計らって差し上げたいものよ」<BR>⏎ | 444 | なるほど,臣下は気楽なのであった。このようにたいそうお気の毒なご様子でありながら、気をつかってお忍びになるために、お互いに思い悩んでいらっしゃるようなのも、おいたわしくて、「人目を忍んでこのようにお通いになっている事情を、中宮などにもこっそりとお耳に入れあそばして、暫くの間のお騒がれは気の毒だが、女方のためには、非難されることもない。たいそうこのように夜をさえお明かしにならないつらさよ。うまさく計らって差し上げたいものよ」<BR>⏎ |
| d1 | 499 | <P>⏎ | ||
| version47 | 500 | <H4>第五章 大君の物語 匂宮たちの紅葉狩り</H4> | 447 | |
| version47 | 501 | <A NAME="in51">[第一段 十月朔日頃、匂宮、宇治に紅葉狩り]</A><BR> | 448 | |
| c1 | 502 | 十月上旬ごろ、網代もおもしろい時期だろうと、お誘い申し上げなさって、紅葉を御覧になるよう申し上げなさる。側近の宮家の人びとや、殿上人で親しくなさっている人だけで、「たいそうこっそりと」とお思いになるが、たいへんなご威勢なので、自然と計画が広まって、左の大殿の宰相中将も参加なさる。それ以外では、この中納言殿だけが、上達部としてお供なさる。臣下の者は多かった。<BR>⏎ | 449 | 十月上旬ごろ、網代もおもしろい時期だろうと、お誘い申し上げなさって、紅葉を御覧になるよう申し上げなさる。側近の宮家の人びとや、殿上人で親しくなさっている人だけで、「たいそうこっそりと」とお思いになるが、たいへんなご威勢なので、自然と計画が広まって、左の大殿の宰相中将も参加なさる。それ以外では,この中納言殿だけが、上達部としてお供なさる。臣下の者は多かった。<BR>⏎ |
| c1 | 506 | 世人が追従してお世話申し上げる様子が、このようにお忍びの旅先でも、たいそう格別に盛んなのを御覧になるにつけても、「なるほど、七夕程度であっても、このような彦星の光をお迎えしたいもの」と思われた。<BR>⏎ | 453 | 世人が追従してお世話申し上げる様子が、このようにお忍びの旅先でも、たいそう格別に盛んなのを御覧になるにつけても、「なるほど,七夕程度であっても、このような彦星の光をお迎えしたいもの」と思われた。<BR>⏎ |
| d1 | 509 | <P>⏎ | ||
| version47 | 510 | <A NAME="in52">[第二段 一行、和歌を唱和する]</A><BR> | 456 | |
| c1 | 511 | 今日は、このままとお思いになるが、また、宮の大夫、その他の殿上人などを、大勢差し上げなさっていた。気ぜわしく残念で、お帰りになる気もしない。あちらにはお手紙を差し上げなさる。風流なこともなく、たいそう真面目に、お思いになっていたことを、こまごまと書き綴りなさっていたが、「人目が多く騒がしいだろう」とて、お返事はない。<BR>⏎ | 457 | 今日は、このままとお思いになるが、また,宮の大夫、その他の殿上人などを、大勢差し上げなさっていた。気ぜわしく残念で、お帰りになる気もしない。あちらにはお手紙を差し上げなさる。風流なこともなく、たいそう真面目に、お思いになっていたことを、こまごまと書き綴りなさっていたが、「人目が多く騒がしいだろう」とて、お返事はない。<BR>⏎ |
| c1 | 513 | 宮は、それ以上に、憂鬱でやるせないとお思いになること、この上ない。網代の氷魚も心寄せ申して、色とりどりの木の葉にのせて賞味なさるを、下人などはまことに美しいことと思っているので、人それぞれに従って、満足しているようなご外出に、ご自身のお気持ちは、胸ばかりがいっぱいになって、空ばかりを眺めていらっしゃるが、この故宮邸の梢は、たいそう格別に美しく、常磐木に這いかかっている蔦の色なども、何となく深味があって、遠目にさえ物淋しそうなのを、中納言の君も、「なまじご依頼申し上げなさっていたのが、かえってつらいことになったな」と思われる。<BR>⏎ | 459 | 宮は、それ以上に,憂鬱でやるせないとお思いになること、この上ない。網代の氷魚も心寄せ申して、色とりどりの木の葉にのせて賞味なさるを、下人などはまことに美しいことと思っているので、人それぞれに従って、満足しているようなご外出に、ご自身のお気持ちは、胸ばかりがいっぱいになって、空ばかりを眺めていらっしゃるが、この故宮邸の梢は、たいそう格別に美しく、常磐木に這いかかっている蔦の色なども、何となく深味があって、遠目にさえ物淋しそうなのを、中納言の君も、「なまじご依頼申し上げなさっていたのが、かえってつらいことになったな」と思われる。<BR>⏎ |
| c1 | 517 | などと、口々に言う。<BR>⏎ | 463 | などと,口々に言う。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 519-520 | 「いつだったか花の盛りに一目見た木のもとまでが<BR>⏎ 秋はお寂しいことでしょう」<BR>⏎ | 465 | 「いつだったか花の盛りに一目見た木のもとまでが<BR> 秋はお寂しいことでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 522-523 | 「桜は知っているでしょう<BR>⏎ 咲き匂う花も紅葉も常ならぬこの世を」<BR>⏎ | 467 | 「桜は知っているでしょう<BR> 咲き匂う花も紅葉も常ならぬこの世を」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 525-526 | 「どこから秋は去って行くのでしょう<BR>⏎ 山里の紅葉の蔭は立ち去りにくいのに」<BR>⏎ | 469 | 「どこから秋は去って行くのでしょう<BR> 山里の紅葉の蔭は立ち去りにくいのに」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 528-529 | 「お目にかかったことのある方も亡くなった<BR>⏎ 山里の岩垣に気の長く這いかかっている蔦よ」<BR>⏎ | 471 | 「お目にかかったことのある方も亡くなった<BR> 山里の岩垣に気の長く這いかかっている蔦よ」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 532-535 | 「秋が終わって寂しさがまさる木のもとを<BR>⏎ あまり烈しく吹きなさるな、峰の松風よ」<BR>⏎ と詠んで、とてもひどく涙ぐんでいらっしゃるのを、うすうす事情を知っている人は、<BR>⏎ 「なるほど、深いご執心なのだ。今日の機会をお逃しになるおいたわしさ」<BR>⏎ | 474-476 | 「秋が終わって寂しさがまさる木のもとを<BR> あまり烈しく吹きなさるな、峰の松風よ」<BR>⏎ と詠んで,とてもひどく涙ぐんでいらっしゃるのを、うすうす事情を知っている人は、<BR>⏎ 「なるほど,深いご執心なのだ。今日の機会をお逃しになるおいたわしさ」<BR>⏎ |
| d1 | 537 | <P>⏎ | ||
| version47 | 538 | <A NAME="in53">[第三段 大君と中の君の思い]</A><BR> | 478 | |
| c2 | 539-540 | あちらでは、お素通りになってしまった様子を、遠くなるまで聞こえる前駆の声々を、ただならずお聞きになる。心積もりしていた女房も、まことに残念に思っていた。姫宮は、それ以上に、<BR>⏎ 「やはり、噂に聞く月草のような移り気なお方なのだわ。ちらちら人の言うのを聞くと、男というものは、嘘をよくつくという。愛していない人を愛している顔でだます言葉が多いものだと、この人数にも入らない女房連中が、昔話として言うのを、そのような身分の低い階層には、よくないこともあるのだろう。<BR>⏎ | 479-480 | あちらでは、お素通りになってしまった様子を、遠くなるまで聞こえる前駆の声々を、ただならずお聞きになる。心積もりしていた女房も、まことに残念に思っていた。姫宮は、それ以上に,<BR>⏎ 「やはり,噂に聞く月草のような移り気なお方なのだわ。ちらちら人の言うのを聞くと、男というものは、嘘をよくつくという。愛していない人を愛している顔でだます言葉が多いものだと、この人数にも入らない女房連中が、昔話として言うのを、そのような身分の低い階層には、よくないこともあるのだろう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 547-548 | などと、姉宮は、ますますお気の毒にと拝し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 487 | などと,姉宮は、ますますお気の毒にと拝し上げなさる。<BR>⏎ |
| version47 | 549 | <A NAME="in54">[第四段 大君の思い]</A><BR> | 488 | |
| c3 | 551-553 | このような、不幸な運命の二人なので、しかるべき親にもお先立たれ申したのだ。姉妹とも同様に物笑いになることを重ねた様子で、亡き両親までをお苦しめ申すのが情けないのを、わたしだけでも、そのような物思いに沈まず、罪などたいして深くならない前に、何とか亡くなりたい」<BR>⏎ と思い沈むと、気分もほんとうに苦しいので、食べ物を少しも召し上がらず、ただ、亡くなった後のあれこれを、明け暮れ思い続けていらっしゃると、心細くなって、この君をお世話申し上げなさるのも、とてもおいたわしく、<BR>⏎ 「わたしにまで先立たれなさって、どんなにひどく慰めようがないことだろう。惜しくかわいい様子を、明け暮れの慰みとして、何とかして一人前にして差し上げたいと思って世話するのを、誰にも言わず将来の生きがいと思ってきたが、この上ない方でいらっしゃっても、これほど物笑いになった目に遭ったような人が、世間に出てお付き合いをし、普通の人のようにお過ごしになるのは、例も少なくつらいことだろう」<BR>⏎ | 490-492 | このような,不幸な運命の二人なので、しかるべき親にもお先立たれ申したのだ。姉妹とも同様に物笑いになることを重ねた様子で、亡き両親までをお苦しめ申すのが情けないのを、わたしだけでも、そのような物思いに沈まず、罪などたいして深くならない前に、何とか亡くなりたい」<BR>⏎ と思い沈むと、気分もほんとうに苦しいので、食べ物を少しも召し上がらず、ただ,亡くなった後のあれこれを、明け暮れ思い続けていらっしゃると、心細くなって、この君をお世話申し上げなさるのも、とてもおいたわしく、<BR>⏎ 「わたしにまで先立たれなさって、どんなにひどく慰めようがないことだろう。惜しくかわいい様子を、明け暮れの慰みとして、何とかして一人前にして差し上げたい と思って世話するのを、誰にも言わず将来の生きがいと思ってきたが、この上ない方でいらっしゃっても、これほど物笑いになった目に遭ったような人が、世間に出てお付き合いをし、普通の人のようにお過ごしになるのは、例も少なくつらいことだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 555 | <P>⏎ | ||
| version47 | 556 | <A NAME="in55">[第五段 匂宮の禁足、薫の後悔]</A><BR> | 494 | |
| c1 | 559 | と、衛門督がそっとお耳に入れ申し上げなさったので、中宮もお聞きになって困り、主上もますますお許しにならない御様子で、<BR>⏎ | 497 | と,衛門督がそっとお耳に入れ申し上げなさったので、中宮もお聞きになって困り、主上もますますお許しにならない御様子で、<BR>⏎ |
| c1 | 561 | と、厳しいことが出てきて、内裏にぴったりとご伺候させ申し上げなさる。左の大殿の六の君を、ご承知せず思っていらっしゃることだが、無理にも差し上げなさるよう、すべて取り決められる。<BR>⏎ | 499 | と,厳しいことが出てきて、内裏にぴったりとご伺候させ申し上げなさる。左の大殿の六の君を、ご承知せず思っていらっしゃることだが、無理にも差し上げなさるよう、すべて取り決められる。<BR>⏎ |
| c2 | 565-566 | と、元に戻ることはできないが、馬鹿らしく、自分一人で思い悩んでいらっしゃる。<BR>⏎ 宮は、薫以上に、お心にかからない折はなく、恋しく気がかりだとお思いになる。<BR>⏎ | 503-504 | と,元に戻ることはできないが、馬鹿らしく、自分一人で思い悩んでいらっしゃる。<BR>⏎ 宮は,薫以上に、お心にかからない折はなく、恋しく気がかりだとお思いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 568-569 | と、大宮は明け暮れご注意申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 506 | と,大宮は明け暮れご注意申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version47 | 570 | <A NAME="in56">[第六段 時雨降る日、匂宮宇治の中の宮を思う]</A><BR> | 507 | |
| c1 | 574 | などと、まっさきにお思い出しになると、ますます恋しくて、気紛らわしに、御絵類がたくさん散らかっているのを御覧になると、おもしろい女絵の類で、恋する男の住まいなどが描いてあって、山里の風流な家などや、さまざまな恋する男女の姿を描いてあるのが、わが身につまされることが多くて、お目が止まりなさるので、少しお願い申し上げなさって、「あちらへ差し上げたい」とお思いになる。<BR>⏎ | 511 | などと,まっさきにお思い出しになると、ますます恋しくて、気紛らわしに、御絵類がたくさん散らかっているのを御覧になると、おもしろい女絵の類で、恋する男の住まいなどが描いてあって、山里の風流な家などや、さまざまな恋する男女の姿を描いてあるのが、わが身につまされることが多くて、お目が止まりなさるので、少しお願い申し上げなさって、「あちらへ差し上げたい」とお思いになる。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 577-580 | と、こっそりと申し上げなさると、「どのような絵であろうか」とお思いになると、巻き寄せて、御前に差し入れなさったのを、うつ伏して御覧になる御髪がうねうねと流れて、几帳の端からこぼれ出ている一部分を、わずかに拝見なさるのが、どこまでも素晴らしく、「少しでも血の遠い人とお思い申せるのであったら」とお思いになると、堪えがたくて、<BR>⏎ 「若草のように美しいあなたと共寝をしてみようとは思いませんが<BR>⏎ 悩ましく晴れ晴れしない気がします」<BR>⏎ 御前に伺候している女房たちは、この宮を特に恥ずかしくお思い申し上げて、物の背後に隠れていた。「こともあろうに嫌な変なことを」とお思いになって、何ともお返事なさらない。もっともなことで、「考えもなく口を」と言った姫君もふざけて憎らしく思われなさる。<BR>⏎ | 514-516 | と,こっそりと申し上げなさると、「どのような絵であろうか」とお思いになると、巻き寄せて、御前に差し入れなさったのを、うつ伏して御覧になる御髪がうねうねと流れて、几帳の端からこぼれ出ている一部分を、わずかに拝見なさるのが、どこまでも素晴らしく、「少しでも血の遠い人とお思い申せるのであったら」とお思いになると、堪えがたくて、<BR>⏎ 「若草のように美しいあなたと共寝をしてみようとは思いませんが<BR> 悩ましく晴れ晴れしない気がします」<BR>⏎ 御前に伺候している女房たちは、この宮を特に恥ずかしくお思い申し上げて、物の背後に隠れていた。「こともあろうに嫌な変なことを」とお思いになって、何ともお返事なさらない。もっともなことで、「考えもなく口を」と言った姫君も ふざけて憎らしく思われなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 583 | <P>⏎ | ||
| version47 | 584 | <H4>第六章 大君の物語 大君の病気と薫の看護</H4> | 519 | |
| version47 | 585 | <A NAME="in61">[第一段 薫、大君の病気を知る]</A><BR> | 520 | |
| c3 | 586-588 | お待ち申し上げていらっしゃる所では、長く訪れのない気がして、「やはり、こうなのだ」と、心細く物思いに沈んでいらっしゃるところに、中納言がおいでになった。ご病気でいらっしゃると聞いての、お見舞いなのであった。ひどく気分が悪いというご病気ではないが、病気にかこつけてお会いなさらない。<BR>⏎ 「びっくりして、遠くから参ったのに。やはり、あちらのご病人のお側近くに」<BR>⏎ と、しきりにご心配申し上げなさるので、くつろいで休んでいらっしゃるお部屋の御簾の前にお入れ申し上げる。「まことに見苦しいこと」と迷惑がりなさるが、そっけなくはなく、お頭を上げて、お返事など申し上げなさる。<BR>⏎ | 521-523 | お待ち申し上げていらっしゃる所では、長く訪れのない気がして、「やはり,こうなのだ」と、心細く物思いに沈んでいらっしゃるところに、中納言がおいでになった。ご病気でいらっしゃると聞いての、お見舞いなのであった。ひどく気分が悪いというご病気ではないが、病気にかこつけて お会いなさらない。<BR>⏎ 「びっくりして、遠くから参ったのに。やはり,あちらのご病人のお側近くに」<BR>⏎ と,しきりにご心配申し上げなさるので、くつろいで休んでいらっしゃるお部屋の御簾の前にお入れ申し上げる。「まことに見苦しいこと」と迷惑がりなさるが、そっけなくはなく、お頭を上げて、お返事など申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 593 | と言って、お泣きになる様子である。まことにおいたわしくて、自分までが恥ずかしい気がして、<BR>⏎ | 528 | と言って,お泣きになる様子である。まことにおいたわしくて、自分までが恥ずかしい気がして、<BR>⏎ |
| c1 | 595 | などと、他人のお身の上まで世話をやくのも、一方では妙なと思われなさる。<BR>⏎ | 530 | などと,他人のお身の上まで世話をやくのも、一方では妙なと思われなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 597 | 「やはり、いつものように、あちらに」<BR>⏎ | 532 | 「やはり,いつものように、あちらに」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 600-601 | などと、弁のおもとにご相談なさって、御修法をいくつも始めるようにおっしゃる。「たいそう見苦しく、わざわざ捨ててしまいたいわが身なのに」と聞いていらっしゃるが、相手の気持ちを顧みないかのように断るのもいやなので、やはり、生き永らえよと思ってくださるお気持ちもありがたく思われる。<BR>⏎ <P>⏎ | 535 | などと,弁のおもとにご相談なさって、御修法をいくつも始めるようにおっしゃる。「たいそう見苦しく、わざわざ捨ててしまいたいわが身なのに」と聞いていらっしゃるが、相手の気持ちを顧みないかのように断るのもいやなので、やはり,生き永らえよと思ってくださるお気持ちもありがたく思われる。<BR>⏎ |
| version47 | 602 | <A NAME="in62">[第二段 大君、匂宮と六の君の婚約を知る]</A><BR> | 536 | |
| c2 | 604-605 | 「数日続いたせいか、今日はとても苦しくて。それでは、こちらに」<BR>⏎ とお伝えになった。たいそうおいたわしく、どのような具合でいらっしゃるのか。以前よりは優しいご様子なのも、胸騷ぎして思われるので、近くに寄って、いろいろのことを申し上げなさって、<BR>⏎ | 538-539 | 「数日続いたせいか、今日はとても苦しくて。それでは,こちらに」<BR>⏎ とお伝えになった。たいそうおいたわしく、どのような具合でいらっしゃるのか. 以前よりは優しいご様子なのも、胸騷ぎして思われるので、近くに寄って、いろいろのことを申し上げなさって、<BR>⏎ |
| c1 | 607 | と言って、まことにか細い声で弱々しい様子を、この上なくおいたわしくて嘆いていらっしゃった。そうはいっても、所在なくこうしておいでになることもできないので、まことに不安だが、お帰りになる。<BR>⏎ | 541 | と言って,まことにか細い声で弱々しい様子を、この上なくおいたわしくて嘆いていらっしゃった。そうはいっても、所在なくこうしておいでになることもできないので、まことに不安だが、お帰りになる。<BR>⏎ |
| c1 | 617 | 弱ったご気分では、ますます世に生き永らえることも思われない。気のおける女房たちではないが、何と思うかつらいので、聞かないふりをして寝ていらしたが、中の宮、物思う時のことと聞いていたうたた寝のご様子がたいそうかわいらしくて、腕を枕にして寝ていらっしゃるところに、お髪がたまっているところなど、めったになく美しそうなのを見やりながら、親のご遺言も繰り返し繰り返し思い出されなさって悲しいので、<BR>⏎ | 551 | 弱ったご気分では、ますます世に生き永らえることも思われない。気のおける女房たちではないが、何と思うかつらいので、聞かないふりをして寝ていらしたが、中の宮、物思う時のことと聞いていた うたた寝のご様子がたいそうかわいらしくて、腕を枕にして寝ていらっしゃるところに、お髪がたまっているところなど、めったになく美しそうなのを見やりながら、親のご遺言も 繰り返し繰り返し思い出されなさって悲しいので、<BR>⏎ |
| d1 | 620 | <P>⏎ | ||
| version47 | 621 | <A NAME="in63">[第三段 中の君、昼寝の夢から覚める]</A><BR> | 554 | |
| cd4:3 | 628-631 | と言って、お二方ともひどくお泣きになる。<BR>⏎ 「最近、明け暮れお思い出し申しているので、お姿をお見せになるかしら。何とか、おいでになるところへ尋ねて参りたい。罪障の深い二人だから」<BR>⏎ と、来世のことまでお考えになる。唐国にあったという香の煙を、本当に手に入れたくお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 561-563 | と言って,お二方ともひどくお泣きになる。<BR>⏎ 「最近,明け暮れお思い出し申しているので、お姿をお見せになるかしら。何とか、おいでになるところへ尋ねて参りたい。罪障の深い二人だから」<BR>⏎ と,来世のことまでお考えになる。唐国にあったという香の煙を、本当に手に入れたくお思いになる。<BR>⏎ |
| version47 | 632 | <A NAME="in64">[第四段 十月の晦、匂宮から手紙が届く]</A><BR> | 564 | |
| c1 | 634 | 「やはり、素直におおらかにお返事申し上げなさい。こうして亡くなってしまったら、この方よりもさらにひどい目にお遭わせ申す人が現れ出て来ようか、と心配です。時たまでも、この方がお思い出し申し上げなさるのに、そのようなとんでもない料簡を使う人は、いますまいと思うので、つらいけれども頼りにしています」<BR>⏎ | 566 | 「やはり,素直におおらかにお返事申し上げなさい。こうして亡くなってしまったら、この方よりもさらにひどい目にお遭わせ申す人が現れ出て来ようか、と心配です。時たまでも、この方がお思い出し申し上げなさるのに、そのようなとんでもない料簡を使う人は、いますまいと思うので、つらいけれども頼りにしています」<BR>⏎ |
| c1 | 637 | と、ますます顔を襟元にお入れになる。<BR>⏎ | 569 | と,ますます顔を襟元にお入れになる。<BR>⏎ |
| c1 | 639 | と言って、大殿油をお召しになって御覧になる。<BR>⏎ | 571 | と言って,大殿油をお召しになって御覧になる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 641-643 | 「眺めているのは同じ空なのに<BR>⏎ どうしてこうも会いたい気持ちをつのらせる時雨なのか」<BR>⏎ 「このように袖を濡らした」などということも書いてあったのであろうか、耳慣れた文句なのを、やはりお義理だけの手紙と見るにつけても、恨めしさがおつのりになる。あれほど類まれなご様子やご器量を、ますます、何とかして女たちに誉められようと、色っぽくしゃれて振る舞っていらっしゃるので、若い女の方が心をお寄せ申し上げなさるのも、もっともなことである。<BR>⏎ | 573-574 | 「眺めているのは同じ空なのに<BR> どうしてこうも会いたい気持ちをつのらせる時雨なのか」<BR>⏎ 「このように袖を濡らした」などということも書いてあったのであろうか、耳慣れた文句なのを、やはりお義理だけの手紙と見るにつけても、恨めしさがおつのりになる。あれほど類まれなご様子やご器量を、ますます,何とかして女たちに誉められようと、色っぽくしゃれて振る舞っていらっしゃるので、若い女の方が心をお寄せ申し上げなさるのも、もっともなことである。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 645-648 | 「霰が降る深山の里は朝夕に<BR>⏎ 眺める空もかき曇っております」<BR>⏎ こうお返事したのは、神無月の晦日だった。「一月もご無沙汰してしまったことよ」と、宮は気が気でなくお思いで、「今宵こそは、今宵こそは」と、お考えになりながら、邪魔が多く入ったりしているうちに、五節などが早くある年で、内裏辺りも浮き立った気分に取り紛れて、特にそのためではないが過ごしていらっしゃるうちに、あきれるほど待ち遠しくいらした。かりそめに女とお会いになっても、一方ではお心から離れることはない。左の大殿の縁談のことを、大宮も、<BR>⏎ 「やはり、そのような落ち着いた正妻をお迎えになって、その他にいとしくお思いになる女がいたら、参上させて、重々しくお扱いなさい」<BR>⏎ | 576-578 | 「霰が降る深山の里は朝夕に<BR> 眺める空もかき曇っております」<BR>⏎ こうお返事したのは、神無月の晦日だった。「一月もご無沙汰してしまったことよ」と、宮は気が気でなくお思いで、「今宵こそは,今宵こそは」と,お考えになりながら、邪魔が多く入ったりしているうちに、五節などが早くある年で、内裏辺りも浮き立った気分に取り紛れて、特にそのためではないが過ごしていらっしゃるうちに、あきれるほど待ち遠しくいらした。かりそめに女とお会いになっても、一方ではお心から離れることはない。左の大殿の縁談のことを、大宮も、<BR>⏎ 「やはり,そのような落ち着いた正妻をお迎えになって、その他にいとしくお思いになる女がいたら、参上させて、重々しくお扱いなさい」<BR>⏎ |
| d1 | 652 | <P>⏎ | ||
| version47 | 653 | <A NAME="in65">[第五段 薫、大君を見舞う]</A><BR> | 582 | |
| c2 | 655-656 | 山里には、「お加減はいかがですか。いかがですか」と、お見舞い申し上げなさる。「今月になってからは、少し具合がよくいらっしゃる」とお聞きになったが、公私に何かと騒がしいころなので、五、六日人も差し上げられなかったので、「どうしていらっしゃるだろう」と、急に気になりなさって、余儀ないご用で忙しいのを放り出して参上なさる。<BR>⏎ 「修法は、病気がすっかりお治りになるまで」とおっしゃっておいたが、良くなったといって、阿闍梨をもお帰しになったので、たいそう人少なで、例によって、老女が出てきて、ご容態を申し上げる。<BR>⏎ | 584-585 | 山里には、「お加減はいかがですか.いかがですか」と、お見舞い申し上げなさる。「今月になってからは、少し具合がよくいらっしゃる」とお聞きになったが、公私に何かと騒がしいころなので、五,六日 人も差し上げられなかったので、「どうしていらっしゃるだろう」と、急に気になりなさって、余儀ないご用で忙しいのを放り出して参上なさる。<BR>⏎ 「修法は,病気がすっかりお治りになるまで」とおっしゃっておいたが、良くなったといって、阿闍梨をもお帰しになったので、たいそう人少なで、例によって、老女が出てきて、ご容態を申し上げる。<BR>⏎ |
| c3 | 658-660 | と、言い終わらずに泣く様子、もっともなことである。<BR>⏎ 「情けない。どうして、こうとお知らせくださらなかったのか。院でも内裏でも、あきれるほど忙しいころなので、幾日もお見舞い申し上げなかった気がかりさよ」<BR>⏎ と言って、以前の部屋にお入りになる。御枕もと近くでお話し申し上げるが、お声もないようで、お返事できない。<BR>⏎ | 587-589 | と,言い終わらずに泣く様子、もっともなことである。<BR>⏎ 「情けない.どうして、こうとお知らせくださらなかったのか。院でも内裏でも、あきれるほど忙しいころなので、幾日もお見舞い申し上げなかった気がかりさよ」<BR>⏎ と言って,以前の部屋にお入りになる。御枕もと近くでお話し申し上げるが、お声もないようで、お返事できない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 662-663 | と恨んで、いつもの阿闍梨、世間一般に効験があると言われている人をすべて、大勢お召しになる。御修法や、読経を翌日から始めさせようとなさって、殿邸の人が大勢参集して、上下の人たちが騒いでいるので、心細さがすっかりなくなって頼もしそうである。<BR>⏎ <P>⏎ | 591 | と恨んで、いつもの阿闍梨、世間一般に効験があると言われている人をすべて、大勢お召しになる。御修法や,読経を 翌日から始めさせようとなさって、殿邸の人が大勢参集して、上下の人たちが騒いでいるので、心細さがすっかりなくなって頼もしそうである。<BR>⏎ |
| version47 | 664 | <A NAME="in66">[第六段 薫、大君を看護する]</A><BR> | 592 | |
| c4 | 666-669 | 中の宮は、困ったこととお思いになったが、お二人の仲を、「やはり、何でもなくはないのだ」と皆が思って、よそよそしくは隔てたりはしない。初夜から始めて、法華経を不断に読ませなさる。声の尊い僧すべて十二人で、実に尊い。<BR>⏎ 灯火はこちらの南の間に燈して、内側は暗いので、几帳を引き上げて、少し入って拝見なさると、老女連中が二、三人伺候している。中の宮は、さっとお隠れになったので、たいそう人少なで、心細く臥せっていらっしゃるのを、<BR>⏎ 「どうして、お声だけでも聞かせてくださらないのか」<BR>⏎ と言って、お手を取ってお声をかけて差し上げると、<BR>⏎ | 594-597 | 中の宮は、困ったこととお思いになったが、お二人の仲を、「やはり,何でもなくはないのだ」と皆が思って、よそよそしくは隔てたりはしない。初夜から始めて、法華経を不断に読ませなさる。声の尊い僧すべて十二人で、実に尊い。<BR>⏎ 灯火はこちらの南の間に燈して、内側は暗いので、几帳を引き上げて、少し入って拝見なさると、老女連中が二,三人伺候している。中の宮は、さっとお隠れになったので、たいそう人少なで、心細く臥せっていらっしゃるのを、<BR>⏎ 「どうして,お声だけでも聞かせてくださらないのか」<BR>⏎ と言って,お手を取ってお声をかけて差し上げると、<BR>⏎ |
| c1 | 671 | と、やっとの声でおっしゃる。<BR>⏎ | 599 | と,やっとの声でおっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 673 | と言って、しゃくりあげてお泣きになる。お額など、少し熱がおありであった。<BR>⏎ | 601 | と言って,しゃくりあげてお泣きになる。お額など、少し熱がおありであった。<BR>⏎ |
| c1 | 675 | と、お耳に口を当てて、いろいろ多く申し上げなさるので、うるさくも恥ずかしくも思われて、顔を被いなさっているのを、死なせてしまったらどんな気がするだろう、と胸も張り裂ける思いでいられる。<BR>⏎ | 603 | と,お耳に口を当てて、いろいろ多く申し上げなさるので、うるさくも恥ずかしくも思われて、顔を被いなさっているのを、死なせてしまったらどんな気がするだろう、と胸も張り裂ける思いでいられる。<BR>⏎ |
| d1 | 680 | <P>⏎ | ||
| version47 | 681 | <A NAME="in67">[第七段 阿闍梨、八の宮の夢を語る]</A><BR> | 608 | |
| c2 | 686-687 | 俗人のお姿で、『世の中を深く厭い離れていたので、執着するところはなかったが、わずかに思っていたことに乱れが生じて、今しばらく願っていた極楽浄土から離れているのを思うと、とても悔しい。追善供養をせよ』と、まことにはっきりと仰せになったが、すぐにご供養申し上げる方法が思い浮かびませんので、できる範囲内で、修業している法師たち五、六人で、何々の称名念仏を称えさせております。<BR>⏎ その他は、考えるところがございまして、常不軽を行わせております」<BR>⏎ | 613-614 | 俗人のお姿で、『世の中を深く厭い離れていたので、執着するところはなかったが、わずかに思っていたことに乱れが生じて、今しばらく願っていた極楽浄土から離れているのを思うと、とても悔しい。追善供養をせよ』と、まことにはっきりと仰せになったが、すぐにご供養申し上げる方法が思い浮かびませんので、できる範囲内で、修業している法師たち五,六人で、何々の称名念仏を称えさせております。<BR>⏎ その他は,考えるところがございまして、常不軽を行わせております」<BR>⏎ |
| c2 | 689-690 | 「何とか、あのまだ行く所がお定まりにならない前に参って、同じ所にも」<BR>⏎ と、聞きながら臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ | 616-617 | 「何とか,あのまだ行く所がお定まりにならない前に参って、同じ所にも」<BR>⏎ と,聞きながら臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 694-695 | 「霜が冷たく凍る汀の千鳥が堪えかねて<BR>⏎ 寂しく鳴く声が悲しい、明け方ですね」<BR>⏎ | 621 | 「霜が冷たく凍る汀の千鳥が堪えかねて<BR> 寂しく鳴く声が悲しい、明け方ですね」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 697-700 | 「明け方の霜を払って鳴く千鳥も<BR>⏎ 悲しんでいる人の心が分かるのでしょうか」<BR>⏎ 不似合いな代役だが、気品を失わず申し上げる。このようなちょっとしたことも、遠慮されるものの、やさしく上手におとりなしなさるものを、「今を最後と別れてしまったら、どんなに悲しい気がするだろう」と、目の前がまっくらにおなりになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 623-624 | 「明け方の霜を払って鳴く千鳥も<BR> 悲しんでいる人の心が分かるのでしょうか」<BR>⏎ 不似合いな代役だが、気品を失わず申し上げる。このようなちょっとしたことも、遠慮されるものの、やさしく上手におとりなしなさるものを、「今を最後と別れてしまったら、どんなに悲しい気がするだろう」と,目の前がまっくらにおなりになる。<BR>⏎ |
| version47 | 701 | <A NAME="in68">[第八段 豊明の夜、薫と大君、京を思う]</A><BR> | 625 | |
| c1 | 704 | 「はやり、このような機会に何とかして死にたい。この君がこうして付き添って、余命残りなくなったが、今はもう他人で過すすべもない。そうかといって、このように並々ならず見える愛情だが、思ったほどでないと、自分も相手もそう思われるのは、つらく情けないことであろう。もし寿命が無理に延びたら、病気にかこつけて、姿を変えてしまおう。そうしてだけ、末長い心を互いに見届けることができるのだ」<BR>⏎ | 628 | 「はやり,このような機会に何とかして死にたい。この君がこうして付き添って、余命残りなくなったが、今はもう他人で過すすべもない。そうかといって、このように並々ならず見える愛情だが、思ったほどでないと、自分も相手もそう思われるのは、つらく情けないことであろう。もし寿命が無理に延びたら、病気にかこつけて、姿を変えてしまおう。そうしてだけ、末長い心を互いに見届けることができるのだ」<BR>⏎ |
| c1 | 710 | と、ふさわしくないことと思って、頼りにしている方にも申し上げないので、残念にお思いになる。<BR>⏎ | 634 | と,ふさわしくないことと思って、頼りにしている方にも申し上げないので、残念にお思いになる。<BR>⏎ |
| cd3:1 | 713-715 | 「かき曇って日の光も見えない奥山で<BR>⏎ 心を暗くする今日このごろだ」<BR>⏎ <P>⏎ | 637 | 「かき曇って日の光も見えない奥山で<BR> 心を暗くする今日このごろだ」<BR>⏎ |
| version47 | 716 | <A NAME="in69">[第九段 薫、大君に寄り添う]</A><BR> | 638 | |
| c1 | 717 | ただ、こうしておいでになるのを頼みに、皆がお思い申し上げていた。いつもの、近いお側に座っていらっしゃるが、御几帳などを、風が烈しく吹くので、中の宮、奥のほうにお入りになる。見苦しそうな人びとも、恥ずかしがって隠れているところで、たいそう近くに寄って、<BR>⏎ | 639 | ただ,こうしておいでになるのを頼みに、皆がお思い申し上げていた。いつもの、近いお側に座っていらっしゃるが、御几帳などを、風が烈しく吹くので、中の宮、奥のほうにお入りになる。見苦しそうな人びとも、恥ずかしがって隠れているところで、たいそう近くに寄って、<BR>⏎ |
| c1 | 719 | と、泣く泣く申し上げなさる。意識もはっきりしなくなった様子だが、顔はまことによく隠していらっしゃった。<BR>⏎ | 641 | と,泣く泣く申し上げなさる。意識もはっきりしなくなった様子だが、顔はまことによく隠していらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 721 | と、本当に悲しいと思っていらっしゃる様子なので、ますます感情を抑えがたくなって、不吉に、このように心細そうに思っているとは見られまいと、お隠しになるが、泣き声まで上げられてしまう。<BR>⏎ | 643 | と,本当に悲しいと思っていらっしゃる様子なので、ますます感情を抑えがたくなって、不吉に、このように心細そうに思っているとは見られまいと、お隠しになるが、泣き声まで上げられてしまう。<BR>⏎ |
| c1 | 724 | 腕などもたいそう細くなって、影のように弱々しいが、肌の色艶も変わらず、白く美しそうになよなよとして、白い御衣類の柔らかなうえに、衾を押しやって、中に身のない雛人形を臥せたような気がして、お髪はたいして多くもなくうちやられている、それが、枕からこぼれている側が、つやつやと素晴らしく美しいのも、「どのようにおなりになろうとするのか」と、生きていかれそうにもなく見えるのが、惜しいことは類がない。<BR>⏎ | 646 | 腕などもたいそう細くなって、影のように弱々しいが、肌の色艶も変わらず、白く美しそうになよなよとして、白い御衣類の柔らかなうえに、衾を押しやって、中に身のない雛人形を臥せたような気がして、お髪はたいして多くもなくうちやられている、それが,枕からこぼれている側が、つやつやと素晴らしく美しいのも、「どのようにおなりになろうとするのか」と、生きていかれそうにもなく見えるのが、惜しいことは類がない。<BR>⏎ |
| d1 | 726 | <P>⏎ | ||
| version47 | 727 | <H4>第七章 大君の物語 大君の死と薫の悲嘆</H4> | 648 | |
| version47 | 728 | <A NAME="in71">[第一段 大君、もの隠れゆくように死す]</A><BR> | 649 | |
| c3 | 729-731 | 「とうとう捨てて逝っておしまいになったら、この世に少しも生きている気がしない。寿命がもし決まっていて生き永らえたとしても、深い山に分け入るつもりです。ただ、とてもお気の毒に、お残りになる方の御事を心配いたします」<BR>⏎ と、答えさせていただこうと思って、あの方の御事におふれになると、顔を隠していらっしゃったお袖を少し離して、<BR>⏎ 「このように、はかなかったものを、思いやりがないようにお思いなさったのも効がないので、このお残りになる人を、同じようにお思い申し上げてくださいと、それとなく申し上げましたが、その通りにしてくださったら、どんなに安心して死ねたろうにと、この点だけが恨めしいことで、執着が残りそうに思われます」<BR>⏎ | 650-652 | 「とうとう捨てて逝っておしまいになったら、この世に少しも生きている気がしない。寿命がもし決まっていて生き永らえたとしても、深い山に分け入るつもりです。ただ,とてもお気の毒に、お残りになる方の御事を心配いたします」<BR>⏎ と,答えさせていただこうと思って、あの方の御事におふれになると、顔を隠していらっしゃったお袖を少し離して、<BR>⏎ 「このように,はかなかったものを、思いやりがないようにお思いなさったのも効がないので、このお残りになる人を、同じようにお思い申し上げてくださいと、それとなく申し上げましたが、その通りにしてくださったら、どんなに安心して死ねたろうにと、この点だけが恨めしいことで、執着が残りそうに思われます」<BR>⏎ |
| c1 | 733 | 「このようにひどく、物思いをする身の上なのでしょうか。何としても、かんとしても、他の人には執着することがございませんでしたので、ご意向にお従い申し上げずになってしまいました。今になって、悔しくいたわしく思われます。けれども、ご心配申し上げなさいますな」<BR>⏎ | 654 | 「このようにひどく、物思いをする身の上なのでしょうか。何としても,かんとしても、他の人には執着することがございませんでしたので、ご意向にお従い申し上げずになってしまいました。今になって、悔しくいたわしく思われます。けれども、ご心配申し上げなさいますな」<BR>⏎ |
| d1 | 737 | <P>⏎ | ||
| version47 | 738 | <A NAME="in72">[第二段 大君の火葬と薫の忌籠もり]</A><BR> | 658 | |
| d1 | 750 | <P>⏎ | ||
| version47 | 751 | <A NAME="in73">[第三段 七日毎の法事と薫の悲嘆]</A><BR> | 670 | |
| cd2:1 | 753-754 | 「紅色に落ちる涙が何にもならないのは<BR>⏎ 形見の喪服の色を染めないことだ」<BR>⏎ | 672 | 「紅色に落ちる涙が何にもならないのは<BR> 形見の喪服の色を染めないことだ」<BR>⏎ |
| c1 | 758 | と言って、泣きあっている。<BR>⏎ | 676 | と言って,泣きあっている。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 762-764 | 「この姫君は、はきはきとした方で、もう少し子供っぽく、気高くいらっしゃる一方で、親しみがありうるおいのある人柄という点では劣っていらっしゃる」<BR>⏎ と、何かにつけて思われる。<BR>⏎ <P>⏎ | 680-681 | 「この姫君は、はきはきとした方で、もう少し子供っぽく、気高くいらっしゃる一方で、親しみがありうるおいのある人柄という点では 劣っていらっしゃる」<BR>⏎ と,何かにつけて思われる。<BR>⏎ |
| version47 | 765 | <A NAME="in74">[第四段 雪の降る日、薫、大君を思う]</A><BR> | 682 | |
| cd2:1 | 767-768 | 「後れまいと空を行く月が慕われる<BR>⏎ いつまでも住んでいられないこの世なので」<BR>⏎ | 684 | 「後れまいと空を行く月が慕われる<BR> いつまでも住んでいられないこの世なので」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 770-771 | 「恋いわびて死ぬ薬が欲しいゆえに<BR>⏎ 雪の山に分け入って跡を晦ましてしまいたい」<BR>⏎ | 686 | 「恋いわびて死ぬ薬が欲しいゆえに<BR> 雪の山に分け入って跡を晦ましてしまいたい」<BR>⏎ |
| c2 | 774-775 | 「ご病気が重態におなりあそばしたことも、ただあの宮の御事を思いもかけずお迎えなさって、物笑いで辛いとお思いのようであったが、何といってもあの御方には、こう心配していると知られ申すまいと、ただお胸の内で二人の仲を嘆いていらっしゃるうちに、ちょっとした果物もお口におふれにならず、すっかりお弱りあそばしたようでした。<BR>⏎ 表面では何ほども大げさに心配しているようにはお振る舞いあそばさず、お心の底ではこの上なく、何事もご心配のようでして、故宮のご遺戒にまで背いてしまったことと、ひとごとながら妹君のお身の上をお悩み続けたのでした」<BR>⏎ | 689-690 | 「ご病気が重態におなりあそばしたことも、ただあの宮の御事を 思いもかけずお迎えなさって、物笑いで辛いとお思いのようであったが、何といってもあの御方には、こう心配していると知られ申すまいと、ただお胸の内で二人の仲を嘆いていらっしゃるうちに、ちょっとした果物もお口におふれにならず、すっかりお弱りあそばしたようでした。<BR>⏎ 表面では 何ほども大げさに心配しているようにはお振る舞いあそばさず、お心の底ではこの上なく、何事もご心配のようでして、故宮のご遺戒にまで背いてしまったことと、ひとごとながら妹君のお身の上をお悩み続けたのでした」<BR>⏎ |
| d1 | 777 | <P>⏎ | ||
| version47 | 778 | <A NAME="in75">[第五段 匂宮、雪の中、宇治へ弔問]</A><BR> | 692 | |
| c2 | 781-782 | と、大徳たちも目を覚まして思っていると、宮が、狩のお召物でひどく身をやつして、濡れながらお入りなって来るのであった。戸を叩きなさる様子が、そうである、とお聞きになって、中納言は、奥のほうにお入りになって、隠れていらっしゃる。御忌中の日数は残っていたが、ご心配でたまらなくなって、一晩中雪に難儀されながらおいでになったのであった。<BR>⏎ 今までのつらさも紛れてしまいそうなことだけれど、お会いなさる気もせず、お嘆きになっていた様子が恥ずかしかったが、そのまま見直していただけなかったことを、今から以後にお心が改まったところで、何の効もないようにすっかり思い込んでいらっしゃるので、誰も彼もが、強く道理を説いて申し上げ申し上げしては、物越しに、これまでのご無沙汰の詫びを言葉を尽くしておっしゃるのを、つくづくと聞いていらっしゃった。<BR>⏎ | 695-696 | と,大徳たちも目を覚まして思っていると、宮が、狩のお召物でひどく身をやつして、濡れながらお入りなって来るのであった。戸を叩きなさる様子が、そうである、とお聞きになって、中納言は、奥のほうにお入りになって、隠れていらっしゃる。御忌中の日数は残っていたが、ご心配でたまらなくなって、一晩中雪に難儀されながらおいでになったのであった。<BR>⏎ 今までのつらさも紛れてしまいそうなことだけれど、お会いなさる気もせず、お嘆きになっていた様子が恥ずかしかったが、そのまま見直していただけなかったことを、今から以後にお心が改まったところで、何の効もないようにすっかり思い込んでいらっしゃるので、誰も彼もが,強く道理を説いて申し上げ申し上げしては、物越しに、これまでのご無沙汰の詫びを言葉を尽くしておっしゃるのを、つくづくと聞いていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 788 | などと、こっそりとおせっかいなさるので、ますますこの君のお気持ちが恥ずかしくて、お答え申し上げることがおできになれない。<BR>⏎ | 702 | などと,こっそりとおせっかいなさるので、ますますこの君のお気持ちが恥ずかしくて、お答え申し上げることがおできになれない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 790-791 | と、並々ならず嘆いて日をお送りになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 704 | と,並々ならず嘆いて日をお送りになった。<BR>⏎ |
| version47 | 792 | <A NAME="in76">[第六段 匂宮と中の君、和歌を詠み交す]</A><BR> | 705 | |
| cd6:4 | 793-798 | 夜の様子は、ますます烈しい風の音に、自分のせいで嘆き臥していらっしゃるのも、さすがに気の毒で、例によって、物を隔てて申し上げなさる。数々の神の名をあげて、将来長くお約束申し上げなさるのも、「どうしてこんなに口馴れていらっしゃるのだろう」と、嫌な気がするが、離れていて薄情な時のつらさよりは胸にしみて、女君の気持ちも柔らかくなってしまいそうなご様子を、一方的にも嫌ってばかりいられない。ただ、じっと耳を傾けていて、<BR>⏎ 「過ぎ去ったことを思い出しても頼りないのに<BR>⏎ 将来までどうして当てになりましょう」<BR>⏎ と、かすかにおっしゃる。かえって気がふさぎ、気が気でない。<BR>⏎ 「将来が短いものと思ったら<BR>⏎ せめてわたしの前だけでも背かないでほしい<BR>⏎ | 706-709 | 夜の様子は、ますます烈しい風の音に、自分のせいで嘆き臥していらっしゃるのも、さすがに気の毒で、例によって、物を隔てて申し上げなさる。数々の神の名をあげて、将来長くお約束申し上げなさるのも、「どうしてこんなに口馴れていらっしゃるのだろう」と、嫌な気がするが、離れていて薄情な時のつらさよりは胸にしみて、女君の気持ちも柔らかくなってしまいそうなご様子を、一方的にも嫌ってばかりいられない。ただ,じっと耳を傾けていて、<BR>⏎ 「過ぎ去ったことを思い出しても頼りないのに<BR> 将来までどうして当てになりましょう」<BR>⏎ と,かすかにおっしゃる。かえって気がふさぎ、気が気でない。<BR>⏎ 「将来が短いものと思ったら<BR> せめてわたしの前だけでも背かないでほしい<BR>⏎ |
| c1 | 800 | と、いろいろと宥めなさるが、<BR>⏎ | 711 | と,いろいろと宥めなさるが、<BR>⏎ |
| d1 | 806 | <P>⏎ | ||
| version47 | 807 | <A NAME="in77">[第七段 歳暮に薫、宇治から帰京]</A><BR> | 717 | |
| c1 | 809 | 宮からも、御誦経などをうるさいまでにお見舞い申し上げなさる。こうしてばかりいては、新年まで嘆き過すことになろう。あちらこちらと、音沙汰なく籠もっていらっしゃることを申し上げられるので、今はもうお帰りになる気持ちも、何にもたとえようがない。<BR>⏎ | 719 | 宮からも、御誦経などを うるさいまでにお見舞い申し上げなさる。こうしてばかりいては、新年まで嘆き過すことになろう。あちらこちらと、音沙汰なく籠もっていらっしゃることを申し上げられるので、今はもうお帰りになる気持ちも、何にもたとえようがない。<BR>⏎ |
| c1 | 812 | と、一同涙に暮れていた。<BR>⏎ | 722 | と,一同涙に暮れていた。<BR>⏎ |
| c1 | 814 | 「やはり、このように参ることがとても難しいのに困って、近くにお引越し申し上げることを、考え出した」<BR>⏎ | 724 | 「やはり,このように参ることがとても難しいのに困って、近くにお引越し申し上げることを、考え出した」<BR>⏎ |
| c1 | 816 | 「中納言もこのように並々ならず悲しみに茫然としていたのは、なるほど、普通の扱いはできない方と、どなたもお思いなのではあろう」と、お気の毒になって、「二条院の西の対に迎えなさって、時々お通いになるよう、内々に申し上げなさったのは、女一の宮の御方の女房にとお考えになっているのではないか」<BR>⏎ | 726 | 「中納言もこのように並々ならず悲しみに茫然としていたのは、なるほど,普通の扱いはできない方と、どなたもお思いなのではあろう」と、お気の毒になって、「二条院の西の対に迎えなさって、時々お通いになるよう、内々に申し上げなさったのは、女一の宮の御方の女房にとお考えになっているのではないか」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 820-822 | などと、昔のことを思って心細い。宮がお疑いになっていたらしい方面は、まことに似つかわしくないことと思い離れていて、「一般的なご後見は、自分以外に、誰ができようか」と、お思いになっていたとか。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 730 | などと,昔のことを思って心細い。宮がお疑いになっていたらしい方面は、まことに似つかわしくないことと思い離れていて、「一般的なご後見は、自分以外に、誰ができようか」と、お思いになっていたとか。<BR>⏎ |
| d1 | 829 | ⏎ | ||
| i0 | 741 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version48 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| d1 | 36 | <P>⏎ | ||
| version48 | 37 | <H4>第一章 中君の物語 匂宮との結婚を前にした宇治での生活</H4> | 33 | |
| version48 | 38 | <A NAME="in11">[第一段 宇治の新春、山の阿闍梨から山草が届く]</A><BR> | 34 | |
| cd3:2 | 43-45 | などと申し上げて、蕨、土筆を、風流な籠に入れて、「これは、童たちが献じましたお初穂です」といって、差し上げた。筆跡は、とても悪筆で、和歌は、わざとらしく放ち書きにしてあった。<BR>⏎ 「わが君にと思って毎年毎年の春に摘みましたので<BR>⏎ 今年も例年どおりの初蕨です<BR>⏎ | 39-40 | などと申し上げて、蕨、土筆を、風流な籠に入れて、「これは,童たちが献じましたお初穂です」といって、差し上げた。筆跡は、とても悪筆で、和歌は、わざとらしく放ち書きにしてあった。<BR>⏎ 「わが君にと思って毎年毎年の春に摘みましたので<BR> 今年も例年どおりの初蕨です<BR>⏎ |
| d1 | 48 | <P>⏎ | ||
| version48 | 49 | <A NAME="in12">[第二段 中君、阿闍梨に返事を書く]</A><BR> | 43 | |
| cd2:1 | 51-52 | 「今年の春は誰にお見せしましょうか<BR>⏎ 亡きお方の形見として摘んだ峰の早蕨を」<BR>⏎ | 45 | 「今年の春は誰にお見せしましょうか<BR> 亡きお方の形見として摘んだ峰の早蕨を」<BR>⏎ |
| c3 | 55-57 | 「中納言殿が亡骸だけでも残って拝見できるものであったらと、朝夕にお慕い申し上げていらっしゃるようだが、同じことなら、結ばれなさるご運命でなかったことよ」<BR>⏎ と、拝する女房たちは残念がっている。<BR>⏎ あの御あたりの人が通って来る便りに、ご様子は常にお互いにお聞きなさっていたのであった。いつまでもぼうっとしていらして、「新年になっても相変わらず、悲しそうな涙顔に、なっていらっしゃる」とお聞きになっても、「なるほど、一時の浮ついたお心ではいらっしゃらなかったのだ」と、ますます今となって愛情も深かったのだと、思い知られる。<BR>⏎ | 48-50 | 「中納言殿が 亡骸だけでも残って拝見できるものであったらと、朝夕にお慕い申し上げていらっしゃるようだが、同じことなら、結ばれなさるご運命でなかったことよ」<BR>⏎ と,拝する女房たちは残念がっている。<BR>⏎ あの御あたりの人が通って来る便りに、ご様子は常にお互いにお聞きなさっていたのであった。いつまでもぼうっとしていらして、「新年になっても相変わらず、悲しそうな涙顔に、なっていらっしゃる」とお聞きになっても、「なるほど,一時の浮ついたお心ではいらっしゃらなかったのだ」と、ますます今となって愛情も深かったのだと、思い知られる。<BR>⏎ |
| d1 | 59 | <P>⏎ | ||
| version48 | 60 | <A NAME="in13">[第三段 正月下旬、薫、匂宮を訪問]</A><BR> | 52 | |
| cd2:1 | 63-64 | 「折る人の心に通っている花なのだろうか<BR>⏎ 表には現さないで内に匂いを含んでいる」<BR>⏎ | 55 | 「折る人の心に通っている花なのだろうか<BR> 表には現さないで内に匂いを含んでいる」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 66-67 | 「見る人に言いがかりをつけられる花の枝は<BR>⏎ 注意して折るべきでした<BR>⏎ | 57 | 「見る人に言いがかりをつけられる花の枝は<BR> 注意して折るべきでした<BR>⏎ |
| cd2:1 | 70-71 | こまごまとしたお話になってからは、あの山里の御事を、まずはどうしているかと、宮はお尋ね申し上げなさる。中納言も、亡くなった方のことが諦めようもなく悲しいことを、その当時から今日までの思いの断ち切れないことを、四季折々につけて、悲しいことや風流なことを、悲喜こもごもとか言うように、申し上げなさると、それ以上にあれほど色っぽく涙もろいご性癖は、人のお身の上のことでさえ、袖をしぼるほどになって、話しがいがあるようにお答えなさっているようである。<BR>⏎ <P>⏎ | 60 | こまごまとしたお話になってからは、あの山里の御事を、まずはどうしているかと、宮はお尋ね申し上げなさる。中納言も、亡くなった方のことが諦めようもなく悲しいことを、その当時から今日までの思いの断ち切れないことを、四季折々につけて、悲しいことや風流なことを、悲喜こもごもとか言うように、申し上げなさると、それ以上にあれほど色っぽく 涙もろいご性癖は、人のお身の上のことでさえ、袖をしぼるほどになって、話しがいがあるようにお答えなさっているようである。<BR>⏎ |
| version48 | 72 | <A NAME="in14">[第四段 匂宮、薫に中君を京に迎えることを言う]</A><BR> | 61 | |
| c2 | 73-74 | 空の様子もまた、なるほど心を知っているかのように霞わたっていた。夜になって烈しく吹き出した風の様子、まだ冬らしくてまこと寒そうで、大殿油も消え消えし、闇は梅の香を隠せず匂っているが、互いにそのままお話をやめることもなさらず、尽きないお話を心ゆくまでお話しきれないで、夜もたいそう更けてしまった。<BR>⏎ 世にも稀な二人の仲のよさを、「さあ、そうはいっても、とてもそんなばかりではなかったでしょう」と、隠しているものがあるようにお尋ねになるのは、理不尽なご性癖のせいである。そうは言っても、物事をよくお分かりになって、悲しい心の中を晴れるように、一方では慰めもし、また悲しみを忘れさせ、いろいろとお語らいになる、そのご様子の魅力にお引かれ申して、なるほど、心に余るほどに鬱積していたことがらを、少しずつお話し申し上げなさるのは、この上なく心が晴れ晴れする気がなさる。<BR>⏎ | 62-63 | 空の様子もまた、なるほど心を知っているかのように霞わたっていた。夜になって 烈しく吹き出した風の様子、まだ冬らしくてまこと寒そうで、大殿油も消え消えし、闇は梅の香を隠せず匂っているが、互いにそのままお話をやめることもなさらず、尽きないお話を心ゆくまでお話しきれないで、夜もたいそう更けてしまった。<BR>⏎ 世にも稀な二人の仲のよさを、「さあ,そうはいっても、とてもそんなばかりではなかったでしょう」と、隠しているものがあるようにお尋ねになるのは、理不尽なご性癖のせいである。そうは言っても、物事をよくお分かりになって、悲しい心の中を晴れるように、一方では慰めもし、また悲しみを忘れさせ、いろいろとお語らいになる、そのご様子の魅力にお引かれ申して、なるほど,心に余るほどに鬱積していたことがらを、少しずつお話し申し上げなさるのは、この上なく心が晴れ晴れする気がなさる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 76-78 | 「まことに嬉しいことでございますね。不本意ながら、わたしの過失と存じておりました諦め切れない故人の縁者を、また他に訪ねるべき人もございませんので、後見一般としては、どのようなことでも、お世話申し上げるべき人と存じておりますが、もし不都合なこととお思いになりましょうか」<BR>⏎ と言って、あの、「他人とお思いくださるな」と、お譲りになったお心向けをも、少しお話し申し上げなさるが、岩瀬の森の呼子鳥めいた夜のことは、話さずにいたのであった。心の中では、「このように慰めがたい形見にも、なるほど、おっしゃったように、このようにお世話申し上げるべきであった」と、悔しさがだんだんと高じてゆくが、今では甲斐のないゆえに、「常にこのようにばかり思っていたら、とんでもない料簡が出て来るかもしれない。誰にとってもつまらなく、馬鹿らしいことだろう」と思い諦める。「それにしても、お移りになるにしても、ほんとうにご後見申し上げる人は、わたし以外に誰がいようか」とお思いになるので、お引越しの準備を用意おさせになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 65-66 | 「まことに嬉しいことでございますね。不本意ながら、わたしの過失と存じておりました。諦め切れない故人の縁者を、また他に訪ねるべき人もございませんので、後見一般としては、どのようなことでも、お世話申し上げるべき人と存じておりますが、もし不都合なこととお思いになりましょうか」<BR>⏎ と言って,あの、「他人とお思いくださるな」と、お譲りになったお心向けをも、少しお話し申し上げなさるが、岩瀬の森の呼子鳥めいた夜のことは、話さずにいたのであった。心の中では、「このように慰めがたい形見にも、なるほど,おっしゃったように、このようにお世話申し上げるべきであった」と、悔しさがだんだんと高じてゆくが、今では甲斐のないゆえに、「常にこのようにばかり思っていたら、とんでもない料簡が出て来るかもしれない。誰にとってもつまらなく、馬鹿らしいことだろう」と思い諦める。「それにしても,お移りになるにしても、ほんとうにご後見申し上げる人は、わたし以外に誰がいようか」とお思いになるので、お引越しの準備を用意おさせになる。<BR>⏎ |
| version48 | 79 | <A NAME="in15">[第五段 中君、姉大君の服喪が明ける]</A><BR> | 67 | |
| c1 | 82 | 御服喪も、期限があることなので、脱ぎ捨てなさるのに、禊も浅い気がする。母親は、お顔を存じ上げていないので、恋しいとも思われない。そのお代わりにも、今回の喪服の色を濃く染めようと、心にお思いになりおっしゃりもしたが、はやり、そのような理由もないことなので、物足りなく悲しいことは限りがない。<BR>⏎ | 70 | 御服喪も、期限があることなので、脱ぎ捨てなさるのに、禊も浅い気がする。母親は、お顔を存じ上げていないので、恋しいとも思われない。そのお代わりにも、今回の喪服の色を濃く染めようと、心にお思いになりおっしゃりもしたが、はやり,そのような理由もないことなので、物足りなく悲しいことは限りがない。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 84-86 | 「早いものですね、霞の衣を作ったばかりなのに<BR>⏎ もう花が綻ぶ季節となりました」<BR>⏎ なるほど、色とりどりにたいそう美しくして差し上げなさった。お引越しの時のお心づけなど、仰々しくない物で、それぞれの身分に応じていろいろと考えて、とても多かった。<BR>⏎ | 72-73 | 「早いものですね、霞の衣を作ったばかりなのに<BR> もう花が綻ぶ季節となりました」<BR>⏎ なるほど,色とりどりにたいそう美しくして差し上げなさった。お引越しの時のお心づけなど、仰々しくない物で、それぞれの身分に応じていろいろと考えて、とても多かった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 88-89 | などと、女房たちはお教え申し上げる。ぱっとしない老女房連中の考えとしては、このような点を身にしみて申し上げる。若い女房は、時々拝見し馴れているので、今を限りに縁遠くおなりになるのを、物足りなく、「どんなに恋しくお思いなされるでしょう」とお噂し合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 75 | などと,女房たちはお教え申し上げる。ぱっとしない老女房連中の考えとしては、このような点を身にしみて申し上げる。若い女房は、時々拝見し馴れているので、今を限りに縁遠くおなりになるのを、物足りなく、「どんなに恋しくお思いなされるでしょう」とお噂し合っていた。<BR>⏎ |
| version48 | 90 | <A NAME="in16">[第六段 薫、中君が宇治を出立する前日に訪問]</A><BR> | 76 | |
| c1 | 91 | ご自身は、お移りになることが明日という日の、まだ早朝においでになった。いつものように、客人席にお通りになるにつけても、今は、だんだん何にも馴れて、「自分こそ、誰よりも先に、このように思っていたのだ」などと、生前のご様子や、おっしゃったお気持ちをお思い出しになって、「それでも、よそよそしく、思いの外になどとは、おあしらいなさらなかったが、自分のほうから、妙に他人で終わることになってしまったな」と、胸痛くお思い続けなさる。<BR>⏎ | 77 | ご自身は、お移りになることが明日という日の、まだ早朝においでになった。いつものように,客人席にお通りになるにつけても、今は、だんだん何にも馴れて、「自分こそ、誰よりも先に、このように思っていたのだ」などと、生前のご様子や、おっしゃったお気持ちをお思い出しになって、「それでも、よそよそしく、思いの外になどとは、おあしらいなさらなかったが、自分のほうから、妙に他人で終わることになってしまったな」と、胸痛くお思い続けなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 93 | 部屋の中でも、女房たちはお思い出し申し上げながら涙ぐんでいた。中の宮は、女房たち以上に、催される涙の川で、明日の引っ越しもお考えになれず、茫然として物思いに沈んで臥せっておいでになるので、<BR>⏎ | 79 | 部屋の中でも、女房たちはお思い出し申し上げながら涙ぐんでいた。中の宮は,女房たち以上に、催される涙の川で、明日の引っ越しもお考えになれず、茫然として物思いに沈んで臥せっておいでになるので、<BR>⏎ |
| c3 | 96-98 | 「体裁が悪いとお思い申されようとは思いませんが、それでも、気分もいつものようでなく、心も乱れ乱れて、ますますはきはきしない失礼を申し上げてはと、気がひけまして」<BR>⏎ などと、つらそうにお思いになっているが、「お気の毒です」などと、あれこれ女房が申し上げるので、中の襖障子口でお会いなさった。<BR>⏎ たいそうこちらが気恥ずかしくなるほど優美で、また「今度は、一段と立派におなりになった」と、目も驚くほどはなやかに美しく、「誰にも似ない心ばせなど、何とも、素晴らしい方だ」とばかりお見えになるのを、姫宮は、面影の離れない方の御事までお思い出し申し上げなさると、まことにしみじみとお会い申し上げなさる。<BR>⏎ | 82-84 | 「体裁が悪いとお思い申されようとは思いませんが、それでも,気分もいつものようでなく、心も乱れ乱れて、ますますはきはきしない失礼を申し上げてはと、気がひけまして」<BR>⏎ などと,つらそうにお思いになっているが、「お気の毒です」などと、あれこれ女房が申し上げるので、中の襖障子口でお会いなさった。<BR>⏎ たいそうこちらが気恥ずかしくなるほど優美で、また「今度は、一段と立派におなりになった」と、目も驚くほどはなやかに美しく、「誰にも似ない心ばせなど、何とも,素晴らしい方だ」とばかりお見えになるのを、姫宮は、面影の離れない方の御事までお思い出し申し上げなさると、まことにしみじみとお会い申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 104-105 | などと、言葉とぎれとぎれに言って、ひどく心に感じ入っていらっしゃる様子など、ひどくよく似ていらっしゃるのを、「自分から他人の妻にしてしまった」と思うと、とても悔しく思っていらっしゃるが、言っても効ないので、あの夜のことは何も言わず、忘れてしまったのかと見えるまで、きれいさっぱりと振る舞っていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 90 | などと,言葉とぎれとぎれに言って、ひどく心に感じ入っていらっしゃる様子など、ひどくよく似ていらっしゃるのを、「自分から他人の妻にしてしまった」と思うと、とても悔しく思っていらっしゃるが、言っても効ないので、あの夜のことは何も言わず、忘れてしまったのかと見えるまで、きれいさっぱりと振る舞っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version48 | 106 | <A NAME="in17">[第七段 中君と薫、紅梅を見ながら和歌を詠み交す]</A><BR> | 91 | |
| cd3:2 | 107-109 | お庭前近い紅梅が、花も香もなつかしいので、鴬でさえ見過ごしがたそうに鳴いて飛び移るようなので、まして、「春や昔の」と心を惑わしなさるどうしのお話に、折からしみじみと心を打つのである。風がさっと吹いて入ってくると、花の香も客人のお匂いも、橘ではないが、昔が思い出されるよすがである。「所在ない気の紛らわしにも、世の嫌な慰めにも、心をとめて賞美なさったものを」などと、胸に堪えかねるので、<BR>⏎ 「花を見る人もいなくなってしまいましょうに、嵐に吹き乱れる山里に<BR>⏎ 昔を思い出させる花の香が匂って来ます」<BR>⏎ | 92-93 | お庭前近い紅梅が、花も香もなつかしいので、鴬でさえ見過ごしがたそうに鳴いて飛び移るようなので、まして,「春や昔の」と心を惑わしなさるどうしのお話に、折からしみじみと心を打つのである。風がさっと吹いて入ってくると、花の香も客人のお匂いも、橘ではないが、昔が思い出されるよすがである。「所在ない気の紛らわしにも、世の嫌な慰めにも、心をとめて賞美なさったものを」などと、胸に堪えかねるので、<BR>⏎ 「花を見る人もいなくなってしまいましょうに、嵐に吹き乱れる山里に<BR> 昔を思い出させる花の香が匂って来ます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 111-112 | 「昔賞美された梅は今も変わらぬ匂いですが<BR>⏎ 根ごと移ってしまう邸は他人の所なのでしょうか」<BR>⏎ | 95 | 「昔賞美された梅は今も変わらぬ匂いですが<BR> 根ごと移ってしまう邸は他人の所なのでしょうか」<BR>⏎ |
| c2 | 114-115 | 「またやはり、このように、何事もお話し申し上げたいものです」<BR>⏎ などと、申し上げおいてお立ちになった。<BR>⏎ | 97-98 | 「またやはり,このように、何事もお話し申し上げたいものです」<BR>⏎ などと,申し上げおいてお立ちになった。<BR>⏎ |
| d1 | 117 | <P>⏎ | ||
| version48 | 118 | <A NAME="in18">[第八段 薫、弁の尼と対面]</A><BR> | 100 | |
| c3 | 121-123 | と言って、出家をしていたのを、しいて召し出して、まことにしみじみと御覧になる。いつものように、昔の思い出話などをおさせになって、<BR>⏎ 「ここには、やはり、時々参りましょうが、まことに頼りなく心細いので、こうしてお残りになるのは、まことにしみじみとありがたく嬉しいことです」<BR>⏎ などと、最後まで言い終わらずにお泣きになる。<BR>⏎ | 103-105 | と言って,出家をしていたのを、しいて召し出して、まことにしみじみと御覧になる。いつものように、昔の思い出話などをおさせになって、<BR>⏎ 「ここには、やはり,時々参りましょうが、まことに頼りなく心細いので、こうしてお残りになるのは、まことにしみじみとありがたく嬉しいことです」<BR>⏎ などと,最後まで言い終わらずにお泣きになる。<BR>⏎ |
| cd8:7 | 125-132 | と、思っていたことをお訴え申し上げるのも、愚痴っぽいが、とてもよく言い慰めなさる。<BR>⏎ たいそう年をとっているが、昔、美しかった名残の黒髪を削ぎ落としたので、額の具合、変わった感じに少し若くなって、その方面の身としては優美である。<BR>⏎ 「思いあぐねた果てに、どうしてこのような尼姿にして差し上げなかったのだろう。それによって寿命が延びるようなこともあったろうに。そうして、どんなに親密に語らい申し上げられたろうに」<BR>⏎ などと、一方ならず思われなさると、この人までが羨ましいので、隠れている几帳を少し引いて、こまやかに語らいなさる。なるほど、すっかり悲しみに暮れている様子だが、何か言う態度、心づかいは、並々でなく、嗜みのあった女房の面影が残っていると見えた。<BR>⏎ 「先に立つ涙の川に身を投げたら<BR>⏎ 死に後れしなかったでしょうに」<BR>⏎ と、泣き顔になって申し上げる。<BR>⏎ 「それもとても罪深いことです。彼岸に辿り着くことは、どうしてできようか。それ以外のことであってさえも、深い悲しみの底に沈んで生きてゆくのもつまらない。すべて、皆無常だと悟るべき世の中なのです」<BR>⏎ | 107-113 | と,思っていたことをお訴え申し上げるのも、愚痴っぽいが、とてもよく言い慰めなさる。<BR>⏎ たいそう年をとっているが、昔,美しかった名残の黒髪を削ぎ落としたので、額の具合、変わった感じに 少し若くなって、その方面の身としては優美である。<BR>⏎ 「思いあぐねた果てに、どうしてこのような尼姿にして差し上げなかったのだろう。それによって寿命が延びるようなこともあったろうに。そうして,どんなに親密に語らい申し上げられたろうに」<BR>⏎ などと,一方ならず思われなさると、この人までが羨ましいので、隠れている几帳を少し引いて、こまやかに語らいなさる。なるほど,すっかり悲しみに暮れている様子だが、何か言う態度、心づかいは、並々でなく、嗜みのあった女房の面影が残っていると見えた。<BR>⏎ 「先に立つ涙の川に身を投げたら<BR> 死に後れしなかったでしょうに」<BR>⏎ と,泣き顔になって申し上げる。<BR>⏎ 「それもとても罪深いことです。彼岸に辿り着くことは、どうしてできようか。それ以外のことであってさえも、深い悲しみの底に沈んで生きてゆくのもつまらない。すべて,皆無常だと悟るべき世の中なのです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 134-135 | 「身を投げるという涙の川に沈んでも<BR>⏎ 恋しい折々を忘れることはできまい<BR>⏎ | 115 | 「身を投げるという涙の川に沈んでも<BR> 恋しい折々を忘れることはできまい<BR>⏎ |
| c1 | 137 | と、終わりのない気がなさる。<BR>⏎ | 117 | と,終わりのない気がなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 139 | <P>⏎ | ||
| version48 | 140 | <A NAME="in19">[第九段 弁の尼、中君と語る]</A><BR> | 119 | |
| cd2:1 | 142-143 | 「人びとは皆準備に忙しく繕い物をしているようですが<BR>⏎ 一人藻塩を垂れて涙に暮れている尼の私です」<BR>⏎ | 121 | 「人びとは皆準備に忙しく繕い物をしているようですが<BR> 一人藻塩を垂れて涙に暮れている尼の私です」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 145-146 | 「藻塩を垂れて涙に暮れるあなたと同じです<BR>⏎ 浮いた波に涙を流しているわたしは<BR>⏎ | 123 | 「藻塩を垂れて涙に暮れるあなたと同じです<BR> 浮いた波に涙を流しているわたしは<BR>⏎ |
| c2 | 148-149 | などと、とてもやさしくお話しになる。亡き姉君がお使いになったしかるべきご調度類などは、みなこの尼にお残しになって、<BR>⏎ 「このように、誰よりも深く悲しんでおいでなのを見ると、前世からも、特別の約束がおありだっただろうかと思うのまでが、慕わしくしみじみ思われます」<BR>⏎ | 125-126 | などと,とてもやさしくお話しになる。亡き姉君がお使いになったしかるべきご調度類などは、みなこの尼にお残しになって、<BR>⏎ 「このように,誰よりも深く悲しんでおいでなのを見ると、前世からも、特別の約束がおありだっただろうかと思うのまでが、慕わしくしみじみ思われます」<BR>⏎ |
| d1 | 151 | <P>⏎ | ||
| version48 | 152 | <H4>第二章 中君の物語 匂宮との京での結婚生活が始まる</H4> | 128 | |
| version48 | 153 | <A NAME="in21">[第一段 中君、京へ向けて宇治を出発]</A><BR> | 129 | |
| cd2:1 | 157-158 | 「生きていたので嬉しい事に出合いました<BR>⏎ 身を厭いて宇治川に投げてしまいましたら」<BR>⏎ | 133 | 「生きていたので嬉しい事に出合いました<BR> 身を厭いて宇治川に投げてしまいましたら」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 160-161 | 「亡くなった方を恋しく思う気持ちは忘れませんが<BR>⏎ 今日は何をさしおいてもまず嬉しく存じられます」<BR>⏎ | 135 | 「亡くなった方を恋しく思う気持ちは忘れませんが<BR> 今日は何をさしおいてもまず嬉しく存じられます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 164-165 | 「考えると山から出て昇って行く月も<BR>⏎ この世が住みにくくて山に帰って行くのだろう」<BR>⏎ | 138 | 「考えると山から出て昇って行く月も<BR> この世が住みにくくて山に帰って行くのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 167 | <P>⏎ | ||
| version48 | 168 | <A NAME="in22">[第二段 中君、京の二条院に到着]</A><BR> | 140 | |
| cd3:2 | 172-174 | ひどくお気に召して大切にしていらっしゃるというのをお聞きになるにつけても、一方では嬉しく思われるが、やはり、自分の考えながら馬鹿らしく、胸がどきどきして、「取り返したいものだ」と、繰り返し独り言が出てきて、<BR>⏎ 「しなてる琵琶湖の湖に漕ぐ舟のように<BR>⏎ まともではないが一夜会ったこともあったのに」<BR>⏎ | 144-145 | ひどくお気に召して大切にしていらっしゃるというのをお聞きになるにつけても、一方では嬉しく思われるが、やはり,自分の考えながら馬鹿らしく、胸がどきどきして、「取り返したいものだ」と、繰り返し独り言が出てきて、<BR>⏎ 「しなてる琵琶湖の湖に漕ぐ舟のように<BR> まともではないが一夜会ったこともあったのに」<BR>⏎ |
| d1 | 176 | <P>⏎ | ||
| version48 | 177 | <A NAME="in23">[第三段 夕霧、六の君の裳着を行い、結婚を思案す]</A><BR> | 147 | |
| c2 | 184-185 | と、その気のない旨をお聞きになって、<BR>⏎ 「どうして、この君までが、真剣になって申し出る言葉を、気乗りしなくあしらってよいものか」<BR>⏎ | 154-155 | と,その気のない旨をお聞きになって、<BR>⏎ 「どうして,この君までが、真剣になって申し出る言葉を、気乗りしなくあしらってよいものか」<BR>⏎ |
| d1 | 187 | <P>⏎ | ||
| version48 | 188 | <A NAME="in24">[第四段 薫、桜の花盛りに二条院を訪ね中君と語る]</A><BR> | 157 | |
| c1 | 190 | こちらにばかりおいでになって、たいそうよく住みなれていらっしゃるので、「安心ことだ」と拝見するものの、例によって、どうかと思われる心が混じるのは、妙なことであるよ。けれども、本当のお気持ちは、とてもうれしく安心なことだとお思い申し上げなさるのであった。<BR>⏎ | 159 | こちらにばかりおいでになって、たいそうよく住みなれていらっしゃるので、「安心ことだ」と拝見するものの、例によって、どうかと思われる心が混じるのは、妙なことであるよ。けれども,本当のお気持ちは、とてもうれしく安心なことだとお思い申し上げなさるのであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 195-197 | 「おっしゃるとおり、生きていらしたら、何の気兼ねもなく行き来して、お互いに花の色や、鳥の声を、季節折々につけては、少し心をやって過すことができたのに」<BR>⏎ などと、お思い出しなさるにつけて、一途に引き籠もって生活していらした心細さよりも、ひたすら悲しく、残念なことが、いっそうつのるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 164-165 | 「おっしゃるとおり,生きていらしたら、何の気兼ねもなく行き来して、お互いに花の色や、鳥の声を、季節折々につけては、少し心をやって過すことができたのに」<BR>⏎ などと,お思い出しなさるにつけて、一途に引き籠もって生活していらした心細さよりも、ひたすら悲しく、残念なことが、いっそうつのるのであった。<BR>⏎ |
| version48 | 198 | <A NAME="in25">[第五段 匂宮、中君と薫に疑心を抱く]</A><BR> | 166 | |
| c2 | 203-204 | 「どうして、無愛想に遠ざけて、外にお座らせになっているのか。あなたには、あまりにどうかと思われるまでに、行き届いたお世話ぶりでしたのに。自分には愚かしいこともあろうか、と心配されますが、そうはいってもまったく他人行儀なのも、罰が当たろう。近い所で、昔話を語り合いなさい」<BR>⏎ などと、申し上げなさるものの、<BR>⏎ | 171-172 | 「どうして,無愛想に遠ざけて、外にお座らせになっているのか。あなたには、あまりにどうかと思われるまでに、行き届いたお世話ぶりでしたのに。自分には愚かしいこともあろうか、と心配されますが、そうはいってもまったく他人行儀なのも、罰が当たろう。近い所で、昔話を語り合いなさい」<BR>⏎ などと,申し上げなさるものの、<BR>⏎ |
| cd3:1 | 206-208 | と、言い直しなさるので、どちらの方に対しても厄介だけれども、自分の気持ちも、しみじみありがたく思われた方のお心を、今さらよそよそしくすべきことでもないので、「あの方が思いもしおっしゃりもするように、故姉君の身代わりとお思い申して、このように分かりましたと、お表し申し上げる機会があったら」とはお思いになるが、やはり、何やかやと、さまざまに心安からぬことを申し上げなさるので、つらく思われなさるのだった。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 174 | と,言い直しなさるので、どちらの方に対しても厄介だけれども、自分の気持ちも、しみじみありがたく思われた方のお心を、今さらよそよそしくすべきことでもないので、「あの方が思いもしおっしゃりもするように、故姉君の身代わりとお思い申して、このように分かりましたと、お表し申し上げる機会があったら」とはお思いになるが、やはり,何やかやと、さまざまに心安からぬことを申し上げなさるので、つらく思われなさるのだった。<BR>⏎ |
| d1 | 215 | ⏎ | ||
| i0 | 185 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version49 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 53 | <LI>薫、中君に迫る---<A HREF="#in46">女は、「やはり、そうだった、ああ嫌な」と思うが、何を言うことができようか</A>⏎ | 50 | <LI>薫、中君に迫る---<A HREF="#in46">女は、「やはり,そうだった、ああ嫌な」と思うが、何を言うことができようか</A>⏎ |
| c1 | 63 | <LI>薫と中君の、それぞれの苦悩---<A HREF="#in56">「こうして、やはり、何とか安心で分別のある後見人として終えよう</A>⏎ | 60 | <LI>薫と中君の、それぞれの苦悩---<A HREF="#in56">「こうして、やはり,何とか安心で分別のある後見人として終えよう</A>⏎ |
| d1 | 100 | <P>⏎ | ||
| version49 | 101 | <H4>第一章 薫と匂宮の物語 女二の宮や六の君との結婚話</H4> | 97 | |
| version49 | 102 | <A NAME="in11">[第一段 藤壺女御と女二の宮]</A><BR> | 98 | |
| c1 | 103 | その当時、藤壷と申し上げた方は、故左大臣殿の女御でいらっしゃった。が、まだ東宮と申し上げあそばしたとき、誰よりも先に入内なさっていたので、親しく情け深い御愛情は、格別でいらっしゃったらしいが、その甲斐があったと見えることもなくて長年お過ぎになるうちに、中宮におかれては、宮たちまでが大勢、成長なさっているらしいのに、そのようなことも少なくて、ただ女宮をお一方お持ち申し上げていらっしゃるのだった。<BR>⏎ | 99 | その当時、藤壷と申し上げた方は、故左大臣殿の女御でいらっしゃった。が,まだ東宮と申し上げあそばしたとき、誰よりも先に入内なさっていたので、親しく情け深い御愛情は、格別でいらっしゃったらしいが、その甲斐があったと見えることもなくて長年お過ぎになるうちに、中宮におかれては、宮たちまでが大勢、成長なさっているらしいのに、そのようなことも少なくて、ただ女宮をお一方お持ち申し上げていらっしゃるのだった。<BR>⏎ |
| d1 | 106 | <P>⏎ | ||
| version49 | 107 | <A NAME="in12">[第二段 藤壺女御の死去と女二の宮の将来]</A><BR> | 102 | |
| c1 | 112 | 黒い御喪服で質素にしていらっしゃる様子は、ますますかわいらしく上品な感じがまさっていらっしゃった。お考えもすっかり一人前におなりになって、母女御よりも少し落ち着いて、重々しいところはまさっていらっしゃるのを、危なげのないお方だと御拝見あそばすが、実質的方面では、御母方といっても、後見役をお頼みなさるはずの叔父などといったようなしっかりとした人がいない。わずかに大蔵卿、修理大夫などという人びとは、女御にとっても異母兄弟なのであった。<BR>⏎ | 107 | 黒い御喪服で質素にしていらっしゃる様子は、ますますかわいらしく上品な感じがまさっていらっしゃった。お考えもすっかり一人前におなりになって、母女御よりも少し落ち着いて、重々しいところはまさっていらっしゃるのを、危なげのないお方だと御拝見あそばすが、実質的方面では、御母方といっても、後見役をお頼みなさるはずの 叔父などといったようなしっかりとした人がいない。わずかに大蔵卿、修理大夫などという人びとは、女御にとっても異母兄弟なのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 114 | <P>⏎ | ||
| c1 | 115 | <A NAME="in13">[第三段 帝、女二の宮を薫に降嫁させようと考える]</A><BR>⏎ | 109 | <A NAME="in13">[第三段 帝,女二の宮を薫に降嫁させようと考える]</A><BR>⏎ |
| cd7:6 | 117-123 | このようなご様子が分かるような人が、慈しみ申し上げるというのも、何の不都合があろうかと、朱雀院の姫宮を、六条院にお譲り申し上げなさった時の御評定などをお思い出しあそばすと、<BR>⏎ 「暫くの間は、どんなものかしら、物足りないことだ。降嫁などなさらなくてもよかったろうに、と申し上げる意見もあったが、源中納言が、誰よりも孝養ある様子で、いろいろとご後見申し上げているから、その当時のご威勢も衰えず、高貴な身分の生活でいらっしゃるのだ。そうでなかったら、ご心外なことがらが出てきて、自然と人から軽んじられなさることもあったろうに」<BR>⏎ などと、お思い続けて、「いずれにせよ、在位中に決定しようかしら」とお考えになると、そのまま、順序に従って、この中納言より他に、適当な人は、またいないのであった。<BR>⏎ 「宮たちの伴侶となったとして、何につけても目障りなことはあるまいよ。もともと心寄せる人があっても、聞き苦しい噂は聞くこともなさそうだし、また、もしいても、結局は結婚しないこともあるまい。本妻を持つ前に、それとなく当たってみよう」<BR>⏎ などと、時々お考えになっているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ <A NAME="in14">[第四段 帝、女二の宮や薫と碁を打つ]</A><BR>⏎ | 111-116 | このようなご様子が分かるような人が、慈しみ申し上げるというのも、何の不都合があろうかと、朱雀院の姫宮を、六条院にお譲り申し上げなさった時の御評定などを お思い出しあそばすと、<BR>⏎ 「暫くの間は、どんなものかしら,物足りないことだ。降嫁などなさらなくてもよかったろうに、と申し上げる意見もあったが、源中納言が、誰よりも孝養ある様子で、いろいろとご後見申し上げているから、その当時のご威勢も衰えず、高貴な身分の生活でいらっしゃるのだ。そうでなかったら、ご心外なことがらが出てきて、自然と人から軽んじられなさることもあったろうに」<BR>⏎ などと,お思い続けて、「いずれにせよ、在位中に決定しようかしら」とお考えになると、そのまま,順序に従って、この中納言より他に、適当な人は、またいないのであった。<BR>⏎ 「宮たちの伴侶となったとして、何につけても目障りなことはあるまいよ。もともと心寄せる人があっても、聞き苦しい噂は聞くこともなさそうだし、また,もしいても、結局は結婚しないこともあるまい。本妻を持つ前に、それとなく当たってみよう」<BR>⏎ などと,時々お考えになっているのであった。<BR>⏎ <A NAME="in14">[第四段 帝,女二の宮や薫と碁を打つ]</A><BR>⏎ |
| c1 | 130 | と仰せ言があって参上なさった。なるほど、このように特別に召し出すかいもあって、遠くから薫ってくる匂いをはじめとして、人と違った様子をしていらっしゃった。<BR>⏎ | 123 | と仰せ言があって参上なさった。なるほど,このように特別に召し出すかいもあって、遠くから薫ってくる匂いをはじめとして、人と違った様子をしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 132 | と仰せになって、碁盤を召し出して、御碁の相手に召し寄せる。いつもこのように、お身近に親しくお召しになるのが習慣になっているので、「今日もそうだろう」と思うと、<BR>⏎ | 125 | と仰せになって,碁盤を召し出して、御碁の相手に召し寄せる。いつもこのように、お身近に親しくお召しになるのが習慣になっているので、「今日もそうだろう」と思うと、<BR>⏎ |
| c2 | 135-136 | そうして、お打ちあそばすうちに、三番勝負に一つお負け越しあそばした。<BR>⏎ 「悔しいことだ」とおっしゃって、「まず、今日は、この花一枝を許す」<BR>⏎ | 128-129 | そうして,お打ちあそばすうちに、三番勝負に一つお負け越しあそばした。<BR>⏎ 「悔しいことだ」とおっしゃって、「まず,今日は、この花一枝を許す」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 138-139 | 「世間一般の家の垣根に咲いている花ならば<BR>⏎ 思いのままに手折って賞美すことができましょうものを」<BR>⏎ | 131 | 「世間一般の家の垣根に咲いている花ならば<BR> 思いのままに手折って賞美すことができましょうものを」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 141-142 | 「霜に堪えかねて枯れてしまった園の菊であるが<BR>⏎ 残りの色は褪せていないな」<BR>⏎ | 133 | 「霜に堪えかねて枯れてしまった園の菊であるが<BR> 残りの色は褪せていないな」<BR>⏎ |
| c2 | 144-145 | このように、ときどき結婚をおほのめかしあそばす御様子を、人伝てでなく承りながら、例の性癖なので、急ごうとは思わない。<BR>⏎ 「いや、本意ではない。いろいろと心苦しい人びとのご縁談を、うまく聞き流して年を過ごしてきたのに、今さら出家僧が、還俗したような気がするだろう」<BR>⏎ | 135-136 | このように,ときどき結婚をおほのめかしあそばす御様子を、人伝てでなく承りながら、例の性癖なので、急ごうとは思わない。<BR>⏎ 「いや,本意ではない。いろいろと心苦しい人びとのご縁談を、うまく聞き流して年を過ごしてきたのに、今さら出家僧が、還俗したような気がするだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 148 | <P>⏎ | ||
| version49 | 149 | <A NAME="in15">[第五段 夕霧、匂宮を六の君の婿にと願う]</A><BR> | 139 | |
| c1 | 153 | 「ままよ、いい加減な浮気心であっても、何かの縁で、お心が止まるようなことがどうしてないことがあろうか。水も漏らさない男性を思い定めていても、並の身分の男に縁づけるのは、また体裁が悪く、不満な気がするだろう」<BR>⏎ | 143 | 「ままよ,いい加減な浮気心であっても、何かの縁で、お心が止まるようなことがどうしてないことがあろうか。水も漏らさない男性を思い定めていても、並の身分の男に縁づけるのは、また体裁が悪く、不満な気がするだろう」<BR>⏎ |
| c2 | 155-156 | 「女の子が心配に思われる末世なので、帝でさえ婿をお探しになる世で、まして、臣下の娘が盛りを過ぎては困ったものだ」<BR>⏎ などと、陰口を申すようにおっしゃって、中宮をも本気になってお恨み申し上げなさることが、度重なったので、お聞きあそばしになり困って、<BR>⏎ | 145-146 | 「女の子が心配に思われる末世なので、帝でさえ婿をお探しになる世で、まして,臣下の娘が盛りを過ぎては困ったものだ」<BR>⏎ などと,陰口を申すようにおっしゃって、中宮をも本気になってお恨み申し上げなさることが、度重なったので、お聞きあそばしになり困って、<BR>⏎ |
| cd5:4 | 158-162 | 主上が、御在位も終わりに近いとばかりお思いになりおっしゃっていますようなので、臣下の者は、本妻がお決まりになると、他に心を分けることは難しいようです。それでさえ、あの大臣が誠実に、こちらの本妻とあちらの宮とに恨まれないように待遇していらっしゃるではありませんか。まして、あなたは、お考え申していることが叶ったら、大勢伺候させても構わないのですよ」<BR>⏎ などと、いつもと違って言葉数多く話して、道理をお説き申し上げなさるのを、<BR>⏎ 「ご自身でも、もともとまったく嫌とは、お思いにならないことなので、無理やりに、どうしてとんでもないこととお思い申し上げなさろう。ただ、万事格式ばった邸に閉じ籠められて、自由気ままになさっていらした状態が窮屈になることを、何となく苦しくお思いになるのが嫌なのだが、なるほど、この大臣から、あまり恨まれてしまうのも困ったことだろう」<BR>⏎ などと、だんだんお弱りになったのであろう。浮気なお心癖なので、あの按察大納言の、紅梅の御方をも、依然としてお思い捨てにならず、花や紅葉につけてはお歌をお贈りなさって、どちらの方にもご関心がおありであった。けれども、その年は過ぎた。<BR>⏎ <P>⏎ | 148-151 | 主上が、御在位も終わりに近いとばかりお思いになりおっしゃっていますようなので、臣下の者は、本妻がお決まりになると、他に心を分けることは難しいようです。それでさえ、あの大臣が誠実に、こちらの本妻とあちらの宮とに恨まれないように待遇していらっしゃるではありませんか。まして,あなたは、お考え申していることが叶ったら、大勢伺候させても構わないのですよ」<BR>⏎ などと,いつもと違って言葉数多く話して、道理をお説き申し上げなさるのを、<BR>⏎ 「ご自身でも、もともとまったく嫌とは、お思いにならないことなので、無理やりに、どうしてとんでもないこととお思い申し上げなさろう。ただ,万事格式ばった邸に閉じ籠められて、自由気ままになさっていらした状態が窮屈になることを、何となく苦しくお思いになるのが嫌なのだが、なるほど,この大臣から、あまり恨まれてしまうのも困ったことだろう」<BR>⏎ などと,だんだんお弱りになったのであろう。浮気なお心癖なので、あの按察大納言の、紅梅の御方をも、依然としてお思い捨てにならず、花や紅葉につけてはお歌をお贈りなさって、どちらの方にもご関心がおありであった。けれども、その年は過ぎた。<BR>⏎ |
| version49 | 163 | <H4>第二章 中君の物語 中君の不安な思いと薫の同情</H4> | 152 | |
| version49 | 164 | <A NAME="in21">[第一段 匂宮の婚約と中君の不安な心境]</A><BR> | 153 | |
| c1 | 165 | 女二の宮も、御服喪が終わったので、「ますます何事を遠慮なさろう。そのようにお願い申し出るならば」とお考えあそばしている御様子などを、お告げ申し上げる人びともいるが、「あまり知らない顔をしているのもひねくれているようで悪いことだ」などとご決心して、結婚をほのめかし申しあそばす時々があるので、「体裁悪いようには、どうしてあしらうことがあろうか。婚儀を何日にとお定めになった」と伝え聞く、自分自身でも御内意を承ったが、心の中では、やはり惜しくも亡くなっ方の悲しみばかりが、忘れる時もなく思われるので、「嫌な、このような宿縁が深くおありであった方が、どうしてか、それでもやはり他人のまま亡くなってしまったのか」と理解しがたく思い出される。<BR>⏎ | 154 | 女二の宮も、御服喪が終わったので、「ますます何事を遠慮なさろう。そのようにお願い申し出るならば」とお考えあそばしている御様子などを、お告げ申し上げる人びともいるが、「あまり知らない顔をしているのも ひねくれているようで悪いことだ」などとご決心して、結婚をほのめかし申しあそばす時々があるので、「体裁悪いようには、どうしてあしらうことがあろうか。婚儀を何日にとお定めになった」と伝え聞く、自分自身でも御内意を承ったが、心の中では、やはり惜しくも亡くなっ方の悲しみばかりが、忘れる時もなく思われるので、「嫌な,このような宿縁が深くおありであった方が、どうしてか、それでもやはり他人のまま亡くなってしまったのか」と理解しがたく思い出される。<BR>⏎ |
| c1 | 168 | 「やはりそうであったか。どうしてか、一人前でもない様子のようなので、必ず物笑いになる嫌な事が出て来るだろうことは、思いながら過ごしてきたことだ。浮気なお心癖とずっと聞いていたが、頼りがいなく思いながらも、面と向かっては、特につらそうなことも見えず、愛情深い約束ばかりなさっていらっしゃるので、急にお変わりになるのは、どうして平気でいられようか。臣下の夫婦仲のように、すっかり縁が切れてしまうことなどはなくても、どんなにか安からぬことが多いだろう。やはり、まことに情けない身の上のようなので、結局は、山里へ帰ったほうがよいようだ」<BR>⏎ | 157 | 「やはりそうであったか。どうしてか、一人前でもない様子のようなので、必ず物笑いになる嫌な事が出て来るだろうことは、思いながら過ごしてきたことだ。浮気なお心癖とずっと聞いていたが、頼りがいなく思いながらも、面と向かっては、特につらそうなことも見えず、愛情深い約束ばかりなさっていらっしゃるので、急にお変わりになるのは、どうして平気でいられようか。臣下の夫婦仲のように、すっかり縁が切れてしまうことなどはなくても、どんなにか安からぬことが多いだろう。やはり,まことに情けない身の上のようなので、結局は、山里へ帰ったほうがよいようだ」<BR>⏎ |
| c1 | 171 | それを、たいそう深く、どうしてそんなことはあるまい、と深くお思いになって、あれやこれやと、離れることをお考えになって、出家してしまいたいとなさったのだ。きっとそうなさったにちがいないだろう。<BR>⏎ | 160 | それを,たいそう深く、どうしてそんなことはあるまい、と深くお思いになって、あれやこれやと、離れることをお考えになって、出家してしまいたいとなさったのだ。きっとそうなさったにちがいないだろう。<BR>⏎ |
| d1 | 174 | <P>⏎ | ||
| version49 | 175 | <A NAME="in22">[第二段 中君、匂宮の子を懐妊]</A><BR> | 163 | |
| c2 | 177-178 | 一方では、今年の五月頃から、普段と違ってお苦しみになることがあるのだった。ひどくお苦しみにはならないが、いつもより食事を上がることことがますますなく、臥せってばかりいらっしゃるので、まだそのような人の様子を、よくご存知ないので、「ただ暑いころなので、こうしていらっしゃるのだろう」とお思いになっていた。<BR>⏎ そうはいっても変だとお気づきになることがあって、「もしや、なにしたのではないか。そうした人はこのように苦しむというが」などと、おっしゃる時もあるが、とても恥ずかしがりなさって、さりげなくばかり振る舞っていらっしゃるのを、差し出て申し上げる女房もいないので、はっきりとはご存知になれない。<BR>⏎ | 165-166 | 一方では,今年の五月頃から、普段と違ってお苦しみになることがあるのだった。ひどくお苦しみにはならないが、いつもより食事を上がることことがますますなく、臥せってばかりいらっしゃるので、まだそのような人の様子を、よくご存知ないので、「ただ暑いころなので、こうしていらっしゃるのだろう」とお思いになっていた。<BR>⏎ そうはいっても変だとお気づきになることがあって、「もしや,なにしたのではないか。そうした人は このように苦しむというが」などと、おっしゃる時もあるが、とても恥ずかしがりなさって、さりげなくばかり振る舞っていらっしゃるのを、差し出て申し上げる女房もいないので、はっきりとはご存知になれない。<BR>⏎ |
| d1 | 181 | <P>⏎ | ||
| version49 | 182 | <A NAME="in23">[第三段 薫、中君に同情しつつ恋慕す]</A><BR> | 169 | |
| cd5:4 | 185-189 | 「つまらないことをした、自分だな。どうしてお譲り申し上げたのだろう。亡き姫君に思いを寄せてから後は、世間一般から思い捨てて悟りきっていた心も濁りはじめてしまったので、ただあの方の御事ばかりがあれやこれやと思いながら、やはり相手が許さないのに無理を通すことは、初めから思っていた本心に背くだろう」<BR>⏎ と遠慮しながら、「ただ何とかして、少しでも好意を寄せてもらって、うちとけなさった様子を見よう」と、将来の心づもりばかりを思い続けていたが、相手は同じ考えではないなさり方で、とはいえ、むげに突き放すことはできまいとお思いになる気休めから、同じ姉妹だといって、望んでいない方をお勧めになったのが悔しく恨めしかったので、「まず、その考えを変えさせようと、急いでやったことなのだ」などと、やむにやまれず男らしくもなく気違いじみて宮をお連れして、おだまし申し上げた時のことを思い出すにつけても、「まことにけしからぬ心であったよ」と、返す返す悔しい。<BR>⏎ 「宮も、そうはいっても、その当時の様子をお思い出しになったら、わたしの聞くところも少しはご遠慮なさらないはずもあるまい」と思うが、「さあ、今は、その当時のことなど、少しもお口に出さないようだ。やはり、浮気な方面に進んで、移り気な人は、女のためのみならず、頼りなく軽々しいことがきっと出てくるにちがいない」<BR>⏎ などと、憎くお思い申し上げなさる。自分のほんとうにお一方にばかり執着した経験から、他人がまことにこの上もなくはがゆく思われるのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 172-175 | 「つまらないことをした、自分だな。どうしてお譲り申し上げたのだろう。亡き姫君に思いを寄せてから後は、世間一般から思い捨てて悟りきっていた心も濁りはじめてしまったので、ただあの方の御事ばかりが あれやこれやと思いながら、やはり相手が許さないのに無理を通すことは、初めから思っていた本心に背くだろう」<BR>⏎ と遠慮しながら、「ただ何とかして、少しでも好意を寄せてもらって、うちとけなさった様子を見よう」と、将来の心づもりばかりを思い続けていたが、相手は同じ考えではないなさり方で、とはいえ、むげに突き放すことはできまいとお思いになる気休めから、同じ姉妹だといって、望んでいない方をお勧めになったのが 悔しく恨めしかったので、「まず,その考えを変えさせようと、急いでやったことなのだ」などと、やむにやまれず男らしくもなく気違いじみて宮をお連れして、おだまし申し上げた時のことを思い出すにつけても、「まことにけしからぬ心であったよ」と、返す返す悔しい。<BR>⏎ 「宮も、そうはいっても、その当時の様子をお思い出しになったら、わたしの聞くところも少しはご遠慮なさらないはずもあるまい」と思うが、「さあ,今は、その当時のことなど、少しもお口に出さないようだ。やはり,浮気な方面に進んで、移り気な人は、女のためのみならず、頼りなく軽々しいことがきっと出てくるにちがいない」<BR>⏎ などと,憎くお思い申し上げなさる。自分のほんとうにお一方にばかり執着した経験から、他人がまことにこの上もなくはがゆく思われるのであろう。<BR>⏎ |
| version49 | 190 | <A NAME="in24">[第四段 薫、亡き大君を追憶す]</A><BR> | 176 | |
| c3 | 191-193 | 「あの方をお亡くし申しなさってから後、思うことには、帝が皇女を下さるとお考えおいていることも、嬉しくなく、この君を得たならばと思われる心が、月日とともにつのるのも、ただ、あの方のご血縁と思うと、思い離れがたいのである。<BR>⏎ 姉妹という間でも、この上なく睦み合っていらしたものを、ご臨終となった最期にも、『遺る人を私と同じように思って下さい』と言って、『何もかも不満に思うこともありません。ただ、あの考えていたこととをお違いになった点が残念で恨めしいこととして、この世に残るでしょう』とおっしゃったが、魂が天翔っても、このようなことにつけて、ますますつらいと御覧になるだろう」<BR>⏎ などと、つくづくと他人のせいでない独り寝をなさる夜々は、ちょっとした風の音にも目ばかり覚ましては、過ぎ去ったことこれからのこと、人の身の上まで、無常な世をいろいろとお考えになる。<BR>⏎ | 177-179 | 「あの方をお亡くし申しなさってから後、思うことには、帝が皇女を下さるとお考えおいていることも、嬉しくなく、この君を得たならばと思われる心が、月日とともにつのるのも、ただ,あの方のご血縁と思うと、思い離れがたいのである。<BR>⏎ 姉妹という間でも、この上なく睦み合っていらしたものを、ご臨終となった最期にも、『遺る人を私と同じように思って下さい』と言って、『何もかも不満に思うこともありません。ただ,あの考えていたこととをお違いになった点が 残念で恨めしいこととして、この世に残るでしょう』とおっしゃったが、魂が天翔っても、このようなことにつけて、ますますつらいと御覧になるだろう」<BR>⏎ などと,つくづくと他人のせいでない独り寝をなさる夜々は、ちょっとした風の音にも目ばかり覚ましては、過ぎ去ったことこれからのこと、人の身の上まで、無常な世をいろいろとお考えになる。<BR>⏎ |
| c2 | 195-196 | その一方では、あの姫君たちの身分に劣らない身分の人びとも、時勢にしたがって衰えて、心細そうな生活をしているのなどを、探し求めては邸においていらっしゃる人などが、たいそう多いが、「今は世を捨てて出家しようとするとき、この人だけはと、特別に心とまる妨げになる程度のことはなくて過ごそう」と思う考えが深かったが、「さあ、さも体裁悪く、自分ながら、ひねくれていることだな」<BR>⏎ などと、いつもよりも、そのまま眠らず夜を明かしなさった朝に、霧の立ちこめた籬から、花が色とりどりに美しく一面に見える中で、朝顔の花が頼りなさそうに混じって咲いているのを、やはり特に目がとまる気がなさる。「朝の間咲いて」とか、無常の世に似ているのが、身につまされるのだろう。<BR>⏎ | 181-182 | その一方では、あの姫君たちの身分に劣らない身分の人びとも、時勢にしたがって衰えて、心細そうな生活をしているのなどを、探し求めては邸においていらっしゃる人などが、たいそう多いが、「今は世を捨てて出家しようとするとき、この人だけはと、特別に心とまる妨げになる程度のことはなくて過ごそう」と思う考えが深かったが、「さあ,さも体裁悪く、自分ながら、ひねくれていることだな」<BR>⏎ などと,いつもよりも、そのまま眠らず夜を明かしなさった朝に、霧の立ちこめた籬から、花が色とりどりに美しく一面に見える中で、朝顔の花が頼りなさそうに混じって咲いているのを、やはり特に目がとまる気がなさる。「朝の間咲いて」とか、無常の世に似ているのが、身につまされるのだろう。<BR>⏎ |
| d1 | 198 | <P>⏎ | ||
| version49 | 199 | <A NAME="in25">[第五段 薫、二条院の中君を訪問]</A><BR> | 184 | |
| c1 | 205 | 「それはそれでよい、あの対の御方がお苦しみであるという、お見舞い申そう。今日は宮中に参内しなければならない日なので、日が高くならない前に」<BR>⏎ | 190 | 「それはそれでよい,あの対の御方がお苦しみであるという、お見舞い申そう。今日は宮中に参内しなければならない日なので、日が高くならない前に」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 207-208 | 「今朝の間の色を賞美しようか、置いた露が<BR>⏎ 消えずに残っているわずかの間に咲く花と思いながら<BR>⏎ | 192 | 「今朝の間の色を賞美しようか、置いた露が<BR> 消えずに残っているわずかの間に咲く花と思いながら<BR>⏎ |
| c2 | 216-217 | 「やはり、目が覚める思いがする方ですこと。控え目でいらっしゃることが憎らしいこと」<BR>⏎ などと、勝手に、若い女房たちは、お噂申し上げていた。<BR>⏎ | 200-201 | 「やはり,目が覚める思いがする方ですこと。控え目でいらっしゃることが憎らしいこと」<BR>⏎ などと,勝手に、若い女房たちは、お噂申し上げていた。<BR>⏎ |
| c1 | 221 | 「それでは、どう致しましょう」<BR>⏎ | 205 | 「それでは,どう致しましょう」<BR>⏎ |
| cd5:4 | 223-227 | 「北面などの目立たない所ですね。このような古なじみなどが控えているのに適当な休憩場所は。それも、また、お気持ち次第なので、不満を申し上げるべきことでもない」<BR>⏎ と言って、長押に寄り掛かっていらっしゃると、例によって、女房たちが、<BR>⏎ 「やはり、あそこまで」<BR>⏎ などと、お促し申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 207-210 | 「北面などの目立たない所ですね。このような古なじみなどが控えているのに適当な休憩場所は。それも,また,お気持ち次第なので、不満を申し上げるべきことでもない」<BR>⏎ と言って,長押に寄り掛かっていらっしゃると、例によって、女房たちが、<BR>⏎ 「やはり,あそこまで」<BR>⏎ などと,お促し申し上げる。<BR>⏎ |
| version49 | 228 | <A NAME="in26">[第六段 薫、中君と語らう]</A><BR> | 211 | |
| c1 | 229 | もともと、感じがてきぱきと男らしくはいらっしゃらないご性格であるが、ますますしっとりと静かにしていらっしゃるので、今は、自分からお話し申し上げなさることも、だんだんと嫌で遠慮された気持ちも、少しずつ薄らいでお馴れになっていった。<BR>⏎ | 212 | もともと、感じがてきぱきと男らしくはいらっしゃらないご性格であるが、ますますしっとりと静かにしていらっしゃるので、今は,自分からお話し申し上げなさることも、だんだんと嫌で遠慮された気持ちも、少しずつ薄らいで お馴れになっていった。<BR>⏎ |
| c2 | 231-232 | 声なども、特に似ていらっしゃるとは思われなかったが、不思議なまでにあの方そっくりに思われるので、人目が見苦しくないならば、簾を引き上げて差し向かいでお話し申し上げたく、苦しくしていらっしゃる容貌が見たく思われなさるのも、「やはり、恋の物思いに悩まない人は、いないのではないか」と自然と思い知られなさる。<BR>⏎ 「人並に出世して派手な方面はございませんが、心に思うことがあり、嘆かわしく身を悩ますことはなくて過ごせるはずの現世だと、自分自身思っておりましたが、心の底から、悲しいことも、馬鹿らしく悔しい物思いをも、それぞれに休まる時もなく思い悩んでいますことは、つまらないことです。官位などといって、大事にしているらしい、もっともな愁えにつけて嘆き思う人よりも、自分の場合は、もう少し罪の深さが勝るだろう」<BR>⏎ | 214-215 | 声なども、特に似ていらっしゃるとは思われなかったが、不思議なまでにあの方そっくりに思われるので、人目が見苦しくないならば、簾を引き上げて差し向かいでお話し申し上げたく、苦しくしていらっしゃる容貌が見たく思われなさるのも、「やはり,恋の物思いに悩まない人は、いないのではないか」と自然と思い知られなさる。<BR>⏎ 「人並に出世して派手な方面はございませんが、心に思うことがあり、嘆かわしく身を悩ますことはなくて過ごせるはずの現世だと、自分自身思っておりましたが、心の底から、悲しいことも、馬鹿らしく悔しい物思いをも、それぞれに休まる時もなく思い悩んでいますことは、つまらないことです。官位などといって、大事にしているらしい、もっともな愁えにつけて嘆き思う人よりも、自分の場合は,もう少し罪の深さが勝るだろう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 234-235 | 「あなたを姉君と思って自分のものにしておくべきでした<BR>⏎ 白露が約束しておいた朝顔の花ですから」<BR>⏎ | 217 | 「あなたを姉君と思って自分のものにしておくべきでした<BR> 白露が約束しておいた朝顔の花ですから」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 237-238 | 「露の消えない間に枯れてしまう花のはかなさよりも<BR>⏎ 後に残る露はもっとはかないことです<BR>⏎ | 219 | 「露の消えない間に枯れてしまう花のはかなさよりも<BR> 後に残る露はもっとはかないことです<BR>⏎ |
| cd2:1 | 240-241 | と、たいそう低い声で言葉も途切れがちに、慎ましく否定なさったところは、「やはり、とてもよく似ていらっしゃるなあ」と思うと、何につけ悲しい。<BR>⏎ <P>⏎ | 221 | と,たいそう低い声で言葉も途切れがちに、慎ましく否定なさったところは、「やはり,とてもよく似ていらっしゃるなあ」と思うと、何につけ悲しい。<BR>⏎ |
| version49 | 242 | <A NAME="in27">[第七段 薫、源氏の死を語り、亡き大君を追憶]</A><BR> | 222 | |
| c1 | 244 | 故院がお亡くなりになって後、二、三年ほど前に、出家なさった嵯峨院でも、六条院でも、ちょっと立ち寄る人は、感慨に咽ばない者はございませんでした。木や草の色につけても、涙にくれてばかり帰ったものでございました。あちらの殿にお仕えしていた人たちは、身分の上下を問わず心の浅い人はございませんでした。<BR>⏎ | 224 | 故院がお亡くなりになって後、二,三年ほど前に、出家なさった嵯峨院でも、六条院でも、ちょっと立ち寄る人は、感慨に咽ばない者はございませんでした。木や草の色につけても、涙にくれてばかり帰ったものでございました。あちらの殿にお仕えしていた人たちは、身分の上下を問わず心の浅い人はございませんでした。<BR>⏎ |
| cd5:4 | 246-250 | そうして、かえってすっかり荒らしはて、忘れ草が生えて後、この右大臣も移り住み、宮たちなども何方もおいでになったので、昔に返ったようでございます。その当時、世に類のない悲しみと拝見しましたことも、年月がたてば、悲しみの冷める時も出てくるものだ、と経験しましたが、なるほど、物には限りがあるものだった、と思われます。<BR>⏎ このように申し上げさせていただきながらも、あの昔の悲しみは、まだ幼かった時のことで、とてもそんなに深く感じなかったのでございましょう。やはり、この最近の夢こそ、覚ますことができなく存じられますのは、同じように、世の無常の悲しみであるが、罪深いほうでは勝っていましょうかと、そのことまでがつろうございます」<BR>⏎ と言って、お泣きになるところ、まことに心深そうである。<BR>⏎ 亡くなった方を、たいしてお思い申し上げない人でさえ、この方が悲しんでいらっしゃる様子を見ると、つい同情してもらい泣きしないではいられないが、それ以上に、自分も何となく心細くお思い乱れなさるにつけては、ますますいつもよりも、面影に浮かんで恋しく悲しくお思い申し上げなさる気分なので、いまいちだんと涙があふれて、何も申し上げることがおできになれず、躊躇なさっている様子を、お互いにまことに悲しいと思い交わしなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 226-229 | そうして,かえってすっかり荒らしはて、忘れ草が生えて後、この右大臣も移り住み、宮たちなども何方もおいでになったので、昔に返ったようでございます。その当時、世に類のない悲しみと拝見しましたことも、年月がたてば、悲しみの冷める時も出てくるものだ、と経験しましたが、なるほど,物には限りがあるものだった、と思われます。<BR>⏎ このように申し上げさせていただきながらも、あの昔の悲しみは、まだ幼かった時のことで、とてもそんなに深く感じなかったのでございましょう。やはり,この最近の夢こそ、覚ますことができなく存じられますのは、同じように、世の無常の悲しみであるが、罪深いほうでは勝っていましょうかと、そのことまでがつろうございます」<BR>⏎ と言って,お泣きになるところ、まことに心深そうである。<BR>⏎ 亡くなった方を、たいしてお思い申し上げない人でさえ、この方が悲しんでいらっしゃる様子を見ると、つい同情してもらい泣きしないではいられないが、それ以上に,自分も何となく心細くお思い乱れなさるにつけては、ますますいつもよりも、面影に浮かんで恋しく悲しくお思い申し上げなさる気分なので、いまいちだんと涙があふれて、何も申し上げることがおできになれず、躊躇なさっている様子を、お互いにまことに悲しいと思い交わしなさる。<BR>⏎ |
| version49 | 251 | <A NAME="in28">[第八段 薫と中君の故里の宇治を思う]</A><BR> | 230 | |
| c2 | 257-258 | などと、実務面のことをも申し上げなさる。経や仏など、この上さらに御供養なさるようである。このような機会にかこつけて、そっと籠もりたい、などとお思いになっている様子なので、<BR>⏎ 「実にとんでもないことです。やはり、どのようなことでもゆったりとお考えなさいませ」<BR>⏎ | 236-237 | などと,実務面のことをも申し上げなさる。経や仏など、この上さらに御供養なさるようである。このような機会にかこつけて、そっと籠もりたい、などとお思いになっている様子なので、<BR>⏎ 「実にとんでもないことです。やはり,どのようなことでもゆったりとお考えなさいませ」<BR>⏎ |
| d1 | 260 | <P>⏎ | ||
| version49 | 261 | <A NAME="in29">[第九段 薫、二条院を退出して帰宅]</A><BR> | 239 | |
| c1 | 264 | と言ってお立ちになった。「宮が、どうして不在の折に来たのだろう」ときっと想像するにちがいないご性質なのもやっかいなので、侍所の別当である右京大夫を呼んで、<BR>⏎ | 242 | と言ってお立ちになった。「宮が,どうして不在の折に来たのだろう」ときっと想像するにちがいないご性質なのもやっかいなので、侍所の別当である右京大夫を呼んで、<BR>⏎ |
| c3 | 269-271 | 「それでは、夕方にでも」<BR>⏎ と言って、お出になった。<BR>⏎ やはり、この方のお感じやご様子をお聞きになるたびごとに、どうして亡くなった姫君のお考えに背いて、考えもなく譲ってしまったのだろうと、後悔する気持ちばかりがつのって、忘れられないのもうっとうしいので、「どうして、自ら求めて悩まねばならない性格なのだろう」と反省なさる。そのまままだ精進生活で、ますますただひたすら勤行ばかりなさっては、日をお過ごしになる。<BR>⏎ | 247-249 | 「それでは,夕方にでも」<BR>⏎ と言って,お出になった。<BR>⏎ やはり,この方のお感じやご様子をお聞きになるたびごとに、どうして亡くなった姫君のお考えに背いて、考えもなく譲ってしまったのだろうと、後悔する気持ちばかりがつのって、忘れられないのもうっとうしいので、「どうして,自ら求めて悩まねばならない性格なのだろう」と反省なさる。そのまままだ精進生活で、ますますただひたすら勤行ばかりなさっては、日をお過ごしになる。<BR>⏎ |
| c1 | 273 | 「もう先が長くないので、お目にかかっている間は、やはり嬉しい姿を見せてください。世の中をお捨てになるのも、このような出家の身では、反対申し上げるべきことではないが、この世が話にもならない気がしましょう、その心迷いに、ますます罪を得ようかと思われます」<BR>⏎ | 251 | 「もう先が長くないので、お目にかかっている間は、やはり嬉しい姿を見せてください。世の中をお捨てになるのも、このような出家の身では、反対申し上げるべきことではないが、この世が話にもならない気がしましょう,その心迷いに、ますます罪を得ようかと思われます」<BR>⏎ |
| d1 | 275 | <P>⏎ | ||
| version49 | 276 | <H4>第三章 中君の物語 匂宮と六の君の婚儀</H4> | 253 | |
| version49 | 277 | <A NAME="in31">[第一段 匂宮と六の君の婚儀]</A><BR> | 254 | |
| cd4:3 | 280-283 | と、人が申す。お気に入りの人がおありなのでと、おもしろくないけれども、今夜が過ぎてしまうのも物笑いになるだろうから、ご子息の頭中将を使いとして申し上げなさった。<BR>⏎ 「大空の月でさえ宿るわたしの邸にお待ちする<BR>⏎ 宵が過ぎてもまだお見えにならないあなたですね」<BR>⏎ 宮は、「かえって今日が結婚式だと知らせまい、お気の毒だ」とお思いになって、内裏にいらっしゃった。お手紙を差し上げたお返事はどうあったのだろうか、やはりとてもかわいそうに思われなさったので、こっそりとお渡りになったのであった。かわいらしい様子を、見捨ててお出かけになる気もせず、いとおしいので、いろいろと将来を約束し慰めて、ご一緒に月を眺めていらっしゃるところであった。<BR>⏎ | 257-259 | と,人が申す。お気に入りの人がおありなのでと、おもしろくないけれども、今夜が過ぎてしまうのも物笑いになるだろうから、ご子息の頭中将を使いとして申し上げなさった。<BR>⏎ 「大空の月でさえ宿るわたしの邸にお待ちする<BR> 宵が過ぎてもまだお見えにならないあなたですね」<BR>⏎ 宮は,「かえって今日が結婚式だと知らせまい、お気の毒だ」とお思いになって、内裏にいらっしゃった。お手紙を差し上げたお返事はどうあったのだろうか、やはりとてもかわいそうに思われなさったので、こっそりとお渡りになったのであった。かわいらしい様子を、見捨ててお出かけになる気もせず、いとおしいので、いろいろと将来を約束し慰めて、ご一緒に月を眺めていらっしゃるところであった。<BR>⏎ |
| d1 | 288 | <P>⏎ | ||
| version49 | 289 | <A NAME="in32">[第二段 中君の不安な心境]</A><BR> | 264 | |
| cd2:1 | 293-294 | 「山里の松の蔭でもこれほどに<BR>⏎ 身にこたえる秋の風は経験しなかった」<BR>⏎ | 268 | 「山里の松の蔭でもこれほどに<BR> 身にこたえる秋の風は経験しなかった」<BR>⏎ |
| c1 | 297 | 「もう、お入りなさいませ。月を見ることは忌むと言いますから。あきれてまあ、ちょっとした果物でさえお見向きもなさらないので、どのようにおなりあそばすのでしょう」と。「ああ、見苦しいこと。不吉にも思い出されることがございますが、まことに困ったこと」<BR>⏎ | 271 | 「もう,お入りなさいませ。月を見ることは忌むと言いますから。あきれてまあ、ちょっとした果物でさえお見向きもなさらないので、どのようにおなりあそばすのでしょう」と。「ああ,見苦しいこと。不吉にも思い出されることがございますが、まことに困ったこと」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 299-301 | 「いえね、今度の殿の事ですよ。いくらなんでも、このままいい加減なお扱いで終わることはなされますまい。そうは言っても、もともと深い愛情で結ばれた仲は、すっかり切れてしまうものでございません」<BR>⏎ などと言い合っているのも、あれこれと聞きにくくて、「今はもう、どうあろうとも口に出して言うまい、ただ黙って見ていよう」とお思いなさるのは、人には言わせないで、自分独りお恨み申そうというのであろうか。「いえね、中納言殿が、あれほど親身なご親切でしたのに」などと、その当時からの女房たちは言い合って、「人のご運命のあやにくなことよ」と言い合っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 273-274 | 「いえね,今度の殿の事ですよ。いくらなんでも、このままいい加減なお扱いで終わることはなされますまい。そうは言っても、もともと深い愛情で結ばれた仲は、すっかり切れてしまうものでございません」<BR>⏎ などと言い合っているのも、あれこれと聞きにくくて、「今はもう、どうあろうとも口に出して言うまい、ただ黙って見ていよう」とお思いなさるのは、人には言わせないで、自分独りお恨み申そうというのであろうか。「いえね,中納言殿が、あれほど親身なご親切でしたのに」などと、その当時からの女房たちは言い合って、「人のご運命のあやにくなことよ」と言い合っていた。<BR>⏎ |
| version49 | 302 | <A NAME="in33">[第三段 匂宮、六の君に後朝の文を書く]</A><BR> | 275 | |
| c1 | 310 | などと、平気でいられず、みな親しくお仕えしている人びとなので、穏やかならず言う者もいて、総じて、やはり妬ましいことであった。「お返事も、こちらで」とお思いになったが、「夜の間の気がかりさも、いつものご無沙汰よりもどんなものか」と、気にかかるので、急いでお渡りになる。<BR>⏎ | 283 | などと,平気でいられず、みな親しくお仕えしている人びとなので、穏やかならず言う者もいて、総じて,やはり妬ましいことであった。「お返事も、こちらで」とお思いになったが、「夜の間の気がかりさも、いつものご無沙汰よりもどんなものか」と、気にかかるので、急いでお渡りになる。<BR>⏎ |
| c1 | 314 | など、といったような実際的なことをおっしゃるので、このような方面でも調子のよい話は、気にくわなく思われなさるが、全然お返事申し上げないのもいつもと違うので、<BR>⏎ | 287 | など,といったような実際的なことをおっしゃるので、このような方面でも調子のよい話は、気にくわなく思われなさるが、全然お返事申し上げないのもいつもと違うので、<BR>⏎ |
| d1 | 319 | <P>⏎ | ||
| version49 | 320 | <A NAME="in34">[第四段 匂宮、中君を慰める]</A><BR> | 292 | |
| c1 | 321 | けれど、向き合っていらっしゃる間は変わった変化もないのであろうか、来世まで誓いなさることの尽きないのを聞くにつけても、なるほど、この世は短い寿命を待つ間も、つらいお気持ちは表れるにきまっているので、「来世の約束も違わないことがあろうか」と思うと、やはり性懲りもなく、また頼らずにはいられないと思って、ひどく祈るようであるが、我慢することができなかったのか、今日は泣いておしまいになった。<BR>⏎ | 293 | けれど,向き合っていらっしゃる間は変わった変化もないのであろうか、来世まで誓いなさることの尽きないのを聞くにつけても、なるほど,この世は短い寿命を待つ間も、つらいお気持ちは表れるにきまっているので、「来世の約束も違わないことがあろうか」と思うと、やはり性懲りもなく、また頼らずにはいられないと思って、ひどく祈るようであるが、我慢することができなかったのか、今日は泣いておしまいになった。<BR>⏎ |
| c1 | 324 | と言って、ご自分のお袖で涙をお拭いになると、<BR>⏎ | 296 | と言って,ご自分のお袖で涙をお拭いになると、<BR>⏎ |
| c2 | 326-327 | と言って、少しにっこりした。<BR>⏎ 「なるほど、あなたは、子供っぽいおっしゃりようですよ。けれどほんとうのところは、心に隠し隔てがないので、とても気楽だ。ひどくもっともらしく申し上げたところで、とてもはっきりと分かってしまうものです。まるきり夫婦の仲というものをご存知ないのは、かわいらしいものの困ったものです。よし、自分の身になって考えてください。この身を思うにまかせない状態です。もし、思うとおりにできる時がきたら、誰にもまさる愛情のほどを、お知らせ申し上げることが一つあるのです。簡単に口に出すべきことでないので、寿命があったら」<BR>⏎ | 298-299 | と言って,少しにっこりした。<BR>⏎ 「なるほど,あなたは、子供っぽいおっしゃりようですよ。けれどほんとうのところは、心に隠し隔てがないので、とても気楽だ。ひどくもっともらしく申し上げたところで、とてもはっきりと分かってしまうものです。まるきり夫婦の仲というものをご存知ないのは、かわいらしいものの困ったものです。よし,自分の身になって考えてください。この身を思うにまかせない状態です。もし,思うとおりにできる時がきたら、誰にもまさる愛情のほどを、お知らせ申し上げることが一つあるのです。簡単に口に出すべきことでないので、寿命があったら」<BR>⏎ |
| d1 | 329 | <P>⏎ | ||
| version49 | 330 | <A NAME="in35">[第五段 後朝の使者と中君の諦観]</A><BR> | 301 | |
| c1 | 332 | 「同じことなら、すべて隠し隔てないようにしよう」とお思いになって、お開きになると、「継母の宮のご筆跡のようだ」と見えるので、少しは安心してお置きになった。代筆でも、気がかりなことであるよ。<BR>⏎ | 303 | 「同じことなら、すべて隠し隔てないようにしよう」とお思いになって、お開きになると、「継母の宮のご筆跡のようだ」と見えるので、少しは安心して お置きになった。代筆でも、気がかりなことであるよ。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 334-335 | 女郎花が一段と萎れています<BR>⏎ 朝露がどのように置いていったせいなのでしょうか」<BR>⏎ | 305 | 女郎花が一段と萎れています<BR> 朝露がどのように置いていったせいなのでしょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 342-343 | と、自分の身になって、何事も理解されるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 312 | と,自分の身になって、何事も理解されるのであった。<BR>⏎ |
| version49 | 344 | <A NAME="in36">[第六段 匂宮と六の君の結婚第二夜]</A><BR> | 313 | |
| c1 | 347 | と言って、結構な果物を持って来させて、また、しかるべき料理人を召して、特別に料理させなどして、お勧め申し上げなさるが、まるで手をお出しにならないので、「見ていられないことだ」とご心配申し上げなさっているうちに、日が暮れたので、夕方、寝殿へお渡りになった。<BR>⏎ | 316 | と言って,結構な果物を持って来させて、また,しかるべき料理人を召して、特別に料理させなどして、お勧め申し上げなさるが、まるで手をお出しにならないので、「見ていられないことだ」とご心配申し上げなさっているうちに、日が暮れたので、夕方、寝殿へお渡りになった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 349-350 | 「宇治にいたら何気なく聞いただろうに<BR>⏎ 蜩の声が恨めしい秋の暮だこと」<BR>⏎ | 318 | 「宇治にいたら何気なく聞いただろうに<BR> 蜩の声が恨めしい秋の暮だこと」<BR>⏎ |
| d1 | 354 | <P>⏎ | ||
| version49 | 355 | <A NAME="in37">[第七段 匂宮と六の君の結婚第三夜の宴]</A><BR> | 322 | |
| c1 | 358 | 宵が少し過ぎたころにおいでになった。寝殿の南の廂間の、東に寄った所にご座所を差し上げた。御台八つ、通例のお皿など、きちんと美しくて、また、小さい台二つに、華足の皿の類を、新しく準備させなさって、餅を差し上げなさった。珍しくもないことを書き置くのも気が利かないこと。<BR>⏎ | 325 | 宵が少し過ぎたころにおいでになった。寝殿の南の廂間の、東に寄った所にご座所を差し上げた。御台八つ、通例のお皿など、きちんと美しくて、また,小さい台二つに、華足の皿の類を、新しく準備させなさって、餅を差し上げなさった。珍しくもないことを書き置くのも気が利かないこと。<BR>⏎ |
| c1 | 362 | と、自分には不適当な所だと思って言ったのを、お思い出しになったようである。けれど、知らないふりして、たいそうまじめくさっている。<BR>⏎ | 329 | と,自分には不適当な所だと思って言ったのを、お思い出しになったようである。けれど,知らないふりして、たいそうまじめくさっている。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 364-366 | 四位の六人には、女の装束に細長を添えて、五位の十人には、三重襲の唐衣、裳の腰もすべて差異があるようである。六位の四人には、綾の細長、袴など。一方では、限度のあることを物足りなくお思いになったので、色合いや、仕立てなどに、善美をお尽くしになったのであった。<BR>⏎ 召次や、舎人などの中には、度を越すと思うほど立派であった。なるほど、このように派手で華美なことは、見る効あるので、物語などにも、さっそく言い立てたのであろうか。けれど、詳しくはとても数え上げられなかったとか。<BR>⏎ <P>⏎ | 331-332 | 四位の六人には、女の装束に細長を添えて、五位の十人には、三重襲の唐衣、裳の腰もすべて差異があるようである。六位の四人には、綾の細長、袴など。一方では,限度のあることを物足りなくお思いになったので、色合いや、仕立てなどに、善美をお尽くしになったのであった。<BR>⏎ 召次や、舎人などの中には、度を越すと思うほど立派であった。なるほど,このように派手で華美なことは、見る効あるので、物語などにも、さっそく言い立てたのであろうか。けれど,詳しくはとても数え上げられなかったとか。<BR>⏎ |
| version49 | 367 | <H4>第四章 薫の物語 中君に同情しながら恋慕の情高まる</H4> | 333 | |
| version49 | 368 | <A NAME="in41">[第一段 薫、匂宮の結婚につけわが身を顧みる]</A><BR> | 334 | |
| c1 | 371 | と、中門の側でぶつぶつ言っていたのをお聞きつけになって、おかしくお思いになるのであった。夜が更けて眠たいのに、あの歓待されている人びとは、気持ちよさそうに酔い乱れて寄り臥せってしまったのだろうと、羨ましいようである。<BR>⏎ | 337 | と,中門の側でぶつぶつ言っていたのをお聞きつけになって、おかしくお思いになるのであった。夜が更けて眠たいのに、あの歓待されている人びとは、気持ちよさそうに酔い乱れて寄り臥せってしまったのだろうと、羨ましいようである。<BR>⏎ |
| c2 | 374-375 | と、宮のお振舞を、無難であったとお思い出し申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど、自分でも、良いと思う女の子を持っていたら、この宮をお措き申しては、宮中にさえ入内させないだろう」と思うと、「誰も彼もが、宮に差し上げたいと志していらっしゃる娘は、やはり源中納言にこそと、それぞれ言っているらしいことは、自分の評判がつまらないものではないのだな。実のところは、あまり結婚に関心もなく、ぱっとしないのに」などと、大きな気持ちにおなりになる。<BR>⏎ | 340-341 | と,宮のお振舞を、無難であったとお思い出し申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど,自分でも、良いと思う女の子を持っていたら、この宮をお措き申しては、宮中にさえ入内させないだろう」と思うと、「誰も彼もが、宮に差し上げたいと志していらっしゃる娘は、やはり源中納言にこそと、それぞれ言っているらしいことは、自分の評判がつまらないものではないのだな。実のところは,あまり結婚に関心もなく、ぱっとしないのに」などと、大きな気持ちにおなりになる。<BR>⏎ |
| d1 | 377 | <P>⏎ | ||
| version49 | 378 | <A NAME="in42">[第二段 薫と按察使の君、匂宮と六の君]</A><BR> | 343 | |
| cd2:1 | 380-381 | 「いったいに世間から認められない仲なのに<BR>⏎ お逢いし続けているという評判が立つのが辛うございます」<BR>⏎ | 345 | 「いったいに世間から認められない仲なのに<BR> お逢いし続けているという評判が立つのが辛うございます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 383-384 | 「深くないように表面は見えますが<BR>⏎ 心の底では愛情の絶えることはありません」<BR>⏎ | 347 | 「深くないように表面は見えますが<BR> 心の底では愛情の絶えることはありません」<BR>⏎ |
| c1 | 387 | などと、言い紛らわしてお出になる。特に趣きのある言葉の数々は尽くさないが、態度が優美に見えるせいであろうか、情けのない人のようには誰からも思われなさらない。ちょっとした冗談を言いかけなさった女房で、お側近くに拝見したい、とばかりお思い申しているのか、強引に、出家なさった宮の御方に、縁故を頼っては頼って参集して仕えているのも、気の毒なことが、身分に応じて多いのであろう。<BR>⏎ | 350 | などと,言い紛らわしてお出になる。特に趣きのある言葉の数々は尽くさないが、態度が優美に見えるせいであろうか、情けのない人のようには誰からも思われなさらない。ちょっとした冗談を言いかけなさった女房で、お側近くに拝見したい、とばかりお思い申しているのか、強引に、出家なさった宮の御方に、縁故を頼っては頼って参集して仕えているのも、気の毒なことが、身分に応じて多いのであろう。<BR>⏎ |
| c2 | 389-390 | 二十歳を一、二歳越えていらっしゃった。幼い年ではないので、不十分で足りないところはなく、華やかで、花盛りのようにお見えになっていた。この上なく大事にお世話なさっていたので、不十分なところがない。なるほど、親としては、夢中になるのも無理からぬことであった。<BR>⏎ ただ、もの柔らかで魅力的でかわいらしい点では、あの対の御方がまっさきにお心に浮かぶのであった。何かおっしゃるお返事なども、恥じらっていらっしゃるが、また、あまりにはっきりしないことはなく、総じて実にとりえが多くて、才気がありそうである。<BR>⏎ | 352-353 | 二十歳を一,二歳越えていらっしゃった。幼い年ではないので、不十分で足りないところはなく、華やかで、花盛りのようにお見えになっていた。この上なく大事にお世話なさっていたので、不十分なところがない。なるほど,親としては、夢中になるのも無理からぬことであった。<BR>⏎ ただ,もの柔らかで魅力的でかわいらしい点では、あの対の御方がまっさきにお心に浮かぶのであった。何かおっしゃるお返事なども、恥じらっていらっしゃるが、また,あまりにはっきりしないことはなく、総じて実にとりえが多くて、才気がありそうである。<BR>⏎ |
| d1 | 392 | <P>⏎ | ||
| version49 | 393 | <A NAME="in43">[第三段 中君と薫、手紙を書き交す]</A><BR> | 355 | |
| c5 | 394-398 | こうして後は、二条院に、気安くお渡りになれない。軽々しいご身分でないので、お考えのままに、昼間の時間もお出になることができないので、そのまま同じ六条院の南の町に、以前に住んでいたようにおいでになって、暮れると、再び、この君を避けてあちらへお渡りになることもできないなどして、待ち遠しい時々があるが、<BR>⏎ 「このようなことになるとは思っていたが、当面すると、まるっきり変わってしまうものであろうか。なるほど、思慮深い人は、物の数にも入らない身分で、結婚すべきではなかった」<BR>⏎ と、繰り返し山里を出て来た当座のことを、現実とも思われず悔しく悲しいので、<BR>⏎ 「やはり、何とかしてこっそりと帰りたい。まるっきり縁が切れるというのでなくとも、暫く気を休めたいものだ。憎らしそうに振る舞ったら、嫌なことであろう」<BR>⏎ などと、胸一つに思いあまって、恥ずかしいが、中納言殿に手紙を差し上げなさる。<BR>⏎ | 356-360 | こうして後は、二条院に、気安くお渡りになれない。軽々しいご身分でないので、お考えのままに、昼間の時間もお出になることができないので、そのまま同じ六条院の南の町に、以前に住んでいたようにおいでになって、暮れると、再び,この君を避けてあちらへお渡りになることもできないなどして、待ち遠しい時々があるが、<BR>⏎ 「このようなことになるとは思っていたが、当面すると、まるっきり変わってしまうものであろうか。なるほど,思慮深い人は、物の数にも入らない身分で、結婚すべきではなかった」<BR>⏎ と,繰り返し山里を出て来た当座のことを、現実とも思われず悔しく悲しいので、<BR>⏎ 「やはり,何とかしてこっそりと帰りたい。まるっきり縁が切れるというのでなくとも、暫く気を休めたいものだ。憎らしそうに振る舞ったら、嫌なことであろう」<BR>⏎ などと,胸一つに思いあまって、恥ずかしいが、中納言殿に手紙を差し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 401 | 陸奥紙に、しゃれないできちんとお書きになっているのが、実に美しい。宮のご命日に、例の法事をとても尊くおさせになったのを、喜んでいらっしゃる様子が、仰々しくはないが、なるほど、お分かりになったようである。いつもは、こちらから差し上げるお返事でさえ、遠慮深そうにお思いになって、てきぱきともお書きにならないのに、「親しくお礼を」とまでおっしゃったのが、珍しく嬉しいので、心ときめきするにちがいない。<BR>⏎ | 363 | 陸奥紙に、しゃれないできちんとお書きになっているのが、実に美しい。宮のご命日に、例の法事をとても尊くおさせになったのを、喜んでいらっしゃる様子が、仰々しくはないが、なるほど,お分かりになったようである。いつもは、こちらから差し上げるお返事でさえ、遠慮深そうにお思いになって、てきぱきともお書きにならないのに、「親しくお礼を」とまでおっしゃったのが、珍しく嬉しいので、心ときめきするにちがいない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 404-405 | と、きまじめに、白い色紙でごわごわとしたのに書いてある。<BR>⏎ <P>⏎ | 366 | と,きまじめに、白い色紙でごわごわとしたのに書いてある。<BR>⏎ |
| version49 | 406 | <A NAME="in44">[第四段 薫、中君を訪問して慰める]</A><BR> | 367 | |
| c1 | 407 | そうして、翌日の夕方にお渡りになった。人知れず思う気持ちがあるので、無性に気づかいがされて、柔らかなお召し物類を、ますます匂わしなさっているのは、あまりに大げさなまでにあるので、丁子染の扇の、お持ちつけになっている移り香などまでが、譬えようもなく素晴らしい。<BR>⏎ | 368 | そうして,翌日の夕方にお渡りになった。人知れず思う気持ちがあるので、無性に気づかいがされて、柔らかなお召し物類を、ますます匂わしなさっているのは、あまりに大げさなまでにあるので、丁子染の扇の、お持ちつけになっている移り香などまでが、譬えようもなく素晴らしい。<BR>⏎ |
| c1 | 410 | 「特にお呼びということではございませんでしたが、いつもと違ってお許しあそばしたお礼に、すぐにも参上したく思いましたが、宮がお渡りあそばすとお聞きいたしましたので、折が悪くてはと思って、今日にいたしました。一方では、長年の誠意もだんだん分かっていただけましたのか、隔てが少し薄らぎました御簾の内ですね。珍しいことですね」<BR>⏎ | 371 | 「特にお呼びということではございませんでしたが、いつもと違ってお許しあそばしたお礼に、すぐにも参上したく思いましたが、宮がお渡りあそばすとお聞きいたしましたので、折が悪くてはと思って、今日にいたしました。一方では,長年の誠意もだんだん分かっていただけましたのか、隔てが少し薄らぎました御簾の内ですね。珍しいことですね」<BR>⏎ |
| c1 | 413 | と、いかにも慎ましそうにおっしゃるのが、たいそう奥の方に身を引いて、途切れ途切れにかすかに申し上げるので、もどかしく思って、<BR>⏎ | 374 | と,いかにも慎ましそうにおっしゃるのが、たいそう奥の方に身を引いて、途切れ途切れにかすかに申し上げるので、もどかしく思って、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 415-416 | とおっしゃると、なるほど、とお思いになって、少しいざり出てお近寄りになる様子をお聞きなさるにつけても、胸がどきりとするが、平静を装いますます冷静な態度をして、宮のご愛情が、意外にも浅くおいでであったとお思いで、一方では批判したり、また一方では慰めたりして、それぞれについて落ち着いて申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 376 | とおっしゃると、なるほど,とお思いになって、少しいざり出てお近寄りになる様子をお聞きなさるにつけても、胸がどきりとするが、平静を装いますます冷静な態度をして、宮のご愛情が、意外にも浅くおいでであったとお思いで、一方では批判したり、また一方では慰めたりして、それぞれについて落ち着いて申し上げていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version49 | 417 | <A NAME="in45">[第五段 中君、薫に宇治への同行を願う]</A><BR> | 377 | |
| c2 | 418-419 | 女君は、宮の恨めしさなどは、口に出して申し上げなさるようなことでもないので、ただ、自分だけがつらいように思わせて、言葉少なに紛らわしては、山里にこっそりとお連れくださいとのお思いで、たいそう熱心に申し上げなさる。<BR>⏎ 「そのことは、わたしの一存では、お世話できないことです。やはり、宮にただ素直にお話し申し上げなさって、あの方のご様子に従うのがよいことです。そうでなかったら、少しでも行き違いが生じて、軽率だなどとお考えになるだろうから、大変悪いことになりましょう。そういう心配さえなければ、道中のお送りや迎えも、自らお世話申しても、何の遠慮がございましょう。安心で人と違った性分は、宮もみなご存知でいらっしゃいました」<BR>⏎ | 378-379 | 女君は、宮の恨めしさなどは、口に出して申し上げなさるようなことでもないので、ただ,自分だけがつらいように思わせて、言葉少なに紛らわしては、山里にこっそりとお連れくださいとのお思いで、たいそう熱心に申し上げなさる。<BR>⏎ 「そのことは、わたしの一存では、お世話できないことです。やはり,宮にただ素直にお話し申し上げなさって、あの方のご様子に従うのがよいことです。そうでなかったら、少しでも行き違いが生じて、軽率だなどとお考えになるだろうから、大変悪いことになりましょう。そういう心配さえなければ、道中のお送りや迎えも、自らお世話申しても、何の遠慮がございましょう。安心で人と違った性分は、宮もみなご存知でいらっしゃいました」<BR>⏎ |
| c3 | 421-423 | 「それでは、気分も悪くなるばかりですので、また、よおろしくなった折に、どのような事でも」<BR>⏎ と言って、お入りになってしまった様子なのが、とても残念なので、<BR>⏎ 「それでは、いつごろにお立ちになるつもりですか。たいそう茂っていた道の草も、少し刈り払わせましょう」<BR>⏎ | 381-383 | 「それでは,気分も悪くなるばかりですので、また,よおろしくなった折に、どのような事でも」<BR>⏎ と言って,お入りになってしまった様子なのが、とても残念なので、<BR>⏎ 「それでは,いつごろにお立ちになるつもりですか。たいそう茂っていた道の草も、少し刈り払わせましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 425 | 「今月は終わってしまいそうなので、来月の朔日頃にも、と思っております。ただ、とても人目に立たないのがよいでしょう。どうして、夫の許可など仰々しく必要でしょう」<BR>⏎ | 385 | 「今月は終わってしまいそうなので、来月の朔日頃にも、と思っております。ただ,とても人目に立たないのがよいでしょう。どうして,夫の許可など仰々しく必要でしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 427 | <P>⏎ | ||
| version49 | 428 | <A NAME="in46">[第六段 薫、中君に迫る]</A><BR> | 387 | |
| c1 | 429 | 女は、「やはり、そうだった、ああ嫌な」と思うが、何を言うことができようか、何も言わないで、ますます奥にお入りになるので、その後についてとても物馴れた態度で、半分は御簾の内に入って添い臥せりなさった。<BR>⏎ | 388 | 女は,「やはり,そうだった,ああ嫌な」と思うが、何を言うことができようか、何も言わないで、ますます奥にお入りになるので、その後についてとても物馴れた態度で、半分は御簾の内に入って添い臥せりなさった。<BR>⏎ |
| c2 | 435-436 | と言って、たいそう穏やかに振る舞っていらっしゃるが、幾月もずっと後悔していた心中が、堪え難く苦しいまでになって行く様子を、つくづくと話し続けなさって、袖を放しそうな様子もないので、どうしようもなく、大変だと言ったのでは月並な表現である。かえって、まったく気持ちを知らない人よりも、恥ずかしく気にくわなくて、泣いてしまわれたのを、<BR>⏎ 「これは、どうしましたか。何とも、幼げない」<BR>⏎ | 394-395 | と言って,たいそう穏やかに振る舞っていらっしゃるが、幾月もずっと後悔していた心中が、堪え難く苦しいまでになって行く様子を、つくづくと話し続けなさって、袖を放しそうな様子もないので、どうしようもなく、大変だと言ったのでは月並な表現である。かえって、まったく気持ちを知らない人よりも、恥ずかしく気にくわなくて、泣いてしまわれたのを、<BR>⏎ 「これは,どうしましたか。何とも、幼げない」<BR>⏎ |
| d1 | 438 | <P>⏎ | ||
| version49 | 439 | <A NAME="in47">[第七段 薫、自制して退出する]</A><BR> | 397 | |
| cd3:2 | 443-445 | 「身体が悪そうだと聞いていたご気分は、もっともなことであった。とても恥ずかしいとお思いでいらした腰の帯を見て、大部分はお気の毒に思われてやめてしまったなあ。いつもの馬鹿らしい心だ」と思うが、「情けのない振る舞いは、やはり不本意なことだろう。また、一時の自分の心の乱れにまかせて、むやみな考えをしでかして後、気安くなくなってしまうものの、無理をして忍びを重ねるのも苦労が多いし、女方があれこれ思い悩まれることであろう」<BR>⏎ などと、冷静に考えても抑えきれず、今の間も恋しいのは困ったことであった。ぜひとも会わなくては生きていられないように思われなさるのも、重ね重ねどうにもならない恋心であるよ。<BR>⏎ <P>⏎ | 401-402 | 「身体が悪そうだと聞いていたご気分は、もっともなことであった。とても恥ずかしいとお思いでいらした腰の帯を見て、大部分はお気の毒に思われてやめてしまったなあ。いつもの馬鹿らしい心だ」と思うが、「情けのない振る舞いは、やはり不本意なことだろう。また,一時の自分の心の乱れにまかせて、むやみな考えをしでかして後、気安くなくなってしまうものの、無理をして忍びを重ねるのも苦労が多いし、女方があれこれ思い悩まれることであろう」<BR>⏎ などと,冷静に考えても抑えきれず、今の間も恋しいのは困ったことであった。ぜひとも会わなくては生きていられないように思われなさるのも、重ね重ねどうにもならない恋心であるよ。<BR>⏎ |
| version49 | 446 | <H4>第五章 中君の物語 中君、薫の後見に感謝しつつも苦悩す</H4> | 403 | |
| version49 | 447 | <A NAME="in51">[第一段 翌朝、薫、中君に手紙を書く]</A><BR> | 404 | |
| c1 | 449 | 「宇治にたいそう行きたくお思いであったようなのを、そのように、行かせてあげようか」などと思うが、「どうして宮がお許しになろうか。そうかといって、こっそりとお連れしたのでは、また不都合があろう。どのようにして、人目にも見苦しくなく、思い通りにゆくだろう」と、気も茫然として物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ | 406 | 「宇治にたいそう行きたくお思いであったようなのを、そのように,行かせてあげようか」などと思うが、「どうして宮がお許しになろうか。そうかといって、こっそりとお連れしたのでは、また不都合があろう。どのようにして、人目にも見苦しくなく、思い通りにゆくだろう」と、気も茫然として物思いに耽っていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 451-452 | 「無駄に歩きました道の露が多いので<BR>⏎ 昔が思い出されます秋の空模様ですね<BR>⏎ | 408 | 「無駄に歩きました道の露が多いので<BR> 昔が思い出されます秋の空模様ですね<BR>⏎ |
| c2 | 458-459 | 「何かまうものか。この宮が離れておしまいになったならば、わたしを頼りとする人になさるにちがいなかろう。そうなったとしても、公然と気安く会うことはできないだろうが、忍ぶ仲ながらまたこの人以上の人はいない、最後の人となるであろう」<BR>⏎ などと、ただこのことばかりを、じっと考え続けていらっしゃるのは、よくない心であるよ。あれほど思慮深そうに賢人ぶっていらっしゃるが、男性というものは嫌なものであることよ。亡くなった人のお悲しみは、言ってもはじまらないことで、とてもこうまで苦しいことではなかった。今度のことは、あれこれと思案なさるのであった。<BR>⏎ | 414-415 | 「何かまうものか。この宮が離れておしまいになったならば、わたしを頼りとする人になさるにちがいなかろう。そうなったとしても,公然と気安く会うことはできないだろうが、忍ぶ仲ながらまたこの人以上の人はいない、最後の人となるであろう」<BR>⏎ などと,ただこのことばかりを、じっと考え続けていらっしゃるのは、よくない心であるよ。あれほど思慮深そうに賢人ぶっていらっしゃるが、男性というものは嫌なものであることよ。亡くなった人のお悲しみは、言ってもはじまらないことで、とてもこうまで苦しいことではなかった。今度のことは、あれこれと思案なさるのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 461-462 | などと、人が言うのを聞くにつけても、後見人の考えは消えて、胸のつぶれる思いで、羨ましく思われる。<BR>⏎ <P>⏎ | 417 | などと,人が言うのを聞くにつけても、後見人の考えは消えて、胸のつぶれる思いで、羨ましく思われる。<BR>⏎ |
| version49 | 463 | <A NAME="in52">[第二段 匂宮、帰邸して、薫の移り香に不審を抱く]</A><BR> | 418 | |
| c6 | 466-471 | とお思いになると、世の中がとても身の置き所なく思わずにはいられなくなって、「やはり嫌な身の上であった」と、「ただ死なない間は、生きているのにまかせて、おおらかにしていよう」と思いあきらめて、とてもかわいらしそうに美しく振る舞っていらっしゃるので、ますますいとしく嬉しくお思いになって、何日ものご無沙汰など、この上なくおっしゃる。<BR>⏎ お腹も少しふっくらとなっていたので、あのお恥じらいになるしるしの腹帯が結ばれているところなど、たいそういじらしく、まだこのような人を近くに御覧になったことがないので、珍しくまでお思いになっていた。気の置けるところに居続けなさって、万事が、気安く懐かしくお思いになるままに、並々ならぬことを、尽きせず約束なさるのを聞くにつけても、こうして口先ばかり上手なのではないかと、無理なことを迫った方のご様子も思い出されて、長年親切な気持ちと思い続けていたが、このようなことでは、あの方も許せないと思うと、この方の将来の約束は、どうかしら、と思いながらも、少しは耳がとまるのであった。<BR>⏎ 「それにしても、あきれるくらいに油断させておいて、入って来たことよ。亡くなった姉君と関係なく終わってしまったことなどお話になった気持ちは、なるほど立派であったと、やはり気を許すことはあってはならないのだった」<BR>⏎ などと、ますます心配りがされるにつけても、久しくご無沙汰が続きなさることは、とても何となく恐ろしいように思われなさるので、口に出して言わないが、今までよりは、少し引きつけるように振る舞っていらっしゃるのを、宮はますますこの上なくいとしいとお思いになっていらっしゃると、あの方の御移り香が、たいそう深く染みていらっしゃるのが、世の常の香をたきしめたのと違って、はっきりとした薫りなのを、その道の達人でいらっしゃるので、妙だと不審をいだきなさって、どうしたことかと、様子を伺いなさるので、見当外れのことでもないので、言いようもなく困って、ほんとうにつらいとお思いになっていらっしゃるのを、<BR>⏎ 「そうであったか。きっとそのようなことはあるにちがいない。よもや、平気でいられるはずがない、とずっと思っていたことだ」<BR>⏎ とお心が騒ぐのだった。その実、単衣のお召し物類は、脱ぎ替えなさっていたが、不思議と意外にも身にしみついていたのであった。<BR>⏎ | 421-426 | とお思いになると、世の中がとても身の置き所なく思わずにはいられなくなって、「やはり嫌な身の上であった」と、「ただ死なない間は、生きているのにまかせて、おおらかにしていよう」と思いあきらめて、とてもかわいらしそうに 美しく振る舞っていらっしゃるので、ますますいとしく嬉しくお思いになって、何日ものご無沙汰など、この上なくおっしゃる。<BR>⏎ お腹も少しふっくらとなっていたので、あのお恥じらいになるしるしの腹帯が結ばれているところなど、たいそういじらしく、まだこのような人を近くに御覧になったことがないので、珍しくまでお思いになっていた。気の置けるところに居続けなさって、万事が、気安く懐かしくお思いになるままに、並々ならぬことを、尽きせず約束なさるのを聞くにつけても、こうして口先ばかり上手なのではないかと、無理なことを迫った方のご様子も思い出されて、長年親切な気持ちと思い続けていたが、このようなことでは、あの方も許せないと思うと、この方の将来の約束は、どうかしら,と思いながらも、少しは耳がとまるのであった。<BR>⏎ 「それにしても,あきれるくらいに油断させておいて、入って来たことよ。亡くなった姉君と関係なく終わってしまったことなどお話になった気持ちは、なるほど立派であったと、やはり気を許すことは あってはならないのだった」<BR>⏎ などと,ますます心配りがされるにつけても、久しくご無沙汰が続きなさることは、とても何となく恐ろしいように思われなさるので、口に出して言わないが、今までよりは、少し引きつけるように振る舞っていらっしゃるのを、宮はますますこの上なくいとしいとお思いになっていらっしゃると、あの方の御移り香が、たいそう深く染みていらっしゃるのが、世の常の香をたきしめたのと違って、はっきりとした薫りなのを、その道の達人でいらっしゃるので、妙だと不審をいだきなさって、どうしたことかと、様子を伺いなさるので、見当外れのことでもないので、言いようもなく困って、ほんとうにつらいとお思いになっていらっしゃるのを、<BR>⏎ 「そうであったか。きっとそのようなことはあるにちがいない。よもや,平気でいられるはずがない、とずっと思っていたことだ」<BR>⏎ とお心が騒ぐのだった。その実,単衣のお召し物類は、脱ぎ替えなさっていたが、不思議と意外にも身にしみついていたのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 473 | と、すべてに聞きにくくおっしゃり続けるので、情けなくて、身の置き所もない。<BR>⏎ | 428 | と,すべてに聞きにくくおっしゃり続けるので、情けなくて、身の置き所もない。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 475-477 | と、何から何まで語り伝えることができないくらい、とてもお気の毒な申し上げようをなさるが、何ともお返事申し上げなさらないのまでが、まことに憎らしくて、<BR>⏎ 「他の人に親しんだ袖の移り香か<BR>⏎ わが身にとって深く恨めしいことだ」<BR>⏎ | 430-431 | と,何から何まで語り伝えることができないくらい、とてもお気の毒な申し上げようをなさるが、何ともお返事申し上げなさらないのまでが、まことに憎らしくて、<BR>⏎ 「他の人に親しんだ袖の移り香か<BR> わが身にとって深く恨めしいことだ」<BR>⏎ |
| cd4:2 | 479-482 | 「親しみ信頼してきた夫婦の仲も<BR>⏎ この程度の薫りで切れてしまうのでしょうか」<BR>⏎ と言って、お泣きになる様子が、この上なくかわいそうなのを見るにつけても、「これだからこそ」と、ますますいらいらして、自分もぽろぽろと涙を流しなさるのは、色っぽいお心だこと。ほんとうに大変な過ちがあったとしても、一途には疎みきれない、かわいらしくおいたわしい様子をしていらっしゃるので、最後まで恨むこともおできになれず、途中で言いさしなさっては、その一方ではお宥めすかしなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 433-434 | 「親しみ信頼してきた夫婦の仲も<BR> この程度の薫りで切れてしまうのでしょうか」<BR>⏎ と言って,お泣きになる様子が、この上なくかわいそうなのを見るにつけても、「これだからこそ」と、ますますいらいらして、自分もぽろぽろと涙を流しなさるのは、色っぽいお心だこと。ほんとうに大変な過ちがあったとしても、一途には疎みきれない、かわいらしくおいたわしい様子をしていらっしゃるので、最後まで恨むこともおできになれず、途中で言いさしなさっては、その一方ではお宥めすかしなさる。<BR>⏎ |
| version49 | 483 | <A NAME="in53">[第三段 匂宮、中君の素晴しさを改めて認識]</A><BR> | 435 | |
| c1 | 488 | と、自分のたいそう気の回るご性分からお思い知られるので、常に気をつけて、「はっきりと分かるような手紙などがあるか」と、近くの御厨子や、唐櫃などのような物までを、さりげない様子をしてお探しになるが、そのような物はない。ただ、たいそうきっぱりした言葉少なで、平凡な手紙などが、わざわざというのではないが、何かと一緒になってあるのを、「妙だ。やはり、とてもこれだけではあるまい」と疑われるので、ますます今日は平気でいられないのも、もっともなことである。<BR>⏎ | 440 | と,自分のたいそう気の回るご性分からお思い知られるので、常に気をつけて、「はっきりと分かるような手紙などがあるか」と、近くの御厨子や、唐櫃などのような物までを、さりげない様子をしてお探しになるが、そのような物はない。ただ,たいそうきっぱりした言葉少なで、平凡な手紙などが、わざわざというのではないが、何かと一緒になってあるのを、「妙だ。やはり,とてもこれだけではあるまい」と疑われるので、ますます今日は平気でいられないのも、もっともなことである。<BR>⏎ |
| c1 | 490 | と想像すると、侘しく腹立たしく悔しいのであった。やはり、とても安心していられなかったので、その日もお出かけになることができない。六条院には、お手紙を二度三度差し上げなさるが、<BR>⏎ | 442 | と想像すると、侘しく腹立たしく悔しいのであった。やはり,とても安心していられなかったので、その日もお出かけになることができない。六条院には、お手紙を二度三度差し上げなさるが、<BR>⏎ |
| d1 | 493 | <P>⏎ | ||
| version49 | 494 | <A NAME="in54">[第四段 薫、中君に衣料を贈る]</A><BR> | 445 | |
| c1 | 497 | と無理に反省して、「そうは言ってもお捨てにはならないようだ」と、嬉しくもあり、「女房たちの様子などが、やさしい感じに着古した感じのようだ」と思いやりなさって、母宮の御方にお渡りになって、<BR>⏎ | 448 | と無理に反省して、「そうは言っても お捨てにはならないようだ」と、嬉しくもあり、「女房たちの様子などが、やさしい感じに着古した感じのようだ」と思いやりなさって、母宮の御方にお渡りになって、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 503-505 | と言って、御匣殿などにお問い合わせになって、女の装束類を何領もに、細長類も、ありあわせで、染色してない絹や綾などをお揃えになる。ご本人のお召し物と思われるのは、自分のお召し物にあった紅の砧の擣目の美しいものに、幾重もの白い綾など、たくさんお重ねになったが、袴の付属品はなかったので、どういうふうにしたのか、腰紐が一本あったのを、結びつけなさって、<BR>⏎ 「結んだ契りの相手が違うので<BR>⏎ 今さらどうして一途に恨んだりしようか」<BR>⏎ | 454-455 | と言って,御匣殿などにお問い合わせになって、女の装束類を何領もに、細長類も、ありあわせで、染色してない絹や綾などをお揃えになる。ご本人のお召し物と思われるのは、自分のお召し物にあった紅の砧の擣目の美しいものに、幾重もの白い綾など、たくさんお重ねになったが、袴の付属品はなかったので、どういうふうにしたのか、腰紐が一本あったのを、結びつけなさって、<BR>⏎ 「結んだ契りの相手が違うので<BR> 今さらどうして一途に恨んだりしようか」<BR>⏎ |
| d1 | 510 | <P>⏎ | ||
| version49 | 511 | <A NAME="in55">[第五段 薫、中君をよく後見す]</A><BR> | 460 | |
| c1 | 514 | 童女などの、身なりのぱっとしないのが、時々混じったりしているのを、女君は、たいそう恥ずかしく、「かえって立派過ぎて困ったお邸だ」などと、人知れずお思いになることがないわけでないが、まして最近は、世に鳴り響いた方のご様子の華やかさに、一方では、「宮付きの女房が見たり思ったりすることも、見すぼらしいこと」と、お悩みになることも加わって嘆かわしいのを、中納言の君は、実によくご推察申し上げなさるので、親しくない相手だったら、見苦しくごたごたするにちがいない心配りの様子も、軽蔑するというのではないが、「どうして、大げさにいかにも目につくようなのも、かえって疑う人があろうか」と、お思いになるのであった。<BR>⏎ | 463 | 童女などの、身なりのぱっとしないのが、時々混じったりしているのを、女君は、たいそう恥ずかしく、「かえって立派過ぎて困ったお邸だ」などと、人知れずお思いになることがないわけでないが、まして最近は、世に鳴り響いた方のご様子の華やかさに、一方では、「宮付きの女房が見たり思ったりすることも、見すぼらしいこと」と、お悩みになることも加わって嘆かわしいのを、中納言の君は、実によくご推察申し上げなさるので、親しくない相手だったら、見苦しくごたごたするにちがいない心配りの様子も、軽蔑するというのではないが、「どうして,大げさにいかにも目につくようなのも、かえって疑う人があろうか」と、お思いになるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 516 | <P>⏎ | ||
| version49 | 517 | <A NAME="in56">[第六段 薫と中君の、それぞれの苦悩]</A><BR> | 465 | |
| c3 | 518-520 | 「こうして、やはり、何とか安心で分別のある後見人として終えよう」と思うにつけても、意志とは逆に、心にかかって苦しいので、お手紙などを、以前よりはこまやかに書いて、ともすれば、抑えきれない気持ちを見せながら申し上げなさるのを、女君は、たいそうつらいことが加わった身だとお嘆きになる。<BR>⏎ 「まったく知らない人なら、何と気違いじみていると、体裁の悪い思いをさせ放っておくのも気楽なことだが、昔から特別に信頼して来た人として、今さら仲悪くするのも、かえって人目に変だろう。そうはいってもやはり、浅くはないお気持ちやご好意の、ありがたさを分からないわけでない。そうかといって、相手の気持ちを受け入れたように振る舞うのも、まことに慎まれることだし、どうしたらよいだろう」<BR>⏎ と、あれこれとお悩みになる。<BR>⏎ | 466-468 | 「こうして,やはり,何とか安心で分別のある後見人として終えよう」と思うにつけても、意志とは逆に、心にかかって苦しいので、お手紙などを、以前よりはこまやかに書いて、ともすれば、抑えきれない気持ちを見せながら申し上げなさるのを、女君は、たいそうつらいことが加わった身だとお嘆きになる。<BR>⏎ 「まったく知らない人なら、何と気違いじみていると、体裁の悪い思いをさせ放っておくのも気楽なことだが、昔から特別に信頼して来た人として、今さら仲悪くするのも、かえって人目に変だろう。そうはいってもやはり、浅くはないお気持ちやご好意の、ありがたさを分からないわけでない。そうかといって、相手の気持ちを受け入れたように振る舞うのも,まことに慎まれることだし、どうしたらよいだろう」<BR>⏎ と,あれこれとお悩みになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 523-524 | と、とても悲しく、宮が冷淡におなりになる嘆きよりも、このことがたいそう苦しく思われる。<BR>⏎ <P>⏎ | 471 | と,とても悲しく、宮が冷淡におなりになる嘆きよりも、このことがたいそう苦しく思われる。<BR>⏎ |
| version49 | 525 | <H4>第六章 薫の物語 中君から異母妹の浮舟の存在を聞く</H4> | 472 | |
| version49 | 526 | <A NAME="in61">[第一段 薫、二条院の中君を訪問]</A><BR> | 473 | |
| c3 | 529-531 | とおっしゃって、とても不愉快なご様子なのを、先夜お二人の様子を見ていた女房たちは、<BR>⏎ 「なるほど、とても見苦しくございますようです」<BR>⏎ と言って、母屋の御簾を下ろして、夜居の僧の座所にお入れ申すのを、女君は、ほんとうに気分も実に苦しいが、女房がこのように言うので、はっきり拒むのも、またどんなものかしら、と遠慮されるので、嫌な気分ながら少しいざり出て、お会いなさった。<BR>⏎ | 476-478 | とおっしゃって,とても不愉快なご様子なのを、先夜お二人の様子を見ていた女房たちは、<BR>⏎ 「なるほど,とても見苦しくございますようです」<BR>⏎ と言って,母屋の御簾を下ろして、夜居の僧の座所にお入れ申すのを、女君は、ほんとうに気分も実に苦しいが、女房がこのように言うので、はっきり拒むのも、またどんなものかしら、と遠慮されるので、嫌な気分ながら少しいざり出て、お会いなさった。<BR>⏎ |
| c1 | 538 | 「どうして、このようにいつもお苦しみでいらっしゃるのだろう。人に尋ねましたら、暫くの間は気分が悪いが、そうしてまた、良くなる時がある、などと教えました。あまりに子供っぽくお振る舞いになっていらっしゃるようです」<BR>⏎ | 485 | 「どうして,このようにいつもお苦しみでいらっしゃるのだろう。人に尋ねましたら、暫くの間は気分が悪いが、そうしてまた、良くなる時がある、などと教えました。あまりに子供っぽくお振る舞いになっていらっしゃるようです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 541-542 | とおっしゃる。「なるほど、誰も千年も生きる松ではないこの世を」と思うと、まことにお気の毒でかわいそうなので、この召し寄せた人が聞くだろうことも憚らず、側で聞くとはらはらするようなことは言わないが、昔からお思い申し上げていた様子などを、あの方一人だけには分かるようにしながら、少将には変に聞こえないように、体裁よくおっしゃるのを、「なるほど、世に稀なお気持ちだ」と聞いているのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 488 | とおっしゃる。「なるほど,誰も千年も生きる松ではないこの世を」と思うと、まことにお気の毒でかわいそうなので、この召し寄せた人が聞くだろうことも憚らず、側で聞くとはらはらするようなことは言わないが、昔からお思い申し上げていた様子などを、あの方一人だけには分かるようにしながら、少将には変に聞こえないように、体裁よくおっしゃるのを、「なるほど,世に稀なお気持ちだ」と聞いているのであった。<BR>⏎ |
| version49 | 543 | <A NAME="in62">[第二段 薫、亡き大君追慕の情を訴える]</A><BR> | 489 | |
| c1 | 548 | などと、恨んだり泣いたりしながら申し上げなさる。<BR>⏎ | 494 | などと,恨んだり泣いたりしながら申し上げなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 553 | <P>⏎ | ||
| version49 | 554 | <A NAME="in63">[第三段 薫、故大君に似た人形を望む]</A><BR> | 499 | |
| c1 | 557 | などと、こっそりと口ずさんで、<BR>⏎ | 502 | などと,こっそりと口ずさんで、<BR>⏎ |
| c1 | 563 | と、あれやこれやと忘れることのない旨を、お嘆きになる様子が、深く思いつめているようなのもお気の毒で、もう少し近くにいざり寄って、<BR>⏎ | 508 | と,あれやこれやと忘れることのない旨を、お嘆きになる様子が、深く思いつめているようなのもお気の毒で、もう少し近くにいざり寄って、<BR>⏎ |
| d1 | 568 | <P>⏎ | ||
| version49 | 569 | <A NAME="in64">[第四段 中君、異母妹の浮舟を語る]</A><BR> | 513 | |
| c1 | 571 | 形見などと、あのようにお考えになりおっしゃるようなのは、かえって何もかも、あきれるくらい似ていないようだと、知っている女房たちは言っておりましたが、とてもそうでもないはずの人が、どうして、そんなに似ているのでしょう」<BR>⏎ | 515 | 形見などと、あのようにお考えになりおっしゃるようなのは、かえって何もかも、あきれるくらい似ていないようだと、知っている女房たちは言っておりましたが、とてもそうでもないはずの人が、どうして,そんなに似ているのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 575 | 「さあ、その理由も、どのようなことであったかも分かりません。頼りなさそうな状態で、この世に落ちぶれさすらうことだろうこと、とばかり、不安そうにお思いであったことを、ただ一人で何から何まで経験させられますので、またつまらないことまでが加わって、人が聞き伝えることも、とてもお気の毒なことでしょう」<BR>⏎ | 519 | 「さあ,その理由も、どのようなことであったかも分かりません。頼りなさそうな状態で、この世に落ちぶれさすらうことだろうこと、とばかり,不安そうにお思いであったことを、ただ一人で何から何まで経験させられますので、またつまらないことまでが加わって、人が聞き伝えることも、とてもお気の毒なことでしょう」<BR>⏎ |
| c2 | 579-580 | と、聞きたがりなさるが、やはり何といっても憚られて、詳細を申し上げることはおできになれない。<BR>⏎ 「尋ねたいと思いなさるお気持ちでしたら、どこそこと申し上げましょうが、詳しいことは分かりませんよ。また、あまり言ったら、期待外れもしましょうから」<BR>⏎ | 523-524 | と,聞きたがりなさるが、やはり何といっても憚られて、詳細を申し上げることはおできになれない。<BR>⏎ 「尋ねたいと思いなさるお気持ちでしたら、どこそこと申し上げましょうが、詳しいことは分かりませんよ。また,あまり言ったら、期待外れもしましょうから」<BR>⏎ |
| c3 | 582-584 | 「男女の仲を、海の中までも、魂のありかを求めては、思う存分進んで行きましょうが、とてもそこまでは思うことはないが、とてもこのように慰めようのないのよりは、と存じます人形の願いぐらいには、どうして、山里の本尊に対しても思ってはいけないのでしょうか。やはり、はっきりおっしゃってください」<BR>⏎ と、急にお責め申し上げなさる。<BR>⏎ 「さあ、父宮のお許しもなかったことを、こんなにまでお洩らし申し上げるのも、とても口が軽いが、変化の彫刻師をお探しになるお気の毒さに、こんなにまで」と言って、「とても遠い所に長年過ごしていたが、母である人が遺憾に思って、無理に尋ねて来たのですが、体裁悪くもお返事できずにおりましたところ、参ったのです。ちらっと会ったためにか、何事も想像していたよりは見苦しくなく見えました。この娘をどのように扱おうかと困っていたようでしたが、仏になるのは、まことにこの上ないことでありましょうが、そこまではどうかしら」<BR>⏎ | 526-528 | 「男女の仲を,海の中までも、魂のありかを求めては、思う存分進んで行きましょうが、とてもそこまでは思うことはないが、とてもこのように慰めようのないのよりは、と存じます人形の願いぐらいには、どうして,山里の本尊に対しても思ってはいけないのでしょうか。やはり,はっきりおっしゃってください」<BR>⏎ と,急にお責め申し上げなさる。<BR>⏎ 「さあ,父宮のお許しもなかったことを、こんなにまでお洩らし申し上げるのも、とても口が軽いが、変化の彫刻師をお探しになるお気の毒さに、こんなにまで」と言って、「とても遠い所に長年過ごしていたが、母である人が遺憾に思って、無理に尋ねて来たのですが、体裁悪くもお返事できずにおりましたところ、参ったのです。ちらっと会ったためにか、何事も想像していたよりは見苦しくなく見えました。この娘をどのように扱おうかと 困っていたようでしたが、仏になるのは、まことにこの上ないことでありましょうが、そこまではどうかしら」<BR>⏎ |
| d1 | 586 | <P>⏎ | ||
| version49 | 587 | <A NAME="in65">[第五段 薫、なお中君を恋慕す]</A><BR> | 530 | |
| c1 | 588 | 「何気なくて、このようにうるさい心を何とか言ってやめさせる方法もないものか、と思っていらっしゃる」と見るのはつらいけれど、やはり心動かされる。「あってはならないこととは深く思っていらしゃるものの、あからさまに体裁の悪い扱いは、おできになれないのを、ご存知でいらっしゃるのだ」と思うと胸がどきどきして、夜もたいそう更けてゆくのを、御簾の内側では人目がたいそう具合が悪く思われなさって、すきを見て、奥にお入りになってしまったので、男君は、道理とは繰り返し思うが、やはりまことに恨めしく口惜しいので、思い静める方もない気がして、涙がこぼれるのも体裁が悪いので、あれこれと思い乱れるが、一途に軽率な振る舞いをしたら、またやはりとても嫌な、自分にとってもよくないことなので、思い返して、いつもより嘆きがちにお出になった。<BR>⏎ | 531 | 「何気なくて、このようにうるさい心を何とか言ってやめさせる方法もないものか、と思っていらっしゃる」と見るのはつらいけれど、やはり心動かされる。「あってはならないこととは深く思っていらしゃるものの、あからさまに体裁の悪い扱いは、おできになれないのを、ご存知でいらっしゃるのだ」と思うと胸がどきどきして、夜もたいそう更けてゆくのを、御簾の内側では人目がたいそう具合が悪く思われなさって、すきを見て,奥にお入りになってしまったので、男君は、道理とは繰り返し思うが、やはりまことに恨めしく口惜しいので、思い静める方もない気がして、涙がこぼれるのも体裁が悪いので、あれこれと思い乱れるが、一途に軽率な振る舞いをしたら、またやはりとても嫌な、自分にとってもよくないことなので、思い返して、いつもより嘆きがちにお出になった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 590-591 | などと、自ら経験していない人柄からであろうか、自分のためにも相手のためにも、心穏やかでないことを、むやみに悩み明かすと、「似ているとおっしゃった人も、どうして本当かどうか見ることができよう。その程度の身分なので、思いよるに難しくはないが、相手が願いどおりでなかったら、やっかいなことであろう」などと、やはりそちらの方には気が向かない。<BR>⏎ <P>⏎ | 533 | などと,自ら経験していない人柄からであろうか、自分のためにも相手のためにも、心穏やかでないことを、むやみに悩み明かすと、「似ているとおっしゃった人も、どうして本当かどうか見ることができよう。その程度の身分なので、思いよるに 難しくはないが、相手が願いどおりでなかったら、やっかいなことであろう」などと、やはりそちらの方には気が向かない。<BR>⏎ |
| version49 | 592 | <H4>第七章 薫の物語 宇治を訪問して弁の尼から浮舟の詳細について聞く</H4> | 534 | |
| version49 | 593 | <A NAME="in71">[第一段 九月二十日過ぎ、薫、宇治を訪れる]</A><BR> | 535 | |
| c1 | 597 | と、直接には出てこない。<BR>⏎ | 539 | と,直接には出てこない。<BR>⏎ |
| c1 | 599 | と言って、涙を目にいっぱい浮かべていらっしゃると、老女はますますそれ以上に涙をとどめることができない。<BR>⏎ | 541 | と言って,涙を目にいっぱい浮かべていらっしゃると、老女はますますそれ以上に涙をとどめることができない。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 602-604 | 「ああなったこともこうなったことも、長生きをすると、良くなるようなこともあるので、つまらないことと思いつめていらしたのは、自分の過失であったように、やはり悲しい。最近のご様子は、どうして、それこそ世の常のことです。けれど、不安そうにはお見え申さないようだ。言っても言っても効ない、むなしい空に昇ってしまった煙だけは、誰も逃れることはできない運命ながらも、後になったり先立ったりする間は、やはり何とも言いようのないことです」<BR>⏎ と言って、またお泣きになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 544-545 | 「ああなったこともこうなったことも、長生きをすると、良くなるようなこともあるので、つまらないことと思いつめていらしたのは、自分の過失であったように、やはり悲しい。最近のご様子は、どうして,それこそ世の常のことです。けれど,不安そうにはお見え申さないようだ。言っても言っても効ない、むなしい空に昇ってしまった煙だけは、誰も逃れることはできない運命ながらも、後になったり先立ったりする間は、やはり何とも言いようのないことです」<BR>⏎ と言って,またお泣きになる。<BR>⏎ |
| version49 | 605 | <A NAME="in72">[第二段 薫、宇治の阿闍梨と面談す]</A><BR> | 546 | |
| c2 | 607-608 | 「ところで、ここに時々参るにつけても、しかたのないことがいつまでも思い出されるのが、とてもつまらないことなので、この寝殿を壊して、あの山寺の傍らにお堂を建てよう、と思うが、同じことなら早く始めたい」<BR>⏎ とおっしゃって、お堂を幾塔、渡廊の類や、僧坊などを、必要なことを書き出したりおっしゃったりおさせになるので、<BR>⏎ | 548-549 | 「ところで,ここに時々参るにつけても、しかたのないことがいつまでも思い出されるのが、とてもつまらないことなので、この寝殿を壊して、あの山寺の傍らにお堂を建てよう、と思うが、同じことなら早く始めたい」<BR>⏎ とおっしゃって、お堂を幾塔,渡廊の類や,僧坊などを、必要なことを 書き出したりおっしゃったりおさせになるので、<BR>⏎ |
| c1 | 612 | 今は、兵部卿宮の北の方が、所有していらっしゃるはずですから、あの宮のご料地と言ってもよいようになっている。だから、ここをそのまま寺にすることは、不都合であろう。思いどおりにすることはできない。場所柄もあまりに川岸に近くて、人目にもつくので、やはり寝殿を壊して、別の所に造り変える考えです」<BR>⏎ | 553 | 今は、兵部卿宮の北の方が、所有していらっしゃるはずですから、あの宮のご料地と言ってもよいようになっている。だから,ここをそのまま寺にすることは、不都合であろう。思いどおりにすることはできない。場所柄もあまりに川岸に近くて、人目にもつくので、やはり寝殿を壊して、別の所に造り変える考えです」<BR>⏎ |
| c1 | 614 | 「あれやこれやと、まことに立派な尊いお心です。昔、別れを悲しんで、骨を包んで幾年も頚に懸けておりました人も、仏の方便で、あの骨の袋を捨てて、とうとう仏の道に入ったのでした。この寝殿を御覧になるにつけても、お心がお動きになりますのは、一つには良くないことです。また、来世への勧めともなるものでございます。急いでお仕え申しましょう。暦の博士に相談申して吉日を承って、建築に詳しい工匠を二、三人賜って、こまごまとしたことは、仏のお教えに従ってお仕えさせ申しましょう」<BR>⏎ | 555 | 「あれやこれやと、まことに立派な尊いお心です。昔,別れを悲しんで、骨を包んで幾年も頚に懸けておりました人も、仏の方便で、あの骨の袋を捨てて、とうとう仏の道に入ったのでした。この寝殿を御覧になるにつけても、お心がお動きになりますのは、一つには良くないことです。また,来世への勧めともなるものでございます。急いでお仕え申しましょう。暦の博士に相談申して吉日を承って、建築に詳しい工匠を 二,三人賜って、こまごまとしたことは、仏のお教えに従ってお仕えさせ申しましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 616 | <P>⏎ | ||
| version49 | 617 | <A NAME="in73">[第三段 薫、弁の尼と語る]</A><BR> | 557 | |
| c1 | 620 | などと、事務的なことを相談なさる。他では、これほど年とった者を、何かとお世話なさるはずもないが、夜も近くに寝させて、昔話などをおさせになる。故大納言の君のご様子を、聞く人もないので気安くて、たいそう詳細に申し上げる。<BR>⏎ | 560 | などと,事務的なことを相談なさる。他では、これほど年とった者を、何かとお世話なさるはずもないが、夜も近くに寝させて、昔話などをおさせになる。故大納言の君のご様子を、聞く人もないので気安くて、たいそう詳細に申し上げる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 625-626 | などと、心の中で比較なさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 565 | などと,心の中で比較なさる。<BR>⏎ |
| version49 | 627 | <A NAME="in74">[第四段 薫、浮舟の件を弁の尼に尋ねる]</A><BR> | 566 | |
| c1 | 628 | そうして、何かのきっかけで、あの形代のことを言い出しなさった。<BR>⏎ | 567 | そうして,何かのきっかけで、あの形代のことを言い出しなさった。<BR>⏎ |
| c1 | 634 | 詳しく聞き知りなさって、「それでは、ほんとうであったのだ。会ってみたいものだ」と思う気持ちが出てきた。<BR>⏎ | 573 | 詳しく聞き知りなさって、「それでは,ほんとうであったのだ。会ってみたいものだ」と思う気持ちが出てきた。<BR>⏎ |
| c1 | 638 | 最近、京から、大輔のもとから申してよこしたことには、あの姫君が、何とか父宮のお墓にだけでも詣でたいと、おっしゃっているという、そのようなおつもりでいなさい、などとございましたが、まだここには、特に便りはないようです。今、そうなったら、そのような機会に、この仰せ言を伝えましょう」<BR>⏎ | 577 | 最近、京から、大輔のもとから申してよこしたことには、あの姫君が、何とか父宮のお墓にだけでも詣でたいと、おっしゃっているという、そのようなおつもりでいなさい、などとございましたが、まだここには、特に便りはないようです。今,そうなったら,そのような機会に、この仰せ言を伝えましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 640 | <P>⏎ | ||
| version49 | 641 | <A NAME="in75">[第五段 薫、二条院の中君に宇治訪問の報告]</A><BR> | 579 | |
| cd2:1 | 644-645 | 「宿木の昔泊まった家と思い出さなかったら<BR>⏎ 木の下の旅寝もどんなにか寂しかったことでしょう」<BR>⏎ | 582 | 「宿木の昔泊まった家と思い出さなかったら<BR> 木の下の旅寝もどんなにか寂しかったことでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 647-648 | 「荒れ果てた朽木のもとを昔の泊まった家と<BR>⏎ 思っていてくださるのが悲しいことです」<BR>⏎ | 584 | 「荒れ果てた朽木のもとを昔の泊まった家と<BR> 思っていてくださるのが悲しいことです」<BR>⏎ |
| c1 | 652 | と言って、何の気なしに持って参ったのを、女君は、「いつものようにうるさいことを言ってきたらどうしようか」と苦しくお思いになるが、どうして隠すことができようか。宮は、<BR>⏎ | 588 | と言って,何の気なしに持って参ったのを、女君は、「いつものようにうるさいことを言ってきたらどうしようか」と苦しくお思いになるが、どうして隠すことができようか。宮は、<BR>⏎ |
| c1 | 654 | と、穏やかならずおっしゃって、呼び寄せて御覧になる。お手紙には、<BR>⏎ | 590 | と,穏やかならずおっしゃって、呼び寄せて御覧になる。お手紙には、<BR>⏎ |
| c1 | 660 | と、よそをお向きになった。甘えて書かないのも変なので、<BR>⏎ | 596 | と,よそをお向きになった。甘えて書かないのも変なので、<BR>⏎ |
| d1 | 663 | <P>⏎ | ||
| version49 | 664 | <A NAME="in76">[第六段 匂宮、中君の前で琵琶を弾く]</A><BR> | 599 | |
| cd2:1 | 666-667 | 「外に現さないないが、物思いをしているらしいですね<BR>⏎ 篠薄が招くので、袂の露がいっぱいですね」<BR>⏎ | 601 | 「外に現さないないが、物思いをしているらしいですね<BR> 篠薄が招くので、袂の露がいっぱいですね」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 669-670 | 「秋が終わる野辺の景色も<BR>⏎ 篠薄がわずかに揺れている風によって知られます<BR>⏎ | 603 | 「秋が終わる野辺の景色も<BR> 篠薄がわずかに揺れている風によって知られます<BR>⏎ |
| c2 | 676-677 | 「何某の親王が、この花を賞美した夕方です。昔、天人が飛翔して、琵琶の曲を教えたのは。何事も浅薄になった世の中は、嫌なことだ」<BR>⏎ と言って、お琴をお置きになるのを、残念だとお思いになって、<BR>⏎ | 609-610 | 「何某の親王が、この花を賞美した夕方です。昔,天人が飛翔して、琵琶の曲を教えたのは。何事も浅薄になった世の中は、嫌なことだ」<BR>⏎ と言って,お琴をお置きになるのを、残念だとお思いになって、<BR>⏎ |
| c3 | 679-681 | と言って、まだよく知らない曲などを聞きたくお思いになっているので、<BR>⏎ 「それならば、一人で弾く琴は寂しいから、お相手なさい」<BR>⏎ と言って、女房を呼んで、箏の琴を取り寄せさせて、お弾かせ申し上げなさるが、<BR>⏎ | 612-614 | と言って,まだよく知らない曲などを聞きたくお思いになっているので、<BR>⏎ 「それならば,一人で弾く琴は寂しいから、お相手なさい」<BR>⏎ と言って,女房を呼んで、箏の琴を取り寄せさせて、お弾かせ申し上げなさるが、<BR>⏎ |
| c3 | 683-685 | と、遠慮深そうにして手もお触れにならないので、<BR>⏎ 「これくらいのことも、心置いていらっしゃるのが情けない。近頃、結婚した人は、まだたいして心打ち解けるようになっていませんが、まだ未熟な習い事をも隠さずにいます。総じて女性というものは、柔らかで心が素直なのが良いことだと、あの中納言も決めているようです。あの君には、また、このようにはお隠しになるまい。この上なく親密な仲のようなので」<BR>⏎ などと、本気になって恨み事を言われたので、溜息をついて少しお弾きになる。絃が緩めてあったので、盤渉調に合わせなさなさる。合奏などの、爪音が美しく聞こえる。「伊勢の海」をお謡いになるお声が上品で美しいのを、女房たちが、物の背後に近寄って、にっこりして座っていた。<BR>⏎ | 616-618 | と,遠慮深そうにして手もお触れにならないので、<BR>⏎ 「これくらいのことも、心置いていらっしゃるのが情けない。近頃、結婚した人は、まだたいして心打ち解けるようになっていませんが、まだ未熟な習い事をも隠さずにいます。総じて女性というものは、柔らかで心が素直なのが良いことだと、あの中納言も決めているようです。あの君には、また,このようにはお隠しになるまい。この上なく親密な仲のようなので」<BR>⏎ などと,本気になって恨み事を言われたので、溜息をついて少しお弾きになる。絃が緩めてあったので、盤渉調に合わせなさなさる。合奏などの、爪音が美しく聞こえる。「伊勢の海」をお謡いになるお声が上品で美しいのを、女房たちが、物の背後に近寄って、にっこりして座っていた。<BR>⏎ |
| c1 | 687 | などと、ずけずけと言うので、若い女房たちは、<BR>⏎ | 620 | などと,ずけずけと言うので、若い女房たちは、<BR>⏎ |
| d1 | 690 | <P>⏎ | ||
| version49 | 691 | <A NAME="in77">[第七段 夕霧、匂宮を強引に六条院へ迎え取る]</A><BR> | 623 | |
| c1 | 692 | いろいろのお琴をお教え申し上げなどして、三、四日籠もっておいでになって、御物忌などにかこつけなさるのを、あちらの殿におかれては恨めしくお思いになって、大臣は、宮中からお出になってそのまま、こちらに参上なさったので、宮は、<BR>⏎ | 624 | いろいろのお琴をお教え申し上げなどして、三,四日籠もっておいでになって、御物忌などにかこつけなさるのを、あちらの殿におかれては恨めしくお思いになって、大臣は、宮中からお出になってそのまま、こちらに参上なさったので、宮は、<BR>⏎ |
| c1 | 694 | と、不快にお思いになるが、寝殿にお渡りになって、お会いなさる。<BR>⏎ | 626 | と,不快にお思いになるが、寝殿にお渡りになって、お会いなさる。<BR>⏎ |
| c3 | 696-698 | などと、昔のいろいろなお話を少し申し上げなさって、そのままお連れ申し上げなさってお出になった。ご子息の殿方や、その他の上達部、殿上人なども、たいそう大勢引き連れていらっしゃる威勢が、大変なのを見ると、並びようもないのが、がっかりした。女房たちが覗いて拝見して、<BR>⏎ 「まあ、美しくいらっしゃる大臣ですこと。あれほど、どなたも皆、若く男盛りで美しくいらっしゃるご子息たちで、似ていらっしゃる方もありませんね。何と、立派なこと」<BR>⏎ という者もいる。また、<BR>⏎ | 628-630 | などと,昔のいろいろなお話を少し申し上げなさって、そのままお連れ申し上げなさってお出になった。ご子息の殿方や、その他の上達部、殿上人なども、たいそう大勢引き連れていらっしゃる威勢が、大変なのを見ると、並びようもないのが、がっかりした。女房たちが覗いて拝見して、<BR>⏎ 「まあ,美しくいらっしゃる大臣ですこと。あれほど、どなたも皆、若く男盛りで美しくいらっしゃるご子息たちで、似ていらっしゃる方もありませんね。何と、立派なこと」<BR>⏎ という者もいる。また,<BR>⏎ |
| cd2:1 | 700-701 | などと、嘆息する者もいるようだ。ご自身も、過去を思い出すのをはじめとして、あのはなやかなご夫婦の生活に肩を並べやってゆけそうにもなく、存在感の薄い身の上をと、ますます心細いので、「やはり気楽に山里に籠もっているのが無難であろう」などと、ますます思われなさる。とりとめもなく年が暮れた。<BR>⏎ <P>⏎ | 632 | などと,嘆息する者もいるようだ。ご自身も、過去を思い出すのをはじめとして、あのはなやかなご夫婦の生活に肩を並べやってゆけそうにもなく、存在感の薄い身の上をと、ますます心細いので、「やはり気楽に山里に籠もっているのが無難であろう」などと、ますます思われなさる。とりとめもなく年が暮れた。<BR>⏎ |
| version49 | 702 | <H4>第八章 薫の物語 女二の宮、薫の三条宮邸に降嫁</H4> | 633 | |
| version49 | 703 | <A NAME="in81">[第一段 新年、薫権大納言兼右大将に昇進]</A><BR> | 634 | |
| c1 | 707 | その一方では、女二の宮の御裳着が、ちょうどこのころとなって、世間で大評判となっている。万事が、帝のお心一つみたいに御準備なさるので、御後見がいないのも、かえって立派に見えるのであった。<BR>⏎ | 638 | その一方では,女二の宮の御裳着が、ちょうどこのころとなって、世間で大評判となっている。万事が、帝のお心一つみたいに御準備なさるので、御後見がいないのも、かえって立派に見えるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 713 | と、お招き申し上げなさるが、お具合の悪い人のために、躊躇なさっているようである。右大臣殿がなさった例に従ってと、六条院で催されるのであった。<BR>⏎ | 644 | と,お招き申し上げなさるが、お具合の悪い人のために、躊躇なさっているようである。右大臣殿がなさった例に従ってと、六条院で催されるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 717 | <P>⏎ | ||
| version49 | 718 | <A NAME="in82">[第二段 中君に男子誕生]</A><BR> | 648 | |
| c2 | 719-720 | やっとのこと、その早朝に、男の子でお生まれになったのを、宮もたいそうその効あって嬉しくお思いになった。大将殿も、昇進の喜びに加えて、嬉しくお思いになる。昨夜おいでになったお礼言上に、そのまま、このお祝いを合わせて、立ったままで参上なさった。こうして籠もっていらっしゃるので、お祝いに参上しない人はいない。<BR>⏎ 御産養は、三日は、例によってただ宮の私的祝い事として、五日の夜は、大将殿から屯食五十具、碁手の銭、椀飯などは、普通通りにして、子持ちの御前の衝重三十、稚児の御産着五重襲に、御襁褓などは、仰々しくないようにこっそりとなさったが、詳細に見ると、特別に珍しい趣向が凝らしてあったのであった。<BR>⏎ | 649-650 | やっとのこと、その早朝に、男の子でお生まれになったのを、宮もたいそうその効あって嬉しくお思いになった。大将殿も、昇進の喜びに加えて、嬉しくお思いになる。昨夜おいでになったお礼言上に、そのまま,このお祝いを合わせて、立ったままで参上なさった。こうして籠もっていらっしゃるので、お祝いに参上しない人はいない。<BR>⏎ 御産養は、三日は、例によってただ宮の私的祝い事として、五日の夜は、大将殿から屯食五十具,碁手の銭,椀飯などは、普通通りにして、子持ちの御前の衝重三十、稚児の御産着五重襲に、御襁褓などは、仰々しくないようにこっそりとなさったが、詳細に見ると、特別に珍しい趣向が凝らしてあったのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 726-727 | 大将殿は、「このようにすっかり大人になってしまわれたので、ますます自分のほうには縁遠くなってしまうだろう。また、宮のお気持ちもけっして並々ではあるまい」と思うのは残念であるが、また、初めからの心づもりを考えてみると、たいそう嬉しくもある。<BR>⏎ <P>⏎ | 656 | 大将殿は、「このようにすっかり大人になってしまわれたので、ますます自分のほうには縁遠くなってしまうだろう。また,宮のお気持ちもけっして並々ではあるまい」と思うのは残念であるが、また,初めからの心づもりを考えてみると、たいそう嬉しくもある。<BR>⏎ |
| version49 | 728 | <A NAME="in83">[第三段 二月二十日過ぎ、女二の宮、薫に降嫁す]</A><BR> | 657 | |
| c1 | 729 | こうして、その月の二十日過ぎに、藤壷の宮の御裳着の儀式があって、翌日、大将が参上なさった。その夜のことは内々のことである。世間に評判なほど大切にかしずかれた姫宮なのに、臣下がご結婚申し上げなさるのは、やはり物足りなくお気の毒に見える。<BR>⏎ | 658 | こうして,その月の二十日過ぎに、藤壷の宮の御裳着の儀式があって、翌日、大将が参上なさった。その夜のことは内々のことである。世間に評判なほど大切にかしずかれた姫宮なのに、臣下がご結婚申し上げなさるのは、やはり物足りなくお気の毒に見える。<BR>⏎ |
| c1 | 731 | と、非難がましく思いおっしゃる人もいるのだったが、ご決意なさったことを、すらすらとなさるご性格なので、過去に例がないほど同じことならお扱いなさろうと、お考えおいたようである。帝の御婿になる人は、昔も今も多いが、このように全盛の御世に、臣下のように、婿を急いでお迎えなさる例は少なかったのではなかろうか。右大臣も、<BR>⏎ | 660 | と,非難がましく思いおっしゃる人もいるのだったが、ご決意なさったことを、すらすらとなさるご性格なので、過去に例がないほど 同じことならお扱いなさろうと、お考えおいたようである。帝の御婿になる人は、昔も今も多いが、このように全盛の御世に、臣下のように、婿を急いでお迎えなさる例は 少なかったのではなかろうか。右大臣も、<BR>⏎ |
| c1 | 734 | 三日の夜は、大蔵卿をはじめとして、あの御方のお世話役をなさっていた人びとや、家司にご命令なさって、人目に立たないようにではあるが、婿殿の御前駆や随身、車副、舎人まで禄をお与えになる。その時の事柄は、私事のようであった。<BR>⏎ | 663 | 三日の夜は、大蔵卿をはじめとして、あの御方のお世話役をなさっていた人びとや、家司にご命令なさって、人目に立たないようにではあるが、婿殿の御前駆や随身,車副,舎人まで禄をお与えになる。その時の事柄は、私事のようであった。<BR>⏎ |
| c1 | 738 | と言って、御念誦堂との間に、渡廊を続けてお造らせになる。西面にお移りになるようである。東の対なども、焼失して後は、立派に新しく理想的なのを、ますます磨き加え加えして、こまごまとしつらわせなさる。<BR>⏎ | 667 | と言って,御念誦堂との間に、渡廊を続けてお造らせになる。西面にお移りになるようである。東の対なども、焼失して後は、立派に新しく理想的なのを、ますます磨き加え加えして、こまごまとしつらわせなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 741-742 | このように、重々しいお二方に、互いにこの上なく大切にされていらっしゃる面目も、どのようなものであろうか、心中では特に嬉しくも思われず、やはり、ともすれば物思いに耽りながら、宇治の寺の造営を急がせなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 670 | このように,重々しいお二方に、互いにこの上なく大切にされていらっしゃる面目も、どのようなものであろうか、心中では特に嬉しくも思われず、やはり,ともすれば物思いに耽りながら、宇治の寺の造営を急がせなさる。<BR>⏎ |
| version49 | 743 | <A NAME="in84">[第四段 中君の男御子、五十日の祝い]</A><BR> | 671 | |
| c2 | 744-745 | 宮の若君が五十日におなりになる日を数えて、その餅の準備を熱心にして、籠物や桧破子などまで御覧になりながら、世間一般の平凡なものにはしまいとお考え向きになって、沈、紫檀、銀、黄金など、それぞれの専門の工匠をたいそう大勢呼び集めさせなさるので、自分こそは負けまいと、いろいろのものを作り出すようである。<BR>⏎ ご自身も、いつものように、宮がいらっしゃらない間においでになった。気のせいであろうか、もう一段と重々しく立派な感じが加わったと見える。「今は、そうはいっても、わずらわしかった懸想事などは忘れなさったろう」と思うと、安心なので、お会いなさった。けれど、以前のままの様子で、まっさきに涙ぐんで、<BR>⏎ | 672-673 | 宮の若君が五十日におなりになる日を数えて、その餅の準備を熱心にして、籠物や桧破子などまで御覧になりながら、世間一般の平凡なものにはしまいとお考え向きになって、沈,紫檀,銀,黄金など、それぞれの専門の工匠をたいそう大勢呼び集めさせなさるので、自分こそは負けまいと、いろいろのものを作り出すようである。<BR>⏎ ご自身も、いつものように、宮がいらっしゃらない間においでになった。気のせいであろうか、もう一段と重々しく立派な感じが加わったと見える。「今は、そうはいっても、わずらわしかった懸想事などは忘れなさったろう」と思うと、安心なので、お会いなさった。けれど,以前のままの様子で、まっさきに涙ぐんで、<BR>⏎ |
| c1 | 747 | と、何の遠慮もなく訴えなさる。<BR>⏎ | 675 | と,何の遠慮もなく訴えなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 749-750 | などとおっしゃるが、これほどめでたい幾つものことにも心が晴れず、「忘れがたく思っていらっしゃるのだろう愛情の深さは」としみじみお察し申し上げなさると、並々でない愛情だとお分かりになる。「生きていらっしゃったら」と、残念にお思い出し申し上げなさるが、「そうしても、自分と同じようになって、姉妹で恨みっこなしに恨むのがおちであろう。何事も、落ちぶれた身の上では、一人前らしいこともありえないのだ」と思われると、ますます、姉君の結婚しないで通そうと思っていらっしゃった考えは、やはり、とても重々しく思い出されなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 677 | などとおっしゃるが、これほどめでたい幾つものことにも心が晴れず、「忘れがたく思っていらっしゃるのだろう愛情の深さは」としみじみお察し申し上げなさると、並々でない愛情だとお分かりになる。「生きていらっしゃったら」と、残念にお思い出し申し上げなさるが、「そうしても,自分と同じようになって、姉妹で恨みっこなしに恨むのがおちであろう。何事も,落ちぶれた身の上では、一人前らしいこともありえないのだ」と思われると、ますます,姉君の結婚しないで通そうと思っていらっしゃった考えは、やはり,とても重々しく思い出されなさる。<BR>⏎ |
| version49 | 751 | <A NAME="in85">[第五段 薫、中君の若君を見る]</A><BR> | 678 | |
| c1 | 753 | 当然のことながら、どうして憎らしいところがあろう。不吉なまでに白くかわいらしくて、大きい声で何か言っており、にっこりなどなさる顔を見ると、自分の子として見ていたく羨ましいのも、この世を離れにくくなったのであろうか。けれど、「亡くなってしまった方が、普通に結婚して、このようなお子を残しておいて下さったら」とばかり思われて、最近面目をほどこすあたりには、はやく子ができないかなどとは考えもつかないのは、あまり仕方のないこの君のお心のようだ。このように女々しくひねくれて、語り伝えるのもお気の毒である。<BR>⏎ | 680 | 当然のことながら、どうして憎らしいところがあろう。不吉なまでに白くかわいらしくて、大きい声で何か言っており、にっこりなどなさる顔を見ると、自分の子として見ていたく羨ましいのも、この世を離れにくくなったのであろうか。けれど,「亡くなってしまった方が、普通に結婚して、このようなお子を残しておいて下さったら」とばかり思われて、最近面目をほどこすあたりには、はやく子ができないかなどとは考えもつかないのは、あまり仕方のないこの君のお心のようだ。このように女々しくひねくれて、語り伝えるのもお気の毒である。<BR>⏎ |
| c1 | 755 | なるほど、まことにこのように幼い子をお見せなさるのもありがたいことなので、いつもよりはお話などをこまやかに申し上げなさるうちに、日も暮れたので、気楽に夜を更かすわけにもゆかないのを、つらく思われるので、嘆息しながらお出になった。<BR>⏎ | 682 | なるほど,まことにこのように幼い子をお見せなさるのもありがたいことなので、いつもよりはお話などをこまやかに申し上げなさるうちに、日も暮れたので、気楽に夜を更かすわけにもゆかないのを、つらく思われるので、嘆息しながらお出になった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 757-758 | などと、やっかいがる若い女房もいる。<BR>⏎ <P>⏎ | 684 | などと,やっかいがる若い女房もいる。<BR>⏎ |
| version49 | 759 | <A NAME="in86">[第六段 藤壺にて藤の花の宴催される]</A><BR> | 685 | |
| d1 | 769 | <P>⏎ | ||
| version49 | 770 | <A NAME="in87">[第七段 女二の宮、三条宮邸に渡御す]</A><BR> | 695 | |
| cd6:5 | 771-776 | 按察使大納言は、「自分こそはこのような目に会いたい思ったが、妬ましいことだ」と思っていらっしゃった。この宮の御母女御を、昔、思いをお懸け申し上げていらっしゃったが、入内なさった後も、やはり思いが離れないふうにお手紙を差し上げたりなさって、終いには宮を得たいとの考えがあったので、ご後見を希望する様子をお漏らし申し上げたが、お聞き入れさえなさらなかったので、たいそう悔しく思って、<BR>⏎ 「人柄は、なるほど前世の因縁による格別の生まれであろうが、どうして、時の帝が大仰なまでに婿を大切になさることだろう。他に例はないだろう。宮中の内で、お常御殿に近い所に、臣下が寛いで出入りして、最後は宴や何やとちやほやされることよ」<BR>⏎ などと、ひどく悪口をぶつぶつ申し上げなさったが、やはり盛儀を見たかったので、参内して、心中では腹を立てていらっしゃるのだった。<BR>⏎ 紙燭を灯して何首もの和歌を献上する。文台のもとに寄りながら置く時の態度は、それぞれ得意顔であったが、例によって、「どんなにかおかしげで古めかしかったろう」と想像されるので、むやみに全部は探して書かない。上等の部も、身分が高いからといって、詠みぶりは、格別なことは見えないようだが、しるしばかりにと思って、一、二首聞いておいた。この歌は、大将の君が、庭に下りて帝の冠に挿す藤の花を折って参上なさった時のものとか。<BR>⏎ 「帝の插頭に折ろうとして藤の花を<BR>⏎ わたしの及ばない袖にかけてしまいました」<BR>⏎ | 696-700 | 按察使大納言は、「自分こそはこのような目に会いたい思ったが、妬ましいことだ」と思っていらっしゃった。この宮の御母女御を、昔,思いをお懸け申し上げていらっしゃったが、入内なさった後も、やはり思いが離れないふうにお手紙を差し上げたりなさって、終いには宮を得たいとの考えがあったので、ご後見を希望する様子をお漏らし申し上げたが、お聞き入れさえなさらなかったので、たいそう悔しく思って、<BR>⏎ 「人柄は、なるほど前世の因縁による格別の生まれであろうが、どうして,時の帝が大仰なまでに婿を大切になさることだろう。他に例はないだろう。宮中の内で、お常御殿に近い所に、臣下が寛いで出入りして、最後は宴や何やとちやほやされることよ」<BR>⏎ などと,ひどく悪口をぶつぶつ申し上げなさったが、やはり盛儀を見たかったので、参内して、心中では腹を立てていらっしゃるのだった。<BR>⏎ 紙燭を灯して何首もの和歌を献上する。文台のもとに寄りながら置く時の態度は、それぞれ得意顔であったが、例によって、「どんなにかおかしげで古めかしかったろう」と想像されるので、むやみに全部は探して書かない。上等の部も、身分が高いからといって、詠みぶりは、格別なことは見えないようだが、しるしばかりにと思って、一,二首聞いておいた。この歌は,大将の君が、庭に下りて帝の冠に挿す藤の花を折って参上なさった時のものとか。<BR>⏎ 「帝の插頭に折ろうとして藤の花を<BR> わたしの及ばない袖にかけてしまいました」<BR>⏎ |
| cd7:4 | 778-784 | 「万世を変わらず咲き匂う花であるから<BR>⏎ 今日も見飽きない花の色として見ます」<BR>⏎ 「主君のため折った插頭の花は<BR>⏎ 紫の雲にも劣らない花の様子です」<BR>⏎ 「世間一般の花の色とも見えません<BR>⏎ 宮中まで立ち上った藤の花は」<BR>⏎ 「これがこの腹を立てた大納言のであった」と見える。一部は、聞き違いであったかも知れない。このように、格別に風雅な点もない歌ばかりであった。<BR>⏎ | 702-705 | 「万世を変わらず咲き匂う花であるから<BR> 今日も見飽きない花の色として見ます」<BR>⏎ 「主君のため折った插頭の花は<BR> 紫の雲にも劣らない花の様子です」<BR>⏎ 「世間一般の花の色とも見えません<BR> 宮中まで立ち上った藤の花は」<BR>⏎ 「これがこの腹を立てた大納言のであった」と見える。一部は、聞き違いであったかも知れない。このように,格別に風雅な点もない歌ばかりであった。<BR>⏎ |
| c1 | 786 | 暁が近くなってお帰りあそばした。禄などを、上達部や、親王方には、主上から御下賜になる。殿上人や、楽所の人びとには、宮の御方から身分に応じてお与えになった。<BR>⏎ | 707 | 暁が近くなってお帰りあそばした。禄などを、上達部や,親王方には、主上から御下賜になる。殿上人や、楽所の人びとには、宮の御方から身分に応じてお与えになった。<BR>⏎ |
| c1 | 788 | こうして、寛いで拝見なさると、まことに立派でいらっしゃる。小柄で上品でしっとりとして、ここがいけないと見えるところもなくいらっしゃるので、「運命も悪くはなかった」と、心中得意にならずにいらないが、亡くなった姫君が忘れられればよいのだが、やはり気持ちの紛れる時なく、そればかりが恋しく思い出されるので、<BR>⏎ | 709 | こうして,寛いで拝見なさると、まことに立派でいらっしゃる。小柄で上品でしっとりとして、ここがいけないと見えるところもなくいらっしゃるので、「運命も悪くはなかった」と、心中得意にならずにいらないが、亡くなった姫君が忘れられればよいのだが、やはり気持ちの紛れる時なく、そればかりが恋しく思い出されるので、<BR>⏎ |
| d1 | 791 | <P>⏎ | ||
| version49 | 792 | <H4>第九章 薫の物語 宇治で浮舟に出逢う</H4> | 712 | |
| version49 | 793 | <A NAME="in91">[第一段 四月二十日過ぎ、薫、宇治で浮舟に邂逅]</A><BR> | 713 | |
| c1 | 795 | 造らせなさっている御堂を御覧になって、なすべき事などをお命じになって、そうして、いつものように、弁のもとを素通りいたすのも、やはり気の毒なので、そちらにお出でになると、女車が仰々しい様子ではないのが一台、荒々しい東男が腰に刀を付けた者を、大勢従えて、下人も数多く頼もしそうな様子で、橋を今渡って来るのが見える。<BR>⏎ | 715 | 造らせなさっている御堂を御覧になって、なすべき事などをお命じになって、そうして,いつものように、弁のもとを素通りいたすのも、やはり気の毒なので、そちらにお出でになると、女車が仰々しい様子ではないのが一台、荒々しい東男が 腰に刀を付けた者を、大勢従えて、下人も数多く頼もしそうな様子で、橋を今渡って来るのが見える。<BR>⏎ |
| c1 | 801 | 「おや、そうだ、聞いたことのある人だ」<BR>⏎ | 721 | 「おや,そうだ、聞いたことのある人だ」<BR>⏎ |
| c1 | 803 | 「早く、お車を入れなさい。ここには、別に泊まっている人がいらっしゃるが、北面のほうにおいでです」<BR>⏎ | 723 | 「早く,お車を入れなさい。ここには,別に泊まっている人がいらっしゃるが、北面のほうにおいでです」<BR>⏎ |
| c1 | 808 | と、まっさきに口止めなさっていたので、みなそのように心得て、<BR>⏎ | 728 | と,まっさきに口止めなさっていたので、みなそのように心得て、<BR>⏎ |
| d1 | 811 | <P>⏎ | ||
| version49 | 812 | <A NAME="in92">[第二段 薫、浮舟を垣間見る]</A><BR> | 731 | |
| c1 | 813 | 若い女房がいるが、まず降りて、簾を上げるようである。御前駆の様子よりは、この女房は物馴れていて見苦しくない。また、年とった女房がもう一人降りて、「早く」と言うと、<BR>⏎ | 732 | 若い女房がいるが、まず降りて、簾を上げるようである。御前駆の様子よりは、この女房は物馴れていて見苦しくない。また,年とった女房がもう一人降りて、「早く」と言うと、<BR>⏎ |
| c2 | 816-817 | 「いつものおことです。こちらは、以前にも格子を下ろしきってございました。それでは、どこがまた丸見えでしょうか」<BR>⏎ と、安心しきって言う。遠慮深そうに降りるのを見ると、まず、頭の恰好、身体つき、細くて上品な感じは、たいそうよく亡き姫君を思い出されよう。扇でぴったりと顔を隠しているので、顔の見えないところは見たくて、胸をどきどきさせながら御覧になる。<BR>⏎ | 735-736 | 「いつものおことです。こちらは、以前にも格子を下ろしきってございました。それでは,どこがまた丸見えでしょうか」<BR>⏎ と,安心しきって言う。遠慮深そうに降りるのを見ると、まず,頭の恰好、身体つき、細くて上品な感じは、たいそうよく亡き姫君を思い出されよう。扇でぴったりと顔を隠しているので、顔の見えないところは見たくて、胸をどきどきさせながら御覧になる。<BR>⏎ |
| c1 | 819 | 四尺の屏風を、この襖障子に添えて立ててあるが、上から見える穴なので、丸見えである。こちらを不安そうに思って、あちらを向いて物に寄り臥した。<BR>⏎ | 738 | 四尺の屏風を、この襖障子に添えて立ててあるが、上から見える穴なので、丸見えである。こちらを不安そうに思って、あちらを向いて 物に寄り臥した。<BR>⏎ |
| c2 | 821-822 | 「いやなに、出歩くことは、東国の旅を思えば、どこが恐ろしいことがありましょう」<BR>⏎ などと、二人でつらいとも思わず言っているのに、主人は音も立てずに臥せっていた。腕をさし出しているのが、まるまるとかわいらしいのを、常陸殿の娘とも思えない、まことに上品である。<BR>⏎ | 740-741 | 「いやなに,出歩くことは、東国の旅を思えば、どこが恐ろしいことがありましょう」<BR>⏎ などと,二人でつらいとも思わず言っているのに、主人は音も立てずに臥せっていた。腕をさし出しているのが、まるまるとかわいらしいのを、常陸殿の娘とも思えない、まことに上品である。<BR>⏎ |
| c1 | 824 | 「まあ、いい香りのすること。たいそうな香の匂いがしますわ。尼君が焚いていらっしゃるのかしら」<BR>⏎ | 743 | 「まあ,いい香りのすること。たいそうな香の匂いがしますわ。尼君が焚いていらっしゃるのかしら」<BR>⏎ |
| c1 | 827 | などと、誉めていた。あちらの簀子から童女が来て、<BR>⏎ | 746 | などと,誉めていた。あちらの簀子から童女が来て、<BR>⏎ |
| c1 | 829 | と言って、いくつもの折敷に次から次へとさし入れる。果物を取り寄せなどして、<BR>⏎ | 748 | と言って,いくつもの折敷に次から次へとさし入れる。果物を取り寄せなどして、<BR>⏎ |
| d1 | 833 | <P>⏎ | ||
| version49 | 834 | <A NAME="in93">[第三段 浮舟、弁の尼と対面]</A><BR> | 752 | |
| c1 | 837 | と、お供の人びとが心づかいして言ったので、「この君を探し出したくおっしゃっていたので、このような機会に話し出そうとお思いになって、日暮れを待っていらっしゃったのか」と思って、このように覗いているとは知らない。<BR>⏎ | 755 | と,お供の人びとが心づかいして言ったので、「この君を探し出したくおっしゃっていたので、このような機会に話し出そうとお思いになって、日暮れを待っていらっしゃったのか」と思って、このように覗いているとは知らない。<BR>⏎ |
| c1 | 839 | 「昨日お着きになるとお待ち申し上げていましたが、どうして、今日もこんなに日が高くなってから」<BR>⏎ | 757 | 「昨日お着きになるとお待ち申し上げていましたが、どうして,今日もこんなに日が高くなってから」<BR>⏎ |
| c3 | 843-845 | 尼君への応対する声、感じは、宮の御方にもとてもよく似ているような聞こえる。<BR>⏎ 「何というなつかしい人であろう。このような人を、今まで探し出しもしないで過ごして来たとは。この人よりつまらないような身分の故姫宮に縁のある女でさえあったならば、これほど似通い申している人を手に入れてはいいかげんに思わない気がするが、まして、この人は、父宮に認知していただかなかったが、ほんとうに故宮のご息女だったのだ」<BR>⏎ とお分かりになっては、この上なく嬉しく思われなさる。「ただ今にでも、側に這い寄って、この世にいらっしゃったのですね」と言って慰めたい。蓬莱山まで探し求めて、釵だけを手に入れて御覧になったという帝は、やはり、物足りない気がしたろう。「この人は別の人であるが、慰められるところがありそうな様子だ」と思われるのは、この人と前世からの縁があったのであろうか。<BR>⏎ | 761-763 | 尼君への応対する声,感じは、宮の御方にもとてもよく似ているような聞こえる。<BR>⏎ 「何というなつかしい人であろう。このような人を、今まで探し出しもしないで過ごして来たとは。この人よりつまらないような身分の故姫宮に縁のある女でさえあったならば、これほど似通い申している人を手に入れては いいかげんに思わない気がするが、まして,この人は、父宮に認知していただかなかったが、ほんとうに故宮のご息女だったのだ」<BR>⏎ とお分かりになっては、この上なく嬉しく思われなさる。「ただ今にでも、側に這い寄って、この世にいらっしゃったのですね」と言って慰めたい。蓬莱山まで探し求めて、釵だけを手に入れて御覧になったという帝は、やはり,物足りない気がしたろう。「この人は別の人であるが、慰められるところがありそうな様子だ」と思われるのは、この人と前世からの縁があったのであろうか。<BR>⏎ |
| d1 | 847 | <P>⏎ | ||
| version49 | 848 | <A NAME="in94">[第四段 薫、弁の尼に仲立を依頼]</A><BR> | 765 | |
| c1 | 852 | 「そのように、仰せ言がございました後は、適当な機会がありましたら、と待っておりましたが、去年は過ぎて、今年の二月に、初瀬に参詣する機会に初めて対面しました。<BR>⏎ | 769 | 「そのように,仰せ言がございました後は、適当な機会がありましたら、と待っておりましたが、去年は過ぎて、今年の二月に、初瀬に参詣する機会に初めて対面しました。<BR>⏎ |
| c1 | 856 | 「田舎者めいた連中に、人目につかないようにやつしている姿を見られまいと、口固めしているが、どんなものであろう。下衆連中は隠すことはできまい。さて、どうしたものだろうか。独り身でいらっしゃるのは、かえって気楽だ。このように前世からの約束があって、巡り合わせたのだ、とお伝えください」<BR>⏎ | 773 | 「田舎者めいた連中に、人目につかないようにやつしている姿を見られまいと、口固めしているが、どんなものであろう。下衆連中は隠すことはできまい。さて,どうしたものだろうか。独り身でいらっしゃるのは、かえって気楽だ。このように前世からの約束があって、巡り合わせたのだ、とお伝えください」<BR>⏎ |
| cd5:4 | 859-863 | と、苦笑して、<BR>⏎ 「それでは、そのようにお伝えしましょう」<BR>⏎ と言って、中に入るときに、<BR>⏎ 「かお鳥の声も昔聞いた声に似ているかしらと<BR>⏎ 草の茂みを分け入って今日尋ねてきたのだ」<BR>⏎ | 776-779 | と,苦笑して、<BR>⏎ 「それでは,そのようにお伝えしましょう」<BR>⏎ と言って,中に入るときに、<BR>⏎ 「かお鳥の声も昔聞いた声に似ているかしらと<BR> 草の茂みを分け入って今日尋ねてきたのだ」<BR>⏎ |
| d2 | 865-866 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 873 | ⏎ | ||
| i0 | 791 | |||
| diff | src/original/version50.html | src/modified/version50.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version50 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 72 | <LI>宇治に到着、薫、京に手紙を書く---<A HREF="#in67">宇治にお着きになって、「ああ、亡き方の魂がとどまって</A>⏎ | 69 | <LI>宇治に到着、薫、京に手紙を書く---<A HREF="#in67">宇治にお着きになって、「ああ,亡き方の魂がとどまって</A>⏎ |
| d1 | 76 | <P>⏎ | ||
| version50 | 77 | <H4>第一章 浮舟の物語 左近少将との縁談とその破綻</H4> | 73 | |
| version50 | 78 | <A NAME="in11">[第一段 浮舟の母、娘の良縁を願う]</A><BR> | 74 | |
| c2 | 80-81 | あの尼君のもとから、母北の方におっしゃったことなどを、何度もそれとなく言ってよこすが、本気でお心がとまるように思われないので、ただ、そんなにまでお探してご存知になったこと、というぐらいにおもしろく思って、ご身分が今の世ではめったにないようなのにつけても、人並みの身分であったら、などといろいろと思うのであった。<BR>⏎ 常陸介の子供は、母親が亡くなった者など、大勢いて、今の母腹にも、姫君と名づけて大切にする者があり、まだ幼い者など、次々に五、六人いたので、いろいろと子供の世話をしながら、連れ子と思い隔てる気持ちがあったので、いつもとてもつらいと介を恨みながら、「何とかすぐれて、晴れがましいところに縁づけたい」と、明け暮れ、この母君は思い世話をしていたのであった。<BR>⏎ | 76-77 | あの尼君のもとから、母北の方におっしゃったことなどを、何度もそれとなく言ってよこすが、本気でお心がとまるように思われないので、ただ,そんなにまでお探してご存知になったこと、というぐらいにおもしろく思って、ご身分が今の世ではめったにないようなのにつけても、人並みの身分であったら、などといろいろと思うのであった。<BR>⏎ 常陸介の子供は、母親が亡くなった者など、大勢いて,今の母腹にも、姫君と名づけて大切にする者があり、まだ幼い者など、次々に五,六人いたので、いろいろと子供の世話をしながら、連れ子と思い隔てる気持ちがあったので、いつもとてもつらいと介を恨みながら、「何とかすぐれて、晴れがましいところに縁づけたい」と、明け暮れ、この母君は思い世話をしていたのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 83-84 | 娘が多いと聞いて、なまじ公達めいた人びとも、恋文を送り言い寄るのが、たいそう大勢いるのであった。先妻の腹の二、三人は、皆それぞれに縁づけて、一人前にさせていた。今は自分の姫君を、「思い通りにお世話申したい」と、朝から晩まで気をつけて、大切にお世話することこの上ない。<BR>⏎ <P>⏎ | 79 | 娘が多いと聞いて、なまじ公達めいた人びとも、恋文を送り言い寄るのが、たいそう大勢いるのであった。先妻の腹の二,三人は、皆それぞれに縁づけて、一人前にさせていた。今は自分の姫君を、「思い通りにお世話申したい」と、朝から晩まで気をつけて、大切にお世話することこの上ない。<BR>⏎ |
| version50 | 85 | <A NAME="in12">[第二段 継父常陸介と求婚者左近少将]</A><BR> | 80 | |
| c1 | 90 | などと、素晴らしいように言い作って、恋心を尽くしあっている中で、左近少将といって、年は二十二、三歳くらいで、性格が落ち着いていて、学問があるという点では、誰からも認められていたが、きらきらしく派手にはしていなかったのか、通っていた妻とも縁が切れて、たいそう熱心に言い寄って来るのであった。<BR>⏎ | 85 | などと,素晴らしいように言い作って、恋心を尽くしあっている中で、左近少将といって、年は二十二,三歳くらいで、性格が落ち着いていて、学問があるという点では、誰からも認められていたが、きらきらしく派手にはしていなかったのか、通っていた妻とも縁が切れて、たいそう熱心に言い寄って来るのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 98 | 一曲習得すると、師匠を立ったり座ったり拝んでお礼申し上げ、謝礼を与えることは、それで埋まるほどに啄騒ぎする。調子の早い曲などを教えて、師匠と一緒に、美しい夕暮時などに、合奏して遊ぶときは、涙も隠さず、馬鹿馬鹿しいまでに、それほど感動していた。このようなことを、母君は、少しは物事を知っていて、とても見苦しいと思うので、特に相手にしないのを、<BR>⏎ | 93 | 一曲習得すると、師匠を立ったり座ったり拝んでお礼申し上げ、謝礼を与えることは、それで埋まるほどに大騒ぎする。調子の早い曲などを教えて、師匠と一緒に、美しい夕暮時などに、合奏して遊ぶときは、涙も隠さず、馬鹿馬鹿しいまでに、それほど感動していた。このようなことを、母君は、少しは物事を知っていて、とても見苦しいと思うので、特に相手にしないのを、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 100-101 | と、いつも恨んでいるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 95 | と,いつも恨んでいるのであった。<BR>⏎ |
| version50 | 102 | <A NAME="in13">[第三段 左近少将、浮舟が継子だと知る]</A><BR> | 96 | |
| c1 | 103 | こうして、あの少将は、約束した月を待たないで、「同じことなら早く」と催促したので、自分の考え一つで、このように急ぐのも、たいそう気がひけて、相手の心の知りにくいことを思って、初めから取り次いだ人が来たので、近くに呼んで相談する。<BR>⏎ | 97 | こうして,あの少将は、約束した月を待たないで、「同じことなら早く」と催促したので、自分の考え一つで、このように急ぐのも、たいそう気がひけて、相手の心の知りにくいことを思って、初めから取り次いだ人が来たので、近くに呼んで相談する。<BR>⏎ |
| c1 | 109 | 「初めから、全然、介の娘でないということを聞かなかった。同じ結婚であるが、人聞きも劣った気がして、出入りするにも良くないことであろう。詳しく調べもしないで、いいかげんなことを伝えて」<BR>⏎ | 103 | 「初めから,全然、介の娘でないということを聞かなかった。同じ結婚であるが、人聞きも劣った気がして、出入りするにも良くないことであろう。詳しく調べもしないで、いいかげんなことを伝えて」<BR>⏎ |
| c2 | 112-113 | 器量や、気立てもすぐれていらっしゃることは、母上がかわいがっていらっしゃって、晴れがましく面目のたつようにしようと、大切にお育てしていると聞いておりましたので、何とかあの介の家と縁組を取り持ってくれる人がいないものか、とおっしゃいましたので、あるつてを存じておりますと、申し上げたのです。まったく、いいかげんなという非難を、受けることはございませんはずです」<BR>⏎ と、腹黒く口数の多い者で、こう申すので、少将の君は、大して上品でない様子で、<BR>⏎ | 106-107 | 器量や、気立てもすぐれていらっしゃることは、母上がかわいがっていらっしゃって、晴れがましく面目のたつようにしようと、大切にお育てしていると聞いておりましたので、何とかあの介の家と縁組を取り持ってくれる人がいないものか、とおっしゃいましたので、あるつてを存じておりますと、申し上げたのです。まったく,いいかげんなという非難を、受けることはございませんはずです」<BR>⏎ と,腹黒く口数の多い者で、こう申すので、少将の君は、大して上品でない様子で、<BR>⏎ |
| d1 | 117 | <P>⏎ | ||
| version50 | 118 | <A NAME="in14">[第四段 左近少将、常陸介の実娘を所望す]</A><BR> | 111 | |
| c2 | 122-123 | 「さあね。初めからあのように申し込んでいたことをおいて、別の娘に申し込むのも嫌な気がする。けれど、自分の願いは、あの常陸介の、人柄も堂々として、老成している人なので、後見人ともしたく、考えるところがあって思い始めたことなのだ。もっぱら器量や、容姿のすぐれている女の希望もない。上品で優美な女を望むなら、簡単に得られよう。<BR>⏎ けれど、物寂しく不如意でいて、風雅を好む人の最後は、みすぼらしい暮らしで、人から人とも思われないのを見ると、少し人から馬鹿にされようとも、平穏に世の中を過ごしたいと願うのである。介に、このように話して、そのように認める様子があったら、何の、かまうものか」<BR>⏎ | 115-116 | 「さあね。初めからあのように申し込んでいたことをおいて、別の娘に申し込むのも嫌な気がする。けれど,自分の願いは、あの常陸介の、人柄も堂々として、老成している人なので、後見人ともしたく、考えるところがあって思い始めたことなのだ。もっぱら器量や、容姿のすぐれている女の希望もない。上品で優美な女を望むなら、簡単に得られよう。<BR>⏎ けれど,物寂しく不如意でいて、風雅を好む人の最後は、みすぼらしい暮らしで、人から人とも思われないのを見ると、少し人から馬鹿にされようとも、平穏に世の中を過ごしたいと願うのである。介に、このように話して、そのように認める様子があったら、何の、かまうものか」<BR>⏎ |
| d1 | 125 | <P>⏎ | ||
| version50 | 126 | <A NAME="in15">[第五段 常陸介、左近少将に満足す]</A><BR> | 118 | |
| c1 | 131 | と、どこか荒々しい様子であるが、<BR>⏎ | 123 | と,どこか荒々しい様子であるが、<BR>⏎ |
| c2 | 136-137 | だと、しきりに申す人びとが大勢ございますようなので、ただ今お困りになっています。<BR>⏎ 『初めからただ威勢がよく、後見者としてお頼り申すのに、十分でいらっしゃるご評判をお選び申して、求婚しは始めたのです。まったく、他人の娘がいらっしゃるということは知らなかったので、最初の希望通りに、まだ幼い娘も大勢いらっしゃるというのを、お許しくださったら、ますます嬉しい。ご機嫌を伺って来るように』<BR>⏎ | 128-129 | だと,しきりに申す人びとが大勢ございますようなので、ただ今お困りになっています。<BR>⏎ 『初めからただ威勢がよく、後見者としてお頼り申すのに、十分でいらっしゃるご評判をお選び申して、求婚しは始めたのです。まったく,他人の娘がいらっしゃるということは知らなかったので、最初の希望通りに、まだ幼い娘も大勢いらっしゃるというのを、お許しくださったら、ますます嬉しい。ご機嫌を伺って来るように』<BR>⏎ |
| c2 | 140-141 | 「まったく、そのようなお便りがございますこと、詳しく存じませんでした。ほんとうに実の娘と同じように存じている人ですが、よろしくない娘どもが大勢おりまして、大したことでもないわが身で、いろいろとお世話申し上げて来たところ、母にあたる者も、わたしがこの娘を自分の娘と分け隔てしていると、僻んで言うことがありまして、何とも口出しさせない人のことでございましたので、ちらっと、そのようにおっしゃったということは聞きましたが、わたしを期待してお思いになっていたお心がありましたとは、存じませんでした。<BR>⏎ それは、実に嬉しく存じられることでございます。たいそうかわいいと思う幼い娘は、大勢の娘たちの中で、この子を命に代えてもよいと思っております。求婚なさる方々はいるが、今の世の中の人の心は、頼りないと聞いておりますので、かえって胸を痛めることになろうかと遠慮され、決心することもございませんでした。<BR>⏎ | 132-133 | 「まったく,そのようなお便りがございますこと、詳しく存じませんでした。ほんとうに実の娘と同じように存じている人ですが、よろしくない娘どもが大勢おりまして、大したことでもないわが身で、いろいろとお世話申し上げて来たところ、母にあたる者も、わたしがこの娘を自分の娘と分け隔てしていると、僻んで言うことがありまして、何とも口出しさせない人のことでございましたので、ちらっと、そのようにおっしゃったということは聞きましたが、わたしを期待してお思いになっていたお心がありましたとは、存じませんでした。<BR>⏎ それは,実に嬉しく存じられることでございます。たいそうかわいいと思う幼い娘は、大勢の娘たちの中で、この子を命に代えてもよいと思っております。求婚なさる方々はいるが、今の世の中の人の心は、頼りないと聞いておりますので、かえって胸を痛めることになろうかと遠慮され、決心することもございませんでした。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 144-145 | と、たいそうこまごまと言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 136 | と,たいそうこまごまと言う。<BR>⏎ |
| version50 | 146 | <A NAME="in16">[第六段 仲人、左近少将を絶賛す]</A><BR> | 137 | |
| cd2:1 | 152-153 | と、たいそう言葉多く、うまそうに言い続けるので、まことにあきれるほど田舎人めいた介なので、にっこりして聞いていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 143 | と,たいそう言葉多く、うまそうに言い続けるので、まことにあきれるほど田舎人めいた介なので、にっこりして聞いていた。<BR>⏎ |
| version50 | 154 | <A NAME="in17">[第七段 左近少将、浮舟から常陸介の実娘にのり換える]</A><BR> | 144 | |
| c3 | 157-159 | 今上の帝が、あのように引き立てなさるというのであれば、ご後見は不安なことはあるまい。この縁談は、あの方のためにも、わたしの娘のためにも、幸福なことになるかも知れません」<BR>⏎ と、結構なように言うときに、実に嬉しくなって、仲人の妹にもこのような話があったとは話さず、あちらにも寄りつかないで、常陸介の言ったことを、「まことにたいそう結構な話だ」と思って申し上げるので、少将の君は、「少し田舎者めいている」とお聞きになったが、憎くは思わず、ほほ笑んで聞いていらっしゃった。大臣になるための物資を調達するなどと、あまりに大げさなことだと、耳が止まるのだった。<BR>⏎ 「ところで、あの北の方には、このようになったとを伝えましたか。格別熱心に思い始めなさったので、変えたりするのは、間違った筋の通らないことのように取り沙汰する人もいるだろう。どんなものかしら」<BR>⏎ | 147-149 | 今上の帝が、あのように引き立てなさるというのであれば、ご後見は不安なことはあるまい。この縁談は,あの方のためにも、わたしの娘のためにも、幸福なことになるかも知れません」<BR>⏎ と,結構なように言うときに、実に嬉しくなって、仲人の妹にもこのような話があったとは話さず、あちらにも寄りつかないで、常陸介の言ったことを、「まことにたいそう結構な話だ」と思って申し上げるので、少将の君は、「少し田舎者めいている」とお聞きになったが、憎くは思わず、ほほ笑んで聞いていらっしゃった。大臣になるための物資を調達するなどと、あまりに大げさなことだと、耳が止まるのだった。<BR>⏎ 「ところで,あの北の方には、このようになったとを伝えましたか。格別熱心に思い始めなさったので、変えたりするのは、間違った筋の通らないことのように取り沙汰する人もいるだろう。どんなものかしら」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 161-163 | 「どうしてそのようなことがありましょうか。北の方も、あの姫君を、たいそう大切にお世話申し上げていらっしゃるのです。ただ、姉妹の中で最年長で、年齢も成人していらっしゃるのを、気の毒に思って、結婚をと考えて申されるのです」<BR>⏎ と申し上げる。「今までは、並々ならず大切にお世話していると言ったものの、急にこのように言うのもどんなものかしらと思うが、やはり、一度はつらいと恨まれ、人からも少しは非難されようとも、長い目で見れば頼りになることこそ大切だ」と、実に抜け目ないしっかりした方なので、決心してしまったので、その日まで変えずに、約束した夕方に、お通い始めなさったのだった。<BR>⏎ <P>⏎ | 151-152 | 「どうしてそのようなことがありましょうか。北の方も、あの姫君を、たいそう大切にお世話申し上げていらっしゃるのです。ただ,姉妹の中で最年長で、年齢も成人していらっしゃるのを、気の毒に思って、結婚をと考えて申されるのです」<BR>⏎ と申し上げる。「今までは、並々ならず大切にお世話していると言ったものの、急にこのように言うのもどんなものかしらと思うが、やはり,一度はつらいと恨まれ、人からも少しは非難されようとも、長い目で見れば頼りになることこそ大切だ」と、実に抜け目ないしっかりした方なので、決心してしまったので、その日まで変えずに、約束した夕方に、お通い始めなさったのだった。<BR>⏎ |
| version50 | 164 | <A NAME="in18">[第八段 浮舟の縁談、破綻す]</A><BR> | 153 | |
| c2 | 166-167 | 「お気の毒に。父親に認知していただいてお育ちになったならば、お亡くなりになったとしても、大将殿がおっしゃるようにも、分不相応だが、どうして思い立たないことがあろうか。けれども、内心ではこう思っても、世間の評判では、常陸介の娘と区別せずに、また、真実を知った人でも、かえって認知してもらえなかったゆえに見下すであろうことが悲しい」<BR>⏎ などと、思い続ける。<BR>⏎ | 155-156 | 「お気の毒に。父親に認知していただいてお育ちになったならば、お亡くなりになったとしても、大将殿がおっしゃるようにも、分不相応だが、どうして思い立たないことがあろうか。けれども,内心ではこう思っても、世間の評判では、常陸介の娘と区別せずに、また,真実を知った人でも、かえって認知してもらえなかったゆえに見下すであろうことが悲しい」<BR>⏎ などと,思い続ける。<BR>⏎ |
| c1 | 169 | などと、自分の考え一つで決めてしまうのも、仲人のこのような言葉巧みに大変なものだから、女はそれ以上にだまされたのだろうか。婚儀が明日明後日と思うと、心が落ち着かず気がせくので、こちらでものんびりとしていられず、そわそわと歩いていると、常陸介が外から入って来て、長々と、つかえるところもなく話し続けて、<BR>⏎ | 158 | などと,自分の考え一つで決めてしまうのも、仲人のこのような言葉巧みに大変なものだから、女はそれ以上にだまされたのだろうか。婚儀が明日明後日と思うと、心が落ち着かず気がせくので、こちらでものんびりとしていられず、そわそわと歩いていると、常陸介が外から入って来て、長々と、つかえるところもなく話し続けて、<BR>⏎ |
| c1 | 171 | などと、妙に無頓着で、相手の気持ちも考えない人で、言いまくっていた。<BR>⏎ | 160 | などと,妙に無頓着で、相手の気持ちも考えない人で、言いまくっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 173 | <P>⏎ | ||
| version50 | 174 | <H4>第二章 浮舟の物語 京に上り、匂宮夫妻と左近少将を見比べる</H4> | 162 | |
| version50 | 175 | <A NAME="in21">[第一段 浮舟の母と乳母の嘆き]</A><BR> | 163 | |
| c1 | 180 | 「なあに、これもご幸運なことで破談になったのかも知れません。あのように情けない方でいらっしゃるのだから、もったいない姫君の美しいご様子をご存知ないのでしょう。大事な姫君は、思慮もあり、道理の分かる方にこそ、差し上げたいものです。<BR>⏎ | 168 | 「なあに,これもご幸運なことで破談になったのかも知れません。あのように情けない方でいらっしゃるのだから、もったいない姫君の美しいご様子をご存知ないのでしょう。大事な姫君は、思慮もあり、道理の分かる方にこそ、差し上げたいものです。<BR>⏎ |
| c1 | 183 | 「まあ、恐ろしいこと。人の言うことを聞くと、長年、並大抵の女とは結婚しまいとおっしゃって、右の大殿や按察使大納言、式部卿宮などが、とても熱心にお申し込みなさったが、聞き流して、帝が大切にしている姫宮を得なさった君は、どれほどの人を熱心にお思いになりましょうか。<BR>⏎ | 171 | 「まあ,恐ろしいこと。人の言うことを聞くと、長年,並大抵の女とは結婚しまいとおっしゃって、右の大殿や按察使大納言,式部卿宮などが、とても熱心にお申し込みなさったが、聞き流して、帝が大切にしている姫宮を得なさった君は、どれほどの人を熱心にお思いになりましょうか。<BR>⏎ |
| c1 | 186 | 折々の仕打ちが、あのように癪な思いやりのないのが憎らしいが、嘆かわしく恨めしいこともなく、お互いに言い合っても、納得できないことははっきりさせました。上達部や、親王方で、優雅で心恥ずかしい方の所といっても、わたしのように一人前でない身分では詮のないことでしょう。<BR>⏎ | 174 | 折々の仕打ちが、あのように癪な思いやりのないのが憎らしいが、嘆かわしく恨めしいこともなく、お互いに言い合っても、納得できないことははっきりさせました。上達部や,親王方で、優雅で心恥ずかしい方の所といっても、わたしのように一人前でない身分では詮のないことでしょう。<BR>⏎ |
| d1 | 189 | <P>⏎ | ||
| version50 | 190 | <A NAME="in22">[第二段 継父常陸介、実娘の結婚の準備]</A><BR> | 177 | |
| c4 | 192-195 | 「女房など、こちらに無難な者が大勢いるので、当座の間、回してください。そのまま、帳台なども新調されたようなのをも、事情が急に変わったようなので、引っ越したり、あれこれ模様変えもしないことにしよう」<BR>⏎ と言って、西の対に来て、立ったり座ったりして、あれこれと準備に騒いでいる。体裁のよい様子にさっぱりとさせ、あちらこちらに必要な準備をすべて整えてあるところに、利口ぶって屏風類を持って来て、狭苦しいまでに立て並べて、厨子や二階棚など、妙なまで増やして、得意になって準備するので、北の方は見苦しいと思うが、口出しすまいと言ったので、ただ見聞きしている。御方は、北面に座っていた。<BR>⏎ 「あなたのお気持ちは、すっかり分かりました。全く同じ娘なのだから、そうは言っても、まるでこんなには放っておかれまいと思っていました。まあよい、世間に母親のない子は、いないのだから」<BR>⏎ と言って、娘を、昼から乳母と二人で、念入りに装い立てたので、憎らしいところもなく、十五、六歳の年齢で、たいそう小柄でふっくらとした人で、髪は美しく小袿の長さで、裾はとてもふさやかである。この娘を実に素晴らしいと思って、念入りに装っている。<BR>⏎ | 179-182 | 「女房など、こちらに無難な者が大勢いるので、当座の間、回してください。そのまま,帳台なども新調されたようなのをも、事情が急に変わったようなので、引っ越したり、あれこれ模様変えもしないことにしよう」<BR>⏎ と言って,西の対に来て、立ったり座ったりして、あれこれと準備に騒いでいる。体裁のよい様子にさっぱりとさせ、あちらこちらに必要な準備をすべて整えてあるところに、利口ぶって屏風類を持って来て、狭苦しいまでに立て並べて、厨子や二階棚など、妙なまで増やして、得意になって準備するので、北の方は見苦しいと思うが、口出しすまいと言ったので、ただ見聞きしている。御方は、北面に座っていた。<BR>⏎ 「あなたのお気持ちは、すっかり分かりました。全く同じ娘なのだから、そうは言っても、まるでこんなには放っておかれまいと思っていました。まあよい,世間に母親のない子は、いないのだから」<BR>⏎ と言って,娘を、昼から乳母と二人で、念入りに装い立てたので、憎らしいところもなく、十五,六歳の年齢で、たいそう小柄でふっくらとした人で、髪は美しく小袿の長さで、裾はとてもふさやかである。この娘を実に素晴らしいと思って、念入りに装っている。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 197-198 | と、あの仲人にだまされて言うのもほんとうに愚かである。男君も、「今般の待遇が豪勢で申し分ないこと」と、何の支障もないように思って、その夜も改めず通い始めた。<BR>⏎ <P>⏎ | 184 | と,あの仲人にだまされて言うのもほんとうに愚かである。男君も、「今般の待遇が豪勢で申し分ないこと」と、何の支障もないように思って、その夜も改めず通い始めた。<BR>⏎ |
| version50 | 199 | <A NAME="in23">[第三段 浮舟の母、京の中君に手紙を贈る]</A><BR> | 185 | |
| c1 | 202 | と、泣きながら書いた手紙を、しみじみと御覧になったが、「亡き父宮が、あれほどお許しにならずに終わった人を、自分一人が生き残って、親しく世話するのもたいそう気がひけるし、またみっともない恰好で世の中に落ちぶれているのを知らない顔をしているのも、いたわしいことだろう。特別なこともなくて、互いに散り散りになっているようなのも、亡き父宮のためにもみっともない事だ」と思案に暮れなさる。<BR>⏎ | 188 | と,泣きながら書いた手紙を、しみじみと御覧になったが、「亡き父宮が、あれほどお許しにならずに終わった人を、自分一人が生き残って、親しく世話するのもたいそう気がひけるし、またみっともない恰好で世の中に落ちぶれているのを知らない顔をしているのも、いたわしいことだろう。特別なこともなくて,互いに散り散りになっているようなのも、亡き父宮のためにもみっともない事だ」と思案に暮れなさる。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 206-208 | 「それでは、あの西の対に、人目につかない所を用意して、とてもむさ苦しいようですが、そうしてお過ごしになってはいかがですか、暫くの間を」<BR>⏎ と言い送った。とても嬉しく思って、人に知られないようにして出発する。御方も、あの方と親しく交際申したいと思う考えなので、かえって、このようなことが出て来たのを、嬉しく思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 192-193 | 「それでは,あの西の対に、人目につかない所を用意して、とてもむさ苦しいようですが、そうしてお過ごしになってはいかがですか、暫くの間を」<BR>⏎ と言い送った。とても嬉しく思って、人に知られないようにして出発する。御方も,あの方と 親しく交際申したいと思う考えなので、かえって,このようなことが出て来たのを、嬉しく思う。<BR>⏎ |
| version50 | 209 | <A NAME="in24">[第四段 母、浮舟を匂宮邸に連れ出す]</A><BR> | 194 | |
| c1 | 210 | 常陸介は、少将の新婚のもてなしを、どんなにか立派なふうにしようと思うが、その豪華にする方法も知らないので、ただ、粗末な東絹類を、おし丸めて投げ出した。食べ物も、あたり狭しと運び出して大騒ぎした。<BR>⏎ | 195 | 常陸介は、少将の新婚のもてなしを、どんなにか立派なふうにしようと思うが、その豪華にする方法も知らないので、ただ,粗末な東絹類を、おし丸めて投げ出した。食べ物も、あたり狭しと運び出して大騒ぎした。<BR>⏎ |
| c1 | 213 | 「この御方には、人並みに扱ってくださる人がいないので、馬鹿にしているのだろう」と思うと、特に認めていただけなかった所だが、無理に参上させる。乳母や、若い女房二、三人ほどして、西の廂の北側寄りで、人気の遠い所に部屋を用意した。<BR>⏎ | 198 | 「この御方には、人並みに扱ってくださる人がいないので、馬鹿にしているのだろう」と思うと、特に認めていただけなかった所だが、無理に参上させる。乳母や、若い女房 二,三人ほどして、西の廂の北側寄りで、人気の遠い所に部屋を用意した。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 216-217 | と思うと、このように無理してお親しみ申すのもつまらない。こちらには、御物忌と言ったので、誰も来ない。二、三日ほど母君もいた。今度は、のんびりとこちらのご様子を見る。<BR>⏎ <P>⏎ | 201 | と思うと、このように無理してお親しみ申すのもつまらない。こちらには、御物忌と言ったので、誰も来ない。二,三日ほど母君もいた。今度は、のんびりとこちらのご様子を見る。<BR>⏎ |
| version50 | 218 | <A NAME="in25">[第五段 浮舟の母、匂宮と中君夫妻を垣間見る]</A><BR> | 202 | |
| cd4:3 | 221-224 | 「まあ、この方はいったいどのようなお方か。このようなお方の所にいらっしゃる幸運なことよ。遠くで考えている時は、素晴らしい方々と申し上げても、つらい思いをさせなさったらと、嫌なお方とお思い申し上げていたのはあさはかな考えであったことよ。この方のご様子や器量を見ると、七夕のように年に一度の逢瀬でも、このようにお目にかかれてお通いいただけるのは、とてもありがたいことだわ」<BR>⏎ と思うと、若君を抱いてかわいがっていらっしゃる。女君は、短い几帳を隔てておいでになるが、押しやって、お話し申し上げなさる。そのお二方のご器量は、実に美しく似合っている。亡き父宮が寂しくいらっしゃった時のご様子を思い比べると、「宮様と申し上げても、とてもこの上なくいらっしゃるのだ」と思われる。<BR>⏎ 几帳の中にお入りになったので、若君は、若い女房や、乳母などがお相手申し上げる。官人たちが参集したが、気分が悪いと言って、お休みになって一日中を過ごされた。食膳をこちらで差し上げる。万事が気高くて、格別に見えるので、自分がどんなに善美を尽くしたと思っても、「普通の身分のすることは、たかが知れている」と悟ったので、「自分の娘も、このような立派な方の側に並べて見ても、不体裁ではあるまい。財力を頼んで、父親が、后にもしようと思っている娘たちは、同じわが子ながらも、感じがまるで違うのを思うと、やはり今後は理想は高く持つべきであるわ」と、一晩中将来の事を思い続けられる。<BR>⏎ <P>⏎ | 205-207 | 「まあ,この方はいったいどのようなお方か。このようなお方の所にいらっしゃる幸運なことよ。遠くで考えている時は、素晴らしい方々と申し上げても、つらい思いをさせなさったらと、嫌なお方とお思い申し上げていたのはあさはかな考えであったことよ。この方のご様子や器量を見ると、七夕のように年に一度の逢瀬でも、このようにお目にかかれてお通いいただけるのは、とてもありがたいことだわ」<BR>⏎ と思うと、若君を抱いてかわいがっていらっしゃる。女君は、短い几帳を隔てておいでになるが、押しやって、お話し申し上げなさる. そのお二方のご器量は、実に美しく似合っている。亡き父宮が寂しくいらっしゃった時のご様子を思い比べると、「宮様と申し上げても、とてもこの上なくいらっしゃるのだ」と思われる。<BR>⏎ 几帳の中にお入りになったので、若君は、若い女房や、乳母などがお相手申し上げる。官人たちが参集したが、気分が悪いと言って、お休みになって一日中を過ごされた。食膳をこちらで差し上げる。万事が気高くて、格別に見えるので、自分がどんなに善美を尽くしたと思っても、「普通の身分のすることは、たかが知れている」と悟ったので、「自分の娘も、このような立派な方の側に並べて見ても、不体裁ではあるまい。財力を頼んで、父親が、后にもしようと思っている娘たちは、同じわが子ながらも、感じがまるで違うのを思うと、やはり今後は 理想は高く持つべきであるわ」と、一晩中将来の事を思い続けられる。<BR>⏎ |
| version50 | 225 | <A NAME="in26">[第六段 浮舟の母、左近少将を垣間見て失望]</A><BR> | 208 | |
| c1 | 228 | と言って、ご装束などをお召しになっていらっしゃる。興味をもって覗くと、きちんと身づくろいなさったのが、また、似る者がいないほど気高く魅力的で美しくて、若君をお放しになることができず遊んでいらっしゃる。お粥や、強飯などを召し上がって、こちらからお出かけになる。<BR>⏎ | 211 | と言って,ご装束などをお召しになっていらっしゃる。興味をもって覗くと、きちんと身づくろいなさったのが、また,似る者がいないほど気高く魅力的で美しくて、若君をお放しになることができず遊んでいらっしゃる。お粥や、強飯などを召し上がって、こちらからお出かけになる。<BR>⏎ |
| c2 | 231-232 | 「いえ、こちらの女房たちはそんな噂は全然しません。あの君の方からは、よく聞く話ですよ」<BR>⏎ などと、めいめい言っている。聞いているとも知らないで、女房がこのように言っているのにつけても、胸がどきりとして、少将を無難だと思っていた考えも残念で、「なるほど、格別なことはなかったのだ」と思って、ますます馬鹿らしく思った。<BR>⏎ | 214-215 | 「いえ,こちらの女房たちはそんな噂は全然しません。あの君の方からは、よく聞く話ですよ」<BR>⏎ などと,めいめい言っている。聞いているとも知らないで、女房がこのように言っているのにつけても、胸がどきりとして、少将を無難だと思っていた考えも残念で、「なるほど,格別なことはなかったのだ」と思って、ますます馬鹿らしく思った。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 235-236 | と言って、暫くご機嫌をおとりになって、お出かけになった様子が、繰り返し見ても、どこまでも満ち足りていて、華やかにお美しいので、お出かけになった後の気持ちが、物足りなく物思いに沈んでしまう。<BR>⏎ <P>⏎ | 218 | と言って,暫くご機嫌をおとりになって、お出かけになった様子が、繰り返し見ても、どこまでも満ち足りていて、華やかにお美しいので、お出かけになった後の気持ちが、物足りなく物思いに沈んでしまう。<BR>⏎ |
| version50 | 237 | <H4>第三章 浮舟の物語 浮舟の母、中君に娘の浮舟を託す</H4> | 219 | |
| version50 | 238 | <A NAME="in31">[第一段 浮舟の母、中君と談話す]</A><BR> | 220 | |
| c2 | 241-242 | などと、泣きながら申し上げる。君もお泣きになって、<BR>⏎ 「世の中が恨めしく心細い時々も、またこのように生きていると、少しでも思いが慰められるときがあるのを、昔お頼り申し上げていた肉親たちに先立たれ申したときは、かえって世間一般の事と諦めもついて、お顔も存じ上げずになってしまったのを、それなのに、やはりこの姉君のご逝去は、いつまでも悲しいことです。大将が、何にも心が移らないことを愁えながら、深く変わらないご愛情を見るにつけても、まことに残念です」<BR>⏎ | 223-224 | などと,泣きながら申し上げる。君もお泣きになって、<BR>⏎ 「世の中が恨めしく心細い時々も、またこのように生きていると、少しでも思いが慰められるときがあるのを、昔お頼り申し上げていた肉親たちに先立たれ申したときは、かえって世間一般の事と諦めもついて、お顔も存じ上げずになってしまったのを、それなのに,やはりこの姉君のご逝去は、いつまでも悲しいことです。大将が、何にも心が移らないことを愁えながら、深く変わらないご愛情を見るにつけても、まことに残念です」<BR>⏎ |
| c2 | 246-247 | 「さあね、姉妹同じような運命だと、物笑いになる気がしましょうも、かえってつらい思いをしたことでしょう。途中で亡くなられたので、奥ゆかしくもある仲だ、と思いますが、あの君は、どういうわけでしょうか、不思議なまでに忘れないで、故父宮の亡き後の追善供養までを、深く考えてお世話してくださるようです」<BR>⏎ などと、素直にお話しなさる。<BR>⏎ | 228-229 | 「さあね,姉妹同じような運命だと、物笑いになる気がしましょうも、かえってつらい思いをしたことでしょう。途中で亡くなられたので、奥ゆかしくもある仲だ、と思いますが、あの君は、どういうわけでしょうか、不思議なまでに忘れないで、故父宮の亡き後の追善供養までを、深く考えてお世話してくださるようです」<BR>⏎ などと,素直にお話しなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 250 | <P>⏎ | ||
| version50 | 251 | <A NAME="in32">[第二段 浮舟の母、娘の不運を訴える]</A><BR> | 232 | |
| cd7:6 | 255-261 | 「おっしゃるように、お気の毒なご様子のようですが、どうして、人に馬鹿にされるご様子は、このように父親のいない人の常です。そうかといって、それもできる事でないので、一途にその方面にと父宮が考えていらっしゃったわたしの身の上でさえ、このように心ならずも生きながらえていますので、それ以上にとんでもない御事です。髪を落としなさるのも、おいたわしいほどのご器量です」<BR>⏎ などと、とても大人ぶっておっしゃると、母君は、たいそう嬉しく思った。ふけて見える姿だが、品がなくもない姿で小ぎれいである。ひどく太り過ぎているのが、常陸殿といった感じである。<BR>⏎ 「故宮が、つらく情けなくお見捨てになったので、ますます一人前らしくなく、人からも馬鹿にされなさると拝見しましたが、このようにお話し申し上げさせてただき、このようにお目にかからせていただけるにつけて、昔のつらさも晴れます」<BR>⏎ などと、長年の話や、浮島の美しい景色のことなどを申し上げる。<BR>⏎ 「自分一人だけがつらい思いをと、話し合う相手もいない筑波山での暮らしぶりも、このように胸が晴れるように申し上げて、いつも、まことにこのように伺候していたく存じなりましたが、あちらには出来の悪い卑しい娘たちが、どんなに騒いで捜していることでしょう。やはり落ち着かない気がいたします。このような受領の妻に身を落としているのは、情けないことでございましたと、身にしみて思い知られるのですが、この姫君は、ひたすらお任せ申し上げて、わたしは構いますまい」<BR>⏎ などと、お願い申し上げるようにするので、「なるほど、よい結婚をしてほしいものだ」と御覧になる。<BR>⏎ <P>⏎ | 236-241 | 「おっしゃるように,お気の毒なご様子のようですが、どうして,人に馬鹿にされるご様子は、このように父親のいない人の常です。そうかといって、それもできる事でないので、一途にその方面にと父宮が考えていらっしゃったわたしの身の上でさえ、このように心ならずも生きながらえていますので、それ以上にとんでもない御事です。髪を落としなさるのも、おいたわしいほどのご器量です」<BR>⏎ などと,とても大人ぶっておっしゃると、母君は、たいそう嬉しく思った。ふけて見える姿だが、品がなくもない姿で小ぎれいである。ひどく太り過ぎているのが、常陸殿といった感じである。<BR>⏎ 「故宮が、つらく情けなくお見捨てになったので、ますます一人前らしくなく、人からも馬鹿にされなさると拝見しましたが、このようにお話し申し上げさせてただき,このようにお目にかからせていただけるにつけて、昔のつらさも晴れます」<BR>⏎ などと,長年の話や、浮島の美しい景色のことなどを申し上げる。<BR>⏎ 「自分一人だけがつらい思いをと、話し合う相手もいない筑波山での暮らしぶりも、このように胸が晴れるように申し上げて、いつも,まことにこのように伺候していたく存じなりましたが、あちらには出来の悪い卑しい娘たちが、どんなに騒いで捜していることでしょう。やはり落ち着かない気がいたします。このような受領の妻に身を落としているのは、情けないことでございましたと、身にしみて思い知られるのですが、この姫君は、ひたすらお任せ申し上げて、わたしは構いますまい」<BR>⏎ などと,お願い申し上げるようにするので、「なるほど,よい結婚をしてほしいものだ」と御覧になる。<BR>⏎ |
| version50 | 262 | <A NAME="in33">[第三段 浮舟の母、薫を見て感嘆す]</A><BR> | 242 | |
| c1 | 263 | 器量も気立ても、憎むことができないほどかわいらしい。はにかみようも大げさでなく、よい具合におっとりしているものの、才気がないでなく、近くに仕えている女房たちに対しても、たいそうよく隠れていらっしゃる。何か言っているのも、亡くなった姉君のご様子に不思議なまでにお似申していることよ。あの人形を捜していらっしゃる方にお見せ申し上げたいと、ふと思い出しなさった折しも、<BR>⏎ | 243 | 器量も気立ても、憎むことができないほどかわいらしい。はにかみようも大げさでなく、よい具合におっとりしているものの、才気がないでなく、近くに仕えている女房たちに対しても、たいそうよく隠れていらっしゃる。何か言っているのも、亡くなった姉君のご様子に 不思議なまでにお似申していることよ。あの人形を捜していらっしゃる方にお見せ申し上げたいと、ふと思い出しなさった折しも、<BR>⏎ |
| c2 | 265-266 | と、女房が申し上げるので、いつものように、御几帳を整えて注意をする。この客人の母君は、<BR>⏎ 「それでは、拝見させていただきましょう。ちらっと拝見した人が、大変にお誉め申していたが、宮のご様子には、とてもお並びになることはできまい」<BR>⏎ | 245-246 | と,女房が申し上げるので、いつものように、御几帳を整えて注意をする。この客人の母君は、<BR>⏎ 「それでは,拝見させていただきましょう。ちらっと拝見した人が、大変にお誉め申していたが、宮のご様子には、とてもお並びになることはできまい」<BR>⏎ |
| c1 | 268 | 「さあね、とてもお定め申し上げることができません」<BR>⏎ | 248 | 「さあね,とてもお定め申し上げることができません」<BR>⏎ |
| c1 | 271 | などと言っているうちに、「今、車から降りなさっている」と聞く間、うるさいほど先払いの声がして、すぐにはお現れにならない。お待たされになっているうちに、歩いてお入りになる様子を見ると、なるほど、何ともご立派で、色めかしい風情とは見えないが、優雅で上品に美しい。<BR>⏎ | 251 | などと言っているうちに、「今、車から降りなさっている」と聞く間、うるさいほど先払いの声がして、すぐにはお現れにならない。お待たされになっているうちに、歩いてお入りになる様子を見ると、なるほど,何ともご立派で、色めかしい風情とは見えないが、優雅で上品に美しい。<BR>⏎ |
| c1 | 275 | 「なるほど、大変なこと、行き届いたお心遣いをいただきまして」<BR>⏎ | 255 | 「なるほど,大変なこと、行き届いたお心遣いをいただきまして」<BR>⏎ |
| d1 | 277 | <P>⏎ | ||
| version50 | 278 | <A NAME="in34">[第四段 中君、薫に浮舟を勧める]</A><BR> | 257 | |
| c1 | 280 | 「そんなにまで深く、どうして、いつまでも忘れられずばかりいらっしゃるのだろう。やはり、深く思っているように言い出したことだから、忘れられたと思われたくないのだろうか」などと、しいてお思いになるが、相手のご様子ははっきりとしているので、見ているうちに、しみじみとしたお気持ちを、岩木ではないから、お分かりになる。<BR>⏎ | 259 | 「そんなにまで深く、どうして,いつまでも忘れられずばかりいらっしゃるのだろう。やはり,深く思っているように言い出したことだから、忘れられたと思われたくないのだろうか」などと、しいてお思いになるが、相手のご様子ははっきりとしているので、見ているうちに、しみじみとしたお気持ちを、岩木ではないから、お分かりになる。<BR>⏎ |
| c2 | 283-284 | と、それとなく申し上げなさると、相手も平気な気持ちではいられず、興味をもったが、急に心移りする気はしない。<BR>⏎ 「さあ、そのご本尊が、願いをお満たしくださったら尊いことでしょうが、時々、悩ましく思うようでは、かえって悟りも濁ってしまいましょう」<BR>⏎ | 262-263 | と,それとなく申し上げなさると、相手も平気な気持ちではいられず、興味をもったが、急に心移りする気はしない。<BR>⏎ 「さあ,そのご本尊が、願いをお満たしくださったら尊いことでしょうが、時々、悩ましく思うようでは、かえって悟りも濁ってしまいましょう」<BR>⏎ |
| c2 | 287-288 | と、かすかにお笑いになるのも、おもしろく聞こえる。<BR>⏎ 「さあ、それでは、すっかりお伝えになってください。このお逃れの言葉も、思い出すと不吉な気がします」<BR>⏎ | 266-267 | と,かすかにお笑いになるのも、おもしろく聞こえる。<BR>⏎ 「さあ,それでは、すっかりお伝えになってください。このお逃れの言葉も、思い出すと不吉な気がします」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 290-294 | 「亡き姫君の形見ならば、いつも側において<BR>⏎ 恋しい折々の気持ちを移して流す撫物としよう」<BR>⏎ と、いつものように、冗談のように言って、紛らわしなさる。<BR>⏎ 「禊河の瀬々に流し出す撫物を<BR>⏎ いつまでも側に置いておくと誰が期待しましょう<BR>⏎ | 269-271 | 「亡き姫君の形見ならば、いつも側において<BR> 恋しい折々の気持ちを移して流す撫物としよう」<BR>⏎ と,いつものように、冗談のように言って、紛らわしなさる。<BR>⏎ 「禊河の瀬々に流し出す撫物を<BR> いつまでも側に置いておくと誰が期待しましょう<BR>⏎ |
| c1 | 297 | 「最後の寄る瀬は、言うまでもありませんよ。たいそういまいましいような水の泡にも負けないようでございますね。捨てられて流される撫物は、いやもう、まったくその通りです。どうして慰められることができましょうか」<BR>⏎ | 274 | 「最後の寄る瀬は、言うまでもありませんよ。たいそういまいましいような水の泡にも負けないようでございますね。捨てられて流される撫物は、いやもう,まったくその通りです。どうして慰められることができましょうか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 299-301 | 「今夜は、やはり、早くお帰りなさいませ」<BR>⏎ と、機嫌をおとりになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 276-277 | 「今夜は、やはり,早くお帰りなさいませ」<BR>⏎ と,機嫌をおとりになる。<BR>⏎ |
| version50 | 302 | <A NAME="in35">[第五段 浮舟の母、娘に貴人の婿を願う]</A><BR> | 278 | |
| c2 | 303-304 | 「それでは、その客人に、このような願いを何年も持っていたので、急になど、浅く考えないようにおっしゃってお知らせなさって、みっともない目にあわないように願います。とても不慣れでございますわが身には、何事も愚かしいほど不調法で」<BR>⏎ と、約束申してお出になったので、この母君、<BR>⏎ | 279-280 | 「それでは,その客人に、このような願いを何年も持っていたので、急になど、浅く考えないように おっしゃってお知らせなさって、みっともない目にあわないように願います。とても不慣れでございますわが身には、何事も愚かしいほど不調法で」<BR>⏎ と,約束申してお出になったので、この母君、<BR>⏎ |
| c2 | 308-309 | 「お経などを読んで、功徳のすぐれたことがあるようなのにつけても、香の芳しいのをこの上ないこととして、仏さまが説いておおきになったのも、もっともなことですわ。薬王品などに、特別に説かれている牛頭栴檀とかは、大げさな物の名前だが、まずあの大将殿が近くで身動きなさると、仏さまがほんとうにおっしゃったのだ、と思われます。子供でいらした時から、勤行も熱心になさっていたからですよ」<BR>⏎ などと言う者もいる。また、<BR>⏎ | 284-285 | 「お経などを読んで、功徳のすぐれたことがあるようなのにつけても、香の芳しいのをこの上ないこととして、仏さまが説いておおきになったのも、もっともなことですわ。薬王品などに、特別に説かれている 牛頭栴檀とかは、大げさな物の名前だが、まずあの大将殿が近くで身動きなさると、仏さまがほんとうにおっしゃったのだ、と思われます。子供でいらした時から、勤行も熱心になさっていたからですよ」<BR>⏎ などと言う者もいる。また,<BR>⏎ |
| cd2:1 | 311-312 | などと、口々に誉めることを、思わずにっこりして聞いていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 287 | などと,口々に誉めることを、思わずにっこりして聞いていた。<BR>⏎ |
| version50 | 313 | <A NAME="in36">[第六段 浮舟の母、中君に娘を託す]</A><BR> | 288 | |
| c1 | 315 | 「思いはじめたことは、執念深いまでに軽々しくなくいらっしゃるようなのを、なるほど、ただ今の様子などを思うと、やっかいな気持ちがしましょうが、あの出家をしても、などとお考えになるのも、同じこととお思いになって、お試しなさいませ」<BR>⏎ | 290 | 「思いはじめたことは、執念深いまでに軽々しくなくいらっしゃるようなのを、なるほど,ただ今の様子などを思うと、やっかいな気持ちがしましょうが、あの出家をしても、などとお考えになるのも、同じこととお思いになって、お試しなさいませ」<BR>⏎ |
| c1 | 317 | 「つらい目にあわず、誰からも馬鹿にされまいとの考えで、鳥の声が聞こえないような深山での生活まで考えておりました。おっしゃるように、殿のご様子や態度などを拝見して存じますことは、下仕えの身分などであっても、このような方のご身辺で、親しくしていただけるのは、生き甲斐のあることでしょう。まして若い女は、きっと心をお寄せ申し上げるにちがいないでしょうが、物の数にも入らない身で、物思いの種をますます蒔かせることになりましょうか。<BR>⏎ | 292 | 「つらい目にあわず、誰からも馬鹿にされまいとの考えで、鳥の声が聞こえないような深山での生活まで考えておりました。おっしゃるように,殿のご様子や態度などを拝見して存じますことは、下仕えの身分などであっても、このような方のご身辺で、親しくしていただけるのは、生き甲斐のあることでしょう。まして若い女は、きっと心をお寄せ申し上げるにちがいないでしょうが、物の数にも入らない身で、物思いの種をますます蒔かせることになりましょうか。<BR>⏎ |
| c1 | 323 | 「恐れ多いことですが、万事お頼み申し上げます。やはり、もうしばらくお隠しになって、巌の中なりとも、どこなりとも、思案いたします間は、人並みの者でございませんが、お見捨てなく、何事もお教えくださいませ」<BR>⏎ | 298 | 「恐れ多いことですが、万事お頼み申し上げます。やはり,もうしばらくお隠しになって、巌の中なりとも、どこなりとも、思案いたします間は、人並みの者でございませんが、お見捨てなく、何事もお教えくださいませ」<BR>⏎ |
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| version50 | 326 | <H4>第四章 浮舟と匂宮の物語 浮舟、匂宮に見つかり言い寄られる</H4> | 300 | |
| version50 | 327 | <A NAME="in41">[第一段 匂宮、二条院に帰邸]</A><BR> | 301 | |
| c1 | 330 | と目をお止めあそばす。「このように、忍んで通う女のもとから出る者か」と、ご自身の経験からお考えになるのも、嫌なことだ。<BR>⏎ | 304 | と目をお止めあそばす。「このように,忍んで通う女のもとから出る者か」と、ご自身の経験からお考えになるのも、嫌なことだ。<BR>⏎ |
| c1 | 334 | と、笑い合っているのを聞くと、「おっしゃるとおり、笑われてもしかたない身分だ」と悲しく思う。ただ、この御方のことを思うために、自分も人並みになりたいと思うのだった。それ以上に、ご本人を身分の低い男と結婚させるのは、ひどく惜しいと思った。宮が、お入りになって、<BR>⏎ | 308 | と,笑い合っているのを聞くと、「おっしゃるとおり,笑われてもしかたない身分だ」と悲しく思う。ただ,この御方のことを思うために、自分も人並みになりたいと思うのだった。それ以上に,ご本人を身分の低い男と結婚させるのは、ひどく惜しいと思った。宮が、お入りになって、<BR>⏎ |
| c1 | 336 | などと、やはりお疑いになっておっしゃる。「聞きにくく回りの者がどう思うか」とお思いになって、<BR>⏎ | 310 | などと,やはりお疑いになっておっしゃる。「聞きにくく回りの者がどう思うか」とお思いになって、<BR>⏎ |
| c1 | 338 | と、横を向きなさるのも、かわいらしく美しい。<BR>⏎ | 312 | と,横を向きなさるのも、かわいらしく美しい。<BR>⏎ |
| d1 | 340 | <P>⏎ | ||
| version50 | 341 | <A NAME="in42">[第二段 匂宮、浮舟に言い寄る]</A><BR> | 314 | |
| c3 | 344-346 | と、申し上げなさると、<BR>⏎ 「仰せのとおり、いらっしゃらない合間に、いつもは済ませます。妙に近頃は億劫になられまして、今日を過ごしたら、今月は吉日もありません。九月、十月は、とてもと思われまして、いたしておりますが」<BR>⏎ と、大輔はお気の毒がる。<BR>⏎ | 317-319 | と,申し上げなさると、<BR>⏎ 「仰せのとおり,いらっしゃらない合間に、いつもは済ませます。妙に近頃は億劫になられまして、今日を過ごしたら、今月は吉日もありません。九月、十月は、とてもと思われまして、いたしておりますが」<BR>⏎ と,大輔はお気の毒がる。<BR>⏎ |
| d1 | 353 | <P>⏎ | ||
| version50 | 354 | <A NAME="in43">[第三段 浮舟の乳母、困惑、右近、中君に急報]</A><BR> | 326 | |
| c1 | 356 | 「これは、どうしたことでございましょう。変な事でございます」<BR>⏎ | 328 | 「これは,どうしたことでございましょう。変な事でございます」<BR>⏎ |
| c1 | 359 | と言って、なれなれしく臥せりなさるので、「宮であったのだ」と思い当たって、乳母は、何とも言いようがなく驚きあきれていた。<BR>⏎ | 331 | と言って,なれなれしく臥せりなさるので、「宮であったのだ」と思い当たって、乳母は、何とも言いようがなく驚きあきれていた。<BR>⏎ |
| c3 | 361-363 | 「まあ、暗いわ。まだ大殿油もお灯けになっていないのですね。御格子を、苦労して、急いで下ろして、暗闇にまごつきますこと」<BR>⏎ と言って、引き上げるので、宮も、「ちょっと困ったな」とお聞きになる。乳母は、乳母で、まことに困ったことだと思って、遠慮せずせっかちで気の強い人なので、<BR>⏎ 「申し上げます。こちらに、とても怪しからんことがございまして、扱いあぐねて、身動きもとれずにおります」<BR>⏎ | 333-335 | 「まあ,暗いわ。まだ大殿油もお灯けになっていないのですね。御格子を、苦労して、急いで下ろして、暗闇にまごつきますこと」<BR>⏎ と言って,引き上げるので、宮も、「ちょっと困ったな」とお聞きになる。乳母は,乳母で、まことに困ったことだと思って、遠慮せずせっかちで気の強い人なので、<BR>⏎ 「申し上げます。こちらに,とても怪しからんことがございまして、扱いあぐねて、身動きもとれずにおります」<BR>⏎ |
| c2 | 365-366 | と言って、手探りで近づくと、袿姿の男が、とてもよい匂いで寄り添っていらっしゃるのを、「いつもの困ったお振る舞いだ」と気づくのだった。「女が同意なさるはずがない」と察せられるので、<BR>⏎ 「なるほど、とても見苦しいことでございますね。右近めは、何とも申し上げられません。早速参上して、ご主人にこっそりと申し上げましょう」<BR>⏎ | 337-338 | と言って,手探りで近づくと、袿姿の男が、とてもよい匂いで寄り添っていらっしゃるのを、「いつもの困ったお振る舞いだ」と気づくのだった。「女が同意なさるはずがない」と察せられるので、<BR>⏎ 「なるほど,とても見苦しいことでございますね。右近めは、何とも申し上げられません。早速参上して、ご主人にこっそりと申し上げましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 368 | 「驚くほどに上品で美しい人だな。やはり、どのような人なのであろうか。右近が言った様子からも、とても並の新参者ではないようだ」<BR>⏎ | 340 | 「驚くほどに上品で美しい人だな。やはり,どのような人なのであろうか。右近が言った様子からも、とても並の新参者ではないようだ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 374-375 | と、お気の毒にお思いになるが、「何と申し上げられよう。仕えている女房たちでも、少し若くて結構な女は、お見捨てになることのない、不思議なご性分の人なので、どのようにしてお気づきになったのだろう」とあきれて、何ともおっしゃれない。<BR>⏎ <P>⏎ | 346 | と,お気の毒にお思いになるが、「何と申し上げられよう。仕えている女房たちでも、少し若くて結構な女は、お見捨てになることのない、不思議なご性分の人なので、どのようにしてお気づきになったのだろう」とあきれて、何ともおっしゃれない。<BR>⏎ |
| version50 | 376 | <A NAME="in44">[第四段 宮中から使者が来て、浮舟、危機を脱出]</A><BR> | 347 | |
| c2 | 377-378 | 「上達部が大勢参上なさっている日なので、遊びに興じなさっては、いつも、このようなときには遅くお渡りになるので、みな気を許してお休みになっているのです。それにしても、どうしたらよいことでしょう。あの乳母は、気が強かった。ぴったりと付き添ってお守り申して、引っ張って放しかねないほどに思っていました」<BR>⏎ と、少将と二人で気の毒がっているところに、内裏から使者が参上して、大宮が今日の夕方からお胸を苦しがりあそばしていたが、ただ今ひどく重態におなりあそばした旨を申し上げる。右近は、<BR>⏎ | 348-349 | 「上達部が大勢参上なさっている日なので、遊びに興じなさっては、いつも,このようなときには遅くお渡りになるので、みな気を許してお休みになっているのです。それにしても、どうしたらよいことでしょう。あの乳母は、気が強かった。ぴったりと付き添ってお守り申して、引っ張って放しかねないほどに思っていました」<BR>⏎ と,少将と二人で気の毒がっているところに、内裏から使者が参上して、大宮が今日の夕方からお胸を苦しがりあそばしていたが、ただ今ひどく重態におなりあそばした旨を申し上げる。右近は、<BR>⏎ |
| c1 | 381 | 「さあ、でも、今からでは、手遅れであろうから、馬鹿らしくあまり脅かしなさいますな」<BR>⏎ | 352 | 「さあ,でも、今からでは、手遅れであろうから、馬鹿らしくあまり脅かしなさいますな」<BR>⏎ |
| c2 | 383-384 | 「いや、まだそこまではいってないでしょう」<BR>⏎ と、ひそひそとささやき合うのを、上は、「とても聞きずらいご性分の人のようだわ。少し考えのある人なら、わたしのことまでを軽蔑するだろう」とお思いになる。<BR>⏎ | 354-355 | 「いや,まだそこまではいってないでしょう」<BR>⏎ と,ひそひそとささやき合うのを、上は、「とても聞きずらいご性分の人のようだわ。少し考えのある人なら、わたしのことまでを軽蔑するだろう」とお思いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 391-392 | と申し上げるので、「なるほど、急に時々お苦しみになる折々もあるが」とお思いになるが、人がどう思うかも体裁悪くなって、たいそう恨んだり約束なさったりしてお出になった。<BR>⏎ <P>⏎ | 362 | と申し上げるので、「なるほど,急に時々お苦しみになる折々もあるが」とお思いになるが、人がどう思うかも体裁悪くなって、たいそう恨んだり約束なさったりしてお出になった。<BR>⏎ |
| version50 | 393 | <A NAME="in45">[第五段 乳母、浮舟を慰める]</A><BR> | 363 | |
| c1 | 395 | 「このようなお住まいは、何かにつけて、遠慮されて不都合であった。このように一度お会いなさっては、今後、良いことはございますまい。ああ、恐ろしい。この上ない方と申し上げても、穏やかならぬお振る舞いは、まことに困ったことです。<BR>⏎ | 365 | 「このようなお住まいは、何かにつけて、遠慮されて不都合であった。このように一度お会いなさっては、今後,良いことはございますまい。ああ,恐ろしい。この上ない方と申し上げても、穏やかならぬお振る舞いは、まことに困ったことです。<BR>⏎ |
| c1 | 397 | あの殿では、今日もひどく喧嘩をなさいました。「ただお一方のお身の上をお世話するといって、自分の娘を放りっぱなしになさって、客人がおいでになっている時のご外泊は見苦しい」と、荒々しいまでに非難申し上げなさっていました。下人までが聞きずらく思っていました。<BR>⏎ | 367 | あの殿では、今日もひどく喧嘩をなさいました。『ただお一方のお身の上をお世話するといって、自分の娘を放りっぱなしになさって、客人がおいでになっている時のご外泊は見苦しい』と、荒々しいまでに非難申し上げなさっていました。下人までが聞きずらく思っていました。<BR>⏎ |
| c1 | 399 | などと、嘆息しながら言う。<BR>⏎ | 369 | などと,嘆息しながら言う。<BR>⏎ |
| c1 | 401 | 「どうして、こんなにお嘆きになります。母親がいらっしゃらない人こそ、頼りなく悲しいことでしょう。世間から見ると、父親のいない人はとても残念ですが、意地悪な継母に憎まれるよりは、この方がとても気が楽です。何とかして差し上げましょう。くよくよなさいますな。<BR>⏎ | 371 | 「どうして,こんなにお嘆きになります。母親がいらっしゃらない人こそ、頼りなく悲しいことでしょう。世間から見ると、父親のいない人はとても残念ですが、意地悪な継母に憎まれるよりは、この方がとても気が楽です。何とかして差し上げましょう。くよくよなさいますな。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 403-404 | と、何の心配もないように言っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 373 | と,何の心配もないように言っていた。<BR>⏎ |
| version50 | 405 | <A NAME="in46">[第六段 匂宮、宮中へ出向く]</A><BR> | 374 | |
| c1 | 411 | と、乳母を使って申し上げなさる。<BR>⏎ | 380 | と,乳母を使って申し上げなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 413 | と、折り返してお見舞いなさるので、<BR>⏎ | 382 | と,折り返してお見舞いなさるので、<BR>⏎ |
| c1 | 420 | わが身のありさまは、物足りないところが多くある気持ちがするが、このように人並みにも扱われないはずであった身の上が、そのようには、落ちぶれなかったのは、なるほど、結構なことであった。今はただ、あの憎い懸想心がおありの方が、平穏になって離れてたら、まったく何もくよくよすることはなくなるだろう」<BR>⏎ | 389 | わが身のありさまは、物足りないところが多くある気持ちがするが、このように人並みにも扱われないはずであった身の上が、そのようには,落ちぶれなかったのは、なるほど,結構なことであった。今はただ、あの憎い懸想心がおありの方が、平穏になって離れてたら、まったく何もくよくよすることはなくなるだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 422 | <P>⏎ | ||
| version50 | 423 | <A NAME="in47">[第七段 中君、浮舟を慰める]</A><BR> | 391 | |
| c1 | 426 | と、無理に促して、こちらの障子のもとで、<BR>⏎ | 394 | と,無理に促して、こちらの障子のもとで、<BR>⏎ |
| c2 | 430-431 | と言って、起こしたててお連れ申し上げる。<BR>⏎ 正体もなく、皆が想像しているだろうことも恥ずかしいけれど、たいそう素直でおっとりし過ぎていらっしゃる姫君で、押し出されて座っていらしゃった。額髪などが、ひどく濡れているのを。ちょっと隠して、燈火の方に背を向けていらっしゃる姿は、上をこの上なく美しいと拝見しているのと、劣るとも見えず、上品で美しい。<BR>⏎ | 398-399 | と言って,起こしたててお連れ申し上げる。<BR>⏎ 正体もなく、皆が想像しているだろうことも恥ずかしいけれど、たいそう素直でおっとりし過ぎていらっしゃる姫君で、押し出されて座っていらしゃった。額髪などが、ひどく濡れているのを、ちょっと隠して、燈火の方に背を向けていらっしゃる姿は、上をこの上なく美しいと拝見しているのと、劣るとも見えず、上品で美しい。<BR>⏎ |
| c1 | 433 | と、二人ばかりが、御前のこととて恥ずかしがっていらっしゃれないので、見ていた。お話をとてもやさしくなさって、<BR>⏎ | 401 | と,二人ばかりが、御前のこととて恥ずかしがっていらっしゃれないので、見ていた。お話をとてもやさしくなさって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 437-438 | とだけ、とても若々しい声で言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 405 | とだけ,とても若々しい声で言う。<BR>⏎ |
| version50 | 439 | <A NAME="in48">[第八段 浮舟と中君、物語絵を見ながら語らう]</A><BR> | 406 | |
| c1 | 441 | 「とてもよく似た器量の人だわ。どうしてこんなにも似ているのであろう。亡き父宮にとてもよくお似申していらっしゃるようだ。亡き姫君は、父宮の御方に、わたしは母上にお似申していたと、老女連中は言っていたようだ。なるほど、似た人はひどく懐かしいものであった」<BR>⏎ | 408 | 「とてもよく似た器量の人だわ。どうしてこんなにも似ているのであろう。亡き父宮にとてもよくお似申していらっしゃるようだ。亡き姫君は、父宮の御方に、わたしは母上にお似申していたと、老女連中は言っていたようだ。なるほど,似た人はひどく懐かしいものであった」<BR>⏎ |
| c1 | 445 | などと、姉心にお世話がやかれなさる。<BR>⏎ | 412 | などと,姉心にお世話がやかれなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 450 | 「さあね。わざとそう言ったのかも。それは、知りませんわ」<BR>⏎ | 417 | 「さあね。わざとそう言ったのかも。それは,知りませんわ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 452-453 | などと、ひそひそ言って気の毒がる。<BR>⏎ <P>⏎ | 419 | などと,ひそひそ言って気の毒がる。<BR>⏎ |
| version50 | 454 | <H4>第五章 浮舟の物語 浮舟、三条の隠れ家に身を寄せる</H4> | 420 | |
| version50 | 455 | <A NAME="in51">[第一段 乳母の急報に浮舟の母、動転す]</A><BR> | 421 | |
| c1 | 456 | 乳母は、車を頼んで、常陸殿邸へ行った。北の方にこれこれでしたと言うと、驚きあわてて、「女房が怪しからんことのように言ったり思ったりするだろう。ご本人もどのようにお思いであろう。このようなことでの嫉妬は、高貴な方も変わりないものだ」と、自分の経験からじっとしてしていられなくなって、夕方参上した。<BR>⏎ | 422 | 乳母は、車を頼んで、常陸殿邸へ行った。北の方にこれこれでしたと言うと、驚きあわてて、「女房が怪しからんことのように言ったり思ったりするだろう。ご本人もどのようにお思いであろう。このようなことでの嫉妬は、高貴な方も変わりないものだ」と、自分の経験から じっとしてしていられなくなって、夕方参上した。<BR>⏎ |
| c1 | 463 | と言って、泣くのもとても気の毒で、<BR>⏎ | 429 | と言って,泣くのもとても気の毒で、<BR>⏎ |
| c2 | 466-467 | 「まったく、お心隔てがあるとは存じ上げておりません。お恥ずかしいことに認知していただけなかったことは、どうして今さら申し上げましょう。そのことでなくても、離れない縁がございますのを、よりどころとしてお頼み申し上げています」<BR>⏎ などと、並々ならずお頼み申し上げて、<BR>⏎ | 432-433 | 「まったく,お心隔てがあるとは存じ上げておりません。お恥ずかしいことに認知していただけなかったことは、どうして今さら申し上げましょう。そのことでなくても、離れない縁がございますのを、よりどころとしてお頼み申し上げています」<BR>⏎ などと,並々ならずお頼み申し上げて、<BR>⏎ |
| d1 | 470 | <P>⏎ | ||
| version50 | 471 | <A NAME="in52">[第二段 浮舟の母、娘を三条の隠れ家に移す]</A><BR> | 436 | |
| c1 | 473 | 「ああ、この方一人を、いろいろと持て余し申し上げることよ。思い通りにいかない世の中では、長生きなんかするものではない。自分一人は、平凡にまったくの身分もなく人並みでない、ただ受領の後妻として引っ込んで過ごせもしよう。こちらのご親戚筋は、つらいとお思い申し上げた方を、お親しみ申し上げて、不都合なことが出てきたら、実に物笑いなことでしょう。つまらないことだ。粗末な家であるけれども、この家を誰にも知らせず、こっそりといらっしゃいませ。そのうち何とかうまくして上げましょう」<BR>⏎ | 438 | 「ああ,この方一人を、いろいろと持て余し申し上げることよ。思い通りにいかない世の中では、長生きなんかするものではない。自分一人は、平凡にまったくの身分もなく人並みでない、ただ受領の後妻として引っ込んで過ごせもしよう。こちらのご親戚筋は、つらいとお思い申し上げた方を、お親しみ申し上げて、不都合なことが出てきたら、実に物笑いなことでしょう。つまらないことだ。粗末な家であるけれども、この家を誰にも知らせず、こっそりといらっしゃいませ。そのうち何とかうまくして上げましょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 476-478 | 「ここは、まだこうして造作が整っていず、危なっかしい所のようです。用心しなさい。あちこちの部屋にある道具類を、持ち出してお使いなさい。宿直人のことなどを言いつけてありますのも、とても気がかりですが、あちらに怒られ恨まれるのが、とても困るので」<BR>⏎ と、ちょっと泣いて帰る。<BR>⏎ <P>⏎ | 441-442 | 「ここは,まだこうして造作が整っていず、危なっかしい所のようです。用心しなさい。あちこちの部屋にある道具類を、持ち出してお使いなさい。宿直人のことなどを言いつけてありますのも、とても気がかりですが、あちらに怒られ恨まれるのが、とても困るので」<BR>⏎ と,ちょっと泣いて帰る。<BR>⏎ |
| version50 | 479 | <A NAME="in53">[第三段 母、左近少将と和歌を贈答す]</A><BR> | 443 | |
| c1 | 483 | 前にいる御達に、何か冗談を言って、くつろいでいるのは、とても見たように、見栄えがしなく貧相には見えないのは、「あの宮にいた時とは、まるで別の少将だなあ」と思ったとたんに、こう言うではないか。<BR>⏎ | 447 | 前にいる御達に,何か冗談を言って、くつろいでいるのは、とても見たように、見栄えがしなく貧相には見えないのは、「あの宮にいた時とは、まるで別の少将だなあ」と思ったとたんに、こう言うではないか。<BR>⏎ |
| c1 | 485 | と言って、自分でも歌を詠んでいた。<BR>⏎ | 449 | と言って,自分でも歌を詠んでいた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 488-489 | 「囲いをしていた小萩の上葉は乱れもしないのに<BR>⏎ どうした露で色が変わった下葉なのでしょう」<BR>⏎ | 452 | 「囲いをしていた小萩の上葉は乱れもしないのに<BR> どうした露で色が変わった下葉なのでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 491-492 | 「宮城野の小萩のもとと知っていたならば<BR>⏎ 露は少しも心を分け隔てしなかったでしょうに<BR>⏎ | 454 | 「宮城野の小萩のもとと知っていたならば<BR> 露は少しも心を分け隔てしなかったでしょうに<BR>⏎ |
| d1 | 495 | <P>⏎ | ||
| version50 | 496 | <A NAME="in54">[第四段 母、薫のことを思う]</A><BR> | 457 | |
| c2 | 498-499 | 「この君は、何と言っても言い寄ろうとするお気持ちがありながら、急にはおっしゃらず、平気を装っていらっしゃるのは大したものだ、なにごとにつけても思い出されるので、若い娘は、わたし以上に、このようにお思い申し上げていらっしゃるだろう。自分の婿にしようと、このような憎い男を思ったのこそ、見苦しいことであった」<BR>⏎ などと、ただ気になって、物思いばかりがされて、ああしたらこうしたらと、万事に良い将来の事を思い続けるが、とても実現は難しい。<BR>⏎ | 459-460 | 「この君は、何と言っても言い寄ろうとするお気持ちがありながら、急にはおっしゃらず、平気を装っていらっしゃるのは大したものだ、なにごとにつけても思い出されるので、若い娘は、わたし以上に,このようにお思い申し上げていらっしゃるだろう。自分の婿にしようと、このような憎い男を思ったのこそ、見苦しいことであった」<BR>⏎ などと,ただ気になって、物思いばかりがされて、ああしたらこうしたらと、万事に良い将来の事を思い続けるが、とても実現は難しい。<BR>⏎ |
| d1 | 503 | <P>⏎ | ||
| version50 | 504 | <A NAME="in55">[第五段 浮舟の三条のわび住まい]</A><BR> | 464 | |
| cd7:4 | 512-518 | 一途に嬉しいことでしょう<BR>⏎ ここが世の中で別の世界だと思えるならば」<BR>⏎ と、子供っぽく詠んだのを見ながら、ほろほろと泣いて、「このように行方も定めずふらふらさせていること」と、ひどく悲しいので、<BR>⏎ 「憂き世ではない所を尋ねてでも<BR>⏎ あなたの盛りの世を見たいものです」<BR>⏎ と、素直な思いのままに詠み交わして、心情を吐露するのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 472-475 | 一途に嬉しいことでしょう<BR> ここが世の中で別の世界だと思えるならば」<BR>⏎ と,子供っぽく詠んだのを見ながら、ほろほろと泣いて、「このように行方も定めずふらふらさせていること」と、ひどく悲しいので、<BR>⏎ 「憂き世ではない所を尋ねてでも<BR> あなたの盛りの世を見たいものです」<BR>⏎ と,素直な思いのままに詠み交わして、心情を吐露するのであった。<BR>⏎ |
| version50 | 519 | <H4>第六章 浮舟と薫の物語 薫、浮舟を伴って宇治へ行く</H4> | 476 | |
| version50 | 520 | <A NAME="in61">[第一段 薫、宇治の御堂を見に出かける]</A><BR> | 477 | |
| cd2:1 | 525-526 | 「涸れてしまわないこの清水にどうして亡くなった人の<BR>⏎ 面影だけでもとどめておかなかったのだろう」<BR>⏎ | 482 | 「涸れてしまわないこの清水にどうして亡くなった人の<BR> 面影だけでもとどめておかなかったのだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 528 | 「あの人は、最近宮邸にいると聞いたが、やはりきまり悪く思われて、尋ねていません。やはり、こちらからすっかりお伝え下さい」<BR>⏎ | 484 | 「あの人は、最近宮邸にいると聞いたが、やはりきまり悪く思われて、尋ねていません。やはり,こちらからすっかりお伝え下さい」<BR>⏎ |
| c2 | 533-534 | と言って、いつものように、涙ぐんでいらっしゃった。<BR>⏎ 「それでは、その気楽な隠れ家に、お便りしてください。ご自身で、あちらに出向いてくださいませんか」<BR>⏎ | 489-490 | と言って,いつものように、涙ぐんでいらっしゃった。<BR>⏎ 「それでは,その気楽な隠れ家に、お便りしてください。ご自身で、あちらに出向いてくださいませんか」<BR>⏎ |
| d1 | 538 | <P>⏎ | ||
| version50 | 539 | <A NAME="in62">[第二段 薫、弁の尼に依頼して出る]</A><BR> | 494 | |
| c3 | 543-545 | と言って、困ったことに思っていたが、<BR>⏎ 「やはり、ちょうどよい機会だから」<BR>⏎ と、いつもと違って無理強いして、<BR>⏎ | 498-500 | と言って,困ったことに思っていたが、<BR>⏎ 「やはり,ちょうどよい機会だから」<BR>⏎ と,いつもと違って無理強いして、<BR>⏎ |
| c2 | 547-548 | と、にっこりしておっしゃるので、やっかいで、「どのようにお考えなのだろう」と思うが、「浅薄で軽々しくないご性質なので、自然とご自分のためにも、外聞はお慎みになっていらっしゃるだろう」と思って、<BR>⏎ 「それでは、承知いたしました。お近くですから。お手紙などをおやりくださいませ。わざわざ利口ぶって、取り持ちを買って出たようにとられますのも、今さら伊賀専女のようではないかしら、と気がひけます」<BR>⏎ | 502-503 | と,にっこりしておっしゃるので、やっかいで、「どのようにお考えなのだろう」と思うが、「浅薄で軽々しくないご性質なので、自然とご自分のためにも、外聞はお慎みになっていらっしゃるだろう」と思って、<BR>⏎ 「それでは,承知いたしました。お近くですから。お手紙などをおやりくださいませ。わざわざ利口ぶって、取り持ちを買って出たようにとられますのも、今さら伊賀専女のようではないかしら、と気がひけます」<BR>⏎ |
| d1 | 553 | <P>⏎ | ||
| version50 | 554 | <A NAME="in63">[第三段 弁の尼、三条の隠れ家を訪ねる]</A><BR> | 508 | |
| c1 | 559 | と、案内の男を介して言わせると、初瀬のお供をした若い女房が、出てきて車から降ろす。粗末な家で物思いに耽りながら明かし暮らしていたので、昔話もできる人が来たので、嬉しくなって呼び入れなさって、父親と申し上げた方のご身辺の人と思うと、慕わしくなるのであろう。<BR>⏎ | 513 | と,案内の男を介して言わせると、初瀬のお供をした若い女房が、出てきて車から降ろす。粗末な家で物思いに耽りながら明かし暮らしていたので、昔話もできる人が来たので、嬉しくなって呼び入れなさって、父親と申し上げた方のご身辺の人と思うと、慕わしくなるのであろう。<BR>⏎ |
| d1 | 562 | <P>⏎ | ||
| version50 | 563 | <A NAME="in64">[第四段 薫、三条の隠れ家の浮舟と逢う]</A><BR> | 516 | |
| c1 | 566 | と言って、その近くの荘園の支配人の名を名乗らせなさったので、戸口にいざり出た。雨が少し降りそそいで、風がとても冷やかに吹きこんで、何ともいえない良い匂いが漂ってくるので、「そうであったのか」と、皆が皆心をときめかせるにちがいないご様子が結構なので、心づもりもなくむさくるしいうえに、まだ予想もしていなかった時なので、気が動転して、<BR>⏎ | 519 | と言って,その近くの荘園の支配人の名を名乗らせなさったので、戸口にいざり出た。雨が少し降りそそいで、風がとても冷やかに吹きこんで、何ともいえない良い匂いが漂ってくるので、「そうであったのか」と、皆が皆心をときめかせるにちがいないご様子が結構なので、心づもりもなくむさくるしいうえに、まだ予想もしていなかった時なので、気が動転して、<BR>⏎ |
| c1 | 574 | 「気がきかないことを。どうして、そうすることがありましょう。若い方どうしがお話し申し上げなさるのに、急に深い仲になるものでもありますまい。不思議なまでに気長で、慎重でいらっしゃる君なので、けっして相手の許しがなくては、気をお許しになりますまい」<BR>⏎ | 527 | 「気がきかないことを。どうして,そうすることがありましょう。若い方どうしがお話し申し上げなさるのに、急に深い仲になるものでもありますまい。不思議なまでに気長で、慎重でいらっしゃる君なので、けっして相手の許しがなくては、気をお許しになりますまい」<BR>⏎ |
| c1 | 576 | 「家の辰巳の隅の崩れが、とても危険だ。こちらの、客のお車は入れるものなら、引き入れてご門を閉めよ。この客人の供人は、気がきかない」<BR>⏎ | 529 | 「家の辰巳の隅の崩れが、とても危険だ。こちらの,客のお車は入れるものなら、引き入れてご門を閉めよ。この客人の供人は、気がきかない」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 580-582 | 「戸口を閉ざすほど葎が茂っているためか<BR>⏎ 東屋であまりに待たされ雨に濡れることよ」<BR>⏎ と、露を払っていらっしゃる、その追い風が、とても尋常でないほど匂うので、東国の田舎者も驚くにちがいない。<BR>⏎ | 533-534 | 「戸口を閉ざすほど葎が茂っているためか<BR> 東屋であまりに待たされ雨に濡れることよ」<BR>⏎ と,露を払っていらっしゃる、その追い風が、とても尋常でないほど匂うので、東国の田舎者も驚くにちがいない。<BR>⏎ |
| c1 | 585 | とお嘆きになって、どのようになさったのか、お入りになってしまった。あの人形の願いもおしゃっらず、ただ、<BR>⏎ | 537 | とお嘆きになって、どのようになさったのか、お入りになってしまった。あの人形の願いもおしゃっらず、ただ,<BR>⏎ |
| d1 | 588 | <P>⏎ | ||
| version50 | 589 | <A NAME="in65">[第五段 薫と浮舟、宇治へ出発]</A><BR> | 540 | |
| c1 | 590 | まもなく夜が明けてしまう気がするのに、鶏などは鳴かないで、大路に近い所で間のびした声で、何とも聞いたことのない物売りの呼び上げる声がして、連れ立って行くのなどが聞こえる。このような朝ぼらけに見ると、品物を頭の上に乗せている姿が、「鬼のような恰好だ」とお聞きになっているのも、このような蓬生の宿でごろ寝をした経験もおありでないので、興味深くもあった。<BR>⏎ | 541 | まもなく夜が明けてしまう気がするのに、鶏などは鳴かないで、大路に近い所で 間のびした声で、何とも聞いたことのない物売りの呼び上げる声がして、連れ立って行くのなどが聞こえる。このような朝ぼらけに見ると、品物を頭の上に乗せている姿が、「鬼のような恰好だ」とお聞きになっているのも、このような蓬生の宿でごろ寝をした経験もおありでないので、興味深くもあった。<BR>⏎ |
| c1 | 598 | 「それは、後からお詫び申してもお済みになることでしょう。あちらでも案内する人がいなくては、頼りない所ですから」<BR>⏎ | 549 | 「それは,後からお詫び申してもお済みになることでしょう。あちらでも案内する人がいなくては、頼りない所ですから」<BR>⏎ |
| d1 | 602 | <P>⏎ | ||
| version50 | 603 | <A NAME="in66">[第六段 薫と浮舟の宇治への道行き]</A><BR> | 553 | |
| c1 | 607 | と言って、抱いていらっしゃった。薄物の細長を、車の中に垂れて仕切っていたので、明るく照り出した朝日に、尼君はとても恥ずかしく思われるにつけて、「故姫君のお供をして、このように拝見したかったものだ。生き永らえると、思いもかけないことにあうものだ」と、悲しく思われて、抑えようとするが、つい顔がゆがんで泣くのを、侍従はとても憎らしく、「ご結婚早々に尼姿で乗り添っているだけでも不吉に思うのに、何で、こうしてめそめそするのか」と、憎らしく愚かにも思う。年老いた人は、何となく涙もろいものだ、と簡単に考えるのであった。<BR>⏎ | 557 | と言って,抱いていらっしゃった。薄物の細長を、車の中に垂れて仕切っていたので、明るく照り出した朝日に、尼君はとても恥ずかしく思われるにつけて、「故姫君のお供をして、このように拝見したかったものだ。生き永らえると、思いもかけないことにあうものだ」と、悲しく思われて、抑えようとするが、つい顔がゆがんで泣くのを、侍従はとても憎らしく、「ご結婚早々に尼姿で乗り添っているだけでも不吉に思うのに、何で、こうしてめそめそするのか」と、憎らしく愚かにも思う。年老いた人は、何となく涙もろいものだ、と簡単に考えるのであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 609-611 | 「故姫君の形見だと思って見るにつけ<BR>⏎ 朝露がしとどに置くように涙に濡れることだ」<BR>⏎ と、心にもなく独り言をおっしゃるのを聞いて、ますます袖をしぼるほどに、尼君の袖も泣き濡れているのを、若い女房は、「妙な見苦しいことだ」。嬉しいはずの道中に、とてもやっかいな事が、加わった気持ちがする。堪えきれない鼻水をすする音をお聞きになって、自分もこっそりと鼻をかんで、「どのように思っているだろうか」とお気の毒なので、<BR>⏎ | 559-560 | 「故姫君の形見だと思って見るにつけ<BR> 朝露がしとどに置くように涙に濡れることだ」<BR>⏎ と,心にもなく独り言をおっしゃるのを聞いて、ますます袖をしぼるほどに、尼君の袖も泣き濡れているのを、若い女房は、「妙な見苦しいことだ」。嬉しいはずの道中に、とてもやっかいな事が、加わった気持ちがする。堪えきれない鼻水をすする音をお聞きになって、自分もこっそりと鼻をかんで、「どのように思っているだろうか」とお気の毒なので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 613-614 | と、無理に起こしなさると、美しい感じに、ちょっと隠して、遠慮深そうに外を見い出しなさっている目もとなどは、とてもよく似て思い出されるが、おだやかであまりにおっとりとし過ぎているのが、不安な気がする。「とてもたいそう子供っぽくいらしたが、思慮深くいらっしゃったな」と、やはり癒されない悲しみは、空しい大空いっぱいにもなってしまいそうである。<BR>⏎ <P>⏎ | 562 | と,無理に起こしなさると、美しい感じに、ちょっと隠して、遠慮深そうに外を見い出しなさっている目もとなどは、とてもよく似て思い出されるが、おだやかであまりにおっとりとし過ぎているのが、不安な気がする。「とてもたいそう子供っぽくいらしたが、思慮深くいらっしゃったな」と、やはり癒されない悲しみは、空しい大空いっぱいにもなってしまいそうである。<BR>⏎ |
| version50 | 615 | <A NAME="in67">[第七段 宇治に到着、薫、京に手紙を書く]</A><BR> | 563 | |
| c1 | 617 | 「ああ、亡き方の魂がとどまって御覧になっていようか。誰のために、このようにあてもなく彷徨い歩こうというのか」<BR>⏎ | 565 | 「ああ,亡き方の魂がとどまって御覧になっていようか。誰のために、このようにあてもなく彷徨い歩こうというのか」<BR>⏎ |
| c1 | 620 | 川の様子も山の景色も、上手に取り入れた建物の造りを眺めやって、日頃の鬱陶しい思いが慰められた気がするが、「どのようになさるおつもりか」と、不安で変な感じがする。<BR>⏎ | 568 | 川の様子も山の景色も、上手に取り入れた建物の造りを眺めやって、日頃の鬱陶しい思いが 慰められた気がするが、「どのようになさるおつもりか」と、不安で変な感じがする。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 623-624 | などと、母宮にも姫宮にも申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 571 | などと,母宮にも姫宮にも申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version50 | 625 | <A NAME="in68">[第八段 薫、浮舟の今後を思案す]</A><BR> | 572 | |
| c2 | 629-630 | 「この人をどのように扱ったらよいのだろう。今すぐに、重々しくあの自邸に迎え入れるのも、外聞がよくないだろう。そうかといって、大勢いる女房と同列にして、いい加減に暮らさせるのは望ましくないだろう。しばらくの間は、ここに隠しておこう」<BR>⏎ と思うのも、会わなかったら寂しくかわいそうに思われなさるので、並々ならず一日中お話なさる。故宮の御事もお話し出して、昔話を興趣深く情をこめて冗談もおっしゃるが、ただとても遠慮深そうにして、ひたすら恥ずかしがっているのを、物足りないとお思いになる。<BR>⏎ | 576-577 | 「この人をどのように扱ったらよいのだろう。今すぐに、重々しく あの自邸に迎え入れるのも、外聞がよくないだろう。そうかといって、大勢いる女房と同列にして、いい加減に暮らさせるのは望ましくないだろう。しばらくの間は、ここに隠しておこう」<BR>⏎ と思うのも、会わなかったら寂しく かわいそうに思われなさるので、並々ならず一日中お話なさる。故宮の御事もお話し出して、昔話を興趣深く情をこめて冗談もおっしゃるが、ただとても遠慮深そうにして、ひたすら恥ずかしがっているのを、物足りないとお思いになる。<BR>⏎ |
| d1 | 633 | <P>⏎ | ||
| version50 | 634 | <A NAME="in69">[第九段 薫と浮舟、琴を調べて語らう]</A><BR> | 580 | |
| c1 | 637 | と、珍しく自分ながら思われて、たいそうやさしく弄びながら物思いに耽っていらっしゃると、月が出た。<BR>⏎ | 583 | と,珍しく自分ながら思われて、たいそうやさしく弄びながら物思いに耽っていらっしゃると、月が出た。<BR>⏎ |
| c3 | 640-642 | 「昔、皆が生きていらっしゃった時に、ここで大きくおなりになったら、もう一段と感慨は深かったでしょうに。親王のご様子は、他人でさえ、しみじみと恋しく思い出され申します。どうして、そのような場所に、長年いられたのですか」<BR>⏎ とおっしゃると、とても恥ずかしくて、白い扇を弄びながら、添い臥していらっしゃる横顔は、とてもどこからどこまで色白で、優美な額髪の間などは、まことによく思い出されて感慨深い。それ以上に、「このような音楽の技芸もふさわしく教えたい」とお思いになって、<BR>⏎ 「これは、少しお弾きになったことがありますか。ああ、吾が妻という和琴は、いくらなんでもお手を触れたことがありましょう」<BR>⏎ | 586-588 | 「昔,皆が生きていらっしゃった時に、ここで大きくおなりになったら、もう一段と感慨は深かったでしょうに。親王のご様子は、他人でさえ、しみじみと恋しく 思い出され申します。どうして,そのような場所に、長年いられたのですか」<BR>⏎ とおっしゃると、とても恥ずかしくて、白い扇を弄びながら、添い臥していらっしゃる横顔は、とてもどこからどこまで色白で、優美な額髪の間などは、まことによく思い出されて感慨深い。それ以上に,「このような音楽の技芸もふさわしく教えたい」とお思いになって、<BR>⏎ 「これは,少しお弾きになったことがありますか。ああ,吾が妻という和琴は、いくらなんでもお手を触れたことがありましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 644 | 「その和歌でさえ、聞きつけずにいましたのに、まして、和琴などは」<BR>⏎ | 590 | 「その和歌でさえ、聞きつけずにいましたのに、まして,和琴などは」<BR>⏎ |
| c1 | 647 | と朗誦なさるのも、あの弓ばかりを引く所に住み馴れて、「とても素晴らしく、理想的である」と、侍従も聞いているのであった。一方では、扇の色も心を配らねばならない閨の故事を知らないので、一途にお誉め申し上げているのは、教養のないことである。「事もあろうに、変なことを、言ってそまったなあ」とお思いになる。<BR>⏎ | 593 | と朗誦なさるのも、あの弓ばかりを引く所に住み馴れて、「とても素晴らしく、理想的である」と、侍従も聞いているのであった。一方では,扇の色も心を配らねばならない閨の故事を知らないので、一途にお誉め申し上げているのは、教養のないことである。「事もあろうに、変なことを、言ってそまったなあ」とお思いになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 649-650 | 「宿木は色が変わってしまった秋ですが<BR>⏎ 昔が思い出される澄んだ月ですね」<BR>⏎ | 595 | 「宿木は色が変わってしまった秋ですが<BR> 昔が思い出される澄んだ月ですね」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 652-653 | 「里の名もわたしも昔のままですが<BR>⏎ 昔の人が面変わりしたかと思われる閨の月光です」<BR>⏎ | 597 | 「里の名もわたしも昔のままですが<BR> 昔の人が面変わりしたかと思われる閨の月光です」<BR>⏎ |
| d2 | 655-656 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 663 | ⏎ | ||
| i0 | 609 | |||
| diff | src/original/version51.html | src/modified/version51.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version51 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 29 | <LI>匂宮、馬で宇治へ赴く---<A HREF="#in22">お供に、昔もあちらの様子を知っている者、二、三人と</A>⏎ | 26 | <LI>匂宮、馬で宇治へ赴く---<A HREF="#in22">お供に、昔もあちらの様子を知っている者、二,三人と</A>⏎ |
| c1 | 71 | <LI>薫、帰邸の道中、思い乱れる---<A HREF="#in64">帰途、「やはり、実に油断のならない、抜け目なくいらっしゃる宮であるよ</A>⏎ | 68 | <LI>薫、帰邸の道中、思い乱れる---<A HREF="#in64">帰途、「やはり,実に油断のならない、抜け目なくいらっしゃる宮であるよ</A>⏎ |
| c1 | 79 | <LI>浮舟、死を決意して、文を処分す---<A HREF="#in72">女君は、「なるほど、今はまことに悪くなってしまった身の上のようだ</A>⏎ | 76 | <LI>浮舟、死を決意して、文を処分す---<A HREF="#in72">女君は、「なるほど,今はまことに悪くなってしまった身の上のようだ</A>⏎ |
| d1 | 87 | <P>⏎ | ||
| version51 | 88 | <H4>第一章 匂宮の物語 匂宮、大内記から薫と浮舟の関係を聞き知る</H4> | 84 | |
| version51 | 89 | <A NAME="in11">[第一段 匂宮、浮舟を追想し、中君を恨む]</A><BR> | 85 | |
| c3 | 90-92 | 宮は、今もなお、あのちらっと御覧になった夕方をお忘れになる時とてない。「たいした身分ではけっしてなさそうであったが、人柄が誠実で魅力的であったなあ」と、とても浮気なご性分にとっては、「残念なところで終わってしまったことだ」と、悔しく思われなさるままに、女君に対しても、<BR>⏎ 「あのように、ちょっとしたことぐらいで、むやみに、このような方面の嫉妬をなさるなあ。思いがけなく情けない」<BR>⏎ と、悪口言って恨み申し上げなさる時々は、とてもつらくて、「ありのままに申し上げてしまおうかしら」とお思いになるが、<BR>⏎ | 86-88 | 宮は、今もなお,あのちらっと御覧になった夕方をお忘れになる時とてない。「たいした身分ではけっしてなさそうであったが、人柄が誠実で魅力的であったなあ」と、とても浮気なご性分にとっては、「残念なところで終わってしまったことだ」と、悔しく思われなさるままに、女君に対しても、<BR>⏎ 「あのように,ちょっとしたことぐらいで、むやみに、このような方面の嫉妬をなさるなあ。思いがけなく情けない」<BR>⏎ と,悪口言って恨み申し上げなさる時々は、とてもつらくて、「ありのままに申し上げてしまおうかしら」とお思いになるが、<BR>⏎ |
| d1 | 97 | <P>⏎ | ||
| version51 | 98 | <A NAME="in12">[第二段 薫、浮舟を宇治に放置]</A><BR> | 93 | |
| c3 | 99-101 | あの方は、たとえようもなくのんびりと構えていらっしゃって、「待ち遠しいと思っているだろう」と、お気の毒にはお思いやりになりながら、窮屈な身の上を、適当な機会がなくては、たやすくお通いになれる道ではないので、神が禁じている以上に困っている。けれども、<BR>⏎ 「いずれはたいそうよく扱ってやろう、と思う。山里の慰めと思っていた考えがあるが、少し日数のかかりそうな事柄を作り出して、のんびりと出かけて行って逢おう。そうして、しばらくの間は誰も知らない住処で、だんだんとそのようなことで、あの女の気持ちも馴れさせて、自分にとっても、他人から非難されないように、目立たぬようにするのがよいだろう。<BR>⏎ 急に迎えて、誰だろう、いつからだろう、などと取り沙汰されるのも、何となく煩わしく、当初の考えと違ってこよう。また、宮の御方がお聞きになってご心配になることも、もとの場所をきっぱりと離れて連れ出し、昔を忘れてしまったような顔なのも、まことに不本意だ」<BR>⏎ | 94-96 | あの方は,たとえようもなくのんびりと構えていらっしゃって、「待ち遠しいと思っているだろう」と、お気の毒にはお思いやりになりながら、窮屈な身の上を、適当な機会がなくては、たやすくお通いになれる道ではないので、神が禁じている以上に困っている。けれども、<BR>⏎ 「いずれはたいそうよく扱ってやろう、と思う。山里の慰めと思っていた考えがあるが、少し日数のかかりそうな事柄を作り出して、のんびりと出かけて行って逢おう。そうして,しばらくの間は誰も知らない住処で、だんだんとそのようなことで、あの女の気持ちも馴れさせて、自分にとっても、他人から非難されないように、目立たぬようにするのがよいだろう。<BR>⏎ 急に迎えて、誰だろう、いつからだろう、などと取り沙汰されるのも、何となく煩わしく、当初の考えと違ってこよう。また,宮の御方がお聞きになってご心配になることも、もとの場所をきっぱりと離れて連れ出し、昔を忘れてしまったような顔なのも、まことに不本意だ」<BR>⏎ |
| d1 | 103 | <P>⏎ | ||
| version51 | 104 | <A NAME="in13">[第三段 薫と中君の仲]</A><BR> | 98 | |
| d1 | 111 | <P>⏎ | ||
| version51 | 112 | <A NAME="in14">[第四段 正月、宇治から京の中君への文]</A><BR> | 105 | |
| c2 | 113-114 | 正月の上旬が過ぎたころにお越しになって、若君が一つ年齢をおとりになったのを、相手にしてかわいがっていらっしゃる昼ころ、小さい童女が、緑の薄様の包紙で大きいのに、小さい鬚籠を小松に結びつけてあるのや、また、きちんとした立文とを持って、無邪気に走って参る。女君に差し上げると、宮は、<BR>⏎ 「それは、どこからのですか」<BR>⏎ | 106-107 | 正月の上旬が過ぎたころにお越しになって、若君が一つ年齢をおとりになったのを、相手にしてかわいがっていらっしゃる昼ころ、小さい童女が、緑の薄様の包紙で大きいのに、小さい鬚籠を小松に結びつけてあるのや、また,きちんとした立文とを持って、無邪気に走って参る。女君に差し上げると、宮は、<BR>⏎ 「それは,どこからのですか」<BR>⏎ |
| c2 | 119-120 | と、笑顔で言い続けるので、宮もにっこりなさって、<BR>⏎ 「それでは、わたしも鑑賞しようかね」<BR>⏎ | 112-113 | と,笑顔で言い続けるので、宮もにっこりなさって、<BR>⏎ 「それでは,わたしも鑑賞しようかね」<BR>⏎ |
| c1 | 127 | 「みっともありません。どうして、女房どうしの間でやりとりしている気を許した手紙を、御覧になるのでしょう」<BR>⏎ | 120 | 「みっともありません。どうして,女房どうしの間でやりとりしている気を許した手紙を、御覧になるのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 129 | 「それでは、見ますよ。女性の手紙とは、どんなものかな」<BR>⏎ | 122 | 「それでは,見ますよ。女性の手紙とは、どんなものかな」<BR>⏎ |
| d1 | 135 | <P>⏎ | ||
| version51 | 136 | <A NAME="in15">[第五段 匂宮、手紙の主を浮舟と察知す]</A><BR> | 128 | |
| c3 | 139-141 | こちらでは、とても結構なお住まいで行き届いておりますが、やはり、不似合いに存じております。こうしてばかり、つくづくと物思いにお耽りあそばすより他には、時々そちらにお伺いなさって、お気持ちをお慰めあそばしませ、と存じておりますが、気がねして恐ろしい所とお思いになって、嫌なこととお嘆きになっているようです。<BR>⏎ 若宮の御前にと思って、卯槌をお贈り申し上げなさいます。ご主人様が御覧にならない時に御覧下さいませ、とのことでございます」<BR>⏎ と、こまごまと言忌もできずに、もの悲しい様子が見苦しいのにつけても、繰り返し繰り返し、変だと御覧になって、<BR>⏎ | 131-133 | こちらでは、とても結構なお住まいで行き届いておりますが、やはり,不似合いに存じております。こうしてばかり、つくづくと物思いにお耽りあそばすより他には、時々そちらにお伺いなさって、お気持ちをお慰めあそばしませ、と存じておりますが、気がねして恐ろしい所とお思いになって、嫌なこととお嘆きになっているようです。<BR>⏎ 若宮の御前にと思って、卯槌をお贈り申し上げなさいます。ご主人様が御覧にならない時に 御覧下さいませ、とのことでございます」<BR>⏎ と,こまごまと言忌もできずに、もの悲しい様子が見苦しいのにつけても、繰り返し繰り返し、変だと御覧になって、<BR>⏎ |
| c1 | 144 | 「昔、あの山里に仕えておりました女の娘が、ある事情があって、最近あちらにいると聞きました」<BR>⏎ | 136 | 「昔,あの山里に仕えておりました女の娘が、ある事情があって、最近あちらにいると聞きました」<BR>⏎ |
| cd5:4 | 147-151 | 「まだ古木にはなっておりませんが、若君様のご成長を<BR>⏎ 心から深くご期待申し上げております」<BR>⏎ と、特にたいした歌でないなので、「あのずっと思い続けている女のか」とお思いになると、お目が止まって、<BR>⏎ 「お返事をなさい。返事しなくては情愛がない。隠さなければならない手紙でもあるまいに。どうして、ご機嫌が悪いのですか。去りましょうよ」<BR>⏎ と言って、お立ちになった。女君は、少将などに向かって、<BR>⏎ | 139-142 | 「まだ古木にはなっておりませんが、若君様のご成長を<BR> 心から深くご期待申し上げております」<BR>⏎ と,特にたいした歌でないなので、「あのずっと思い続けている女のか」とお思いになると、お目が止まって、<BR>⏎ 「お返事をなさい。返事しなくては情愛がない。隠さなければならない手紙でもあるまいに。どうして,ご機嫌が悪いのですか。去りましょうよ」<BR>⏎ と言って,お立ちになった。女君は、少将などに向かって、<BR>⏎ |
| c2 | 153-154 | などと、小声でおっしゃる。<BR>⏎ 「拝見しましたら、どうして、こちらへお届けしたりしましょうか。ぜんたい、この子は思慮が浅く出過ぎています。将来性がうかがえて、女の子は、おっとりとしているのが好ましいものです」<BR>⏎ | 144-145 | などと,小声でおっしゃる。<BR>⏎ 「拝見しましたら、どうして,こちらへお届けしたりしましょうか。ぜんたい、この子は思慮が浅く出過ぎています。将来性がうかがえて、女の子は、おっとりとしているのが好ましいものです」<BR>⏎ |
| d1 | 158 | <P>⏎ | ||
| version51 | 159 | <A NAME="in16">[第六段 匂宮、大内記から薫と浮舟の関係を知る]</A><BR> | 149 | |
| d1 | 170 | <P>⏎ | ||
| version51 | 171 | <A NAME="in17">[第七段 匂宮、薫の噂を聞き知り喜ぶ]</A><BR> | 160 | |
| c3 | 176-178 | 「興味深いことだね。どのような考えがあって、どのような女を、そのように据えていらしゃるのだろうか。やはり、とても好色なところがあって、普通の人と似ていないお心なのだろうか。<BR>⏎ 右大臣などが、『この人があまりに仏道に進んで、山寺に、夜までややもすればお泊まりになるというが、軽々しい行為だ』と非難なさると聞いたが、なるほど、どうしてそんなにも仏道にこっそり行かれるのだろう。やはり、あの思い出の地に心を惹かれていると聞いたが、このようなわけがあったのだ。<BR>⏎ どうだ、誰よりも真面目だと分別顔をする人の方がかえって、ことさら誰も考えつかないようなところがあるものだよ」<BR>⏎ | 165-167 | 「興味深いことだね。どのような考えがあって、どのような女を、そのように据えていらしゃるのだろうか。やはり,とても好色なところがあって、普通の人と似ていないお心なのだろうか。<BR>⏎ 右大臣などが、『この人があまりに仏道に進んで、山寺に、夜までややもすればお泊まりになるというが、軽々しい行為だ』と非難なさると聞いたが、なるほど,どうしてそんなにも仏道にこっそり行かれるのだろう。やはり,あの思い出の地に心を惹かれていると聞いたが、このようなわけがあったのだ。<BR>⏎ どうだ,誰よりも真面目だと分別顔をする人の方がかえって、ことさら誰も考えつかないようなところがあるものだよ」<BR>⏎ |
| d1 | 181 | <P>⏎ | ||
| version51 | 182 | <H4>第二章 浮舟と匂宮の物語 匂宮、薫の声をまねて浮舟の寝所に忍び込む</H4> | 170 | |
| version51 | 183 | <A NAME="in21">[第一段 匂宮、宇治行きを大内記に相談]</A><BR> | 171 | |
| c3 | 187-189 | 「たいそう不都合なことだが、あの宇治に住んでいるらしい人は、早くにちらっと会った女で、行く方が分からなくなったのが、大将に捜し出された人と、思い当たるところがあるのだ。はっきりとは知る手立てもないが、ただ、物の隙間から覗き見して、その女か違うかと確かめたい、と思う。まったく誰にも知られない方法は、どうしたらよいだろうか」<BR>⏎ とおっしゃるので、「何と、やっかいな」と思うが、<BR>⏎ 「お出かけになることは、たいへん険しい山越えでございますが、格別遠くはございません。夕方お出かけあそばして、亥子の刻にはお着きになるでしょう。そうして、早朝にはお帰りあそばせましょう。誰か気づくとすれば、ただお供する者だけでございしょう。それも、深い事情はどうして分かりましょう」<BR>⏎ | 175-177 | 「たいそう不都合なことだが、あの宇治に住んでいるらしい人は、早くにちらっと会った女で、行く方が分からなくなったのが、大将に捜し出された人と、思い当たるところがあるのだ。はっきりとは知る手立てもないが、ただ,物の隙間から覗き見して、その女か違うかと確かめたい、と思う。まったく誰にも知られない方法は、どうしたらよいだろうか」<BR>⏎ とおっしゃるので、「何と,やっかいな」と思うが、<BR>⏎ 「お出かけになることは、たいへん険しい山越えでございますが、格別遠くはございません。夕方お出かけあそばして、亥子の刻にはお着きになるでしょう。そうして,早朝にはお帰りあそばせましょう。誰か気づくとすれば、ただお供する者だけでございしょう。それも,深い事情はどうして分かりましょう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 191-193 | 「そうだ。昔も一、二度は、通ったことのある道だ。軽々しいと非難されるのが、その評判が気になるのだ」<BR>⏎ と言って、繰り返しとんでもないことだと、自分自身反省なさるが、このようにまでお口に出されたので、お思い止めなさることはできない。<BR>⏎ <P>⏎ | 179-180 | 「そうだ。昔も一,二度は、通ったことのある道だ。軽々しいと非難されるのが、その評判が気になるのだ」<BR>⏎ と言って,繰り返しとんでもないことだと、自分自身反省なさるが、このようにまでお口に出されたので、お思い止めなさることはできない。<BR>⏎ |
| version51 | 194 | <A NAME="in22">[第二段 宮、馬で宇治へ赴く]</A><BR> | 181 | |
| c1 | 195 | お供に、昔もあちらの様子を知っている者、二、三人と、この内記、その他には乳母子で蔵人から五位になった若い者で、親しい者ばかりをお選びになって、「大将の、今日明日はよもやいらっしゃるまい」などと、内記によく調べさせなさって、ご出立なさるにつけても、昔を思い出す。<BR>⏎ | 182 | お供に、昔もあちらの様子を知っている者、二,三人と、この内記、その他には乳母子で蔵人から五位になった若い者で、親しい者ばかりをお選びになって、「大将の、今日明日はよもやいらっしゃるまい」などと、内記によく調べさせなさって、ご出立なさるにつけても、昔を思い出す。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 198-201 | 大内記自身も何といってもまだ見たことのないお住まいなので、不案内であるが、女房なども多くはいないので、寝殿の南面に燈火がちらちらとほの暗く見えて、そよそよと衣ずれの音がする。戻って参って、<BR>⏎ 「まだ、人は起きているようでございます。直接、ここからお入りください」<BR>⏎ と、案内してお入れ申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 185-187 | 大内記自身も何といってもまだ見たことのないお住まいなので、不案内であるが、女房なども多くはいないので、寝殿の南面に 燈火がちらちらとほの暗く見えて、そよそよと衣ずれの音がする。戻って参って、<BR>⏎ 「まだ,人は起きているようでございます。直接、ここからお入りください」<BR>⏎ と,案内してお入れ申し上げる。<BR>⏎ |
| version51 | 202 | <A NAME="in23">[第三段 匂宮、浮舟とその女房らを覗き見る]</A><BR> | 188 | |
| c1 | 204 | 燈火を明るく照らして、何か縫物をしている女房が、三、四人座っていた。童女でかわいらしいのが、糸を縒っている。この子の顔は、まずあの燈火で御覧になった顔であった。とっさの見間違いかと、まだ疑われたが、右近と名乗った若い女房もいる。女主人は、腕を枕にして、燈火を眺めている目もとや、髪のこぼれかかっている額つき、たいそう上品に優美で、対の御方にとてもよく似ていた。<BR>⏎ | 190 | 燈火を明るく照らして、何か縫物をしている女房が、三,四人座っていた。童女でかわいらしいのが、糸を縒っている。この子の顔は、まずあの燈火で御覧になった顔であった。とっさの見間違いかと、まだ疑われたが、右近と名乗った若い女房もいる。女主人は、腕を枕にして、燈火を眺めている目もとや、髪のこぼれかかっている額つき、たいそう上品に優美で、対の御方にとてもよく似ていた。<BR>⏎ |
| c1 | 210 | 「それでは、このようにお出かけになったと、お手紙を差し上げなさるのがよいでしょう。軽々しく、どうして、何も言わずに、お隠れあそばせましょう。ご参詣の後は、そのままこちらにお帰りあそばしませ。こうして心細いようですが、思い通りに気楽なお暮らしに馴れて、かえって本邸の方が旅心地がするのではないでしょうか」<BR>⏎ | 196 | 「それでは,このようにお出かけになったと、お手紙を差し上げなさるのがよいでしょう。軽々しく、どうして,何も言わずに、お隠れあそばせましょう。ご参詣の後は、そのままこちらにお帰りあそばしませ。こうして心細いようですが、思い通りに気楽なお暮らしに馴れて、かえって本邸の方が旅心地がするのではないでしょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 212 | 「やはり、しばらくの間、こうしてお待ち申し上げなさるのが、落ち着いていて体裁がよいでしょう。京へなどとお迎え申されてから後、ゆっくりとして母君にもお会い申されませ。あの乳母が、とてもせっかちでいられて、急にこのような話を申し上げなさるのでしょうよ。昔も今も、我慢してのんびりとしている人が、しまいには幸福になるということです」<BR>⏎ | 198 | 「やはり,しばらくの間、こうしてお待ち申し上げなさるのが、落ち着いていて体裁がよいでしょう。京へなどとお迎え申されてから後、ゆっくりとして母君にもお会い申されませ。あの乳母が、とてもせっかちでいられて、急にこのような話を申し上げなさるのでしょうよ。昔も今も、我慢してのんびりとしている人が、しまいには幸福になるということです」<BR>⏎ |
| c2 | 214-215 | 「どうして、この乳母をお止め申さずになってしまったのでしょう。年老いた人は、やっかいな性質があるものですから」<BR>⏎ と憎むのは、乳母のような女房を悪く言うようである。「なるほど、憎らしい女房がいた」とお思い出しになるのも、夢のような気がする。側で聞いていられないほど、うちとけた話をして、<BR>⏎ | 200-201 | 「どうして,この乳母をお止め申さずになってしまったのでしょう。年老いた人は、やっかいな性質があるものですから」<BR>⏎ と憎むのは、乳母のような女房を悪く言うようである。「なるほど,憎らしい女房がいた」とお思い出しになるのも、夢のような気がする。側で聞いていられないほど、うちとけた話をして、<BR>⏎ |
| d1 | 222 | <P>⏎ | ||
| version51 | 223 | <A NAME="in24">[第四段 匂宮、薫の声をまねて浮舟の寝所に忍び込む]</A><BR> | 208 | |
| c1 | 226 | と言って、作りかけていた縫物を持って、几帳に懸けたりなどして、うたた寝の状態で寄り臥した。女君も少し奥に入って臥す。右近は北面に行って、しばらくして再び来た。女君の後ろ近くに臥した。<BR>⏎ | 211 | と言って,作りかけていた縫物を持って、几帳に懸けたりなどして、うたた寝の状態で寄り臥した。女君も少し奥に入って臥す。右近は北面に行って、しばらくして再び来た。女君の後ろ近くに臥した。<BR>⏎ |
| c1 | 238 | 「まあ、大変」<BR>⏎ | 223 | 「まあ,大変」<BR>⏎ |
| c2 | 240-241 | 「わたしを、他の人には見せるな。来たからと言って、誰も起こすな」<BR>⏎ と、とてもたくみなお方なので、もともとわずかに似ているお声を、まったくあの方のご様子に似せてお入りになる。「ひどい目に遭った姿だとおっしゃったが、どのようなお姿なのだろう」とお気の毒で、自分も隠れて拝見する。<BR>⏎ | 225-226 | 「わたしを,他の人には見せるな。来たからと言って、誰も起こすな」<BR>⏎ と,とてもたくみなお方なので、もともとわずかに似ているお声を、まったくあの方のご様子に似せてお入りになる。「ひどい目に遭った姿だとおっしゃったが、どのようなお姿なのだろう」とお気の毒で、自分も隠れて拝見する。<BR>⏎ |
| c1 | 247 | などと、利口ぶる女房もいるが、<BR>⏎ | 232 | などと,利口ぶる女房もいるが、<BR>⏎ |
| d1 | 252 | <P>⏎ | ||
| version51 | 253 | <A NAME="in25">[第五段 翌朝、匂宮、京へ帰らず居座る]</A><BR> | 237 | |
| c1 | 259 | 「今日、お迎えにとございましたが、どのようにあそばす御ことでしょうか。このように逃れることがおできになれないご運命は、まことに申し上げようもございません。あいにく日が悪うございます。やはり、今日はお帰りあそばして、ご愛情がございましたら、改めてごゆっくりと」<BR>⏎ | 243 | 「今日、お迎えにとございましたが、どのようにあそばす御ことでしょうか。このように逃れることがおできになれないご運命は、まことに申し上げようもございません。あいにく日が悪うございます。やはり,今日はお帰りあそばして、ご愛情がございましたら、改めてごゆっくりと」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 262-263 | とおっしゃって、この人が、世にも稀なくらいかわいく思われなさるままに、どのような非難もお忘れになったのであろう。<BR>⏎ <P>⏎ | 246 | とおっしゃって,この人が、世にも稀なくらいかわいく思われなさるままに、どのような非難もお忘れになったのであろう。<BR>⏎ |
| version51 | 264 | <A NAME="in26">[第六段 右近、匂宮と浮舟の密事を隠蔽す]</A><BR> | 247 | |
| c2 | 266-267 | 「これこれとおっしゃっていますが、やはり、とても見苦しいなさりようです、と申し上げてください。驚くほど目にもあまるようなお振る舞いは、どんなにお思いになっても、あなた方お供の人びとの考えでどうにでもなりましょう。どうして、こう無分別にも宮をお連れ申し上げなさったのですか。無礼な行ないを致す山賊などが途中で現れましたら、どうなりましょう」<BR>⏎ と言う。内記は、「なるほど、とてもやっかいなことであるなあ」と思って立っている。<BR>⏎ | 249-250 | 「これこれとおっしゃっていますが、やはり,とても見苦しいなさりようです、と申し上げてください。驚くほど目にもあまるようなお振る舞いは、どんなにお思いになっても、あなた方お供の人びとの考えでどうにでもなりましょう。どうして,こう無分別にも宮をお連れ申し上げなさったのですか。無礼な行ないを致す山賊などが途中で現れましたら、どうなりましょう」<BR>⏎ と言う。内記は、「なるほど,とてもやっかいなことであるなあ」と思って立っている。<BR>⏎ |
| c1 | 275 | 「まあ、気味が悪い。木幡山は、とても恐ろしいという山ですよ。いつものように、お先も払わせなさらず、身を簡略にしていらっしゃったので、まあ、大変なこと」<BR>⏎ | 258 | 「まあ,気味が悪い。木幡山は、とても恐ろしいという山ですよ。いつものように、お先も払わせなさらず、身を簡略にしていらっしゃったので、まあ,大変なこと」<BR>⏎ |
| c1 | 278 | と言っているが、嘘をつくのが恐ろしい。具合悪く、殿のお使いが来た時にはどのように言おうと、<BR>⏎ | 261 | と言っているが、嘘をつくのが恐ろしい。具合悪く、殿のお使いが来た時には どのように言おうと、<BR>⏎ |
| c1 | 280 | と、大願を立てるのであった。<BR>⏎ | 263 | と,大願を立てるのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 282 | 「それでは、今日は、お出かけあそばすわけにはゆかないでしょう。とても残念なこと」<BR>⏎ | 265 | 「それでは,今日は、お出かけあそばすわけにはゆかないでしょう。とても残念なこと」<BR>⏎ |
| d1 | 284 | <P>⏎ | ||
| version51 | 285 | <A NAME="in27">[第七段 右近、浮舟の母の使者の迎えを断わる]</A><BR> | 267 | |
| c3 | 289-291 | 「素性を知らないので、返す返すもとても情けない。やはり、ありのままにおっしゃってください。ひどく身分の低い人だと言っても、ますますいとおしく思われましょう」<BR>⏎ と、無理やりにお尋ねになるが、そのお返事は全然しない。他のことでは、とてもかわいらしく親しみやすい様子にお返事申し上げたりなどして、言うままになるのを、とてもこの上なくかわいらしいとばかり御覧になる。<BR>⏎ 日が高くなったころに、迎えの人が来た。車二台、乗馬の人びとが、いつものように、荒々しい者が七、八人。男連中が大勢、例によって、下品な感じで、ぺちゃくちゃしゃべりながら入って来たので、女房たちは体裁悪がりながら、<BR>⏎ | 271-273 | 「素性を知らないので、返す返すもとても情けない。やはり,ありのままにおっしゃってください。ひどく身分の低い人だと言っても、ますますいとおしく思われましょう」<BR>⏎ と,無理やりにお尋ねになるが、そのお返事は全然しない。他のことでは、とてもかわいらしく親しみやすい様子にお返事申し上げたりなどして、言うままになるのを、とてもこの上なくかわいらしいとばかり御覧になる。<BR>⏎ 日が高くなったころに、迎えの人が来た。車二台、乗馬の人びとが、いつものように、荒々しい者が七,八人。男連中が大勢、例によって、下品な感じで、ぺちゃくちゃしゃべりながら入って来たので、女房たちは体裁悪がりながら、<BR>⏎ |
| d1 | 298 | <P>⏎ | ||
| version51 | 299 | <A NAME="in28">[第八段 匂宮と浮舟、一日仲睦まじく過ごす]</A><BR> | 280 | |
| c1 | 300 | いつもは時間のたつのも長く感じられ、霞んでいる山際を眺めながら物思いに耽っていたのに、日の暮れて行くのが侘しいとばかり思い焦がれていらっしゃる方に惹かれ申して、まことにあっけなく暮れてしまった。誰に妨げられることのない長い春の日を、いくら見てもいて見飽きず、どこがと思われる欠点もなく、愛嬌があって、慕わしく魅力的である。<BR>⏎ | 281 | いつもは時間のたつのも長く感じられ、霞んでいる山際を眺めながら物思いに耽っていたのに、日の暮れて行くのが侘しいとばかり思い焦がれていらっしゃる方に惹かれ申して、まことにあっけなく暮れてしまった。誰に妨げられることのない長い春の日を、いくら見てもいて見飽きず、どこがと思われる欠点もなく、愛嬌があって,慕わしく魅力的である。<BR>⏎ |
| c1 | 302 | 女はまた一方、大将殿を、とても美しそうで他にこのような方がいるだろうかと思っていたが、「情愛こまやかで輝くような美しさは、この上なくいらっしゃるなあ」と思う。<BR>⏎ | 283 | 女はまた一方、大将殿を、とても美しそうで 他にこのような方がいるだろうかと思っていたが、「情愛こまやかで輝くような美しさは、この上なくいらっしゃるなあ」と思う。<BR>⏎ |
| c1 | 305 | と言って、とても美しそうな男と女が、一緒に添い臥している絵を描きなさって、<BR>⏎ | 286 | と言って,とても美しそうな男と女が、一緒に添い臥している絵を描きなさって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 308-309 | 「末長い仲を約束してもやはり悲しいのは<BR>⏎ ただ明日を知らない命であるよ<BR>⏎ | 289 | 「末長い仲を約束してもやはり悲しいのは<BR> ただ明日を知らない命であるよ<BR>⏎ |
| cd2:1 | 312-313 | 「心変わりなど嘆いたりしないでしょう<BR>⏎ 命だけが定めないこの世と思うのでしたら」<BR>⏎ | 292 | 「心変わりなど嘆いたりしないでしょう<BR> 命だけが定めないこの世と思うのでしたら」<BR>⏎ |
| c1 | 316 | などと、にっこりして、大将がここに連れて来なさった当時のことを、繰り返し知りたくなって、お尋ねになるのを、つらく思って、<BR>⏎ | 295 | などと,にっこりして、大将がここに連れて来なさった当時のことを、繰り返し知りたくなって、お尋ねになるのを、つらく思って、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 318-319 | と、恨んでいる様子も、若々しい。自然とそれは聞き出そう、とお思いになる一方で、言わせたく思うのも困ったことだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 297 | と,恨んでいる様子も、若々しい。自然とそれは聞き出そう、とお思いになる一方で、言わせたく思うのも困ったことだ。<BR>⏎ |
| version51 | 320 | <A NAME="in29">[第九段 翌朝、匂宮、京へ帰る]</A><BR> | 298 | |
| c1 | 322 | 「后の宮からもご使者が参って、右の大殿もご不満を申されて、『誰にも知らせあそばさぬお忍び歩きは、まことに軽々しく、無礼な行為に遭うこともあるのを、総じて、帝などがお耳にあそばすことも、わが身にとってもまことにつらい』とひどくおっしゃっていました。東山に聖僧にお会に行ったと、皆には申しておきました」<BR>⏎ | 300 | 「后の宮からもご使者が参って、右の大殿もご不満を申されて、『誰にも知らせあそばさぬお忍び歩きは、まことに軽々しく、無礼な行為に遭うこともあるのを、総じて,帝などがお耳にあそばすことも、わが身にとってもまことにつらい』とひどくおっしゃっていました。東山に聖僧にお会に行ったと、皆には申しておきました」<BR>⏎ |
| c3 | 326-328 | 「聖と呼んでくださったのは、とても結構な。あなた個人の嘘をついた罪も、その功徳で帳消しなさりましょう。ほんとうに、とても困ったご性質で、おっしゃるとおり、いったいどうしてそのような癖がおつきになったのでしょう。前々からこのようにいらっしゃると聞いておりましたら、とても恐れ多いことですから、うまくお取り計らい申し上げましたでしょうに。無分別なご外出ですこと」<BR>⏎ と、お困り申す。<BR>⏎ 帰参して、「これこれです」と申し上げると、「なるほど、どんなに騒いでいるだろう」と、ご想像になって、<BR>⏎ | 304-306 | 「聖と呼んでくださったのは、とても結構な。あなた個人の嘘をついた罪も、その功徳で帳消しなさりましょう。ほんとうに、とても困ったご性質で、おっしゃるとおり,いったいどうしてそのような癖がおつきになったのでしょう。前々からこのようにいらっしゃると聞いておりましたら、とても恐れ多いことですから、うまくお取り計らい申し上げましたでしょうに。無分別なご外出ですこと」<BR>⏎ と,お困り申す。<BR>⏎ 帰参して、「これこれです」と申し上げると、「なるほど,どんなに騒いでいるだろう」と、ご想像になって、<BR>⏎ |
| c1 | 330 | 大将もどのように思うであろうか。親しくて当然と言ってよいながら、不思議なまでに昔から親しい仲で、このような秘密が知られた時は、恥ずかしく、またどんなであろうか。<BR>⏎ | 308 | 大将もどのように思うであろうか。親しくて当然と言ってよいながら、不思議なまでに 昔から親しい仲で、このような秘密が知られた時は、恥ずかしく、またどんなであろうか。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 334-335 | 「いったいどうしてよいか分からない<BR>⏎ 先に立つ涙が道を真暗にするので」<BR>⏎ | 312 | 「いったいどうしてよいか分からない<BR> 先に立つ涙が道を真暗にするので」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 337-338 | 「涙も狭い袖では抑えかねますので<BR>⏎ どのように別れを止めることができましょうか」<BR>⏎ | 314 | 「涙も狭い袖では抑えかねますので<BR> どのように別れを止めることができましょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 341 | <P>⏎ | ||
| version51 | 342 | <H4>第三章 浮舟と薫の物語 薫と浮舟、宇治橋の和歌を詠み交す</H4> | 317 | |
| version51 | 343 | <A NAME="in31">[第一段 匂宮、二条院に帰邸し、中君を責める]</A><BR> | 318 | |
| c1 | 344 | 二条の院にお着きになって、女君がたいそう水臭くお隠しになっていたことが情けないので、気楽な方の部屋でお寝みになったが、眠ることがおできになれず、とても寂しく物思いがまさるので、心弱く対の屋にお渡りになった。<BR>⏎ | 319 | 二条の院にお着きになって、女君がたいそう水臭くお隠しになっていたことが情けないので、気楽な方の部屋でお寝みになったが、眠ることがおできになれず、とても寂しく 物思いがまさるので、心弱く対の屋にお渡りになった。<BR>⏎ |
| c1 | 346 | 「気分がとても悪い。どうなるのだろうかと、心細い気がする。わたしは、どんなにも深く愛していても先立ってしまったら、お身の上はまことすぐに変わってしまうでしょうね。人の思いは、きっと通るものですからね」<BR>⏎ | 321 | 「気分がとても悪い。どうなるのだろうかと、心細い気がする。わたしは,どんなにも深く愛していても先立ってしまったら、お身の上はまことすぐに変わってしまうでしょうね。人の思いは、きっと通るものですからね」<BR>⏎ |
| c1 | 349 | と言って、横をお向きになった。宮も、真面目になって、<BR>⏎ | 324 | と言って,横をお向きになった。宮も、真面目になって、<BR>⏎ |
| d1 | 354 | <P>⏎ | ||
| version51 | 355 | <A NAME="in32">[第二段 明石中宮からと薫の見舞い]</A><BR> | 329 | |
| c1 | 361 | と言って、寛いだ恰好でお会いなさった。<BR>⏎ | 335 | と言って,寛いだ恰好でお会いなさった。<BR>⏎ |
| c1 | 364 | いつもは、ほんの些細な機会でさえ、自分はまじめ人間だと振る舞い自称していらっしゃるのを、悔しがりなさって、何かと文句をおつけになるのを、このような事を発見したのを、どうしておっしゃっらないだろうか。けれども、そのような冗談もおっしゃらず、とてもつらそうにお見えになるので、<BR>⏎ | 338 | いつもは、ほんの些細な機会でさえ、自分はまじめ人間だと振る舞い自称していらっしゃるのを、悔しがりなさって、何かと文句をおつけになるのを、このような事を発見したのを、どうしておっしゃっらないだろうか。けれども,そのような冗談もおっしゃらず、とてもつらそうにお見えになるので、<BR>⏎ |
| c1 | 366 | などと、心からお見舞い申し述べてお出になった。「気のひけるほど立派な人である。わたしの態度を、どのように比較しただろう」などと、いろいろな事柄につけて、ひたすらあの女を、束の間も忘れずお思い出しになる。<BR>⏎ | 340 | などと,心からお見舞い申し述べてお出になった。「気のひけるほど立派な人である。わたしの態度を、どのように比較しただろう」などと、いろいろな事柄につけて、ひたすらあの女を、束の間も忘れずお思い出しになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 369-370 | と、女房仲間には言い聞かせていた。何かと右近は、嘘をつくことになったのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 343 | と,女房仲間には言い聞かせていた。何かと右近は、嘘をつくことになったのであった。<BR>⏎ |
| version51 | 371 | <A NAME="in33">[第三段 二月上旬、薫、宇治へ行く]</A><BR> | 344 | |
| c2 | 374-375 | 女は、どうしてお会いできようかと、空にまで目があって恐ろしく思われるので、激しく一途であった方のご様子が、自然と思い出されると、一方で、この方にお会いすることを想像すると、ひどくつらい。<BR>⏎ 「『私は今まで何年も会っていた女の思いが、皆あなたに移ってしまいそうだ』とおっしゃったのを、なるほど、その後はご気分が悪いと言って、どの方にもどの方にも、いつものようなご様子ではなく、御修法などと言って騒いでいるというのを聞くと、また、どのようにお聞きになってどのようにお思いになるだろうか」と、思うにつけてまことにつらい。<BR>⏎ | 347-348 | 女は,どうしてお会いできようかと、空にまで目があって恐ろしく思われるので、激しく一途であった方のご様子が、自然と思い出されると、一方で,この方にお会いすることを想像すると、ひどくつらい。<BR>⏎ 「『私は今まで何年も会っていた女の思いが、皆あなたに移ってしまいそうだ』とおっしゃったのを、なるほど,その後はご気分が悪いと言って、どの方にもどの方にも、いつものようなご様子ではなく、御修法などと言って騒いでいるというのを聞くと、また,どのようにお聞きになってどのようにお思いになるだろうか」と、思うにつけてまことにつらい。<BR>⏎ |
| d1 | 378 | <P>⏎ | ||
| version51 | 379 | <A NAME="in34">[第四段 薫と浮舟、それぞれの思い]</A><BR> | 351 | |
| c1 | 381 | と思っておっしゃるのにつけても、「あの方が、のんびりとした所を考えついたと、昨日もおっしゃっていたが、このようなことをご存知なくて、そのようにお考えになっていることよ」と、心が痛みながらも、「そちらに靡くべきではないのだ」と思うその一方で、先日のお姿が、面影に現れるので、「自分ながらも嫌な情けない身の上だわ」と、思い続けて泣いた。<BR>⏎ | 353 | と思っておっしゃるのにつけても、「あの方が、のんびりとした所を考えついたと、昨日もおっしゃっていたが、このようなことをご存知なくて、そのようにお考えになっていることよ」と、心が痛みながらも、「そちらに靡くべきではないのだ」と思うその一方で、先日のお姿が、面影に現れるので、「自分ながらも 嫌な情けない身の上だわ」と、思い続けて泣いた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 383-384 | などと言って、初旬ころの夕月夜に、少し端に近い所に臥して外を眺めていらっしゃった。男は、亡くなった姫君のことを思い出しなさって、女は、今から加わった身のつらさを嘆いて、お互いに物思いする。<BR>⏎ <P>⏎ | 355 | などと言って,初旬ころの夕月夜に、少し端に近い所に臥して外を眺めていらっしゃった。男は、亡くなった姫君のことを思い出しなさって、女は、今から加わった身のつらさを嘆いて、お互いに物思いする。<BR>⏎ |
| version51 | 385 | <A NAME="in35">[第五段 薫と浮舟、宇治橋の和歌を詠み交す]</A><BR> | 356 | |
| cd3:2 | 387-389 | それ以上に、恋しい女に似ているのもこの上なく、だんだんと男女の情理を知り、都の女らしくなってゆく様子がかわいらしいのも、すっかり良くなった感じがなさるが、女は、あれこれ物思いする心中に、いつの間にかこみ上げてくる涙、ややもすれば流れ出すのを、慰めかねなさって、<BR>⏎ 「宇治橋のように末長い約束は朽ちないから<BR>⏎ 不安に思って心配なさるな<BR>⏎ | 358-359 | それ以上に,恋しい女に似ているのもこの上なく、だんだんと男女の情理を知り、都の女らしくなってゆく様子がかわいらしいのも、すっかり良くなった感じがなさるが、女は、あれこれ物思いする心中に、いつの間にかこみ上げてくる涙、ややもすれば流れ出すのを、慰めかねなさって、<BR>⏎ 「宇治橋のように末長い約束は朽ちないから<BR> 不安に思って心配なさるな<BR>⏎ |
| cd2:1 | 392-393 | 「絶え間ばかりが気がかりでございます宇治橋なのに<BR>⏎ 朽ちないものと依然頼りにしなさいとおっしゃるのですか」<BR>⏎ | 362 | 「絶え間ばかりが気がかりでございます宇治橋なのに<BR> 朽ちないものと依然頼りにしなさいとおっしゃるのですか」<BR>⏎ |
| d1 | 395 | <P>⏎ | ||
| version51 | 396 | <H4>第四章 浮舟と匂宮の物語 匂宮と浮舟、橘の小島の和歌を詠み交す</H4> | 364 | |
| version51 | 397 | <A NAME="in41">[第一段 二月十日、宮中の詩会催される]</A><BR> | 365 | |
| c1 | 402 | と、ふと口ずさみなさったのも、ちょっとしたことを口ずさんだのだが、妙にしみじみとした情感をそそる人柄なので、たいそう奥ゆかしく見える。<BR>⏎ | 370 | と,ふと口ずさみなさったのも、ちょっとしたことを口ずさんだのだが、妙にしみじみとした情感をそそる人柄なので、たいそう奥ゆかしく見える。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 406-408 | 早朝、雪が深く積もったので、詩文を献上しようとして、御前に参上なさったご器量は、最近特に男盛りで美しそうに見える。あの君も同じくらいの年齢で、もう二、三歳年長の違いからか、少し老成した態度や心配りなどは、特別に作り出したような、上品な男の手本のようでいらっしゃる。「帝の婿君として不足がない」と、世間の人も判断している。詩文の才能なども、政治向きの才能も、誰にも負けないでいらっしゃったのだろう。<BR>⏎ 詩文の披講がすっかり終わって、参会者皆が退出なさる。宮の詩文を「優れていた」と朗誦して誉めるが、何ともお感じにならず、「どのような気持ちで、こんなことをしているのか」と、ぼんやりとばかりしていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 374-375 | 早朝、雪が深く積もったので、詩文を献上しようとして、御前に参上なさったご器量は、最近特に男盛りで美しそうに見える。あの君も同じくらいの年齢で、もう二,三歳年長の違いからか、少し老成した態度や心配りなどは、特別に作り出したような、上品な男の手本のようでいらっしゃる。「帝の婿君として不足がない」と、世間の人も判断している。詩文の才能なども、政治向きの才能も、誰にも負けないでいらっしゃったのだろう。<BR>⏎ 詩文の披講がすっかり終わって、参会者皆が退出なさる。宮の詩文を 「優れていた」と朗誦して誉めるが、何ともお感じにならず、「どのような気持ちで、こんなことをしているのか」と、ぼんやりとばかりしていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version51 | 409 | <A NAME="in42">[第二段 匂宮、雪の山道の宇治へ行く]</A><BR> | 376 | |
| c1 | 411 | いつもよりひどい人影も稀な細道を分け入って行きなさるとき、お供の人も、泣き出したいほど恐ろしく、厄介なことが起こる場合まで心配する。案内役の大内記は、式部少輔を兼官していた。どちらの官も重々しくしていなければならない官職であるが、とても似合わしく指貫の裾を引き上げたりしている姿はおかしかった。<BR>⏎ | 378 | いつもよりひどい人影も稀な細道を分け入って行きなさるとき、お供の人も、泣き出したいほど恐ろしく、厄介なことが起こる場合まで心配する。案内役の大内記は、式部少輔を兼官していた。どちらの官も 重々しくしていなければならない官職であるが、とても似合わしく 指貫の裾を引き上げたりしている姿はおかしかった。<BR>⏎ |
| d1 | 415 | <P>⏎ | ||
| version51 | 416 | <A NAME="in43">[第三段 宮と浮舟、橘の小島の和歌を詠み交す]</A><BR> | 382 | |
| c1 | 419 | と申し上げさせる。「これは、どうなさることか」と、右近もとても気がそぞろなので、寝惚けて起きている気持ちも、ぶるぶると震えて、正体もない。子供が雪遊びをしている時のように、震え上がってしまった。<BR>⏎ | 385 | と申し上げさせる。「これは,どうなさることか」と、右近もとても気がそぞろなので、寝惚けて起きている気持ちも、ぶるぶると震えて、正体もない。子供が雪遊びをしている時のように、震え上がってしまった。<BR>⏎ |
| c1 | 424 | 「これが、橘の小島です」<BR>⏎ | 390 | 「これが,橘の小島です」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 427-429 | とおっしゃって、<BR>⏎ 「何年たとうとも変わりません<BR>⏎ 橘の小島の崎で約束するわたしの気持ちは」<BR>⏎ | 393-394 | とおっしゃって,<BR>⏎ 「何年たとうとも変わりません<BR> 橘の小島の崎で約束するわたしの気持ちは」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 431-432 | 「橘の小島の色は変わらないでも<BR>⏎ この浮舟のようなわたしの身はどこへ行くのやら」<BR>⏎ | 396 | 「橘の小島の色は変わらないでも<BR> この浮舟のようなわたしの身はどこへ行くのやら」<BR>⏎ |
| d1 | 436 | <P>⏎ | ||
| version51 | 437 | <A NAME="in44">[第四段 匂宮、浮舟に心奪われる]</A><BR> | 400 | |
| c2 | 438-439 | 日が差し出て、軒の氷柱が光り合っていて、宮のご容貌もいちだんと立派に見える気がする。宮も、人目を忍ぶやっかいな道中で、身軽なお召物である。女も、上着を脱がさせなさっていたので、ほっそりとした姿つきがたいそう魅力的である。身づくろいすることもなくうちとけている様子を、「とても恥ずかしく、眩しいほどに美しい方に向かい合っていることだわ」と思うが、隠れる所もない。<BR>⏎ やさしい感じの白い衣だけを五枚ほど、袖口、裾のあたりまで優美で、色とりどりにたくさん重ねたのよりも美しく着こなしていた。いつも御覧になっている方でも、こんなにまでうちとけている姿などは御覧になったことがないので、こんなことまでが、やはり珍しく興趣深く思われなさるのであった。<BR>⏎ | 401-402 | 日が差し出て、軒の氷柱が光り合っていて、宮のご容貌もいちだんと立派に見える気がする。宮も、人目を忍ぶやっかいな道中で、身軽なお召物である。女も、上着を脱がさせなさっていたので、ほっそりとした姿つきが たいそう魅力的である。身づくろいすることもなくうちとけている様子を、「とても恥ずかしく、眩しいほどに美しい方に向かい合っていることだわ」と思うが、隠れる所もない。<BR>⏎ やさしい感じの白い衣だけを五枚ほど、袖口,裾のあたりまで優美で、色とりどりにたくさん重ねたのよりも 美しく着こなしていた。いつも御覧になっている方でも、こんなにまでうちとけている姿などは御覧になったことがないので、こんなことまでが、やはり珍しく興趣深く思われなさるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 445 | <P>⏎ | ||
| version51 | 446 | <A NAME="in45">[第五段 匂宮、浮舟と一日を過ごす]</A><BR> | 408 | |
| cd2:1 | 452-453 | 「峰の雪や水際の氷を踏み分けて<BR>⏎ あなたに心は迷いましたが、道中では迷いません<BR>⏎ | 414 | 「峰の雪や水際の氷を踏み分けて<BR> あなたに心は迷いましたが、道中では迷いません<BR>⏎ |
| cd5:3 | 455-459 | などと、見苦しい硯を召し出して、手習いなさる。<BR>⏎ 「降り乱れて水際で凍っている雪よりも<BR>⏎ はかなくわたしは中途で消えてしまいそうです」<BR>⏎ と書いて消した。この「中空」をお咎めになる。「なるほど、憎いことを書いたものだわ」と、恥ずかしくて引き破った。そうでなくても見る効のあるご様子を、ますます感激して素晴らしいと、相手が心に思い込むようにと、あらん限りの言葉を尽くすご様子、態度は、何とも表現のしようがない。<BR>⏎ <P>⏎ | 416-418 | などと,見苦しい硯を召し出して、手習いなさる。<BR>⏎ 「降り乱れて水際で凍っている雪よりも<BR> はかなくわたしは中途で消えてしまいそうです」<BR>⏎ と書いて消した。この「中空」をお咎めになる。「なるほど,憎いことを書いたものだわ」と、恥ずかしくて引き破った。そうでなくても見る効のあるご様子を、ますます感激して素晴らしいと、相手が心に思い込むようにと、あらん限りの言葉を尽くすご様子,態度は、何とも表現のしようがない。<BR>⏎ |
| version51 | 460 | <A NAME="in46">[第六段 匂宮、京へ帰り立つ]</A><BR> | 419 | |
| cd3:2 | 464-466 | 「大切にお思いの方は、このようには、なさるまいよ。お分かりになりましたか」<BR>⏎ とおっしゃると、お言葉のとおりだ、と思って、うなずいて座っているのは、たいそういじらしげである。右近が、妻戸を開け放ってお入れ申し上げる。そのまま、ここで別れてお帰りになるのも、あかず悲しいとお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 423-424 | 「大切にお思いの方は、このようには,なさるまいよ。お分かりになりましたか」<BR>⏎ とおっしゃると、お言葉のとおりだ,と思って、うなずいて座っているのは、たいそういじらしげである。右近が、妻戸を開け放ってお入れ申し上げる。そのまま,ここで別れてお帰りになるのも、あかず悲しいとお思いになる。<BR>⏎ |
| version51 | 467 | <A NAME="in47">[第七段 匂宮、二条院に帰邸後、病に臥す]</A><BR> | 425 | |
| d1 | 471 | <P>⏎ | ||
| version51 | 472 | <H4>第五章 浮舟の物語 浮舟、恋の板ばさみに、入水を思う</H4> | 429 | |
| version51 | 473 | <A NAME="in51">[第一段 春雨の続く頃、匂宮から手紙が届く]</A><BR> | 430 | |
| cd2:1 | 475-476 | 「眺めやっているそちらの方の雲も見えないくらいに<BR>⏎ 空までが真っ暗になっている今日このごろの侘しさです」<BR>⏎ | 432 | 「眺めやっているそちらの方の雲も見えないくらいに<BR> 空までが真っ暗になっている今日このごろの侘しさです」<BR>⏎ |
| c3 | 478-480 | 「とてもこのような気持ちに惹かれるにちがいないが、初めから約束なさった様子も、やはり何といっても、あの方は、やはりとても思慮深く、人柄が素晴らしく思われたのなども、男女の仲を知った初めのうちだからであろうか、このような情けないことを聞きつけて、お疎みになったら、どうして生きていられようか。<BR>⏎ 早く殿に迎えられるようにと気を揉んでいる母親は、思いもかけないことで、気にくわないと、困ることであろう。このように熱心になっていらっしゃる方は、また一方で、とても浮気なご性質とばかり聞いていたので、今は熱心であっても、またこのような状態で、京にお隠し据えなさっても、末長く情けをかける一人として思ってくださることにつけては、あの上がどのようにお思いになることやら。何事も隠しきれない世の中なのだから、不思議な事のあった夕暮の縁だけで、このようにお尋ねになるようだ。<BR>⏎ まして、自分が宮にかくまわれることになっても、殿がお知りにならないことがあろうか」<BR>⏎ | 434-436 | 「とてもこのような気持ちに惹かれるにちがいないが、初めから約束なさった様子も、やはり何といっても、あの方は,やはりとても思慮深く、人柄が素晴らしく思われたのなども、男女の仲を知った初めのうちだからであろうか、このような情けないことを聞きつけて、お疎みになったら、どうして生きていられようか。<BR>⏎ 早く殿に迎えられるようにと気を揉んでいる母親は、思いもかけないことで、気にくわないと、困ることであろう。このように熱心になっていらっしゃる方は、また一方で,とても浮気なご性質とばかり聞いていたので、今は熱心であっても、またこのような状態で、京にお隠し据えなさっても、末長く情けをかける一人として思ってくださることにつけては、あの上がどのようにお思いになることやら。何事も隠しきれない世の中なのだから、不思議な事のあった夕暮の縁だけで、このようにお尋ねになるようだ。<BR>⏎ まして,自分が宮にかくまわれることになっても、殿がお知りにならないことがあろうか」<BR>⏎ |
| d1 | 482 | <P>⏎ | ||
| version51 | 483 | <A NAME="in52">[第二段 その同じ頃、薫からも手紙が届く]</A><BR> | 438 | |
| c2 | 485-486 | 「やはり、心が移ったわ」<BR>⏎ などと、声に出さないで目で言っている。⏎ | 440-441 | 「やはり,心が移ったわ」<BR>⏎ などと,声に出さないで目で言っている。⏎ |
| c2 | 489-490 | 「安心できないお方ですよ。殿のご様子に勝る方は、誰がいらっしゃいましょうか。器量などは知りませんが、お心づかいや感じなどがね。やはり、このご関係は、とても見苦しいことですね。どのようにおなりあそばそうとするのでしょうか」<BR>⏎ と、二人で相談する。独りで考えるよりは、嘘をつくにもよい助けが出て来たのであった。<BR>⏎ | 444-445 | 「安心できないお方ですよ。殿のご様子に勝る方は、誰がいらっしゃいましょうか。器量などは知りませんが、お心づかいや感じなどがね。やはり,このご関係は、とても見苦しいことですね。どのようにおなりあそばそうとするのでしょうか」<BR>⏎ と,二人で相談する。独りで考えるよりは、嘘をつくにもよい助けが出て来たのであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 493-495 | などと、端に、<BR>⏎ 「川の水が増す宇治の里人はどのようにお過ごしでしょうか<BR>⏎ 晴れ間も見せず長雨が降り続き、物思いに耽っていらっしゃる今日このごろ<BR>⏎ | 448-449 | などと,端に、<BR>⏎ 「川の水が増す宇治の里人はどのようにお過ごしでしょうか<BR> 晴れ間も見せず長雨が降り続き、物思いに耽っていらっしゃる今日このごろ<BR>⏎ |
| c2 | 497-498 | と、白い色紙で立文である。ご筆跡もこまやかで美しくはないが、書き方は教養ありげに見える。宮は、とても言葉数多いのを、小さく結んでいらっしゃるのは、それぞれに興趣深い。<BR>⏎ 「とりあえず、あれを。誰も見ていないうちに」<BR>⏎ | 451-452 | と,白い色紙で立文である。ご筆跡もこまやかで美しくはないが、書き方は教養ありげに見える。宮は、とても言葉数多いのを、小さく結んでいらっしゃるのは、それぞれに興趣深い。<BR>⏎ 「とりあえず、あれを.誰も見ていないうちに」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 502-503 | 「里の名をわが身によそえると<BR>⏎ 山城の宇治の辺りはますます住みにくいことよ」<BR>⏎ | 456 | 「里の名をわが身によそえると<BR> 山城の宇治の辺りはますます住みにくいことよ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 505-506 | 「真っ暗になって晴れない峰の雨雲のように<BR>⏎ 空にただよう煙となってしまいたい<BR>⏎ | 458 | 「真っ暗になって晴れない峰の雨雲のように<BR> 空にただよう煙となってしまいたい<BR>⏎ |
| cd3:2 | 509-511 | 真面目人間は、のんびりと御覧になりながら、「ああ、どのような思いでいるのだろう」と想像して、たいそう恋しい。<BR>⏎ 「寂しくわが身を知らされる雨が小止みもなく降り続くので<BR>⏎ 袖までが涙でますます濡れてしまいます」<BR>⏎ | 461-462 | 真面目人間は、のんびりと御覧になりながら、「ああ,どのような思いでいるのだろう」と想像して、たいそう恋しい。<BR>⏎ 「寂しくわが身を知らされる雨が小止みもなく降り続くので<BR> 袖までが涙でますます濡れてしまいます」<BR>⏎ |
| d1 | 513 | <P>⏎ | ||
| version51 | 514 | <A NAME="in53">[第三段 匂宮、薫の浮舟を新築邸に移すことを知る]</A><BR> | 464 | |
| c1 | 517 | と、申し上げなさると、<BR>⏎ | 467 | と,申し上げなさると、<BR>⏎ |
| c2 | 519-520 | と、お返事なさる。<BR>⏎ 「帝になど、良くないようにお耳に入れ申す人がございましょう。世間の人の噂は、まことにつまらない良くないものでございますよ。けれども、その女は、それほど問題にもならない女でございます」<BR>⏎ | 469-470 | と,お返事なさる。<BR>⏎ 「帝になど、良くないようにお耳に入れ申す人がございましょう。世間の人の噂は、まことにつまらない良くないものでございますよ。けれども、その女は,それほど問題にもならない女でございます」<BR>⏎ |
| c1 | 526 | とご相談があったので、「どのような女であろうか」とは思うが、重大事とお思いでいられるのが恐れ多いので、「それではどうぞ」と申し上げた。この家を準備なさって、少しお心が安心なさる。今月の晦日頃に、下向する予定なので、「すぐその日に女を移そう」とご計画なさる。<BR>⏎ | 476 | とご相談があったので、「どのような女であろうか」とは思うが、重大事とお思いでいられるのが 恐れ多いので、「それではどうぞ」と申し上げた。この家を準備なさって、少しお心が安心なさる。今月の晦日頃に、下向する予定なので、「すぐその日に女を移そう」とご計画なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 529 | <P>⏎ | ||
| version51 | 530 | <A NAME="in54">[第四段 浮舟の母、京から宇治に来る]</A><BR> | 479 | |
| c1 | 531 | 大将殿は、四月の十日とお決めになっていた。「誘ってくれる人がいたらどこへでも」とは思わず、とても変で、「どうしたらよい身の上だろうか」と浮いたような気持ちばかりがするので、「母親のもとにしばらく出かけていたら、思案する時間があろう」とお思いになるが、少将の妻が、子供を産む時期が近づいたということで、修法や、読経などでひっきりなしに騒がしいので、石山寺にも出かけるわけにゆかず、母親がこちらにお越しになった。乳母が出て来て、<BR>⏎ | 480 | 大将殿は、四月の十日とお決めになっていた。「誘ってくれる人がいたらどこへでも」とは思わず、とても変で、「どうしたらよい身の上だろうか」と浮いたような気持ちばかりがするので、「母親のもとにしばらく出かけていたら、思案する時間があろう」とお思いになるが、少将の妻が、子供を産む時期が近づいたということで、修法や,読経などで ひっきりなしに騒がしいので、石山寺にも出かけるわけにゆかず、母親がこちらにお越しになった。乳母が出て来て、<BR>⏎ |
| c3 | 534-536 | 「とんでもない事がいろいろと起こって、物笑いになったら、誰も彼もがどのように思うであろう。無理無体におっしゃる方は、また、幾重にも山深い所に隠れても、必ず探し出して、自分も宮も身を破滅してしまうだろう。やはり、気楽な所に隠れることを考えなさいと、今日もおっしゃっているが、どうしたらよいだろう」<BR>⏎ と、気分が悪くて臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ 「どうして、このようにいつもと違って、ひどく青く痩せていらっしゃるのでしょうか」<BR>⏎ | 483-485 | 「とんでもない事がいろいろと起こって、物笑いになったら、誰も彼もがどのように思うであろう。無理無体におっしゃる方は、また,幾重にも山深い所に隠れても、必ず探し出して、自分も宮も身を破滅してしまうだろう。やはり,気楽な所に隠れることを考えなさいと、今日もおっしゃっているが、どうしたらよいだろう」<BR>⏎ と,気分が悪くて臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ 「どうして,このようにいつもと違って、ひどく青く痩せていらっしゃるのでしょうか」<BR>⏎ |
| d1 | 542 | <P>⏎ | ||
| version51 | 543 | <A NAME="in55">[第五段 浮舟、母と尼の話から、入水を思う]</A><BR> | 491 | |
| c1 | 547 | 「いつもいつも、この君の事では、何かと心配ばかりしてきましたが、様子が少しよくなって、このように京にお移りなるようですから、こちらにやって参ること、特別にわざわざ思い立つこともございますまい。このようなお目にかかった折々に、昔の話を、のんびりと承りたく存じます」<BR>⏎ | 495 | 「いつもいつも、この君の事では、何かと心配ばかりしてきましたが、様子が少しよくなって、このように京にお移りなるようですから、こちらにやって参ること、特別にわざわざ 思い立つこともございますまい。このようなお目にかかった折々に、昔の話を、のんびりと承りたく存じます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 554-555 | と言うにつけても、「やはりそうか、それ以上にわたしは」と、女君は臥せって聞いていらっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 502 | と言うにつけても、「やはりそうか,それ以上にわたしは」と、女君は臥せって聞いていらっしゃった。<BR>⏎ |
| version51 | 556 | <A NAME="in56">[第六段 浮舟、母と尼の話から、入水を思う]</A><BR> | 503 | |
| c2 | 557-558 | 「まあ、嫌らしいこと。帝のお姫様をお持ちになっていらっしゃる方ですが、他人なので、良いとも悪いともお咎めがあろうとなかろうと、しかたのないことと、恐れ多く存じております。良くない事件を引き起こしなさったら、すべてわが身にとっては悲しく大変なことだとお思い申し上げても、二度とお世話しないでしょう」<BR>⏎ などと話し合っている内容に、ますます胸も潰れる思いがした。「やはり、自殺してしまおう。最後は聞きにくいことがきっと出て来ることだろう」と思い続けると、この川の水の音が恐ろしそうに響いて流れて行くのを、<BR>⏎ | 504-505 | 「まあ,嫌らしいこと。帝のお姫様をお持ちになっていらっしゃる方ですが、他人なので、良いとも悪いともお咎めがあろうとなかろうと、しかたのないことと、恐れ多く存じております。良くない事件を引き起こしなさったら、すべてわが身にとっては悲しく大変なことだとお思い申し上げても、二度とお世話しないでしょう」<BR>⏎ などと話し合っている内容に、ますます胸も潰れる思いがした。「やはり,自殺してしまおう。最後は聞きにくいことがきっと出て来ることだろう」と思い続けると、この川の水の音が恐ろしそうに響いて流れて行くのを、<BR>⏎ |
| cd6:5 | 560-565 | などと、母君は得意顔で言っていた。昔からこの川の早くて恐ろしいことを言って、<BR>⏎ 「最近、渡守の孫の小さい子が、棹を差し損ねて川に落ちてしまいました。ぜんたい命を落とす人が多い川でございます」<BR>⏎ と、女房も話し合っていた。女君は、<BR>⏎ 「それにしても、わが身の行く方が分からなくなったら、誰も彼もが、あっけなく悲しいと、しばらくの間はお思いになるであろうが、生き永らえて物笑いになって嫌な思いをするのは、いつ物思いがなくなるというのだろう」<BR>⏎ と、死を考えつくと、何の支障もないように、さっぱりと何事も思われるが、また考え直すと実に悲しい。母親がいろいろと心配し言っている様子に、寝たふうをしながらつくづくと思い心乱れる。<BR>⏎ <P>⏎ | 507-511 | などと,母君は得意顔で言っていた。昔からこの川の早くて恐ろしいことを言って、<BR>⏎ 「最近,渡守の孫の小さい子が、棹を差し損ねて川に落ちてしまいました。ぜんたい命を落とす人が多い川でございます」<BR>⏎ と,女房も話し合っていた。女君は、<BR>⏎ 「それにしても,わが身の行く方が分からなくなったら、誰も彼もが、あっけなく悲しいと、しばらくの間はお思いになるであろうが、生き永らえて物笑いになって嫌な思いをするのは、いつ物思いがなくなるというのだろう」<BR>⏎ と,死を考えつくと、何の支障もないように、さっぱりと何事も思われるが、また考え直すと実に悲しい。母親がいろいろと心配し言っている様子に、寝たふうをしながらつくづくと思い心乱れる。<BR>⏎ |
| version51 | 566 | <A NAME="in57">[第七段 浮舟の母、帰京す]</A><BR> | 512 | |
| c1 | 571 | などと、気のつかないことがないまでに注意して、<BR>⏎ | 517 | などと,気のつかないことがないまでに注意して、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 577-578 | などと、泣きながらおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 523 | などと,泣きながらおっしゃる。<BR>⏎ |
| version51 | 579 | <H4>第六章 浮舟と薫の物語 浮舟、右近の姉の悲話から死を願う</H4> | 524 | |
| version51 | 580 | <A NAME="in61">[第一段 薫と匂宮の使者同士出くわす]</A><BR> | 525 | |
| c1 | 585 | などと、こちらはたくさんお書きになっていた。<BR>⏎ | 530 | などと,こちらはたくさんお書きになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 595 | <P>⏎ | ||
| version51 | 596 | <A NAME="in62">[第二段 薫、匂宮が女からの文を読んでいるのを見る]</A><BR> | 540 | |
| c1 | 609 | 「開いて御覧になっているのは、紅の薄様に、こまごまと書いてあるらしい」と見える。手紙に夢中になって、すぐには振り向きなさらないので、大臣も席を立って外に出てにいらっしゃるので、この君は、襖障子からお出になろうとして、「大臣がお出になります」と咳払いをして、ご注意申し上げなさる。<BR>⏎ | 553 | 「開いて御覧になっているのは、紅の薄様に、こまごまと書いてあるらしい」と見える。手紙に夢中になって、すぐには振り向きなさらないので、大臣も席を立って外に出てにいらっしゃるので、この君は、襖障子からお出になろうとして、「大臣がお出になります」と 咳払いをして、ご注意申し上げなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 612-613 | と、忙しそうにお立ちになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 556 | と,忙しそうにお立ちになった。<BR>⏎ |
| version51 | 614 | <A NAME="in63">[第三段 薫、随身から匂宮と浮舟の関係を知らされる]</A><BR> | 557 | |
| d1 | 624 | <P>⏎ | ||
| version51 | 625 | <A NAME="in64">[第四段 薫、帰邸の道中、思い乱れる]</A><BR> | 567 | |
| c1 | 626 | 帰途、「やはり、実に油断のならない、抜け目なくいらっしゃる宮であるよ。どのような機会に、そのような人がいるとお聞きになったのだろう。どのようにして言い寄りなさったのだろう。田舎めいた所だから、このような方面の過ちは、けっして起こるまい、と思っていたのが浅はかだった。それにしても、わたしに関わりのない女には、そのような懸想をなさってもよいが、昔から親しくして、おかしいまでに手引して、お連れ申して歩いた者に、裏切ってそのような考えを持たれてよいものであろうか」<BR>⏎ | 568 | 帰途、「やはり,実に油断のならない、抜け目なくいらっしゃる宮であるよ。どのような機会に、そのような人がいるとお聞きになったのだろう。どのようにして言い寄りなさったのだろう。田舎めいた所だから、このような方面の過ちは、けっして起こるまい、と思っていたのが浅はかだった。それにしても,わたしに関わりのない女には、そのような懸想をなさってもよいが、昔から親しくして、おかしいまでに手引して、お連れ申して歩いた者に、裏切ってそのような考えを持たれてよいものであろうか」<BR>⏎ |
| c1 | 630 | と、つくづくと思うと、女がひどく物思いしている様子であったのも、事情の一端がお分かり始めになると、あれこれと思い合わせると、実につらい。<BR>⏎ | 572 | と,つくづくと思うと、女がひどく物思いしている様子であったのも、事情の一端がお分かり始めになると、あれこれと思い合わせると、実につらい。<BR>⏎ |
| c1 | 633 | 「北の方にする気持ちの女ならともかくも、やはり今まで通りにしておこう。これを限りに会わなくなるのも、はたまた、恋しい気がするであろう」<BR>⏎ | 575 | 「北の方にする気持ちの女ならともかくも、やはり今まで通りにしておこう。これを限りに会わなくなるのも、はたまた,恋しい気がするであろう」<BR>⏎ |
| d1 | 635 | <P>⏎ | ||
| version51 | 636 | <A NAME="in65">[第五段 薫、宇治へ随身を遣わす]</A><BR> | 577 | |
| c2 | 637-638 | 「自分が、嫌気がさしたといって、見捨てたら、きっと、あの宮が、呼び迎えなさろう。相手にとって、将来がお気の毒なのも、格別お考えなさるまい。そのように寵愛なさる女は、一品宮の御方のもとに女房を、二、三人出仕させなさったという。そのように、出仕させたのを見たり聞いたりするのも、気の毒なことだ」<BR>⏎ などと、やはり見捨てがたく、様子を見たくて、お手紙を遣わす。いつもの随身を呼んで、ご自身で直接人のいない間に呼び寄せた。<BR>⏎ | 578-579 | 「自分が、嫌気がさしたといって、見捨てたら、きっと,あの宮が、呼び迎えなさろう。相手にとって、将来がお気の毒なのも、格別お考えなさるまい。そのように寵愛なさる女は、一品宮の御方のもとに女房を、二,三人出仕させなさったという。そのように,出仕させたのを見たり聞いたりするのも、気の毒なことだ」<BR>⏎ などと,やはり見捨てがたく、様子を見たくて、お手紙を遣わす。いつもの随身を呼んで、ご自身で直接人のいない間に呼び寄せた。<BR>⏎ |
| c1 | 642 | と、溜息をおつきになって、<BR>⏎ | 583 | と,溜息をおつきになって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 646-647 | 「心変わりするころとは知らずにいつまでも<BR>⏎ 待ち続けていらっしゃるものと思っていました<BR>⏎ | 587 | 「心変わりするころとは知らずにいつまでも<BR> 待ち続けていらっしゃるものと思っていました<BR>⏎ |
| d1 | 654 | <P>⏎ | ||
| version51 | 655 | <A NAME="in66">[第六段 右近と侍従、右近の姉の悲話を語る]</A><BR> | 594 | |
| c1 | 660 | 「まあ、お気の毒な。難儀なお事でございます。殿は事情をお察しになったのでしょう」<BR>⏎ | 599 | 「まあ,お気の毒な。難儀なお事でございます。殿は事情をお察しになったのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 665 | そうして自分も住んでいられなくなったのでした。常陸国でも、大変惜しい兵士を一人失った。また、過ちを犯した男も、良い家来であったが、このような過ちを犯した者を、どうしてそのまま使うことができようか、ということで、国内を追放され、すべて女がよろしくないのだと言って、館の内にも置いてくださらなかったので、東国の人となって、乳母も、今でも恋い慕って泣いておりますのは、罪深いものと拝見されます。<BR>⏎ | 604 | そうして自分も住んでいられなくなったのでした。常陸国でも、大変惜しい兵士を一人失った。また,過ちを犯した男も、良い家来であったが、このような過ちを犯した者を、どうしてそのまま使うことができようか、ということで,国内を追放され、すべて女がよろしくないのだと言って、館の内にも置いてくださらなかったので、東国の人となって、乳母も、今でも恋い慕って泣いておりますのは、罪深いものと拝見されます。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 669-671 | 「まあ嫌な、恐ろしいことまでを申し上げなさいますな。何事もすべてご運命でしょう。ただお心の中で、少しでも気持ちの傾く方を、そうなるご運だとお考えなさいませ。それにしても、まことに恐れ多く、たいそうなご執心であったので、殿があのように何かとご準備なさっているらしいことにもお心が動きません。しばらくは隠れてでも、お気持ちがお傾きになる方に身をお寄せなさいませ、と存じます」<BR>⏎ と、宮をたいそうお誉め申し上げる者なので、一途に言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 608-609 | 「まあ嫌な、恐ろしいことまでを申し上げなさいますな。何事もすべてご運命でしょう。ただお心の中で、少しでも気持ちの傾く方を、そうなるご運だとお考えなさいませ。それにしても,まことに恐れ多く、たいそうなご執心であったので、殿があのように何かとご準備なさっているらしいことにもお心が動きません。しばらくは隠れてでも、お気持ちがお傾きになる方に身をお寄せなさいませ、と存じます」<BR>⏎ と,宮をたいそうお誉め申し上げる者なので、一途に言う。<BR>⏎ |
| version51 | 672 | <A NAME="in67">[第七段 浮舟、右近の姉の悲話から死を願う]</A><BR> | 610 | |
| c3 | 676-678 | と、言い続けるのを、女君、「やはり、わたしを、宮に心寄せ申していると思って、この女房たちが言っている。とても恥ずかしく、気持ちの上ではどちらとも思っていない。ただ夢のように茫然として、ひどくご執着なさっているのを、どうしてこんなにまで、と思うが、お頼り申し上げて長い間になる方を、今になって裏切ろうとは思わないからこそ、このように大変だと思って悩むのだ。なるほど、よくない事でも起こったときには」と、つくづくと思っていた。<BR>⏎ 「わたしは、何とかして死にたい。世間並に生きられないつらい身の上だわ。このような、嫌なことのある例は、下衆の中でさえ多くあろうか」<BR>⏎ と言って、うつ臥しなさると、<BR>⏎ | 614-616 | と,言い続けるのを、女君、「やはり,わたしを、宮に心寄せ申していると思って、この女房たちが言っている。とても恥ずかしく、気持ちの上ではどちらとも思っていない。ただ夢のように茫然として、ひどくご執着なさっているのを、どうしてこんなにまで、と思うが、お頼り申し上げて長い間になる方を、今になって裏切ろうとは思わないからこそ、このように大変だと思って悩むのだ。なるほど,よくない事でも起こったときには」と、つくづくと思っていた。<BR>⏎ 「わたしは、何とかして死にたい。世間並に生きられないつらい身の上だわ。このような,嫌なことのある例は、下衆の中でさえ多くあろうか」<BR>⏎ と言って,うつ臥しなさると、<BR>⏎ |
| c1 | 680 | と、事情を知っている者だけは、みな心配しているのだが、乳母は、自分一人満足そうにして、染物などをしていた。新参の童女などで無難なのを呼んでは、<BR>⏎ | 618 | と,事情を知っている者だけは、みな心配しているのだが、乳母は、自分一人満足そうにして、染物などをしていた。新参の童女などで無難なのを呼んでは、<BR>⏎ |
| d1 | 682 | <P>⏎ | ||
| version51 | 683 | <H4>第七章 浮舟の物語 浮舟、匂宮にも逢わず、母へ告別の和歌を詠み残す</H4> | 620 | |
| version51 | 684 | <A NAME="in71">[第一段 内舎人、薫の伝言を右近に伝える]</A><BR> | 621 | |
| c1 | 685 | 殿からは、あの先日の返事をさえおっしゃらずに、幾日も過ぎた。この恐ろしがらせた内舎人という者が来た。なるほど、たいそう荒々しく不格好に太った様子をした老人で、声も嗄れ、何といっても凄そうなのが、<BR>⏎ | 622 | 殿からは、あの先日の返事をさえおっしゃらずに、幾日も過ぎた。この恐ろしがらせた内舎人という者が来た。なるほど,たいそう荒々しく 不格好に太った様子をした老人で、声も嗄れ、何といっても凄そうなのが、<BR>⏎ |
| c1 | 691 | 『わたくしは病気が重くございまして、宿直いたしますことは幾月も致しておりませんので、事情を知ることができません。しかるべき男どもは、怠けることなく警護させておりますのに、そのようなもってのほかのことがございますのを、どうして知らないでいられましょう』<BR>⏎ | 628 | 『わたくしは病気が重くございまして、宿直いたしますことは 幾月も致しておりませんので、事情を知ることができません。しかるべき男どもは、怠けることなく警護させておりますのに、そのようなもってのほかのことがございますのを、どうして知らないでいられましょう』<BR>⏎ |
| cd2:1 | 696-697 | 「とても嬉しいことをおっしゃった。盗賊が多いという所で、宿直人も最初のころのようではありません。みな、代理だと言っては、変な下衆ばかりを差し向けていたので、夜回りさえできなかったが」と喜ぶ。<BR>⏎ <P>⏎ | 633 | 「とても嬉しいことをおっしゃった。盗賊が多いという所で、宿直人も最初のころのようではありません。みな,代理だと言っては、変な下衆ばかりを差し向けていたので、夜回りさえできなかったが」と喜ぶ。<BR>⏎ |
| version51 | 698 | <A NAME="in72">[第二段 浮舟、死を決意して、文を処分す]</A><BR> | 634 | |
| c1 | 699 | 女君は、「なるほど、今はまことに悪くなってしまった身の上のようだ」とお思いになっているところに、宮からは、<BR>⏎ | 635 | 女君は、「なるほど,今はまことに悪くなってしまった身の上のようだ」とお思いになっているところに、宮からは、<BR>⏎ |
| c1 | 701 | と、苔が乱れるような無理なことをおっしゃるのが、とても厄介である。<BR>⏎ | 637 | と,苔が乱れるような無理なことをおっしゃるのが、とても厄介である。<BR>⏎ |
| c1 | 705 | 「どうして、このようなことをあそばします。愛し合っていらっしゃるお間柄で、心をこめてお書き交わしなさった手紙は、他人にはお見せあそばさなくても、何かの箱底におしまいあそばして御覧になるのが、身分相応に、とても感慨深いものでございます。あれほど立派な紙を使い、恐れ多いお言葉のあらん限りをお尽くしになったのを、あのようにばかりお破りあそばすのは、情けないこと」<BR>⏎ | 641 | 「どうして,このようなことをあそばします。愛し合っていらっしゃるお間柄で、心をこめてお書き交わしなさった手紙は、他人にはお見せあそばさなくても、何かの箱底におしまいあそばして御覧になるのが、身分相応に、とても感慨深いものでございます。あれほど立派な紙を使い、恐れ多いお言葉のあらん限りをお尽くしになったのを、あのようにばかりお破りあそばすのは、情けないこと」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 708-709 | などとおしゃる。心細いことを思い続けていくと、再び決心ができなくなるのであった。親を残して先立つ人は、とても罪障深いと言うものをなどと、やはり、かすかに聞いたことを思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 644 | などとおしゃる。心細いことを思い続けていくと、再び決心ができなくなるのであった。親を残して先立つ人は、とても罪障深いと言うものをなどと、やはり,かすかに聞いたことを思う。<BR>⏎ |
| version51 | 710 | <A NAME="in73">[第三段 三月二十日過ぎ、浮舟、匂宮を思い泣く]</A><BR> | 645 | |
| c1 | 713 | などとおっしゃる。「そうして、無理をしておいでになったとしても、もう一度何も申し上げることができず、お目にかかれぬままお帰し申し上げることよ。また、束の間でも、どうしてここにお近づけ申し上げることができよう。効なく恨んでお帰りになろう」その様子を想像すると、いつものように、面影が離れず、始終悲しくて、このお手紙を顔に押し当てて、しばらくの間は我慢していたが、とてもひどくお泣きになる。<BR>⏎ | 648 | などとおっしゃる。「そうして,無理をしておいでになったとしても、もう一度何も申し上げることができず、お目にかかれぬままお帰し申し上げることよ。また,束の間でも、どうしてここにお近づけ申し上げることができよう。効なく恨んでお帰りになろう」その様子を想像すると、いつものように、面影が離れず、始終悲しくて、このお手紙を顔に押し当てて、しばらくの間は我慢していたが、とてもひどくお泣きになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 718-719 | と言って、お返事も差し上げないでしまわれた。<BR>⏎ <P>⏎ | 653 | と言って,お返事も差し上げないでしまわれた。<BR>⏎ |
| version51 | 720 | <A NAME="in74">[第四段 匂宮、宇治へ行く]</A><BR> | 654 | |
| c1 | 725 | 「あれは、誰だ」<BR>⏎ | 659 | 「あれは,誰だ」<BR>⏎ |
| c2 | 730-731 | と言わせた。宮は、「どうして、こんなによそよそしくするのだろう」とお思いになると、たまらなくなって、<BR>⏎ 「まず、時方が入って、侍従に会って、しかるべくはからえ」<BR>⏎ | 664-665 | と言わせた。宮は、「どうして,こんなによそよそしくするのだろう」とお思いになると、たまらなくなって、<BR>⏎ 「まず,時方が入って、侍従に会って、しかるべくはからえ」<BR>⏎ |
| c1 | 733 | 「どうしたわけでありましょう。あの殿がおっしゃることがあると言って、宿直にいる者どもが、出しゃばっているところで、まことに困っているのです。御前におかれても、深く思い嘆いていらっしゃるらしいのは、このようなご訪問のもったいなさを、悩んでいらっしゃるのだ、とお気の毒に拝しております。全然、今晩はだめです。誰かが様子に気づきましたら、かえってまことに悪いことになりましょう。そのまま、そのようにお考えあそばしている夜には、こちらでも誰にも知られず計画しまして、ご案内申し上げましょう」<BR>⏎ | 667 | 「どうしたわけでありましょう。あの殿がおっしゃることがあると言って、宿直にいる者どもが、出しゃばっているところで、まことに困っているのです。御前におかれても、深く思い嘆いていらっしゃるらしいのは、このようなご訪問のもったいなさを、悩んでいらっしゃるのだ、とお気の毒に拝しております。全然、今晩はだめです。誰かが様子に気づきましたら、かえってまことに悪いことになりましょう。そのまま,そのようにお考えあそばしている夜には、こちらでも誰にも知られず計画しまして、ご案内申し上げましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 735 | 「おいでになった道中が大変なことで、ぜひにもというお気持ちなので、はりあいもなくお返事申し上げるのは、具合が悪い。それでは、さあ、いらっしゃい。一緒に詳しく申し上げましょう」と誘う。<BR>⏎ | 669 | 「おいでになった道中が大変なことで、ぜひにもというお気持ちなので、はりあいもなくお返事申し上げるのは、具合が悪い。それでは,さあ,いらっしゃい。一緒に詳しく申し上げましょう」と誘う。<BR>⏎ |
| d1 | 738 | <P>⏎ | ||
| version51 | 739 | <A NAME="in75">[第五段 匂宮、浮舟に逢えず帰京す]</A><BR> | 672 | |
| c3 | 741-743 | 「もっと、早く早く参ろう」<BR>⏎ とうるさく言って、この侍従を連れて上がる。髪は、脇の下から前に出して、姿がとても美しい人である。馬に乗せようとしたが、どうしても聞かないので、衣の裾を持って、歩いて付いて来る。自分の沓を履かせて、自分は供人の粗末なのを履いた。<BR>⏎ 参上して、「これこれです」と申し上げると、相談しようにも適当な場所がないので、山家の垣根の茂った葎のもとに、障泥という物を敷いて、お下ろし申し上げる。ご自身のお気持ちにも、「変な恰好だな。このような道につまずいて、これといった、将来とても期待できそうにない身の上のようだ」と、お思い続けると、お泣きになることこの上ない。<BR>⏎ | 674-676 | 「もっと,早く早く参ろう」<BR>⏎ とうるさく言って、この侍従を連れて上がる。髪は,脇の下から前に出して、姿がとても美しい人である。馬に乗せようとしたが、どうしても聞かないので、衣の裾を持って、歩いて付いて来る。自分の沓を履かせて、自分は供人の粗末なのを履いた。<BR>⏎ 参上して、「これこれです」と申し上げると、相談しようにも適当な場所がないので、山家の垣根の茂った葎のもとに、障泥という物を敷いて,お下ろし申し上げる。ご自身のお気持ちにも、「変な恰好だな。このような道につまずいて、これといった、将来とても期待できそうにない身の上のようだ」と、お思い続けると、お泣きになることこの上ない。<BR>⏎ |
| c1 | 745 | 「たった一言でも申し上げることはできないのか。どうして、今さらこうなのだ。やはり、女房らが申し上げたことがあるのだろう」<BR>⏎ | 678 | 「たった一言でも申し上げることはできないのか。どうして,今さらこうなのだ。やはり,女房らが申し上げたことがあるのだろう」<BR>⏎ |
| c1 | 747 | 「いずれ、そのようにお考えになっている日を、事前に漏れないように、計らいなさいませ。このように恐れ多いことを拝見いたしておりますと、身を捨ててでもお取り計らい申し上げましょう」<BR>⏎ | 680 | 「いずれ,そのようにお考えになっている日を、事前に漏れないように、計らいなさいませ。このように恐れ多いことを拝見いたしておりますと、身を捨ててでもお取り計らい申し上げましょう」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 752-756 | 「どこに身を捨てようかと捨て場も知らない、白雲が<BR>⏎ かからない山とてない山道を泣く泣く帰って行くことよ<BR>⏎ それでは、早く」<BR>⏎ と言って、この人をお帰しになる。ご様子が優雅で胸を打ち、夜深い露にしめったお香の匂いなどは、他にたとえようもない。泣く泣く帰って来た。<BR>⏎ <P>⏎ | 685-687 | 「どこに身を捨てようかと捨て場も知らない、白雲が<BR> かからない山とてない山道を泣く泣く帰って行くことよ<BR>⏎ それでは,早く」<BR>⏎ と言って,この人をお帰しになる。ご様子が優雅で胸を打ち、夜深い露にしめったお香の匂いなどは、他にたとえようもない。泣く泣く帰って来た。<BR>⏎ |
| version51 | 757 | <A NAME="in76">[第六段 浮舟の今生の思い]</A><BR> | 688 | |
| c1 | 759 | 先日の絵を取り出して見て、お描きになった手つき、お顔の美しさなどが、向かい合っているように思い出されるので、昨夜、一言も申し上げずじまいになったことは、やはりもう一段とまさって、悲しく思われる。「あの、のんびりとした邸で逢おう、と末長い約束をおっしゃり続けていた方も、どのようにお思いになるだろう」とお気の毒である。<BR>⏎ | 690 | 先日の絵を取り出して見て、お描きになった手つき、お顔の美しさなどが、向かい合っているように思い出されるので、昨夜、一言も申し上げずじまいになったことは、やはりもう一段とまさって、悲しく思われる。「あの,のんびりとした邸で逢おう、と末長い約束をおっしゃり続けていた方も、どのようにお思いになるだろう」とお気の毒である。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 761-762 | 「嘆き嘆いて身を捨てても亡くなった後に<BR>⏎ 嫌な噂を流すのが気にかかる」<BR>⏎ | 692 | 「嘆き嘆いて身を捨てても亡くなった後に<BR> 嫌な噂を流すのが気にかかる」<BR>⏎ |
| d1 | 764 | <P>⏎ | ||
| version51 | 765 | <A NAME="in77">[第七段 京から母の手紙が届く]</A><BR> | 694 | |
| cd3:2 | 767-769 | 「亡骸をさえ嫌なこの世に残さなかったら<BR>⏎ どこを目当てにと、あなた様もお恨みになりましょう」<BR>⏎ とだけ書いて出した。「あちらの殿にも、最後の様子をお見せ申し上げたいが、お二方に書き残しては、親しいお間柄なので、いつかは聞き合わせなさろうことは、とても困ることだどう。まるきり、どうなったのかと、誰からも分からないようにして死んでしまおう」と思い返す。<BR>⏎ | 696-697 | 「亡骸をさえ嫌なこの世に残さなかったら<BR> どこを目当てにと、あなた様もお恨みになりましょう」<BR>⏎ とだけ書いて出した。「あちらの殿にも、最後の様子をお見せ申し上げたいが、お二方に書き残しては、親しいお間柄なので、いつかは聞き合わせなさろうことは、とても困ることだどう。まるきり,どうなったのかと、誰からも分からないようにして死んでしまおう」と思い返す。<BR>⏎ |
| c1 | 771 | 「昨晩の夢に、とても物騒がしくお見えになったので、誦経をあちこちの寺にさせたりなどしましたが、そのまま、その夢の後で、眠れなかったせいか、たった今、昼寝をして見ました夢に、世間で不吉とするようなことが、お現れになったので、目を覚ますなり差し上げました。十分に慎みなさい。<BR>⏎ | 699 | 「昨晩の夢に、とても物騒がしくお見えになったので、誦経をあちこちの寺にさせたりなどしましたが、そのまま,その夢の後で、眠れなかったせいか、たった今、昼寝をして見ました夢に、世間で不吉とするようなことが、お現れになったので、目を覚ますなり差し上げました。十分に慎みなさい。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 773-775 | 参上したいが、少将の北の方が、やはり、とても心配で、物の怪めいて患っていますので、少しの間も離れることは、いけないときつく言われていますので。そちらの近くの寺にも御誦経をさせなさい」<BR>⏎ とあって、そのお布施の物や、手紙などを書き添えて、持って来た。最期と思っている命のことも知らないで、このように書き綴ってお寄越しになったのも、とても悲しいと思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 701-702 | 参上したいが、少将の北の方が、やはり,とても心配で、物の怪めいて患っていますので、少しの間も離れることは、いけないときつく言われていますので。そちらの近くの寺にも御誦経をさせなさい」<BR>⏎ とあって,そのお布施の物や、手紙などを書き添えて、持って来た。最期と思っている命のことも知らないで、このように書き綴ってお寄越しになったのも、とても悲しいと思う。<BR>⏎ |
| version51 | 776 | <A NAME="in78">[第八段 浮舟、母への告別の和歌を詠み残す]</A><BR> | 703 | |
| cd3:2 | 777-779 | 寺へ使者をやった間に、返事を書く。言いたいことはたくさんあるが、気がひけて、ただ、<BR>⏎ 「来世で再びお会いすることを思いましょう<BR>⏎ この世の夢に迷わないで」<BR>⏎ | 704-705 | 寺へ使者をやった間に、返事を書く。言いたいことはたくさんあるが、気がひけて、ただ,<BR>⏎ 「来世で再びお会いすることを思いましょう<BR> この世の夢に迷わないで」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 781-782 | 「鐘の音が絶えて行く響きに、泣き声を添えて<BR>⏎ わたしの命も終わったと母上に伝えてください」<BR>⏎ | 707 | 「鐘の音が絶えて行く響きに、泣き声を添えて<BR> わたしの命も終わったと母上に伝えてください」<BR>⏎ |
| d2 | 792-793 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 800 | ⏎ | ||
| i0 | 727 | |||
| diff | src/original/version52.html | src/modified/version52.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version52 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c2 | 29-30 | <LI>薫の後悔---<A HREF="#in22">殿は、やはり、実にあっけなく悲しいとお聞きなるにも</A>⏎ <LI>匂宮悲しみに籠もる---<A HREF="#in23">あの宮はまた宮で、彼以上に、二、三日は何も考えることができず</A>⏎ | 26-27 | <LI>薫の後悔---<A HREF="#in22">殿は、やはり,実にあっけなく悲しいとお聞きなるにも</A>⏎ <LI>匂宮悲しみに籠もる---<A HREF="#in23">あの宮はまた宮で、彼以上に、二,三日は何も考えることができず</A>⏎ |
| c2 | 38-39 | <LI>匂宮、右近を迎えに時方派遣---<A HREF="#in32">まことに夢のようにばかり、やはり、「どうして</A>⏎ <LI>時方、侍従と語る---<A HREF="#in33">大夫も泣いて、「まったく、お二方の事は</A>⏎ | 35-36 | <LI>匂宮、右近を迎えに時方派遣---<A HREF="#in32">まことに夢のようにばかり、やはり,「どうして</A>⏎ <LI>時方、侍従と語る---<A HREF="#in33">大夫も泣いて、「まったく,お二方の事は</A>⏎ |
| d1 | 76 | <P>⏎ | ||
| version52 | 77 | <H4>第一章 浮舟の物語 浮舟失踪後の人びとの動転</H4> | 73 | |
| version52 | 78 | <A NAME="in11">[第一段 宇治の浮舟失踪]</A><BR> | 74 | |
| c1 | 80 | 「まだ、鶏が鳴く時刻に、出立させなさった」<BR>⏎ | 76 | 「まだ,鶏が鳴く時刻に、出立させなさった」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 86-88 | と思うと、足摺りということをして泣く有様は、若い子供のようである。ひどくお悩みのご様子は、ずっと拝見して来たが、まったく、このように普通の人と違って大それたこと、お思いつくとは見えなかった方のお気持ちを、「やはり、どうなさったことか」と分からず悲しい。<BR>⏎ 乳母は、かえって何も分からなくなって、ただ、「どうしよう。どうしよう」と言うだけであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 82-83 | と思うと、足摺りということをして泣く有様は、若い子供のようである。ひどくお悩みのご様子は、ずっと拝見して来たが、まったく,このように普通の人と違って大それたこと、お思いつくとは見えなかった方のお気持ちを、「やはり,どうなさったことか」と分からず悲しい。<BR>⏎ 乳母は、かえって何も分からなくなって、ただ,「どうしよう。どうしよう」と言うだけであった。<BR>⏎ |
| version52 | 89 | <A NAME="in12">[第二段 匂宮から宇治へ使者派遣]</A><BR> | 84 | |
| c1 | 90 | 宮にも、まことにいつもと違った様子であったお返事に、「どのように思っているのだろう。わたしを、そうはいっても愛している様子でいながら、浮気な心だとばかり、深く疑っていたので、他へ身を隠したのであろうか」とお慌てになって、お使者がある。<BR>⏎ | 85 | 宮にも、まことにいつもと違った様子であったお返事に、「どのように思っているのだろう。わたしを,そうはいっても愛している様子でいながら、浮気な心だとばかり、深く疑っていたので、他へ身を隠したのであろうか」とお慌てになって、お使者がある。<BR>⏎ |
| c1 | 98 | と、ご想像もおつきにならないので、<BR>⏎ | 93 | と,ご想像もおつきにならないので、<BR>⏎ |
| c2 | 101-102 | 「あの大将殿は、どのようなことか、お聞きになっていることがございましたのでしょう、宿直をする者が怠慢である、などと訓戒なさったと言って、下人が退出するのさえ、注意して調べると言いますので、口実もなくて、時方が参ったのを、事が漏れたりしましたら、お気づきになることがございましょう。そうして、急に人のお亡くなりになった所は、言うまでもなく騒がしく、人目が多くございましょうから」と申し上げる。<BR>⏎ 「そうかといって、まことに気がかりなままでいられようか。やはり、何か適当に計らって、いつものように、事情を知っている侍従などに会って、どうしたわけでこのように言うのか、と尋ねよ。下衆も間違ったことを言うものだ」<BR>⏎ | 96-97 | 「あの大将殿は、どのようなことか、お聞きになっていることがございましたのでしょう、宿直をする者が怠慢である、などと訓戒なさったと言って、下人が退出するのさえ、注意して調べると言いますので、口実もなくて、時方が参ったのを、事が漏れたりしましたら、お気づきになることがございましょう。そうして,急に人のお亡くなりになった所は、言うまでもなく騒がしく、人目が多くございましょうから」と申し上げる。<BR>⏎ 「そうかといって、まことに気がかりなままでいられようか。やはり,何か適当に計らって、いつものように、事情を知っている侍従などに会って、どうしたわけでこのように言うのか、と尋ねよ。下衆も間違ったことを言うものだ」<BR>⏎ |
| d1 | 104 | <P>⏎ | ||
| version52 | 105 | <A NAME="in13">[第三段 時方、宇治に到着]</A><BR> | 99 | |
| c1 | 109 | 「ただ今は、何も分かりません。起き上がる気持ちもしません。それにしても、今夜を最後に、このようにお立ち寄りになるのでしょうが、お話しできませんことが」<BR>⏎ | 103 | 「ただ今は、何も分かりません。起き上がる気持ちもしません。それにしても,今夜を最後に、このようにお立ち寄りになるのでしょうが、お話しできませんことが」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 114-115 | と言って、泣く様子はまことに大変である。<BR>⏎ <P>⏎ | 108 | と言って,泣く様子はまことに大変である。<BR>⏎ |
| version52 | 116 | <A NAME="in14">[第四段 乳母、悲嘆に暮れる]</A><BR> | 109 | |
| c4 | 121-124 | 「やはり、おっしゃってください。もしや、誰かがお隠し申し上げなさったのか。確かな事をお聞きなさろうとして、ご自身の代わりに出立させなさったお使いです。今は、何にしても効のないことですが、後にお聞き合わせになることがございましょうが、違ったことがございましたら、聞いて参ったお使いの落度になるでしょう。<BR>⏎ また、そのようなことはあるまいとご信頼あそばして、『あなた方にお会いせよ』と仰せになったお気持ちを、もったいないとはお思いになりませんか。女の道に迷いなさることは、異国の朝廷にも、古い幾つもの例があったが、またこのようなことは、この世にない、と拝見しています」<BR>⏎ と言うので、「おっしゃるとおり、まことに恐れ多いお使いだ。隠そうとしても、こうして珍しい事件の様子は、自然とお耳に入ろう」と思って、<BR>⏎ 「どうして、少しでも、誰かがお隠し申し上げなさったのだろう、と思い寄るようなことがあったら、こんなにも皆が泣き騒ぐことがございましょうか。日頃、とてもひどく物を思いつめているようでしたので、あの殿が、厄介なことに、ちらっとおっしゃってくることなどもありました。<BR>⏎ | 114-117 | 「やはり,おっしゃってください。もしや,誰かがお隠し申し上げなさったのか。確かな事をお聞きなさろうとして、ご自身の代わりに出立させなさったお使いです。今は、何にしても効のないことですが、後にお聞き合わせになることがございましょうが、違ったことがございましたら、聞いて参ったお使いの落度になるでしょう。<BR>⏎ また,そのようなことはあるまいとご信頼あそばして、『あなた方にお会いせよ』と仰せになったお気持ちを、もったいないとはお思いになりませんか。女の道に迷いなさることは、異国の朝廷にも、古い幾つもの例があったが、またこのようなことは、この世にない、と拝見しています」<BR>⏎ と言うので、「おっしゃるとおり,まことに恐れ多いお使いだ。隠そうとしても、こうして珍しい事件の様子は、自然とお耳に入ろう」と思って、<BR>⏎ 「どうして,少しでも、誰かがお隠し申し上げなさったのだろう、と思い寄るようなことがあったら、こんなにも皆が泣き騒ぐことがございましょうか。日頃、とてもひどく物を思いつめているようでしたので、あの殿が、厄介なことに、ちらっとおっしゃってくることなどもありました。<BR>⏎ |
| c2 | 126-127 | と、そうはいっても、ありのままにではなく暗示する。合点が行かず思われて、<BR>⏎ 「それでは、落ち着いてから参りましょう。立ちながら話しますのも、まことに簡略なようです。いずれ、宮ご自身でもお出でになりましょう」<BR>⏎ | 119-120 | と,そうはいっても、ありのままにではなく暗示する。合点が行かず思われて、<BR>⏎ 「それでは,落ち着いてから参りましょう。立ちながら話しますのも、まことに簡略なようです。いずれ,宮ご自身でもお出でになりましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 129 | 「まあ、恐れ多い。今さら、人がお知り申すのも、亡きお方のためには、かえって名誉なご運勢と見えることですが、お隠しになっていた事なので、またお漏らしあそばさないで、終わりなさることが、お気持ちに従うことでしょう」<BR>⏎ | 122 | 「まあ,恐れ多い。今さら、人がお知り申すのも、亡きお方のためには、かえって名誉なご運勢と見えることですが、お隠しになっていた事なので、またお漏らしあそばさないで、終わりなさることが、お気持ちに従うことでしょう」<BR>⏎ |
| d1 | 131 | <P>⏎ | ||
| version52 | 132 | <A NAME="in15">[第五段 浮舟の母、宇治に到着]</A><BR> | 124 | |
| c1 | 134 | 「目の前で亡くなった悲しさは、どんなに悲しくあっても、世の中の常で、いくらでもあることだ。これは、いったいどうしたことか」<BR>⏎ | 126 | 「目の前で亡くなった悲しさは、どんなに悲しくあっても、世の中の常で、いくらでもあることだ。これは,いったいどうしたことか」<BR>⏎ |
| c2 | 138-139 | 「それとも、あの恐ろしいとお思い申し上げる方の所で、意地悪な乳母のような者が、このようにお迎えになる予定と聞いて、目障りに思って、誘拐を企んだ人でもあろうか」<BR>⏎ と、下衆などを疑って、<BR>⏎ | 130-131 | 「それとも,あの恐ろしいとお思い申し上げる方の所で、意地悪な乳母のような者が、このようにお迎えになる予定と聞いて、目障りに思って、誘拐を企んだ人でもあろうか」<BR>⏎ と,下衆などを疑って、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 142-144 | 「とても世間離れした所だといって、住み馴れない新参者は、こちらではちょっとしたこともできず、又すぐに参上しましょう、と言っては、皆、その引っ越しの準備の物などを持っては、京に帰ってしまいました」<BR>⏎ と言って、元からいる女房でさえ、半分はいなくなって、まことに人数少ないときであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 134-135 | 「とても世間離れした所だといって、住み馴れない新参者は、こちらではちょっとしたこともできず、又すぐに参上しましょう、と言っては、皆,その引っ越しの準備の物などを持っては、京に帰ってしまいました」<BR>⏎ と言って,元からいる女房でさえ、半分はいなくなって、まことに人数少ないときであった。<BR>⏎ |
| version52 | 145 | <A NAME="in16">[第六段 侍従ら浮舟の葬儀を営む]</A><BR> | 136 | |
| c1 | 147 | 「こうして、お亡くなりになった方を、あれこれと噂し合って、どなたもどなたも、どのようなふうにお亡くなりになったのか、とお疑いになるのも、お気の毒なこと」<BR>⏎ | 138 | 「こうして,お亡くなりになった方を、あれこれと噂し合って、どなたもどなたも、どのようなふうにお亡くなりになったのか、とお疑いになるのも、お気の毒なこと」<BR>⏎ |
| c2 | 149-150 | 「秘密の事とは言っても、ご自身から引き起こした事ではない。母親の身として、後に聞き合わせなさったとしても、別に恥ずかしい相手ではないのを、ありのままに申し上げて、このようにひどく気がかりなことまで加わって、あれこれ思い迷っていらっしゃる様子は、少しは合点の行くようにして上げよう。お亡くなりになった方としても、亡骸を安置し弔うのが、世間一般であるが、世間の例と変わった様子で幾日もたったら、まったく隠しおおせないだろう。やはり、申し上げて、今は世間の噂だけでも取り繕いましょう」<BR>⏎ と相談し合って、こっそりと生前の状態を申し上げると、言う人も正気を失って、言葉も続かず、聞く気持ちも乱れて、「それでは、このとても荒々しい川に、身を投じて亡くなったのだ」と思うと、ますます自分も落ち込んでしまいそうな気がして、<BR>⏎ | 140-141 | 「秘密の事とは言っても、ご自身から引き起こした事ではない。母親の身として、後に聞き合わせなさったとしても、別に恥ずかしい相手ではないのを、ありのままに申し上げて、このようにひどく気がかりなことまで加わって、あれこれ思い迷っていらっしゃる様子は、少しは合点の行くようにして上げよう。お亡くなりになった方としても、亡骸を安置し弔うのが、世間一般であるが、世間の例と変わった様子で幾日もたったら、まったく隠しおおせないだろう。やはり,申し上げて、今は世間の噂だけでも取り繕いましょう」<BR>⏎ と相談し合って、こっそりと生前の状態を申し上げると、言う人も正気を失って、言葉も続かず、聞く気持ちも乱れて、「それでは,このとても荒々しい川に、身を投じて亡くなったのだ」と思うと、ますます自分も落ち込んでしまいそうな気がして、<BR>⏎ |
| d1 | 155 | <P>⏎ | ||
| version52 | 156 | <A NAME="in17">[第七段 侍従ら真相を隠す]</A><BR> | 146 | |
| c1 | 161 | と言って、この車を、向かいの山の前の野原に行かせて、人も近くに寄せず、この事情を知っている法師たちだけで火葬させる。まことにあっけなくて、煙は消えた。田舎者どもは、かえって、このようなことを仰々しくして、言忌などを深くするものだったので、<BR>⏎ | 151 | と言って,この車を、向かいの山の前の野原に行かせて、人も近くに寄せず、この事情を知っている法師たちだけで火葬させる。まことにあっけなくて、煙は消えた。田舎者どもは、かえって、このようなことを仰々しくして、言忌などを深くするものだったので、<BR>⏎ |
| c2 | 165-166 | などと、いろいろと感心しないことを言うのであった。<BR>⏎ 「このような者どもが言ったり思ったりするだけでも憚れるのに、それ以上に、噂が漏れて広がる世の中では、大将殿あたりで、亡骸もなくお亡くなりになった、とお聞きになったら、きっとお疑いになることがあろうが、宮もまた、親しいお間柄であるから、そのような人がいらっしゃるかいらっしゃらないかは、しばらくの間は隠していると疑っても、いつかは明らかになるであろう。<BR>⏎ | 155-156 | などと,いろいろと感心しないことを言うのであった。<BR>⏎ 「このような者どもが言ったり思ったりするだけでも憚れるのに、それ以上に,噂が漏れて広がる世の中では、大将殿あたりで、亡骸もなくお亡くなりになった、とお聞きになったら、きっとお疑いになることがあろうが、宮もまた、親しいお間柄であるから、そのような人がいらっしゃるかいらっしゃらないかは、しばらくの間は隠していると疑っても、いつかは明らかになるであろう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 170-171 | と、この人ら二人は、深く良心が咎めるので、隠すのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 160 | と,この人ら二人は、深く良心が咎めるので、隠すのであった。<BR>⏎ |
| version52 | 172 | <H4>第二章 浮舟の物語 浮舟失踪と薫、匂宮</H4> | 161 | |
| version52 | 173 | <A NAME="in21">[第一段 薫、石山寺で浮舟失踪の報に接す]</A><BR> | 162 | |
| cd4:3 | 174-177 | 大将殿は、母入道の宮がお悩みになったので、石山寺に参籠なさって、おとりこみの最中であった。そうして、ますますあちらを気がかりにお思いになったが、はっきりと、「こうだ」と言う人がいなかったので、このような大変な事件にも、まっさきにご使者がないのを、世間体もつらいと思うが、御荘園の者が参上して、「これこれしかじかです」とご報告申し上げさせたので、驚き呆れた気がなさって、ご使者が、その翌日のまだ早朝に参上した。<BR>⏎ 「ご一大事は、聞くなりすぐに自分が駆けつけるべきところ、このようにご病気でいらっしゃる御事のために、身を清めて、このような所に日数を決めて参籠しておりますので。昨夜の事は、どうして、こちらに連絡して、日を延期してでもそういうことはするべきものを、たいそう簡略な様子で、急いでなさったのか。どのようにしたところで、同じく言っても始まらないことだが、最後の葬儀さえ、山賤の非難を受けるのが、わたしにとってもつらい」<BR>⏎ などと、あの信任厚い大蔵大輔を使者としておっしゃった。お使いが来たことにつけても、ますます悲しいので、何とも申し上げようのないことなので、ただ涙にくれているだけを口実にして、はっきりともお答え申し上げずに終わった。<BR>⏎ <P>⏎ | 163-165 | 大将殿は、母入道の宮がお悩みになったので、石山寺に参籠なさって、おとりこみの最中であった。そうして,ますますあちらを気がかりにお思いになったが、はっきりと、「こうだ」と言う人がいなかったので、このような大変な事件にも、まっさきにご使者がないのを、世間体もつらいと思うが、御荘園の者が参上して、「これこれしかじかです」とご報告申し上げさせたので、驚き呆れた気がなさって、ご使者が、その翌日の まだ早朝に参上した。<BR>⏎ 「ご一大事は、聞くなりすぐに自分が駆けつけるべきところ、このようにご病気でいらっしゃる御事のために、身を清めて、このような所に日数を決めて参籠しておりますので。昨夜の事は、どうして,こちらに連絡して、日を延期してでもそういうことはするべきものを、たいそう簡略な様子で、急いでなさったのか。どのようにしたところで、同じく言っても始まらないことだが、最後の葬儀さえ、山賤の非難を受けるのが、わたしにとってもつらい」<BR>⏎ などと,あの信任厚い大蔵大輔を使者としておっしゃった。お使いが来たことにつけても、ますます悲しいので、何とも申し上げようのないことなので、ただ涙にくれているだけを口実にして、はっきりともお答え申し上げずに終わった。<BR>⏎ |
| version52 | 178 | <A NAME="in22">[第二段 薫の後悔]</A><BR> | 166 | |
| c2 | 179-180 | 殿は、やはり、実にあっけなく悲しいとお聞きなるにも、<BR>⏎ 「何という嫌な土地であろう。鬼などが住んでいるのだろうか。どうして、今までそのような所に置いておいたのだろう。思いがけない方面からの過ちがあったようなのも、こうして放っておいたので、気楽さから、宮も言い寄りなさったのだろう」<BR>⏎ | 167-168 | 殿は、やはり,実にあっけなく悲しいとお聞きなるにも、<BR>⏎ 「何という嫌な土地であろう。鬼などが住んでいるのだろうか。どうして,今までそのような所に置いておいたのだろう。思いがけない方面からの過ちがあったようなのも、こうして放っておいたので、気楽さから、宮も言い寄りなさったのだろう」<BR>⏎ |
| d1 | 187 | <P>⏎ | ||
| version52 | 188 | <A NAME="in23">[第三段 匂宮悲しみに籠もる]</A><BR> | 175 | |
| c1 | 189 | あの宮はまた宮で、彼以上に、二、三日は何も考えることができず、正気もない状態で、「どのような御物の怪であろうか」などと騒ぐうち、だんだんと涙も流し尽くして、お気持ちが静まって、生前のご様子が恋しく悲しく思い出されなさるのであった。周囲の人には、ただご病気が篤い様子ばかりに見せて、「このような無性に涙顔でいる様子を知らせまい」と、気強く隠そうとお思いになったが、自然とはっきりしていたので、<BR>⏎ | 176 | あの宮はまた宮で、彼以上に,二,三日は何も考えることができず、正気もない状態で、「どのような御物の怪であろうか」などと騒ぐうち、だんだんと涙も流し尽くして、お気持ちが静まって、生前のご様子が恋しく悲しく思い出されなさるのであった。周囲の人には、ただご病気が篤い様子ばかりに見せて、「このような無性に涙顔でいる様子を知らせまい」と、気強く隠そうとお思いになったが、自然とはっきりしていたので、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 191-192 | と、言う人もいたので、あちらの殿におかれても、とてもよくこのご様子をお聞きになると、「そうであったか。やはり、単なる文通だけではなかったのだ。御覧になっては、きっとそのように熱中なさるはずの女である。もし生きていたら、他人の関係以上に、自分にとって馬鹿らしい事が出て来るところだった」とお思いになると、恋い焦がれる気持ちも少しは冷める気がなさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 178 | と,言う人もいたので、あちらの殿におかれても、とてもよくこのご様子をお聞きになると、「そうであったか。やはり,単なる文通だけではなかったのだ。御覧になっては、きっとそのように熱中なさるはずの女である。もし生きていたら、他人の関係以上に、自分にとって馬鹿らしい事が出て来るところだった」とお思いになると、恋い焦がれる気持ちも少しは冷める気がなさった。<BR>⏎ |
| version52 | 193 | <A NAME="in24">[第四段 薫、匂宮を訪問]</A><BR> | 179 | |
| c2 | 197-198 | 「大した病気ではございませんが、誰もが、用心しなければならない病状だ、とばかり言うので、帝におかれても母宮におかれても、御心配なさるのがとてもつらくて、なるほど、世の中の無常を、心細く思っております」<BR>⏎ とおっしゃって、押し拭ってお隠しになろうとする涙が、そのまま防ぎようもなく流れ落ちたので、たいそう体裁が悪いが、「必ずしもどうして気がつこうか。ただ女々しく心弱い者のように見るだろう」とお思いになるが、「そうであったのか。ただこの事だけをお悲しみになっていたのだ。いつから始まったのだろうか。自分を、どんなにも滑稽に物笑いなさるお気持ちで、この幾月もお思い続けていらしたのだろう」<BR>⏎ | 183-184 | 「大した病気ではございませんが、誰もが、用心しなければならない病状だ、とばかり言うので、帝におかれても母宮におかれても,御心配なさるのがとてもつらくて、なるほど,世の中の無常を、心細く思っております」<BR>⏎ とおっしゃって,押し拭ってお隠しになろうとする涙が、そのまま防ぎようもなく流れ落ちたので、たいそう体裁が悪いが、「必ずしもどうして気がつこうか。ただ女々しく心弱い者のように見るだろう」とお思いになるが、「そうであったのか。ただこの事だけをお悲しみになっていたのだ。いつから始まったのだろうか。自分を、どんなにも滑稽に物笑いなさるお気持ちで、この幾月もお思い続けていらしたのだろう」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 200-202 | 「何とまあ、薄情な方であろうか。物を切に思う時は、ほんとこのような事でない時でさえ、空を飛ぶ鳥が鳴き渡って行くのにつけても、涙が催されて悲しいのだ。わたしがこのように何となく心弱くなっているのにつけても、もし真相を知っても、それほど人の悲しみを分からない人ではない。世の中の無常を身にしみて思っている人は冷淡でいられることよ」<BR>⏎ と、羨ましくも立派だともお思いなさる一方で、女のゆかりと思うとなつかしい。この人に向かい合っている様子をご想像になると、「形見ではないか」と、じっと見つめていらっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 186-187 | 「何とまあ、薄情な方であろうか。物を切に思う時は、ほんとこのような事でない時でさえ、空を飛ぶ鳥が鳴き渡って行くのにつけても、涙が催されて悲しいのだ。わたしがこのように何となく心弱くなっているのにつけても、もし真相を知っても,それほど人の悲しみを分からない人ではない。世の中の無常を身にしみて思っている人は冷淡でいられることよ」<BR>⏎ と,羨ましくも立派だともお思いなさる一方で、女のゆかりと思うとなつかしい。この人に向かい合っている様子をご想像になると、「形見ではないか」と、じっと見つめていらっしゃる。<BR>⏎ |
| version52 | 203 | <A NAME="in25">[第五段 薫、匂宮と語り合う]</A><BR> | 188 | |
| c3 | 205-207 | 「昔から、胸のうちに秘めて少しも申し上げなかったことを残しております間は、ひどくうっとうしくばかり存じられましたが、今は、かえって身分も高くなりました。わたくし以上に、お暇もないご様子で、のんびりとしていらっしゃる時もございませんので、宿直などにも、特に用事がなくては伺候することもできず、何となく過ごしておりました。<BR>⏎ 昔、御覧になった山里に、あっけなく亡くなった方の、同じ姉妹に当たる人が、意外な所に住んでいると聞きつけまして、時々逢いもしようか、と存じておりましたが、不都合にも世間の人の非難もきっとあるような時でしたので、あの山里に置いておきましたところ、あまり行って逢うこともなく、また一方、女も、わたくし一人を頼りにする気持ちも特になかったのであろうか、と拝見しましたが、れっきとした重々しい扱いをいたす夫人ならともかく、世話するのには、格別の落度もございませんのに、気楽でかわいらしいと存じておりました女が、まことにあっけなく亡くなってしまいました。すべて世の中の有様を思い続けますと、悲しいことだ。お聞き及びのこともございましょう」<BR>⏎ と言って、今初めてお泣きになる。<BR>⏎ | 190-192 | 「昔から、胸のうちに秘めて少しも申し上げなかったことを残しております間は、ひどくうっとうしくばかり存じられましたが、今は、かえって身分も高くなりました。わたくし以上に,お暇もないご様子で、のんびりとしていらっしゃる時もございませんので、宿直などにも、特に用事がなくては伺候することもできず、何となく過ごしておりました。<BR>⏎ 昔,御覧になった山里に、あっけなく亡くなった方の、同じ姉妹に当たる人が、意外な所に住んでいると聞きつけまして、時々逢いもしようか、と存じておりましたが、不都合にも世間の人の非難もきっとあるような時でしたので、あの山里に置いておきましたところ、あまり行って逢うこともなく、また一方,女も、わたくし一人を頼りにする気持ちも特になかったのであろうか、と拝見しましたが、れっきとした重々しい扱いをいたす夫人ならともかく、世話するのには、格別の落度もございませんのに、気楽でかわいらしいと存じておりました女が、まことにあっけなく亡くなってしまいました。すべて世の中の有様を思い続けますと、悲しいことだ。お聞き及びのこともございましょう」<BR>⏎ と言って,今初めてお泣きになる。<BR>⏎ |
| c1 | 210 | と、さりげなくおっしゃるが、とても我慢できないので、言葉少なくいらっしゃる。<BR>⏎ | 195 | と,さりげなくおっしゃるが、とても我慢できないので、言葉少なくいらっしゃる。<BR>⏎ |
| c1 | 212 | などと、少しずつ当てこすって、<BR>⏎ | 197 | などと,少しずつ当てこすって、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 214-215 | などと、申し上げ置いて、お帰りになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 199 | などと,申し上げ置いて、お帰りになった。<BR>⏎ |
| version52 | 216 | <A NAME="in26">[第六段 人は非情の者に非ず]</A><BR> | 200 | |
| c1 | 218 | 自分も、これほどの身分で、今上の帝の内親王をいただきながら、この女がいじらしく思えたのは、宮に負けていようか。それ以上に、今は亡き人かと思うと、心の静めようがない。とはいえ、愚かしいことだ。そうはすまい」<BR>⏎ | 202 | 自分も、これほどの身分で、今上の帝の内親王をいただきながら、この女がいじらしく思えたのは、宮に負けていようか。それ以上に,今は亡き人かと思うと、心の静めようがない。とはいえ、愚かしいことだ.そうはすまい」<BR>⏎ |
| c1 | 221 | と、口ずさみなさって臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ | 205 | と,口ずさみなさって臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| d1 | 224 | <P>⏎ | ||
| version52 | 225 | <H4>第三章 匂宮の物語 匂宮、侍従を迎えて語り合う</H4> | 208 | |
| version52 | 226 | <A NAME="in31">[第一段 四月、薫と匂宮、和歌を贈答]</A><BR> | 209 | |
| cd2:1 | 228-229 | 「忍び音にほととぎすが鳴いていますが、あなた様も泣いていらっしゃいましょうか<BR>⏎ いくら泣いても効のない方にお心寄せならば」<BR>⏎ | 211 | 「忍び音にほととぎすが鳴いていますが、あなた様も泣いていらっしゃいましょうか<BR> いくら泣いても効のない方にお心寄せならば」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 231-232 | 「橘が薫っているところは、ほととぎすよ<BR>⏎ 気をつけて鳴くものですよ<BR>⏎ | 213 | 「橘が薫っているところは、ほととぎすよ<BR> 気をつけて鳴くものですよ<BR>⏎ |
| cd2:1 | 237-238 | などと、泣いたり笑ったりしながら申し上げなさるにつけても、他の人よりは親しみを感じ胸を打つ。大げさに格式ばって、ご病気の件でも、大騒ぎをなさる所では、お見舞い客が多くて、父大臣や、兄の公達がひっきりなしなのも、とてもうるさいが、ここはたいそう気楽で、慕わしい感じにお思いなさるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 218 | などと,泣いたり笑ったりしながら申し上げなさるにつけても、他の人よりは親しみを感じ胸を打つ。大げさに格式ばって、ご病気の件でも、大騒ぎをなさる所では、お見舞い客が多くて、父大臣や、兄の公達がひっきりなしなのも、とてもうるさいが、ここはたいそう気楽で、慕わしい感じにお思いなさるのであった。<BR>⏎ |
| version52 | 239 | <A NAME="in32">[第二段 匂宮、右近を迎えに時方派遣]</A><BR> | 219 | |
| c1 | 240 | まことに夢のようにばかり、やはり、「どうして、とても急なことであったのか」とばかり気が晴れないので、いつもの人びとを召して、右近を迎えにやる。母君も、まったくこの川の音や感じを聞くと、自分もころがり込んでしまいそうで、悲しく嫌なことが休まる間もないので、とても侘しくてお帰りになったのであった。<BR>⏎ | 220 | まことに夢のようにばかり、やはり,「どうして、とても急なことであったのか」とばかり気が晴れないので、いつもの人びとを召して、右近を迎えにやる。母君も、まったくこの川の音や感じを聞くと、自分もころがり込んでしまいそうで、悲しく嫌なことが休まる間もないので、とても侘しくてお帰りになったのであった。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 245-247 | 「今さら、皆が変だと言い思うのも気がひけまして、参上しても、はきはきとご納得の行くようには、何か申し上げられそうな気がしません。このご忌中が終わって、ちょっとどこそこにと人に言っても、少しふさわしいころになってから、思いの他に生きていましたら、少し気持ちが静まったような時に、ご命令がなくても参上して、おっしゃるようにとても夢のようだった事柄を、お話し申し上げとう存じます」<BR>⏎ と言って、今日は動きそうにもない。<BR>⏎ <P>⏎ | 225-226 | 「今さら、皆が変だと言い思うのも気がひけまして、参上しても、はきはきとご納得の行くようには、何か申し上げられそうな気がしません。このご忌中が終わって、ちょっとどこそこに と人に言っても、少しふさわしいころになってから、思いの他に生きていましたら、少し気持ちが静まったような時に、ご命令がなくても参上して、おっしゃるようにとても夢のようだった事柄を、お話し申し上げとう存じます」<BR>⏎ と言って,今日は動きそうにもない。<BR>⏎ |
| version52 | 248 | <A NAME="in33">[第三段 時方、侍従と語る]</A><BR> | 227 | |
| c1 | 250 | 「まったく、お二方の事は、詳しくは存じ上げません。物の道理もわきまえていませんが、無類のご寵愛を拝見しましたので、あなた方を、どうして急いでお近づき申し上げよう。いずれはお仕えなさるはずの方だ、と存じていましたが、何とも言いようもなく悲しいお事の後は、わたし個人としても、かえって悲しみの深さがまさりまして」<BR>⏎ | 229 | 「まったく,お二方の事は、詳しくは存じ上げません。物の道理もわきまえていませんが、無類のご寵愛を拝見しましたので、あなた方を、どうして急いでお近づき申し上げよう。いずれはお仕えなさるはずの方だ、と存じていましたが、何とも言いようもなく悲しいお事の後は、わたし個人としても、かえって悲しみの深さがまさりまして」<BR>⏎ |
| c1 | 254 | 「それでは、参上なさい」<BR>⏎ | 233 | 「それでは,参上なさい」<BR>⏎ |
| c1 | 256 | 「あなた以上に何を申し上げることができましょう。それにしても、やはり、このご忌中の間にはどうして。お厭いあそばさないのでしょうか」<BR>⏎ | 235 | 「あなた以上に何を申し上げることができましょう。それにしても、やはり,このご忌中の間にはどうして。お厭いあそばさないのでしょうか」<BR>⏎ |
| c1 | 258 | 「ご病気で大騒ぎをして、いろいろなお慎みがございますようですが、忌明けをお待ち切れになれないようなご様子です。また、このように深いご宿縁では、忌籠もりあそばすのでいらっしゃいましょう。忌明けまでの日も幾日でもない。やはりお一方参上なさい」<BR>⏎ | 237 | 「ご病気で大騒ぎをして、いろいろなお慎みがございますようですが、忌明けをお待ち切れになれないようなご様子です。また,このように深いご宿縁では、忌籠もりあそばすのでいらっしゃいましょう。忌明けまでの日も幾日でもない。やはりお一方参上なさい」<BR>⏎ |
| d1 | 260 | <P>⏎ | ||
| version52 | 261 | <A NAME="in34">[第四段 侍従、京の匂宮邸へ]</A><BR> | 239 | |
| c1 | 266 | などと、詳しく申し上げると、ひとしお実に悲しく思われて、「前世からの因縁で、病死などすることなどよりも、どんなに覚悟なさって、そのような川の中に溺死したのだろう」とお思いやりなさると、「その場を見つけてお止めできたら」と、煮えかえる気持ちがなさるが、どうしようもない。<BR>⏎ | 244 | などと,詳しく申し上げると、ひとしお実に悲しく思われて、「前世からの因縁で、病死などすることなどよりも、どんなに覚悟なさって、そのような川の中に溺死したのだろう」とお思いやりなさると、「その場を見つけてお止めできたら」と、煮えかえる気持ちがなさるが、どうしようもない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 268-269 | などと、一晩中お聞きなさるので、お話し申し上げて夜が明ける。あの巻数にお書きつけになった、母君の返事などを申し上げる。<BR>⏎ <P>⏎ | 246 | などと,一晩中お聞きなさるので、お話し申し上げて夜が明ける。あの巻数にお書きつけになった、母君の返事などを申し上げる。<BR>⏎ |
| version52 | 270 | <A NAME="in35">[第五段 侍従、宇治へ帰る]</A><BR> | 247 | |
| c1 | 274 | 「そのようにして、お仕えしますにつけても、何となく悲しく存じられますので、もう暫くこの御忌みなどを済ませましてから」<BR>⏎ | 251 | 「そのようにして,お仕えしますにつけても、何となく悲しく存じられますので、もう暫くこの御忌みなどを済ませましてから」<BR>⏎ |
| c1 | 276 | 早朝に帰る時に、あの方の御料にと思って準備なさっていた櫛の箱一具、衣箱一具を、贈物にお遣わしになる。いろいろとお整えさせになったことは多かったが、仰々しくなってしまいそうなので、ただ、この人に与えるのに相応な程度であった。<BR>⏎ | 253 | 早朝に帰る時に、あの方の御料にと思って準備なさっていた櫛の箱一具、衣箱一具を、贈物にお遣わしになる。いろいろとお整えさせになったことは多かったが、仰々しくなってしまいそうなので、ただ,この人に与えるのに相応な程度であった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 281-282 | などと、困るのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 258 | などと,困るのであった。<BR>⏎ |
| version52 | 283 | <H4>第四章 薫の物語 薫、浮舟の法事を営む</H4> | 259 | |
| version52 | 284 | <A NAME="in41">[第一段 薫、宇治を訪問]</A><BR> | 260 | |
| c1 | 285 | 大将殿も、同じように、まことに不審でしょうがないので、思い余りなさってお出でになった。道中から、昔の事を一つ一つ思い出して、<BR>⏎ | 261 | 大将殿も、同じように,まことに不審でしょうがないので、思い余りなさってお出でになった。道中から、昔の事を一つ一つ思い出して、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 288-290 | 「生前の様子もはっきりとは聞かず、やはり、尽きせず呆れて、あっけないので、忌中期間も少なくなった。過ぎてから、と思っていたが、抑えきれずにやって来たのです。どのような気持ちで、お亡くなりになったのですか」<BR>⏎ とお尋ねなさると、「尼君なども、経緯は知ってしまったので、結局はお聞き合わせになるであろうから、なまじ隠しだてしても、話がくいちがって聞かれるのも、具合の悪いことになろう。変な話には、嘘を考えて何度も言ってきたが、このような真面目な態度のお前に対座申し上げては、前もって、ああ言おう、こう言おうと、用意していた言葉も忘れ、困ること」と思われたので、生前の様子のあれこれを申し上げた。<BR>⏎ <P>⏎ | 264-265 | 「生前の様子もはっきりとは聞かず、やはり,尽きせず呆れて、あっけないので、忌中期間も少なくなった。過ぎてから、と思っていたが、抑えきれずにやって来たのです。どのような気持ちで、お亡くなりになったのですか」<BR>⏎ とお尋ねなさると、「尼君なども、経緯は知ってしまったので、結局はお聞き合わせになるであろうから、なまじ隠しだてしても、話がくいちがって聞かれるのも、具合の悪いことになろう。変な話には、嘘を考えて何度も言ってきたが、このような真面目な態度のお前に対座申し上げては、前もって,ああ言おう,こう言おうと、用意していた言葉も忘れ、困ること」と思われたので、生前の様子のあれこれを申し上げた。<BR>⏎ |
| version52 | 291 | <A NAME="in42">[第二段 薫、真相を聞きただす]</A><BR> | 266 | |
| c1 | 295 | 「お供をしていなくなった人はいないか。さらに、その時の状況をはっきり言いなさい。わたしを薄情だと思ってお裏切になることは、決してないと思う。どのような、急に、わけの分からないことがあってか、そのようなことをなさったのだろう。わたしは信じることができない」<BR>⏎ | 270 | 「お供をしていなくなった人はいないか。さらに,その時の状況をはっきり言いなさい。わたしを薄情だと思ってお裏切になることは、決してないと思う。どのような、急に、わけの分からないことがあってか、そのようなことをなさったのだろう。わたしは信じることができない」<BR>⏎ |
| c1 | 297 | 「自然とお耳に入っておりましょう。初めから不如意な境遇でお育ちになりました方で、人里離れたお住まいで暮らした後は、いつとなく物思いばかりをなさっていたようでしたが、たまにこのようにお越しになりますのを、お待ち申し上げなさることで、もともとのお身の上の不幸までをお慰めになりながら、のんびりとした状態で、時々お逢い申し上げなされるように、早く早くとばかり、言葉に出してはおっしゃいませんが、ずっとお思いでいらしたらしいのを、そのご念願が叶うように承ったことがございましたのに、こうしてお仕えする者どもも、嬉しいことと存じて準備致し、あの筑波山の母君も、やっとのことで念願が叶ったような様子で、お移りになることをご準備なさっていたのに、納得できないお手紙がございましたので、ここの宿直などに仕える者どもも、女房たちがふしだらなようだ、などと、厳しくご命令なさったことなどを申して、物の情理をわきまえない荒々しいのは田舎者どもの、間違いでもあったかのように取り扱い申すことがございましたが、その後、長らくお手紙などもございませんでしたので、情けない身の上だとばかり、幼かった時から思い知っていたが、何とか一人前にしようとばかり、いろいろとお世話なさっていた母君が、なまじその事によって、世間の物笑いになったら、どんなに嘆くだろう、などと悪いほうに考えて、いつも嘆いていらっしゃいました。<BR>⏎ | 272 | 「自然とお耳に入っておりましょう。初めから不如意な境遇でお育ちになりました方で、人里離れたお住まいで暮らした後は、いつとなく物思いばかりをなさっていたようでしたが、たまにこのようにお越しになりますのを、お待ち申し上げなさることで、もともとのお身の上の不幸までをお慰めになりながら、のんびりとした状態で、時々お逢い申し上げなされるように、早く早くとばかり、言葉に出してはおっしゃいませんが、ずっとお思いでいらしたらしいのを、そのご念願が叶うように承ったことがございましたのに、こうしてお仕えする者どもも、嬉しいことと存じて準備致し、あの筑波山の母君も、やっとのことで念願が叶ったような様子で、お移りになることをご準備なさっていたのに、納得できないお手紙がございましたので、ここの宿直などに仕える者どもも、女房たちがふしだらなようだ、などと,厳しくご命令なさったことなどを申して、物の情理をわきまえない荒々しいのは田舎者どもの、間違いでもあったかのように取り扱い申すことがございましたが、その後、長らくお手紙などもございませんでしたので、情けない身の上だとばかり、幼かった時から思い知っていたが、何とか一人前にしようとばかり、いろいろとお世話なさっていた母君が、なまじその事によって、世間の物笑いになったら、どんなに嘆くだろう、などと悪いほうに考えて、いつも嘆いていらっしゃいました。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 299-300 | と言って、泣く様子もたいそうなので、「どのようなことでか」とお疑いになっていた気持ちも消えて、お涙が抑えがたい。<BR>⏎ <P>⏎ | 274 | と言って,泣く様子もたいそうなので、「どのようなことでか」とお疑いになっていた気持ちも消えて、お涙が抑えがたい。<BR>⏎ |
| version52 | 301 | <A NAME="in43">[第三段 薫、匂宮と浮舟の関係を知る]</A><BR> | 275 | |
| c1 | 303 | 今さら、こんなことは言うまいと思うが、他に人が聞いているのならともかくだが。宮のお事ですよ。いつから始まったのでしょうか。そのようなことが原因でか、まことに不都合にも、女の心を迷わしなさる宮だから、いつもお逢いできない嘆きで、身をなきものにされたのか、と思う。ぜひ、言え。わたしには、少しも隠すな」<BR>⏎ | 277 | 今さら、こんなことは言うまいと思うが、他に人が聞いているのならともかくだが。宮のお事ですよ。いつから始まったのでしょうか。そのようなことが原因でか、まことに不都合にも、女の心を迷わしなさる宮だから、いつもお逢いできない嘆きで、身をなきものにされたのか、と思う。ぜひ,言え。わたしには、少しも隠すな」<BR>⏎ |
| c1 | 308 | その後は、噂としてでも知られまい、とお思いになって終わったのを、どうしてお耳にあそばしたのでしょうか。ちょうど、この二月頃から、お便りを頂戴するようになりましたのでしょう。お手紙は、とても頻繁にございましたようですが、御覧になることもございませんでした。まことに恐れ多く、失礼な事になりましょうと、右近めなどが申し上げましたので、一度か二度はお返事申し上げましたでしょうか。それ以外の事は存じません」<BR>⏎ | 282 | その後は、噂としてでも知られまい、とお思いになって終わったのを、どうしてお耳にあそばしたのでしょうか。ちょうど,この二月頃から、お便りを頂戴するようになりましたのでしょう。お手紙は、とても頻繁にございましたようですが、御覧になることもございませんでした。まことに恐れ多く、失礼な事になりましょうと、右近めなどが申し上げましたので、一度か二度はお返事申し上げましたでしょうか。それ以外の事は存じません」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 311-313 | 「宮をめったにないいとしい方と思い申し上げても、自分のほうをやはりいい加減には思っていなかったために、どうしたらよいか分からなくなって、頼りない考えで、この川に近いのを手だてにして、思いついたのであろう。自分がここに放って置かなかったら、たいそうつらい生活であっても、どうして、必ず深い谷を探して身投げをしなかっただろうに」<BR>⏎ と、「ひどく嫌な川の名の縁であるよ」と、この川が疎ましく思われなさること、甚だしい。長年、恋しいと思われなさっていた所で、荒々しい山路を行き来したのも、今では、また情けなくて、この里の名を聞くのさえ耐えがたい気がなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 285-286 | 「宮をめったにないいとしい方と思い申し上げても、自分のほうをやはりいい加減には思っていなかったために、どうしたらよいか分からなくなって、頼りない考えで、この川に近いのを手だてにして、思いついたのであろう。自分がここに放って置かなかったら、たいそうつらい生活であっても、どうして,必ず深い谷を探して身投げをしなかっただろうに」<BR>⏎ と,「ひどく嫌な川の名の縁であるよ」と、この川が疎ましく思われなさること、甚だしい。長年、恋しいと思われなさっていた所で、荒々しい山路を行き来したのも、今では、また情けなくて、この里の名を聞くのさえ耐えがたい気がなさる。<BR>⏎ |
| version52 | 314 | <A NAME="in44">[第四段 薫、宇治の過去を追懐す]</A><BR> | 287 | |
| c1 | 315 | 「宮の上が、おっしゃり始めた、人形と名付けたのまでが不吉で、ただ、自分の過失によって亡くした人である」と考え続けて行くと、「母親がやはり身分が軽いので、葬送もとても風変わりに、簡略にしたのであろう」と合点が行かず思っていたが、詳しくお聞きになると、<BR>⏎ | 288 | 「宮の上が、おっしゃり始めた、人形と名付けたのまでが不吉で、ただ,自分の過失によって亡くした人である」と考え続けて行くと、「母親がやはり身分が軽いので、葬送もとても風変わりに、簡略にしたのであろう」と合点が行かず思っていたが、詳しくお聞きになると、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 317-319 | などと、いろいろとお気の毒にお思いになる。穢れということはないであろうが、お供の人の目もあるので、お上がりにならず、お車の榻を召して、妻戸の前で座っていたのも、見苦しいので、たいそう茂った樹の下で、苔をお敷物として、暫くお座りになった。「今ではここに来て見ることさえつらいことであろう」とばかり、まわりを御覧になって、<BR>⏎ 「わたしもまた、嫌なこの古里を離れて、荒れてしまったら<BR>⏎ 誰がここの宿の事を思い出すであろうか」<BR>⏎ | 290-291 | などと,いろいろとお気の毒にお思いになる。穢れということはないであろうが、お供の人の目もあるので、お上がりにならず、お車の榻を召して、妻戸の前で座っていたのも、見苦しいので、たいそう茂った樹の下で、苔をお敷物として、暫くお座りになった。「今ではここに来て見ることさえつらいことであろう」とばかり、まわりを御覧になって、<BR>⏎ 「わたしもまた、嫌なこの古里を離れて、荒れてしまったら<BR> 誰がここの宿の事を思い出すであろうか」<BR>⏎ |
| d1 | 325 | <P>⏎ | ||
| version52 | 326 | <A NAME="in45">[第五段 薫、浮舟の母に手紙す]</A><BR> | 297 | |
| c1 | 327 | あの母君は、京で子を産む予定の娘のことによって、穢れを騒ぐので、いつものわが家にも行かず、心ならずも旅寝ばかり続けて、思い慰む時もないので、「また、この娘もどうなるのだろうか」と心配するが、無事に出産したのであった。穢れているので、立ち寄ることもできず、残りの家族のことも考えられず、茫然として過ごしていると、大将殿からお使いがこっそりと来た。何も考えられない気持ちにも、たいそう嬉しく感動した。<BR>⏎ | 298 | あの母君は、京で子を産む予定の娘のことによって、穢れを騒ぐので、いつものわが家にも行かず、心ならずも旅寝ばかり続けて、思い慰む時もないので、「また,この娘もどうなるのだろうか」と心配するが、無事に出産したのであった。穢れているので、立ち寄ることもできず、残りの家族のことも考えられず、茫然として過ごしていると、大将殿からお使いがこっそりと来た。何も考えられない気持ちにも、たいそう嬉しく感動した。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 329-332 | などと、こまごまとお書きになって、お使いには、あの大蔵大輔を差し向けなさった。<BR>⏎ 「悠長に万事を構えて、幾年もたってしまったので、必ずしも誠意があるようには御覧にならなかったでしょう。けれども、今から後は、何事につけても、必ずお忘れ申し上げまい。また、そのように内々にお思いおきください。幼いお子様もいると聞いていますが、朝廷にお仕えなさるにつけても、必ず力添えしましょう」<BR>⏎ などと、口頭でもおっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 300-302 | などと,こまごまとお書きになって、お使いには、あの大蔵大輔を差し向けなさった。<BR>⏎ 「悠長に万事を構えて、幾年もたってしまったので、必ずしも誠意があるようには御覧にならなかったでしょう。けれども,今から後は、何事につけても、必ずお忘れ申し上げまい。また,そのように内々にお思いおきください。幼いお子様もいると聞いていますが、朝廷にお仕えなさるにつけても、必ず力添えしましょう」<BR>⏎ などと,口頭でもおっしゃった。<BR>⏎ |
| version52 | 333 | <A NAME="in46">[第六段 浮舟の母からの返書]</A><BR> | 303 | |
| c1 | 337 | いろいろと嬉しい仰せ言を戴き、寿命も延びまして、もう暫く長生きしましたら、やはり、お頼り申し上げますこと、と存じますにつけても、目の前が涙に暮れまして、何事も申し上げ切れません」<BR>⏎ | 307 | いろいろと嬉しい仰せ言を戴き、寿命も延びまして、もう暫く長生きしましたら、やはり,お頼り申し上げますこと、と存じますにつけても、目の前が涙に暮れまして、何事も申し上げ切れません」<BR>⏎ |
| c1 | 340 | と言って、贈らせた。<BR>⏎ | 310 | と言って,贈らせた。<BR>⏎ |
| c1 | 346 | 「なるほど、見栄えのしない親戚付き合いのようだが、帝にも、その程度の身分の人の娘を差し上げなかったことがあろうか。それに、前世からの因縁で、寵愛なさるのを、人が非難することであろうか。臣下では、また、卑しい女や、いったん結婚した女などをもっている例は多かった。<BR>⏎ | 316 | 「なるほど,見栄えのしない親戚付き合いのようだが、帝にも、その程度の身分の人の娘を差し上げなかったことがあろうか。それに,前世からの因縁で、寵愛なさるのを、人が非難することであろうか。臣下では、また,卑しい女や、いったん結婚した女などをもっている例は多かった。<BR>⏎ |
| d1 | 348 | <P>⏎ | ||
| version52 | 349 | <A NAME="in47">[第七段 常陸介、浮舟の死を悼む]</A><BR> | 318 | |
| cd3:2 | 353-355 | などと、喜ぶのを見るにつけても、「それ以上に、生きておいでになったら」と思うと、臥し転んで泣けてくる。<BR>⏎ 介も今になって泣くのであった。その反面、生きていらした時には、かえって、このような類の人を、お尋ねになるようなことはなかってたのだ。「自分の過失によって亡くしたのもお気の毒だ。慰めよう」とお思いになったため、「他人の非難は、こまごまと考えまい」とお思いなのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 322-323 | などと,喜ぶのを見るにつけても、「それ以上に,生きておいでになったら」と思うと、臥し転んで泣けてくる。<BR>⏎ 介も今になって泣くのであった。その反面,生きていらした時には、かえって、このような類の人を、お尋ねになるようなことはなかってたのだ。「自分の過失によって亡くしたのもお気の毒だ。慰めよう」とお思いになったため、「他人の非難は、こまごまと考えまい」とお思いなのであった。<BR>⏎ |
| version52 | 356 | <A NAME="in48">[第八段 浮舟四十九日忌の法事]</A><BR> | 324 | |
| c1 | 358 | 宮からは、右近のもとに、白銀の壷に黄金を入れて賜った。人が見咎めるほどの大げさな法事は、おできになれず、右近の志として催したので、事情を知らない人は、「どうして、このような」などと言った。殿の家来どもで、気心の知れた者ばかり大勢お遣わしになった。<BR>⏎ | 326 | 宮からは、右近のもとに、白銀の壷に黄金を入れて賜った。人が見咎めるほどの大げさな法事は、おできになれず、右近の志として催したので、事情を知らない人は、「どうして,このような」などと言った。殿の家来どもで、気心の知れた者ばかり大勢お遣わしになった。<BR>⏎ |
| c2 | 360-361 | と、今になって驚く人ばかりが多かったが、常陸介が来て、主人顔でいるので、変だと人びとは見るのだった。少将が子を産ませて、盛大なお祝いをさせようと大騷ぎし、邸の中にない物は少なく、唐土や新羅の装飾をもしたいのだが、限界があるので、まことにお粗末な有様であった。この御法事が、人目に立たないようにとお思いであったが、感じが格別であるのを見ると、「もし生きていたらどんなにかと、わが身に比肩できない方のご運勢であったなあ」と思う。<BR>⏎ 宮の上も、誦経をなさり、七僧への饗応の事もおさせになった。今になって、「このような人を持っていらしたのだ」と、帝までがお耳にあそばして、並々ならず大切に思っていた人を、宮にご遠慮申して隠していらしたのを、お気の毒にとお思いになった。<BR>⏎ | 328-329 | と,今になって驚く人ばかりが多かったが、常陸介が来て、主人顔でいるので、変だと人びとは見るのだった。少将が子を産ませて、盛大なお祝いをさせようと大騷ぎし、邸の中にない物は少なく、唐土や新羅の装飾をもしたいのだが、限界があるので、まことにお粗末な有様であった。この御法事が、人目に立たないようにとお思いであったが、感じが格別であるのを見ると、「もし生きていたらどんなにかと、わが身に比肩できない方のご運勢であったなあ」と思う。<BR>⏎ 宮の上も,誦経をなさり、七僧への饗応の事もおさせになった。今になって、「このような人を持っていらしたのだ」と、帝までがお耳にあそばして、並々ならず大切に思っていた人を、宮にご遠慮申して 隠していらしたのを、お気の毒にとお思いになった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 363-364 | あの殿は、このようにお心にかけて、何やかやとご心配なさって、残った人をお世話なさっても、やはり、言って効のないことを、忘れがたくお思いになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 331 | あの殿は、このようにお心にかけて、何やかやとご心配なさって、残った人をお世話なさっても、やはり,言って効のないことを、忘れがたくお思いになる。<BR>⏎ |
| version52 | 365 | <H4>第五章 薫の物語 明石中宮の女宮たち</H4> | 332 | |
| version52 | 366 | <A NAME="in51">[第一段 薫と小宰相の君の関係]</A><BR> | 333 | |
| cd3:2 | 369-371 | この宮も、長年、とても関心を寄せていらっしゃって、いつものように、悪口おっしゃるが、「どうして、そのようにありふれた女でいようか」と、気強くて従わないのを、真面目人間は、「少しは他の女と違っている」とお思いなのであった。このように物思いに沈んでいらっしゃるのを知っていたので、思い余って差し上げた。<BR>⏎ 「お悲しみを知る心は誰にも負けませんが<BR>⏎ 一人前でもない身では遠慮して消え入らんばかりに過ごしております<BR>⏎ | 336-337 | この宮も、長年、とても関心を寄せていらっしゃって、いつものように、悪口おっしゃるが、「どうして,そのようにありふれた女でいようか」と、気強くて従わないのを、真面目人間は、「少しは他の女と違っている」とお思いなのであった。このように物思いに沈んでいらっしゃるのを知っていたので、思い余って差し上げた。<BR>⏎ 「お悲しみを知る心は誰にも負けませんが<BR> 一人前でもない身では遠慮して消え入らんばかりに過ごしております<BR>⏎ |
| cd3:2 | 373-375 | と、由緒ある紙に書いてあった。何となくしみじみとした夕暮で、しんみりした時に、まことによく推察して言って来たのも、気が利いている。<BR>⏎ 「無常の世を長年見続けて来たわが身でさえ<BR>⏎ 人が見咎めるまで嘆いてはいないつもりでしたが<BR>⏎ | 339-340 | と,由緒ある紙に書いてあった。何となくしみじみとした夕暮で、しんみりした時に、まことによく推察して言って来たのも、気が利いている。<BR>⏎ 「無常の世を長年見続けて来たわが身でさえ<BR> 人が見咎めるまで嘆いてはいないつもりでしたが<BR>⏎ |
| c1 | 378 | 「亡き人よりも、この人は奥ゆかしい感じが加わっているな。どうして、このように出仕したのだろう。そのような人として、わたしも側に置いたらよかったものを」<BR>⏎ | 343 | 「亡き人よりも、この人は奥ゆかしい感じが加わっているな。どうして,このように出仕したのだろう。そのような人として、わたしも側に置いたらよかったものを」<BR>⏎ |
| d1 | 380 | <P>⏎ | ||
| version52 | 381 | <A NAME="in52">[第二段 六条院の法華八講]</A><BR> | 345 | |
| cd3:2 | 387-389 | 「かえって、氷を扱うのに、とても暑苦しそうです。ただ、そのままで御覧なさい」<BR>⏎ と言って、にっこりしている目もと、愛嬌がある。声を聞くと、この目指している女と分かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 351-352 | 「かえって、氷を扱うのに、とても暑苦しそうです。ただ,そのままで御覧なさい」<BR>⏎ と言って,にっこりしている目もと、愛嬌がある。声を聞くと、この目指している女と分かった。<BR>⏎ |
| version52 | 390 | <A NAME="in53">[第三段 小宰相の君、氷を弄ぶ]</A><BR> | 353 | |
| c1 | 392 | 「いえ、持てません。雫が嫌です」<BR>⏎ | 355 | 「いえ,持てません。雫が嫌です」<BR>⏎ |
| c1 | 394 | と、一方では落ち着かず、じっと見つめて佇んでいると、こちらの対の北面に住んでいた下臈の女房が、この襖障子は、急ぎの用事で、開けたままで下りて来たのを思い出して、「人が見つけて騒いだら大変だ」と思ったので、あわてて入って来る。<BR>⏎ | 357 | と,一方では落ち着かず、じっと見つめて佇んでいると、こちらの対の北面に住んでいた下臈の女房が、この襖障子は、急ぎの用事で、開けたままで下りて来たのを思い出して、「人が見つけて騒いだら大変だ」と思ったので、あわてて入って来る。<BR>⏎ |
| c1 | 397 | 「大変なことだわ。御几帳までを丸見えにしていたことだわ。右の大殿の公達であろうかしら。疎遠な方は、また、ここまでは来るはずがない。何かの噂が立ったら、誰が襖障子を開けていたのだろうかと、きっと出て来るだろう。単衣も袴も、生絹のように見えた方のお姿なので、誰もお気づきになることができなかっただろう」<BR>⏎ | 360 | 「大変なことだわ。御几帳までを丸見えにしていたことだわ。右の大殿の公達であろうかしら。疎遠な方は、また,ここまでは来るはずがない。何かの噂が立ったら、誰が襖障子を開けていたのだろうかと、きっと出て来るだろう。単衣も袴も、生絹のように見えた方のお姿なので、誰もお気づきになることができなかっただろう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 399-400 | あの方は、「だんだんと聖になって来た心を、一度踏み外して、さまざまに物思いを重ねる人となってしまったなあ。その昔に出家遁世してしまったら、今は深い山奥に住みついて、このような心を乱すことはないものを」などとお思い続けるにつけても、落ち着かない。「どうして、長年、お顔を拝見したものだと思っていたのであろう。かえって苦しいだけで、何にもならないことであるのに」と思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 362 | あの方は,「だんだんと聖になって来た心を、一度踏み外して、さまざまに物思いを重ねる人となってしまったなあ。その昔に出家遁世してしまったら、今は深い山奥に住みついて、このような心を乱すことはないものを」などとお思い続けるにつけても、落ち着かない。「どうして,長年、お顔を拝見したものだと思っていたのであろう。かえって苦しいだけで、何にもならないことであるのに」と思う。<BR>⏎ |
| version52 | 401 | <A NAME="in54">[第四段 薫と女二宮との夫婦仲]</A><BR> | 363 | |
| c2 | 406-407 | 「どうして、これをお召しにならないのか。人が大勢見る時に、透けた物を着るのは、はしたなく思われる。今は構わないでしょう」<BR>⏎ と言って、ご自身でお着せなさる。御袴も昨日のと同じ紅色である。御髪の多さや、裾などは負けないが、やはりそれぞれの美しさなのか、似るはずもない。氷を召して、女房たちに割らせなさる。取って一つ差し上げなどなさる、心の中もおもしろい。<BR>⏎ | 368-369 | 「どうして,これをお召しにならないのか。人が大勢見る時に、透けた物を着るのは、はしたなく思われる。今は構わないでしょう」<BR>⏎ と言って,ご自身でお着せなさる。御袴も昨日のと同じ紅色である。御髪の多さや、裾などは負けないが、やはりそれぞれの美しさなのか、似るはずもない。氷を召して、女房たちに割らせなさる。取って一つ差し上げなどなさる、心の中もおもしろい。<BR>⏎ |
| d1 | 419 | <P>⏎ | ||
| version52 | 420 | <A NAME="in55">[第五段 薫、明石中宮に対面]</A><BR> | 381 | |
| c2 | 423-424 | 大将も近くに参り寄りなさって、御八講が立派であったことや、昔の御事を少し申し上げながら、残っている絵を御覧になる折に、<BR>⏎ 「わたしの里にいらっしゃるこ皇女が、宮中から離れて、思い沈んでいらっしゃるのが、お気の毒に拝されます。姫宮の御方から、お便りもございませんのを、このように身分が決定なさったので、お見捨てあそばされたように思って、気の晴れない様子ばかりしておりますが、こうした物を、時々お見せ下さいませ。わたしが直接持って参りますのも、また、張り合いのないものです」<BR>⏎ | 384-385 | 大将も近くに参り寄りなさって、御八講が立派であったことや、昔の御事を少し 申し上げながら、残っている絵を御覧になる折に、<BR>⏎ 「わたしの里にいらっしゃるこ皇女が、宮中から離れて、思い沈んでいらっしゃるのが、お気の毒に拝されます。姫宮の御方から、お便りもございませんのを、このように身分が決定なさったので、お見捨てあそばされたように思って、気の晴れない様子ばかりしておりますが、こうした物を、時々お見せ下さいませ。わたしが直接持って参りますのも、また,張り合いのないものです」<BR>⏎ |
| c1 | 428 | 「あちらからは、どうしてできましょうか。もともとお心に懸けていただけなかったとしても、こうして親しく伺候します縁にことよせて、お心を懸けてくださいましたら、嬉しいことでございます。それ以上に、そのように親しくなさっていたのを、今お見捨てになるのは、つらいことでございます」<BR>⏎ | 389 | 「あちらからは、どうしてできましょうか。もともとお心に懸けていただけなかったとしても、こうして親しく伺候します縁にことよせて、お心を懸けてくださいましたら、嬉しいことでございます。それ以上に,そのように親しくなさっていたのを、今お見捨てになるのは、つらいことでございます」<BR>⏎ |
| c1 | 430 | お立ちになって、「先夜のお目当ての女に会おう。先日の渡殿も慰めに見よう」とお思いになって、御前を渡って、西の方角にいらっしゃるのを、御簾の内側の女房は特に緊張する。なるほど、たいそう風采よく、この上ない身のこなしで、渡殿の方では、左の大殿の公達などが座っていて、何か言っている様子がするので、妻戸の前にお座りになって、<BR>⏎ | 391 | お立ちになって、「先夜のお目当ての女に会おう。先日の渡殿も慰めに見よう」とお思いになって、御前を渡って、西の方角にいらっしゃるのを、御簾の内側の女房は特に緊張する。なるほど,たいそう風采よく,この上ない身のこなしで、渡殿の方では、左の大殿の公達などが座っていて、何か言っている様子がするので、妻戸の前にお座りになって、<BR>⏎ |
| c1 | 432 | と、甥の公達の方を御覧になる。<BR>⏎ | 393 | と,甥の公達の方を御覧になる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 434-435 | などと、とりとめもないことを言う女房たちの様子も、不思議と優雅で、風情のあるこちらの御方のご様子である。特に用事ということはないが、世間話などをしながら、しんみりと、いつもよりは長居なさった。<BR>⏎ <P>⏎ | 395 | などと,とりとめもないことを言う女房たちの様子も、不思議と優雅で、風情のあるこちらの御方のご様子である。特に用事ということはないが、世間話などをしながら、しんみりと、いつもよりは長居なさった。<BR>⏎ |
| version52 | 436 | <A NAME="in56">[第六段 明石中宮、薫と小宰相の君の関係を聞く]</A><BR> | 396 | |
| c1 | 443 | とおっしゃって、ご姉弟であるが、この君を、やはり恥ずかしく思い、「女房たちも不注意に応対しないでほしい」とお思いになっていた。<BR>⏎ | 403 | とおっしゃって,ご姉弟であるが、この君を、やはり恥ずかしく思い、「女房たちも不注意に応対しないでほしい」とお思いになっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 448 | <P>⏎ | ||
| version52 | 449 | <A NAME="in57">[第七段 明石中宮、薫の三角関係を知る]</A><BR> | 408 | |
| c1 | 454 | 「誰が、そのようなことを言うのですか。お気の毒な情けないことですね。それほど珍しい事は、自然と噂になろうものを。大将もそのようには言わないで、世の中のはかなく無常なこと、このような宇治の宮の一族の短命であったことを、ひどく悲しんでおっしゃっていたが」<BR>⏎ | 413 | 「誰が、そのようなことを言うのですか。お気の毒な情けないことですね。それほど珍しい事は、自然と噂になろうものを。大将もそのようには言わないで、世の中のはかなく無常なこと、このような宇治の宮の一族の 短命であったことを、ひどく悲しんでおっしゃっていたが」<BR>⏎ |
| c1 | 456 | 「さあ、下衆は、確かでないことも申すものを、と思いますが、あちらに仕えておりました下童が、つい最近、小宰相の君の実家に出て参って、確かなことのように言いました。このように不思議に亡くなったことは、誰にも聞かせまい。大げさで、気味の悪い話だからといって、ひどく隠していたこととか。そうして、詳しくはお聞かせ申し上げなかったのでしょう」<BR>⏎ | 415 | 「さあ,下衆は、確かでないことも申すものを、と思いますが、あちらに仕えておりました下童が、つい最近、小宰相の君の実家に出て参って、確かなことのように言いました。このように不思議に亡くなったことは、誰にも聞かせまい。大げさで、気味の悪い話だからといって、ひどく隠していたこととか。そうして,詳しくはお聞かせ申し上げなかったのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 458 | 「まったく、このような話は、二度と他人には話さないように、と言わせなさい。このような色恋沙汰で、お身の上を過ち、世人に軽々しく顰蹙をおかいになることになりましょう」<BR>⏎ | 417 | 「まったく,このような話は、二度と他人には話さないように、と言わせなさい。このような色恋沙汰で、お身の上を過ち、世人に軽々しく顰蹙をおかいになることになりましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 460 | <P>⏎ | ||
| version52 | 461 | <H4>第六章 薫の物語 薫、断腸の秋の思い</H4> | 419 | |
| version52 | 462 | <A NAME="in61">[第一段 女一の宮から妹二の宮への手紙]</A><BR> | 420 | |
| cd2:1 | 465-466 | 「荻の葉に露が結んでいる上を吹く秋風も<BR>⏎ 夕方には特に身にしみて感じられる」<BR>⏎ | 423 | 「荻の葉に露が結んでいる上を吹く秋風も<BR> 夕方には特に身にしみて感じられる」<BR>⏎ |
| c1 | 469 | 今上の帝の内親王を賜うといっても、頂戴はしなかったろうに。また、そのように思う女がいるとお耳にあそばしながら、このようなことはなかったろうが、やはり情けなく、わたしの心を乱しなさった宇治の橋姫だなあ」<BR>⏎ | 426 | 今上の帝の内親王を賜うといっても、頂戴はしなかったろうに。また,そのように思う女がいるとお耳にあそばしながら、このようなことはなかったろうが、やはり情けなく、わたしの心を乱しなさった宇治の橋姫だなあ」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 472-473 | などと、物思いに耽りなさる時々が多かった。<BR>⏎ <P>⏎ | 429 | などと,物思いに耽りなさる時々が多かった。<BR>⏎ |
| version52 | 474 | <A NAME="in62">[第二段 侍従、明石中宮に出仕す]</A><BR> | 430 | |
| c1 | 475 | 悠長で、自制心が強くいらっしゃる人でさえ、このような方面には、身も苦しいことが自然と出て来るのを、宮は、彼以上に慰めかねながら、あの形見として、尽きない悲しみをおっしゃる相手さえいないが、対の御方だけは、「かわいそうに」などとおっしゃるが、深く親しんでいらっしゃらなかった、短い交際であったので、とても深くはどうしてお思いになろうか。また、お気持ちのままに、「恋しい、悲しい」などとおっしゃるのは、気がひけるので、あちらにいた侍従を、例によって、迎えさせなさった。<BR>⏎ | 431 | 悠長で、自制心が強くいらっしゃる人でさえ、このような方面には、身も苦しいことが自然と出て来るのを、宮は,彼以上に慰めかねながら、あの形見として、尽きない悲しみをおっしゃる相手さえいないが、対の御方だけは、「かわいそうに」などとおっしゃるが、深く親しんでいらっしゃらなかった、短い交際であったので、とても深くはどうしてお思いになろうか。また,お気持ちのままに、「恋しい、悲しい」などとおっしゃるのは、気がひけるので、あちらにいた侍従を、例によって、迎えさせなさった。<BR>⏎ |
| d1 | 481 | <P>⏎ | ||
| version52 | 482 | <A NAME="in63">[第三段 匂宮、宮の君を浮舟によそえて思う]</A><BR> | 437 | |
| c1 | 483 | 今年の春お亡くなりになった式部卿宮の御娘を、継母の北の方が、特にかわいがらないで、その兄の右馬頭で人柄も格別なところもないのが、心を寄せているのを、不憫だとも思わずに縁づけている、とお耳にあそばしたことがあって、<BR>⏎ | 438 | 今年の春お亡くなりになった式部卿宮の御娘を、継母の北の方が、特にかわいがらないで、その兄の右馬頭で人柄も格別なところもないのが、心を寄せているのを、不憫だとも思わずに 縁づけている、とお耳にあそばしたことがあって、<BR>⏎ |
| c1 | 487 | などと、ご兄妹の侍従も言って、最近迎え取らせなさった。姫宮のお相手として、まことに最適のご身分の方なので、高い身分の方として特別の扱いで伺候なさる。決まりがあるので、宮の君などと呼ばれて、裳くらいはお付けになるのが、ひどくおいたわしいことであった。<BR>⏎ | 442 | などと,ご兄妹の侍従も言って、最近迎え取らせなさった。姫宮のお相手として、まことに最適のご身分の方なので、高い身分の方として特別の扱いで伺候なさる。決まりがあるので、宮の君などと呼ばれて、裳くらいはお付けになるのが、ひどくおいたわしいことであった。<BR>⏎ |
| d1 | 493 | <P>⏎ | ||
| version52 | 494 | <A NAME="in64">[第四段 侍従、薫と匂宮を覗く]</A><BR> | 448 | |
| c1 | 497 | などと、若い女房たちは残念がって、みな参集している時である。池水に親しみ月を賞美して、管弦の遊びがひっきりなしに催され、いつもより華やかなので、この宮は、このような方面では実にこの上なく賞賛されなさる。朝夕に見慣れていても、やはり今初めて見た初花のようなお姿でしていらっしゃるが、大将の君は、あまりそれほど入り込んだりなさらないので、こちらが恥ずかしくなるような気のおける方だと、みな思っていた。<BR>⏎ | 451 | などと,若い女房たちは残念がって、みな参集している時である。池水に親しみ月を賞美して、管弦の遊びがひっきりなしに催され、いつもより華やかなので、この宮は、このような方面では実にこの上なく賞賛されなさる。朝夕に見慣れていても、やはり今初めて見た初花のようなお姿でしていらっしゃるが、大将の君は、あまりそれほど入り込んだりなさらないので、こちらが恥ずかしくなるような気のおける方だと、みな思っていた。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 499-501 | 「どちらの方なりとも縁付いて、幸運な運勢に思えたご様子で、この世に生きておいでだったらなあ。あきれるほどあっけなく情けなかったお心であったよ」<BR>⏎ などと、他人には、あの辺のことは少しも知っている顔をして言わない干となので、自分一人で尽きせず胸を痛めている。宮は、内裏のお話など、こまごまとお話申し上げあそばすので、もうお一方はお立ちになる。「見つけられ申すまい。もう暫くの間は、ご一周忌も待たないで薄情な人だ、と思われ申すまい」と思うって、隠れた。<BR>⏎ <P>⏎ | 453-454 | 「どちらの方なりとも縁付いて、幸運な運勢に思えたご様子で、この世に生きておいでだったらなあ。あきれるほどあっけなく 情けなかったお心であったよ」<BR>⏎ などと,他人には、あの辺のことは 少しも知っている顔をして言わないことなので、自分一人で尽きせず胸を痛めている。宮は、内裏のお話など、こまごまとお話申し上げあそばすので、もうお一方はお立ちになる。「見つけられ申すまい。もう暫くの間は,ご一周忌も待たないで薄情な人だ、と思われ申すまい」と思うって、隠れた。<BR>⏎ |
| version52 | 502 | <A NAME="in65">[第五段 薫、弁の御許らと和歌を詠み合う]</A><BR> | 455 | |
| cd3:2 | 509-511 | などと、おっしゃりながら見ると、唐衣は脱いで押しやって、くつろいで手習いをしていたのであろう、硯の蓋の上に置いて、頼りなさそうな花の枝先を手折って、弄んでいた、と見える。ある者は几帳のある所にすべり隠れ、またある者は背を向けて、押し開けてある妻戸の方に、隠れながら座っている、その頭の恰好を、興趣あると一回り御覧になって、硯を引き寄せて、<BR>⏎ 「女郎花が咲き乱れている野辺に入り込んでも<BR>⏎ 露に濡れたという噂をわたしにお立てになれましょうか<BR>⏎ | 462-463 | などと,おっしゃりながら見ると、唐衣は脱いで押しやって、くつろいで手習いをしていたのであろう、硯の蓋の上に置いて、頼りなさそうな花の枝先を手折って、弄んでいた、と見える。ある者は几帳のある所にすべり隠れ、またある者は背を向けて、押し開けてある妻戸の方に、隠れながら座っている、その頭の恰好を、興趣あると一回り御覧になって、硯を引き寄せて、<BR>⏎ 「女郎花が咲き乱れている野辺に入り込んでも<BR> 露に濡れたという噂をわたしにお立てになれましょうか<BR>⏎ |
| cd3:2 | 513-515 | と、ちょうどこの襖障子の後向きしていた女房にお見せになると、身動きもせずに、落ち着いて、すぐさま、<BR>⏎ 「花と申せば名前からして色っぽく聞こえますが<BR>⏎ 女郎花はそこらの露に靡いたり濡れたりしません」<BR>⏎ | 465-466 | と,ちょうどこの襖障子の後向きしていた女房にお見せになると、身動きもせずに、落ち着いて、すぐさま、<BR>⏎ 「花と申せば名前からして色っぽく聞こえますが<BR> 女郎花はそこらの露に靡いたり濡れたりしません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 518-519 | 「旅寝してひとつ試みて御覧なさい<BR>⏎ 女郎花の盛りの色にお心が移るか移らないか<BR>⏎ | 469 | 「旅寝してひとつ試みて御覧なさい<BR> 女郎花の盛りの色にお心が移るか移らないか<BR>⏎ |
| cd2:1 | 522-523 | 「お宿をお貸しくださるなら、一夜は泊まってみましょう<BR>⏎ そこらの花には心移さないわたしですが」<BR>⏎ | 472 | 「お宿をお貸しくださるなら、一夜は泊まってみましょう<BR> そこらの花には心移さないわたしですが」<BR>⏎ |
| c1 | 525 | 「どうして、恥をおかかせなさいます。普通にいう野辺のしゃれを申し上げただけです」<BR>⏎ | 474 | 「どうして,恥をおかかせなさいます。普通にいう野辺のしゃれを申し上げただけです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 528-529 | と言って、お立ちになると、「だいたいこのような奥ゆかしいところがないだろう、とご想像なさるもがつらい」と思っている女房もいた。<BR>⏎ <P>⏎ | 477 | と言って,お立ちになると、「だいたいこのような奥ゆかしいところがないだろう、とご想像なさるもがつらい」と思っている女房もいた。<BR>⏎ |
| version52 | 530 | <A NAME="in66">[第六段 薫、断腸の秋の思い]</A><BR> | 478 | |
| c1 | 531 | 東の高欄に寄り掛かって、夕日の影るにつれて、花が咲き乱れている御前の叢をお眺めやりになる。何となくしみじみと思われて、「中んづく腸の断ち切れる思いがするのは秋の空だ」という詩句を、たいそう密やかに朗誦しながら座っていらっしゃった。先程の衣ずれの音が、はっきり聞こえる感じがして、母屋の襖障子から通ってあちらに入って行くようである。宮が歩いていらして、<BR>⏎ | 479 | 東の高欄に寄り掛かって、夕日の影るにつれて、花が咲き乱れている御前の叢をお眺めやりになる。何となくしみじみと思われて、「中んづく腸の断ち切れる思いがするのは秋の空だ」という詩句を、たいそう密やかに朗誦しながら座っていらっしゃった。先程の衣ずれの音が、はっきり聞こえる感じがして、母屋の襖障子から通って あちらに入って行くようである。宮が歩いていらして、<BR>⏎ |
| c3 | 536-538 | 「やはり、けしからぬ振る舞いだ。誰だろうかと、ちょっとでも関心を持った人に、そのままこのように遠慮なく名前を教えてしまうとは」と、気の毒で、この宮に、皆が馴れ馴れしくお思い申し上げているようなのも残念だ。<BR>⏎ 「無遠慮につっこんだお振る舞いに、女はきっとお負け申してしまおう。わたしは、まことに残念なことに、こちらのご一族には、悔しくも残念なことばかりだ。何とかして、ここの女房の中にでも、珍しいような女で、例によって熱心に夢中になっていらっしゃる女を口説き落として、自分が経験したように、穏やかならぬ気持ちを思わせ申し上げたい。ほんとうに物事の分かる女なら、わたしの方に寄って来るはずだ。けれども難しいことだな。人の心というものは」<BR>⏎ と思うにつけても、対の御方の、あのお振る舞いを、身分にふさわしくないものとお思い申し上げて、まことに不都合な関係になって行くのが、その世間の評判をつらいと思いながらも、やはりすげなくはできない者とお分かりになってくださるのは、世にもまれな胸をうつことである。<BR>⏎ | 484-486 | 「やはり,けしからぬ振る舞いだ。誰だろうかと、ちょっとでも関心を持った人に、そのままこのように遠慮なく名前を教えてしまうとは」と、気の毒で、この宮に、皆が馴れ馴れしくお思い申し上げているようなのも残念だ。<BR>⏎ 「無遠慮につっこんだお振る舞いに、女はきっとお負け申してしまおう。わたしは,まことに残念なことに、こちらのご一族には、悔しくも残念なことばかりだ。何とかして,ここの女房の中にでも、珍しいような女で、例によって熱心に夢中になっていらっしゃる女を口説き落として、自分が経験したように、穏やかならぬ気持ちを思わせ申し上げたい。ほんとうに物事の分かる女なら、わたしの方に寄って来るはずだ。けれども難しいことだな。人の心というものは」<BR>⏎ と思うにつけても、対の御方の、あのお振る舞いを、身分にふさわしくないものとお思い申し上げて、まことに不都合な関係になって行くのが、その世間の評判を つらいと思いながらも、やはりすげなくはできない者とお分かりになってくださるのは、世にもまれな胸をうつことである。<BR>⏎ |
| d1 | 541 | <P>⏎ | ||
| version52 | 542 | <A NAME="in67">[第七段 薫と中将の御許、遊仙窟の問答]</A><BR> | 489 | |
| c1 | 544 | 「どうして、このように人を焦らすようにお弾きになるのですか」<BR>⏎ | 491 | 「どうして,このように人を焦らすようにお弾きになるのですか」<BR>⏎ |
| c1 | 549 | と、戯れをおっしゃって、<BR>⏎ | 496 | と,戯れをおっしゃって、<BR>⏎ |
| c2 | 551-552 | などと、つまらないことをお尋ねになる。<BR>⏎ 「どちらにいらしても、同じことです。ただ、このような事をしてお過ごしでいらっしゃるようです」<BR>⏎ | 498-499 | などと,つまらないことをお尋ねになる。<BR>⏎ 「どちらにいらしても、同じことです。ただ,このような事をしてお過ごしでいらっしゃるようです」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 554-555 | 「わたしの母宮もひけをおとりになる方だろうか。后腹と申し上げる程度の相違だが、それぞれの父帝が大切になさる様子に、違いはないのだ。がやはり、こちらのご様子は、たいそう格別な感じがするのが不思議なことだ。明石の浦は奥ゆかしい所だ」などと思い続けることの中で、「自分の宿世は、とてもこの上ないものであった。その上に、並べて頂戴したら」と思うのは、とても難しいことだ。<BR>⏎ <P>⏎ | 501 | 「わたしの母宮もひけをおとりになる方だろうか。后腹と申し上げる程度の相違だが、それぞれの父帝が大切になさる様子に、違いはないのだ。がやはり,こちらのご様子は、たいそう格別な感じがするのが不思議なことだ。明石の浦は奥ゆかしい所だ」などと思い続けることの中で、「自分の宿世は、とてもこの上ないものであった。その上に,並べて頂戴したら」と思うのは、とても難しいことだ。<BR>⏎ |
| version52 | 556 | <A NAME="in68">[第八段 薫、宮の君を訪ねる]</A><BR> | 502 | |
| c2 | 558-559 | 「まあ、お気の毒に、こちらも同じ皇族の方であるのに」<BR>⏎ とお思い出し申し上げて、「父親王が、生前に好意をお寄せになっていたものを」と口実にして、そちらにお出でになった。童女が、かわいらしい宿直姿で、二、三人出て来てあちこち歩いたりしていた。見つけて入る様子なども、恥ずかしそうだ。これが世間普通のことだと思う。<BR>⏎ | 504-505 | 「まあ,お気の毒に、こちらも同じ皇族の方であるのに」<BR>⏎ とお思い出し申し上げて、「父親王が、生前に好意をお寄せになっていたものを」と口実にして、そちらにお出でになった。童女が、かわいらしい宿直姿で、二,三人出て来てあちこち歩いたりしていた。見つけて入る様子なども、恥ずかしそうだ。これが世間普通のことだと思う。<BR>⏎ |
| c1 | 563 | 「まことに思いもかけなかったご境遇につけても、故父宮がお考え申し上げていらっしゃった事などが、思い出されましてなりません。このように、折々にふれて申し上げてくださるという。蔭ながらのお言葉も、お礼申し上げていらっしゃるようです」<BR>⏎ | 509 | 「まことに思いもかけなかったご境遇につけても、故父宮がお考え申し上げていらっしゃった事などが、思い出されましてなりません。このように,折々にふれて申し上げてくださるという。蔭ながらのお言葉も、お礼申し上げていらっしゃるようです」<BR>⏎ |
| d1 | 565 | <P>⏎ | ||
| version52 | 566 | <A NAME="in69">[第九段 薫、宇治の三姉妹の運命を思う]</A><BR> | 511 | |
| cd5:4 | 571-575 | と、人を介してというのでなくおっしゃる声、まことに若々しく愛嬌があって、やさしい感じが具わっていた。「ただ普通のこのような局住まいをする人と思へば、とても趣があるにちがいないが、ただ今では、どうしてほんのわずかでも、人に声を聞かせてよいという立場に馴れておしまいになったのだろう」と、何となく気になる。「容貌などもとても優美であろう」と、見たい感じがしているが、「この人は、また例によって、あの方のお心を掻き乱す種になるにちがいなかろうと、興味深くもあり、めったにいないものだ」とも思っていらっしゃった。<BR>⏎ 「この方こそは、貴いご身分の父宮が大切にお世話して成人させなさった姫君だ。また、この程度の女なら他にもそう多くいよう。不思議であったことは、あの聖の近辺に、宇治の山里に育った姫君たちで、難のある方はいなかったことだ。この、頼りないな、軽率だな、などと思われる女も、このようにちょっと会った感じでは、たいそう風情があったものだ」<BR>⏎ と、何事につけても、ただあのご一族の方をお思い出しなさるのであった。不思議と、またつらい縁であった一つ一つを、つくづくと思い出し物思いにふけっていらっしゃる夕暮に、蜻蛉が頼りなさそうに飛び交っているのを、<BR>⏎ 「そこにいると見ても、手には取ることのできない<BR>⏎ 見えたと思うとまた行く方知れず消えてしまった蜻蛉だ<BR>⏎ | 516-519 | と,人を介してというのでなくおっしゃる声、まことに若々しく愛嬌があって、やさしい感じが具わっていた。「ただ普通のこのような局住まいをする人と思へば、とても趣があるにちがいないが、ただ今では、どうしてほんのわずかでも、人に声を聞かせてよいという立場に馴れておしまいになったのだろう」と、何となく気になる。「容貌などもとても優美であろう」と、見たい感じがしているが、「この人は、また例によって、あの方のお心を掻き乱す種になるにちがいなかろうと、興味深くもあり、めったにいないものだ」とも思っていらっしゃった。<BR>⏎ 「この方こそは、貴いご身分の父宮が大切にお世話して成人させなさった姫君だ。また,この程度の女なら他にもそう多くいよう。不思議であったことは、あの聖の近辺に、宇治の山里に育った姫君たちで、難のある方はいなかったことだ。この,頼りないな、軽率だな、などと思われる女も、このようにちょっと会った感じでは、たいそう風情があったものだ」<BR>⏎ と,何事につけても、ただあのご一族の方をお思い出しなさるのであった。不思議と、またつらい縁であった一つ一つを、つくづくと思い出し物思いにふけっていらっしゃる夕暮に、蜻蛉が頼りなさそうに飛び交っているのを、<BR>⏎ 「そこにいると見ても、手には取ることのできない<BR> 見えたと思うとまた行く方知れず消えてしまった蜻蛉だ<BR>⏎ |
| cd3:1 | 577-579 | と、例によって、独り言をおっしゃった、とか。<BR>⏎ ⏎ <P>⏎ | 521 | と,例によって、独り言をおっしゃった、とか。<BR>⏎ |
| d1 | 586 | ⏎ | ||
| i0 | 532 | |||
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| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version53 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 65 | <LI>僧都、女一宮に伺候---<A HREF="#in54">一品の宮のご病気は、なるほど、あの弟子が言っていたとおりに</A>⏎ | 62 | <LI>僧都、女一宮に伺候---<A HREF="#in54">一品の宮のご病気は、なるほど,あの弟子が言っていたとおりに</A>⏎ |
| d1 | 81 | <P>⏎ | ||
| version53 | 82 | <H4>第一章 浮舟の物語 浮舟、入水未遂、横川僧都らに助けられる</H4> | 78 | |
| version53 | 83 | <A NAME="in11">[第一段 横川僧都の母、初瀬詣での帰途に急病]</A><BR> | 79 | |
| c1 | 88 | と不安そうに思って言ったので、そうも言うにちがいないことを、気の毒に思って、ひどく狭くむさ苦しい所なので、だんだんお連れ申せるほどになったが、中神の方角が塞がって、いつも住んでいらっしゃる所は避けなければならなかったので、「故朱雀院の御領で、宇治院といった所が、この近辺だろう」と思い出して、院守を、僧都は知っていらっしゃったので、「一、二日泊まりたい」と言いにおやりになったところ、<BR>⏎ | 84 | と不安そうに思って言ったので、そうも言うにちがいないことを、気の毒に思って、ひどく狭くむさ苦しい所なので、だんだんお連れ申せるほどになったが、中神の方角が塞がって、いつも住んでいらっしゃる所は避けなければならなかったので、「故朱雀院の御領で、宇治院といった所が、この近辺だろう」と思い出して、院守を、僧都は知っていらっしゃったので、「一,二日泊まりたい」と言いにおやりになったところ、<BR>⏎ |
| c1 | 90 | と言って、ひどくみすぼらしい宿守の老人を呼んで連れて来た。<BR>⏎ | 86 | と言って,ひどくみすぼらしい宿守の老人を呼んで連れて来た。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 94-95 | と言って、様子を見におやりになる。この老人、いつもこのように泊まる人を見慣れていたので、簡略な設営などをして戻って来た。<BR>⏎ <P>⏎ | 90 | と言って,様子を見におやりになる。この老人、いつもこのように泊まる人を見慣れていたので、簡略な設営などをして戻って来た。<BR>⏎ |
| version53 | 96 | <A NAME="in12">[第二段 僧都、宇治の院の森で妖しい物に出会う]</A><BR> | 91 | |
| c1 | 97 | まず、僧都がお越しになる。「とてもひどく荒れて、恐ろしそうな所だな」と御覧になる。<BR>⏎ | 92 | まず,僧都がお越しになる。「とてもひどく荒れて、恐ろしそうな所だな」と御覧になる。<BR>⏎ |
| c2 | 100-101 | 「あれは、何だ」<BR>⏎ と、立ち止まって、松明を明るくして見ると、何かが座っているような格好である。<BR>⏎ | 95-96 | 「あれは,何だ」<BR>⏎ と,立ち止まって、松明を明るくして見ると、何かが座っているような格好である。<BR>⏎ |
| c3 | 103-105 | と言って、一人はもう少し近寄る。もう一人は、<BR>⏎ 「まあ、よしなさい。よくない物であろう」<BR>⏎ と言って、そのような物が引き下がるような印を作りながら、そうは言ってもやはり見つめている。頭の髪があったら太くなりそうな気がするが、この松明を灯した大徳は、恐れもせず、深い考えもなく様子で、近寄ってその様子を見ると、髪は長く艶々として、大きな木の根がとても荒々しくある所に寄りかかって、ひどく泣いている。<BR>⏎ | 98-100 | と言って,一人はもう少し近寄る。もう一人は、<BR>⏎ 「まあ,よしなさい。よくない物であろう」<BR>⏎ と言って,そのような物が引き下がるような印を作りながら、そうは言ってもやはり見つめている。頭の髪があったら太くなりそうな気がするが、この松明を灯した大徳は、恐れもせず、深い考えもなく様子で、近寄ってその様子を見ると、髪は長く艶々として、大きな木の根がとても荒々しくある所に寄りかかって、ひどく泣いている。<BR>⏎ |
| c2 | 108-109 | 「なるほど、不思議な事だ」<BR>⏎ と言って、一人は参上して、「これこれしかじかです」と申し上げる。<BR>⏎ | 103-104 | 「なるほど,不思議な事だ」<BR>⏎ と言って,一人は参上して、「これこれしかじかです」と申し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 111-112 | と言って、わざわざ下りていらっしゃる。<BR>⏎ あちらにお越しになろうとしたところで、下衆どもで、役に立ちそうな者は皆、御厨子所などで、準備すべきことをいろいろと、こちらではかかりきりでいたので、ひっそりしていたので、わずか四、五人で、ここにいる物を見るが、変化する様子も見えない。<BR>⏎ | 106-107 | と言って,わざわざ下りていらっしゃる。<BR>⏎ あちらにお越しになろうとしたところで、下衆どもで、役に立ちそうな者は皆、御厨子所などで、準備すべきことをいろいろと、こちらではかかりきりでいたので、ひっそりしていたので、わずか四,五人で、ここにいる物を見るが、変化する様子も見えない。<BR>⏎ |
| c1 | 114 | 「これは、人である。まったく異常なけしからぬ物ではない。近寄って問え。死んでいる人ではないようだ。もしや死んだ人を捨てたのが、生き返ったのだろうか」<BR>⏎ | 109 | 「これは,人である。まったく異常なけしからぬ物ではない。近寄って問え。死んでいる人ではないようだ。もしや死んだ人を捨てたのが、生き返ったのだろうか」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 116-118 | 「どうして、そのような人を、この院の邸内に捨てましょうか。たとい、ほんとうに人であったとしても、狐や木霊のようなものが、たぶらかして連れて来たのでございましょうと、不都合なことでございますなあ。穢れのある所のようでございます」<BR>⏎ と言って、先程の宿守の男を呼ぶ。山彦が答えるのも、まことに恐ろしい。<BR>⏎ <P>⏎ | 111-112 | 「どうして,そのような人を、この院の邸内に捨てましょうか。たとい,ほんとうに人であったとしても、狐や木霊のようなものが、たぶらかして連れて来たのでございましょうと、不都合なことでございますなあ。穢れのある所のようでございます」<BR>⏎ と言って,先程の宿守の男を呼ぶ。山彦が答えるのも、まことに恐ろしい。<BR>⏎ |
| version53 | 119 | <A NAME="in13">[第三段 若い女であることを確認し、救出する]</A><BR> | 113 | |
| c1 | 124 | 「それでは、その子は死んでしまったのか」<BR>⏎ | 118 | 「それでは,その子は死んでしまったのか」<BR>⏎ |
| c2 | 128-129 | 「それでは、そのような物がしたことかどうか。やはり、よく見よ」<BR>⏎ と言って、この恐いもの知らずの法師を近づけると、<BR>⏎ | 122-123 | 「それでは,そのような物がしたことかどうか。やはり,よく見よ」<BR>⏎ と言って,この恐いもの知らずの法師を近づけると、<BR>⏎ |
| c2 | 131-132 | と、衣を取って引くと、顔を隠してますます泣く。<BR>⏎ 「さてもまあ、何と、たちの悪い木霊の鬼だ。正体を隠しきれようか」<BR>⏎ | 125-126 | と,衣を取って引くと、顔を隠してますます泣く。<BR>⏎ 「さてもまあ,何と、たちの悪い木霊の鬼だ。正体を隠しきれようか」<BR>⏎ |
| c3 | 134-136 | 「何にあれ、このような不思議なことは、普通、世間にはない」<BR>⏎ と言って、見極めようと思っていると、<BR>⏎ 「雨がひどく降って来そうだ。こ侃しておいたら、死んでしまいましょう。築地塀の外に出しましょう」<BR>⏎ | 128-130 | 「何にあれ、このような不思議なことは、普通,世間にはない」<BR>⏎ と言って,見極めようと思っていると、<BR>⏎ 「雨がひどく降って来そうだ。こうしておいたら、死んでしまいましょう。築地塀の外に出しましょう」<BR>⏎ |
| c3 | 138-140 | 「ほんとうに人の姿だ。その命が今にも絶えてしまいそうなのを見ながら放っておくことは、もっての外のことだ。池で泳ぐ魚、山で鳴く鹿でさえ、人に捕えられて死にそうなのを見て、助けないのは、まことに悲しいことだろう。人の命は長くはないものだが、残りの命の、一、二日を惜しまないものはない。鬼にもあれ神にもあれ、取り憑かれたり、人に追出されたり、人に騙されたりしても、これ顔は横死をするにちがいないものだが、仏が必ずお救いになる艦ずの人である。<BR>⏎ やはり、試みに、しばらく薬湯を飲ませたりして、助けてみよう。結局、死んでしまったら、しかたのないことだ」<BR>⏎ とおっしゃって、この大徳に抱いて中に入れさせなさるのを、弟子どもは、<BR>⏎ | 132-134 | 「ほんとうに人の姿だ。その命が今にも絶えてしまいそうなのを見ながら放っておくことは、もっての外のことだ。池で泳ぐ魚、山で鳴く鹿でさえ、人に捕えられて死にそうなのを見て、助けないのは、まことに悲しいことだろう。人の命は長くはないものだが、残りの命の、一,二日を惜しまないものはない。鬼にもあれ神にもあれ、取り憑かれたり、人に追出されたり、人に騙されたりしても、これらは横死をするにちがいないものだが、仏が必ずお救いになるはずの人である。<BR>⏎ やはり,試みに、しばらく薬湯を飲ませたりして、助けてみよう。結局,死んでしまったら、しかたのないことだ」<BR>⏎ とおっしゃって,この大徳に抱いて中に入れさせなさるのを、弟子どもは、<BR>⏎ |
| c1 | 142 | と、非難する者もいる。また、<BR>⏎ | 136 | と,非難する者もいる。また,<BR>⏎ |
| cd2:1 | 144-145 | などと、思い思いに言う。下衆などは、たいそう騒がしく、口さがなく言い立てるものなので、人の大勢いない隠れた所に寝かせたのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 138 | などと,思い思いに言う。下衆などは、たいそう騒がしく、口さがなく言い立てるものなので、人の大勢いない隠れた所に寝かせたのであった。<BR>⏎ |
| version53 | 146 | <A NAME="in14">[第四段 妹尼、若い女を介抱す]</A><BR> | 139 | |
| c3 | 160-162 | 「まるで、わたしが恋い悲しんでいた娘が、帰潅ていらしたようだ」<BR>⏎ と言って、泣きながら年配の女房たちを使って、抱き入れさせる。どうしたことかとも、事情を知らない人は、恐がらずに抱き入れた。生きているようでもなく、それでも目をわずかに開けたので、<BR>⏎ 「何かおっしゃいなさい。どのようなお人か、こうして、いらっしゃるのは」<BR>⏎ | 153-155 | 「まるで,わたしが恋い悲しんでいた娘が、帰っていらしたようだ」<BR>⏎ と言って,泣きながら年配の女房たちを使って、抱き入れさせる。どうしたことかとも、事情を知らない人は、恐がらずに抱き入れた。生きているようでもなく、それでも目をわずかに開けたので、<BR>⏎ 「何かおっしゃいなさい。どのようなお人か、こうして,いらっしゃるのは」<BR>⏎ |
| c1 | 165 | と、験者の阿闍梨に言う。<BR>⏎ | 158 | と,験者の阿闍梨に言う。<BR>⏎ |
| d1 | 168 | <P>⏎ | ||
| version53 | 169 | <A NAME="in15">[第五段 若い女生き返るが、死を望む]</A><BR> | 161 | |
| c1 | 178 | 「まあ、お気の毒な。たいそう悲しいと思う娘の代わりに、仏がお導きなさったとお思い申し上げていたのに。亡くなってしまわれたら、かえって悲しい思いが加わることでしょう。こうなるはずの宿縁で、こうしてお会い申したのでしょう。ぜひ、少しは何とかおっしゃってください」<BR>⏎ | 170 | 「まあ,お気の毒な。たいそう悲しいと思う娘の代わりに、仏がお導きなさったとお思い申し上げていたのに。亡くなってしまわれたら、かえって悲しい思いが加わることでしょう。こうなるはずの宿縁で、こうしてお会い申したのでしょう。ぜひ,少しは何とかおっしゃってください」<BR>⏎ |
| c2 | 181-182 | と、息の下に言う。<BR>⏎ 「やっとのこと何かおっしゃるのを嬉しいと思ったら、まあ、大変な。どうして、そのようなことをおっしゃるのですか。なぜ、あのような所にいらっしゃったのですか」<BR>⏎ | 173-174 | と,息の下に言う。<BR>⏎ 「やっとのこと何かおっしゃるのを嬉しいと思ったら、まあ,大変な。どうして,そのようなことをおっしゃるのですか。なぜ,あのような所にいらっしゃったのですか」<BR>⏎ |
| d1 | 184 | <P>⏎ | ||
| version53 | 185 | <A NAME="in16">[第六段 宇治の里人、僧都に葬送のことを語る]</A><BR> | 176 | |
| d1 | 195 | <P>⏎ | ||
| version53 | 196 | <A NAME="in17">[第七段 尼君ら一行、小野に帰る]</A><BR> | 186 | |
| c1 | 204 | 「このような女を連れて来た」などと、法師の間ではよくないことなので、知らなかった人には事情を話さない。尼君も、みな口封じをさせたが、「もしや探しに来る人もいようか」と思うと、気が落ち着かない。「何とか、そのような田舎者の住む辺りに、このような方がさまよっていたのだろうか。物詣でなどした人で、気分が悪くなったのを、継母などのような人が、だまして置いていったのであろうか」と推測してみるのだった。<BR>⏎ | 194 | 「このような女を連れて来た」などと、法師の間ではよくないことなので、知らなかった人には事情を話さない。尼君も、みな口封じをさせたが、「もしや探しに来る人もいようか」と思うと、気が落ち着かない。「何とか,そのような田舎者の住む辺りに、このような方がさまよっていたのだろうか。物詣でなどした人で、気分が悪くなったのを、継母などのような人が、だまして置いていったのであろうか」と推測してみるのだった。<BR>⏎ |
| d1 | 206 | <P>⏎ | ||
| version53 | 207 | <H4>第二章 浮舟の物語 浮舟の小野山荘での生活</H4> | 196 | |
| version53 | 208 | <A NAME="in21">[第一段 僧都、小野山荘へ下山]</A><BR> | 197 | |
| c3 | 209-211 | ずっとこうしてお世話するうちに、四月、五月も過ぎた。まことに心細く看護の効のないことに困りはてて、僧都のもとに、<BR>⏎ 「もう一度下山してください。この人を、助けてください。何といっても今日まで生きていたのは、死ぬはずのない運命の人に、取り憑いて離れない物の怪が去らないのにちがいありません。どうかあなた様、京にお出になるのは無理でしょうが、ここまでは来てください」<BR>⏎ などと、切なる気持ちを書き綴って、差し上げなさると、<BR>⏎ | 198-200 | ずっとこうしてお世話するうちに、四月,五月も過ぎた。まことに心細く看護の効のないことに困りはてて、僧都のもとに、<BR>⏎ 「もう一度下山してください。この人を、助けてください。何といっても今日まで生きていたのは、死ぬはずのない運命の人に、取り憑いて離れない物の怪が 去らないのにちがいありません。どうかあなた様、京にお出になるのは無理でしょうが、ここまでは来てください」<BR>⏎ などと,切なる気持ちを書き綴って、差し上げなさると、<BR>⏎ |
| c2 | 215-216 | 「このように長い間患っている人は、見苦しい感じが、自然と出て来るものですが、少しも衰弱せず、とても美しげで、諌ねくれたところもなくいらっしゃって、最期と見えながらも、こうして生きていることです」<BR>⏎ などと、本気になって泣きながらおっしゃるので、<BR>⏎ | 204-205 | 「このように長い間患っている人は、見苦しい感じが、自然と出て来るものですが、少しも衰弱せず、とても美しげで、ひねくれたところもなくいらっしゃって、最期と見えながらも、こうして生きていることです」<BR>⏎ などと,本気になって泣きながらおっしゃるので、<BR>⏎ |
| c2 | 218-219 | と言って、さし覗いて御覧になって、<BR>⏎ 「なるほど、まことに優れたご容貌の方であるなあ。功徳の報恩で、このような器量にお生まれになったのであろう。どのような行き違いで、ひどいことにおなりになったのであろう。もしや、それか、と思い当たるような噂を聞いたことはありませんか」<BR>⏎ | 207-208 | と言って,さし覗いて御覧になって、<BR>⏎ 「なるほど,まことに優れたご容貌の方であるなあ。功徳の報恩で、このような器量にお生まれになったのであろう。どのような行き違いで、ひどいことにおなりになったのであろう。もしや,それか、と思い当たるような噂を聞いたことはありませんか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 224-225 | などと、おっしゃるのが、不思議がりなさって、修法を始めた。<BR>⏎ <P>⏎ | 213 | などと,おっしゃるのが、不思議がりなさって、修法を始めた。<BR>⏎ |
| version53 | 226 | <A NAME="in22">[第二段 もののけ出現]</A><BR> | 214 | |
| c1 | 228 | 「まあ、お静かに。大徳たち。わたしは破戒無慚の法師で、戒律の中で、破った戒律は多かろうが、女の方面ではまだ非難されたことなく、過ったこともない。年齢も六十を過ぎて、今さら人の非難を受けるのは、前世の因縁なのであろう」<BR>⏎ | 216 | 「まあ,お静かに。大徳たち。わたしは破戒無慚の法師で、戒律の中で、破った戒律は多かろうが、女の方面では まだ非難されたことなく、過ったこともない。年齢も六十を過ぎて、今さら人の非難を受けるのは、前世の因縁なのであろう」<BR>⏎ |
| c1 | 231 | と、不機嫌に思って言う。<BR>⏎ | 219 | と,不機嫌に思って言う。<BR>⏎ |
| c2 | 233-234 | と、非常な決意をなさって、夜一晩中、加持なさった翌早朝に、人に乗り移らせて、「どのような物の怪がこのように人を惑わしていたのであろう」と、様子だけでも言わせたくて、弟子の阿闍梨が、交替で加持なさる。何か月もの間、少しも現れなかった物の怪が、調伏されて、<BR>⏎ 「自分は、ここまで参って、このように調伏され申すべき身ではない。生前は、修業に励んだ法師で、わずかにこの世に恨みを残して、中有にさまよっていたときに、よい女が大勢住んでいられた辺りに住み着いて、一人は失わせたが、この人は、自分から世を恨みなさって、自分は何とかして死にたい、ということを、昼夜おっしゃっていたのを手がかりと得て、まことに暗い夜に、一人でいらした時に奪ったのである。けれども、観音があれやこれやと加護なさったので、この僧都にお負け申してしまった。今は、立ち去ろう」<BR>⏎ | 221-222 | と,非常な決意をなさって、夜一晩中、加持なさった翌早朝に、人に乗り移らせて、「どのような物の怪がこのように人を惑わしていたのであろう」と、様子だけでも言わせたくて、弟子の阿闍梨が、交替で加持なさる。何か月もの間、少しも現れなかった物の怪が、調伏されて、<BR>⏎ 「自分は、ここまで参って、このように調伏され申すべき身ではない。生前は,修業に励んだ法師で、わずかにこの世に恨みを残して、中有にさまよっていたときに、よい女が大勢住んでいられた辺りに住み着いて、一人は失わせたが、この人は、自分から世を恨みなさって、自分は何とかして死にたい、ということを、昼夜おっしゃっていたのを手がかりと得て、まことに暗い夜に、一人でいらした時に奪ったのである。けれども,観音があれやこれやと加護なさったので、この僧都にお負け申してしまった。今は、立ち去ろう」<BR>⏎ |
| d1 | 238 | <P>⏎ | ||
| version53 | 239 | <A NAME="in23">[第三段 浮舟、意識を回復]</A><BR> | 226 | |
| c2 | 240-241 | ご本人の気分はさわやかになって、少し意識がはっきりして見回すと、一人も見たことのある顔はなくて、皆、老法師か腰の曲がった者ばかり多いので、知らない国に来たような気がして、実に悲しい。<BR>⏎ 以前のことを思い出すが、住んでいた所、何という名前であったかさえ、確かにはっきりとも思い出せない。ただ、<BR>⏎ | 227-228 | ご本人の気分はさわやかになって、少し意識がはっきりして見回すと、一人も見たことのある顔はなくて、皆,老法師か腰の曲がった者ばかり多いので、知らない国に来たような気がして、実に悲しい。<BR>⏎ 以前のことを思い出すが、住んでいた所、何という名前であったかさえ、確かにはっきりとも思い出せない。ただ,<BR>⏎ |
| c1 | 243 | 「とてもつらいことよと、悲しい思いを抱いて、皆が寝静まったときに、妻戸を開けて外に出たが、風が烈しく、川波も荒々しく聞こえたが、独りぼっちで恐かったので、過去や将来も分からず、簀子の端に足をさし下ろしながら、行くはずの所も迷って、引き返すのも中途半端で、気強くこの世から消えようと決心したが、『馬鹿らしく人に見つけられるよりは鬼でも何でも喰って亡くしてくれよ』と言いながら、つくづくと座っていたが、とても美しそうな男が近寄って来て、『さあ、いらっしゃい。わたしの所へ』と言って、抱く気がしたが、宮様と申し上げた方がなさる、と思われた時から、意識がはっきりしなくなったようだ。知らない所に置いて、この男は消えてしまった、と見えたが、とうとうこのように目的も果たせずになってしまった、と思いながら、ひどく泣いている、と思ったときから、その後のことはまったく、何もかも覚えていない。<BR>⏎ | 230 | 「とてもつらいことよと、悲しい思いを抱いて、皆が寝静まったときに、妻戸を開けて外に出たが、風が烈しく、川波も荒々しく聞こえたが、独りぼっちで恐かったので、過去や将来も分からず、簀子の端に足をさし下ろしながら、行くはずの所も迷って、引き返すのも中途半端で、気強くこの世から消えようと決心したが、『馬鹿らしく人に見つけられるよりは 鬼でも何でも喰って亡くしてくれよ』と言いながら、つくづくと座っていたが、とても美しそうな男が近寄って来て、『さあ、いらっしゃい。わたしの所へ』と言って、抱く気がしたが、宮様と申し上げた方がなさる、と思われた時から、意識がはっきりしなくなったようだ。知らない所に置いて、この男は消えてしまった、と見えたが、とうとうこのように目的も果たせずになってしまった、と思いながら、ひどく泣いている、と思ったときから、その後のことはまったく、何もかも覚えていない。<BR>⏎ |
| d1 | 246 | <P>⏎ | ||
| version53 | 247 | <A NAME="in24">[第四段 浮舟、五戒を受く]</A><BR> | 233 | |
| c2 | 248-249 | 「どうして、このように頼りなさそうにばかりいらっしゃるのですか。ずっと熱がおありだったのは下がりなさって、さわやかにお見えになるので、嬉しくお思い申し上げていましたのに」<BR>⏎ と、泣きながら、気を緩めることなく付き添ってお世話申し上げなさる。仕える女房たちも、惜しいお姿や容貌を見ると、誠心誠意惜しんで看病したのであった。内心では、「やはり何とかして死にたい」と思い続けていらしたが、あれほどの状態で、生き返った人の命なので、とてもねばり強くて、だんだんと頭もお上げになったので、食物を召し上がりなさるが、かえって容貌もひきしまって行く。はやく好くなってほしいと嬉しくお思い申し上げていたところ、<BR>⏎ | 234-235 | 「どうして,このように頼りなさそうにばかりいらっしゃるのですか。ずっと熱がおありだったのは下がりなさって、さわやかにお見えになるので、嬉しくお思い申し上げていましたのに」<BR>⏎ と,泣きながら、気を緩めることなく付き添ってお世話申し上げなさる。仕える女房たちも、惜しいお姿や容貌を見ると、誠心誠意惜しんで看病したのであった。内心では、「やはり何とかして死にたい」と思い続けていらしたが、あれほどの状態で、生き返った人の命なので、とてもねばり強くて、だんだんと頭もお上げになったので、食物を召し上がりなさるが、かえって容貌もひきしまって行く。はやく好くなってほしいと嬉しくお思い申し上げていたところ、<BR>⏎ |
| c2 | 252-253 | 「あたら惜しいお身を。どうして、そのように致せましょう」<BR>⏎ と言って、ただ頂の髪だけを削いで、五戒だけを受けさせ申し上げる。不安であるが、もともとはきはきしない性分で、さし出て強くもおっしゃらない。僧都は、<BR>⏎ | 238-239 | 「あたら惜しいお身を。どうして,そのように致せましょう」<BR>⏎ と言って,ただ頂の髪だけを削いで、五戒だけを受けさせ申し上げる。不安であるが、もともとはきはきしない性分で、さし出て強くもおっしゃらない。僧都は、<BR>⏎ |
| d1 | 256 | <P>⏎ | ||
| version53 | 257 | <A NAME="in25">[第五段 浮舟、素性を隠す]</A><BR> | 242 | |
| c4 | 259-262 | 「どうして、とても情けなく、こんなにたいそうお世話申し上げていますのに、強情をはっていらっしゃるのですか。どこの誰と申し上げた方が、そのような所にどうしておいでになったのですか」<BR>⏎ と、しいて尋ねるのを、とても恥ずかしいと思って、<BR>⏎ 「意識を失っている間に、すっかり忘れてしまったのでしょうか、以前の様子などもまったく覚えておりません。ただ、かすかに思い出すこととしては、ただ、何とかしてこの世から消えたいと思いながら、夕暮になると端近くで物思いをしていたときに、前の近くにある大きな木があった下から、人が出て来て、連れて行く気がしました。それ以外のことは、自分自身でも、誰とも思い出すことができません」<BR>⏎ と、とてもかわいらしげに言って、<BR>⏎ | 244-247 | 「どうして,とても情けなく、こんなにたいそうお世話申し上げていますのに、強情をはっていらっしゃるのですか。どこの誰と申し上げた方が、そのような所にどうしておいでになったのですか」<BR>⏎ と,しいて尋ねるのを、とても恥ずかしいと思って、<BR>⏎ 「意識を失っている間に、すっかり忘れてしまったのでしょうか、以前の様子などもまったく覚えておりません。ただ,かすかに思い出すこととしては、ただ,何とかしてこの世から消えたいと思いながら、夕暮になると端近くで物思いをしていたときに、前の近くにある大きな木があった下から、人が出て来て、連れて行く気がしました。それ以外のことは、自分自身でも、誰とも思い出すことができません」<BR>⏎ と,とてもかわいらしげに言って、<BR>⏎ |
| d1 | 265 | <P>⏎ | ||
| version53 | 266 | <A NAME="in26">[第六段 小野山荘の風情]</A><BR> | 250 | |
| c2 | 267-268 | ここの主人も高貴な方であった。娘の尼君は、上達部の北の方であったが、その方がお亡くなりになって後、娘をただ一人大切にお世話して、立派な公達を婿に迎えて大切にしていたが、その娘が亡くなってしまったので、情けない、悲しい、と思いつめて、尼姿になって、このような山里に住み始めたのであった。<BR>⏎ 「歳月とともに恋い慕っていた娘の形見にでも、せめて思いよそえられるような人を見つけたい」と、所在ない心細い思いで嘆いていたところ、このように、思いがけない人で、器量や感じも優っているような人を得たので、現実のこととも思われず、不思議な気がしながらも、嬉しいと思う。年は召しているが、とても美しそうで嗜みがあり、態度も上品である。<BR>⏎ | 251-252 | ここの主人も高貴な方であった。娘の尼君は、上達部の北の方であったが、その方がお亡くなりになって後、娘をただ一人大切にお世話して、立派な公達を婿に迎えて大切にしていたが、その娘が亡くなってしまったので、情けない,悲しい、と思いつめて、尼姿になって、このような山里に住み始めたのであった。<BR>⏎ 「歳月とともに恋い慕っていた娘の形見にでも、せめて思いよそえられるような人を見つけたい」と、所在ない心細い思いで嘆いていたところ、このように,思いがけない人で、器量や感じも優っているような人を得たので、現実のこととも思われず、不思議な気がしながらも、嬉しいと思う。年は召しているが、とても美しそうで嗜みがあり、態度も上品である。<BR>⏎ |
| d1 | 271 | <P>⏎ | ||
| version53 | 272 | <A NAME="in27">[第七段 浮舟、手習して述懐]</A><BR> | 255 | |
| cd2:1 | 276-277 | 「涙ながらに身を投げたあの川の早い流れを<BR>⏎ 堰き止めて誰がわたしを救い上げたのでしょう」<BR>⏎ | 259 | 「涙ながらに身を投げたあの川の早い流れを<BR> 堰き止めて誰がわたしを救い上げたのでしょう」<BR>⏎ |
| cd4:3 | 280-283 | 「わたしがこのように嫌なこの世に生きているとも<BR>⏎ 誰が知ろうか、あの月が照らしている都の人で」<BR>⏎ 今を最期と思い切ったときは、恋しい人が多かったが、その他の人びとはそれほども思い出されず、ただ、<BR>⏎ 「母親がどんなにお嘆きになったろう。乳母が、いろいろと、何とか一人前にしようと一生懸命であったが、どんなにがっかりしたろう。どこにいるのだろう。わたしが、生きていようとはどうして知ろう」<BR>⏎ | 262-264 | 「わたしがこのように嫌なこの世に生きているとも<BR> 誰が知ろうか、あの月が照らしている都の人で」<BR>⏎ 今を最期と思い切ったときは、恋しい人が多かったが、その他の人びとはそれほども思い出されず、ただ,<BR>⏎ 「母親がどんなにお嘆きになったろう。乳母が、いろいろと、何とか一人前にしようと一生懸命であったが、どんなにがっかりしたろう。どこにいるのだろう。わたしが,生きていようとはどうして知ろう」<BR>⏎ |
| d1 | 285 | <P>⏎ | ||
| version53 | 286 | <A NAME="in28">[第八段 浮舟の日常生活]</A><BR> | 266 | |
| c1 | 287 | 若い女で、このような山里に、もうこれまでと思いを断ち切って籠もるのは、難しいことなので、ただひどく年をとった尼、七、八人が、いつも仕えていた人であった。その人たちの娘や孫のような者たちで、京で宮仕えするものや、結婚している者が、時々行き来するのであった。<BR>⏎ | 267 | 若い女で、このような山里に、もうこれまでと思いを断ち切って籠もるのは、難しいことなので、ただひどく年をとった尼、七,八人が、いつも仕えていた人であった。その人たちの娘や孫のような者たちで、京で宮仕えするものや、結婚している者が、時々行き来するのであった。<BR>⏎ |
| c1 | 289 | などと、想像されて並外れたみすぼらしい有様を思うにちがいないのを思うと、このような人びとに、少しも姿を見せない。ただ、侍従と、こもきといって、尼君が私的に使っている二人だけを、この御方に特別に言って分けておいたのだった。容貌も気立ても、昔見た都人に似た者はいない。何事につけても、「世の中で身を隠す所はここであろうか」と、一方では思われるのであった。<BR>⏎ | 269 | などと,想像されて並外れたみすぼらしい有様を思うにちがいないのを思うと、このような人びとに、少しも姿を見せない。ただ,侍従と、こもきといって、尼君が私的に使っている二人だけを、この御方に特別に言って分けておいたのだった。容貌も気立ても、昔見た都人に似た者はいない。何事につけても、「世の中で身を隠す所はここであろうか」と、一方では思われるのであった。<BR>⏎ |
| d1 | 291 | <P>⏎ | ||
| version53 | 292 | <H4>第三章 浮舟の物語 中将、浮舟に和歌を贈る</H4> | 271 | |
| version53 | 293 | <A NAME="in31">[第一段 尼君の亡き娘の婿君、山荘を訪問]</A><BR> | 272 | |
| c1 | 296 | ここもまことに心細い住まいの所在なさであるが、住み馴れた人びとは、どことなくこぎれいに興趣深くして、垣根に植えた撫子が美しく、女郎花や、桔梗などが咲き初めたところに、色とりどりの狩衣姿の男どもの若い人が大勢して、君も同じ装束で、南面に迎えて座らせたので、あたりを眺めていた。年齢は二十七、八歳くらいで、すっかり立派になって、嗜みのなくはない態度が身についていた。<BR>⏎ | 275 | ここもまことに心細い住まいの所在なさであるが、住み馴れた人びとは、どことなくこぎれいに興趣深くして、垣根に植えた撫子が美しく、女郎花や、桔梗などが咲き初めたところに、色とりどりの狩衣姿の男どもの若い人が大勢して、君も同じ装束で、南面に迎えて座らせたので、あたりを眺めていた。年齢は二十七,八歳くらいで、すっかり立派になって、嗜みのなくはない態度が身についていた。<BR>⏎ |
| d1 | 304 | <P>⏎ | ||
| version53 | 305 | <A NAME="in32">[第二段 浮舟の思い]</A><BR> | 283 | |
| c2 | 307-308 | 「亡くなってしまった娘のことよりも、この婿君のお気持ちなどが、実に申し分なかったので、他人と思うのが、とても悲しい。どうして、せめて子供だけでもお残しにならなかったのだろう」<BR>⏎ と、恋い偲ぶ気持ちなので、たまたまこのようにお越しになったのにつけても、珍しくしみじみと思われるような問わず語りもしてしまいそうである。<BR>⏎ | 285-286 | 「亡くなってしまった娘のことよりも、この婿君のお気持ちなどが、実に申し分なかったので、他人と思うのが、とても悲しい。どうして,せめて子供だけでもお残しにならなかったのだろう」<BR>⏎ と,恋い偲ぶ気持ちなので、たまたまこのようにお越しになったのにつけても、珍しくしみじみと思われるような問わず語りもしてしまいそうである。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 312-313 | 「まあ、大変な。生き残って、どのようなことがあっても、男性と結婚するようなことは。それにつけても昔のことが思い出されよう。そのようなことは、すっかり断ち切って忘れよう」と思う。<BR>⏎ <P>⏎ | 290 | 「まあ,大変な。生き残って、どのようなことがあっても、男性と結婚するようなことは。それにつけても昔のことが思い出されよう。そのようなことは、すっかり断ち切って忘れよう」と思う。<BR>⏎ |
| version53 | 314 | <A NAME="in33">[第三段 中将、浮舟を垣間見る]</A><BR> | 291 | |
| c1 | 321 | と言う。「このようなことがあるものだ」と興味深くて、「どのような人なのだろう。なるほど、実に美しかった」と、ちらっと垣間見たのを、かえって思い出す。詳しく尋ねるが、すっかりとは答えず、<BR>⏎ | 298 | と言う。「このようなことがあるものだ」と興味深くて、「どのような人なのだろう。なるほど,実に美しかった」と、ちらっと垣間見たのを、かえって思い出す。詳しく尋ねるが、すっかりとは答えず、<BR>⏎ |
| d1 | 326 | <P>⏎ | ||
| version53 | 327 | <A NAME="in34">[第四段 中将、横川の僧都と語る]</A><BR> | 303 | |
| c1 | 330 | などと、古風な老人たちは、誉めあっていた。<BR>⏎ | 306 | などと,古風な老人たちは、誉めあっていた。<BR>⏎ |
| c3 | 332-334 | 「藤中納言のお所には、今も通っていらっしゃるようだが、ご執心でもなく、親の邸にいらっしゃりがちだと言っているようだが」<BR>⏎ と、尼君もおっしゃって、<BR>⏎ 「情けなく、よそよそしくしてばかりいらっしゃるのが、とてもつらい。今はもう、やはり、これも宿縁だとお思いになって、気を晴れやかになさってください。この五年、六年、束の間も忘れず、恋しく悲しいと思っていた娘のことも、こうしてお目にかかって後は、すっかり悲しみも忘れております。ご心配申し上げなさる方々がいらっしゃっても、今はもう亡くなったのだと、だんだんお諦めになりましょう。どのような事でも、その当座のようには、必ずしも思わないものです」<BR>⏎ | 308-310 | 「藤中納言のお所には、今も通っていらっしゃるようだが、ご執心でもなく、親の邸にいらっしゃりがちだ と言っているようだが」<BR>⏎ と,尼君もおっしゃって、<BR>⏎ 「情けなく、よそよそしくしてばかりいらっしゃるのが、とてもつらい。今はもう、やはり,これも宿縁だとお思いになって、気を晴れやかになさってください。この五年、六年、束の間も忘れず、恋しく悲しいと思っていた娘のことも、こうしてお目にかかって後は、すっかり悲しみも忘れております。ご心配申し上げなさる方々がいらっしゃっても、今はもう亡くなったのだと、だんだんお諦めになりましょう。どのような事でも、その当座のようには、必ずしも思わないものです」<BR>⏎ |
| c1 | 337 | とおっしゃる様子も、なるほど、無心でかわいらしく、にっこりとして見つめていらっしゃった。<BR>⏎ | 313 | とおっしゃる様子も、なるほど,無心でかわいらしく、にっこりとして見つめていらっしゃった。<BR>⏎ |
| c1 | 339 | 「小野に立ち寄って、しみじみと感慨深いことがあったね。世を捨てているが、やはり、あれほど嗜みの深い方は、めったにいらっしゃらないものだ」<BR>⏎ | 315 | 「小野に立ち寄って、しみじみと感慨深いことがあったね。世を捨てているが、やはり,あれほど嗜みの深い方は、めったにいらっしゃらないものだ」<BR>⏎ |
| c1 | 344 | と言って、見てないことなので、詳しくは言わない。<BR>⏎ | 320 | と言って,見てないことなので、詳しくは言わない。<BR>⏎ |
| d1 | 347 | <P>⏎ | ||
| version53 | 348 | <A NAME="in35">[第五段 中将、帰途に浮舟に和歌を贈る]</A><BR> | 323 | |
| c2 | 354-355 | 「一時の物好きな心があってやって来るのでさえ、山深い道の恨み言は申し上げましょう。まして、亡き姫君の代わりとお思いなさっていることでは、まったく関係ないこととお隔てになることでしょうか。どのようなことで、この世を厭いなさる人なのでしょうか。お慰め申し上げたい」<BR>⏎ などと、関心深そうにおっしゃる。<BR>⏎ | 329-330 | 「一時の物好きな心があってやって来るのでさえ、山深い道の恨み言は申し上げましょう。まして,亡き姫君の代わりとお思いなさっていることでは、まったく関係ないこととお隔てになることでしょうか。どのようなことで、この世を厭いなさる人なのでしょうか。お慰め申し上げたい」<BR>⏎ などと,関心深そうにおっしゃる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 357-358 | 「浮気な風に靡くなよ、女郎花<BR>⏎ わたしのものとなっておくれ、道は遠いけれども」<BR>⏎ | 332 | 「浮気な風に靡くなよ、女郎花<BR> わたしのものとなっておくれ、道は遠いけれども」<BR>⏎ |
| c1 | 363 | と言って、まったく承知なさらないので、<BR>⏎ | 337 | と言って,まったく承知なさらないので、<BR>⏎ |
| c1 | 365 | と言って、尼君が、<BR>⏎ | 339 | と言って,尼君が、<BR>⏎ |
| cd4:2 | 367-370 | ここに移し植えて困ってしまいました、女郎花です<BR>⏎ 嫌な世の中を逃れたこの草庵で」<BR>⏎ とある。「今回は、きっとそういうことだろう」と大目に見て帰った。<BR>⏎ <P>⏎ | 341-342 | ここに移し植えて困ってしまいました、女郎花です<BR> 嫌な世の中を逃れたこの草庵で」<BR>⏎ とある。「今回は,きっとそういうことだろう」と 大目に見て帰った。<BR>⏎ |
| version53 | 371 | <A NAME="in36">[第六段 中将、三度山荘を訪問]</A><BR> | 343 | |
| c1 | 378 | などと、とてもご執心なさってようにお話なさる。<BR>⏎ | 350 | などと,とてもご執心なさってようにお話なさる。<BR>⏎ |
| c3 | 380-382 | と、親ぶって言う。奥に入って行っても、<BR>⏎ 「思いやりのないこと。やはり、少しでもお返事申し上げなさい。このようなお暮らしは、ちょっとしたつまらないことでも、人の気持ちを汲むのは世間の常識というものです」<BR>⏎ などと、なだめすかして言うが、<BR>⏎ | 352-354 | と,親ぶって言う。奥に入って行っても、<BR>⏎ 「思いやりのないこと。やはり,少しでもお返事申し上げなさい。このようなお暮らしは、ちょっとしたつまらないことでも、人の気持ちを汲むのは世間の常識というものです」<BR>⏎ などと,なだめすかして言うが、<BR>⏎ |
| c1 | 384 | と、とてもそっけなく臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ | 356 | と,とてもそっけなく臥せっていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd8:6 | 387-394 | などと、恨みながら、<BR>⏎ 「松虫の声を尋ねて来ましたが<BR>⏎ 再び萩原の露に迷ってしまいました」<BR>⏎ 「まあ、お気の毒な。せめてこのお返事だけでも」<BR>⏎ などと責めると、そのような色恋めいた事に返事するのもたいそう嫌で、また一方、いったん返歌をしては、このような折々に責められるのも、厄介に思われるので、返歌をさえなさらないので、あまりにいいようもなく思い合っていた。尼君は、出家前は当世風の方であった気が残っているのであろう。<BR>⏎ 「秋の野原の露を分けて来たため濡れた狩衣は<BR>⏎ 葎の茂ったわが宿のせいになさいますな<BR>⏎ と、わずらわしがり申していらっしゃるようです」<BR>⏎ | 359-364 | などと,恨みながら、<BR>⏎ 「松虫の声を尋ねて来ましたが<BR> 再び萩原の露に迷ってしまいました」<BR>⏎ 「まあ,お気の毒な。せめてこのお返事だけでも」<BR>⏎ などと責めると、そのような色恋めいた事に返事するのもたいそう嫌で、また一方,いったん返歌をしては、このような折々に責められるのも、厄介に思われるので、返歌をさえなさらないので、あまりにいいようもなく思い合っていた。尼君は、出家前は当世風の方であった気が残っているのであろう。<BR>⏎ 「秋の野原の露を分けて来たため濡れた狩衣は<BR> 葎の茂ったわが宿のせいになさいますな<BR>⏎ と,わずらわしがり申していらっしゃるようです」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 396-398 | 「このような、ちょっとした機会にも、お話し合い申し上げなさるのも、お気持ちにそむいて、油断ならないことはなさらない方ですから。世間並の色恋とお思いなさらなくても、人情のわかる程度に、お返事を申し上げなさいませ」<BR>⏎ などと、引き動かさんばかりに言う。<BR>⏎ <P>⏎ | 366-367 | 「このような,ちょっとした機会にも、お話し合い申し上げなさるのも、お気持ちにそむいて、油断ならないことはなさらない方ですから。世間並の色恋とお思いなさらなくても、人情のわかる程度に、お返事を申し上げなさいませ」<BR>⏎ などと,引き動かさんばかりに言う。<BR>⏎ |
| version53 | 399 | <A NAME="in37">[第七段 尼君、中将を引き留める]</A><BR> | 368 | |
| c3 | 406-408 | と、恨めしそうにしてお帰りになろうとする時に、尼君が、<BR>⏎ 「どうして、せっかくの素晴らしい夜を御覧になりませぬ」<BR>⏎ と言って、膝行して出ていらっしゃった。<BR>⏎ | 375-377 | と,恨めしそうにしてお帰りになろうとする時に、尼君が、<BR>⏎ 「どうして,せっかくの素晴らしい夜を御覧になりませぬ」<BR>⏎ と言って,膝行して出ていらっしゃった。<BR>⏎ |
| cd4:3 | 411-414 | 「夜更けの月をしみじみと御覧にならない方が<BR>⏎ 山の端に近いこの宿にお泊まりになりませんか」<BR>⏎ と、どこか整わない歌を、<BR>⏎ 「このように、申し上げていらっしゃいます」<BR>⏎ | 380-382 | 「夜更けの月をしみじみと御覧にならない方が<BR> 山の端に近いこの宿にお泊まりになりませんか」<BR>⏎ と,どこか整わない歌を、<BR>⏎ 「このように,申し上げていらっしゃいます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 416-417 | 「山の端に隠れるまで月を眺ましょう<BR>⏎ その効あってお目にかかれようかと」<BR>⏎ | 384 | 「山の端に隠れるまで月を眺ましょう<BR> その効あってお目にかかれようかと」<BR>⏎ |
| c1 | 420 | 「さあ、その琴の琴をお弾きなさい。横笛は、月にはとても趣深いものです。どこですか、そなたたち。琴を持って参れ」<BR>⏎ | 387 | 「さあ,その琴の琴をお弾きなさい。横笛は、月にはとても趣深いものです。どこですか、そなたたち。琴を持って参れ」<BR>⏎ |
| c1 | 422 | 「どうですか。さあ」<BR>⏎ | 389 | 「どうですか.さあ」<BR>⏎ |
| c1 | 425 | 「昔聞きましたときよりも、この上なく素晴らしく思われますのは、山風ばかりを聞き馴れていました耳のせいでしょうか」と言って、「それでは、わたしのはでたらめになっていましょう」<BR>⏎ | 392 | 「昔聞きましたときよりも、この上なく素晴らしく思われますのは、山風ばかりを聞き馴れていました耳のせいでしょうか」と言って、「それでは,わたしのはでたらめになっていましょう」<BR>⏎ |
| d1 | 427 | <P>⏎ | ||
| version53 | 428 | <A NAME="in38">[第八段 母尼君、琴を弾く]</A><BR> | 394 | |
| c1 | 433 | 「さあ、主殿の君さん、東琴を取って」<BR>⏎ | 399 | 「さあ,主殿の君さん、東琴を取って」<BR>⏎ |
| c2 | 435-436 | 「たけふ、ちちりちちり、たりたんな」<BR>⏎ などと、撥を掻き返し、さっそうと弾いている、その言葉などは、やたらと古めかしい。<BR>⏎ | 401-402 | 「たけふ,ちちりちちり、たりたんな」<BR>⏎ などと,撥を掻き返し、さっそうと弾いている、その言葉などは、やたらと古めかしい。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 440-441 | と、得意顔に大声で笑って話すのを、尼君などは、聞き苦しいとお思いである。<BR>⏎ <P>⏎ | 406 | と,得意顔に大声で笑って話すのを、尼君などは、聞き苦しいとお思いである。<BR>⏎ |
| version53 | 442 | <A NAME="in39">[第九段 翌朝、中将から和歌が贈られる]</A><BR> | 407 | |
| cd3:2 | 445-447 | 忘れられない昔の人のことやつれない人のことにつけ<BR>⏎ 声を立てて泣いてしまいました<BR>⏎ やはり、もう少し気持ちをご理解いただけるよう説得申し上げてください。堪えきれるものでしたら、好色がましい態度にまで、どうして出ましょうか」<BR>⏎ | 410-411 | 忘れられない昔の人のことやつれない人のことにつけ<BR> 声を立てて泣いてしまいました<BR>⏎ やはり,もう少し気持ちをご理解いただけるよう説得申し上げてください。堪えきれるものでしたら、好色がましい態度にまで、どうして出ましょうか」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 449-450 | 「笛の音に昔のことも偲ばれまして<BR>⏎ お帰りになった後も袖が濡れました<BR>⏎ | 413 | 「笛の音に昔のことも偲ばれまして<BR> お帰りになった後も袖が濡れました<BR>⏎ |
| cd3:2 | 454-456 | 「やはり、このような方面のことは、相手にも諦めさせるように、早くしてくださいませ」<BR>⏎ と言って、お経を習って読んでいらっしゃる。心中でも祈っていらっしゃった。このように何かにつけて世の中を捨てているので、「若い女だといっても華やかなところも特になく、陰気な性格なのだろう」と思う。器量が見飽きず、かわいらしいので、他の欠点はすべて大目に見て、明け暮れの心の慰めにしていた。少しにっこりなさるときには、めったになく素晴らしい方だと思っていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 417-418 | 「やはり,このような方面のことは、相手にも諦めさせるように、早くしてくださいませ」<BR>⏎ と言って,お経を習って読んでいらっしゃる。心中でも祈っていらっしゃった。このように何かにつけて世の中を捨てているので、「若い女だといっても華やかなところも特になく、陰気な性格なのだろう」と思う。器量が見飽きず、かわいらしいので、他の欠点はすべて大目に見て、明け暮れの心の慰めにしていた。少しにっこりなさるときには、めったになく素晴らしい方だと思っていた。<BR>⏎ |
| version53 | 457 | <H4>第四章 浮舟の物語 浮舟、尼君留守中に出家す</H4> | 419 | |
| version53 | 458 | <A NAME="in41">[第一段 九月、尼君、再度初瀬に詣でる]</A><BR> | 420 | |
| c2 | 460-461 | 「さあ、ご一緒に。誰に知られたりするものですか。同じ仏様ですが、あのような所で勤行するのが、霊験あらたかで、良いことが多いのです」<BR>⏎ と言って促すが、「昔、母君や、乳母などが、このように言って聞かせては、たびたび参詣させたが、何にもその効がなかったようだ。死のうと思ったことも思う通りにならず、又とないひどい目を見るとは」と、ひどく厭わしい心中にも、「知らない人と一緒に、そのような遠出をするとは」と、何となく恐ろしく思う。<BR>⏎ | 422-423 | 「さあ,ご一緒に。誰に知られたりするものですか。同じ仏様ですが、あのような所で勤行するのが、霊験あらたかで,良いことが多いのです」<BR>⏎ と言って促すが、「昔,母君や,乳母などが、このように言って聞かせては、たびたび参詣させたが、何にもその効がなかったようだ。死のうと思ったことも思う通りにならず、又とないひどい目を見るとは」と、ひどく厭わしい心中にも、「知らない人と一緒に、そのような遠出をするとは」と、何となく恐ろしく思う。<BR>⏎ |
| cd3:2 | 464-466 | とおっしゃる。「恐がる気持ちは、きっとそうなさるにちがいない方だ」と思って、無理にも誘わない。<BR>⏎ 「はかないままにこの世につらい思いをして生きているわが身は<BR>⏎ あの古川に尋ねて行くことはいたしません、二本の杉のある」<BR>⏎ | 426-427 | とおっしゃる。「恐がる気持ちは,きっとそうなさるにちがいない方だ」と思って、無理にも誘わない。<BR>⏎ 「はかないままにこの世につらい思いをして生きているわが身は<BR> あの古川に尋ねて行くことはいたしません、二本の杉のある」<BR>⏎ |
| cd5:3 | 469-473 | と、冗談に言い当てたので、胸がどきりとして、顔を赤くなさったのも、とても魅力的でかわいらしげである。<BR>⏎ 「あなたの昔の人のことは存じませんが<BR>⏎ わたしはあなたを亡くなった娘と思っております」<BR>⏎ 格別すぐれたのでもない返歌をすばやく言う。人目を忍んで、と言うが、皆がお供したがって、こちらが人少なにおなりになることを気の毒がって、気の利いた少将の尼と左衛門という大人の女房と、童女だけを残したのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 430-432 | と,冗談に言い当てたので、胸がどきりとして、顔を赤くなさったのも、とても魅力的でかわいらしげである。<BR>⏎ 「あなたの昔の人のことは存じませんが<BR> わたしはあなたを亡くなった娘と思っております」<BR>⏎ 格別すぐれたのでもない返歌をすばやく言う。人目を忍んで,と言うが、皆がお供したがって、こちらが人少なにおなりになることを気の毒がって、気の利いた少将の尼と 左衛門という大人の女房と、童女だけを残したのであった。<BR>⏎ |
| version53 | 474 | <A NAME="in42">[第二段 浮舟、少将の尼と碁を打つ]</A><BR> | 433 | |
| c1 | 481 | 「尼上が早くお帰りあそばしたらよいに。この御碁をお見せ申し上げよう。あの方の御碁は、とても強かったわ。僧都の君は、若い時からたいそうお好みになって、まんざらではないとお思いになっていたが、ほんと碁聖大徳気取りで、『出しゃばって打つ気はないが、あなたの御碁にはお負けしませんでしょうね』と申し上げなさったが、とうとう僧都が二敗なさった。碁聖の碁よりもお強くいらっしゃるようです。まあ、強い」<BR>⏎ | 440 | 「尼上が早くお帰りあそばしたらよいに。この御碁をお見せ申し上げよう。あの方の御碁は、とても強かったわ。僧都の君は、若い時からたいそうお好みになって、まんざらではないとお思いになっていたが、ほんと碁聖大徳気取りで、『出しゃばって打つ気はないが、あなたの御碁にはお負けしませんでしょうね』と申し上げなさったが、とうとう僧都が二敗なさった。碁聖の碁よりもお強くいらっしゃるようです。まあ,強い」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 485-487 | 「わたしには秋の情趣も分からないが<BR>⏎ 物思いに耽るわが袖に露がこぼれ落ちる」<BR>⏎ <P>⏎ | 444 | 「わたしには秋の情趣も分からないが<BR> 物思いに耽るわが袖に露がこぼれ落ちる」<BR>⏎ |
| version53 | 488 | <A NAME="in43">[第三段 中将来訪、浮舟別室に逃げ込む]</A><BR> | 445 | |
| c1 | 489 | 月が出て美しいころに、昼に手紙のあった中将がおいでになった。「まあ、嫌な。これは、どうしたことか」と思われなさって、奥深いところにお入りになるのを、<BR>⏎ | 446 | 月が出て美しいころに、昼に手紙のあった中将がおいでになった。「まあ,嫌な。これは,どうしたことか」と思われなさって、奥深いところにお入りになるのを、<BR>⏎ |
| c2 | 492-493 | 「お声も聞かなくて結構です。ただ、お側近くで申し上げることを、聞きにくいとも何なりとも、どうぞご判断くださいませ」<BR>⏎ と、あれこれ言いあぐねて、<BR>⏎ | 449-450 | 「お声も聞かなくて結構です。ただ,お側近くで申し上げることを、聞きにくいとも何なりとも、どうぞご判断くださいませ」<BR>⏎ と,あれこれ言いあぐねて、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 495-497 | などと、非難しながら、<BR>⏎ 「山里の秋の夜更けの情趣を<BR>⏎ 物思いなさる方はご存知でしょう<BR>⏎ | 452-453 | などと,非難しながら、<BR>⏎ 「山里の秋の夜更けの情趣を<BR> 物思いなさる方はご存知でしょう<BR>⏎ |
| cd2:1 | 502-503 | 「情けない身の上とも分からずに暮らしているわたしを<BR>⏎ 物思う人だと他人が分かるのですね」<BR>⏎ | 458 | 「情けない身の上とも分からずに暮らしているわたしを<BR> 物思う人だと他人が分かるのですね」<BR>⏎ |
| c2 | 505-506 | 「もっと、もう少しだけでもお出でください、とお勧め申せ」<BR>⏎ と、この女房たちを困り果てるまで恨み言をおっしゃる。<BR>⏎ | 460-461 | 「もっと,もう少しだけでもお出でください、とお勧め申せ」<BR>⏎ と,この女房たちを困り果てるまで恨み言をおっしゃる。<BR>⏎ |
| c3 | 508-510 | と言って、奥に入って見ると、いつもは少しもお入りにならない老人のお部屋にお入りになっていたのであった。驚きあきれて、「これこれです」と申し上げると、<BR>⏎ 「このような所で物思いに耽っていらっしゃる方のご心中がお気の毒で、世間一般の様子などにつけても情けの分からない方ではないはずなのに、まるで情けを分からない人よりも、冷淡なおあしらいなさるようです。それも何かひどい経験をなさってのことだろうか。やはり、どのようなことで世の中を厭って、いつまでここにいらっしゃる予定の方ですか」<BR>⏎ などと、様子を尋ねて、たいそう知りたげにお思いになっているが、詳細なことはどうして申し上げられよう。ただ、<BR>⏎ | 463-465 | と言って,奥に入って見ると、いつもは少しもお入りにならない老人のお部屋にお入りになっていたのであった。驚きあきれて、「これこれです」と申し上げると、<BR>⏎ 「このような所で物思いに耽っていらっしゃる方のご心中がお気の毒で、世間一般の様子などにつけても 情けの分からない方ではないはずなのに、まるで情けを分からない人よりも、冷淡なおあしらいなさるようです。それも何かひどい経験をなさってのことだろうか。やはり,どのようなことで世の中を厭って、いつまでここにいらっしゃる予定の方ですか」<BR>⏎ などと,様子を尋ねて、たいそう知りたげにお思いになっているが、詳細なことは どうして申し上げられよう。ただ,<BR>⏎ |
| d1 | 513 | <P>⏎ | ||
| version53 | 514 | <A NAME="in44">[第四段 老尼君たちのいびき]</A><BR> | 468 | |
| c1 | 516 | こもきを、供に連れて行かれたが、色気づく年頃で、このめずらしい男性が優雅に振る舞っていらっしゃる方に帰って行ってしまった。「今戻って来ようか、今戻って来ようか」と待っていらしたが、まことに頼りないお付であるよ。中将は、言いあぐねて帰ってしまったので、<BR>⏎ | 470 | こもきを,供に連れて行かれたが、色気づく年頃で、このめずらしい男性が優雅に振る舞っていらっしゃる方に帰って行ってしまった。「今戻って来ようか、今戻って来ようか」と待っていらしたが、まことに頼りないお付であるよ。中将は、言いあぐねて帰ってしまったので、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 520-522 | 「おや。これは、誰ですか」<BR>⏎ と、しつこそうな声で見やっているのが、その上、「今すぐにでも取って喰ってしまおうとする」かのように思われる。鬼が取って連れて来た時は、何も考えられなかったので、かえって安心であった。「どうするのだろう」と思われる不気味さにも、「みじめな姿で生き返り、人並に戻って、再び以前のいろいろな嫌なことに悩み、厭わしいとか恐ろしいとか、物思いすることよ。死んでしまっていたら、これよりも恐ろしそうなものの中にいたことだろうか」と想像される。<BR>⏎ <P>⏎ | 474-475 | 「おや。これは,誰ですか」<BR>⏎ と,しつこそうな声で見やっているのが、その上,「今すぐにでも取って喰ってしまおうとする」かのように思われる。鬼が取って連れて来た時は、何も考えられなかったので、かえって安心であった。「どうするのだろう」と思われる不気味さにも、「みじめな姿で生き返り、人並に戻って、再び以前のいろいろな嫌なことに悩み、厭わしいとか恐ろしいとか、物思いすることよ。死んでしまっていたら、これよりも恐ろしそうなものの中にいたことだろうか」と想像される。<BR>⏎ |
| version53 | 523 | <A NAME="in45">[第五段 浮舟、悲運のわが身を思う]</A><BR> | 476 | |
| c2 | 525-526 | 「とても情けなく、父親と申し上げた方のお顔も拝し上げず、遥か遠い東国で代わる代わる年月を過ごして、たまたま探し求めて、嬉しく頼もしくお思い申し上げた姉君のお側を、不本意のままに縁が切れてしまい、しかるべき方面にとお考えくださった方によって、だんだんと身の不運から抜け出そうとした矢先に、驚きあきれたように身を過ったのを考えて行くと、宮を、わずかにいとしいとお思い申し上げた心が、まことに良くないことであった。ただ、あの方に巡り合った御縁で流れ流れて来たのだ」<BR>⏎ と思うと、「橘の小島の色を例にお誓いなさったのを、どうしてすてきだと思ったのだろう」と、すっかり熱もさめたような気がする。初めから、深い愛情ではなかったがゆったりとした方のことは、この折あの折になどと、思い出すことは比べものにならなかった。「こうして生きていたのだ」と、お耳にされ申すときの恥ずかしさは、誰よりも一番であろう。何といっても、「この世では、以前のご様子を他人ながらでもいつかは見ようと、ふと思うのは、やはり、悪い考えだ。それさえ思うまい」などと、自分独りで思い直す。<BR>⏎ | 478-479 | 「とても情けなく、父親と申し上げた方のお顔も拝し上げず、遥か遠い東国で代わる代わる年月を過ごして、たまたま探し求めて、嬉しく頼もしくお思い申し上げた姉君のお側を、不本意のままに縁が切れてしまい、しかるべき方面にとお考えくださった方によって、だんだんと身の不運から抜け出そうとした矢先に、驚きあきれたように身を過ったのを考えて行くと、宮を、わずかにいとしいとお思い申し上げた心が、まことに良くないことであった。ただ,あの方に巡り合った御縁で流れ流れて来たのだ」<BR>⏎ と思うと、「橘の小島の色を例にお誓いなさったのを、どうしてすてきだと思ったのだろう」と、すっかり熱もさめたような気がする。初めから、深い愛情ではなかったがゆったりとした方のことは、この折あの折になどと、思い出すことは比べものにならなかった。「こうして生きていたのだ」と、お耳にされ申すときの恥ずかしさは、誰よりも一番であろう。何といっても、「この世では、以前のご様子を 他人ながらでもいつかは見ようと、ふと思うのは、やはり,悪い考えだ。それさえ思うまい」などと、自分独りで思い直す。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 531-532 | と、さりげなく断りなさるのを、無理に勧めるのもとても気がきかない。<BR>⏎ <P>⏎ | 484 | と,さりげなく断りなさるのを、無理に勧めるのもとても気がきかない。<BR>⏎ |
| version53 | 533 | <A NAME="in46">[第六段 僧都、宮中へ行く途中に立ち寄る]</A><BR> | 485 | |
| c2 | 538-539 | 「一品の宮が、御物の怪にお悩みあそばしたのを、山の座主が、御修法をして差し上げなさったが、やはり、僧都が参上なさらなくては効験がないといって、昨日、二度お召しがございました。右大臣殿の四位少将が、昨夜、夜が更けて登山あそばして、后宮のお手紙などがございましたので、下山あそばすのです」<BR>⏎ などと、とても得意になって言う。「恥ずかしくても、お目にかかって、尼にしてください、と言おう。口出しする人も少なくて、ちょうどよい機会だ」と思うと、起きて、<BR>⏎ | 490-491 | 「一品の宮が、御物の怪にお悩みあそばしたのを、山の座主が、御修法をして差し上げなさったが、やはり,僧都が参上なさらなくては効験がないといって、昨日、二度お召しがございました。右大臣殿の四位少将が、昨夜、夜が更けて登山あそばして、后宮のお手紙などがございましたので、下山あそばすのです」<BR>⏎ などと,とても得意になって言う。「恥ずかしくても、お目にかかって、尼にしてください、と言おう。口出しする人も少なくて、ちょうどよい機会だ」と思うと、起きて、<BR>⏎ |
| c1 | 544 | と、独り言をおっしゃっていた。<BR>⏎ | 496 | と,独り言をおっしゃっていた。<BR>⏎ |
| d1 | 552 | <P>⏎ | ||
| version53 | 553 | <A NAME="in47">[第七段 浮舟、僧都に出家を懇願]</A><BR> | 504 | |
| c1 | 554 | 立ってこちらにいらして、「ここに、いらっしゃいますか」と言って、几帳の側にお座りになると、遠慮されるが、膝行して近寄って、お返事をなさる。<BR>⏎ | 505 | 立ってこちらにいらして、「ここに,いらっしゃいますか」と言って、几帳の側にお座りになると、遠慮されるが、膝行して近寄って、お返事をなさる。<BR>⏎ |
| c1 | 557 | 「この世に生きていまいと決心いたしました身が、とても不思議にも今日まで生きておりましたが、つらいと思います一方で、あれこれとお世話いただいたご厚志を、何とも申し上げようもないわが身ながら、深く存じられますが、やはり、世間並のようには生きて行けず、とうとうこの世になじめそうになく存じられますので、尼にしてくださいませ。この世に生きていましても、普通の人のように長生きできない身の上です」<BR>⏎ | 508 | 「この世に生きていまいと決心いたしました身が、とても不思議にも今日まで生きておりましたが、つらいと思います一方で、あれこれとお世話いただいたご厚志を、何とも申し上げようもないわが身ながら、深く存じられますが、やはり,世間並のようには生きて行けず、とうとうこの世になじめそうになく存じられますので、尼にしてくださいませ。この世に生きていましても、普通の人のように長生きできない身の上です」<BR>⏎ |
| c1 | 559 | 「まだ、たいそう将来の長いお年なのに、どうして一途にそのように、ご決心なさったのですか。かえって罪を作ることになります。思い立って、決心なさった時は強くお思いになっても、年月がたつと、女のお身の上というものは、まことに不都合なものなのです」<BR>⏎ | 510 | 「まだ,たいそう将来の長いお年なのに、どうして一途にそのように、ご決心なさったのですか。かえって罪を作ることになります。思い立って、決心なさった時は強くお思いになっても、年月がたつと、女のお身の上というものは、まことに不都合なものなのです」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 561-563 | 「子供の時から、物思いばかりをしているような状態で、母親なども、尼にして育てようか、などと思いおっしゃいました。ましてや、少し物心がつきまして後は、普通の人と違って、せめて来世だけでも、と思う考えが深かったが、死ぬ時がだんだん近くなりましたのでしょうか、気分がとても心細くばかりなりましたが、やはり、どうか出家を」<BR>⏎ と、泣きながらおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 512-513 | 「子供の時から、物思いばかりをしているような状態で、母親なども、尼にして育てようか、などと思いおっしゃいました。ましてや,少し物心がつきまして後は、普通の人と違って、せめて来世だけでも、と思う考えが深かったが、死ぬ時がだんだん近くなりましたのでしょうか、気分がとても心細くばかりなりましたが、やはり,どうか出家を」<BR>⏎ と,泣きながらおっしゃる。<BR>⏎ |
| version53 | 564 | <A NAME="in48">[第八段 浮舟、出家す]</A><BR> | 514 | |
| c1 | 566 | 「ともあれ、かくもあれ、ご決心しておっしゃるのを、三宝がたいそう尊くお誉めになることだ。法師の身として反対申し上げるべきことでない。御受戒は、実にたやすくお授けいたしましょうが、急ぎの用事で下山したので、今夜は、あちらの宮に参上しなければなりません。明日から、御修法が始まる予定です。その七日間の修法が終わって帰山する時に、お授け申しましょう」<BR>⏎ | 516 | 「ともあれ,かくもあれ、ご決心しておっしゃるのを、三宝がたいそう尊くお誉めになることだ。法師の身として反対申し上げるべきことでない。御受戒は、実にたやすくお授けいたしましょうが、急ぎの用事で下山したので、今夜は、あちらの宮に参上しなければなりません。明日から、御修法が始まる予定です。その七日間の修法が終わって帰山する時に、お授け申しましょう」<BR>⏎ |
| c2 | 568-569 | 「あの気分が悪かったときと同じようで、ひどく悪うございますので、重くなったら、受戒を授かってもその効がなくなりましょう。やはり、今日は嬉しい機会だと存じられます」<BR>⏎ と言って、ひどくお泣きになるので、聖心にもたいそう気の毒に思って、<BR>⏎ | 518-519 | 「あの気分が悪かったときと同じようで、ひどく悪うございますので、重くなったら、受戒を授かってもその効がなくなりましょう。やはり,今日は嬉しい機会だと存じられます」<BR>⏎ と言って,ひどくお泣きになるので、聖心にもたいそう気の毒に思って、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 576-577 | と言う。なるほど、あの大変であった方のご様子なので、「普通の人としては、この世に生きていらっしゃるのも嫌なことなのであろう」と、この阿闍梨も道理と思うので、几帳の帷子の隙間から、お髪を掻き出しなさったのが、たいそう惜しく美しいので、しばらくの間、鋏を持ったまま躊躇するのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 526 | と言う。なるほど,あの大変であった方のご様子なので、「普通の人としては、この世に生きていらっしゃるのも嫌なことなのであろう」と、この阿闍梨も道理と思うので、几帳の帷子の隙間から、お髪を掻き出しなさったのが、たいそう惜しく美しいので、しばらくの間,鋏を持ったまま躊躇するのであった。<BR>⏎ |
| version53 | 578 | <H4>第五章 浮舟の物語 浮舟、出家後の物語</H4> | 527 | |
| version53 | 579 | <A NAME="in51">[第一段 少将の尼、浮舟の出家に気も動転]</A><BR> | 528 | |
| c1 | 583 | 「まあ、何と情けない。どうして、このような早まったことをあそばしたのですか。尼上が、お帰りあそばしたら、何とおっしゃることでしょう」<BR>⏎ | 532 | 「まあ,何と情けない。どうして,このような早まったことをあそばしたのですか。尼上が、お帰りあそばしたら、何とおっしゃることでしょう」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 590-591 | などと、有り難いお言葉を説いて聞かせなさる。「すぐにも許していただけそうもなく、皆が言い利かせていらしたことを、嬉しいことに果たしたこと」と、このことだけを生きている甲斐があったように思われなさるのであった。<BR>⏎ <P>⏎ | 539 | などと,有り難いお言葉を説いて聞かせなさる。「すぐにも許していただけそうもなく、皆が言い利かせていらしたことを、嬉しいことに果たしたこと」と、このことだけを生きている甲斐があったように思われなさるのであった。<BR>⏎ |
| version53 | 592 | <A NAME="in52">[第二段 浮舟、手習に心を託す]</A><BR> | 540 | |
| c1 | 595 | と言って聞かせるが、「やはり、ただ今は、気が楽になって嬉しい。この世に生きて行かねばならないと、考えずにすむようになったことは、とても結構なことだ」と、胸がほっとした気がなさるのであった。<BR>⏎ | 543 | と言って聞かせるが、「やはり,ただ今は、気が楽になって嬉しい。この世に生きて行かねばならないと、考えずにすむようになったことは、とても結構なことだ」と、胸がほっとした気がなさるのであった。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 597-598 | 「死のうとわが身をも人をも思いながら<BR>⏎ 捨てた世をさらにまた捨てたのだ<BR>⏎ | 545 | 「死のうとわが身をも人をも思いながら<BR> 捨てた世をさらにまた捨てたのだ<BR>⏎ |
| cd4:2 | 600-603 | と書いても、やはり、自然としみじみと御覧になる。<BR>⏎ 「最期と思い決めた世の中を<BR>⏎ 繰り返し背くことになったわ」<BR>⏎ <P>⏎ | 547-548 | と書いても、やはり,自然としみじみと御覧になる。<BR>⏎ 「最期と思い決めた世の中を<BR> 繰り返し背くことになったわ」<BR>⏎ |
| version53 | 604 | <A NAME="in53">[第三段 中将からの和歌に返歌す]</A><BR> | 549 | |
| c1 | 607 | と、たいそう残念で、すぐ折り返して、<BR>⏎ | 552 | と,たいそう残念で、すぐ折り返して、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 609-610 | 岸から遠くに漕ぎ離れて行く海人舟に<BR>⏎ わたしも乗り後れまいと急がれる気がします」<BR>⏎ | 554 | 岸から遠くに漕ぎ離れて行く海人舟に<BR> わたしも乗り後れまいと急がれる気がします」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 612-614 | 「心は厭わしい世の中を離れたが<BR>⏎ その行く方もわからず漂っている海人の浮木です」<BR>⏎ と、いつもの、手習いなさっていたのを、包んで差し上げる。<BR>⏎ | 556-557 | 「心は厭わしい世の中を離れたが<BR> その行く方もわからず漂っている海人の浮木です」<BR>⏎ と,いつもの、手習いなさっていたのを、包んで差し上げる。<BR>⏎ |
| c2 | 620-621 | 「このような尼の身としては、お勧め申すのこそが本来だ、と思っていますが、将来の長いお身の上を、どのようにお過ごしなさるのでしょうか。わたしが、この世に生きておりますことは、今日、明日とも分からないのに、何とか安心してお残し申してゆこうと、いろいろと考えまして、仏様にもお祈り申し上げておりましたのに」<BR>⏎ と、泣き臥し倒れながら、ひどく悲しげに思っていらっしゃるので、実の母親が、あのまま亡骸さえないものよと、お嘆き悲しみなさったろうことが推量されるのが、まっさきにとても悲しかった。いつものように、返事もしないで背を向けていらっしゃる様子、とても若々しくかわいらしいので、「とても頼りなくいらっしゃるお心だこと」と、泣きながら御法衣のことなど準備なさる。<BR>⏎ | 563-564 | 「このような尼の身としては、お勧め申すのこそが本来だ、と思っていますが、将来の長いお身の上を、どのようにお過ごしなさるのでしょうか。わたしが,この世に生きておりますことは、今日、明日とも分からないのに、何とか安心してお残し申してゆこうと、いろいろと考えまして、仏様にもお祈り申し上げておりましたのに」<BR>⏎ と,泣き臥し倒れながら、ひどく悲しげに思っていらっしゃるので、実の母親が、あのまま亡骸さえないものよと、お嘆き悲しみなさったろうことが推量されるのが、まっさきにとても悲しかった。いつものように、返事もしないで背を向けていらっしゃる様子、とても若々しくかわいらしいので、「とても頼りなくいらっしゃるお心だこと」と、泣きながら御法衣のことなど準備なさる。<BR>⏎ |
| d1 | 624 | <P>⏎ | ||
| version53 | 625 | <A NAME="in54">[第四段 僧都、女一宮に伺候]</A><BR> | 567 | |
| c1 | 626 | 一品の宮のご病気は、なるほど、あの弟子が言っていたとおりに、はっきりした効験があって、ご平癒あそばしたので、ますますまことに尊い方だと大騒ぎする。病後も油断ならないとして、御修法を延長させなさったので、すぐにも帰山することができず伺候なさっていたが、雨などが降って、ひっそりとした夜、お召しがあって、夜居に伺候させなさる。<BR>⏎ | 568 | 一品の宮のご病気は、なるほど,あの弟子が言っていたとおりに、はっきりした効験があって、ご平癒あそばしたので、ますますまことに尊い方だと大騒ぎする。病後も油断ならないとして、御修法を延長させなさったので、すぐにも帰山することができず伺候なさっていたが、雨などが降って,ひっそりとした夜、お召しがあって、夜居に伺候させなさる。<BR>⏎ |
| d1 | 632 | <P>⏎ | ||
| version53 | 633 | <A NAME="in55">[第五段 僧都、女一宮に宇治の出来事を語る]</A><BR> | 574 | |
| c3 | 636-638 | と言って、あの見つけた女のことなどをお話し申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど、まことに珍しいこと」<BR>⏎ と言って、近くに伺候する女房たちがみな眠っているので、恐ろしくお思いになって、お起こしあそばす。大将が親しくなさっている宰相の君がおりしも、このことを聞いたのであった。目を覚まさせた女房たちは、何の関心も示さない。僧都は、恐がっておいであそばすご様子なので、「つまらないことを申し上げてしまった」と思って、詳しくその時のことを申し上げることは言い止めた。<BR>⏎ | 577-579 | と言って,あの見つけた女のことなどをお話し申し上げなさる。<BR>⏎ 「なるほど,まことに珍しいこと」<BR>⏎ と言って,近くに伺候する女房たちがみな眠っているので、恐ろしくお思いになって、お起こしあそばす。大将が親しくなさっている宰相の君がおりしも、このことを聞いたのであった。目を覚まさせた女房たちは、何の関心も示さない。僧都は、恐がっておいであそばすご様子なので、「つまらないことを申し上げてしまった」と思って、詳しくその時のことを申し上げることは言い止めた。<BR>⏎ |
| c5 | 640-644 | わたしの妹は、故衛門督の妻でございました尼で、亡くなった娘の代わりにと、思って喜びまして、随分大切にお世話しましたが、このように出家してしまったので、恨んでいるのでございます。なるほど、器量はまことによく整って美しくて、勤行のため身をやつすのもお気の毒でございました。どのような人であったのでしょうか」<BR>⏎ と、よくしゃべる僧都なので、話し続けて申し上げなさるので、<BR>⏎ 「どうして、そのような所に、身分のある人を連れて行ったのでしょうか。いくら何でも、今では素性は知られたでしょう」<BR>⏎ などと、この宰相の君が尋ねる。<BR>⏎ 「分かりません。でもそのように、ひそかに打ち明けているかも知れません。ほんとうに高貴な方ならば、どうして、分からないままでいましょうか。田舎者の娘も、そのような恰好をした者はございましょう。龍の中から、仏がお生まれにならないことがございましょうか。普通の人としては、まことに前世の罪障が軽いと思われる人でございました」<BR>⏎ | 581-585 | わたしの妹は、故衛門督の妻でございました尼で、亡くなった娘の代わりにと、思って喜びまして、随分大切にお世話しましたが、このように出家してしまったので、恨んでいるのでございます。なるほど,器量はまことによく整って美しくて、勤行のため身をやつすのもお気の毒でございました。どのような人であったのでしょうか」<BR>⏎ と,よくしゃべる僧都なので、話し続けて申し上げなさるので、<BR>⏎ 「どうして,そのような所に、身分のある人を連れて行ったのでしょうか。いくら何でも、今では素性は知られたでしょう」<BR>⏎ などと,この宰相の君が尋ねる。<BR>⏎ 「分かりません。でもそのように、ひそかに打ち明けているかも知れません。ほんとうに高貴な方ならば、どうして,分からないままでいましょうか。田舎者の娘も、そのような恰好をした者はございましょう。龍の中から、仏がお生まれにならないことがございましょうか。普通の人としては、まことに前世の罪障が軽いと思われる人でございました」<BR>⏎ |
| c1 | 648 | と、何か隠している様子なので、誰にも話さない。中宮は、<BR>⏎ | 589 | と,何か隠している様子なので、誰にも話さない。中宮は、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 650-651 | と、この人におっしゃったが、どちらの方も隠しておきたいはずのことを、確かにそうとも分からないうちに、気恥ずかしい方に、話し出すのも気がひけて思われなさって、そのままになった。<BR>⏎ <P>⏎ | 591 | と,この人におっしゃったが、どちらの方も隠しておきたいはずのことを、確かにそうとも分からないうちに、気恥ずかしい方に、話し出すのも気がひけて思われなさって、そのままになった。<BR>⏎ |
| version53 | 652 | <A NAME="in56">[第六段 僧都、山荘に立ち寄り山へ帰る]</A><BR> | 592 | |
| c1 | 659 | と言って、綾、羅、絹などという物を、差し上げ置きなさる。<BR>⏎ | 599 | と言って,綾、羅、絹などという物を、差し上げ置きなさる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 663-664 | と、法師であるが、たいそう風流で気恥ずかしい態度におっしゃることどもを、「期待していたとおりにおっしゃってくださることだ」と聞いていた。<BR>⏎ <P>⏎ | 603 | と,法師であるが、たいそう風流で気恥ずかしい態度におっしゃることどもを、「期待していたとおりにおっしゃってくださることだ」と聞いていた。<BR>⏎ |
| version53 | 665 | <A NAME="in57">[第七段 中将、小野山荘に来訪]</A><BR> | 604 | |
| c1 | 667 | 「ああ、山伏は、このような日には、声を出して泣けるということだ」<BR>⏎ | 606 | 「ああ,山伏は、このような日には、声を出して泣けるということだ」<BR>⏎ |
| cd5:4 | 669-673 | 今さら言ってもはじまらないことを言おうと思ってやって来たのだが、紅葉がたいそう美しく、他の紅葉よりいっそう色染めているのが色鮮やかなので、入って来るなり感慨深いのであった。「ここに、とても屈託なさそうな人を見つけたら、奇妙な気がするだろう」などと思って、<BR>⏎ 「暇があって、何もすることのない気がしましたので、紅葉もどのようなものかしらと存じまして。やはり、昔に返って泊まって行きたい紅葉の木の下ですね」<BR>⏎ と言って、外を見やっていらっしゃる。尼君が、例によって、涙もろくて、<BR>⏎ 「木枯らしが吹いた山の麓では<BR>⏎ もう姿を隠す場所さえありません」<BR>⏎ | 608-611 | 今さら言ってもはじまらないことを言おうと思ってやって来たのだが、紅葉がたいそう美しく、他の紅葉よりいっそう色染めているのが色鮮やかなので、入って来るなり感慨深いのであった。「ここに,とても屈託なさそうな人を見つけたら、奇妙な気がするだろう」などと思って、<BR>⏎ 「暇があって、何もすることのない気がしましたので、紅葉もどのようなものかしらと存じまして。やはり,昔に返って泊まって行きたい紅葉の木の下ですね」<BR>⏎ と言って,外を見やっていらっしゃる。尼君が、例によって、涙もろくて、<BR>⏎ 「木枯らしが吹いた山の麓では<BR> もう姿を隠す場所さえありません」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 675-676 | 「待っている人もいないと思う山里の<BR>⏎ 梢を見ながらもやはり素通りしにくいのです」<BR>⏎ | 613 | 「待っている人もいないと思う山里の<BR> 梢を見ながらもやはり素通りしにくいのです」<BR>⏎ |
| c1 | 679 | と、少将の尼におっしゃる。<BR>⏎ | 616 | と,少将の尼におっしゃる。<BR>⏎ |
| d1 | 685 | <P>⏎ | ||
| version53 | 686 | <A NAME="in58">[第八段 中将、浮舟に和歌を贈って帰る]</A><BR> | 622 | |
| c1 | 687 | 「これほどの器量をした人を失って、探さない人があったりしようか。また、誰それの人の娘が、行く方知れずに見えなくなったとか、もしくは何か恨んで、出家してしまったなど、自然と知れてしまうものだが」などと、不思議と繰り返し思う。<BR>⏎ | 623 | 「これほどの器量をした人を失って、探さない人があったりしようか。また,誰それの人の娘が、行く方知れずに見えなくなったとか、もしくは何か恨んで、出家してしまったなど、自然と知れてしまうものだが」などと、不思議と繰り返し思う。<BR>⏎ |
| c1 | 689 | 「普通の人の時にはご遠慮なさることもあったでしょうが、このような尼姿におなりになっては、気がねなく申し上げられそうでございます。そのようにお諭し申し上げてください。過去のことが忘れがたくて、このようにやって参ったのですが、さらにまた、もう一つの気持ちも加わりまして」<BR>⏎ | 625 | 「普通の人の時にはご遠慮なさることもあったでしょうが、このような尼姿におなりになっては、気がねなく申し上げられそうでございます。そのようにお諭し申し上げてください。過去のことが忘れがたくて、このようにやって参ったのですが、さらにまた,もう一つの気持ちも加わりまして」<BR>⏎ |
| c1 | 692 | と言って、お泣きになるので、「この尼君も遠縁に当たる人なのであろう。誰なのだろう」と思い当たらない。<BR>⏎ | 628 | と言って,お泣きになるので、「この尼君も遠縁に当たる人なのであろう。誰なのだろう」と思い当たらない。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 698-699 | 「一般の俗世間をお捨てになったあなた様ですが<BR>⏎ わたしをお厭いなさるのにつけ、つらく存じられます」<BR>⏎ | 634 | 「一般の俗世間をお捨てになったあなた様ですが<BR> わたしをお厭いなさるのにつけ、つらく存じられます」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 705-706 | だから、今まで鬱々とふさぎこんで、物思いばかりしていらしたのも、出家の念願がお叶いになって後は、少し気分が晴れ晴れとして、尼君とちょっと冗談を言い交わし、碁を打ったりなどして、毎日お暮らしになっている。お勤めも実に熱心に行って、法華経は言うまでもない。他の教典なども、とてもたくさんお読みになる。雪が深く降り積もって、人目もなくなったころは、ほんとうに心のやりばがなかった。<BR>⏎ <P>⏎ | 640 | だから,今まで鬱々とふさぎこんで、物思いばかりしていらしたのも、出家の念願がお叶いになって後は、少し気分が晴れ晴れとして、尼君とちょっと冗談を言い交わし、碁を打ったりなどして、毎日お暮らしになっている。お勤めも実に熱心に行って、法華経は言うまでもない。他の教典なども、とてもたくさんお読みになる。雪が深く降り積もって、人目もなくなったころは、ほんとうに心のやりばがなかった。<BR>⏎ |
| version53 | 707 | <H4>第六章 浮舟の物語 薫、浮舟生存を聞き知る</H4> | 641 | |
| version53 | 708 | <A NAME="in61">[第一段 新年、浮舟と尼君、和歌を詠み交す]</A><BR> | 642 | |
| cd8:5 | 710-717 | 「降りしきる野山の雪を眺めていても<BR>⏎ 昔のことが今日も悲しく思い出される」<BR>⏎ などと、いつもの、慰めの手習いを、お勤めの合間になさる。「わたしがいなくなって、年も変わったが、思い出す人もきっといるだろう」などと、思い出す時も多かった。若菜を粗末な籠に入れて、人が持って来たのを、尼君が見て、<BR>⏎ 「山里の雪の間に生えた若菜を摘み祝っては<BR>⏎ やはりあなたの将来が期待されます」<BR>⏎ と言って、こちらに差し上げなさったので、<BR>⏎ 「雪の深い野辺の若菜も今日からは<BR>⏎ あなた様のために長寿を祈って摘みましょう」<BR>⏎ | 644-648 | 「降りしきる野山の雪を眺めていても<BR> 昔のことが今日も悲しく思い出される」<BR>⏎ などと,いつもの、慰めの手習いを、お勤めの合間になさる。「わたしがいなくなって,年も変わったが、思い出す人もきっといるだろう」などと、思い出す時も多かった。若菜を粗末な籠に入れて、人が持って来たのを、尼君が見て、<BR>⏎ 「山里の雪の間に生えた若菜を摘み祝っては<BR> やはりあなたの将来が期待されます」<BR>⏎ と言って,こちらに差し上げなさったので、<BR>⏎ 「雪の深い野辺の若菜も今日からは<BR> あなた様のために長寿を祈って摘みましょう」<BR>⏎ |
| cd3:1 | 720-722 | 「袖を触れ合った人の姿は見えないが、花の香が<BR>⏎ あの人の香と同じように匂って来る、春の夜明けよ」<BR>⏎ <P>⏎ | 651 | 「袖を触れ合った人の姿は見えないが、花の香が<BR> あの人の香と同じように匂って来る、春の夜明けよ」<BR>⏎ |
| version53 | 723 | <A NAME="in62">[第二段 大尼君の孫、紀伊守、山荘に来訪]</A><BR> | 652 | |
| d1 | 738 | <P>⏎ | ||
| version53 | 739 | <A NAME="in63">[第三段 浮舟、薫の噂など漏れ聞く]</A><BR> | 667 | |
| cd3:2 | 742-744 | あの人は跡形もとどめず、身を投げたその川の面に<BR>⏎ いっしょに落ちるわたしの涙がますます止めがたいことよ<BR>⏎ とございました。言葉に現しておっしゃることは少ないが、ただ、態度には、まことにおいたわしいご様子にお見えでした。女は、たいそう賞賛するにちがいないほどでした。若うございました時から、ご立派でいらっしゃるとすっかり拝見していましたので、世の中の第一の権力者のところも、何とも思いませんで、ただ、この殿だけを信頼申し上げて、過ごして参りました」<BR>⏎ | 670-671 | あの人は跡形もとどめず、身を投げたその川の面に<BR> いっしょに落ちるわたしの涙がますます止めがたいことよ<BR>⏎ とございました。言葉に現しておっしゃることは少ないが、ただ,態度には、まことにおいたわしいご様子にお見えでした。女は、たいそう賞賛するにちがいないほどでした。若うございました時から、ご立派でいらっしゃるとすっかり拝見していましたので、世の中の第一の権力者のところも、何とも思いませんで、ただ,この殿だけを信頼申し上げて、過ごして参りました」<BR>⏎ |
| cd3:2 | 748-750 | 「あの方は、器量もまことに凛々しく美しくて、貫祿があって、身分が格別なようでいらっしゃいます。兵部卿宮が、たいそう美しくいらっしゃいますね。女の身として親しくお仕えいたしたい、と思われます」<BR>⏎ などと、誰かが教えたように言い続ける。感慨深く興味深くも聞くにつけ、わが身の上もこの世のことと思われない。すっかり話しおいて出て行った。<BR>⏎ <P>⏎ | 675-676 | 「あの方は,器量もまことに凛々しく美しくて、貫祿があって、身分が格別なようでいらっしゃいます。兵部卿宮が、たいそう美しくいらっしゃいますね。女の身として親しくお仕えいたしたい、と思われます」<BR>⏎ などと,誰かが教えたように言い続ける。感慨深く興味深くも聞くにつけ、わが身の上もこの世のことと思われない。すっかり話しおいて出て行った。<BR>⏎ |
| version53 | 751 | <A NAME="in64">[第四段 浮舟、尼君と語り交す]</A><BR> | 677 | |
| c1 | 754 | と言って、小袿の単衣をお渡し申すのを、嫌な気がするので、「気分が悪い」と言って、手も触れず横になっていらっしゃった。尼君は、急ぐことを放って、「どのようなお加減か」などと心配なさる。紅に桜の織物の袿を重ねて、<BR>⏎ | 680 | と言って,小袿の単衣をお渡し申すのを、嫌な気がするので、「気分が悪い」と言って、手も触れず横になっていらっしゃった。尼君は、急ぐことを放って、「どのようなお加減か」などと心配なさる。紅に桜の織物の袿を重ねて、<BR>⏎ |
| cd3:2 | 757-759 | 「尼衣に変わった身の上で、昔の形見として<BR>⏎ この華やかな衣装を身につけて、今さら昔を偲ぼうか」<BR>⏎ と書いて、「お気の毒に、亡くなった後に、隠し通すこともできない世の中なので、聞き合わせたりなどして、疎ましいまでに隠していた、と思うだろうか」などと、いろいろと思いながら、<BR>⏎ | 683-684 | 「尼衣に変わった身の上で、昔の形見として<BR> この華やかな衣装を身につけて、今さら昔を偲ぼうか」<BR>⏎ と書いて、「お気の毒に、亡くなった後に、隠し通すこともできない世の中なので、聞き合わせたりなどして、疎ましいまでに隠していた,と思うだろうか」などと、いろいろと思いながら、<BR>⏎ |
| c1 | 762 | 「そうはおっしゃっても、お思い出しになることは多くありましょうが、いつまでもお隠しになっているのが情けないですわ。わたしは、このような世俗の人の着る色合いなどは、長いこと忘れてしまったので、平凡にしかできませんので、亡くなった娘が生きていたら、などと思い出されます。そのようにお世話申し上げなさった母君は、この世においでですか。そのまま、娘を亡くした母でさえ、やはりどこかに生きていようか、その居場所だけでも尋ね聞きたく思われますのに、その行く方も分からず、ご心配申し上げていらっしゃる方々がございましょう」<BR>⏎ | 687 | 「そうはおっしゃっても、お思い出しになることは多くありましょうが、いつまでもお隠しになっているのが情けないですわ。わたしは、このような世俗の人の着る色合いなどは、長いこと忘れてしまったので、平凡にしかできませんので、亡くなった娘が生きていたら、などと思い出されます。そのようにお世話申し上げなさった母君は、この世においでですか。そのまま,娘を亡くした母でさえ、やはりどこかに生きていようか、その居場所だけでも尋ね聞きたく思われますのに、その行く方も分からず、ご心配申し上げていらっしゃる方々がございましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 765 | と言って、涙が落ちるのを紛らわして、<BR>⏎ | 690 | と言って,涙が落ちるのを紛らわして、<BR>⏎ |
| cd2:1 | 767-768 | と、言葉少なにおっしゃった。<BR>⏎ <P>⏎ | 692 | と,言葉少なにおっしゃった。<BR>⏎ |
| version53 | 769 | <A NAME="in65">[第五段 薫、明石中宮のもとに参上]</A><BR> | 693 | |
| c1 | 775 | とお尋ねあそばすのを、「やはり、引き続いての死去をお考えになってか」と思って、<BR>⏎ | 699 | とお尋ねあそばすのを、「やはり,引き続いての死去をお考えになってか」と思って、<BR>⏎ |
| c1 | 777 | と言って、詳しくは申し上げなさらない。「やはり、このように隠している事柄を、すっかり聞き出してるのだわ」とお思いなさるようなのが、実に気の毒にお思いになり、宮が、物思いに沈んで、その当時病気におなりになったのを、思い合わせなさると、やはり何といっても心が痛んで、「どちらの立場からも口出しにくい方の話だ」とおやめになった。<BR>⏎ | 701 | と言って,詳しくは申し上げなさらない。「やはり,このように隠している事柄を、すっかり聞き出してるのだわ」とお思いなさるようなのが、実に気の毒にお思いになり、宮が、物思いに沈んで、その当時病気におなりになったのを、思い合わせなさると、やはり何といっても心が痛んで、「どちらの立場からも口出しにくい方の話だ」とおやめになった。<BR>⏎ |
| c1 | 781 | 「御前様でさえ遠慮あそばしているようなことを。まして、他人のわたしにはお話しできません」<BR>⏎ | 705 | 「御前様でさえ遠慮あそばしているようなことを.まして、他人のわたしにはお話しできません」<BR>⏎ |
| c1 | 783 | 「時と場合によります。また、わたしには不都合な事情があるのですよ」<BR>⏎ | 707 | 「時と場合によります。また,わたしには不都合な事情があるのですよ」<BR>⏎ |
| d1 | 785 | <P>⏎ | ||
| version53 | 786 | <A NAME="in66">[第六段 小宰相、薫に僧都の話を語る]</A><BR> | 709 | |
| c1 | 787 | 立ち寄ってお話などなさるついでに、言い出した。珍しくも不思議なことだと、どうして驚かないことがあろう。「宮がお尋ねあそばしたことも、このようなことを、ちらっとお聞きあそばしてのことだったのだ。どうして、すっかり話してくださらなかったのだろう」とつらい思いがするが、<BR>⏎ | 710 | 立ち寄ってお話などなさるついでに、言い出した。珍しくも不思議なことだと、どうして驚かないことがあろう。「宮がお尋ねあそばしたことも、このようなことを、ちらっとお聞きあそばしてのことだったのだ。どうして,すっかり話してくださらなかったのだろう」とつらい思いがするが、<BR>⏎ |
| c1 | 790 | 「やはり、不思議に思った女の身の上と、似ていた人の様子ですね。ところで、その人は、今も無事でいますか」<BR>⏎ | 713 | 「やはり,不思議に思った女の身の上と、似ていた人の様子ですね。ところで,その人は、今も無事でいますか」<BR>⏎ |
| c2 | 794-795 | 「本当にその女だと探し出したら、とても嫌な気がするだろうな。どうしたら、確実なことが聞けようか。自分自身で直接訪ねて行くのも、愚かしいなどと人が言ったりしようか。また、あの宮が聞きつけなさったら、きっと思い出しなさって、決心なさっていた仏道もお妨げなさることであろう。<BR>⏎ そのようなわけで、『そのようなことをおっしゃるな』などと、申し上げおきなさったせいであろうか、わたしには、そのようなことを聞いたと、そのような珍しいことをお聞きあそばしながら、仰せにならなかったのであろうか。宮も関係なさっていては、せつなくいとしいと思いながらも、きっぱりと、そのまま亡くなってしまったものと思い諦めよう。<BR>⏎ | 717-718 | 「本当にその女だと探し出したら、とても嫌な気がするだろうな。どうしたら、確実なことが聞けようか。自分自身で直接訪ねて行くのも、愚かしいなどと人が言ったりしようか。また,あの宮が聞きつけなさったら、きっと思い出しなさって、決心なさっていた仏道もお妨げなさることであろう。<BR>⏎ そのようなわけで,『そのようなことをおっしゃるな』などと、申し上げおきなさったせいであろうか、わたしには、そのようなことを聞いたと、そのような珍しいことをお聞きあそばしながら、仰せにならなかったのであろうか。宮も関係なさっていては、せつなくいとしいと思いながらも、きっぱりと,そのまま亡くなってしまったものと思い諦めよう。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 797-798 | などと思い乱れて、「やはり、仰せにならないだろう」という気はするが、ご様子が気にかかるので、大宮に、適当な機会を作り出して、申し上げなさる。<BR>⏎ <P>⏎ | 720 | などと思い乱れて、「やはり,仰せにならないだろう」という気はするが、ご様子が気にかかるので、大宮に、適当な機会を作り出して、申し上げなさる。<BR>⏎ |
| version53 | 799 | <A NAME="in67">[第七段 薫、明石中宮に対面し、横川に赴く]</A><BR> | 721 | |
| c3 | 800-802 | 「思いがけないことで、亡くなってしまったと存じておりました女が、この世に落ちぶれて生きているように、人が話してくれました。どうして、そのようなことがございましょうか、と存じますが、自分から大胆なことをして、離れて行くようなことはしないであろうか、とずっと思い続けていた女の様子でございますので、人の話してくれたような事情では、そのようなこともございましょうかと、似ているように存じられました」<BR>⏎ と言って、もう少し申し上げなさる。宮のお身の上の事を、とても憚りあるように、そうはいっても恨んでいるようにはおっしゃらないで、<BR>⏎ 「あのことを、またこれこれとお耳になさいましたら、頑固で好色なようにお思いなさるでしょう。まったく、そうして生きていたとしても、知らない顔をして過ごしましょう」<BR>⏎ | 722-724 | 「思いがけないことで、亡くなってしまったと存じておりました女が、この世に落ちぶれて生きているように、人が話してくれました。どうして,そのようなことがございましょうか、と存じますが、自分から大胆なことをして、離れて行くようなことはしないであろうか、とずっと思い続けていた女の様子でございますので、人の話してくれたような事情では、そのようなこともございましょうかと、似ているように存じられました」<BR>⏎ と言って,もう少し申し上げなさる。宮のお身の上の事を、とても憚りあるように、そうはいっても恨んでいるようにはおっしゃらないで、<BR>⏎ 「あのことを、またこれこれとお耳になさいましたら、頑固で好色なようにお思いなさるでしょう。まったく,そうして生きていたとしても、知らない顔をして過ごしましょう」<BR>⏎ |
| c1 | 806 | 「その住んでいるという山里はどの辺であろうか。どのようにして、体裁悪くなく探し出せようか。僧都に会って、確かな様子を聞き合わせたりして、ともかく訪ねるのがよかろう」などと、ただ、このことばかりを寝ても覚めてもお考えになる。<BR>⏎ | 728 | 「その住んでいるという山里はどの辺であろうか。どのようにして、体裁悪くなく探し出せようか。僧都に会って、確かな様子を聞き合わせたりして、ともかく訪ねるのがよかろう」などと、ただ,このことばかりを寝ても覚めてもお考えになる。<BR>⏎ |
| d2 | 808-809 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 816 | ⏎ | ||
| i0 | 740 | |||
| diff | src/original/version54.html | src/modified/version54.html | ||
| c1 | 8 | <body background="wallppr064.gif">⏎ | 8 | <BODY>⏎ |
| version54 | 10 | 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS> | 10 | |
| d1 | 11 | <P>⏎ | ||
| d1 | 13 | <P>⏎ | ||
| d1 | 15 | <P>⏎ | ||
| c1 | 27 | <LI>小君、小野山荘の浮舟を訪問---<A HREF="#in22">不思議に思うが、「これこそは、それでは、確かな</A>⏎ | 24 | <LI>小君、小野山荘の浮舟を訪問---<A HREF="#in22">不思議に思うが、「これこそは、それでは,確かな</A>⏎ |
| d1 | 33 | <P>⏎ | ||
| version54 | 34 | <H4>第一章 薫の物語 横川僧都、薫の依頼を受け浮舟への手紙を書く</H4> | 30 | |
| version54 | 35 | <A NAME="in11">[第一段 薫、横川に出向く]</A><BR> | 31 | |
| c1 | 40 | と、お尋ねになると、<BR>⏎ | 36 | と,お尋ねになると、<BR>⏎ |
| c1 | 45 | 「まことにとりとめのない気のする話ですが、また一方、お尋ね申し上げるにつけては、どのようなことでかと、合点が行かず思われなさるでしょうが、どちらにしても、遠慮されますが、あの山里に、世話しなければならない人が隠れていますように聞きましたが。はっきりと確かめてからなら、どのような様子で、などとお漏らし申し上げましょう、などと考えておりますうちに、お弟子になって、戒律などをお授けになった、と聞きましたのは、本当ですか。まだ年齢も若く、親などもいた人なので、わたしが死なせてしまったように、恨み言を申す人がおりますので」<BR>⏎ | 41 | 「まことにとりとめのない気のする話ですが、また一方,お尋ね申し上げるにつけては、どのようなことでかと、合点が行かず思われなさるでしょうが、どちらにしても、遠慮されますが、あの山里に、世話しなければならない人が隠れていますように聞きましたが。はっきりと確かめてからなら、どのような様子で、などとお漏らし申し上げましょう、などと考えておりますうちに、お弟子になって、戒律などをお授けになった、と聞きましたのは、本当ですか。まだ年齢も若く、親などもいた人なので、わたしが死なせてしまったように、恨み言を申す人がおりますので」<BR>⏎ |
| d1 | 47 | <P>⏎ | ||
| version54 | 48 | <A NAME="in12">[第二段 僧都、薫に宇治での出来事を語る]</A><BR> | 43 | |
| cd2:1 | 52-53 | 「あちらにおります尼たちが、初瀬に祈願がございまして、参詣して帰って来た道中で、宇治院という所に泊まりましたところ、母親の尼の疲労が急に起こって、ひどく患っているという報せを、人が報告して来たので、⏎ 下山して出向きましたところに、さっそく不思議なことが」<BR>⏎ | 47 | 「あちらにおります尼たちが、初瀬に祈願がございまして、参詣して帰って来た道中で、宇治院という所に泊まりましたところ、母親の尼の疲労が急に起こって、ひどく患っているという報せを、人が報告して来たので、下山して出向きましたところに、さっそく不思議なことが」<BR>⏎ |
| c1 | 59 | まったく、お世話なさるはずの方とは、どうして何もなしに分かりましょう。珍しい事の様子ですので、世間話の種にもなりそうですが、噂になって、厄介なことになってはいけないと、この老女どもがあれこれ申して、この何か月間は、黙っておりました」<BR>⏎ | 53 | まったく,お世話なさるはずの方とは、どうして何もなしに分かりましょう。珍しい事の様子ですので、世間話の種にもなりそうですが、噂になって、厄介なことになってはいけないと、この老女どもがあれこれ申して、この何か月間は、黙っておりました」<BR>⏎ |
| d1 | 61 | <P>⏎ | ||
| version54 | 62 | <A NAME="in13">[第三段 薫、僧都に浮舟との面会を依頼]</A><BR> | 55 | |
| c1 | 63 | 「そうであったのか」と、ちらっと聞いて、ここまで尋ね出しなさったことではあるが、「てっきり死んだ人として思い諦めていた人だが、それでは、本当は生きていたのだ」とお思いになる、その気持ちは、夢のような気がしてあきれるほどのことなので、抑えることもできずに涙ぐまれなさったのを、僧都が立派な態度なので、「こんな気弱い態度を見せてよいものか」と反省して、さりげなく振る舞いなさるが、「このようにお愛しになっていたのを、この世では死んだ人と同然にしてしまったことよ」と、過ったことをした気がして、罪障深いので、<BR>⏎ | 56 | 「そうであったのか」と、ちらっと聞いて、ここまで尋ね出しなさったことではあるが、「てっきり死んだ人として思い諦めていた人だが、それでは,本当は生きていたのだ」とお思いになる,その気持ちは、夢のような気がしてあきれるほどのことなので、抑えることもできずに涙ぐまれなさったのを、僧都が立派な態度なので、「こんな気弱い態度を見せてよいものか」と反省して、さりげなく振る舞いなさるが、「このようにお愛しになっていたのを、この世では死んだ人と同然にしてしまったことよ」と、過ったことをした気がして、罪障深いので、<BR>⏎ |
| c2 | 65-66 | と、お尋ね申し上げなさると、<BR>⏎ 「皇族の末裔と申す血筋であったでしょうか。わたしも、初めから特別に正妻にと考えた人ではございません。ちょっとしたことでお世話し始めるようになりましたが、また一方で、このようにまで落ちぶれる身分の方とは存じませんでした。珍しく、跡形もなく消えてしまったので、身を投げたのかなどと、いろいろとはっきりしないことが多くて、確実なことは、聞くことができませんでした。<BR>⏎ | 58-59 | と,お尋ね申し上げなさると、<BR>⏎ 「皇族の末裔と申す血筋であったでしょうか。わたしも、初めから特別に正妻にと考えた人ではございません。ちょっとしたことでお世話し始めるようになりましたが、また一方で,このようにまで落ちぶれる身分の方とは存じませんでした。珍しく、跡形もなく消えてしまったので、身を投げたのかなどと、いろいろとはっきりしないことが多くて、確実なことは、聞くことができませんでした。<BR>⏎ |
| c1 | 68 | などとおっしゃって、そうして、<BR>⏎ | 61 | などとおっしゃって、そうして,<BR>⏎ |
| c2 | 71-72 | 「尼姿になり、出家をしたと思っていても、髪や鬢を剃った法師でさえ、けしからぬ欲望に消えない者もいるという。まして、女人の身ではどのようなものであろうか。お気の毒にも、罪障を作ることになりはしないだろうか」<BR>⏎ と、つまらないことを引き受けたものだと心が乱れた。<BR>⏎ | 64-65 | 「尼姿になり、出家をしたと思っていても、髪や鬢を剃った法師でさえ、けしからぬ欲望に消えない者もいるという。まして,女人の身ではどのようなものであろうか。お気の毒にも、罪障を作ることになりはしないだろうか」<BR>⏎ と,つまらないことを引き受けたものだと心が乱れた。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 74-75 | と申し上げなさる。まことに頼りないが、「ぜひ、ぜひ」と、急に焦れったく思うのも、みっともないので、「それでは」と言って、お帰りになる。<BR>⏎ <P>⏎ | 67 | と申し上げなさる。まことに頼りないが、「ぜひ,ぜひ」と、急に焦れったく思うのも、みっともないので、「それでは」と言って、お帰りになる。<BR>⏎ |
| version54 | 76 | <A NAME="in14">[第四段 僧都、浮舟への手紙を書く]</A><BR> | 68 | |
| c1 | 78 | 「この子が、あの女人の近親なのですが、この子をとりあえず遣わしましょう。お手紙をちょっとお書きください。誰それとはなくて、ただ、お探し申し上げる人がいる、という程度の気持ちをお知らせください」<BR>⏎ | 70 | 「この子が、あの女人の近親なのですが、この子をとりあえず遣わしましょう。お手紙をちょっとお書きください。誰それとはなくて、ただ,お探し申し上げる人がいる、という程度の気持ちをお知らせください」<BR>⏎ |
| c4 | 83-86 | 幼い時から、出家を願う気持ちは強くございましたが、母三条宮が、心細い様子で、頼りがいもないわが身一人を頼りにお思いになっているのが、逃れられない足手まといに思われまして、世俗にかかずらっておりますうちに、自然と官位なども高くなり、身の処置も思うようにならなくなったりして、出家を願いながら過ごして来て、また断れない事も、次々と多く加わって来て、過ごしておりますが、公私ともに、止むを得ない事情によって、こうしていますが、それ以外のところでは、仏がお制止になる方面のことを、少しでもお聞き及びになるようなことは、何とか守り抜こう、身を慎んで、心中では聖に負けません。<BR>⏎ ましてや、ちょっとしたことで、重い罪障を負うようなことは、どうして考えましょうか。まったく有りえないことでございます。お疑いなさいますな。ただ、お気の毒な母親の思いなどを、聞いて晴らしてやろうというほどで、きっと嬉しく気が休まりましょう」<BR>⏎ などと、昔から深かった道心をお話しなさる。<BR>⏎ 僧都も、なるほどと、うなずいて、<BR>⏎ | 75-78 | 幼い時から、出家を願う気持ちは強くございましたが、母三条宮が、心細い様子で、頼りがいもないわが身一人を頼りにお思いになっているのが、逃れられない足手まといに思われまして、世俗にかかずらっておりますうちに、自然と官位なども高くなり、身の処置も思うようにならなくなったりして、出家を願いながら過ごして来て、また断れない事も、次々と多く加わって来て,過ごしておりますが、公私ともに、止むを得ない事情によって、こうしていますが、それ以外のところでは、仏がお制止になる方面のことを、少しでもお聞き及びになるようなことは、何とか守り抜こう、身を慎んで、心中では聖に負けません。<BR>⏎ ましてや,ちょっとしたことで、重い罪障を負うようなことは、どうして考えましょうか。まったく有りえないことでございます。お疑いなさいますな。ただ,お気の毒な母親の思いなどを、聞いて晴らしてやろうというほどで、きっと嬉しく気が休まりましょう」<BR>⏎ などと,昔から深かった道心をお話しなさる。<BR>⏎ 僧都も、なるほどと,うなずいて、<BR>⏎ |
| c1 | 90 | と、思いあぐねてお帰りになるときに、この姉弟の童を、僧都が、目を止めておほめになる。<BR>⏎ | 82 | と,思いあぐねてお帰りになるときに、この姉弟の童を、僧都が、目を止めておほめになる。<BR>⏎ |
| cd2:1 | 94-95 | と、お話しなさる。この子は理解できないが、手紙を受け取ってお供して出る。坂本になると、ご前駆の人びとが少し離れ離れになって、「目立たないように」とおっしゃる。<BR>⏎ <P>⏎ | 86 | と,お話しなさる。この子は理解できないが、手紙を受け取ってお供して出る。坂本になると、ご前駆の人びとが少し離れ離れになって、「目立たないように」とおっしゃる。<BR>⏎ |
| version54 | 96 | <A NAME="in15">[第五段 浮舟、薫らの帰りを見る]</A><BR> | 87 | |
| d1 | 103 | <P>⏎ | ||
| version54 | 104 | <H4>第二章 浮舟の物語 浮舟、小君との面会を拒み、返事も書かない</H4> | 94 | |
| version54 | 105 | <A NAME="in21">[第一段 薫、浮舟のもとに小君を遣わす]</A><BR> | 95 | |
| c1 | 106 | あの殿は、「この子をそのまま遣わそう」とお思いになったが、人目が多くて不都合なので、殿にお帰りになって、翌日、特別に出発させなさる。親しくお思いになる人で、大した身分でない者を二、三人、付けて、昔もいつも使者としていた随身をお加えになった。人が聞いていない間にお呼び寄せになって、<BR>⏎ | 96 | あの殿は、「この子をそのまま遣わそう」とお思いになったが、人目が多くて不都合なので、殿にお帰りになって、翌日、特別に出発させなさる。親しくお思いになる人で、大した身分でない者を二,三人、付けて、昔もいつも使者としていた随身をお加えになった。人が聞いていない間にお呼び寄せになって、<BR>⏎ |
| c2 | 108-109 | と、今からもう厳重に口封じなさるのを、子供心にも、姉弟は多いが、この姉君の器量を、他に似る者がないと思い込んでいたので、お亡くなりになったと聞いて、とても悲しいと思い続けていたが、このようにおっしゃるので、嬉しさに涙が落ちるのを、恥ずかしいと思って、<BR>⏎ 「はい、はい」<BR>⏎ | 98-99 | と,今からもう厳重に口封じなさるのを、子供心にも、姉弟は多いが、この姉君の器量を、他に似る者がないと思い込んでいたので、お亡くなりになったと聞いて、とても悲しいと思い続けていたが、このようにおっしゃるので、嬉しさに涙が落ちるのを、恥ずかしいと思って、<BR>⏎ 「はい,はい」<BR>⏎ |
| c2 | 114-115 | 「やはり、おっしゃってください。情けなく他人行儀ですこと」<BR>⏎ と、ひどく恨んで、事情を知らないので、慌てるばかりの騷ぎのところに、<BR>⏎ | 104-105 | 「やはり,おっしゃってください。情けなく他人行儀ですこと」<BR>⏎ と,ひどく恨んで、事情を知らないので、慌てるばかりの騷ぎのところに、<BR>⏎ |
| d1 | 118 | <P>⏎ | ||
| version54 | 119 | <A NAME="in22">[第二段 小君、小野山荘の浮舟を訪問]</A><BR> | 108 | |
| c1 | 120 | 不思議に思うが、「これこそは、それでは、確かなお手紙であろう」と思って、<BR>⏎ | 109 | 不思議に思うが、「これこそは、それでは,確かなお手紙であろう」と思って、<BR>⏎ |
| d1 | 133 | <P>⏎ | ||
| version54 | 134 | <A NAME="in23">[第三段 浮舟、小君との面会を拒む]</A><BR> | 122 | |
| c2 | 136-137 | 「この君は、どなたでいらっしゃのだろう。やはり、とても情けない。今になってさえ、このようにひたすらお隠しになっている」<BR>⏎ と責められて、少し外の方を向いて御覧になると、この子は、これが最期と思った夕暮れにも、とても恋しいと思った人なのであった。一緒の所に住んでいたときは、とても意地悪で、妙に生意気で憎らしかったが、母親がとてもかわいがって、宇治にも時々連れておいでになったので、少し大きくなってからは、お互いに仲好くしていた。<BR>⏎ | 124-125 | 「この君は、どなたでいらっしゃのだろう。やはり,とても情けない。今になってさえ、このようにひたすらお隠しになっている」<BR>⏎ と責められて、少し外の方を向いて御覧になると、この子は,これが最期と思った夕暮れにも、とても恋しいと思った人なのであった。一緒の所に住んでいたときは、とても意地悪で、妙に生意気で憎らしかったが、母親がとてもかわいがって、宇治にも時々連れておいでになったので、少し大きくなってからは、お互いに仲好くしていた。<BR>⏎ |
| c2 | 141-142 | と言うのを、「どうして、今はもう生きている者と思っていないのに、尼姿に身を変えて、急に会うのも気がひける」と思うと、しばらくためらって、<BR>⏎ 「おっしゃるとおり、隠し事があると、お思いになるのがつらくて、何も申すことができません。情けなかった姿は、珍しいことだと御覧になったでしょうが、正気も失い、魂などと申すものも、以前とは違ったものになってしまったのでしょうか、何ともかとも、過ぎ去った昔のことを、自分ながら全然思い出すことができないところに、紀伊守とかいった人が、世間話をした中で、知っていた方のことかと、わずかに思い出される気がしました。<BR>⏎ | 129-130 | と言うのを、「どうして,今はもう生きている者と思っていないのに、尼姿に身を変えて、急に会うのも気がひける」と思うと、しばらくためらって、<BR>⏎ 「おっしゃるとおり,隠し事があると、お思いになるのがつらくて、何も申すことができません。情けなかった姿は、珍しいことだと御覧になったでしょうが、正気も失い、魂などと申すものも、以前とは違ったものになってしまったのでしょうか。何ともかとも、過ぎ去った昔のことを、自分ながら全然思い出すことができないところに、紀伊守とかいった人が、世間話をした中で、知っていた方のことかと、わずかに思い出される気がしました。<BR>⏎ |
| c1 | 146 | 「まことに難しいことですね。僧都のお考えは、聖と申すなかでも、あまりにに正直一途の方でいらっしゃいますから、まさに何も残さずに申し上げなさったことでしょう。後で分かってしまいましょう。いい加減な軽々しいご身分でもいらっしゃらないし」<BR>⏎ | 134 | 「まことに難しいことですね。僧都のお考えは、聖と申すなかでも、あまりにに正直一途の方でいらっしゃいますから、まさに何も残さずに 申し上げなさったことでしょう。後で分かってしまいましょう。いい加減な軽々しいご身分でもいらっしゃらないし」<BR>⏎ |
| cd2:1 | 149-150 | と、皆で話し合って、母屋の際に几帳を立てて入れた。<BR>⏎ <P>⏎ | 137 | と,皆で話し合って、母屋の際に几帳を立てて入れた。<BR>⏎ |
| version54 | 151 | <A NAME="in24">[第四段 小君、薫からの手紙を渡す]</A><BR> | 138 | |
| c2 | 154-155 | と、伏目になって言うと、<BR>⏎ 「それそれ。まあ、かわいらしい」<BR>⏎ | 141-142 | と,伏目になって言うと、<BR>⏎ 「それそれ。まあ,かわいらしい」<BR>⏎ |
| c1 | 157 | 「お手紙を御覧になるはずの人は、ここにいらっしゃるようです。はたの者は、どのようなことかと分からずにおりますが、さらにおっしゃってください。幼いご年齢ですが、このようなお使いをお任せになる理由もあるのでしょう」<BR>⏎ | 144 | 「お手紙を御覧になるはずの人は、ここにいらっしゃるようです。はたの者は、どのようなことかと 分からずにおりますが、さらにおっしゃってください。幼いご年齢ですが、このようなお使いをお任せになる理由もあるのでしょう」<BR>⏎ |
| c1 | 159 | 「よそよそしくなさって、はっきりしないお持てなしをなさるのでは、何を申し上げられましょう。他人のようにお思いになっていたら、申し上げることもございません。ただ、このお手紙を、人を介してではなく差し上げなさい、とございましたので、ぜひとも差し上げたい」<BR>⏎ | 146 | 「よそよそしくなさって、はっきりしないお持てなしをなさるのでは、何を申し上げられましょう。他人のようにお思いになっていたら、申し上げることもございません。ただ,このお手紙を、人を介してではなく差し上げなさい、とございましたので、ぜひとも差し上げたい」<BR>⏎ |
| c1 | 161 | 「まことにごもっともです。やはり、とてもこのように情けなくいらっしゃらないで。いくら何でも気味悪いほどのお方ですこと」<BR>⏎ | 148 | 「まことにごもっともです。やはり,とてもこのように情けなくいらっしゃらないで。いくら何でも気味悪いほどのお方ですこと」<BR>⏎ |
| c1 | 164 | と、このようにすげない態度を、つらいと思って急ぐ。<BR>⏎ | 151 | と,このようにすげない態度を、つらいと思って急ぐ。<BR>⏎ |
| cd7:5 | 166-172 | 「まったく申し上げようもなく、いろいろと罪障の深いお身の上を、僧都に免じてお許し申し上げて、今は何とかして、驚きあきれたような当時の夢のような思い出話なりとも、せめてと、せかれる気持ちが、自分ながらもどかしく思われることです。まして、傍目にはどんなに見られることでしょうか」<BR>⏎ と、お心を書き尽くしきれない。<BR>⏎ 「仏法の師と思って尋ねて来た道ですが、それを道標としていたのに<BR>⏎ 思いがけない山道に迷い込んでしまったことよ<BR>⏎ この子は、お忘れになったでしょうか。わたしは、行方不明になったあなたのお形見として見ているのです」<BR>⏎ などと、とても愛情がこもっている。<BR>⏎ <P>⏎ | 153-157 | 「まったく申し上げようもなく、いろいろと罪障の深いお身の上を、僧都に免じてお許し申し上げて、今は何とかして、驚きあきれたような当時の夢のような思い出話なりとも,せめてと、せかれる気持ちが、自分ながらもどかしく思われることです。まして,傍目にはどんなに見られることでしょうか」<BR>⏎ と,お心を書き尽くしきれない。<BR>⏎ 「仏法の師と思って尋ねて来た道ですが,それを道標としていたのに<BR> 思いがけない山道に迷い込んでしまったことよ<BR>⏎ この子は,お忘れになったでしょうか。わたしは、行方不明になったあなたのお形見として見ているのです」<BR>⏎ などと,とても愛情がこもっている。<BR>⏎ |
| version54 | 173 | <A NAME="in25">[第五段 浮舟、薫への返事を拒む]</A><BR> | 158 | |
| c1 | 179 | と言って、広げたまま、尼君にお渡しになったので、<BR>⏎ | 164 | と言って,広げたまま、尼君にお渡しになったので、<BR>⏎ |
| c1 | 183 | 「物の怪のせいでしょうか。いつもの様子にお見えになる時もなく、ずっと患っていらっしゃって、お姿も尼姿におなりになったが、お探し申し上げなさる方がいたら、とても厄介なことになりましょうことよと、拝見し嘆いておりましたのも、その通りに、このようにまことにおいたわしく、胸打つご事情がございましたのを、今は、まことに恐れ多く存じております。<BR>⏎ | 168 | 「物の怪のせいでしょうか。いつもの様子にお見えになる時もなく、ずっと患っていらっしゃって、お姿も尼姿におなりになったが、お探し申し上げなさる方がいたら、とても厄介なことになりましょうことよと、拝見し嘆いておりましたのも、その通りに,このようにまことにおいたわしく、胸打つご事情がございましたのを、今は、まことに恐れ多く存じております。<BR>⏎ |
| d1 | 186 | <P>⏎ | ||
| version54 | 187 | <A NAME="in26">[第六段 小君、空しく帰り来る]</A><BR> | 171 | |
| c1 | 193 | 「ただ、あのように、はっきりしないご様子を申し上げなさるのがよいのでしょう。雲が遥かに遠く隔たった場所でもないようでございますので、山の風が吹いても、またきっとお立ち寄りなさいまし」<BR>⏎ | 177 | 「ただ,あのように、はっきりしないご様子を申し上げなさるのがよいのでしょう。雲が遥かに遠く隔たった場所でもないようでございますので、山の風が吹いても、またきっとお立ち寄りなさいまし」<BR>⏎ |
| d2 | 196-197 | ⏎ <P>⏎ | ||
| d1 | 204 | ⏎ | ||
| i0 | 190 | |||