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| <TITLE>空蝉(大島本)</TITLE> |
| <TITLE>空蝉(大島本)</TITLE> |
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| <body background="wallppr063.gif">First updated 09/20/1996(ver.1-1)<BR> |
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| Last updated 11/23/2010(ver.2-3)<BR> |
| Last updated 11/23/2010(ver.2-3)<BR> |
| 渋谷栄一校訂(C)<BR> |
| 渋谷栄一校訂(C)<BR> |
| <P> |
| <P> |
| <H3>空 蝉</H3> |
| <H3>空 蝉</H3> |
| <BR> |
| <BR> |
| [主要登場人物]<BR> |
| [主要登場人物]<BR> |
| <DL> |
| <DL> |
| <DT> 光る源氏<ひかるげんじ> |
| <DT> 光る源氏<ひかるげんじ> |
| <DD>呼称---君、十七歳 近衛中将<BR> |
| <DD>呼称---君、十七歳 近衛中将<BR> |
| <DT> 空蝉<うつせみ> |
| <DT> 空蝉<うつせみ> |
| <DD>呼称---いもうとの君・女・姉君、故中納言兼衛門督の娘、伊予介の後妻<BR> |
| <DD>呼称---いもうとの君・女・姉君、故中納言兼衛門督の娘、伊予介の後妻<BR> |
| <DT> 軒端荻<のきばのおぎ> |
| <DT> 軒端荻<のきばのおぎ> |
| <DD>呼称---西の御方・紀伊守の妹・碁打ちつる君・西の君、伊予介の娘、紀伊守と兄妹<BR> |
| <DD>呼称---西の御方・紀伊守の妹・碁打ちつる君・西の君、伊予介の娘、紀伊守と兄妹<BR> |
| <DT> 小君<こぎみ> |
| <DT> 小君<こぎみ> |
| <DD>呼称---若君・小さき上人、故中納言兼衛門督の子、空蝉の弟<BR> |
| <DD>呼称---若君・小さき上人、故中納言兼衛門督の子、空蝉の弟<BR> |
| </DL> |
| </DL> |
| 光る源氏十七歳夏の物語<BR> |
| 光る源氏十七歳夏の物語<BR> |
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| <OL> |
| <OL> |
| <LI>空蝉の物語---<A HREF="#in11">寝られたまはぬままに、</A><BR> |
| <LI>空蝉の物語---<A HREF="#in11">寝られたまはぬままに、</A><BR> |
| <LI>源氏、再度、紀伊守邸へ---<A HREF="#in12">幼き心地に、いかならむをりと待ちわたるに、</A> |
| <LI>源氏、再度、紀伊守邸へ---<A HREF="#in12">幼き心地に、いかならむをりと待ちわたるに、</A> |
| <LI>空蝉と軒端荻、碁を打つ---<A HREF="#in13">灯近うともしたり。</A> |
| <LI>空蝉と軒端荻、碁を打つ---<A HREF="#in13">灯近うともしたり。</A> |
| <LI>空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る---<A HREF="#in14">女は、さこそ忘れたまふを</A> |
| <LI>空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る---<A HREF="#in14">女は、さこそ忘れたまふを</A> |
| <LI>源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る---<A HREF="#in15">小君、御車の後にて、二条院に</A> |
| <LI>源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る---<A HREF="#in15">小君、御車の後にて、二条院に</A> |
| </OL> |
| </OL> |
| <A HREF="#in21">【出典】</A><BR> |
| <A HREF="#in21">【出典】</A><BR> |
| <A HREF="#in22">【校訂】</A><BR> |
| <A HREF="#in22">【校訂】</A><BR> |
| <P> |
| <P> |
| <H4>光る源氏十七歳夏の物語</H4> |
| <H4>光る源氏十七歳夏の物語</H4> |
| <A NAME="in11">[第一段 空蝉の物語]</A><BR> |
| <A NAME="in11">[第一段 空蝉の物語]</A><BR> |
| <P> |
| <P> |
| 寝られたまはぬままには、「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ、初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。あながちにかかづらひたどり寄らむも、人悪ろかるべく、まめやかにめざましと思し明かしつつ、例のやうにものたまひまつはさず。夜深う出でたまへば、この子は、いといとほしく、さうざうしと思ふ。<BR> |
| 寝られたまはぬままには、「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ、初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。あながちにかかづらひたどり寄らむも、人悪ろかるべく、まめやかにめざましと思し明かしつつ、例のやうにものたまひまつはさず。夜深う出でたまへば、この子は、いといとほしく、さうざうしと思ふ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 女も、並々ならずかたはらいたしと思ふに、<A HREF="#k01">御消息も</A><A NAME="t01">絶</A>えてなし。思し懲りにけると思ふにも、「やがてつれなくて止みたまひなましかば憂からまし。しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし。よきほどに、かくて閉ぢめてむ」と思ふものから、ただならず、ながめがちなり。<BR> |
| 女も、並々ならずかたはらいたしと思ふに、<A HREF="#k01">御消息も</A><A NAME="t01">絶</A>えてなし。思し懲りにけると思ふにも、「やがてつれなくて止みたまひなましかば憂からまし。しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし。よきほどに、かくて閉ぢめてむ」と思ふものから、ただならず、ながめがちなり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 君は、心づきなしと思しながら、かくてはえ止むまじう御心にかかり、人悪ろく思ほしわびて、小君に、「いとつらうも、うれたうもおぼゆるに、しひて思ひ返せど、心にしも従はず苦しきを。さりぬべきをり見て、<A HREF="#k02">対面</A><A NAME="t02">す</A>べくたばかれ」とのたまひわたれば、わづらはしけれど、かかる方にても、のたまひまつはすは、うれしうおぼえけり。<BR> |
| 君は、心づきなしと思しながら、かくてはえ止むまじう御心にかかり、人悪ろく思ほしわびて、小君に、「いとつらうも、うれたうもおぼゆるに、しひて思ひ返せど、心にしも従はず苦しきを。さりぬべきをり見て、<A HREF="#k02">対面</A><A NAME="t02">す</A>べくたばかれ」とのたまひわたれば、わづらはしけれど、かかる方にても、のたまひまつはすは、うれしうおぼえけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| <A NAME="in12">[第二段 源氏、再度、紀伊守邸へ]</A><BR> |
| <A NAME="in12">[第二段 源氏、再度、紀伊守邸へ]</A><BR> |
| 幼き心地に、いかならむ折と待ちわたるに、紀伊守国に下りなどして、女どちのどやかなる<A HREF="#no1">夕闇の道たどたどしげなる</A><A NAME="te1">紛</A>れに、わが車にて率てたてまつる。<BR> |
| 幼き心地に、いかならむ折と待ちわたるに、紀伊守国に下りなどして、女どちのどやかなる<A HREF="#no1">夕闇の道たどたどしげなる</A><A NAME="te1">紛</A>れに、わが車にて率てたてまつる。<BR> |
| <P> |
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| この子も幼きを、いかならむと思せど、さのみもえ思しのどむまじければ、さりげなき姿にて、門など鎖さぬ先にと、急ぎおはす。<BR> |
| この子も幼きを、いかならむと思せど、さのみもえ思しのどむまじければ、さりげなき姿にて、門など鎖さぬ先にと、急ぎおはす。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 人見ぬ方より引き入れて、降ろしたてまつる。童なれば、宿直人などもことに見入れ追従せず、心やすし。<BR> |
| 人見ぬ方より引き入れて、降ろしたてまつる。童なれば、宿直人などもことに見入れ追従せず、心やすし。<BR> |
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| <P> |
| 東の妻戸に、立てたてまつりて、我は南の隅の間より、格子叩きののしりて入りぬ。御達、<BR> |
| 東の妻戸に、立てたてまつりて、我は南の隅の間より、格子叩きののしりて入りぬ。御達、<BR> |
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| <P> |
| 「あらはなり」と言ふなり。<BR> |
| 「あらはなり」と言ふなり。<BR> |
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| <P> |
| 「なぞ、かう暑きに、この格子は下ろされたる」と問へば、<BR> |
| 「なぞ、かう暑きに、この格子は下ろされたる」と問へば、<BR> |
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| 「昼より、西の御方の渡らせたまひて、碁打たせたまふ」と言ふ。<BR> |
| 「昼より、西の御方の渡らせたまひて、碁打たせたまふ」と言ふ。<BR> |
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| <P> |
| さて向かひゐたらむを見ばや、と思ひて、やをら歩み出でて、簾のはさまに入りたまひぬ。<BR> |
| さて向かひゐたらむを見ばや、と思ひて、やをら歩み出でて、簾のはさまに入りたまひぬ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| この入りつる格子はまだ鎖さねば、隙見ゆるに、寄りて西ざまに見通したまへば、この際に立てたる屏風、端の方おし畳まれたるに、紛るべき几帳なども、暑ければにや、うち掛けて、いとよく見入れらる。<BR> |
| この入りつる格子はまだ鎖さねば、隙見ゆるに、寄りて西ざまに見通したまへば、この際に立てたる屏風、端の方おし畳まれたるに、紛るべき几帳なども、暑ければにや、うち掛けて、いとよく見入れらる。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| <A NAME="in13">[第三段 空蝉と軒端荻、碁を打つ]</A><BR> |
| <A NAME="in13">[第三段 空蝉と軒端荻、碁を打つ]</A><BR> |
| <P> |
| <P> |
| 火近う灯したり。母屋の中柱に側める人やわが心かくると、まづ目とどめたまへば、濃き綾の単衣襲なめり。何にかあらむ表に着て、頭つき細やかに小さき人の、ものげなき姿ぞしたる。顔などは、差し向かひたらむ人などにも、わざと見ゆまじうもてなしたり。手つき痩せ痩せにて、いたうひき隠しためり。<BR> |
| 火近う灯したり。母屋の中柱に側める人やわが心かくると、まづ目とどめたまへば、濃き綾の単衣襲なめり。何にかあらむ表に着て、頭つき細やかに小さき人の、ものげなき姿ぞしたる。顔などは、差し向かひたらむ人などにも、わざと見ゆまじうもてなしたり。手つき痩せ痩せにて、いたうひき隠しためり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| いま一人は、東向きにて、残るところなく見ゆ。白き羅の単衣襲、二藍の小袿だつもの、ないがしろに着なして、紅の腰ひき結へる際まで胸あらはに、ばうぞくなるもてなしなり。いと白うをかしげに、つぶつぶと肥えて、そぞろかなる人の、頭つき額つきものあざやかに、まみ口つき、いと愛敬づき、はなやかなる容貌なり。髪はいとふさやかにて、長くはあらねど、下り端、肩のほどきよげに、すべていとねぢけたるところなく、をかしげなる人と見えたり。<BR> |
| いま一人は、東向きにて、残るところなく見ゆ。白き羅の単衣襲、二藍の小袿だつもの、ないがしろに着なして、紅の腰ひき結へる際まで胸あらはに、ばうぞくなるもてなしなり。いと白うをかしげに、つぶつぶと肥えて、そぞろかなる人の、頭つき額つきものあざやかに、まみ口つき、いと愛敬づき、はなやかなる容貌なり。髪はいとふさやかにて、長くはあらねど、下り端、肩のほどきよげに、すべていとねぢけたるところなく、をかしげなる人と見えたり。<BR> |
| <P> むべこそ親の世になくは思ふらめと、をかしく見たまふ。心地ぞ、なほ静かなる気を添へばやと、ふと見ゆる。かどなきにはあるまじ。碁打ち果てて、結さすわたり、心とげに見えて、きはぎはとさうどけば、奥の人はいと静かにのどめて、<BR> |
| <P> むべこそ親の世になくは思ふらめと、をかしく見たまふ。心地ぞ、なほ静かなる気を添へばやと、ふと見ゆる。かどなきにはあるまじ。碁打ち果てて、結さすわたり、心とげに見えて、きはぎはとさうどけば、奥の人はいと静かにのどめて、<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「待ちたまへや。そこは持にこそあらめ。このわたりの劫をこそ」など言へど、<BR> |
| 「待ちたまへや。そこは持にこそあらめ。このわたりの劫をこそ」など言へど、<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「いで、このたびは負けにけり。隅のところ、いでいで」と指をかがめて、「十、<A HREF="#k03">二十</A><A NAME="t03">、</A>三十、四十」など<A HREF="#k04">かぞふる</A><A NAME="t04">さ</A>ま、<A HREF="#no2">伊予の湯桁もたどたどしかるまじう</A><A NAME="te2">見</A>ゆ。すこし品おくれたり。<BR> |
| 「いで、このたびは負けにけり。隅のところ、いでいで」と指をかがめて、「十、<A HREF="#k03">二十</A><A NAME="t03">、</A>三十、四十」など<A HREF="#k04">かぞふる</A><A NAME="t04">さ</A>ま、<A HREF="#no2">伊予の湯桁もたどたどしかるまじう</A><A NAME="te2">見</A>ゆ。すこし品おくれたり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| たとしへなく口おほひて、さやかにも見せねど、目をしつけたまへれば、おのづから<A HREF="#k05">側目も</A><A NAME="t05">見</A>ゆ。目すこし腫れたる心地して、鼻などもあざやかなるところなうねびれて、にほはしきところも見えず。言ひ立つれば、悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて、このまされる人よりは心あらむと、目とどめつべきさましたり。<BR> |
| たとしへなく口おほひて、さやかにも見せねど、目をしつけたまへれば、おのづから<A HREF="#k05">側目も</A><A NAME="t05">見</A>ゆ。目すこし腫れたる心地して、鼻などもあざやかなるところなうねびれて、にほはしきところも見えず。言ひ立つれば、悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて、このまされる人よりは心あらむと、目とどめつべきさましたり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| にぎははしう愛敬づきをかしげなるを、いよいよほこりかにうちとけて、笑ひなどそぼるれば、にほひ多く見えて、さる方にいとをかしき人ざまなり。あはつけしとは思しながら、まめならぬ御心は、これもえ思し放つまじかりけり。<BR> |
| にぎははしう愛敬づきをかしげなるを、いよいよほこりかにうちとけて、笑ひなどそぼるれば、にほひ多く見えて、さる方にいとをかしき人ざまなり。あはつけしとは思しながら、まめならぬ御心は、これもえ思し放つまじかりけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 見たまふかぎりの人は、うちとけたる世なく、ひきつくろひ側めたるうはべをのみこそ見たまへ、かくうちとけたる人のありさまかいま見などは、まだしたまはざりつることなれば、何心もなうさやかなるはいとほしながら、久しう<A HREF="#k06">見たまは</A><A NAME="t06">ま</A>ほしきに、小君出で来る心地すれば、やをら出でたまひぬ。<BR> |
| 見たまふかぎりの人は、うちとけたる世なく、ひきつくろひ側めたるうはべをのみこそ見たまへ、かくうちとけたる人のありさまかいま見などは、まだしたまはざりつることなれば、何心もなうさやかなるはいとほしながら、久しう<A HREF="#k06">見たまは</A><A NAME="t06">ま</A>ほしきに、小君出で来る心地すれば、やをら出でたまひぬ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 渡殿の戸口に寄りゐたまへり。いとかたじけなしと思ひて、<BR> |
| 渡殿の戸口に寄りゐたまへり。いとかたじけなしと思ひて、<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「例ならぬ人はべりて、え近うも寄りはべらず」<BR> |
| 「例ならぬ人はべりて、え近うも寄りはべらず」<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「さて、今宵もや帰してむとする。いとあさましう、からうこそあべけれ」とのたまへば、<BR> |
| 「さて、今宵もや帰してむとする。いとあさましう、からうこそあべけれ」とのたまへば、<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「などてか。あなたに帰りはべりなば、たばかりはべりなむ」と聞こゆ。<BR> |
| 「などてか。あなたに帰りはべりなば、たばかりはべりなむ」と聞こゆ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「さもなびかしつべき気色にこそはあらめ。童なれど、ものの心ばへ、人の気色見つべくしづまれるを」と、思すなりけり。<BR> |
| 「さもなびかしつべき気色にこそはあらめ。童なれど、ものの心ばへ、人の気色見つべくしづまれるを」と、思すなりけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 碁打ち果てつるにやあらむ、うちそよめく心地して、人びとあかるるけはひなどすなり。<BR> |
| 碁打ち果てつるにやあらむ、うちそよめく心地して、人びとあかるるけはひなどすなり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「若君はいづくにおはしますならむ。この御格子は鎖してむ」とて、鳴らすなり。<BR> |
| 「若君はいづくにおはしますならむ。この御格子は鎖してむ」とて、鳴らすなり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「静まりぬなり。入りて、さらば、たばかれ」とのたまふ。<BR> |
| 「静まりぬなり。入りて、さらば、たばかれ」とのたまふ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| この子も、いもうとの御心はたわむところなくまめだちたれば、言ひあはせむ方なくて、人少なならむ折に入れたてまつらむと思ふなりけり。<BR> |
| この子も、いもうとの御心はたわむところなくまめだちたれば、言ひあはせむ方なくて、人少なならむ折に入れたてまつらむと思ふなりけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「紀伊守の妹もこなたにあるか。我にかいま見せさせよ」とのたまへど、<BR> |
| 「紀伊守の妹もこなたにあるか。我にかいま見せさせよ」とのたまへど、<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「いかでか、さははべらむ。格子には几帳添へてはべり」と聞こゆ。<BR> |
| 「いかでか、さははべらむ。格子には几帳添へてはべり」と聞こゆ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| さかし、されどもをかしく思せど、「見つとは知らせじ、いとほし」と思して、夜更くることの心もとなさをのたまふ。<BR> |
| さかし、されどもをかしく思せど、「見つとは知らせじ、いとほし」と思して、夜更くることの心もとなさをのたまふ。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| こたみは妻戸を叩きて入る。皆人びと静まり寝にけり。<BR> |
| こたみは妻戸を叩きて入る。皆人びと静まり寝にけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「この障子口に、まろは寝たらむ。風吹きとほせ」とて、畳広げて臥す。御達、東の廂にいとあまた寝たるべし。戸放ちつる<A HREF="#k07">童</A><A NAME="t07">も</A>そなたに入りて臥しぬれば、とばかり空寝して、灯明かき方に屏風を広げて、影ほのかなるに、やをら入れたてまつる。<BR> |
| 「この障子口に、まろは寝たらむ。風吹きとほせ」とて、畳広げて臥す。御達、東の廂にいとあまた寝たるべし。戸放ちつる<A HREF="#k07">童</A><A NAME="t07">も</A>そなたに入りて臥しぬれば、とばかり空寝して、灯明かき方に屏風を広げて、影ほのかなるに、やをら入れたてまつる。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 「いかにぞ、をこがましきこともこそ」と思すに、いとつつましけれど、導くままに、母屋の几帳の帷子引き上げて、いとやをら入りたまふとすれど、皆静まれる夜の、御衣のけはひやはらかなるしも、いとしるかりけり。<BR> |
| 「いかにぞ、をこがましきこともこそ」と思すに、いとつつましけれど、導くままに、母屋の几帳の帷子引き上げて、いとやをら入りたまふとすれど、皆静まれる夜の、御衣のけはひやはらかなるしも、いとしるかりけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| <A NAME="in14">[第四段 空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る]</A><BR> |
| <A NAME="in14">[第四段 空蝉逃れ、源氏、軒端荻と契る]</A><BR> |
| <P> |
| <P> |
| 女は、さこそ忘れたまふをうれしきに思ひなせど、あやしく夢のやうなることを、心に離るる折なきころにて、心とけたる寝だに寝られずなむ、昼はながめ、夜は寝覚めがちなれば、春ならぬ木の芽も、いとなく嘆かしきに、碁打ちつる君、「今宵は、こなたに」と、今めかしくうち語らひて、寝にけり。<BR> |
| 女は、さこそ忘れたまふをうれしきに思ひなせど、あやしく夢のやうなることを、心に離るる折なきころにて、心とけたる寝だに寝られずなむ、昼はながめ、夜は寝覚めがちなれば、春ならぬ木の芽も、いとなく嘆かしきに、碁打ちつる君、「今宵は、こなたに」と、今めかしくうち語らひて、寝にけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 若き人は、何心なくいとようまどろみたるべし。かかるけはひの、いと香ばしくうち匂ふに、顔をもたげたるに、単衣うち掛けたる几帳の隙間に、暗けれど、うち身じろき寄るけはひ、いとしるし。あさましくおぼえて、ともかくも思ひ分かれず、やをら起き出でて、生絹なる単衣を一つ着て、すべり出でにけり。<BR> |
| 若き人は、何心なくいとようまどろみたるべし。かかるけはひの、いと香ばしくうち匂ふに、顔をもたげたるに、単衣うち掛けたる几帳の隙間に、暗けれど、うち身じろき寄るけはひ、いとしるし。あさましくおぼえて、ともかくも思ひ分かれず、やをら起き出でて、生絹なる単衣を一つ着て、すべり出でにけり。<BR> |
| <P> |
| <P> |
| 君は入りたまひて、ただひとり臥したるを心やすく思す。床の下に二人ばかりぞ臥したる。衣を押しやりて寄りたまへるに、ありしけはひよりは、ものものしくおぼゆれど、思ほしうも寄らずかし。いぎたなきさまなどぞ、あやしく変はりて、やうやう見あらはしたまひて、あさましく心やましけれど、「人違へとたどりて見えむも、をこがましく、あやしと思ふべし、本意の人を尋ね寄らむも、かばかり逃るる心あめれば、かひなう、をこにこそ思はめ」と思す。かのをかしかりつる灯影ならば、いかがはせむに思しなるも、悪ろき御心浅さなめりかし。<BR> |
| 君は入りたまひて、ただひとり臥したるを心やすく思す。床の下に二人ばかりぞ臥したる。衣を押しやりて寄りたまへるに、ありしけはひよりは、ものものしくおぼゆれど、思ほしうも寄らずかし。いぎたなきさまなどぞ、あやしく変はりて、やうやう見あらはしたまひて、あさましく心やましけれど、「人違へとたどりて見えむも、をこがましく、あやしと思ふべし、本意の人を尋ね寄らむも、かばかり逃るる心あめれば、かひなう、をこにこそ思はめ」と思す。かのをかしかりつる灯影ならば、いかがはせむに思しなるも、悪ろき御心浅さなめりかし。<BR> |
| <P> やうやう目覚めて、いとおぼえずあさましきに、あきれたる気色にて、何の心深くいとほしき用意もなし。世の中をまだ思ひ知らぬほどよりは、さればみたる方にて、あえかにも思ひまどはず。我とも知らせじと思ほせど、いかにしてかかることぞと、後に思ひめぐらさむも、わがためには事にもあらねど、あのつらき人の、あながちに名をつつむも、さすがにいとほしければ、たびたびの御方違へにことつけたまひしさまを、いとよう言ひなしたまふ。たどらむ人は心得つべけれど、まだいと若き心地に、さこそさし過ぎたるやうなれど、えしも思ひ分かず。<BR> |
| <P> やうやう目覚めて、いとおぼえずあさましきに、あきれたる気色にて、何の心深くいとほしき用意もなし。世の中をまだ思ひ知らぬほどよりは、さればみたる方にて、あえかにも思ひまどはず。我とも知らせじと思ほせど、いかにしてかかることぞと、後に思ひめぐらさむも、わがためには事にもあらねど、あのつらき人の、あながちに名をつつむも、さすがにいとほしければ、たびたびの御方違へにことつけたまひしさまを、いとよう言ひなしたまふ。たどらむ人は心得つべけれど、まだいと若き心地に、さこそさし過ぎたるやうなれど、えしも思ひ分かず。<BR> |
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| <P> |
| 憎しとはなけれど、御心とまるべきゆゑもなき心地して、なほかのうれたき人の心をいみじく思す。「いづくにはひ紛れて、かたくなしと思ひゐたらむ。かく執念き人はありがたきものを」と思すしも、あやにくに、紛れがたう思ひ出でられたまふ。この人の、なま心なく、若やかなるけはひもあはれなれば、さすがに情け情けしく契りおかせたまふ。<BR> |
| 憎しとはなけれど、御心とまるべきゆゑもなき心地して、なほかのうれたき人の心をいみじく思す。「いづくにはひ紛れて、かたくなしと思ひゐたらむ。かく執念き人はありがたきものを」と思すしも、あやにくに、紛れがたう思ひ出でられたまふ。この人の、なま心なく、若やかなるけはひもあはれなれば、さすがに情け情けしく契りおかせたまふ。<BR> |
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| <P> |
| 「人知りたることよりも、かやうなるは、あはれも添ふこととなむ、昔人も言ひける。あひ思ひたまへよ。つつむことなきにしもあらねば、身ながら心にもえまかすまじくなむありける。また、さるべき人びとも許されじかしと、かねて胸いたくなむ。忘れで待ちたまへよ」など、なほなほしく語らひたまふ。<BR> |
| 「人知りたることよりも、かやうなるは、あはれも添ふこととなむ、昔人も言ひける。あひ思ひたまへよ。つつむことなきにしもあらねば、身ながら心にもえまかすまじくなむありける。また、さるべき人びとも許されじかしと、かねて胸いたくなむ。忘れで待ちたまへよ」など、なほなほしく語らひたまふ。<BR> |
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| <P> |
| 「人の思ひはべらむことの恥づかしきになむ、え聞こえさすまじき」とうらもなく言ふ。<BR> |
| 「人の思ひはべらむことの恥づかしきになむ、え聞こえさすまじき」とうらもなく言ふ。<BR> |
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| <P> |
| 「なべて、人に知らせばこそあらめ、この小さき上人に伝へて聞こえむ。気色なくもてなしたまへ」<BR> |
| 「なべて、人に知らせばこそあらめ、この小さき上人に伝へて聞こえむ。気色なくもてなしたまへ」<BR> |
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| など言ひおきて、かの脱ぎすべしたると見ゆる薄衣を取りて出でたまひぬ。<BR> |
| など言ひおきて、かの脱ぎすべしたると見ゆる薄衣を取りて出でたまひぬ。<BR> |
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| 小君近う臥したるを起こしたまへば、うしろめたう思ひつつ寝ければ、ふとおどろきぬ。戸をやをら押し開くるに、老いたる御達の声にて、<BR> |
| 小君近う臥したるを起こしたまへば、うしろめたう思ひつつ寝ければ、ふとおどろきぬ。戸をやをら押し開くるに、老いたる御達の声にて、<BR> |
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| 「あれは誰そ」<BR> |
| 「あれは誰そ」<BR> |
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| とおどろおどろしく問ふ。わづらはしくて、<BR> |
| とおどろおどろしく問ふ。わづらはしくて、<BR> |
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| 「まろぞ」と答ふ。<BR> |
| 「まろぞ」と答ふ。<BR> |
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| 「夜中に、こは、なぞ外歩かせたまふ」<BR> |
| 「夜中に、こは、なぞ外歩かせたまふ」<BR> |
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| <P> |
| とさかしがりて、外ざまへ来。いと憎くて、<BR> |
| とさかしがりて、外ざまへ来。いと憎くて、<BR> |
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| 「あらず。ここもとへ出づるぞ」<BR> |
| 「あらず。ここもとへ出づるぞ」<BR> |
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| とて、君を押し出でたてまつるに、暁近き月、隈なくさし出でて、ふと人の影見えければ、<BR> |
| とて、君を押し出でたてまつるに、暁近き月、隈なくさし出でて、ふと人の影見えければ、<BR> |
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| 「またおはするは、誰そ」と問ふ。<BR> |
| 「またおはするは、誰そ」と問ふ。<BR> |
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| 「民部のおもとなめり。けしうはあらぬおもとの丈だちかな」<BR> |
| 「民部のおもとなめり。けしうはあらぬおもとの丈だちかな」<BR> |
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| <P> |
| と言ふ。丈高き人の常に笑はるるを言ふなりけり。老人、これを連ねて歩きけると思ひて、<BR> |
| と言ふ。丈高き人の常に笑はるるを言ふなりけり。老人、これを連ねて歩きけると思ひて、<BR> |
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| 「今、ただ今立ちならびたまひなむ」<BR> |
| 「今、ただ今立ちならびたまひなむ」<BR> |
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| と言ふ言ふ、我もこの戸より出でて来。わびしければ、えはた押し返さで、渡殿の口にかい添ひて隠れ立ちたまへれば、このおもとさし寄りて、<BR> |
| と言ふ言ふ、我もこの戸より出でて来。わびしければ、えはた押し返さで、渡殿の口にかい添ひて隠れ立ちたまへれば、このおもとさし寄りて、<BR> |
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| <P> |
| 「おもとは、今宵は、上にやさぶらひたまひつる。一昨日より腹を病みて、いとわりなければ、下にはべりつるを、人少ななりとて召ししかば、昨夜参う上りしかど、なほ<A HREF="#k08">え堪ふ</A><A NAME="t08">ま</A>じくなむ」<BR> |
| 「おもとは、今宵は、上にやさぶらひたまひつる。一昨日より腹を病みて、いとわりなければ、下にはべりつるを、人少ななりとて召ししかば、昨夜参う上りしかど、なほ<A HREF="#k08">え堪ふ</A><A NAME="t08">ま</A>じくなむ」<BR> |
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| と、憂ふ。答へも聞かで、<BR> |
| と、憂ふ。答へも聞かで、<BR> |
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| <P> |
| 「あな、腹々。今聞こえむ」とて過ぎぬるに、からうして出でたまふ。なほかかる歩きは軽々しくあやしかりけりと、いよいよ思し懲りぬべし。<BR> |
| 「あな、腹々。今聞こえむ」とて過ぎぬるに、からうして出でたまふ。なほかかる歩きは軽々しくあやしかりけりと、いよいよ思し懲りぬべし。<BR> |
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| <A NAME="in15">[第五段 源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る]</A><BR> |
| <A NAME="in15">[第五段 源氏、空蝉の脱ぎ捨てた衣を持って帰る]</A><BR> |
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| <P> |
| 小君、御車の後にて、二条院におはしましぬ。ありさまのたまひて、「幼かりけり」とあはめたまひて、かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ。いとほしうて、ものもえ聞こえず。<BR> |
| 小君、御車の後にて、二条院におはしましぬ。ありさまのたまひて、「幼かりけり」とあはめたまひて、かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ。いとほしうて、ものもえ聞こえず。<BR> |
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| <P> |
| 「いと深う憎みたまふべかめれば、身も憂く思ひ果てぬ。などか、よそにても、なつかしき答へばかりはしたまふまじき。伊予介に劣りける身こそ」<BR> |
| 「いと深う憎みたまふべかめれば、身も憂く思ひ果てぬ。などか、よそにても、なつかしき答へばかりはしたまふまじき。伊予介に劣りける身こそ」<BR> |
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| など、心づきなしと思ひてのたまふ。ありつる小袿を、さすがに、御衣の下に引き入れて、大殿籠もれり。小君を御前に臥せて、よろづに恨み、かつは、語らひたまふ。<BR> |
| など、心づきなしと思ひてのたまふ。ありつる小袿を、さすがに、御衣の下に引き入れて、大殿籠もれり。小君を御前に臥せて、よろづに恨み、かつは、語らひたまふ。<BR> |
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| 「あこは、らうたけれど、つらきゆかりにこそ、え思ひ果つまじけれ」<BR> |
| 「あこは、らうたけれど、つらきゆかりにこそ、え思ひ果つまじけれ」<BR> |
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| <P> |
| とまめやかにのたまふを、いとわびしと思ひたり。<BR> |
| とまめやかにのたまふを、いとわびしと思ひたり。<BR> |
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| <P> |
| しばしうち休みたまへど、寝られたまはず。御硯急ぎ召して、さしはへたる御文にはあらで、畳紙に手習のやうに書きすさびたまふ。<BR> |
| しばしうち休みたまへど、寝られたまはず。御硯急ぎ召して、さしはへたる御文にはあらで、畳紙に手習のやうに書きすさびたまふ。<BR> |
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| 「空蝉の身をかへてける木のもとに<BR> |
| 「空蝉の身をかへてける木のもとに<BR> |
| なほ人がらのなつかしきかな」<BR> |
| なほ人がらのなつかしきかな」<BR> |
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| と書きたまへるを、懐に引き入れて持たり。かの人もいかに思ふらむと、いとほしけれど、かたがた思ほしかへして、御ことつけもなし。かの薄衣は、小袿のいとなつかしき人香に染めるを、身近くならして見ゐたまへり。<BR> |
| と書きたまへるを、懐に引き入れて持たり。かの人もいかに思ふらむと、いとほしけれど、かたがた思ほしかへして、御ことつけもなし。かの薄衣は、小袿のいとなつかしき人香に染めるを、身近くならして見ゐたまへり。<BR> |
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| 小君、かしこに行きたれば、姉君待ちつけて、いみじくのたまふ。<BR> |
| 小君、かしこに行きたれば、姉君待ちつけて、いみじくのたまふ。<BR> |
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| <P> |
| 「あさましかりしに、とかう紛らはしても、人の思ひけむことさりどころなきに、いとなむわりなき。いとかう心幼きを、かつはいかに思ほすらむ」<BR> |
| 「あさましかりしに、とかう紛らはしても、人の思ひけむことさりどころなきに、いとなむわりなき。いとかう心幼きを、かつはいかに思ほすらむ」<BR> |
| <P> |
| <P> |
| とて、恥づかしめたまふ。左右に苦しう思へど、かの御手習取り出でたり。さすがに、取りて見たまふ。かのもぬけを、いかに、<A HREF="#no3">伊勢をの海人のしほなれてや</A><A NAME="te3">、</A>など思ふもただならず、いとよろづに乱れて。<BR> |
| とて、恥づかしめたまふ。左右に苦しう思へど、かの御手習取り出でたり。さすがに、取りて見たまふ。かのもぬけを、いかに、<A HREF="#no3">伊勢をの海人のしほなれてや</A><A NAME="te3">、</A>など思ふもただならず、いとよろづに乱れて。<BR> |
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| 西の君も、もの恥づかしき心地してわたりたまひにけり。また知る人もなきことなれば、人知れずうちながめてゐたり。小君の渡り歩くにつけても、胸のみ塞がれど、御消息もなし。あさましと思ひ得る方もなくて、されたる心に、ものあはれなるべし。<BR> |
| 西の君も、もの恥づかしき心地してわたりたまひにけり。また知る人もなきことなれば、人知れずうちながめてゐたり。小君の渡り歩くにつけても、胸のみ塞がれど、御消息もなし。あさましと思ひ得る方もなくて、されたる心に、ものあはれなるべし。<BR> |
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| つれなき人も、さこそしづむれ、いとあさはかにもあらぬ御気色を、ありしながらのわが身ならばと、<A HREF="#no4">取り返すものならねど</A><A NAME="te4">、</A>忍びがたければ、この御畳紙の片つ方に、<BR> |
| つれなき人も、さこそしづむれ、いとあさはかにもあらぬ御気色を、ありしながらのわが身ならばと、<A HREF="#no4">取り返すものならねど</A><A NAME="te4">、</A>忍びがたければ、この御畳紙の片つ方に、<BR> |
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| 「空蝉の羽に置く露の木隠れて<BR> |
| 「空蝉の羽に置く露の木隠れて<BR> |
| 忍び忍びに濡るる袖かな」<BR> |
| 忍び忍びに濡るる袖かな」<BR> |
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| <a name="in21">【出典】<BR> |
| <a name="in21">【出典】<BR> |
| </a><A NAME="no1">出典1</A> 夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子そのまにも見む(古今六帖一-三七一 大宅娘女)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR> |
| </a><A NAME="no1">出典1</A> 夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子そのまにも見む(古今六帖一-三七一 大宅娘女)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="no2">出典2</A> 伊予の湯の 湯桁はいくつ いさ知らず や 算へず よまず やれ そよや なよや 君ぞ知るらうや(風俗歌-伊予湯)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="no2">出典2</A> 伊予の湯の 湯桁はいくつ いさ知らず や 算へず よまず やれ そよや なよや 君ぞ知るらうや(風俗歌-伊予湯)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="no3">出典3</A> 鈴鹿山伊勢をの海人の捨て衣しほなれたりと人や見るらむ(後撰集恋三-七一八 藤原伊尹)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="no3">出典3</A> 鈴鹿山伊勢をの海人の捨て衣しほなれたりと人や見るらむ(後撰集恋三-七一八 藤原伊尹)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="no4">出典4</A> 取り返すものにもがなや世の中をありしながらのわが身と思はむ(出典未詳)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="no4">出典4</A> 取り返すものにもがなや世の中をありしながらのわが身と思はむ(出典未詳)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR> |
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| <p> <a name="in22">【校訂】<BR> |
| <p> <a name="in22">【校訂】<BR> |
| 備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文--* 朱筆--<朱><BR> |
| 備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文--* 朱筆--<朱><BR> |
| </a><A NAME="k01">校訂1</A> 御消息も--御消息(息/+も)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR> |
| </a><A NAME="k01">校訂1</A> 御消息も--御消息(息/+も)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k02">校訂2</A> 対面--た(た/+い)めむ<A HREF="#t02">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k02">校訂2</A> 対面--た(た/+い)めむ<A HREF="#t02">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k03">校訂3</A> 二十--はたち(ち/$<朱>)<A HREF="#t03">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k03">校訂3</A> 二十--はたち(ち/$<朱>)<A HREF="#t03">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k04">校訂4</A> かぞふる--*かさふる<A HREF="#t04">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k04">校訂4</A> かぞふる--*かさふる<A HREF="#t04">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k05">校訂5</A> 側目も--そはめも(も/=にイ<朱>)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k05">校訂5</A> 側目も--そはめも(も/=にイ<朱>)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k06">校訂6</A> 見たまは--みたまふ(ふ/$は)<A HREF="#t06">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k06">校訂6</A> 見たまは--みたまふ(ふ/$は)<A HREF="#t06">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k07">校訂7</A> 童--わら(ら/+は)へ<A HREF="#t07">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k07">校訂7</A> 童--わら(ら/+は)へ<A HREF="#t07">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k08">校訂8</A> え堪ふ--え(え/+た)ふ<A HREF="#t08">(戻)</A><BR> |
| <A NAME="k08">校訂8</A> え堪ふ--え(え/+た)ふ<A HREF="#t08">(戻)</A><BR> |
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| </p> |
| <p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR> |
| <p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR> |
| <a href="roman03.html">ローマ字版 </a><BR> |
| <a href="roman03.html">ローマ字版 </a><BR> |
| <a href="version03.html">現代語訳 </a><BR> |
| <a href="version03.html">現代語訳 </a><BR> |
| <a href="note03.html">注釈</a><BR> |
| <a href="note03.html">注釈</a><BR> |
| <a href="data03.html">大島本</a><BR> |
| <a href="data03.html">大島本</a><BR> |
| <a href="okuiri03.html">自筆本奥入</a><BR> |
| <a href="okuiri03.html">自筆本奥入</a><BR> |
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