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 1<HTML>⏎1 
 2<HEAD>⏎2 
 3<meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=UTF-8">⏎3 
 4<meta http-equiv="Content-Style-Type" content="text/css">⏎4 
 5<meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎5 
 6<TITLE>花宴(明融臨模本)</TITLE>⏎6 
 7</HEAD>⏎7 
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First updated 9/20/1996(ver.1-1)<BR>⏎
8<BODY>⏎
cd3:210-12Last updated 4/21/2009(ver.2-2)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)<BR>⏎
<P
>⏎
9-10<ADDRESS>Last updated 4/21/2009(ver.2-2)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)</ADDRESS>⏎
 13  <H3>花 宴</H3>⏎11 
d114<P>⏎
 15光る源氏二十歳春二月二十余日から三月二十余日までの宰相兼中将時代の物語<BR>⏎12 
 16<BR>⏎13 
i014
 17 [主要登場人物]<BR>⏎14 
 18<DL>⏎15 
 19<DT> 光る源氏<ひかるげんじ>⏎16 
 20<DD>呼称---源氏の君・宰相中将・男君・君、十八歳から十九歳 参議兼近衛中将<BR>⏎17 
 21<DT> 頭中将<とうのちゅうじょう>⏎18 
 22<DD>呼称---中将、葵の上の兄<BR>⏎19 
 23<DT> 桐壺帝<きりつぼのみかど>⏎20 
 24<DD>呼称---帝・主上、光る源氏の父<BR>⏎21 
 25<DT> 弘徽殿女御<こうきでんのにょうご>⏎22 
 26<DD>呼称---春宮の女御・女御、桐壺帝の女御、東宮の母<BR>⏎23 
 27<DT> 藤壺の宮<ふじつぼのみや>⏎24 
 28<DD>呼称---藤壺・中宮・后、桐壺帝の后、光る源氏の継母<BR>⏎25 
 29<DT> 葵の上<あおいのうえ>⏎26 
 30<DD>呼称---大殿、光る源氏の正妻<BR>⏎27 
 31<DT> 朧月夜の君<おぼろづきよのきみ>⏎28 
 32<DD>呼称---有明の君・六の君・女、右大臣の娘、弘徽殿女御の妹<BR>⏎29 
 33</DL>⏎30 
d134<P>⏎
 35 朧月夜の君物語 春の夜の出逢いの物語<BR>⏎31 
 36<OL>⏎32 
 37<LI>二月二十余日、紫宸殿の桜花の宴---<A HREF="#in11">如月の二十日あまり、南殿の桜の宴せさせたまふ</A>⏎33 
 38<LI>宴の後、朧月夜の君と出逢う---<A HREF="#in12">夜いたう更けてなむ、事果てける</A>⏎34 
 39<LI>桜宴の翌日、昨夜の女性の素性を知りたがる---<A HREF="#in13">その日は後宴のことありて、まぎれ暮らしたまひつ</A>⏎35 
 40<LI>紫の君の理想的成長ぶり、葵の上との夫婦仲不仲---<A HREF="#in14">「大殿にも久しうなりにける」と思せど、若君も心苦しければ</A>⏎36 
 41<LI>三月二十余日、右大臣邸の藤花の宴---<A HREF="#in15">かの有明の君は、はかなかりし夢を思し出でて</A>⏎37 
 42</OL>⏎38 
d143<P>⏎
 44<A HREF="#in21">【出典】</A><BR>⏎39 
 45<A HREF="#in22">【校訂】</A><BR>⏎40 
d146<P>⏎
text0847 <H4> 朧月夜の君物語 春の夜の出逢いの物語</H4>41 
text0848 <A NAME="in11">[第一段 二月二十余日、紫宸殿の桜花の宴]</A><BR>42 
d149<P>⏎
cd4:250-53 如月の二十日あまり、南殿の桜の宴せさせたまふ。后春宮の御局、左右にして、参う上りたまふ。弘徽殿の女御、中宮のかくておはするを、をりふしごとにやすからず思せど、物見にはえ過ぐしたまはで、参りたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 日いとよく晴れて、空のけしき、鳥の声も、心地よげなるに、親王たち、上達部よりはじめて、その道のは皆、探韻賜はりて文つくりたまふ。宰相中将、「春といふ文字賜はれり」と、のたまふ声さへ、例の、人に異なり。次に頭中将、人の目移しも、ただならずおぼゆべかめれど、いとめやすくもてしづめて、声づかひなど、ものものしくすぐれたり。さての人びとは、皆臆しがちに鼻白める多かり。地下の人は、まして春宮の御才かしこくすぐれておはします、かかる方にやむごとなき人多くものしたまふころなるに、恥づかしく、はるばると曇りなき庭に立ち出づるほど、はしたなくて、やすきことなれど、苦しげなり。年老いたる博士どもの、なりあやしくやつれて、例馴れたるも、あはれに、さまざま御覧ずるなむ、をかしかりける。<BR>⏎
<P>⏎
43-44 如月の二十日あまり、南殿の桜の宴せさせたまふ。后春宮の御局、左右にして、参う上りたまふ。弘徽殿の女御、中宮のかくておはするを、をりふしごとにやすからず思せど、物見にはえ過ぐしたまはで、参りたまふ。<BR>⏎
 日いとよく晴れて、空のけしき、鳥の声も、心地よげなるに、親王たち、上達部よりはじめて、その道のは皆、探韻賜はりて文つくりたまふ。宰相中将、「春といふ文字賜はれり」と、のたまふ声さへ、例の、人に異なり。次に頭中将、人の目移しも、ただならずおぼゆべかめれど、いとめやすくもてしづめて、声づかひなど、ものものしくすぐれたり。さての人びとは、皆臆しがちに鼻白める多かり。地下の人は、まして春宮の御才かしこくすぐれておはします、かかる方にやむごとなき人多くものしたまふころなるに、恥づかしく、はるばると曇りなき庭に立ち出づるほど、はしたなくて、やすきことなれど、苦しげなり。年老いたる博士どもの、なりあやしくやつれて、例馴れたるも、あはれに、さまざま御覧ずるなむ、をかしかりける。<BR>⏎
 54 楽どもなどは、さらにもいはずととのへさせたまへり。やうやう入り日になるほど、春の鴬囀るといふ舞、いとおもしろく見ゆるに、源氏の御紅葉の賀の折、思し出でられて、春宮、かざし賜はせて、せちに責めのたまはするに、逃がれがたくて、立ちてのどかに袖返すところを一折れ、けしきばかり舞ひたまへるに、似るべきものなく見ゆ。左大臣、恨めしさも忘れて、涙落したまふ。<BR>⏎45 
d155<P>⏎
 56 「頭中将、いづら。遅し」<BR>⏎46 
 57 とあれば、柳花苑といふ舞を、これは今すこし過ぐして、かかることもやと、心づかひやしけむ、いとおもしろければ、御衣賜はりて、いとめづらしきことに人思へり。上達部皆乱れて舞ひたまへど、夜に入りては、ことにけぢめも見えず。文など講ずるにも、源氏の君の御をば、講師もえ読みやらず、句ごとに誦じののしる。博士どもの心にも、いみじう思へり。<BR>⏎47 
d158<P>⏎
 59 かうやうの折にも、まづこの君を光にしたまへれば、帝もいかでかおろかに思されむ。中宮、御目のとまるにつけて、「春宮の女御のあながちに憎みたまふらむもあやしう、わがかう思ふも心憂し」とぞ、みづから思し返されける。<BR>⏎48 
d160<P>⏎
cd3:161-63 「おほかたに花の姿を見ましかば<BR>⏎
  つゆも心のおかれましやは」<BR>⏎
<P>⏎
49 「おほかたに花の姿を見ましかば<BR>  つゆも心のおかれましやは」<BR>⏎
 64 御心のうちなりけむこと、いかで漏りにけむ。<BR>⏎50 
d165<P>⏎
text0866 <A NAME="in12">[第二段 宴の後、朧月夜の君と出逢う]</A><BR>51 
d167<P>⏎
 68 夜いたう更けてなむ、事果てける。<BR>⏎52 
cd2:169-70 上達部おのおのあかれ、后春宮帰らせたまひぬれば、のどやかになりぬるに、月いと明うさし出でてをかしきを、源氏の君、酔ひ心地に、見過ぐしがたくおぼえたまひければ、「上の人びともうち休みて、かやうに思ひかけぬほどに、もしさりぬべき隙もやある」と、藤壺わたりを、わりなう忍びてうかがひありけど、語らふべき戸口も鎖してければ、うち嘆きて、なほあらじに、弘徽殿の細殿に立ち寄りたまへれば、三の口開きたり。<BR>⏎
<P>⏎
53 上達部おのおのあかれ、后春宮帰らせたまひぬれば、のどやかになりぬるに、月いと明うさし出でてをかしきを、源氏の君、酔ひ心地に、見過ぐしがたくおぼえたまひければ、「上の人びともうち休みて、かやうに思ひかけぬほどに、もしさりぬべき隙もやある」と、藤壺わたりを、わりなう忍びてうかがひありけど、語らふべき戸口も鎖してければ、うち嘆きて、なほあらじに、弘徽殿の細殿に立ち寄りたまへれば、三の口開きたり。<BR>⏎
 71 女御は、上の御局にやがて参う上りたまひにければ、人少ななるけはひなり。奥の枢戸も開きて、人音もせず。<BR>⏎54 
 72 「かやうにて、世の中のあやまちはするぞかし」と思ひて、やをら上りて覗きたまふ。人は皆寝たるべし。いと若うをかしげなる声の、なべての人とは聞こえぬ、<BR>⏎55 
d173<P>⏎
 74 「<A HREF="#no1">朧月夜に似るものぞなき</A><A NAME="te1">」</A><BR>⏎56 
d175<P>⏎
 76 とうち誦じて、こなたざまには来るものか。いとうれしくて、ふと袖をとらへたまふ。女、恐ろしと思へるけしきにて、<BR>⏎57 
cd11:777-87 「あなむくつけ。こは誰そ」とのたまへど、<BR>⏎
「何か疎ましき」とて、<BR>⏎
<P>⏎
 「深き夜のあはれを知るも入る月の<BR>⏎
  おぼろけならぬ契りとぞ思ふ」<BR>⏎
<P>⏎
 とてやをら抱き下ろして、戸は押し立てつ。あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうをかしげなり。わななくわななく、<BR>⏎
 「ここに人」<BR>⏎
 とのたまへど、<BR>⏎
 「まろは皆人に許されたれば、召し寄せたりとも、なんでふことかあらむ。ただ忍びてこそ」<BR>⏎
<P>⏎
58-64 「あなむくつけ。こは誰そ」とのたまへど、<BR>⏎
「何か疎ましき」とて、<BR>⏎
 「深き夜のあはれを知るも入る月の<BR>  おぼろけならぬ契りとぞ思ふ」<BR>⏎
 とてやをら抱き下ろして、戸は押し立てつ。あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうをかしげなり。わななくわななく、<BR>⏎
 「ここに人」<BR>⏎
 とのたまへど、<BR>⏎
 「まろは皆人に許されたれば、召し寄せたりとも、なんでふことかあらむ。ただ忍びてこそ」<BR>⏎
 88 とのたまふ声に、この君なりけりと聞き定めて、いささか慰めけり。<A HREF="#k01">わびしと</A><A NAME="t01">思</A>へるものから、情けなくこはごはしうは見えじ、と思へり。酔ひ心地や例ならざりけむ、許さむことは口惜しきに、女も若うたをやぎて、強き心も知らぬなるべし。<BR>⏎65 
d189<P>⏎
c290-91 らうたしと見たまふに、ほどなく明けゆけば、心あわたたし。女は、ましてさまざまに思ひ乱れたるけしきなり。<BR>⏎
 「なほ名のりしたまへ。いかでか、聞こゆべき。かうてやみなむとは、さりとも思されじ」<BR>⏎
66-67 らうたしと見たまふに、ほどなく明けゆけば、心あわたたし。女は、ましてさまざまに思ひ乱れたるけしきなり。<BR>⏎
 「なほ名のりしたまへ。いかでか、聞こゆべき。かうてやみなむとは、さりとも思されじ」<BR>⏎
 92 とのたまへば、<BR>⏎68 
d193<P>⏎
cd3:194-96 「憂き身世にやがて消えなば尋ねても<BR>⏎
  草の原をば問はじとや思ふ」<BR>⏎
<P>⏎
69 「憂き身世にやがて消えなば尋ねても<BR>  草の原をば問はじとや思ふ」<BR>⏎
 97 と言ふさま、艶になまめきたり。<BR>⏎70 
 98 「ことわりや。聞こえ違へたる文字かな」とて、<BR>⏎71 
d199<P>⏎
cd4:2100-103 「いづれぞと露のやどりを分かむまに<BR>⏎
  小笹が原に風もこそ吹け<BR>⏎
<P>⏎
 わづらはしく思すことならずは、何かつつまむ。もしすかいたまふか」<BR>⏎
72-73 「いづれぞと露のやどりを分かむまに<BR>  小笹が原に風もこそ吹け<BR>⏎
 わづらはしく思すことならずは、何かつつまむ。もしすかいたまふか」<BR>⏎
 104 とも言ひあへず、人々起き騒ぎ、上の御局に参りちがふけしきども、しげくまよへば、いとわりなくて、扇ばかりをしるしに取り換へて、出でたまひぬ。<BR>⏎74 
d1105<P>⏎
 106 桐壺には、人びと多くさぶらひて、おどろきたるもあれば、かかるを、<BR>⏎75 
c1107 「さもたゆみなき御忍びありきかな」<BR>⏎
76 「さもたゆみなき御忍びありきかな」<BR>⏎
 108 とつきしろひつつ、そら寝をぞしあへる。入りたまひて臥したまへれど、寝入られず。<BR>⏎77 
d1109<P>⏎
cd4:2110-113 「をかしかりつる人のさまかな。女御の御おとうとたちにこそはあらめ。まだ世に馴れぬは、五六の君ならむかし。帥宮の北の方、頭中将のすさめぬ四の君などこそ、よしと聞きしか。なかなかそれならましかば、今すこしをかしからまし。六は春宮にたてまつらむとこころざしたまへるを、いとほしうもあるべいかな。わづらはしう、尋ねむほどもまぎらはし、さて絶えなむとは思はぬけしきなりつるを、いかなれば、言通はすべきさまを教へずなりぬらむ」<BR>⏎
<P>⏎
 などよろづに思ふも、心のとまるなるべし。かうやうなるにつけても、まづ「かのわたりのありさまの、こよなう奥まりたるはや」と、ありがたう思ひ比べられたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
78-79 「をかしかりつる人のさまかな。女御の御おとうとたちにこそはあらめ。まだ世に馴れぬは、五六の君ならむかし。帥宮の北の方、頭中将のすさめぬ四の君などこそ、よしと聞きしか。なかなかそれならましかば、今すこしをかしからまし。六は春宮にたてまつらむとこころざしたまへるを、いとほしうもあるべいかな。わづらはしう、尋ねむほどもまぎらはし、さて絶えなむとは思はぬけしきなりつるを、いかなれば、言通はすべきさまを教へずなりぬらむ」<BR>⏎
 などよろづに思ふも、心のとまるなるべし。かうやうなるにつけても、まづ「かのわたりのありさまの、こよなう奥まりたるはや」と、ありがたう思ひ比べられたまふ。<BR>⏎
text08114 <A NAME="in13">[第三段 桜宴の翌日、昨夜の女性の素性を知りたがる]</A><BR>80 
d1115<P>⏎
 116 その日は後宴のことありて、まぎれ暮らしたまひつ。箏の琴仕うまつりたまふ。昨日のことよりも、なまめかしうおもしろし。藤壺は、暁に参う上りたまひにけり。「かの有明、出でやしぬらむ」と、心もそらにて、思ひ至らぬ隈なき良清、惟光をつけて、うかがはせたまひければ、御前よりまかでたまひけるほどに、<BR>⏎81 
d1117<P>⏎
 118 「ただ今、北の陣より、かねてより隠れ立ちてはべりつる車どもまかり出づる。御方々の里人はべりつるなかに、四位の少将、右中弁など急ぎ出でて、送りしはべりつるや、弘徽殿の御あかれならむと見たまへつる。けしうはあらぬけはひどもしるくて、車三つばかりはべりつ」<BR>⏎82 
d1119<P>⏎
 120 と聞こゆるにも、胸うちつぶれたまふ。<BR>⏎83 
cd2:1121-122 「いかにして、いづれと知らむ。父大臣など聞きて、ことごとしうもてなさむも、いかにぞや。まだ人のありさまよく見さだめぬほどは、わづらはしかるべし。さりとて、知らであらむ、はたいと口惜しかるべければ、いかにせまし」と、思しわづらひて、つくづくとながめ臥したまへり。<BR>⏎
<P>⏎
84 「いかにして、いづれと知らむ。父大臣など聞きて、ことごとしうもてなさむも、いかにぞや。まだ人のありさまよく見さだめぬほどは、わづらはしかるべし。さりとて、知らであらむ、はたいと口惜しかるべければ、いかにせまし」と、思しわづらひて、つくづくとながめ臥したまへり。<BR>⏎
 123 「姫君、いかにつれづれならむ。日ごろになれば、屈してやあらむ」と、らうたく思しやる。かのしるしの扇は、桜襲ねにて、濃きかたにかすめる月を描きて、水にうつしたる心ばへ、目馴れたれど、ゆゑなつかしうもてならしたり。「草の原をば」と言ひしさまのみ、心にかかりたまへば、<BR>⏎85 
d1124<P>⏎
cd3:1125-127 「世に知らぬ心地こそすれ有明の<BR>⏎
  月のゆくへを空にまがへて」<BR>⏎
<P>⏎
86 「世に知らぬ心地こそすれ有明の<BR>  月のゆくへを空にまがへて」<BR>⏎
 128 と書きつけたまひて、置きたまへり。<BR>⏎87 
d1129<P>⏎
text08130 <A NAME="in14">[第四段 紫の君の理想的成長ぶり、葵の上との夫婦仲不仲]</A><BR>88 
d1131<P>⏎
 132 「大殿にも久しうなりにける」と思せど、若君も心苦しければ、こしらへむと思して、二条院へおはしぬ。見るままに、いとうつくしげに生ひなりて、愛敬づきらうらうじき心ばへ、いとことなり。飽かぬところなう、わが御心のままに教へなさむ、と思すにかなひぬべし。男の御教へなれば、すこし人馴れたることや混じらむと思ふこそ、うしろめたけれ。<BR>⏎89 
d1133<P>⏎
 134 日ごろの御物語、御琴など教へ暮らして出でたまふを、例のと、口惜しう思せど、今はいとようならはされて、わりなくは慕ひまつはさず。<BR>⏎90 
d1135<P>⏎
 136 大殿には、例の、ふとも対面したまはず。つれづれとよろづ思しめぐらされて、箏の御琴まさぐりて、<BR>⏎91 
c1137 「<A HREF="#no2">やはらかに寝る</A><a href="#k02">夜</a><a name="t02">は</a><A HREF="#no2">なくて</A><A NAME="te2">」</A><BR>⏎
92 「<A HREF="#no2">やはらかに寝る<A HREF="#k02">夜</A><A NAME="t02">は</A>なくて</A><A NAME="te2">」</A><BR>⏎
 138 とうたひたまふ。大臣渡りたまひて、一日の興ありしこと、聞こえたまふ。<BR>⏎93 
d1139<P>⏎
cd2:1140-141 「ここらの齢にて、明王の御代、四代をなむ見はべりぬれど、このたびのやうに、文ども警策に、舞物の音どもととのほりて、齢延ぶることなむはべらざりつる。道々のものの上手ども多かるころほひ、詳しうしろしめし、ととのへさせたまへるけなり。<A HREF="#no3">翁もほとほと舞ひ出でぬべき</A><A NAME="te3">心</A>地なむしはべりし」<BR>⏎
<P>⏎
94 「ここらの齢にて、明王の御代、四代をなむ見はべりぬれど、このたびのやうに、文ども警策に、舞物の音どもととのほりて、齢延ぶることなむはべらざりつる。道々のものの上手ども多かるころほひ、詳しうしろしめし、ととのへさせたまへるけなり。<A HREF="#no3">翁もほとほと舞ひ出でぬべき</A><A NAME="te3">心</A>地なむしはべりし」<BR>⏎
 142 と聞こえたまへば、<BR>⏎95 
d1143<P>⏎
 144 「ことにととのへ行ふこともはべらず。ただ公事に、そしうなる物の師どもを、ここかしこに尋ねはべりしなり。よろづのことよりは、「柳花苑」、まことに後代の例ともなりぬべく見たまへしに、まして「さかゆく春」に立ち出でさせたまへらましかば、世の面目にやはべらまし」<BR>⏎96 
d1145<P>⏎
 146 と聞こえたまふ。<BR>⏎97 
d1147<P>⏎
 148 弁、中将など参りあひて、高欄に背中おしつつ、とりどりに物の音ども調べ合はせて遊びたまふ、いとおもしろし。<BR>⏎98 
d1149<P>⏎
text08150 <A NAME="in15">[第五段 三月二十余日、右大臣邸の藤花の宴]</A><BR>99 
d1151<P>⏎
cd2:1152-153 かの有明の君は、はかなかりし夢を思し出でて、いともの嘆かしうながめたまふ。春宮には、卯月ばかりと思し定めたれば、いとわりなう思し乱れたるを、男も、尋ねたまはむにあとはかなくはあらねど、いづれとも知らで、ことに許したまはぬあたりにかかづらはむも、人悪く思ひわづらひたまふに、弥生の二十余日、右の大殿の弓の結に、上達部親王たち多く集へたまひて、やがて藤の宴したまふ。<BR>⏎
<P>⏎
100 かの有明の君は、はかなかりし夢を思し出でて、いともの嘆かしうながめたまふ。春宮には、卯月ばかりと思し定めたれば、いとわりなう思し乱れたるを、男も、尋ねたまはむにあとはかなくはあらねど、いづれとも知らで、ことに許したまはぬあたりにかかづらはむも、人悪く思ひわづらひたまふに、弥生の二十余日、右の大殿の弓の結に、上達部親王たち多く集へたまひて、やがて藤の宴したまふ。<BR>⏎
 154 花盛りは過ぎにたるを、「<A HREF="#no4">ほかの散りなむ</A><A NAME="te4">」とや</A>教へられたりけむ、遅れて咲く桜、二木ぞいとおもしろき。新しう造りたまへる殿を、宮たちの御裳着の日、磨きしつらはれたり。はなばなとものしたまふ殿のやうにて、何ごとも今めかしうもてなしたまへり。<BR>⏎101 
d1155<P>⏎
 156 源氏の君にも、一日、内裏にて御対面のついでに、聞こえたまひしかど、おはせねば、口惜しう、ものの栄なしと思して、御子の四位少将をたてまつりたまふ。<BR>⏎102 
d1157<P>⏎
cd3:1158-160 「わが宿の花しなべての色ならば<BR>⏎
  何かはさらに君を待たまし」<BR>⏎
<P>⏎
103 「わが宿の花しなべての色ならば<BR>  何かはさらに君を待たまし」<BR>⏎
 161 内裏におはするほどにて、主上に奏したまふ。<BR>⏎104 
 162 「したり顔なりや」と笑はせたまひて、<BR>⏎105 
 163 「わざと<A HREF="#k03">あめるを</A><A NAME="t03">、</A>早うものせよかし。女御子たちなども、生ひ出づるところなれば、なべてのさまには思ふまじきを」<BR>⏎106 
 164 などのたまはす。御装ひなどひきつくろひたまひて、いたう暮るるほどに、待たれてぞ渡りたまふ。<BR>⏎107 
d1165<P>⏎
 166 桜の唐の綺の御直衣、葡萄染の下襲、裾いと長く引きて。皆人は表の衣なるに、あざれたる大君姿のなまめきたるにて、いつかれ入りたまへる御さま、げにいと異なり。花の匂ひもけおされて、なかなかことざましになむ。<BR>⏎108 
d1167<P>⏎
 168 遊びなどいとおもしろうしたまひて、夜すこし更けゆくほどに、源氏の君、いたく酔ひ悩めるさまにもてなしたまひて、紛れ立ちたまひぬ。<BR>⏎109 
d1169<P>⏎
 170 寝殿に、女一宮、女三宮のおはします。東の戸口におはして、寄りゐたまへり。藤はこなたの妻にあたりてあれば、御格子ども上げわたして、人びと出でゐたり。袖口など、踏歌の折おぼえて、ことさらめきもて出でたるを、ふさはしからずと、まづ藤壺わたり思し出でらる。<BR>⏎110 
d1171<P>⏎
 172 「なやましきに、いといたう強ひられて、わびにてはべり。かしこけれど、この御前にこそは、蔭にも隠させたまはめ」<BR>⏎111 
c2173-174 とて妻戸の御簾を引き着たまへば、<BR>⏎
 「あなわづらはし。よからぬ人こそ、やむごとなきゆかりはかこちはべるなれ」<BR>⏎
112-113 とて妻戸の御簾を引き着たまへば、<BR>⏎
 「あなわづらはし。よからぬ人こそ、やむごとなきゆかりはかこちはべるなれ」<BR>⏎
 175 と言ふけしきを見たまふに、重々しうはあらねど、おしなべての若人どもにはあらず、あてにをかしきけはひしるし。<BR>⏎114 
d1176<P>⏎
 177 そらだきもの、いと煙たうくゆりて、衣の音なひ、いとはなやかにふるまひなして、心にくく奥まりたるけはひはたちおくれ、今めかしきことを好みたるわたりにて、やむごとなき御方々もの見たまふとて、この戸口は占めたまへるなるべし。さしもあるまじきことなれど、さすがにをかしう思ほされて、「いづれならむ」と、胸うちつぶれて、<BR>⏎115 
d1178<P>⏎
 179 「<A HREF="#no5">扇を取られて、からきめを見る</A><A NAME="te5">」</A><BR>⏎116 
c1180 とうちおほどけたる声に言ひなして、寄りゐたまへり。<BR>⏎
117 とうちおほどけたる声に言ひなして、寄りゐたまへり。<BR>⏎
 181 「あやしくも、さま変へける高麗人かな」<BR>⏎118 
 182 といらふるは、心知らぬにやあらむ。いらへはせで、ただ時々、うち嘆くけはひする方に寄りかかりて、几帳越しに手をとらへて、<BR>⏎119 
d1183<P>⏎
cd2:1184-185 「梓弓いるさの山に惑ふかな<BR>⏎
  ほの見し月の影や見ゆると<BR>⏎
120 「梓弓いるさの山に惑ふかな<BR>  ほの見し月の影や見ゆると<BR>⏎
 186 何ゆゑか」<BR>⏎121 
d1187<P>⏎
cd5:2188-192 と推し当てにのたまふを、え忍ばぬなるべし。<BR>⏎
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 「心いる方ならませば弓張の<BR>⏎
  月なき空に迷はましやは」<BR>⏎
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122-123 と推し当てにのたまふを、え忍ばぬなるべし。<BR>⏎
 「心いる方ならませば弓張の<BR>  月なき空に迷はましやは」<BR>⏎
 193 と言ふ声、ただそれなり。いとうれしきものから。<BR>⏎124 
d2194-195
<P>⏎
text08196 <a name="in21">【出典】<BR>125 
c1197</a><A NAME="no1">出典1</A> 照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき(新古今集春上-五五 大江千里)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
126<A NAME="no1">出典1</A> 照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき(新古今集春上-五五 大江千里)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
 198<A NAME="no2">出典2</A> 貫河の瀬々の やはら手枕 やはらかに 寝る夜はなくて 親離くる夫 親離くる夫は ましてるはし しかさらば 矢矧の市に 沓買ひにかむ 沓買はば 線鞋の 細底を買へ さし履きて 表裳とり着て 宮路かよはむ(催馬楽-貫河)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR>⏎127 
 199<A NAME="no3">出典3</A> 翁とてわびやはをらむ草も木も栄ゆる時に出でて舞ひてむ(続日本後紀巻十二-三)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR>⏎128 
 200<A NAME="no4">出典4</A> 見る人もなき山里の桜花他の散りなむ後ぞ咲かまし(古今集春上-六八 伊勢)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR>⏎129 
 201<A NAME="no5">出典5</A> 石川の 高麗人に 帯を取られて からき悔する いかなる 帯ぞ 縹の帯の 中はたいれたるか かやるか あやるか 中はいれたるか(催馬楽-石川)<A HREF="#te5">(戻)</A><BR>⏎130 
d1202
text08203<p> <a name="in22">【校訂】<BR>131 
 204備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△<BR>⏎132 
c1205</a><A NAME="k01">校訂1</A> わびしとお--わひしとお(わひしとお/$)わひしと<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
133<A NAME="k01">校訂1</A> わびしとお--わひしとお(わひしとお/$)わひしと<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
 206<A NAME="k02">校訂2</A> 夜--(/+夜)<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎134 
 207<A NAME="k03">校訂3</A> あめるを--あめ(め/+る)を<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎135 
d1208</p>⏎
 209<p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR>⏎136 
 210<a href="roman08.html">ローマ字版 </a><BR>⏎137 
 211<a href="version08.html">現代語訳 </a><BR>⏎138 
 212<a href="note08.html">注釈</a><BR>⏎139 
 213<a href="data081.html">明融臨模本</a><BR>⏎140 
 214<a href="data082.html">大島本</a><BR>⏎141 
 215<a href="okuiri08.html">自筆本奥入</a><BR>⏎142 
d1216</p>⏎
 217<hr size="4">⏎143 
 218</body>⏎144 
 219</HTML>⏎145 
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