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 1<HTML>⏎1 
 2<HEAD>⏎2 
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 5<meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎5 
 6<TITLE>初音(大島本)</TITLE>⏎6 
 7</HEAD>⏎7 
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First updated 9/20/1996(ver.1-1)<BR>⏎
8<BODY>⏎
cd3:210-12Last updated 11/22/2009(ver.2-2)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)<BR>⏎
<P
>⏎
9-10<ADDRESS>Last updated 11/22/2009(ver.2-2)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)</ADDRESS>⏎
 13  <H3>初音</H3>⏎11 
d114<P>⏎
 15光る源氏の太政大臣時代三十六歳の新春正月の物語<BR>⏎12 
d116<P>⏎
 17 [主要登場人物]<BR>⏎13 
 18<DL>⏎14 
 19<DT> 光る源氏<ひかるげんじ><BR>⏎15 
 20<DD>呼称---大臣の君・大臣・殿、三十六歳<BR>⏎16 
 21<DT> 夕霧<ゆうぎり><BR>⏎17 
 22<DD>呼称---殿の中将の君・中将の君・中将、光る源氏の長男<BR>⏎18 
 23<DT> 紫の上<むらさきのうえ><BR>⏎19 
 24<DD>呼称---上、源氏の正妻<BR>⏎20 
 25<DT> 玉鬘<たまかづら><BR>⏎21 
 26<DD>呼称---西の対の姫君、内大臣の娘<BR>⏎22 
 27<DT> 内大臣<ないだいじん>⏎23 
 28<DD>呼称---内の大臣<BR>⏎24 
 29<DT> 花散里<はなちるさと><BR>⏎25 
 30<DD>呼称---花散里<BR>⏎26 
 31<DT> 明石の御方<あかしのおほんかた><BR>⏎27 
 32<DD>呼称---明石の御方・北のおとど<BR>⏎28 
 33<DT> 末摘花<すえつむはな><BR>⏎29 
 34<DD>呼称---常陸宮の御方の娘<BR>⏎30 
 35<DT> 冷泉帝<れいぜいてい><BR>⏎31 
 36<DD>呼称---内裏<BR>⏎32 
 37</DL>⏎33 
d138<P>⏎
 39第一章 光る源氏の物語 新春の六条院の女性たち<BR>⏎34 
 40<OL>⏎35 
 41<LI>春の御殿の紫の上の周辺---<A HREF="#in11">年立ちかへる朝の空のけしき</A>⏎36 
 42<LI>明石姫君、実母と和歌を贈答---<A HREF="#in12">姫君の御方に渡りたまへれば</A>⏎37 
 43<LI>夏の御殿の花散里を訪問---<A HREF="#in13">夏の御住まひを見たまへば</A>⏎38 
 44<LI>続いて玉鬘を訪問---<A HREF="#in14">まだいたくも住み馴れたまはぬ</A>⏎39 
 45<LI>冬の御殿の明石御方に泊まる---<A HREF="#in15">暮れ方になるほどに、明石の御方に</A>⏎40 
 46<LI>六条院の正月二日の臨時客---<A HREF="#in16">今日は、臨時客のことに紛らはしてぞ</A>⏎41 
 47</OL>⏎42 
 48第二章 光る源氏の物語 二条東院の女性たちの物語<BR>⏎43 
 49<OL>⏎44 
 50<LI>二条東院の末摘花を訪問---<A HREF="#in21">かうののしる馬車の音を</A>⏎45 
 51<LI>続いて空蝉を訪問---<A HREF="#in22">空蝉の尼衣にも、さしのぞきたまへり</A>⏎46 
 52</OL>⏎47 
 53第三章 光る源氏の物語 男踏歌<BR>⏎48 
 54<OL>⏎49 
 55<LI>男踏歌、六条院に回り来る---<A HREF="#in31">今年は男踏歌あり</A>⏎50 
 56<LI>源氏、踏歌の後宴を計画す---<A HREF="#in32">夜明け果てぬれば</A>⏎51 
 57</OL>⏎52 
d158<P>⏎
 59<A HREF="#in41">【出典】</A><BR>⏎53 
 60<A HREF="#in42">【校訂】</A><BR>⏎54 
d161<P>⏎
text2362 <H4>第一章 光る源氏の物語 新春の六条院の女性たち</H4>55 
text2363 <A NAME="in11">[第一段 春の御殿の紫の上の周辺]</A><BR>56 
d164<P>⏎
cd2:165-66 <A HREF="#no1">年立ちかへる</A><A NAME="te1">朝</A>の空のけしき、名残なく曇らぬうららかげさには、<A HREF="#no2">数ならぬ垣根</A><A NAME="te2">の</A>うちだに、雪間の草若やかに色づきはじめ、いつしかとけしきだつ霞に、木の芽もうちけぶり、おのづから人の心ものびらかにぞ見ゆるかし。ましていとど玉を敷ける御前の、庭よりはじめ見所多く、磨きましたまへる<A HREF="#k01">御方々のありさま</A><A NAME="t01">、</A>まねびたてむも言の葉足るまじくなむ。<BR>⏎
<P>⏎
57 <A HREF="#no1">年立ちかへる</A><A NAME="te1">朝</A>の空のけしき、名残なく曇らぬうららかげさには、<A HREF="#no2">数ならぬ垣根</A><A NAME="te2">の</A>うちだに、雪間の草若やかに色づきはじめ、いつしかとけしきだつ霞に、木の芽もうちけぶり、おのづから人の心ものびらかにぞ見ゆるかし。ましていとど玉を敷ける御前の、庭よりはじめ見所多く、磨きましたまへる<A HREF="#k01">御方々のありさま</A><A NAME="t01">、</A>まねびたてむも言の葉足るまじくなむ。<BR>⏎
 67 春の御殿の御前、とりわきて、梅の香も御簾のうちの匂ひに吹きまがひ、生ける仏の御国とおぼゆ。さすがにうちとけて、やすらかに住みなしたまへり。さぶらふ人びとも、若やかにすぐれたるは、姫君の御方にと選りたまひて、すこし大人びたる限り、なかなかよしよししく、装束ありさまよりはじめて、<A HREF="#k02">めやすく</A><A NAME="t02">も</A>てつけて、ここかしこに群れゐつつ、歯固めの祝ひして、餅鏡をさへ取り混ぜて、<A HREF="#no3">千年の蔭</A><A NAME="te3">に</A>しるき年のうちの祝ひ事どもして、そぼれあへるに、大臣の君さしのぞきたまへれば、懐手ひきなほしつつ、「いとはしたなきわざかな」と、わびあへり。<BR>⏎58 
d168<P>⏎
 69 「いとしたたかなるみづからの祝ひ事<A HREF="#k03">どもかな</A><A NAME="t03">。</A>皆おのおの思ふことの道々あらむかし。すこし聞かせよや。われことぶきせむ」<BR>⏎59 
d170<P>⏎
 71 とうち笑ひたまへる<A HREF="#k04">御ありさまを</A><A NAME="t04">、</A>年のはじめの栄えに見たてまつる。われはと思ひあがれる中将の君ぞ、<BR>⏎60 
d172<P>⏎
 73 「『<A HREF="#no4">かねてぞ見ゆる</A><A NAME="te4">』</A>などこそ、鏡の影にも語らひはんべりつれ。私の祈りは、何ばかりのことをか」<BR>⏎61 
d174<P>⏎
 75 など聞こゆ。<BR>⏎62 
d176<P>⏎
 77 朝のほどは人びと参り混みて、もの騒がしかりけるを、夕つ方、御方々の参座したまはむとて、心ことにひきつくろひ、化粧じたまふ御影こそ、げに見るかひあめれ。<BR>⏎63 
d178<P>⏎
 79 「今朝、この人びとの戯れ交はしつる、いとうらやましく見えつるを、上にはわれ見せたてまつらむ」<BR>⏎64 
d180<P>⏎
cd12:581-92 とて乱れたる事どもすこしうち混ぜつつ、祝ひきこえたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 「薄氷解けぬる池の鏡には<BR>⏎
  世に曇りなき影ぞ並べる」<BR>⏎
<P>⏎
 げにめでたき御あはひどもなり。<BR>⏎
<P>⏎
 「曇りなき池の鏡によろづ代を<BR>⏎
  すむべき影ぞしるく見えける」<BR>⏎
<P>⏎
 何事につけても、末遠き御契りを、あらまほしく聞こえ交はしたまふ。今日は子の日なりけり。げに<A HREF="#no5">千年の春をかけて</A><A NAME="te5">祝</A>はむに、ことわりなる日なり。<BR>⏎
<P>⏎
65-69 とて乱れたる事どもすこしうち混ぜつつ、祝ひきこえたまふ。<BR>⏎
 「薄氷解けぬる池の鏡には<BR>  世に曇りなき影ぞ並べる」<BR>⏎
 げにめでたき御あはひどもなり。<BR>⏎
 「曇りなき池の鏡によろづ代を<BR>  すむべき影ぞしるく見えける」<BR>⏎
 何事につけても、末遠き御契りを、あらまほしく聞こえ交はしたまふ。今日は子の日なりけり。げに<A HREF="#no5">千年の春をかけて</A><A NAME="te5">祝</A>はむに、ことわりなる日なり。<BR>⏎
text2393 <A NAME="in12">[第二段 明石姫君、実母と和歌を贈答]</A><BR>70 
d194<P>⏎
 95 姫君の御方に渡りたまへれば、童女、下仕へなど、御前の山の小松引き遊ぶ。若き人びとの心地ども、おきどころなく見ゆ。北の御殿より、わざとがましくし集めたる鬚籠ども、破籠などたてまつれたまへり。えならぬ五葉の枝に移る鴬も、思ふ心あらむかし。<BR>⏎71 
d196<P>⏎
cd2:197-98 「年月を<A HREF="#no6">松にひかれて</A><A NAME="te6">経</A>る人に<BR>⏎
  今日鴬の初音聞かせよ<BR>⏎
72 「年月を<A HREF="#no6">松にひかれて</A><A NAME="te6">経</A>る人に<BR>  今日鴬の初音聞かせよ<BR>⏎
 99 『<A HREF="#no7">音せぬ里の</A><A NAME="te7">』</A>」<BR>⏎73 
d1100<P>⏎
cd2:1101-102 と聞こえたまへるを、「げにあはれ」と思し知る。言忌もえしあへたまはぬけしきなり。<BR>⏎
<P>⏎
74 と聞こえたまへるを、「げにあはれ」と思し知る。言忌もえしあへたまはぬけしきなり。<BR>⏎
 103 「この御返りは、みづから聞こえたまへ。初音惜しみたまふべき方にもあらずかし」<BR>⏎75 
d1104<P>⏎
cd5:2105-109 とて御硯取りまかなひ、書かせたてまつりたまふ。いとうつくしげにて、明け暮れ見たてまつる人だに、飽かず思ひきこゆる御ありさまを、今までおぼつかなき年月の隔たりにけるも、「罪得がましう、心苦し」と思す。<BR>⏎
<P>⏎
 「ひき別れ年は経れども鴬の<BR>⏎
  巣立ちし松の根を忘れめや」<BR>⏎
<P>⏎
76-77 とて御硯取りまかなひ、書かせたてまつりたまふ。いとうつくしげにて、明け暮れ見たてまつる人だに、飽かず思ひきこゆる御ありさまを、今までおぼつかなき年月の隔たりにけるも、「罪得がましう、心苦し」と思す。<BR>⏎
 「ひき別れ年は経れども鴬の<BR>  巣立ちし松の根を忘れめや」<BR>⏎
 110 幼き御心にまかせて、くだくだしくぞあめる。<BR>⏎78 
d1111<P>⏎
text23112 <A NAME="in13">[第三段 夏の御殿の花散里を訪問]</A><BR>79 
d1113<P>⏎
 114 夏の御住まひを見たまへば、時ならぬけにや、いと静かに見えて、わざと好ましきこともなくて、あてやかに住みたるけはひ見えわたる。<BR>⏎80 
 115 年月に添へて、御心の隔てもなく、あはれなる御仲なり。今は、あながちに近やかなる御ありさまも、もてなしきこえたまはざりけり。いと睦ましくありがたからむ妹背の契りばかり、<A HREF="#k05">聞こえ</A><A NAME="t05">交</A>はしたまふ。御几帳隔てたれど、すこし押しやりたまへば、またさておはす。<BR>⏎81 
d1116<P>⏎
cd2:1117-118 「縹は、げににほひ多からぬあはひにて、御髪などもいたく盛り過ぎにけり。やさしき方にあらぬと、葡萄鬘してぞつくろひたまふべき。我ならざらむ人は、見醒めしぬべき御ありさまを、かくて見るこそうれしく本意あれ。心軽き人の列にて、われに背きたまひなましかば」など、御対面の折々は、まづ「わが心の長きも、人の御心の重きをも、うれしく、思ふやうなり」<BR>⏎
<P>⏎
82 「縹は、げににほひ多からぬあはひにて、御髪などもいたく盛り過ぎにけり。やさしき方にあらぬと、葡萄鬘してぞつくろひたまふべき。我ならざらむ人は、見醒めしぬべき御ありさまを、かくて見るこそうれしく本意あれ。心軽き人の列にて、われに背きたまひなましかば」など、御対面の折々は、まづ「わが心の長きも、人の御心の重きをも、うれしく、思ふやうなり」<BR>⏎
 119 と思しけり。こまやかに、ふる年の御物語など、なつかしう聞こえたまひて、西の対へ渡りたまひぬ。<BR>⏎83 
d1120<P>⏎
text23121 <A NAME="in14">[第四段 続いて玉鬘を訪問]</A><BR>84 
d1122<P>⏎
 123 まだいたくも住み馴れたまはぬほどよりは、けはひをかしくしなして、をかしげなる童女の姿なまめかしく、人影あまたして、御しつらひ、あるべき限りなれど、こまやかなる御調度は、いとしも調へたまはぬを、さる方にものきよげに住みなしたまへり。<BR>⏎85 
d1124<P>⏎
 125 正身も、あなをかしげと、ふと見えて、山吹にもてはやしたまへる御容貌など、いとはなやかに、ここぞ曇れると見ゆるところなく、隈なく匂ひきらきらしく、見まほしきさまぞしたまへる。もの思ひに沈みたまへるほどのしわざにや、髪の裾すこし細りて、さはらかにかかれるしも、いとものきよげに、ここかしこいとけざやかなるさましたまへるを、「かくて見ざらましかば」と思すにつけても、えしも見過ぐしたまふまじ。<BR>⏎86 
d1126<P>⏎
 127 かくいと隔てなく見たてまつりなれたまへど、なほ思ふに、隔たり多くあやしきが、うつつの心地もしたまはねば、まほならずもてなしたまへるも、いとをかし。<BR>⏎87 
d1128<P>⏎
 129 「年ごろになりぬる心地して、見たてまつるにも心やすく、本意かなひぬるを、つつみなくもてなしたまひて、あなたなどにも渡りたまへかし。いはけなき初琴習ふ人もあめるを、もろともに聞きならしたまへ。うしろめたく、あはつけき心持たる人なき所なり」<BR>⏎88 
d1130<P>⏎
 131 と聞こえたまへば、<BR>⏎89 
d1132<P>⏎
 133 「のたまはせむままにこそは」<BR>⏎90 
d1134<P>⏎
 135 と聞こえたまふ。さもあることぞかし。<BR>⏎91 
d1136<P>⏎
text23137 <A NAME="in15">[第五段 冬の御殿の明石御方に泊まる]</A><BR>92 
d1138<P>⏎
 139 暮れ方になるほどに、明石の御方に渡りたまふ。近き渡殿の戸押し開くるより、御簾のうちの<A HREF="#k06">追風</A><A NAME="t06">、</A>なまめかしく吹き匂はして、ものよりことに気高く思さる。正身は見えず。いづらと見まはしたまふに、硯のあたりにぎははしく、草子どもなど取り散らしたるなど取りつつ見たまふ。唐の東京錦のことことしき端さしたる茵に、をかしげなる琴うち置き、わざとめきよしある火桶に、<A HREF="#k07">侍従を</A><A NAME="t07">く</A>ゆらかして、物ごとにしめたるに、衣被香の香のまがへる、いと艶なり。手習どもの乱れうちとけたるも、筋変はり、ゆゑある書きざまなり。ことことしう草がち<A HREF="#k08">などに</A><A NAME="t08">も</A><A HREF="#k09">され</A><A NAME="t09">書</A>かず、めやすく書きすましたり。<BR>⏎93 
d1140<P>⏎
 141 小松の御返りを、めづらしと見けるままに、<A HREF="#k10">あはれなる</A><A NAME="t10">古</A>事ども書きまぜて、<BR>⏎94 
d1142<P>⏎
cd2:1143-144 「めづらしや花のねぐらに木づたひて<BR>⏎
  谷の古巣を<A HREF="#k11">訪へる</A><A NAME="t11">鴬</A><BR>⏎
95 「めづらしや花のねぐらに木づたひて<BR>  谷の古巣を<A HREF="#k11">訪へる</A><A NAME="t11">鴬</A><BR>⏎
 145 声待ち<A HREF="#k12">出で</A><A NAME="t12">た</A>る」<BR>⏎96 
d1146<P>⏎
c1147 なども<BR>⏎
97 なども<BR>⏎
 148 「<A HREF="#no8">咲ける岡辺に家しあれば</A><A NAME="te8">」</A><BR>⏎98 
cd4:2149-152 などひき返し慰めたる筋など書きまぜつつあるを、取りて見たまひつつほほ笑みたまへる、恥づかしげなり。<BR>⏎
<P>⏎
 筆さし濡らして書きすさみたまふほどに、ゐざり出でて、さすがにみづからのもてなしは、かしこまりおきて、めやすき用意なるを、「なほ人よりはことなり」と思す。白きに、けざやかなる髪のかかりの、すこしさはらかなるほどに薄らぎにけるも、いとどなまめかしさ添ひて、なつかしければ、「新しき年の御騒がれもや」と、つつましけれど、こなたに泊りたまひぬ。「なほおぼえことなりかし」と、方々に心おきて思す。<BR>⏎
<P>⏎
99-100 などひき返し慰めたる筋など書きまぜつつあるを、取りて見たまひつつほほ笑みたまへる、恥づかしげなり。<BR>⏎
 筆さし濡らして書きすさみたまふほどに、ゐざり出でて、さすがにみづからのもてなしは、かしこまりおきて、めやすき用意なるを、「なほ人よりはことなり」と思す。白きに、けざやかなる髪のかかりの、すこしさはらかなるほどに薄らぎにけるも、いとどなまめかしさ添ひて、なつかしければ、「新しき年の御騒がれもや」と、つつましけれど、こなたに泊りたまひぬ。「なほおぼえことなりかし」と、方々に心おきて思す。<BR>⏎
 153 南の御殿には、ましてめざましがる人びとあり。まだ曙のほどに渡りたまひぬ。かうしもあるまじき夜深さぞかしと思ふに、名残もただならず、あはれに思ふ。<BR>⏎101 
 154 待ちとりたまへるはた、<A HREF="#k13">なま</A><A NAME="t13">け</A>やけしと思すべかめる心のうち、量られたまひて、<BR>⏎102 
d1155<P>⏎
 156 「あやしきうたた寝をして、若々しかりけるいぎたなさを、さしもおどろかしたまはで」<BR>⏎103 
d1157<P>⏎
cd2:1158-159 と御けしきとりたまふもをかしく見ゆ。ことなる御いらへもなければ、わづらはしくて、そら寝をしつつ、日高く御殿籠もり起きたり。<BR>⏎
<P>⏎
104 と御けしきとりたまふもをかしく見ゆ。ことなる御いらへもなければ、わづらはしくて、そら寝をしつつ、日高く御殿籠もり起きたり。<BR>⏎
text23160 <A NAME="in16">[第六段 六条院の正月二日の臨時客]</A><BR>105 
d1161<P>⏎
cd2:1162-163 今日は、<A HREF="#k14">臨時客</A><A NAME="t14">の</A>ことに紛らはしてぞ、面隠したまふ。上達部親王たちなど、例の残りなく参りたまへり。御遊びありて、引出物、禄など、二なし。そこら集ひたまへるが、我も劣らじともてなしたまへるなかにも、すこしなずらひなるだにも見えたまはぬものかな。とり放ちては、いと有職多くものしたまふころなれど、御前にては気圧されたまふも、悪しかし。何の数ならぬ下部どもなどだに、この院に参る日は、心づかひことなりけり。まして若やかなる上達部などは、思ふ心<A HREF="#k15">など</A><A NAME="t15">も</A>のしたまひて、すずろに心懸想したまひつつ、常の年よりもことなり。<BR>⏎
<P>⏎
106 今日は、<A HREF="#k14">臨時客</A><A NAME="t14">の</A>ことに紛らはしてぞ、面隠したまふ。上達部親王たちなど、例の残りなく参りたまへり。御遊びありて、引出物、禄など、二なし。そこら集ひたまへるが、我も劣らじともてなしたまへるなかにも、すこしなずらひなるだにも見えたまはぬものかな。とり放ちては、いと有職多くものしたまふころなれど、御前にては気圧されたまふも、悪しかし。何の数ならぬ下部どもなどだに、この院に参る日は、心づかひことなりけり。まして若やかなる上達部などは、思ふ心<A HREF="#k15">など</A><A NAME="t15">も</A>のしたまひて、すずろに心懸想したまひつつ、常の年よりもことなり。<BR>⏎
 164 <A HREF="#no9">花の香誘ふ夕風</A><A NAME="te9">、</A>のどやかにうち吹きたるに、御前の梅やうやうひもときて、あれは誰れ時なるに、物の調べどもおもしろく、「<A HREF="#no10">この殿</A><A NAME="te10">」</A>うち出でたる拍子、いとはなやかなり。大臣も時々声うち添へたまへる「さき草」の末つ方、いとなつかしくめでたく聞こゆ。何ごとも、さしいらへしたまふ御光にはやされて、色をも音をも増すけぢめ、ことになむ分かれける。<BR>⏎107 
d1165<P>⏎
text23166 <H4>第二章 光る源氏の物語 二条東院の女性たちの物語</H4>108 
text23167 <A NAME="in21">[第一段 二条東院の末摘花を訪問]</A><BR>109 
d1168<P>⏎
cd4:2169-172 かうののしる馬車の音を、もの<A HREF="#k16">隔てて</A><A NAME="t16">聞</A>きたまふ御方々は、蓮の中の世界に、まだ開けざらむ心地もかくやと、心やましげなり。まして東の院に離れたまへる御方々は、年月に添へて、つれづれの数のみまされど、「<A HREF="#no11">世の憂きめ見えぬ山路</A><A NAME="te11">」</A>に思ひなずらへて、つれなき人の御心をば、何とかは見たてまつりとがめむ、その他の心もとなく寂しきことはたなければ、行なひの方の人は、その紛れなく勤め、仮名のよろづの草子の学問、心に入れたまはむ人は、また願ひに従ひ、ものまめやかにはかばかしきおきてにも、ただ心の願ひに従ひたる住まひなり。騒がしき<A HREF="#k17">日ごろ</A><A NAME="t17">過</A>ぐして渡りたまへり。<BR>⏎
<P>⏎
 常陸宮の御方は、人のほどあれば、心苦しく思して、人目の飾りばかりは、いとよくもてなしきこえたまふ。いにしへ盛りと見えし御若髪も、年ごろに衰ひゆき、まして<A HREF="#no12">滝の淀み恥づかしげ</A><A NAME="te12">な</A>る御かたはらめなどを、いとほしと思せば、まほにも向かひたまはず。<BR>⏎
<P>⏎
110-111 かうののしる馬車の音を、もの<A HREF="#k16">隔てて</A><A NAME="t16">聞</A>きたまふ御方々は、蓮の中の世界に、まだ開けざらむ心地もかくやと、心やましげなり。まして東の院に離れたまへる御方々は、年月に添へて、つれづれの数のみまされど、「<A HREF="#no11">世の憂きめ見えぬ山路</A><A NAME="te11">」</A>に思ひなずらへて、つれなき人の御心をば、何とかは見たてまつりとがめむ、その他の心もとなく寂しきことはたなければ、行なひの方の人は、その紛れなく勤め、仮名のよろづの草子の学問、心に入れたまはむ人は、また願ひに従ひ、ものまめやかにはかばかしきおきてにも、ただ心の願ひに従ひたる住まひなり。騒がしき<A HREF="#k17">日ごろ</A><A NAME="t17">過</A>ぐして渡りたまへり。<BR>⏎
 常陸宮の御方は、人のほどあれば、心苦しく思して、人目の飾りばかりは、いとよくもてなしきこえたまふ。いにしへ盛りと見えし御若髪も、年ごろに衰ひゆき、まして<A HREF="#no12">滝の淀み恥づかしげ</A><A NAME="te12">な</A>る御かたはらめなどを、いとほしと思せば、まほにも向かひたまはず。<BR>⏎
 173 柳は、げにこそすさまじかりけれと見ゆるも、着なしたまへる人からなるべし。光もなく黒き掻練の、さゐさゐしく張りたる一襲、さる織物の袿着たまへる、いと寒げに心苦し。襲の<A HREF="#k18">衣</A><A NAME="t18">な</A>どは、いかにしなしたるにかあらむ。<BR>⏎112 
d1174<P>⏎
 175 <A HREF="#no13">御鼻の色ばかり、霞にも紛るまじう</A><A NAME="te13">は</A>なやかなるに、御心にもあらずうち嘆かれたまひて、ことさらに御几帳引きつくろひ隔てたまふ。なかなか、女はさしも思したらず、今は、かくあはれに長き御心のほどを、おだしきものにうちとけ頼みきこえたまへる御さま、あはれなり。<BR>⏎113 
d1176<P>⏎
 177 かかる方にも、おしなべての人ならず、いとほしく悲しき人の御さまに思せば、あはれに、我だにこそはと、御心とどめたまへるも、ありがたきぞかし。御声なども、いと寒げに、うちわななきつつ語らひきこえたまふ。見わづらひたまひて、<BR>⏎114 
d1178<P>⏎
 179 「<A HREF="#k19">御衣どもの事</A><A NAME="t19">な</A>ど、後見きこゆる人ははべりや。かく心やすき御住まひは、ただいとうちとけたるさまに、含みなえたるこそよけれ。うはべばかりつくろひたる御よそひは、あいなくなむ」<BR>⏎115 
d1180<P>⏎
 181 と聞こえたまへば、こちごちしくさすがに笑ひたまひて、<BR>⏎116 
d1182<P>⏎
 183 「醍醐の阿闍梨の君の御あつかひしはべるとて、衣どももえ縫ひはべらでなむ。皮衣をさへ取られにし後、寒くはべる」<BR>⏎117 
d1184<P>⏎
 185 と聞こえたまふは、いと鼻赤き御兄なりけり。心うつくしといひながら、あまりうちとけ過ぎたりと思せど、ここにては、いとまめにきすくの人にておはす。<BR>⏎118 
d1186<P>⏎
cd2:1187-188 「皮衣はいとよし。山伏の蓑代衣に譲りたまひてあへなむ。さてこのいたはりなき白妙の衣は、七重にも、などか<A HREF="#k20">重ね</A><A NAME="t20">た</A>まはざらむ。<A HREF="#k21">さるべき</A><A NAME="t21">折</A>々は、うち忘れたらむこともおどろかしたまへかし。もとよりおれおれしくたゆき心のおこたりに。まして方々の紛らはしき競ひにも、おのづからなむ」<BR>⏎
<P>⏎
119 「皮衣はいとよし。山伏の蓑代衣に譲りたまひてあへなむ。さてこのいたはりなき白妙の衣は、七重にも、などか<A HREF="#k20">重ね</A><A NAME="t20">た</A>まはざらむ。<A HREF="#k21">さるべき</A><A NAME="t21">折</A>々は、うち忘れたらむこともおどろかしたまへかし。もとよりおれおれしくたゆき心のおこたりに。まして方々の紛らはしき競ひにも、おのづからなむ」<BR>⏎
 189 とのたまひて、向かひの院の御倉開けさせたまひて、絹、綾などたてまつらせたまふ。<BR>⏎120 
d1190<P>⏎
 191 荒れたる所もなけれど、住みたまはぬ所のけはひは静かにて、御前の木立ばかりぞいとおもしろく、紅梅の咲き出でたる匂ひなど、見はやす人もなきを見わたしたまひて、<BR>⏎121 
d1192<P>⏎
cd3:1193-195 「ふるさとの春の梢に訪ね来て<BR>⏎
  世の常ならぬ花を見るかな」<BR>⏎
<P>⏎
122 「ふるさとの春の梢に訪ね来て<BR>  世の常ならぬ花を見るかな」<BR>⏎
 196 と独りごちたまへど、聞き知りたまはざりけむかし。<BR>⏎123 
d1197<P>⏎
text23198 <A NAME="in22">[第二段 続いて空蝉を訪問]</A><BR>124 
d1199<P>⏎
 200 空蝉の尼衣にも、さしのぞきたまへり。うけばりたるさまにはあらず、かごやかに局住みにしなして、仏ばかりに所得させたてまつりて、行なひ勤めけるさまあはれに見えて、<A HREF="#k22">経</A><A NAME="t22">、</A>仏の御飾り、はかなくしたる閼伽の具なども、をかしげになまめかしう、なほ心ばせありと見ゆる人のけはひなり。<BR>⏎125 
 201 青鈍の几帳、心ばへをかしきに、いたくゐ隠れて、袖口ばかりぞ色ことなるしもなつかしければ、涙ぐみたまひて、<BR>⏎126 
d1202<P>⏎
 203 「『<A HREF="#no14">松が浦島</A><A NAME="te14">』</A>をはるかに思ひてぞやみぬべかりける。昔より心憂かりける御契りかな。さすがにかばかりの<A HREF="#k23">御睦び</A><A NAME="t23">は</A>、絶ゆまじかりけるよ」<BR>⏎127 
d1204<P>⏎
 205 などのたまふ。尼君も、ものあはれなるけはひにて、<BR>⏎128 
d1206<P>⏎
 207 「かかる方に頼みきこえさするしもなむ、浅くはあらず思ひたまへ知られ<A HREF="#k24">はべり</A><A NAME="t24">け</A>る」<BR>⏎129 
d1208<P>⏎
 209 と聞こゆ。<BR>⏎130 
d2210-211
<P>⏎
 212 「つらき折々重ねて、心惑はしたまひし世の報いなどを、仏にかしこまりきこゆるこそ苦しけれ。思し知るや。かくいと素直にもあらぬものをと、思ひ合はせたまふこともあらじやはと<A HREF="#k25">なむ思ふ」<BR>⏎131 
cd5:1213-217</A>⏎
<p><A HREF="#k25"> と</A></p>⏎
<P
><A NAME="t25">の</A>たまふ。「かのあさましかりし世の古事を聞き置きたまへるなめり」と、恥づかしく、<BR>⏎

<P>⏎
132 と</A><A NAME="t25">の</A>たまふ。「かのあさましかりし世の古事を聞き置きたまへるなめり」と、恥づかしく、<BR>⏎
 218 「かかるありさまを御覧じ果てらるるよりほかの報いは、いづくにかはべらむ」<BR>⏎133 
d2219-220
<P>⏎
cd3:1221-223 とてまことにうち泣きぬ。いにしへよりももの深く恥づかしげさまさりて、かくもて離れたること、と思すしも、見放ちがたく思さるれど、はかなきことをのたまひかくべくもあらず、おほかたの昔今の物語をしたまひて、「かばかりの言ふかひだにあれかし」と、あなたを見やりたまふ。<BR>⏎

<P>⏎
134 とてまことにうち泣きぬ。いにしへよりももの深く恥づかしげさまさりて、かくもて離れたること、と思すしも、見放ちがたく思さるれど、はかなきことをのたまひかくべくもあらず、おほかたの昔今の物語をしたまひて、「かばかりの言ふかひだにあれかし」と、あなたを見やりたまふ。<BR>⏎
 224 かやうにても、御蔭に隠れたる人びと多かり。皆さしのぞきわたしたまひて、<BR>⏎135 
d2225-226
<P>⏎
 227 「おぼつかなき日数つもる折々あれど、心のうちはおこたらずなむ。ただ<A HREF="#no15">限りある道の別れ</A><A NAME="te15">の</A>みこそうしろめたけれ。『<A HREF="#no16">命を知らぬ</A><A NAME="te16">』</A>」<BR>⏎136 
d2228-229
<P>⏎
cd4:1230-233 などなつかしくのたまふ。いづれをも、ほどほどにつけてあはれと思したり。我はと思しあがりぬべき御身のほどなれど、さしもことことしくもてなしたまはず、所につけ、人のほどにつけつつ、さまざま<A HREF="#k26">あまねく</A><A NAME="t26">な</A>つかしくおはしませば、ただかばかりの御心にかかりてなむ、多くの人びと年を経ける。<BR>⏎

<P>⏎

137 などなつかしくのたまふ。いづれをも、ほどほどにつけてあはれと思したり。我はと思しあがりぬべき御身のほどなれど、さしもことことしくもてなしたまはず、所につけ、人のほどにつけつつ、さまざま<A HREF="#k26">あまねく</A><A NAME="t26">な</A>つかしくおはしませば、ただかばかりの御心にかかりてなむ、多くの人びと年を経ける。<BR>⏎
text23234<H4>第三章 光る源氏の物語 男踏歌</H4>138 
text23235 <A NAME="in31">[第一段 男踏歌、六条院に回り来る]</A><BR>139 
d1236<P>⏎
 237 今年は男踏歌あり。内裏より朱雀院に参りて、次にこの院に参る。道のほど遠くなどして、夜明け方になりにけり。月の曇りなく澄みまさりて、薄雪すこし降れる庭のえならぬに、殿上人なども、物の上手多かるころほひにて、笛の音もいとおもしろう吹き立てて、この御前はことに心づかひしたり。御方々物見に渡りたまふべく、かねて御消息どもありければ、左右の対、渡殿などに、御局しつつおはさす。<BR>⏎140 
d1238<P>⏎
 239 西の対の姫君は、寝殿の南の御方に渡りたまひて、こなたの姫君に御対面ありけり。上も一所におはしませば、御几帳ばかり隔てて聞こえたまふ。<BR>⏎141 
d1240<P>⏎
 241 朱雀院の后の御方などめぐりけるほどに、夜もやうやう明けゆけば、水駅にてこと削がせたまふべきを、例あることより、ほかにさまことに加へて、いみじくもてはやさせたまふ。<BR>⏎142 
d1242<P>⏎
 243 影すさまじき暁月夜に、雪はやうやう降り積む。松風木高く吹きおろし、ものすさまじくもありぬべきほどに、青色のなえばめるに、白襲の色あひ、何の飾りかは見ゆる。<BR>⏎143 
 244 插頭の綿は、何の匂ひもなきものなれど、所からにやおもしろく、心ゆき、命延ぶるほどなり。<BR>⏎144 
 245 殿の中将の君、内の大殿の君達ぞ、ことにすぐれてめやすくはなやかなる。<BR>⏎145 
d1246<P>⏎
 247 ほのぼのと明けゆくに、雪やや散りて、そぞろ寒きに、「<A HREF="#no17">竹河</A><A NAME="te17">」</A>謡ひて、かよれる姿、なつかしき声々の、<A HREF="#k27">絵にも</A><A NAME="t27">描</A>きとどめがたからむこそ口惜しけれ。<BR>⏎146 
d1248<P>⏎
 249 御方々、いづれもいづれも劣らぬ袖口ども、こぼれ出でたるこちたさ、物の色あひなども、曙の空に、<A HREF="#no18">春の錦</A><A NAME="te18">た</A>ち出でにける霞の<A HREF="#k28">うち</A><A NAME="t28">か</A>と見えわたさる。あやしく心のうちゆく見物にぞありける。<BR>⏎147 
d1250<P>⏎
cd2:1251-252 さるは<A HREF="#k29">高巾子</A><A NAME="t29">の</A>世<A HREF="#k30">離れ</A><A NAME="t30">た</A>るさま、寿詞の乱りがはしき、をこめきたることを、ことことしくとりなしたる、なかなか何ばかりのおもしろかるべき<A HREF="#k31">拍子も</A><A NAME="t31">聞</A>こえぬものを。例の、綿かづきわたりてまかでぬ。<BR>⏎
<P>⏎
148 さるは<A HREF="#k29">高巾子</A><A NAME="t29">の</A>世<A HREF="#k30">離れ</A><A NAME="t30">た</A>るさま、寿詞の乱りがはしき、をこめきたることを、ことことしくとりなしたる、なかなか何ばかりのおもしろかるべき<A HREF="#k31">拍子も</A><A NAME="t31">聞</A>こえぬものを。例の、綿かづきわたりてまかでぬ。<BR>⏎
text23253 <A NAME="in32">[第二段 源氏、踏歌の後宴を計画す]</A><BR>149 
d1254<P>⏎
 255 夜明け果てぬれば、御方々<A HREF="#k32">帰りわたりたまひぬ</A><A NAME="t32">。</A>大臣の君、すこし御殿籠もりて、日高く起きたまへり。<BR>⏎150 
d1256<P>⏎
 257 「中将の声は、弁少将にをさをさ劣らざめるは。あやしう有職ども生ひ出づるころほひにこそあれ。いにしへの人は、まことにかしこき方やすぐれたることも多かりけむ、情けだちたる筋は、このころの人にえしもまさらざりけむかし。中将などをば、すくすくしき朝廷人にしなしてむとなむ思ひおきてし、みづからのいとあざればみたるかたくなしさを、もて離れよと思ひしかども、なほ下にはほの好きたる筋の心をこそとどむべかめれ。もてしづめ、すくよかなるうはべばかりは、<A HREF="#k33">うるさか</A><A NAME="t33">め</A>り」<BR>⏎151 
d1258<P>⏎
cd2:1259-260 などいとうつくしと思したり。「万春楽」と、御口ずさみにのたまひて、<BR>⏎
<P>⏎
152 などいとうつくしと思したり。「万春楽」と、御口ずさみにのたまひて、<BR>⏎
 261 「人びとのこなたに集ひたまへるついでに、いかで物の音こころみてしがな。私の後宴すべし」<BR>⏎153 
d1262<P>⏎
 263 とのたまひて、御琴どもの、うるはしき袋どもして秘めおかせたまへる、皆引き出でて、おし拭ひ、ゆるべる緒、調へさせたまひなどす。御方々、心づかひいたくしつつ、<A HREF="#k34">心懸想</A><A NAME="t34">を</A>尽くしたまふらむかし。<BR>⏎154 
d2264-265
<P>⏎
text23266 <a name="in41">【出典】<BR>155 
c1267</a><A NAME="no1">出典1</A> あらたまの年立ち返る朝より待たるるものは鴬の声(拾遺集春-五 素性法師)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
156<A NAME="no1">出典1</A> あらたまの年立ち返る朝より待たるるものは鴬の声(拾遺集春-五 素性法師)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
 268<A NAME="no2">出典2</A> 野辺見れば若菜摘みけりむべしこそ垣根の草も春めきにけれ(拾遺集春-一九 紀貫之)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR>⏎157 
 269<A NAME="no3">出典3</A> 万代を松にぞ君を祝ひつる千歳の蔭に住まむと思へば(古今集賀-三五六 素性法師)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR>⏎158 
 270<A NAME="no4">出典4</A> 近江のや鏡の山を立てたればかねてぞ見ゆる君が千歳は(古今集神遊歌-一〇八六 大伴黒主)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR>⏎159 
 271<A NAME="no5">出典5</A> 千歳まで限れる松も今日よりは君に引かれて万代を経む(拾遺集春-二四 大中臣能宣)<A HREF="#te5">(戻)</A><BR>⏎160 
 272<A NAME="no6">出典6</A> 松の上に鳴く鴬の声をこそは初音の日とはいふべかりけれ(拾遺集春-二二 宮内)<A HREF="#te6">(戻)</A><BR>⏎161 
 273<A NAME="no7">出典7</A> 今日だにも初音聞かせよ鴬の音せぬ里はあるかひもなし(源氏釈所引、出典未詳)<A HREF="#te7">(戻)</A><BR>⏎162 
 274<A NAME="no8">出典8</A> 梅の花咲ける岡辺に家しあればともしくもあらず鴬の声(古今六帖六-四三八五)<A HREF="#te8">(戻)</A><BR>⏎163 
 275<A NAME="no9">出典9</A> 花の香を風の便りにたぐへてぞ鴬誘ふしるべにはやる(古今集春上-一三 紀友則)山風の花の香誘ふ麓には春の霞ぞほだしなりける(後撰集春中-七三 藤原興風)<A HREF="#te9">(戻)</A><BR>⏎164 
 276<A NAME="no10">出典10</A> この殿は もべも むべも富みけり 三枝の あはれ 三枝の はれ 三つ葉 四つ葉の中に 殿造りせりや 殿造りせりや(催馬楽-この殿は)<A HREF="#te10">(戻)</A><BR>⏎165 
 277<A NAME="no11">出典11</A> 世の憂きめ見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそほだしなりけれ(古今集雑下-九五五 物部吉名)<A HREF="#te11">(戻)</A><BR>⏎166 
 278<A NAME="no12">出典12</A> 落ちたぎつ滝の水上年積もり老いにけらしな黒き筋なし(古今集雑上-九二八 壬生忠岑)<A HREF="#te12">(戻)</A><BR>⏎167 
 279<A NAME="no13">出典13</A> 浅緑野辺の霞はつつめどもこぼれて匂ふ花桜かな(拾遺集春-四〇 読人しらず)<A HREF="#te13">(戻)</A><BR>⏎168 
 280<A NAME="no14">出典14</A> 音に聞く松が浦島今日ぞ見るむべも心ある海人は住みけり(後撰集雑一-一〇九三 素性法師)<A HREF="#te14">(戻)</A><BR>⏎169 
 281<A NAME="no15">出典15</A> 限りある別れのみこそ悲しけれ誰も命を空に知らねば(異本紫明抄所引、出典未詳)<A HREF="#te15">(戻)</A><BR>⏎170 
 282<A NAME="no16">出典16</A> 長らへむ命ぞ知らぬ忘れじと思ふ心は身に添はりつつ(信明集-五〇)<A HREF="#te16">(戻)</A><BR>⏎171 
 283<A NAME="no17">出典17</A> 竹河の 橋の詰めなるや 橋の詰めなるや 花園に はれ 我をば放てや 我をば放てや 少女伴へて(催馬楽-竹河)<A HREF="#te17">(戻)</A><BR>⏎172 
 284<A NAME="no18">出典18</A> 見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける(古今集春上-五六 素性法師)<A HREF="#te18">(戻)</A><BR>⏎173 
d1285
text23286<p> <a name="in42">【校訂】<BR>174 
 287備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△<BR>⏎175 
c1288</a><A NAME="k01">校訂1</A> 御方々のありさま--御かた/\の御まへの(御まへの/$)ありさまとも(とも/$)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
176<A NAME="k01">校訂1</A> 御方々のありさま--御かた/\の御まへの(御まへの/$)ありさまとも(とも/$)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
 289<A NAME="k02">校訂2</A> めやすく--(/+めやすく)<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎177 
 290<A NAME="k03">校訂3</A> どもかな--とも(も/+かな)<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎178 
 291<A NAME="k04">校訂4</A> 御ありさまを--御(御/+あり<朱>)さま(ま/+を<朱>)<A HREF="#t04">(戻)</A><BR>⏎179 
 292<A NAME="k05">校訂5</A> 聞こえ--き(き/+こえ)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR>⏎180 
 293<A NAME="k06">校訂6</A> 追風--上(上/$追<朱>)風<A HREF="#t06">(戻)</A><BR>⏎181 
 294<A NAME="k07">校訂7</A> 侍従を--侍従(従/+を<朱>)<A HREF="#t07">(戻)</A><BR>⏎182 
 295<A NAME="k08">校訂8</A> などに--なと(と/+に<朱>)<A HREF="#t08">(戻)</A><BR>⏎183 
 296<A NAME="k09">校訂9</A> され--さえ(え/$れ<朱>)<A HREF="#t09">(戻)</A><BR>⏎184 
 297<A NAME="k10">校訂10</A> あはれなる--あはれ(れ/+な)る<A HREF="#t10">(戻)</A><BR>⏎185 
 298<A NAME="k11">校訂11</A> 訪へる--とつ(つ/$へ<朱>)る<A HREF="#t11">(戻)</A><BR>⏎186 
 299<A NAME="k12">校訂12</A> 出で--て(て/$出<朱>)<A HREF="#t12">(戻)</A><BR>⏎187 
 300<A NAME="k13">校訂13</A> なま--なさ(さ/$ま<朱>)<A HREF="#t13">(戻)</A><BR>⏎188 
 301<A NAME="k14">校訂14</A> 臨時客--りひ(ひ/$む<朱>)しかく<A HREF="#t14">(戻)</A><BR>⏎189 
 302<A NAME="k15">校訂15</A> など--なとの(の/$<朱>)<A HREF="#t15">(戻)</A><BR>⏎190 
 303<A NAME="k16">校訂16</A> 隔てて--へたて(て/+て)<A HREF="#t16">(戻)</A><BR>⏎191 
 304<A NAME="k17">校訂17</A> 日ごろ--日かす(かす/$ころ<朱>)<A HREF="#t17">(戻)</A><BR>⏎192 
 305<A NAME="k18">校訂18</A> 衣--うちき(うちき/$きぬ)<A HREF="#t18">(戻)</A><BR>⏎193 
 306<A NAME="k19">校訂19</A> 御衣どもの事--御そ(そ/+と<朱>)もの(の/+事<朱>)<A HREF="#t19">(戻)</A><BR>⏎194 
 307<A NAME="k20">校訂20</A> 重ね--*かね<A HREF="#t20">(戻)</A><BR>⏎195 
 308<A NAME="k21">校訂21</A> さるべき--さ(さ/+る)へき<A HREF="#t21">(戻)</A><BR>⏎196 
 309<A NAME="k22">校訂22</A> 経--(/+経<朱>)<A HREF="#t22">(戻)</A><BR>⏎197 
 310<A NAME="k23">校訂23</A> 御睦び--(/+御<朱>)むつひ<A HREF="#t23">(戻)</A><BR>⏎198 
 311<A NAME="k24">校訂24</A> はべり--(/+侍<朱>)<A HREF="#t24">(戻)</A><BR>⏎199 
 312<A NAME="k25">校訂25</A> なむ思ふ」と--なむ?(?/#)おもふたのむと(たのむと/$と<朱>)<A HREF="#t25">(戻)</A><BR>⏎200 
 313<A NAME="k26">校訂26</A> あまねく--(/+あ)まねく<A HREF="#t26">(戻)</A><BR>⏎201 
 314<A NAME="k27">校訂27</A> 絵にも--ゑに(に/+も<朱>)<A HREF="#t27">(戻)</A><BR>⏎202 
 315<A NAME="k28">校訂28</A> うち--なか(なか/$うち)<A HREF="#t28">(戻)</A><BR>⏎203 
 316<A NAME="k29">校訂29</A> 高巾子--かうこむ(む/#)し<A HREF="#t29">(戻)</A><BR>⏎204 
 317<A NAME="k30">校訂30</A> 離れ--はなれ一本かうかしのいともよはなれ(一本かうかしのいともよはなれ/$<朱>)<A HREF="#t30">(戻)</A><BR>⏎205 
 318<A NAME="k31">校訂31</A> 拍子も--ひやうしに(に/$<朱>)も<A HREF="#t31">(戻)</A><BR>⏎206 
 319<A NAME="k32">校訂32</A> 帰りわたりたまひぬ--え(え/$<朱>)かへり(り/+わたり<朱>)給はす(はす/$ひぬ<朱>)<A HREF="#t32">(戻)</A><BR>⏎207 
 320<A NAME="k33">校訂33</A> うるさか--うるせ(せ/$さ<朱>)か<A HREF="#t33">(戻)</A><BR>⏎208 
 321<A NAME="k34">校訂34</A> 心懸想--心(心/+けさう)<A HREF="#t34">(戻)</A><BR>⏎209 
d1322</p>⏎
 323<p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR>⏎210 
 324<a href="roman23.html">ローマ字版 </a><BR>⏎211 
 325<a href="version23.html">現代語訳 </a><BR>⏎212 
 326<a href="note23.html">注釈</a><BR>⏎213 
 327<a href="data23.html">大島本</a><BR>⏎214 
 328<a href="okuiri23.html">自筆本奥入</a><BR>⏎215 
d1329</p>⏎
 330<hr size="4">⏎216 
 331</body>⏎217 
 332</HTML>⏎218 
i0220