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 1<HTML>⏎1 
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 5<meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎5 
 6<TITLE>野分(大島本)</TITLE>⏎6 
 7</HEAD>⏎7 
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First updated 9/20/1996(ver.1-1)<BR>⏎
8<BODY>⏎
cd3:210-12Last updated 9/21/2010(ver.2-3)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)<BR>⏎
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>⏎
9-10<ADDRESS>Last updated 9/21/2010(ver.2-3)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)</ADDRESS>⏎
 13  <H3>野分</H3>⏎11 
d114<P>⏎
 15光る源氏の太政大臣時代三十六歳の秋野分の物語<BR>⏎12 
d116<P>⏎
 17 [主要登場人物]<BR>⏎13 
 18<DL>⏎14 
 19<DT> 光る源氏<ひかるげんじ><BR>⏎15 
 20<DD>呼称---大臣・殿、三十六歳<BR>⏎16 
 21<DT> 夕霧<ゆうぎり><BR>⏎17 
 22<DD>呼称---中将の君・中将・朝臣・君、光る源氏の長男<BR>⏎18 
 23<DT> 玉鬘<たまかづら><BR>⏎19 
 24<DD>呼称---西の対・女君・女、内大臣の娘<BR>⏎20 
 25<DT> 内大臣<ないだいじん>⏎21 
 26<DD>呼称---父の大臣・内の大殿<BR>⏎22 
 27<DT> 雲井雁<くもいのかり><BR>⏎23 
 28<DD>呼称---姫君<BR>⏎24 
 29<DT> 秋好中宮<あきこのむちゅうぐう><BR>⏎25 
 30<DD>呼称---中宮・宮<BR>⏎26 
 31<DT> 紫の上<むらさきのうえ><BR>⏎27 
 32<DD>呼称---南の上・女君・女<BR>⏎28 
 33<DT> 花散里<はなちるさと><BR>⏎29 
 34<DD>呼称---東の御方・東の町<BR>⏎30 
 35<DT> 明石御方<あかしのおおんかた><BR>⏎31 
 36<DD>呼称---明石の御方・北の御殿<BR>⏎32 
 37<DT> 明石姫君<あかしのひめぎみ><BR>⏎33 
 38<DD>呼称---姫君<BR>⏎34 
 39<DT> 大宮<おおみや><BR>⏎35 
 40<DD>呼称---祖母宮・宮<BR>⏎36 
 41</DL>⏎37 
d142<P>⏎
 43第一章 夕霧の物語 継母垣間見の物語<BR>⏎38 
 44<OL>⏎39 
 45<LI>八月野分の襲来---<A HREF="#in11">中宮の御前に、秋の花を植ゑさせたまへること</A>⏎40 
 46<LI>夕霧、紫の上を垣間見る---<A HREF="#in12">南の御殿にも、前栽つくろはせたまひける折にしも</A>⏎41 
 47<LI>夕霧、三条宮邸へ赴く---<A HREF="#in13">人びと参りて、「いといかめしう吹きぬべき風にはべり</A>⏎42 
 48<LI>夕霧、暁方に六条院へ戻る---<A HREF="#in14">暁方に風すこししめりて、村雨のやうに降り出づ</A>⏎43 
 49<LI>源氏、夕霧と語る---<A HREF="#in15">御格子を御手づから引き上げたまへば</A>⏎44 
 50<LI>夕霧、中宮を見舞う---<A HREF="#in16">中将下りて、中の廊の戸より通りて、参りたまふ</A>⏎45 
 51</OL>⏎46 
 52第二章 光源氏の物語 六条院の女方を見舞う物語<BR>⏎47 
 53<OL>⏎48 
 54<LI>源氏、中宮を見舞う---<A HREF="#in21">南の御殿には、御格子参りわたして、昨夜</A>⏎49 
 55<LI>源氏、明石御方を見舞う---<A HREF="#in22">こなたより、やがて北に通りて、明石の御方を</A>⏎50 
 56<LI>源氏、玉鬘を見舞う---<A HREF="#in23">西の対には、恐ろしと思ひ明かしたまひける</A>⏎51 
 57<LI>夕霧、源氏と玉鬘を垣間見る---<A HREF="#in24">中将、いとこまやかに聞こえたまふを</A>⏎52 
 58<LI>源氏、花散里を見舞う---<A HREF="#in25">東の御方へ、これよりぞ渡りたまふ</A>⏎53 
 59</OL>⏎54 
 60第三章 夕霧の物語 幼恋の物語<BR>⏎55 
 61<OL>⏎56 
 62<LI>夕霧、雲井雁に手紙を書く---<A HREF="#in31">むつかしき方々めぐりたまふ御供に歩きて</A>⏎57 
 63<LI>夕霧、明石姫君を垣間見る---<A HREF="#in32">渡らせたまふとて、人々うちそよめき</A>⏎58 
 64<LI>内大臣、大宮を訪う---<A HREF="#in33">祖母宮の御もとにも参りたまへれば</A>⏎59 
 65</OL>⏎60 
d166<P>⏎
 67<A HREF="#in41">【出典】</A><BR>⏎61 
 68<A HREF="#in42">【校訂】</A><BR>⏎62 
d169<P>⏎
text2870 <H4>第一章 夕霧の物語 継母垣間見の物語</H4>63 
text2871 <A NAME="in11">[第一段 八月野分の襲来]</A><BR>64 
d172<P>⏎
cd2:173-74 中宮の御前に、秋の花を植ゑさせたまへること、常の年よりも見所多く、色種を尽くして、よしある黒木赤木の籬を結ひまぜつつ、同じき花の枝ざし姿、朝夕露の光も世の常ならず、<A HREF="#no1">玉かとかかやきて</A><A NAME="te1">作</A>りわたせる野辺の色を見るに、はた春の山も忘られて、涼しうおもしろく、心もあくがるるやうなり。<BR>⏎
<P>⏎
65 中宮の御前に、秋の花を植ゑさせたまへること、常の年よりも見所多く、色種を尽くして、よしある黒木赤木の籬を結ひまぜつつ、同じき花の枝ざし姿、朝夕露の光も世の常ならず、<A HREF="#no1">玉かとかかやきて</A><A NAME="te1">作</A>りわたせる野辺の色を見るに、はた春の山も忘られて、涼しうおもしろく、心もあくがるるやうなり。<BR>⏎
 75 春秋の争ひに、昔より<A HREF="#no2">秋に心寄する人は数まさり</A><A NAME="te2">け</A>るを、名立たる春の御前の花園に心寄せし人びと、また引きかへし<A HREF="#no3">移ろふけしき</A><A NAME="te3">、</A>世のありさまに似たり。<BR>⏎66 
d176<P>⏎
 77 これを御覧じつきて、里居したまふほど、御遊びなどもあらまほしけれど、八月は故前坊の御忌月なれば、心もとなく思しつつ明け暮るるに、この花の色まさるけしきどもを御覧ずるに、野分、例の年よりもおどろおどろしく、空の色変りて吹き出づ。<BR>⏎67 
d178<P>⏎
cd2:179-80 花どものしをるるを、いとさしも思ひしまぬ人だに、あなわりなと思ひ騒がるるを、まして草むらの露の玉の緒乱るるままに、御心惑ひもしぬべく思したり。<A HREF="#no4">おほふばかりの袖</A><A NAME="te4">は</A>、秋の空にしもこそ欲しげなりけれ。暮れゆくままに、ものも見えず吹きまよはして、いとむくつけければ、御格子など参りぬるに、うしろめたくいみじと、花の上を思し嘆く。<BR>⏎
<P>⏎
68 花どものしをるるを、いとさしも思ひしまぬ人だに、あなわりなと思ひ騒がるるを、まして草むらの露の玉の緒乱るるままに、御心惑ひもしぬべく思したり。<A HREF="#no4">おほふばかりの袖</A><A NAME="te4">は</A>、秋の空にしもこそ欲しげなりけれ。暮れゆくままに、ものも見えず吹きまよはして、いとむくつけければ、御格子など参りぬるに、うしろめたくいみじと、花の上を思し嘆く。<BR>⏎
text2881 <A NAME="in12">[第二段 夕霧、紫の上を垣間見る]</A><BR>69 
d182<P>⏎
 83 南の御殿にも、前栽つくろはせたまひける折にしも、かく吹き出でて、<A HREF="#no5">もとあらの小萩</A><A NAME="te5">、</A>はしたなく待ちえたる風のけしきなり。折れ返り、露もとまるまじく吹き散らすを、すこし端近くて見たまふ。<BR>⏎70 
d184<P>⏎
 85 大臣は、姫君の御方におはしますほどに、中将の君参りたまひて、東の渡殿の小障子の上より、妻戸の開きたる隙を、何心もなく見入れたまへるに、女房のあまた見ゆれば、立ちとまりて、音もせで見る。<BR>⏎71 
d186<P>⏎
 87 御屏風も、風のいたく吹きければ、押し畳み寄せたるに、見通しあらはなる廂の御座にゐたまへる人、ものに紛るべくもあらず、気高くきよらに、さとにほふ心地して、春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す。あぢきなく、見たてまつるわが顔にも移り来るやうに、愛敬はにほひ散りて、またなくめづらしき人の御さまなり。<BR>⏎72 
d188<P>⏎
 89 御簾の吹き上げらるるを、人びと押へて、いかにしたるにかあらむ、うち笑ひたまへる、いといみじく見ゆ。花どもを心苦しがりて、え見捨てて入りたまはず。御前なる人びとも、さまざまにものきよげなる姿どもは見わたさるれど、目移るべくもあらず。<BR>⏎73 
d190<P>⏎
c191 「大臣のいと気遠くはるかにもてなしたまへるは、かく見る人ただにはえ思ふまじき御ありさまを、いたり深き御心にて、もしかかることもやと思すなりけり」<BR>⏎
74 「大臣のいと気遠くはるかにもてなしたまへるは、かく見る人ただにはえ思ふまじき御ありさまを、いたり深き御心にて、もしかかることもやと 思すなりけり」<BR>⏎
 92 と思ふに、けはひ恐ろしうて、立ち去るにぞ、西の御方より、内の御障子引き開けて渡りたまふ。<BR>⏎75 
d193<P>⏎
 94 「いとうたて、あわたたしき風なめり。御格子下ろしてよ。男どもあるらむを、あらはにもこそあれ」<BR>⏎76 
d195<P>⏎
 96 と聞こえたまふを、また寄りて見れば、もの聞こえて、大臣もほほ笑みて見たてまつりたまふ。親ともおぼえず、若くきよげになまめきて、いみじき御容貌の盛りなり。<BR>⏎77 
d197<P>⏎
 98 女もねびととのひ、飽かぬことなき御さまどもなるを、身にしむばかりおぼゆれど、この渡殿の格子も吹き放ちて、立てる所のあらはになれば、恐ろしうて立ち退きぬ。今参れるやうにうち声づくりて、簀子の方に歩み出でたまへれば、<BR>⏎78 
d199<P>⏎
 100 「さればよ。あらはなりつらむ」<BR>⏎79 
cd2:1101-102 とて「かの妻戸の開きたりけるよ」と、今ぞ見咎めたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
80 とて「かの妻戸の開きたりけるよ」と、今ぞ見咎めたまふ。<BR>⏎
 103 「年ごろかかることのつゆなかりつるを。風こそ、げに巌も吹き上げつべきものなりけれ。さばかりの御心どもを騒がして。めづらしくうれしき目を見つるかな」とおぼゆ。<BR>⏎81 
d1104<P>⏎
text28105 <A NAME="in13">[第三段 夕霧、三条宮邸へ赴く]</A><BR>82 
d1106<P>⏎
 107 人びと参りて、<BR>⏎83 
d1108<P>⏎
cd4:2109-112 「いといかめしう吹きぬべき風にはべり。艮の方より吹きはべれば、この御前はのどけきなり。馬場の御殿南の釣殿などは、危ふげになむ」<BR>⏎
<P>⏎
 とてとかくこと行なひののしる。<BR>⏎
<P>⏎
84-85 「いといかめしう吹きぬべき風にはべり。艮の方より吹きはべれば、この御前はのどけきなり。馬場の御殿南の釣殿などは、危ふげになむ」<BR>⏎
 とてとかくこと行なひののしる。<BR>⏎
 113 「中将は、いづこよりものしつるぞ」<BR>⏎86 
d1114<P>⏎
 115 「三条の宮にはべりつるを、『風いたく吹きぬべし』と、人びとの申しつれば、おぼつかなさに参りはべりつる。かしこには、まして心細く、風の音をも、今はかへりて、若き子のやうに懼ぢたまふめれば。心苦しさに、まかではべりなむ」<BR>⏎87 
d1116<P>⏎
 117 と申したまへば、<BR>⏎88 
d1118<P>⏎
cd4:2119-122 「げにはや、まうでたまひね。老いもていきて、また若うなること、世にあるまじきことなれど、げにさのみこそあれ」<BR>⏎
<P>⏎
 などあはれがりきこえたまひて、<BR>⏎
<P>⏎
89-90 「げにはや、まうでたまひね。老いもていきて、また若うなること、世にあるまじきことなれど、げにさのみこそあれ」<BR>⏎
 などあはれがりきこえたまひて、<BR>⏎
 123 「かく騒がしげにはべめるを、この朝臣さぶらへばと、思ひたまへ譲りてなむ」<BR>⏎91 
d1124<P>⏎
cd4:2125-128 と御消息聞こえたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 道すがらいりもみする風なれど、うるはしくものしたまふ君にて、三条宮と六条院とに参りて、御覧ぜられたまはぬ日なし。内裏の御物忌などに、えさらず籠もりたまふべき日より外は、いそがしき公事節会などの、暇いるべく、ことしげきにあはせても、まづこの院に参り、宮よりぞ出でたまひければ、まして今日、かかる空のけしきにより、風のさきにあくがれありきたまふもあはれに見ゆ。<BR>⏎
<P>⏎
92-93 と御消息聞こえたまふ。<BR>⏎
 道すがらいりもみする風なれど、うるはしくものしたまふ君にて、三条宮と六条院とに参りて、御覧ぜられたまはぬ日なし。内裏の御物忌などに、えさらず籠もりたまふべき日より外は、いそがしき公事節会などの、暇いるべく、ことしげきにあはせても、まづこの院に参り、宮よりぞ出でたまひければ、まして今日、かかる空のけしきにより、風のさきにあくがれありきたまふもあはれに見ゆ。<BR>⏎
 129 宮、いとうれしう、頼もしと待ち受けたまひて、<BR>⏎94 
d1130<P>⏎
 131 「ここらの齢に、まだかく騒がしき野分にこそあはざりつれ」<BR>⏎95 
d1132<P>⏎
cd2:1133-134 とただわななきにわななきたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
96 とただわななきにわななきたまふ。<BR>⏎
 135 「大きなる木の枝などの折るる音も、いとうたてあり。御殿の瓦さへ残るまじく吹き散らすに、かくてものしたまへること」<BR>⏎97 
d1136<P>⏎
cd2:1137-138 とかつはのたまふ。そこら所狭かりし御勢ひのしづまりて、この君を頼もし人に思したる、常なき世なり。今もおほかたのおぼえの薄らぎたまふことはなけれど、内の大殿の御けはひは、なかなかすこし疎くぞありける。<BR>⏎
<P>⏎
98 とかつはのたまふ。そこら所狭かりし御勢ひのしづまりて、この君を頼もし人に思したる、常なき世なり。今もおほかたのおぼえの薄らぎたまふことはなけれど、内の大殿の御けはひは、なかなかすこし疎くぞありける。<BR>⏎
 139 中将、夜もすがら荒き風の音にも、すずろにものあはれなり。心にかけて恋しと思ふ人の御ことは、さしおかれて、ありつる御面影の忘られぬを、<BR>⏎99 
d1140<P>⏎
c3141-143 「こはいかにおぼゆる心ぞ。あるまじき思ひもこそ添へ。いと恐ろしきこと」<BR>⏎
 とみづから思ひ紛らはし、異事に思ひ移れど、なほふとおぼえつつ、<BR>⏎
 「来し方行く末、ありがたくもものしたまひけるかな。かかる御仲らひに、いかで東の御方、さるものの数にて立ち並びたまひつらむ。たとしへなかりけりや。あないとほし」<BR>⏎
100-102 「こはいかにおぼゆる心ぞ。あるまじき思ひもこそ添へ。いと恐ろしきこと」<BR>⏎
 とみづから思ひ紛らはし、異事に思ひ移れど、なほふとおぼえつつ、<BR>⏎
 「来し方行く末、ありがたくもものしたまひけるかな。かかる御仲らひに、いかで東の御方、さるものの数にて立ち並びたまひつらむ。たとしへなかりけりや。あないとほし」<BR>⏎
 144 とおぼゆ。大臣の御心ばへを、ありがたしと思ひ知りたまふ。<BR>⏎103 
d1145<P>⏎
cd2:1146-147 人柄のいとまめやかなれば、似げなさを思ひ寄らねど、「さやうならむ人をこそ、同じくは、見て明かし暮らさめ。限りあらむ命のほども、今すこしはかならず延びなむかし」と思ひ続けらる。<BR>⏎
<P>⏎
104 人柄のいとまめやかなれば、似げなさを思ひ寄らねど、「さやうならむ人をこそ、同じくは、見て明かし暮らさめ。限りあらむ命のほども、今すこしはかならず延びなむかし」と 思ひ続けらる。<BR>⏎
text28148 <A NAME="in14">[第四段 夕霧、暁方に六条院へ戻る]</A><BR>105 
d1149<P>⏎
 150 暁方に風すこししめりて、村雨のやうに降り出づ。<BR>⏎106 
d1151<P>⏎
 152 「六条院には、離れたる屋ども倒れたり」<BR>⏎107 
d1153<P>⏎
 154 など人びと申す。<BR>⏎108 
d1155<P>⏎
 156 「風の吹きまふほど、広くそこら高き心地する院に、人びと、おはします御殿のあたりにこそしげけれ、東の町などは、人少なに思されつらむ」<BR>⏎109 
 157 とおどろきたまひて、まだほのぼのとするに参りたまふ。<BR>⏎110 
d1158<P>⏎
 159 道のほど、横さま雨いと冷やかに吹き入る。空のけしきもすごきに、あやしくあくがれたる心地して、<BR>⏎111 
d1160<P>⏎
cd3:2161-163 「何ごとぞや。またわが心に思ひ加はれるよ」と思ひ出づれば、「いと似げなきことなりけり。あなもの狂ほし」<BR>⏎
 ととざまかうざまに思ひつつ、東の御方に、まづまうでたまへれば、懼ぢ極じておはしけるに、とかく聞こえ慰めて、人召して、所々つくろはすべきよしなど言ひおきて、南の御殿に参りたまへれば、まだ御格子も参らず。<BR>⏎
<P>⏎
112-113 「何ごとぞや。またわが心に思ひ加はれるよ」と思ひ出づれば、「いと似げなきことなりけり。あなもの狂ほし」<BR>⏎
 ととざまかうざまに思ひつつ、東の御方に、まづまうでたまへれば、懼ぢ極じておはしけるに、とかく聞こえ慰めて、人召して、所々つくろはすべきよしなど言ひおきて、南の御殿に参りたまへれば、まだ御格子も参らず。<BR>⏎
 164 おはしますに当れる高欄に押しかかりて、見わたせば、山の木どもも吹きなびかして、枝ども多く折れ伏したり。草むらはさらにもいはず、桧皮、瓦、所々の立蔀、透垣などやうのもの乱りがはし。<BR>⏎114 
d1165<P>⏎
 166 日のわづかにさし出でたるに、憂へ顔なる庭の露きらきらとして、空はいとすごく霧りわたれるに、そこはかとなく涙の落つるを、おし拭ひ隠して、うちしはぶきたまへれば、<BR>⏎115 
d1167<P>⏎
 168 「中将の声づくるにぞあなる。夜はまだ深からむは」<BR>⏎116 
d1169<P>⏎
cd2:1170-171 とて起きたまふなり。何ごとにかあらむ、聞こえたまふ声はせで、大臣うち笑ひたまひて、<BR>⏎
<P>⏎
117 とて起きたまふなり。何ごとにかあらむ、聞こえたまふ声はせで、大臣うち笑ひたまひて、<BR>⏎
 172 「いにしへだに知らせたてまつらずなりにし、暁の別れよ。今ならひたまはむに、心苦しからむ」<BR>⏎118 
d1173<P>⏎
cd2:1174-175 とてとばかり語らひきこえたまふけはひども、いとをかし。女の御いらへは聞こえねど、ほのぼの、かやうに聞こえ戯れたまふ言の葉の趣きに、「ゆるびなき御仲らひかな」と、聞きゐたまへり。<BR>⏎
<P>⏎
119 とてとばかり語らひきこえたまふけはひども、いとをかし。女の御いらへは聞こえねど、ほのぼの、かやうに聞こえ戯れたまふ言の葉の趣きに、「ゆるびなき御仲らひかな」と、聞きゐたまへり。<BR>⏎
text28176 <A NAME="in15">[第五段 源氏、夕霧と語る]</A><BR>120 
d1177<P>⏎
 178 御格子を御手づから引き上げたまへば、気近きかたはらいたさに、立ち退きてさぶらひたまふ。<BR>⏎121 
d1179<P>⏎
 180 「いかにぞ。昨夜、宮は待ちよろこびたまひきや」<BR>⏎122 
d1181<P>⏎
 182 「しか。はかなきことにつけても、涙もろにものしたまへば、いと不便にこそはべれ」<BR>⏎123 
d1183<P>⏎
 184 と申したまへば、笑ひたまひて、<BR>⏎124 
d1185<P>⏎
cd2:1186-187 「今いくばくもおはせじ。まめやかに仕うまつり見えたてまつれ。内大臣は、こまかにしもあるまじうこそ、愁へたまひしか。人柄あやしうはなやかに、男々しき方によりて、親などの御孝をも、いかめしきさまをば立てて、人にも見おどろかさむの心あり、まことにしみて深きところはなき人になむものせられける。さるは心の隈多く、いとかしこき人の、末の世にあまるまで、才類ひなく、うるさながら。人として、かく難なきことはかたかりける」<BR>⏎
<P>⏎
125 「今いくばくもおはせじ。まめやかに仕うまつり見えたてまつれ。内大臣は、こまかにしもあるまじうこそ、愁へたまひしか。人柄あやしうはなやかに、男々しき方によりて、親などの御孝をも、いかめしきさまをば立てて、人にも見おどろかさむの心あり、まことにしみて深きところはなき人になむものせられける。さるは心の隈多く、いとかしこき人の、末の世にあまるまで、才類ひなく、うるさながら。人として、かく難なきことはかたかりける」<BR>⏎
 188 などのたまふ。<BR>⏎126 
d1189<P>⏎
 190 「いとおどろおどろしかりつる風に、中宮に、はかばかしき宮司などさぶらひつらむや」<BR>⏎127 
d1191<P>⏎
cd2:1192-193 とてこの君して、御消息聞こえたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
128 とてこの君して、御消息聞こえたまふ。<BR>⏎
 194 「夜の風の音は、いかが聞こし召しつらむ。吹き乱りはべりしに、おこりあひはべりて、いと堪へがたき、ためらひはべるほどになむ」<BR>⏎129 
d1195<P>⏎
 196 と聞こえたまふ。<BR>⏎130 
d1197<P>⏎
text28198 <A NAME="in16">[第六段 夕霧、中宮を見舞う]</A><BR>131 
d1199<P>⏎
cd2:1200-201 中将下りて、中の廊の戸より通りて、参りたまふ。朝ぼらけの容貌、いとめでたくをかしげなり。東の対の南の側に立ちて、御前の方を見やりたまへば、御格子、まだ二間ばかり上げて、ほのかなる朝ぼらけのほどに、御簾巻き上げて人びとゐたり。<BR>⏎
<P>⏎
132 中将下りて、中の廊の戸より通りて、参りたまふ。朝ぼらけの容貌、いとめでたくをかしげなり。東の対の南の側に立ちて、御前の方を見やりたまへば、御格子、まだ二間ばかり上げて、ほのかなる朝ぼらけのほどに、御簾巻き上げて 人びとゐたり。<BR>⏎
 202 高欄に押しかかりつつ、若やかなる限りあまた見ゆ。うちとけたるはいかがあらむ、さやかならぬ明けぼののほど、色々なる姿は、いづれともなくをかし。<BR>⏎133 
d1203<P>⏎
cd6:3204-209 童女下ろさせたまひて、虫の籠どもに露飼はせたまふなりけり。紫苑、撫子、濃き薄き衵どもに、女郎花の汗衫などやうの、時にあひたるさまにて、四五人連れて、ここかしこの草むらに寄りて、色々の籠どもを持てさまよひ、撫子などの、いとあはれげなる枝ども取り持て参る、霧のまよひは、いと艶にぞ見えける。<BR>⏎
<P>⏎
 吹き来る追風は、紫苑ことごとに匂ふ空も、香のかをりも、触ればひたまへる御けはひにやと、いと思ひやりめでたく、心懸想せられて、立ち出でにくけれど、忍びやかにうちおとなひて、歩み出でたまへるに、人びとけざやかにおどろき顔にはあらねど、皆すべり入りぬ。<BR>⏎
<P>⏎
 御参りのほどなど、童なりしに、入り立ち馴れたまへる、女房なども、いとけうとくはあらず。御消息啓せさせたまひて、宰相の君内侍などけはひすれば、私事も忍びやかに語らひたまふ。これはた、さいへど、気高く住みたるけはひありさまを見るにも、さまざまにもの思ひ出でらる。<BR>⏎
<P>⏎
134-136 童女下ろさせたまひて、虫の籠どもに露飼はせたまふなりけり。紫苑、撫子、濃き薄き衵どもに、女郎花の汗衫などやうの、時にあひたるさまにて、四五人連れて、ここかしこの草むらに寄りて、色々の籠どもを持てさまよひ、撫子などの、いとあはれげなる枝ども取り持て参る、霧のまよひは、いと艶にぞ見えける。<BR>⏎
 吹き来る追風は、紫苑ことごとに匂ふ空も、香のかをりも、触ればひたまへる御けはひにやと、いと思ひやりめでたく、心懸想せられて、立ち出でにくけれど、忍びやかにうちおとなひて、歩み出でたまへるに、人びとけざやかにおどろき顔にはあらねど、皆すべり入りぬ。<BR>⏎
 御参りのほどなど、童なりしに、入り立ち馴れたまへる、女房なども、いとけうとくはあらず。御消息啓せさせたまひて、宰相の君内侍などけはひすれば、私事も忍びやかに語らひたまふ。これはた、さいへど、気高く住みたるけはひありさまを見るにも、さまざまにもの思ひ出でらる。<BR>⏎
text28210 <H4>第二章 光源氏の物語 六条院の女方を見舞う物語</H4>137 
text28211 <A NAME="in21">[第一段 源氏、中宮を見舞う]</A><BR>138 
d1212<P>⏎
 213 南の御殿には、御格子参りわたして、昨夜、見捨てがたかりし花どもの、行方も知らぬやうにてしをれ伏したるを見たまひけり。中将、御階にゐたまひて、御返り聞こえたまふ。<BR>⏎139 
d1214<P>⏎
 215 「荒き風をも防がせたまふべくやと、若々しく心細くおぼえはべるを、今なむ慰みはべりぬる」<BR>⏎140 
d1216<P>⏎
 217 と聞こえたまへれば、<BR>⏎141 
d1218<P>⏎
cd6:3219-224 「あやしくあえかにおはする宮なり。女どちは、もの恐ろしく思しぬべかりつる夜のさまなれば、げに<A HREF="#k01">おろかなりとも思い</A><A NAME="t01">つ</A>らむ」<BR>⏎
<P>⏎
 とてやがて参りたまふ。御直衣などたてまつるとて、御簾引き上げて入りたまふに、「短き御几帳引き寄せて、はつかに見ゆる御袖口は、さにこそはあらめ」と思ふに、胸つぶつぶと鳴る心地するも、うたてあれば、他ざまに見やりつ。<BR>⏎
<P>⏎
 殿御鏡など見たまひて、忍びて、<BR>⏎
<P>⏎
142-144 「あやしくあえかにおはする宮なり。女どちは、もの恐ろしく思しぬべかりつる夜のさまなれば、げに<A HREF="#k01">おろかなりとも思い</A><A NAME="t01">つ</A>らむ」<BR>⏎
 とてやがて参りたまふ。御直衣などたてまつるとて、御簾引き上げて入りたまふに、「短き御几帳引き寄せて、はつかに見ゆる御袖口は、さにこそはあらめ」と思ふに、胸つぶつぶと鳴る心地するも、うたてあれば、他ざまに見やりつ。<BR>⏎
 殿御鏡など見たまひて、忍びて、<BR>⏎
 225 「中将の朝けの姿は、きよげなりな。ただ今は、きびはなるべきほどを、かたくなしからず見ゆるも、<A HREF="#no6">心の闇</A><A NAME="te6">に</A>や」<BR>⏎145 
d1226<P>⏎
cd2:1227-228 とてわが御顔は、古りがたくよしと見たまふべかめり。いといたう心懸想したまひて、<BR>⏎
<P>⏎
146 とてわが御顔は、古りがたくよしと見たまふべかめり。いといたう心懸想したまひて、<BR>⏎
 229 「宮に見えたてまつるは、恥づかしうこそあれ。何ばかりあらはなるゆゑゆゑしさも、見えたまはぬ人の、奥ゆかしく心づかひせられたまふぞかし。いとおほどかに女しきものから、けしきづきてぞおはするや」<BR>⏎147 
d1230<P>⏎
cd2:1231-232 とて出でたまふに、中将ながめ入りて、とみにもおどろくまじきけしきにてゐたまへるを、心疾き人の御目にはいかが見たまひけむ、立ちかへり、女君に、<BR>⏎
<P>⏎
148 とて出でたまふに、中将ながめ入りて、とみにもおどろくまじきけしきにてゐたまへるを、心疾き人の御目にはいかが見たまひけむ、立ちかへり、女君に、<BR>⏎
 233 「昨日、風の紛れに、中将は見たてまつりやしてけむ。かの戸の開きたりしによ」<BR>⏎149 
d1234<P>⏎
 235 とのたまへば、面うち赤みて、<BR>⏎150 
d1236<P>⏎
cd2:1237-238 「いかでかさはあらむ。渡殿の方には、人の音もせざりしものを」<BR>⏎
<P>⏎
151 「いかでかさはあらむ。渡殿の方には、人の音もせざりしものを」<BR>⏎
 239 と聞こえたまふ。<BR>⏎152 
d1240<P>⏎
cd2:1241-242 「なほあやし」とひとりごちて、渡りたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
153 「なほあやし」とひとりごちて、渡りたまひぬ。<BR>⏎
 243 御簾の内に入りたまひぬれば、中将、渡殿の戸口に人びとのけはひするに寄りて、ものなど言ひ戯るれど、思ふことの筋々嘆かしくて、例よりもしめりてゐたまへり。<BR>⏎154 
d1244<P>⏎
text28245 <A NAME="in22">[第二段 源氏、明石御方を見舞う]</A><BR>155 
d1246<P>⏎
cd2:1247-248 こなたより、やがて北に通りて、明石の御方を見やりたまへば、はかばかしき家司だつ人なども見えず、馴れたる下仕ひどもぞ、草の中にまじりて歩く。童女など、をかしき衵姿うちとけて、心とどめ取り分き植ゑたまふ龍胆朝顔のはひまじれる籬も、みな散り乱れたるを、とかく引き出で尋ぬるなるべし。<BR>⏎
<P>⏎
156 こなたより、やがて北に通りて、明石の御方を見やりたまへば、はかばかしき家司だつ人なども見えず、馴れたる下仕ひどもぞ、草の中にまじりて歩く。童女など、をかしき衵姿うちとけて、心とどめ取り分き植ゑたまふ龍胆朝顔のはひまじれる籬も、みな散り乱れたるを、とかく引き出で尋ぬるなるべし。<BR>⏎
 249 もののあはれにおぼえけるままに、箏の琴を掻きまさぐりつつ、端近うゐたまへるに、御前駆追ふ声のしければ、うちとけ萎えばめる姿に、小袿ひき落として、けぢめ見せたる、いといたし。端の方についゐたまひて、風の騷ぎばかりをとぶらひたまひて、つれなく立ち帰りたまふ、心やましげなり。<BR>⏎157 
d1250<P>⏎
cd3:1251-253 「おほかたに荻の葉過ぐる風の音も<BR>⏎
  憂き身ひとつにしむ心地して」<BR>⏎
<P>⏎
158 「おほかたに荻の葉過ぐる風の音も<BR>  憂き身ひとつにしむ心地して」<BR>⏎
 254 とひとりごちけり。<BR>⏎159 
d1255<P>⏎
text28256 <A NAME="in23">[第三段 源氏、玉鬘を見舞う]</A><BR>160 
d1257<P>⏎
 258 西の対には、恐ろしと思ひ明かしたまひける、名残に、寝過ぐして、今ぞ鏡なども見たまひける。<BR>⏎161 
d1259<P>⏎
 260 「ことことしく前駆、な追ひそ」<BR>⏎162 
d1261<P>⏎
 262 とのたまへば、ことに音せで入りたまふ。屏風なども皆畳み寄せ、ものしどけなくしなしたるに、日のはなやかにさし出でたるほど、<A HREF="#k02">けざけざと</A><A NAME="t02">、</A>ものきよげなるさましてゐたまへり。近くゐたまひて、例の、風につけても同じ筋に、むつかしう聞こえ戯れたまへば、堪へずうたてと思ひて、<BR>⏎163 
d1263<P>⏎
 264 「かう心憂ければこそ、今宵の風にもあくがれなまほしくはべりつれ」<BR>⏎164 
d1265<P>⏎
cd2:1266-267 とむつかりたまへば、いとよくうち笑ひたまひて、<BR>⏎
<P>⏎
165 とむつかりたまへば、いとよくうち笑ひたまひて、<BR>⏎
 268 「風につきてあくがれたまはむや、軽々しからむ。さりとも、止まる方ありなむかし。やうやうかかる御心むけこそ添ひにけれ。ことわりや」<BR>⏎166 
d1269<P>⏎
 270 とのたまへば、<BR>⏎167 
d1271<P>⏎
c1272 「げにうち思ひのままに聞こえてけるかな」<BR>⏎
168 「げにうち思ひのままに聞こえてけるかな」<BR>⏎
 273 と思して、みづからもうち笑みたまへる、いとをかしき色あひ、つらつきなり。酸漿などいふめるやうにふくらかにて、髪のかかれる隙々うつくしうおぼゆ。まみのあまりわららかなるぞ、いとしも品高く見えざりける。その他は、つゆ難つくべうもあらず。<BR>⏎169 
d1274<P>⏎
text28275 <A NAME="in24">[第四段 夕霧、源氏と玉鬘を垣間見る]</A><BR>170 
d1276<P>⏎
 277 中将、いとこまやかに聞こえたまふを、「いかでこの御容貌見てしがな」と思ひわたる心にて、隅の間の御簾の、几帳は添ひながらしどけなきを、やをら<A HREF="#k03">引き上げて</A><A NAME="t03">見</A>るに、紛るるものどもも取りやりたれば、いとよく見ゆ。かく戯れたまふけしきのしるきを、<BR>⏎171 
d1278<P>⏎
 279 「あやしのわざや。親子と聞こえながら、かく懐離れず、もの近かべきほどかは」<BR>⏎172 
d1280<P>⏎
 281 と目とまりぬ。「見やつけたまはむ」と恐ろしけれど、あやしきに、心もおどろきて、なほ見れば、柱隠れにすこしそばみたまへりつるを、引き寄せたまへるに、御髪の並み寄りて、はらはらとこぼれかかりたるほど、女も、いとむつかしく苦しと思うたまへるけしきながら、さすがにいとなごやかなるさまして、寄りかかりたまへるは、<BR>⏎173 
d1282<P>⏎
cd6:3283-288 「ことと馴れ馴れしきにこそあめれ。いであなうたて。いかなることにかあらむ。思ひ寄らぬ隈なくおはしける御心にて、もとより見馴れ生ほしたてたまはぬは、かかる御思ひ添ひたまへるなめり。むべなりけりや。あな疎まし」<BR>⏎
<P>⏎
 と思ふ心も恥づかし。「女の<A HREF="#k04">御さま</A><A NAME="t04">、</A>げにはらからといふとも、すこし立ち退きて、異腹ぞかし」など思はむは、「などか心あやまりもせざらむ」とおぼゆ。<BR>⏎
<P>⏎
 昨日見し御けはひには、け劣りたれど、見るに笑まるるさまは、立ちも並びぬべく見ゆる。八重山吹の咲き乱れたる盛りに、露のかかれる夕映えぞ、ふと思ひ出でらるる。折にあはぬよそへどもなれど、なほうちおぼゆるやうよ。花は限りこそあれ、そそけたるしべなどもまじるかし、人の御容貌のよきは、たとへむ方なきものなりけり。<BR>⏎
<P>⏎
174-176 「ことと馴れ馴れしきにこそあめれ。いであなうたて。いかなることにかあらむ。思ひ寄らぬ隈なくおはしける御心にて、もとより見馴れ生ほしたてたまはぬは、かかる御思ひ添ひたまへるなめり。むべなりけりや。あな疎まし」<BR>⏎
 と思ふ心も恥づかし。「女の<A HREF="#k04">御さま</A><A NAME="t04">、</A>げにはらからといふとも、すこし立ち退きて、異腹ぞかし」など思はむは、「などか心あやまりもせざらむ」とおぼゆ。<BR>⏎
 昨日見し御けはひには、け劣りたれど、見るに笑まるるさまは、立ちも並びぬべく見ゆる。八重山吹の咲き乱れたる盛りに、露のかかれる夕映えぞ、ふと思ひ出でらるる。折にあはぬよそへどもなれど、なほうちおぼゆるやうよ。花は限りこそあれ、そそけたるしべなどもまじるかし、人の御容貌のよきは、たとへむ方なきものなりけり。<BR>⏎
 289 御前に人も出で来ず、いとこまやかにうちささめき語らひ聞こえたまふに、いかがあらむ、まめだちてぞ立ちたまふ。女君、<BR>⏎177 
d1290<P>⏎
cd3:1291-293 「吹き乱る風のけしきに女郎花<BR>⏎
  しをれしぬべき心地こそすれ」<BR>⏎
<P>⏎
178 「吹き乱る風のけしきに女郎花<BR>  しをれしぬべき心地こそすれ」<BR>⏎
 294 詳しくも聞こえぬに、うち誦じたまふをほの聞くに、憎きもののをかしければ、なほ見果てまほしけれど、「近かりけりと見えたてまつらじ」と思ひて、立ち去りぬ。<BR>⏎179 
 295 御返り、<BR>⏎180 
d1296<P>⏎
cd2:1297-298 「下露になびかましかば女郎花<BR>⏎
  荒き風にはしをれざらまし<BR>⏎
181 「下露になびかましかば女郎花<BR>  荒き風にはしをれざらまし<BR>⏎
 299 なよ竹を見たまへかし」<BR>⏎182 
d1300<P>⏎
cd2:1301-302 などひが耳にやありけむ、聞きよくもあらずぞ。<BR>⏎
<P>⏎
183 などひが耳にやありけむ、聞きよくもあらずぞ。<BR>⏎
text28303 <A NAME="in25">[第五段 源氏、花散里を見舞う]</A><BR>184 
d1304<P>⏎
 305 東の御方へ、これよりぞ渡りたまふ。今朝の朝寒なるうちとけわざにや、もの裁ちなどするねび御達、御前にあまたして、細櫃めくものに、綿引きかけてまさぐる若人どもあり。いときよらなる朽葉の羅、今様色の二なく擣ちたるなど、引き散らしたまへり。<BR>⏎185 
d1306<P>⏎
 307 「中将の下襲か。御前の壺前栽の宴も止まりぬらむかし。かく吹き散らしてむには、何事かせられむ。すさまじかるべき秋なめり」<BR>⏎186 
d1308<P>⏎
 309 などのたまひて、何にかあらむ、さまざまなるものの色どもの、いときよらなれば、「かやうなる方は、南の上にも劣らずかし」と思す。御直衣、花文綾を、このころ摘み出だしたる花して、はかなく染め出でたまへる、いとあらまほしき色したり。<BR>⏎187 
d1310<P>⏎
 311 「中将にこそ、かやうにては着せたまはめ。若き人のにてめやすかめり」<BR>⏎188 
d1312<P>⏎
 313 などやうのことを聞こえたまひて、渡りたまひぬ。<BR>⏎189 
d1314<P>⏎
text28315 <H4>第三章 夕霧の物語 幼恋の物語</H4>190 
text28316 <A NAME="in31">[第一段 夕霧、雲井雁に手紙を書く]</A><BR>191 
d1317<P>⏎
 318 むつかしき方々めぐりたまふ御供に歩きて、中将は、なま心やましう、書かまほしき文など、日たけぬるを思ひつつ、姫君の御方に参りたまへり。<BR>⏎192 
d1319<P>⏎
 320 「まだあなたになむおはします。風に懼ぢさせたまひて、今朝はえ起き上がりたまはざりつる」<BR>⏎193 
d1321<P>⏎
cd2:1322-323 と御乳母ぞ聞こゆる。<BR>⏎
<P>⏎
194 と御乳母ぞ聞こゆる。<BR>⏎
 324 「もの騒がしげなりしかば、宿直も仕うまつらむと思ひたまへしを、宮の、いとも心苦しう思いたりしかばなむ。雛の殿は、いかがおはすらむ」<BR>⏎195 
d1325<P>⏎
 326 と問ひたまへば、人びと笑ひて、<BR>⏎196 
d1327<P>⏎
 328 「扇の風だに参れば、いみじきことに思いたるを、ほとほとしくこそ吹き乱りはべりしか。この御殿あつかひに、わびにてはべり」など語る。<BR>⏎197 
d1329<P>⏎
 330 「ことことしからぬ紙やはべる。御局の硯」<BR>⏎198 
d1331<P>⏎
 332 と乞ひたまへば、御厨子に寄りて、紙一巻、御硯の蓋に取りおろしてたてまつれば、<BR>⏎199 
d1333<P>⏎
cd2:1334-335 「いなこれはかたはらいたし」<BR>⏎
<P>⏎
200 「いなこれはかたはらいたし」<BR>⏎
 336 とのたまへど、北の御殿のおぼえを思ふに、すこしなのめなる心地して、文書きたまふ。<BR>⏎201 
d1337<P>⏎
cd5:2338-342 紫の薄様なりけり。墨、心とめておしすり、筆の先うち見つつ、こまやかに書きやすらひたまへる、いとよし。されどあやしく定まりて、憎き口つきこそものしたまへ。<BR>⏎
<P>⏎
 「風騒ぎむら雲まがふ夕べにも<BR>⏎
  忘るる間なく忘られぬ君」<BR>⏎
<P>⏎
202-203 紫の薄様なりけり。墨、心とめておしすり、筆の先うち見つつ、こまやかに書きやすらひたまへる、いとよし。されどあやしく定まりて、憎き口つきこそものしたまへ。<BR>⏎
 「風騒ぎむら雲まがふ夕べにも<BR>  忘るる間なく忘られぬ君」<BR>⏎
 343 吹き乱れたる<A HREF="#no7">苅萱</A><A NAME="te7">に</A>つけたまへれば、人びと、<BR>⏎204 
d1344<P>⏎
 345 「交野の少将は、紙の色にこそととのへはべりけれ」と聞こゆ。<BR>⏎205 
d1346<P>⏎
 347 「さばかりの色も思ひ分かざりけりや。いづこの野辺のほとりの花」<BR>⏎206 
d1348<P>⏎
cd2:1349-350 などかやうの人びとにも、言少なに見えて、心解くべくももてなさず、いとすくすくしう気高し。<BR>⏎
<P>⏎
207 などかやうの人びとにも、言少なに見えて、心解くべくももてなさず、いとすくすくしう気高し。<BR>⏎
 351 またも書いたまうて、馬の助に賜へれば、をかしき童、またいと馴れたる御随身などに、うちささめきて取らするを、若き人びと、ただならずゆかしがる。<BR>⏎208 
d1352<P>⏎
text28353 <A NAME="in32">[第二段 夕霧、明石姫君を垣間見る]</A><BR>209 
d1354<P>⏎
 355 渡らせたまふとて、人びとうちそよめき、几帳引き直しなどす。見つる花の顔どもも、思ひ比べまほしうて、例はものゆかしからぬ心地に、あながちに、妻戸の御簾を引き着て、几帳のほころびより<A HREF="#k05">見れば</A><A NAME="t05">、</A>もののそばより、ただはひ渡りたまふほどぞ、ふとうち見えたる。<BR>⏎210 
d1356<P>⏎
 357 人のしげくまがへば、何のあやめも見えぬほどに、いと心もとなし。薄色の御衣に、髪のまだ丈にははづれたる末の、引き広げたるやうにて、いと細く<A HREF="#k06">小さき</A><A NAME="t06">様</A>体、らうたげに心苦し。<BR>⏎211 
d1358<P>⏎
cd2:1359-360 「一昨年ばかりは、たまさかにもほの見たてまつりしに、またこよなく生ひまさりたまふなめりかし。まして盛りいかならむ」と思ふ。「かの見つる先々の、桜山吹といはば、これは藤の花とやいふべからむ。木高き木より咲きかかりて、風になびきたるにほひは、かくぞあるかし」と思ひよそへらる。「かかる人びとを、心にまかせて明け暮れ見たてまつらばや。さもありぬべきほどながら、隔て隔てのけざやかなるこそつらけれ」など思ふに、まめ心も、なまあくがるる心地す。<BR>⏎
<P>⏎
212 「一昨年ばかりは、たまさかにもほの見たてまつりしに、またこよなく生ひまさりたまふなめりかし。まして盛りいかならむ」と思ふ。「かの見つる先々の、桜山吹といはば、これは藤の花とやいふべからむ。木高き木より咲きかかりて、風になびきたるにほひは、かくぞあるかし」と思ひよそへらる。「かかる人びとを、心にまかせて明け暮れ見たてまつらばや。さもありぬべきほどながら、隔て隔てのけざやかなるこそつらけれ」など思ふに、まめ心も、なまあくがるる心地す。<BR>⏎
text28361 <A NAME="in33">[第三段 内大臣、大宮を訪う]</A><BR>213 
d1362<P>⏎
 363 祖母宮の御もとにも参りたまへれば、のどやかにて御行なひしたまふ。よろしき若人など、ここにもさぶらへど、もてなしけはひ、装束どもも、盛りなるあたりには似るべくもあらず。容貌よき尼君たちの、墨染にやつれたるぞ、なかなかかかる所につけては、さるかたにてあはれなりける。<BR>⏎214 
d1364<P>⏎
 365 内の大臣も参りたまへるに、御殿油など参りて、のどやかに御物語など聞こえたまふ。<BR>⏎215 
d1366<P>⏎
 367 「姫君を久しく見たてまつらぬがあさましきこと」<BR>⏎216 
cd2:1368-369<P> とてただ泣きに泣きたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
217 とてただ泣きに泣きたまふ。<BR>⏎
 370 「今このごろのほどに参らせむ。心づからもの思はしげにて、口惜しう衰へにてなむはべめる。女こそ、よく言はば、持ちはべるまじきものなりけれ。とあるにつけても、心のみなむ尽くされはべりける」<BR>⏎218 
d1371<P>⏎
cd2:1372-373 などなほ心解けず思ひおきたるけしきしてのたまへば、心憂くて、切にも聞こえたまはず。そのついでにも、<BR>⏎
<P>⏎
219 などなほ心解けず思ひおきたるけしきしてのたまへば、心憂くて、切にも聞こえたまはず。そのついでにも、<BR>⏎
 374 「いと不調なる娘まうけはべりて、もてわづらひはべりぬ」<BR>⏎220 
d1375<P>⏎
cd4:2376-379 と愁へきこえたまひて、笑ひたまふ。宮、<BR>⏎
<P>⏎
 「いであやし。女といふ名はして、さがなかるやうやある」<BR>⏎
<P>⏎
221-222 と愁へきこえたまひて、笑ひたまふ。宮、<BR>⏎
 「いであやし。女といふ名はして、さがなかるやうやある」<BR>⏎
 380 とのたまへば、<BR>⏎223 
d1381<P>⏎
cd5:2382-386 「それなむ見苦しきことになむはべる。いかで御覧ぜさせむ」<BR>⏎
<P>⏎
 と聞こえたまふとや。<BR>⏎

<P>⏎
224-225 「それなむ見苦しきことになむはべる。いかで御覧ぜさせむ」<BR>⏎
 と聞こえたまふとや。<BR>⏎
text28387 <a name="in41">【出典】<BR>226 
c1388</a><A NAME="no1">出典1</A> 植ゑたてて君がしめゆふ野辺なれば玉とも見よと露や置くらむ(古今六帖一-五六二 伊勢)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
227<A NAME="no1">出典1</A> 植ゑたてて君がしめゆふ野辺なれば玉とも見よと露や置くらむ(古今六帖一-五六二 伊勢)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
 389<A NAME="no2">出典2</A> 春はただ花のひとへに咲くばかりもののあはれは秋ぞまされる(拾遺集雑下-五一一 読人しらず)春はただ花こそは咲け野辺ごとに錦を張れる秋はまされり(論春秋歌合-二 豊主)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR>⏎228 
 390<A NAME="no3">出典3</A> 春秋に思ひ乱れて分きかねつ時につけつつ移る心は(拾遺集雑下-五〇九 紀貫之)色見えで移ろふものは世の中の人の心の花にぞありける(古今集恋五-797 小野小町)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR>⏎229 
 391<A NAME="no4">出典4</A> 大空をおほふばかりの袖もがな春咲く花を風に任せじ(後撰集春中-六四 読人しらず)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR>⏎230 
 392<A NAME="no5">出典5</A> 宮城野のもとあらの小萩露を重み風を待つごと君をこそ待て(古今集恋四-六九四 読人しらず)<A HREF="#te5">(戻)</A><BR>⏎231 
 393<A NAME="no6">出典6</A> 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな(後撰集雑一-一一〇二 藤原兼輔)<A HREF="#te6">(戻)</A><BR>⏎232 
 394<A NAME="no7">出典7</A> 苅萱の穂に出でて物を言はねどもなびく草葉にあはれとぞ見し(古今六帖六-三七八七)<A HREF="#te7">(戻)</A><BR>⏎233 
d1395
text28396<p> <a name="in42">【校訂】<BR>234 
 397備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△<BR>⏎235 
c1398</a><A NAME="k01">校訂1</A> おろかなりとも思い--おろかにし(にし/$なりともおほひ)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
236<A NAME="k01">校訂1</A> おろかなりとも思い--おろかにし(にし/$なりともおほひ)<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
 399<A NAME="k02">校訂2</A> けざけざと--けさ/\(/\/+と<朱>)<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎237 
 400<A NAME="k03">校訂3</A> 引き上げて--ひま(ひま/$)ひきあけて<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎238 
 401<A NAME="k04">校訂4</A> 御さま--(/+御)さま<A HREF="#t04">(戻)</A><BR>⏎239 
 402<A NAME="k05">校訂5</A> 見れば--みれ(れ/+は<朱>)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR>⏎240 
 403<A NAME="k06">校訂6</A> 小さき--ちう(う/$い)さき<A HREF="#t06">(戻)</A><BR>⏎241 
d1404</p>⏎
 405<p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR>⏎242 
 406<a href="roman28.html">ローマ字版 </a><BR>⏎243 
 407<a href="version28.html">現代語訳 </a><BR>⏎244 
 408<a href="note28.html">注釈</a><BR>⏎245 
 409<a href="data28.html">大島本</a><BR>⏎246 
 410<a href="okuiri28.html">自筆本奥入</a><BR>⏎247 
d1411</p>⏎
 412<hr size="4">⏎248 
 413</body>⏎249 
 414</HTML>⏎250 
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