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 1<HTML>⏎1 
 2<HEAD>⏎2 
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 5<meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎5 
 6<TITLE>紅梅(大島本)</TITLE>⏎6 
 7</HEAD>⏎7 
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8<BODY>⏎
text439<ADDRESS>Last updated 2/17/2002<BR>9 
text4310渋谷栄一校訂(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS>10 
d111<P>⏎
 12  <H3>紅梅</H3>⏎11 
d113<P>⏎
 14匂宮と紅梅大納言家の物語<BR>⏎12 
d115<P>⏎
 16 [主要登場人物]<BR>⏎13 
 17<DL>⏎14 
 18<DT> 匂宮<におうのみや>⏎15 
 19<DD>呼称---兵部卿宮・宮・君、今上帝の第三親王<BR>⏎16 
 20<DT> 紅梅大納言<こうばいのだいなごん><BR>⏎17 
 21<DD>呼称---按察使大納言・大納言・大納言殿・大納言の君、致仕大臣の二男、故柏木の弟<BR>⏎18 
 22<DT> 大君<おおいきみ><BR>⏎19 
 23<DD>呼称---麗景殿・春宮の御方、紅梅大納言の長女<BR>⏎20 
 24<DT> 中君<なかのきみ><BR>⏎21 
 25<DD>呼称---西の御方、紅梅大納言の二女<BR>⏎22 
 26<DT> 真木柱<まきばしら><BR>⏎23 
 27<DD>呼称---北の方・母北の方・母上・上・君、鬚黒大将の娘、蛍兵部卿宮の北の方<BR>⏎24 
 28<DT> 宮の御方<みやのおおんかた><BR>⏎25 
 29<DD>呼称---東の姫君・女君・東・君、蛍宮と真木柱の娘<BR>⏎26 
 30<DT> 夕霧<ゆうぎり><BR>⏎27 
 31<DD>呼称---右大臣・大臣、源氏の長男<BR>⏎28 
 32<DT> 明石の中宮<あかしのちゅうぐう><BR>⏎29 
 33<DD>呼称---中宮、今上帝の后<BR>⏎30 
 34<DT> 今上帝<きんじょうてい><BR>⏎31 
 35<DD>呼称---内裏、朱雀院の御子<BR>⏎32 
 36<DT> 東宮<とうぐう><BR>⏎33 
 37<DD>呼称---春宮・宮、今上帝の第一親王<BR>⏎34 
 38<DT> 大君<おおいきみ><BR>⏎35 
 39<DD>呼称---右大殿の女御<BR>⏎36 
 40</DL>⏎37 
d141<P>⏎
 42第一章 紅梅大納言家の物語 娘たちの結婚を思案<BR>⏎38 
 43<OL>⏎39 
 44<LI>按察使大納言家の家族---<A HREF="#in11">そのころ、按察使大納言と聞こゆるは</A>⏎40 
 45<LI>按察使大納言家の三姫君---<A HREF="#in12">君たち、同じほどに、すぎすぎおとなびたまひぬれば</A>⏎41 
 46<LI>宮の御方の魅力---<A HREF="#in13">殿は、つれづれなる心地して、西の御方は</A>⏎42 
 47<LI>按察使大納言の音楽談義---<A HREF="#in14">「月ごろ、何となくもの騒がしきほどに、御琴の音を</A>⏎43 
 48</OL>⏎44 
 49第二章 匂兵部卿の物語 宮の御方に執心<BR>⏎45 
 50<OL>⏎46 
 51<LI>按察使大納言、匂宮に和歌を贈る---<A HREF="#in21">若君、内裏へ参らむと、宿直姿にて参りたまへる</A>⏎47 
 52<LI>匂宮、若君と語る---<A HREF="#in22">中宮の上の御局より、御宿直所に出でたまふほどなり</A>⏎48 
 53<LI>匂宮、宮の御方を思う---<A HREF="#in23">「今宵は宿直なめり。やがてこなたにを</A>⏎49 
 54<LI>按察使大納言と匂宮、和歌を贈答---<A HREF="#in24">これは、昨日の御返りなれば見せたてまつる</A>⏎50 
 55<LI>匂宮、宮の御方に執心---<A HREF="#in25">宮の御方は、もの思し知るほどにねびまさりたまへば</A>⏎51 
 56</OL>⏎52 
d157<P>⏎
 58<A HREF="#in31">【出典】</A><BR>⏎53 
 59<A HREF="#in32">【校訂】</A><BR>⏎54 
d160<P>⏎
text4361 <H4>第一章 紅梅大納言家の物語 娘たちの結婚を思案</H4>55 
text4362 <A NAME="in11">[第一段 按察使大納言家の家族]</A><BR>56 
 63 そのころ、按察使大納言と聞こゆるは、故致仕の大臣の二郎なり。亡せたまひにし右衛門督のさしつぎよ。童よりらうらうじう、はなやかなる心ばへものしたまひし人にて、なりのぼりたまふ年月に添へて、まいていと世にあるかひあり、あらまほしうもてなし、御おぼえいとやむごとなかりける。<BR>⏎57 
 64 北の方二人ものしたまひしを、もとよりのは亡くなりたまひて、今ものしたまふは、後の太政大臣の御女、真木柱離れがたくしたまひし君を、式部卿宮にて、故兵部卿親王にあはせたてまつりたまへりしを、親王亡せたまひてのち、忍びつつ通ひたまひしかど、年月経れば、えさしも憚りたまはぬなめり。<BR>⏎58 
 65 御子は、故北の方の御腹に、二人のみぞおはしければ、さうざうしとて、神仏に祈りて、今の御腹にぞ、男君一人まうけたまへる。故宮の御方に、女君一所おはす。隔てわかず、いづれをも同じごと、思ひきこえ交はしたまへるを、おのおの御方の人などは、うるはしうもあらぬ心ばへうちまじり、なまくねくねしきことも出で来る時々あれど、北の方、いと晴れ晴れしく今めきたる人にて、罪なく取りなし、わが御方ざまに苦しかるべきことをも、なだらかに聞きなし、思ひ直したまへば、聞きにくからでめやすかりけり。<BR>⏎59 
d166<P>⏎
text4367 <A NAME="in12">[第二段 按察使大納言家の三姫君]</A><BR>60 
c168 君たち、同じほどに、すぎすぎおとなびたまひぬれば、御裳など着せたてまつりたまふ。七間の寝殿、広く大きに造りて、南面に大納言殿大君、西に中の君、東に宮の御方と、住ませたてまつりたまへり。<BR>⏎
61 君たち、同じほどに、すぎすぎおとなびたまひぬれば、御裳など着せたてまつりたまふ。七間の寝殿、広く大きに造りて、南面に大納言殿大君、西に中の君、東に宮の御方と、住ませたてまつりたまへり。<BR>⏎
 69 おほかたにうち思ふほどは、父宮のおはせぬ心苦しきやうなれど、こなたかなたの御宝物多くなどして、うちうちの儀式ありさまなど、心にくく気高くなどもてなして、けはひあらまほしくおはす。<BR>⏎62 
c270-71 例の、かくかしづきたまふ聞こえありて、次々に従ひつつ聞こえたまふ人多く、「内裏、春宮より御けしきあれど、内裏には中宮おはします。いかばかりの人かは、かの御けはひに並びきこえむ。さりとて、思ひ劣り卑下せむもかひなかるべし。春宮には、<A HREF="#k01">右大臣殿の女御</A><A NAME="t01">、</A>並ぶ人なげにてさぶらひたまふは、きしろひにくけれど、さのみ言ひてやは。人にまさらむと思ふ女子を、宮仕へに思ひ絶えては、何の本意かはあらむ」と思したちて、参らせたてまつりたまふ。十七八のほどにて、うつくしう、匂ひ多かる容貌したまへり。<BR>⏎
 中の君も、うちすがひて、あてなまめかしう、澄みたるさまはまさりて、をかしうおはすめれば、ただ人にては、あたらしく見せま憂き御さまを、「兵部卿宮の、さも思したらば」など思したる。この若君を、内裏にてなど見つけたまふ時は、召しまとはし、戯れ敵にしたまふ。心ばへありて、奥<A HREF="#k02">推し量らるる</A><A NAME="t02">ま</A>み額つきなり。<BR>⏎
63-64 例の、かくかしづきたまふ聞こえありて、次々に従ひつつ聞こえたまふ人多く、「内裏、春宮より御けしきあれど、内裏には中宮おはします。いかばかりの人かは、かの御けはひに並びきこえむ。さりとて、思ひ劣り卑下せむもかひなかるべし。春宮には、<A HREF="#k01">右大臣殿の女御</A><A NAME="t01">、</A>並ぶ人なげにてさぶらひたまふは、きしろひにくけれど、さのみ言ひてやは。人にまさらむと思ふ女子を、宮仕へに思ひ絶えては、何の本意かはあらむ」と思したちて、参らせたてまつりたまふ。十七八のほどにて、うつくしう、匂ひ多かる容貌したまへり。<BR>⏎
 中の君も、うちすがひて、あてなまめかしう、澄みたるさまはまさりて、をかしうおはすめれば、ただ人にては、あたらしく見せま憂き御さまを、「兵部卿宮の、さも思したらば」など思したる。この若君を、内裏にてなど見つけたまふ時は、召しまとはし、戯れ敵にしたまふ。心ばへありて、奥<A HREF="#k02">推し量らるる</A><A NAME="t02">ま</A>み額つきなり。<BR>⏎
 72 「せうとを見てのみはえやまじと、大納言に申せよ」などのたまひかくるを、「さなむ」と聞こゆれば、うち笑みて、「いとかひあり」と思したり。<BR>⏎65 
 73 「人に劣らむ宮仕ひよりは、この宮にこそは、よろしからむ女子は見せたてまつらまほしけれ。心ゆくにまかせて、かしづきて見たてまつらむに、命延びぬべき宮の御さまなり」<BR>⏎66 
c174 とのたまひながら、まづ春宮の御ことをいそぎたまひて、「春日の神の御ことわりも、わが世にやもし出で来て、故大臣の、院の女御の御ことを、胸いたく思してやみにし慰めのこともあらなむ」と、心のうちに祈りて、参らせたてまつりたまひつ。いと時めきたまふよし、人びと聞こゆ。<BR>⏎
67 とのたまひながら、まづ春宮の御ことをいそぎたまひて、「春日の神の御ことわりも、わが世にやもし出で来て、故大臣の、院の女御の御ことを、胸いたく思してやみにし慰めのこともあらなむ」と、心のうちに祈りて、参らせたてまつりたまひつ。いと時めきたまふよし、人びと聞こゆ。<BR>⏎
 75 かかる御まじらひの馴れたまはぬほどに、はかばかしき御後見なくてはいかがとて、北の方添ひてさぶらひたまへば、まことに限りもなく思ひかしづき、後見きこえたまふ。<BR>⏎68 
d176<P>⏎
text4377 <A NAME="in13">[第三段 宮の御方の魅力]</A><BR>69 
 78 殿は、つれづれなる心地して、西の御方は、一つに慣らひたまひて、いとさうざうしくながめたまふ。東の姫君も、うとうとしくかたみにもてなしたまはで、夜々は一所に大殿籠もり、よろづの御こと習ひ、はかなき御遊びわざをも、こなたを師のやうに思ひきこえてぞ、誰れも習ひ遊びたまひける。<BR>⏎70 
c279-80 もの恥ぢを世の常ならずしたまひて、母北の方にだに、さやかにはをさをささし向ひたてまつりたまはず、かたはなるまでもてなしたまふものから、心ばへけはひの埋れたるさまならず、愛敬づきたまへること、はた人よりすぐれたまへり。<BR>⏎
 かく内裏参りや何やと、わが方ざまをのみ思ひ急ぐやうなるも、心苦しなど思して、<BR>⏎
71-72 もの恥ぢを世の常ならずしたまひて、母北の方にだに、さやかにはをさをささし向ひたてまつりたまはず、かたはなるまでもてなしたまふものから、心ばへけはひの埋れたるさまならず、愛敬づきたまへること、はた人よりすぐれたまへり。<BR>⏎
 かく内裏参りや何やと、わが方ざまをのみ思ひ急ぐやうなるも、心苦しなど思して、<BR>⏎
 81 「さるべからむさまに思し定めてのたまへ。同じこととこそは、仕うまつらめ」<BR>⏎73 
c382-84 と母君にも聞こえたまひけれど、<BR>⏎
 「さらにさやうの世づきたるさま、思ひ立つべきにもあらぬけしきなれば、なかなかならむことは、心苦しかるべし。御宿世にまかせて、世にあらむ限りは見たてまつらむ。後ぞあはれにうしろめたけれど、世を背く方にても、おのづから人笑へに、あはつけきこなくて、過ぐしたまはなむ」<BR>⏎
 などうち泣きて、御心ばせの思ふやうなることをぞ聞こえたまふ。<BR>⏎
74-76 と母君にも聞こえたまひけれど、<BR>⏎
 「さらにさやうの世づきたるさま、思ひ立つべきにもあらぬけしきなれば、なかなかならむことは、心苦しかるべし。御宿世にまかせて、世にあらむ限りは見たてまつらむ。後ぞあはれにうしろめたけれど、世を背く方にても、おのづから人笑へに、あはつけきこなくて、過ぐしたまはなむ」<BR>⏎
 などうち泣きて、御心ばせの思ふやうなることをぞ聞こえたまふ。<BR>⏎
 85 いづれも分かず親がりたまへど、御容貌を見ばやとゆかしう思して、「隠れたまふこそ心憂けれ」と恨みて、「人知れず、見えたまひぬべしや」と、覗きありきたまへど、絶えてかたそばをだに、え見たてまつりたまはず。<BR>⏎77 
 86 「上おはせぬほどは、立ち代はりて参り来べきを、うとうとしく思し分くる御けしきなれば、心憂くこそ」<BR>⏎78 
 87 など聞こえ、御簾の前にゐたまへば、御いらへなど、ほのかに聞こえたまふ。御声けはひなど、あてにをかしう、さま容貌思ひやられて、あはれにおぼゆる人の御ありさまなり。わが<A HREF="#k03">御姫君</A><A NAME="t03">た</A>ちを、人に劣らじと思ひおごれど、「この君に、えしもまさらずやあらむ。かかればこそ、世の中の広きうちはわづらはしけれ。たぐひあらじと思ふに、まさる方も、おのづからありぬべかめり」など、いとどいぶかしう思ひきこえたまふ。<BR>⏎79 
d188<P>⏎
text4389 <A NAME="in14">[第四段 按察使大納言の音楽談義]</A><BR>80 
 90 「月ごろ、何となくもの騒がしきほどに、御琴の音をだにうけたまはらで久しうなりはべりにけり。西の方にはべる人は、琵琶を心に入れてはべる、さもまねび取りつべくやおぼえはべらむ。なまかたほにしたるに、聞きにくきものの音がらなり。同じくは、御心とどめて教へさせたまへ。<BR>⏎81 
 91 翁は、とりたてて習ふものはべらざりしかど、そのかみ、盛りなりし世に遊びはべりし力にや、聞き知るばかりのわきまへは、何ごとにもいとつきなうはべらざりしを、うちとけても遊ばさねど、時々うけたまはる御琵琶の音なむ、昔おぼえはべる。<BR>⏎82 
 92 故六条院の御伝へにて、右の大臣なむ、このころ世に<A HREF="#k04">残り</A><A NAME="t04">た</A>まへる。源中納言、兵部卿宮、何ごとにも、昔の人に劣るまじう、いと契りことにものしたまふ人びとにて、遊びの方は、取り分きて心とどめたまへるを、手づかひすこしなよびたる撥音などなむ、大臣には及びたまはずと思うたまふるを、<A HREF="#k05">この</A><A NAME="t05">御</A>琴の音こそ、いとよくおぼえたまへれ。<BR>⏎83 
c193 琵琶は、押手しづやかなるをよきにするものなるに、柱さすほど、撥音のさま変はりて、なまめかしう聞こえ<A HREF="#k06">たるなむ</A><A NAME="t06">、</A>女の御ことにて、なかなかをかしかりける。いで遊ばさむや。御琴参れ」<BR>⏎
84 琵琶は、押手しづやかなるをよきにするものなるに、柱さすほど、撥音のさま変はりて、なまめかしう聞こえ<A HREF="#k06">たるなむ</A><A NAME="t06">、</A>女の御ことにて、なかなかをかしかりける。いで遊ばさむや。御琴参れ」<BR>⏎
 94 とのたまふ。女房などは、隠れたてまつるもをさをさなし。いと若き上臈だつが、見えたてまつらじと思ふはしも、心にまかせてゐたれば、「さぶらふ人さへかくもてなすが、やすからぬ」と腹立ちたまふ。<BR>⏎85 
d195<P>⏎
text4396 <H4>第二章 匂兵部卿の物語 宮の御方に執心</H4>86 
text4397 <A NAME="in21">[第一段 按察使大納言、匂宮に和歌を贈る]</A><BR>87 
 98 若君、内裏へ参らむと、宿直姿にて参りたまへる、わざとうるはしきみづらよりも、いとをかしく見えて、いみじううつくしと思したり。麗景殿に、御ことづけ聞こえたまふ。<BR>⏎88 
 99 「譲りきこえて、今宵もえ参るまじく、悩ましく、など聞こえよ」とのたまひて、「笛すこし仕うまつれ。ともすれば、御前の御遊びに召し出でらるる、かたはらいたしや。まだいと若き笛を」<BR>⏎89 
 100 とうち笑みて、双調吹かせたまふ。いとをかしう吹いたまへば、<BR>⏎90 
c1101 「けしうはあらずなりゆくは、このわたりにて、おのづから物に合はするけなり。なほ掻き合はせさせたまへ」<BR>⏎
91 「けしうはあらずなりゆくは、このわたりにて、おのづから物に合はするけなり。なほ掻き合はせさせたまへ」<BR>⏎
 102 と責めきこえたまへば、苦しと思したるけしきながら、爪弾きにいとよく合はせて、ただすこし掻き鳴らいたまふ。皮笛、ふつつかに馴れたる声して、この東のつまに、軒近き紅梅の、いとおもしろく匂ひたるを見たまひて、<BR>⏎92 
c1103 「御前の花、心ばへありて見ゆめり。兵部卿宮、内裏におはすなり。一枝折りて参れ。<A HREF="#no1">知る人ぞ知る</A><A NAME="te1">」</A>とて、「あはれ光る源氏、といはゆる御盛りの大将などにおはせしころ、童にて、かやうにてまじらひ馴れきこえしこそ、世とともに恋しうはべれ。<BR>⏎
93 「御前の花、心ばへありて見ゆめり。兵部卿宮、内裏におはすなり。一枝折りて参れ。<A HREF="#no1">知る人ぞ知る</A><A NAME="te1">」</A>とて、「あはれ光る源氏、といはゆる御盛りの大将などにおはせしころ、童にて、かやうにてまじらひ馴れきこえしこそ、世とともに恋しうはべれ。<BR>⏎
 104 この宮たちを、世人も、いとことに思ひきこえ、げに人にめでられむとなりたまへる御ありさまなれど、端が端にもおぼえたまはぬは、なほたぐひあらじと思ひきこえし心のなしにやありけむ。<BR>⏎94 
 105 おほかたにて、思ひ出でたてまつるに、胸あく世なく悲しきを、気近き人の後れたてまつりて、生きめぐらふは、おぼろけの命長さなりかし、とこそおぼえはべれ」<BR>⏎95 
c1106 など聞こえ出でたまひて、ものあはれにすごく思ひめぐらししをれたまふ。<BR>⏎
96 など聞こえ出でたまひて、ものあはれにすごく思ひめぐらししをれたまふ。<BR>⏎
 107 ついでの忍びがたきにや、花折らせて、急ぎ参らせたまふ。<BR>⏎97 
 108 「いかがはせむ。昔の恋しき御形見には、この宮ばかりこそは。仏の隠れたまひけむ御名残には、阿難が光放ちけむを、二度出でたまへるかと疑ふさかしき聖のありけるを、闇に惑ふはるけ所に、聞こえをかさむかし」とて、<BR>⏎98 
cd4:2109-112 「心ありて風の匂はす園の梅に<BR>⏎
  まづ<A HREF="#no2">鴬の訪はずや</A><A NAME="te2">あ</A>るべき」<BR>⏎
 と紅の紙に若やぎ書きて、この君の懐紙に取りまぜ、押したたみて出だしたてたまふを、幼き心に、いと馴れきこえまほしと思へば、急ぎ参りたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
99-100 「心ありて風の匂はす園の梅に<BR>  まづ<A HREF="#no2">鴬の訪はずや</A><A NAME="te2">あ</A>るべき」<BR>⏎
 と紅の紙に若やぎ書きて、この君の懐紙に取りまぜ、押したたみて出だしたてたまふを、幼き心に、いと馴れきこえまほしと思へば、急ぎ参りたまひぬ。<BR>⏎
text43113 <A NAME="in22">[第二段 匂宮、若君と語る]</A><BR>101 
 114 中宮の上の御局より、御宿直所に出でたまふほどなり。殿上人あまた御送りに参る中に、見つけたまひて、<BR>⏎102 
 115 「昨日は、などいと疾くはまかでにし。いつ参りつるぞ」などのたまふ。<BR>⏎103 
 116 「疾くまかではべりにし悔しさに、まだ内裏におはしますと人の申しつれば、急ぎ参りつるや」<BR>⏎104 
c1117 と幼げなるものから、馴れきこゆ。<BR>⏎
105 と幼げなるものから、馴れきこゆ。<BR>⏎
 118 「内裏ならで、心やすき所にも、時々は遊べかし。若き人どもの、そこはかとなく集まる所ぞ」<BR>⏎106 
 119 とのたまふ。この君召し放ちて語らひたまへば、人びとは、近うも参らず、まかで散りなどして、しめやかになりぬれば、<BR>⏎107 
 120 「春宮には、暇すこし許されためりな。いとしげう思しまとはすめりしを、時取られて人悪ろかめり」<BR>⏎108 
 121 とのたまへば、<BR>⏎109 
 122 「まつはさせたまひしこそ苦しかりしか。御前にはしも」<BR>⏎110 
c2123-124 と聞こえさしてゐたれば、<BR>⏎
 「我をば人げなしと思ひ離れたるとな。ことわりなり。されどやすからずこそ。古めかしき同じ筋にて、東と聞こゆなるは、あひ思ひたまひてむやと、忍びて語らひきこえよ」<BR>⏎
111-112 と聞こえさしてゐたれば、<BR>⏎
 「我をば人げなしと思ひ離れたるとな。ことわりなり。されどやすからずこそ。古めかしき同じ筋にて、東と聞こゆなるは、あひ思ひたまひてむやと、忍びて語らひきこえよ」<BR>⏎
 125 などのたまふついでに、この花をたてまつれば、うち笑みて、<BR>⏎113 
 126 「怨みてのちならましかば」<BR>⏎114 
c1127 とてうちも置かず御覧ず。枝のさま、花房、色も香も世の常ならず。<BR>⏎
115 とてうちも置かず御覧ず。枝のさま、花房、色も香も世の常ならず。<BR>⏎
 128 「<A HREF="#no3">園に匂へる紅の、色に取られて、香なむ</A><A NAME="te3">、</A>白き梅には劣れるといふめるを、いとかしこく、とり並べても咲きけるかな」<BR>⏎116 
cd2:1129-130 とて御心とどめたまふ花なれば、<A HREF="#k07">かひありて</A><A NAME="t07">、</A>もてはやしたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
117 とて御心とどめたまふ花なれば、<A HREF="#k07">かひありて</A><A NAME="t07">、</A>もてはやしたまふ。<BR>⏎
text43131 <A NAME="in23">[第三段 匂宮、宮の御方を思う]</A><BR>118 
 132 「今宵は宿直なめり。やがてこなたにを」<BR>⏎119 
c1133 と召し籠めつれば、春宮にもえ参らず、花も恥づかしく思ひぬべく香ばしくて、気近く臥せたまへるを、若き心地には、たぐひなくうれしくなつかしう思ひきこゆ。<BR>⏎
120 と召し籠めつれば、春宮にもえ参らず、花も恥づかしく思ひぬべく香ばしくて、気近く臥せたまへるを、若き心地には、たぐひなくうれしくなつかしう思ひきこゆ。<BR>⏎
 134 「この花の主人は、など春宮には移ろひたまはざりし」<BR>⏎121 
 135 「知らず。<A HREF="#no4">心知らむ人に</A><A NAME="te4">な</A>どこそ、聞きはべりしか」<BR>⏎122 
c1136 など語りきこゆ。「大納言の御心ばへは、わが方ざまに思ふべかめれ」と聞き合はせたまへ、思ふ心は<A HREF="#k08">異に</A><A NAME="t08">し</A>みぬれば、この返りこと、けざやかにものたまひやらず。<BR>⏎
123 など語りきこゆ。「大納言の御心ばへは、わが方ざまに思ふべかめれ」と聞き合はせたまへ、思ふ心は<A HREF="#k08">異に</A><A NAME="t08">し</A>みぬれば、この返りこと、けざやかにものたまひやらず。<BR>⏎
 137 翌朝、この君のまかづるに、なほざりなるやうにて、<BR>⏎124 
cd3:2138-140 「花の香に誘はれぬべき身なりせば<BR>⏎
  風のたよりを過ぐさましやは」<BR>⏎
 さて「なほ今は、翁どもにさかしら<A HREF="#k09">せさせで</A><A NAME="t09">、</A>忍びやかに」と、返す返すのたまひて、この君も、東のをば、やむごとなく睦ましう思ひましたり。<BR>⏎
125-126 「花の香に誘はれぬべき身なりせば<BR>  風のたよりを過ぐさましやは」<BR>⏎
 さて「なほ今は、翁どもにさかしら<A HREF="#k09">せさせで</A><A NAME="t09">、</A>忍びやかに」と、返す返すのたまひて、この君も、東のをば、やむごとなく睦ましう思ひましたり。<BR>⏎
 141 なかなか異方の姫君は、見えたまひなどして、例の兄弟のさまなれど、童心地に、いと重りかにあらまほしうおはする心ばへを、「かひあるさまにて見たてまつらばや」と思ひありくに、春宮の御方の、いとはなやかにもてなしたまふにつけて、同じこととは思ひながら、いと飽かず口惜しければ、「この宮をだに、気近くて見たてまつらばや」と思ひありくに、うれしき花のついでなり。<BR>⏎127 
d1142<P>⏎
text43143 <A NAME="in24">[第四段 按察使大納言と匂宮、和歌を贈答]</A><BR>128 
c1144 これは昨日の御返りなれば見せたてまつる。<BR>⏎
129 これは昨日の御返りなれば見せたてまつる。<BR>⏎
 145 「ねたげにものたまへるかな。あまり好きたる方にすすみたまへるを、許しきこえずと聞きたまひて、右の大臣、われらが見たてまつるには、いとものまめやかに、御心をさめたまふこそをかしけれ。あだ人とせむに、足らひたまへる御さまを、しひてまめだちたまはむも、見所少なくやならまし」<BR>⏎130 
cd8:6146-153 などしりうごちて、今日も参らせたまふに、また<BR>⏎
 「本つ香の匂へる君が袖触れば<BR>⏎
  花もえならぬ名をや散らさむ<BR>⏎
 とすきずきしやあなかしこ」<BR>⏎
 とまめやかに聞こえたまへり。まことに言ひなさむと思ふところあるにやと、さすがに御心ときめきしたまひて、<BR>⏎
 「花の香を匂はす宿に訪めゆかば<BR>⏎
  色にめづとや人の咎めむ」<BR>⏎
 などなほ心とけずいらへたまへるを、心やましと思ひゐたまへり。<BR>⏎
131-136 などしりうごちて、今日も参らせたまふに、また<BR>⏎
 「本つ香の匂へる君が袖触れば<BR>  花もえならぬ名をや散らさむ<BR>⏎
 とすきずきしやあなかしこ」<BR>⏎
 とまめやかに聞こえたまへり。まことに言ひなさむと思ふところあるにやと、さすがに御心ときめきしたまひて、<BR>⏎
 「花の香を匂はす宿に訪めゆかば<BR>  色にめづとや人の咎めむ」<BR>⏎
 などなほ心とけずいらへたまへるを、心やましと思ひゐたまへり。<BR>⏎
 154 北の方まかでたまひて、内裏わたりのことのたまふついでに、<BR>⏎137 
c1155 「若君の、一夜、宿直して、まかり出でたりし匂ひの、いとをかしかりしを、人はなほと思ひしを、宮の、いと思ほし寄りて、『兵部卿宮に近づききこえにけり。うべ我をばすさめたり』と、けしきとり、怨じたまへりしか。ここに御消息やありし。さも見えざりしを」<BR>⏎
138 「若君の、一夜、宿直して、まかり出でたりし匂ひの、いとをかしかりしを、人はなほと思ひしを、宮の、いと思ほし寄りて、『兵部卿宮に近づききこえにけり。うべ我をばすさめたり』と、けしきとり、怨じたまへりしか。ここに御消息やありし。さも見えざりしを」<BR>⏎
 156 とのたまへば、<BR>⏎139 
 157 「さかし。梅の花めでたまふ君なれば、あなたのつまの紅梅、いと盛りに見えしを、ただならで、折りてたてまつれたりしなり。移り香は、げにこそ心ことなれ。晴れまじらひしたまはむ女などは、さはえしめぬかな。<BR>⏎140 
 158 源中納言は、かうざまに好ましうはたき匂はさで、人柄こそ世になけれ。あやしう、前の世の契りいかなりける報いにかと、ゆかしきことにこそあれ。<BR>⏎141 
 159 同じ花の名なれど、梅は生ひ出でけむ根こそあはれなれ。この宮などのめでたまふ、さることぞかし」<BR>⏎142 
cd2:1160-161 など花によそへても、まづかけきこえたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
143 など花によそへても、まづかけきこえたまふ。<BR>⏎
text43162 <A NAME="in25">[第五段 匂宮、宮の御方に執心]</A><BR>144 
 163 宮の御方は、もの思し知るほどにねびまさりたまへれば、何ごとも見知り、聞きとどめたまはぬにはあらねど、「人に見え、世づきたらむありさまは、さらに」と思し離れたり。<BR>⏎145 
c1164 世の人も、時に寄る心ありてにや、さし向ひたる御方々には、心を尽くし聞こえわび、今めかしきこと多かれど、こなたは、よろづにつけ、ものしめやかに引き入りたまへるを、宮は、御ふさひの方に聞き伝へたまひて、深う、いかでと思ほしなりにけり。<BR>⏎
146 世の人も、時に寄る心ありてにや、さし向ひたる御方々には、心を尽くし聞こえわび、今めかしきこと多かれど、こなたは、よろづにつけ、ものしめやかに引き入りたまへるを、宮は、御ふさひの方に聞き伝へたまひて、深う、いかでと思ほしなりにけり。<BR>⏎
 165 若君を、常にまつはし寄せたまひつつ、忍びやかに御文あれど、大納言の君、深く心かけきこえたまひて、「さも思ひたちてのたまふことあらば」と、けしきとり、心まうけしたまふを見るに、いとほしう、<BR>⏎147 
 166 「ひき違へて、かう思ひ寄るべうもあらぬ方にしも、なげの言の葉を尽くしたまふ、かひなげなること」<BR>⏎148 
cd4:2167-170 と北の方も思しのたまふ。<BR>⏎
 はかなき御返りなどもなければ、負けじの御心添ひて、思ほしやむべくもあらず。「何かは人の御ありさまなどかは、さても見たてまつらまほしう、生ひ先遠くなどは<A HREF="#k10">見えさせ</A><A NAME="t10">た</A>まふに」など、北の方思ほし寄る時々あれど、いといたう色めきたまひて、通ひたまふ忍び所多く、八の宮の姫君にも、御心ざしの浅からで、いとしげうまうでありきたまふ。頼もしげなき御心の、あだあだしさなども、いとどつつましければ、まめやかには思ほし絶えたるを、かたじけなきばかりに、忍びて、母君ぞ、たまさかにさかしらがり聞こえたまふ。<BR>⏎

<P>⏎
149-150 と北の方も思しのたまふ。<BR>⏎
 はかなき御返りなどもなければ、負けじの御心添ひて、思ほしやむべくもあらず。「何かは人の御ありさまなどかは、さても見たてまつらまほしう、生ひ先遠くなどは<A HREF="#k10">見えさせ</A><A NAME="t10">た</A>まふに」など、北の方思ほし寄る時々あれど、いといたう色めきたまひて、通ひたまふ忍び所多く、八の宮の姫君にも、御心ざしの浅からで、いとしげうまうでありきたまふ。頼もしげなき御心の、あだあだしさなども、いとどつつましければ、まめやかには思ほし絶えたるを、かたじけなきばかりに、忍びて、母君ぞ、たまさかにさかしらがり聞こえたまふ。<BR>⏎
text43171 <a name="in31">【出典】<BR>151 
c1172</a><A NAME="no1">出典1</A> 君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る(古今集春上-三八 紀友則)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
152<A NAME="no1">出典1</A> 君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る(古今集春上-三八 紀友則)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
 173<A NAME="no2">出典2</A> 花の香を風のたよりにたぐへてぞ鴬誘ふしるべにはやる(古今集春上-一三 紀友則)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR>⏎153 
 174<A NAME="no3">出典3</A> 紅に色をば変へて梅の花香ぞことごとに匂はざりける(後撰集春上-四四 凡河内躬恒)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR>⏎154 
 175<A NAME="no4">出典4</A> あたら夜の月と花とを同じくはあはれ知れらむ人に見せばや(後撰集春下-一〇三 源信明)<A HREF="#te4">(戻)</A><BR>⏎155 
d1176
text43177<p> <a name="in32">【校訂】<BR>156 
 178備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△<BR>⏎157 
c1179</a><A NAME="k01">校訂1</A> 右大臣殿の女御--*右大(大/+臣<朱>)の<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
158<A NAME="k01">校訂1</A> 右大臣殿の女御--*右大(大/+臣<朱>)の<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
 180<A NAME="k02">校訂2</A> 推し量らるる--おしは(は/+から<朱>)るゝ<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎159 
 181<A NAME="k03">校訂3</A> 御姫君--(/+御<朱>)姫君<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎160 
 182<A NAME="k04">校訂4</A> 残り--のこる(る/$り<朱>)<A HREF="#t04">(戻)</A><BR>⏎161 
 183<A NAME="k05">校訂5</A> この--(/+此<朱>)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR>⏎162 
 184<A NAME="k06">校訂6</A> たるなむ--*たる<A HREF="#t06">(戻)</A><BR>⏎163 
 185<A NAME="k07">校訂7</A> かひありて--かひあり(り/+て)<A HREF="#t07">(戻)</A><BR>⏎164 
 186<A NAME="k08">校訂8</A> 異に--こと(と/+に<朱>)<A HREF="#t08">(戻)</A><BR>⏎165 
 187<A NAME="k09">校訂9</A> せさせで--せま(ま/$さ<朱>)せて<A HREF="#t09">(戻)</A><BR>⏎166 
 188<A NAME="k10">校訂10</A> 見えさせ--(/+見<朱>)えさせ<A HREF="#t10">(戻)</A><BR>⏎167 
d1189</p>⏎
 190<p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR>⏎168 
 191<a href="roman43.html">ローマ字版 </a><BR>⏎169 
 192<a href="version43.html">現代語訳 </a><BR>⏎170 
 193<a href="note43.html">注釈</a><BR>⏎171 
 194<a href="data43.html">大島本</a><BR>⏎172 
 195<a href="okuiri43.html">自筆本奥入</a><BR>⏎173 
d1196</p>⏎
 197<hr size="4">⏎174 
 198</body>⏎175 
 199</HTML>⏎176 
i0178