Last updated 2/17/2002
渋谷栄一校訂(C)(ver.1-2-2)
紅梅
匂宮と紅梅大納言家の物語
[主要登場人物]
- 匂宮<におうのみや>
- 呼称---兵部卿宮・宮・君、今上帝の第三親王
- 紅梅大納言<こうばいのだいなごん>
- 呼称---按察使大納言・大納言・大納言殿・大納言の君、致仕大臣の二男、故柏木の弟
- 大君<おおいきみ>
- 呼称---麗景殿・春宮の御方、紅梅大納言の長女
- 中君<なかのきみ>
- 呼称---西の御方、紅梅大納言の二女
- 真木柱<まきばしら>
- 呼称---北の方・母北の方・母上・上・君、鬚黒大将の娘、蛍兵部卿宮の北の方
- 宮の御方<みやのおおんかた>
- 呼称---東の姫君・女君・東・君、蛍宮と真木柱の娘
- 夕霧<ゆうぎり>
- 呼称---右大臣・大臣、源氏の長男
- 明石の中宮<あかしのちゅうぐう>
- 呼称---中宮、今上帝の后
- 今上帝<きんじょうてい>
- 呼称---内裏、朱雀院の御子
- 東宮<とうぐう>
- 呼称---春宮・宮、今上帝の第一親王
- 大君<おおいきみ>
- 呼称---右大殿の女御
第一章 紅梅大納言家の物語 娘たちの結婚を思案
- 按察使大納言家の家族---そのころ、按察使大納言と聞こゆるは
- 按察使大納言家の三姫君---君たち、同じほどに、すぎすぎおとなびたまひぬれば
- 宮の御方の魅力---殿は、つれづれなる心地して、西の御方は
- 按察使大納言の音楽談義---「月ごろ、何となくもの騒がしきほどに、御琴の音を
第二章 匂兵部卿の物語 宮の御方に執心
- 按察使大納言、匂宮に和歌を贈る---若君、内裏へ参らむと、宿直姿にて参りたまへる
- 匂宮、若君と語る---中宮の上の御局より、御宿直所に出でたまふほどなり
- 匂宮、宮の御方を思う---「今宵は宿直なめり。やがてこなたにを
- 按察使大納言と匂宮、和歌を贈答---これは、昨日の御返りなれば見せたてまつる
- 匂宮、宮の御方に執心---宮の御方は、もの思し知るほどにねびまさりたまへば
【出典】
【校訂】
第一章 紅梅大納言家の物語 娘たちの結婚を思案
[第一段 按察使大納言家の家族]
そのころ、按察使大納言と聞こゆるは、故致仕の大臣の二郎なり。亡せたまひにし右衛門督のさしつぎよ。童よりらうらうじう、はなやかなる心ばへものしたまひし人にて、なりのぼりたまふ年月に添へて、まいていと世にあるかひあり、あらまほしうもてなし、御おぼえいとやむごとなかりける。
北の方二人ものしたまひしを、もとよりのは亡くなりたまひて、今ものしたまふは、後の太政大臣の御女、真木柱離れがたくしたまひし君を、式部卿宮にて、故兵部卿親王にあはせたてまつりたまへりしを、親王亡せたまひてのち、忍びつつ通ひたまひしかど、年月経れば、えさしも憚りたまはぬなめり。
御子は、故北の方の御腹に、二人のみぞおはしければ、さうざうしとて、神仏に祈りて、今の御腹にぞ、男君一人まうけたまへる。故宮の御方に、女君一所おはす。隔てわかず、いづれをも同じごと、思ひきこえ交はしたまへるを、おのおの御方の人などは、うるはしうもあらぬ心ばへうちまじり、なまくねくねしきことも出で来る時々あれど、北の方、いと晴れ晴れしく今めきたる人にて、罪なく取りなし、わが御方ざまに苦しかるべきことをも、なだらかに聞きなし、思ひ直したまへば、聞きにくからでめやすかりけり。
[第二段 按察使大納言家の三姫君]
君たち、同じほどに、すぎすぎおとなびたまひぬれば、御裳など着せたてまつりたまふ。七間の寝殿、広く大きに造りて、南面に,大納言殿,大君、西に中の君、東に宮の御方と、住ませたてまつりたまへり。
おほかたにうち思ふほどは、父宮のおはせぬ心苦しきやうなれど、こなたかなたの御宝物多くなどして、うちうちの儀式ありさまなど、心にくく気高くなどもてなして、けはひあらまほしくおはす。
例の、かくかしづきたまふ聞こえありて、次々に従ひつつ聞こえたまふ人多く、「内裏、春宮より御けしきあれど、内裏には中宮おはします。いかばかりの人かは、かの御けはひに並びきこえむ。さりとて、思ひ劣り卑下せむもかひなかるべし。春宮には、右大臣殿の女御、並ぶ人なげにてさぶらひたまふは、きしろひにくけれど、さのみ言ひてやは。人にまさらむと思ふ女子を、宮仕へに思ひ絶えては、何の本意かはあらむ」と思したちて、参らせたてまつりたまふ。十七,八のほどにて、うつくしう、匂ひ多かる容貌したまへり。
中の君も、うちすがひて、あてになまめかしう、澄みたるさまはまさりて、をかしうおはすめれば、ただ人にては、あたらしく見せま憂き御さまを、「兵部卿宮の、さも思したらば」など思したる。この若君を、内裏にてなど見つけたまふ時は、召しまとはし、戯れ敵にしたまふ。心ばへありて、奥推し量らるるまみ額つきなり。
「せうとを見てのみはえやまじと、大納言に申せよ」などのたまひかくるを、「さなむ」と聞こゆれば、うち笑みて、「いとかひあり」と思したり。
「人に劣らむ宮仕ひよりは、この宮にこそは、よろしからむ女子は見せたてまつらまほしけれ。心ゆくにまかせて、かしづきて見たてまつらむに、命延びぬべき宮の御さまなり」
とのたまひながら、まづ,春宮の御ことをいそぎたまひて、「春日の神の御ことわりも、わが世にやもし出で来て、故大臣の、院の女御の御ことを、胸いたく思してやみにし慰めのこともあらなむ」と、心のうちに祈りて、参らせたてまつりたまひつ。いと時めきたまふよし、人びと聞こゆ。
かかる御まじらひの馴れたまはぬほどに、はかばかしき御後見なくてはいかがとて、北の方添ひてさぶらひたまへば、まことに限りもなく思ひかしづき、後見きこえたまふ。
[第三段 宮の御方の魅力]
殿は、つれづれなる心地して、西の御方は、一つに慣らひたまひて、いとさうざうしくながめたまふ。東の姫君も、うとうとしくかたみにもてなしたまはで、夜々は一所に大殿籠もり、よろづの御こと習ひ、はかなき御遊びわざをも、こなたを師のやうに思ひきこえてぞ、誰れも習ひ遊びたまひける。
もの恥ぢを世の常ならずしたまひて、母北の方にだに、さやかにはをさをささし向ひたてまつりたまはず、かたはなるまでもてなしたまふものから、心ばへけはひの埋れたるさまならず、愛敬づきたまへること、はた,人よりすぐれたまへり。
かく,内裏参りや何やと、わが方ざまをのみ思ひ急ぐやうなるも、心苦しなど思して、
「さるべからむさまに思し定めてのたまへ。同じこととこそは、仕うまつらめ」
と,母君にも聞こえたまひけれど、
「さらにさやうの世づきたるさま、思ひ立つべきにもあらぬけしきなれば、なかなかならむことは、心苦しかるべし。御宿世にまかせて、世にあらむ限りは見たてまつらむ。後ぞあはれにうしろめたけれど、世を背く方にても、おのづから人笑へに、あはつけきことなくて、過ぐしたまはなむ」
など,うち泣きて、御心ばせの思ふやうなることをぞ聞こえたまふ。
いづれも分かず親がりたまへど、御容貌を見ばやとゆかしう思して、「隠れたまふこそ心憂けれ」と恨みて、「人知れず、見えたまひぬべしや」と、覗きありきたまへど、絶えてかたそばをだに、え見たてまつりたまはず。
「上おはせぬほどは、立ち代はりて参り来べきを、うとうとしく思し分くる御けしきなれば、心憂くこそ」
など聞こえ、御簾の前にゐたまへば、御いらへなど、ほのかに聞こえたまふ。御声けはひなど、あてにをかしう、さま容貌思ひやられて、あはれにおぼゆる人の御ありさまなり。わが御姫君たちを、人に劣らじと思ひおごれど、「この君に、えしもまさらずやあらむ。かかればこそ、世の中の広きうちはわづらはしけれ。たぐひあらじと思ふに、まさる方も、おのづからありぬべかめり」など、いとどいぶかしう思ひきこえたまふ。
[第四段 按察使大納言の音楽談義]
「月ごろ、何となくもの騒がしきほどに、御琴の音をだにうけたまはらで久しうなりはべりにけり。西の方にはべる人は、琵琶を心に入れてはべる、さもまねび取りつべくやおぼえはべらむ。なまかたほにしたるに、聞きにくきものの音がらなり。同じくは、御心とどめて教へさせたまへ。
翁は、とりたてて習ふものはべらざりしかど、そのかみ、盛りなりし世に遊びはべりし力にや、聞き知るばかりのわきまへは、何ごとにもいとつきなうはべらざりしを、うちとけても遊ばさねど、時々うけたまはる御琵琶の音なむ、昔おぼえはべる。
故六条院の御伝へにて、右の大臣なむ、このころ世に残りたまへる。源中納言、兵部卿宮、何ごとにも、昔の人に劣るまじう、いと契りことにものしたまふ人びとにて、遊びの方は、取り分きて心とどめたまへるを、手づかひすこしなよびたる撥音などなむ、大臣には及びたまはずと思うたまふるを、この御琴の音こそ、いとよくおぼえたまへれ。
琵琶は、押手しづやかなるをよきにするものなるに、柱さすほど、撥音のさま変はりて、なまめかしう聞こえたるなむ、女の御ことにて、なかなかをかしかりける。いで,遊ばさむや。御琴参れ」
とのたまふ。女房などは、隠れたてまつるもをさをさなし。いと若き上臈だつが、見えたてまつらじと思ふはしも、心にまかせてゐたれば、「さぶらふ人さへかくもてなすが、やすからぬ」と腹立ちたまふ。
第二章 匂兵部卿の物語 宮の御方に執心
[第一段 按察使大納言、匂宮に和歌を贈る]
若君、内裏へ参らむと、宿直姿にて参りたまへる、わざとうるはしきみづらよりも、いとをかしく見えて、いみじううつくしと思したり。麗景殿に、御ことづけ聞こえたまふ。
「譲りきこえて、今宵もえ参るまじく、悩ましく、など聞こえよ」とのたまひて、「笛すこし仕うまつれ。ともすれば、御前の御遊びに召し出でらるる、かたはらいたしや。まだいと若き笛を」
とうち笑みて、双調吹かせたまふ。いとをかしう吹いたまへば、
「けしうはあらずなりゆくは、このわたりにて、おのづから物に合はするけなり。なほ,掻き合はせさせたまへ」
と責めきこえたまへば、苦しと思したるけしきながら、爪弾きにいとよく合はせて、ただすこし掻き鳴らいたまふ。皮笛、ふつつかに馴れたる声して、この東のつまに、軒近き紅梅の、いとおもしろく匂ひたるを見たまひて、
「御前の花、心ばへありて見ゆめり。兵部卿宮、内裏におはすなり。一枝折りて参れ。知る人ぞ知る」とて、「あはれ,光る源氏、といはゆる御盛りの大将などにおはせしころ、童にて、かやうにてまじらひ馴れきこえしこそ、世とともに恋しうはべれ。
この宮たちを、世人も、いとことに思ひきこえ、げに人にめでられむとなりたまへる御ありさまなれど、端が端にもおぼえたまはぬは、なほたぐひあらじと思ひきこえし心のなしにやありけむ。
おほかたにて、思ひ出でたてまつるに、胸あく世なく悲しきを、気近き人の後れたてまつりて、生きめぐらふは、おぼろけの命長さなりかし、とこそおぼえはべれ」
など,聞こえ出でたまひて、ものあはれにすごく思ひめぐらししをれたまふ。
ついでの忍びがたきにや、花折らせて、急ぎ参らせたまふ。
「いかがはせむ。昔の恋しき御形見には、この宮ばかりこそは。仏の隠れたまひけむ御名残には、阿難が光放ちけむを、二度出でたまへるかと疑ふさかしき聖のありけるを、闇に惑ふはるけ所に、聞こえをかさむかし」とて、
「心ありて風の匂はす園の梅に
まづ鴬の訪はずやあるべき」
と,紅の紙に若やぎ書きて、この君の懐紙に取りまぜ、押したたみて出だしたてたまふを、幼き心に、いと馴れきこえまほしと思へば、急ぎ参りたまひぬ。
[第二段 匂宮、若君と語る]
中宮の上の御局より、御宿直所に出でたまふほどなり。殿上人あまた御送りに参る中に、見つけたまひて、
「昨日は、などいと疾くはまかでにし。いつ参りつるぞ」などのたまふ。
「疾くまかではべりにし悔しさに、まだ内裏におはしますと人の申しつれば、急ぎ参りつるや」
と,幼げなるものから、馴れきこゆ。
「内裏ならで、心やすき所にも、時々は遊べかし。若き人どもの、そこはかとなく集まる所ぞ」
とのたまふ。この君召し放ちて語らひたまへば、人びとは、近うも参らず、まかで散りなどして、しめやかになりぬれば、
「春宮には、暇すこし許されためりな。いとしげう思しまとはすめりしを、時取られて人悪ろかめり」
とのたまへば、
「まつはさせたまひしこそ苦しかりしか。御前にはしも」
と,聞こえさしてゐたれば、
「我をば,人げなしと思ひ離れたるとな。ことわりなり。されどやすからずこそ。古めかしき同じ筋にて、東と聞こゆなるは、あひ思ひたまひてむやと、忍びて語らひきこえよ」
などのたまふついでに、この花をたてまつれば、うち笑みて、
「怨みてのちならましかば」
とて,うちも置かず御覧ず。枝のさま、花房、色も香も世の常ならず。
「園に匂へる紅の、色に取られて、香なむ、白き梅には劣れるといふめるを、いとかしこく、とり並べても咲きけるかな」
とて,御心とどめたまふ花なれば、かひありて、もてはやしたまふ。
[第三段 匂宮、宮の御方を思う]
「今宵は宿直なめり。やがてこなたにを」
と,召し籠めつれば、春宮にもえ参らず、花も恥づかしく思ひぬべく香ばしくて、気近く臥せたまへるを、若き心地には、たぐひなくうれしくなつかしう思ひきこゆ。
「この花の主人は、など春宮には移ろひたまはざりし」
「知らず。心知らむ人になどこそ、聞きはべりしか」
など語りきこゆ。「大納言の御心ばへは、わが方ざまに思ふべかめれ」と聞き合はせたまへど、思ふ心は異にしみぬれば、この返りこと、けざやかにものたまひやらず。
翌朝、この君のまかづるに、なほざりなるやうにて、
「花の香に誘はれぬべき身なりせば
風のたよりを過ぐさましやは」
さて,「なほ今は、翁どもにさかしらせさせで、忍びやかに」と、返す返すのたまひて、この君も、東のをば、やむごとなく睦ましう思ひましたり。
なかなか異方の姫君は、見えたまひなどして、例の兄弟のさまなれど、童心地に、いと重りかにあらまほしうおはする心ばへを、「かひあるさまにて見たてまつらばや」と思ひありくに、春宮の御方の、いとはなやかにもてなしたまふにつけて、同じこととは思ひながら、いと飽かず口惜しければ、「この宮をだに、気近くて見たてまつらばや」と思ひありくに、うれしき花のついでなり。
[第四段 按察使大納言と匂宮、和歌を贈答]
これは,昨日の御返りなれば見せたてまつる。
「ねたげにものたまへるかな。あまり好きたる方にすすみたまへるを、許しきこえずと聞きたまひて、右の大臣、われらが見たてまつるには、いとものまめやかに、御心をさめたまふこそをかしけれ。あだ人とせむに、足らひたまへる御さまを、しひてまめだちたまはむも、見所少なくやならまし」
など,しりうごちて、今日も参らせたまふに、また,
「本つ香の匂へる君が袖触れば
花もえならぬ名をや散らさむ
とすきずきしや.あなかしこ」
と,まめやかに聞こえたまへり。まことに言ひなさむと思ふところあるにやと、さすがに御心ときめきしたまひて、
「花の香を匂はす宿に訪めゆかば
色にめづとや人の咎めむ」
など,なほ心とけずいらへたまへるを、心やましと思ひゐたまへり。
北の方まかでたまひて、内裏わたりのことのたまふついでに、
「若君の、一夜、宿直して、まかり出でたりし匂ひの、いとをかしかりしを、人はなほと思ひしを、宮の、いと思ほし寄りて、『兵部卿宮に近づききこえにけり。うべ,我をばすさめたり』と、けしきとり、怨じたまへりしか。ここに,御消息やありし。さも見えざりしを」
とのたまへば、
「さかし。梅の花めでたまふ君なれば、あなたのつまの紅梅、いと盛りに見えしを、ただならで、折りてたてまつれたりしなり。移り香は、げにこそ心ことなれ。晴れまじらひしたまはむ女などは、さはえしめぬかな。
源中納言は、かうざまに好ましうはたき匂はさで、人柄こそ世になけれ。あやしう、前の世の契りいかなりける報いにかと、ゆかしきことにこそあれ。
同じ花の名なれど、梅は生ひ出でけむ根こそあはれなれ。この宮などのめでたまふ、さることぞかし」
など,花によそへても、まづかけきこえたまふ。
[第五段 匂宮、宮の御方に執心]
宮の御方は、もの思し知るほどにねびまさりたまへれば、何ごとも見知り、聞きとどめたまはぬにはあらねど、「人に見え、世づきたらむありさまは、さらに」と思し離れたり。
世の人も、時に寄る心ありてにや、さし向ひたる御方々には、心を尽くし聞こえわび、今めかしきこと多かれど、こなたは、よろづにつけ、ものしめやかに引き入りたまへるを、宮は、御ふさひの方に聞き伝へたまひて、深う、いかで,と思ほしなりにけり。
若君を、常にまつはし寄せたまひつつ、忍びやかに御文あれど、大納言の君、深く心かけきこえたまひて、「さも思ひたちてのたまふことあらば」と、けしきとり、心まうけしたまふを見るに、いとほしう、
「ひき違へて、かう思ひ寄るべうもあらぬ方にしも、なげの言の葉を尽くしたまふ、かひなげなること」
と,北の方も思しのたまふ。
はかなき御返りなどもなければ、負けじの御心添ひて、思ほしやむべくもあらず。「何かは,人の御ありさま,などかは、さても見たてまつらまほしう、生ひ先遠くなどは見えさせたまふに」など、北の方思ほし寄る時々あれど、いといたう色めきたまひて、通ひたまふ忍び所多く、八の宮の姫君にも、御心ざしの浅からで、いとしげうまうでありきたまふ。頼もしげなき御心の、あだあだしさなども、いとどつつましければ、まめやかには思ほし絶えたるを、かたじけなきばかりに、忍びて、母君ぞ、たまさかにさかしらがり聞こえたまふ。
【出典】
出典1 君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る(古今集春上-三八 紀友則)(戻)
出典2 花の香を風のたよりにたぐへてぞ鴬誘ふしるべにはやる(古今集春上-一三 紀友則)(戻)
出典3 紅に色をば変へて梅の花香ぞことごとに匂はざりける(後撰集春上-四四 凡河内躬恒)(戻)
出典4 あたら夜の月と花とを同じくはあはれ知れらむ人に見せばや(後撰集春下-一〇三 源信明)(戻)
【校訂】
備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△
校訂1 右大臣殿の女御--*右大(大/+臣<朱>)の(戻)
校訂2 推し量らるる--おしは(は/+から<朱>)るゝ(戻)
校訂3 御姫君--(/+御<朱>)姫君(戻)
校訂4 残り--のこる(る/$り<朱>)(戻)
校訂5 この--(/+此<朱>)(戻)
校訂6 たるなむ--*たる(戻)
校訂7 かひありて--かひあり(り/+て)(戻)
校訂8 異に--こと(と/+に<朱>)(戻)
校訂9 せさせで--せま(ま/$さ<朱>)せて(戻)
校訂10 見えさせ--(/+見<朱>)えさせ(戻)
源氏物語の世界ヘ
ローマ字版
現代語訳
注釈
大島本
自筆本奥入