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第二十帖 朝顔

光る源氏の内大臣時代三十二歳の晩秋九月から冬までの物語

本文
渋谷栄一訳
与謝野晶子訳

第一章 朝顔姫君の物語 昔の恋の再燃


第一段 九月、故桃園式部卿宮邸を訪問

1.1.1
斎院(さいゐん)は、御服(おほんぶく)にて()りゐたまひにきかし
大臣(おとど)(れい)の、(おぼ)しそめつること、()えぬ御癖(おほんくせ)にて御訪(おほんとぶ)らひなどいとしげう()こえたまふ。
(みや)わづらはしかりしことを(おぼ)せば御返(おほんかへ)りもうちとけて()こえたまはず。
いと口惜(くちを)しと(おぼ)しわたる。
斎院は、御服喪のために退下なさったのである。
大臣、例によって、いったん思い初めたこと、諦めないご性癖で、お見舞いなどたいそう頻繁に差し上げなさる。
宮は、かつて困ったことをお思い出しになると、お返事も気を許して差し上げなさらない。
たいそう残念だとお思い続けていらっしゃる。
斎院は父宮の喪のために職をお辞しになった。源氏は例のように古い恋も忘れることのできぬ癖で、始終手紙を送っているのであったが、斎院御在職時代に迷惑をされた(うわさ)の相手である人に、女王(にょおう)は打ち解けた返事をお書きになることもなかった。
1.1.2
長月(ながつき)になりて、桃園宮(ももぞののみや)(わた)りたまひぬるを()きて女五(をんなご)(みや)のそこにおはすればそなたの御訪(おほんとぶ)らひにことづけて()うでたまふ。
故院(こゐん)の、この御子(みこ)たちをば(こころ)ことにやむごとなく(おも)ひきこえたまへりしかば、(いま)(した)しく次々(つぎつぎ)()こえ()はしたまふめり
(おな)寝殿(しんでん)西東(にしひんがし)にぞ()みたまひける
ほどもなく()れにける心地(ここち)して、あはれにけはひしめやかなり。
九月になって、桃園宮にお移りになったのを聞いて、女五の宮がそこにいらっしゃるので、その方のお見舞にかこつけて参上なさる。
故院が、この内親王方を特別に大切にお思い申し上げていらっしゃったので、今でも親しくそれからそれへと交際なさっていらっしゃるようである。
同じ寝殿の西と東とにお住みになっていらっしゃるのであった。
早くも荒廃してしまった心地がして、しみじみともの寂しげな感じである。
九月になって旧邸の桃園の宮へお移りになったのを聞いて、そこには御叔母(おば)女五(にょご)(みや)が同居しておいでになったから、そのお見舞いに託して源氏は訪問して行った。故院がこの御同胞(はらから)がたを懇切にお扱いになったことによって、今もそうした方々と源氏には親しい交際が残っているのである。同じ御殿の西と東に分かれて、老内親王と若い前斎院とは住んでおいでになった。
1.1.3
(みや)対面(たいめん)したまひて、御物語聞(おほんものがたりき)こえたまふ。
いと(ふる)めきたる(おほん)けはひ、しはぶきがちにおはす。
年長(このかみ)におはすれど故大殿(こおほとの)(みや)は、あらまほしく()りがたき(おほん)ありさまなるを、もて(はな)れ、(こゑ)ふつつかに、こちごちしくおぼえたまへるも、さるかたなり。
宮が、ご対面なさって、お話を申し上げなさる。
たいそうお年を召したご様子、とかく咳をしがちでいらっしゃる。
姉上におあたりになるが、故大殿の宮は、申し分なく若々しいご様子なのに、それにひきかえ、お声もつやがなく、ごつごつとした感じでいらっしゃるのは、そうした人柄なのである。
式部卿(しきぶきょう)の宮がお(かく)れになって何ほどの時がたっているのでもないが、もう宮のうちには荒れた色が漂っていて、しんみりとした空気があった。女五の宮が御対面あそばして源氏にいろいろなお話があった。老女らしい御様子で(せき)が多くお言葉に混じるのである。姉君ではあるが太政大臣の未亡人の宮はもっと若く、美しいところを今もお持ちになるが、これはまったく老人らしくて、女性に遠い気のするほどこちこちしたものごしでおありになるのも不思議である。
1.1.4
(ゐん)(うへ)(かく)れたまひてのちよろづ心細(こころぼそ)くおぼえはべりつるに、(とし)()もるままに、いと(なみだ)がちにて()ぐしはべるを、この(みや)さへかくうち()てたまへれば、いよいよあるかなきかに、とまりはべるを、かく()()()はせたまふになむ、もの(わす)れしぬべくはべる」
「院の上、お崩れあそばして後、いろいろと心細く思われまして、年をとるにつれて、ひどく涙がちに過ごしてきましたが、この宮までがこのように先立たれましたので、ますます生きているのか死んでいるのか分からないような状態で、この世に生き永らえておりましたところ、このようにお見舞いに立ち寄りくださったので、物思いも忘れられそうな気がします」
「院の陛下がお(かく)れになってからは、心細いものに私はなって、年のせいからも泣かれる日が多いところへ、またこの宮が私を置いて行っておしまいになったので、もうあるかないかに生きているにすぎない私を(たず)ねてくだすったことで、私は不幸だと思ったことももう忘れてしまいそうですよ」
1.1.5
()こえたまふ。
とお申し上げになる。
と宮はお言いになった。
1.1.6
かしこくも()りたまへるかな」と(おも)へど、うちかしこまりて、
「恐れ多くもお年を召されたものだ」と思うが、かしこまって、
ずいぶん老人(としより)めいておしまいになったと思いながらも源氏は(かしこ)まって申し上げた。
1.1.7
院隠(ゐんかく)れたまひてのちはさまざまにつけて、(おな)()のやうにもはべらず、おぼえぬ(つみ)()たりはべりて、()らぬ()(まど)ひはべりしをたまたま、朝廷(おほやけ)(かず)まへられたてまつりてはまたとり(みだ)(いとま)なくなどして、(とし)ごろも、(まゐ)りていにしへの御物語(おほんものがたり)をだに()こえうけたまはらぬを、いぶせく(おも)ひたまへわたりつつなむ」
「院がお崩れあそばしてから後は、さまざまなことにつけて、在世当時のようではございませんで、身におぼえのない罪に当たりまして、見知らない世界に流浪しましたが、偶然にも、朝廷からお召しくださいましてからは、また忙しく暇もない状態で、ここ数年は、参上して昔のお話だけでも申し上げたり承ったりできなかったのを、ずっと気にかけ続けてまいりました」
「院がお(かく)れになりまして以来、すべてのことが同じこの世のことと思われませんような変わり方で、思いがけぬ所罰も受けまして、遠国に漂泊(さすら)えておりましたが、たまたま帰京が許されることになりますと、また雑務に追われてばかりおりますようなことで、長い前からお伺いいたして故院のお話を承りもし、お聞きもいただきたいと存じながら果たしえませんことで悶々(もんもん)としておりました」
1.1.8
など()こえたまふを、
などと申し上げなさると、

1.1.9
いともいともあさましくいづ(かた)につけても(さだ)めなき()を、(おな)じさまにて()たまへ()ぐす命長(いのちなが)さの(うら)めしきこと(おほ)くはべれど、かくて、()()(かへ)りたまへる(おほん)よろこびになむ、ありし(とし)ごろを()たてまつりさしてましかば口惜(くちを)しからましとおぼえはべり」
「とてもとても驚くほどの、どれをとってみても定めない世の中を、同じような状態で過ごしてまいりました寿命の長いことの恨めしく思われることが多くございますが、こうして、政界にご復帰なさったお喜びを、あの時代を拝見したままで死んでしまったら、どんなにか残念であったであろうかと思われました」
「あなたの不幸だったころの世の中はまあどうだったろう。昔の御代もそうした時代も同じようにながめていねばならぬことで私は長生きがいやでしたが、またあなたがお栄えになる日を見ることができたために、私の考えはまた違ってきましたよ。あの中途で死んでいたらと思うのでね、長生きがよくなったのですよ」
1.1.10
と、うちわななきたまひて、
と、声をお震わせになって、
ぶるぶるとお声が震う。また続けて、
1.1.11
いときよらにねびまさりたまひにけるかな。
(わらは)にものしたまへりしを()たてまつりそめし(とき)()にかかる(ひかり)()でおはしたることと(おどろ)かれはべりしを、時々見(ときどきみ)たてまつるごとに、ゆゆしくおぼえはべりてなむ。
内裏(うち)(うへ)なむ、いとよく()たてまつらせたまへりと(ひと)びと()こゆるを、さりとも、(おと)りたまへらむとこそ、()(はか)りはべれ」
「まことに美しくご成人なさいましたね。
子どもでいらっしゃったころに、初めてお目にかかった時、真実にこんなにも美しい人がお生まれになったと驚かずにはいられませんでしたが、時々お目にかかるたびに、不吉なまでに思われました。
今上の帝が、とてもよく似ていらっしゃると、人々が申しますが、いくら何でも見劣りあそばすだろうと、推察いたします」
「ますますきれいですね。子供でいらっしった時にはじめてあなたを見て、こんな人も生まれてくるものだろうかとびっくりしましたね。それからもお目にかかるたびにあなたのきれいなのに驚いてばかりいましたよ。今の陛下があなたによく似ていらっしゃるという話ですが、そのとおりには行かないでしょう、やはりいくぶん劣っていらっしゃるだろうと私は想像申し上げますよ」
1.1.12
と、長々(ながなが)()こえたまへば、
と、くどくどと申し上げなさるので、
長々と宮は語られるのであるが、
1.1.13 「ことさらに面と向かって人は褒めないものを」と、おかしくお思いになる。
面と向かって美貌(びぼう)をほめる人もないものであると源氏はおかしく思った。
1.1.14
山賤(やまがつ)になりていたう(おも)ひくづほれはべりし(とし)ごろののち、こよなく(おとろ)へにてはべるものを。
内裏(うち)御容貌(おほんかたち)は、いにしへの()にも(なら)(ひと)なくやとこそ、ありがたく()たてまつりはべれ。
あやしき御推(おほんお)(はか)りになむ」
「田舎者になって、ひどく元気をなくしておりました年月の後は、すっかり衰えてしまいましたものを。
今上の御容貌は、昔の世にも並ぶ方がいないのではいかと、世に類いないお方と拝見しております。
変なご推察です」
「さすらい人になっておりましたころから非常に私も衰えてしまいました。陛下の御美貌は古今無比とお見上げ申しております。あなた様の御想像は誤っておりますよ」
1.1.15
()こえたまふ。
と申し上げなさる。
と源氏は言った。
1.1.16
時々見(ときどきみ)たてまつらばいとどしき(いのち)()びはべらむ。
今日(けふ)()いも(わす)れ、()()(なげ)きみな()りぬる心地(ここち)なむ」
「時々お目にかかれたら、長い寿命がますます延びそうでございます。
今日は老いも忘れ、憂き世の嘆きもみな消えてしまった感じがします」
「では時々陛下を拝んでおればいっそう長生きをする私になりますね。私は今日でもう人生のいやなことも皆忘れてしまいましたよ」
1.1.17
とても、また()いたまふ。
と言っては、
こんなお話のあとでも五の宮はお泣きになるのである。
1.1.18
(さん)(みや)うらやましく、さるべき(おほん)ゆかり()ひて、(した)しく()たてまつりたまふを、うらやみはべる
この()せたまひぬるも、さやうにこそ()いたまふ折々(をりをり)ありしか」
「三の宮が羨ましく、しかるべきご縁ができて、親しくお目にかかることがおできになれるのを、羨ましく思います。
こちらのお亡くなりになった方も、そのように言って後悔なさる折々がありました」
「お姉様の三の宮がおうらやましい。あなたのお子さんを孫にしておられる御縁で始終あなたにお逢いしておられるのだからね。ここのお()くなりになった宮様もその思召しだけがあって、実現できなかったことで歎息(たんそく)をあそばしたことがよくあるのです」
1.1.19
とのたまふにぞ、すこし(みみ)とまりたまふ
とおっしゃるので、少し耳がおとまりになる。
というお話だけには源氏も耳のとまる気がした。
1.1.20
さも、さぶらひ()れなましかば(いま)(おも)ふさまにはべらまし。
(みな)さし(はな)たせたまひて」
「そういうふうにも、親しくお付き合いさせていただけたならば、今も嬉しいことでございましたでしょうに。
すっかり見限りなさいまして」
「そうなっておりましたら私はすばらしい幸福な人間だったでしょう。宮様がたは私に御愛情が足りなかったとより思われません」
1.1.21
と、(うら)めしげにけしきばみきこえたまふ。
と、恨めしそうに様子ぶって申し上げなさる。
と源氏は恨めしいふうに、しかも言外に意を響かせても言った。

第二段 朝顔姫君と対話

1.2.1
あなたの御前(おまへ)()やりたまへば()()れなる前栽(せんさい)(こころ)ばへもことに見渡(みわた)されて、のどやかに(なが)めたまふらむ(おほん)ありさま、容貌(かたち)も、いとゆかしくあはれにて、(ねん)じたまはで、
あちらのお前の方にお目をやりなさると、うら枯れた前栽の風情も格別に見渡されて、のんびりと物思いに耽っていらっしゃるらしいご様子、ご器量も、たいそうお目にかかりたくしみじみと思われて、我慢することがおできになれず、
女王(にょおう)のお住まいになっているほうの庭を遠く見ると、枯れ枯れになった花草もなお魅力を持つもののように思われて、それを静かな気分でながめていられる麗人が直ちに想像され、源氏は恋しかった。逢いたい心のおさえられないままに、
1.2.2
かくさぶらひたるついでを()ぐしはべらむは、(こころ)ざしなきやうなるを、あなたの御訪(おほんとぶ)らひ()こゆべかりけり」
「このようにお伺いした機会を逃しては、無愛想になりますから、あちらへのお見舞いも申し上げなくてはなりませんでした」
「こちらへ伺いましたついでにお(たず)ねいたさないことは、志のないもののように、誤解を受けましょうから、あちらへも参りましょう」
1.2.3
とて、やがて簀子(すのこ)より(わた)りたまふ。
と言って、そのまま簀子からお渡りになる。
と源氏は言って、縁側伝いに行った。
1.2.4
(くら)うなりたるほどなれど、鈍色(にびいろ)御簾(みす)に、(くろ)御几帳(みきちゃう)透影(すきかげ)あはれに、追風(おひかぜ)なまめかしく()(とほ)し、けはひあらまほし
簀子(すのこ)はかたはらいたければ、(みなみ)(ひさし)()れたてまつる。
暗くなってきた時分であるが、鈍色の御簾に、黒い御几帳の透き影がしみじみと見え、追い風が優美に吹き通して、風情は申し分ない。
簀子では不都合なので、南の廂の間にお入れ申し上げる。
もう暗くなったころであったが、(にび)色の縁の御簾(みす)に黒い几帳(きちょう)の添えて立てられてある透影(すきかげ)は身にしむものに思われた。薫物(たきもの)の香が風について吹き通う(えん)なお住居(すまい)である。外は失礼だと思って、女房たちの計らいで南の端の座敷の席が設けられた。
1.2.5
宣旨(せんじ)対面(たいめん)して御消息(おほんせうそこ)()こゆ。
宣旨が、対面して、ご挨拶はお伝え申し上げる。
女房の宣旨(せんじ)が応接に出て取り次ぐ言葉を待っていた。
1.2.6 「今さら、若者扱いの感じがします御簾の前ですね。
神さびるほど古い年月の年功も数えられますので、今は御簾の内への出入りもお許しいただけるものと期待しておりましたが」
「今になりまして、お居間の御簾の前などにお席をいただくことかと私はちょっと戸惑いがされます。どんなに長い年月にわたって私は志を申し続けてきたことでしょう。その労に(むく)いられて、お居間へ伺うくらいのことは許されていいかと信じてきましたが」
1.2.7
とて、()かず(おぼ)したり。
と言って、物足りなくお思いでいらっしゃる。
と言って、源氏は不満足な顔をしていた。
1.2.8
ありし()皆夢(みなゆめ)()なして、(いま)なむ、()めてはかなきにやと、(おも)ひたまへ(さだ)めがたくはべるに、(らう)などは、(しづ)かにやと(さだ)めきこえさすべうはべらむ」
「今までのことはみな夢と思い、今、夢から覚めてはかない気がするのかと、はっきりと分別しかねておりますが、年功などは、静かに考えさせていただきましょう」
「昔というものは皆夢でございまして、それがさめたのちのはかない世かと、それもまだよく決めて思われません境地にただ今はおります私ですから、あなた様の労などは静かに考えさせていただいたのちに()めなければと存じます」
1.2.9
と、()こえ()だしたまへり。
げにこそ(さだ)めがたき()なれ」と、はかなきことにつけても(おぼ)(つづ)けらる。
とお答え申し上げさせなさった。
「なるほど無常な世である」と、ちょっとしたことにつけても自然とお思い続けられる。
女王の言葉の伝えられたのはこれだった。だからこの世は定めがたい、頼みにしがたいのだと、こんな言葉の端からも源氏は悲しまれた。
1.2.10 「誰にも知られず神の許しを待っていた間に
長年つらい世を過ごしてきたことよ
「人知れず神の許しを待ちしまに
ここらつれなき世を過ぐすかな
1.2.11
(いま)は、(なに)のいさめにかかこたせたまはむとすらむ。
なべて、()にわづらはしきことさへはべりしのち、さまざまに(おも)ひたまへ(あつ)めしかな。
いかで片端(かたはし)をだに」
今は、どのような戒めにか、かこつけなさろうとするのでしょう。
総じて、世の中に厄介なことまでがございました後、いろいろとつらい思いをするところがございました。
せめてその一部なりとも」
ただ今はもう神に託しておのがれになることもできないはずです。一方で私が不幸な目にあっていました時以来の苦しみの記録の片端でもお聞きくださいませんか」
1.2.12
と、あながちに()こえたまふ、御用意(おほんようい)なども、(むかし)よりも(いま)すこしなまめかしきけさへ()ひたまひにけり。
さるは、いといたう()ぐしたまへど、御位(おほんくらゐ)のほどには()はざめり
と、たって申し上げなさる、そのお心づかいなども、昔よりもう一段と優美さまでが増していらっしゃった。
その一方で、とてもたいそうお年も召していらっしゃるが、ご身分には相応しくないようである。
源氏は女王と直接に会見することをこう言って強要するのである。そうした様子なども昔の源氏に比べて、より優美なところが多く添ったように思われた。その時代に比べると年はずっと行ってしまった源氏ではあるが、位の高さにはつりあわぬ若々しさは保存されていた。
1.2.13 「一通りのお見舞いの挨拶をするだけでも
誓ったことに背くと神が戒めるでしょう」
なべて世の哀ればかりを問ふからに
誓ひしことを神やいさめん
1.2.14
とあれば、
とあるので、
と斎院のお歌が伝えられる。
1.2.15
あな、心憂(こころう)
その()(つみ)は、みな科戸(しなと)(かぜ)にたぐへてき」
「ああ、情けない。
あの当時の罪は、みな科戸の風にまかせて吹き払ってしまったのに」
「そんなことをおとがめになるのですか。その時代の罪は皆科戸(しなど)の風に追ってもらったはずです」
1.2.16
とのたまふ愛敬(あいぎゃう)も、こよなし。
とおっしゃる魅力も、この上ない。
源氏の愛嬌(あいきょう)はこぼれるようであった。
1.2.17 「その罪を払う禊を、神は、どのようにお聞き届けたのでございましょうか」
「この御禊(みそぎ)を神は(恋せじとみたらし川にせし御禊(みそぎ)神は受けずもなりにけるかな)お受けになりませんそうですね」
1.2.18
など、はかなきことを()こゆるも、まめやかには、いとかたはらいたし
()づかぬ(おほん)ありさまは、年月(としつき)()へても、もの(ふか)くのみ()()りたまひて、()こえたまはぬを、()たてまつり(なや)めり。
などと、ちょっとしたことを申し上げるのも、まじめな話、とても気が気でない。
結婚しようとなさらないご態度は、年月とともに強く、ますます引っ込み思案になりなさって、お返事もなさらないのを、困ったことと拝するようである。
宣旨は軽く戯談(じょうだん)にしては言っているが、心の中では非常に気の毒だと源氏に同情していた。羞恥(しゅうち)深い女王は次第に奥へ身を引いておしまいになって、もう宣旨にも言葉をお与えにならない。
1.2.19 「好色めいたふうになってしまって」
「あまりに哀れに自分が見えすぎますから」
1.2.20
など、(あさ)はかならずうち(なげ)きて()ちたまふ。
などと、深く嘆息してお立ちになる。
と深い歎息(たんそく)をしながら源氏は立ち上がった。
1.2.21 「年をとると、臆面もなくなるものですね。
世に類ないやつれた姿を、この今は、と御覧くださいとだけでも申し上げられるほどにも、扱って下さったでしょうか」
「年が行ってしまうと恥ずかしい目にあうものです。こんな恋の憔悴(しょうすい)者にせめて話を聞いてやろうという寛大な気持ちをお見せになりましたか。そうじゃない」
1.2.22
とて、()でたまふ名残(なごり)所狭(ところせ)きまで、(れい)()こえあへり。
と言って、お出になった後は、うるさいまでに、例によってお噂申し上げていた。
こんな言葉を女房に残して源氏の帰ったあとで、女房らはどこの女房も言うように源氏をたたえた。
1.2.23
おほかたの、(そら)もをかしきほどに、()()(おと)なひにつけても、()ぎにしもののあはれとり(かへ)しつつその折々(をりをり)をかしくもあはれにも、(ふか)()えたまひし御心(みこころ)ばへなども、(おも)()できこえさす
ただでさえも、空は風情があるころなので、木の葉の散る音につけても、過ぎ去った過去のしみじみとした情感が甦ってきて、その当時の、嬉しかったり悲しかったりにつけ、深くお見えになったお気持ちのほどを、お思い出し申し上げなさる。
空の色も身にしむ夜で、木の葉の鳴る音にも昔が思われて、女房らは古いころからの源氏との交渉のあったある場面場面のおもしろかったこと、身に()んだことも心に浮かんでくると言って斎院にお話し申していた。

第三段 帰邸後に和歌を贈答しあう

1.3.1
(こころ)やましくて()()でたまひぬるは、まして、寝覚(ねざめ)がちに(おぼ)(つづ)けらる。
とく御格子参(みかうしまゐ)らせたまひて、朝霧(あさぎり)(なが)めたまふ。
()れたる(はな)どもの(なか)に、朝顔(あさがほ)のこれかれにはひまつはれて、あるかなきかに()きて(にほ)ひもことに()はれるを、()らせたまひてたてまつれたまふ
お気持ちの収まらないままお帰りになったので、以前にもまして、夜も眠れずにお思い続けになる。
早く御格子を上げさせなさって、朝霧を眺めなさる。
枯れたいくつもの花の中に、朝顔があちこちにはいまつわって、あるかなきかに花をつけて、色艶も格別に変わっているのを、折らせなさってお贈りになる。
不満足な気持ちで帰って行った源氏はましてその夜が眠れなかった。早く格子(こうし)を上げさせて源氏は庭の朝霧をながめていた。枯れた花の中に朝顔が左右の草にまつわりながらあるかないかに咲いて、しかも香さえも放つ花を折らせた源氏は、前斎院へそれを贈るのであった。
1.3.2
けざやかなりし(おほん)もてなしに、人悪(ひとわ)ろき心地(ここち)しはべりて、うしろでもいとどいかが御覧(ごらん)じけむと、ねたく。
されど、
「きっぱりとしたおあしらいに、体裁の悪い感じがいたしまして、後ろ姿もますますどのように御覧になったかと、悔しくて。
けれども、
あまりに他人らしくお扱いになりましたから、きまりも悪くなって帰りましたが、哀れな私の後ろ姿をどうお笑いになったことかと口惜(くちお)しい気もしますが、しかし、
1.3.3 昔拝見したあなたがどうしても忘れられません
その朝顔の花は盛りを過ぎてしまったのでしょうか
見し折りのつゆ忘られぬ朝顔の
花の盛りは過ぎやしぬらん
1.3.4
(とし)ごろの()もりも、あはれとばかりは、さりとも、(おぼ)()るらむやとなむ、かつは」
長年思い続けてきた苦労も、気の毒だとぐらいには、いくな何でも、ご理解いただけるだろうかと、一方では期待しつつ」
どんなに長い年月の間あなたをお思いしているかということだけは知っていてくださるはずだと思いまして、私は(なげ)きながらも希望を持っております。
1.3.5
など()こえたまへり。
おとなびたる御文(おほんふみ)(こころ)ばへに、「おぼつかなからむも、見知(みし)らぬやうにや」と(おぼ)し、(ひと)びとも御硯(おほんすずり)とりまかなひて、()こゆれば、
などと申し上げなさった。
穏やかなお手紙の風情なので、「返事をせずに気をもませるのも、心ないことか」とお思いになって、女房たちも御硯を調えて、お勧め申し上げるので、
という手紙を源氏は書いたのである。真正面から恋ばかりを言われているのでもない中年の源氏のおとなしい手紙に対して、返事をせぬことも感情の乏しい女と思われることであろうと女王もお思いになり、女房たちもそう思って(すずり)の用意などしたのでお書きになった。
1.3.6 「秋は終わって霧の立ち込める垣根にしぼんで
今にも枯れそうな朝顔の花のようなわたしです
秋はてて霧の(まがき)にむすぼほれ
あるかなきかにうつる朝顔
1.3.7
()つかはしき(おほん)よそへにつけても、(つゆ)けく」
似つかわしいお喩えにつけても、涙がこぼれて」
秋にふさわしい花をお送りくださいましたことででももの哀れな気持ちになっております。
1.3.8
とのみあるは、(なに)のをかしきふしもなきをいかなるにか、()きがたく御覧(ごらん)ずめり。
青鈍(あをにび)(かみ)の、なよびかなる(すみ)つきはしも、をかしく()ゆめり
(ひと)(おほん)ほど()きざまなどに(つくろ)はれつつ、その(をり)(つみ)なきことも、つきづきしくまねびなすには、ほほゆがむこともあめればこそ、さかしらに()(まぎ)らはしつつ、おぼつかなきことも(おほ)かりけり。
とばかりあるのは、何のおもしろいこともないが、どういうわけか、手放しがたく御覧になっていらっしゃるようである。
青鈍色の紙に、柔らかな墨跡は、たいそう趣深く見えるようだ。
ご身分、筆跡などによってとりつくろわれて、その時は何の難もないことも、いざもっともらしく伝えるとなると、事実を誤り伝えることがあるようなので、ここは勝手にとりつくろって書くようなので、変なところも多くなってしまった。
とだけ書かれた手紙はたいしておもしろいものでもないはずであるが、源氏はそれを手から放すのも惜しいようにじっとながめていた。青鈍(あおにび)色の柔らかい紙に書かれた字は美しいようであった。書いた人の身分、書き方などが補ってその時はよい文章、よい歌のように思われたことも、改めて本の中へ書き載せると(つたな)い点の現われてくるものであるから、手紙の文章や歌というようなものは、この話の控え帳に筆者は大部分省くことにしていたので、採録したものにも書き誤りがあるであろうと思われる。
1.3.9
()(かへ)り、(いま)さらに若々(わかわか)しき御文書(おほんふみが)きなども、()げなきこと、(おぼ)せども、なほかく(むかし)よりもて(はな)れぬ()けしきながら口惜(くちを)しくて()ぎぬるを(おも)ひつつ、えやむまじくて(おぼ)さるれば、さらがへりて、まめやかに()こえたまふ。
昔に帰って、今さら若々しい恋文書きなども似つかわしくないこと、とお思いになるが、やはりこのように昔から離れぬでもないご様子でありながら、不本意なままに過ぎてしまったことを思いながら、とてもお諦めになることができず、若返って、真剣になって文を差し上げなさる。
今になってまた若々しい恋の手紙を人に送るようなことも似合わしくないことであると源氏は思いながらも、昔から好意も友情もその人に持たれながら、恋の成り立つまでにはならなかったのを思うと、もうあとへは退()けない気になっていて、再び情火を胸に燃やしながら心をこめた手紙を続いて送っていた。

第四段 源氏、執拗に朝顔姫君を恋う

1.4.1
(ひんがし)(たい)(はな)れおはして宣旨(せんじ)(むか)へつつ(かた)らひたまふ。
さぶらふ(ひと)びとの、さしもあらぬ(きは)のことをだに、なびきやすなるなどは、(あやま)ちもしつべく、めできこゆれど、(みや)は、そのかみだにこよなく(おぼ)(はな)れたりしを、(いま)は、まして、(たれ)(おも)ひなかるべき御齢(おほんよはひ)おぼえにて、はかなき木草(きくさ)つけたる御返(おほんかへ)りなどの、折過(をりす)ぐさぬも、軽々(かるがる)しくや、とりなさるらむ」など、(ひと)物言(ものい)ひを(はばか)りたまひつつ、うちとけたまふべき()けしきもなければ、()りがたく(おな)じさまなる御心(みこころ)ばへを()(ひと)()はり、めづらしくもねたくも(おも)ひきこえたまふ。
東の対に独り離れていらっしゃって、宣旨を呼び寄せ呼び寄せしてはご相談なさる。
宮に伺候する女房たちで、それほどでない身分の男にさえ、すぐになびいてしまいそうな者は、間違いも起こしかねないほど、お褒め申し上げるが、宮は、その昔でさえきっぱりとお考えにもならなかったのに、今となっては、昔以上に、どちらも色恋に相応しくないお年、ご身分であるので、「ちょっとした木や草につけてのお返事などの、折々の興趣を見過さずにいるのも、軽率だと、受け取られようか」などと、人の噂を憚り憚りなさっては、心をうちとけなさるご様子もないので、昔のままで同じようなお気持ちを、世間の女性とは違って、珍しくまた妬ましくもお思い申し上げなさる。
東の対のほうに離れていて、前斎院の宣旨を源氏は呼び寄せて相談をしていた。女房たちのだれの誘惑にもなびいて行きそうな人々は狂気にもなるほど源氏をほめて夢中になっているこんな家の中で、朝顔の女王だけは冷静でおありになった。お若い時すらも友情以上のものをこの人にお持ちにならなかったのであるから、今はまして自分もその人も恋愛などをする年ではなくなっていて、花や草木のことの言われる手紙にもすぐに返事を出すようなことは人の批評することがうるさいと、それも遠慮をされるようになっていつまでたってもお心の動く様子はなかった。初めの態度はどこまでもお続けになる朝顔の女王の普通の型でない点が、珍重すべきおもしろいことにも思われてならない源氏であった。
1.4.2
()(なか)()()こえて、
世間に噂が漏れ聞こえて、
世間はもうその(うわさ)をして、
1.4.3
前斎院(ぜんさいゐん)を、ねむごろに()こえたまへばなむ、女五(をんなご)(みや)などもよろしく(おぼ)したなり。
()げなからぬ(おほん)あはひならむ」
「前斎院を、熱心にお便りを差し上げなさるので、女五の宮なども結構にお思いのようです。
似つかわしくなくもないお間柄でしょう」
「源氏の大臣は前斎院に御熱心でいられるから、女五の宮へ御親切もお尽くしになるのだろう、結婚されて似合いの縁というものであろう」
1.4.4
など()ひけるを、(たい)(うへ)(つた)()きたまひて、しばしは、
などと言っていたのを、対の上は伝え聞きなさって、暫くの間は、
とも言うのが、紫夫人の耳にも伝わって来た。
1.4.5
さりともさやうならむこともあらば、(へだ)てては(おぼ)したらじ」
「いくら何でも、もしそういうことがあったとしたら、お隠しになることはあるまい」
当座はそんなことがあっても自分へ源氏は話して聞かせるはずである
1.4.6
(おぼ)しけれど、うちつけに()とどめきこえたまふに、()けしきなども、(れい)ならずあくがれたるも心憂(こころう)く、
とお思いになっていらっしゃったが、さっそく気をつけて御覧になると、お振る舞いなども、いつもと違って魂が抜け出たようなのも情けなくて、
と思っていたが、それ以来気をつけて見ると、源氏の様子はそわそわとして、何かに心の奪われていることがよくわかるのであった。
1.4.7
まめまめしく(おぼ)しなるらむことをつれなく(たはぶ)れに()ひなしたまひけむよと、(おな)(すぢ)にはものしたまへど、おぼえことに、(むかし)よりやむごとなく()こえたまふを、御心(みこころ)など(うつ)りなば、はしたなくもあべいかな。
(とし)ごろの(おほん)もてなしなどは、()(なら)(かた)なく、さすがにならひて、(ひと)()()たれむこと」
「真剣になって思いつめていらっしゃるらしいことを、素知らぬ顔で冗談のように言いくるめなさったのだわと、同じ皇族の血筋でいらっしゃるが、声望も格別で、昔から重々しい方として聞こえていらっしゃった方なので、お心などが移ってしまったら、みっともないことになるわ。
長年のご寵愛などは、わたしに立ち並ぶ者もなく、ずっと今まできたのに、今さら他人に負かされようとは」
こんなにまじめに打ち込んで結婚までを思う恋を、自分にはただ気紛れですることのように良人(おっと)は言っていた。同じ女王ではあっても世間から重んぜられていることは自分と比較にならない人である。その人に良人の愛が移ってしまったなら自分はみじめであろう、と夫人は(なげ)かれた。さすがに第一の夫人として源氏の愛をほとんど一身に集めてきた人であったから、今になって心の満たされない取り扱いを受けることは、外へ対しても堪えがたいことであると夫人は思うのである。
1.4.8
など、人知(ひとし)れず(おぼ)(なげ)かる。
などと、人知れず嘆かずにはいらっしゃれない。

1.4.9 「すっかりお見限りになることはないとしても、幼少のころから親しんでこられた長年の情愛は、軽々しいお扱いになるのだろう」
顧みられないというようなことはなくても、源氏が重んじる妻は他の人で、自分は少女時代から養ってきた、どんな薄遇をしても甘んじているはずの妻にすぎないことになるのであろうと、こんなことを思って夫人は煩悶(はんもん)しているが、たいしたことでないことはあまり感情を害しない程度の夫人の恨み言にもなって、
1.4.10
など、さまざまに(おも)(みだ)れたまふに、よろしきことこそうち(ゑん)じなど(にく)からず()こえたまへ、まめやかにつらし(おぼ)せば、(いろ)にも()だしたまはず。
など、あれこれと思い乱れなさるが、それほどでもないことなら、嫉妬などもご愛嬌に申し上げなさるが、心底つらいとお思いなので、顔色にもお出しにならない。
それで源氏の恋愛行為が牽制(けんせい)されることにもなるのであったが、今度は夫人の心の底から恨めしく思うことであったから、何ともその問題に触れようとしない。
1.4.11
端近(はしちか)(なが)めがちに内裏住(うちず)みしげくなり、(やく)とは御文(おほんふみ)()きたまへば、
端近くに物思いに耽りがちで、宮中にお泊まりになることが多くなり、仕事と言えば、お手紙をお書きになることで、
外をながめて物思いを絶えずするのが源氏であって、御所の宿直(とのい)の夜が多くなり、役のようにして自宅ですることは手紙を書くことであった。、
1.4.12
げに、(ひと)言葉(ことば)むなしかるまじきなめり。
けしきをだにかすめたまへかし」
「なるほど、世間の噂は嘘ではないようだ。
せめて、ほんの一言おっしゃってくださればよいのに」
噂に誤りがないらしいと夫人は思って、少しくらいは打ち明けて話してもよさそうなものであると、
1.4.13
と、(うと)ましくのみ(おも)ひきこえたまふ。
と、いやなお方だとばかりお思い申し上げていらっしゃる。
飽き足りなくばかり思った。

第二章 朝顔姫君の物語 老いてなお旧りせぬ好色心


第一段 朝顔姫君訪問の道中

2.1.1
(ゆふ)(かた)神事(かんわざ)なども()まりてさうざうしきに、つれづれと(おぼ)しあまりて、()(みや)(れい)(ちか)づき(まゐ)りたまふ。
(ゆき)うち()りて(えん)なるたそかれ(どき)なつかしきほどに()れたる御衣(おほんぞ)どもを、いよいよたきしめたまひて、(こころ)ことに化粧(けさう)()らしたまへれば、いとど心弱(こころよわ)からむ(ひと)はいかがと()えたり
さすがに、まかり(まう)しはた、()こえたまふ。
夕方、神事なども停止となって物寂しいので、することもない思いに耐えかねて、五の宮にいつものお伺いをなさる。
雪がちょっとちらついて風情ある黄昏時に、優しい感じに着馴れたお召し物に、ますます香をたきしめなさって、念入りにおめかしして一日をお過ごしになったので、ますますなびきやすい人はどんなにかと見えた。
それでも、お出かけのご挨拶はご挨拶として、申し上げなさる。
冬の初めになって今年は神事がいっさい停止されていて寂しい。つれづれな源氏はまた五の宮を訪ねに行こうとした。雪もちらちらと降って(えん)な夕方に、少し着て柔らかになった小袖(こそで)になお薫物(たきもの)を多くしたり、化粧に時間を費やしたりして恋人を()おうとしている源氏であるから、それを見ていて気の弱い女性はどんな心持ちがするであろうと(あや)ぶまれた。さすがに出かけの声をかけに源氏は夫人の所へ来た。
2.1.2
女五(をんなご)(みや)(なや)ましくしたまふなるを、(とぶ)らひきこえになむ」
「女五の宮がご病気でいらっしゃるというのを、お見舞い申し上げようと思いまして」
「女五の宮様が御病気でいらっしゃるからお見舞いに行って来ます」
2.1.3
とて、ついゐたまへれど、()もやりたまはず若君(わかぎみ)をもてあそび、(まぎ)らはしおはする側目(そばめ)の、ただならぬを、
と言って、軽く膝をおつきになるが、振り向きもなさらず、若君をあやして、さりげなくいらっしゃる横顔が、ただならぬ様子なので、
ちょっとすわってこう言う源氏のほうを、夫人は見ようともせずに姫君の相手をしていたが、不快な気持ちはよく見えた。
2.1.4
あやしく、()けしきの()はれるべきころかな。
(つみ)もなしや
塩焼(しほや)(ごろも)のあまり目馴(めな)れ、()だてなく(おぼ)さるるにやとて、とだえ()くを、またいかが」
「不思議と、ご機嫌の悪くなったこのごろですね。
罪もありませんね。
塩焼き衣のように、あまりなれなれしくなって、珍しくなくお思いかと思って、家を空けていましたが、またどのようにお考えになってか」
「始終このごろは機嫌(きげん)が悪いではありませんか、無理でないかもしれない。長くいっしょにいてはあなたに飽かれると思って、私は時々御所で宿直(とのい)をしたりしてみるのが、それでまたあなたは不愉快になるのですね」
2.1.5
など()こえたまへば、
などと申し上げなさると、

2.1.6 「馴じんで行くのは、おっしゃるとおり、いやなことが多いものですね」
「ほんとうに長く同じであるものは悲しい目を見ます」
2.1.7
とばかりにて、うち(そむ)きて()したまへるは、見捨(みす)てて()でたまふ(みち)もの()けれど、(みや)御消息聞(おほんせうそこき)こえたまひてければ()でたまひぬ。
とだけ言って、顔をそむけて臥せっていらっしゃるのは、そのまま見捨ててお出かけになるのも、気も進まないが、宮にお手紙を差し上げてしまっていたので、お出かけになった。
とだけ言って向こうを向いて寝てしまった女王を置いて出て行くことはつらいことに源氏は思いながらも、もう御訪問の(しら)せを宮に申し上げたのちであったから、やむをえず二条の院を出た。
2.1.8 「このようなこともある夫婦仲だったのに、安心しきって過ごしてきたことだわ」
こんな日も自分の上にめぐってくるのを知らずに、源氏を信頼して暮らしてきた
2.1.9
(おも)(つづ)けて、()したまへり。
()びたる御衣(おほんぞ)どもなれど色合(いろあ)(かさ)なり、(この)ましくなかなか()えて、(ゆき)(ひかり)にいみじく(えん)なる御姿(おほんすがた)見出(みい)だして、
とお思い続けて、臥せっていらっしゃる。
鈍色めいたお召し物であるが、色合いが重なって、かえって好ましく見えて、雪の光にたいそう優美なお姿を御覧になって、
と寂しい気持ちに夫人はなっていた。喪服の(にび)色ではあるが濃淡の重なりの(えん)な源氏の姿が雪の(あかり)でよく見えるのを、
2.1.10 「ほんとうに心がますます離れて行ってしまわれたならば」
寝ながらのぞいていた夫人はこの姿を見ることも(まれ)な日になったら
2.1.11
と、(しの)びあへず(おぼ)さる。
と、堪えきれないお気持ちになる。
と思うと悲しかった。
2.1.12
御前(ごぜん)など(しの)びやかなる(かぎ)りして、
御前駆なども内々の人ばかりで、
前駆も親しい者ばかりを選んであったが、
2.1.13
内裏(うち)より(ほか)(あり)きはもの()きほどになりにけりや。
桃園宮(ももぞののみや)心細(こころぼそ)きさまにてものしたまふも、式部卿宮(しきぶきゃうのみや)(とし)ごろは(ゆづ)りきこえつるを、(いま)(たの)むなど(おぼ)しのたまふも、ことわりに、いとほしければ」
「宮中以外の外出は、億劫になってしまったよ。
桃園宮が心細い様子でいらっしゃっるのも、式部卿宮に長年お任せ申し上げていたが、これからは頼むなどとおっしゃるのも、もっともなことで、お気の毒なので」
「参内する以外の外出はおっくうになった。桃園の女五(にょご)(みや)様は寂しいお一人ぼっちなのだからね、式部卿(しきぶきょう)の宮がおいでになった間は私もお任せしてしまっていたが、今では私がたよりだとおっしゃるのでね、それもごもっともでお気の毒だから」
2.1.14
など、(ひと)びとにものたまひなせど、
などと、人々にもしいておっしゃるが、
などと、前駆を勤める人たちにも言いわけらしく源氏は言っていたが、
2.1.15
いでや。
御好(おほんす)(ごころ)()りがたきぞ、あたら御疵(おほんきず)なめる」
「さあどんなものでしょう。
ご好心が変わらないのは、惜しい玉の瑕のようです」
「りっぱな方だけれど、恋愛をおやめにならない点が傷だね。
2.1.16
軽々(かるがる)しきことも()()なむ」
「よからぬ事がきっと起こるでしょう」
御家庭がそれで済むまいと心配だ」
2.1.17
など、つぶやきあへり。
などと、呟き合っていた。
とそうした人たちも言っていた。

第二段 宮邸に到着して門を入る

2.2.1
(みや)には、北面(きたおもて)(ひと)しげき(かた)なる御門(みかど)は、()りたまはむも軽々(かろがろ)しければ、西(にし)なるがことことしきを、人入(ひとい)れさせたまひて、(みや)御方(おほんかた)御消息(おほんせうそこ)あれば、今日(けふ)しも(わた)りたまはじ」と(おぼ)しけるを(おどろ)きて()けさせたまふ。
宮邸では、北面にある人が多く出入りするご門は、お入りになるのも軽率なようなので、西にあるのが重々しい正門なので、供人を入れさせなさって、宮の御方にご案内を乞うと、「今日はまさかお越しになるまい」とお思いでいたので、驚いて門を開けさせなさる。
桃園のお(やしき)は北側にある普通の人の出入りする門をはいるのは自重の足りないことに見られると思って、西の大門から人をやって案内を申し入れた。こんな天気になったから、先触れはあっても源氏は出かけて来ないであろうと宮は思っておいでになったのであるから、驚いて大門をおあけさせになるのであった。
2.2.2
御門守(みかどもり)(さむ)げなるけはひ、うすすき()()て、とみにもえ()けやらず
これより(ほか)(をのこ)はたなきなるべし。
ごほごほと()きて、
御門番が、寒そうな様子で、あわてて出てきて、すぐには開けられない。
この人以外の男性はいないのであろう。
ごろごろと引いて、
出て来た門番の侍が寒そうな姿で、背中がぞっとするというふうをして、門の扉をかたかたといわせているが、これ以外の侍はいないらしい。
2.2.3 「錠がひどく錆びついてしまっているので、開かない」
「ひどく錠が()びていてあきません」
2.2.4
(うれ)ふるを、あはれと()こし()す。
と困っているのを、しみじみとお聞きになる。
とこぼすのを、源氏は身に()んで聞いていた。
2.2.5
昨日今日(きのふけふ)(おぼ)すほどに三年(みとせ)のあなたにもなりにける()かな。
かかるを()つつ、かりそめの宿(やど)りをえ(おも)()てず、木草(きくさ)(いろ)にも(こころ)(うつ)すよ」と、(おぼ)()らるる。
(くち)ずさびに、
「昨日今日のこととお思いになっていたうちに、はや三年も昔になってしまった世の中だ。
このような世を見ながら、仮の宿を捨てることもできず、木や草の花にも心をときめかせるとは」と、つくづくと感じられる。
口ずさみに、
宮のお若いころ、自身の生まれたころを源氏が考えてみるとそれはもう三十年の昔になる、物の錆びたことによって人間の古くなったことも思われる。それを知りながら仮の世の執着が離れず、人に心の()かれることのやむ時がない自分であると源氏は恥じた。
2.2.6 「いつの間にこの邸は蓬がおい茂り
雪に埋もれたふる里となってしまったのだろう」
いつのまに(よもぎ)がもとと結ぼほれ
雪ふる里と荒れし垣根(かきね)
2.2.7
やや(ひさ)しう、ひこしらひ()けて、()りたまふ。
やや暫くして、無理やり引っ張り開けて、お入りになる。
源氏はこんなことを口ずさんでいた。やや長くかかって古い門の抵抗がやっと征服された。

第三段 宮邸で源典侍と出会う

2.3.1
(みや)御方(おほんかた)(れい)の、御物語聞(おほんものがたりき)こえたまふに、古事(ふること)どものそこはかとなきうちはじめ、()こえ()くしたまへど、御耳(おほんみみ)もおどろかず、ねぶたきに(みや)欠伸(あくび)うちしたまひて、
宮の御方に、例によって、お話申し上げなさると、昔の事をとりとめもなく話し出しはじめて、はてもなくお続きになるが、ご関心もなく、眠いが、宮もあくびをなさって、
源氏はまず宮のお居間のほうで例のように話していたが、昔話の取りとめもないようなのが長く続いて源氏は眠くなるばかりであった。宮もあくびをあそばして、
2.3.2 「宵のうちから眠くなっていましたので、終いまでお話もできません」
「私は宵惑(よいまど)いなものですから、お話がもうできないのですよ」
2.3.3
とのたまふほどもなく、(いびき)とか、()()らぬ(おと)すれば、よろこびながら()()でたまはむとするに、またいと(ふる)めかしきしはぶきうちして、(まゐ)りたる(ひと)あり。
とおっしゃる間もなく、鼾とかいう、聞き知らない音がするので、これさいわいとお立ちになろうとすると、またたいそう年寄くさい咳払いをして、近寄ってまいる者がいる。
とお言いになったかと思うと、(いびき)という源氏に馴染(なじみ)の少ない音が聞こえだしてきた。源氏は内心に喜びながら宮のお居間を辞して出ようとすると、また一人の老人らしい(せき)をしながら御簾(みす)ぎわに寄って来る人があった。
2.3.4
かしこけれど()こし()したらむと(たの)みきこえさするを、()にある(もの)とも(かず)まへさせたまはぬになむ。
(ゐん)(うへ)は、祖母殿(おばおとど)(わら)はせたまひし」
「恐れながら、ご存じでいらっしゃろうと心頼みにしておりましたのに、生きている者の一人としてお認めくださらないので。
院の上は、祖母殿と仰せになってお笑いあそばしました」
「もったいないことですが、ご存じのはずと思っておりますものの私の存在をとっくにお忘れになっていらっしゃるようでございますから、私のほうから、出てまいりました。院の陛下がお祖母(ばあ)さんとお言いになりました者でございますよ」
2.3.5
など、()のり()づるにぞ、(おぼ)()づる。
などと、名乗り出したので、お思い出しになった。
と言うので源氏は思い出した。
2.3.6
源典侍(げんのないしのすけ)といひし(ひと)(あま)になりて、この(みや)御弟子(おほんでし)にてなむ(おこ)なふと()きしかど、(いま)まであらむとも(たづ)()りたまはざりつるを、あさましうなりぬ
源典侍と言った人は、尼になって、この宮のお弟子として勤行していると聞いていたが、今まで生きていようとはお確かめ知りにならなかったので、あきれる思いをなさった。
源典侍(げんてんじ)といわれていた人は尼になって女五の宮のお弟子(でし)分でお仕えしていると以前聞いたこともあるが、今まで生きていたとは思いがけないことであるとあきれてしまった。
2.3.7
その()のことはみな昔語(むかしがた)りになりゆくを、はるかに(おも)()づるも、心細(こころぼそ)きに、うれしき御声(おほんこゑ)かな。
(おや)なしに()せる旅人(たびびと)と、(はぐく)みたまへかし」
「その当時のことは、みな昔話になってゆきますが、遠い昔を思い出すと、心細くなりますが、なつかしく嬉しいお声ですね。
親がいなくて臥せっている旅人と思って、お世話してください」
「あのころのことは皆昔話になって、思い出してさえあまりに今と遠くて心細くなるばかりなのですが、うれしい方がおいでになりましたね。『親なしに()せる旅人』と思ってください」
2.3.8
とて、()りゐたまへる(おほん)けはひにいとど昔思(むかしおも)()でつつ、()りがたくなまめかしきさまにもてなして、いたうすげみにたる(くち)つき、(おも)ひやらるる(こわ)づかひの、さすがに(した)つきにて、うちされむとはなほ(おも)へり。
と言って、物に寄りかかっていらっしゃるご様子に、ますます昔のことを思い出して、相変わらずなまめかしいしなをつくって、たいそうすぼんだ口の恰好、想像される声だが、それでもやはり、甘ったるい言い方で戯れかかろうと今も思っている。
と言いながら、御簾のほうへからだを寄せる源氏に、典侍(ないしのすけ)はいっそう昔が帰って来た気がして、今も好色女らしく、歯の少なくなった曲がった口もとも想像される声で、甘えかかろうとしていた。
2.3.9
()ひこしほどに」など()こえかかる、まばゆさよ
(いま)しも()たる()いのやうに」など、ほほ()まれたまふものから、ひきかへ、これもあはれなり。
「言い続けてきたうちに」などとお申し上げかけてくるのは、こちらの顔の赤くなる思いがする。
「今急に老人になったような物言いだ」など、と苦笑されるが、また一方で、これも哀れである。
「とうとうこんなになってしまったじゃありませんか」などとおくめんなしに言う。今はじめて老衰にあったような口ぶりであるとおかしく源氏は思いながらも、一面では哀れなことに予期もせず触れた気もした。
2.3.10
この(さか)りに(いど)みたまひし女御(にょうご)更衣(かうい)あるはひたすら()くなりたまひ、あるはかひなくて、はかなき()にさすらへたまふもあべかめり。
入道(にふだう)(みや)などの御齢(おほんよはひ)よ。
あさましとのみ(おぼ)さるる()に、(とし)のほど()(のこ)(すく)なげさに(こころ)ばへなども、ものはかなく()えし(ひと)の、()きとまりて、のどやかに(おこ)なひをもうちして()ぐしけるは、なほすべて(さだ)めなき()なり」
「その女盛りのころに、寵愛を競い合いなさった女御、更衣、ある方はお亡くなりになり、またある方は見るかげもなく、はかないこの世に落ちぶれていらっしゃる方もあるようだ。
入道の宮などの御寿命の短さよ。
あきれるばかりの世の中の無常に、年からいっても余命残り少なそうで、心構えなども、頼りなさそうに見えた人が、生き残って、静かに勤行をして過ごしていたのは、やはりすべて定めない世のありさまなのだ」
この女が若盛りのころの後宮(こうきゅう)女御(にょご)更衣(こうい)はどうなったかというと、みじめなふうになって生き長らえている人もあるであろうが大部分は故人である。入道の宮などのお年はどうであろう、この人の半分にも足らないでお(かく)れになったではないか、はかないのが姿である人生であるからと源氏は思いながらも、人格がいいともいえない、ふしだらな女が長生きをして気楽に仏勤めをして暮らすようなことも不定(ふじょう)と仏のお教えになったこの世の相であると、
2.3.11
(おぼ)すに、ものあはれなる()けしきを、(こころ)ときめきに(おも)ひて、(わか)やぐ。
とお思いになると、何となくしみじみとしたご様子を、心のときめくことかと誤解して、はしゃぐ。
こんなふうに感じて、気分がしんみりとしてきたのを、典侍は自身の魅力の反映が源氏に現われてきたものと解して、若々しく言う。
2.3.12 「何年たってもあなたとのご縁が忘れられません
親の親とかおっしゃった一言がございますもの」
()れどこの契りこそ忘られね
親の親とか言ひし一こと
2.3.13
()こゆれば、(うと)ましくて、
と申し上げると、気味が悪くて、
源氏は悪感(おかん)を覚えて、
2.3.14 「来世に生まれ変わった後まで待って見てください
この世で子が親を忘れる例があるかどうかと
「身を変へて(あと)も待ち見よこの世にて
親を忘るるためしありやと
2.3.15
(たの)もしき(ちぎ)りぞや
(いま)のどかにぞ、()こえさすべき」
頼もしいご縁ですね。
いずれゆっくりと、お話し申し上げましょう」
頼もしい縁ですよ。そのうちにまた」
2.3.16
とて、()ちたまひぬ。
とおっしゃって、お立ちになった。
と言って立ってしまった。

第四段 朝顔姫君と和歌を詠み交わす

2.4.1
西面(にしおもて)御格子参(みかうしまゐ)りたれど、(いと)ひきこえ(がほ)ならむもいかがとて、一間(ひとま)二間(ふたま)()ろさず。
(つき)さし()でて、(うす)らかに()もれる(ゆき)(ひか)りあひて、なかなかいとおもしろき()のさまなり
西面では御格子を下ろしていたが、お嫌い申しているように思われるのもどうかと、一間、二間は下ろしてない。
月が顔を出して、うっすらと積もった雪の光に映えて、かえって趣のある夜の様子である。
西のほうはもう格子が()ろしてあったが、迷惑がるように思われてはと斟酌(しんしゃく)して一間二間はそのままにしてあった。月が出て淡い雪の光といっしょになった夜の色が美しかった。
2.4.2
ありつる()いらくの(こころ)げさうも、()からぬものの()のたとひとか()きし」と(おぼ)()でられて、をかしくなむ。
今宵(こよひ)は、いとまめやかに()こえたまひて、
「さきほどの老いらくの懸想ぶりも、似つかわしくないものの例とか聞いた」とお思い出されなさって、おかしくなった。
今宵は、たいそう真剣にお話なさって、
今夜は真剣なふうに恋を訴える源氏であった。
2.4.3
一言(ひとこと)(にく)しなども人伝(ひとづ)てならでのたまはせむを、(おも)()ゆるふしにもせむ」
「せめて一言、憎いなどとでも、人伝てではなく直におっしゃっていただければ、思いあきらめるきっかけにもしましょう」
「ただ一言、それは私を憎むということでも御自身のお口から聞かせてください。私はそれだけをしていただいただけで満足してあきらめようと思います」
2.4.4
と、おり()ちて()めきこえたまへど、
と、身を入れて強くお訴えになるが、
熱情を見せてこう言うが、
2.4.5
(むかし)、われも(ひと)(わか)やかに、罪許(つみゆる)されたりし()にだに、故宮(こみや)などの心寄(こころよ)(おぼ)したりしを、なほあるまじく()づかしと(おも)ひきこえてやみにしを、()(すゑ)に、さだすぎ、つきなきほどにて、一声(ひとこゑ)もいとまばゆからむ」
「昔、自分も相手も若くて、過ちが許されたころでさえ、亡き父宮などが好感を持っていらっしゃったのを、やはりとんでもなく気がひけることだとお思い申して終わったのに、晩年になり、盛りも過ぎ、似つかわしくない今頃になって、その一言をお聞かせするのも気恥ずかしいことだろう」
女王(にょおう)は、自分も源氏もまだ若かった日、源氏が今日のような複雑な係累もなくて、どんなことも若さの(とが)で済む時代にも、父宮などの希望された源氏との結婚問題を、自分はその気になれずに(いな)んでしまった。ましてこんなに年が行って衰えた今になっては、一言でも直接にものを言ったりすることは恥ずかしくてできない
2.4.6
(おぼ)して、さらに(うご)きなき御心(みこころ)なれば、あさましう、つらし」と(おも)ひきこえたまふ。
とお思いになって、まったく動じようとしないお気持ちなので、「あきれるほどに、つらい」とお思い申し上げなさる。
とお思いになって、だれが勧めてもそうしようとされないのを、源氏は非常に恨めしく思った。
2.4.7
さすがに、はしたなくさし(はな)ちてなどはあらぬ人伝(ひとづ)ての御返(おほんかへ)りなどぞ、(こころ)やましきや
()もいたう()けゆくに、(かぜ)のけはひ、はげしくて、まことにいともの心細(こころぼそ)くおぼゆれば、さまよきほどおし(のご)ひたまひて、
そうかといって、不体裁に突き放してというのではない取次ぎのお返事などが、かえってじれることである。
夜もたいそう更けてゆくにつれ、風の具合が、激しくなって、ほんとうにもの心細く思われるので、体裁よいところで、お拭いになって、
さすがに冷淡にはお取り扱いにはならないで、人づてのお返辞はくださるというのであったから、源氏は悶々(もんもん)とするばかりであった。次第に夜がふけて、風の音もはげしくなる。心細さに落ちる涙をぬぐいながら源氏は言う。
2.4.8 「昔のつれない仕打ちに懲りもしないわたしの心までが
あなたがつらく思う心に加わってつらく思われるのです
「つれなさを昔に懲りぬ心こそ
人のつらさに添へてつらけれ
2.4.9 自然とどうしようもございません」
『心づから』(恋しさも心づからのものなれば置き所なくもてぞ煩ふ)苦しみます」
2.4.10 と口に上るままにおっしゃると、

2.4.11 「ほんとうに」
「あまりにお気の毒でございますから」と言って、
2.4.12 「見ていて気が気でありませんわ」

2.4.13
と、(ひと)びと、(れい)の、()こゆ。
と、女房たちは、例によって、申し上げる。
女房らが女王に返歌をされるように勧めた。
2.4.14 「今さらどうして気持ちを変えたりしましょう
他人ではそのようなことがあると聞きました心変わりを
「改めて何かは見えん人の上に
かかりと聞きし心変はりを
2.4.15 昔と変わることは、今もできません」
私はそうしたふうに変わっていきません」
2.4.16
など()こえたまへり。
などとお答え申し上げなさった。
と女房が斎院のお言葉を伝えた。

第五段 朝顔姫君、源氏の求愛を拒む

2.5.1
いふかひなくて、いとまめやかに(ゑん)じきこえて()でたまふも、いと若々(わかわか)しき心地(ここち)したまへば、
何とも言いようがなくて、とても真剣に恨み言を申し上げなさってお帰りになるのも、たいそう若々しい感じがなさるので、
力の抜けた気がしながらも、言うべきことは言い残して帰って行く源氏は、自身がみじめに思われてならなかった。
2.5.2
いとかく、()(ためし)なりぬべきありさま、()らしたまふなよ。
ゆめゆめ。
いさら(がは)などもなれなれしや
「ひどくこう、世の中のもの笑いになってしまいそうな様子、お漏らしなさるなよ。
きっときっと。
いさら川などと言うのも馴れ馴れしいですね」
「こんなことは愚かな男の例として(うわさ)にもなりそうなことですから人には言わないでください。『いさや川』(犬上(いぬがみ)のとこの山なるいさや川いさとこたへてわが名もらすな)などというのも恋の成り立った場合の歌で、ここへは引けませんね」
2.5.3
とて、せちにうちささめき(かた)らひたまへど、(なに)ごとにかあらむ
(ひと)びとも、
と言って、しきりにひそひそ話しかけていらっしゃるが、何のお話であろうか。
女房たちも、
と言って源氏はなお女房たちに何事かを頼んで行った。
2.5.4
あな、かたじけな
あながちに(なさ)けおくれても、もてなしきこえたまふらむ」
「何とも、
もったいない。どうしてむやみにつれないお仕打ちをなさる
「もったいない気がしました。なぜああまで気強くなさるのでしょう。少し近くへお出ましになっても、まじめに求婚をしていらっしゃるだけですから、失礼なことなどの起こってくる気づかいはないでしょうのに、
2.5.5
(かる)らかにおし()ちてなどは()えたまはぬ()けしきを。
心苦(こころぐる)しう」
「軽々しく無体なこととはお見えにならない態度なのに。
お気の毒な」
お気の毒な」
2.5.6
()ふ。
と言う。
とあとで言う者もあった。
2.5.7
げに、(ひと)のほどのをかしきにも、あはれにも、(おぼ)()らぬにはあらねど、
なるほど、君のお人柄の、素晴らしいのも、慕わしいのも、お分かりにならないのではないが、
斎院は源氏の価値をよく知っておいでになって愛をお感じにならないのではないが、
2.5.8
もの(おも)()るさまに()えたてまつるとて、おしなべての()(ひと)のめできこゆらむ(つら)にや(おも)ひなされむ。
かつは、軽々(かるがる)しき(こころ)のほども見知(みし)りたまひぬべく、()づかしげなめる(おほん)ありさまを」(おぼ)せばなつかしからむ(なさ)けもいとあいなし。
よその御返(おほんかへ)りなどは、うち()えで、おぼつかなかるまじきほどに()こえたまひ人伝(ひとづ)ての御応(おほんいら)へ、はしたなからで()ぐしてむ。
(とし)ごろ、(しづ)みつる罪失(つみうしな)ふばかり御行(おほんおこ)なひをとは(おぼ)()てどにはかにかかる(おほん)ことをしももて(はな)(がほ)にあらむも、なかなか(いま)めかしきやうに()()こえて、(ひと)のとりなさじやは」と、()(ひと)(くち)さがなさを(おぼ)()りにしかば、かつ、さぶらふ(ひと)にもうちとけたまはず、いたう御心(みこころ)づかひしたまひつつ、やうやう御行(おほんおこ)なひをのみしたまふ。
「ものの情理をわきまえた人のように見ていただいたとしても、世間一般の人がお褒め申すのとひとしなみに思われるだろう。
また一方では、至らぬ心のほどもきっとお見通しになるに違いなく、気のひけるほど立派なお方だから」とお思いになると、「親しそうな気持ちをお見せしても、何にもならない。
さし障りのないお返事などは、引き続き、御無沙汰にならないくらいに差し上げなさって、人を介してのお返事、失礼のないようにしていこう。
長年、仏事に無縁であった罪が消えるように仏道の勤行をしよう」とは決意はなさるが、「急にこのようなご関係を、断ち切ったようにするのも、かえって思わせぶりに見えもし聞こえもして、人が噂しはしまいか」と、世間の人の口さがないのをご存知なので、一方では、伺候する女房たちにも気をお許しにならず、たいそうご用心なさりながら、だんだんとご勤行一途になって行かれる。
好意を見せても源氏の外貌(がいぼう)だけを愛している一般の女と同じに思われることはいやであると思っておいでになった。接近させて下にかくしたこの恋を源氏に看破されるのもつらく女王はお思いになるのである。友情で書かれた手紙には友情で(むく)いることにして、源氏が来れば人づてで話す程度のことにしたいとお思いになって、御自身は神に奉仕していた間怠っていた仏勤めを、取り返しうるほど十分にできる尼になりたいとも願っておいでになるのであるが、この際にわかにそうしたことをするのも源氏へ済まない、反抗的の行為であるとも必ず言われるであろうと、世間が作る(うわさ)というものの苦しさを経験されたお心からお思いになった。女房たちが源氏に買収されてどんな行為をするかもしれぬという懸念から女王はその人たちに対してもお気をお許しにならなかった。そして追い追い宗教的な生活へ進んでお行きになるのであった。
2.5.9
御兄弟(おほんはらから)君達(きんだち)あまたものしたまへどひとつ御腹(おほんはら)ならねば、いとうとうとしく、(みや)のうちいとかすかになり()くままに、さばかりめでたき(ひと)の、ねむごろに御心(みこころ)()くしきこえたまへば、皆人(みなひと)(こころ)()せきこゆるも、ひとつ(こころ)()ゆ。
ご兄弟の君達は多数いらっしゃるが、同腹ではないので、まったく疎遠で、宮邸の中がたいそうさびれて行くにつれて、あのような立派な方が、熱心にご求愛なさるので、一同そろって、お味方申すのも、誰の思いも同じと見える。
女王は男の兄弟も幾人か持っておいでになるのであるが同腹でなかったから親しんで来る者もない。

第三章 紫の君の物語 冬の雪の夜の孤影


第一段 紫の君、嫉妬す

3.1.1
大臣(おとど)は、あながちに(おぼ)しいらるるにしもあらねど、つれなき()けしきのうれたきに、()けてやみなむも口惜(くちを)しく、げにはた、(ひと)(おほん)ありさま()のおぼえことに、あらまほしく、ものを(ふか)(おぼ)()り、()(ひと)の、とあるかかるけぢめも()(あつ)めたまひて、(むかし)よりもあまた()まさりて(おぼ)さるれば、(いま)さらの(おほん)あだけも、かつは()のもどきをも(おぼ)しながら、
大臣は、やみくもにご執心というわけではないが、つれない態度が腹立たしいので、負けて終わるのも悔しく、なるほどそれは、確かにご自身の人品や、世の評判は格別で、申し分なく、物事の道理を深くわきまえ、世間の人々の、それぞれの生き方の違いも広くお知りになって、昔よりも経験を多く積んでいらっしゃるので、今さらのお浮気事も、一方では世間の非難をお分りになりながら、
宮家の財政も心細くなった際に、源氏が熱心な求婚者として出て来たのであるから、女たちは一人残らず結婚の成り立つことばかりを祈っていた。源氏はあながちにあせって結婚がしたいのではなかったが、恋人の冷淡なのに負けてしまうのが残念でならなかった。今日の源氏は最上の運に恵まれてはいるが、昔よりはいろいろなことに経験を積んできていて、今さら恋愛に没頭することの不可なことも、世間から受ける批難も知っていながらしていることで、これが成功しなければいよいよ不名誉であると信じて、
3.1.2
むなしからむはいよいよ人笑(ひとわら)へなるべし。
いかにせむ」
「このまま空しく引き下がっては、ますます物笑いとなるであろう。
どうしたらよいものか」

3.1.3
と、御心動(みこころうご)きて、二条院(にでうのゐん)夜離(よが)(かさ)ねたまふを、女君(をんなぎみ)は、たはぶれにくくのみ(おぼ)
(しの)びたまへど、いかがうちこぼるる(をり)もなからむ
と、お心が騒いで、二条院にお帰りにならない夜がお続きになるのを、女君は、冗談でなく恋しいとばかりお思いになる。
我慢していらっしゃるが、どうして涙がこぼれる時がないであろうか。
二条の院に寝ない夜も多くなったのを夫人は恨めしがっていた。悲しみをおさえる力も尽きることがあるわけである。源氏の前で涙のこぼれることもあった。
3.1.4 「不思議にいつもと違ったご様子が、理解できませんね」
「なぜ機嫌(きげん)を悪くしているのですか、理由(わけ)がわからない」
3.1.5
とて、御髪(みぐし)をかきやりつつ、いとほしと(おぼ)したるさまも、()()かまほしき(おほん)あはひなり
と言って、お髪をかき撫でながら、おいたわしいと思っていらっしゃる様子も、絵に描きたいようなお間柄である。
と言いながら、額髪(ひたいがみ)を手で払ってやり、(あわれ)んだ表情で夫人の顔を源氏がながめている様子などは、絵に()きたいほど美しい夫婦と見えた。
3.1.6
宮亡(みやう)せたまひて(のち)主上(うへ)のいとさうざうしげにのみ()(おぼ)したるも、心苦(こころぐる)しう()たてまつり、太政大臣(おほきおとど)もものしたまはで、見譲(みゆづ)(ひと)なきことしげさになむ。
このほどの()()などを、()ならはぬことに(おぼ)すらむも、ことわりに、あはれなれど、(いま)はさりとも、(こころ)のどかに(おぼ)せ。
おとなびたまひためれどまだいと(おも)ひやりもなく、(ひと)(こころ)見知(みし)らぬさまにものしたまふこそ、らうたけれ」
「宮がお亡くなりになって後、主上がとてもお寂しそうにばかりしていらっしゃるのも、おいたわしく拝見していますし、太政大臣もいらっしゃらないので、政治を見譲る人がいない忙しさです。
このごろの家に帰らないことを、今までになかったことのようにお恨みになるのも、もっともなことで、お気の毒ですが、今はいくら何でも、安心にお思いなさい。
おとなのようにおなりになったようですが、まだ深いお考えもなく、わたしの心もまだお分りにならないようでいらっしゃるのが、かわいらしい」
「女院がお(かく)れになってから、陛下が寂しそうにばかりしておいでになるのが心苦しいことだし、太政大臣が現在では欠けているのだから、政務は皆私が見なければならなくて、多忙なために(うち)へ帰らない時の多いのを、あなたから言えば例のなかったことで、寂しく思うのももっともだけれど、ほんとうはもうあなたの不安がることは何もありませんよ。安心しておいでなさい。大人になったけれどまだ少女のように思いやりもできず、私を信じることもできない、可憐(かれん)なばかりのあなたなのだろう」
3.1.7
など、まろがれたる御額髪(おほんひたひがみ)ひきつくろひたまへど、いよいよ(そむ)きてものも()こえたまはず。
などと言って、涙でもつれている額髪、おつくろいになるが、ますます横を向いて何とも申し上げなさらない。
などと言いながら、優しく妻の髪を直したりして源氏はいるのであったが、夫人はいよいよ顔を向こうへやってしまって何も言わない。
3.1.8
いといたく(わか)びたまへるは、()がならはしきこえたるぞ」
「とてもひどく子どもっぽくしていらっしゃるのは、誰がおしつけ申したことでしょう」
「若々しい我儘(わがまま)をあなたがするのも私のつけた癖なのだ」
3.1.9 と言って、「無常の世に、こうまで隔てられるのもつまらないことだ」と、一方では物思いに耽っていらっしゃる。
歎息(たんそく)をして、短い人生に愛する人からこんなにまで恨まれているのも苦しいことであると源氏は思った。
3.1.10
斎院(さいゐん)にはかなしごと()こゆるやもし(おぼ)しひがむる(かた)ある。
それは、いともて(はな)れたることぞよ。
おのづから()たまひてむ。
(むかし)よりこよなうけどほき御心(みこころ)ばへなるを、さうざうしき折々(をりをり)ただならで()こえ(なや)ますにかしこもつれづれにものしたまふ(ところ)なれば、たまさかの(いら)へなどしたまへど、まめまめしきさまにもあらぬを、かくなむあるとしも、(うれ)へきこゆべきことにやは
うしろめたうはあらじとを、(おも)(なほ)したまへ」
「斎院にとりとめのない文を差し上げたのを、もしや誤解なさっていることがありませんか。
それは、大変な見当違いのことですよ。
自然とお分かりになるでしょう。
昔からまったくよそよそしいお気持ちなので、もの寂しい時々に、恋文めいたものを差し上げて困らせたところ、あちらも所在なくお過ごしのところなので、まれに返事などなさるが、本気ではないので、こういうことですと、不平をこぼさなければならないようなことでしょうか。
不安なことは何もあるまいと、お思い直しなさい」
「斎院との交際で何かあなたは疑っているのではないのですか。それはまったく恋愛などではないのですよ。自然わかってくるでしょうがね。昔からあの人はそんな気のないいっぷう変わった女性なのですよ。私の寂しい時などに手紙を書いてあげると、あちらはひまな方だから時々は返事をくださるのです。忠実に相手になってもくださらないと、そんなことをあなたにこぼすほどのことでもないから、いちいち話さないだけです。気がかりなことではないと思い直してください」
3.1.11
など、日一日慰(ひひとひなぐさ)めきこえたまふ。
などと、一日中お慰め申し上げなさる。
などと言って、源氏は終日夫人をなだめ暮らした。

第二段 夜の庭の雪まろばし

3.2.1 雪がたいそう降り積もった上に、今もちらちらと降って、松と竹との違いがおもしろく見える夕暮に、君のご容貌も一段と光り輝いて見える。
雪のたくさん積もった上になお雪が降っていて、松と竹がおもしろく変わった個性を見せている夕暮れ時で、人の美貌(びぼう)もことさら光るように思われた。
3.2.2 「季節折々につけても、人が心を惹かれるらしい花や紅葉の盛りよりも、冬の夜の冴えた月に、雪の光が照り映えた空こそ、妙に、色のない世界ですが、身に染みて感じられ、この世の外のことまで思いやられて、おもしろさもあわれさも、尽くされる季節です。
興醒めな例としてとして言った人の考えの浅いことよ」
「春がよくなったり、秋がよくなったり、始終人の好みの変わる中で、私は冬の澄んだ月が雪の上にさした無色の風景が身に()んで好きに思われる。そんな時にはこの世界のほかの大世界までが想像されてこれが人間の感じる極致の境だという気もするのに、すさまじいものに冬の月を言ったりする人の浅薄(あさはか)さが思われる」
3.2.3 と言って、御簾を巻き上げさせなさる。
源氏はこんなことを言いながら御簾(みす)を巻き上げさせた。
3.2.4 月は隈なく照らして、一色に見渡される中に、萎れた前栽の影も痛々しく、遣水もひどく咽び泣くように流れて、池の氷もぞっとするほど身に染みる感じで、童女を下ろして、雪まろばしをおさせになる。
月光が明るく地に落ちてすべての世界が白く見える中に、植え込みの灌木(かんぼく)類の押しつけられた形だけが哀れに見え、流れの音も(むせ)び声になっている。池の氷のきらきら光るのもすごかった。源氏は童女を庭へおろして雪まろげをさせた。
3.2.5
をかしげなる姿(すがた)(かしら)つきども、(つき)()えて、(おほ)きやかに()れたるが、さまざまの衵乱(あこめみだ)()(おび)しどけなき宿直姿(とのゐすがた)なまめいたるにこよなうあまれる(かみ)(すゑ)(しろ)きにはましてもてはやしたる、いとけざやかなり。
かわいらしげな姿、お髪の恰好が、月の光に映えて、大柄の物馴れた童女が、色とりどりの衵をしどけなく着て、袴の帯もゆったりした寝間着姿、優美なうえに、衵の裾より長い髪の末が、白い雪を背景にしていっそう引き立っているのは、たいそう鮮明な感じである。
美しい姿、頭つきなどが月の光にいっそうよく見えて、やや大きな童女たちが、いろいろな(あこめ)を着て、上着は脱いだ結び帯の略装で、もうずっと長くなっていて、(すそ)(ひろ)がった髪は雪の上で鮮明にきれいに見られるのであった。
3.2.6
(ちひ)さきは、(わらは)げてよろこび(はし)るに、(あふぎ)なども(おと)して、うちとけ(がほ)をかしげなり。
小さい童女は、子どもらしく喜んで走りまわって、扇なども落として、気を許しているのがかわいらしい。
小さい童女は子供らしく喜んで走りまわるうちには扇を落としてしまったりしている。
3.2.7
いと(おほ)まろばさらむとふくつけがれど、えも()(うご)かさでわぶめり。
かたへは、(ひんがし)のつまなどに()でゐて、(こころ)もとなげに(わら)ふ。
たいそう大きく丸めようと、欲張るが、転がすことができなくなって困っているようである。
またある童女たちは、東の縁先に出ていて、もどかしげに笑っている。
ますます大きくしようとしても、もう童女たちの力では雪の(たま)が動かされなくなっている。童女の半分は東の妻戸の外に集まって、自身たちの出て行けないのを残念がりながら、庭の連中のすることを見て笑っていた。

第三段 源氏、往古の女性を語る

3.3.1
一年(ひととせ)中宮(ちゅうぐう)御前(おまへ)(ゆき)山作(やまつく)られたりし、()()りたることなれど、なほめづらしくもはかなきことをしなしたまへりしかな。
(なに)折々(をりをり)につけても、口惜(くちを)しう()かずもあるかな
「先年、中宮の御前に雪の山をお作りになったのは、世間で昔からよく行われてきたことですが、やはり珍しい趣向を凝らしてちょっとした遊び事をもなさったものでしたなあ。
どのような折々につけても、残念でたまたない思いですね。
「昔中宮(ちゅうぐう)がお庭に雪の山をお作らせになったことがある。だれもすることだけれど、その場合に非常にしっくりと合ったことをなさる方だった。どんな時にもあの方がおいでになったらと、残念に思われることが多い。
3.3.2
いとけどほくもてなしたまひて、くはしき(おほん)ありさまを()ならしたてまつりしことはなかりしかど、御交(おほんま)じらひのほどに、うしろやすきものには(おぼ)したりきかし。
とても隔てを置いていらして、詳しいご様子は拝したことはございませんでしたが、宮中生活の中で、心安い相談相手としては、お考えくださいました。
私などに対して(のり)を越えた御待遇はなさらなかったから、細かなことは拝見する機会もなかったが、さすがに尊敬している私を信用はしていてくだすった。
3.3.3
うち(たの)みきこえて、とあることかかる(をり)につけて、(なに)ごとも()こえかよひしに、もて()でてらうらうじきことも()えたまはざりしかど、いふかひあり、(おも)ふさまに、はかなきことわざをもしなしたまひしはや
()にまた、さばかりのたぐひありなむや
ご信頼申し上げて、あれこれと何か事のある時には、どのようなこともご相談申し上げましたが、表面には巧者らしいところはお見せにならなかったが、十分で、申し分なく、ちょっとしたことでも格別になさったものでした。
この世にまた、あれほどの方がありましょうか。
私は何かのことがあると歌などを差し上げたが、文学的に見て優秀なお返事でないが、見識があるというよさはおありになって、お言いになることが皆深みのあるものだった。あれほど完全な貴女(きじょ)がほかにもあるとは思われない。
3.3.4
やはらかにおびれたるものから、(ふか)うよしづきたるところの、(なら)びなくものしたまひしを、(きみ)こそは、さいへど、(むらさき)のゆゑ、こよなからずものしたまふめれどすこしわづらはしき気添(けそ)ひて、かどかどしさのすすみたまへるや(くる)しからむ。
しとやかでいらっしゃる一面、奥深い嗜みのあるところは、又となくいらっしゃったが、あなたこそは、そうはいっても、紫の縁で、たいして違っていらっしゃらないようですが、少しこうるさいところがあって、利発さの勝っているのが、困りますね。
柔らかに弱々しくいらっしゃって、気高(けだか)い品のよさがあの方のものだったのですからね。しかしあなただけは血縁の近い女性だけあってあの方によく似ている。少しあなたは嫉妬(しっと)をする点だけが悪いかもしれないね。
3.3.5
前斎院(ぜんさいゐん)御心(みこころ)ばへは、またさまことにぞ()ゆる。
さうざうしきに、(なに)とはなくとも()こえあはせ、われも(こころ)づかひせらるべきあたり、ただこの一所(ひとところ)や、()(のこ)りたまへらむ」
前斎院のご性質は、また格別に見えます。
心寂しい時に、何か用事がなくても便りをしあって、自分も気を使わずにはいられないお方は、ただこのお一方だけが、世にお残りでしょうか」
前斎院の性格はまたまったく変わっておいでになる。私の寂しい時に手紙などを書く交際相手で敬意の払われる、晴れがましい友人としてはあの方だけがまだ残っておいでになると言っていいでしょう」
3.3.6
とのたまふ。
とおっしゃる。
と源氏が言った。
3.3.7
尚侍(ないしのかみ)こそはらうらうじくゆゑゆゑしき(かた)は、(ひと)にまさりたまへれ。
(あさ)はかなる(すぢ)など、もて(はな)れたまへりける(ひと)御心(みこころ)あやしくもありけることどもかな」
「尚侍は、利発で奥ゆかしいところは、どなたよりも優れていらっしゃるでしょう。
軽率な方面などは、無縁なお方でいらしたのに、不思議なことでしたね」
尚侍(ないしのかみ)は貴婦人の資格を十分に備えておいでになる、軽佻(けいちょう)な気などは少しもお見えにならないような方だのに、あんなことのあったのが、私は不思議でならない」
3.3.8
とのたまへば、
とおっしゃると、

3.3.9
さかし
なまめかしう容貌(かたち)よき(をんな)(ためし)には、なほ()()でつべき(ひと)ぞかし。
さも(おも)ふに、いとほしく(くや)しきことの(おほ)かるかな。
まいて、うちあだけ()きたる(ひと)の、年積(としつ)もりゆくままに、いかに(くや)しきこと(おほ)からむ。
(ひと)よりはことなき(しづ)けさ(おも)ひしだに
「そうですね。
優美で器量のよい女性の例としては、やはり引き合いに出さなければならない方ですね。
そう思うと、お気の毒で悔やまれることが多いのですね。
まして、浮気っぽい好色な人が、年をとるにつれて、どんなにか後悔されることが多いことでしょう。
誰よりもはるかにおとなしい、と思っていましたわたしでさえですから」
「そうですよ。(えん)な美しい女の例には、今でもむろん引かねばならない人ですよ。そんなことを思うと自分のしたことで人をそこなった後悔が起こってきてならない。まして多情な生活をしては年が行ったあとでどんなに後悔することが多いだろう。人ほど軽率なことはしないでいる男だと思っていた私でさえこうだから」
3.3.10
など、のたまひ()でて、尚侍(かん)(きみ)(おほん)ことににも(なみだ)すこしは(おと)したまひつ。
などと、お口になさって、尚侍の君の御事にも、涙を少しはお落としなった。
源氏は尚侍の話をする時にも涙を少しこぼした。
3.3.11
この、(かず)にもあらずおとしめたまふ山里(やまざと)(ひと)こそは、()のほどにはややうち()ぎ、ものの(こころ)など()つべけれど、(ひと)よりことなべきものなれば(おも)()がれるさまをも、見消(みけ)ちてはべるかな
いふかひなき(きは)(ひと)はまだ()ず。
(ひと)は、すぐれたるは、かたき()なりや。
「あの、人数にも入らないほどさげすんでいらっしゃる山里の女は、身分にはやや過ぎて、物の道理をわきまえているようですが、他の人とは同列に扱えない人ですから、気位を高くもっているのも、見ないようにしております。
お話にもならない身分の人はまだ知りません。
人というものは、すぐれた人というのはめったにいないものですね。
「あなたが眼中にも置かないように軽蔑(けいべつ)している山荘の女は、身分以上に貴婦人の資格というものを皆そろえて持った人ですがね、思い上がってますますよく見えるのも人によることですから、私はその点をその人によけいなもののようにも見ておりますがね。私はまだずっと下の階級に属する女性たちを知らないが、私の見た範囲でもすぐれた人はなかなかないものですよ。
3.3.12
(ひんがし)(ゐん)にながむる(ひと)(こころ)ばへこそ、()りがたくらうたけれ
さはた、さらにえあらぬものを、さる(かた)につけての(こころ)ばせ、(ひと)にとりつつ()そめしより、(おな)じやうに()をつつましげに(おも)ひて()ぎぬるよ。
(いま)はた、かたみに(そむ)くべくもあらず、(ふか)うあはれと(おも)ひはべる」
東の院に寂しく暮らしている人の気立ては、昔に変わらず可憐なものがあります。
あのようには、とてもできないものですが、その方面につけての気立てのよさで、世話するようになって以来、同じように夫婦仲を遠慮深げな態度で過ごしてきましたよ。
今はもう、互いに別れられそうなく、心からいとしいと思っております」
東の院に置いてある人の善良さは、若い時から今まで一貫しています。愛すべき人ですよ。ああはいかないものですよ。私たちは青春時代から信じ合った、そしてつつましい恋を続けてきたものです。今になって別れ別れになることなどはできませんよ。私は深く愛しています」
3.3.13
など、昔今(むかしいま)御物語(おほんものがたり)夜更(よふ)けゆく。
などと、昔の話や今の話などに夜が更けてゆく。
こんな話に夜はふけていった。

第四段 藤壺、源氏の夢枕に立つ

3.4.1 月がいよいよ澄んで、静かで趣がある。
女君、
月はいよいよ澄んで美しい。夫人が、
3.4.2 「氷に閉じこめられた石間の遣水は流れかねているが
空に澄む月の光はとどこおりなく西へ流れて行く」
氷とぢ岩間の水は行き悩み
空澄む月の影ぞ流るる
3.4.3
()見出(みい)だして、すこし(かたぶ)きたまへるほど、()るものなくうつくしげなり。
(かん)ざし、面様(おもやう)の、()ひきこゆる(ひと)面影(おもかげ)にふとおぼえて、めでたければ、いささか()くる御心(みこころ)もとり(かさ)ねつべし
鴛鴦(をし)のうち()きたるに、
外の方を御覧になって、少し姿勢を傾けていらっしゃるところ、似る者がないほどかわいらしげである。
髪の具合、顔立ちが、恋い慕い申し上げている方の面影のようにふと思われて、素晴らしいので、少しは他に分けていらっしゃったご寵愛もあらためてお加えになることであろう。
鴛鴦がちょっと鳴いたので、
と言いながら、外を見るために少し傾けた顔が美しかった。髪の性質(たち)、顔だちが恋しい故人の宮にそっくりな気がして、源氏はうれしかった。少し外に分けられていた心も取り返されるものと思われた。鴛鴦(おしどり)の鳴いているのを聞いて、源氏は、
3.4.4 「何もかも昔のことが恋しく思われる雪の夜に
いっそうしみじみと思い出させる鴛鴦の鳴き声であることよ」
かきつめて昔恋しき雪もよに
哀れを添ふる鴛鴦(をし)のうきねか
3.4.5
()りたまひても(みや)(おほん)ことを(おも)ひつつ大殿籠(おほとのご)もれるに、(ゆめ)ともなくほのかに()たてまつるいみじく(うら)みたまへる()けしきにて、
お入りになっても、宮のことを思いながらお寝みになっていると、夢ともなくかすかにお姿を拝するが、たいそうお怨みになっていらっしゃるご様子で、
と言っていた。寝室にはいってからも源氏は中宮の御事を恋しく思いながら眠りについたのであったが、夢のようにでもなくほのかに宮の面影が見えた。非常にお恨めしいふうで、
3.4.6
()らさじとのたまひしかど()()(かく)れなかりければ、()づかしう、(くる)しき()()るにつけても、つらくなむ」
「漏らさないとおっしゃったが、つらい噂は隠れなかったので、恥ずかしく、苦しい目に遭うにつけ、つらい」
「あんなに秘密を守るとお言いになりましたけれど、私たちのした過失(あやまち)はもう知れてしまって、私は恥ずかしい思いと苦しい思いとをしています。あなたが恨めしく思われます」
3.4.7
とのたまふ。
御応(おほんいら)()こゆと(おぼ)すに(おそ)はるる心地(ここち)して、女君(をんなぎみ)の、
とおっしゃる。
お返事を申し上げるとお思いになった時、ものに襲われるような気がして、女君が、
とお言いになった。返辞を申し上げるつもりでたてた声が、夢に襲われた声であったから、夫人が、
3.4.8 「これは、どうなさいました、このように」
「まあ、どうなさいました、そんなに」
3.4.9
とのたまふに、おどろきて、いみじく口惜(くちを)しく(むね)のおきどころなく(さわ)げば、(おさ)へて、(なみだ)(なが)()でにけり。
(いま)いみじく()らし()へたまふ。
とおっしゃったのに、目が覚めて、ひどく残念で、胸の置きどころもなく騒ぐので、じっと抑えて、涙までも流していたのであった。
今もなお、ひどくお濡らし加えになっていらっしゃる。
と言ったので源氏は目がさめた。非常に残り惜しい気がして、張り裂けるほどの鼓動を感じる胸をおさえていると、涙も流れてきた。夢のまったく()めたのちでも源氏は泣くことをやめないのであった。
3.4.10
女君(をんなぎみ)いかなることにかと(おぼ)すに、うちもみじろかで()したまへり
女君が、どうしたことかとお思いになるので、身じろぎもしないで横になっていらっしゃった。
夫人はどんな夢であったのであろうと思うと、自分だけが別物にされた寂しさを覚えて、じっとみじろぎもせずに寝ていた。
3.4.11 「安らかに眠られずふと寝覚めた寂しい冬の夜に
見た夢の短かかったことよ」
とけて寝ぬ寝()めさびしき冬の夜に
結ぼほれつる夢のみじかさ

第五段 源氏、藤壺を供養す

3.5.1
なかなか()かず、(かな)しと(おぼ)すに、とく()きたまひて、さとはなくて、所々(ところどころ)御誦経(みずきゃう)などせさせたまふ。
かえって心満たされず、悲しくお思いになって、早くお起きになって、それとは言わず、所々の寺々に御誦経などをおさせになる。
源氏の歌である。夢に死んだ恋人を見たことに心は慰まないで、かえって恋しさ悲しさのまさる気のする源氏は、早く起きてしまって、何とは表面に出さずに、誦経(ずきょう)を寺へ頼んだ。
3.5.2
(くる)しき目見(めみ)せたまふと(うら)みたまへるも、さぞ(おぼ)さるらむかし。
(おこ)なひをしたまひ、よろづに罪軽(つみかろ)げなりし(おほん)ありさまながら、この(ひと)つことにてぞ、この()(にご)りをすすいたまはざらむ」
「苦しい目にお遭いになっていると、お怨みになったが、きっとそのようにお恨みになってのことなのだろう。
勤行をなさり、さまざまに罪障を軽くなさったご様子でありながら、自分との一件で、この世の罪障をおすすぎになれなかったのだろう」
苦しい目を見せるとお恨みになったのもきっとそういう気のあそばすことであろうと源氏に悟れるところがあった。仏勤めをなされたほかに民衆のためにも功徳を多くお行ないになった宮が、あの一つの過失のためにこの世での罪障が消滅し尽くさずにいるかと、
3.5.3
と、ものの(こころ)(ふか)(おぼ)したどるに、いみじく(かな)しければ、
と、ものの道理を深くおたどりになると、ひどく悲しくて、
深く考えてみればみるほど源氏は悲しくなった。
3.5.4
(なに)わざをして()(ひと)なき世界(せかい)におはすらむを、(とぶ)らひきこえに()うでて、(つみ)にも()はりきこえばや」
「どのような方法をしてでも、誰も知る人のいない冥界にいらっしゃるのを、お見舞い申し上げて、その罪にも代わって差し上げたい」
自分はどんな苦行をしても寂しい世界に贖罪(しょくざい)の苦しみをしておいでになる中宮の所へ行って、罪に代わっておあげすることがしたいと、
3.5.5
など、つくづくと(おぼ)す。
などと、つくづくとお思いになる。
こんなことをつくづくと思い暮らしていた。
3.5.6
かの(おほん)ためにとり()てて(なに)わざをもしたまはむは、(ひと)とがめきこえつべし。
内裏(うち)にも、御心(みこころ)(おに)(おぼ)すところやあらむ」
「あのお方のために、特別に何かの法要をなさるのは、世間の人が不審に思い申そう。
主上におかれても、良心の呵責にお悟りになるかもしれない」
中宮のために仏事を自分の行なうことはどんな簡単なことであっても世間の疑いを受けることに違いない、
3.5.7
と、(おぼ)しつつむほどに、阿弥陀仏(あみだほとけ)(こころ)にかけて(ねん)じたてまつりたまふ。
(おな)(はちす)に」とこそは
と、気がねなさるので、阿弥陀仏を心に浮かべてお念じ申し上げなさる。
「同じ蓮の上に」と思って、
(みかど)御心(みこころ)の鬼に思召(おぼしめ)し合わすことになってもよろしくないと源氏ははばかられて、ただ一人心で阿弥陀仏(あみだぶつ)を念じ続けた。同じ蓮華(れんげ)の上に生まれしめたまえと祈ったことであろう。
3.5.8 「亡くなった方を恋慕う心にまかせてお尋ねしても
その姿も見えない三途の川のほとりで迷うことであろうか」
なき人を慕ふ心にまかせても
かげ見ぬ水の瀬にやまどはん
3.5.9
(おぼ)すぞ、()かりけるとや
とお思いになるのは、つらい思いであったとか。
と思うと悲しかったそうである。(訳注) 源氏の君三十二歳。
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渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)
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現代語訳 与謝野晶子
電子化 上田英代(古典総合研究所)
底本 角川文庫 全訳源氏物語
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kumi(青空文庫)
2003年7月16日
渋谷栄一訳
との突合せ
若林貴幸、宮脇文経
2008年3月22日

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